中和プロラクチン受容体抗体およびそれらの治療的使用
本発明は、中和プロラクチン受容体抗体002-H08、および抗原結合性フラグメント、それらを含有する医薬組成物、ならびにプロラクチン受容体によって媒介される良性障害および適応症、例えば子宮内膜症、腺筋症、非ホルモン雌性避妊、良性乳房疾患および乳房痛、泌乳阻害、良性前立腺過形成、類線維腫、高および正常プロラクチン血性脱毛の処置または防止、ならびに乳腺上皮細胞増殖を阻害するための併用ホルモン療法での共処置におけるそれらの使用に関する。本発明の抗体はプロラクチン受容体媒介シグナリングをブロックする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロラクチン受容体抗体002-H08に関し、プロラクチン受容体に特異的に結合してそれを中和する組換え抗原結合領域および抗体ならびにそのような抗原結合領域を含有する機能的フラグメント、前記抗体をコードする核酸配列、それを含有するベクター、それらを含有する医薬組成物、およびプロラクチン受容体媒介シグナリング(prolactin receptor mediated signaling)の阻害によって利益を受ける良性疾患および適応、例えば子宮内膜症、腺筋症、非ホルモン雌性避妊(non-hormonal female contraception)、良性乳房疾患(benign breast disease)、乳房痛(mastalgia)、泌乳阻害(lactation inhibition)、良性前立腺過形成、類線維腫、ならびに高および正常プロラクチン血性脱毛の処置または防止、ならびに乳腺上皮細胞増殖を阻害するための併用ホルモン療法(combined hormone therapy)での共処置における、それらの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜症、腺筋症、非ホルモン雌性避妊、良性乳房疾患、乳房痛、泌乳阻害、良性前立腺過形成、類線維腫、高および正常プロラクチン血性脱毛などといったさまざまな良性疾患および適応の処置、ならびに併用(すなわちエストロゲン+プロゲスチン)ホルモン療法における乳腺上皮細胞増殖の防止には、未だ満たされていない医学的ニーズがある。
【0003】
プロラクチン(PRL)は199個のアミノ酸から構成されるポリペプチドホルモンである。PRLは、成長ホルモン(GH)・胎盤性ラクトゲン(PL)ポリペプチドホルモンファミリーに属し、下垂体のラクトトローフ細胞(lactotroph cell)ならびにいくつかの下垂体外組織、例えばリンパ球、乳腺上皮細胞、子宮筋層、および前立腺において合成される。2つの異なるプロモーターが下垂体および下垂体外PRL合成を調節する(BioEssays 28:1051-1055, 2006)。
【0004】
PRLは、クラス1サイトカイン受容体スーパーファミリーに属する1回膜貫通受容体であるPRL受容体(PRLR)に結合する(Endocrine Reviews 19:225-268, 1998)。PRLRは3つの異なるアイソフォーム、すなわち短鎖型、長鎖型、および中間型で存在し、これらはその細胞質テールの長さによって識別することができる。リガンドが結合すると、逐次的プロセスがPRLRの活性化をもたらす。PRLは一つのPRLR分子とその結合部位1を介して相互作用し、次にその結合部位2を介して、もう一つの受容体分子を引きつけることにより、PRLRの活性二量体をもたらす。PRLRの二量体化は、JAK/STAT(ヤヌスキナーゼ/シグナル伝達性転写因子)経路の優性活性化(predominant activation)につながる。受容体が二量体化すると、受容体と会合しているJAK(主にJAK2)が互いをトランスリン酸化し、活性化する。さらに、PRLRもリン酸化され、STATなどのSH2ドメイン含有タンパク質に結合することができる。受容体に結合したSTATは続いてリン酸化され、受容体から解離して核内に移行し、そこで、ターゲット遺伝子の転写を刺激する。さらに、PRLRによるRas-Raf-MAPK経路の活性化および細胞質srcキナーゼの活性化も記述されている(Endocrine Reviews 19:225-268, 1998に総説がある)。
【0005】
PRLR媒介シグナリングは、乳腺発生、泌乳、生殖、乳房および前立腺腫瘍成長、自己免疫疾患、全般的成長および代謝、ならびに免疫調整など、さまざまなプロセスにおいて役割を果たす(Endocrine Reviews 19:225-268, 1998;Annu. Rev. Physiol. 64:47-67,2002)。
【0006】
PRLR媒介シグナリングの完全な妨害は、現時点では、可能でない。PRLR媒介シグナリングを妨害する唯一の方法は、ブロモクリプチンや他のドーパミン受容体2アゴニストの使用による下垂体PRL分泌の阻害である(Nature Clinical Practice Endocrinology and Metabolism 2(10): 571-581, 2006)。しかしこれらの薬剤は、下垂体PRL合成の阻害をうまく補償してほとんど損なわれていないPRLR媒介シグナリングをもたらすことができる下垂体外PRL合成を抑制しない(Endocrine Reviews 19:225-268,1998)。それゆえに、プロラクチンは乳がんまたは全身性狼蒼もしくは関節リウマチなどの自己免疫疾患と関連づけられているとはいえ、ドーパミン2型受容体アゴニストがこれらの疾患を患っている患者において有益でなかったことは、驚くにはあたらない(Breast Cancer Res. Treat. 14:289-29, 1989;Lupus 7:414-419, 1998)。乳癌または自己免疫疾患においてそれぞれ中枢的な役割を果たす乳がん細胞またはリンパ球における局所的プロラクチン合成は、ドーパミン受容体アゴニストによってはブロックされなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
子宮内膜症、腺筋症、非ホルモン雌性避妊、良性乳房疾患および乳房痛、泌乳阻害、良性前立腺過形成、類線維腫、高および正常プロラクチン血性脱毛などの良性疾患および適応の処置または防止の手段、ならびに乳腺上皮細胞増殖を防止するための、併用ホルモン療法における共処置の手段を提供しようとする上述の試みにもかかわらず、このニーズを満たす化合物はまだない。それゆえに、これらの良性疾患および適応のための治療薬である化合物を提供することによって、この課題を解決することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
PRLRに特異的であり、PRLRに対して高いアフィニティを有し、それゆえにPRLR媒介シグナリングを中和する抗体であって、対象に治療的利益を与えることができる新規抗体が、ここに同定された。
【0009】
中和PRLR抗体によるPRLR活性化の阻止は、PRLR媒介シグナリングの完全な阻害をもたらす。これに対して、ドーパミン受容体アゴニストは、下垂体プロラクチン分泌量の上昇に呼応して増進するPRLR媒介シグナリングを妨害することができるに過ぎず、活性化PRLR変異や局所的に上昇したプロラクチン産生量に起因して増進するPRLR媒介シグナリングを妨害しない。
【0010】
それゆえに、課題は、PRLRに高いアフィニティで結合し、PRLR媒介シグナリングを効率よく中和する抗体であって、好ましくは、アカゲザル(Macacca mulatta)およびカニクイザル(Macacca fascicularis)、マウス(Mus musculus)またはラット(Rattus norvegicus)などの他の種からのPRLRに交差反応する、上述の良性疾患および適応を処置するための抗体002-H08およびその抗原結合性フラグメントまたはその変異体(variant)を提供することによって解決される。
【0011】
出願WO2008/022295(Novartis)および米国特許第7,422,899号(Biogen)には、いくつかのPRLR抗体が既に記述されている。本発明は、PRLRに特異的であり、PRLRに対して高いアフィニティを有し、それゆえにPRLR媒介シグナリングを中和する抗体であって、対象に治療的利益を与えることができる新規抗体の発見に基づいている(新規抗体の配列は配列番号36、42、48、および54に示すとおりである)。本発明の抗体(これはヒト抗体もしくはヒト化抗体またはキメラ抗体またはヒト改変(human engineered)抗体であることができる)は、以下に詳述する数多くの状況において使用することができる。
【0012】
それゆえに、本発明の目的は、抗体または抗原結合性フラグメントであって、該抗体がプロラクチン受容体媒介シグナリングを拮抗するものである。
【0013】
新規抗体「006-H08」、「002-H06」、「006-H07」、「001-E06」、「005-C04」は、対応出願の主題(subject matter)である。
【0014】
マウス疾患モデルにおけるこれらの抗体のインビボ特徴づけは、マウスプロラクチン受容体に対して交差反応性を呈する抗体でのみ可能である。対応出願において開示されている抗体005-C04だけが、マウスプロラクチン受容体に対して十分な交差反応性を示すので、これが、マウスインビボモデルにおいて使用することのできる唯一の抗体である。それゆえに、この抗体を使って得られた結果が、代用物として、対応出願に開示されている他の中和プロラクチン受容体抗体の全てについて、分析された疾患モデルにおける一般的な効力を証明することになる。
【0015】
抗体をいくつかの細胞系で特徴づけることにより、PRLR媒介シグナリングの不活化を扱う異なるリードアウトパラダイム(readout paradigm)で、それらの種特異性および力価(potency)ならびに効力(efficacy)を決定した(実施例5〜10参照)。増殖アッセイは、ラットNb2-11細胞(実施例6、図6)またはヒトPRLR(実施例5、図5)もしくはマウスPRLR(実施例10、図10)を安定にトランスフェクトしたBa/F細胞を使って行った。Novartis抗体XHA06.983がラットおよびマウスPRLRに対して活性を示さなかったのに対し、Novartis抗体XHA06.642は、ラットPRLRには活性を示したが、マウスPRLRには活性を示さなかった。XHA06.642はヒトPRLR媒介シグナリングを阻害した(実施例5、7、8)。対応出願の新規抗体006-H08は、ヒトPRLRを安定にトランスフェクトしたBa/F細胞の増殖阻害に関して、最も高い力価を示した(実施例5、図5)。対応出願の新規抗体005-C04は、マウス(実施例10、9)およびヒト(実施例5、7、8)PRLRに対する交差反応性を示す唯一の抗体だった。それゆえに、Novartis抗体XHA06.642とは対照的に、新規抗体005-C04は、マウスモデルにおいてPRLR媒介シグナリングの阻害を試験するのに適している。本願または対応出願に記載されている他の抗体は全てヒトPRLRに特異的である。細胞増殖アッセイ(実施例5、6、10)の他にも、ヒト(実施例8)またはマウス(実施例9)PRLRを安定にトランスフェクトし、かつLHRE(乳腺刺激ホルモン応答エレメント)の制御下にあるルシフェラーゼレポーター遺伝子を一過性にトランスフェクトしたHEK293細胞を使って、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。これらの系を使用することにより、Novartis抗体XHA06.642はマウスPRLR媒介シグナリングを効率よくブロックできないことが、再び明白になった(実施例9)。対照的に、新規抗体005-C04(対応出願)は、マウスPRLRによるルシフェラーゼレポーター遺伝子活性化をブロックした(実施例9)。ヒトT47D細胞におけるSTAT5リン酸化を、ヒトPRLRに対する抗体の阻害活性を分析するために、追加のリードアウトとして使用した(実施例7、図7)。予想どおり、非特異的抗体は、分析した全ての実験パラダイムにおいて不活性であった。
【0016】
本発明は、抗PRLR抗体を与えることによって、PRLR陽性細胞の成長ならびに上述の良性疾患および適応症の進行を阻害するための方法に関する。PRLRの細胞外ドメイン(ECD)(配列番号70)または配列番号70のヒト多型変異体、例えばPNAS 105 (38), 14533, 2008およびJ. Clin. Endocrinol. Metab. 95 (1), 271, 2010に記載されているI146LおよびI76V変異体などに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体、その抗原結合性フラグメント、ならびに抗体およびフラグメントの変異体が提供される。
【0017】
本発明のもう一つの目的は、プロラクチン受容体の細胞外ドメインのエピトープおよびそのヒト多型変異体に結合する抗体であって、プロラクチン受容体の細胞外ドメインのアミノ酸配列が配列番号70に対応し、核酸配列が配列番号71に対応するものである。
【0018】
本発明の抗体、抗原結合性フラグメント、ならびに抗体およびフラグメントの変異体は、軽鎖可変領域および重鎖可変領域から構成される。本発明において考えられる抗体または抗原結合性フラグメントの変異体は、PRLRに対する抗体または抗原結合性抗体フラグメントの結合活性が維持されている分子である(配列については表5を参照されたい)。
【0019】
それゆえに、本発明の目的の一つは、抗体002-H08またはその所定の成熟変異体と競合する、抗体または抗原結合性フラグメントである。これらの抗体の配列を表5に示す。
【0020】
さらにもう一つの態様において、抗体または抗原結合性フラグメントであって、
a.可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列が、可変重鎖ドメインについては配列番号36と、また可変軽鎖ドメインについては配列番号42と、少なくとも60%、より好ましくは70%、さらに好ましくは80%、または90%、さらに好ましくは95%同一であるか、または
b.CDRのアミノ酸配列が、重鎖ドメインについては配列番号3、9、および14と、また可変軽鎖ドメインについては配列番号20、24、および31と、少なくとも60%、より好ましくは70%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、またはさらに好ましくは95%同一であるもの、
が記載されている。
【0021】
ある実施形態では、上述した抗体のCDRを含む抗体または抗原結合性フラグメントであって、
可変重鎖が配列番号3、9および14に対応するCDR配列を含有し、可変軽鎖が配列番号20、24、および31に対応するCDR配列を含有するもの。
【0022】
ある実施形態では、抗体002-H08および抗原結合性フラグメントが開示され、ここで、
抗体002-H08は、配列番号48に示す核酸配列および配列番号36に示すアミノ酸配列と対応する可変重鎖領域、ならびに
配列番号54に示す核酸配列および配列番号42に示すアミノ酸配列と対応する可変軽鎖領域
を含む。
【0023】
さらにもう一つの態様において、開示される抗体または抗原結合性フラグメントは、配列番号3、9、14、20、24、および31に対応するCDRのうち、1、2、3、4、5、または6個を含有する。
【0024】
本発明のもう一つの実施形態において、抗体002-H08は、配列番号70、アミノ酸位置1〜210によって表されるアミノ酸配列を有するPRLRの1つ以上の領域に特異的に結合するか、前記1つ以上の領域に対して高いアフィニティを有する抗原結合領域からなり、ここで、アフィニティは、少なくとも100nM、好ましくは約100nM未満、より好ましくは約30nM未満であり、約10nM未満のアフィニティはさらに好ましく、1nM未満のアフィニティはさらに好ましく、30pM未満のアフィニティはさらに好ましい。
【0025】
また、重鎖定常部(heavy constant)が修飾されたまたは無修飾のIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である上述の抗体002-H08も、本発明の目的である。
【0026】
表1に、直接固定化した抗体上でのPRLRの単量体型細胞外ドメイン(配列番号70)による表面プラズモン共鳴(Biacore)で決定された、本発明の抗体の解離定数および解離速度を要約する。
[表1]表面プラズモン共鳴により、抗PRLPヒトIgG1分子に関して決定された、HEK293細胞中で発現したヒトPRLRの細胞外ドメインの一価(monovalent)解離定数および解離速度
【表1】
【0027】
蛍光活性化細胞選別(FACS)とスキャッチャード解析との組合せによって決定される細胞ベースのアフィニティ決定には、IgG1フォーマットを使用した。
【0028】
表2は、ヒト乳がん細胞株T47Dおよびラットリンパ腫細胞株Nb2への代表的なIgG抗体の結合力(binding strength)を表す。
[表2]ヒト乳癌細胞株T47Dおよびラットリンパ腫細胞株Nb2上でFACSによって決定された抗PRLR抗体の細胞ベースの結合力価(binding potency)
【表2】
【0029】
抗体生成
ヒトおよびマウスPRLRを機能的にブロックすることができる一群の抗体を単離するために、scFvフラグメントとFabフラグメントをそれぞれ発現する2つのフォーマットの、Bioinvent製のn-CoDeR(登録商標)と呼ばれる合成ヒト抗体ファージディスプレイライブラリー(Soederlindら, 2000, Nature BioTechnology. 18, 852-856)を、並行して調べた。scFv選択またはFab選択に使用したターゲットは、ビオチン化変異体(NHS-LCビオチン、Pierce)および非ビオチン化変異体として適用したヒトPRLRの可溶性ECD(配列番号70のアミノ酸位置1〜210)およびマウスPRLRの可溶性ECD(配列番号72のアミノ酸位置1〜210)、ならびにPRLRを発現するヒト乳がん細胞株T47Dであった。
【0030】
ファージディスプレイ技術(PDT)におけるさまざまなアプローチの組み合わせを使用して、高アフィニティのPRLR特異的なヒトモノクローナル抗体を、タンパク質パンニングと全細胞パンニングの組み合せおよび特別なツールの開発によって単離した。これらのパンニングツールおよびスクリーニング方法には、Fcドメインとの融合物として組換え発現させたヒトおよびマウスPRLRのECD(R&D Systems、それぞれカタログ番号1167-PRおよび1309-PR;ヒトIgG1 Fcドメイン、ヒトIgG1の位置100〜330にそれぞれ融合された、それぞれ配列番号70および72の位置1〜216)、6ヒスチジンタグとの融合物として組換え発現させたヒトPRLRの細胞外ドメイン(配列番号70)、それぞれヒトおよびマウスPRLRをそれぞれ安定にトランスフェクトしたHEK293およびマウスリンパ腫細胞株Ba/F、ならびにそれぞれPRLRを天然に発現する乳がん細胞株T47Dおよびラットリンパ腫細胞Nb2が含まれると共に、細胞表面上にディスプレイされたPRLRに優先的に結合する、マウスおよびラット由来のPRLRに対して交差反応性である、中和抗体を同定することが可能なパンニング手法およびスクリーニングアッセイの開発が含まれる(実施例6および10参照)。
【0031】
スクリーニングは、組換え発現させた抗原を用いるELISA試験において、まず最初にヒトPRLRに関して、そして最終的にマウスPRLRに関して、バインダー(binder)を同定することによって行った。次に、T47D細胞でのFabおよびscFvフラグメントの細胞結合をFACS分析によって調べた後、細胞内シグナリングに対するこれらの薬剤の中和活性を試験した。この目的のために、T47D細胞におけるPRLR、STAT5およびERK1/2のリン酸化の阻害を決定した(実施例14参照)。最も良い機能ブロッキング(function blocking)scFvおよびFabを、完全なIgG1分子へと変換し、PRLRのECDに対する一価アフィニティ、ならびにルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイおよびプロラクチンに依存して成長する細胞を使った増殖アッセイにおける阻害活性について試験した。これらの特別な方法の組み合わせにより、本発明の主題である新規抗体「002-H08」ならびに対応出願の主題である抗体「006-H08」、「002-H06」、「006-H07」、「001-E06」、「005-C04」の単離が可能になった。
【0032】
ペプチド変異体
本発明の抗体は、ここに提供する具体的ペプチド配列に限定されない。むしろ、本発明はこれらのポリペプチドの変異体も包含する。本開示ならびに従来から利用できる技術および参考文献を参照して、当業者は、本明細書に開示する抗体の機能的変異体を製造し、試験し、利用することができ、それと同時に、PRLRに結合し、PRLRを機能的にブロックする能力を有する変異体が、本発明の範囲に包含されることを理解するであろう。
【0033】
変異体には、例えば、本明細書に開示するペプチド配列と比較して改変された相補性決定領域(CDR)(超可変)および/またはフレームワーク(FR)(可変)ドメイン/位置を少なくとも1つは有している抗体が含まれうる。この概念をより良く説明するために、抗体構造を以下に簡単に説明する。
【0034】
抗体は2本のペプチド鎖で構成され、それぞれが1つ(軽鎖)または3つ(重鎖)の定常ドメインと可変領域(VL、VH)を含有し、このうち後者は、いずれも、4つのFR領域(VH:HFR1、HFR2、HFR3、HFR4;VL:LFR1、LFR2、LFR3、LFR4)と、その間に配置された3つのCDR(VL:LCDR1、LCDR2、LCDR3;VH:HCDR1、HCDR2、HCDR3)から構成されている。抗原結合部位は1つ以上のCDRによって形成されるが、FR領域はCDRに構造的フレームワークを提供しており、それゆえに、抗原結合において重要な役割を果たしている。CDRまたはFR領域中のアミノ酸残基を1つ以上改変することによって、当業者は、変異したまたは多様化した抗体配列をルーチンに生成させることができ、それらを、例えば新しい性質または改良された性質を求めて、抗原に対してスクリーニングすることができる。
【0035】
図12に、可変ドメインVLおよびVH中の各アミノ酸位置に番号を付与するためのスキームを示す。表3(VH)および表4(VL)では、本発明の一定の抗体についてCDR領域を詳述し、所与の位置におけるアミノ酸を互いに比較すると共に、対応するコンセンサス配列または「マスター遺伝子(master gene)」配列(ここではCDR領域が「X」で記されている)と比較している。表5および表6は、本発明において提供される抗体、抗体フラグメントおよびPRLR変異体に配列番号を割り当てるのに役立つ。
【0036】
[表3]VH配列
【表3】
[表4]VL配列
【表4】
[表5]抗体の配列
【表5】
[表6]PRLR変異体の配列
【表6】
【0037】
当業者は、表3、4および5のデータを使って、本発明の範囲に包含されるペプチド変異体を設計することができる。変異体は1つ以上のCDR領域内のアミノ酸を変化させることによって構築することが好ましく、また変異体は、1つ以上の改変されたフレームワーク領域(FR)も有しうる。例えば、ペプチドFRドメインが改変されていてもよく、そこでは、生殖細胞系配列と比較して残基に変動がある。
【0038】
新規抗体と、図12に記載する対応コンセンサス配列または「マスター遺伝子」配列との比較に関して、変化させることができる候補残基には、例えば次に挙げるものが含まれる:
・VH 006-H08(配列番号34)の位置75にある残基リジン(K)をグルタミン(Q)に
・VH 006-H08(配列番号34)の位置108にある残基ロイシン(L)をメチオニン(M)に
・VH 006-H08(配列番号34)の位置110にある残基スレオニン(T)をイソロイシン(I)に
・VH 002-H08(配列番号36)の位置67にある残基フェニルアラニン(F)をロイシン(L)に。
【0039】
さらにまた、変異体は、成熟(maturation)によって、すなわち、ある抗体を最適化のための出発点として使用し、その抗体中の1つ以上のアミノ酸残基、好ましくは1つ以上のCDR中のアミノ酸残基を多様化し、その結果生じた一群の抗体変異体を、改良された性質を有する変異体を求めてスクリーニングすることによって得ることもできる。特に好ましいのは、VLのLCDR3、VHのHCDR3、VLのLCDR1および/またはVHのHCDR2中の1つ以上のアミノ酸残基の多様化である。多様化は、トリヌクレオチド変異誘発(trinucleotide mutagenesis)(TRIM)技術を使って一群のDNA分子を合成することによって行うことができる[Virnekaes, B., Ge, L., Plueckthun, A., Schneider, K.C., Wellnhofer, G., and Moroney S.E. (1994) Trinucleotide phosphoramidites: ideal reagents for the synthesis of mixed oligonucleotides for random mutagenesis. Nucl. Acids Res. 22, 5600]。
【0040】
保存的アミノ酸変異体
本明細書に記載する抗体ペプチド配列の全体的分子構造を保存しているポリペプチド変異体を作製することができる。個々のアミノ酸の性質を考えれば、いくつかの合理的な置換が、当業者にはわかるだろう。アミノ酸置換、すなわち「保存的置換」は、例えば、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行うことができる。
【0041】
例えば、(a)非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが含まれ;(b)極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが含まれ;(c)陽性荷電(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン、およびヒスチジンが含まれ;(d)陰性荷電(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれる。置換は、典型的には、(a)〜(d)のグループ内で行うことができる。また、グリシンおよびプロリンは、αヘリックスを破壊するその能力に基づいて、互いに置換することができる。また、アラニン、システイン、ロイシン、メチオニン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンおよびリジンなどといった一定のアミノ酸は、αヘリックス中に見いだされることの方が多く、一方、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンおよびスレオニンは、βプリーツシート中に見いだされることの方が多い。グリシン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、およびプロリンはターン中によく見いだされる。いくつかの好ましい置換は、次に挙げるグループ内で行うことができる:(i)SおよびT;(ii)PおよびG;ならびに(iii)A、V、LおよびI。既知の遺伝暗号、組換え技法および合成DNA技法を考慮すれば、当業者は、保存的アミノ酸変異体をコードするDNAを容易に構築することができる。
【0042】
本明細書において、2つのポリペプチド配列間の「配列同一性」とは、それら配列間で同一なアミノ酸の百分率を示す。「配列相同性」は、同一であるか、または保存的アミノ酸置換を示すアミノ酸の百分率を示す。本発明の好ましいポリペプチド配列は、CDR領域において、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%または80%、さらに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する。好ましい抗体は、CDR領域において、少なくとも80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%の配列相同性も有する。
【0043】
本発明のDNA分子
本発明は本発明の抗体をコードするDNA分子にも関係する。これらの配列には、配列番号48、54に示すDNA分子が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0044】
本発明のDNA分子は本明細書に開示する配列に限定されるわけではなく、その変異体も包含する。本発明に包含されるDNA変異体は、ハイブリダイゼーションにおけるその物理的性質に言及することによって記述することができる。DNAを使ってその相補体(complement)を同定することができ、DNAは二本鎖であることから、核酸ハイブリダイゼーション技法を使って、その等価物またはホモログを同定することができることは、当業者にわかるであろう。ハイブリダイゼーションが100%未満の相補性で起こりうることもわかるであろう。しかし、条件を適当に選択すれば、DNA配列を特定のプローブに対するその構造的関連性に基づいて弁別するために、ハイブリダイゼーション技法を使用することができる。そのような条件に関する指針については、Sambrookら, 1989[Sambrook, J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T. (1989)「Molecular Cloning: A laboratory manual」(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 米国コールドスプリングハーバー)]およびAusubelら, 1995[Ausubel, F. M., Brent, R., Kingston, R. E., Moore, D. D., Sedman, J. G., Smith, J. A., & Struhl, K.編 (1995)「Current Protocols in Molecular Biology」ニューヨーク: John Wiley and Sons]を参照されたい。
【0045】
2つのポリヌクレオチド配列間の構造類似性は、それら2つの配列が互いにハイブリダイズするであろう条件の「ストリンジェンシー」の関数として表現することができる。本明細書において使用する用語「ストリンジェンシー」は、その条件がハイブリダイゼーションを嫌う度合を指す。ストリンジェントな条件はハイブリダイゼーションを強く嫌うので、そのような条件下では、構造的に最も近縁の分子だけが互いにハイブリダイズするであろう。逆に、非ストリンジェント条件は、低い構造的関連性を示す分子のハイブリダイゼーションにとって有利になる。それゆえに、ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、2つの核酸配列の構造的関係と直接的に相関する。次の関係は、ハイブリダイゼーションと関連性とを相関させるのに役立つ(式中、Tmは核酸二重鎖の融解温度である):
a.Tm=69.3+0.41(G+C)%
b.二重鎖DNAのTmは、ミスマッチ塩基対の数が1%増加するごとに1℃低下する。
c.(Tm)μ2 −(Tm)μ1=18.5log10μ2/μ1
式中、μ1およびμ2は2つの溶液のイオン強度である。
【0046】
ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、総DNA濃度、イオン強度、温度、プローブサイズおよび水素結合を破壊する薬剤の存在などといった数多くの因子の関数である。ハイブリダイゼーションを促進する因子には、高いDNA濃度、高いイオン強度、低温、長いプローブサイズ、および水素結合を破壊する薬剤の不在が含まれる。ハイブリダイゼーションは、典型的には、「結合」段階と「洗浄」段階の二段階で行われる。
【0047】
まず最初に、結合段階では、ハイブリダイゼーションに有利な条件下で、プローブをターゲットに結合させる。この段階では、通常、温度を変えることによって、ストリンジェンシーが制御される。高ストリンジェンシーの場合、短い(<20nt)オリゴヌクレオチドプローブを使用するのでない限り、温度は通常、65℃〜70℃である。代表的なハイブリダイゼーション溶液は、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト溶液および100μgの非特異的キャリアDNAを含む[Ausubelら, section 2.9, supplement 27 (1994)]。もちろん、異なっているが機能的には等価なバッファー条件も、数多く知られている。関連性の程度が低い場合は、低い温度を選ぶことができる。低ストリンジェンシー結合温度は約25℃〜40℃である。中ストリンジェンシーは少なくとも約40℃〜約65℃未満である。高ストリンジェンシーは少なくとも約65℃である。
【0048】
次に、過剰のプローブを洗浄によって除去する。よりストリンジェントな条件が通常、適用されるのは、この段階である。したがって、ハイブリダイゼーションによって関連性を決定する際に最も重要なのは、この「洗浄」段階である。洗浄溶液は、典型的には、より低い塩濃度を含有する。模範的な中ストリンジェンシー溶液の一つは2×SSCおよび0.1%SDSを含有する。高ストリンジェンシー洗浄溶液は、(イオン強度で)約0.2×SSC未満の当量(equivalent)を含有し、好ましいストリンジェント溶液は約0.1×SSCを含有する。さまざまなストリンジェンシーに関連する温度は「結合」に関して上に述べたものと同じである。また、洗浄溶液は、典型的には、洗浄中に何度も交換される。例えば、典型的な高ストリンジェンシー洗浄条件は、55℃で30分間、2回洗浄すること、および60℃で15分間、3回洗浄することを含む。
【0049】
したがって、本発明の主題は、本発明の抗体および抗原結合性フラグメントをコードする単離された核酸配列である。
【0050】
本発明のもう一つの実施形態は、本発明の抗体をコードする上述の単離された核酸配列であって、核酸配列が表5に記載されているものである。
【0051】
したがって本発明は、高ストリンジェンシー結合および洗浄条件下において表5に示す分子にハイブリダイズする核酸分子を包含し、ここで、そのような核酸分子は、本明細書に記載する性質を有する抗体またはそのフラグメントをコードする。(mRNAの観点から見て)好ましい分子は、本明細書に記載するDNA分子の一つと少なくとも75%または80%(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%)の相同性または配列同一性を有するものである。この分子は、プロラクチン受容体媒介シグナリングをブロックする。
【0052】
機能的に等価な変異体
本発明の範囲に包含されるさらにもう一種類のDNA変異体は、それらがコードする産物を基準にして記述することができる。これらの機能的に等価な遺伝子は、遺伝暗号の縮重ゆえに、配列番号34〜45に見いだされるものと同じペプチド配列をコードするという事実を特徴とする。
【0053】
本明細書に記載するDNA分子の変異体をいくつかの異なる方法で構築できることはわかる。例えば、それらは、完全な合成DNAとして構築することができる。20〜約150ヌクレオチドの範囲のオリゴヌクレオチドを効率よく合成する方法は、種々、利用することができる。Ausubelら, section 2.11, Supplement 21 (1993)参照。Khoranaら, J. Mol. Biol. 72:209−217 (1971)によって初めて報告された方法で、オーバーラップしたオリゴヌクレオチドを合成し、アセンブルすることができる。Ausubelら, 前掲書, Section 8.2も参照されたい。好ましくは、適当なベクターへのクローニングが容易になるように、遺伝子の5'端および3'端にて操作(engineer)された好都合な制限部位を持つ合成DNAが設計される。
【0054】
ここに示すとおり、変異体を生成させる方法は、本明細書に開示するDNAの一つから出発し、次に部位特異的変異誘発を行うことである。Ausubelら, 前掲書, chapter 8, Supplement 37 (1997)参照。典型的な一方法では、ターゲットDNAを一本鎖DNAバクテリオファージ媒体中にクローニングする。一本鎖DNAを単離し、所望のヌクレオチド改変を含有するオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる。相補鎖を合成し、二本鎖ファージを宿主中に導入する。その結果生じる子孫の一部は所望の変種(mutant)を含有し、そのことは、DNA配列決定を使って確認することができるであろう。また、子孫ファージが所望の変種になる確率を増加させるさまざまな方法を利用することができる。これらの方法は当業者にはよく知られており、そのような変種を生成させるためのキットが市販されている。
【0055】
組換えDNAコンストラクトおよび発現
本発明はさらに、本発明のヌクレオチド配列の1つ以上を含む組換えDNAコンストラクトも提供する。本発明の組換えコンストラクトは、プラスミド、ファージミド、ファージまたはウイルスベクターなどのベクターと一緒に使用され、そこに本発明の抗体をコードするDNA分子が挿入される。
【0056】
コードされた遺伝子はSambrookら, 1989およびAusubelら, 1989に記載の技法によって作製することができる。あるいは、例えば合成装置(synthesizer)を使って、DNA配列を化学的に合成することもできる。例えば、引用によりそのまま本明細書に組み込まれる「Oligonucleotide Synthesis」(1984, Gait編, IRL Press, オックスフォード)に記載の技法を参照されたい。当業者は、可変ドメインをコードするDNAを、変異させたまたは変異させていないさまざまなヒトIgGアイソタイプまたはその誘導体の定常領域をコードする遺伝子フラグメントと、融合することができる。当業者は、組換えDNA技術を応用して、例えばグリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリンを3回含有する15アミノ酸長などのリンカーを使って、両方の可変ドメインを単鎖フォーマットに融合することができる。本発明の組換えコンストラクトは、コードされているDNAのRNA産物および/またはタンパク質産物を発現する能力を有する発現ベクターで構成される。ベクターは、オープンリーディングフレーム(ORF)に作動可能に連結されたプロモーターなどといった調節配列を、さらに含みうる。ベクターはさらに選択可能マーカー配列を含みうる。挿入されたターゲット遺伝子コード配列の効率的な翻訳には、特別な開始シグナルおよび細菌分泌シグナルも要求されうる。
【0057】
本発明は、本発明のDNAを少なくとも1つは含有する宿主細胞を、さらに提供する。宿主細胞は、それに合う発現ベクターを入手できるのであれば、基本的にどの細胞であってもよい。それは、例えば、哺乳動物細胞などの高等真核宿主細胞、酵母細胞などの下等真核宿主細胞であってもよいし、細菌細胞などの原核細胞であってもよい。宿主細胞への組換えコンストラクトの導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストランによるトランスフェクション(DEAE, dextran mediated transfection)、エレクトロポレーションまたはファージ感染によって達成することができる。
【0058】
細菌発現
細菌での使用に役立つ発現ベクターは、所望のタンパク質をコードする構造DNA配列を、適切な翻訳開始シグナルおよび翻訳終結シグナルと共に、機能的プロモーターに対して作動可能な読み枠(reading phase)で挿入することによって構築される。ベクターは、ベクターの維持が保証されるように、また所望であれば、宿主内での増幅がもたらされるように、1つ以上の表現型選択可能マーカーと複製起点とを含むであろう。形質転換に適した原核宿主には、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、およびシュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、およびスタフィロコッカス(Staphylococcus)属のさまざまな種が含まれる。
【0059】
細菌ベクターは、例えばバクテリオファージベース、プラスミドベース、またはファージミドベースのベクターであることができる。これらのベクターは、典型的には周知のクローニングベクターpB322(ATCC37017)の要素を含有する市販のプラスミドに由来する選択可能マーカーおよび細菌複製起点を含有することができる。適切な宿主株を形質転換し、その宿主株を適当な細胞密度まで成長させた後、選択したプロモーターを、適当な手段(例えば温度シフトまたは化学的誘導)によって抑制解除/誘導し、細胞をさらに一定期間培養する。細胞を典型的には遠心分離によって収穫し、物理的または化学的手段によって破壊し、その結果得られた粗抽出物を、さらなる精製のためにとっておく。
【0060】
細菌系では、発現させるタンパク質の使用目的に応じて、いくつかの発現ベクターを、有利に選択することができる。例えば、抗体を生成させるために、またはペプチドライブラリーをスクリーニングするために、前述のタンパク質を大量に生産しようとする場合は、例えば、精製が容易な融合タンパク質産物を高レベルに発現させるベクターが望ましいであろう。
【0061】
それゆえに、本発明の目的の一つは、本発明の新規抗体をコードする核酸配列を含む発現ベクターである。
【0062】
哺乳類発現および精製
哺乳動物宿主細胞発現のための好ましい調節配列には、哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を指示するウイルス要素、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)(CMVプロモーター/エンハンサー)、シミアンウイルス40(SV40)(例えばSV40プロモーター/エンハンサー)、アデノウイルス(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))およびポリオーマ由来のプロモーターおよび/またはエンハンサーが含まれる。ウイルス調節要素のさらなる説明およびその配列については、例えばStinskiによるU.S.5,168,062、BellらによるU.S.4,510,245、およびSchaffnerらによるU.S.4,968,615を参照されたい。組換え発現ベクターは複製起点および選択可能マーカーも含むことができる(例えばAxelらによるU.S.4,399,216、4,634,665およびU.S.5,179,017を参照されたい)。適切な選択可能マーカーには、そのベクターが導入されている宿主細胞にG418、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を付与する遺伝子が含まれる。例えばジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子は、メトトレキサートに対する耐性を付与し、neo遺伝子はG418に対する耐性を付与する。
【0063】
宿主細胞への発現ベクターのトランスフェクションは、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、およびDEAE-デキストラントランスフェクションなどの標準的技法を使って行うことができる。
【0064】
ここで提供される抗体、その抗原結合部分または誘導体を発現させるのに適した哺乳動物宿主細胞には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)[例えばR.J.KaufmanおよびP.A.Sharp (1982) Mol.Biol.159:601-621に記載されているようにDHFR選択可能マーカーと共に使用されるUrlaubおよびChasin, (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216-4220に記載のdhfr- CHO細胞を含む]、NSO骨髄腫細胞、COS細胞およびSP2細胞が含まれる。一部の実施形態では、発現したタンパク質が宿主細胞を成長させる培地中に分泌されるように、発現ベクターが設計される。抗体、その抗原結合部分または誘導体は、標準的なタンパク質精製法を使って培養培地から回収することができる。
【0065】
本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば限定するわけではないが、硫酸アンモニウム沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、プロテインAクロマトグラフィー、プロテインGクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーなどといった周知の方法によって、組換え細胞培養物から回収し精製することができる。高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)も精製に使用することができる。例えばColligan「Current Protocols in Immunology」または「Current Protocols in Protein Science」(John Wiley & Sons, ニューヨーク州ニューヨーク)(1997-2001)の例えばChapter 1、4、6、8、9、10を参照されたい(これらは、それぞれ引用により、全て本明細書に組み込まれる)。
【0066】
本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントには、天然精製産物(naturally purified product)、化学合成手法の生成物、ならびに例えば酵母、高等植物、昆虫および哺乳動物細胞を含む真核宿主から組換え技法によって生産された産物が含まれる。組換え生産手法に使用する宿主に依存して、本発明の抗体はグリコシル化体であることも、非グリコシル化体であることもできる。そのような方法は、多くの標準的な実験マニュアル、例えばSambrook, 前掲書, Sections 17.37-17.42;Ausubel, 前掲書, Chapters 10、12、13、16、18および20に記載されている。
【0067】
それゆえに、ベクターまたは核酸分子を含む宿主細胞も本発明の目的であり、ここで、宿主細胞は、哺乳動物細胞などの高等真核宿主細胞、酵母細胞などの下等真核宿主細胞であることができ、細菌細胞などの原核細胞であってもよい。
【0068】
本発明のもう一つの目的は、宿主細胞を使って抗体および抗原結合性フラグメントを生産する方法であって、宿主細胞を適切な条件下で培養し、該抗体を回収することを含む方法である。
【0069】
それゆえに、本発明のもう一つの目的は、本発明の宿主細胞を使って生産され、少なくとも95重量%均一にまで精製された、本発明の抗体である。
【0070】
子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)
子宮内膜症は、子宮内膜組織(腺および間質)が子宮腔外に存在することを特徴とする良性エストロゲン依存性婦人科障害である。子宮内膜症病変は主として骨盤腹膜上、卵巣内および直腸膣中隔内に見いだされる(Obstet. Gynecol. Clin. North. Am. 24:235-238, 1997)。子宮内膜症はしばしば不妊および月経困難症などの疼痛症状を伴う。また、多くの患者は自己免疫疾患を患っている(Hum. Reprod. 17(19):2715-2724, 2002)。内性子宮内膜症とも呼ばれている子宮腺筋症は、子宮に制限された子宮内膜症の亜型(subform)をいう。子宮腺筋症の場合、子宮内膜腺は子宮筋層および子宮壁に浸潤する。
【0071】
移植説(transplantation theory)によれば、患者でも健常女性でも、逆行性月経によって、子宮内膜フラグメントが腹膜腔中に流される(Obstet. Gynecol. 64:151-154, 1984)。患者の骨盤腔における子宮内膜症病変の樹立の成功には、4つの主要因が決定的に関与しているようである:
a)月経周期の分泌期後期において、健常女性の子宮内膜細胞はアポトーシス性になる。患者では、子宮内膜細胞のアポトーシスの程度が明確に低下している(Fertil. Steril. 69:1042-1047,1998)。それゆえに、患者では、逆行性月経によって腹膜腔中に流れ込んだ子宮内膜フラグメントが死なずにうまく移植性転移(implant)する確率が、健常女性より高い。
b)異所性子宮内膜フラグメントが腹膜内で移植性転移(implantation)に成功して、長期間にわたって生き残るには、新しい血管の形成が必要である(British Journal of Pharmacology, 149:133-135, 2006)。
c)患者は自己免疫疾患を患っており、したがって免疫系が損なわれている(Hum. Reprod. 17(19): 2002, 2715-2724, 2002)。このことから、無傷免疫応答−これは健常女性には存在するので−が、子宮内膜症病変の樹立の防止に役割を果たしているかもしれないという結論が導かれうる。
d)病変は成長する必要があり、したがって分裂促進刺激および成長因子の存在に依存する。
【0072】
子宮内膜症の処置には、現在、次に挙げるアプローチが存在する:
a)性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)類似体:卵巣エストラジオール合成の抑制をもたらし、その成長をエストラジオールの存在に決定的に依存している異所性子宮内膜移植性転移物(implant)の萎縮を誘発する。
b)アロマターゼ阻害剤:子宮内膜移植性転移物によるエストラジオールの局所的産生を阻害し、アポトーシスを誘発し、異所性子宮内膜フラグメントの増殖を阻害する。
c)選択的エストロゲン受容体モジュレーター:正常子宮内膜および異所性移植性転移物においてエストロゲン受容体アンタゴニスト活性を有するので、移植性転移した異所性子宮内膜組織の萎縮をもたらす。
d)プロゲステロン受容体アゴニスト:正常および異所性子宮内膜細胞の増殖を阻害し、分化およびアポトーシスを誘発する。
e)併用経口避妊薬:現状を維持し、疾患の進行を防止し、異所性および正所性子宮内膜の萎縮を誘発する。
f)病変の外科的切除。
【0073】
GnRH類似体、SERM、およびアロマターゼ阻害剤は、重篤な副作用を有し、子宮内膜症を患っている若い女性に顔面紅潮および骨量減少をもたらす。プロゲステロン受容体アゴニストによる処置は、排卵抑制、不規則月経とそれに続く無月経、体重増加およびうつ病につながる。静脈血栓塞栓症(venous thrombembolism)のリスクが増加するために、併用経口避妊薬は、35歳より高齢の女性、喫煙者および過体重を患っている個体には適応がない。病変の外科的切除は再発率が高くなりがちである。
【0074】
本発明の抗体は、下垂体が産生したプロラクチンおよび局所的に産生されたプロラクチンによって刺激された、または活性化PRLR変異による、PRLR媒介シグナルを妨害し、それゆえに、下垂体プロラクチン分泌だけを妨害するドーパミン2受容体アゴニストよりも効果的である。
【0075】
PRLおよびPRLRは子宮において発現し、正常な子宮生理機能に役割を果たす。PRLは強力なマイトジェンとして作用することができ、免疫調整的役割を有している。本発明では、PRL/PRLR系の改変がヒト子宮内膜症において役割を果たすことを示す。定量Taqman PCRによる健常女性の子宮内膜ならびに患者の子宮内膜および病変におけるPRLおよびPRLRの発現の分析(実施例2参照)を、図1および2に示す。
【0076】
図1(PRL発現)および図2(PRLR発現)に示されるとおり、PRLとその受容体はどちらも、子宮内膜症病変においては、強くアップレギュレートされる。この発見は、オートクリン型PRLシグナリングが子宮内膜症病変の樹立、成長および維持に基本的役割を果たしうるという実験的証拠を、初めてもたらすものである。
【0077】
PRLR抗体は、マウスでの内性子宮内膜症、すなわち子宮腺筋症の動物モデルにおける試験で、成功を収めた(実施例20参照)。腺筋症は、子宮内膜の子宮筋層における子宮内膜腺の浸潤再成長を特徴とする。これは、子宮に限定される子宮内膜症形態−無月経種(non-menstruating species)が発症しうる子宮内膜症の唯一の形態−に似ている。子宮内膜症を患っている患者の臨床処置に有効なダナゾールは、子宮腺筋症の処置にも有効である(Life Sciences 51:1119-1125, 1992)。しかし、ダナゾールはアンドロゲン性プロゲスチン(androgenic progestin)であり、若い女性に重篤なアンドロゲン性副作用をもたらすことが、その使用を制限する。
【0078】
本発明の抗体は、子宮内膜症の新しい処置または防止を提供するための課題を解決し、現在の標準的治療法よりも副作用が少ない。
【0079】
それゆえに、本発明のさらなる態様は、子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)の処置または防止に、中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントを使用することである。
【0080】
本発明のもう一つの態様は、子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)を処置または防止するための、本発明に記載する抗体および抗体抗原結合性フラグメントの使用である。
【0081】
非ホルモン雌性避妊
雌性避妊のための現在のアプローチは、次のとおりである:
a)エストロゲンおよびプロゲスチンを含有する併用経口避妊薬。
プロゲストーゲン性コンポーネントは、視床下部-下垂体-性腺軸に対する負のフィードバックによって避妊効果を媒介する。エストロゲン性コンポーネントは、良好な出血制御を保証し、ターゲット細胞におけるプロゲステロン受容体の誘導によってゲスターゲン作用を増強する。
b)プロゲスチンだけを含有する子宮内器具(intrauterine device)。
局所的に放出されるプロゲスチンは、子宮内膜を着床抵抗性状態(implantation-resistant state)にする。また、頸管粘膜が精子細胞にとってほとんど不透過性になる。
c)プロゲスチン単独の丸剤およびインプラント。
プロゲスチンは、視床下部-下垂体-性腺軸に対する負のフィードバックによって排卵を阻害する。加えて、精子細胞に対する頸管粘膜の透過性が低下する。
d)エチニルエストラジオールおよびプロゲスチンを含有する腟内リング(vaginal ring)。
併用経口避妊薬の主な副作用は静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクの上昇である。そのうえ、過体重の女性または喫煙女性は、狼蒼などの自己免疫疾患を患っている女性および35歳より高齢の女性と共に、経口併用避妊薬を使用することができない。
プロゲスチンのみを含有する子宮内器具およびインプラントは、機能障害性子宮出血をもたらしうる。
プロゲスチン単独の丸剤は、不規則な出血パターン、点状出血(spotting)、無月経を引き起こしうる。異所性妊娠のリスクが増加する。体重増加および骨密度の低下がさらなる副作用である。
腟内リングは、膣炎、白帯下または駆血(expulsion)をもたらしうる。
【0082】
PRLR欠損(PRLR-deficient)マウスは数年前に作出されている(Genes Dev 11:167-178, 1997)。興味深いことに、PRLR欠損雌は完全に不妊であるが、雄マウスはそうではない。PRLR-/-雌は受精直後に卵発生の停止を呈した。すなわち、これらの雌は着床前発生の停止を示した。極めてわずかな卵母細胞だけが胚盤胞段階に到達し、変異雌では着床(implant)することができなかったが、移植後の野生型里親(foster mother)では正常な胚へと発生した。PRLR欠損マウスの不妊表現型は、プロゲステロン補給(supplementation)によって妊娠中期まで救出することができた。PRLR媒介シグナリングが、妊娠を可能にし維持するのに必要なプロゲステロンを産生する黄体の維持および機能に重要な役割を果たすことは、明白である。加えて、PRLR欠損雌は、腹部脂肪量およびレプチンレベルの低下を伴う体重の減少を呈したが、雄はそうではなかった。
【0083】
現在までのところ、不活化ヒトPRLR変異は知られていないので、ヒト不妊におけるPRLR媒介シグナリングの正確な役割は、まだ不明である。しかし、ヒトでも、妊娠の成功を可能にするには、最低限のプロラクチンレベルが必要であることを示す証拠は、増えつつある。高プロラクチン血性黄体機能不全ゆえに原発性不妊症を患っている患者が、ブロモクリプチンで処置された。いくつかの症例では、プロラクチンレベルが過剰に抑制されて、再び、短縮された黄体期が再出現した(Bohnet HGら「Lisuride and other dopamine agonists」D.B. Calneら編, Raven Press, ニューヨーク, 1983)。これらのデータから、高および低プロラクチン血性状態は、雌性不妊と負に干渉すると結論された。これは、PRLとその受容体との相互作用によって説明することができる。低プロラクチンレベルの場合、十分な受容体活性がないのに対して、高プロラクチン血症の場合は、全ての受容体が1つのプロラクチン分子によってブロックされていて、もはや二量体化することができないので、やはり受容体活性は十分でない。言い換えると、プロラクチンに関する用量応答は、ベル形であり、最適な受容体活性化は、一定の濃度範囲でのみ達成される。患者における子宮内膜プロラクチン発現の欠如が早期着床不全をもたらすことを示す証拠は、もう一つの研究から得られている(Human Reprod. 19:1911-1916, 2004)。さらに、PRLR欠損マウスにおいて立証されているように、エクスビボで、プロラクチンは培養ヒト顆粒膜細胞のアポトーシスを防止することができ、それゆえに早期黄体機能を維持できることも示されている(Human Reprod. 18:2672-2677,2003)。
【0084】
中和PRLR抗体の避妊効力を調べるために、実施例11で説明するように、マウスに特異的および非特異的PRLR抗体を注射して、雄と交配させた。リードアウトは処置群あたりの産仔数(litter number)および動物あたりの一腹仔数(litter size)とした。図11に示す実験は、本発明の中和抗体による処置が、30mg/kg体重で試験した場合に、マウスにおける妊娠を完全に防止したことを証明している。
【0085】
上述の標準的アプローチと比較して、中和PRLR抗体による雌性避妊にはいくつかの利点がある:
・この抗体は、喫煙女性、過体重の女性、および高齢女性に使用することができ、紅斑性狼瘡(lupus erythematodes)を患っている女性にも使用することができる(PRLR抗体は狼蒼の処置および腹部脂肪の減少にさえ有益であるかもしれない。すなわちPRLR欠損マウスは腹部脂肪が少なかった);
・このPRLR抗体はVTE(静脈血栓塞栓(venous thrombembolic)リスク)を上昇させない;
・併用経口避妊に使用されるエストロゲンおよびプロゲスチンとは対照的に、PRLR媒介シグナリングの中和は乳房上皮増殖の阻害につながり、妊性制御(fertility control)のためのホルモンアプローチとは対照的に、使用者を乳がんから防御することさえ考えられる。
【0086】
本発明のもう一つの目的は、標準的な処置と比較して副作用が少ない、雌性避妊のためのPRLR中和性PRLR抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0087】
本発明のもう一つの態様は、標準的な処置と比較して副作用が少ない、雌性避妊のための本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0088】
良性乳房疾患および乳房痛
良性乳房疾患は、線維嚢胞性乳房疾患、線維腺腫、乳房痛、および大嚢胞(macrocyst)など、さまざまな症状を包含する。閉経前女性の30〜50%は線維嚢胞性乳房疾患を患っている(Epidemiol Rev 19:310-327, 1997)。女性の年齢に依存して、良性乳房疾患は異なる表現型で現れうる(J Mammary Gland Biol Neoplasia 10:325-335, 2005)。すなわち、正常乳房において小葉発達が起こる早期生殖相(15〜25歳)中は、良性乳房疾患は線維腺腫をもたらす。単一の巨大線維腺腫ならびに複数の腺腫が観察される。これらの線維腺腫は間質細胞および上皮細胞で構成され、小葉から生じる。成熟生殖相(25〜40歳)においては、各月経周期中に乳房が周期的変化を起こす。罹患女性には、周期的乳房痛と、その乳房中にいくつかの小結節を認められる。その後(35〜55歳)、正常乳房は退縮するのに対して、罹患乳房では、大嚢胞ならびに異型性を伴うおよび異型性を伴わない上皮過形成を観察することができる。増進した上皮細胞増殖を伴うこれらの形態の良性乳房疾患では、乳癌を発生するリスクが高まっている。このリスクは、増殖細胞画分に細胞異型性が存在する場合には、11%にまで達しうる(Zentralbl Gynaekol 119:54-58,1997)。60〜80歳の女性の25%も良性乳房疾患を患っており、エストロゲン補充療法(replacement therapy)または脂肪症(adiposity)は、閉経後も良性乳房疾患が持続する理由である(Am J Obstet Gynecol 154:161-179, 1986)。
【0089】
線維嚢胞性乳房疾患の病態生理は、エストロゲン優位およびプロゲステロン欠乏によって決定され、これは、結合組織の過剰増殖(線維症)をもたらし、これに続いて条件的(facultative)上皮細胞増殖が起こる。上述のように、線維嚢胞性病変内において増進した上皮細胞増殖を呈する患者では、乳がんのリスクが上昇する。臨床的には、線維嚢胞性乳房疾患は乳房疼痛(breast pain)および乳房圧痛(breast tenderness)を呈する。線維嚢胞性乳房疾患を有する患者の70%は、黄体機能不全または無排卵を患っている(Am J Obstet 154:161-179,1986)。黄体機能不全は、プロゲステロンレベルの低下とエストロゲン優位をもたらす。
【0090】
乳房痛(乳房疼痛)は、女性の約70%を、その生殖期間(reproductive lifespan)のどこかの時点で冒す。乳房疼痛は、月経前症候群の他の基準と関連することも関連しないこともある。乳房痛を患う女性は、視床下部下垂体軸の刺激後に、過剰なプロラクチン放出をもって応答することが証明されている(Clin Endocrinol 23:699-704,1985)。
【0091】
良性乳房疾患および乳房痛の標準的な治療法は次のとおりである。
【0092】
1)ブロモクリプチン
ドーパミンアゴニストとしてのブロモクリプチンは、下垂体プロラクチン合成だけをブロックし、乳腺上皮細胞におけるプロラクチンの局所的合成はブロックしない。それゆえに、これは、上昇した全身性プロラクチンレベルに依拠する形態の乳房痛および良性乳房疾患にしか有効でない。ブロモクリプチンの主な副作用は、悪心、嘔吐、浮腫、低血圧、めまい、脱毛、頭痛、および幻覚である。
【0093】
2)ダナゾール
ダナゾールは、その抗性腺刺激活性(antigonadotrophic activity)によって良性乳房疾患に観察されるエストロゲン優位に対抗するアンドロゲン性プロゲスチンである。主な副作用は、月経不順、うつ病、ざ瘡、多毛症、声の低音化(voice deepening)、および顔面紅潮、ならびに体重増加である。
【0094】
3)タモキシフェン
タモキシフェンは、乳房では抗エストロゲン活性を、また子宮ではエストロゲン活性を有する、選択的エストロゲン受容体モジュレーターである。主な副作用は、骨量減少および顔面紅潮などの閉経後症状、卵巣嚢胞、および子宮内膜癌である。
【0095】
4)プロゲスチン
プロゲスチンは、下垂体性腺軸の抑制、排卵阻害およびエストロゲン枯渇によって良性乳房疾患を阻害する。エストロゲン枯渇は骨量減少および顔面紅潮などの閉経症状につながる。
【0096】
5)低用量併用経口避妊薬
この処置は、35歳より高齢の女性、喫煙者ならびに糖尿病患者および過体重患者には適応がない。
【0097】
一般に、プロラクチンレベルは、良性乳房疾患を有する女性の3分の1では増加していることが見いだされている。エストロゲンは下垂体プロラクチン分泌を増進するので、血清プロラクチンレベルの増加は、この疾患におけるエストロゲンの優位性の結果であると考えられている。線維嚢胞性乳房疾患の亜型に似た多発性乳腺腺腫(multiple breast adenoma)を患っている女性には活性化PRLR変異がしばしば存在することが報告されている(Paul Kelly, Breast Congress Turin, 2007およびProc Natl Acad Sci 105: 14533-14538;2008)。
【0098】
良性乳房疾患、乳房痛および月経前の胸の張り(breast tension)は、一つの共通する病態生理学的機序、すなわち増進したプロラクチンシグナリングに依拠する。上昇したプロラクチンシグナリングは、
・全身性高プロラクチン血症(下垂体腺腫によるもの)
・局所的高プロラクチン血症(増殖する乳腺上皮細胞におけるプロラクチン合成によるもの)。局所的高プロラクチン血症は、上昇した血中プロラクチンレベルには移行しない;
・正常プロラクチンレベルの存在下で構成的に活性なPRLRシグナリング(活性化PRLR変異によるもの)
の結果でありうる。
【0099】
一定の形態の良性乳房疾患が乳がんを生じさせうることを考えると、この疾患を処置する医学的必要性がある。
【0100】
良性乳房疾患の前臨床モデルにおける中和PRLR抗体の効力を証明するために、全身性高プロラクチン血症に基づくマウスモデルを使用した。実施例16で述べるように、成体Balb/cマウスに、下垂体同系移植片を腎被膜下に移植した(Methods in Mammary gland Biology and Breast Cancer Research, 101-107, 2000)。全身性高プロラクチン血症は、無処置の未交尾対照マウスと比較して、乳腺における上皮細胞増殖の増進を引き起こし、側枝形成(sidebranching)および小葉腺胞発生を刺激した。がん発生のリスクが増進している大半の重症な形態のヒト線維嚢胞性乳房疾患は、増加した上皮細胞増殖を特徴とする。実施例16で述べるように、中和PRLR抗体を、非特異的抗体と比較して、このBalb/cマウスモデルにおいて、
・側枝形成および小葉腺胞発生をブロックする能力
・乳腺上皮細胞増殖を阻害する能力
・STAT5(通常はPRLR活性化後に活性化されリン酸化される転写因子)のリン酸化を阻害する能力
について試験した。
【0101】
図15A〜Cに示すとおり、中和PRLR抗体は、上述のリードアウトパラダイムのすべてを、用量依存的にブロックする。
【0102】
本発明のもう一つの目的は、閉経前女性および閉経後女性における良性乳房疾患および乳房痛を処置するための、中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0103】
本発明のもう一つの態様は、閉経前女性および閉経後女性における良性乳房疾患および乳房痛を処置するための、本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0104】
泌乳阻害
プロラクチンは出産後の泌乳に関与する主要ホルモンである。これはPRLR欠損マウスの表現型によって立証される。ヘテロ接合マウスでさえ重度の泌乳障害を有し、その仔(offspring)に授乳することは全くできない(Frontiers in Neuroendocrinology 22:140-145, 2001)。
【0105】
女性は、多くの理由で、すなわち、乳児にとって潜在的に危険な薬物の、母体による摂取、重症感染症(乳腺炎、腎炎)、大量の分娩後出血、および糖尿病、癌、衰弱などといった重度の母体疾患、または新生児の疾患により、母乳栄養を停止する必要がある。現在、出産後の泌乳を阻害するには、ブロモクリプチンやリスリドなどのドーパミン受容体アゴニストが使用される。しかしこれらの化合物は、悪心、嘔吐、浮腫、低血圧、めまい、脱毛、頭痛、および幻覚などの重篤な副作用を惹起しうる。加えて、ドーパミン受容体アゴニストは、心疾患および高血圧を患っている女性には適応がない。ブロモクリプチンのさらなる欠点は、半減期が短く、14日間にわたって毎日4〜6回の服薬が必要になることである。
【0106】
マウスにおける中和プロラクチン受容体抗体の効力を調べるために、NMRIマウスを雄と交配した。実施例15で述べるように、誕生後に一腹仔数を8匹に調節し、雌を、PRLRに対する特異的抗体および非特異的抗体で処置した。母体泌乳能力の尺度として、仔の体重を毎日モニターした。リードアウトを実施例15に詳述し、結果を図14A〜Dに図示する。中和PRLR抗体は泌乳の用量依存的阻害を示し、乳腺退縮および乳タンパク質産生量の低下をもたらす。
【0107】
本発明のもう一つの目的は、泌乳を阻害するための中和PRLR抗体の使用である。
【0108】
本発明のもう一つの目的は、泌乳を阻害するための、本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0109】
良性前立腺過形成
良性前立腺過形成(BPH)は、高齢男性において4番目によく見られる要医療状態(healthcare condition)である。前立腺の拡大は、≧50歳の男性の50%以上を冒す年齢依存的な進行性の状態である。BPHは、前立腺間質細胞および上皮細胞の過形成を特徴とし、それが、前立腺の尿道周囲領域における大きな離散的結節の形成をもたらして、尿道を圧迫する。したがって尿流障害はBPHの主要な結果の一つである。
【0110】
BPHの標準的治療法には、次に挙げるものが含まれる:
a)α1-アドレナリン作動性受容体アンタゴニスト(例えばタムスロシン、アルフゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン)は下部尿路におけるBPH症状を緩和する。これらは、アルファ受容体が媒介する前立腺平滑筋の刺激をブロックすることによって、膀胱下尿道閉塞を減少させる。主な副作用は、血管拡張性有害事象、めまいおよび射精不全(ejaculation failure)である。
b)5α−レダクターゼ阻害剤(例えばフィナステリド)
5α−レダクターゼ阻害剤は、前立腺におけるテストステロンの活性型であるジヒドロテストステロン(これは前立腺拡大の原因になる)の形成を防止する。主な副作用は勃起障害および性欲減退などの性機能障害である。
c)経尿道的前立腺切除術(TURP)
この外科的処置は高い手術合併症率(moribidity)を伴う。副作用は出血、失禁、狭窄形成、射精の消失、および膀胱穿孔である。
d)前立腺ステント留置術
適正な尿流量を保証するために、尿道の前立腺部分にステントが挿入される。主な副作用は、痂皮形成(encrustation)、尿路感染、およびステントの移動である。そのうえ、ステントは、何らかの経尿道的操作を行う前には除去する必要がある。
【0111】
乳腺に関して述べたように、PRLおよびPRLRは前立腺内でオートクリン/パラクリン的に作用する(J. Clin. Invest. 99:618 pp,1997)。
【0112】
臨床研究により、高プロラクチン血症(および先端肥大症(agromegaly))は、前立腺の拡大および炎症細胞の間質蓄積と関連することが示されている。ヒト成長ホルモンは亜鉛の存在下でヒトPRLRに結合できるが、これが、先端肥大症が良性前立腺過形成につながりうる理由の説明になるかもしれない。BPHを有する患者ではPRLの血清中レベルがしばしば上昇している。
【0113】
PRL遺伝子を遍在的に過剰発現するトランスジェニック動物は、重度の間質性前立腺過形成を発生させ、PRLが前立腺過形成の発生に関して重要な病態生理学的因子であることを示す(Endocrinology 138:4410 pp,1997)。さらにまた、前立腺特異的プロバシンプロモーター下でのトランスジェニックマウスにおけるPRLの局所的過剰発現は、ヒトBPHの基本的特徴である間質拡張、炎症細胞の蓄積および局所性上皮異形成(focal epithelial dysplasia)をもたらす(Endocrinology 144:2269 pp,2003)。
【0114】
PRLRは前立腺において高度に発現する(実施例3、図3)。ホルモン枯渇および処置後に、ラット前立腺組織において、PRLRタンパク質発現の変動が観察された(実施例4、図4)。PRLRに加えて、前立腺細胞はプロラクチンも発現する。
【0115】
実施例17で述べるように、雄Balb/cマウスの腎被膜下に下垂体同系移植片を移植し、良性前立腺過形成を発生させた。良性前立腺過形成に対する中和プロラクチン受容体抗体および非特異的抗体の効果をこのモデルで試験した。リードアウトパラダイムを実施例17に記載する。図16に図示するように、中和PRLR抗体は良性前立腺成長を阻害するので、良性前立腺過形成の処置に適している。
【0116】
本発明のもう一つの目的は、良性前立腺過形成を処置するための、中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0117】
本発明のもう一つの態様は、良性前立腺過形成を処置するための、本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0118】
高プロラクチン血性脱毛
脱毛の処置は今なお未充足ニーズである。頭髪は周期的に成長する。すなわち、成長期(anagen phase)は活発な毛髪の成長を特徴とし、退行期(catagen phase)は退縮を示し、その後に休止期(telogen phase)(休眠期(resting))が続く。脱落期(exogen phase)(死んだ毛髪の遊離)は、休止期の最後と一致する。脱毛は、いずれかの時期における毛髪成長障害の結果でありうる。
【0119】
休止期脱毛には多くのトリガー(生理学的ストレスおよび情動ストレス、医学的状態、鉄不足および亜鉛不足)が考えられ、重要なことに、アンドロゲン性脱毛症は、その初期段階において、休止期毛髪脱落を示す(Cleveland clinic journal of medicine 2009;76:361-367)。成長期脱毛は放射線療法または化学療法の結果であることが多い。
【0120】
ミノキシジルおよびフィナステリドはアンドロゲン性脱毛の処置に使用されており、一方、グルココルチコイドは円形脱毛症に使用されている。一般に、これらの処置は全て副作用を有し(フィナステリド:男性における性欲減退およびインポテンス、グルココルチコイド:糖尿病、体重増加、骨粗鬆症)、脱毛を処置するという課題は完全には解決されていない。
【0121】
齧歯類動物において、成体動物における剃毛実験を使って、剃毛区域における毛髪再成長をリードアウトパラダイムとして使用することにより、脱毛に対する化合物の効果が分析された(British Journal of dermatology 2008;159:300-305)。成体動物の剃毛(大半が休止期の毛髪)は、毛髪の成長を特徴とする成長期を誘発する。
【0122】
実施例17で述べる実験(良性前立腺過形成)では、下垂体同系移植片が移植された動物を剃毛した。これらの実験の過程で、下垂体同系移植片が移植された動物は、剃毛区域における毛髪再成長に重度の障害を示すことが、思いがけず見いだされた。中和PRLR抗体による処置は毛髪成長を刺激したが、非特異的抗体による処置は毛髪成長を刺激しなかった(図17)。
【0123】
この観察結果は、上昇したプロラクチン受容体媒介シグナリングが脱毛に関与することを証明している。これをさらに詳しく分析するために、既述の実験とよく似たさらなる剃毛実験が行われた(British Journal of dermatology 2008;159:300-305)。これら追加の剃毛実験を実施例18で説明する。これらの実験により、中和PRLR抗体は高および正常プロラクチン血性雄および雌マウスにおける毛髪成長を刺激することが証明される。
【0124】
本発明の抗体は、女性および男性における高および正常プロラクチン血性脱毛の新しい処置を提供するための課題を解決する。
【0125】
それゆえに、本発明のさらなる態様は、高および正常プロラクチン血性脱毛の処置または防止のために中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントを使用することである。
【0126】
本発明のもう一つの態様は、高プロラクチン血性脱毛を処置または防止するための、本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0127】
併用ホルモン療法
まだ子宮を有する閉経後女性における顔面紅潮を処置するために、エストロゲン(エストラジオールまたは結合型ウマエストロゲン=CEE)とプロゲスチン(例えば酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)、プロゲステロン、ドロスピレノン、レボノルゲストレル)との組合せが使用された。プロゲスチンは、エストラジオールで活性化された子宮上皮細胞増殖を阻害するために添加する必要がある。しかし、プロゲスチンの添加は乳腺上皮細胞増殖を増加させる。正常乳腺上皮細胞とがん性乳腺上皮細胞はどちらも、併用エストロゲン+プロゲスチン処置に対して、増殖をもって応答するので、CEE+MPA処置後には、乳がんの相対的リスクが増加していることがわかった(JAMA 233:321-333;2002)。
【0128】
併用ホルモン療法を受けている女性に毎月または2ヶ月ごとに投与すれば、中和PRLR抗体は、増進した乳房上皮細胞増殖を阻害するであろう。
【0129】
実施例19で述べるように、子宮および乳房におけるプロゲスチンの効果を定量的に分析するために、以前に開発されたマウスモデルを使用した(Endocrinology 149:3952-3959,2008)。マウスを卵巣切除し、卵巣切除の14日後に、3週間にわたって媒体または100ngエストラジオール+100mg/kgプロゲステロンで処置することで、ホルモン補充療法を模倣した。動物を特異的PRLR抗体(10mg/kgまたは30mg/kg)または非特異的抗体(30mg/kg)で週に1回処置した。併用ホルモン療法下の乳房における増殖活性に対する中和PRLR抗体の効果を分析した。
【0130】
本発明の抗体は、併用ホルモン療法下において観察される増進した乳房上皮細胞増殖を処置するための課題を解決する。
【0131】
本発明のもう一つの目的は、乳腺上皮細胞増殖を阻害するための、併用ホルモン療法(すなわちエストロゲン+プロゲスチン療法)における中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0132】
本発明のもう一つの態様は、乳腺上皮細胞増殖を阻害するための、併用ホルモン療法(すなわちエストロゲン+プロゲスチン療法)における本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0133】
定義
本明細書にいうターゲット抗原ヒト「PRLR」は、配列番号70のアミノ酸位置1〜210と実質的に同じアミノ酸配列を、その細胞外ドメインに有するヒトポリペプチド、ならびにその天然の対立遺伝子(allelic)および/またはスプライス変異体を指す。本明細書にいう「PRLRのECD」は、上述のアミノ酸によって表されるPRLRの細胞外部分を指す。加えて、ターゲットヒトPRLRは、Paul Kellyが記載した活性化変異I146Lなどといった変異型の受容体も包含する(Proc Natl Acad Sci U S A.105(38):14533-14538,2008;および口頭発表(oral communication)、トリノ(Turin)、2007)。
【0134】
本明細書において使用する表現「治療有効量」は、望ましい処置レジメンに従って投与した場合に、所望の治療的または予防的効果または応答(前述の疾患症状の一部または全部を軽減すること、または疾患への罹りやすさを低下させることを含む)を引き出すのに適当であるだろう治療用または予防用抗体の量を指すものとする。
【0135】
結合特異性は絶対的性質ではなく、相対的性質であるから、本明細書にいう「に特異的に結合する」抗体は、前述の抗体が前述の抗原と1つ以上の参照(reference)抗原とを区別するのであれば、抗原(ここではPRLR)「に対して特異的」であり、または抗原「を特異的に認識する」。「特異的結合」とは、その最も一般的な形態において(かつ参照物が明示されていない場合には)、例えば下記の方法の一つに従って決定される、目的の抗原と無関係な抗原とを区別する抗体の能力を指している。そのような方法には、ウェスタンブロット、ELISA試験、RIA試験、ECL試験、IRMA試験およびペプチドスキャン(peptide scan)が含まれるが、これらに限るわけではない。例えば標準的なELISAアッセイを行うことができる。スコア化は標準的な発色法(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼを伴う二次抗体およびテトラメチルベンジジンと過酸化水素)で行うことができる。一定のウェルにおける反応を、例えば450nmにおける光学密度によってスコア化する。典型的なバックグラウンド(=陰性反応)は0.1ODであり、また典型的な陽性反応は1ODであることができる。これは陽性/陰性差が10倍を上回りうることを意味する。典型的には、結合特異性の決定は、単一の参照抗原ではなく、例えば粉乳(milk powder)、BSA、トランスフェリンなど約3〜5個の無関係な抗原のセットを使って行われる。
【0136】
しかし「特異的結合」は、ターゲット抗原と、参照点(reference point)として使用される1つ以上の密接に関連する抗原とを区別する抗体の能力をも指しうる。さらにまた、「特異的結合」は、そのターゲット抗原の異なる部分、例えばPRLRの異なるドメイン、サブドメインまたは領域、例えばPRLRのECDのN末端領域中またはC末端領域中のエピトープ、またはPRLRのECDの1つ以上のキー(key)アミノ酸残基またはアミノ酸残基のストレッチを区別する抗体の能力にも関しうる。
【0137】
「アフィニティ」または「結合アフィニティ」KDは、多くの場合、平衡会合定数(ka)と平衡解離定数(kd)を測定し、kdをkaで割った商(KD=kd/ka)を計算することによって決定される。「免疫特異的」または「特異的に結合」という用語は、抗体が、10-6M(一価アフィニティ)以下のアフィニティKDで、PRLRまたはそのECDに結合することを意味する。「高アフィニティ」という用語は、抗体が、10-7M(一価アフィニティ)以下のアフィニティKDで、PRLRまたはそのECDに結合することを意味する。抗体は、ターゲット抗原に対し、他の無関係な分子と比較して実質的に大きなアフィニティを有しうる。抗体は、ターゲット抗原に対し、ホモログと比較して実質的に大きなアフィニティ、例えば少なくとも1.5倍、2倍、5倍 10倍、100倍、10-3倍、10-4倍、10-5倍、10-6倍またはそれ以上の、ターゲット抗原に対する相対的アフィニティも有しうる。そのようなアフィニティは、従来の技法を使って、例えば平衡透析によって;BIAcore 2000計器により、製造者が概説する一般的手法を使って;ラジオイムノアッセイにより、放射標識ターゲット抗原を使って;または当業者に知られる他の方法を使って、容易に決定することができる。アフィニティデータは、例えばスキャッチャードら, Ann N.Y. Acad. ScL, 51:660 (1949)の方法によって解析することができる。
【0138】
本明細書において使用する「抗体がプロラクチン媒介シグナリングを拮抗する」という表現は、プロラクチン受容体媒介シグナリングの完全な阻害につながる本発明の抗体によるプロラクチン受容体活性化の阻止(blockade)を指すものとする。
【0139】
本明細書において使用する「抗体が結合に関して競合する」という表現は、プロラクチン受容体への結合に関する、ある抗体ともう一つの抗体またはそれ以上の抗体との間の競合を指すものとする。
【0140】
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、完全にアセンブルされた(assembled)抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、抗原に結合することができる抗体フラグメント(例えばFab'、F'(ab)2、Fv、単鎖抗体、ダイアボディ(diabody))、ラクダ抗体を包含し、前記のものを含む組換えペプチドも、それらが所望の生物学的活性を呈する限りにおいて包含する。抗体は、その重鎖上に、好ましくはIgG1、IgG2、またはIgG4アイソタイプに由来する異なる定常ドメイン(Fcドメイン)を保有しうる(下記参照)。エフェクター機能を修飾するために、変異を導入することができる。補体タンパク質C1qおよびFc受容体との相互作用に支配的(dominant)な役割を果たすFcドメイン中のアミノ酸残基が同定され、エフェクター機能に影響を及ぼす変異が記載されている(概観するにはLabrijnら, Current opinion in Immunology 20:479-485, 2008を参照されたい)。特に、IgG1の非グリコシル化(aglycosylation)は、アミノ酸位置297においてアスパラギンをアラニンに変異させるか、アスパラギンをグルタミンに変異させることによって達成することができ、これは、抗体依存性細胞性細胞傷害(antibody-derived cell-medidated cytotoxicity)(ADCC)を消滅させると報告されている(Sazinskyら, Proc. Nat. Acad. Sci. 105 (51): 20169, 2008;Simmonsら, J. of Immunological Methods 263: 133-147, 2002)。位置322のリジンをアラニンで置き換えると、ADCCの低下、および補体依存性細胞傷害(complement-derived cytotoxicity)(CDC)の除去が起こり、一方、位置234および235にある2つのロイシンを同時にアラニンで置き換えると、ADCCおよびCDCの回避(avoidance)が起こる[Hezarehら, J. of Virology, 75 (24):12161-12168, 2001]。アビディティ(avidity)を保ったインビボ二価(bivalent)治療薬としてIgG4アイソタイプを応用するには、「コアヒンジ領域(core hinge region)」におけるセリン→プロリン交換(serine-to-proline exchange)などの修飾(Schuurman, J.ら. Immunology 97: 693-698, 1999)を導入することができる。ヒトIgG2分子が不均一な共有結合二量体を形成する傾向は、位置127、232および233にあるシステインの一つをセリンに交換することによって回避することができる(Allenら, Biochemistry, 2009, 48 (17), pp 3755-3766)。低下したエフェクター機能を伴うもう一つのフォーマットとして、4つのIgG4特異的アミノ酸残基変化を保有するIgG2から誘導されるIgG2m4フォーマットを挙げることができる(Anら, mAbs 1(6), 2009)。抗体フラグメントは、組換えDNA技法によって生産するか、無傷抗体の酵素的または化学的切断によって生産することができ、抗体フラグメントについては以下に詳述する。限定するわけではないが、モノクローナル抗体の例には、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、およびHuman Engineered(商標)免疫グロブリン、免疫グロブリンに由来する配列を有するキメラ融合タンパク質、またはそのムテイン(mutein)もしくは誘導体が含まれ、それぞれについて以下に詳述する。化学的に誘導体化された抗体を含めて、無傷分子および/またはフラグメントの多量体または凝集体(aggregate)も考えられる。
【0141】
本明細書において使用する用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、微量に存在しうる天然の変異が考えられることを除けば、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に向けられる。さらにまた、典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基を指向する。モノクローナル抗体は、その特異性だけでなく、それらが均一な培養物によって合成され、異なる特異性および特徴を有する他の免疫グロブリンによって汚染されていないという点でも有利である。
【0142】
「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の特徴を示しており、何らかの特定の方法によって抗体が生産されることを要求していると解釈すべきではない。例えば、使用されるモノクローナル抗体は、例えば、Kohlerら, Nature, 256:495 [1975]に最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製することもできるし、組換えDNA法(例えば米国特許第4,816,567号)によって作製することもできる。「モノクローナル抗体」は、例えば、組換え、キメラ、ヒト化、ヒト、Human Engineered(商標)、または抗体フラグメントであることができる。
【0143】
「免疫グロブリン」または「ネイティブ(native)抗体」は四量体型糖タンパク質である。天然の免疫グロブリンでは、各四量体が、2つの同一なポリペプチド鎖対から構成され、各対は1本の「軽」鎖(約25kDa)と1本の「重」鎖(約50〜70kDa)を含む。各鎖のアミノ末端部分は、主として抗原認識を担うアミノ酸数が約100〜110個またはそれ以上である「可変」領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主としてエフェクター機能を担う定常領域を規定する。免疫グロブリンは、その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて異なるクラスに割り当てることができる。重鎖はミュー(μ)、デルタ(Δ)、ガンマ(γ)、アルファ(α)、およびイプシロン(ε)と分類することができ、抗体のアイソタイプを、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEと規定する。これらのうちいくつかは、さらにサブクラスまたはアイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分割することができる。異なるアイソタイプは異なるエフェクター機能を有する。例えばIgG1およびIgG3アイソタイプはADCC活性を有することが多い。ヒト軽鎖はカッパ(Κ)軽鎖およびラムダ(λ)軽鎖として分類される。軽鎖内および重鎖内では、可変領域と定常領域とが、アミノ酸数約12個またはそれ以上の「J」領域によって接合され、重鎖は、アミノ酸数約10個またはそれ以上の「D」領域も含む。総論については「Fundamental Immunology」の第7章(Paul, W.編、第2版、Raven Press, ニューヨーク(1989))を参照されたい。
【0144】
抗体/免疫グロブリンの「機能的フラグメント」または「抗原結合性抗体フラグメント」は、本明細書においては、抗原結合領域を保持している抗体/免疫グロブリンのフラグメント(例えばIgGの可変領域)と定義される。抗体の「抗原結合領域」は、典型的には、抗体の1つ以上の超可変領域、すなわちCDR-1、-2、および/または-3領域に見いだされるが、可変「フレームワーク」領域も、CDRに足場(scaffold)を提供することなどにより、抗原結合に重要な役割を果たすことができる。「抗原結合領域」は、好ましくは少なくとも、可変軽(VL)鎖のアミノ酸残基4〜103と、可変重(VH)鎖のアミノ酸残基5〜109とを含み、より好ましくはVLのアミノ酸残基3〜107とVHのアミノ酸残基4〜111とを含み、とりわけ好ましいのは、完全なVL鎖およびVH鎖[VLのアミノ酸位置1〜109とVHのアミノ酸位置1〜113、ここで、アミノ酸位置の番号付与はKabatデータベースに準ずる(Johnson and Wu, Nucleic Acids Res., 2000, 28, 214-218)]である。本発明における使用にとって好ましい免疫グロブリンクラスはIgGである。
【0145】
用語「超可変」領域は、抗原結合を担う抗体の可変ドメインVHおよびVLまたは機能的フラグメントのアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」またはCDR[すなわち、図12に記載する軽鎖可変ドメイン中の残基24〜34(LCDR1)、50〜56(LCDR2)および88〜97(LCDR3)ならびに重鎖可変ドメインの残基29〜36(HCDR1)、48〜66(HCDR2)および93〜102(HCDR3)]からのアミノ酸残基および/または超可変ループ[すなわちChothiaら, J. Mol.Biol. 196: 901-917 (1987)に記載の軽鎖可変ドメイン中の残基26〜32(LCDR1内)、50〜52(LCDR2内)および91〜96(LCDR3内)ならびに重鎖可変ドメイン中の残基26〜32(HCDR1内)、53〜55(HCDR2内)および96〜101(HCDR3内)]からの残基を含む。
【0146】
限定するわけではないが、抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、ドメイン抗体(dAb)、相補性決定領域(CDR)フラグメント、単鎖抗体(scFv)、単鎖抗体フラグメント、ダイアボディ、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、ミニボディ(minibody)、線状抗体(linear antibody)(Zapataら, Protein Eng., 8(10):1057-1062 (1995));キレーティング(chelating)組換え抗体、トリボディ(tribody)またはバイボディ(bibody)、イントラボディ(intrabody)、ナノボディ(nanobody)、スモール・モジュラー・イムノファーマシューティカル(small modular immunopharmaceutical)(SMIP)、抗原結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化(camelized)抗体、VHH含有抗体、またはそのムテインもしくは誘導体、および抗体が所望の生物学的活性を保持している限りにおいて、免疫グロブリンの少なくとも一部であって、ポリペプチドに特異的抗原結合性を付与するのに十分である部分(例えばCDR配列)を含有するポリペプチド;ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体(C. A. K Borrebaeck編 (1995) Antibody Engineering (Breakthroughs in Molecular Biology), Oxford University Press;R. KontermannおよびS. Duebel編 (2001) Antibody Engineering (Springer Laboratory Manual), Springer Verlag)などがある。「二重特異性」または「二官能性」抗体以外の抗体は、その結合部位のそれぞれが同一であると理解される。F(ab')2またはFabは、CH1ドメインとCLドメイン間に生じる分子間ジスルフィド相互作用が最小限になるか完全に除去されるように、操作することができる。抗体のパパイン消化は、それぞれが単一の抗原結合部位を有する「Fab」フラグメントと呼ばれる2つの同一な抗原結合性フラグメントと、残りの「Fc」フラグメント(この名称は容易に結晶化するその能力を反映している)とを生成する。ペプシン処理は、2つの「Fv」フラグメントを有するF(ab')2フラグメントをもたらす。「Fv」フラグメントは、完全な抗原認識および結合部位を含有する最小の抗体フラグメントである。この領域は、固く非共有結合的に会合した1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインの二量体とからなる。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体の表面上の抗原結合性部位を規定しているのは、このコンフィギュレーション(configuration)でのことである。全体として、6個のCDRが抗体に抗原結合特異性を付与している。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのCDRだけを含むFvの半分)でさえ、抗原を認識し結合する能力を有する。
【0147】
「単鎖Fv」または「sFv」または「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVHおよびVLドメインを含み、ここでは、これらのドメインが単一のポリペプチド鎖中に存在する。
【0148】
好ましくは、Fvポリペプチドは、Fvが抗原結合にとって望ましい構造を形成することを可能にするVHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーを、さらに含む。sFvを概観するには、Pluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, RosenburgおよびMoore編, Springer-Verlag, ニューヨーク, pp. 269-315 (1994)を参照されたい。
【0149】
Fabフラグメントは、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメイン(CH1)も含有する。FabフラグメントとFab'フラグメントとの相違点は、重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む数残基が付加されている点である。Fab'-SHは、本明細書においては、定常ドメインのシステイン残基が遊離のチオール基を保持しているFab'の名称である。F(ab')2抗体フラグメントは、元々は、Fab'フラグメントのペアであって、それらの間にヒンジシステインを有するものとして生産された。
【0150】
「フレームワーク」残基、すなわちFR残基は、超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0151】
「定常領域」という表現は、抗体分子のうち、エフェクター機能を付与する部分を指す。
【0152】
用語「ムテイン」または「変異体」は互換的(interchangeably)に使用することができ、可変領域または可変領域と等価な部分に少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失、または挿入を含有する抗体のポリペプチド配列を指す。ただし、ムテインまたは変異体は、所望の結合アフィニティまたは生物学的活性を保っているものとする。
【0153】
ムテインは、親抗体と実質的に相同または実質的に同一でありうる。
【0154】
「誘導体」という用語は、ユビキチン化、治療剤または診断剤へのコンジュゲーション(conjugation)、標識(labeling)(例えば放射性核種または種々の酵素によるもの)、共有結合によるポリマーの取り付け(attachment)、例えばPEG化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)、および非天然アミノ酸の化学合成による挿入または置換などといった技法によって共有結合的に修飾された抗体を指す。
【0155】
「ヒト」抗体または機能的ヒト抗体フラグメントは、本明細書においては、キメラ抗体または「ヒト化」ではなく、非ヒト種に(全部または一部が)由来する抗体でもないものと定義される。ヒト抗体または機能的抗体フラグメントはヒトから得られるか、合成ヒト抗体であることができる。「合成ヒト抗体」とは、本明細書においては、既知のヒト抗体配列の解析に基づく合成配列からインシリコ(in silico)で全部または一部が導き出された配列を有する抗体と定義される。ヒト抗体配列またはそのフラグメントのインシリコ設計は、例えばヒト抗体配列または抗体フラグメント配列のデータベースを解析し、そこから得られたデータを利用してポリペプチド配列を考案することによって達成することができる。ヒト抗体または機能的抗体フラグメントのもう一つの例は、ヒト起源の抗体配列のライブラリーから単離された核酸によってコードされるものである(すなわち前述のライブラリーはヒト天然供給源から採取された抗体に基づく)。ヒト抗体の例には、CarlssonおよびSoederlind, Exp. Rev. Mol. Diagn. 1 (1), 102-108 (2001)、Soederlinら, Nat. Biotech. 18, 852-856 (2000)および米国特許第6,989,250号に記載のn-CoDeRベースの抗体が含まれる。
【0156】
「ヒト化抗体」または機能的ヒト化抗体フラグメントは、本明細書においては、(i)非ヒト供給源(例えば異種免疫系を保持するトランスジェニックマウス)に由来し、ヒト生殖細胞系配列に基づく抗体;または(ii)CDR移植されたものであって、可変ドメインのCDRが非ヒト起源のものであり、一方、可変ドメインの1つ以上のフレームワークはヒト起源のものであり、定常ドメイン(存在する場合)はヒト起源のものであるものと定義される。
【0157】
本明細書において使用する「キメラ抗体」という表現は、2つの異なる抗体(典型的には異なる種を起源とするもの)に由来する配列を含有する抗体を指す(例えば米国特許第4,816,567号参照)。最も典型的には、キメラ抗体はヒト抗体フラグメントとマウス抗体フラグメントを含み、一般的にはヒト定常領域とマウス可変領域とを含む。
【0158】
「Human Engineered(商標)」抗体は、例えば配列番号58、61、64、67によって表される抗体および特許出願WO08/022295に記載されている抗体など、米国特許第5,766,886号に記載されている方法で親配列を改変することによって作製された抗体である。
【0159】
本発明の抗体は、組換え抗体遺伝子ライブラリーに由来することができる。組換えヒト抗体遺伝子のレパートリーを作製し、コードされた抗体フラグメントを線維状バクテリオファージの表面上にディスプレイするための技術の開発により、ヒト抗体を直接作製し、選択するための組換え手段が得られており、これを、ヒト化、キメラ、マウスまたはムテイン抗体に応用することもできる。ファージ技術によって生産される抗体は、細菌内で抗原結合性フラグメント−通常はFvまたはFabフラグメント−として生産されるので、エフェクター機能を欠いている。エフェクター機能は、次に挙げる2つの戦略のうちの一つによって導入することができる。すなわち、フラグメントは、哺乳動物細胞において発現させるための完全な抗体、またはエフェクター機能をトリガー(trigger)することができる第2の結合部位を有する二重特異性抗体フラグメントへと、工学的に操作することができる。典型的には、抗体のFdフラグメント(VH-CH1)および軽鎖(VL-CL)を、PCRによって別々にクローニングし、コンビナトリアルファージディスプレイライブラリーにおいてランダムに組み換え、次にそれを、特定の抗原に対する結合に関して選択することができる。Fabフラグメントはファージ表面上に発現され、すなわち、それらをコードする遺伝子に物理的に連結されている。したがって、抗原結合性によるFabの選択は、そのFabをコードする配列を同時に選択することになり、次にそれを増幅することができる。抗原結合と再増幅とを数ラウンド行うこと(パンニングと呼ばれる手法)により、抗原に特異的なFabが濃縮され、最終的には単離される。
【0160】
ファージディスプレイライブラリーからヒト抗体を得るために、さまざまな手法が記載されている。そのようなライブラリーは、CarlssonおよびSoederlind Exp. Rev. Mol. Diagn. 1 (1), 102-108 (2001)、Soederlinら. Nat. Biotech. 18, 852-856 (2000)および米国特許第6,989,250号に記載されているように、インビボで形成された(すなわちヒト由来の)多様なCDRを組み込むことが可能な単一のマスターフレームワーク上に構築することができる。あるいは、そのような抗体ライブラリーは、合成的に創製された核酸によってコードされる、インシリコで設計されたアミノ酸配列に基づいてもよい。抗体配列のインシリコ設計は、例えば、ヒト配列のデータベースを解析し、そこから得られたデータを利用してポリペプチド配列を考案することなどによって達成することができる。インシリコ創製配列を設計し取得するための方法は、例えばKnappikら, J. Mol. Biol. (2000) 296:57;Krebsら, J. Immunol. Methods. (2001) 254:67;および米国特許第6,300,064号に記載されている。ファージディスプレイ技法を概観するにはWO08/022295(Novartis)を参照されたい。
【0161】
あるいは、本発明の抗体は動物由来であってもよい。そのような抗体はWO08/022295(Novartis)に要約されているヒト化またはHuman Engineered抗体であることができ、そのような抗体はトランスジェニック動物に由来してもよい[同様にWO08/022295(Novartis)参照]。
【0162】
本明細書にいう、異なる「形態」の抗原、例えばPRLRとは、本明細書においては、異なる翻訳時修飾および翻訳後修飾、例えば限定するわけではないが、一次プロラクチン受容体転写産物のスプライシングの相違、グリコシル化の相違、および翻訳後タンパク質分解的切断(proteolytic cleavage)の相違に起因する異なるタンパク質分子と定義される。
【0163】
本明細書において使用する用語「エピトープ」は、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合する能力を有する任意のタンパク質決定基を包含する。エピトープ決定基は通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面配置(surface grouping)からなり、通常は特異的な三次元構造特徴と、特異的な電荷特徴とを有している。2つの抗体は、当業者に周知の方法のいずれかによって、一方の抗体が競合結合アッセイにおいてもう一つの抗体と競合することが示されるのであれば、そして好ましくは、エピトープのアミノ酸の全てがそれら2つの抗体によって結合されるのであれば、「同じエピトープに結合する」といわれる。
【0164】
用語「成熟抗体」または「成熟抗原結合性フラグメント」、例えば成熟Fab変異体には、PRLRの細胞外ドメインなど、所与の抗原に対して、より強い結合−すなわち、増加したアフィニティでの結合−を呈する抗体または抗体フラグメントの誘導体が含まれる。成熟は、抗体または抗体フラグメントの6個のCDR内にあってアフィニティの増加につながる少数の変異を同定するプロセスである。成熟プロセスは、抗体中に変異を導入するための分子生物学的方法と、スクリーニングによって改良されたバインダーを同定するための分子生物学的方法との組み合わせである。
【0165】
治療法
治療法は、本発明によって考えられる抗体の治療有効量を、処置を必要とする対象に投与することを伴う。「治療有効」量とは、本明細書においては、単回投与として、または複数回投与レジメンに従って、単独で、または他の薬剤との組み合わせで、対象の処置区域におけるPRLR陽性細胞の増殖をブロックするのに十分な量であって、有害な状態の軽減につながるが、毒物学的には認容できるような、抗体の量と定義される。対象は、ヒトまたは非ヒト動物(例えばウサギ、ラット、マウス、サル、または他の下等霊長類)であることができる。
【0166】
本発明の抗体は、既知の医薬(medicament)と同時投与することができ、場合によっては、抗体そのものを修飾してもよい。例えば抗体は、潜在的に効力をさらに高めるために、免疫毒素または放射性同位体にコンジュゲートすることができるだろう。
【0167】
本発明の抗体は、PRLRが望ましくないほど多量に発現しているさまざまな状況において、治療ツールまたは診断ツールとして使用することができる。本発明の抗体による処置にとりわけ適した障害および状態は、子宮内膜症、腺筋症、非ホルモン女性避妊(female fertility contraception)、良性乳房疾患および乳房痛、泌乳阻害、良性前立腺過形成、類線維腫、高および正常プロラクチン血性脱毛、ならびに乳腺上皮細胞増殖を阻害するための併用ホルモン療法における共処置である。
【0168】
上述の障害のいずれかを処置するために、本発明に従って使用するための医薬組成物は、1つ以上の生理学的に許容できる担体または賦形剤を使って、従来の方法で製剤化することができる。本発明の抗体は、処置される障害のタイプに応じてさまざまであることができる任意の適切な手段によって投与することができる。考えうる投与経路には、非経口(例えば筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下)、肺内および鼻腔内、ならびに局所免疫抑制処置にとって望ましい場合には、病変内投与が含まれる。また、本発明の抗体は、例えば抗体の用量を減らしていく、パルス注入(pulse infusion)によって投与することもできる。好ましくは、投薬は、投与が短期間であるか、長期間であるかに部分的に依存して、注射によって、最も好ましくは静脈内注射または皮下注射によって行われる。投与すべき量は、臨床症状、個体の体重、他の薬物を投与するかどうかなど、さまざまな因子に依存するだろう。投与の経路が処置すべき障害または状態に依存して変動することは、当業者にはわかるだろう。
【0169】
本発明の新規ポリペプチドの治療有効量の決定は、主として、特定の患者特徴、投与経路、および処置される障害の性質に依存するだろう。一般的指針は、例えば医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議(International Conference on Harmonisation)の刊行物およびRemingtons's Pharmaceutical Sciences, chapter 27および28, 484〜528ページ(第18版、Alfonso R. Gennaro編、ペンシルバニア州イーストン:Mack Pub. Co., 1990)に見いだすことができる。より具体的には、治療有効量の決定は、医薬の毒性および効力などの因子に依存するであろう。毒性は、上述の参考文献に見いだされる当技術分野において周知の方法を使って決定することができる。効力は、同じ指針を、下記実施例で述べる方法と合わせて利用することによって、決定することができる。
【0170】
医薬組成物および投与
本発明は、PRLR抗体を含みうる医薬組成物であって、単独で、または安定化化合物などの少なくとも1つの他の薬剤と組み合わせて使用することができ、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、および水などといった(ただしこれらに限るわけではない)滅菌生体適合性医薬担体に入れて投与することができる、医薬組成物にも関係する。これらの分子はいずれも、患者に単独で、または他の薬剤、薬物もしくはホルモンと組み合わせて、医薬組成物として投与することができ、医薬組成物では、賦形剤または医薬上許容される担体と混合される。本発明のある実施形態では、医薬上許容される担体は医薬的に不活性である。
【0171】
本発明は医薬組成物の投与にも関係する。そのような投与は、非経口的に行われる。非経口送達の方法には、局所(topical)、動脈内(腫瘍に直接)、筋肉内、皮下、髄内(intramedullary)、髄腔内(intrathecal)、脳室内(intraventricular)、静脈内、腹腔内、子宮内または鼻腔内投与が含まれる。これらの医薬組成物は、活性成分の他にも、活性化合物を医薬的に使用することができる調製物に加工することを容易にする賦形剤および助剤を含む適切な医薬上許容される担体を含有しうる。製剤および投与のための技術に関するさらなる詳細は、Remington's Pharmaceutical Sciences(編 Maack Publishing Co、ペンシルバニア州イーストン)の最新版に見いだすことができる。
【0172】
非経口投与用の医薬製剤には活性化合物の水溶液が含まれる。注射のために、本発明の医薬組成物を、水溶液中に、好ましくは生理学的に適合するバッファー、例えばハンクス液(Hank's solution)、リンゲル液、または生理学的緩衝食塩水中に製剤化することができる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランを含有しうる。また、活性化合物の懸濁液は、適当な油性注射用懸濁液として製造することもできる。適切な親油性溶剤または媒体には、ゴマ油などの脂肪油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリド、またはリポソームが含まれる。所望により、懸濁液は、高濃度溶液の調製が可能になるように、適切な安定化剤、または化合物の溶解度を増加させる薬剤も含有してよい。
【0173】
局所または鼻投与のためには、浸透すべき特定の障壁に適した浸透剤(penetrant)を、製剤中に使用する。そのような浸透剤は当技術分野では一般的に知られている。
【0174】
非経口投与は、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、髄腔内、および脳室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣、または鼻腔内投与も含む非経口送達の方法も含む。
【0175】
キット
本発明はさらに、上述した本発明組成物の成分の1つ以上が充填された1つ以上の容器を含む医薬パック(pharmaceutical pack)およびキットに関する。そのような容器には、医薬または生物学的製剤の製造、使用または販売を規制する政府当局によって指示された形式で、当局によるヒト投与用製品の製造、使用または販売の認可を反映した告知書(notice)を、添付することができる。
【0176】
もう一つの実施形態において、キットは、本発明の抗体をコードするDNA配列を含有してもよい。これらの抗体をコードするDNA配列は、好ましくは、宿主細胞へのトランスフェクションと宿主細胞による発現に適したプラスミドに入れて提供される。プラスミドは、宿主細胞におけるDNAの発現を調節するために、プロモーター(多くの場合、誘導性プロモーター)を含有しうる。プラスミドは、プラスミド中に他のDNA配列を挿入してさまざまな抗体を生産することが容易になるように、適当な制限部位も含有しうる。プラスミドは、コードされているタンパク質のクローニングおよび発現を容易にするために、数多くの他の要素も含有しうる。そのような要素は、当業者にはよく知られており、例えば選択可能マーカー、開始コドン、停止コドンなどが含まれる。
【0177】
製造および貯蔵
本発明の医薬組成物は、当技術分野においてよく知られている方法で、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣形成(dragee-making)、研和(levigating)、乳化、カプセル化、捕捉(entrapping)または凍結乾燥プロセスなどによって、製造することができる。
【0178】
医薬組成物は、使用前にバッファーと混合される、pH範囲が4.5〜5.5の1mM〜50mMヒスチジン、0.1%〜2%スクロース、2%〜7%マンニトール中の凍結乾燥粉末として提供することができる。
【0179】
許容される担体中に製剤化された本発明の化合物を含む医薬組成物を製造したら、それらを適当な容器に入れ、適応症(indicated condition)の処置に関して医薬品の表示をすることができる。PRLR抗体の投与に関して、そのような医薬品の表示(labeling)には、投与の量、頻度および方法が含まれるだろう。
【0180】
治療有効量
本発明における使用に適した医薬組成物には、その活性成分が、意図する目的、すなわちPRLR発現を特徴とする特定の疾患状態の処置を達成するのに有効な量で含まれている組成物が含まれる。有効量の決定は、当業者の能力の範囲で十分に可能である。
【0181】
任意の化合物について、まず最初は細胞培養アッセイにおいて、例えばリンパ腫細胞において、または動物モデル、通常はマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタまたはサルにおいて、治療有効量を推定することができる。動物モデルは、望ましい濃度範囲および投与経路を実現するためにも使用される。次に、そのような情報を、ヒトにおける投与にとって有用な用量および経路を決定するために使用することができる。
【0182】
治療有効量は、症状または状態を改善する、タンパク質またはその抗体、アンタゴニスト、または阻害剤の量を指す。そのような化合物の治療効力および毒性は、細胞培養または実験動物において、例えばED50(集団の50%において治療的に有効な用量)およびLD50(集団の50%にとって致死的な用量)などといった、標準的な医薬的手法によって決定することができる。治療効果と毒性効果の間の用量比が治療係数(therapeutic index)であり、これは比ED50/LD50として表すことができる。大きな治療係数を呈する医薬組成物は好ましい。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトでの使用のための投薬量範囲を処方する際に使用される。そのような化合物の投薬量は、好ましくは、ほとんどまたは全く毒性を伴わないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量は、使用する剤形、患者の感度、および投与経路に応じてこの範囲内で変動する。
【0183】
厳密な投薬量は、処置すべき患者を考慮して個々の医師が選択する。投薬量および投与は、十分なレベルの活性部分が提供されるように、または所望の効果が維持されるように、調節される。考慮されるであろうさらなる因子には、疾患状態の重症度、例えば子宮内膜症病変のサイズおよび場所;患者の年齢、体重および性別;食餌(diet)、投与の時間および頻度、併用薬、反応感度、および治療に対する認容性/応答が含まれる。長時間作用性医薬組成物を、その特定製剤の半減期およびクリアランス率に応じて、3〜4日ごと、1週間ごと、または2週間に1回、または1ヶ月以内に1回投与してもよい。
【0184】
通常の投薬量は、投与経路に応じて、0.1〜100,000マイクログラム、合計用量約2gまでの範囲で変動しうる。特定の投薬量および送達方法に関する指針は文献に記載されている。US4,657,760;US5,206,344;またはUS5,225,212を参照されたい。当業者は、ポリヌクレオチド用には、タンパク質用またはそれらの阻害剤用とは異なる製剤を使用するであろう。同様に、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの送達は、特定の細胞、状態、場所などに特異的であるだろう。放射標識抗体の場合、好ましい比放射能は0.1〜10mCi/mgタンパク質の範囲にありうる(Rivaら, Clin. Cancer Res. 5:3275s-3280s, 1999;Wongら, Clin. Cancer Res. 6:3855-3863, 2000;Wagnerら, J. Nuclear Med. 43:267-272, 2002)。
【0185】
以下に実施例を挙げて、本発明を、さらに詳しく説明する。これらの実施例は、具体的な実施形態を参照して本発明を例証するために提供されるにすぎない。これらの実証は、本発明の一定の具体的態様を例示しているが、限定を表すものではなく、ここに開示する発明の範囲を制限するものでもない。
【0186】
全ての実施例は、別段の説明が詳細になされている部分を除き、当業者にとっては周知でありルーチンである標準的技法使って行われた。下記実施例のルーチンな分子生物学技法は、Sambrookら「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版;Cold Spring Harbor Laboratory Press, コールドスプリングハーバー, ニューヨーク, 1989などの標準的実験マニュアルに記載されているとおりに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】健常女性および子宮内膜症を患っている女性からのヒト子宮内膜および病変(異所性組織)におけるプロラクチンmRNA(PRL-mRNA)の発現(リアルタイムTaqMan PCR分析によって分析)。
【図2】健常女性および子宮内膜症を患っている女性からのヒト子宮内膜および病変(異所性組織)におけるプロラクチン受容体mRNA(PRLR-mRNA)の発現(リアルタイムTaqMan PCR分析によって分析)。
【図3】ラット組織におけるPRLR遺伝子発現のノーザンブロット分析。PRLRの遺伝子発現は、胎盤および前立腺における高発現を明らかにした。
【図4】異なるホルモンで処置されたラット前立腺におけるPRLR発現のウェスタンブロット分析。無傷ラットのエストラジオール処置および去勢が、ラット前立腺におけるPRLRタンパク質のアップレギュレーションにつながったのに対し、無傷ラットのジヒドロテストステロン処置は、無傷動物の媒体処置と比較して、前立腺におけるPRLR発現に何も影響しなかった。
【図5】中和PRLR抗体および非特異的対照抗体によるプロラクチン活性化Ba/F(=Baf)細胞増殖(ヒトPRLRを安定に発現するもの)の阻害。以下の抗体について、IgG1フォーマットで、IC50値を決定した:005-C04(黒丸):1.29μg/ml=8.6nM;006-H08(白丸):0.15μg/ml=1nM;HE06.642(黒三角):0.34μg/ml=2.2nM;002-H06(白三角):0.54μg/ml=3.6nM;002-H08(黒四角):0.72μg/ml=4.8nM;非特異的対照抗体(白四角):細胞増殖の阻害なし。
【図6】中和PRLR抗体および非特異的対照抗体によるプロラクチン誘発性ラットリンパ腫細胞増殖(NB2細胞)の阻害。以下のIC50値が決定された:XHA06.642(黒丸):10μg/ml=67nM;XHA06.983(白丸):ラットリンパ腫細胞増殖に対する効果なし;非特異的対照抗体(黒三角):10μg/mlで効果なし。
【図7】中和PRLR抗体および非特異的対照抗体によるT47D細胞におけるプロラクチン刺激STAT5リン酸化の阻害。 非特異的対照抗体(FITC)はT47D細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害しない。これに対して、抗体XHA06.642、005-C04(=IgG1 005-C04)、および006-H08(=IgG1 006-H08)は、T47D細胞におけるSTAT5のリン酸化を、用量依存的に阻害する。
【図8】ヒトプロラクチン受容体(hPRLR)で安定にトランスフェクトされた、乳腺刺激ホルモン応答エレメント(LHRE)の制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を一過性に発現するHEK293細胞を使った、プロラクチン活性化ルシフェラーゼレポーター遺伝子活性に対する中和PRLR抗体および非特異的対照の効果。次の抗体について、IgG1フォーマットで、IC50値を決定した:006-H08(黒丸):0.83μg/ml=5.5nM;HE06.642(白丸):0.63μg/ml=4.2nM;非特異的対照抗体(黒三角):ルシフェラーゼ活性の阻害なし。
【図9】マウスプロラクチン受容体(mPRLR)で安定にトランスフェクトされた、乳腺刺激ホルモン応答エレメント(LHRE)の制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を一過性に発現するHEK293細胞を使った、プロラクチン活性化ルシフェラーゼレポーター遺伝子活性に対する中和PRLR抗体および非特異的対照の効果。次の抗体について、IgG1フォーマットで、IC50値を決定した:005-C04(黒三角):0.45μg/ml=3nM;XHA06.642(黒丸):>>50μg/ml>>333nM、非特異的対照抗体(白丸):ルシフェラーゼ活性の阻害なし。
【図10】中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体によるプロラクチン活性化Ba/F(=Baf)細胞増殖(マウスプロラクチン受容体を安定に発現するもの)の阻害。次の抗体について、IgG1フォーマットで、IC50値を決定した:非特異的FITC抗体(黒四角):細胞増殖の阻害なし;HE06.642(黒丸):>>>30μg/ml>>>200nM;001-E06(白丸):43.7μg/ml=291nM;001-D07(黒三角):16.5μg/ml=110nM;005-C04(白三角):0.74μg/ml=4.9nM。
【図11】リン酸緩衝食塩水(=媒体)、非特異的対照抗体(FITC IgG1)または中和抗体IgG1 005-C04(=005-C04)で処置した雌マウスにおける妊娠率および平均一腹仔数。妊娠率は87.5%(媒体処置雌)、75%(10mg/kgの非特異的抗体で処置した雌)、100%(10mg/kgのIgG1 005-C04で処置した雌)、および0%(30mg/kgのIgG1 005-C04で処置した雌)だった。平均一腹仔数は10.9匹(媒体処置雌)、12.3匹(10mg/kgの非特異的抗体で処置した雌)、13匹(10mg/kgのIgG1 005-C04で処置した雌)および0匹(30mg/kgのIgG1 005-C04で処置した雌)だった。
【図12】JohnsonおよびWu(Nucleic Acids Res. 2000, 28, 214-218)によるフレームワークアミノ酸位置のKabat番号付与。
【図13】選択した抗PRLR抗体(005-C04、001-E06、HE06642)を使ったFACS分析結果。抗体の結合を、ヒトおよびマウスPRLRを発現するHEK293細胞において、PRLRを発現しない親細胞株と比較して、固定濃度で決定した。
【図14A】分娩後1日目に得られた産仔(litter)重量の百分率として表した、各分娩後日(postpartal day)についての、産仔重量増加。無処置の母体から(黒丸)、10mg/kgの非特異的マウスIgG2a抗体で処置した母体から(白丸)、ならびに10mg/kg(黒三角)および30mg/kg(白三角)のマウスIgG2a定常ドメインを含有する中和抗体005-C04(=IgG2a 005-C04)で処置した母体からの産仔の重量増加を示す。矢印は、抗体注射を行った日を示す。分娩後8日目以降、30mg/kgのIgG2a 005-C04で処置した母体の産仔からの体重増加に、有意な減少がある。
【図14B】分娩後1日目の産仔体重の百分率として表した1日ごとの産仔重量増分。無処置の母体(黒丸)、10mg/kgの非特異的マウスIgG2a抗体で処置された母体(白丸)、ならびに10mg/kg(黒三角)および30mg/kg(白三角)のマウスIgG2a定常ドメインを含有する中和抗体005-C04(=IgG2a 005-C04)で処置された母体の産仔からの結果を表す。基本的に、図14Aは図14Aに示したグラフの傾きを表す。無処置の母体および10mg/kgの非特異的抗体で処置された母体からの産仔における毎日の重量増加は、分娩後1日目における産仔重量の30%付近を上下する。対照的に、30mg/kgのIgG2a 005-C04による母体の処置は、7日目以降の重量増加の有意な減少につながり(*p<0.05;***p<0.005、非特異的抗体で処置された母体からの産仔との比較)、一方、10mg/kgのIgG2a 005-C04による処置は、11日目以降の毎日の重量増加の有意な減少につながる(p<0.05、非特異的抗体で処置された母体からの産仔との比較)。矢印は抗体適用の日を示す。
【図14C】泌乳中の母体の乳腺からの組織切片。無処置の母体または非特異的抗体で処置された母体からの乳腺は、乳汁を産生する導管で満たされている。対照的に、脂肪島(fatty island)の出現(黒い矢印)によって証明される乳腺退縮が、中和IgG2a 005-C04抗体により、用量依存的に誘導される。
【図14D】泌乳中の母体からの乳腺における乳タンパク質発現。乳タンパク質ベータカゼイン(Csn-2)、乳清酸性タンパク質(WAP)、IGF-1の発現は、中和PRLR抗体IgG2a 005-C04で処置された母体では用量依存的に減少したが、非特異的抗体ではそうならなかった。遺伝子発現は、TATAボックス結合タンパク質(TBP)の発現に対して標準化した。
【図15A】良性乳房疾患の高プロラクチン血性マウスモデルにおける側枝(side branch)および腺房(alveolar)様構造の形成。中和PRLR抗体IgG1 005-C04(=005-C04)は、10および30mg/kgで、下垂体同系移植を受けたマウスにおける側枝形成と腺房様構造の形成を阻害する。
【図15B】良性乳房疾患の高プロラクチン血性マウスモデルにおける上皮過形成および上皮細胞増殖の程度。いくつかのBrdU陽性細胞に白い矢印で印をつける。中和PRLR抗体IgG1 005-C04(=005-C04)は乳腺における上皮過形成および上皮細胞増殖をブロックする。
【図15C】良性乳房疾患の高プロラクチン血性マウスモデルにおけるSTAT5リン酸化の程度。いくつかのホスホSTAT5陽性細胞を白い矢印で示す。中和PRLR抗体IgG1 005-C04(=005-C04)は、30mg/kgの投薬量で適用した場合、STAT5リン酸化を完全にブロックする。
【図16】マウスIgG2a定常ドメインを含有する中和PRLR抗体005-C04(=IgG2a 005-C04)による前立腺成長の阻害。下垂体同系移植は、無処置の偽手術(sham-operated)マウスと比較して、前立腺成長を刺激する。用量10mg/kgおよび用量30mg/kgの中和PRLR抗体による処置は、前立腺成長を阻害する(***p<0.005、無処置偽手術マウスとの比較)。
【図17】中和PRLR抗体は、高プロラクチン血症の存在下で、毛髪成長を刺激する。実施例17および図16に記載の実験において使用した雄マウスから、下垂体同系移植(および剃毛)の3週間後に、写真を撮影した。高プロラクチン血症は、剃毛区域における毛髪再成長を阻害する。中和PRLR抗体は、用量10および30mg/kgの005-C04(=IgG2a 005-C04)で、高プロラクチン血性条件下における毛髪再成長を刺激するが、非特異的抗体はそうではない。
【図18】中和PRLR抗体は、高および正常プロラクチン血性雄および雌マウスの剃毛区域における毛髪再成長を刺激するが、非特異的抗体はそうではない(実施例18)。それゆえに、中和PRLR抗体は、男性(図18B)および女性(図18A)における正常および高プロラクチン血性条件下での脱毛の処置に適している。
【図19】中和PRLR抗体は、併用ホルモン療法、すなわち併用エストロゲン+プロゲスチン療法後の乳腺における増進した上皮細胞増殖を阻害するが、非特異的対照抗体はそうではない。 乳腺の4つの横断面内で増殖性導管上皮細胞の絶対数を評価し、中央値を水平線として図内に図示している。卵巣切除媒体処置マウスにおける上皮細胞増殖はかなり低い(中央値=0)。エストラジオール処置は上皮細胞増殖の多少の刺激につながり(中央値=9)、最大乳腺上皮細胞増殖は、エストロゲン+プロゲステロン処置下で観察される(中央値=144)。中和プロラクチン受容体抗体005-C04による処置では、乳腺上皮細胞増殖がほとんどエストラジオール単独のレベルまで用量依存的に減少するが(10mg/kgの005-C04による処置後は中央値=84;30mg/kgの005-C04による処置後は中央値=27)、非特異的対照抗体による処置では、そうはならない(中央値=154)。 それゆえに、中和PRLR抗体は、併用ホルモン療法下、すなわちエストラジオール+プロゲステロン処置下における、増進した乳腺上皮細胞増殖を処置するのに適している。
【図20】中和PRLR抗体は、マウスにおける内性子宮内膜症を阻害するが、非特異的対照抗体はそうではない。結果を実施例20において説明する疾患スコアとして図示する。各実験群について中央疾患スコアを平行線として示す。正常プロラクチン血性マウスは、ある程度、内性子宮内膜症を発症する(中央疾患スコア=0.25)。下垂体同系移植に起因する高プロラクチン血症は疾患スコアを高め、より多くの動物が罹患する(中央疾患スコア=2.5)。30mg/kgの非特異的抗体による週に1回(中央スコア=2.5)または2回(中央スコア=2)の処置は、疾患に対して影響を持たなかったが、特異的中和抗体による処置は、罹病動物の量の用量依存的な減少を示し、特異的抗体を使用した全症例における中央疾患スコアはゼロだった。注目すべきことに、10または30mg/kgの特異的抗体を週に2回投与された動物は全てが完全に治癒し、その疾患スコアは、正常プロラクチン血性マウスの疾患スコアよりも有意に低かった。それゆえに、中和PRLR抗体は、女性における内性子宮内膜症(=子宮腺筋症)および外性子宮内膜症を処置するのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0188】
配列番号1は、HCDR1、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号2は、HCDR1、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号3は、HCDR1、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号4は、HCDR1、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号5は、HCDR1、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号6は、HCDR1、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号7は、HCDR2、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号8は、HCDR2、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号9は、HCDR2、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号10は、HCDR2、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号11は、HCDR2、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号12は、HCDR2、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号13は、HCDR3、006-H08、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号14は、HCDR3、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号15は、HCDR3、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号16は、HCDR3、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号17は、HCDR3、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号18は、LCDR1、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号19は、LCDR1、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号20は、LCDR1、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号21は、LCDR1、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号22は、LCDR1、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号23は、LCDR1、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号24は、LCDR2、006-H08、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号25は、LCDR2、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号26は、LCDR2、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号27は、LCDR2、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号28は、LCDR2、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号29は、LCDR3、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号30は、LCDR3、002-H06、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号31は、LCDR3、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号32は、LCDR3、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号33は、LCDR3、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号34は、VH、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号35は、VH、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号36は、VH、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号37は、VH、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号38は、VH、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号39は、VH、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号40は、VL、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号41は、VL、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号42は、VL、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号43は、VL、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号44は、VL、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号45は、VL、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号46は、核酸配列VH、006-H08を表す。
配列番号47は、核酸配列VH、002-H06を表す。
配列番号48は、核酸配列VH、002-H08を表す。
配列番号49は、核酸配列VH、006-H07を表す。
配列番号50は、核酸配列VH、001-E06を表す。
配列番号51は、核酸配列VH、005-C04を表す。
配列番号52は、核酸配列VL、006-H08を表す。
配列番号53は、核酸配列VL、002-H06を表す。
配列番号54は、核酸配列VL、002-H08を表す。
配列番号55は、核酸配列VL、006-H07を表す。
配列番号56は、核酸配列VL、001-E06を表す。
配列番号57は、核酸配列VL、005-C04を表す。
配列番号58は、VH、HE06642、Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号59は、VH、XHA06642、Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号60は、VH、XHA06983、Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号61は、VL、HE06642のアミノ酸配列を表す。
配列番号62は、VL、XHA06642 Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号63は、VL、XHA06983 Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号64は、核酸配列VH、HE06642を表す。
配列番号65は、核酸配列VH、XHA06642 Novartis(WO2008/22295)を表す。
配列番号66は、核酸配列VH、XHA06983 Novartis(WO2008/22295)を表す。
配列番号67は、核酸配列VL、HE06642を表す。
配列番号68は、核酸配列VL、XHA06642、Novartis(WO2008/22295)を表す。
配列番号69は、核酸配列VL、XHA06983、Novartis(WO2008/22295)を表す。
配列番号70は、ヒトECD_PRLR、アミノ酸位置1〜210、S1ドメイン1〜100(S1ドメインコンストラクト1〜102)、S2ドメイン101〜210を表す。
配列番号71は、CDSヒトECD_PRLR、ヌクレオチド位置1〜630を表す。
配列番号72は、マウスECD_PRLR、アミノ酸位置1〜210を表す。
配列番号73は、CDSマウスECD_PRLR、ヌクレオチド位置1〜630を表す。
【実施例】
【0189】
[実施例1]
ヒト抗体ファージディスプレイライブラリーからのターゲット特異的抗体の単離
ヒトPRLRの活性を中和することができる一群の抗体を単離するために、FabおよびscFvフラグメントを発現する3つのヒト抗体ファージディスプレイライブラリーを並行して調べた。ライブラリーパンニングに使用したターゲットは、WO08/022295(Novartis)に記載されているように製造されたプロラクチン受容体(ヒトプロラクチン受容体アミノ酸25〜234)の可溶性細胞外ドメイン(ECD)である。これに代わるターゲットは、C末端において、6個のヒスチジンに、またはヒトIgG1-Fcドメインにアミノ酸配列「イソロイシン-グルタミン酸-グリシン-アルギニン-メチオニン-アスパラギン酸」を有するリンカーを介して連結されたPRLRのECDであった。
【0190】
ファージディスプレイからのターゲット特異的抗体の選択は、Marksらによって記載された方法(Methods Mol Biol. 248:161-76, 2004)に従って行った。簡単に述べると、ファージディスプレイライブラリーを50pmolのビオチン化ECDと共に室温で1時間インキュベートした後、形成された複合体を100μlのストレプトアビジンビーズ懸濁液(Dynabeads(登録商標)M-280ストレプトアビジン、Invitrogen)を使って捕捉した。ビーズを洗浄バッファー(PBS+5%ミルク(Milk))で洗浄することによって、非特異的ファージを除去した。結合しているファージを0.5mlの100nMトリエチルアミン(TEA)で溶出させ、等体積の1M Tris-Cl pH7.4を添加することによって、直ちに中和した。溶出したファージプールを使って、対数増殖期にある成長中のTG1大腸菌細胞を感染させ、記述されているように、ファージミドを回収した(Methods Mol Biol. 248:161-76, 2004)。選択を合計3ラウンド繰り返した。3ラウンド目のパンニングからの溶出ファージに感染させたTG1細胞から得た単一コロニーを、ELISAアッセイにおいて、結合活性についてスクリーニングした。簡単に述べると、溶出したファージで感染させたTG1細胞から得られた単一コロニーを使って、96ウェルプレート中の培地に接種した。
【0191】
微量培養をOD600=0.6まで成長させ、その時点で、1mM IPTGの添加によって可溶性抗体フラグメントの発現を誘導し、続いて30℃の振とう培養器中で終夜培養した。細菌を遠沈し、周辺質抽出物を調製し、それを使って、96ウェルマイクロプレート(96ウェル平底Immunosorbプレート、Nunc)上に固定化したECDへの抗体結合活性を、マイクロプレートの製造者によって提供された標準的なELISAプロトコールに従って検出した。
【0192】
Biacore(登録商標)2000を使って、組換え細胞外ドメイン(ECD)への結合に関する抗プロラクチン受容体(PRLR)抗体のアフィニティを推定し、それを抗体のアフィニティランキング(affinity ranking)に使用した。
【0193】
[実施例2]
患者および健常対照からの正所性および異所性子宮内膜および子宮内膜症病変におけるリアルタイムTaqMan PCR分析によるプロラクチンおよびプロラクチン受容体遺伝子発現の定量的分析
リアルタイムTaqman PCR分析は、ABI Prism 7700 Sequence Detector Systemを製造者の説明書(PE Applied Biosystems)に従って使用し、記述されているとおりに(Endocrinolgy 2008, 149(8): 3952-3959)、そしてまた当業者に知られているとおりに行った。PRLおよびPRLRの相対的発現レベルをシクロフィリン(cyclophillin)の発現に対して標準化した。本発明者らは、健常女性からの子宮内膜ならびに患者からの子宮内膜および子宮内膜症病変におけるPRLおよびPRLRの発現を、定量リアルタイムTaqman PCR分析を使って分析した。プロラクチンとその受容体の発現は、健常子宮内膜または患者に由来する子宮内膜と比較して、子宮内膜症病変では明確にアップレギュレートされていた。
【0194】
結果を図1および2に示す。
【0195】
これらの知見は、オートクリン型プロラクチンシグナリングが子宮内膜症および子宮腺筋症(内性子宮内膜症、子宮に制限された子宮内膜症の一形態)の発生と維持に役割を果たすことを含意している。
【0196】
[実施例3]
ノーザンブロットによるヒト組織におけるプロラクチン受容体発現の分析
異なるラット組織からRNAを単離し、ゲル電気泳動後にナイロンメンブレンに転写した。メンブレンを、ラットプロラクチン受容体またはβ-アクチン(ローディング対照(loading control)として)の放射線標識cDNAと順次ハイブリダイズさせ、洗浄し、フィルムに露光した。バンドはラットプロラクチン受容体およびβ-アクチンのmRNAに対応する。図3に示す結果は、胎盤、前立腺、卵巣および副腎におけるプロラクチン受容体の強い発現を示す。
【0197】
[実施例4]
ラット前立腺におけるプロラクチン受容体タンパク質発現の調節−去勢およびホルモン処置の影響
ラットを去勢するか、無傷のままにしておいた。無傷動物を媒体(インタクト)、DHT(3mg/kg)、またはE2(0.4mg/kg)で14日間毎日処置した。その後、全ての処置群の動物から前立腺を単離し、タンパク質抽出物を調製した。タンパク質抽出物をゲル電気泳動によって分離し、メンブレンに転写した。市販の抗体MA610(Santa Cruz Biotechnology)を使ってプロラクチン受容体を検出した。結果を図4に示す。これらの結果は、ラット前立腺におけるプロラクチン受容体のホルモン調節を示している。
【0198】
[実施例5]
中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体によるBaF3細胞(ヒトプロラクチン受容体を安定にトランスフェクトしたもの)のプロラクチン誘発性増殖の阻害
中和PRLR抗体のインビトロ効力を解析するために、BaF3細胞のプロラクチン活性化細胞増殖の阻害を使用した。細胞にヒトPRLRを安定にトランスフェクトし、2mMグルタミンを含有するRPMI中、10%FCSおよび10ng/mlのヒトプロラクチンの存在下で、通常培養した。1%FCSを含有するプロラクチン非含有培地中で6時間の飢餓処理(starvation)後に、細胞を96ウェルプレートに、1ウェルあたり10000細胞の密度で播種した。細胞を20ng/mlのプロラクチンで刺激し、一連の用量(increasing doses)の中和PRLR抗体と共に、2日間インキュベートした。CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使って細胞増殖を分析した。プロラクチン刺激細胞成長の阻害に関する用量応答曲線を作成し、IC50値を算出した。陰性対照として、非特異的対照抗体による刺激を使用した。
【0199】
用量応答曲線およびIC50値を図5に図示する。非特異的抗体が、ヒトPRLRを安定に発現するBaF細胞の増殖を阻害しなかったのに対し、特異的抗体は細胞増殖をブロックし、異なる効力を呈した。このリードアウトパラダイムでは、中和抗体006-H08が最も高い効力を示した。
【0200】
[実施例6]
特異的および非特異的抗体によるプロラクチン誘発性ラットリンパ腫細胞増殖の阻害
中和PRLR抗体のインビトロ効力を、プロラクチン依存的ラットリンパ腫細胞(Nb2-11細胞)増殖の阻害を使って試験した。10%FCSおよび10%ウマ血清を含有するRPMI中で、Nb2-11細胞を通常どおり成長させた。細胞成長アッセイを開始する前に、10%FCSの代わりに1%FCSを含有する同じ培地中で、細胞を24時間成長させた。その後、96ウェルプレートに、FCS非含有培地中、1ウェルあたり10000細胞の密度で、細胞を播種した。一連の用量の中和PRLR抗体または対照抗体の存在下または非存在下、2日間にわたって、細胞を、10ng/mlのヒトプロラクチンで刺激した。その後、CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使って、細胞増殖を評価した。用量応答曲線およびIC50値を図6に図示する。非特異的抗体およびラットPRLRに結合しない抗体XHA06.983は、Nb2-11細胞増殖をブロックしなかった。ラットPRLRに結合するXHA06.642はNb2-11細胞増殖をブロックした。
【0201】
[実施例7]
中和プロラクチン受容体抗体によるT47D細胞におけるプロラクチン誘発性STAT5リン酸化の阻害
さらにもう一つのリードアウトにおける中和PRLR抗体のインビトロ効力を解析するために、プロラクチンで処理したヒトT47D細胞におけるSTAT5リン酸化の阻害を使用した。T47D細胞を、10%FCSおよび2mMグルタミンを含有するRPMI中で成長させた。細胞を24ウェルプレート上に、1ウェルあたり0.5×105細胞の密度で播種した。翌日、細胞を無血清RPMI中で1時間飢餓処理した。その後、細胞を、さまざまな用量の中和PRLR抗体または非特異的対照抗体と共に、またはそれらの抗体を伴わずに、20ng/mlヒトプロラクチンの非存在下または存在下で、30分間インキュベートした。その後、細胞をすすぎ、70μlの溶解バッファー中で溶解した。溶解物を遠心分離し、上清を−80℃で凍結した。抽出物をウェスタンブロット(upstate製の抗pSTAT5A/B抗体07-586、1:1000希釈)で分析した。ローディング対照として、ストリッピングしたブロットを抗β-チューブリン抗体(ab7287、1:500希釈)と共にインキュベートした。
【0202】
結果を図7に示す。非特異的FITC抗体を除く全ての中和PRLR抗体が、ヒトT47D細胞におけるSTAT5リン酸化を用量依存的にブロックした。試験した全ての抗体が、ヒトPRLRに高いアフィニティで結合した。
【0203】
[実施例8]
ヒトPRLRを安定にトランスフェクトしたHek293細胞におけるルシフェラーゼレポーター遺伝子活性の阻害−中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体の分析
中和PRLR抗体のインビトロ効力をさらに分析するために、レポーター遺伝子アッセイを使用した。ヒトPRLRを安定にトランスフェクトしたHEK293HEK293細胞に、LHRE(乳腺刺激ホルモン応答エレメント)の制御下にあるルシフェラーゼレポーター遺伝子を、7時間、一過性にトランスフェクトした。その後、細胞を、1ウェルあたり20000細胞の密度で、96ウェルプレートに播種した(0.5%チャコールストリッピング済(charcoal stripped)血清、DMEM)。翌日、300ng/mlのヒトプロラクチンを、一連の用量の中和PRLR抗体または対照抗体と共に、およびこれらの抗体を伴わずに、加えた。24時間後に、ルシフェラーゼ活性を決定した。結果を図8に図示する。非特異的抗体とは対照的に、006-H08およびHE06.642は、ヒトPRLRで安定にトランスフェクトされたHEK293細胞におけるルシフェラーゼ活性を阻害した。
【0204】
[実施例9]
マウスPRLRを安定にトランスフェクトしたHek293細胞におけるルシフェラーゼレポーター遺伝子活性の阻害−中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体の分析
マウスプロラクチン受容体に対する中和PRLR抗体のインビトロ効力をさらに解析するために、レポーター遺伝子アッセイを使用した。マウスPRLRを安定にトランスフェクトしたHEK293細胞に、LHRE(乳腺刺激ホルモン応答エレメント)の制御下にあるルシフェラーゼレポーター遺伝子を、7時間、一過性にトランスフェクトした。その後、細胞を、1ウェルあたり20000細胞の密度で、96ウェルプレートに播種した(0.5%チャコールストリッピング済血清、DMEM)。翌日、200ng/mlのヒトプロラクチンを、一連の用量の中和PRLR抗体または対照抗体と共に、およびこれらの抗体を伴わずに、加えた。24時間後に、ルシフェラーゼ活性を決定した。結果を図9に図示する。抗体005-C04(黒三角)が高い活性(IC50値=3nM)を呈するのに対し、抗体HE06.642(黒丸)は330nMまで活性を示さない。非特異的対照抗体(白丸)は完全に不活性である。Novartis抗体HE06.642とは対照的に、抗体005-C04はマウスPRLR媒介シグナリングをブロックすることができる。
【0205】
[実施例10]
中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体による、BaF3細胞(マウスプロラクチン受容体を安定にトランスフェクトしたもの)のプロラクチン誘発性増殖の阻害
中和PRLR抗体のインビトロ効力を解析するために、Ba/F3細胞のプロラクチン活性化細胞増殖の阻害を使用した。細胞にマウスPRLRを安定にトランスフェクトし、2mMグルタミンを含有するRPMI中、10%FCSおよび10ng/mlのヒトプロラクチンの存在下で、通常培養した。1%FCSを含有するプロラクチン非含有培地中で6時間の飢餓処理後に、細胞を96ウェルプレートに、1ウェルあたり10000細胞の密度で播種した。細胞を40ng/mlのプロラクチンで刺激し、一連の用量の中和PRLR抗体と共に、2日間インキュベートした。CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使って細胞増殖を分析した。プロラクチン刺激細胞成長の阻害に関する用量応答曲線を作成し、IC50値を算出した。陰性対照として、非特異的対照抗体による刺激を使用した。
【0206】
用量応答曲線およびIC50値を図10に図示する。非特異的対照抗体(黒四角)はマウスPRLRにおいて不活性だった。抗体HE06.642、001-E06、および001_D07では、マウスPRLR活性化の限られた阻害しか起こらなかった。抗体005-C04だけがマウスPRLR活性化を完全にブロックした。
【0207】
[実施例11]
マウスにおける中和プロラクチン受容体抗体IgG1 005-C04の避妊効果
マウスにおける妊性に対する中和プロラクチン受容体抗体の影響を調べるために、12週齢雌および雄NMRIマウスを7日間(0日目〜7日目)交配した。雌マウスを、−3日目、0日目、3日目および6日目に、リン酸緩衝食塩水、非特異的IgG1対照抗体(抗FITC、10mg/kg)、または中和IgG1抗体005-C04(=IgG1 005-C04)のいずれかを、リン酸緩衝食塩水に溶解して、体重1kgあたり10または30mgの濃度で、腹腔内注射することによって処置した。各実験群に10匹の雌を使用した。各雄を2匹の雌と交配させた。雌の一方は、リン酸緩衝食塩水または非特異的抗体で処置した陰性対照群からの雌とし、他方の雌は、特異的中和抗体で処置した。雄が一匹の雌も妊娠させなかった交配をデータ評価から除外した。リードアウトパラメータは、平均一腹仔数、および実験群あたりの産仔数をその群内での理論上可能な産仔の数で割ったものとして算出される妊娠率(%単位で測定)とした。結果を図11に図示する。
【0208】
図11Aは得られた妊娠率を示す。妊娠率は次のとおりであった:
・リン酸緩衝食塩水で処置したマウスの群では87.5%、
・非特異的対照抗体(10mg/kg)で処置したマウスの群では75%、
・中和PRLR抗体IgG1 005-C04(10mg/kg)で処置したマウスの群では100%、および
・中和PRLR抗体IgG1 005-C04(30mg/kg)で処置したマウスの群では0%。
【0209】
図11Bは、異なる実験群について、観察された一腹仔数を示す。一腹仔数は次のとおりだった:
・リン酸緩衝食塩水で処置したマウスの群では、一腹あたり10.9匹、
・非特異的対照抗体(10mg/kg)で処置したマウスの群では、一腹あたり12.3匹、
・中和PRLR抗体IgG1 005-C04(10mg/kg)で処置したマウスの群では、一腹あたり13匹、および
・中和PRLR抗体IgG1 005-C04(30mg/kg)で処置したマウスの群では、一腹あたり0匹。
【0210】
この交配研究の結果は、中和プロラクチン受容体抗体IgG1 005-C04が、30mg/kg体重で試験した場合に、マウスにおける妊娠を完全に防止したことを証明している。
【0211】
[実施例12]
エピトープ分類(epitope grouping)
エピトープ分類実験は、Biacoreを使用し、ECD-PRLR(配列番号70)への抗PRLR抗体のペアの同時結合をモニターすることによって行った。簡単に述べると、n-ヒドロキシスクシンアミド(NHC)およびN-エチル-N'-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(EDC)を使った1級アミンカップリングにより、第1抗体をセンサーチップに共有結合で固定化した。次に、表面上の、占有されていない結合部位を、エタノールアミドでブロッキングした。固定化された抗体により、可溶性ECD-PRLR(配列番号70)を、表面上に捕捉した。それゆえに、全ての結合されたECD-PRLR分子に関して、捕捉抗体のエピトープはブロックされている。第2の抗体を、固定化ECD-PRLRに結合させるために、直ちに表面上に流す。同じエピトープまたはオーバーラップするエピトープを認識する2つの抗体は、ECD-PRLRに結合できないが、異なるエピトープを伴う抗体は結合することができる。この抗体表面を、結合したタンパク質を除去するためにグリシン、pH2.8で再生し、次に他の抗体を使って、このプロセスを繰り返す。抗体の全ての組合せを試験した。代表的な結果を表7に示す。抗体006-H08、002-H06、002-H08、006-H07およびXHA06983は、ECD-PRLRに対して、互いに競合的に結合したことから、これらはオーバーラップするエピトープ(エピトープグループ1、表6)を標的にすることが示された。また、抗体はPRLとも競合して結合し、これは001-E06(エピトープグループ2、表6)の場合にも当てはまる。この抗体は、上述のものとは異なるECD-PRLRの部位を標的とする。最後に、抗体005-C04は、HE06.642およびXHA06.642とは、競合的に結合したが、PRLに対する競合はなかった(エピトープグループ3、表6)。
【0212】
[表7]ヒトプロラクチン受容体(PRLR)の細胞外ドメイン(ECD)上のオーバーラップするエピトープを標的とする抗体のグループ
【表7】
【0213】
[実施例13]
細胞表面上に発現したマウスおよびヒトPRLRに対する抗体の交差反応性
細胞上に発現したマウスおよびヒトPRLRに対する抗PRLR抗体の結合特徴を決定するために、ヒトおよびマウスPRLRをそれぞれ安定に発現するHEK293細胞上で、フローサイトメトリーによって結合を調べた。これらの細胞と、PRLRを伴わない親HEK293細胞株とを収穫し、遠心分離し、2%FBSおよび0.1%アジ化ナトリウムを含有する1×PBS(FACSバッファー)に、約5×106細胞/mlで再懸濁した。抗体005-C04、001-E06およびHE06.642をFACSバッファーに最終濃度の2倍まで希釈し、適当な試料ウェルに加えた(50μl/ウェル)。二次抗体および自己蛍光対照については、50μlのFACSバッファーを適当なウェルに加えた。50μlの細胞懸濁液を各試料ウェルに加えた。試料を4℃で1時間インキュベートし、冷FACSバッファーで2回洗浄し、1:100希釈のPEコンジュゲートヤギ抗ヒトIgGを含有するFACSバッファーに再懸濁した。4℃で30分間インキュベートした後、細胞を冷FACSバッファーで2回洗浄し、1mg/mlヨウ化プロピジウム(Invitrogen、カリフォルニア州サンディエゴ)を含有するFACSバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリーで分析した。図13に示すように、抗体005-C04および001-E06は、これらの細胞上のヒトおよびマウスPRLRに結合し、一方、HE06.642はヒトPRLRにしか結合しなかった。この観察結果は、マウスPRLR依存的ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイにおいてHE06.642が効力を欠くことに関する実施例9に記載の知見と合致している。005-C04とHE06.642はヒトPRLRに競合的に結合したが、マウスPRLRに関する両抗体の異なる結合特性は、それらのエピトープ特異性の相違を示している。
【0214】
[実施例14]
細胞シグナリングカスケードに対するFabおよびscFv抗体の阻害活性
PRLRをトリガーとする(PRLR-triggered)シグナリングカスケードに対するFabおよびscFvスクリーニングヒット(screening hit)の活性を機能的に特徴づけるために、プロラクチンで処理したヒトT47D細胞におけるPRLR自体ならびに転写調節因子ERK1/2およびSTAT5のリン酸化の阻害を測定した。T47D細胞を、2mM L-グルタミン、10%チャコールストリッピング済FBSおよびインスリン-トランスフェリン-セレン-A(Gibco)を含有するRPMI中で成長させた。細胞を6ウェルプレートまたは96ウェルプレートに、1ウェルあたり1.5×106細胞の密度で播種した。翌日、成長培地を新しくした。3日目に、細胞を無血清RPMI中で1時間、飢餓処理した。その後、細胞を、異なる用量の中和PRLR抗体または非特異的対照抗体と共に、またはこれらの抗体を伴わずに、500ng/mlヒトプロラクチンの存在下で5分間インキュベートした。その後、細胞をすすぎ、溶解バッファー中で溶解した。溶解物を遠心分離し、上清を-80℃で凍結した。試料を、PRLRリン酸化の測定についてはDuoSet IC「Human Phospho-Prolactin R」キット(R&D Systems)、STAT5リン酸化の測定についてはPathScan Phospho-STAT5 (Tyr694) Sandwich ELISAキット(Cell Signaling Technology;#7113)、ERK1/2リン酸化の測定についてはPhospho-ERK1/ERK2キット(R&D Systems)によるELISAで、試験した。表8に、選ばれたスクリーニングヒットの、FabまたはscFvフォーマットにおける、1mlあたり7.5μgの固定用量での、アンタゴニスト活性に関する概要を記す。
【0215】
[表8]ヒト乳がん細胞株T47Dの細胞溶解物でのELISAによって決定した、PRLR、ERK1/2およびSTAT5のリン酸化に対する、選ばれたスクリーニングヒットのアンタゴニスト活性
【表8】
*scFvフォーマット、°Fabフォーマット
【0216】
[実施例15]
中和PRLR抗体はマウスにおける泌乳を阻害する
成体NMRI雌をNMRI雄と交配した。分娩後1日目に、一腹仔数を泌乳中の母体1匹あたり8匹に調節した。仔の重量を分娩後1日目から開始して、毎日午前中に決定した。泌乳中の母体を無処置のままにしておくか(図14A、Bの黒丸)、あるいは非特異的抗体(10mg/kg体重;図14A、Bの白丸)またはマウスIgG2a定常ドメインを含有する中和PRLR抗体005-C04(=IgG2a 005-C04;10mg/kg、図14A、Bの黒三角)または中和PRLR抗体IgG2a 005-C04(30mg/kg、図14A、Bの白三角)のいずれかで腹腔内処置した。群サイズ(group size)は1実験群につき泌乳母体5〜6匹とした。母体を、分娩後1、3、6、9、10、および12日目(図14A、Bでは矢印で示す)に、特異的抗体または非特異的対照抗体で処置した。結果を図14に図示する。図14Aは、各分娩後日について、1日目の各産仔重量の百分率として表した毎日の産仔重量増加を示す。分娩後8日目以降、中和PRLR抗体で処置された母体からの仔と、無処置のままの母体または非特異的対照抗体を投与された母体からの仔との間には、産仔体重増加に有意差がある。倫理上の理由から、最高用量の中和PRLR抗体を与えた母体の実験群では、数匹の産仔を分娩後10日目に屠殺する必要があった。図14Bでは、結果を異なる方法で図示している。1日ごとの差分(differential)産仔重量増加を図示し、分娩後1日目での産仔重量の百分率として表している。基本的に、図14Bは図14Aに図示したグラフの傾きを示す。産仔重量の毎日の差分増加量は、無処置母体または非特異的抗体で処置された母体からの産仔については、分娩後1日目の出発産仔重量の30%付近を上下する。30mg/kg体重の中和PRLR抗体で処置された母体からの産仔では、7日目以降に、毎日の産仔重量増加の有意で著しい減少が起こる(*p<0.05;***p<0.005、非特異的抗体で処置された母体からの産仔との比較)。10mg/kgの中和PRLR抗体で処置された母体からの産仔も、非特異的対照抗体で処置された母体からの産仔と比較すると、分娩後11日目以降は、毎日の産仔重量増加が有意に減少した(p<0.05、非特異的抗体で処置された母体からの産仔との比較)。結論として、泌乳阻害に関して、中和PRLR抗体IgG2a 005-C04の用量依存的効果がある。図14Cは、異なる実験群の泌乳中の母体からの乳腺の組織切片を示す。無処置母体および非特異的対照抗体で処置された母体の乳腺は、乳汁を産生する導管で満たされている。対照的に、中和PRLR抗体IgG2a 005-C04で処置された母体には乳腺退縮の徴候がある。図14C中の黒い矢印は、乳腺組織中の脂肪島を示している(乳腺退縮の程度に対する特異的抗体igG2a 005-C04の用量依存的効果(図14C)を参照のこと)。また、異なる実験群からの母体の乳腺における主要乳タンパク質β-カゼイン(Csn-2)、乳清酸性タンパク質(WAP)、およびIGF-1の発現を分析した(図14D)。遺伝子発現をTATAボックス結合タンパク質(TBP)の発現に対して標準化した。中和PRLR抗体IgG2a 005-C04が、乳タンパク質発現を用量依存的に減少させたのに対し、非特異的抗体(10mg/kg)には有意な効果がなかった。
【0217】
中和PRLR抗体IgG2a 005-C04は泌乳を用量依存的にブロックし、泌乳中のマウスにおける乳腺退縮をもたらすことから、それが泌乳阻害に役立つことが証明される。
【0218】
[実施例16]
中和PRLR抗体は良性乳房疾患の処置に適している
活性化PRLR変異または局所もしくは全身性高プロラクチン血症は良性乳房疾患を惹起しうる。それゆえに、乳腺における増進した増殖(大半の重症な形態の良性乳房疾患の特徴(hallmark))を誘導するための高プロラクチン血性マウスモデルを使用した。0日目に、12週齢雌Balb/cマウスに、腎被膜下に下垂体同系移植片を移植するか、または無手術のままにしておいた。下垂体同系移植したマウスを無処置のままにしておくか、0、3、7、11、および15日目に、非特異的抗体(10mg/kg)、IgG1フォーマットの中和PRLR抗体005-C04(=IgG1 005-C04;10mg/kg)、または中和PRLR抗体IgG1 005-C04(30mg/kg)のいずれかで腹腔内処置した。実験群サイズは8〜10匹とした。下垂体移植後17日目に、マウスを屠殺した。死亡の2時間前に、上皮細胞増殖をモニターするために動物にBrdUの腹腔内注射を行った。左鼠径部乳腺をカルノア(Carnoy)液で固定し、乳腺全載標本を調製し、アルムカーミン(Carmine alaune)で染色した(図15A)。右鼠径部乳腺は4%リン酸緩衝ホルマリン中で終夜固定した。次に、乳腺をパラフィンに包埋し、BrdU免疫染色を、既述のように行った(Endocrinology 149(8):3952-3959;2009)。また、中和PRLR抗体による処置に呼応して起こるPRLR媒介シグナリングの阻害をモニターするために、pSTAT5免疫染色も行った(abcam製の抗pSTAT5抗体、ab32364、1:60希釈)。図15Aに、異なる実験群からの乳腺全載標本の拡大図を示す。下垂体を移植されなかった成体マウスの乳腺が導管およびエンドバッド(endbud)を示すのに対し、下垂体同系移植を受けたマウスでは、並外れた側枝形成および腺房構造の形成が起こる。非特異的抗体(10mg/kg)による処置は側枝形成および腺房構造の形成を阻害しなかった。対照的に、10mg/kg体重の中和抗体IgG1 005-C04による処置は、下垂体同系移植を受けた動物10匹中8匹において側枝形成の完全な阻害をもたらし、30mg/kgのIgG1 005-C04による処置は、下垂体同系移植を受けた動物9匹中9匹において、側枝形成を完全に阻害した。組織学的分析およびBrdU免疫染色を図15Bに図示する。下垂体同系移植が、非特異的抗体による処置では阻害されない上皮過形成をもたらすのに対して、用量10または30mg/kg体重の中和PRLR抗体で処置された下垂体同系移植片を保有するマウスでは、上皮過形成が起こらない。細胞周期のS期にあって分裂しようとしている細胞を反映するBrdU陽性細胞の一部を、図15Bでは白矢印で示す。中和抗体IgG1 005-C04(30mg/kg体重)で処置したマウスは、乳腺における上皮細胞増殖のほとんど完全な阻害を示した。図15CではホスホSTAT5に関して陽性な細胞の一部を白矢印で示す。30mg/kg IgG1 005-C04による処置は、STAT5リン酸化の完全な阻害をもたらすことから、PRLR媒介シグナリングの完全な阻止が示される。
【0219】
図15A、B、およびCからの結果により、中和PRLR抗体は乳腺の良性増殖性疾患である乳腺症の処置に適していることが証明された。中和PRLR抗体は乳腺上皮細胞増殖およびホスホSTAT5の活性化を阻害する。
【0220】
[実施例17]
中和PRLR抗体による良性前立腺過形成の処置
8週齢時に2つの下垂体を腎被膜下に移植することによって、雄Balb/cマウスにおいて、良性前立腺過形成を樹立した。対照群は無手術のままにしておいた。下垂体同系移植を受けたマウスを無処置のままにしておくか、非特異的抗体(10mg/kg)または用量10および30mg/kg体重のマウスIgG2a定常ドメインを含有する中和PRLR抗体005-C04(=IgG2a 005-C04)のいずれかを腹腔内注射した。抗体注射は下垂体移植の日(=0日目)に開始して、下垂体移植後3日目、7日目、11日目、15日目、18日目、22日目、および25日目に行った。28日目にマウスを屠殺した。腹側前立腺の相対重量を決定した。結果を図16に図示する。下垂体同系移植は相対的前立腺重量の増加をもたらした。10mg/kgおよび30mg/kgの中和PRLR抗体IgG2a 005-C04による処置が前立腺重量を低下させたのに対し、非特異的対照抗体による処置には何の効果もなかった。それゆえに中和PRLR抗体は良性前立腺過形成の処置に適している。
【0221】
下垂体同系移植後18日目に、下垂体同系移植を受けた動物では毛髪成長が減少していることが明らかになった。中和PRLR抗体は高プロラクチン血条件下での毛髪成長を刺激した。代表的な写真を図17に示す。それゆえに中和PRLR抗体は高プロラクチン血性脱毛の処置に使用することができる。
【0222】
[実施例18]
毛髪成長に対する中和PRLR抗体の効果
8週齢雄および雌C57BL/6マウスの背部毛髪を、既述のように、電気シェーバー(electric shawer)を使って除去した(British Journal of Dermatology 2008;159:300-305)。いくつかの群では、腎被膜下に下垂体同系移植を行うことにより、高プロラクチン血症を誘発し、残りの群の動物は正常プロラクチン血性とした。動物を特異的PRLR抗体(IgG2a 005-C04)または 非特異的対照抗体(30mg/kg、腹腔内)で週に1回処置した(下垂体同系移植の日である0日目から開始)。その後の抗体注射は7日目および14日目に行った。3週間後には、再成長した毛髪が、ピンクがかった白色の剃毛済み皮膚上に黒く見え、黒くなった剃毛区域の百分率を測定した。雌マウスは剃毛の15日後に屠殺し、雄マウスは剃毛の18日後に屠殺した。
【0223】
以下の実験群を使用した(群サイズはマウス6匹とした):
1.剃毛した雌
2.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雌
3.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雌+週1回の30mg/kg非特異的抗体IgG2a 005-C04
4.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雌+週1回の30mg/kg特異的抗体
5.剃毛した雌+週1回の30mg/kg非特異的抗体
6.剃毛した雌+週1回の30mg/kg特異的抗体
7.剃毛した雄
8.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雄
9.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雄+週1回の30mg/kg非特異的抗体
10.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雄+週1回の30mg/kg特異的抗体IgG2a 005-C04
11.剃毛した雄+週1回の30mg/kg非特異的抗体
12.剃毛した雄+週1回の30mg/kg特異的抗体。
【0224】
異なる群の動物からの代表的な写真を図18に図示し、毛髪が再成長した区域の百分率を図18に示す。
【0225】
中和PRLR抗体は、雄および雌マウスにおいて、高および正常プロラクチン血条件下での毛髪再成長を刺激するが、非特異的抗体はそうではない。それゆえに、中和PRLR抗体は、高および正常プロラクチン血条件下での女性および男性における脱毛を処置するのに適している。
【0226】
[実施例19]
中和PRLR抗体による増進した乳腺上皮細胞増殖の阻害
併用ホルモン療法(すなわちエストロゲン+プロゲスチン療法)によって活性化された増進した乳腺上皮細胞増殖に対する中和PRLR抗体の効果を調べるために、子宮および乳腺における増殖効果の定量を可能にする既述のマウスモデルを使用した(Endocrinology 149:3952-3959, 2008)。6週齢のC57BL/6雌マウスに卵巣切除を行った。卵巣切除の2週間後に、動物を、2週間にわたって、媒体(エタノール/ラッカセイ油10%/90%)または100ngエストラジオール+100mg/kgプロゲステロンを毎日注射することによって皮下処置した。動物を、3週間にわたって、マウスIgG2aフォーマットの中和PRLR抗体(10mg/kgおよび30mg/kg)または非特異的抗体(30mg/kg)の腹腔内注射で、週に1回処置した。卵巣切除後36日目に剖検を行った。死亡の2時間前に、動物に、リン酸緩衝食塩水に溶解したBrdU(70mg/kg体重)の腹腔内注射を行った。右鼠径部乳腺の近位(proximal)2/3を、既述(Endocrinology 149:3952-3959,2008)の乳腺上皮細胞増殖について、分析した(BrdU免疫染色)。
【0227】
実験は次の群から構成された:
1.媒体で処置した卵巣切除動物
2.100ngエストラジオールで処置した卵巣切除動物
3.100ngエストラジオール(E)および100mg/kgプロゲステロン(P)で処置した卵巣切除動物
4.E+Pおよび10mg/kg特異的抗体005-C04で処置した卵巣切除動物
5.E+Pおよび30mg/kg特異的抗体005-C04で処置した卵巣切除動物
6.E2+Pおよび30mg/kg非特異的対照抗体で処置した卵巣切除動物。
【0228】
結果を図19に示す。乳腺の4つの横断面内で増殖性導管上皮細胞の絶対数を評価した。中央値を水平線として図示する。卵巣切除媒体処置マウスにおける上皮細胞増殖はかなり低い。エストラジオール処置は上皮細胞増殖の多少の刺激につながり、最大乳腺上皮細胞増殖は、エストロゲン+プロゲステロン処置下で観察される(図19)。中和プロラクチン受容体抗体005-C04による処置では、乳腺上皮細胞増殖がほとんどエストラジオール単独のレベルにまで用量依存的に減少するが、非特異的対照抗体による処置では、そうはならない。
【0229】
それゆえに中和PRLR抗体は、併用ホルモン療法下、すなわちエストラジオール+プロゲステロン処置下において、増進した乳腺上皮細胞増殖を処置するのに適している。
【0230】
[実施例20]
中和PRLR抗体によるSHNマウスにおける子宮腺筋症(=内性子宮内膜症)の処置
子宮内膜症における中和PRLR抗体の効力を調べるために、全身性高プロラクチン血症に依拠する、SHNマウスにおける子宮腺筋症モデルを使用した(Acta anat. 116:46-54, 1983)。7週齢雌マウスの腎被膜下に下垂体同系移植を行うことにより、SHNマウスにおける高プロラクチン血症を誘導した(Acta anat. 116:46-54, 1983)。中和PRLR抗体(10mg/kgまたは30mg/kg)または非特異的抗体(30mg/kg)の腹腔内投与を、下垂体同系移植の1週間後から開始した。腺組織による子宮筋層の浸潤を既述のように評価した(Laboratory Animal Science 1998, 48:64-68)。抗体による処置は、9週間にわたり、週に1回および2回、腹腔内注射によって行った。剖検時(下垂体移植後70日目)に、子宮を緩衝4%ホルマリン中で終夜固定し、パラフィンに包埋した。腺筋症(=内性子宮内膜症)の度合を次のように評価した:
グレード0=腺筋症なし
グレード0.5=子宮筋層の内層がその同心的配向(concentric orientation)を緩める
グレード1=子宮内膜腺が子宮筋層の内層に侵入
グレード2=子宮筋層の内層と外層の間に子宮内膜腺
グレード3=子宮内膜腺が子宮筋層の外層に侵入
グレード4=子宮筋層の外層の外側に子宮内膜腺。
【0231】
実験は次の実験群から構成された:
1.下垂体移植なしの動物、すなわち正常プロラクチン血性マウス
2.下垂体移植を受けた動物、すなわち高プロラクチン血性マウス
3.30m/kgの用量で1週間に1回、非特異的対照抗体で処置された、下垂体移植を受けた動物
4.30m/kgの用量で1週間に2回、非特異的対照抗体で処置された、下垂体移植を受けた動物
5.10m/kgの用量で1週間に1回、マウスIgG2aフォーマットの中和プロラクチン受容体抗体005-C04で処置された、下垂体移植を受けた動物
6.10m/kgの用量で1週間に2回、マウスIgG2aフォーマットの中和プロラクチン受容体抗体005-C04で処置された、下垂体移植を受けた動物
7.30m/kgの用量で1週間に1回、マウスIgG2aフォーマットの中和プロラクチン受容体抗体005-C04で処置された、下垂体移植を受けた動物
8.30m/kgの用量で1週間に2回、マウスIgG2aフォーマットの中和プロラクチン受容体抗体005-C04で処置された、下垂体移植を受けた動物。
【0232】
結果を図20に図示する。各処置群の各動物にスコアを個別に与え、各処置群の中央値を水平線で示す。正常プロラクチン血性マウスは、ある程度、内性子宮内膜症を発症する(中央疾患スコア=0.25)。下垂体同系移植に起因する高プロラクチン血症は、疾患スコアを高め、より多くの動物が罹患する(中央疾患スコア=2.5)。30mg/kgの非特異的抗体による週に1回または2回の処置が疾患に対して影響を持たなかったのに対し、特異的中和抗体による処置は、疾患スコアの用量依存的低下を示す。注目すべきことに、10または30mg/kgの特異的抗体を週に2回投与された動物は全てが完全に治癒し、その疾患スコアは、正常プロラクチン血性マウスの疾患スコアよりも有意に低かった(図20)。それゆえに、中和PRLR抗体は、女性における内性子宮内膜症(=子宮腺筋症)および外性子宮内膜症を処置するのに適している。
【技術分野】
【0001】
本発明はプロラクチン受容体抗体002-H08に関し、プロラクチン受容体に特異的に結合してそれを中和する組換え抗原結合領域および抗体ならびにそのような抗原結合領域を含有する機能的フラグメント、前記抗体をコードする核酸配列、それを含有するベクター、それらを含有する医薬組成物、およびプロラクチン受容体媒介シグナリング(prolactin receptor mediated signaling)の阻害によって利益を受ける良性疾患および適応、例えば子宮内膜症、腺筋症、非ホルモン雌性避妊(non-hormonal female contraception)、良性乳房疾患(benign breast disease)、乳房痛(mastalgia)、泌乳阻害(lactation inhibition)、良性前立腺過形成、類線維腫、ならびに高および正常プロラクチン血性脱毛の処置または防止、ならびに乳腺上皮細胞増殖を阻害するための併用ホルモン療法(combined hormone therapy)での共処置における、それらの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜症、腺筋症、非ホルモン雌性避妊、良性乳房疾患、乳房痛、泌乳阻害、良性前立腺過形成、類線維腫、高および正常プロラクチン血性脱毛などといったさまざまな良性疾患および適応の処置、ならびに併用(すなわちエストロゲン+プロゲスチン)ホルモン療法における乳腺上皮細胞増殖の防止には、未だ満たされていない医学的ニーズがある。
【0003】
プロラクチン(PRL)は199個のアミノ酸から構成されるポリペプチドホルモンである。PRLは、成長ホルモン(GH)・胎盤性ラクトゲン(PL)ポリペプチドホルモンファミリーに属し、下垂体のラクトトローフ細胞(lactotroph cell)ならびにいくつかの下垂体外組織、例えばリンパ球、乳腺上皮細胞、子宮筋層、および前立腺において合成される。2つの異なるプロモーターが下垂体および下垂体外PRL合成を調節する(BioEssays 28:1051-1055, 2006)。
【0004】
PRLは、クラス1サイトカイン受容体スーパーファミリーに属する1回膜貫通受容体であるPRL受容体(PRLR)に結合する(Endocrine Reviews 19:225-268, 1998)。PRLRは3つの異なるアイソフォーム、すなわち短鎖型、長鎖型、および中間型で存在し、これらはその細胞質テールの長さによって識別することができる。リガンドが結合すると、逐次的プロセスがPRLRの活性化をもたらす。PRLは一つのPRLR分子とその結合部位1を介して相互作用し、次にその結合部位2を介して、もう一つの受容体分子を引きつけることにより、PRLRの活性二量体をもたらす。PRLRの二量体化は、JAK/STAT(ヤヌスキナーゼ/シグナル伝達性転写因子)経路の優性活性化(predominant activation)につながる。受容体が二量体化すると、受容体と会合しているJAK(主にJAK2)が互いをトランスリン酸化し、活性化する。さらに、PRLRもリン酸化され、STATなどのSH2ドメイン含有タンパク質に結合することができる。受容体に結合したSTATは続いてリン酸化され、受容体から解離して核内に移行し、そこで、ターゲット遺伝子の転写を刺激する。さらに、PRLRによるRas-Raf-MAPK経路の活性化および細胞質srcキナーゼの活性化も記述されている(Endocrine Reviews 19:225-268, 1998に総説がある)。
【0005】
PRLR媒介シグナリングは、乳腺発生、泌乳、生殖、乳房および前立腺腫瘍成長、自己免疫疾患、全般的成長および代謝、ならびに免疫調整など、さまざまなプロセスにおいて役割を果たす(Endocrine Reviews 19:225-268, 1998;Annu. Rev. Physiol. 64:47-67,2002)。
【0006】
PRLR媒介シグナリングの完全な妨害は、現時点では、可能でない。PRLR媒介シグナリングを妨害する唯一の方法は、ブロモクリプチンや他のドーパミン受容体2アゴニストの使用による下垂体PRL分泌の阻害である(Nature Clinical Practice Endocrinology and Metabolism 2(10): 571-581, 2006)。しかしこれらの薬剤は、下垂体PRL合成の阻害をうまく補償してほとんど損なわれていないPRLR媒介シグナリングをもたらすことができる下垂体外PRL合成を抑制しない(Endocrine Reviews 19:225-268,1998)。それゆえに、プロラクチンは乳がんまたは全身性狼蒼もしくは関節リウマチなどの自己免疫疾患と関連づけられているとはいえ、ドーパミン2型受容体アゴニストがこれらの疾患を患っている患者において有益でなかったことは、驚くにはあたらない(Breast Cancer Res. Treat. 14:289-29, 1989;Lupus 7:414-419, 1998)。乳癌または自己免疫疾患においてそれぞれ中枢的な役割を果たす乳がん細胞またはリンパ球における局所的プロラクチン合成は、ドーパミン受容体アゴニストによってはブロックされなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
子宮内膜症、腺筋症、非ホルモン雌性避妊、良性乳房疾患および乳房痛、泌乳阻害、良性前立腺過形成、類線維腫、高および正常プロラクチン血性脱毛などの良性疾患および適応の処置または防止の手段、ならびに乳腺上皮細胞増殖を防止するための、併用ホルモン療法における共処置の手段を提供しようとする上述の試みにもかかわらず、このニーズを満たす化合物はまだない。それゆえに、これらの良性疾患および適応のための治療薬である化合物を提供することによって、この課題を解決することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
PRLRに特異的であり、PRLRに対して高いアフィニティを有し、それゆえにPRLR媒介シグナリングを中和する抗体であって、対象に治療的利益を与えることができる新規抗体が、ここに同定された。
【0009】
中和PRLR抗体によるPRLR活性化の阻止は、PRLR媒介シグナリングの完全な阻害をもたらす。これに対して、ドーパミン受容体アゴニストは、下垂体プロラクチン分泌量の上昇に呼応して増進するPRLR媒介シグナリングを妨害することができるに過ぎず、活性化PRLR変異や局所的に上昇したプロラクチン産生量に起因して増進するPRLR媒介シグナリングを妨害しない。
【0010】
それゆえに、課題は、PRLRに高いアフィニティで結合し、PRLR媒介シグナリングを効率よく中和する抗体であって、好ましくは、アカゲザル(Macacca mulatta)およびカニクイザル(Macacca fascicularis)、マウス(Mus musculus)またはラット(Rattus norvegicus)などの他の種からのPRLRに交差反応する、上述の良性疾患および適応を処置するための抗体002-H08およびその抗原結合性フラグメントまたはその変異体(variant)を提供することによって解決される。
【0011】
出願WO2008/022295(Novartis)および米国特許第7,422,899号(Biogen)には、いくつかのPRLR抗体が既に記述されている。本発明は、PRLRに特異的であり、PRLRに対して高いアフィニティを有し、それゆえにPRLR媒介シグナリングを中和する抗体であって、対象に治療的利益を与えることができる新規抗体の発見に基づいている(新規抗体の配列は配列番号36、42、48、および54に示すとおりである)。本発明の抗体(これはヒト抗体もしくはヒト化抗体またはキメラ抗体またはヒト改変(human engineered)抗体であることができる)は、以下に詳述する数多くの状況において使用することができる。
【0012】
それゆえに、本発明の目的は、抗体または抗原結合性フラグメントであって、該抗体がプロラクチン受容体媒介シグナリングを拮抗するものである。
【0013】
新規抗体「006-H08」、「002-H06」、「006-H07」、「001-E06」、「005-C04」は、対応出願の主題(subject matter)である。
【0014】
マウス疾患モデルにおけるこれらの抗体のインビボ特徴づけは、マウスプロラクチン受容体に対して交差反応性を呈する抗体でのみ可能である。対応出願において開示されている抗体005-C04だけが、マウスプロラクチン受容体に対して十分な交差反応性を示すので、これが、マウスインビボモデルにおいて使用することのできる唯一の抗体である。それゆえに、この抗体を使って得られた結果が、代用物として、対応出願に開示されている他の中和プロラクチン受容体抗体の全てについて、分析された疾患モデルにおける一般的な効力を証明することになる。
【0015】
抗体をいくつかの細胞系で特徴づけることにより、PRLR媒介シグナリングの不活化を扱う異なるリードアウトパラダイム(readout paradigm)で、それらの種特異性および力価(potency)ならびに効力(efficacy)を決定した(実施例5〜10参照)。増殖アッセイは、ラットNb2-11細胞(実施例6、図6)またはヒトPRLR(実施例5、図5)もしくはマウスPRLR(実施例10、図10)を安定にトランスフェクトしたBa/F細胞を使って行った。Novartis抗体XHA06.983がラットおよびマウスPRLRに対して活性を示さなかったのに対し、Novartis抗体XHA06.642は、ラットPRLRには活性を示したが、マウスPRLRには活性を示さなかった。XHA06.642はヒトPRLR媒介シグナリングを阻害した(実施例5、7、8)。対応出願の新規抗体006-H08は、ヒトPRLRを安定にトランスフェクトしたBa/F細胞の増殖阻害に関して、最も高い力価を示した(実施例5、図5)。対応出願の新規抗体005-C04は、マウス(実施例10、9)およびヒト(実施例5、7、8)PRLRに対する交差反応性を示す唯一の抗体だった。それゆえに、Novartis抗体XHA06.642とは対照的に、新規抗体005-C04は、マウスモデルにおいてPRLR媒介シグナリングの阻害を試験するのに適している。本願または対応出願に記載されている他の抗体は全てヒトPRLRに特異的である。細胞増殖アッセイ(実施例5、6、10)の他にも、ヒト(実施例8)またはマウス(実施例9)PRLRを安定にトランスフェクトし、かつLHRE(乳腺刺激ホルモン応答エレメント)の制御下にあるルシフェラーゼレポーター遺伝子を一過性にトランスフェクトしたHEK293細胞を使って、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。これらの系を使用することにより、Novartis抗体XHA06.642はマウスPRLR媒介シグナリングを効率よくブロックできないことが、再び明白になった(実施例9)。対照的に、新規抗体005-C04(対応出願)は、マウスPRLRによるルシフェラーゼレポーター遺伝子活性化をブロックした(実施例9)。ヒトT47D細胞におけるSTAT5リン酸化を、ヒトPRLRに対する抗体の阻害活性を分析するために、追加のリードアウトとして使用した(実施例7、図7)。予想どおり、非特異的抗体は、分析した全ての実験パラダイムにおいて不活性であった。
【0016】
本発明は、抗PRLR抗体を与えることによって、PRLR陽性細胞の成長ならびに上述の良性疾患および適応症の進行を阻害するための方法に関する。PRLRの細胞外ドメイン(ECD)(配列番号70)または配列番号70のヒト多型変異体、例えばPNAS 105 (38), 14533, 2008およびJ. Clin. Endocrinol. Metab. 95 (1), 271, 2010に記載されているI146LおよびI76V変異体などに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体、その抗原結合性フラグメント、ならびに抗体およびフラグメントの変異体が提供される。
【0017】
本発明のもう一つの目的は、プロラクチン受容体の細胞外ドメインのエピトープおよびそのヒト多型変異体に結合する抗体であって、プロラクチン受容体の細胞外ドメインのアミノ酸配列が配列番号70に対応し、核酸配列が配列番号71に対応するものである。
【0018】
本発明の抗体、抗原結合性フラグメント、ならびに抗体およびフラグメントの変異体は、軽鎖可変領域および重鎖可変領域から構成される。本発明において考えられる抗体または抗原結合性フラグメントの変異体は、PRLRに対する抗体または抗原結合性抗体フラグメントの結合活性が維持されている分子である(配列については表5を参照されたい)。
【0019】
それゆえに、本発明の目的の一つは、抗体002-H08またはその所定の成熟変異体と競合する、抗体または抗原結合性フラグメントである。これらの抗体の配列を表5に示す。
【0020】
さらにもう一つの態様において、抗体または抗原結合性フラグメントであって、
a.可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列が、可変重鎖ドメインについては配列番号36と、また可変軽鎖ドメインについては配列番号42と、少なくとも60%、より好ましくは70%、さらに好ましくは80%、または90%、さらに好ましくは95%同一であるか、または
b.CDRのアミノ酸配列が、重鎖ドメインについては配列番号3、9、および14と、また可変軽鎖ドメインについては配列番号20、24、および31と、少なくとも60%、より好ましくは70%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、またはさらに好ましくは95%同一であるもの、
が記載されている。
【0021】
ある実施形態では、上述した抗体のCDRを含む抗体または抗原結合性フラグメントであって、
可変重鎖が配列番号3、9および14に対応するCDR配列を含有し、可変軽鎖が配列番号20、24、および31に対応するCDR配列を含有するもの。
【0022】
ある実施形態では、抗体002-H08および抗原結合性フラグメントが開示され、ここで、
抗体002-H08は、配列番号48に示す核酸配列および配列番号36に示すアミノ酸配列と対応する可変重鎖領域、ならびに
配列番号54に示す核酸配列および配列番号42に示すアミノ酸配列と対応する可変軽鎖領域
を含む。
【0023】
さらにもう一つの態様において、開示される抗体または抗原結合性フラグメントは、配列番号3、9、14、20、24、および31に対応するCDRのうち、1、2、3、4、5、または6個を含有する。
【0024】
本発明のもう一つの実施形態において、抗体002-H08は、配列番号70、アミノ酸位置1〜210によって表されるアミノ酸配列を有するPRLRの1つ以上の領域に特異的に結合するか、前記1つ以上の領域に対して高いアフィニティを有する抗原結合領域からなり、ここで、アフィニティは、少なくとも100nM、好ましくは約100nM未満、より好ましくは約30nM未満であり、約10nM未満のアフィニティはさらに好ましく、1nM未満のアフィニティはさらに好ましく、30pM未満のアフィニティはさらに好ましい。
【0025】
また、重鎖定常部(heavy constant)が修飾されたまたは無修飾のIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である上述の抗体002-H08も、本発明の目的である。
【0026】
表1に、直接固定化した抗体上でのPRLRの単量体型細胞外ドメイン(配列番号70)による表面プラズモン共鳴(Biacore)で決定された、本発明の抗体の解離定数および解離速度を要約する。
[表1]表面プラズモン共鳴により、抗PRLPヒトIgG1分子に関して決定された、HEK293細胞中で発現したヒトPRLRの細胞外ドメインの一価(monovalent)解離定数および解離速度
【表1】
【0027】
蛍光活性化細胞選別(FACS)とスキャッチャード解析との組合せによって決定される細胞ベースのアフィニティ決定には、IgG1フォーマットを使用した。
【0028】
表2は、ヒト乳がん細胞株T47Dおよびラットリンパ腫細胞株Nb2への代表的なIgG抗体の結合力(binding strength)を表す。
[表2]ヒト乳癌細胞株T47Dおよびラットリンパ腫細胞株Nb2上でFACSによって決定された抗PRLR抗体の細胞ベースの結合力価(binding potency)
【表2】
【0029】
抗体生成
ヒトおよびマウスPRLRを機能的にブロックすることができる一群の抗体を単離するために、scFvフラグメントとFabフラグメントをそれぞれ発現する2つのフォーマットの、Bioinvent製のn-CoDeR(登録商標)と呼ばれる合成ヒト抗体ファージディスプレイライブラリー(Soederlindら, 2000, Nature BioTechnology. 18, 852-856)を、並行して調べた。scFv選択またはFab選択に使用したターゲットは、ビオチン化変異体(NHS-LCビオチン、Pierce)および非ビオチン化変異体として適用したヒトPRLRの可溶性ECD(配列番号70のアミノ酸位置1〜210)およびマウスPRLRの可溶性ECD(配列番号72のアミノ酸位置1〜210)、ならびにPRLRを発現するヒト乳がん細胞株T47Dであった。
【0030】
ファージディスプレイ技術(PDT)におけるさまざまなアプローチの組み合わせを使用して、高アフィニティのPRLR特異的なヒトモノクローナル抗体を、タンパク質パンニングと全細胞パンニングの組み合せおよび特別なツールの開発によって単離した。これらのパンニングツールおよびスクリーニング方法には、Fcドメインとの融合物として組換え発現させたヒトおよびマウスPRLRのECD(R&D Systems、それぞれカタログ番号1167-PRおよび1309-PR;ヒトIgG1 Fcドメイン、ヒトIgG1の位置100〜330にそれぞれ融合された、それぞれ配列番号70および72の位置1〜216)、6ヒスチジンタグとの融合物として組換え発現させたヒトPRLRの細胞外ドメイン(配列番号70)、それぞれヒトおよびマウスPRLRをそれぞれ安定にトランスフェクトしたHEK293およびマウスリンパ腫細胞株Ba/F、ならびにそれぞれPRLRを天然に発現する乳がん細胞株T47Dおよびラットリンパ腫細胞Nb2が含まれると共に、細胞表面上にディスプレイされたPRLRに優先的に結合する、マウスおよびラット由来のPRLRに対して交差反応性である、中和抗体を同定することが可能なパンニング手法およびスクリーニングアッセイの開発が含まれる(実施例6および10参照)。
【0031】
スクリーニングは、組換え発現させた抗原を用いるELISA試験において、まず最初にヒトPRLRに関して、そして最終的にマウスPRLRに関して、バインダー(binder)を同定することによって行った。次に、T47D細胞でのFabおよびscFvフラグメントの細胞結合をFACS分析によって調べた後、細胞内シグナリングに対するこれらの薬剤の中和活性を試験した。この目的のために、T47D細胞におけるPRLR、STAT5およびERK1/2のリン酸化の阻害を決定した(実施例14参照)。最も良い機能ブロッキング(function blocking)scFvおよびFabを、完全なIgG1分子へと変換し、PRLRのECDに対する一価アフィニティ、ならびにルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイおよびプロラクチンに依存して成長する細胞を使った増殖アッセイにおける阻害活性について試験した。これらの特別な方法の組み合わせにより、本発明の主題である新規抗体「002-H08」ならびに対応出願の主題である抗体「006-H08」、「002-H06」、「006-H07」、「001-E06」、「005-C04」の単離が可能になった。
【0032】
ペプチド変異体
本発明の抗体は、ここに提供する具体的ペプチド配列に限定されない。むしろ、本発明はこれらのポリペプチドの変異体も包含する。本開示ならびに従来から利用できる技術および参考文献を参照して、当業者は、本明細書に開示する抗体の機能的変異体を製造し、試験し、利用することができ、それと同時に、PRLRに結合し、PRLRを機能的にブロックする能力を有する変異体が、本発明の範囲に包含されることを理解するであろう。
【0033】
変異体には、例えば、本明細書に開示するペプチド配列と比較して改変された相補性決定領域(CDR)(超可変)および/またはフレームワーク(FR)(可変)ドメイン/位置を少なくとも1つは有している抗体が含まれうる。この概念をより良く説明するために、抗体構造を以下に簡単に説明する。
【0034】
抗体は2本のペプチド鎖で構成され、それぞれが1つ(軽鎖)または3つ(重鎖)の定常ドメインと可変領域(VL、VH)を含有し、このうち後者は、いずれも、4つのFR領域(VH:HFR1、HFR2、HFR3、HFR4;VL:LFR1、LFR2、LFR3、LFR4)と、その間に配置された3つのCDR(VL:LCDR1、LCDR2、LCDR3;VH:HCDR1、HCDR2、HCDR3)から構成されている。抗原結合部位は1つ以上のCDRによって形成されるが、FR領域はCDRに構造的フレームワークを提供しており、それゆえに、抗原結合において重要な役割を果たしている。CDRまたはFR領域中のアミノ酸残基を1つ以上改変することによって、当業者は、変異したまたは多様化した抗体配列をルーチンに生成させることができ、それらを、例えば新しい性質または改良された性質を求めて、抗原に対してスクリーニングすることができる。
【0035】
図12に、可変ドメインVLおよびVH中の各アミノ酸位置に番号を付与するためのスキームを示す。表3(VH)および表4(VL)では、本発明の一定の抗体についてCDR領域を詳述し、所与の位置におけるアミノ酸を互いに比較すると共に、対応するコンセンサス配列または「マスター遺伝子(master gene)」配列(ここではCDR領域が「X」で記されている)と比較している。表5および表6は、本発明において提供される抗体、抗体フラグメントおよびPRLR変異体に配列番号を割り当てるのに役立つ。
【0036】
[表3]VH配列
【表3】
[表4]VL配列
【表4】
[表5]抗体の配列
【表5】
[表6]PRLR変異体の配列
【表6】
【0037】
当業者は、表3、4および5のデータを使って、本発明の範囲に包含されるペプチド変異体を設計することができる。変異体は1つ以上のCDR領域内のアミノ酸を変化させることによって構築することが好ましく、また変異体は、1つ以上の改変されたフレームワーク領域(FR)も有しうる。例えば、ペプチドFRドメインが改変されていてもよく、そこでは、生殖細胞系配列と比較して残基に変動がある。
【0038】
新規抗体と、図12に記載する対応コンセンサス配列または「マスター遺伝子」配列との比較に関して、変化させることができる候補残基には、例えば次に挙げるものが含まれる:
・VH 006-H08(配列番号34)の位置75にある残基リジン(K)をグルタミン(Q)に
・VH 006-H08(配列番号34)の位置108にある残基ロイシン(L)をメチオニン(M)に
・VH 006-H08(配列番号34)の位置110にある残基スレオニン(T)をイソロイシン(I)に
・VH 002-H08(配列番号36)の位置67にある残基フェニルアラニン(F)をロイシン(L)に。
【0039】
さらにまた、変異体は、成熟(maturation)によって、すなわち、ある抗体を最適化のための出発点として使用し、その抗体中の1つ以上のアミノ酸残基、好ましくは1つ以上のCDR中のアミノ酸残基を多様化し、その結果生じた一群の抗体変異体を、改良された性質を有する変異体を求めてスクリーニングすることによって得ることもできる。特に好ましいのは、VLのLCDR3、VHのHCDR3、VLのLCDR1および/またはVHのHCDR2中の1つ以上のアミノ酸残基の多様化である。多様化は、トリヌクレオチド変異誘発(trinucleotide mutagenesis)(TRIM)技術を使って一群のDNA分子を合成することによって行うことができる[Virnekaes, B., Ge, L., Plueckthun, A., Schneider, K.C., Wellnhofer, G., and Moroney S.E. (1994) Trinucleotide phosphoramidites: ideal reagents for the synthesis of mixed oligonucleotides for random mutagenesis. Nucl. Acids Res. 22, 5600]。
【0040】
保存的アミノ酸変異体
本明細書に記載する抗体ペプチド配列の全体的分子構造を保存しているポリペプチド変異体を作製することができる。個々のアミノ酸の性質を考えれば、いくつかの合理的な置換が、当業者にはわかるだろう。アミノ酸置換、すなわち「保存的置換」は、例えば、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行うことができる。
【0041】
例えば、(a)非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが含まれ;(b)極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが含まれ;(c)陽性荷電(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン、およびヒスチジンが含まれ;(d)陰性荷電(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれる。置換は、典型的には、(a)〜(d)のグループ内で行うことができる。また、グリシンおよびプロリンは、αヘリックスを破壊するその能力に基づいて、互いに置換することができる。また、アラニン、システイン、ロイシン、メチオニン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンおよびリジンなどといった一定のアミノ酸は、αヘリックス中に見いだされることの方が多く、一方、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンおよびスレオニンは、βプリーツシート中に見いだされることの方が多い。グリシン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、およびプロリンはターン中によく見いだされる。いくつかの好ましい置換は、次に挙げるグループ内で行うことができる:(i)SおよびT;(ii)PおよびG;ならびに(iii)A、V、LおよびI。既知の遺伝暗号、組換え技法および合成DNA技法を考慮すれば、当業者は、保存的アミノ酸変異体をコードするDNAを容易に構築することができる。
【0042】
本明細書において、2つのポリペプチド配列間の「配列同一性」とは、それら配列間で同一なアミノ酸の百分率を示す。「配列相同性」は、同一であるか、または保存的アミノ酸置換を示すアミノ酸の百分率を示す。本発明の好ましいポリペプチド配列は、CDR領域において、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%または80%、さらに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する。好ましい抗体は、CDR領域において、少なくとも80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%の配列相同性も有する。
【0043】
本発明のDNA分子
本発明は本発明の抗体をコードするDNA分子にも関係する。これらの配列には、配列番号48、54に示すDNA分子が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0044】
本発明のDNA分子は本明細書に開示する配列に限定されるわけではなく、その変異体も包含する。本発明に包含されるDNA変異体は、ハイブリダイゼーションにおけるその物理的性質に言及することによって記述することができる。DNAを使ってその相補体(complement)を同定することができ、DNAは二本鎖であることから、核酸ハイブリダイゼーション技法を使って、その等価物またはホモログを同定することができることは、当業者にわかるであろう。ハイブリダイゼーションが100%未満の相補性で起こりうることもわかるであろう。しかし、条件を適当に選択すれば、DNA配列を特定のプローブに対するその構造的関連性に基づいて弁別するために、ハイブリダイゼーション技法を使用することができる。そのような条件に関する指針については、Sambrookら, 1989[Sambrook, J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T. (1989)「Molecular Cloning: A laboratory manual」(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 米国コールドスプリングハーバー)]およびAusubelら, 1995[Ausubel, F. M., Brent, R., Kingston, R. E., Moore, D. D., Sedman, J. G., Smith, J. A., & Struhl, K.編 (1995)「Current Protocols in Molecular Biology」ニューヨーク: John Wiley and Sons]を参照されたい。
【0045】
2つのポリヌクレオチド配列間の構造類似性は、それら2つの配列が互いにハイブリダイズするであろう条件の「ストリンジェンシー」の関数として表現することができる。本明細書において使用する用語「ストリンジェンシー」は、その条件がハイブリダイゼーションを嫌う度合を指す。ストリンジェントな条件はハイブリダイゼーションを強く嫌うので、そのような条件下では、構造的に最も近縁の分子だけが互いにハイブリダイズするであろう。逆に、非ストリンジェント条件は、低い構造的関連性を示す分子のハイブリダイゼーションにとって有利になる。それゆえに、ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、2つの核酸配列の構造的関係と直接的に相関する。次の関係は、ハイブリダイゼーションと関連性とを相関させるのに役立つ(式中、Tmは核酸二重鎖の融解温度である):
a.Tm=69.3+0.41(G+C)%
b.二重鎖DNAのTmは、ミスマッチ塩基対の数が1%増加するごとに1℃低下する。
c.(Tm)μ2 −(Tm)μ1=18.5log10μ2/μ1
式中、μ1およびμ2は2つの溶液のイオン強度である。
【0046】
ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、総DNA濃度、イオン強度、温度、プローブサイズおよび水素結合を破壊する薬剤の存在などといった数多くの因子の関数である。ハイブリダイゼーションを促進する因子には、高いDNA濃度、高いイオン強度、低温、長いプローブサイズ、および水素結合を破壊する薬剤の不在が含まれる。ハイブリダイゼーションは、典型的には、「結合」段階と「洗浄」段階の二段階で行われる。
【0047】
まず最初に、結合段階では、ハイブリダイゼーションに有利な条件下で、プローブをターゲットに結合させる。この段階では、通常、温度を変えることによって、ストリンジェンシーが制御される。高ストリンジェンシーの場合、短い(<20nt)オリゴヌクレオチドプローブを使用するのでない限り、温度は通常、65℃〜70℃である。代表的なハイブリダイゼーション溶液は、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト溶液および100μgの非特異的キャリアDNAを含む[Ausubelら, section 2.9, supplement 27 (1994)]。もちろん、異なっているが機能的には等価なバッファー条件も、数多く知られている。関連性の程度が低い場合は、低い温度を選ぶことができる。低ストリンジェンシー結合温度は約25℃〜40℃である。中ストリンジェンシーは少なくとも約40℃〜約65℃未満である。高ストリンジェンシーは少なくとも約65℃である。
【0048】
次に、過剰のプローブを洗浄によって除去する。よりストリンジェントな条件が通常、適用されるのは、この段階である。したがって、ハイブリダイゼーションによって関連性を決定する際に最も重要なのは、この「洗浄」段階である。洗浄溶液は、典型的には、より低い塩濃度を含有する。模範的な中ストリンジェンシー溶液の一つは2×SSCおよび0.1%SDSを含有する。高ストリンジェンシー洗浄溶液は、(イオン強度で)約0.2×SSC未満の当量(equivalent)を含有し、好ましいストリンジェント溶液は約0.1×SSCを含有する。さまざまなストリンジェンシーに関連する温度は「結合」に関して上に述べたものと同じである。また、洗浄溶液は、典型的には、洗浄中に何度も交換される。例えば、典型的な高ストリンジェンシー洗浄条件は、55℃で30分間、2回洗浄すること、および60℃で15分間、3回洗浄することを含む。
【0049】
したがって、本発明の主題は、本発明の抗体および抗原結合性フラグメントをコードする単離された核酸配列である。
【0050】
本発明のもう一つの実施形態は、本発明の抗体をコードする上述の単離された核酸配列であって、核酸配列が表5に記載されているものである。
【0051】
したがって本発明は、高ストリンジェンシー結合および洗浄条件下において表5に示す分子にハイブリダイズする核酸分子を包含し、ここで、そのような核酸分子は、本明細書に記載する性質を有する抗体またはそのフラグメントをコードする。(mRNAの観点から見て)好ましい分子は、本明細書に記載するDNA分子の一つと少なくとも75%または80%(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%)の相同性または配列同一性を有するものである。この分子は、プロラクチン受容体媒介シグナリングをブロックする。
【0052】
機能的に等価な変異体
本発明の範囲に包含されるさらにもう一種類のDNA変異体は、それらがコードする産物を基準にして記述することができる。これらの機能的に等価な遺伝子は、遺伝暗号の縮重ゆえに、配列番号34〜45に見いだされるものと同じペプチド配列をコードするという事実を特徴とする。
【0053】
本明細書に記載するDNA分子の変異体をいくつかの異なる方法で構築できることはわかる。例えば、それらは、完全な合成DNAとして構築することができる。20〜約150ヌクレオチドの範囲のオリゴヌクレオチドを効率よく合成する方法は、種々、利用することができる。Ausubelら, section 2.11, Supplement 21 (1993)参照。Khoranaら, J. Mol. Biol. 72:209−217 (1971)によって初めて報告された方法で、オーバーラップしたオリゴヌクレオチドを合成し、アセンブルすることができる。Ausubelら, 前掲書, Section 8.2も参照されたい。好ましくは、適当なベクターへのクローニングが容易になるように、遺伝子の5'端および3'端にて操作(engineer)された好都合な制限部位を持つ合成DNAが設計される。
【0054】
ここに示すとおり、変異体を生成させる方法は、本明細書に開示するDNAの一つから出発し、次に部位特異的変異誘発を行うことである。Ausubelら, 前掲書, chapter 8, Supplement 37 (1997)参照。典型的な一方法では、ターゲットDNAを一本鎖DNAバクテリオファージ媒体中にクローニングする。一本鎖DNAを単離し、所望のヌクレオチド改変を含有するオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる。相補鎖を合成し、二本鎖ファージを宿主中に導入する。その結果生じる子孫の一部は所望の変種(mutant)を含有し、そのことは、DNA配列決定を使って確認することができるであろう。また、子孫ファージが所望の変種になる確率を増加させるさまざまな方法を利用することができる。これらの方法は当業者にはよく知られており、そのような変種を生成させるためのキットが市販されている。
【0055】
組換えDNAコンストラクトおよび発現
本発明はさらに、本発明のヌクレオチド配列の1つ以上を含む組換えDNAコンストラクトも提供する。本発明の組換えコンストラクトは、プラスミド、ファージミド、ファージまたはウイルスベクターなどのベクターと一緒に使用され、そこに本発明の抗体をコードするDNA分子が挿入される。
【0056】
コードされた遺伝子はSambrookら, 1989およびAusubelら, 1989に記載の技法によって作製することができる。あるいは、例えば合成装置(synthesizer)を使って、DNA配列を化学的に合成することもできる。例えば、引用によりそのまま本明細書に組み込まれる「Oligonucleotide Synthesis」(1984, Gait編, IRL Press, オックスフォード)に記載の技法を参照されたい。当業者は、可変ドメインをコードするDNAを、変異させたまたは変異させていないさまざまなヒトIgGアイソタイプまたはその誘導体の定常領域をコードする遺伝子フラグメントと、融合することができる。当業者は、組換えDNA技術を応用して、例えばグリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリンを3回含有する15アミノ酸長などのリンカーを使って、両方の可変ドメインを単鎖フォーマットに融合することができる。本発明の組換えコンストラクトは、コードされているDNAのRNA産物および/またはタンパク質産物を発現する能力を有する発現ベクターで構成される。ベクターは、オープンリーディングフレーム(ORF)に作動可能に連結されたプロモーターなどといった調節配列を、さらに含みうる。ベクターはさらに選択可能マーカー配列を含みうる。挿入されたターゲット遺伝子コード配列の効率的な翻訳には、特別な開始シグナルおよび細菌分泌シグナルも要求されうる。
【0057】
本発明は、本発明のDNAを少なくとも1つは含有する宿主細胞を、さらに提供する。宿主細胞は、それに合う発現ベクターを入手できるのであれば、基本的にどの細胞であってもよい。それは、例えば、哺乳動物細胞などの高等真核宿主細胞、酵母細胞などの下等真核宿主細胞であってもよいし、細菌細胞などの原核細胞であってもよい。宿主細胞への組換えコンストラクトの導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストランによるトランスフェクション(DEAE, dextran mediated transfection)、エレクトロポレーションまたはファージ感染によって達成することができる。
【0058】
細菌発現
細菌での使用に役立つ発現ベクターは、所望のタンパク質をコードする構造DNA配列を、適切な翻訳開始シグナルおよび翻訳終結シグナルと共に、機能的プロモーターに対して作動可能な読み枠(reading phase)で挿入することによって構築される。ベクターは、ベクターの維持が保証されるように、また所望であれば、宿主内での増幅がもたらされるように、1つ以上の表現型選択可能マーカーと複製起点とを含むであろう。形質転換に適した原核宿主には、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、およびシュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、およびスタフィロコッカス(Staphylococcus)属のさまざまな種が含まれる。
【0059】
細菌ベクターは、例えばバクテリオファージベース、プラスミドベース、またはファージミドベースのベクターであることができる。これらのベクターは、典型的には周知のクローニングベクターpB322(ATCC37017)の要素を含有する市販のプラスミドに由来する選択可能マーカーおよび細菌複製起点を含有することができる。適切な宿主株を形質転換し、その宿主株を適当な細胞密度まで成長させた後、選択したプロモーターを、適当な手段(例えば温度シフトまたは化学的誘導)によって抑制解除/誘導し、細胞をさらに一定期間培養する。細胞を典型的には遠心分離によって収穫し、物理的または化学的手段によって破壊し、その結果得られた粗抽出物を、さらなる精製のためにとっておく。
【0060】
細菌系では、発現させるタンパク質の使用目的に応じて、いくつかの発現ベクターを、有利に選択することができる。例えば、抗体を生成させるために、またはペプチドライブラリーをスクリーニングするために、前述のタンパク質を大量に生産しようとする場合は、例えば、精製が容易な融合タンパク質産物を高レベルに発現させるベクターが望ましいであろう。
【0061】
それゆえに、本発明の目的の一つは、本発明の新規抗体をコードする核酸配列を含む発現ベクターである。
【0062】
哺乳類発現および精製
哺乳動物宿主細胞発現のための好ましい調節配列には、哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を指示するウイルス要素、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)(CMVプロモーター/エンハンサー)、シミアンウイルス40(SV40)(例えばSV40プロモーター/エンハンサー)、アデノウイルス(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))およびポリオーマ由来のプロモーターおよび/またはエンハンサーが含まれる。ウイルス調節要素のさらなる説明およびその配列については、例えばStinskiによるU.S.5,168,062、BellらによるU.S.4,510,245、およびSchaffnerらによるU.S.4,968,615を参照されたい。組換え発現ベクターは複製起点および選択可能マーカーも含むことができる(例えばAxelらによるU.S.4,399,216、4,634,665およびU.S.5,179,017を参照されたい)。適切な選択可能マーカーには、そのベクターが導入されている宿主細胞にG418、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を付与する遺伝子が含まれる。例えばジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子は、メトトレキサートに対する耐性を付与し、neo遺伝子はG418に対する耐性を付与する。
【0063】
宿主細胞への発現ベクターのトランスフェクションは、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、およびDEAE-デキストラントランスフェクションなどの標準的技法を使って行うことができる。
【0064】
ここで提供される抗体、その抗原結合部分または誘導体を発現させるのに適した哺乳動物宿主細胞には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)[例えばR.J.KaufmanおよびP.A.Sharp (1982) Mol.Biol.159:601-621に記載されているようにDHFR選択可能マーカーと共に使用されるUrlaubおよびChasin, (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216-4220に記載のdhfr- CHO細胞を含む]、NSO骨髄腫細胞、COS細胞およびSP2細胞が含まれる。一部の実施形態では、発現したタンパク質が宿主細胞を成長させる培地中に分泌されるように、発現ベクターが設計される。抗体、その抗原結合部分または誘導体は、標準的なタンパク質精製法を使って培養培地から回収することができる。
【0065】
本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば限定するわけではないが、硫酸アンモニウム沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、プロテインAクロマトグラフィー、プロテインGクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーなどといった周知の方法によって、組換え細胞培養物から回収し精製することができる。高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)も精製に使用することができる。例えばColligan「Current Protocols in Immunology」または「Current Protocols in Protein Science」(John Wiley & Sons, ニューヨーク州ニューヨーク)(1997-2001)の例えばChapter 1、4、6、8、9、10を参照されたい(これらは、それぞれ引用により、全て本明細書に組み込まれる)。
【0066】
本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントには、天然精製産物(naturally purified product)、化学合成手法の生成物、ならびに例えば酵母、高等植物、昆虫および哺乳動物細胞を含む真核宿主から組換え技法によって生産された産物が含まれる。組換え生産手法に使用する宿主に依存して、本発明の抗体はグリコシル化体であることも、非グリコシル化体であることもできる。そのような方法は、多くの標準的な実験マニュアル、例えばSambrook, 前掲書, Sections 17.37-17.42;Ausubel, 前掲書, Chapters 10、12、13、16、18および20に記載されている。
【0067】
それゆえに、ベクターまたは核酸分子を含む宿主細胞も本発明の目的であり、ここで、宿主細胞は、哺乳動物細胞などの高等真核宿主細胞、酵母細胞などの下等真核宿主細胞であることができ、細菌細胞などの原核細胞であってもよい。
【0068】
本発明のもう一つの目的は、宿主細胞を使って抗体および抗原結合性フラグメントを生産する方法であって、宿主細胞を適切な条件下で培養し、該抗体を回収することを含む方法である。
【0069】
それゆえに、本発明のもう一つの目的は、本発明の宿主細胞を使って生産され、少なくとも95重量%均一にまで精製された、本発明の抗体である。
【0070】
子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)
子宮内膜症は、子宮内膜組織(腺および間質)が子宮腔外に存在することを特徴とする良性エストロゲン依存性婦人科障害である。子宮内膜症病変は主として骨盤腹膜上、卵巣内および直腸膣中隔内に見いだされる(Obstet. Gynecol. Clin. North. Am. 24:235-238, 1997)。子宮内膜症はしばしば不妊および月経困難症などの疼痛症状を伴う。また、多くの患者は自己免疫疾患を患っている(Hum. Reprod. 17(19):2715-2724, 2002)。内性子宮内膜症とも呼ばれている子宮腺筋症は、子宮に制限された子宮内膜症の亜型(subform)をいう。子宮腺筋症の場合、子宮内膜腺は子宮筋層および子宮壁に浸潤する。
【0071】
移植説(transplantation theory)によれば、患者でも健常女性でも、逆行性月経によって、子宮内膜フラグメントが腹膜腔中に流される(Obstet. Gynecol. 64:151-154, 1984)。患者の骨盤腔における子宮内膜症病変の樹立の成功には、4つの主要因が決定的に関与しているようである:
a)月経周期の分泌期後期において、健常女性の子宮内膜細胞はアポトーシス性になる。患者では、子宮内膜細胞のアポトーシスの程度が明確に低下している(Fertil. Steril. 69:1042-1047,1998)。それゆえに、患者では、逆行性月経によって腹膜腔中に流れ込んだ子宮内膜フラグメントが死なずにうまく移植性転移(implant)する確率が、健常女性より高い。
b)異所性子宮内膜フラグメントが腹膜内で移植性転移(implantation)に成功して、長期間にわたって生き残るには、新しい血管の形成が必要である(British Journal of Pharmacology, 149:133-135, 2006)。
c)患者は自己免疫疾患を患っており、したがって免疫系が損なわれている(Hum. Reprod. 17(19): 2002, 2715-2724, 2002)。このことから、無傷免疫応答−これは健常女性には存在するので−が、子宮内膜症病変の樹立の防止に役割を果たしているかもしれないという結論が導かれうる。
d)病変は成長する必要があり、したがって分裂促進刺激および成長因子の存在に依存する。
【0072】
子宮内膜症の処置には、現在、次に挙げるアプローチが存在する:
a)性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)類似体:卵巣エストラジオール合成の抑制をもたらし、その成長をエストラジオールの存在に決定的に依存している異所性子宮内膜移植性転移物(implant)の萎縮を誘発する。
b)アロマターゼ阻害剤:子宮内膜移植性転移物によるエストラジオールの局所的産生を阻害し、アポトーシスを誘発し、異所性子宮内膜フラグメントの増殖を阻害する。
c)選択的エストロゲン受容体モジュレーター:正常子宮内膜および異所性移植性転移物においてエストロゲン受容体アンタゴニスト活性を有するので、移植性転移した異所性子宮内膜組織の萎縮をもたらす。
d)プロゲステロン受容体アゴニスト:正常および異所性子宮内膜細胞の増殖を阻害し、分化およびアポトーシスを誘発する。
e)併用経口避妊薬:現状を維持し、疾患の進行を防止し、異所性および正所性子宮内膜の萎縮を誘発する。
f)病変の外科的切除。
【0073】
GnRH類似体、SERM、およびアロマターゼ阻害剤は、重篤な副作用を有し、子宮内膜症を患っている若い女性に顔面紅潮および骨量減少をもたらす。プロゲステロン受容体アゴニストによる処置は、排卵抑制、不規則月経とそれに続く無月経、体重増加およびうつ病につながる。静脈血栓塞栓症(venous thrombembolism)のリスクが増加するために、併用経口避妊薬は、35歳より高齢の女性、喫煙者および過体重を患っている個体には適応がない。病変の外科的切除は再発率が高くなりがちである。
【0074】
本発明の抗体は、下垂体が産生したプロラクチンおよび局所的に産生されたプロラクチンによって刺激された、または活性化PRLR変異による、PRLR媒介シグナルを妨害し、それゆえに、下垂体プロラクチン分泌だけを妨害するドーパミン2受容体アゴニストよりも効果的である。
【0075】
PRLおよびPRLRは子宮において発現し、正常な子宮生理機能に役割を果たす。PRLは強力なマイトジェンとして作用することができ、免疫調整的役割を有している。本発明では、PRL/PRLR系の改変がヒト子宮内膜症において役割を果たすことを示す。定量Taqman PCRによる健常女性の子宮内膜ならびに患者の子宮内膜および病変におけるPRLおよびPRLRの発現の分析(実施例2参照)を、図1および2に示す。
【0076】
図1(PRL発現)および図2(PRLR発現)に示されるとおり、PRLとその受容体はどちらも、子宮内膜症病変においては、強くアップレギュレートされる。この発見は、オートクリン型PRLシグナリングが子宮内膜症病変の樹立、成長および維持に基本的役割を果たしうるという実験的証拠を、初めてもたらすものである。
【0077】
PRLR抗体は、マウスでの内性子宮内膜症、すなわち子宮腺筋症の動物モデルにおける試験で、成功を収めた(実施例20参照)。腺筋症は、子宮内膜の子宮筋層における子宮内膜腺の浸潤再成長を特徴とする。これは、子宮に限定される子宮内膜症形態−無月経種(non-menstruating species)が発症しうる子宮内膜症の唯一の形態−に似ている。子宮内膜症を患っている患者の臨床処置に有効なダナゾールは、子宮腺筋症の処置にも有効である(Life Sciences 51:1119-1125, 1992)。しかし、ダナゾールはアンドロゲン性プロゲスチン(androgenic progestin)であり、若い女性に重篤なアンドロゲン性副作用をもたらすことが、その使用を制限する。
【0078】
本発明の抗体は、子宮内膜症の新しい処置または防止を提供するための課題を解決し、現在の標準的治療法よりも副作用が少ない。
【0079】
それゆえに、本発明のさらなる態様は、子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)の処置または防止に、中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントを使用することである。
【0080】
本発明のもう一つの態様は、子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)を処置または防止するための、本発明に記載する抗体および抗体抗原結合性フラグメントの使用である。
【0081】
非ホルモン雌性避妊
雌性避妊のための現在のアプローチは、次のとおりである:
a)エストロゲンおよびプロゲスチンを含有する併用経口避妊薬。
プロゲストーゲン性コンポーネントは、視床下部-下垂体-性腺軸に対する負のフィードバックによって避妊効果を媒介する。エストロゲン性コンポーネントは、良好な出血制御を保証し、ターゲット細胞におけるプロゲステロン受容体の誘導によってゲスターゲン作用を増強する。
b)プロゲスチンだけを含有する子宮内器具(intrauterine device)。
局所的に放出されるプロゲスチンは、子宮内膜を着床抵抗性状態(implantation-resistant state)にする。また、頸管粘膜が精子細胞にとってほとんど不透過性になる。
c)プロゲスチン単独の丸剤およびインプラント。
プロゲスチンは、視床下部-下垂体-性腺軸に対する負のフィードバックによって排卵を阻害する。加えて、精子細胞に対する頸管粘膜の透過性が低下する。
d)エチニルエストラジオールおよびプロゲスチンを含有する腟内リング(vaginal ring)。
併用経口避妊薬の主な副作用は静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクの上昇である。そのうえ、過体重の女性または喫煙女性は、狼蒼などの自己免疫疾患を患っている女性および35歳より高齢の女性と共に、経口併用避妊薬を使用することができない。
プロゲスチンのみを含有する子宮内器具およびインプラントは、機能障害性子宮出血をもたらしうる。
プロゲスチン単独の丸剤は、不規則な出血パターン、点状出血(spotting)、無月経を引き起こしうる。異所性妊娠のリスクが増加する。体重増加および骨密度の低下がさらなる副作用である。
腟内リングは、膣炎、白帯下または駆血(expulsion)をもたらしうる。
【0082】
PRLR欠損(PRLR-deficient)マウスは数年前に作出されている(Genes Dev 11:167-178, 1997)。興味深いことに、PRLR欠損雌は完全に不妊であるが、雄マウスはそうではない。PRLR-/-雌は受精直後に卵発生の停止を呈した。すなわち、これらの雌は着床前発生の停止を示した。極めてわずかな卵母細胞だけが胚盤胞段階に到達し、変異雌では着床(implant)することができなかったが、移植後の野生型里親(foster mother)では正常な胚へと発生した。PRLR欠損マウスの不妊表現型は、プロゲステロン補給(supplementation)によって妊娠中期まで救出することができた。PRLR媒介シグナリングが、妊娠を可能にし維持するのに必要なプロゲステロンを産生する黄体の維持および機能に重要な役割を果たすことは、明白である。加えて、PRLR欠損雌は、腹部脂肪量およびレプチンレベルの低下を伴う体重の減少を呈したが、雄はそうではなかった。
【0083】
現在までのところ、不活化ヒトPRLR変異は知られていないので、ヒト不妊におけるPRLR媒介シグナリングの正確な役割は、まだ不明である。しかし、ヒトでも、妊娠の成功を可能にするには、最低限のプロラクチンレベルが必要であることを示す証拠は、増えつつある。高プロラクチン血性黄体機能不全ゆえに原発性不妊症を患っている患者が、ブロモクリプチンで処置された。いくつかの症例では、プロラクチンレベルが過剰に抑制されて、再び、短縮された黄体期が再出現した(Bohnet HGら「Lisuride and other dopamine agonists」D.B. Calneら編, Raven Press, ニューヨーク, 1983)。これらのデータから、高および低プロラクチン血性状態は、雌性不妊と負に干渉すると結論された。これは、PRLとその受容体との相互作用によって説明することができる。低プロラクチンレベルの場合、十分な受容体活性がないのに対して、高プロラクチン血症の場合は、全ての受容体が1つのプロラクチン分子によってブロックされていて、もはや二量体化することができないので、やはり受容体活性は十分でない。言い換えると、プロラクチンに関する用量応答は、ベル形であり、最適な受容体活性化は、一定の濃度範囲でのみ達成される。患者における子宮内膜プロラクチン発現の欠如が早期着床不全をもたらすことを示す証拠は、もう一つの研究から得られている(Human Reprod. 19:1911-1916, 2004)。さらに、PRLR欠損マウスにおいて立証されているように、エクスビボで、プロラクチンは培養ヒト顆粒膜細胞のアポトーシスを防止することができ、それゆえに早期黄体機能を維持できることも示されている(Human Reprod. 18:2672-2677,2003)。
【0084】
中和PRLR抗体の避妊効力を調べるために、実施例11で説明するように、マウスに特異的および非特異的PRLR抗体を注射して、雄と交配させた。リードアウトは処置群あたりの産仔数(litter number)および動物あたりの一腹仔数(litter size)とした。図11に示す実験は、本発明の中和抗体による処置が、30mg/kg体重で試験した場合に、マウスにおける妊娠を完全に防止したことを証明している。
【0085】
上述の標準的アプローチと比較して、中和PRLR抗体による雌性避妊にはいくつかの利点がある:
・この抗体は、喫煙女性、過体重の女性、および高齢女性に使用することができ、紅斑性狼瘡(lupus erythematodes)を患っている女性にも使用することができる(PRLR抗体は狼蒼の処置および腹部脂肪の減少にさえ有益であるかもしれない。すなわちPRLR欠損マウスは腹部脂肪が少なかった);
・このPRLR抗体はVTE(静脈血栓塞栓(venous thrombembolic)リスク)を上昇させない;
・併用経口避妊に使用されるエストロゲンおよびプロゲスチンとは対照的に、PRLR媒介シグナリングの中和は乳房上皮増殖の阻害につながり、妊性制御(fertility control)のためのホルモンアプローチとは対照的に、使用者を乳がんから防御することさえ考えられる。
【0086】
本発明のもう一つの目的は、標準的な処置と比較して副作用が少ない、雌性避妊のためのPRLR中和性PRLR抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0087】
本発明のもう一つの態様は、標準的な処置と比較して副作用が少ない、雌性避妊のための本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0088】
良性乳房疾患および乳房痛
良性乳房疾患は、線維嚢胞性乳房疾患、線維腺腫、乳房痛、および大嚢胞(macrocyst)など、さまざまな症状を包含する。閉経前女性の30〜50%は線維嚢胞性乳房疾患を患っている(Epidemiol Rev 19:310-327, 1997)。女性の年齢に依存して、良性乳房疾患は異なる表現型で現れうる(J Mammary Gland Biol Neoplasia 10:325-335, 2005)。すなわち、正常乳房において小葉発達が起こる早期生殖相(15〜25歳)中は、良性乳房疾患は線維腺腫をもたらす。単一の巨大線維腺腫ならびに複数の腺腫が観察される。これらの線維腺腫は間質細胞および上皮細胞で構成され、小葉から生じる。成熟生殖相(25〜40歳)においては、各月経周期中に乳房が周期的変化を起こす。罹患女性には、周期的乳房痛と、その乳房中にいくつかの小結節を認められる。その後(35〜55歳)、正常乳房は退縮するのに対して、罹患乳房では、大嚢胞ならびに異型性を伴うおよび異型性を伴わない上皮過形成を観察することができる。増進した上皮細胞増殖を伴うこれらの形態の良性乳房疾患では、乳癌を発生するリスクが高まっている。このリスクは、増殖細胞画分に細胞異型性が存在する場合には、11%にまで達しうる(Zentralbl Gynaekol 119:54-58,1997)。60〜80歳の女性の25%も良性乳房疾患を患っており、エストロゲン補充療法(replacement therapy)または脂肪症(adiposity)は、閉経後も良性乳房疾患が持続する理由である(Am J Obstet Gynecol 154:161-179, 1986)。
【0089】
線維嚢胞性乳房疾患の病態生理は、エストロゲン優位およびプロゲステロン欠乏によって決定され、これは、結合組織の過剰増殖(線維症)をもたらし、これに続いて条件的(facultative)上皮細胞増殖が起こる。上述のように、線維嚢胞性病変内において増進した上皮細胞増殖を呈する患者では、乳がんのリスクが上昇する。臨床的には、線維嚢胞性乳房疾患は乳房疼痛(breast pain)および乳房圧痛(breast tenderness)を呈する。線維嚢胞性乳房疾患を有する患者の70%は、黄体機能不全または無排卵を患っている(Am J Obstet 154:161-179,1986)。黄体機能不全は、プロゲステロンレベルの低下とエストロゲン優位をもたらす。
【0090】
乳房痛(乳房疼痛)は、女性の約70%を、その生殖期間(reproductive lifespan)のどこかの時点で冒す。乳房疼痛は、月経前症候群の他の基準と関連することも関連しないこともある。乳房痛を患う女性は、視床下部下垂体軸の刺激後に、過剰なプロラクチン放出をもって応答することが証明されている(Clin Endocrinol 23:699-704,1985)。
【0091】
良性乳房疾患および乳房痛の標準的な治療法は次のとおりである。
【0092】
1)ブロモクリプチン
ドーパミンアゴニストとしてのブロモクリプチンは、下垂体プロラクチン合成だけをブロックし、乳腺上皮細胞におけるプロラクチンの局所的合成はブロックしない。それゆえに、これは、上昇した全身性プロラクチンレベルに依拠する形態の乳房痛および良性乳房疾患にしか有効でない。ブロモクリプチンの主な副作用は、悪心、嘔吐、浮腫、低血圧、めまい、脱毛、頭痛、および幻覚である。
【0093】
2)ダナゾール
ダナゾールは、その抗性腺刺激活性(antigonadotrophic activity)によって良性乳房疾患に観察されるエストロゲン優位に対抗するアンドロゲン性プロゲスチンである。主な副作用は、月経不順、うつ病、ざ瘡、多毛症、声の低音化(voice deepening)、および顔面紅潮、ならびに体重増加である。
【0094】
3)タモキシフェン
タモキシフェンは、乳房では抗エストロゲン活性を、また子宮ではエストロゲン活性を有する、選択的エストロゲン受容体モジュレーターである。主な副作用は、骨量減少および顔面紅潮などの閉経後症状、卵巣嚢胞、および子宮内膜癌である。
【0095】
4)プロゲスチン
プロゲスチンは、下垂体性腺軸の抑制、排卵阻害およびエストロゲン枯渇によって良性乳房疾患を阻害する。エストロゲン枯渇は骨量減少および顔面紅潮などの閉経症状につながる。
【0096】
5)低用量併用経口避妊薬
この処置は、35歳より高齢の女性、喫煙者ならびに糖尿病患者および過体重患者には適応がない。
【0097】
一般に、プロラクチンレベルは、良性乳房疾患を有する女性の3分の1では増加していることが見いだされている。エストロゲンは下垂体プロラクチン分泌を増進するので、血清プロラクチンレベルの増加は、この疾患におけるエストロゲンの優位性の結果であると考えられている。線維嚢胞性乳房疾患の亜型に似た多発性乳腺腺腫(multiple breast adenoma)を患っている女性には活性化PRLR変異がしばしば存在することが報告されている(Paul Kelly, Breast Congress Turin, 2007およびProc Natl Acad Sci 105: 14533-14538;2008)。
【0098】
良性乳房疾患、乳房痛および月経前の胸の張り(breast tension)は、一つの共通する病態生理学的機序、すなわち増進したプロラクチンシグナリングに依拠する。上昇したプロラクチンシグナリングは、
・全身性高プロラクチン血症(下垂体腺腫によるもの)
・局所的高プロラクチン血症(増殖する乳腺上皮細胞におけるプロラクチン合成によるもの)。局所的高プロラクチン血症は、上昇した血中プロラクチンレベルには移行しない;
・正常プロラクチンレベルの存在下で構成的に活性なPRLRシグナリング(活性化PRLR変異によるもの)
の結果でありうる。
【0099】
一定の形態の良性乳房疾患が乳がんを生じさせうることを考えると、この疾患を処置する医学的必要性がある。
【0100】
良性乳房疾患の前臨床モデルにおける中和PRLR抗体の効力を証明するために、全身性高プロラクチン血症に基づくマウスモデルを使用した。実施例16で述べるように、成体Balb/cマウスに、下垂体同系移植片を腎被膜下に移植した(Methods in Mammary gland Biology and Breast Cancer Research, 101-107, 2000)。全身性高プロラクチン血症は、無処置の未交尾対照マウスと比較して、乳腺における上皮細胞増殖の増進を引き起こし、側枝形成(sidebranching)および小葉腺胞発生を刺激した。がん発生のリスクが増進している大半の重症な形態のヒト線維嚢胞性乳房疾患は、増加した上皮細胞増殖を特徴とする。実施例16で述べるように、中和PRLR抗体を、非特異的抗体と比較して、このBalb/cマウスモデルにおいて、
・側枝形成および小葉腺胞発生をブロックする能力
・乳腺上皮細胞増殖を阻害する能力
・STAT5(通常はPRLR活性化後に活性化されリン酸化される転写因子)のリン酸化を阻害する能力
について試験した。
【0101】
図15A〜Cに示すとおり、中和PRLR抗体は、上述のリードアウトパラダイムのすべてを、用量依存的にブロックする。
【0102】
本発明のもう一つの目的は、閉経前女性および閉経後女性における良性乳房疾患および乳房痛を処置するための、中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0103】
本発明のもう一つの態様は、閉経前女性および閉経後女性における良性乳房疾患および乳房痛を処置するための、本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0104】
泌乳阻害
プロラクチンは出産後の泌乳に関与する主要ホルモンである。これはPRLR欠損マウスの表現型によって立証される。ヘテロ接合マウスでさえ重度の泌乳障害を有し、その仔(offspring)に授乳することは全くできない(Frontiers in Neuroendocrinology 22:140-145, 2001)。
【0105】
女性は、多くの理由で、すなわち、乳児にとって潜在的に危険な薬物の、母体による摂取、重症感染症(乳腺炎、腎炎)、大量の分娩後出血、および糖尿病、癌、衰弱などといった重度の母体疾患、または新生児の疾患により、母乳栄養を停止する必要がある。現在、出産後の泌乳を阻害するには、ブロモクリプチンやリスリドなどのドーパミン受容体アゴニストが使用される。しかしこれらの化合物は、悪心、嘔吐、浮腫、低血圧、めまい、脱毛、頭痛、および幻覚などの重篤な副作用を惹起しうる。加えて、ドーパミン受容体アゴニストは、心疾患および高血圧を患っている女性には適応がない。ブロモクリプチンのさらなる欠点は、半減期が短く、14日間にわたって毎日4〜6回の服薬が必要になることである。
【0106】
マウスにおける中和プロラクチン受容体抗体の効力を調べるために、NMRIマウスを雄と交配した。実施例15で述べるように、誕生後に一腹仔数を8匹に調節し、雌を、PRLRに対する特異的抗体および非特異的抗体で処置した。母体泌乳能力の尺度として、仔の体重を毎日モニターした。リードアウトを実施例15に詳述し、結果を図14A〜Dに図示する。中和PRLR抗体は泌乳の用量依存的阻害を示し、乳腺退縮および乳タンパク質産生量の低下をもたらす。
【0107】
本発明のもう一つの目的は、泌乳を阻害するための中和PRLR抗体の使用である。
【0108】
本発明のもう一つの目的は、泌乳を阻害するための、本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0109】
良性前立腺過形成
良性前立腺過形成(BPH)は、高齢男性において4番目によく見られる要医療状態(healthcare condition)である。前立腺の拡大は、≧50歳の男性の50%以上を冒す年齢依存的な進行性の状態である。BPHは、前立腺間質細胞および上皮細胞の過形成を特徴とし、それが、前立腺の尿道周囲領域における大きな離散的結節の形成をもたらして、尿道を圧迫する。したがって尿流障害はBPHの主要な結果の一つである。
【0110】
BPHの標準的治療法には、次に挙げるものが含まれる:
a)α1-アドレナリン作動性受容体アンタゴニスト(例えばタムスロシン、アルフゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン)は下部尿路におけるBPH症状を緩和する。これらは、アルファ受容体が媒介する前立腺平滑筋の刺激をブロックすることによって、膀胱下尿道閉塞を減少させる。主な副作用は、血管拡張性有害事象、めまいおよび射精不全(ejaculation failure)である。
b)5α−レダクターゼ阻害剤(例えばフィナステリド)
5α−レダクターゼ阻害剤は、前立腺におけるテストステロンの活性型であるジヒドロテストステロン(これは前立腺拡大の原因になる)の形成を防止する。主な副作用は勃起障害および性欲減退などの性機能障害である。
c)経尿道的前立腺切除術(TURP)
この外科的処置は高い手術合併症率(moribidity)を伴う。副作用は出血、失禁、狭窄形成、射精の消失、および膀胱穿孔である。
d)前立腺ステント留置術
適正な尿流量を保証するために、尿道の前立腺部分にステントが挿入される。主な副作用は、痂皮形成(encrustation)、尿路感染、およびステントの移動である。そのうえ、ステントは、何らかの経尿道的操作を行う前には除去する必要がある。
【0111】
乳腺に関して述べたように、PRLおよびPRLRは前立腺内でオートクリン/パラクリン的に作用する(J. Clin. Invest. 99:618 pp,1997)。
【0112】
臨床研究により、高プロラクチン血症(および先端肥大症(agromegaly))は、前立腺の拡大および炎症細胞の間質蓄積と関連することが示されている。ヒト成長ホルモンは亜鉛の存在下でヒトPRLRに結合できるが、これが、先端肥大症が良性前立腺過形成につながりうる理由の説明になるかもしれない。BPHを有する患者ではPRLの血清中レベルがしばしば上昇している。
【0113】
PRL遺伝子を遍在的に過剰発現するトランスジェニック動物は、重度の間質性前立腺過形成を発生させ、PRLが前立腺過形成の発生に関して重要な病態生理学的因子であることを示す(Endocrinology 138:4410 pp,1997)。さらにまた、前立腺特異的プロバシンプロモーター下でのトランスジェニックマウスにおけるPRLの局所的過剰発現は、ヒトBPHの基本的特徴である間質拡張、炎症細胞の蓄積および局所性上皮異形成(focal epithelial dysplasia)をもたらす(Endocrinology 144:2269 pp,2003)。
【0114】
PRLRは前立腺において高度に発現する(実施例3、図3)。ホルモン枯渇および処置後に、ラット前立腺組織において、PRLRタンパク質発現の変動が観察された(実施例4、図4)。PRLRに加えて、前立腺細胞はプロラクチンも発現する。
【0115】
実施例17で述べるように、雄Balb/cマウスの腎被膜下に下垂体同系移植片を移植し、良性前立腺過形成を発生させた。良性前立腺過形成に対する中和プロラクチン受容体抗体および非特異的抗体の効果をこのモデルで試験した。リードアウトパラダイムを実施例17に記載する。図16に図示するように、中和PRLR抗体は良性前立腺成長を阻害するので、良性前立腺過形成の処置に適している。
【0116】
本発明のもう一つの目的は、良性前立腺過形成を処置するための、中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0117】
本発明のもう一つの態様は、良性前立腺過形成を処置するための、本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0118】
高プロラクチン血性脱毛
脱毛の処置は今なお未充足ニーズである。頭髪は周期的に成長する。すなわち、成長期(anagen phase)は活発な毛髪の成長を特徴とし、退行期(catagen phase)は退縮を示し、その後に休止期(telogen phase)(休眠期(resting))が続く。脱落期(exogen phase)(死んだ毛髪の遊離)は、休止期の最後と一致する。脱毛は、いずれかの時期における毛髪成長障害の結果でありうる。
【0119】
休止期脱毛には多くのトリガー(生理学的ストレスおよび情動ストレス、医学的状態、鉄不足および亜鉛不足)が考えられ、重要なことに、アンドロゲン性脱毛症は、その初期段階において、休止期毛髪脱落を示す(Cleveland clinic journal of medicine 2009;76:361-367)。成長期脱毛は放射線療法または化学療法の結果であることが多い。
【0120】
ミノキシジルおよびフィナステリドはアンドロゲン性脱毛の処置に使用されており、一方、グルココルチコイドは円形脱毛症に使用されている。一般に、これらの処置は全て副作用を有し(フィナステリド:男性における性欲減退およびインポテンス、グルココルチコイド:糖尿病、体重増加、骨粗鬆症)、脱毛を処置するという課題は完全には解決されていない。
【0121】
齧歯類動物において、成体動物における剃毛実験を使って、剃毛区域における毛髪再成長をリードアウトパラダイムとして使用することにより、脱毛に対する化合物の効果が分析された(British Journal of dermatology 2008;159:300-305)。成体動物の剃毛(大半が休止期の毛髪)は、毛髪の成長を特徴とする成長期を誘発する。
【0122】
実施例17で述べる実験(良性前立腺過形成)では、下垂体同系移植片が移植された動物を剃毛した。これらの実験の過程で、下垂体同系移植片が移植された動物は、剃毛区域における毛髪再成長に重度の障害を示すことが、思いがけず見いだされた。中和PRLR抗体による処置は毛髪成長を刺激したが、非特異的抗体による処置は毛髪成長を刺激しなかった(図17)。
【0123】
この観察結果は、上昇したプロラクチン受容体媒介シグナリングが脱毛に関与することを証明している。これをさらに詳しく分析するために、既述の実験とよく似たさらなる剃毛実験が行われた(British Journal of dermatology 2008;159:300-305)。これら追加の剃毛実験を実施例18で説明する。これらの実験により、中和PRLR抗体は高および正常プロラクチン血性雄および雌マウスにおける毛髪成長を刺激することが証明される。
【0124】
本発明の抗体は、女性および男性における高および正常プロラクチン血性脱毛の新しい処置を提供するための課題を解決する。
【0125】
それゆえに、本発明のさらなる態様は、高および正常プロラクチン血性脱毛の処置または防止のために中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントを使用することである。
【0126】
本発明のもう一つの態様は、高プロラクチン血性脱毛を処置または防止するための、本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0127】
併用ホルモン療法
まだ子宮を有する閉経後女性における顔面紅潮を処置するために、エストロゲン(エストラジオールまたは結合型ウマエストロゲン=CEE)とプロゲスチン(例えば酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)、プロゲステロン、ドロスピレノン、レボノルゲストレル)との組合せが使用された。プロゲスチンは、エストラジオールで活性化された子宮上皮細胞増殖を阻害するために添加する必要がある。しかし、プロゲスチンの添加は乳腺上皮細胞増殖を増加させる。正常乳腺上皮細胞とがん性乳腺上皮細胞はどちらも、併用エストロゲン+プロゲスチン処置に対して、増殖をもって応答するので、CEE+MPA処置後には、乳がんの相対的リスクが増加していることがわかった(JAMA 233:321-333;2002)。
【0128】
併用ホルモン療法を受けている女性に毎月または2ヶ月ごとに投与すれば、中和PRLR抗体は、増進した乳房上皮細胞増殖を阻害するであろう。
【0129】
実施例19で述べるように、子宮および乳房におけるプロゲスチンの効果を定量的に分析するために、以前に開発されたマウスモデルを使用した(Endocrinology 149:3952-3959,2008)。マウスを卵巣切除し、卵巣切除の14日後に、3週間にわたって媒体または100ngエストラジオール+100mg/kgプロゲステロンで処置することで、ホルモン補充療法を模倣した。動物を特異的PRLR抗体(10mg/kgまたは30mg/kg)または非特異的抗体(30mg/kg)で週に1回処置した。併用ホルモン療法下の乳房における増殖活性に対する中和PRLR抗体の効果を分析した。
【0130】
本発明の抗体は、併用ホルモン療法下において観察される増進した乳房上皮細胞増殖を処置するための課題を解決する。
【0131】
本発明のもう一つの目的は、乳腺上皮細胞増殖を阻害するための、併用ホルモン療法(すなわちエストロゲン+プロゲスチン療法)における中和PRLR抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0132】
本発明のもう一つの態様は、乳腺上皮細胞増殖を阻害するための、併用ホルモン療法(すなわちエストロゲン+プロゲスチン療法)における本発明に記載する抗体および抗原結合性フラグメントの使用である。
【0133】
定義
本明細書にいうターゲット抗原ヒト「PRLR」は、配列番号70のアミノ酸位置1〜210と実質的に同じアミノ酸配列を、その細胞外ドメインに有するヒトポリペプチド、ならびにその天然の対立遺伝子(allelic)および/またはスプライス変異体を指す。本明細書にいう「PRLRのECD」は、上述のアミノ酸によって表されるPRLRの細胞外部分を指す。加えて、ターゲットヒトPRLRは、Paul Kellyが記載した活性化変異I146Lなどといった変異型の受容体も包含する(Proc Natl Acad Sci U S A.105(38):14533-14538,2008;および口頭発表(oral communication)、トリノ(Turin)、2007)。
【0134】
本明細書において使用する表現「治療有効量」は、望ましい処置レジメンに従って投与した場合に、所望の治療的または予防的効果または応答(前述の疾患症状の一部または全部を軽減すること、または疾患への罹りやすさを低下させることを含む)を引き出すのに適当であるだろう治療用または予防用抗体の量を指すものとする。
【0135】
結合特異性は絶対的性質ではなく、相対的性質であるから、本明細書にいう「に特異的に結合する」抗体は、前述の抗体が前述の抗原と1つ以上の参照(reference)抗原とを区別するのであれば、抗原(ここではPRLR)「に対して特異的」であり、または抗原「を特異的に認識する」。「特異的結合」とは、その最も一般的な形態において(かつ参照物が明示されていない場合には)、例えば下記の方法の一つに従って決定される、目的の抗原と無関係な抗原とを区別する抗体の能力を指している。そのような方法には、ウェスタンブロット、ELISA試験、RIA試験、ECL試験、IRMA試験およびペプチドスキャン(peptide scan)が含まれるが、これらに限るわけではない。例えば標準的なELISAアッセイを行うことができる。スコア化は標準的な発色法(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼを伴う二次抗体およびテトラメチルベンジジンと過酸化水素)で行うことができる。一定のウェルにおける反応を、例えば450nmにおける光学密度によってスコア化する。典型的なバックグラウンド(=陰性反応)は0.1ODであり、また典型的な陽性反応は1ODであることができる。これは陽性/陰性差が10倍を上回りうることを意味する。典型的には、結合特異性の決定は、単一の参照抗原ではなく、例えば粉乳(milk powder)、BSA、トランスフェリンなど約3〜5個の無関係な抗原のセットを使って行われる。
【0136】
しかし「特異的結合」は、ターゲット抗原と、参照点(reference point)として使用される1つ以上の密接に関連する抗原とを区別する抗体の能力をも指しうる。さらにまた、「特異的結合」は、そのターゲット抗原の異なる部分、例えばPRLRの異なるドメイン、サブドメインまたは領域、例えばPRLRのECDのN末端領域中またはC末端領域中のエピトープ、またはPRLRのECDの1つ以上のキー(key)アミノ酸残基またはアミノ酸残基のストレッチを区別する抗体の能力にも関しうる。
【0137】
「アフィニティ」または「結合アフィニティ」KDは、多くの場合、平衡会合定数(ka)と平衡解離定数(kd)を測定し、kdをkaで割った商(KD=kd/ka)を計算することによって決定される。「免疫特異的」または「特異的に結合」という用語は、抗体が、10-6M(一価アフィニティ)以下のアフィニティKDで、PRLRまたはそのECDに結合することを意味する。「高アフィニティ」という用語は、抗体が、10-7M(一価アフィニティ)以下のアフィニティKDで、PRLRまたはそのECDに結合することを意味する。抗体は、ターゲット抗原に対し、他の無関係な分子と比較して実質的に大きなアフィニティを有しうる。抗体は、ターゲット抗原に対し、ホモログと比較して実質的に大きなアフィニティ、例えば少なくとも1.5倍、2倍、5倍 10倍、100倍、10-3倍、10-4倍、10-5倍、10-6倍またはそれ以上の、ターゲット抗原に対する相対的アフィニティも有しうる。そのようなアフィニティは、従来の技法を使って、例えば平衡透析によって;BIAcore 2000計器により、製造者が概説する一般的手法を使って;ラジオイムノアッセイにより、放射標識ターゲット抗原を使って;または当業者に知られる他の方法を使って、容易に決定することができる。アフィニティデータは、例えばスキャッチャードら, Ann N.Y. Acad. ScL, 51:660 (1949)の方法によって解析することができる。
【0138】
本明細書において使用する「抗体がプロラクチン媒介シグナリングを拮抗する」という表現は、プロラクチン受容体媒介シグナリングの完全な阻害につながる本発明の抗体によるプロラクチン受容体活性化の阻止(blockade)を指すものとする。
【0139】
本明細書において使用する「抗体が結合に関して競合する」という表現は、プロラクチン受容体への結合に関する、ある抗体ともう一つの抗体またはそれ以上の抗体との間の競合を指すものとする。
【0140】
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、完全にアセンブルされた(assembled)抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、抗原に結合することができる抗体フラグメント(例えばFab'、F'(ab)2、Fv、単鎖抗体、ダイアボディ(diabody))、ラクダ抗体を包含し、前記のものを含む組換えペプチドも、それらが所望の生物学的活性を呈する限りにおいて包含する。抗体は、その重鎖上に、好ましくはIgG1、IgG2、またはIgG4アイソタイプに由来する異なる定常ドメイン(Fcドメイン)を保有しうる(下記参照)。エフェクター機能を修飾するために、変異を導入することができる。補体タンパク質C1qおよびFc受容体との相互作用に支配的(dominant)な役割を果たすFcドメイン中のアミノ酸残基が同定され、エフェクター機能に影響を及ぼす変異が記載されている(概観するにはLabrijnら, Current opinion in Immunology 20:479-485, 2008を参照されたい)。特に、IgG1の非グリコシル化(aglycosylation)は、アミノ酸位置297においてアスパラギンをアラニンに変異させるか、アスパラギンをグルタミンに変異させることによって達成することができ、これは、抗体依存性細胞性細胞傷害(antibody-derived cell-medidated cytotoxicity)(ADCC)を消滅させると報告されている(Sazinskyら, Proc. Nat. Acad. Sci. 105 (51): 20169, 2008;Simmonsら, J. of Immunological Methods 263: 133-147, 2002)。位置322のリジンをアラニンで置き換えると、ADCCの低下、および補体依存性細胞傷害(complement-derived cytotoxicity)(CDC)の除去が起こり、一方、位置234および235にある2つのロイシンを同時にアラニンで置き換えると、ADCCおよびCDCの回避(avoidance)が起こる[Hezarehら, J. of Virology, 75 (24):12161-12168, 2001]。アビディティ(avidity)を保ったインビボ二価(bivalent)治療薬としてIgG4アイソタイプを応用するには、「コアヒンジ領域(core hinge region)」におけるセリン→プロリン交換(serine-to-proline exchange)などの修飾(Schuurman, J.ら. Immunology 97: 693-698, 1999)を導入することができる。ヒトIgG2分子が不均一な共有結合二量体を形成する傾向は、位置127、232および233にあるシステインの一つをセリンに交換することによって回避することができる(Allenら, Biochemistry, 2009, 48 (17), pp 3755-3766)。低下したエフェクター機能を伴うもう一つのフォーマットとして、4つのIgG4特異的アミノ酸残基変化を保有するIgG2から誘導されるIgG2m4フォーマットを挙げることができる(Anら, mAbs 1(6), 2009)。抗体フラグメントは、組換えDNA技法によって生産するか、無傷抗体の酵素的または化学的切断によって生産することができ、抗体フラグメントについては以下に詳述する。限定するわけではないが、モノクローナル抗体の例には、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、およびHuman Engineered(商標)免疫グロブリン、免疫グロブリンに由来する配列を有するキメラ融合タンパク質、またはそのムテイン(mutein)もしくは誘導体が含まれ、それぞれについて以下に詳述する。化学的に誘導体化された抗体を含めて、無傷分子および/またはフラグメントの多量体または凝集体(aggregate)も考えられる。
【0141】
本明細書において使用する用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、微量に存在しうる天然の変異が考えられることを除けば、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に向けられる。さらにまた、典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基を指向する。モノクローナル抗体は、その特異性だけでなく、それらが均一な培養物によって合成され、異なる特異性および特徴を有する他の免疫グロブリンによって汚染されていないという点でも有利である。
【0142】
「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の特徴を示しており、何らかの特定の方法によって抗体が生産されることを要求していると解釈すべきではない。例えば、使用されるモノクローナル抗体は、例えば、Kohlerら, Nature, 256:495 [1975]に最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製することもできるし、組換えDNA法(例えば米国特許第4,816,567号)によって作製することもできる。「モノクローナル抗体」は、例えば、組換え、キメラ、ヒト化、ヒト、Human Engineered(商標)、または抗体フラグメントであることができる。
【0143】
「免疫グロブリン」または「ネイティブ(native)抗体」は四量体型糖タンパク質である。天然の免疫グロブリンでは、各四量体が、2つの同一なポリペプチド鎖対から構成され、各対は1本の「軽」鎖(約25kDa)と1本の「重」鎖(約50〜70kDa)を含む。各鎖のアミノ末端部分は、主として抗原認識を担うアミノ酸数が約100〜110個またはそれ以上である「可変」領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主としてエフェクター機能を担う定常領域を規定する。免疫グロブリンは、その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて異なるクラスに割り当てることができる。重鎖はミュー(μ)、デルタ(Δ)、ガンマ(γ)、アルファ(α)、およびイプシロン(ε)と分類することができ、抗体のアイソタイプを、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEと規定する。これらのうちいくつかは、さらにサブクラスまたはアイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分割することができる。異なるアイソタイプは異なるエフェクター機能を有する。例えばIgG1およびIgG3アイソタイプはADCC活性を有することが多い。ヒト軽鎖はカッパ(Κ)軽鎖およびラムダ(λ)軽鎖として分類される。軽鎖内および重鎖内では、可変領域と定常領域とが、アミノ酸数約12個またはそれ以上の「J」領域によって接合され、重鎖は、アミノ酸数約10個またはそれ以上の「D」領域も含む。総論については「Fundamental Immunology」の第7章(Paul, W.編、第2版、Raven Press, ニューヨーク(1989))を参照されたい。
【0144】
抗体/免疫グロブリンの「機能的フラグメント」または「抗原結合性抗体フラグメント」は、本明細書においては、抗原結合領域を保持している抗体/免疫グロブリンのフラグメント(例えばIgGの可変領域)と定義される。抗体の「抗原結合領域」は、典型的には、抗体の1つ以上の超可変領域、すなわちCDR-1、-2、および/または-3領域に見いだされるが、可変「フレームワーク」領域も、CDRに足場(scaffold)を提供することなどにより、抗原結合に重要な役割を果たすことができる。「抗原結合領域」は、好ましくは少なくとも、可変軽(VL)鎖のアミノ酸残基4〜103と、可変重(VH)鎖のアミノ酸残基5〜109とを含み、より好ましくはVLのアミノ酸残基3〜107とVHのアミノ酸残基4〜111とを含み、とりわけ好ましいのは、完全なVL鎖およびVH鎖[VLのアミノ酸位置1〜109とVHのアミノ酸位置1〜113、ここで、アミノ酸位置の番号付与はKabatデータベースに準ずる(Johnson and Wu, Nucleic Acids Res., 2000, 28, 214-218)]である。本発明における使用にとって好ましい免疫グロブリンクラスはIgGである。
【0145】
用語「超可変」領域は、抗原結合を担う抗体の可変ドメインVHおよびVLまたは機能的フラグメントのアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」またはCDR[すなわち、図12に記載する軽鎖可変ドメイン中の残基24〜34(LCDR1)、50〜56(LCDR2)および88〜97(LCDR3)ならびに重鎖可変ドメインの残基29〜36(HCDR1)、48〜66(HCDR2)および93〜102(HCDR3)]からのアミノ酸残基および/または超可変ループ[すなわちChothiaら, J. Mol.Biol. 196: 901-917 (1987)に記載の軽鎖可変ドメイン中の残基26〜32(LCDR1内)、50〜52(LCDR2内)および91〜96(LCDR3内)ならびに重鎖可変ドメイン中の残基26〜32(HCDR1内)、53〜55(HCDR2内)および96〜101(HCDR3内)]からの残基を含む。
【0146】
限定するわけではないが、抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、ドメイン抗体(dAb)、相補性決定領域(CDR)フラグメント、単鎖抗体(scFv)、単鎖抗体フラグメント、ダイアボディ、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、ミニボディ(minibody)、線状抗体(linear antibody)(Zapataら, Protein Eng., 8(10):1057-1062 (1995));キレーティング(chelating)組換え抗体、トリボディ(tribody)またはバイボディ(bibody)、イントラボディ(intrabody)、ナノボディ(nanobody)、スモール・モジュラー・イムノファーマシューティカル(small modular immunopharmaceutical)(SMIP)、抗原結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化(camelized)抗体、VHH含有抗体、またはそのムテインもしくは誘導体、および抗体が所望の生物学的活性を保持している限りにおいて、免疫グロブリンの少なくとも一部であって、ポリペプチドに特異的抗原結合性を付与するのに十分である部分(例えばCDR配列)を含有するポリペプチド;ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体(C. A. K Borrebaeck編 (1995) Antibody Engineering (Breakthroughs in Molecular Biology), Oxford University Press;R. KontermannおよびS. Duebel編 (2001) Antibody Engineering (Springer Laboratory Manual), Springer Verlag)などがある。「二重特異性」または「二官能性」抗体以外の抗体は、その結合部位のそれぞれが同一であると理解される。F(ab')2またはFabは、CH1ドメインとCLドメイン間に生じる分子間ジスルフィド相互作用が最小限になるか完全に除去されるように、操作することができる。抗体のパパイン消化は、それぞれが単一の抗原結合部位を有する「Fab」フラグメントと呼ばれる2つの同一な抗原結合性フラグメントと、残りの「Fc」フラグメント(この名称は容易に結晶化するその能力を反映している)とを生成する。ペプシン処理は、2つの「Fv」フラグメントを有するF(ab')2フラグメントをもたらす。「Fv」フラグメントは、完全な抗原認識および結合部位を含有する最小の抗体フラグメントである。この領域は、固く非共有結合的に会合した1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインの二量体とからなる。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体の表面上の抗原結合性部位を規定しているのは、このコンフィギュレーション(configuration)でのことである。全体として、6個のCDRが抗体に抗原結合特異性を付与している。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのCDRだけを含むFvの半分)でさえ、抗原を認識し結合する能力を有する。
【0147】
「単鎖Fv」または「sFv」または「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVHおよびVLドメインを含み、ここでは、これらのドメインが単一のポリペプチド鎖中に存在する。
【0148】
好ましくは、Fvポリペプチドは、Fvが抗原結合にとって望ましい構造を形成することを可能にするVHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーを、さらに含む。sFvを概観するには、Pluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, RosenburgおよびMoore編, Springer-Verlag, ニューヨーク, pp. 269-315 (1994)を参照されたい。
【0149】
Fabフラグメントは、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメイン(CH1)も含有する。FabフラグメントとFab'フラグメントとの相違点は、重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む数残基が付加されている点である。Fab'-SHは、本明細書においては、定常ドメインのシステイン残基が遊離のチオール基を保持しているFab'の名称である。F(ab')2抗体フラグメントは、元々は、Fab'フラグメントのペアであって、それらの間にヒンジシステインを有するものとして生産された。
【0150】
「フレームワーク」残基、すなわちFR残基は、超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0151】
「定常領域」という表現は、抗体分子のうち、エフェクター機能を付与する部分を指す。
【0152】
用語「ムテイン」または「変異体」は互換的(interchangeably)に使用することができ、可変領域または可変領域と等価な部分に少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失、または挿入を含有する抗体のポリペプチド配列を指す。ただし、ムテインまたは変異体は、所望の結合アフィニティまたは生物学的活性を保っているものとする。
【0153】
ムテインは、親抗体と実質的に相同または実質的に同一でありうる。
【0154】
「誘導体」という用語は、ユビキチン化、治療剤または診断剤へのコンジュゲーション(conjugation)、標識(labeling)(例えば放射性核種または種々の酵素によるもの)、共有結合によるポリマーの取り付け(attachment)、例えばPEG化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)、および非天然アミノ酸の化学合成による挿入または置換などといった技法によって共有結合的に修飾された抗体を指す。
【0155】
「ヒト」抗体または機能的ヒト抗体フラグメントは、本明細書においては、キメラ抗体または「ヒト化」ではなく、非ヒト種に(全部または一部が)由来する抗体でもないものと定義される。ヒト抗体または機能的抗体フラグメントはヒトから得られるか、合成ヒト抗体であることができる。「合成ヒト抗体」とは、本明細書においては、既知のヒト抗体配列の解析に基づく合成配列からインシリコ(in silico)で全部または一部が導き出された配列を有する抗体と定義される。ヒト抗体配列またはそのフラグメントのインシリコ設計は、例えばヒト抗体配列または抗体フラグメント配列のデータベースを解析し、そこから得られたデータを利用してポリペプチド配列を考案することによって達成することができる。ヒト抗体または機能的抗体フラグメントのもう一つの例は、ヒト起源の抗体配列のライブラリーから単離された核酸によってコードされるものである(すなわち前述のライブラリーはヒト天然供給源から採取された抗体に基づく)。ヒト抗体の例には、CarlssonおよびSoederlind, Exp. Rev. Mol. Diagn. 1 (1), 102-108 (2001)、Soederlinら, Nat. Biotech. 18, 852-856 (2000)および米国特許第6,989,250号に記載のn-CoDeRベースの抗体が含まれる。
【0156】
「ヒト化抗体」または機能的ヒト化抗体フラグメントは、本明細書においては、(i)非ヒト供給源(例えば異種免疫系を保持するトランスジェニックマウス)に由来し、ヒト生殖細胞系配列に基づく抗体;または(ii)CDR移植されたものであって、可変ドメインのCDRが非ヒト起源のものであり、一方、可変ドメインの1つ以上のフレームワークはヒト起源のものであり、定常ドメイン(存在する場合)はヒト起源のものであるものと定義される。
【0157】
本明細書において使用する「キメラ抗体」という表現は、2つの異なる抗体(典型的には異なる種を起源とするもの)に由来する配列を含有する抗体を指す(例えば米国特許第4,816,567号参照)。最も典型的には、キメラ抗体はヒト抗体フラグメントとマウス抗体フラグメントを含み、一般的にはヒト定常領域とマウス可変領域とを含む。
【0158】
「Human Engineered(商標)」抗体は、例えば配列番号58、61、64、67によって表される抗体および特許出願WO08/022295に記載されている抗体など、米国特許第5,766,886号に記載されている方法で親配列を改変することによって作製された抗体である。
【0159】
本発明の抗体は、組換え抗体遺伝子ライブラリーに由来することができる。組換えヒト抗体遺伝子のレパートリーを作製し、コードされた抗体フラグメントを線維状バクテリオファージの表面上にディスプレイするための技術の開発により、ヒト抗体を直接作製し、選択するための組換え手段が得られており、これを、ヒト化、キメラ、マウスまたはムテイン抗体に応用することもできる。ファージ技術によって生産される抗体は、細菌内で抗原結合性フラグメント−通常はFvまたはFabフラグメント−として生産されるので、エフェクター機能を欠いている。エフェクター機能は、次に挙げる2つの戦略のうちの一つによって導入することができる。すなわち、フラグメントは、哺乳動物細胞において発現させるための完全な抗体、またはエフェクター機能をトリガー(trigger)することができる第2の結合部位を有する二重特異性抗体フラグメントへと、工学的に操作することができる。典型的には、抗体のFdフラグメント(VH-CH1)および軽鎖(VL-CL)を、PCRによって別々にクローニングし、コンビナトリアルファージディスプレイライブラリーにおいてランダムに組み換え、次にそれを、特定の抗原に対する結合に関して選択することができる。Fabフラグメントはファージ表面上に発現され、すなわち、それらをコードする遺伝子に物理的に連結されている。したがって、抗原結合性によるFabの選択は、そのFabをコードする配列を同時に選択することになり、次にそれを増幅することができる。抗原結合と再増幅とを数ラウンド行うこと(パンニングと呼ばれる手法)により、抗原に特異的なFabが濃縮され、最終的には単離される。
【0160】
ファージディスプレイライブラリーからヒト抗体を得るために、さまざまな手法が記載されている。そのようなライブラリーは、CarlssonおよびSoederlind Exp. Rev. Mol. Diagn. 1 (1), 102-108 (2001)、Soederlinら. Nat. Biotech. 18, 852-856 (2000)および米国特許第6,989,250号に記載されているように、インビボで形成された(すなわちヒト由来の)多様なCDRを組み込むことが可能な単一のマスターフレームワーク上に構築することができる。あるいは、そのような抗体ライブラリーは、合成的に創製された核酸によってコードされる、インシリコで設計されたアミノ酸配列に基づいてもよい。抗体配列のインシリコ設計は、例えば、ヒト配列のデータベースを解析し、そこから得られたデータを利用してポリペプチド配列を考案することなどによって達成することができる。インシリコ創製配列を設計し取得するための方法は、例えばKnappikら, J. Mol. Biol. (2000) 296:57;Krebsら, J. Immunol. Methods. (2001) 254:67;および米国特許第6,300,064号に記載されている。ファージディスプレイ技法を概観するにはWO08/022295(Novartis)を参照されたい。
【0161】
あるいは、本発明の抗体は動物由来であってもよい。そのような抗体はWO08/022295(Novartis)に要約されているヒト化またはHuman Engineered抗体であることができ、そのような抗体はトランスジェニック動物に由来してもよい[同様にWO08/022295(Novartis)参照]。
【0162】
本明細書にいう、異なる「形態」の抗原、例えばPRLRとは、本明細書においては、異なる翻訳時修飾および翻訳後修飾、例えば限定するわけではないが、一次プロラクチン受容体転写産物のスプライシングの相違、グリコシル化の相違、および翻訳後タンパク質分解的切断(proteolytic cleavage)の相違に起因する異なるタンパク質分子と定義される。
【0163】
本明細書において使用する用語「エピトープ」は、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合する能力を有する任意のタンパク質決定基を包含する。エピトープ決定基は通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面配置(surface grouping)からなり、通常は特異的な三次元構造特徴と、特異的な電荷特徴とを有している。2つの抗体は、当業者に周知の方法のいずれかによって、一方の抗体が競合結合アッセイにおいてもう一つの抗体と競合することが示されるのであれば、そして好ましくは、エピトープのアミノ酸の全てがそれら2つの抗体によって結合されるのであれば、「同じエピトープに結合する」といわれる。
【0164】
用語「成熟抗体」または「成熟抗原結合性フラグメント」、例えば成熟Fab変異体には、PRLRの細胞外ドメインなど、所与の抗原に対して、より強い結合−すなわち、増加したアフィニティでの結合−を呈する抗体または抗体フラグメントの誘導体が含まれる。成熟は、抗体または抗体フラグメントの6個のCDR内にあってアフィニティの増加につながる少数の変異を同定するプロセスである。成熟プロセスは、抗体中に変異を導入するための分子生物学的方法と、スクリーニングによって改良されたバインダーを同定するための分子生物学的方法との組み合わせである。
【0165】
治療法
治療法は、本発明によって考えられる抗体の治療有効量を、処置を必要とする対象に投与することを伴う。「治療有効」量とは、本明細書においては、単回投与として、または複数回投与レジメンに従って、単独で、または他の薬剤との組み合わせで、対象の処置区域におけるPRLR陽性細胞の増殖をブロックするのに十分な量であって、有害な状態の軽減につながるが、毒物学的には認容できるような、抗体の量と定義される。対象は、ヒトまたは非ヒト動物(例えばウサギ、ラット、マウス、サル、または他の下等霊長類)であることができる。
【0166】
本発明の抗体は、既知の医薬(medicament)と同時投与することができ、場合によっては、抗体そのものを修飾してもよい。例えば抗体は、潜在的に効力をさらに高めるために、免疫毒素または放射性同位体にコンジュゲートすることができるだろう。
【0167】
本発明の抗体は、PRLRが望ましくないほど多量に発現しているさまざまな状況において、治療ツールまたは診断ツールとして使用することができる。本発明の抗体による処置にとりわけ適した障害および状態は、子宮内膜症、腺筋症、非ホルモン女性避妊(female fertility contraception)、良性乳房疾患および乳房痛、泌乳阻害、良性前立腺過形成、類線維腫、高および正常プロラクチン血性脱毛、ならびに乳腺上皮細胞増殖を阻害するための併用ホルモン療法における共処置である。
【0168】
上述の障害のいずれかを処置するために、本発明に従って使用するための医薬組成物は、1つ以上の生理学的に許容できる担体または賦形剤を使って、従来の方法で製剤化することができる。本発明の抗体は、処置される障害のタイプに応じてさまざまであることができる任意の適切な手段によって投与することができる。考えうる投与経路には、非経口(例えば筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下)、肺内および鼻腔内、ならびに局所免疫抑制処置にとって望ましい場合には、病変内投与が含まれる。また、本発明の抗体は、例えば抗体の用量を減らしていく、パルス注入(pulse infusion)によって投与することもできる。好ましくは、投薬は、投与が短期間であるか、長期間であるかに部分的に依存して、注射によって、最も好ましくは静脈内注射または皮下注射によって行われる。投与すべき量は、臨床症状、個体の体重、他の薬物を投与するかどうかなど、さまざまな因子に依存するだろう。投与の経路が処置すべき障害または状態に依存して変動することは、当業者にはわかるだろう。
【0169】
本発明の新規ポリペプチドの治療有効量の決定は、主として、特定の患者特徴、投与経路、および処置される障害の性質に依存するだろう。一般的指針は、例えば医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議(International Conference on Harmonisation)の刊行物およびRemingtons's Pharmaceutical Sciences, chapter 27および28, 484〜528ページ(第18版、Alfonso R. Gennaro編、ペンシルバニア州イーストン:Mack Pub. Co., 1990)に見いだすことができる。より具体的には、治療有効量の決定は、医薬の毒性および効力などの因子に依存するであろう。毒性は、上述の参考文献に見いだされる当技術分野において周知の方法を使って決定することができる。効力は、同じ指針を、下記実施例で述べる方法と合わせて利用することによって、決定することができる。
【0170】
医薬組成物および投与
本発明は、PRLR抗体を含みうる医薬組成物であって、単独で、または安定化化合物などの少なくとも1つの他の薬剤と組み合わせて使用することができ、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、および水などといった(ただしこれらに限るわけではない)滅菌生体適合性医薬担体に入れて投与することができる、医薬組成物にも関係する。これらの分子はいずれも、患者に単独で、または他の薬剤、薬物もしくはホルモンと組み合わせて、医薬組成物として投与することができ、医薬組成物では、賦形剤または医薬上許容される担体と混合される。本発明のある実施形態では、医薬上許容される担体は医薬的に不活性である。
【0171】
本発明は医薬組成物の投与にも関係する。そのような投与は、非経口的に行われる。非経口送達の方法には、局所(topical)、動脈内(腫瘍に直接)、筋肉内、皮下、髄内(intramedullary)、髄腔内(intrathecal)、脳室内(intraventricular)、静脈内、腹腔内、子宮内または鼻腔内投与が含まれる。これらの医薬組成物は、活性成分の他にも、活性化合物を医薬的に使用することができる調製物に加工することを容易にする賦形剤および助剤を含む適切な医薬上許容される担体を含有しうる。製剤および投与のための技術に関するさらなる詳細は、Remington's Pharmaceutical Sciences(編 Maack Publishing Co、ペンシルバニア州イーストン)の最新版に見いだすことができる。
【0172】
非経口投与用の医薬製剤には活性化合物の水溶液が含まれる。注射のために、本発明の医薬組成物を、水溶液中に、好ましくは生理学的に適合するバッファー、例えばハンクス液(Hank's solution)、リンゲル液、または生理学的緩衝食塩水中に製剤化することができる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランを含有しうる。また、活性化合物の懸濁液は、適当な油性注射用懸濁液として製造することもできる。適切な親油性溶剤または媒体には、ゴマ油などの脂肪油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリド、またはリポソームが含まれる。所望により、懸濁液は、高濃度溶液の調製が可能になるように、適切な安定化剤、または化合物の溶解度を増加させる薬剤も含有してよい。
【0173】
局所または鼻投与のためには、浸透すべき特定の障壁に適した浸透剤(penetrant)を、製剤中に使用する。そのような浸透剤は当技術分野では一般的に知られている。
【0174】
非経口投与は、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、髄腔内、および脳室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣、または鼻腔内投与も含む非経口送達の方法も含む。
【0175】
キット
本発明はさらに、上述した本発明組成物の成分の1つ以上が充填された1つ以上の容器を含む医薬パック(pharmaceutical pack)およびキットに関する。そのような容器には、医薬または生物学的製剤の製造、使用または販売を規制する政府当局によって指示された形式で、当局によるヒト投与用製品の製造、使用または販売の認可を反映した告知書(notice)を、添付することができる。
【0176】
もう一つの実施形態において、キットは、本発明の抗体をコードするDNA配列を含有してもよい。これらの抗体をコードするDNA配列は、好ましくは、宿主細胞へのトランスフェクションと宿主細胞による発現に適したプラスミドに入れて提供される。プラスミドは、宿主細胞におけるDNAの発現を調節するために、プロモーター(多くの場合、誘導性プロモーター)を含有しうる。プラスミドは、プラスミド中に他のDNA配列を挿入してさまざまな抗体を生産することが容易になるように、適当な制限部位も含有しうる。プラスミドは、コードされているタンパク質のクローニングおよび発現を容易にするために、数多くの他の要素も含有しうる。そのような要素は、当業者にはよく知られており、例えば選択可能マーカー、開始コドン、停止コドンなどが含まれる。
【0177】
製造および貯蔵
本発明の医薬組成物は、当技術分野においてよく知られている方法で、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣形成(dragee-making)、研和(levigating)、乳化、カプセル化、捕捉(entrapping)または凍結乾燥プロセスなどによって、製造することができる。
【0178】
医薬組成物は、使用前にバッファーと混合される、pH範囲が4.5〜5.5の1mM〜50mMヒスチジン、0.1%〜2%スクロース、2%〜7%マンニトール中の凍結乾燥粉末として提供することができる。
【0179】
許容される担体中に製剤化された本発明の化合物を含む医薬組成物を製造したら、それらを適当な容器に入れ、適応症(indicated condition)の処置に関して医薬品の表示をすることができる。PRLR抗体の投与に関して、そのような医薬品の表示(labeling)には、投与の量、頻度および方法が含まれるだろう。
【0180】
治療有効量
本発明における使用に適した医薬組成物には、その活性成分が、意図する目的、すなわちPRLR発現を特徴とする特定の疾患状態の処置を達成するのに有効な量で含まれている組成物が含まれる。有効量の決定は、当業者の能力の範囲で十分に可能である。
【0181】
任意の化合物について、まず最初は細胞培養アッセイにおいて、例えばリンパ腫細胞において、または動物モデル、通常はマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタまたはサルにおいて、治療有効量を推定することができる。動物モデルは、望ましい濃度範囲および投与経路を実現するためにも使用される。次に、そのような情報を、ヒトにおける投与にとって有用な用量および経路を決定するために使用することができる。
【0182】
治療有効量は、症状または状態を改善する、タンパク質またはその抗体、アンタゴニスト、または阻害剤の量を指す。そのような化合物の治療効力および毒性は、細胞培養または実験動物において、例えばED50(集団の50%において治療的に有効な用量)およびLD50(集団の50%にとって致死的な用量)などといった、標準的な医薬的手法によって決定することができる。治療効果と毒性効果の間の用量比が治療係数(therapeutic index)であり、これは比ED50/LD50として表すことができる。大きな治療係数を呈する医薬組成物は好ましい。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトでの使用のための投薬量範囲を処方する際に使用される。そのような化合物の投薬量は、好ましくは、ほとんどまたは全く毒性を伴わないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量は、使用する剤形、患者の感度、および投与経路に応じてこの範囲内で変動する。
【0183】
厳密な投薬量は、処置すべき患者を考慮して個々の医師が選択する。投薬量および投与は、十分なレベルの活性部分が提供されるように、または所望の効果が維持されるように、調節される。考慮されるであろうさらなる因子には、疾患状態の重症度、例えば子宮内膜症病変のサイズおよび場所;患者の年齢、体重および性別;食餌(diet)、投与の時間および頻度、併用薬、反応感度、および治療に対する認容性/応答が含まれる。長時間作用性医薬組成物を、その特定製剤の半減期およびクリアランス率に応じて、3〜4日ごと、1週間ごと、または2週間に1回、または1ヶ月以内に1回投与してもよい。
【0184】
通常の投薬量は、投与経路に応じて、0.1〜100,000マイクログラム、合計用量約2gまでの範囲で変動しうる。特定の投薬量および送達方法に関する指針は文献に記載されている。US4,657,760;US5,206,344;またはUS5,225,212を参照されたい。当業者は、ポリヌクレオチド用には、タンパク質用またはそれらの阻害剤用とは異なる製剤を使用するであろう。同様に、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの送達は、特定の細胞、状態、場所などに特異的であるだろう。放射標識抗体の場合、好ましい比放射能は0.1〜10mCi/mgタンパク質の範囲にありうる(Rivaら, Clin. Cancer Res. 5:3275s-3280s, 1999;Wongら, Clin. Cancer Res. 6:3855-3863, 2000;Wagnerら, J. Nuclear Med. 43:267-272, 2002)。
【0185】
以下に実施例を挙げて、本発明を、さらに詳しく説明する。これらの実施例は、具体的な実施形態を参照して本発明を例証するために提供されるにすぎない。これらの実証は、本発明の一定の具体的態様を例示しているが、限定を表すものではなく、ここに開示する発明の範囲を制限するものでもない。
【0186】
全ての実施例は、別段の説明が詳細になされている部分を除き、当業者にとっては周知でありルーチンである標準的技法使って行われた。下記実施例のルーチンな分子生物学技法は、Sambrookら「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版;Cold Spring Harbor Laboratory Press, コールドスプリングハーバー, ニューヨーク, 1989などの標準的実験マニュアルに記載されているとおりに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】健常女性および子宮内膜症を患っている女性からのヒト子宮内膜および病変(異所性組織)におけるプロラクチンmRNA(PRL-mRNA)の発現(リアルタイムTaqMan PCR分析によって分析)。
【図2】健常女性および子宮内膜症を患っている女性からのヒト子宮内膜および病変(異所性組織)におけるプロラクチン受容体mRNA(PRLR-mRNA)の発現(リアルタイムTaqMan PCR分析によって分析)。
【図3】ラット組織におけるPRLR遺伝子発現のノーザンブロット分析。PRLRの遺伝子発現は、胎盤および前立腺における高発現を明らかにした。
【図4】異なるホルモンで処置されたラット前立腺におけるPRLR発現のウェスタンブロット分析。無傷ラットのエストラジオール処置および去勢が、ラット前立腺におけるPRLRタンパク質のアップレギュレーションにつながったのに対し、無傷ラットのジヒドロテストステロン処置は、無傷動物の媒体処置と比較して、前立腺におけるPRLR発現に何も影響しなかった。
【図5】中和PRLR抗体および非特異的対照抗体によるプロラクチン活性化Ba/F(=Baf)細胞増殖(ヒトPRLRを安定に発現するもの)の阻害。以下の抗体について、IgG1フォーマットで、IC50値を決定した:005-C04(黒丸):1.29μg/ml=8.6nM;006-H08(白丸):0.15μg/ml=1nM;HE06.642(黒三角):0.34μg/ml=2.2nM;002-H06(白三角):0.54μg/ml=3.6nM;002-H08(黒四角):0.72μg/ml=4.8nM;非特異的対照抗体(白四角):細胞増殖の阻害なし。
【図6】中和PRLR抗体および非特異的対照抗体によるプロラクチン誘発性ラットリンパ腫細胞増殖(NB2細胞)の阻害。以下のIC50値が決定された:XHA06.642(黒丸):10μg/ml=67nM;XHA06.983(白丸):ラットリンパ腫細胞増殖に対する効果なし;非特異的対照抗体(黒三角):10μg/mlで効果なし。
【図7】中和PRLR抗体および非特異的対照抗体によるT47D細胞におけるプロラクチン刺激STAT5リン酸化の阻害。 非特異的対照抗体(FITC)はT47D細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害しない。これに対して、抗体XHA06.642、005-C04(=IgG1 005-C04)、および006-H08(=IgG1 006-H08)は、T47D細胞におけるSTAT5のリン酸化を、用量依存的に阻害する。
【図8】ヒトプロラクチン受容体(hPRLR)で安定にトランスフェクトされた、乳腺刺激ホルモン応答エレメント(LHRE)の制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を一過性に発現するHEK293細胞を使った、プロラクチン活性化ルシフェラーゼレポーター遺伝子活性に対する中和PRLR抗体および非特異的対照の効果。次の抗体について、IgG1フォーマットで、IC50値を決定した:006-H08(黒丸):0.83μg/ml=5.5nM;HE06.642(白丸):0.63μg/ml=4.2nM;非特異的対照抗体(黒三角):ルシフェラーゼ活性の阻害なし。
【図9】マウスプロラクチン受容体(mPRLR)で安定にトランスフェクトされた、乳腺刺激ホルモン応答エレメント(LHRE)の制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を一過性に発現するHEK293細胞を使った、プロラクチン活性化ルシフェラーゼレポーター遺伝子活性に対する中和PRLR抗体および非特異的対照の効果。次の抗体について、IgG1フォーマットで、IC50値を決定した:005-C04(黒三角):0.45μg/ml=3nM;XHA06.642(黒丸):>>50μg/ml>>333nM、非特異的対照抗体(白丸):ルシフェラーゼ活性の阻害なし。
【図10】中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体によるプロラクチン活性化Ba/F(=Baf)細胞増殖(マウスプロラクチン受容体を安定に発現するもの)の阻害。次の抗体について、IgG1フォーマットで、IC50値を決定した:非特異的FITC抗体(黒四角):細胞増殖の阻害なし;HE06.642(黒丸):>>>30μg/ml>>>200nM;001-E06(白丸):43.7μg/ml=291nM;001-D07(黒三角):16.5μg/ml=110nM;005-C04(白三角):0.74μg/ml=4.9nM。
【図11】リン酸緩衝食塩水(=媒体)、非特異的対照抗体(FITC IgG1)または中和抗体IgG1 005-C04(=005-C04)で処置した雌マウスにおける妊娠率および平均一腹仔数。妊娠率は87.5%(媒体処置雌)、75%(10mg/kgの非特異的抗体で処置した雌)、100%(10mg/kgのIgG1 005-C04で処置した雌)、および0%(30mg/kgのIgG1 005-C04で処置した雌)だった。平均一腹仔数は10.9匹(媒体処置雌)、12.3匹(10mg/kgの非特異的抗体で処置した雌)、13匹(10mg/kgのIgG1 005-C04で処置した雌)および0匹(30mg/kgのIgG1 005-C04で処置した雌)だった。
【図12】JohnsonおよびWu(Nucleic Acids Res. 2000, 28, 214-218)によるフレームワークアミノ酸位置のKabat番号付与。
【図13】選択した抗PRLR抗体(005-C04、001-E06、HE06642)を使ったFACS分析結果。抗体の結合を、ヒトおよびマウスPRLRを発現するHEK293細胞において、PRLRを発現しない親細胞株と比較して、固定濃度で決定した。
【図14A】分娩後1日目に得られた産仔(litter)重量の百分率として表した、各分娩後日(postpartal day)についての、産仔重量増加。無処置の母体から(黒丸)、10mg/kgの非特異的マウスIgG2a抗体で処置した母体から(白丸)、ならびに10mg/kg(黒三角)および30mg/kg(白三角)のマウスIgG2a定常ドメインを含有する中和抗体005-C04(=IgG2a 005-C04)で処置した母体からの産仔の重量増加を示す。矢印は、抗体注射を行った日を示す。分娩後8日目以降、30mg/kgのIgG2a 005-C04で処置した母体の産仔からの体重増加に、有意な減少がある。
【図14B】分娩後1日目の産仔体重の百分率として表した1日ごとの産仔重量増分。無処置の母体(黒丸)、10mg/kgの非特異的マウスIgG2a抗体で処置された母体(白丸)、ならびに10mg/kg(黒三角)および30mg/kg(白三角)のマウスIgG2a定常ドメインを含有する中和抗体005-C04(=IgG2a 005-C04)で処置された母体の産仔からの結果を表す。基本的に、図14Aは図14Aに示したグラフの傾きを表す。無処置の母体および10mg/kgの非特異的抗体で処置された母体からの産仔における毎日の重量増加は、分娩後1日目における産仔重量の30%付近を上下する。対照的に、30mg/kgのIgG2a 005-C04による母体の処置は、7日目以降の重量増加の有意な減少につながり(*p<0.05;***p<0.005、非特異的抗体で処置された母体からの産仔との比較)、一方、10mg/kgのIgG2a 005-C04による処置は、11日目以降の毎日の重量増加の有意な減少につながる(p<0.05、非特異的抗体で処置された母体からの産仔との比較)。矢印は抗体適用の日を示す。
【図14C】泌乳中の母体の乳腺からの組織切片。無処置の母体または非特異的抗体で処置された母体からの乳腺は、乳汁を産生する導管で満たされている。対照的に、脂肪島(fatty island)の出現(黒い矢印)によって証明される乳腺退縮が、中和IgG2a 005-C04抗体により、用量依存的に誘導される。
【図14D】泌乳中の母体からの乳腺における乳タンパク質発現。乳タンパク質ベータカゼイン(Csn-2)、乳清酸性タンパク質(WAP)、IGF-1の発現は、中和PRLR抗体IgG2a 005-C04で処置された母体では用量依存的に減少したが、非特異的抗体ではそうならなかった。遺伝子発現は、TATAボックス結合タンパク質(TBP)の発現に対して標準化した。
【図15A】良性乳房疾患の高プロラクチン血性マウスモデルにおける側枝(side branch)および腺房(alveolar)様構造の形成。中和PRLR抗体IgG1 005-C04(=005-C04)は、10および30mg/kgで、下垂体同系移植を受けたマウスにおける側枝形成と腺房様構造の形成を阻害する。
【図15B】良性乳房疾患の高プロラクチン血性マウスモデルにおける上皮過形成および上皮細胞増殖の程度。いくつかのBrdU陽性細胞に白い矢印で印をつける。中和PRLR抗体IgG1 005-C04(=005-C04)は乳腺における上皮過形成および上皮細胞増殖をブロックする。
【図15C】良性乳房疾患の高プロラクチン血性マウスモデルにおけるSTAT5リン酸化の程度。いくつかのホスホSTAT5陽性細胞を白い矢印で示す。中和PRLR抗体IgG1 005-C04(=005-C04)は、30mg/kgの投薬量で適用した場合、STAT5リン酸化を完全にブロックする。
【図16】マウスIgG2a定常ドメインを含有する中和PRLR抗体005-C04(=IgG2a 005-C04)による前立腺成長の阻害。下垂体同系移植は、無処置の偽手術(sham-operated)マウスと比較して、前立腺成長を刺激する。用量10mg/kgおよび用量30mg/kgの中和PRLR抗体による処置は、前立腺成長を阻害する(***p<0.005、無処置偽手術マウスとの比較)。
【図17】中和PRLR抗体は、高プロラクチン血症の存在下で、毛髪成長を刺激する。実施例17および図16に記載の実験において使用した雄マウスから、下垂体同系移植(および剃毛)の3週間後に、写真を撮影した。高プロラクチン血症は、剃毛区域における毛髪再成長を阻害する。中和PRLR抗体は、用量10および30mg/kgの005-C04(=IgG2a 005-C04)で、高プロラクチン血性条件下における毛髪再成長を刺激するが、非特異的抗体はそうではない。
【図18】中和PRLR抗体は、高および正常プロラクチン血性雄および雌マウスの剃毛区域における毛髪再成長を刺激するが、非特異的抗体はそうではない(実施例18)。それゆえに、中和PRLR抗体は、男性(図18B)および女性(図18A)における正常および高プロラクチン血性条件下での脱毛の処置に適している。
【図19】中和PRLR抗体は、併用ホルモン療法、すなわち併用エストロゲン+プロゲスチン療法後の乳腺における増進した上皮細胞増殖を阻害するが、非特異的対照抗体はそうではない。 乳腺の4つの横断面内で増殖性導管上皮細胞の絶対数を評価し、中央値を水平線として図内に図示している。卵巣切除媒体処置マウスにおける上皮細胞増殖はかなり低い(中央値=0)。エストラジオール処置は上皮細胞増殖の多少の刺激につながり(中央値=9)、最大乳腺上皮細胞増殖は、エストロゲン+プロゲステロン処置下で観察される(中央値=144)。中和プロラクチン受容体抗体005-C04による処置では、乳腺上皮細胞増殖がほとんどエストラジオール単独のレベルまで用量依存的に減少するが(10mg/kgの005-C04による処置後は中央値=84;30mg/kgの005-C04による処置後は中央値=27)、非特異的対照抗体による処置では、そうはならない(中央値=154)。 それゆえに、中和PRLR抗体は、併用ホルモン療法下、すなわちエストラジオール+プロゲステロン処置下における、増進した乳腺上皮細胞増殖を処置するのに適している。
【図20】中和PRLR抗体は、マウスにおける内性子宮内膜症を阻害するが、非特異的対照抗体はそうではない。結果を実施例20において説明する疾患スコアとして図示する。各実験群について中央疾患スコアを平行線として示す。正常プロラクチン血性マウスは、ある程度、内性子宮内膜症を発症する(中央疾患スコア=0.25)。下垂体同系移植に起因する高プロラクチン血症は疾患スコアを高め、より多くの動物が罹患する(中央疾患スコア=2.5)。30mg/kgの非特異的抗体による週に1回(中央スコア=2.5)または2回(中央スコア=2)の処置は、疾患に対して影響を持たなかったが、特異的中和抗体による処置は、罹病動物の量の用量依存的な減少を示し、特異的抗体を使用した全症例における中央疾患スコアはゼロだった。注目すべきことに、10または30mg/kgの特異的抗体を週に2回投与された動物は全てが完全に治癒し、その疾患スコアは、正常プロラクチン血性マウスの疾患スコアよりも有意に低かった。それゆえに、中和PRLR抗体は、女性における内性子宮内膜症(=子宮腺筋症)および外性子宮内膜症を処置するのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0188】
配列番号1は、HCDR1、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号2は、HCDR1、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号3は、HCDR1、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号4は、HCDR1、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号5は、HCDR1、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号6は、HCDR1、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号7は、HCDR2、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号8は、HCDR2、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号9は、HCDR2、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号10は、HCDR2、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号11は、HCDR2、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号12は、HCDR2、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号13は、HCDR3、006-H08、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号14は、HCDR3、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号15は、HCDR3、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号16は、HCDR3、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号17は、HCDR3、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号18は、LCDR1、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号19は、LCDR1、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号20は、LCDR1、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号21は、LCDR1、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号22は、LCDR1、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号23は、LCDR1、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号24は、LCDR2、006-H08、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号25は、LCDR2、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号26は、LCDR2、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号27は、LCDR2、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号28は、LCDR2、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号29は、LCDR3、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号30は、LCDR3、002-H06、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号31は、LCDR3、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号32は、LCDR3、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号33は、LCDR3、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号34は、VH、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号35は、VH、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号36は、VH、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号37は、VH、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号38は、VH、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号39は、VH、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号40は、VL、006-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号41は、VL、002-H06のアミノ酸配列を表す。
配列番号42は、VL、002-H08のアミノ酸配列を表す。
配列番号43は、VL、006-H07のアミノ酸配列を表す。
配列番号44は、VL、001-E06のアミノ酸配列を表す。
配列番号45は、VL、005-C04のアミノ酸配列を表す。
配列番号46は、核酸配列VH、006-H08を表す。
配列番号47は、核酸配列VH、002-H06を表す。
配列番号48は、核酸配列VH、002-H08を表す。
配列番号49は、核酸配列VH、006-H07を表す。
配列番号50は、核酸配列VH、001-E06を表す。
配列番号51は、核酸配列VH、005-C04を表す。
配列番号52は、核酸配列VL、006-H08を表す。
配列番号53は、核酸配列VL、002-H06を表す。
配列番号54は、核酸配列VL、002-H08を表す。
配列番号55は、核酸配列VL、006-H07を表す。
配列番号56は、核酸配列VL、001-E06を表す。
配列番号57は、核酸配列VL、005-C04を表す。
配列番号58は、VH、HE06642、Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号59は、VH、XHA06642、Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号60は、VH、XHA06983、Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号61は、VL、HE06642のアミノ酸配列を表す。
配列番号62は、VL、XHA06642 Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号63は、VL、XHA06983 Novartis(WO2008/22295)のアミノ酸配列を表す。
配列番号64は、核酸配列VH、HE06642を表す。
配列番号65は、核酸配列VH、XHA06642 Novartis(WO2008/22295)を表す。
配列番号66は、核酸配列VH、XHA06983 Novartis(WO2008/22295)を表す。
配列番号67は、核酸配列VL、HE06642を表す。
配列番号68は、核酸配列VL、XHA06642、Novartis(WO2008/22295)を表す。
配列番号69は、核酸配列VL、XHA06983、Novartis(WO2008/22295)を表す。
配列番号70は、ヒトECD_PRLR、アミノ酸位置1〜210、S1ドメイン1〜100(S1ドメインコンストラクト1〜102)、S2ドメイン101〜210を表す。
配列番号71は、CDSヒトECD_PRLR、ヌクレオチド位置1〜630を表す。
配列番号72は、マウスECD_PRLR、アミノ酸位置1〜210を表す。
配列番号73は、CDSマウスECD_PRLR、ヌクレオチド位置1〜630を表す。
【実施例】
【0189】
[実施例1]
ヒト抗体ファージディスプレイライブラリーからのターゲット特異的抗体の単離
ヒトPRLRの活性を中和することができる一群の抗体を単離するために、FabおよびscFvフラグメントを発現する3つのヒト抗体ファージディスプレイライブラリーを並行して調べた。ライブラリーパンニングに使用したターゲットは、WO08/022295(Novartis)に記載されているように製造されたプロラクチン受容体(ヒトプロラクチン受容体アミノ酸25〜234)の可溶性細胞外ドメイン(ECD)である。これに代わるターゲットは、C末端において、6個のヒスチジンに、またはヒトIgG1-Fcドメインにアミノ酸配列「イソロイシン-グルタミン酸-グリシン-アルギニン-メチオニン-アスパラギン酸」を有するリンカーを介して連結されたPRLRのECDであった。
【0190】
ファージディスプレイからのターゲット特異的抗体の選択は、Marksらによって記載された方法(Methods Mol Biol. 248:161-76, 2004)に従って行った。簡単に述べると、ファージディスプレイライブラリーを50pmolのビオチン化ECDと共に室温で1時間インキュベートした後、形成された複合体を100μlのストレプトアビジンビーズ懸濁液(Dynabeads(登録商標)M-280ストレプトアビジン、Invitrogen)を使って捕捉した。ビーズを洗浄バッファー(PBS+5%ミルク(Milk))で洗浄することによって、非特異的ファージを除去した。結合しているファージを0.5mlの100nMトリエチルアミン(TEA)で溶出させ、等体積の1M Tris-Cl pH7.4を添加することによって、直ちに中和した。溶出したファージプールを使って、対数増殖期にある成長中のTG1大腸菌細胞を感染させ、記述されているように、ファージミドを回収した(Methods Mol Biol. 248:161-76, 2004)。選択を合計3ラウンド繰り返した。3ラウンド目のパンニングからの溶出ファージに感染させたTG1細胞から得た単一コロニーを、ELISAアッセイにおいて、結合活性についてスクリーニングした。簡単に述べると、溶出したファージで感染させたTG1細胞から得られた単一コロニーを使って、96ウェルプレート中の培地に接種した。
【0191】
微量培養をOD600=0.6まで成長させ、その時点で、1mM IPTGの添加によって可溶性抗体フラグメントの発現を誘導し、続いて30℃の振とう培養器中で終夜培養した。細菌を遠沈し、周辺質抽出物を調製し、それを使って、96ウェルマイクロプレート(96ウェル平底Immunosorbプレート、Nunc)上に固定化したECDへの抗体結合活性を、マイクロプレートの製造者によって提供された標準的なELISAプロトコールに従って検出した。
【0192】
Biacore(登録商標)2000を使って、組換え細胞外ドメイン(ECD)への結合に関する抗プロラクチン受容体(PRLR)抗体のアフィニティを推定し、それを抗体のアフィニティランキング(affinity ranking)に使用した。
【0193】
[実施例2]
患者および健常対照からの正所性および異所性子宮内膜および子宮内膜症病変におけるリアルタイムTaqMan PCR分析によるプロラクチンおよびプロラクチン受容体遺伝子発現の定量的分析
リアルタイムTaqman PCR分析は、ABI Prism 7700 Sequence Detector Systemを製造者の説明書(PE Applied Biosystems)に従って使用し、記述されているとおりに(Endocrinolgy 2008, 149(8): 3952-3959)、そしてまた当業者に知られているとおりに行った。PRLおよびPRLRの相対的発現レベルをシクロフィリン(cyclophillin)の発現に対して標準化した。本発明者らは、健常女性からの子宮内膜ならびに患者からの子宮内膜および子宮内膜症病変におけるPRLおよびPRLRの発現を、定量リアルタイムTaqman PCR分析を使って分析した。プロラクチンとその受容体の発現は、健常子宮内膜または患者に由来する子宮内膜と比較して、子宮内膜症病変では明確にアップレギュレートされていた。
【0194】
結果を図1および2に示す。
【0195】
これらの知見は、オートクリン型プロラクチンシグナリングが子宮内膜症および子宮腺筋症(内性子宮内膜症、子宮に制限された子宮内膜症の一形態)の発生と維持に役割を果たすことを含意している。
【0196】
[実施例3]
ノーザンブロットによるヒト組織におけるプロラクチン受容体発現の分析
異なるラット組織からRNAを単離し、ゲル電気泳動後にナイロンメンブレンに転写した。メンブレンを、ラットプロラクチン受容体またはβ-アクチン(ローディング対照(loading control)として)の放射線標識cDNAと順次ハイブリダイズさせ、洗浄し、フィルムに露光した。バンドはラットプロラクチン受容体およびβ-アクチンのmRNAに対応する。図3に示す結果は、胎盤、前立腺、卵巣および副腎におけるプロラクチン受容体の強い発現を示す。
【0197】
[実施例4]
ラット前立腺におけるプロラクチン受容体タンパク質発現の調節−去勢およびホルモン処置の影響
ラットを去勢するか、無傷のままにしておいた。無傷動物を媒体(インタクト)、DHT(3mg/kg)、またはE2(0.4mg/kg)で14日間毎日処置した。その後、全ての処置群の動物から前立腺を単離し、タンパク質抽出物を調製した。タンパク質抽出物をゲル電気泳動によって分離し、メンブレンに転写した。市販の抗体MA610(Santa Cruz Biotechnology)を使ってプロラクチン受容体を検出した。結果を図4に示す。これらの結果は、ラット前立腺におけるプロラクチン受容体のホルモン調節を示している。
【0198】
[実施例5]
中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体によるBaF3細胞(ヒトプロラクチン受容体を安定にトランスフェクトしたもの)のプロラクチン誘発性増殖の阻害
中和PRLR抗体のインビトロ効力を解析するために、BaF3細胞のプロラクチン活性化細胞増殖の阻害を使用した。細胞にヒトPRLRを安定にトランスフェクトし、2mMグルタミンを含有するRPMI中、10%FCSおよび10ng/mlのヒトプロラクチンの存在下で、通常培養した。1%FCSを含有するプロラクチン非含有培地中で6時間の飢餓処理(starvation)後に、細胞を96ウェルプレートに、1ウェルあたり10000細胞の密度で播種した。細胞を20ng/mlのプロラクチンで刺激し、一連の用量(increasing doses)の中和PRLR抗体と共に、2日間インキュベートした。CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使って細胞増殖を分析した。プロラクチン刺激細胞成長の阻害に関する用量応答曲線を作成し、IC50値を算出した。陰性対照として、非特異的対照抗体による刺激を使用した。
【0199】
用量応答曲線およびIC50値を図5に図示する。非特異的抗体が、ヒトPRLRを安定に発現するBaF細胞の増殖を阻害しなかったのに対し、特異的抗体は細胞増殖をブロックし、異なる効力を呈した。このリードアウトパラダイムでは、中和抗体006-H08が最も高い効力を示した。
【0200】
[実施例6]
特異的および非特異的抗体によるプロラクチン誘発性ラットリンパ腫細胞増殖の阻害
中和PRLR抗体のインビトロ効力を、プロラクチン依存的ラットリンパ腫細胞(Nb2-11細胞)増殖の阻害を使って試験した。10%FCSおよび10%ウマ血清を含有するRPMI中で、Nb2-11細胞を通常どおり成長させた。細胞成長アッセイを開始する前に、10%FCSの代わりに1%FCSを含有する同じ培地中で、細胞を24時間成長させた。その後、96ウェルプレートに、FCS非含有培地中、1ウェルあたり10000細胞の密度で、細胞を播種した。一連の用量の中和PRLR抗体または対照抗体の存在下または非存在下、2日間にわたって、細胞を、10ng/mlのヒトプロラクチンで刺激した。その後、CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使って、細胞増殖を評価した。用量応答曲線およびIC50値を図6に図示する。非特異的抗体およびラットPRLRに結合しない抗体XHA06.983は、Nb2-11細胞増殖をブロックしなかった。ラットPRLRに結合するXHA06.642はNb2-11細胞増殖をブロックした。
【0201】
[実施例7]
中和プロラクチン受容体抗体によるT47D細胞におけるプロラクチン誘発性STAT5リン酸化の阻害
さらにもう一つのリードアウトにおける中和PRLR抗体のインビトロ効力を解析するために、プロラクチンで処理したヒトT47D細胞におけるSTAT5リン酸化の阻害を使用した。T47D細胞を、10%FCSおよび2mMグルタミンを含有するRPMI中で成長させた。細胞を24ウェルプレート上に、1ウェルあたり0.5×105細胞の密度で播種した。翌日、細胞を無血清RPMI中で1時間飢餓処理した。その後、細胞を、さまざまな用量の中和PRLR抗体または非特異的対照抗体と共に、またはそれらの抗体を伴わずに、20ng/mlヒトプロラクチンの非存在下または存在下で、30分間インキュベートした。その後、細胞をすすぎ、70μlの溶解バッファー中で溶解した。溶解物を遠心分離し、上清を−80℃で凍結した。抽出物をウェスタンブロット(upstate製の抗pSTAT5A/B抗体07-586、1:1000希釈)で分析した。ローディング対照として、ストリッピングしたブロットを抗β-チューブリン抗体(ab7287、1:500希釈)と共にインキュベートした。
【0202】
結果を図7に示す。非特異的FITC抗体を除く全ての中和PRLR抗体が、ヒトT47D細胞におけるSTAT5リン酸化を用量依存的にブロックした。試験した全ての抗体が、ヒトPRLRに高いアフィニティで結合した。
【0203】
[実施例8]
ヒトPRLRを安定にトランスフェクトしたHek293細胞におけるルシフェラーゼレポーター遺伝子活性の阻害−中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体の分析
中和PRLR抗体のインビトロ効力をさらに分析するために、レポーター遺伝子アッセイを使用した。ヒトPRLRを安定にトランスフェクトしたHEK293HEK293細胞に、LHRE(乳腺刺激ホルモン応答エレメント)の制御下にあるルシフェラーゼレポーター遺伝子を、7時間、一過性にトランスフェクトした。その後、細胞を、1ウェルあたり20000細胞の密度で、96ウェルプレートに播種した(0.5%チャコールストリッピング済(charcoal stripped)血清、DMEM)。翌日、300ng/mlのヒトプロラクチンを、一連の用量の中和PRLR抗体または対照抗体と共に、およびこれらの抗体を伴わずに、加えた。24時間後に、ルシフェラーゼ活性を決定した。結果を図8に図示する。非特異的抗体とは対照的に、006-H08およびHE06.642は、ヒトPRLRで安定にトランスフェクトされたHEK293細胞におけるルシフェラーゼ活性を阻害した。
【0204】
[実施例9]
マウスPRLRを安定にトランスフェクトしたHek293細胞におけるルシフェラーゼレポーター遺伝子活性の阻害−中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体の分析
マウスプロラクチン受容体に対する中和PRLR抗体のインビトロ効力をさらに解析するために、レポーター遺伝子アッセイを使用した。マウスPRLRを安定にトランスフェクトしたHEK293細胞に、LHRE(乳腺刺激ホルモン応答エレメント)の制御下にあるルシフェラーゼレポーター遺伝子を、7時間、一過性にトランスフェクトした。その後、細胞を、1ウェルあたり20000細胞の密度で、96ウェルプレートに播種した(0.5%チャコールストリッピング済血清、DMEM)。翌日、200ng/mlのヒトプロラクチンを、一連の用量の中和PRLR抗体または対照抗体と共に、およびこれらの抗体を伴わずに、加えた。24時間後に、ルシフェラーゼ活性を決定した。結果を図9に図示する。抗体005-C04(黒三角)が高い活性(IC50値=3nM)を呈するのに対し、抗体HE06.642(黒丸)は330nMまで活性を示さない。非特異的対照抗体(白丸)は完全に不活性である。Novartis抗体HE06.642とは対照的に、抗体005-C04はマウスPRLR媒介シグナリングをブロックすることができる。
【0205】
[実施例10]
中和プロラクチン受容体抗体および非特異的対照抗体による、BaF3細胞(マウスプロラクチン受容体を安定にトランスフェクトしたもの)のプロラクチン誘発性増殖の阻害
中和PRLR抗体のインビトロ効力を解析するために、Ba/F3細胞のプロラクチン活性化細胞増殖の阻害を使用した。細胞にマウスPRLRを安定にトランスフェクトし、2mMグルタミンを含有するRPMI中、10%FCSおよび10ng/mlのヒトプロラクチンの存在下で、通常培養した。1%FCSを含有するプロラクチン非含有培地中で6時間の飢餓処理後に、細胞を96ウェルプレートに、1ウェルあたり10000細胞の密度で播種した。細胞を40ng/mlのプロラクチンで刺激し、一連の用量の中和PRLR抗体と共に、2日間インキュベートした。CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使って細胞増殖を分析した。プロラクチン刺激細胞成長の阻害に関する用量応答曲線を作成し、IC50値を算出した。陰性対照として、非特異的対照抗体による刺激を使用した。
【0206】
用量応答曲線およびIC50値を図10に図示する。非特異的対照抗体(黒四角)はマウスPRLRにおいて不活性だった。抗体HE06.642、001-E06、および001_D07では、マウスPRLR活性化の限られた阻害しか起こらなかった。抗体005-C04だけがマウスPRLR活性化を完全にブロックした。
【0207】
[実施例11]
マウスにおける中和プロラクチン受容体抗体IgG1 005-C04の避妊効果
マウスにおける妊性に対する中和プロラクチン受容体抗体の影響を調べるために、12週齢雌および雄NMRIマウスを7日間(0日目〜7日目)交配した。雌マウスを、−3日目、0日目、3日目および6日目に、リン酸緩衝食塩水、非特異的IgG1対照抗体(抗FITC、10mg/kg)、または中和IgG1抗体005-C04(=IgG1 005-C04)のいずれかを、リン酸緩衝食塩水に溶解して、体重1kgあたり10または30mgの濃度で、腹腔内注射することによって処置した。各実験群に10匹の雌を使用した。各雄を2匹の雌と交配させた。雌の一方は、リン酸緩衝食塩水または非特異的抗体で処置した陰性対照群からの雌とし、他方の雌は、特異的中和抗体で処置した。雄が一匹の雌も妊娠させなかった交配をデータ評価から除外した。リードアウトパラメータは、平均一腹仔数、および実験群あたりの産仔数をその群内での理論上可能な産仔の数で割ったものとして算出される妊娠率(%単位で測定)とした。結果を図11に図示する。
【0208】
図11Aは得られた妊娠率を示す。妊娠率は次のとおりであった:
・リン酸緩衝食塩水で処置したマウスの群では87.5%、
・非特異的対照抗体(10mg/kg)で処置したマウスの群では75%、
・中和PRLR抗体IgG1 005-C04(10mg/kg)で処置したマウスの群では100%、および
・中和PRLR抗体IgG1 005-C04(30mg/kg)で処置したマウスの群では0%。
【0209】
図11Bは、異なる実験群について、観察された一腹仔数を示す。一腹仔数は次のとおりだった:
・リン酸緩衝食塩水で処置したマウスの群では、一腹あたり10.9匹、
・非特異的対照抗体(10mg/kg)で処置したマウスの群では、一腹あたり12.3匹、
・中和PRLR抗体IgG1 005-C04(10mg/kg)で処置したマウスの群では、一腹あたり13匹、および
・中和PRLR抗体IgG1 005-C04(30mg/kg)で処置したマウスの群では、一腹あたり0匹。
【0210】
この交配研究の結果は、中和プロラクチン受容体抗体IgG1 005-C04が、30mg/kg体重で試験した場合に、マウスにおける妊娠を完全に防止したことを証明している。
【0211】
[実施例12]
エピトープ分類(epitope grouping)
エピトープ分類実験は、Biacoreを使用し、ECD-PRLR(配列番号70)への抗PRLR抗体のペアの同時結合をモニターすることによって行った。簡単に述べると、n-ヒドロキシスクシンアミド(NHC)およびN-エチル-N'-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(EDC)を使った1級アミンカップリングにより、第1抗体をセンサーチップに共有結合で固定化した。次に、表面上の、占有されていない結合部位を、エタノールアミドでブロッキングした。固定化された抗体により、可溶性ECD-PRLR(配列番号70)を、表面上に捕捉した。それゆえに、全ての結合されたECD-PRLR分子に関して、捕捉抗体のエピトープはブロックされている。第2の抗体を、固定化ECD-PRLRに結合させるために、直ちに表面上に流す。同じエピトープまたはオーバーラップするエピトープを認識する2つの抗体は、ECD-PRLRに結合できないが、異なるエピトープを伴う抗体は結合することができる。この抗体表面を、結合したタンパク質を除去するためにグリシン、pH2.8で再生し、次に他の抗体を使って、このプロセスを繰り返す。抗体の全ての組合せを試験した。代表的な結果を表7に示す。抗体006-H08、002-H06、002-H08、006-H07およびXHA06983は、ECD-PRLRに対して、互いに競合的に結合したことから、これらはオーバーラップするエピトープ(エピトープグループ1、表6)を標的にすることが示された。また、抗体はPRLとも競合して結合し、これは001-E06(エピトープグループ2、表6)の場合にも当てはまる。この抗体は、上述のものとは異なるECD-PRLRの部位を標的とする。最後に、抗体005-C04は、HE06.642およびXHA06.642とは、競合的に結合したが、PRLに対する競合はなかった(エピトープグループ3、表6)。
【0212】
[表7]ヒトプロラクチン受容体(PRLR)の細胞外ドメイン(ECD)上のオーバーラップするエピトープを標的とする抗体のグループ
【表7】
【0213】
[実施例13]
細胞表面上に発現したマウスおよびヒトPRLRに対する抗体の交差反応性
細胞上に発現したマウスおよびヒトPRLRに対する抗PRLR抗体の結合特徴を決定するために、ヒトおよびマウスPRLRをそれぞれ安定に発現するHEK293細胞上で、フローサイトメトリーによって結合を調べた。これらの細胞と、PRLRを伴わない親HEK293細胞株とを収穫し、遠心分離し、2%FBSおよび0.1%アジ化ナトリウムを含有する1×PBS(FACSバッファー)に、約5×106細胞/mlで再懸濁した。抗体005-C04、001-E06およびHE06.642をFACSバッファーに最終濃度の2倍まで希釈し、適当な試料ウェルに加えた(50μl/ウェル)。二次抗体および自己蛍光対照については、50μlのFACSバッファーを適当なウェルに加えた。50μlの細胞懸濁液を各試料ウェルに加えた。試料を4℃で1時間インキュベートし、冷FACSバッファーで2回洗浄し、1:100希釈のPEコンジュゲートヤギ抗ヒトIgGを含有するFACSバッファーに再懸濁した。4℃で30分間インキュベートした後、細胞を冷FACSバッファーで2回洗浄し、1mg/mlヨウ化プロピジウム(Invitrogen、カリフォルニア州サンディエゴ)を含有するFACSバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリーで分析した。図13に示すように、抗体005-C04および001-E06は、これらの細胞上のヒトおよびマウスPRLRに結合し、一方、HE06.642はヒトPRLRにしか結合しなかった。この観察結果は、マウスPRLR依存的ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイにおいてHE06.642が効力を欠くことに関する実施例9に記載の知見と合致している。005-C04とHE06.642はヒトPRLRに競合的に結合したが、マウスPRLRに関する両抗体の異なる結合特性は、それらのエピトープ特異性の相違を示している。
【0214】
[実施例14]
細胞シグナリングカスケードに対するFabおよびscFv抗体の阻害活性
PRLRをトリガーとする(PRLR-triggered)シグナリングカスケードに対するFabおよびscFvスクリーニングヒット(screening hit)の活性を機能的に特徴づけるために、プロラクチンで処理したヒトT47D細胞におけるPRLR自体ならびに転写調節因子ERK1/2およびSTAT5のリン酸化の阻害を測定した。T47D細胞を、2mM L-グルタミン、10%チャコールストリッピング済FBSおよびインスリン-トランスフェリン-セレン-A(Gibco)を含有するRPMI中で成長させた。細胞を6ウェルプレートまたは96ウェルプレートに、1ウェルあたり1.5×106細胞の密度で播種した。翌日、成長培地を新しくした。3日目に、細胞を無血清RPMI中で1時間、飢餓処理した。その後、細胞を、異なる用量の中和PRLR抗体または非特異的対照抗体と共に、またはこれらの抗体を伴わずに、500ng/mlヒトプロラクチンの存在下で5分間インキュベートした。その後、細胞をすすぎ、溶解バッファー中で溶解した。溶解物を遠心分離し、上清を-80℃で凍結した。試料を、PRLRリン酸化の測定についてはDuoSet IC「Human Phospho-Prolactin R」キット(R&D Systems)、STAT5リン酸化の測定についてはPathScan Phospho-STAT5 (Tyr694) Sandwich ELISAキット(Cell Signaling Technology;#7113)、ERK1/2リン酸化の測定についてはPhospho-ERK1/ERK2キット(R&D Systems)によるELISAで、試験した。表8に、選ばれたスクリーニングヒットの、FabまたはscFvフォーマットにおける、1mlあたり7.5μgの固定用量での、アンタゴニスト活性に関する概要を記す。
【0215】
[表8]ヒト乳がん細胞株T47Dの細胞溶解物でのELISAによって決定した、PRLR、ERK1/2およびSTAT5のリン酸化に対する、選ばれたスクリーニングヒットのアンタゴニスト活性
【表8】
*scFvフォーマット、°Fabフォーマット
【0216】
[実施例15]
中和PRLR抗体はマウスにおける泌乳を阻害する
成体NMRI雌をNMRI雄と交配した。分娩後1日目に、一腹仔数を泌乳中の母体1匹あたり8匹に調節した。仔の重量を分娩後1日目から開始して、毎日午前中に決定した。泌乳中の母体を無処置のままにしておくか(図14A、Bの黒丸)、あるいは非特異的抗体(10mg/kg体重;図14A、Bの白丸)またはマウスIgG2a定常ドメインを含有する中和PRLR抗体005-C04(=IgG2a 005-C04;10mg/kg、図14A、Bの黒三角)または中和PRLR抗体IgG2a 005-C04(30mg/kg、図14A、Bの白三角)のいずれかで腹腔内処置した。群サイズ(group size)は1実験群につき泌乳母体5〜6匹とした。母体を、分娩後1、3、6、9、10、および12日目(図14A、Bでは矢印で示す)に、特異的抗体または非特異的対照抗体で処置した。結果を図14に図示する。図14Aは、各分娩後日について、1日目の各産仔重量の百分率として表した毎日の産仔重量増加を示す。分娩後8日目以降、中和PRLR抗体で処置された母体からの仔と、無処置のままの母体または非特異的対照抗体を投与された母体からの仔との間には、産仔体重増加に有意差がある。倫理上の理由から、最高用量の中和PRLR抗体を与えた母体の実験群では、数匹の産仔を分娩後10日目に屠殺する必要があった。図14Bでは、結果を異なる方法で図示している。1日ごとの差分(differential)産仔重量増加を図示し、分娩後1日目での産仔重量の百分率として表している。基本的に、図14Bは図14Aに図示したグラフの傾きを示す。産仔重量の毎日の差分増加量は、無処置母体または非特異的抗体で処置された母体からの産仔については、分娩後1日目の出発産仔重量の30%付近を上下する。30mg/kg体重の中和PRLR抗体で処置された母体からの産仔では、7日目以降に、毎日の産仔重量増加の有意で著しい減少が起こる(*p<0.05;***p<0.005、非特異的抗体で処置された母体からの産仔との比較)。10mg/kgの中和PRLR抗体で処置された母体からの産仔も、非特異的対照抗体で処置された母体からの産仔と比較すると、分娩後11日目以降は、毎日の産仔重量増加が有意に減少した(p<0.05、非特異的抗体で処置された母体からの産仔との比較)。結論として、泌乳阻害に関して、中和PRLR抗体IgG2a 005-C04の用量依存的効果がある。図14Cは、異なる実験群の泌乳中の母体からの乳腺の組織切片を示す。無処置母体および非特異的対照抗体で処置された母体の乳腺は、乳汁を産生する導管で満たされている。対照的に、中和PRLR抗体IgG2a 005-C04で処置された母体には乳腺退縮の徴候がある。図14C中の黒い矢印は、乳腺組織中の脂肪島を示している(乳腺退縮の程度に対する特異的抗体igG2a 005-C04の用量依存的効果(図14C)を参照のこと)。また、異なる実験群からの母体の乳腺における主要乳タンパク質β-カゼイン(Csn-2)、乳清酸性タンパク質(WAP)、およびIGF-1の発現を分析した(図14D)。遺伝子発現をTATAボックス結合タンパク質(TBP)の発現に対して標準化した。中和PRLR抗体IgG2a 005-C04が、乳タンパク質発現を用量依存的に減少させたのに対し、非特異的抗体(10mg/kg)には有意な効果がなかった。
【0217】
中和PRLR抗体IgG2a 005-C04は泌乳を用量依存的にブロックし、泌乳中のマウスにおける乳腺退縮をもたらすことから、それが泌乳阻害に役立つことが証明される。
【0218】
[実施例16]
中和PRLR抗体は良性乳房疾患の処置に適している
活性化PRLR変異または局所もしくは全身性高プロラクチン血症は良性乳房疾患を惹起しうる。それゆえに、乳腺における増進した増殖(大半の重症な形態の良性乳房疾患の特徴(hallmark))を誘導するための高プロラクチン血性マウスモデルを使用した。0日目に、12週齢雌Balb/cマウスに、腎被膜下に下垂体同系移植片を移植するか、または無手術のままにしておいた。下垂体同系移植したマウスを無処置のままにしておくか、0、3、7、11、および15日目に、非特異的抗体(10mg/kg)、IgG1フォーマットの中和PRLR抗体005-C04(=IgG1 005-C04;10mg/kg)、または中和PRLR抗体IgG1 005-C04(30mg/kg)のいずれかで腹腔内処置した。実験群サイズは8〜10匹とした。下垂体移植後17日目に、マウスを屠殺した。死亡の2時間前に、上皮細胞増殖をモニターするために動物にBrdUの腹腔内注射を行った。左鼠径部乳腺をカルノア(Carnoy)液で固定し、乳腺全載標本を調製し、アルムカーミン(Carmine alaune)で染色した(図15A)。右鼠径部乳腺は4%リン酸緩衝ホルマリン中で終夜固定した。次に、乳腺をパラフィンに包埋し、BrdU免疫染色を、既述のように行った(Endocrinology 149(8):3952-3959;2009)。また、中和PRLR抗体による処置に呼応して起こるPRLR媒介シグナリングの阻害をモニターするために、pSTAT5免疫染色も行った(abcam製の抗pSTAT5抗体、ab32364、1:60希釈)。図15Aに、異なる実験群からの乳腺全載標本の拡大図を示す。下垂体を移植されなかった成体マウスの乳腺が導管およびエンドバッド(endbud)を示すのに対し、下垂体同系移植を受けたマウスでは、並外れた側枝形成および腺房構造の形成が起こる。非特異的抗体(10mg/kg)による処置は側枝形成および腺房構造の形成を阻害しなかった。対照的に、10mg/kg体重の中和抗体IgG1 005-C04による処置は、下垂体同系移植を受けた動物10匹中8匹において側枝形成の完全な阻害をもたらし、30mg/kgのIgG1 005-C04による処置は、下垂体同系移植を受けた動物9匹中9匹において、側枝形成を完全に阻害した。組織学的分析およびBrdU免疫染色を図15Bに図示する。下垂体同系移植が、非特異的抗体による処置では阻害されない上皮過形成をもたらすのに対して、用量10または30mg/kg体重の中和PRLR抗体で処置された下垂体同系移植片を保有するマウスでは、上皮過形成が起こらない。細胞周期のS期にあって分裂しようとしている細胞を反映するBrdU陽性細胞の一部を、図15Bでは白矢印で示す。中和抗体IgG1 005-C04(30mg/kg体重)で処置したマウスは、乳腺における上皮細胞増殖のほとんど完全な阻害を示した。図15CではホスホSTAT5に関して陽性な細胞の一部を白矢印で示す。30mg/kg IgG1 005-C04による処置は、STAT5リン酸化の完全な阻害をもたらすことから、PRLR媒介シグナリングの完全な阻止が示される。
【0219】
図15A、B、およびCからの結果により、中和PRLR抗体は乳腺の良性増殖性疾患である乳腺症の処置に適していることが証明された。中和PRLR抗体は乳腺上皮細胞増殖およびホスホSTAT5の活性化を阻害する。
【0220】
[実施例17]
中和PRLR抗体による良性前立腺過形成の処置
8週齢時に2つの下垂体を腎被膜下に移植することによって、雄Balb/cマウスにおいて、良性前立腺過形成を樹立した。対照群は無手術のままにしておいた。下垂体同系移植を受けたマウスを無処置のままにしておくか、非特異的抗体(10mg/kg)または用量10および30mg/kg体重のマウスIgG2a定常ドメインを含有する中和PRLR抗体005-C04(=IgG2a 005-C04)のいずれかを腹腔内注射した。抗体注射は下垂体移植の日(=0日目)に開始して、下垂体移植後3日目、7日目、11日目、15日目、18日目、22日目、および25日目に行った。28日目にマウスを屠殺した。腹側前立腺の相対重量を決定した。結果を図16に図示する。下垂体同系移植は相対的前立腺重量の増加をもたらした。10mg/kgおよび30mg/kgの中和PRLR抗体IgG2a 005-C04による処置が前立腺重量を低下させたのに対し、非特異的対照抗体による処置には何の効果もなかった。それゆえに中和PRLR抗体は良性前立腺過形成の処置に適している。
【0221】
下垂体同系移植後18日目に、下垂体同系移植を受けた動物では毛髪成長が減少していることが明らかになった。中和PRLR抗体は高プロラクチン血条件下での毛髪成長を刺激した。代表的な写真を図17に示す。それゆえに中和PRLR抗体は高プロラクチン血性脱毛の処置に使用することができる。
【0222】
[実施例18]
毛髪成長に対する中和PRLR抗体の効果
8週齢雄および雌C57BL/6マウスの背部毛髪を、既述のように、電気シェーバー(electric shawer)を使って除去した(British Journal of Dermatology 2008;159:300-305)。いくつかの群では、腎被膜下に下垂体同系移植を行うことにより、高プロラクチン血症を誘発し、残りの群の動物は正常プロラクチン血性とした。動物を特異的PRLR抗体(IgG2a 005-C04)または 非特異的対照抗体(30mg/kg、腹腔内)で週に1回処置した(下垂体同系移植の日である0日目から開始)。その後の抗体注射は7日目および14日目に行った。3週間後には、再成長した毛髪が、ピンクがかった白色の剃毛済み皮膚上に黒く見え、黒くなった剃毛区域の百分率を測定した。雌マウスは剃毛の15日後に屠殺し、雄マウスは剃毛の18日後に屠殺した。
【0223】
以下の実験群を使用した(群サイズはマウス6匹とした):
1.剃毛した雌
2.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雌
3.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雌+週1回の30mg/kg非特異的抗体IgG2a 005-C04
4.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雌+週1回の30mg/kg特異的抗体
5.剃毛した雌+週1回の30mg/kg非特異的抗体
6.剃毛した雌+週1回の30mg/kg特異的抗体
7.剃毛した雄
8.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雄
9.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雄+週1回の30mg/kg非特異的抗体
10.下垂体同系移植を受けた、剃毛した雄+週1回の30mg/kg特異的抗体IgG2a 005-C04
11.剃毛した雄+週1回の30mg/kg非特異的抗体
12.剃毛した雄+週1回の30mg/kg特異的抗体。
【0224】
異なる群の動物からの代表的な写真を図18に図示し、毛髪が再成長した区域の百分率を図18に示す。
【0225】
中和PRLR抗体は、雄および雌マウスにおいて、高および正常プロラクチン血条件下での毛髪再成長を刺激するが、非特異的抗体はそうではない。それゆえに、中和PRLR抗体は、高および正常プロラクチン血条件下での女性および男性における脱毛を処置するのに適している。
【0226】
[実施例19]
中和PRLR抗体による増進した乳腺上皮細胞増殖の阻害
併用ホルモン療法(すなわちエストロゲン+プロゲスチン療法)によって活性化された増進した乳腺上皮細胞増殖に対する中和PRLR抗体の効果を調べるために、子宮および乳腺における増殖効果の定量を可能にする既述のマウスモデルを使用した(Endocrinology 149:3952-3959, 2008)。6週齢のC57BL/6雌マウスに卵巣切除を行った。卵巣切除の2週間後に、動物を、2週間にわたって、媒体(エタノール/ラッカセイ油10%/90%)または100ngエストラジオール+100mg/kgプロゲステロンを毎日注射することによって皮下処置した。動物を、3週間にわたって、マウスIgG2aフォーマットの中和PRLR抗体(10mg/kgおよび30mg/kg)または非特異的抗体(30mg/kg)の腹腔内注射で、週に1回処置した。卵巣切除後36日目に剖検を行った。死亡の2時間前に、動物に、リン酸緩衝食塩水に溶解したBrdU(70mg/kg体重)の腹腔内注射を行った。右鼠径部乳腺の近位(proximal)2/3を、既述(Endocrinology 149:3952-3959,2008)の乳腺上皮細胞増殖について、分析した(BrdU免疫染色)。
【0227】
実験は次の群から構成された:
1.媒体で処置した卵巣切除動物
2.100ngエストラジオールで処置した卵巣切除動物
3.100ngエストラジオール(E)および100mg/kgプロゲステロン(P)で処置した卵巣切除動物
4.E+Pおよび10mg/kg特異的抗体005-C04で処置した卵巣切除動物
5.E+Pおよび30mg/kg特異的抗体005-C04で処置した卵巣切除動物
6.E2+Pおよび30mg/kg非特異的対照抗体で処置した卵巣切除動物。
【0228】
結果を図19に示す。乳腺の4つの横断面内で増殖性導管上皮細胞の絶対数を評価した。中央値を水平線として図示する。卵巣切除媒体処置マウスにおける上皮細胞増殖はかなり低い。エストラジオール処置は上皮細胞増殖の多少の刺激につながり、最大乳腺上皮細胞増殖は、エストロゲン+プロゲステロン処置下で観察される(図19)。中和プロラクチン受容体抗体005-C04による処置では、乳腺上皮細胞増殖がほとんどエストラジオール単独のレベルにまで用量依存的に減少するが、非特異的対照抗体による処置では、そうはならない。
【0229】
それゆえに中和PRLR抗体は、併用ホルモン療法下、すなわちエストラジオール+プロゲステロン処置下において、増進した乳腺上皮細胞増殖を処置するのに適している。
【0230】
[実施例20]
中和PRLR抗体によるSHNマウスにおける子宮腺筋症(=内性子宮内膜症)の処置
子宮内膜症における中和PRLR抗体の効力を調べるために、全身性高プロラクチン血症に依拠する、SHNマウスにおける子宮腺筋症モデルを使用した(Acta anat. 116:46-54, 1983)。7週齢雌マウスの腎被膜下に下垂体同系移植を行うことにより、SHNマウスにおける高プロラクチン血症を誘導した(Acta anat. 116:46-54, 1983)。中和PRLR抗体(10mg/kgまたは30mg/kg)または非特異的抗体(30mg/kg)の腹腔内投与を、下垂体同系移植の1週間後から開始した。腺組織による子宮筋層の浸潤を既述のように評価した(Laboratory Animal Science 1998, 48:64-68)。抗体による処置は、9週間にわたり、週に1回および2回、腹腔内注射によって行った。剖検時(下垂体移植後70日目)に、子宮を緩衝4%ホルマリン中で終夜固定し、パラフィンに包埋した。腺筋症(=内性子宮内膜症)の度合を次のように評価した:
グレード0=腺筋症なし
グレード0.5=子宮筋層の内層がその同心的配向(concentric orientation)を緩める
グレード1=子宮内膜腺が子宮筋層の内層に侵入
グレード2=子宮筋層の内層と外層の間に子宮内膜腺
グレード3=子宮内膜腺が子宮筋層の外層に侵入
グレード4=子宮筋層の外層の外側に子宮内膜腺。
【0231】
実験は次の実験群から構成された:
1.下垂体移植なしの動物、すなわち正常プロラクチン血性マウス
2.下垂体移植を受けた動物、すなわち高プロラクチン血性マウス
3.30m/kgの用量で1週間に1回、非特異的対照抗体で処置された、下垂体移植を受けた動物
4.30m/kgの用量で1週間に2回、非特異的対照抗体で処置された、下垂体移植を受けた動物
5.10m/kgの用量で1週間に1回、マウスIgG2aフォーマットの中和プロラクチン受容体抗体005-C04で処置された、下垂体移植を受けた動物
6.10m/kgの用量で1週間に2回、マウスIgG2aフォーマットの中和プロラクチン受容体抗体005-C04で処置された、下垂体移植を受けた動物
7.30m/kgの用量で1週間に1回、マウスIgG2aフォーマットの中和プロラクチン受容体抗体005-C04で処置された、下垂体移植を受けた動物
8.30m/kgの用量で1週間に2回、マウスIgG2aフォーマットの中和プロラクチン受容体抗体005-C04で処置された、下垂体移植を受けた動物。
【0232】
結果を図20に図示する。各処置群の各動物にスコアを個別に与え、各処置群の中央値を水平線で示す。正常プロラクチン血性マウスは、ある程度、内性子宮内膜症を発症する(中央疾患スコア=0.25)。下垂体同系移植に起因する高プロラクチン血症は、疾患スコアを高め、より多くの動物が罹患する(中央疾患スコア=2.5)。30mg/kgの非特異的抗体による週に1回または2回の処置が疾患に対して影響を持たなかったのに対し、特異的中和抗体による処置は、疾患スコアの用量依存的低下を示す。注目すべきことに、10または30mg/kgの特異的抗体を週に2回投与された動物は全てが完全に治癒し、その疾患スコアは、正常プロラクチン血性マウスの疾患スコアよりも有意に低かった(図20)。それゆえに、中和PRLR抗体は、女性における内性子宮内膜症(=子宮腺筋症)および外性子宮内膜症を処置するのに適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロラクチン受容体媒介シグナリングを拮抗する抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項2】
プロラクチン受容体の細胞外ドメインのエピトープおよびそのヒト多型変異体に結合する請求項1に記載の抗体であり、プロラクチン受容体の細胞外ドメインのアミノ酸配列が配列番号70に対応し、核酸配列が配列番号71に対応する、抗体。
【請求項3】
抗体002-H08と競合する、請求項1または2に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項4】
a.可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列が、可変重鎖ドメインについては配列番号36と、可変軽鎖ドメインについては配列番号42と、少なくとも60%、より好ましくは70%、さらに好ましくは80%、または90%、さらに好ましくは95%同一であるか、または
b.CDRのアミノ酸配列が、重鎖ドメインについては配列番号3、9、および14と、可変軽鎖ドメインについては配列番号20、24、および31と、少なくとも60%、より好ましくは70%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、またはさらに好ましくは95%同一である、
請求項3に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項5】
可変重鎖が配列番号3、9および14に対応するCDR配列を含有し、可変軽鎖が配列番号20、24、および31に対応するCDR配列を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体のCDRを含む抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項6】
抗体002-H08が、配列番号48に示す核酸配列および配列番号36に示すアミノ酸配列に対応する可変重鎖領域、ならびに配列番号54に示す核酸配列および配列番号42に示すアミノ酸配列と対応する可変軽鎖領域を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項7】
配列番号3、9、14、20、24、および31に対応するCDRのうち、1、2、3、4、5、または6個を含有する、請求項3に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項8】
配列番号70および配列番号70のヒト多型変異体、アミノ酸位置1〜210によって表されるアミノ酸配列を有するPRLRの1つ以上の領域に特異的に結合するか、前記1つ以上の領域に対して高いアフィニティを有する抗原結合領域からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗体であり、アフィニティが、少なくとも100nM、好ましくは約100nM未満、より好ましくは約30nM未満であり、約10nM未満のアフィニティはさらに好ましく、1nM未満のアフィニティはさらに好ましい、抗体。
【請求項9】
重鎖定常部が修飾されたまたは無修飾のIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメントをコードする単離された核酸配列。
【請求項11】
表5に示す、請求項10に記載の単離された核酸配列。
【請求項12】
請求項10または11に記載の核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項13】
哺乳動物細胞などの高等真核宿主細胞、酵母細胞などの下等真核宿主細胞であることができ、細菌細胞などの原核細胞であってもよい、請求項12に記載のベクターあるいは請求項10または11に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項14】
抗体または抗原結合性フラグメントを生産するために請求項13に記載の宿主細胞を使用する方法であって、該宿主細胞を適切な条件下で培養し、該抗体を回収することを含む方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法によって生産された抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項16】
少なくとも95重量%均一にまで精製された、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項17】
医薬としての、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメントと賦形剤および助剤を含む医薬上許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項19】
容器に詰められた抗体002-H08またはその成熟変異体の治療有効量を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体を含むキットであって、第二の治療剤を含有してもよく、さらに、容器に添付されたまたは容器と共に包装されたラベルを含み、ラベルが、容器の内容物を記載し、子宮内膜症、腺筋症、良性乳房疾患および乳房痛、泌乳阻害、高および正常プロラクチン血性脱毛、良性前立腺過形成、類線維腫を処置するための、または非ホルモン雌性避妊に使用するための、または乳腺上皮細胞増殖を阻害する目的で併用ホルモン療法(すなわちエストロゲン+プロゲスチン療法)を受けている女性を処置するための、容器の内容物の使用に関して、適応症および/または指示を与えるキット。
【請求項20】
子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)を処置および/または防止するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項21】
子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)を処置および/または防止するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項22】
雌性避妊のためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項23】
雌性避妊のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項24】
良性乳房疾患および乳房痛を処置するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項25】
良性乳房疾患および乳房痛を処置するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項26】
泌乳を阻害するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項27】
泌乳を阻害するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項28】
良性前立腺過形成を処置するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項29】
良性前立腺過形成を処置するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項30】
高および正常プロラクチン血性脱毛を処置するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項31】
高および正常プロラクチン血性脱毛を処置するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項32】
併用ホルモン療法を受けている女性を処置するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項33】
併用ホルモン療法を受けている女性を処置するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項34】
併用ホルモン療法がエストロゲン+プロゲスチン療法である、請求項32または33に記載の抗体または抗原結合性フラグメントの使用。
【請求項35】
非経口投与のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体、または請求項1〜9のいずれか一項に記載のPRLR抗体もしくは抗原結合性フラグメントを含む請求項18に記載の医薬組成物の形態にある抗体の使用であって、非経口送達の方法が、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、髄腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣、または鼻腔内投与を含む使用。
【請求項36】
少なくとも1つの他の薬剤と組み合わされた請求項1〜9のいずれか一項に記載のPRLR抗体または抗原結合性フラグメントを含む、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項1】
プロラクチン受容体媒介シグナリングを拮抗する抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項2】
プロラクチン受容体の細胞外ドメインのエピトープおよびそのヒト多型変異体に結合する請求項1に記載の抗体であり、プロラクチン受容体の細胞外ドメインのアミノ酸配列が配列番号70に対応し、核酸配列が配列番号71に対応する、抗体。
【請求項3】
抗体002-H08と競合する、請求項1または2に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項4】
a.可変重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列が、可変重鎖ドメインについては配列番号36と、可変軽鎖ドメインについては配列番号42と、少なくとも60%、より好ましくは70%、さらに好ましくは80%、または90%、さらに好ましくは95%同一であるか、または
b.CDRのアミノ酸配列が、重鎖ドメインについては配列番号3、9、および14と、可変軽鎖ドメインについては配列番号20、24、および31と、少なくとも60%、より好ましくは70%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、またはさらに好ましくは95%同一である、
請求項3に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項5】
可変重鎖が配列番号3、9および14に対応するCDR配列を含有し、可変軽鎖が配列番号20、24、および31に対応するCDR配列を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体のCDRを含む抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項6】
抗体002-H08が、配列番号48に示す核酸配列および配列番号36に示すアミノ酸配列に対応する可変重鎖領域、ならびに配列番号54に示す核酸配列および配列番号42に示すアミノ酸配列と対応する可変軽鎖領域を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項7】
配列番号3、9、14、20、24、および31に対応するCDRのうち、1、2、3、4、5、または6個を含有する、請求項3に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項8】
配列番号70および配列番号70のヒト多型変異体、アミノ酸位置1〜210によって表されるアミノ酸配列を有するPRLRの1つ以上の領域に特異的に結合するか、前記1つ以上の領域に対して高いアフィニティを有する抗原結合領域からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗体であり、アフィニティが、少なくとも100nM、好ましくは約100nM未満、より好ましくは約30nM未満であり、約10nM未満のアフィニティはさらに好ましく、1nM未満のアフィニティはさらに好ましい、抗体。
【請求項9】
重鎖定常部が修飾されたまたは無修飾のIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメントをコードする単離された核酸配列。
【請求項11】
表5に示す、請求項10に記載の単離された核酸配列。
【請求項12】
請求項10または11に記載の核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項13】
哺乳動物細胞などの高等真核宿主細胞、酵母細胞などの下等真核宿主細胞であることができ、細菌細胞などの原核細胞であってもよい、請求項12に記載のベクターあるいは請求項10または11に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項14】
抗体または抗原結合性フラグメントを生産するために請求項13に記載の宿主細胞を使用する方法であって、該宿主細胞を適切な条件下で培養し、該抗体を回収することを含む方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法によって生産された抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項16】
少なくとも95重量%均一にまで精製された、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項17】
医薬としての、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメントと賦形剤および助剤を含む医薬上許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項19】
容器に詰められた抗体002-H08またはその成熟変異体の治療有効量を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体を含むキットであって、第二の治療剤を含有してもよく、さらに、容器に添付されたまたは容器と共に包装されたラベルを含み、ラベルが、容器の内容物を記載し、子宮内膜症、腺筋症、良性乳房疾患および乳房痛、泌乳阻害、高および正常プロラクチン血性脱毛、良性前立腺過形成、類線維腫を処置するための、または非ホルモン雌性避妊に使用するための、または乳腺上皮細胞増殖を阻害する目的で併用ホルモン療法(すなわちエストロゲン+プロゲスチン療法)を受けている女性を処置するための、容器の内容物の使用に関して、適応症および/または指示を与えるキット。
【請求項20】
子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)を処置および/または防止するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項21】
子宮内膜症および腺筋症(内性子宮内膜症)を処置および/または防止するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項22】
雌性避妊のためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項23】
雌性避妊のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項24】
良性乳房疾患および乳房痛を処置するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項25】
良性乳房疾患および乳房痛を処置するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項26】
泌乳を阻害するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項27】
泌乳を阻害するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項28】
良性前立腺過形成を処置するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項29】
良性前立腺過形成を処置するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項30】
高および正常プロラクチン血性脱毛を処置するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項31】
高および正常プロラクチン血性脱毛を処置するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項32】
併用ホルモン療法を受けている女性を処置するためのPRLR中和抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項33】
併用ホルモン療法を受けている女性を処置するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項34】
併用ホルモン療法がエストロゲン+プロゲスチン療法である、請求項32または33に記載の抗体または抗原結合性フラグメントの使用。
【請求項35】
非経口投与のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗体、または請求項1〜9のいずれか一項に記載のPRLR抗体もしくは抗原結合性フラグメントを含む請求項18に記載の医薬組成物の形態にある抗体の使用であって、非経口送達の方法が、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、髄腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣、または鼻腔内投与を含む使用。
【請求項36】
少なくとも1つの他の薬剤と組み合わされた請求項1〜9のいずれか一項に記載のPRLR抗体または抗原結合性フラグメントを含む、請求項18に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2013−513363(P2013−513363A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542434(P2012−542434)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067744
【国際公開番号】WO2011/069797
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067744
【国際公開番号】WO2011/069797
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】
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