両親媒性ブロック共重合体およびこれを含む医薬組成物
【課題】両親媒性ブロック共重合体、および該両親媒性ブロック共重合体からなるミセルを含む医薬組成物を提供する。
【解決手段】疎水性ブロックとしてのポリ乳酸、および親水性ブロックとしてのポリオキサゾリンを含む両親媒性ブロック共重合体である。
【解決手段】疎水性ブロックとしてのポリ乳酸、および親水性ブロックとしてのポリオキサゾリンを含む両親媒性ブロック共重合体である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ミセルに関し、より詳細には、両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ミセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子ミセルは最先端のドラックデリバリー用キャリアの1つであり、その長所として薬理効果の向上、細胞毒性の低下、薬物の保護および安定性向上、ならびに高効率のターゲッティングなどが挙げられる。さらに、このナノサイズのミセルは、体内で循環する時間を延長し、かつ単核食細胞系(MPS)および網内系(RES)を回避する機能を備えるため、このような高分子ミセルを用いたドラッグデリバリーシステムへの注目度は非常に高い。一般に用いられるミセルは、両親媒性共重合体の凝集体から構成されている。水相環境において両親媒性高分子の疎水性部分は水から逃がれようとすると共に系の界面自由エネルギーが低下することにより自己会合する。これによって、コアシェル構造(core-shell structure)のナノ粒子が形成され、疎水性の内核には、水溶性に乏しい薬物を可溶化する微環境(microenvironment)が形成される。過去の研究においても、高分子ミセルによる抗癌剤の運搬が薬物の安定性および効果を有効に高めることが証明されている。
【0003】
ナノ粒子に封入される薬物は、外部に大量に漏出することのないよう、安定であることが要される。薬物放出速度が高すぎると疎水性の薬物が血管内に沈殿してしまうからである。また、薬物放出速度を低くすることは、ナノ粒子を目的の組織に蓄積させて、局部へ放出する効果を高めるのにも有利である。ところが、従来技術によるナノ粒子は拡散作用を利用して薬物の除放化を図っているだけであり、こうした方式では放出部位の選択性もないため、薬物放出制御の効率は極めて低い。
【0004】
pH応答型高分子ミセルについての研究はここ数年盛んに行われているが、そのほとんどが物性の探求に焦点を当てたものであり、主薬またはその他治療用化合物の放出制御への応用を主たる目的とした研究は少ない。通常、高分子ミセルは、その水溶液中の解離状況によりミセル凝集体のモルフォロジーを変化させる高分子電解質(polyelectrolyte)を持つように設計されている。A.アイゼンバーグ(A. Eisenberg)らは、ポリスチレン−b−ポリ(アクリル酸)(polystyrene-b-poly(acrylic acid))(以下、PS−PAAと略す)超分子に関する研究において、PS−PAAが異なるpH環境および塩濃度の下で球状、棒状、小胞状(vesicles)および大型嚢胞状(large compound vesicles;LCVs)を含む多様なモルフォロジー(multiple morphologies)をとることを明らかとしている(非特許文献1および2)。この形態的変化の要因には、PAA解離により生じた反発力やNa+またはCa2+により形成されるイオン結合と架橋のPAAに対する作用などがある。
【0005】
S.P.アームズ(S.P.Arms)らにより提示されたpH応答型ポリ[4−ビニル安息香酸−b−2−(N−モルフォリノ)エチルメタクリレート](poly[4-vinylbenzoic acid-b-2-(N-morpholino)ethyl methacrylate])(以下、PVBA-PMEMAと略す)両性イオンジブロック共重合体は、高分子電解質の解離状況に応じてブロックの親水性・疎水性変化させ、これによりミセル構造を逆にする1例である(非特許文献3)。PVBAは高pHで解離し、PMEMAは低pHで解離し、解離後の高分子は親水性が高まるため、酸性環境下でPVBAをコアとするミセル(PVBA−core micelle)が形成され、一方、塩基性環境下ではPMEMAをコアとするミセル(PMEMA-core micelle)が形成される。塩析法によっても、特定の条件下でブロック共重合体のミセルモルフォロジーを逆にさせることが可能である。例えば、ポリ[2−ジメチルアミノ]エチルメタクリレート(以下、PDEAと略す)およびポリ[2−(N−モルフォリノ)エチルメタクリレート](poly[2-(N-morpholino)ethyl methacrylate])(以下、PMEMAと略す)のpKaはそれぞれ7.3および4.9であり、pH6.7の水相環境にてPDEA−PMEMAジブロック共重合体にNa2SO4を加えると、PMEMAブロックが凝集することによりPMEMAをコアとするミセルが形成される(非特許文献4)。
【0006】
ジブロック共重合体だけではなくトリブロック共重合体を用いても応答型ミセル設計は可能である。ポリ(アクリル酸)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン)(Poly(acrylic acid)-b-polystyrene-b-poly(4-vinyl pyridine))(以下、PAA−PS−P4VPと略す)ABCトリブロック共重合体は、疎水性のPSが中間にあり、酸性かつ親水性のPAAと塩基性かつ親水性のP4VPとが両端に位置してなっている。酸性環境下では、P4VPの解離により生じた反発力がPAAおよびPSをコアとするミセルを作り、pH値が上昇するとミセル構造が逆となる(非特許文献5)。
【0007】
上述した各文献で発表された研究は、いずれも物性に対して探求を行ったものであり、それらブロック共重合体の生体親和性については詳しく言及されていない。
【0008】
Kataokaらは、酸に不安定なヒドラゾン結合(hydrazone bond)で抗癌剤アドレアマイシンを両親媒性ブロック共重合体PEG−p(Asp−Hyd)に連結することにより形成させたPEG−p(Asp−Hyd−ADR)ブロック共重合体が、酸性環境下でその酸に不安定なヒドラゾン結合が切れてアドレアマイシンを放出することを示している(非特許文献6)。しかしながら、共有結合を利用しての薬物の搭載量はほんの少量であり、かつヒドラゾン結合の切断が期待どおりに起こるとは限らない。例えば、PEG−p(Asp−Hyd−ADR)は、pH5の環境下で72時間経っても薬物を約30%弱しか放出しない。
【0009】
また、ポリオキサゾリン(以下、POzと略す)とポリエチレンオキシド(以下、PEOと略す)とのブロック共重合体(特許文献1)もバイオメディカル分野に応用可能である。POzが加水分解して形成されるポリエチレンイミン(Polyethylenimine)(以下、PEIと略す)は親水性高分子であり、負に帯電したDNAに結合することにより疎水性を増して、PEI/DNAをコア、PEOを外層とする錯体を形成する(非特許文献7)。この錯体は非ウィルス性遺伝子ベクターの一種である。しかし、かかる共重合体は、加水分解しDNAと結合すると環境応答性を失ってしまう、という問題があった。
【0010】
【特許文献1】国際公開第01/10934号パンフレット
【非特許文献1】A.アイゼンバーグ(A. Eisenberg)ら、サイエンス、第268巻、1728頁、1995年
【非特許文献2】A.アイゼンバーグ(A. Eisenberg)ら、サイエンス、第272巻、1777頁、1996年
【非特許文献3】S.P.アームズ(S.P.Arms)ら、ラングミュア(Langumuir)、第19巻、4432頁、2003年
【非特許文献4】S.P.アームズ(S.P.Arms)ら、マクロモルキュールズ(Macromolecules)、第34巻、1503頁、2001年
【非特許文献5】A.アイゼンバーグ(A. Eisenberg)ら、ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー(Journal of the American Chemical Society)、第125巻、15059頁、2003年
【非特許文献6】K. Kataokaら、アンゲヴァンテ ヘミー インターナショナル エディション(Angewandte Chemie International Edition)、第42巻、4640頁、2003年
【非特許文献7】K. Kataokaら、マクロモルキュールズ(Macromolecules)、第33巻、5841頁、2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明者らは上述に鑑みて、環境応答型の共重合体をスマートドラッグキャリアとして設計するに至り、かつ、該共重合体が環境中のpH変化に応じて薬物を放出することを証明した。すなわち、本発明は、疎水性ブロックとしてのポリ乳酸(以下、PLLAと略す)と、親水性ブロックとしてのPOzとを含む両親媒性ブロック共重合体を提供し、これを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、疎水性ブロックとしてのポリ乳酸、および親水性ブロックとしてのポリオキサゾリンを含む両親媒性ブロック共重合体に関する。
【0013】
前記両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式(I)で示される構造を有することが好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
(式中、LはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わし、ZはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わし、JはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。x、y、mはそれぞれ1から10000の整数を表わす。)
(x+y)/mの比率が5以下であることが好ましい。
【0016】
Lがメチル基であることが好ましい。
【0017】
Zがプロピオニル基であることが好ましい。
【0018】
前記両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式(II)で示される構造を有することが好ましい。
【0019】
【化2】
【0020】
(式中、DはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わし、EはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わし、Gは求核剤に由来する残基を表わし、QはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。a、bはそれぞれ1から10000の整数を表わす。)
a/bの比率が5以下であることが好ましい。
【0021】
Dがメチル基であることが好ましい。
【0022】
Eがプロピオニル基であることが好ましい。
【0023】
また、本発明は、前記の両親媒性ブロック共重合体からなるミセルと、該ミセルに封入された生物活性剤とを含む医薬組成物にも関する。
【0024】
環境のpH値が変化したときに、前記生物活性剤が前記ミセルから放出されることが好ましい。
【0025】
前記ミセルの直径が10〜1000nmであることが好ましい。
【0026】
前記ミセルに前記生物活性剤がミセル全重量に対して、1〜60重量%封入されることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明が提供する両親媒性ブロック共重合体は、疎水性ブロックとしてのPLLAと、親水性ブロックとしてのPOzを含み、両者はいずれも毒性が低く、かつ、優れた生体親和性を備える。よって、この両親媒性ブロック共重合体からなる高分子ミセルを医薬組成物に用いることにより、環境のpH値の変化によるより高効率な薬物放出制御が可能となり、薬物の副作用が低減されるなどの優れた作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、疎水性ブロックとしてのPLLAと親水性ブロックとしてのPOzとを含む両親媒性ブロック共重合体を提供する。
【0029】
本発明の一実施の形態にかかわる両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式(I)で示される構造を有する。
【0030】
【化3】
【0031】
式中、LはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わす。これらのうち、メチル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基が好ましく、とくに米国FDAの認可を受けた、目下最も安全な材料である点からメチル基であることがより好ましいが、これらのみに限定されるものではない。
【0032】
ZはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わす。これらのうち、プロピオニル基、アセチル基、ホルミル基またはカルボキシル基であることが好ましく、とくに米国FDAの認可を受けた、目下最も安全な材料である点からプロピオニル基であることがより好ましいが、これらのみに限定されるものではない。
【0033】
JはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。該開環重合開始剤に由来する有機基としては、例えば、ヒドロキシル基、水素などがあげられる。
【0034】
疎水性ブロックであるPLLAの重合度であるxおよびyは、1〜10000の整数であり、x+yが5〜80であることが好ましい。また、親水性ブロックであるPOzの重合度であるmは、1〜10000の整数であり、5〜200であることが好ましい。
【0035】
前記両親媒性ブロック共重合体における(x+y)/mの比率は5以下であるのが好ましく、1以下であるのがより好ましい。(x+y)/mの比率が5より大きいと、その性質が疎水性に傾き過ぎる傾向がある。
【0036】
また、本発明の別の実施形態にかかわる前記両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式(II)で示される構造を有する。
【0037】
【化4】
【0038】
式中、DはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わす。これらのうち、メチル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基が好ましく、とくに米国FDAの認可を受けた、目下最も安全な材料である点からメチル基であることがより好ましいが、これらのみに限定されるものではない。
【0039】
EはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わす。これらのうち、プロピオニル基、アセチル基、ホルミル基またはカルボキシル基であることが好ましく、とくに米国FDAの認可を受けた、目下最も安全な材料である点からプロピオニル基であることがより好ましいが、これらのみに限定されるものではない。
【0040】
Gは求核剤に由来する残基を表わし、たとえば水素、アルキル基などがあげられる。また、QはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。該開環重合開始剤に由来する有機基としては、例えば、ヒドロキシル基などがあげられる。
【0041】
疎水性ブロックであるPLLAの重合度であるbは、1〜10000の整数であり、5〜200が好ましい。また、親水性ブロックであるPOzの重合度であるaは、1〜10000の整数であり、5〜80が好ましい。
【0042】
前記両親媒性ブロック共重合体におけるa/bの比率は5以下であるのが好ましく、1以下であるのがより好ましい。a/bの比率が5より大きいと、その性質が疎水性に傾き過ぎる傾向がある。
【0043】
また、本発明は、前記両親媒性ブロック共重合体からなるミセルと、該ミセルに封入された生物活性剤とを含む医薬組成物を提供する。中性の水相環境の下で、前記ミセルは、その親水性ブロックが外側親水性部分を構成し、疎水性ブロックがコア部分を構成することにより、前記生物活性剤を疎水性ブロックによるコアに封じ込んで、安定したコアシェル構造を維持する。この医薬組成物では、例えば、pH値が下がるなど環境のpH値に変化があると、ミセル中から生物活性剤が放出される。具体的には、環境のpH値が約6.5以上であるとき、前記生物活性剤が封入されたミセルを形成し、pH値が約6.5未満であるとき、該ミセルから前記生物活性剤が放出される。
【0044】
ミセルの平均粒径は、代謝可能な値と免疫システムが認知できる値との間の範囲をとることが好ましく、具体的には直径で10〜1000nmが好ましく、20〜200nmがより好ましい。
【0045】
さらに、ミセルに封入される生物活性剤の含量は、通常採用される範囲であればよく、ミセル全重量に対して1〜60重量%であり、好ましくは20〜40重量%である。
【0046】
本発明のミセルに封入される生物活性剤は、目的とする医薬処方に応じて適宜選択される。生物活性剤の具体例としては、ドキソルビシン、カンプトテシン(camptothecin)などがあげられるが、これらにのみ限定されることはない。
【0047】
本発明によるミセルは、POz/PLLAからなる。PLLAは疎水性かつ生分解性のポリエステルであり、POzは親水性の高分子である。両者はいずれも毒性が低く、かつ、優れた生体親和性を備える。このミセル調製の一実施形態として、PLLA−PEOz−PLLAの例を図1を参照にしながら説明する。まず、1,4−ジブロモ−2−ブテンを二官能性開始剤として用い、モノマーである2−エチル−2−オキサゾリンのカチオン開環重合を行う。該ブロック共重合体を重合する際の触媒としては、オクタン酸スズ(Sn(Oct)2)、p−トルエンスルホン酸メチルなどがあげられる。重合反応が完了したのち、その反応物を室温まで冷却してから、KOH水溶液を加えて−OHをPEOzの両端に導入する。続いて、L−ラクチドとHO−PEOz−OHを、触媒存在下で開環重合させる。そして、得られた生成物、PLLA−PEOz−PLLAを乾燥してから収集し、冷凍保存する。
【0048】
PLLA−PEOz−PLLAからなるミセルの環境応答性を図2に示す。中性の水相環境(pH7.4)の下、かかるトリブロック共重合体は、親水性のPEOzを外側(符号1で示すとおり)、疎水性のPLLAを内側とし、疎水性薬物を搭載する微環境(microenvironment)が備わったコアシェル構造よりなる図2左側に示す花状(flower-like)のミセルを形成する。一方、水溶液のpH値が下がると(pH5.0)、PEOz間に分子内および分子間水素結合が生じてPEOzが凝集し、PLLAが外側に露出する(符号2で示すとおり)。これにより、図2右側に示すようになって、ミセル構造が崩壊し薬物が放出される。このような機構によれば、癌組織内でのみ薬物が放出されるよう制御でき、抗癌剤による副作用が回避される。
【0049】
図3には、両親媒性ブロック共重合体の一実施形態におけるPLLA−PEOz−PLLAの細胞内ドラッグデリバリープロセスが示してある。EPR効果(enhanced permeation and retention effect)とは、癌組織の血管透過性は正常組織よりも高いため、分子サイズの大きい高分子化合物がより容易に癌組織へ浸透し、さらに、癌組織のリンパ管の高分子化合物回収メカニズムは不完全であることから高分子化合物は癌組織に滞留し易い、という効果である。この効果に基づくと、抗癌剤を内包したミセル3は、エンドサイトーシス5を介して癌細胞へ送り込まれ、細胞質4に入ったのち、ミセル3を含んだ小胞がまず初期エンドゾームを形成してから、エンドゾーム6を形成する。このとき、環境のpHが下降するため薬物は放出されて、細胞核12に進入する。残りの高分子を包含したエンドゾームは最後にリソソーム7を形成し、高分子は代謝される。図3の下方にその詳細なメカニズムが示してある。ミセルが細胞外および初期エンドゾームにあるとき(符号10に示すとおり)、環境pHは7.4に保たれているため、血液中を循環するときと同じように、薬物は内核にあって保護されている(符号8に示すとおり)。一方、ミセルがエンドゾームまたはリソソーム内にあるときには(符号11に示すとおり)、環境のpHは4〜5に下がるので、薬物は酸性オルガネラ内で放出されることとなる(符号9に示すとおり)。
【0050】
本発明の上述およびその他の目的、特徴ならびに長所を一層明らかとするため、以下に、図面を参照としながら、好ましい実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0051】
<PLLA−PEOz−PLLAの調製>
二官能基開始剤としての1,4−ジブロモ−2−ブテン420mg(2mmol)を、コールドフィンガー型コンデンサとゴムキャップ(sleeve stopper)が装着された二口丸底フラスコに入れた。その装置を真空チューブに接続して乾燥窒素を導入し、アセトニトリル60mLを加えた。反応温度を油浴で100℃に制御し、脱水したモノマーである2−エチル−2−オキサゾリン10mL(100mmol)を加えて、循環系中で16時間反応させた。反応が完了し、装置を室温まで冷却させたら、KOH水溶液0.1Nを加えて1時間攪拌することによりOH基をPEOzの両端に導入した。その生成物を乾燥させたのち、再びクロロホルムに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィに通して塩および不純物を除去した。最後に、ジエチルエーテル中に2回沈殿させてから40℃で24時間乾燥し、精製された生成物、HO-PEOz-OHを98%をこえる収率で得た。
【0052】
そして、精製したL−ラクチド582mgとHO-PEOz-OH2gを、コールドフィンガー型コンデンサとおよび真空チューブが装着された二口丸底フラスコに入れた。50℃で30分間乾燥し、窒素置換を3回行ったのち、クロロベンゼン7.5mLを導入した。続いて、循環系中で140℃まで昇温してから、触媒としてのSn(Oct)21重量%の存在下で16時間反応させた。反応完了後、クロロベンゼンを流動相とし、シリカゲルクロマトグラフィに通して不純物を除去した。その生成物にジエチルエーテルを加えて3回沈殿精製を行い、これにより得られたPLLA−PEOz−PLLAトリブロック共重合体を40℃で24時間乾燥したのち、90%をこえる収率で収集した。
【0053】
<PLLA−PEOz−PLLAからなるミセル変形と粒径の分析>
前記の製造方法により、PLLAとPEOzの比率の異なるブロック共重合体を製造した。製造したブロック共重合体を以下に示す。
【0054】
ABA−5K20(PLLA/PEOzの比率:0.2(m=50、x+y=10))
ABA−5K40(PLLA/PEOzの比率:0.4(m=50、x+y=20))
ABA−10K20(PLLA/PEOzの比率:0.2(m=100、x+y=20))
ABA−10K40(PLLA/PEOzの比率:0.4(m=100、x+y=40))
ABA−20K40(PLLA/PEOzの比率:0.4(m=200、x+y=80))
上記のPLLA−PEOz−PLLAをそれぞれ中性溶液(脱イオン水)中に入れて、各ミセルの粒径を粒径分析器(マルバーン インストルメント(Malvern instrument)製、Series 3000)により測定した。その結果、図4に示すように、PLLAの鎖長が長くなるのに伴って粒径が大きくなることが証明された。
【0055】
PLLA−PEOz−PLLAがABA−5K20であるミセルを取り、ドキソルビシン(以下、DOXと略す)封入前と後の粒径を粒径分析器で分析した。測定は、波長485nm、DMSO中で行った。DOX封入前の結果を図5の5AおよびDOX封入後の結果を5Bに示す。DOX封入前ではミセルの平均粒径は約40nmであり、封入後は約68nmであった。式(WDOX in micelles/WDOX-loaded micelles)×100%により算出した薬物封入効率は約31%であった。なお、WDOX in micellesはミセル中のDOXの重量を示し、WDOX-loaded micellesはDOXが封入されたミセルの重量を示す。好ましいミセルの粒径は通常20〜200nmとされている。ミセルの粒径が200nmよりも大きいとマクロファージに取り囲まれてしまい、20nmよりも小さいときと代謝されてしまうからである。したがって、この実施例によるミセルの平均粒径はドラッグデリバリーに適している。
【0056】
ピレン蛍光法により特定されるミセルのpH誘起変形を蛍光光度計(ジョバンイボン製、Fluoro Max−3)を用いて測定した。ピレンを配合したABA−5K20またはABA−5K40を水中に分散させ、濃度を6×10-7Mに調製した。ピレンは、高疎水性の化学物質であるため、水溶液中において疎水性のミセルコア中に優先的に入り込む。ミセル変形の挙動は増大した強度比から観測することができる。pHが低くなるに伴い、強度比が増大した。これは、ピレンがミセルの内部に封入され、ピレンプローブの環境が親水性になったことを意味する。低pH下でミセルは凝集してPLLAを外側に露出させるため、強度比は高まっている。結果を図6に示す。
【0057】
<in vitro放出および細胞毒性の分析>
酸性および中性水相環境下におけるDOX放出をin vitroで測定した。DOXは赤色を呈するため、紫外線/可視光分光光度計(パーキンエルマー製、UV/Vis Lamda 2S)を用いて経時変化に伴うDOXの放出率を測定した。その結果を図7に示す。塗潰しの四角形からなる曲線は、pH5.0、白抜きの円からなる曲線は、pH7.4のときのDOX内包ミセルにおけるDOXの放出率を示す。図7より、pH5.0のときにミセルが崩壊してDOXが放出されたことを示しており、pH7.4のとき、生理的環境下でミセルが7日間をこえても安定を保っていたことを示している。
【0058】
また、ミセル自身の細胞毒性をin vitro毒性試験により直接行った。試験にはヒトの子宮頸癌細胞株HeLaを用いた。ABA-5K20ミセルと、対照群としての分岐ポリエチレンイミン(以下、B-PEIと略す)を取ってそれぞれ異なる濃度で試験を行い、96ウェルプレートのELISAリーダー(アウェアネス(Awareness)製、Stat Fax(登録商標)2100)を用い、MTTアッセイにより細胞生死を判別した。その結果を図8に示す。塗潰しの四角形はPLLA−PEOz−PLLA、塗潰しの三角形は実薬対照の分岐したB−PEIを示す。図の各点は、各濃度につきそれぞれ6回繰り返し試験を行って得た結果である。また、ABA−5K20は濃度10mg/mLになっても細胞の大部分が依然生存していたのに対し、B−PEIは濃度0.01mg/mLで60%ほどの細胞しか生存していなかった。この結果より、ABA−5K20の細胞毒性は非常に低く、一方、対照群であるB−PEIは相対的に毒性が高いことが示された。
【0059】
<抗癌剤DOX内包ミセルのin vitro癌細胞成長抑制試験>
DOXを内包するミセルとDOXを単独で用いた場合の癌細胞成長抑制について、上記と同じヒトのHeLa細胞株を用いて試験した。HeLa細胞に1μg/mL、10μg/mL、100μg/mLおよび1000μg/mLのDOX内包ミセルとDOXをそれぞれ投与し、24時間後および72時間処理後の細胞生存率を、96ウェルプレートのELISAリーダー(同上)を用い、MTTアッセイによって測定した。その結果を図9に示す。塗潰しの四角形はDOX内包ミセルで処理した結果を、塗潰しの円はフリーDOXで処理した結果を示す。図の各点は、それぞれ6回繰り返し試験を行って得た結果である。試験結果より、濃度0.1mg/mLのDOX内包ミセルで72時間処理すると、HeLa細胞が有効に抑制され、DOXを直接投与した場合の効果と同等であることが示された。
【0060】
共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)(ツァイス製)および位相差顕微鏡(ウィルド(Wild)製、MPS 51S)により、ミセルのエンドサイトーシスとDOXの放出を観察した。その結果を図10A〜10Eに示す。図10AはDOXで1時間処理したHeLa細胞の顕微鏡写真、図10B〜Eは、DOX内包ミセルでそれぞれ1時間、3時間、6時間、9時間処理したHeLa細胞の顕微鏡写真である。蛍光グリーンが示すのは酸性オルガネラであり、蛍光レッドが示すのはDOXである。DOXが酸性オルガネラから首尾よく放出されたことを、両者が重なり合う部分が示している。
【0061】
本発明を好ましい実施例によって以上のように開示したが、これは本発明を限定しようとするものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲を逸脱しない限りにおいて変更および修飾を施すことができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲で定義されたものが基準とされる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】両親媒性ブロック共重合体の一実施形態によるPLLA−PEOz−PLLAの合成を説明する図である。
【図2】両親媒性ブロック共重合体の一実施形態によるPLLA−PEOz−PLLAの変形を説明する図である。左側はpH7.4における変形前の花状を呈するミセル、右側はpH5における変形後のミセル凝集体を示す。
【図3】両親媒性ブロック共重合体の一実施形態によるPLLA−PEOz−PLLAの細胞内ドラッグデリバリープロセスを説明する図である。
【図4】ミセルの粒径と重合度(DPPLLA)の関係を示す図である。
【図5】DOX封入前後のミセルの粒径と粒度分布との関係を示す図である。(図5Aは封入前で平均粒径が40nm、図5Bは封入後で平均粒径が68nm)
【図6】溶液pHの関数として表わされるPLLA−PEOz−PLLAミセルのピレン発光スペクトルによる強度比を示す図である。
【図7】酸性および中性水相環境下におけるin vitroでのDOX放出測定結果を示す図である。
【図8】ミセルの一実施形態によるin vitro細胞毒性分析結果を示す図である。縦軸は細胞生存率(%)、横軸は濃度(mg/mL)である。
【図9】DOXとミセルに内包されたDOXをそれぞれ1日(A)および3日間(B)培養した場合の各細胞成長抑制結果を示す図である。
【図10A】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真であり、A1〜A3はフリーDOX1時間培養後の細胞である。
【図10B】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真であり、B1〜B3はDOX内包ミセル1時間培養後の細胞である。
【図10C】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真である。C1〜C3はDOX内包ミセル3時間培養後の細胞である。
【図10D】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真である。D1〜D3はDOX内包ミセル6時間培養後の細胞である。
【図10E】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真である。E1〜E3はDOX内包ミセル9時間培養後の細胞である。
【符号の説明】
【0063】
1 外側にあるPEOz
2 外側にあるPLLA
3 ミセル
4 細胞質
5 エンドサイトーシス
6 エンドゾーム
7 リソソーム
8 内核にて保護されている薬物
9 酸性オルガネラ中で薬物が放出した状態
10 細胞外および初期エンドゾームにある状態
11 エンドゾームおよびリソソーム内にある状態
12 細胞核
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ミセルに関し、より詳細には、両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ミセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子ミセルは最先端のドラックデリバリー用キャリアの1つであり、その長所として薬理効果の向上、細胞毒性の低下、薬物の保護および安定性向上、ならびに高効率のターゲッティングなどが挙げられる。さらに、このナノサイズのミセルは、体内で循環する時間を延長し、かつ単核食細胞系(MPS)および網内系(RES)を回避する機能を備えるため、このような高分子ミセルを用いたドラッグデリバリーシステムへの注目度は非常に高い。一般に用いられるミセルは、両親媒性共重合体の凝集体から構成されている。水相環境において両親媒性高分子の疎水性部分は水から逃がれようとすると共に系の界面自由エネルギーが低下することにより自己会合する。これによって、コアシェル構造(core-shell structure)のナノ粒子が形成され、疎水性の内核には、水溶性に乏しい薬物を可溶化する微環境(microenvironment)が形成される。過去の研究においても、高分子ミセルによる抗癌剤の運搬が薬物の安定性および効果を有効に高めることが証明されている。
【0003】
ナノ粒子に封入される薬物は、外部に大量に漏出することのないよう、安定であることが要される。薬物放出速度が高すぎると疎水性の薬物が血管内に沈殿してしまうからである。また、薬物放出速度を低くすることは、ナノ粒子を目的の組織に蓄積させて、局部へ放出する効果を高めるのにも有利である。ところが、従来技術によるナノ粒子は拡散作用を利用して薬物の除放化を図っているだけであり、こうした方式では放出部位の選択性もないため、薬物放出制御の効率は極めて低い。
【0004】
pH応答型高分子ミセルについての研究はここ数年盛んに行われているが、そのほとんどが物性の探求に焦点を当てたものであり、主薬またはその他治療用化合物の放出制御への応用を主たる目的とした研究は少ない。通常、高分子ミセルは、その水溶液中の解離状況によりミセル凝集体のモルフォロジーを変化させる高分子電解質(polyelectrolyte)を持つように設計されている。A.アイゼンバーグ(A. Eisenberg)らは、ポリスチレン−b−ポリ(アクリル酸)(polystyrene-b-poly(acrylic acid))(以下、PS−PAAと略す)超分子に関する研究において、PS−PAAが異なるpH環境および塩濃度の下で球状、棒状、小胞状(vesicles)および大型嚢胞状(large compound vesicles;LCVs)を含む多様なモルフォロジー(multiple morphologies)をとることを明らかとしている(非特許文献1および2)。この形態的変化の要因には、PAA解離により生じた反発力やNa+またはCa2+により形成されるイオン結合と架橋のPAAに対する作用などがある。
【0005】
S.P.アームズ(S.P.Arms)らにより提示されたpH応答型ポリ[4−ビニル安息香酸−b−2−(N−モルフォリノ)エチルメタクリレート](poly[4-vinylbenzoic acid-b-2-(N-morpholino)ethyl methacrylate])(以下、PVBA-PMEMAと略す)両性イオンジブロック共重合体は、高分子電解質の解離状況に応じてブロックの親水性・疎水性変化させ、これによりミセル構造を逆にする1例である(非特許文献3)。PVBAは高pHで解離し、PMEMAは低pHで解離し、解離後の高分子は親水性が高まるため、酸性環境下でPVBAをコアとするミセル(PVBA−core micelle)が形成され、一方、塩基性環境下ではPMEMAをコアとするミセル(PMEMA-core micelle)が形成される。塩析法によっても、特定の条件下でブロック共重合体のミセルモルフォロジーを逆にさせることが可能である。例えば、ポリ[2−ジメチルアミノ]エチルメタクリレート(以下、PDEAと略す)およびポリ[2−(N−モルフォリノ)エチルメタクリレート](poly[2-(N-morpholino)ethyl methacrylate])(以下、PMEMAと略す)のpKaはそれぞれ7.3および4.9であり、pH6.7の水相環境にてPDEA−PMEMAジブロック共重合体にNa2SO4を加えると、PMEMAブロックが凝集することによりPMEMAをコアとするミセルが形成される(非特許文献4)。
【0006】
ジブロック共重合体だけではなくトリブロック共重合体を用いても応答型ミセル設計は可能である。ポリ(アクリル酸)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン)(Poly(acrylic acid)-b-polystyrene-b-poly(4-vinyl pyridine))(以下、PAA−PS−P4VPと略す)ABCトリブロック共重合体は、疎水性のPSが中間にあり、酸性かつ親水性のPAAと塩基性かつ親水性のP4VPとが両端に位置してなっている。酸性環境下では、P4VPの解離により生じた反発力がPAAおよびPSをコアとするミセルを作り、pH値が上昇するとミセル構造が逆となる(非特許文献5)。
【0007】
上述した各文献で発表された研究は、いずれも物性に対して探求を行ったものであり、それらブロック共重合体の生体親和性については詳しく言及されていない。
【0008】
Kataokaらは、酸に不安定なヒドラゾン結合(hydrazone bond)で抗癌剤アドレアマイシンを両親媒性ブロック共重合体PEG−p(Asp−Hyd)に連結することにより形成させたPEG−p(Asp−Hyd−ADR)ブロック共重合体が、酸性環境下でその酸に不安定なヒドラゾン結合が切れてアドレアマイシンを放出することを示している(非特許文献6)。しかしながら、共有結合を利用しての薬物の搭載量はほんの少量であり、かつヒドラゾン結合の切断が期待どおりに起こるとは限らない。例えば、PEG−p(Asp−Hyd−ADR)は、pH5の環境下で72時間経っても薬物を約30%弱しか放出しない。
【0009】
また、ポリオキサゾリン(以下、POzと略す)とポリエチレンオキシド(以下、PEOと略す)とのブロック共重合体(特許文献1)もバイオメディカル分野に応用可能である。POzが加水分解して形成されるポリエチレンイミン(Polyethylenimine)(以下、PEIと略す)は親水性高分子であり、負に帯電したDNAに結合することにより疎水性を増して、PEI/DNAをコア、PEOを外層とする錯体を形成する(非特許文献7)。この錯体は非ウィルス性遺伝子ベクターの一種である。しかし、かかる共重合体は、加水分解しDNAと結合すると環境応答性を失ってしまう、という問題があった。
【0010】
【特許文献1】国際公開第01/10934号パンフレット
【非特許文献1】A.アイゼンバーグ(A. Eisenberg)ら、サイエンス、第268巻、1728頁、1995年
【非特許文献2】A.アイゼンバーグ(A. Eisenberg)ら、サイエンス、第272巻、1777頁、1996年
【非特許文献3】S.P.アームズ(S.P.Arms)ら、ラングミュア(Langumuir)、第19巻、4432頁、2003年
【非特許文献4】S.P.アームズ(S.P.Arms)ら、マクロモルキュールズ(Macromolecules)、第34巻、1503頁、2001年
【非特許文献5】A.アイゼンバーグ(A. Eisenberg)ら、ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー(Journal of the American Chemical Society)、第125巻、15059頁、2003年
【非特許文献6】K. Kataokaら、アンゲヴァンテ ヘミー インターナショナル エディション(Angewandte Chemie International Edition)、第42巻、4640頁、2003年
【非特許文献7】K. Kataokaら、マクロモルキュールズ(Macromolecules)、第33巻、5841頁、2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明者らは上述に鑑みて、環境応答型の共重合体をスマートドラッグキャリアとして設計するに至り、かつ、該共重合体が環境中のpH変化に応じて薬物を放出することを証明した。すなわち、本発明は、疎水性ブロックとしてのポリ乳酸(以下、PLLAと略す)と、親水性ブロックとしてのPOzとを含む両親媒性ブロック共重合体を提供し、これを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、疎水性ブロックとしてのポリ乳酸、および親水性ブロックとしてのポリオキサゾリンを含む両親媒性ブロック共重合体に関する。
【0013】
前記両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式(I)で示される構造を有することが好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
(式中、LはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わし、ZはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わし、JはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。x、y、mはそれぞれ1から10000の整数を表わす。)
(x+y)/mの比率が5以下であることが好ましい。
【0016】
Lがメチル基であることが好ましい。
【0017】
Zがプロピオニル基であることが好ましい。
【0018】
前記両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式(II)で示される構造を有することが好ましい。
【0019】
【化2】
【0020】
(式中、DはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わし、EはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わし、Gは求核剤に由来する残基を表わし、QはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。a、bはそれぞれ1から10000の整数を表わす。)
a/bの比率が5以下であることが好ましい。
【0021】
Dがメチル基であることが好ましい。
【0022】
Eがプロピオニル基であることが好ましい。
【0023】
また、本発明は、前記の両親媒性ブロック共重合体からなるミセルと、該ミセルに封入された生物活性剤とを含む医薬組成物にも関する。
【0024】
環境のpH値が変化したときに、前記生物活性剤が前記ミセルから放出されることが好ましい。
【0025】
前記ミセルの直径が10〜1000nmであることが好ましい。
【0026】
前記ミセルに前記生物活性剤がミセル全重量に対して、1〜60重量%封入されることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明が提供する両親媒性ブロック共重合体は、疎水性ブロックとしてのPLLAと、親水性ブロックとしてのPOzを含み、両者はいずれも毒性が低く、かつ、優れた生体親和性を備える。よって、この両親媒性ブロック共重合体からなる高分子ミセルを医薬組成物に用いることにより、環境のpH値の変化によるより高効率な薬物放出制御が可能となり、薬物の副作用が低減されるなどの優れた作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、疎水性ブロックとしてのPLLAと親水性ブロックとしてのPOzとを含む両親媒性ブロック共重合体を提供する。
【0029】
本発明の一実施の形態にかかわる両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式(I)で示される構造を有する。
【0030】
【化3】
【0031】
式中、LはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わす。これらのうち、メチル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基が好ましく、とくに米国FDAの認可を受けた、目下最も安全な材料である点からメチル基であることがより好ましいが、これらのみに限定されるものではない。
【0032】
ZはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わす。これらのうち、プロピオニル基、アセチル基、ホルミル基またはカルボキシル基であることが好ましく、とくに米国FDAの認可を受けた、目下最も安全な材料である点からプロピオニル基であることがより好ましいが、これらのみに限定されるものではない。
【0033】
JはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。該開環重合開始剤に由来する有機基としては、例えば、ヒドロキシル基、水素などがあげられる。
【0034】
疎水性ブロックであるPLLAの重合度であるxおよびyは、1〜10000の整数であり、x+yが5〜80であることが好ましい。また、親水性ブロックであるPOzの重合度であるmは、1〜10000の整数であり、5〜200であることが好ましい。
【0035】
前記両親媒性ブロック共重合体における(x+y)/mの比率は5以下であるのが好ましく、1以下であるのがより好ましい。(x+y)/mの比率が5より大きいと、その性質が疎水性に傾き過ぎる傾向がある。
【0036】
また、本発明の別の実施形態にかかわる前記両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式(II)で示される構造を有する。
【0037】
【化4】
【0038】
式中、DはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わす。これらのうち、メチル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基が好ましく、とくに米国FDAの認可を受けた、目下最も安全な材料である点からメチル基であることがより好ましいが、これらのみに限定されるものではない。
【0039】
EはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わす。これらのうち、プロピオニル基、アセチル基、ホルミル基またはカルボキシル基であることが好ましく、とくに米国FDAの認可を受けた、目下最も安全な材料である点からプロピオニル基であることがより好ましいが、これらのみに限定されるものではない。
【0040】
Gは求核剤に由来する残基を表わし、たとえば水素、アルキル基などがあげられる。また、QはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。該開環重合開始剤に由来する有機基としては、例えば、ヒドロキシル基などがあげられる。
【0041】
疎水性ブロックであるPLLAの重合度であるbは、1〜10000の整数であり、5〜200が好ましい。また、親水性ブロックであるPOzの重合度であるaは、1〜10000の整数であり、5〜80が好ましい。
【0042】
前記両親媒性ブロック共重合体におけるa/bの比率は5以下であるのが好ましく、1以下であるのがより好ましい。a/bの比率が5より大きいと、その性質が疎水性に傾き過ぎる傾向がある。
【0043】
また、本発明は、前記両親媒性ブロック共重合体からなるミセルと、該ミセルに封入された生物活性剤とを含む医薬組成物を提供する。中性の水相環境の下で、前記ミセルは、その親水性ブロックが外側親水性部分を構成し、疎水性ブロックがコア部分を構成することにより、前記生物活性剤を疎水性ブロックによるコアに封じ込んで、安定したコアシェル構造を維持する。この医薬組成物では、例えば、pH値が下がるなど環境のpH値に変化があると、ミセル中から生物活性剤が放出される。具体的には、環境のpH値が約6.5以上であるとき、前記生物活性剤が封入されたミセルを形成し、pH値が約6.5未満であるとき、該ミセルから前記生物活性剤が放出される。
【0044】
ミセルの平均粒径は、代謝可能な値と免疫システムが認知できる値との間の範囲をとることが好ましく、具体的には直径で10〜1000nmが好ましく、20〜200nmがより好ましい。
【0045】
さらに、ミセルに封入される生物活性剤の含量は、通常採用される範囲であればよく、ミセル全重量に対して1〜60重量%であり、好ましくは20〜40重量%である。
【0046】
本発明のミセルに封入される生物活性剤は、目的とする医薬処方に応じて適宜選択される。生物活性剤の具体例としては、ドキソルビシン、カンプトテシン(camptothecin)などがあげられるが、これらにのみ限定されることはない。
【0047】
本発明によるミセルは、POz/PLLAからなる。PLLAは疎水性かつ生分解性のポリエステルであり、POzは親水性の高分子である。両者はいずれも毒性が低く、かつ、優れた生体親和性を備える。このミセル調製の一実施形態として、PLLA−PEOz−PLLAの例を図1を参照にしながら説明する。まず、1,4−ジブロモ−2−ブテンを二官能性開始剤として用い、モノマーである2−エチル−2−オキサゾリンのカチオン開環重合を行う。該ブロック共重合体を重合する際の触媒としては、オクタン酸スズ(Sn(Oct)2)、p−トルエンスルホン酸メチルなどがあげられる。重合反応が完了したのち、その反応物を室温まで冷却してから、KOH水溶液を加えて−OHをPEOzの両端に導入する。続いて、L−ラクチドとHO−PEOz−OHを、触媒存在下で開環重合させる。そして、得られた生成物、PLLA−PEOz−PLLAを乾燥してから収集し、冷凍保存する。
【0048】
PLLA−PEOz−PLLAからなるミセルの環境応答性を図2に示す。中性の水相環境(pH7.4)の下、かかるトリブロック共重合体は、親水性のPEOzを外側(符号1で示すとおり)、疎水性のPLLAを内側とし、疎水性薬物を搭載する微環境(microenvironment)が備わったコアシェル構造よりなる図2左側に示す花状(flower-like)のミセルを形成する。一方、水溶液のpH値が下がると(pH5.0)、PEOz間に分子内および分子間水素結合が生じてPEOzが凝集し、PLLAが外側に露出する(符号2で示すとおり)。これにより、図2右側に示すようになって、ミセル構造が崩壊し薬物が放出される。このような機構によれば、癌組織内でのみ薬物が放出されるよう制御でき、抗癌剤による副作用が回避される。
【0049】
図3には、両親媒性ブロック共重合体の一実施形態におけるPLLA−PEOz−PLLAの細胞内ドラッグデリバリープロセスが示してある。EPR効果(enhanced permeation and retention effect)とは、癌組織の血管透過性は正常組織よりも高いため、分子サイズの大きい高分子化合物がより容易に癌組織へ浸透し、さらに、癌組織のリンパ管の高分子化合物回収メカニズムは不完全であることから高分子化合物は癌組織に滞留し易い、という効果である。この効果に基づくと、抗癌剤を内包したミセル3は、エンドサイトーシス5を介して癌細胞へ送り込まれ、細胞質4に入ったのち、ミセル3を含んだ小胞がまず初期エンドゾームを形成してから、エンドゾーム6を形成する。このとき、環境のpHが下降するため薬物は放出されて、細胞核12に進入する。残りの高分子を包含したエンドゾームは最後にリソソーム7を形成し、高分子は代謝される。図3の下方にその詳細なメカニズムが示してある。ミセルが細胞外および初期エンドゾームにあるとき(符号10に示すとおり)、環境pHは7.4に保たれているため、血液中を循環するときと同じように、薬物は内核にあって保護されている(符号8に示すとおり)。一方、ミセルがエンドゾームまたはリソソーム内にあるときには(符号11に示すとおり)、環境のpHは4〜5に下がるので、薬物は酸性オルガネラ内で放出されることとなる(符号9に示すとおり)。
【0050】
本発明の上述およびその他の目的、特徴ならびに長所を一層明らかとするため、以下に、図面を参照としながら、好ましい実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0051】
<PLLA−PEOz−PLLAの調製>
二官能基開始剤としての1,4−ジブロモ−2−ブテン420mg(2mmol)を、コールドフィンガー型コンデンサとゴムキャップ(sleeve stopper)が装着された二口丸底フラスコに入れた。その装置を真空チューブに接続して乾燥窒素を導入し、アセトニトリル60mLを加えた。反応温度を油浴で100℃に制御し、脱水したモノマーである2−エチル−2−オキサゾリン10mL(100mmol)を加えて、循環系中で16時間反応させた。反応が完了し、装置を室温まで冷却させたら、KOH水溶液0.1Nを加えて1時間攪拌することによりOH基をPEOzの両端に導入した。その生成物を乾燥させたのち、再びクロロホルムに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィに通して塩および不純物を除去した。最後に、ジエチルエーテル中に2回沈殿させてから40℃で24時間乾燥し、精製された生成物、HO-PEOz-OHを98%をこえる収率で得た。
【0052】
そして、精製したL−ラクチド582mgとHO-PEOz-OH2gを、コールドフィンガー型コンデンサとおよび真空チューブが装着された二口丸底フラスコに入れた。50℃で30分間乾燥し、窒素置換を3回行ったのち、クロロベンゼン7.5mLを導入した。続いて、循環系中で140℃まで昇温してから、触媒としてのSn(Oct)21重量%の存在下で16時間反応させた。反応完了後、クロロベンゼンを流動相とし、シリカゲルクロマトグラフィに通して不純物を除去した。その生成物にジエチルエーテルを加えて3回沈殿精製を行い、これにより得られたPLLA−PEOz−PLLAトリブロック共重合体を40℃で24時間乾燥したのち、90%をこえる収率で収集した。
【0053】
<PLLA−PEOz−PLLAからなるミセル変形と粒径の分析>
前記の製造方法により、PLLAとPEOzの比率の異なるブロック共重合体を製造した。製造したブロック共重合体を以下に示す。
【0054】
ABA−5K20(PLLA/PEOzの比率:0.2(m=50、x+y=10))
ABA−5K40(PLLA/PEOzの比率:0.4(m=50、x+y=20))
ABA−10K20(PLLA/PEOzの比率:0.2(m=100、x+y=20))
ABA−10K40(PLLA/PEOzの比率:0.4(m=100、x+y=40))
ABA−20K40(PLLA/PEOzの比率:0.4(m=200、x+y=80))
上記のPLLA−PEOz−PLLAをそれぞれ中性溶液(脱イオン水)中に入れて、各ミセルの粒径を粒径分析器(マルバーン インストルメント(Malvern instrument)製、Series 3000)により測定した。その結果、図4に示すように、PLLAの鎖長が長くなるのに伴って粒径が大きくなることが証明された。
【0055】
PLLA−PEOz−PLLAがABA−5K20であるミセルを取り、ドキソルビシン(以下、DOXと略す)封入前と後の粒径を粒径分析器で分析した。測定は、波長485nm、DMSO中で行った。DOX封入前の結果を図5の5AおよびDOX封入後の結果を5Bに示す。DOX封入前ではミセルの平均粒径は約40nmであり、封入後は約68nmであった。式(WDOX in micelles/WDOX-loaded micelles)×100%により算出した薬物封入効率は約31%であった。なお、WDOX in micellesはミセル中のDOXの重量を示し、WDOX-loaded micellesはDOXが封入されたミセルの重量を示す。好ましいミセルの粒径は通常20〜200nmとされている。ミセルの粒径が200nmよりも大きいとマクロファージに取り囲まれてしまい、20nmよりも小さいときと代謝されてしまうからである。したがって、この実施例によるミセルの平均粒径はドラッグデリバリーに適している。
【0056】
ピレン蛍光法により特定されるミセルのpH誘起変形を蛍光光度計(ジョバンイボン製、Fluoro Max−3)を用いて測定した。ピレンを配合したABA−5K20またはABA−5K40を水中に分散させ、濃度を6×10-7Mに調製した。ピレンは、高疎水性の化学物質であるため、水溶液中において疎水性のミセルコア中に優先的に入り込む。ミセル変形の挙動は増大した強度比から観測することができる。pHが低くなるに伴い、強度比が増大した。これは、ピレンがミセルの内部に封入され、ピレンプローブの環境が親水性になったことを意味する。低pH下でミセルは凝集してPLLAを外側に露出させるため、強度比は高まっている。結果を図6に示す。
【0057】
<in vitro放出および細胞毒性の分析>
酸性および中性水相環境下におけるDOX放出をin vitroで測定した。DOXは赤色を呈するため、紫外線/可視光分光光度計(パーキンエルマー製、UV/Vis Lamda 2S)を用いて経時変化に伴うDOXの放出率を測定した。その結果を図7に示す。塗潰しの四角形からなる曲線は、pH5.0、白抜きの円からなる曲線は、pH7.4のときのDOX内包ミセルにおけるDOXの放出率を示す。図7より、pH5.0のときにミセルが崩壊してDOXが放出されたことを示しており、pH7.4のとき、生理的環境下でミセルが7日間をこえても安定を保っていたことを示している。
【0058】
また、ミセル自身の細胞毒性をin vitro毒性試験により直接行った。試験にはヒトの子宮頸癌細胞株HeLaを用いた。ABA-5K20ミセルと、対照群としての分岐ポリエチレンイミン(以下、B-PEIと略す)を取ってそれぞれ異なる濃度で試験を行い、96ウェルプレートのELISAリーダー(アウェアネス(Awareness)製、Stat Fax(登録商標)2100)を用い、MTTアッセイにより細胞生死を判別した。その結果を図8に示す。塗潰しの四角形はPLLA−PEOz−PLLA、塗潰しの三角形は実薬対照の分岐したB−PEIを示す。図の各点は、各濃度につきそれぞれ6回繰り返し試験を行って得た結果である。また、ABA−5K20は濃度10mg/mLになっても細胞の大部分が依然生存していたのに対し、B−PEIは濃度0.01mg/mLで60%ほどの細胞しか生存していなかった。この結果より、ABA−5K20の細胞毒性は非常に低く、一方、対照群であるB−PEIは相対的に毒性が高いことが示された。
【0059】
<抗癌剤DOX内包ミセルのin vitro癌細胞成長抑制試験>
DOXを内包するミセルとDOXを単独で用いた場合の癌細胞成長抑制について、上記と同じヒトのHeLa細胞株を用いて試験した。HeLa細胞に1μg/mL、10μg/mL、100μg/mLおよび1000μg/mLのDOX内包ミセルとDOXをそれぞれ投与し、24時間後および72時間処理後の細胞生存率を、96ウェルプレートのELISAリーダー(同上)を用い、MTTアッセイによって測定した。その結果を図9に示す。塗潰しの四角形はDOX内包ミセルで処理した結果を、塗潰しの円はフリーDOXで処理した結果を示す。図の各点は、それぞれ6回繰り返し試験を行って得た結果である。試験結果より、濃度0.1mg/mLのDOX内包ミセルで72時間処理すると、HeLa細胞が有効に抑制され、DOXを直接投与した場合の効果と同等であることが示された。
【0060】
共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)(ツァイス製)および位相差顕微鏡(ウィルド(Wild)製、MPS 51S)により、ミセルのエンドサイトーシスとDOXの放出を観察した。その結果を図10A〜10Eに示す。図10AはDOXで1時間処理したHeLa細胞の顕微鏡写真、図10B〜Eは、DOX内包ミセルでそれぞれ1時間、3時間、6時間、9時間処理したHeLa細胞の顕微鏡写真である。蛍光グリーンが示すのは酸性オルガネラであり、蛍光レッドが示すのはDOXである。DOXが酸性オルガネラから首尾よく放出されたことを、両者が重なり合う部分が示している。
【0061】
本発明を好ましい実施例によって以上のように開示したが、これは本発明を限定しようとするものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲を逸脱しない限りにおいて変更および修飾を施すことができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲で定義されたものが基準とされる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】両親媒性ブロック共重合体の一実施形態によるPLLA−PEOz−PLLAの合成を説明する図である。
【図2】両親媒性ブロック共重合体の一実施形態によるPLLA−PEOz−PLLAの変形を説明する図である。左側はpH7.4における変形前の花状を呈するミセル、右側はpH5における変形後のミセル凝集体を示す。
【図3】両親媒性ブロック共重合体の一実施形態によるPLLA−PEOz−PLLAの細胞内ドラッグデリバリープロセスを説明する図である。
【図4】ミセルの粒径と重合度(DPPLLA)の関係を示す図である。
【図5】DOX封入前後のミセルの粒径と粒度分布との関係を示す図である。(図5Aは封入前で平均粒径が40nm、図5Bは封入後で平均粒径が68nm)
【図6】溶液pHの関数として表わされるPLLA−PEOz−PLLAミセルのピレン発光スペクトルによる強度比を示す図である。
【図7】酸性および中性水相環境下におけるin vitroでのDOX放出測定結果を示す図である。
【図8】ミセルの一実施形態によるin vitro細胞毒性分析結果を示す図である。縦軸は細胞生存率(%)、横軸は濃度(mg/mL)である。
【図9】DOXとミセルに内包されたDOXをそれぞれ1日(A)および3日間(B)培養した場合の各細胞成長抑制結果を示す図である。
【図10A】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真であり、A1〜A3はフリーDOX1時間培養後の細胞である。
【図10B】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真であり、B1〜B3はDOX内包ミセル1時間培養後の細胞である。
【図10C】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真である。C1〜C3はDOX内包ミセル3時間培養後の細胞である。
【図10D】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真である。D1〜D3はDOX内包ミセル6時間培養後の細胞である。
【図10E】共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観測したHeLa細胞におけるフリーDOXとDOX内包ミセルの内在化と局在化を示す顕微鏡写真である。E1〜E3はDOX内包ミセル9時間培養後の細胞である。
【符号の説明】
【0063】
1 外側にあるPEOz
2 外側にあるPLLA
3 ミセル
4 細胞質
5 エンドサイトーシス
6 エンドゾーム
7 リソソーム
8 内核にて保護されている薬物
9 酸性オルガネラ中で薬物が放出した状態
10 細胞外および初期エンドゾームにある状態
11 エンドゾームおよびリソソーム内にある状態
12 細胞核
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ブロックとしてのポリ乳酸、および親水性ブロックとしてのポリオキサゾリンを含む両親媒性ブロック共重合体。
【請求項2】
下記の一般式(I)で示される構造を有する請求項1記載の両親媒性ブロック共重合体。
【化1】
(式中、LはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わし、ZはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わし、JはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。x、y、mはそれぞれ1から10000の整数を表わす。)
【請求項3】
(x+y)/mの比率が5以下である請求項2記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項4】
Lがメチル基である請求項2または3記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項5】
Zがプロピオニル基である請求項2、3または4記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項6】
下記の一般式(II)で示される構造を有する請求項1記載の両親媒性ブロック共重合体。
【化2】
(式中、DはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わし、EはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わし、Gは求核剤に由来する残基を表わし、QはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。a、bはそれぞれ1から10000の整数を表わす。)
【請求項7】
a/bの比率が5以下である請求項6記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項8】
Dがメチル基である請求項6または7記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項9】
Eがプロピオニル基である請求項6、7または8記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の両親媒性ブロック共重合体からなるミセルと、該ミセルに封入された生物活性剤とを含む医薬組成物。
【請求項11】
環境のpH値が変化したときに、前記生物活性剤が前記ミセルから放出される請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ミセルの直径が10〜1000nmである請求項10または11記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ミセルに前記生物活性剤がミセル全重量に対して、1〜60重量%封入される請求項10、11または12記載の医薬組成物。
【請求項1】
疎水性ブロックとしてのポリ乳酸、および親水性ブロックとしてのポリオキサゾリンを含む両親媒性ブロック共重合体。
【請求項2】
下記の一般式(I)で示される構造を有する請求項1記載の両親媒性ブロック共重合体。
【化1】
(式中、LはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わし、ZはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わし、JはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。x、y、mはそれぞれ1から10000の整数を表わす。)
【請求項3】
(x+y)/mの比率が5以下である請求項2記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項4】
Lがメチル基である請求項2または3記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項5】
Zがプロピオニル基である請求項2、3または4記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項6】
下記の一般式(II)で示される構造を有する請求項1記載の両親媒性ブロック共重合体。
【化2】
(式中、DはH、C1-6のアルキル基、アミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を表わし、EはH、C1-21のアシル基、フェニル基またはカルボキシル基を表わし、Gは求核剤に由来する残基を表わし、QはHまたは開環重合開始剤に由来する有機残基を表わす。a、bはそれぞれ1から10000の整数を表わす。)
【請求項7】
a/bの比率が5以下である請求項6記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項8】
Dがメチル基である請求項6または7記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項9】
Eがプロピオニル基である請求項6、7または8記載の両親媒性ブロック共重合体。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の両親媒性ブロック共重合体からなるミセルと、該ミセルに封入された生物活性剤とを含む医薬組成物。
【請求項11】
環境のpH値が変化したときに、前記生物活性剤が前記ミセルから放出される請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ミセルの直径が10〜1000nmである請求項10または11記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ミセルに前記生物活性剤がミセル全重量に対して、1〜60重量%封入される請求項10、11または12記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【公開番号】特開2006−188699(P2006−188699A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378114(P2005−378114)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】
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