説明

両面積層ポリエステルフィルム

【課題】 加熱処理工程において、例えば、180℃で1時間熱処理する等、高温雰囲気下における塗布膜の耐熱性不足によるフィルムヘーズの上昇が極力小さく、フィルム表面の滑り性が良好である両面積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 四級アンモニウム塩基含有ポリマー、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーおよび架橋剤を含有する塗布液をポリエステルフィルムの両面に塗布し、乾燥して得られた塗布層を有することを特徴とする両面積層ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面積層ポリエステルフィルムに関するものであり、例えば、150℃で1時間、あるいは180℃で1時間等、フィルムが高温雰囲気下に長時間晒され、かつ搬送用ロールと塗布層とが複数回擦れるような、過酷な熱処理工程を経た後であっても、フィルムヘーズの上昇が極力小さいフィルムに関するものであり、特に光を透過して見る、いわゆる視認性が重視される、高度な透明性が必要とされる光学用途、例えば、タッチパネル用として好適なフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タッチパネル用途においては、位置検出方法により、抵抗膜方式、静電容量方式等の各種方式が採用されている。その中でも、構造が単純であり、コストパフォーマンスに優れる長所を生かして、抵抗膜方式の普及が増加する傾向にある。当該抵抗膜方式を用いたタッチパネルの構成は、一般的に透明導電性積層体と透明導電性薄膜付きガラスとがスペーサーを介して対向配置されており、透明導電性積層体に電流を流し、透明導電性薄膜付きガラスに於ける電圧を計測する構造等から構成されている。透明導電性積層体を指やペン等による押圧操作を介して透明導電性薄膜付きガラスに接触させると、その接触部分が通電することにより、その接触部分の位置が検知されるという原理を利用している。また、抵抗膜方式の採用事例として、現金自動受払機、電車の切符販売機の表示板等が例示される。
【0003】
本発明において、前記透明導電性積層体とは、透明導電性薄膜を有する積層体のことであり、当該透明導電性薄膜はフィルム基材に形成されてなるものである。透明導電性積層体には、透明性を向上させ、タッチパネル用としての押圧操作に耐えられるように、ハードコート層を設けることが一般的に行われており、耐擦傷性等の向上に寄与している。
【0004】
透明導電性積層体の製造工程においては、加熱加工されるのが一般的である。例えば、透明導電性膜を形成するために、スパッタリング法によりITO膜を形成し、その後、結晶化させるために150℃で熱処理を行う場合や(特許文献1)、導電性積層フィルム作製の際に低熱収縮化処理のために150℃で1時間放置する場合や(特許文献2)、透明導電性フィルムを加工する際に、銀ペーストなどを印刷するために150℃程度の熱処理が必要な場合がある(特許文献3)。透明導電性薄膜製造工程においては、高温雰囲気下における熱処理に伴い、ポリエステルフィルム中に含有される低分子量物(特に環状三量体。)がフィルム表面に析出・結晶化し、塗布欠陥等の発生により、高精度な透明導電性薄膜を得るのが困難になる場合がある。
【0005】
上述のオリゴマー析出防止策として、例えば、ポリエステルフィルム上にシリコーン樹脂とイソシアネート系樹脂の架橋体からなる硬化性樹脂層を設けることが提案されている(特許文献3)。しかしながら、当該硬化性樹脂層は熱硬化により形成されるもので、イソシアネート系樹脂のブロック化剤の解離のために高温処理必要があり、加工中にカールや、たるみが発生しやすい状況にあり、取り扱いに注意が必要である。
【0006】
また、透明導電層を有する塗布層をポリエステルフィルム上に設ける加工工程において、搬送用ガイドロールとフィルム面とが接触・擦れると推察される。その結果、加工前においては、通常の熱処理条件(例えば、180℃、10分間等)では、全く問題にならない、良好なオリゴマー封止性能を有する積層ポリエステルフィルム(例えば、特許文献 4)でさえ、150℃、1時間あるいは180℃、1時間等、長時間の熱処理を経た後、フィルムヘーズが急激に上昇する場合がある。
【0007】
そのため、塗布層によるオリゴマー析出量の低減策を講じる場合には、併せて、従来のものよりも一段と高度な耐熱性を有し、かつ塗布層自体の透明性およびオリゴマー封止性能が良好であることが必要とされる状況にある。
【0008】
特にタッチパネル用途においては、近年、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistance)等の通信情報機器、ゲーム機等への搭載頻度が増加する傾向にあり、当該分野の市場成長に伴い、さらに高度な視認性が嗜好される傾向にある。その結果、当該分野に使用されるポリエステルフィルムにおいては、加工後のフィルムヘーズ上昇に伴う視認性低下がますます深刻な問題になってきている。
【0009】
上述の問題に対する対応策として、例えば、ポリエステルフィルムにオリゴマー析出防止機能を付与させるためにハードコート層を設ける場合がある。特にフィルム両面にハードコート層を塗設した場合、オリゴマー析出防止性は良好であるものの、ロール状に製品を巻き取る際にフィルム表面の滑り性が低下する等の不具合を生じる場合がある。
【0010】
そのため、タッチパネル用ポリエステルフィルムとして、例えば、150℃、1時間、あるいは180℃、1時間等の高温雰囲気下にフィルムが長時間晒され、過酷な熱処理工程を経た後であっても、フィルムヘーズが極力、加工前の状態を維持し、かつ良好なフィルムスベリ性を確保していることが必要とされる状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−200823号公報
【特許文献2】特開2007−42473号公報
【特許文献3】特開2007−320144号公報
【特許文献4】特開2003−237005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、加熱処理工程において、例えば、180℃で1時間熱処理する等、高温雰囲気下における塗布膜の耐熱性不足によるフィルムヘーズの上昇が極力小さく、フィルム表面の滑り性が良好である両面積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定の塗布層を有するポリエステルフィルムを用いれば、上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は、四級アンモニウム塩基含有ポリマー、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーおよび架橋剤を含有する塗布液をポリエステルフィルムの両面に塗布し、乾燥して得られた塗布層を有することを特徴とする両面積層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の両面積層ポリエステルフィルムによれば、例えば、150℃で1時間、あるいは180℃で1時間等、高温雰囲気下にフィルムが長時間晒され、かつ搬送用ロールと塗布層とが擦れるような、過酷な熱処理工程を経た後でも、フィルムヘーズの上昇が極力小さく、フィルムスベリ性が良好な両面積層ポリエステルフィルムを提供することができ、本発明のフィルムは、例えば、タッチパネル用構成部材として好適であり、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明におけるポリエステルフィルムは単層構成であっても多層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0018】
本発明において使用するポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましく、1種の芳香族ジカルボン酸と1種の脂肪族グリコールとからなるポリエステルであってもよく、1種以上の他の成分を共重合させた共重合ポリエステルであってもよい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。一方、共重合ポリエステルの成分として用いるジカルボン酸としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。またp−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸も用いることができる。
【0019】
また、本発明における両面積層ポリエステルフィルムにおいては、フィルム加工中の熱履歴等により、フィルム中に含有しているオリゴマーがフィルムの表面に析出・結晶化する量を低減するために、多層構造フィルムの最外層に低オリゴマー化したポリエステルを用いることも可能である。ポリエステル中のオリゴマー量を低減する方法としては、例えば、固相重合法等を用いることができる。
【0020】
本発明の両面積層ポリエステルフィルムには、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合する必要がある。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0021】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これらの粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0022】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01〜3μm、好ましくは0.01〜2μmの範囲である。平均粒径が0.01μm未満の場合には、粒子が凝集しやすく、分散性が不十分な場合があり、一方、3μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程において種々の表面機能層を塗設させる場合等に不具合が生じる場合がある。
【0023】
さらにポリエステル層中の粒子含有量は、通常0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜3重量%の範囲である。粒子含有量が0.001重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、5重量%を超えるとフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0024】
ポリエステル中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階に おいて添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0025】
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0026】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0027】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常、25〜250μm、好ましくは38〜188μmの範囲である。
【0028】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。すなわち、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0029】
また、本発明においてはポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来から公知の延伸方式を採用することができる。
【0030】
さらに上述の積層ポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。塗布延伸法により積層ポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、積層ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0031】
次に本発明における両面積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成は、塗布液をフィルムにコーティングすることにより設けられ、フィルム製造工程内で行うインラインコーティングにより設けられても、また、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、いわゆるオフラインコーティングを採用してもよい。
【0032】
本発明において、両面積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層中には、外部から塗布層への熱的ダメージにより、オリゴマー析出量が増加することを低減するため、四級アンモニウム塩基含有ポリマーを含有することを必須の要件とするものである。
また、本発明の主旨を損なわない範囲において、両面積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層中には4級アンモニウム塩基を有する化合物を併用することが出来る。
本発明において使用する4級アンモニウム塩基を有する化合物に関しては、分子中の主鎖や側鎖に、4級アンモニウム塩基を含む構成要素を有するものが対象となる。具体例としては、ピロリジウム環、アルキルアミンの4級化物、さらにこれらをアクリル酸やメタクリル酸と共重合したもの、N−アルキルアミノアクリルアミドの4級化物、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。さらに、これらを組合わせたり、あるいは他のバインダーポリマーと共重合させても構わない。また、これら4級アンモニウム塩の対イオンとなるアニオンとしては例えば、ハロゲン、アルキルサルフェート、アルキルスルホネート、硝酸等のイオンが挙げられる。中でも、ハロゲン以外の対イオンが、特に耐熱性が良好となる点でこのましい。
【0033】
本発明においては、4級アンモニウム塩基を有する化合物は高分子化合物であることが望ましい。分子量が低すぎる場合は、塗布層中から容易に除去されて経時的に性能が低下、あるいは塗布層のブロッキング等の不具合を生じる場合がある。また、分子量が低いと耐熱安定性に劣る場合がある。かかる観点より、4級アンモニウム塩基を有する化合物の数平均分子量は通常、1000以上、好ましくは2000以上、さらに好ましくは5000以上であることがよい。一方、数平均分子量が高すぎる場合は、塗布液の粘度が高くなりすぎる等の不具合を生じる場合がある。かかる観点より、数平均分子量の上限は500000以下を目安にするのが好ましい。また、これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0034】
塗布層中における四級アンモニウム塩基含有ポリマーの配合量は20重量%〜70重量%の範囲であるのが好ましく、さらに好ましくは40重量%〜70重量%の範囲であるのがよい。当該範囲を外れる場合、所望するオリゴマー封止効果を得るのが困難になる場合がある。
【0035】
本発明における両面積層ポリエステルフィルムにおいて、従来よりもさらに高度な塗布性を確保することにより、塗布層形成時における延伸追従性を良好とすることを目的として、塗布層を構成するポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーを含有することを必須とするものである。具体的には、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(ポリエチレグリコール単位の重合度は4〜14の範囲が好ましい。)、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)ジアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコール−ポリブチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート等を出発原料とする重合体が例示される。
【0036】
本発明におけるポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーの数平均分子量は、通常1000以上、好ましくは2000以上、さらに好ましくは5000以上である。一方、数平均分子量が高すぎる場合は、塗布液の粘度が高くなりすぎる等の不具合を生じる場合がある。かかる観点より、数平均分子量の上限は500000以下を目安にするのが好ましい。また、これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本発明における両面積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層において、さらに延伸追従性を良好とするために、ポリエチレングリコール含有アルキルアクリレートポリマーを使用するのがよい。アルキル鎖の鎖長については従来から、ポリマーとして重合可能な範囲であれば、特に限定されるわけではない。本発明における塗布層を構成するポリエチレングリコール含有ポリマーの含有量については延伸追従性を良好とするために5〜40重量%の範囲が好ましい。当該範囲を外れる場合、塗布層形成時における延伸追従性が不十分になる等の不具合を生じる場合がある。
【0038】
本発明における両面積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層に関して、四級アンモニウム塩基含有ポリマーおよびポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーは混合物であってもよいし、あらかじめ、共重合されていてもよく、本発明の主旨を損なわない範囲であれば、特に限定されるわけではない。また、共重合化させる場合には従来から公知の製造方法を用いることが出来る。
【0039】
本発明における両面積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層中には塗布層のさらなる耐久性向上を目的として、架橋剤を併用する必要がある。具体例として、メチロール化またはアルキロール化した尿素、メラミン、グアナミン、アクリルアミド、ポリアミド化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、ブロックポリイソシアネート、チタンカップリング剤、ジルコ−アルミネートカップリング剤、ポリカルボジイミド等が挙げられる。
架橋剤の中でも、特に本発明の用途上、塗布性、耐久密着性が良好となる点で、メラミン架橋剤が好ましい。メラミン架橋剤としては、特に限定されるものではないが、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全エーテル化した化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。
【0040】
また、メラミン架橋剤は、単量体、あるいは2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。上記エーテル化に用いる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノールなどを好ましく使用することができる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン、メチロール基型メラミン、メチロール基型メチル化メラミン、完全アルキル型メチル化メラミンなどを用いることができる。その中でもメチロール化メラミンが最も好ましい。さらに、メラミン架橋剤の熱硬化促進を目的として、例えば、p−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を併用することもできる。
【0041】
本発明における両面積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層中に含有されるメラミン架橋剤の配合量は、通常1〜50重量%、好ましくは5〜30重量%の範囲である。当該範囲を外れる場合、塗布層の耐久密着性が不十分な場合がある。
【0042】
さらに塗布層の固着性、滑り性改良を目的として、粒子を含有するのが好ましい。具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、バリウム塩等が挙げられる。
【0043】
塗布層中における粒子の配合量は、通常0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。かかる配合量が0.5重量%未満では、耐ブロッキング性が不十分となる場合があり、一方、10重量%を超えると、フィルムの透明性が低下する場合がある。
【0044】
また、本発明の主旨を損なわない範囲において、塗布層中には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機系高分子粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤発泡剤、染料等が含有されてもよい。
【0045】
塗布延伸法(インラインコーティング)の場合、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固型分濃度を0.1重量%〜50重量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。
【0046】
また、本発明の要旨を越えない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤としては、n−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等の脂肪族または脂環族アルコール類、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、n−ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸アミル等のエステル類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、N−メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。有機溶剤は一種類のみでもよく、適宜、二種類以上を使用してもよい。
【0047】
本発明におけるポリエステルフィルム上に設けられる塗布層の塗布量(乾燥後)は通常0.005〜1g/m、好ましくは0.005〜0.5g/m、さらに好ましくは0.005〜0.1g/mの範囲である。塗布量が0.005g/m未満の場合には、塗布厚みの均一性が不十分な場合があり、熱処理後、塗布層表面から析出するオリゴマー量が多くなる場合がある。一方、1g/mを超えて塗布する場合には、滑り性低下等の不具合を生じる場合がある。
【0048】
本発明における両面積層ポリエステルフィルムにおいて、塗布外観の向上、オリゴマー析出防止性の向上等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲において、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール等のバインダーポリマーを併用することも可能である。
【0049】
本発明において、塗布層を設ける方法はリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート、スプレーコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著 1979年発行に記載例がある。
【0050】
本発明における両面積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0051】
本発明における両面積層ポリエステルフィルムに関して、例えば、タッチパネル用等、長時間、高温雰囲気下に晒された後であっても、高度な透明性が要求される場合がある。かかる観点より、タッチパネル用部材として対応するためには、熱処理(180℃、1時間)前後におけるフィルムヘーズ変化率(ΔH)が0.5%以下であるのが好ましく、さらに好ましくは0.3%以下、もっとも好ましくは0.1%以下がよい。ΔHが0.5%を越える場合にはフィルムヘーズ上昇に伴い視認性が低下し、例えば、タッチパネル用等、高度な視認性が必要とされる用途に不適となる場合がある。
【0052】
本発明における両面積層ポリエステルフィルムを熱処理(180℃、1時間)した前後における塗布層表面(片面)からジメチルホルムアミドにより抽出されるオリゴマー(環状三量体)量(OL)は、1.0mg/m以下であり、好ましくは0.8mg/m以下である。OLが1.0mg/mを超える場合、後加工において、例えば、180℃、1時間等、高温雰囲気下で長時間の加熱処理に伴い、オリゴマー析出量が多くなり、フィルムの透明性が低下する場合がある。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法および評価方法は次のとおりである。
【0054】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定方法
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0055】
(2)平均粒径(d50:μm)の測定方法
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0056】
(3)両面積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層表面から抽出されるオリゴマー量(OL)の測定方法
あらかじめ、両面積層ポリエステルフィルムを空気中、180℃で1時間加熱する。その後、熱処理をした当該フィルムを上部が開いている縦横10cm、高さ3cmの箱の内面に出来るだけ密着させて箱形の形状とする。次いで、上記の方法で作成した箱の中にDMF(ジメチルホルムアミド)4mlを入れて3分間放置した後、DMFを回収する。回収したDMFを液体クロマトグラフィー(島津製作所製:LC−7A)に供給して、DMF中のオリゴマー量を求め、この値を、DMFを接触させたフィルム面積で割って、フィルム表面オリゴマー量(mg/m)とする。DMF中のオリゴマー量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。
反対面側も上記と同様の要領にて測定を行い、表面オリゴマー量を求めた。
標準試料の作成は、あらかじめ分取したオリゴマー(環状三量体)を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し作成した。標準試料の濃度は、0.001〜0.01mg/mlの範囲が好ましい。
なお、液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
【0057】
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学(株)製『MCI GEL ODS 1HU』
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
【0058】
(4)フィルムヘーズ(H0)の測定
試料フィルムをJIS−K−7136に準じ、村上色彩研究所製「HM−150」により、フィルムヘーズを測定した。
【0059】
(5)加熱処理後のフィルムヘーズ(H1)の測定
試料フィルムを所定の熱処理条件(180℃、1時間)で処理した後、(4)項と同様にして、フィルムヘーズを測定した。
【0060】
(6)両面積層ポリエステルフィルムの視認性代用評価(実用特性代用評価)
試料フィルムにおいて、透明性・視認性について、下記判定基準により、判定を行った。
《判定基準》
◎:加熱処理後のフィルムヘーズ(H1)が0.9%未満であり、透明性、視認性が特に良好(実用上、問題ないレベル)
○:加熱処理後のフィルムヘーズ(H1)が0.9%以上1.2%未満であり、透明性、視認性が良好(実用上、問題ないレベル)
×:加熱処理後のフィルムヘーズ(H1)が1.2%以上であり、透明性、視認性が不良(実用上、問題あるレベル)
【0061】
(7)両面積層ポリエステルフィルムの動摩擦係数(F)測定
試料フィルムをあらかじめ、フィルム長手方向と平行な方向に18mm×120mmに切り出した。次に切り出したフィルムを塗布層(A面)と塗布層(B面)とが重なり合うように2枚重ねて、荷重30g/cm2下において、下側のフィルムを測定開始から2cm移動させた地点における動摩擦係数(F)を測定し、下記判定基準により、判定を行った。
《判定基準》
○:0.20≦F≦0.65(実用上、問題ないレベル)
×:0.20>FまたはF>0.65(実用上、問題あるレベル)
【0062】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(I)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(I)の極限粘度は0.63であった。
【0063】
<ポリエステル(II)の製造方法>
ポリエステル(I)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04部を添加後、エチレングリコールに分散させた平均粒子径1.6μmのシリカ粒子を0.3部、三酸化アンチモン0.04部を加えて、極限粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(I)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(II)を得た。得られたポリエステル(II)は、極限粘度0.65であった。
【0064】
実施例1:
ポリエステル(I)、(II)をそれぞれ90%、10%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(I)を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種2層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出しし、冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、下記塗布剤組成からなる塗布層を乾燥後の塗工量が片面で0.012g/mとなるように、フィルム両面(フィルム走行方向に対して、上面がA面、下面がB面)に塗布した後に、テンターに導き、横方向に120℃で4.3倍延伸し、225℃で熱処理を行った後、横方向に弛緩し、厚さ25μm(表層2.5μm、中間層20μm)の塗布層が設けられた両面積層ポリエステルフィルムを得た。得られた両面積層ポリエステルフィルムは加熱処理によるオリゴマー析出量が少なく、このフィルムの特性を下記表2に示す。なお、塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
【0065】
(化合物例)
・4級アンモニウム塩基含有ポリマー(A1):
2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩ポリマー
対イオン:メチルスルホネート 数平均分子量:30000
・ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(B1):
ポリエチレングリコール含有モノアクリレートポリマー 数平均分子量:20000
・ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(B2):
オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレートポリマー 数平均分子量:32000
・架橋剤(C):メラミン架橋剤(DIC社製:ベッカミン「MAS」)
・粒子(D):アルミナ表面変性コロイダルシリカ(平均粒径:50nm)
・バインダー(E):ポリビニルアルコール(けん化度88モル%、重合度500)
【0066】
実施例2〜5:
実施例1において、塗布層を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、両面積層ポリエステルフィルムを得た。得られた両面積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2に示す。
【0067】
比較例1:
実施例1において、塗布層を設けない以外は実施例1と同様にして製造し、両面積層ポリエステルフィルムを得た。得られた両面積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2に示す。
【0068】
比較例2〜4:
実施例1において、塗布層組成を変更する以外は実施例1と同様にして製造し、両面積層ポリエステルフィルムを得た。得られた両面積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2に示す。
【0069】
比較例5:
実施例1において、塗布層を両面に設けない以外は実施例1と同様にして、製造し、積層ポリエステルフィルムを得た。次に下記塗布剤組成から構成されるハードコート層をオフラインにて、塗布厚み(乾燥後)が片面で0.15g/mなるように両面に塗布し、両面積層ポリエステルフィルムを得た。得られた両面積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2および3に示す。
塗布剤組成
《塗布剤組成》
コルコート社製 コルコートP
使用バー:♯3バー
乾燥条件:100℃ 2分間
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、両面積層ポリエステルフィルムに関するものであり、例えば、150℃、90分間、あるいは180℃、60分間等、高温雰囲気下にフィルムが長時間晒される、過酷な熱処理工程を経た後でも、フィルムヘーズの上昇が極力小さく、フィルム滑り性が良好であることを特徴とする。特に視認性を重視し、高度な透明性が必要とされる光学用途、例えば、タッチパネル用構成部材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四級アンモニウム塩基含有ポリマー、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーおよび架橋剤を含有する塗布液をポリエステルフィルムの両面に塗布し、乾燥して得られた塗布層を有することを特徴とする両面積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−37936(P2011−37936A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184067(P2009−184067)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】