説明

中実球状金属酸化物粒子の製造方法

【課題】本発明は、低コストで実施することができ工業的な大量生産にも適用可能な火炎溶融法を用い、一般的な金属の酸化物からなる中実球状金属酸化物粒子を簡便かつ効率的に製造できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る中実球状金属酸化物粒子の製造方法は、1種以上の非気化性金属キレート粉体を熱流体中で加熱することにより、粉体中の有機成分を熱分解して除去し且つ金属成分を酸化させる工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで実施することができ工業的な大量生産にも適用可能な火炎溶融法を用い、一般的な金属の酸化物からなる中実球状金属酸化物粒子を簡便かつ効率的に製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
球状金属酸化物粒子は、その特徴的な形態に由来する高流動性や高充填性により利用価値が高い。例えば、シリカやアルミナからなる球状金属酸化物粒子は、樹脂に配合するフィラーや、鋳物砂、砥粒、溶射材料など、多岐にわたり使用されている。特に近年、半導体封止材用の添加物など高信頼性を必要とする用途にも広がりつつあり、今後はシリカやアルミナに留まらず、他の金属酸化物に関しても球状化のニーズがますます高まるものと見られる。
【0003】
球状金属酸化物粒子の製造方法としては、高温火炎中に原料化合物を導入し、溶融、液状化、冷却を経て球状金属酸化物粒子を得る火炎溶融法がコスト的に最も一般的である。
【0004】
しかしながら、これまでに報告されている例は、シリカ(例えば特許文献1)またはアルミナ(例えば特許文献2、3)などに関するものであり、その他の金属酸化物の球状化に関するものの例示はほとんど見られない。
【0005】
その理由の一つとしては、従来、火炎溶融法では原料として金属粒子や金属酸化物粒子などが用いられているため、製造条件を厳しくせざるを得ないことが挙げられる。
【0006】
具体的には、金属粒子は周囲から徐々に酸化が起こるため均一性が問題となり、加熱時間を長くする必要がある。また、金属酸化物粒子を用いる場合では、いったんこれらをその融点以上に加熱して溶融しなければならない。
【0007】
上記のとおり、火炎溶融法により球状シリカ粒子が製造された例はある。原料としてシリカを用いる場合、その融点は約1650℃であり、一般的な金属酸化物の融点よりも低いことがその理由と考えられる。しかし、加熱温度を融点近傍に調整する場合、内部まで溶融させるまでの時間を長くせざるを得ないという問題がある。
【0008】
また、火炎溶融法による球状アルミナ粒子の製造実績もあるが、アルミナの融点は約2050℃とシリカよりも高い上に熱伝導性が悪い。非特許文献1には、アルミナの場合では火炎温度を高め、且つ火炎中での滞留時間を増大させて原料粉体への伝熱量を増加させる必要があると記載されている。そのため、特殊なノズル構造を有する火炎バーナーや原料粉体の供給制御が必要となり、汎用性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−170319号公報
【特許文献2】特開2008−120673号公報
【特許文献3】特開2008−162825号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】村上真二ら,太陽日酸技報,No.28,第34〜35頁(2009年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、火炎溶融法は球状金属酸化物粒子の製造手段として非常に有用ではあるが、シリカやアルミナなどその原料が溶融し易いものの実績しかなく、一般的な金属酸化物、特に希土類酸化物のような高融点酸化物の球状化における実績は無い。
【0012】
そこで本発明は、低コストで実施することができ工業的な大量生産にも適用可能な火炎溶融法を用い、一般的な金属の酸化物からなる中実球状金属酸化物粒子を簡便かつ効率的に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、原料として従来汎用されていた金属酸化物などではなく非気化性の金属キレート粉体を用いれば、シリカやアルミナ以外の一般的な金属酸化物でも、汎用性の高い火炎溶融法で中実球状粒子を容易に製造できることを見出して、本発明を完成した。
【0014】
本発明に係る中実球状金属酸化物粒子の製造方法は、1種以上の非気化性金属キレート粉体を熱流体中で加熱することにより、粉体中の有機成分を熱分解して除去し且つ金属成分を酸化させる工程を含むことを特徴とする。
【0015】
非気化性金属キレート粉体を調製するためのキレート剤としてはアミノカルボン酸系キレート剤が好適であり、さらに具体的には、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、および、ニトリロ三酢酸から選択される少なくとも1種が好ましい。アミノカルボン酸系キレート剤から形成される金属キレートは非気化性である。また、上記キレート剤は低価格であり入手が容易である上に、上記キレート剤から形成される金属キレートは安定性が高く、また、結晶化し易いことから精製が容易であるといった利点がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法によれば、低コストで実施することができ工業的な大量生産にも適用可能な火炎溶融法を用い、従来、製造が困難であった金属酸化物からなる中実球状粒子を簡便かつ効率的に製造することができる。また、本発明方法で製造された中実球状金属酸化物粒子は、多孔率がゼロに等しい上に真球度が高いことから流動性が極めて高く、工業的な利便性が高い。従って本発明は、半導体素子などに用いられる樹脂フィラー、鋳物砂、砥粒、溶射材料などとして有用な中実球状金属酸化物粒子の生産技術として、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明方法で使用できる火炎溶融法の溶射ガンの一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明方法で得られた中実球状酸化イットリウム粒子の電子顕微鏡写真である。(1)は外観写真であり、(2)は断面写真である。
【図3】図3は、本発明方法で得られた中実球状酸化エルビウム粒子の電子顕微鏡写真である。(1)は外観写真であり、(2)は断面写真である。
【図4】図4は、本発明方法で得られた中実球状酸化チタン粒子の電子顕微鏡写真である。(1)は外観写真であり、(2)は断面写真である。
【図5】図5は、本発明方法で得られた中実球状酸化イットリウム粒子のX線回折チャートである。
【図6】図6は、本発明方法で得られた中実球状酸化エルビウム粒子のX線回折チャートである。
【図7】図7は、本発明方法で得られた中実球状酸化チタン粒子のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明方法では、非気化性の金属キレート粉体を熱流体中で加熱することにより、粉体中の有機成分を熱分解して除去し且つ金属成分を酸化し、中実球状金属酸化物粒子を得る。
【0019】
非気化性金属キレート粉体は、キレート剤と、目的物である金属酸化物粒子に対応する金属化合物から調製することができる。
【0020】
本発明方法で用いられるキレート剤は、一般的な金属と常温常圧で固体の非気化性金属キレートを形成できるものであれば、特に制限されない。当該キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ジアミノプロパノール四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヘキサメチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミンジ(o−ヒドロキシフェニル)酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、イミノ二酢酸、1,3−ジアミノプロパン四酢酸、1,2−ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、メチルグリシン二酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、エチレンジアミン二こはく酸、1,3−ジアミノプロパン二こはく酸、グルタミン酸−N,N−二酢酸、アスパラギン酸−N,N−二酢酸、等の如き水溶性のアミノカルボン酸系キレート剤;ヒドロキシエチリデンジホスホン酸などのホスホン酸系キレート剤;ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)やエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)などのアミノホスホン酸系キレート剤;ホスホノブタントリカルボン酸などのカルボン酸−ホスホン酸系キレート剤;グルコン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などのヒドロキシカルボン酸系キレート剤を挙げることができる。また、上記のキレート剤が2以上重合したポリマーも使用可能である。
【0021】
なお、アセチルアセトンなどのジケトン系キレート剤は、得られる金属キレートが気化性となるため本発明では使用できない。
【0022】
本発明で用いるキレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤が好適である。アミノカルボン酸系キレート剤は、あらゆる金属イオンと容易に結合して非気化性の金属キレートを得ることができ、さらに金属キレートを結晶として単離して高純度化することができる。より好ましいアミノカルボン酸系キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、および、ニトリロ三酢酸を挙げることができる。これらキレート剤は低価格であり入手が容易である上に、これらキレート剤から形成される金属キレートは安定性が高く、また、結晶化し易いことから精製が容易であるといった利点がある。
【0023】
金属キレート粉体の原料である金属化合物は、溶媒中でキレート剤と金属キレートを容易に形成できるものであれば特に制限されない。金属化合物としては、例えば、酸化物;金属単体;水酸化物;塩化物塩や臭化物塩などのハロゲン化物塩;炭酸塩;硝酸塩;硫酸塩などを挙げることができる。
【0024】
金属化合物を構成する金属、即ち本発明の目的化合物である金属酸化物粒子を構成する金属としては、例えば、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属;アルミニウムなどの軽金属;チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属;イットリウム、ランタン、セリウム、エルビウムなどの希土類金属などを挙げることができる。
【0025】
本発明に係る金属キレート粉体は、溶媒中、キレート剤と金属化合物を反応させた後、溶媒から分離することにより製造することができる。
【0026】
キレート剤と金属化合物の使用量は、キレート剤の配位座数と金属化合物の配位数を考慮して、両者がほぼ過不足無い割合とすればよい。反応溶液中に一方が過剰に存在すると反応後において不純物が多く残留することとなり、不経済であると共に目的化合物である金属キレートの精製が面倒になる。より具体的には、例えばキレート剤と金属化合物が1対1で反応して金属キレートを形成する場合、キレート剤1モルに対して金属化合物のモル数を0.9モル以上、1.1モル以下とすることが好ましく、0.95モル以上、1.05モル以下とすることがより好ましく、0.98モル以上、1.02モル以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
溶媒としては、水を用いればよい。反応溶液におけるキレート剤と金属化合物の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、5質量%以上、50質量%以下とすることができる。
【0028】
反応温度や反応時間も適宜調整することができ、より具体的には予備実験などにより決定すればよいが、例えば、10℃以上、反応溶液の沸点以下で12時間以下程度反応させることができる。なお、キレート剤や金属化合物の反応性によっては、これらを溶媒に溶解した後、特に反応時間をとらず直ぐに後処理しても、金属キレート粉体が得られる場合がある。
【0029】
反応終了後は、常法により金属キレート粉体を得ることができる。例えば、貧溶媒の添加、反応溶液の濃縮、冷却、またはこれら2以上の組合せにより目的化合物である金属キレートを晶析させ、これを濾別し、洗浄および乾燥すればよい。或いは、反応溶液を濃縮乾固後、再結晶などを行ってもよい。
【0030】
なお、金属キレート粉体は、水素塩やアンモニウム塩などの塩であってもよい。
【0031】
得られた金属キレート粉体は、必要に応じて粒度や形状を調整してもよい。即ち、火炎溶融法においては原料粉体を溶射機へ安定的に供給しなければならないため、アスペクト比が小さい形状とし、且つ粒度をなるべく均一にすることが好ましい。これによって原料粉体の安定送給性は格段に向上する。従って、得られた金属キレート粉体を、ボールミル、ロッドミル、ハンマーミルで処理することにより、粗大な粉体を粉砕してもよい。また、篩過などにより、粗大粒子や過剰に細かい粒子などを除去し、粒度分布が狭く粒径の均一な粉体を得てもよい。
【0032】
金属キレート粉体の粒子径としては、流動性を損なうものでなければ特に制限されないが、10μm以上、150μm以下程度にすることが好ましい。この範囲を外れると粉末供給装置から溶射ガンへ粉末を搬送するパウダーホース内で閉塞し、結果として不均一なフィードとなるため有機成分の熱分解が不完全となるおそれがあり得る。
【0033】
金属キレート粉体が熱流体に導入されると、その有機成分が熱分解する。そして、熱分解後に残る金属成分が酸化されて金属酸化物が生成され、その金属酸化物が飛翔中に中実球状粒子となる。
【0034】
本発明方法で用いる金属キレートは、非気化性である。即ち、本発明に係る金属キレートは加熱しても気化することはなく、気化する前に有機成分であるキレート剤部分が熱分解する。従って、本発明に係る金属キレートを熱分解温度以上に加熱した場合には、気化する前に必ず熱分解して金属が残り、その金属が酸化されて金属酸化物が生成する。なお、火炎溶融法において原料である金属キレートが熱分解する前に気化してしまう場合、その後に熱分解して生成される酸化物粒子が微細になりすぎてしまったり、酸化物粒子の収率が極端に低下してしまう。
【0035】
本発明に係る金属キレートの分解温度は、おおよそ250℃以上、400℃以下である。従って、金属キレート粉体の熱流体中における加熱温度は400℃以上であればよい。一方、加熱温度の上限は特に制限されないが、例えば3000℃以下とすることができ、2000℃以下が好ましく、1500℃以下がより好ましく、1000℃以下がさらに好ましい。かかる加熱温度は、金属酸化物などを原料とする従来の火炎溶融法での加熱温度よりも明らかに低いものである。
【0036】
当該工程における原料粉体は、一種類の金属キレートのみで構成してもよいし、複数種類の金属キレートを機械的に混合したものであってもよい。例えば、原料粉体として、エチレンジアミン四酢酸イットリウムアンモニウム塩とエチレンジアミン四酢酸ユウロピウムアンモニウム塩を混合して使う場合には、その原料を熱流体に導入することにより、イットリウムの酸化物とユウロピウムの酸化物とを含む中実球状金属酸化物粒子を形成することができる。
【0037】
得られた非気化性金属キレート粉体を熱流体中で加熱することにより、粉体中の有機成分を熱分解して除去し且つ金属成分を酸化させ、本発明に係る中実球状金属酸化物粒子を得る。
【0038】
上記金属キレート粉体を用いて熱流体に導入する場合に用いられる方法は、有機成分を熱分解し且つ中実球状金属酸化物粒子を得るために必要な温度の熱流体を発生させるものであれば特に限定されないが、例えば一般的に使用されている溶射法や溶射装置の熱流体発生装置を用いることができる。即ち、原料である金属キレート粉体を熱流体としての溶射炎の熱エネルギーで熱分解させることができればよく、金属キレートが熱分解する温度に加熱可能であれば、溶射法や溶射条件は特に限定されない。具体的には、ガスを燃焼させて熱流体としての溶射炎を形成するフレーム溶射法や高速ガスフレーム溶射法、放電によって熱流体としての溶射炎を形成するプラズマ溶射法、或いは、熱流体としての高速の作動ガスによって溶射するコールドスプレー法などが挙げられるが、金属キレート粉体を熱分解可能であり、熱流体(溶射炎)が形成される溶射法であればどのような方法でもよく、特に低コストでの実施が可能なフレーム溶射がより好ましい。
【0039】
金属キレート粉体を用いた中実球状金属酸化物粒子の製造方法の一例として、図1に示すような溶射ガン100(例えば、Sulzer Metco社製の6P−II)を用いてフレーム溶射法により本実施形態の原料を用いて中実球状金属酸化物粒子を得ることができる。溶射ガン100は、酸素−可燃性ガスを供給する酸素−可燃性ガス供給孔1と、粉末の原料を搬送する原料搬送ガスを供給する搬送ガス供給孔2と、原料を供給する原料供給孔3と、ノズル4などからなる。原料供給孔3から供給された原料は、搬送ガスによって噴射され、円筒状になった溶射炎(フレーム)5に導入され、均一に加熱・分解されて金属酸化物粒子が生成される。そして、前記溶射炎5によって搬送される間に中実球状を形成し、金属酸化物粉末回収装置により中実球状金属酸化物粒子を得ることができる。金属酸化物粉末回収装置は、特に制限されないが、例えばサイクロン型粉体回収装置、バッグフィルター、およびそれらの併用などが挙げられる。
【0040】
このフレーム溶射法のフレームの最高到達温度は、アセチレン炎の場合約3200℃であり、本実施形態の原料である金属キレートを分解させるのに十分な温度(400℃以上)である。また、その他の溶射方法のフレームの温度は、高速ガスフレーム溶射(灯油)で約2700℃、プラズマ溶射で約10000℃といわれており、いずれの溶射方法でも金属キレートを分解させることができる。従って、本実施形態の原料は、従来の一般的な溶射方法・溶射条件で、容易に原料の金属キレートを分解温度まで加熱し、分解させ、金属酸化物に変化させて、中実球状金属酸化物粒子を得ることができる。
【0041】
以上で説明した本発明方法によって形成される中実球状金属酸化物粒子について、以下、説明する。
【0042】
本発明方法で得られる金属酸化物粒子は、細孔のほとんど見られない中実体であり、且つ真球度の高い球状である。例えば、図2には、原料粉体として、イットリウムとエチレンジアミン四酢酸との金属キレートからなる粉体を溶射して得られた、イットリア(Y23)粒子の外観と断面の電子顕微鏡写真を示している。この写真から、真球度の高い中実球状であることがわかる。
【0043】
以上説明した本発明に係る中実球状金属酸化物粒子溶射皮膜の製造方法によれば、溶射の過程で加熱された原料粉体が気化することなく分解し、非常に粒径の小さい金属酸化物粒子となり、さらに溶融・球状化した後、飛翔しながら冷却結晶化して中実球状金属酸化物粒子を得ることができる。また、上述のように、本発明方法の原料である金属キレート粉体は、400℃以下で分解するため、フレーム溶射法のようなプラズマ溶射法等に比べて非常に低い温度で溶射しても、中実球状金属酸化物粒子を得ることができる。
【0044】
また、本発明に係る原料粉体によれば、原料である金属キレートを熱によって分解させることができれば金属酸化物被膜の形成が可能なため、どのような溶射方法や溶射装置であっても流用することができる。具体的には、例示したフレーム溶射や、高速ガスフレーム溶射、アーク溶射、プラズマ溶射、コールドスプレーなど、金属キレートの分解温度より高い温度の熱流体によって溶射材料を溶射する溶射方法であれば、どのような溶射方法でもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
実施例1〜3 中実球状金属酸化物粒子の製造
(1) 原料金属キレート粉体の調製
水溶媒中、酸化イットリウム、酸化エルビウムまたは塩化チタンと、エチレンジアミン四酢酸とを夫々等モル量で反応させた後、この水溶液から晶析させることにより、表1の原料金属キレート粉体を調製した。
【0047】
【表1】

【0048】
(2) 金属酸化物粒子の製造
上記結晶粉末を原料として、表2に示すフレーム溶射法により、金属酸化物粒子を製造した。なお、使用した溶射機は、図1として模式的に示す形状の溶射ガンを有する。原料金属キレート粉体の供給量は、実施例1で10g/分、実施例2で9g/分、実施例3で0.3g/分とした。また、得られた金属酸化物粒子は、自由落下している粒子を粘着テープで捕集することにより回収した。
【0049】
【表2】

【0050】
(3) 分析
上記で得られた金属酸化物粒子の外観を電子顕微鏡で観察した。さらに、得られた金属酸化物粒子を樹脂で包埋した上で切断し、その断面を電子顕微鏡で観察した。その結果、いずれも直径0.2〜50μm程度の中実球であることが確認できた。実施例1〜3の各金属酸化物粒子の電子顕微鏡写真を、それぞれ図2〜4に示す。また、得られた金属酸化物粒子をX線回折で分析した。得られたX線回折チャートを、それぞれ図5〜7に示す。得られた結果より、実施例1〜3の金属酸化物粒子は、それぞれ酸化イットリウム、酸化エルビウム、並びにルチル型およびアナターゼ型の酸化チタン混合物からなることを確認できた。
【符号の説明】
【0051】
1: 酸素―可燃性ガス供給孔
2: 搬送ガス供給孔
3: 原料供給孔
4: ノズル
5: 溶射炎
100: 溶射ガン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実球状金属酸化物粒子を製造するための方法であって、
1種以上の非気化性金属キレート粉体を熱流体中で加熱することにより、粉体中の有機成分を熱分解して除去し且つ金属成分を酸化させる工程を含むことを特徴とする中実球状金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
キレート剤としてアミノカルボン酸系キレート剤を用いる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アミノカルボン酸系キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、および、ニトリロ三酢酸から選択される少なくとも1種を用いる請求項2に記載の製造方法。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−40090(P2013−40090A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179971(P2011−179971)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【出願人】(592211194)キレスト株式会社 (30)
【Fターム(参考)】