説明

両面積層基板の製造方法

【課題】 ロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に乾式めっき法により銅薄膜を成膜する際に、有機樹脂フィルムの巻取時に片方の面の銅薄膜と他方の面の銅薄膜とが局所的にくっつく(融着する)ことを防ぐことができ、高い生産効率で、高信頼性の両面積層基板を製造する方法を提供する。
【解決手段】 有機樹脂フィルムFのいずれか片方の面に乾式めっき法での成膜手段11、12により第1の銅薄膜を成膜し、この第1の銅薄膜の表面に成膜手段13により異種金属薄膜を成膜する。その後、有機樹脂フィルムFの他方の面に成膜手段11、12により第2の銅薄膜を成膜して、両面に銅薄膜を成膜した有機樹脂フィルムFを巻取ロール9でロール状に巻き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧雰囲気下においてロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に銅薄膜を成膜する両面積層基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機樹脂フィルムはフレキシブル性を有し且つ加工が容易であるため、その表面に金属膜や酸化物膜を形成したものが、電子部品や光学部品、包装材料などとして広く用いられている。例えば電子部品としては、有機樹脂フィルムの表面に銅などの金属膜で配線を形成したフレキシブルプリント配線基板があり、液晶ディスプレイに接続される配線基板などとして多用されている。
【0003】
このようなフレキシブルプリント配線基板を製造するには、有機樹脂フィルムの表面に銅などの金属膜を積層して積層基板を作製する。次に、この積層基板に対して、フォトレジスト印刷・露光・現像を行うサブトラクティブ法、あるいはドライフィルムレジストラミネート・露光・現像を行うセミアディティブ法により、配線パターンを形成する方法が従来から行われている。
【0004】
尚、サブトラクティブ法又はセミアディティブ法のいずれの方法でも、金属膜の表面に設けたフォトレジスト又はドライフィルムレジストに対して露光と現像を行うが、サブトラクティブ法はレジストで覆われていない金属膜をエッチングにより除去して配線回路を形成する。一方、セミアディティブ法では、レジストに覆われていない箇所の金属膜の表面に更に金属膜を付着させて配線としての膜厚を確保した後に、不要な金属膜を除去して配線回路を形成する。
【0005】
ところで、上記フレキシブルプリント配線基板の製造に用いる積層基板は、これまでは有機樹脂フィルムの片面にのみ金属膜を形成した片面積層基板が中心であったが、電子回路の更なる小型化及び高速化の要求に伴って、有機樹脂フィルムの両面に金属膜を形成した両面積層基板が検討されている。かかる両面積層基板では、一方の面を回路として使用して他方の面は放熱に利用したり、両面とも回路として利用したりすることが可能となる。更に、複数の金属膜を積層してなる多層回路を片面若しくは両面に備えた両面積層基板を、有機樹脂フィルムにおいて実現する試みもなされている。
【0006】
このような両面積層基板を効率良く作製する方法としては、例えば特許第3675805号公報(特許文献1)に開示されているように、有機樹脂フィルムをロール・ツー・ロールで搬送しながら、有機樹脂フィルムの両面に金属箔を熱圧着して連続的に積層基板を製造する方法がある。しかし、この方法は有機樹脂フィルムに対して金属箔を熱圧着で貼り付けるものであるため、前述したフレキシブルプリント配線基板の狭ピッチ化と高い信頼性とを両立させることは困難であった。
【0007】
そこで、上記金属箔の熱圧着に代え、狭ピッチ化と高い信頼性とを両立させることが可能なメタライジング法を用いてロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に金属膜を成膜することにより、効率良く両面積層基板を製造することが検討されている。ここでメタライジング法とは、物理的成膜法や化学的成膜法などの乾式めっき法により有機樹脂フィルム上に金属膜を成膜する方法であり、装飾品から電子機器部品まで幅広く利用されている。
【0008】
尚、上記メタライジング法(乾式めっき法)を用いて、有機樹脂フィルムの片面に金属膜を成膜する技術は従来から知られている。例えば特開昭62−247073号公報(特許文献2)には、真空蒸着法又はスパッタリング法を用いてフィルムの片面にコーティング材を成膜することによって、フィルム層と銅などの金属コーティング層の2層からなる2層積層基板を作製する技術が開示されている。
【0009】
最近では、高い信頼性を確保しつつ狭ピッチ化に対応するため、ポリイミドフィルムなどの有機樹脂フィルムの片面に、スパッタリング法や蒸着法等の乾式めっき法によりニッケル、クロム等の下地金属層を設け、この下地金属層の上に乾式めっき法により銅薄膜を設けて薄膜積層基板を得た後、更に、この銅薄膜の表面に電解銅めっきを施すことによって、高い接着力を有する2層積層基板を作製する方法が用いられるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3675805号公報
【特許文献2】特開昭62−247073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のごとくロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に乾式めっき法で金属膜、特に銅薄膜を成膜する場合、減圧雰囲気下での成膜直後に巻取ロールで有機樹脂フィルムの巻取が行われるため、片方の面に成膜した第1の銅薄膜と他方の面に成膜した第2の銅薄膜とが巻取ロール上で接触することになる。このとき、巻取圧が高かったり、銅薄膜に小さな突起があったり、銅薄膜の表面温度が高かったりすると、第1の銅薄膜と第2の銅薄膜のとが表面で局所的にくっつく(以下、融着とも称する)という不具合が生じやすかった。
【0012】
このような第1の銅薄膜と第2の銅薄膜の融着が発生すると、再び有機樹脂フィルムを巻き出したとき銅薄膜が破損してしまう。例えば、銅薄膜同士の局所的な融着に起因して、巻き出された銅薄膜表面に目視では確認できない程度の微小なピンホールが発生している場合、次工程で銅薄膜上に電解銅めっきを施して得られる両面積層基板にピンホール等の不具合を生じることがあり、結果的に歩留まりの低下や、品質面での問題発生に繋がりかねない。
【0013】
そこで、両面に銅薄膜を成膜した有機樹脂フィルムの巻取時に銅薄膜同士が局所的にくっつくことを防止するため、巻取時の張力を極めて低い範囲でコントロールしたり、成膜時の温度の上昇を抑制して銅薄膜の表面温度を下げたり、あるいは有機樹脂フィルムを巻き取る際に第1の銅薄膜と第2の銅薄膜との間に合紙を挟み込むなどの対策が取られてきた。
【0014】
しかし、これらの対策では、ロール状に巻き取られる有機樹脂フィルムに巻ズレが発生したり、生産効率が低下したりといった問題や、合紙を用いるための新たな機構が必要となるので装置が複雑になるといった問題が新たに生じていた。また、合紙は何度か繰り返して使用することができるものの、コストアップの要因となるうえ、合紙の品質管理が必要となるなど操業上の問題点もあった。
【0015】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、ロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に乾式めっき法を用いて銅薄膜を成膜する場合に、有機樹脂フィルムの巻取時に片方の面の銅薄膜と他方の面の銅薄膜とが局所的にくっつく(融着する)ことを防ぐことができ、生産効率を低下させることなく、高い信頼性の両面積層基板を製造する方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明が提供する両面積層基板の製造方法は、減圧雰囲気下においてロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に乾式めっき法により銅薄膜を成膜する両面積層基板の製造方法において、両面に銅薄膜を成膜した有機樹脂フィルムをロール状に巻き取る前に、該有機樹脂フィルムのいずれか片方の面に成膜した銅薄膜の表面に、該銅薄膜とは異なる金属からなる異種金属薄膜を乾式めっき法により成膜することを特徴とする。
【0017】
上記本発明による両面積層基板の製造方法では、前記有機樹脂フィルムの片方の面に銅薄膜を成膜し、引き続き該銅薄膜の表面に異種金属薄膜を成膜した後、該有機樹脂フィルムの他方の面に銅薄膜を成膜することが好ましい。また、前記異種金属薄膜の膜厚は、2nm以上であって、該異種金属薄膜を表面に成膜すべき銅薄膜の膜厚の1/2以下とすることが好ましい。
【0018】
また、上記本発明による両面積層基板の製造方法において、前記異種金属薄膜は、次工程で前記銅薄膜上に銅めっきを施す前に、大気圧下にてエッチングなどの湿式工程により除去されるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に乾式めっき法により銅薄膜を成膜して巻き取る際に、片方の面の銅薄膜と他方の面の銅薄膜との局所的なくっつきを防止することができる。従って、生産効率を低下させることなく、高い信頼性の両面積層基板を製造することができ、電子回路の更なる小型化及び高速化の要求に伴う狭ピッチ化に対応したフレキシブルプリント基板の製造に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を実施するためのロール・ツー・ロール成膜装置の一具体例を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の両面積層基板の製造方法は、減圧雰囲気下においてロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に乾式めっき法により銅薄膜を成膜して巻き取る場合に、両面に銅薄膜を成膜した有機樹脂フィルムの片方の面に成膜された銅薄膜の表面に、その銅薄膜とは異なる金属からなる異種金属薄膜を乾式めっき法により成膜した状態で巻取を行うものである。尚、有機樹脂フィルムと銅薄膜との密着性を高めるため、両者の間に乾式めっき法により下地金属層を設けることができる。
【0022】
上記のごとく有機樹脂フィルムの片方の面に成膜された銅薄膜の表面に異種金属薄膜を設けることによって、有機樹脂フィルムの巻取圧が高かったり、銅薄膜に小さな突起があったり、あるいは銅薄膜の表面温度が高いといった状況が生じていても、これらを一切考慮することなく、有機樹脂フィルムの両面の銅薄膜同士が巻取時に局所的にくっつく(融着する)という問題を回避することができる。これにより、ロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に、平滑でピンホールなどの欠陥のない銅薄膜を得ることできる。
【0023】
上記の銅薄膜の表面に形成された異種金属薄膜は、次工程に入る前に除去されるべきものである。例えば、次工程で両面積層基板の両面に電解銅めっきを施す場合には、その電解銅めっき処理の前に異種金属薄膜を除去する。この異種金属薄膜の除去はエッチング処理もしくは研磨処理により行うことが可能であるが、湿式工程であるエッチングによる除去が好ましい。尚、エッチング液としては、異種金属薄膜を溶解する公知のエッチング液を用いることができる。
【0024】
異種金属薄膜を構成する金属は、基本的に銅薄膜の構成金属と異なるものであればよい。ただし、次工程である電解銅めっきの前に、エッチングあるいは研磨などで容易に除去できることが必要である。尚、次工程で電解銅めっきを施す際のめっき性や電解銅との密着性が十分に維持され、銅配線形成時に銅と共に除去できる異種金属薄膜であれば、必ずしも除去する必要はない。
【0025】
このような異種金属薄膜を構成する金属としては、アルミニウム、鉄、スズ、白金、インジウム、金、銀、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、チタン、モリブデンから選択される少なくとも1種の金属や、これらの金属の合金いずれかを含む合金が好ましい。
【0026】
また、銅薄膜及び異種金属薄膜等の成膜に用いる乾式めっき法(メタライジング法)としては、物理的成膜法あるいは化学的成膜法があり、更に具体的には、スパッタリング法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法、真空蒸着法、CVD法などが挙げられる。これらの乾式めっき法の中では、組成の制御等の観点からスパッタリング法が特に望ましい。
【0027】
異種金属薄膜を成膜する時点は、両面に銅薄膜を成膜した有機樹脂フィルムをロール状に巻き取る前であればよい。例えば、有機樹脂フィルムの片方の面に第1の銅薄膜を成膜し、次にその第1の銅薄膜の表面に異種金属薄膜を成膜し、その後に他方の面に第2の銅薄膜を成膜することができる。あるいは、有機樹脂フィルムの片方の面に第1の銅薄膜を成膜し、更に他方の面にも銅薄膜を成膜した後、その第2の銅薄膜の表面に異種金属薄膜を成膜することもできる。
【0028】
これらの成膜手順のうち、第1の銅薄膜の成膜に引き続いて、異種金属薄膜を第1の銅薄膜の表面に成膜することが好ましい。この成膜手順によれば、有機樹脂フィルムへの熱的ダメージを少なくできるからである。即ち、第1及び第2の銅薄膜を成膜した後で異種金属薄膜を成膜すると、有機樹脂フィルムには第1及び第2の銅薄膜成膜時の両面への熱的ダメージが蓄積された状態で更に異種金属薄膜の成膜による熱的ダメージが加わるのに対して、第1の銅薄膜の成膜後その上に異種金属薄膜を成膜する場合には、有機樹脂フィルムの片面にのみ熱的ダメージを受けた状態で他方の面に異種金属薄膜の成膜による熱的ダメージが加わるのみであるため好ましい。
【0029】
また、異種金属薄膜の膜厚は、2nm以上であることが好ましい。異種金属薄膜の膜厚が2nm未満では、異種金属薄膜が不完全となりやすく、銅薄膜同士の融着が発生するケースが見受けられるからである。尚、経済性を考慮すると、異種金属薄膜の膜厚は2〜10nmの範囲が好ましい。
【0030】
ただし、異種金属薄膜の膜厚が、表面に異種金属薄膜を成膜すべき銅薄膜の膜厚の1/2よりも厚い場合には、両面積層基板作製後に行われる次工程、例えば電解銅めっき処理工程の前に、あるいは、サブトラクティブ法又はセミアディティブ法による配線パターン形成工程において、除去されるべき異種金属薄膜の膜厚が厚くなりすぎるため経済的に不利になる。従って、異種金属薄膜の膜厚は、2nm以上であり、且つ表面に異種金属薄膜を成膜すべき銅薄膜の膜厚の1/2以下であることが好ましい。
【0031】
次に、本発明による両面積層基板の製造方法について、図1を参照しながら具体的に説明する。図1は、本発明における銅薄膜及び異種金属薄膜の成膜に使用するロール・ツー・ロール成膜装置の一具体例を示す概要の断面図である。
【0032】
図1に示すロール・ツー・ロール成膜装置は、その構成部品のほとんどを収納した略直方体状の真空容器1を備えている。この真空容器1は、10−4Pa〜1Paの範囲に減圧された状態を保持できれば形状は問わず、略円筒状であってもよい。真空容器1の内部は、巻出室2と巻取室3、前処理室4、及び3つの成膜室5a、成膜室5b、成膜室5cの6つのゾーンに分かれている。これら6つのゾーンは、キャンロール6及び隔壁で互いに隔離されており、それぞれ独立の真空排気手段7により圧力を制御できるようになっている。
【0033】
巻出室2にはロール状に巻回された有機樹脂フィルムFを巻き出す巻出ロール8が設けてあり、巻取室3には巻取ロール9が設けてある。前処理室4には、成膜前の有機樹脂フィルムFの表面をプラズマで前処理するために、通常のプラズマ発生手段10が設けてある。また、成膜室5aには下地金属層の成膜手段11、成膜室5bには銅薄膜の成膜手段12、及び成膜室5cには異種金属薄膜の成膜処理手段13が、それぞれキャンロール6に対向する位置に設けてある。
【0034】
尚、巻出ロール8からキャンロール6に至る有機樹脂フィルムFの搬送経路には巻出側ガイドロールや巻出側テンションロールなどの複数のロールが、またキャンロール6から巻取ロール9に至る搬送経路には巻取側テンションロールや巻取側ガイドロールなどの複数のロールが設けてある。また、キャンロール6の内部には、真空容器1の外部から供給される冷媒が循環している。
【0035】
上記ロール・ツー・ロール成膜装置により、有機樹脂フィルムFは巻出ロール8から巻き出され、キャンロール6の外周面に沿って接触しながら搬送される。有機樹脂フィルムFは、キャンロール6の表面に接触している間に、その接触領域で接触面の反対側の面がプラズマ発生手段10により表面処理され、引き続き例えば成膜手段11により下地金属層が及び成膜手段12により第1の銅薄膜が成膜され、更に成膜処理手段13によって異種金属薄膜が成膜される。
【0036】
このようにして片方の面に下地金属層と銅薄膜及び異種金属薄膜が成膜された後、有機樹脂フィルムFは巻取ロール9で巻き取られる。尚、有機樹脂フィルムFはキャンロール6で冷却されるので、成膜工程における温度ダメージを抑えることができる。以上の操作によって、有機樹脂フィルムFの片方の面に第1の銅薄膜が形成された片面積層基板が得られる。
【0037】
その後、ロール状に巻取った上記片面積層基板を巻取ロール9から取り外し、第1の銅薄膜が成膜されていない他方の面に第2の銅薄膜を成膜できるように巻出ロール8にセットする。以降は上記と同様に操作して、有機樹脂フィルムFの他方の面に第2の銅薄膜を成膜した後、巻取ロール9に巻き取ることにより、両面積層基板を得ることができる。尚、上記の方法では、第2の銅薄膜の表面には異種金属薄膜を成膜する必要がないので、第2の銅薄膜の成膜時には異種金属薄膜の成膜処理手段13の起動を停止する。
【0038】
次に、下地金属層の成膜手段11、銅薄膜の成膜手段12及び異種金属薄膜成膜処理手段13について、更に詳細に説明する。これらの成膜手段11、12、13は、乾式めっき法により有機樹脂フィルムに金属膜を成膜するものである。乾式めっき法による代表的な成膜方法には、物理的成膜法である真空蒸着法やスパッタリング法、あるいは化学的成膜法である化学的気相成長法(CVD)等があり、いずれかの成膜方法を採用することができる。
【0039】
上記真空蒸着法は、抵抗加熱や電子銃照射により蒸発源の成膜材料を加熱蒸発させ、基材上に堆積させて薄膜を形成する方法である。薄膜の密着性向上や緻密化を目的として、蒸着の際に蒸発源と基材との間にプラズマを形成するプラズマアシスト蒸着法も知られている。また、上記スパッタリング法は、成膜材料をプレート状に成形したターゲットを用い、このターゲットを放電用電極として基材とターゲットの間にプラズマを発生させ、電位勾配を用いてターゲット表面にイオンを照射衝突させることによりターゲット物質を叩き出し、基材上にターゲット物質の薄膜を形成する方法である。
【0040】
一方、上記化学的気相成長法(CVD)は、基材近傍に無機物若しくは有機物又はこれらの混合物を原料ガスとして気化導入し、加熱やプラズマを用いて化学反応させることによって、基材上に薄膜を形成する方法である。プラズマを用いた場合、上記スパッタリング法と同様の装置構成を用いることも可能である。
【0041】
上記した成膜方法のいずれにおいても、成膜の際にプラズマを用いて有機樹脂フィルムの表面を前処理することによって、薄膜の密着性や緻密化の向上に効果があることが確認されている。本発明の銅薄膜の成膜においても、放電電極を有するプラズマ発生手段10を前処理室4内に設置し、直流又は交流の電圧を印加するか若しくは導波管を用いてマイクロ波を任意の場所に照射することによってプラズマを発生させ、有機樹脂フィルムFの表面を前処理することができる。
【0042】
上記成膜手段11により成膜する下地金属層、及び上記成膜手段13により成膜する異種金属薄膜の材質と膜厚は、その用途等に応じて適宜定めることができる。例えば、有機樹脂フィルムFの表面に、下地金属層と銅薄膜を成膜し、その銅薄膜の表面に電解銅めっきを行うことによって積層基板を作製する場合、積層基板用として公知の金属下地金属層、具体的にはニッケル又はニッケル合金、クロム又はクロム合金などを用いることができる。尚、異種金属薄膜の材質としては、先に例示したものがある。
【0043】
また、下地金属層の膜厚は7〜50nmの範囲が好ましく、異種金属薄膜の膜厚は上述したように2〜10nmの範囲で、且つ表面に異種金属薄膜を成膜すべき銅薄膜の膜厚の1/2以下であることが好ましい。尚、銅薄膜の膜厚は50〜500nmの範囲が好ましい。この銅薄膜上に更に電解銅めっきを施すことによって、銅層の膜厚が6μm以上の2層積層基板を得る。尚、乾式めっき法により膜厚6μm以上の銅層を成膜することができれば、電解銅めっきは不要となる。下地金属層と銅薄膜の膜厚は、有機樹脂フィルムFの搬送速度やスパッタリングカソードへの投入電力を適宜調整して定めることができる。
【0044】
本発明に使用される有機樹脂フィルムは、特に限定されるものでなく、公知の樹脂フィルムを使用することができる。例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体等のポリオレフィン、環状オレフィン共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル化合物共重合体;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物;ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル;ポリカーボネート;ポリフエニレンオキサイド;ポリ乳酸など生分解性樹脂;あるいはこれらの混合物であってよい。また、ポリイミドやエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂からなるものであってもよい。
【0045】
有機樹脂フィルムの寸法は、特に限定されるものでなく、その用途に応じて適宜定めることができるが、ロール・ツー・ロールで搬送させながら成膜する点やフレキシブルプリント配線基板用の両面積層基板に用いる点から、厚さが100μm以下及びフィルム長が100m以上であることが好ましい。
【0046】
以上説明したように、有機樹脂フィルムの両面に成膜された銅薄膜の片方の表面に異種金属薄膜を設けることによって、巻取圧が高かったり、銅薄膜に小さな突起があったり、銅薄膜の表面温度が高かったりといった状況下であっても、銅薄膜同士の局所的なくっつき(融着)という問題を回避することができる。
【0047】
これにより、有機樹脂フィルムの両面に、ピンホールなどの欠陥のない平滑な銅薄膜をきれいに成膜することでき、更品質の両面積層基板を製造することができる。更には、ロール状に巻き取られた両面積層基板は、ロール表面部分を除けば大気に直接曝されることがなくなるため、銅薄膜のピンホールの発生や密着性の低下などの品質劣化を抑制することができる。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
図1に示すようなロール・ツー・ロール成膜装置を用いて、両面積層基板を製造した。有機樹脂フィルムFには、厚み38μm、幅50cm、長さ2500mのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン(登録商標))を用いた。尚、巻出ロール8と巻取ロール9は、外径が17cmであり、幅は80cmであった。また、有機樹脂フィルムFの搬送速度は6m/分とした。
【0049】
下地金属層の成膜手段11のスパッタリングカソードにはクロム20質量%のニッケルクロム合金ターゲットを備え、銅薄膜の成膜手段12のスパッタリングカソードには銅ターゲットを備え、異種金属薄膜の成膜手段13のスパッタカソードにはニッケルターゲットを備えた。これらのスパッタリングカソードは、いずれもマグネトロンスパッタリングカソードとした。尚、プラズマ発生手段10には通常のプラズマ発生装置を用いた。
【0050】
ロール・ツー・ロール成膜装置の真空容器1の内部を到達圧力の10−4Paまで減圧した後、前処理室4、成膜室5a、5b、5cにアルゴンを導入して、それぞれ圧力を2Pa、0.3Pa、0.3Pa、0.3Paに調節した。次に、プラズマ発生手段10に電力を投入して有機樹脂フィルムFの表面を前処理すると共に、成膜手段11、12、13の各スパッタリングカソードに電力を投入して有機樹脂フィルムFの片方の面に、20%Cr−Niの下地金属層、Cu薄膜及びNiの異種金属薄膜を順に成膜した。その後、真空容器1内のアルゴンガスを置換した後、ロール状に巻き取った有機樹脂フィルムFを取り外した。
【0051】
上記成膜後の有機樹脂フィルムFの断面をTEM観察して、20%Cr−Niの下地金属層の膜厚が20nm、Cu薄膜の膜厚が150nm、及びNiの異種金属薄膜の膜厚が2nmであることを確認した。尚、上記前処理室4でのプラズマ発生手段10による有機樹脂フィルムFの前処理条件は、有機樹脂フィルムFのロット毎に製品特性、特に銅薄膜の密着強度が変化するために、ロット変更毎に予備試験を行って、改質条件の最適化を行ったうえで処理を実施した。
【0052】
上記のごとく片方の面に第1の銅薄膜及び異種金属薄膜を成膜したロール状の有機樹脂フィルムFを、真空容器1の巻出ロール6にセットし、上記片方の面への成膜時とは逆に巻き出しながら、上記と同様に前処理と、下地金属薄膜及び銅薄膜の成膜を行った。ただし、第2の銅薄膜の上には、異種金属薄膜を成膜しなかった。尚、有機樹脂フィルムFの搬送速度や投入電力などの成膜条件は、異種金属箔膜を除き、上記片方の面への成膜時と同じ条件とした。
【0053】
このように両面に銅薄膜を成膜し且つその片方の銅薄膜の表面に異種金属薄膜を成膜した有機樹脂フィルムFを巻取ロール9にロール状に巻き取った。その結果、巻取ロール9に巻き取られた有機樹脂フィルムFには局所的なくっつき(溶着)は全く起こらず、しわの発生もなかった。
【0054】
また、この銅薄膜の表面に成膜したNiの異種金属薄膜は、エッチング液としてそれぞれの濃度が5重量%の硫酸・塩酸混合液を用いたエッチングにより完全に除去することができた。更に、両面の銅薄膜に電解銅めっき処理を施すことにより、生産効率を低下させることなく、高い信頼性の両面積層基板を製造することができた。
【0055】
[実施例2]
上記実施例1と同様にして有機樹脂フィルムFの両面に下地金属層と銅薄膜を成膜したが、異種金属薄膜の成膜処理手段13のスパッタリングカソードを代えることによって、異種金属薄膜としてクロム(Cr)薄膜、7%Cr−Ni薄膜、7%Ti−Ni薄膜、銀(Ag)薄膜、アルミニウム(Al)薄膜、インジウム(In)薄膜をそれぞれ片面にのみ成膜した。
【0056】
このように両面に銅薄膜を成膜し且つその片方の銅薄膜の表面に異種金属薄膜を成膜した有機樹脂フィルムFを巻取ロール9にロール状に巻き取ったところ、巻取ロール9に巻き取られた有機樹脂フィルムFには局所的なくっつき(溶着)は全く起こらず、しわの発生もなかった。
【0057】
また、この銅薄膜の表面に成膜した異種金属薄膜は、エッチングにより完全に除去することができた。尚、エッチング液として、Cr薄膜にはアルカリ性エッチング液MLB−213(ローム・アンド・ハース電子材料(株)製)、7%Cr−Ni薄膜及び7%Ti−Ni薄膜にはそれぞれの濃度が5重量%の硫酸・塩酸混合液、Ag薄膜及びAl薄膜にはそれぞれの濃度が20重量%と5重量%のリン酸・硝酸混合液、In薄膜にはそれぞれの濃度が10重量%と4重量%の硫酸・過酸化水素混合液を用いた。更に、両面の銅薄膜に電解銅めっき処理を施すことにより、いずれも、生産効率を低下させることなく、高い信頼性の両面積層基板を製造することができた。
【0058】
[比較例]
上記実施例1と同じロール・ツー・ロール成膜装置を用い、異種金属薄膜の成膜手段13での異種金属薄膜の成膜を行わない以外は上記実施例1と同様にして、有機樹脂フィルムFの両面に下地金属層と銅薄膜とを成膜した。その際、有機樹脂フィルムFの他方の面に第2の銅薄膜を成膜するとき、有機樹脂フィルムFの搬送速度(巻取速度)を種々変化させて不具合の状況を調べた。
【0059】
その結果、第2の銅薄膜の成膜時における有機樹脂フィルムFの搬送速度を、第1の銅薄膜の成膜時における搬送速度の1/2以下とした場合には問題なかったが、1/2を超えると巻き取られた銅薄膜同士の局所的なくっつきが認められるようになった。更に、上記搬送速度が第1の銅薄膜の成膜時における搬送速度の3/4になると局所的なくっつきとしわの発生が増え、更に同じ搬送速度になると頻繁にくっつきが発生し、テンション異常で装置が途中で停止した。
【0060】
このことから、銅薄膜の表面に異種金属薄膜を成膜する本発明によれば、異種金属薄膜を設けない従来の方法に比べて安全に成膜できる搬送速度を2倍にまで高めても、銅薄膜のくっつきやしわの発生がなく高信頼性の両面積層基板を安定して製造できることが分る。
【符号の説明】
【0061】
1 真空容器
2 巻出室
3 巻取室
4 前処理室
5a、5b、5c 成膜室
6 キャンロール
7 真空排気手段
8 巻出ロール
9 巻取ロール
10 プラズマ発生手段
11 下地金属層の成膜手段
12 銅薄膜の成膜手段
13 異種金属薄膜の成膜手段
F 有機樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気下においてロール・ツー・ロールで搬送される有機樹脂フィルムの両面に乾式めっき法により銅薄膜を成膜する両面積層基板の製造方法において、両面に銅薄膜を成膜した有機樹脂フィルムをロール状に巻き取る前に、該有機樹脂フィルムのいずれか片方の面に成膜した銅薄膜の表面に、該銅薄膜とは異なる金属からなる異種金属薄膜を乾式めっき法により成膜することを特徴とする両面積層基板の製造方法。
【請求項2】
前記有機樹脂フィルムの片方の面に銅薄膜を成膜し、引き続き該銅薄膜の表面に異種金属薄膜を成膜した後、該有機樹脂フィルムの他方の面に銅薄膜を成膜することを特徴とする、請求項1に記載の両面積層基板の製造方法。
【請求項3】
前記異種金属薄膜の膜厚を、2nm以上で、該異種金属薄膜を表面に成膜すべき銅薄膜の膜厚の1/2以下とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の両面積層基板の製造方法
【請求項4】
前記異種金属薄膜が、アルミニウム、鉄、スズ、白金、インジウム、金、銀、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、チタン、モリブデンから選択される少なくとも1種の金属又はこれら金属のいずれかを含む合金からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の両面積層基板の製造方法。
【請求項5】
前記異種金属薄膜は、次工程で前記銅薄膜上に銅めっきを施す前に除去されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の両面積層基板の製造方法。
【請求項6】
前記異種金属薄膜をエッチングにより除去することを特徴とする、請求項5に記載の両面積層基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−42100(P2011−42100A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191622(P2009−191622)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】