説明

不飽和ポリアルキレングリコールエーテルの製造方法

【課題】
品質が高いポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)を、工業的に簡便に製造できる方法を提供する。
【解決手段】
不飽和結合を有するハロゲン化物(A)と多価アルコール(B)とを反応させて不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を製造する方法であって、不飽和結合を有するハロゲン化物(A)と多価アルコール(B)とをアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属水素化物、及びアルカル土類金属水素化物から選ばれる少なくとも1種の物質(M)を用いて反応を行うことを特徴とする不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等に用いることができるポリカルボン酸系重合体の原料に好適に使用できるポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)は、セメント組成物に利用されているポリカルボン酸系重合体の共重合成分として有用な化合物である。
【0003】
ポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)の製造方法としては、不飽和結合を有するハロゲン化物(A)と多価アルコール(B)とをアルカリ化合物(アルカリ(土類)金属水酸化物、アルカリ(土類)金属炭酸塩など)を用いて反応させて不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を生成させ、その後、得られた不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)にアルキレンオキシド(D)を付加してポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)を製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
開示の方法で得られた不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)にアルキレンオキシド(D)を付加させる際に、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)中の水分量を特定割合以下に精製することが重要であることを見出している。工業的な製造プロセスの検討を行う過程で、本願発明者らはより水分量を減らすことが可能で、より製造プロセスが簡素に行える工夫を見出し、本発明を完成させた。
【0005】
また、ポリオキシアルキレン化合物にアルカリ金属またはアルカリ金属化合物(金属ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート等)を反応させて得たポリオキシアルキレン化合物のアルカリ金属アルコラートと有機ハロゲン化物とを反応させて有機(ポリ)アルキレングリコールエーテルを製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。この文献には水分量低減の必要性についての開示は無く、逆に水を添加することによる精製方法について述べられており、実施例ではアルカリ金属水酸化物の記載のみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274258号公報明細書
【特許文献2】特開昭60−4530号公報明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を合成するにあたり、水分含有量を極めて低く抑えて効率よく生産する方法を提供することを目的とする。さらに、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)にアルキレンオキシド(D)を付加させる際に、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)中に水分が残存していると、付加反応で得られたポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)の純度が低下し、ポリカルボン酸系重合体の共重合成分として利用される際に性能が低下するという問題を解決するための工夫された製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決する手段としては、以下があげられる。
【0009】
(1)不飽和結合を有するハロゲン化物(A)と多価アルコール(B)とを反応させて不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を製造する方法であって、不飽和結合を有するハロゲン化物(A)と多価アルコール(B)とをアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属水素化物、及びアルカル土類金属水素化物から選ばれる少なくとも1種の物質(M)を用いて反応を行うことを特徴とする不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。
【0010】
(2)不飽和ハロゲン化合物(A)1モルに対して、上記物質(M)を金属価数の合計が0.5〜2.0モルとなる範囲で用いることを特徴とする、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。
【0011】
(3)不飽和ハロゲン化合物(A)1モルに対して、多価アルコール(B)が1.5〜10モルとなる範囲で用いることを特徴とする上記の不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。
【0012】
(4)以下に記載するa)〜d)の工程を有することを特徴とする上記の不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。
a)物質(M)と多価アルコール(B)とを反応させる第一反応工程
b)前記第一反応工程で得られた反応組成物と、不飽和ハロゲン化合物(A)とを反応させる第二反応工程
c)前記第二反応工程で得られた反応組成物を、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属のハロゲン化物を含む固体析出物と不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を含む溶液とに分離する固液分離工程
d)前記固液分離工程で得られた不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を含む溶液から、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)と多価アルコール(B)を含む回収組成物とに分離する精製分離工程。
【0013】
(5)さらに、e)前記精製分離工程で得られた回収組成物の一部または全量を前記第一反応工程に使用する回収工程
を有することを特徴とする上記の不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。
【0014】
(6)前記(1)〜(5)に記載の方法により得られた不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を用いて、これにアルキレンオキシド(D)を付加させることを特徴とする、ポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、品質が高い不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)および不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)を、工業的に簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)にアルキレンオキシド(D)を付加してポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)を製造する方法において、前記不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)が、不飽和結合を有するハロゲン化物(A)と多価アルコール(B)とをアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカル金属水素化物、及びアルカリ土類金属水素化物から選ばれる少なくとも1種の物質(M)を用いて反応を行い得られた不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)であることを特徴とするポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)の製造方法である。
【0017】
不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造に於いては、以下に記載するa)〜e)の工程を有することで、より効率的に製造することが出来る。
a)物質(M)と多価アルコール(B)とを反応させる第一反応工程
b)前記第一反応工程で得られた反応組成物と、不飽和ハロゲン化合物(A)とを反応させる第二反応工程
c)前記第二反応工程で得られた反応組成物を、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属のハロゲン化物を含む固体析出物と不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を含む溶液とに分離する固液分離工程
d)前記固液分離工程で得られた不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を含む溶液から、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)と多価アルコール(B)を含む回収組成物とに分離する精製分離工程
e)前記精製分離工程で得られた回収組成物の一部または全量を前記第一反応工程に使用する回収工程。
【0018】
<不飽和結合を有するハロゲン化物(A)>
不飽和結合を有するハロゲン化物は、炭素数2〜6のアルケニル基を有するハロゲン化物であることが好ましい。アルケニル基としてより好ましくは、炭素数3〜5のアルケニル基であり、更に好ましくは、炭素数3〜4のアルケニル基であり、特に好ましくは、炭素数4のアルケニル基である。
【0019】
アルケニル基の具体例としては、3−メチル−3−ブテニル、4−ペンテニル、3−ペンテニル、2−メチル−2−ブテニル、2−メチル−3−ブテニル、1,1−ジメチル−2−プロペニル等の炭素数5のアルケニル基;メタリル基、3−ブテニル基、2−ブテニル、1−メチル−2−プロペニル等の炭素数4のアルケニル基;プロペニル基、イソプロペニル基等の炭素数3のアルケニル基が好適である。これらの中でも、3−メチル−3−ブテニル、メタリル基、イソプロペニル基がより好ましく、メタリル基が特に好ましい。
【0020】
アルケニル基に結合するハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子が好ましい。中でも、塩素原子が工業的に容易に入手可能であり、反応性、取扱いにも優れているため、より好ましい。
【0021】
上記不飽和結合を有するハロゲン化物の具体例としては、メタリルクロライド、3−メチル−3−ブテニルクロライド、アリルクロライド、3−ブテニルクロライド,4−ペンテニルクロライド、イソプロペニルクロライド等の一種又は2種以上が好適である。より好ましくは、メタリルクロライド、3−メチル−3−ブテニルクロライド、アリルクロライド、イソプロペニルクロライドであり、更に好ましくは、メタリルクロライドである。
【0022】
<多価アルコール(B)>
多価アルコール(B)は、ヒドロキシル基が2個以上有するアルコールであればよい。
好ましくは、一般式H−O−(A−O−)n−H(B)
(式中、nは1〜4の数を表す。Aは置換基を有していてもよい炭素数2〜18のアルキレン基であり、1種でもよく互いに異なっていても良い。置換基とはアルキル基、ヒドロキシル基を表す。)で表され、炭素数2〜18の(ポリ)アルキレングリコールが好ましく、より好ましくは炭素数2〜8の(ポリ)アルキレングリコールであり、更に好ましくは炭素数2〜4の(ポリ)アルキレングリコールが挙げられる。
【0023】
前記(ポリ)アルキレングリコールを例示すると、エチレングリコール、プロピレングリコール、イソブチレングリコール、ブチレングリコール、スチレングリコール等のグリコール類、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジイソブチレングリコール、ジブチレングリコール、ジスチレングリコール等のジアルキレングリコール類、トリエチレングリコールやテトラエチレングリコール等のポリアルキレングリコール類であり、もっとも好ましいのは炭素数2のエチレングリコールである。また、グリセリンやポリグリセリン、トリメチロールプロパンなどのポリオール等も好適に用いられる。
【0024】
前記多価アルコール(B)は工業的に入手できる純度であれば使用できるが、その純度は好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、純度の低い多価アルコールを用いる場合には蒸留や脱水剤処理など公知の方法で純度を高めてから使用しても良い。
【0025】
後記の回収組成物は、溶存するアルカリ(土類)金属塩の除去等の更なる精製を施すことなく、前記の新規に使用する多価アルコール(B)と混合あるいは単独で用いることが出来る。
【0026】
前記多価アルコール(B)の量は、前記不飽和ハロゲン化合物(A)1モルに対して、前記多価アルコール(B)が1.5〜10モル、好ましくは3〜8モル、より好ましくは4〜6モルである。前記多価アルコール(B)の量を上記範囲に制御することで、前記多価アルコール(B)1分子に不飽和ハロゲン化合物(A)1分子が付加したモノ不飽和アルキレンエーテル(C)の比率が高い不飽和エーテルが得られるため好ましい。
【0027】
但し、多価アルコール(B)が少なすぎると前記多価アルコール(B)1分子に不飽和ハロゲン化合物が2分子付加したジ不飽和エーテル化合物が過多となるため好ましくなく、多すぎると目的とする不飽和エーテル組成物を製造する設備が大きくなり、製造コストが高くなり好ましくない。
【0028】
<不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)>
不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)は、不飽和結合を有するハロゲン化物と(ポリ)アルキレングリコールとを反応させて得られた化合物である。
【0029】
好ましい組み合わせを(不飽和結合を有するハロゲン化物、(ポリ)アルキレングリコール)として表すと、(メタリルクロライド、エチレングリコール)、(メタリルクロライド、ジエチレングリコール)、(メタリルクロライド、プロピレングリコール)、(メタリルクロライド、ジプロピレングリコール)、(メタリルクロライド、エチレングリコールプロピレングリコール)、(3−メチル−3−ブテニルクロライド、エチレングリコール)、(3−メチル−3−ブテニルクロライド、ジエチレングリコール)、(3−メチル−3−ブテニルクロライド、プロピレングリコール)、(3−メチル−3−ブテニルクロライド、ジプロピレングリコール)、(3−メチル−3−ブテニルクロライド、エチレングリコールプロピレングリコール)、(アリルクロライド、エチレングリコール)、(アクリルクロライド、ジエチレングリコール)、(アリルクロライド、プロピレングリコール)、(アリルクロライド、ジプロピレングリコール)、(アリルクロライド、エチレングリコールプロピレングリコール)等である。
【0030】
中でも、(メタリルクロライド、エチレングリコール)、(メタリルクロライド、ジエチレングリコール)、(3−メチル−3−ブテニルクロライド、エチレングリコール)、(3−メチル−3−ブテニルクロライド、ジエチレングリコール)、(アリルクロライド、エチレングリコール)、(アリルクロライド、ジエチレングリコール)が好ましい。
【0031】
<アルキレンオキシド(D)>
アルキレンオキサイドとしては、炭素数2〜18のアルキレンオキサイドが好ましい。より好ましくは、炭素数2〜8のアルキレンオキサイドであり、更に好ましくは、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドである。
【0032】
具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等の1種又は2種以上が好適であり、中でも、エチレンオキサイドが好ましい。2種以上のアルキレンオキサイドを付加させる場合は、エチレンオキサイドが80モル%以上であることが好ましい。これにより、親水性と疎水性とのバランスを保ち、優れた分散性能を発揮するポリカルボン酸系共重合体のモノマーとして利用できる。より好ましくは、85モル%以上であり、更に好ましくは、90モル%以上であり、特に好ましくは95モル%以上であり、最も好ましくは、100モル%である。
【0033】
<ポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)>
ポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテルとしては、前記不飽和結合を有するハロゲン化物(A)と多価アルコール(B)から合成される不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)にアルキレンオキシド(D)が付加した化合物であり、例えば、(ポリ)アルキレングリコールメタリルエーテル類等が挙げられる。(C)へのアルキレンオキシドの平均付加モル数としては、1〜300モル付加した化合物が好ましい。
【0034】
<物質(M)>
本発明に於いて用いられる物質(M)としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属水素化物及びアルカル土類金属水素化物から選ばれるものであり、1種であってもよく、2種以上を併用しても良い。
【0035】
アルカリ金属としては、金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウム等が挙げられ、アルカリ土類としては、金属カルシウム、金属ストロンチウム等が挙げられる。アルカリ金属水素化物としては、LiH、NaH、KH等が挙げられ、アルカリ土類金属水素化物としては、CaH2、SrH2等が挙げられる。好ましくは、金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウム、LiH、NaH、KH、CaH2であり、より好ましくは金属ナトリウム、NaHである。
【0036】
前記物質(M)の量は、前記不飽和ハロゲン化合物(A)1モルに対して、金属価数の合計が0.5〜2.0モルであり、好ましくは0.9〜1.5モルであり、より好ましくは1.0〜1.2モルである。例えば、前記物質(M)がアルカリ土類金属化合物のみである場合には、前記物質(M)の前記不飽和ハロゲン化合物(A)に対するモル比は、換算すれば、0.25〜1.0、0,45〜0.75、0.5〜0.6となる。
【0037】
以下に、より好ましい不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)ならびに不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)の製造方法について、それぞれ工程毎に説明する。
【0038】
<第一反応工程>
多価アルコール(B)と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属水素化物、及びアルカリ土類金属水素化物から選ばれる少なくとも1種の物質(M)とを反応させて金属アルコラートを形成する。本工程では、従来技術であるアルカリ金属水酸化物等を使用する場合と大きく異なり、水が副生しないことが非常に重要な点である。
【0039】
水の残存量が多いと、後述のアルキレンオキシド付加工程で副生してくるポリアルキレングリコールが多くなり、結果として不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)の純度が低下するとともに、性能の低下に繋がるという問題がある。また、従来技術では反応により水が副生するため、水をカットする必要があるが、その場合、第一反応工程での原料多価アルコール(B)のロスが大きくなる点、後述の精製工程で不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)のロスが大きくなる点が問題であった。本発明の方法によれば、これらの問題点を解決し、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を効率的に製造出来るとともに、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)の純度を向上することができることを見出した。
【0040】
上記第一反応工程に於いて、反応器への各原料の供給方法は、先に仕込んだ多価アルコール(B)に物質(M)をゆっくりと供給してもよく、逆に物質(M)を全量仕込んだ後に多価アルコール(B)をゆっくりと供給してもよく、多価アルコール(B)と物質(M)を同時にゆっくりと供給してもよい。最も好ましい形態は、多価アルコールを全量仕込んでおき、物質(M)をゆっくりと供給する方法である。
【0041】
本工程では不活性な溶媒を用いても構わないが、反応後に除去する必要があり作業が煩雑になる為、溶媒を用いずに行うことが好ましい。本工程では反応による発熱が大きい為、両原料を一括で仕込むことは好ましくない。
【0042】
両原料を混合する際の温度は、多価アルコール(B)の種類にもよるが、−10℃〜80℃が好ましく、より好ましくは−10℃〜50℃であり、さらに好ましくは−10℃〜30℃である。混合時の温度を上記範囲に制御すれば、多価アルコール(B)の凝固を起こすことがないため好ましい。両原料の混合後は、徐々に温度を上げ、最終的に40℃以上、好ましくは50℃以上として反応を完了させるとよい。
【0043】
第一反応工程の反応圧力は、減圧下、常圧、加圧下のいずれでも構わないが、水素が副生してくる為、常圧で行うことが簡便で低コストである。反応時間については特に限定するものではなく、前記物質(M)の転化率が充分に高くなる時間を設定すればよい。
【0044】
上記操作により、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコラートを含む組成液を得ることが出来る。
【0045】
<第二反応工程>
第二反応工程は、前記第一反応工程で得られた反応生成物と前記不飽和結合を有するハロゲン化物(A)とを混合させることが必要である。前記第一反応工程で得られた反応生成物に、前記不飽和ハロゲン化合物(A)を添加する形態は、全量を一度に添加しても、複数回に分けて間歇的に添加しても、長時間かけて連続的に添加しても良い。
【0046】
第二反応工程における反応温度は、前記多価アルコール(B)及び前記不飽和ハロゲン化合物(A)の種類や、前記物質(M)の種類や量により異なるが、通常、40〜150℃であり、好ましくは50〜100℃であり、より好ましくは55〜75℃である。
【0047】
第二反応工程における圧力は、減圧、常圧、加圧、のいずれでも構わないが、通常は常圧下で行うのが、簡便で低コストである。また、反応時間は特に限定するものではなく、前記反応条件下で原料不飽和ハロゲン化合物(A)の転化率が充分に高くなる時間を設定すればよい。
【0048】
<固液分離工程>
前工程より得られた、少なくとも不飽和エーテル基が1個である不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)と不飽和エーテル基が2個であるジ不飽和エーテル体と未反応の前記多価アルコール(B)と無機金属のハロゲン化物とを含む反応生成物は、固液分離工程および精製分離工程により、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属のハロゲン化物を含む固体析出物と不飽和エーテル化合物を含む溶液と、少なくとも未反応の多価アルコール(B)を含む回収組成物とに分離される。
【0049】
前記固液分離方法については特に限定されないが、加圧濾過や減圧濾過、遠心分離などの方法を挙げることができる。また、前記精製分離工程以前に固液分離工程を設けた場合には、分離した固形物に不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)が含まれているので、原料に用いる多価アルコール(B)を用いて洗浄するのが好ましい。洗浄用溶媒として、前記回収組成物を用いると、固形物中に含まれるアルカリ(土類)金属ハロゲン化物の洗浄液への溶出が抑えられて特に好ましい。
【0050】
洗浄後の液は、後述の精製分離工程と同様の操作により不飽和エーテル組成物と前記回収組成物とに分離させる、前記反応組成物と合わせて精製分離工程に供する、前記回収組成物等と合わせて反応原料として用いる、あるいはこれらを組み合わせることにより、有効に利用される。
【0051】
前記第二反応工程から後述の回収工程の間までに、固液分離により析出したアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属のハロゲン化物を取り除く工程を1回以上行うことが好ましく、例えば、第二反応工程後と精製分離工程後のように複数回に分けて実施しても構わない。本発明では、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属のハロゲン化物が溶存していても構わないので、固液分離工程を前記第二反応工程と後述の精製分離工程の間に1回実施するのが、簡便であり好ましい実施形態の一つである。
【0052】
<精製分離工程>
精製分離工程は、蒸留、晶析、抽出など、目的とする不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を分離できるものであれば特に限定するものではない。
【0053】
蒸留条件としては、目的とする不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を含む不飽和エーテル組成物の熱安定性の観点から、蒸留ボトムの温度を160℃以下で行うことが好ましく、より好ましくは150℃以下であり、140℃以下がさらに好ましく、特に好ましくは130℃以下で行うことである。操作圧力については特に限定するものではなく、上記温度範囲内で処理するのに適した圧力を設定すればよい。
【0054】
従来の方法では、該工程において不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の純度を高めるために低濃度の低沸点成分、例えば水を除去するために、蒸留塔を全還流で保持して還流槽に低沸点成分を濃縮し、還流槽の成分が安定したところで槽内の液を短時間で抜出す方式で低沸点成分を除去するなどの工夫が必要であった。一方、本発明によれば、分離工程に供する液中の残存水分量が少なくなる為、特別な操作を行うことなく精製を行うことも可能となる。
【0055】
<回収工程>
前記精製分離工程で得られた未反応の多価アルコール(B)を含む回収組成物は、更に蒸留等の精製を施しても良いが、本発明の実施おいては回収工程として、特に精製等の処理を施すことなく、その一部または全量を反応工程の原料として用いる事ができるので、簡便で高効率である。
【0056】
例えば、蒸留残渣として得られた溶存塩を含んだ多価アルコール(B)を、そのまま第一反応工程の原料として用いてもよい。必要に応じて該回収組成物に新たに多価アルコール(B)を追加してもよく、その他の回収組成物、例えば、同じ種類の不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を製造している他の製造設備から得られた回収組成物等と混合してもよい。
【0057】
<第三反応工程>
不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)にアルキレンオキシド(D)を付加してポリアルキレンオキシド鎖を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)を製造する工程(第三反応工程と称することがある)の反応温度は、80〜170℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは90〜160℃であり、更に好ましくは100〜150℃である。前記反応温度に制御することで、副反応を抑え目的生成物の収率を高められる傾向があるため好ましい。
【0058】
第三反応工程においては、触媒を用いることが好適である。触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の金属水素化物、金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウムなどのアルカリ金属、金属カルシウム等のアルカリ土類金属、ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム等の有機金属化合物、三フッ化ホウ素、四塩化チタン等のルイス酸、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等の金属アルコキシドが好ましい。より好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、金属ナトリウム、三フッ化ホウ素であり、更に好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、金属ナトリウムである。
【0059】
前記触媒の濃度としては、仕込み原料から算出される目的アルキレンオキシド付加物理論量に対する触媒の質量比が10000ppm以下であることが好ましい。より好ましくは8000ppm以下であり、更に好ましくは5000ppm以下であり、最も好ましくは3000ppm以下である。
【0060】
後段反応において、反応時間としては、50時間以内であることが好ましい。より好ましくは40時間以内であり、更に好ましくは30時間以内である。前記反応時間を採用することで副反応を抑えられる傾向がある。
【0061】
後段反応においては、加圧下で行うことが好ましい。反応開始時の圧力としては、0.01〜0.5MPaが好ましい。より好ましくは、0.05〜0.3MPaであり、更に好ましくは、0.1〜0.2MPaである。付加反応時の圧力としては、0.9MPa以下が好ましい。
【0062】
後段反応において、反応器への各原料の供給方法は、初期に一括して仕込んでもよく、逐次投入してもよいが、反応熱が発生する反応のため、逐次投入方法が好ましい。
【0063】
以下、実施例を示し、本発明の形態について更に詳しく説明する。もちろん本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部について様々な態様が可能である。
なお、特に断りの無い限り、%は質量%を表す。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」、と記すことがある。
【0065】
上記分析については以下の装置を用いて行った。
ガスクロマトグラフィー
装置:Shimadzu製GC−2014、J&W社キャピラリーカラムDB−1(0.53mmφ×60m)
条件:40℃で5min保持、10℃/min昇温、300℃で5min保持
水分含有量測定
装置:京都電子工業株式会社(KEM)製MK−510
標準試料:三菱化学社製カールフィッシャーSS。
【0066】
(実施例1)
(第一反応工程)
3Lのフラスコにエチレングリコール1500.3g(24.17mol)を仕込み、内部を充分に窒素置換した。フラスコを氷冷しながら、撹拌下、金属ナトリウムの小片計116.2g(5.05mol)を常圧窒素雰囲気下でゆっくりと投入して反応を行い、その後70℃まで徐々に温度を上げ、Naアルコラートを含む組成液を得た。
【0067】
(第二反応工程)
前記工程で得た反応組成液に、撹拌下、常圧、65〜70℃でメタリルクロライド452.8g(5.00mol)を3時間かけて滴下し、その後70℃で6時間反応させ、析出塩を含む反応混合物2035.1gを得た。
【0068】
(固液分離工程)
前工程で得られたスラリーを濾紙(No.5B、4μm)を用いて濾別し、濾液1741.4gを得た。さらに、エチレングリコール100.3g(1.62mol)で濾紙上の固形物の洗浄を行い、得られた洗浄液123.7gと先の濾液と合わせて濾過液を得た。このとき分離回収した塩は260.3gであった。前記濾過液のガスクロマトグラフィーによる分析の結果、エチレングリコールモノメタリルエーテルの収率は84.7mol%、エチレングリコールジメタリルエーテルは収率13.2mol%であった(原料メタリルクロライド基準で算出)。また、水分含有量をカールフィッシャー法によって分析してところ、0.03質量%であった。
【0069】
(精製分離工程)
前工程で回収した反応液と洗浄液併せて1858.1gを蒸留塔ボトムに仕込み、エチレングリコールモノメタリルエーテルの精製を行った。蒸留設備としては、塔径30mmφ、規則性充填材使用、理論段数30段相当の装置を用い、トップ圧力45mmHgの条件で蒸留を行った。蒸留の初期留出率0.8%までを初留分として還流比を20で抜出した後、還流比を10に変更して本留分の抜出しを行った。その後留出率23.5%から29.0%までを高沸留分として還流比20で留出させ、塩を含有したエチレングリコール(純分として1253.0g)を蒸留残渣として回収した。前記蒸留操作により、エチレングリコールモノメタリルエーテルを主成分とする留分421.8gを得た。分析の結果、水分含有量は0.04質量%、エチレングリコールジメタリルエーテル含有量は0.33質量%であった。
【0070】
(比較例1)
(第一反応工程・水分減量工程)
3Lのフラスコにエチレングリコール1501.3g(24.2mol)とフレーク水酸化ナトリウム205.1g(5.05mol)を仕込み、撹拌下、圧力20mmHgで温度を室温から125℃に変化させながら反応を行った。また、同時に単蒸留によって水を留出させ、留分195.2g(EG分104.7g)を回収した。
【0071】
(第二反応工程)
前記工程で得た水分減量組成液に、撹拌下、常圧、65〜70℃でメタリルクロライド452.8g(5.00mol)を3時間かけて滴下し、その後70℃で6時間反応させ、析出塩を含む反応混合物1956.3gを得た。
【0072】
(固液分離工程)
前工程で得られたスラリーを濾紙(No.5B、4μm)を用いて濾別し、濾液1673.7gを得た。さらに、エチレングリコール100.3g(1.6mol)で濾紙上の固形物の洗浄を行い、得られた洗浄液120.6gと先の濾液と合わせて濾過液を得た。このとき分離回収した塩は257.0gであった。前記濾過液のガスクロマトグラフィーによる分析の結果、エチレングリコールモノメタリルエーテルの収率は84.4mol%、エチレングリコールジメタリルエーテルは収率13.1mol%であった(原料メタリルクロライド基準で算出)。また、残存水分量をカールフィッシャー法によって分析してところ、0.07質量%であった。
【0073】
(精製分離工程)
実施例1と同じ蒸留設備を用い、前工程で回収した反応液と洗浄液併せて1755.3gを蒸留塔ボトムに仕込み、エチレングリコールモノメタリルエーテルの精製を行った。蒸留の初期に、還流槽から水分濃縮液6.2gを分取した。その後留出率1.4%までを初留分として還流比を20で抜出した後、還流比を10に変更して本留分の抜出しを行った。その後留出率23.0%から29.3%までを高沸留分として還流比20で留出させ、塩を含有したエチレングリコール(純分として1157.1g)を蒸留残渣として回収した。前記蒸留操作により、エチレングリコールモノメタリルエーテルを主成分とする留分379.1gを得た。分析の結果、水分含有量は0.09質量%、エチレングリコールジメタリルエーテル含有量は0.38質量%であった。
【0074】
上記実施例、比較例から、本発明の方法による不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の合成では、原料ならびに目的物のロスが少なく、効率よく製造できることが示された。また、上記実施例により得られた不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)は水分含有量が少なく、アルキレンオキシド(D)の付加による不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)の製造に好適に用いられることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の製造方法で得られた不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(E)は、セメント組成物に利用されているポリカルボン酸系重合体の共重合成分として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和結合を有するハロゲン化物(A)と多価アルコール(B)とを反応させて不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を製造する方法であって、不飽和結合を有するハロゲン化物(A)と多価アルコール(B)とをアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属水素化物、及びアルカル土類金属水素化物から選ばれる少なくとも1種の物質(M)を用いて反応を行うことを特徴とする不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。
【請求項2】
不飽和ハロゲン化合物(A)1モルに対して、前記物質(M)を金属価数の合計が0.5〜2.0モルとなる範囲で用いることを特徴とする、請求項1に記載の不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。
【請求項3】
不飽和ハロゲン化合物(A)1モルに対して、多価アルコール(B)が1.5〜10モルとなる範囲で用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載の不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。
【請求項4】
以下に記載するa)〜d)の工程を有することを特徴とする、請求項1〜3記載の不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法
a)物質(M)と多価アルコール(B)とを反応させる第一反応工程
b)前記第一反応工程で得られた反応組成物と、不飽和ハロゲン化合物(A)とを反応させる第二反応工程
c)前記第二反応工程で得られた反応組成物を、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属のハロゲン化物を含む固体析出物と不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を含む溶液とに分離する固液分離工程
d)前記固液分離工程で得られた不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)を含む溶液から、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)と多価アルコール(B)を含む回収組成物とに分離する精製分離工程
【請求項5】
さらに、
e)前記精製分離工程で得られた回収組成物の一部または全量を前記第一反応工程に使用する回収工程
を有することを特徴とする請求項4記載の不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル(C)の製造方法。

【公開番号】特開2010−241772(P2010−241772A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95420(P2009−95420)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】