説明

不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】 ホットスポットの温度を十分に抑制し、スタートアップを効率的に行い、高い反応負荷、すなわち優れた生産能力を維持することができる、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法の提供。
【解決手段】 固体酸化触媒が充填され、熱媒浴を備えた固定床管型反応器の触媒層に、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルのいずれか1種以上と、分子状酸素とを少なくとも含有する原料ガスを供給し、気相接触酸化反応によって、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を連続的に製造する方法において、該反応器中の熱媒浴の温度とこれと隣接する該触媒層との温度差が、あらかじめ設定された上限値を超えた時に、不活性ガスを該原料ガスの一部として該触媒層に供給し、該原料ガスの供給量を一時的に1容量%以上増加させて該温度差を小さくする、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定床管型反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルのいずれか1種以上を固体酸化触媒の存在下で気相接触酸化して、(メタ)アクロレイン等の不飽和アルデヒドや、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテル等を気相接触酸化して、(メタ)アクロレイン等の不飽和アルデヒドや、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を製造するために使用する触媒に関しては、数多くの提案がなされている。これら提案は、主として触媒を構成する元素およびその比率に関するものである。
【0003】
気相接触酸化は発熱反応であるため、固定床反応器を用いた反応においては、触媒が充填された部分で蓄熱が発生しやすい。特に、この蓄熱で局所的に生じる高温帯域は、ホットスポットと呼ばれている。
【0004】
このホットスポットの温度が高くなりすぎると、その部分での過度の酸化反応によって、目的生成物の収率が低下することがある。
また、過剰な発熱によって、触媒による反応が促進され、それによりさらに発熱するという悪循環が発生した場合には、触媒が燃焼し、失活してしまうこともある。
【0005】
ホットスポットにおける過度の発熱を抑制する方法としては、原料の濃度や原料ガスの線速度を下げるなどの措置や、あるいは反応温度を下げる等による、反応負荷の低減が一般的であるが、これらの方法は、目的生成物の生産量の低下をもたらすものである。
【0006】
このように不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸の製造において、ホットスポットの温度抑制は重要な課題であり、ホットスポットの存在が、反応条件上の大きな制約となっているのが現状である。
【0007】
したがって、ホットスポットの温度抑制は、(メタ)アクロレイン等の不飽和アルデヒドや、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を工業的に高収率で製造する上で非常に重要である。
【0008】
ホットスポットの温度抑制方法としては、これまでに種々の提案がなされている。
例えば特許文献1には、触媒を充填した固定床多管型反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン等のオレフィンを分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化して、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する場合において、反応器内の管軸方向に設けられた複数の反応帯に、活性の異なる複数種の触媒を原料ガスの入口から出口に向かって活性が大きくなるように充填することが記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、固定床多管型反応器に孔径を制御した触媒を充填することで、反応負荷が触媒層の一部で局部的に高くなる状況を緩和させ、触媒層全体でほぼ均一化させることが記載されている。
【0010】
また、特許文献3には、固定床多管型反応器における各反応管の内部を管軸方向に分割することにより複数個の反応帯を設け、この各反応帯に触媒の真密度に対する触媒の見掛け密度の比R(触媒の見掛け密度/触媒の真密度)が異なる触媒をそれぞれ充填することで、ホットスポットに位置する触媒の劣化を抑制させる方法が記載されている。
【0011】
また、特許文献4には、触媒として、内径D2の開口部を備えた孔部を有する外径D1の粒状触媒を用いるとともに、固定床多管型反応器における各反応管の内部を管軸方向に分割することにより複数個の反応帯を設け、この各反応帯の少なくとも2つに、D2の異なる前記触媒をそれぞれ充填することで、ホットスポットがどこに発生するかによらず、高い収率を維持しながら長期にわたって反応を継続することができることが記載されている。
【0012】
しかし、特許文献1〜4に記載された方法においては、ホットスポットの温度抑制の効果はあるものの、例えば、気相接触酸化反応の開始直後の不安定な時期に発生しやすい、ホットスポットでの急激な温度上昇に対しては、必ずしも効果が充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−187460号公報
【特許文献2】特開2004−002323号公報
【特許文献3】特開2004−002209号公報
【特許文献4】特開2004−002208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、気相接触酸化反応によって、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を連続的に製造する場合において、ホットスポットの温度を充分に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、固体酸化触媒が充填され、熱媒浴を備えた固定床管型反応器の触媒層に、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルのいずれか1種以上と、分子状酸素とを少なくとも含有する原料ガスを供給し、気相接触酸化反応によって、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を連続的に製造する方法において、該反応器中の熱媒浴の温度とこれと隣接する該触媒層との温度差が、あらかじめ設定された上限値を超えた時に、不活性ガスを該原料ガスの一部として該触媒層に供給又は増量し、該原料ガスの供給量を一時的に1容量%以上増加させて該温度差を小さくする、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法により、(メタ)アクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又は(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を連続的に製造する場合において、特にスタートアップを効率的かつ安定的に行うことができるとともに、生産能力を高レベルで維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を合成する反応は、固定床管型反応器を用いて実施される。固定床管型反応器は特に限定されないが、工業的には、例えば、内径10〜40mm、長さ2000〜7000mmの反応管を数千〜数万本有するとともに、熱媒浴を備えた多管式反応器を使用することができる。この熱媒浴で用いられる熱媒は特に限定されないが、例えば、硝酸カリウムおよび亜硝酸ナトリウムを含む塩溶融物が挙げることができる。
【0018】
本発明で用いられる固体酸化触媒は、特に限定されるものではないが、例えば、下記の式(1)で表される組成を有する、モリブデンを含む複合酸化物を挙げることができる。
【0019】
MoBiFeSi(1)
(式中、Mo、Bi、Fe、Si及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を示し、Mはコバルト及びニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは各元素の原子比を表し、a=12の時b=0.01〜3、c=0.01〜5、d=1〜12、e=0〜8、f=0〜5、g=0.001〜2、h=0〜20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比である。)
【0020】
この式(1)で表される組成を有する触媒を調製する方法は特に限定されず、成分の著しい偏在を伴わない限り、従来からよく知られている種々の方法を用いることができる。
この触媒の調製に用いる原料は特に限定されず、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物等を組み合わせて使用することができる。例えばモリブデン原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等を挙げることができる。
【0021】
本発明に用いられる触媒は無担体でもよいが、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、シリコンカーバイト等の不活性担体に担持させたものであっても良く、これらを混合したしたものであってもよい。
【0022】
本発明において、触媒層とは、固定床管型反応器の反応管内において少なくとも触媒が含まれている空間部分を指す。すなわち、触媒だけが充填されている空間だけでなく、触媒が不活性担体等で希釈されている空間部分も触媒層とする。ただし、反応管両端部の何も充填されていない空間部分や不活性担体等だけが充填されている空間部分は、触媒が実質的に含まれないので触媒層には含まない。
【0023】
プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルのいずれか1種以上と、分子状酸素とを少なくとも含有する原料ガスを固体酸化触媒の存在下で気相接触酸化して、(メタ)アクロレイン等の不飽和アルデヒドや(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を製造する場合の反応温度は、通常、230〜450℃の範囲から選ぶのが好ましい。より好ましくは、250〜400℃の範囲である。
【0024】
本発明の実施に際して、原料ガス中のプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルの濃度は、1〜20容量%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、3〜9容量%の範囲である。
また、原料ガス中の分子状酸素の酸素源としては空気を用いるのが経済的であるが、必要に応じて純酸素を使用することもできる。
原料ガス中の分子状酸素の濃度は5〜15容量%の範囲が好ましい。
【0025】
原料ガス中の酸素濃度は、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール及びメチル第三級ブチルエーテルの合計に対するモル比でも規定することができ、0.3〜4の範囲とするのが好ましい。
【0026】
また、原料ガス中には、必要に応じて、窒素、水蒸気、炭酸ガス等の不活性ガスを含有させることができる。
これら不活性ガスは、原料を希釈し、反応管内の空間速度を最適にすることで高収率に目的生成物を得る目的で使用されるものである。原料ガス中における不活性ガスは、必要に応じて適宜選択することができるが、経済性および汎用性の観点から、窒素を用いるのが好ましい。
また、水蒸気の含有比率を5〜50容量%とすることによって、より高収率で目的生成物を得ることができる傾向にある。
【0027】
接触気相酸化反応器を使用する製造プロセスは、通常は、反応生成物の捕集工程を有する。したがって、一般的には、目的の原料ガスの組成を得るために、その捕集工程からの排出ガスを利用する。また、この排出ガスを用いるほかにも、不活性ガスである窒素や水蒸気、もしくはその排出ガスを燃焼した後に得られるガスを利用することもできる。
【0028】
原料ガス量は、同じ設備でできるだけ大きな製造能力を引き出すことと、触媒をより長期間使用することを前提として、目的生成物の高生産性と触媒の長寿命化が両立できる条件として決定することができる。
本発明における気相接触酸化反応は、通常、常圧から数気圧の範囲で実施することができる。
【0029】
一般に、気相接触酸化反応は、被酸化原料と分子状酸素を含有する原料ガスを反応器に供給して目的生成物を生成するが、工業的には以下の3つの段階で反応状態が異なる。すなわち、反応初期のスタートアップ時、定常運転時、及び反応終了のシャットダウン時である。
【0030】
スタートアップ時においては、反応開始直後から定常運転条件の被酸化原料が反応器に供給されるわけではなく、被酸化原料の供給量が少ない状態(以下、反応負荷が低い状態)から被酸化原料の供給量が多い状態(以下、反応負荷が高い状態)へと、段階的に原料ガスの供給を変動させている。反応負荷を低い状態から高い状態へと段階的に上げた後、一定の原料ガス供給条件を維持し、この条件で定常運転が開始される。
【0031】
定常運転の後、触媒交換や設備のメンテナンス等のために、反応を終了させシャットダウンする時には、供給している被酸化原料の供給を停止するとともに、分子状酸素や不活性ガスの供給を停止する操作を実施する。
【0032】
本発明は、これら各段階において、ホットスポットの温度上昇が発生した時に用いることができる。
【0033】
ホットスポットでの急激な温度上昇は、上述のように、その部分の触媒活性を低下させる恐れがある。そのため、本発明は、このホットスポットの温度をある上限温度以下に保つように運転する方法で行う。すなわち、反応器中の熱媒浴の温度とこれと隣接する触媒層の温度との差であるΔT(触媒層温度−熱媒浴層温度)を測定し、このときのΔTの最高値が、上限を超えるときに、本発明を実施する。この上限値は、触媒の活性などの性質を勘案して、あらかじめ決めることができる。
【0034】
反応開始直後のスタートアップ時には、原料ガス組成の変動に伴いホットスポットも変動し易く、特にホットスポットにおいて急激な温度上昇が発生し易い。
【0035】
本発明は、このようなスタートアップ時において、特に好適に実施することができる。
すなわち、スタートアップ時の原料ガス組成変更後、ホットスポットの温度を監視し、触媒層中のΔTの最高値が上限を超えた時に、原料ガス量が1容量%以上増量するように一時的に不活性ガスを供給することで、ホットスポットの温度を充分に抑制し、スタートアップを適切かつ効率的に行うことができる。このとき、原料ガスの増加量を1容量%未満とした場合では、ホットスポットの温度抑制効果が不充分となる傾向にある。
好ましくは5容量%以上であり、より好ましくは10容量%以上であり、さらに好ましくは、30容量%以上である。
不活性ガス供給による原料ガスの増加量を上げるほど、ΔTの抑制効果は高くなるが、不活性ガスの供給が過剰になると、触媒の反応率が下がるため、反応率を維持するためには反応温度を上げる必要があり、触媒寿命的には不利となる傾向にある。したがって、原料ガスの増加量は、50容量%以下とするのが好ましい。
【0036】
触媒層中のΔTの最高値が上限を超えた時に加える不活性ガスとしては、窒素、水蒸気、炭酸ガス等を挙げることができる。
これら不活性ガスは、上述の通り、原料ガス中にも含有させることができるものであり、必要に応じて適宜選択して使用することができるが、経済性やユーティリティーコストの点から、窒素が好ましい。
【0037】
不活性ガスの増加に伴うホットスポットの局所温度上昇抑制効果によって、触媒層中のΔTの最高値が上限を下回って安定した時は、不活性ガスを増量する前の原料ガス組成に戻して運転を行う。このとき、不活性ガスを増量前の量に戻さずに運転を続け、触媒が過度の還元雰囲気にさらされる時間が長期間に渡ると、触媒の活性低下を招き、触媒の寿命に悪影響を与える恐れがある。
【0038】
不活性ガスの供給量を一時的に増加する期間としては、触媒層中のΔTの最高値が上限を超えた時から、触媒層中のΔTの最高値が上限を下回って安定した時までが好ましい。
【0039】
本発明は定常運転時においても好適に用いることができる。すなわち、定常の原料ガス組成に変更後の定常運転時においても、触媒層中のΔTの最高値が上限を超えた時に、ホットスポットの局所的な発熱を抑制する手段として定常反応条件ガス組成に対して、不活性ガスの供給量を増加し、全体として1容量%以上の量を増量した原料ガスを一時的に供給することで、ホットスポットの温度を充分に抑制し、定常運転を効率的に行うことができる。
好ましい不活性ガスの種類や原料ガスの好ましい増加量は、スタートアップ時の場合と同様である。
【0040】
本発明はシャットダウン時においても好適に用いることができる。すなわち、定常運転からシャットダウンの段階に切り替わるタイミングにおいては、原料ガス組成の変動に伴いホットスポットも変動し易く、場合によってはホットスポットの急激な上昇が発生することがある。このような場合において、ホットスポットの温度を監視し、触媒層中のΔTの最高値が上限を超えた時に、原料ガス量が1容量%以上増量するように一時的に不活性ガスを供給することで、ホットスポットの温度を十分に抑制することができ、シャットダウンを効率的に行うことができる。
好ましい不活性ガスの種類や原料ガスの好ましい増加量は、スタートアップ時の場合と同様である。
【0041】
定常運転時やシャットダウン時においても、不活性ガスの供給量を一時的に増加する期間としては、触媒層中のΔTの最高値が上限を超えた時から、触媒層中のΔTの最高値が上限を下回って安定した時までが好ましい。
【0042】
本発明の方法においては、不活性ガスの供給量が増加することに伴い、原料ガス中の原料ガス中のプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルの反応率が低下する。これは原料ガス全体の流量が増加することにより、原料ガス中のプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルが反応しきれないまま触媒層を通過する割合が増加するためである。そのため、不活性ガス供給量が増加し原料ガス全体の流量が増加する前後で、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルの反応率が一定となるように反応温度を上げて調節することが好ましい。反応温度は、熱媒浴の温度を変えることによって、調節することができる。
【0043】
不活性ガス量を元の状態に戻す場合においては、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルの反応率が一定の状態を保つように反応温度を下げて調節することが好ましい。
【0044】
また、本発明の効果はホットスポットの局所的な発熱を抑制するに留まらず、触媒の選択率上昇によって目的生成物の生産量が向上する。すなわち、原料ガスの増加による線速度上昇により、原料ガスの逐次酸化が抑制され、目的生成物の選択率が上昇する。このため本発明は、生産量の低下を伴う原料濃度や原料ガス量を低下する従来の技術と比較して、非常に優れたものである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」は質量部を意味する。
【0046】
触媒組成は触媒成分の原料仕込み量から求めた。反応器の熱媒としては硝酸カリウム50質量%及び亜硝酸ナトリウム50質量%からなる塩溶融物を用いた。ホットスポットは触媒層のΔT(触媒層の温度−熱媒浴シェル部内の温度)により検出した。
【0047】
触媒を充填する固定床管型反応器は、内径25.4mmで長さが4500mmの鋼鉄製の反応管を上部管板と下部管板で13000本支持された構造のシェル−チューブ式反応器を用いた。
【0048】
シェル−チューブ式反応器内部の各部の反応管における触媒層温度を満遍なく測定できるように、反応器の断面方向と縦方向で36箇所に熱電対を分散して配置し、各部の温度を測定した。触媒層内の温度は、反応管の断面において中央に位置するよう熱電対を設置して測定した。また、反応時におけるΔTの最高値の上限を、触媒の活性から勘案して、52℃とした。
【0049】
不活性ガスを増量する場合は、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルの反応率が一定となるように少しずつ不活性ガスを増量し、反応温度を上げて調節した。
【0050】
また、不活性ガスを元の状態に戻す場合も同様にプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルの反応率が一定となるように少しずつ不活性ガスを減量し、反応温度を下げて調節した。
【0051】
原料ガスおよび反応生成ガスの分析はガスクロマトグラフィーにより実施した。なお、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルの反応率と、生成する(メタ)アクロレイン(不飽和アルデヒド)及び(メタ)アクリル酸(不飽和カルボン酸)の選択率は以下のように定義される。
【0052】
原料の反応率(%)=(B/A)×100
(メタ)アクロレインの選択率(%)=(C/B)×100
(メタ)アクリル酸の選択率(%)=(D/B)×100
ここで、Aは供給した原料であるプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルのモル数;Bは反応した原料のプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルのモル数;Cは生成した(メタ)アクロレインのモル数;Dは生成した(メタ)アクリル酸のモル数をそれぞれ示す。
【0053】
[実施例1]
純水1000部にパラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム12.4部、硝酸カリウム1.4部、三酸化アンチモン27.5部および三酸化ビスマス49.5部を加え、加熱攪拌した(A液)。別に、純水1000部に硝酸第二鉄114.4部、硝酸コバルト370.8部および硝酸亜鉛21.1部を順次加え、溶解した(B液)。A液にB液を加え水性スラリーとした後、得られた水性スラリーをスプレー乾燥機を用いて乾燥し、得られた乾燥粉を300℃で1時間焼成を行い焼成物を得た。このようにして得られた焼成物500部に純水160部およびメチルセルロース20部を混合し、押出成形して外径5mm、内径2mm、平均長さ5mmのリング状の湿式賦形体を得た。この湿式賦形体をマイクロ波および熱風を併用する乾燥方法を用いて乾燥させた後に、さらに焼成処理を行い、触媒を得た。
【0054】
このようにして得られた触媒の金属元素の組成は、Mo12Bi0.9Fe1.2Co5.4Zn0.30.2Sb0.80.06であった。またこの触媒は、前記各金属原子成分の原子価を満足するのに必要な量の酸素から構成される。
【0055】
前記のシェル−チューブ式反応器の各反応管中の原料ガス入口側に、620mLの触媒と130mLのアルミナ球(外径5mm)を混合したものを充填し、出口側に750mLの触媒1を充填した。このときの各反応管における触媒層の長さは3005mmであった。
この触媒に、イソブチレン5容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%および窒素73容量%からなる原料ガスを反応温度(熱媒浴温度)309℃、接触時間4.5秒で通じた。反応は常圧流通式で行った。反応開始60分後に反応生成物を捕集して分析したところ、イソブチレンの反応率97.6%、メタクロレインの選択率83.2%、メタクリル酸の選択率3.2%であった。
【0056】
この時、触媒層各部のΔTを測定したところ、最高値は52.7℃であった。ΔTの最高値が上限である52℃を超えたため、元の原料ガス量に対して15%増量するように窒素ガスを加えた原料混合ガスをイソブチレン反応率が原料ガス量変更前と一定となるように反応温度314℃に変更し、接触時間3.9秒にて1.5時間通過させて反応した。
【0057】
このとき、ΔTの最高値は変更前が52.7℃だったものが49.8℃に低下し、ΔTの最高値の低下幅は2.9℃となった。メタクロレインの選択率84.8%、メタクリル酸の選択率3.0%であった。
【0058】
[実施例2]
実施例1において、元の原料ガス量に対して36%増量するように窒素ガスを加え、イソブチレン反応率が原料ガス量変更前と一定となるように反応温度を316℃に変更し、接触時間を3.3秒とした以外は同じ条件で実施した結果、ΔTの最高値は変更前が52.7℃だったものが46.2℃まで低下し、ΔTの最高値の低下幅は6.5℃となった。メタクロレインの選択率85.5%、メタクリル酸の選択率2.9%であった。
【0059】
[実施例3]
実施例1において、元の原料ガス量に対して1%増量するよう窒素ガスを加え、イソブチレン反応率が原料ガス量変更前と一定となるように反応温度を310℃に変更し、接触時間を4.5秒にて1.5時間通過させた以外は同じ条件で実施した結果、ΔTの最高値は変更前が52.7℃だったものが51.5℃まで低下し、ΔTの最高値の低下幅は1.2℃となった。メタクロレインの選択率83.6%、メタクリル酸の選択率3.0%であった。
【0060】
[実施例4]
実施例1において、元の原料ガス量に対して7%増量するように窒素ガスを加え、イソブチレン反応率が原料ガス量変更前と一定となるように反応温度を312℃に変更し、接触時間を4.2秒にて1.5時間通過させた以外は同じ条件で実施した結果、ΔTの最高値は変更前が52.7℃だったものが49.9℃まで低下し、ΔTの最高値の低下幅は2.8℃となった。メタクロレインの選択率84.0%、メタクリル酸の選択率3.0%であった。
【0061】
[比較例1]
実施例1において、元の原料ガス量に対して0.4%増量するように窒素ガスを加え、反応温度309℃のままでイソブチレン反応率が原料ガス量変更前と一定となることを確認し、接触時間を4.5秒にて1.5時間通過させた以外は同じ条件で実施した結果、ΔTの最高値は変更前が52.7℃だったが52.6℃とほぼ変わらず、ΔTの最高値の抑制効果は確認できなかった。メタクロレインの選択率83.4%、メタクリル酸の選択率3.1%とほぼ同等であり、こちらも効果を確認できなかった。
【0062】
[比較例2]
実施例1において、窒素ガスを一切増量せずに反応した以外は同じ条件で、ΔTを確認しつづけたが、ΔTは52.7℃でほぼ変わらずΔTの最高値の抑制効果がないことを確認した。メタクロレインの選択率83.2%、メタクリル酸の選択率3.2%とほぼ同等であり、こちらも効果を確認できなかった。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化触媒が充填され、熱媒浴を備えた固定床管型反応器の触媒層に、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルのいずれか1種以上と、分子状酸素とを少なくとも含有する原料ガスを供給し、気相接触酸化反応によって、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を連続的に製造する方法において、該反応器中の熱媒浴の温度とこれと隣接する該触媒層との温度差が、あらかじめ設定された上限値を超えた時に、不活性ガスを該原料ガスの一部として該触媒層に供給し又は増量し、該原料ガスの供給量を一時的に1容量%以上増加させて該温度差を小さくする、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
原料ガスの供給量を増加させる前後で、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルのいずれか1種以上の反応率が一定となるように、反応温度を調節する、請求項1記載の不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−225476(P2011−225476A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95871(P2010−95871)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】