説明

不飽和ポリエステル樹脂組成物、これを含有する成形材料及び成形品

【課題】 スチレンモノマー放散量を従来に比較して大幅に低減し、かつ、平滑性、耐熱性、耐熱水性、成形性、成形品外観、寸法精度、機械的強度等の各種物性に優れた成形品を得ることが可能な不飽和ポリエステル樹脂組成物、該樹脂組成物を含有する成形材料及びその成形品を提供する。
【解決手段】 不飽和ポリエステル(A)、重合性単量体(B)、硬化剤(C)及び重合禁止剤(D)を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、上記不飽和ポリエステル(A)は、多塩基酸及び多価アルコールにより形成される構成単位を有し、かつ上記多塩基酸の総量100モル%に対し、3モル%以上20モル%未満のジシクロペンタジエンにより変性してなるものであり、上記重合性単量体(B)は、スチレンモノマーを含有し、上記硬化剤(C)は、特定構造を有する有機過酸化物を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂組成物、これを含有する成形材料及び成形品に関する。より詳しくは、成形品からのスチレンモノマーの放散を抑制でき、住設機器や建築材料、車両用部材等の各種用途に有用な不飽和ポリエステル樹脂組成物、このような樹脂組成物を含有する成形材料及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、住宅や車両の内装用部材に使用される塗料や接着剤等の樹脂組成物中に含まれるトルエン、キシレン、スチレンモノマー等のVOC(揮発性有機物質;Volatile Organic Compounds)がシックハウス症候群の原因の1つと考えられており、建材等から発生するVOC揮発量の規制が開始されている。例えば、厚生労働省では、ホルムアルデヒドやスチレンモノマー等を含む13種類のVOCについて室内濃度基準値を公表している。また、建築基準法においてもホルムアルデヒドの放散速度が規制されており、更に、昨今の環境・健康問題への意識の高まりから、スチレンモノマーやトルエン、キシレン等についても同様の規制が検討されている。
【0003】
ところで、バインダー樹脂と繊維フィラー等とを含む繊維含有複合材料(繊維強化複合材料)は、樹脂の有する易加工性や非腐食性に機械的強度を付加し得ることから、人工大理石、キッチンカウンター、洗面台、浴槽、浴室洗い場等のユニットバス部材に代表される住設機器の他、建築材料、車両用部材にも広く利用されている。このような繊維強化複合材料は、通常、不飽和ポリエステル樹脂に代表される熱硬化性樹脂及びフィラーを含有し、増粘剤により増粘させた後、加熱圧縮成形して成形品を与えるものであるが、熱硬化性樹脂には、安価で優れた性能を付与できるためにスチレンモノマーが広く使用されている。しかしながら、スチレンモノマーを含有している熱硬化性樹脂を含む組成物の成形品中には、僅かな量の未反応スチレンモノマーが残存し、これが大気中に放散され、使用禁止や換気システムの設置が必要となる場合があるため、成形品中の残存スチレンモノマー量を低減し、またスチレンモノマーの室内への放散を低減することが強く要請されている。
【0004】
従来の残留スチレン低減技術に関し、例えば、ノルボルネン骨格を有する化合物を含有する熱硬化性樹脂の成形体が開示されていて(例えば、特許文献1参照。)、残留スチレンモノマー量が低減され、耐水性に優れる旨が記載されている。しかしながら、ここに示されるようなSMC(シート状の成形材料;Sheet Molding Compound)を用いて硬化時間を延長し、また外観を落とさない範囲で金型温度を上げて製造しても、昨今のVOC物質の放散量低減要請に対してより充分なものとはいえず、この点において工夫の余地があった。
【0005】
また製品からのスチレンモノマーの揮発を抑制する目的で、熱可塑性樹脂のスチレンモノマーの一部を非スチレン系モノマーで置換する技術が開発され、例えば、スチレンモノマーとメタ)アクリレート等のモノマーとを含有する熱可塑性樹脂及び特定の半減期温度を示す重合開始剤を含み、熱可塑性樹脂中のスチレン含有量が5〜56質量%である熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献2参照。)や、ジシクロペンタジエンにより変性された不飽和ポリエステルを含み、不飽和ポリエステル樹脂中のスチレン含有量が5質量%以下である不飽和ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。
このような樹脂組成物は、製品からのスチレンモノマーの揮発を抑制する技術として極めて有用なものであるが、更に低コストで各種物性に優れる成形品を求める市場のニーズにより適合させるべく、スチレンモノマーを多量に使用しながらも、成形品中に残留するスチレンモノマー量を充分に低減して昨今のVOC物質の放散量低減要請に充分に応えられるようにするための工夫の余地があった。また、例えば、バスタブ、床パン、キッチンカウンター等の水周り住宅設備製品の製造に更に適したものとするため、耐熱性や耐熱水性、寸法精度、成形品外観等において更に優れた物性を発揮できるようにするための工夫の余地があった。
【0006】
更にジプロピレングリコールを用いた不飽和ポリエステル樹脂、スチレンモノマー及び硬化剤を含むSMCが開示され(例えば、特許文献4参照。)、硬化剤を不飽和ポリエステル樹脂及びスチレンモノマー100質量部に対して2.5〜10質量部と、多量に使用することにより、残留スチレンモノマー量を低減する技術が開発されている。しかしながら、このように硬化剤を多量に使用した場合には、硬化発熱が過度に高くなり、クラックや割れ等の成形不具合が発生しやすくなることから、実際の大型成形品の成形には適さない。また、成形時に金型内でプレゲルも発生しやすくなり、成形品外観が低下するため、これらの点で検討の余地があった。
【0007】
ところで、ジシクロペンタジエンを特定量用いた不飽和ポリエステルと、炭素数5以上の3級アルキル基がペルオキシド基に結合しているペルオキシ酸エステルを含む成形材料が開示されていて(例えば、特許文献5参照。)、特定の不飽和ポリエステル及び硬化剤を使用することにより、成形性や着色性、耐水性等に優れた効果を発揮することを可能にする技術が開発されている。このような技術においても、成形時の収縮をより低減するとともに増粘特性にも優れた成形材料とし、しかも成形品中に残留するスチレンモノマー量をより充分に低減できるようにすることによって、各種用途に更に有用なものとするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2003−119399号公報
【特許文献2】特開2005−154747号公報
【特許文献3】特開2006−36839号公報
【特許文献4】特開2006−131759号公報
【特許文献5】特開平11−60650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、スチレンモノマー放散量を従来に比較して大幅に低減し、かつ、平滑性、耐熱性、耐熱水性、成形性、成形品外観、寸法精度、機械的強度等の各種物性に優れた成形品を得ることが可能な不飽和ポリエステル樹脂組成物、該樹脂組成物を含有する成形材料及びその成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、熱硬化性樹脂組成物について種々検討したところ、不飽和ポリエステルを含有する組成物が加熱圧縮成形(加熱加圧成形)において有用なものであることに着目し、不飽和ポリエステルを特定量のジシクロペンタジエンにより変性してなるものとし、かつ重合性単量体としてスチレンモノマーを必須とするものとすると、不飽和ポリエステルとスチレンモノマーとの相溶性が向上され、成形時の未反応スチレンモノマー量を低減できるとともに、樹脂組成物を成形に適した粘度まで充分に増粘することができ、平滑性や耐熱水性等の各種物性に著しく優れた成形品を得ることができることを見いだした。そして、このような不飽和ポリエステル及び重合性単量体からなる不飽和ポリエステル樹脂に、硬化剤として特定の有機過酸化物を用いると、これらの各成分の相乗効果により、成形品(硬化物)の残存スチレンモノマー量及び成形品からのスチレンモノマー放散量を更に大幅に低減できることを見いだし、しかも得られる成形品が、平滑性や耐熱性、耐熱水性、成形性、成形品外観、寸法精度、機械的強度等の各種物性において極めて優れたものとなることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、このような樹脂組成物が、例えば、浴室用床材、浴室用壁材、キッチンカウンター、洗面等の住宅設備等の様々な用途において好適な成形材料となることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、不飽和ポリエステル(A)、重合性単量体(B)、硬化剤(C)及び重合禁止剤(D)を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、上記不飽和ポリエステル(A)は、多塩基酸及び多価アルコールにより形成される構成単位を有し、上記多塩基酸の総量100モル%に対し、3モル%以上20モル%未満のジシクロペンタジエンにより変性してなるものであり、上記重合性単量体(B)は、スチレンモノマーを含有し、上記硬化剤(C)は、下記一般式(1);
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは、炭素数2以上のアルキル基を表す。Rは、アルキル基、アルコキシル基、フェニル基、置換フェニル基及びシクロヘキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を表す。)で表される化学構造を有する有機過酸化物を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物である。
【0013】
本発明はまた、上記不飽和ポリエステル樹脂組成物を含有する成形材料でもある。
本発明は更に、上記成形材料を加熱加圧成形して得られる成形品でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、不飽和ポリエステル(A)、重合性単量体(B)、硬化剤(C)及び重合禁止剤(D)を含有するものである。なお、以下では、不飽和ポリエステル樹脂組成物を単に「樹脂組成物」とも称し、また、不飽和ポリエステルと重合性単量体とからなる混合物を「不飽和ポリエステル樹脂」ともいう。
上記不飽和ポリエステル(A)は、多塩基酸及び多価アルコールにより形成される構成単位を有するものであるが、このような不飽和ポリエステル(A)としては、多塩基酸(多塩基酸の酸無水物を含む)と多価アルコールとを、通常の手法で縮合重合することによって得ることができる。
【0015】
上記多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和二塩基酸又はその無水物;フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘット酸等の飽和二塩基酸又はその無水物;トリメリト酸、トリメリト酸無水物、ピロメリト酸、ピロメリト酸二無水物等の三官能以上の多塩基酸又はその無水物等が挙げられる。これらの多塩基酸は、1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
上記多塩基酸の好ましい形態は、飽和二塩基酸を少なくとも含むことであり、中でも、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸及びテトラヒドロフタル酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種の飽和二塩基酸を含むことが好適である。これにより、上記樹脂組成物の耐熱水性がより向上するとともに増粘特性が更に改善し、より良好な含浸性を確保しつつ、成形に適した粘度までより充分に増粘することが可能となる。
上記飽和二塩基酸の含有量としては、全多塩基酸成分100モル%に対し、0.1〜30モル%であることが好適である。0.1モル%未満であると、飽和二塩基酸に起因する上記効果を充分に発揮できないおそれがあり、30モル%を超えると、樹脂の反応性が小さくなり、成形中に充分な発熱が得られないため、残留スチレンモノマー量をより充分に低減することができないおそれがある。また、収縮率を充分に低減することができないおそれや、成形品表面の平滑性を良好なものとすることができないおそれもある。上記飽和二塩基酸の含有量の下限値としては、より好ましくは5モル%であり、また、上限値は、より好ましくは25モル%である。
【0017】
なお、上述したように、上記飽和二塩基酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸及びテトラヒドロフタル酸無水物を用いることが好ましいが、全多塩基酸の総量100モル%に対し、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸及びテトラヒドロフタル酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種の飽和二塩基酸を0.1〜30モル%含有することが特に好ましく、これにより、飽和二塩基酸に起因する上記作用効果がより充分に発揮されることなる。より好ましくは、5〜25モル%である。
【0018】
上記多塩基酸の好ましい形態としてはまた、不飽和二塩基酸又はその無水物を少なくとも含むことであり、例えば、全多塩基酸成分100モル%に対し、不飽和二塩基酸又はその無水物の割合が70〜99.9モル%であることが好適である。70モル%未満であると、加熱加圧成形時に充分な発熱量が得られないために、例えば、低収縮化剤を用いた場合にその効果が充分に発揮されないおそれがあり、それに起因して、成形クラックが発生したり、成形品の表面光沢を向上できないおそれがある。また、硬化速度が充分とはならないために金型内保持時間の延長が必要となったり、残留スチレンモノマー量の増加に起因して、平滑性、耐熱性、耐熱水性、機械的強度等の特性を高めることができないおそれがある。上記不飽和二塩基酸の含有量の下限値としては、より好ましくは75モル%であり、また、上限値は、より好ましくは95モル%である。
【0019】
上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA等のグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の三官能以上のアルコール、グリシジルメタクリレート等のエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のエポキシド等が挙げられる。これらアルコールは1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。
上記多価アルコールの好ましい形態は、ネオペンチルグリコール及び/又は水素添加ビスフェノールAを少なくとも含有することであり、これによって、上記樹脂組成物の耐熱水性が更に改善することになる。
【0020】
上記ネオペンチルグリコール及び/又は水素添加ビスフェノールAの含有量としては、多価アルコールの総量100モル%に対し、0.1〜70モル%であることが好適である。0.1モル%未満であると、これらの多価アルコールに起因する上記効果を充分に発揮できないおそれがあり、70モル%を超えると、スチレンモノマーと不飽和ポリエステル(A)との反応性や、不飽和ポリエステル(A)の相溶性が充分なものではなくなり、残留スチレンモノマー量を充分に低減することができないおそれがある。また、収縮率を充分に低減することができないおそれや、成形品表面の平滑性を良好なものとすることができないおそれもある。上記ネオペンチルグリコール及び/又は水素添加ビスフェノールAの含有量の下限値としては、より好ましくは10モル%であり、また、上限値は、より好ましくは60モル%である。
【0021】
このように、上記多塩基酸が、その総量100モル%に対し、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸及びテトラヒドロフタル酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種の飽和二塩基酸を0.1〜30モル%含有し、上記多価アルコールが、その総量100モル%に対し、ネオペンチルグリコール及び/又は水素添加ビスフェノールAを0.1〜70モル%含有する形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0022】
上記不飽和ポリエステル(A)はまた、上記多塩基酸の総量100モル%に対し、3モル%以上20モル%未満のジシクロペンタジエン(以下、「DCPD」ともいう。)により変性されてなるものである。これによって、不飽和ポリエステルとスチレンモノマーとの相溶性が向上され、成形時の未反応スチレンモノマーを充分に低減することができるとともに、増粘特性に優れ、表面状態が極めて良好な成形材料を得ることが可能となる。ここで、3モル%未満のDCPD変性(DCPDモル濃度)では、充分な相溶性向上効果が見られず、昨今のVOC物質の放散量低減要請に充分に応えられる程度に成形品からのスチレンモノマー放散量を低減することができないおそれがある。また、20モル%以上のDCPD変性を行った場合には、不飽和ポリエステル(A)の反応性が低下するため、成形時に充分な硬化発熱が得られず、収縮率の増大、成形品光沢の低下が発生するおそれがあり、また、DCPD変性により不飽和ポリエステル樹脂末端のカルボキシル基がDCPDにより封止されるため、酸化マグネシウム等の増粘剤とカルボキシル基との金属架橋が阻害され、樹脂組成物を成形に適した粘度まで増粘させることが困難になり、樹脂組成物の表面状態を極めて良好なものとすることができないおそれがある。このようにDCPDモル濃度を20モル%未満とすることにより、樹脂組成物の増粘特性が向上し、表面状態が著しく良好なものとなるため、住宅設備用途等の最終製品等がより高外観を呈することが可能となる。
上記多塩基酸の総量100モル%に対するDCPDモル濃度の下限値は、より好ましくは5モル%であり、また、上限値は、より好ましくは15モル%である。
【0023】
上記DCPDで変性されてなる不飽和ポリエステル(A)は、不飽和ポリエステル(A)の製造時にDCPDを付加反応させることにより得ることができるが、このような変性により、DCPD骨格を導入することができる。
上記DCPDによる変性手法としては、例えば、(1)多塩基酸、多価アルコール、ジシクロペンタジエンを必要量、全量を一度に仕込み、120〜140℃で2〜3時間反応させた後190〜210℃で必要な分子量となるまでエステル化を進める方法、(2)多塩基酸にジシクロペンタジエンを1時間以上かけて滴下、120〜140℃で1時間以上反応させ、その後所定量の多塩基酸、多価アルコールを加え190〜210℃まで昇温、エステル化を進める方法、及び、(3)多塩基酸と多価アルコールを120〜140℃で1〜2時間反応させてモノエステルを生成させ、次にジシクロペンタジエンを1時間以上かけて滴下、更に1時間反応を続けた後、190〜210℃まで昇温、エステル化を進める方法等が挙げられ、いずれの手法を用いてもよい。
【0024】
ここで、上記不飽和ポリエステル(A)は、上述したように、全多塩基酸成分100モル%に対して不飽和二塩基酸又はその無水物の割合が70モル%以上であることが好適であるが、この場合、重合性単量体との相溶性が比較的充分ではない場合がある。しかしながら、ジシクロペンタジエン変性により不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との相溶性を向上させ、重合性単量体(B)の量を減じることができるため、収縮率の低減、残留モノマーの放散量低下、耐熱水性向上、機械的強度向上をより充分に実現することが可能となる。
【0025】
上記重合性単量体(B)としては、スチレンモノマーを必須とするものであればよいが、それ以外に、単官能ビニル単量体、多官能ビニル単量体、アリル単量体等の1種又は2種以上を併用してもよい。この場合、上記スチレンモノマーの含有量は、上記重合性単量体(B)の総量100質量%に対し、80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。
【0026】
上記単官能ビニル単量体としては、例えば、α−メチルスチレン、メチル(メタ)アクリレート、α−エチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素原子数12又は13)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール等の単官能(メタ)アクリルモノマー、下記式(2)で示されるジシクロペンタジエン系化合物等が挙げられる。
【0027】
【化2】

【0028】
式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、炭素原子数2〜5の低級アルキレン基を表す。nは、0〜5の整数である。炭素原子数2〜5の低級アルキレン基としては、例えば、エチレン、ブチレン等が好適である。
【0029】
上記多官能ビニル単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(n=4〜23)、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(n=4〜10)、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(n=8,9)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペントールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、2,2−ビス〔4−((メタ)アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−((メタ)アクリロキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−((メタ)アクリロキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン(n=3〜30)、2−ヒドロキシ−1−アクリロキシ−3−メタクリロキシプロパン等の多官能アクリルモノマー;下記式(3)で示されるジシクロペンタジエン系化合物等が挙げられる。
【0030】
【化3】

【0031】
式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜5の低級アルキレン基を表す。n及びmは、同一若しくは異なって、0〜5の整数である。炭素原子数2〜5の低級アルキレン基としては、例えば、エチレン、ブチレン等が好適である。
【0032】
上記アリル単量体としては、例えば、グリセリンモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル等の1官能アリル化合物、グリセリンジアリルエーテル、グリセリントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル等の多官能アリル化合物が挙げられる。
【0033】
上記不飽和ポリエステル樹脂組成物において、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との質量比((A)/(B))としては、70/30〜25/75であることが好適である。より好ましくは、65/35〜30/70であり、更に好ましくは、60/40〜35/65である。すなわち、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量(不飽和ポリエステル樹脂)100質量%に対し、該重合性単量体(B)の含有量が40〜65質量%であることが特に好ましく、これにより、成形材料製造時のガラス繊維等の強化材と樹脂組成物との良好な含浸性をより充分に確保することができるため、成形品の耐熱性や耐熱水性を更に高めることが可能となる。
【0034】
なお、上述したように、重合性単量体(B)はスチレンモノマーを必須とするものであるが、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量100質量%に対し、スチレンモノマーの含有量が40〜65質量%であることが特に好ましく、これによって、スチレンモノマー放散量を充分に低減しながらも、極めて低コストで各種物性に優れる成形品を得ることが可能となる。より好ましくは、45〜65質量%である。
【0035】
上記硬化剤(C)としては、上記一般式(1)で表される構造を有する有機過酸化物を含むものであるが、上記一般式(1)中、Rで表されるアルキル基としては、エチル基、n−プロピル基が好適である。また、Rで表される有機基としては、上述した基の中でも、メチル基、イソプロポキシル基が好適である。
上記一般式(1)で表される構造を有する有機過酸化物としては、例えば、t−ヘキシルパーオキシアセテート(上記一般式(1)において、R=n−プロピル基、R=メチル基)、t−アミルパーオキシアセテート(R=エチル基、R=メチル基)、t−ヘキシルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート(R=n−プロピル基、R=3,5,5−トリメチルヘキシル基)、t−アミルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート(R=エチル基、R=3,5,5−トリメチルヘキシル基)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(R=n−プロピル基、R=イソプロポキシル基)、t−アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(R=エチル基、R=イソプロポキシル基)、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート(R=n−プロピル基、R=フェニル基)、t−アミルパーオキシベンゾエート(R=エチル基、R=フェニル基)等が挙げられる。中でも、t−ヘキシルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが好適であり、更に、一般式(1)中のRがn−プロピル基を表し、かつRがメチル基を表す化合物、すなわちt−ヘキシルパーオキシアセテートであることが特に好適である。これにより、上記不飽和ポリエステル(A)との相乗効果によって、残留スチレンモノマー量を更に低減することかできるうえ、各種特性により優れる成形品を与えることができる樹脂組成物とすることが可能となる。
【0036】
上記硬化剤(C)としてはまた、上記一般式(1)で表される構造を有する有機過酸化物以外に、通常使用される有機過酸化物の1種又は2種以上を併用してもよい。この場合、上記有機過酸化物の含有量は、上記硬化剤(C)の総量100質量%に対し、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上である。
上記通常使用される有機過酸化物としては、例えば、キュメンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルイソプロピルパーオキシカーボネート、1,1−ジブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2−エチルヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−へキシルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0037】
上記硬化剤(C)の含有量としては、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量100質量部に対し、0.5〜5質量部であることが好適である。0.5質量部未満であると、上記有機過酸化物に起因する残留スチレン低減効果がより期待できないおそれがあり、また、5質量部を超えると、硬化発熱が過度に高くなり、クラックや割れ等の成形不具合が生じるおそれがある。上記硬化剤(C)の含有量の下限値としては、より好ましくは0.7質量部であり、上限値としては、より好ましくは2.5質量部である。
【0038】
なお、上述したように、上記硬化剤(C)は、上記一般式(1)で表される有機過酸化物を必須とするものであるが、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量100質量部に対し、上記一般式(1)で表される有機過酸化物が0.5〜5質量部であることが特に好ましく、これにより、残留スチレンモノマー量を更に低減し、各種特性に更に優れる成形品を与えることが可能となる。より好ましくは、0.7〜2.5質量部である。
【0039】
上記重合禁止剤(禁止剤)(D)としては、例えば、パラベンゾキノン、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、メチル−t−ブチルハイドロキノン、t−ブチルカテコール、2,6−ジ−tーブチル−4−メチルフェノール等の通常の重合禁止剤の他、N−オキシル化合物を用いることができ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。中でも、特にN−オキシル化合物を少なくとも含むことが好適であり、これによって、従来に比較して大幅に成形品中の残留スチレンモノマー量及びスチレンモノマー放散量を低減することが可能となり、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。この場合、N−オキシル化合物の含有量は、上記重合禁止剤(D)の総量100質量%に対し50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上である。
【0040】
上記N−オキシル化合物としては、例えば、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール、4−ヒドロキシ−2,2,6,6 −テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6 −テトラメチルピペリジン−1−オキシル、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−2−エチルヘキサノエート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−ステアレート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−4−t−ブチルベンゾエート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)コハク酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジピン酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルマロン酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)フタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)イソフタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)テレフタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ヘキサヒドロテレフタレート、N,N’−ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジパミド、N−ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)カプロラクタム、N−ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ドデシルサクシンイミド、2,4,6−トリス−[N−ブチル−N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−s−トリアジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
上記重合禁止剤(D)の含有量としては、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量100質量部に対し、0.001〜1質量部であることが好適である。0.001質量部であると、可使時間や硬化反応の立ち上がりをより適切に調整することができないおそれがあり、1質量部を超えると、充分な硬化度を得るために成形時間の延長が必要となり、生産性低下のおそれがある。上記重合禁止剤(D)の含有量の下限値としては、より好ましくは0.005質量部であり、上限値としては、より好ましくは0.5質量部である。
【0042】
なお、上述したように、上記重合禁止剤(D)は、N−オキシル化合物を必須とすることが好適であるが、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量100質量部に対し、N−オキシル化合物が0.001〜1質量部であることが特に好ましく、これにより、成形品中の残留スチレンモノマー量及びスチレンモノマー放散量を低減するという作用効果を更に充分に発揮することが可能となる。このように、上記重合禁止剤(D)がN−オキシル化合物を含み、該N−オキシル化合物の含有量が、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量100質量部に対し、0.001〜1質量部である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。より好ましくは、0.005〜0.5質量部である。
【0043】
上記不飽和ポリエステル樹脂組成物としてはまた、性能を損なわない範囲内で、充填材、低収縮化剤、増粘剤、内部離型剤、繊維強化剤、顔料、染料等の着色剤、柄剤(加飾粒)等の1種又は2種以上を含有するものであってもよい。
上記充填材としては、有機充填材、無機充填材が挙げられる。
上記有機充填材としては、通常使用される再生繊維、合成繊維、天然繊維が挙げられ、例えば、レーヨン等からなる再生繊維、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル繊維(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ビニロン等の合成繊維、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリオキシメチレン(POM)等のいわゆる耐熱性の高い高分子からなる繊維、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル、ポリイミド等のいわゆる高弾性率、高強度な高分子からなる繊維、ジュート繊維、竹繊維等の天然繊維等が挙げられる。
上記無機充填材としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、ガラスバルーン、シリカ、溶融シリカ、アエロジル(商品名)、クレー、マイカ、水酸化マグネシウム、寒水等が挙げられる。これらのうちでは無機充填材を用いることが好ましいが、有機充填材と併用してもよい。
【0044】
上記充填材においてはまた、強度を向上させるためにアスペクト比の大きい(50以上)ものを用いてもよく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維を用いることが好ましい。また、アスペクト比の小さい(30以下)を用いることもでき、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、マイカ、クレー、タルク、セラミック、溶融シリカ、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、ガラスパウダー、ガラスバルーン、リン酸カルシウム、ホタル石、アエロジル、スメクタイト等が好適であり、特に炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、溶融シリカ、シリカ、ガラスパウダーが好ましい。更に、アスペクト比の大きい(50以上)充填材とアスペクト比の小さい(30以下)充填材を併用してもよい。更に、表面処理、コーティングやメッキしたフィラー(充填材)を用いることができる。これらの充填材は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0045】
上記充填材の添加量としては、不飽和ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量)100質量部に対して、50〜500質量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜400質量部であり、更に好ましくは、130〜350質量部である。
また充填材としてアエロジル(商品名)を使用する場合には、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、5質量部以下用いることが好ましい。より好ましくは、2質量部以下であり、更に好ましくは、1質量部以下である。
上記充填材がこのような範囲で含有されていると、成形時に発生する収縮を低く抑えられ、成形体の耐衝撃性等の機械的強度をより優れたものとすることができる。
【0046】
上記低収縮化剤は、成形収縮を調整するために用いることができ、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、架橋ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル−ポリスチレンブロックコポリマー、アクリル/スチレン等の多相構造ポリマー、架橋/非架橋等の多相構造ポリマー、SBS(ゴム)等が挙げられる。これらは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
上記低収縮化剤の添加量としては、特に限定されるものではなく、成形品の用途により適宜設定され、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して3〜20質量部とすることができる。
【0047】
上記増粘剤は、例えば、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム等の2価金属の酸化物や水酸化物、アクリルポリマー等が用いられる。
上記アクリルポリマーは、特開平5−171022号公報に記載されるアクリルポリマーを好ましく用いることもでき、例えば、メチルメタクリレートを主成分とするアクリルポリマーであって、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレー卜等の他の(メタ)アクリル系モノマー、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能架橋モノマーを共重合したものが挙げられる。このようなアクリルポリマーは、メチルメタクリレートの含有量が90質量%以上であることが好ましく、多官能架橋モノマーの含有量が5質量%以下であることが好ましい。このような増粘剤は、1種又は2種以上を使用することができる。
上記増粘剤の添加量としては、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.5〜20質量部とすることが好適であり、好ましくは、金属酸化物や金属水酸化物の場合には0.5〜5質量部、アクリルパウダーの場合には1〜20質量部の範囲で用いられる。
【0048】
上記内部離型剤(離型剤)は、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸及びステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩等が挙げられる。また、パラフィン、液体ワックス、フッ素ポリマー、シリコン系ポリマー等の熱硬化性樹脂用途の内部離型剤を用いることができる。これらは、1種類のみを用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。
上記離型剤の添加量は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、1〜10質量部の範囲とすることが好適である。
【0049】
上記着色剤としては、特に限定されるものではなく、従来より不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂に使用されている種々の着色剤を用いることができる。
上記着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、フタロシアニンブルー等の公知の顔料が用いられる。着色剤の添加量は特に限定されるものではなく、成形品の用途により適宜設定される。不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して30部以内で使用されることが多い。
上記柄剤としては、例えば、酸化アルミニウム、PETフィルム、マイカ、セラミック及びそれらを着色剤、表面処理剤等でコーティングしたもの、メッキ処理したもの、熱硬化性樹脂と無機フィラーと着色剤等とを熱硬化させて粉砕したもの等が挙げられる。
【0050】
上記不飽和ポリエステル樹脂熱組成物は更に、難燃剤、抗菌剤(有機系及び/又は無機系)、親水剤、光触媒、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、粘度低下剤、分離防止剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、潤滑分散剤、チクソ付与剤、チクソ安定剤、重合促進剤等の添加剤を含有するものであってもよい。また必要に応じて、可塑剤を含有してもよい。これらは、それぞれ1種類のみを用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。
【0051】
本発明の不飽和ポリエスエル樹脂組成物は、シートモールディングコンパウンド(SMC)、チックモールディングコンパウンド(TMC)又はバルクモールディングコンパウンド(BMC)等の成形材料の原料として特に好適であり、このように本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物を含む成形材料もまた、本発明の1つである。
この場合、上記不飽和ポリエステル樹脂組成物は、更に、低収縮化剤、増粘剤及び充填材を含むものであることが好適である。
【0052】
上記成形材料としては、上述したようにSMC、TMC又はBMC等の形態であることが好ましいが、その製造方法としては、例えば、成形材料がSMC又はTMCである場合には、不飽和ポリエステル(A)に硬化剤(C)を添加すると共に、重合性単量体(B)、重合禁止剤(D)、低収縮化剤、増粘剤及び各種添加剤(充填材を除く)を混合した後、該混合物を充填材に含浸させ、増粘させる方法が好適である。また、成形材料がBMCである場合には、不飽和ポリエステル(A)に硬化剤(C)を添加すると共に、重合性単量体(B)、重合禁止剤(D)、低収縮化剤、増粘剤及び各種添加剤(充填材含む)を添加し、増粘させる方法が好適である。ここで、増粘工程としては、例えば、25〜50℃で、8〜72時間熟成することが好適である。
なお、本発明では、上述したように不飽和ポリエステル(A)を用いることによって、上記樹脂組成物の増粘特性がより向上され、良好な含浸性を確保しつつ、成形に適した粘度まで充分に増粘することが可能となることから、表面状態が極めて良好な成形材料をより容易に得ることが可能である。
【0053】
上記成形材料としてはまた、140℃での熱板法によるゲル化時間が60〜150秒であるものが好適である。60秒未満では、圧縮成形時に成形材料の充分な流動時間を確保できず、充填不良、プレゲルにより成形品の平滑性が充分とはならないおそれがあり、また、150秒を超えると、成形材料を充分に硬化させるために型締め時間の延長が必要となり、生産性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは、80〜120秒である。
このように、上記成形材料が、140℃での熱板法によるゲル化時間が60〜150秒であるものである形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0054】
上記成形材料を用いて成形品(成形体)を成形する方法としては、通常用いられる圧縮成形法や射出成形法等の成形加工法を採用することができる。中でも、上記成形材料を、所望の形状を有する金型に充填して加熱加圧成形(加熱圧縮成形)することにより、より容易に硬化、成形することができるが、このように上記成形材料を加熱加圧成形して得られる成形品もまた、本発明の1つである。
上記加熱加圧成形において、成形品にかかる圧力としては、0.3〜20MPaとすることが好適である。より好ましくは2〜15MPaである。
【0055】
上記成形品としては、例えば、風呂の洗い場の床、洗面台化粧板、日本料理店等の厨房の床等の水回り部分の床、壁、ベランダの床等に用いられる。具体的には、浴槽、浴室用壁材、浴室用床材、浴室用グレーチング、浴室用天井、シャワーフック、浴槽ハンドグリップ、浴槽エプロン部、浴槽排水栓、浴室用窓枠、排水ピット、浴室扉、浴室扉枠、浴室窓の桟、浴室扉の桟、すのこ、マット、石鹸置き、手桶、風呂椅子、トランスファーボード、浴室用収納棚、浴室用手摺、風呂蓋、浴室用タオル掛け、シャワーチェア、洗面器置き台等の浴室用部材;台所用キッチンバック、台所用床材、シンク、キッチンカウンター、排水籠、レンジフード、換気扇、コンロのつまみ等の台所用部材;小便器、大便器、便器用トラップ、便器用配管、トイレ用床材、トイレ用壁材、トイレ用天井、ボールタップ、止水栓、紙巻き器、便座、昇降便座、トイレ用扉、トイレ用タオル掛け、便蓋、トイレ用手摺、トイレ用カウンタ、フラッシュバルブ、タンク、洗浄機能付き便座の吐水ノズル等のトイレ用部材;洗面ボウル、洗面トラップ、洗面用収納棚、排水栓、歯ブラシ立て、洗面カウンタ、水石鹸供給器、洗面器、口腔洗浄器、手指乾燥機、回転タイル等の洗面用部材;洗濯槽、洗濯機蓋、洗濯機パン、脱水槽、空調機フィルタ、タッチパネル、人体検知センサーのカバー、シャワーホース、シャワーヘッド、シャワー吐水部、シーラント;競技場等の野外用の椅子、ベンチ、食器トレー、化粧板等が挙げられる。特に浴室用床材、浴室用壁材、キッチンカウンター、洗面等の住宅設備用途は低VOCのニーズが強いことから、これらの用途に用いることが好適である。
【0056】
本発明においては、上記不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いることによって、平滑性、耐熱性、耐熱水性、成形性、成形品外観、寸法精度、機械的強度等の各種物性に優れるうえ、スチレンモノマー放散量が従来に比較して大幅に低減された成形品を実現することができるが、このような成形品としては、成形品中の残存(残留)スチレンモノマー含有量が100ppm以下であることが特に好適である。より好ましくは、80ppm以下である。
すなわち、本発明によれば、スチレンモノマーを含有するにも関わらず、成形品中の残存スチレンモノマー含有量がこれほどまでに低減された成形品を得ることができるため、昨今のVOC物質の放散量低減要請に充分に応えることが可能となる。
【発明の効果】
【0057】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、上述の構成よりなり、成形品中の残存スチレンモノマー量及びスチレンモノマー放散量を従来に比較して大幅に低減し、かつ、平滑性、耐熱性、耐熱水性、成形性、成形品外観、寸法精度、機械的強度等の各種物性に優れた成形品を与えることができるため、住設機器や建築材料、車両用部材等の各種用途に極めて有用なものである。特に、得られた成形品が耐熱性や耐熱水性、成形品外観に優れることから、浴槽等の水周り住宅設備成形品の安定した製造に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
なお、下記の合成例等において、酸価は、JIS K6911 4.3(1995年)に記載の方法に準拠して測定した。
【0059】
合成例1(不飽和ポリエステル樹脂(a))
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えたフラスコを反応器とした。この反応器に、イソフタル酸10モル、プロピレングリコール50モル、ネオペンチルグリコール50モルを仕込んだ。次に上記の内容物を窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら、170〜200℃の温度範囲で反応させると共に、反応物の酸価を所定の方法によって、随時測定した。そして該酸価が10mgKOH/gとなった時点で、上記の反応物に、無水マレイン酸90モル、ジシクロペンタジエン10モルを添加混合し、110℃〜130℃の温度範囲で3時間反応させた後、180〜200℃に昇温し、8時間反応させた。これにより、不飽和ポリエステル(a')を得た。この不飽和ポリエステルの酸価は27mgKOH/gであった。得られた不飽和ポリエステル(a')60質量部にスチレンモノマー40質量部、重合禁止剤としてのハイドロキノンを0.01質量部添加し、均一に混合し、不飽和ポリエステル樹脂(a)を得た。
【0060】
合成例2(不飽和ポリエステル樹脂(b))
合成例1においてジシクロペンタジエンの仕込み量を15モルに変更した以外は同一の方法で不飽和ポリエステル(b')を得た。この不飽和ポリエステルの酸価は25mgKOH/gであった。得られた不飽和ポリエステル(b')60質量部にスチレンモノマー40質量部、重合禁止剤としてのハイドロキノンを0.01質量部添加し、均一に混合し、不飽和ポリエステル樹脂(b)を得た。
【0061】
合成例3(不飽和ポリエステル樹脂(c))
合成例1においてジシクロペンタジエンの仕込み量を5モルに変更した以外は同一の方法で不飽和ポリエステル(c')を得た。この不飽和ポリエステルの酸価は25mgKOH/gであった。得られた不飽和ポリエステル(c')60質量部にスチレンモノマー40質量部、重合禁止剤としてのハイドロキノンを0.01質量部添加し、均一に混合し、不飽和ポリエステル樹脂(c)を得た。
【0062】
合成例4(不飽和ポリエステル樹脂(d))
合成例1と同じ装置でイソフタル酸25モル、ネオペンチルグリコール50モル、プロピレングリコール51モルを仕込んだ。次に上記の内容物を窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら、200〜210℃の温度範囲で反応させると共に、反応物の酸価を所定の方法によって、随時測定した。そして該酸価が10mgKOH/gとなった時点で、冷却し、上記の反応物に、マレイン酸75モルを添加し、再び210℃〜220℃の温度範囲で反応させた。これにより、不飽和ポリエステル(d')を得た。この不飽和ポリエステルの酸価は26mgKOH/gであった。得られた不飽和ポリエステル(d')60質量部にスチレンモノマー40質量部、重合禁止剤としてのハイドロキノンを0.01質量部添加し、均一に混合し、不飽和ポリエステル樹脂(d)を得た。
【0063】
合成例5(不飽和ポリエステル樹脂(e))
合成例1においてジシクロペンタジエンの仕込み量を25モルに変更した以外は同一の方法で不飽和ポリエステル(e')を得た。この不飽和ポリエステルの酸価は25mgKOH/gであった。得られた不飽和ポリエステル(e')60質量部にスチレンモノマー40質量部、重合禁止剤としてのハイドロキノンを0.01質量部添加し、均一に混合し、不飽和ポリエステル樹脂(e)を得た。
【0064】
合成例6(不飽和ポリエステル樹脂(f))
合成例1においてジシクロペンタジエンの仕込み量を2.5モルに変更した以外は同一の方法で不飽和ポリエステル(f')を得た。この不飽和ポリエステルの酸価は26mgKOH/gであった。得られた不飽和ポリエステル(f')60質量部にスチレンモノマー40質量部、重合禁止剤としてのハイドロキノンを0.01質量部添加し、均一に混合し、不飽和ポリエステル樹脂(f)を得た。
【0065】
実施例1
不飽和ポリエステル樹脂(a)75質量部、スチレンモノマー10質量部、ポリスチレン溶液(重量平均分子量25万のポリスチレン粉末35質量部をスチレンモノマー65質量部に溶解したもの)15質量部、ポリエチレン粉末2質量部、硬化剤としてt−ヘキシルパーオキシアセテートを1.3質量部、炭酸カルシウム(日東粉化社製:NS♯200)を160質量部、禁止剤としてパラベンゾキノンを0.10質量部、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛を5質量部、増粘剤として酸化マグネシウム1.0質量部、及び、補強繊維として25.4mm長に切断したガラスロービングをガラス含有率が成形材料の25%になるように添加し、公知の含浸機でSMCを製造後、40℃で24時間熟成することにより、SMC表面が圧縮成形可能状態まで増粘させた。このときの不飽和ポリエステル(a')質量とスチレンモノマー質量との合計に対するスチレンモノマー含有量は、52.5%である。なお、樹脂組成物の組成等について表1−1に示した。
このSMCについて、製造時のガラス含浸性、熟成後の表面状態及び熱板法硬化特性のゲル化時間を評価・測定した。これらの結果を表1−2に示す。
また得られたSMCを300mm角平板金型を用いて、金型温度は、製品面が145℃、裏面が130℃で、面圧10MPaで加熱圧縮成形した。420秒間金型内で保持し、板厚3mmの平板成形品を得た。残留スチレンモノマー量、製品面からのスチレンモノマー放散量、平滑性、光沢度、耐熱水性、収縮率を評価した。これらの結果を表1−2に示す。
なお、各評価方法・測定方法は下記のとおりある。
【0066】
<SMC評価>
(1)SMCの含浸性
目視にて評価した。
評価基準:
○:未含浸のドライガラスが見られない。
△:未含浸のドライガラスが点在する。
×:未含浸のドライガラスが全面に見られる。
【0067】
(2)熟成後の表面状態
25℃において指触法により評価した。
評価基準:
○:SMC表面がタックフリー状態で、キャリヤーフィルムが容易に剥離。
△:キャリヤーフィルムの剥離は可能であるが、表面にタックが残る。
×:表面に強いタックが残り、キャリヤフィルムの剥離が困難。
【0068】
(3)熱板法硬化特性
自動車技術協会規格 JASO M406−87に準拠し、ゲル化時間を測定した。50mm角SMC試験片の中央部に熱を設置し、140℃に温度調整した金型を用いてエアープレスでSMC試験片を加熱圧縮した際の温度−時間曲線からゲル化時間を測定した。SMC温度が50℃到達後、温度-時間曲線の変曲点近傍に引いた接線の交点までの時間をゲル化時間とした。
【0069】
<成形品評価>
(1)平滑性
目視にて評価した。
評価基準:
良好:平滑性に問題無し。
不良:平滑性に問題あり。(巣穴、ガラスパターン、ソリ等)
(2)光沢度
JIS K7105 5.2(1981年)に準拠して、入射角60度、検出角60度の条件で行った。
【0070】
(3)耐熱水性
95℃に保った湯浴中に成形品より切り出した50mm角の試験片を浸漬し、300時間経過後、表面の膨れ、クラックの発生の有無を目視で確認した。
(4)硬化収縮率
JIS K6911(1995年)に記載の方法に準拠して測定した。
(5)残留スチレンモノマー量
成形後1日間、25℃で保管した後に残留スチレンモノマー量及びスチレンモノマー放散量を測定した。ガスクロマトグラフィーを使用して内部標準法で測定した(検出限界10ppm)。
【0071】
(6)スチレンモノマー放散速度
平板成形品より試験片を切り出し、小型チャンバー法により平板製品面からの放散したスチレンモノマーを捕捉した。捕捉したスチレンモノマーガスをガスクロマトグラフ質量分析装置により定量し、スチレンモノマー放散速度を測定した。具体的にはJIS A1901(2003年、小型チャンバー法−建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定法)の附属書2(参考)小型チャンバーの例(20L)に記載されている手順に基づき、測定温度28℃、湿度50%、換気回数0.5回/hr、試料負荷率2.2m/mで測定を実施した。
なお、実施例1では、成形品中の残留スチレンモノマー量は85ppmで、スチレンモノマー放散速度は28μg/m・hrと小さい値を示した。
【0072】
実施例2
実施例1において、硬化剤としてt−アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを1.3質量部使用したこと以外は、実施例1と同様の手順でSMCを製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表1−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は160ppmで、スチレンモノマー放散速度は61μg/m・hrと小さい値を示した。
【0073】
実施例3
実施例1において、禁止剤としてのパラベンゾキノンの使用量を0.06質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の手順でSMCを製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表1−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は52ppmで、スチレンモノマー放散速度は15μg/m・hrと小さい値を示した。
【0074】
実施例4
実施例1において、禁止剤としてパラベンゾキノンに替えてN−オキシル化合物(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラピペリジン−1−オキシル)を0.10質量部使用したこと以外は、実施例1と同様の手順でSMCを製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表1−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は27ppmで、スチレンモノマー放散速度は4μg/m・hrと極めて小さい値を示した。
【0075】
実施例5
実施例4において、禁止剤としてのN−オキシル化合物(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラピペリジン−1−オキシル)の使用量を0.14質量部に変更したこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表1−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は45ppmで、スチレンモノマー放散速度は13μg/m・hrと小さい値を示した。
【0076】
実施例6
実施例4において、不飽和ポリエステル樹脂(a)の使用量を85質量部に変更し、スチレンモノマーの追加添加を中止したこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造した。このときの不飽和ポリエステル(a')質量とスチレンモノマー質量との合計に対するスチレンモノマー含有量は46.2%である。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表1−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は15ppmで、スチレンモノマー放散速度は2μg/m・hrと極めて小さい値を示した。
【0077】
実施例7
実施例4において、不飽和ポリエステル樹脂(a)の使用量を60質量部に、スチレンモノマーの使用量を25質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造した。このときの不飽和ポリエステル(a')質量とスチレンモノマー質量との合計に対するスチレンモノマー含有量は62.0%である。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表1−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は76ppmで、スチレンモノマー放散速度は25μg/m・hrと小さい値を示した。
【0078】
実施例8
実施例4において、硬化剤としてのt−アミル パーオキシイソプロピルモノカーボネートの使用量を1.3質量部に変更したこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表1−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は30ppmで、スチレンモノマー放散速度は6μg/m・hrと小さい値を示した。
【0079】
実施例9
実施例4において、不飽和ポリエステル樹脂(a)に替えて不飽和ポリエステル樹脂(b)を使用したこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表1−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は22ppmで、スチレンモノマー放散速度は3μg/m・hrと極めて小さい値を示した。
【0080】
実施例10
実施例4において、不飽和ポリエステル樹脂(a)に替えて不飽和ポリエステル樹脂(c)を使用したこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表1−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は90ppmで、スチレンモノマー放散速度は30μg/m・hrと小さい値を示した。
【0081】
比較例1
実施例4において、不飽和ポリエステル樹脂(a)に替えて不飽和ポリエステル樹脂(d)を使用したこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造した。このときの不飽和ポリエステル(d')質量とスチレンモノマー質量との合計に対するスチレンモノマー含有量は52.5%である。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は350ppmで、スチレンモノマー放散速度は220μg/m・hrと比較的大きな値を示した。
【0082】
比較例2
比較例1において、成形温度を(製品面/裏面=155/145℃)と上昇させて成形を行った後、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は270ppmで、スチレンモノマー放散速度は150μg/m・hrと、比較例1より減少する傾向が見られたが、表面にプレゲルに起因するスカミングが発生し、光沢の低下が顕著であった。
【0083】
比較例3
比較例1において、加圧時間を420秒から600秒に延長して成形を行った後、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
成形品の平滑性、光沢は良好であったが、残留スチレンモノマー量は300ppm、スチレンモノマー放散速度は190μg/m・hrと、比較例1よりは減少したが比較的大きな値を示した。
【0084】
比較例4
比較例1において、N−オキシル化合物(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラピペリジン−1−オキシル)の使用量を0.03質量部に変更したこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造した。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
ゲル化時間は58秒に短縮され、残留スチレンモノマー量は240ppm、スチレンモノマー放散速度は140μg/m・hrに減少したが、表面にプレゲルに起因するスカミングが発生し、光沢の低下が顕著であった。
【0085】
比較例5
比較例1において、不飽和ポリエステル樹脂(b)の使用量を85質量部に変更し、スチレンモノマーの追加添加を中止したこと以外は、比較例1と同様の手順でSMCを製造した。このときの不飽和ポリエステル(b')質量とスチレンモノマー質量との合計に対するスチレンモノマー含有量は46.2%である。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は210ppm、スチレンモノマー放散速度は110μg/m・hrに減少したが、スチレンモノマー量の減少によりフィラー添加時の粘度が高くなり、SMC製造時のガラスへの含浸性が著しく低下し、成形品表面にガラス目が多発した。耐熱水性も低下した。
【0086】
比較例6
比較例1において、不飽和ポリエステル樹脂(a)に替えて不飽和ポリエステル樹脂(E)を使用したこと以外は、比較例1と同様の手順でSMCを製造した。このときの不飽和ポリエステル(e')とスチレンモノマー質量との合計に対するスチレンモノマー含有量は52.5%である。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
成形品中の残留スチレンモノマー量は28ppmで、スチレンモノマー放散速度は3μg/m・hrと小さい値を示した。SMC製造時の増粘速度が速く、SMCシートに未含浸のドライガラスが点在した。40℃において24hr熟成したが、SMC表面にタックが残り、増粘が不充分であった。SMCが柔らかすぎるため、成形時の泡抜けが悪く、成形品表面に巣が発生し、耐熱水性も低下した。
【0087】
比較例7
比較例1において、不飽和ポリエステル樹脂(a)に替えて不飽和ポリエステル樹脂(F)を使用したこと以外は、比較例1と同様の手順でSMCを製造した。このときの不飽和ポリエステル(f')質量とスチレンモノマー質量との合計に対するスチレンモノマー含有量は52.5%である。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
成形品外観は良好であったが、残留スチレンモノマー量は240ppm、スチレンモノマー放散速度は130μg/m・hrと比較的高い値を示した。
【0088】
比較例8
実施例1において、硬化剤としてt−ブチルパーベンゾエートを1.3質量部使用し、禁止剤としてパラベンゾキノン0.05質量部を使用し、ゲル化時間を101秒とした以外は、実施例1と同様の手順でSMCを製造した。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
成形品外観は良好であったが、残留スチレンモノマー量は2700ppm、スチレンモノマー放散速度は2350μg/m・hrと著しく高い値を示した。
【0089】
比較例9
実施例1において、硬化剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを1.3質量部、禁止剤としてパラベンゾキノン0.08質量部を使用し、ゲル化時間を101秒としたこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造した。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
成形品外観は良好であったが、残留スチレンモノマー量は1200ppm、スチレンモノマー放散速度は850μg/m・hrと著しく高い値を示した。
【0090】
比較例10
実施例1において、硬化剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを1.3質量部、禁止剤としてパラベンゾキノン0.04質量部を使用し、ゲル化時間を79秒としたこと以外は、実施例4と同様の手順でSMCを製造した。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
成形品外観は良好であったが、残留スチレンモノマー量は820ppm、スチレンモノマー放散速度は630μg/m・hrと高い値を示した。
【0091】
比較例11
比較例10において、硬化剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを3.5質量部使用したこと以外は、比較例10と同様の手順でSMCを製造した。このSMCについて、実施例1と同様に各種評価を行った。結果を表2−2に示す。
残留スチレンモノマー量は450ppm、スチレンモノマー放散速度は250μg/m・hrと比較例10に比べ低減したが、成形中のプレゲル発生により成形品表面にスカミングが発生し、光沢も著しく低下した。
【0092】
【表1−1】

【0093】
【表1−2】

【0094】
【表2−1】

【0095】
【表2−2】

【0096】
上述した実施例及び比較例から、以下のことが分かった。
まず本発明の数値範囲の臨界的意義について、不飽和ポリエステル(A)として、多塩基酸の総量100モル%に対し、3モル%以上20モル%未満のジシクロペンタジエンにより変性された化合物を用いることにより、成形品中の残留スチレンモノマー量及びスチレンモノマー放散量の低減、並びに、増粘特性において有利な効果を発揮し、それが顕著であることが分かった。
【0097】
数値範囲の下限の技術的意義については、実施例10が5モル%で下限値近辺であり、下限値を下回る比較例7(2.5モル%)と比較すると明らかである。実施例10では、成形品中の残留スチレンモノマー量は90ppmで、スチレンモノマー放散速度は30μg/m・hrと小さい値を示したのに対し、比較例7では、残留スチレンモノマー量は240ppm、スチレンモノマー放散速度は130μg/m・hrと高い値を示した。すなわち、実施例10で得た成形品では、各種物性に優れ、しかも環境・健康問題への意識の高まりから強く要望されるスチレンモノマーの放散量低減要請に充分に応えられるレベルであるが、比較例7では、成形前の不飽和ポリエステル樹脂中のスチレンモノマー含有量としては実施例10と同量(52.5質量%)にあるものの、成形品において残留スチレンモノマー量が200ppmを超え、スチレンモノマー放散速度も100ppmを超えるという極めて高い範囲にあり、昨今の放散量低減要請に応えられる程度のレベルに全く達していない。
【0098】
数値範囲の上限の技術的意義については、実施例9が15モル%で上限値近辺であり、上限値を上回る比較例6(25モル%)と比較すると明らかである。実施例9では、SMCの含浸性及び熟成後のSMC表面状態のいずれもが良好であり、平滑性や耐熱水性に優れた効果を奏することが示されていたのに対し、比較例6では、SMC製造時の増粘速度が速く、SMCの含浸性や増粘が不充分であり、しかも平滑性や耐熱水性が劣る結果となった。すなわち、実施例9で得た成形品では、高外観を呈することが不可欠な住宅設備用途や車両用途にも好適に適用でき、しかも高度の耐熱水性が要求される水周り住宅設備成形品としても極めて有用なものであるが、比較例6では、低VOCの要望には応えられるものの、製品としては実用レベルに達していない。
【0099】
また実施例1と実施例2とを比較すると、実施例1では硬化剤として上記一般式(1)で表される有機過酸化物として、式(1)中のRがn−プロピル基を表し、かつRがメチル基を表す化合物を用いた例であり、実施例2では式(1)中のRがエチル基を表し、かつRがイソプロポキシ基を表す化合物を用いた例であり、いずれも成形品評価が高く、残留スチレンモノマー量等も著しく低減されたものであったが、実施例1の方が、更に充分に残留スチレンモノマー量及びスチレンモノマー放散速度を低減するものとなっている。この結果から、残留スチレンモノマー量及びスチレンモノマー放散速度の低減という点で、上記一般式(1)で表される有機過酸化物として、式(1)中のRがn−プロピル基を表し、かつRがメチル基を表す化合物を用いる形態が好ましいといえる。
【0100】
更に実施例1と実施例4とを比較すると、実施例1では重合禁止剤としてパラベンゾキノンを用いた例であり、実施例4ではN−オキシル化合物である4−ヒドロキシ−2,2,6,6 −テトラメチルピペリジン−1−オキシルを用いた例であり、いずれも成形品評価が高く、残留スチレンモノマー量等も著しく低減されたものであったが、実施例4の方が、更に充分に残留スチレンモノマー量及びスチレンモノマー放散速度を低減するものとなっている。この結果から、残留スチレンモノマー量及びスチレンモノマー放散速度の低減という点で、重合禁止剤としてN−オキシル化合物を用いる形態が好ましいといえる。
なお、硬化剤として上記一般式(1)中のRがn−プロピル基を表し、かつRがメチル基を表す有機過酸化物を用い、かつ重合禁止剤としてN−オキシル化合物を用いた実施例8と、実施例1との比較によっても、上記と同様のことがいえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル(A)、重合性単量体(B)、硬化剤(C)及び重合禁止剤(D)を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、
該不飽和ポリエステル(A)は、多塩基酸及び多価アルコールにより形成される構成単位を有し、該多塩基酸の総量100モル%に対し、3モル%以上20モル%未満のジシクロペンタジエンにより変性してなるものであり、
該重合性単量体(B)は、スチレンモノマーを含有し、
該硬化剤(C)は、下記一般式(1);
【化1】

(式中、Rは、炭素数2以上のアルキル基を表す。Rは、アルキル基、アルコキシル基、フェニル基、置換フェニル基及びシクロヘキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を表す。)で表される化学構造を有する有機過酸化物を含む
ことを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機過酸化物は、前記一般式(1)中のRがn−プロピル基を表し、かつRがメチル基を表す化合物である
ことを特徴とする請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記重合性単量体(B)の含有量は、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量100質量%に対し、40〜65質量%である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記重合禁止剤(D)は、不飽和ポリエステル(A)と重合性単量体(B)との合計質量100質量部に対し、0.001〜1質量部のN−オキシル化合物を含む
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記多塩基酸は、その総量100モル%に対し、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸及びテトラヒドロフタル酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種の飽和二塩基酸を0.1〜30モル%含有し、
前記多価アルコールは、その総量100モル%に対し、ネオペンチルグリコール及び/又は水素添加ビスフェノールAを0.1〜70モル%含有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を含有する
ことを特徴とする成形材料。
【請求項7】
前記成形材料は、140℃での熱板法によるゲル化時間が60〜150秒である
ことを特徴とする請求項6に記載の成形材料。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の成形材料を加熱加圧成形して得られる
ことを特徴とする成形品。
【請求項9】
前記成形品中の残存スチレンモノマー量は、100ppm以下である
ことを特徴とする請求項8に記載の成形品。

【公開番号】特開2009−197129(P2009−197129A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40106(P2008−40106)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(503090980)ジャパンコンポジット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】