説明

中性子測定装置

【課題】中性子測定装置において、エネルギー分解能と感度を共に良好にできるようにする。
【解決手段】容器10にはラジエータ12が配置されている。中性子nが入射するとラジエータ12において反跳陽子pが生じる。それは二次元検出器14によって検出される。検出位置に対応付けられた散乱角θに基づいて検出されたエネルギーが補正され、それによって補正された中性子エネルギースペクトルが求められる。二次元検出器14は平板型であってもよいし、円弧状の形態を有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中性子測定装置に関し、特に、中性子のエネルギースペクトルを測定する中性子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加速器や原子炉等で生成される中性子を測定するために中性子測定装置が利用される(特許文献1−3参照)。中性子測定装置の1つとして、中性子のエネルギースペクトルを求める中性子スペクトロメータが知られている。陽子反跳テレスコープ法を用いた中性子スペクトロメータでは、中性子(主に高速中性子)が入射したラジエータで生じる反跳陽子が検出され、その場合に所定の散乱角方向に検出器が配置され、その検出器で反跳陽子のエネルギーが測定される。測定されたエネルギーに対して散乱角に応じた角度補正が行われ、これによって中性子のスペクトルが求められる(下記の非特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特表平2−503474号公報
【特許文献2】実用新案登録第3116543号公報
【特許文献3】特開昭61−269090号公報
【非特許文献1】GLENN F KNOLL著(木村・坂井訳)、放射線計測ハンドブック、日刊工業新聞社、昭和57年、第486頁−第488頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記非特許文献1に記載された方法では、所定角度に放出された反跳陽子だけしか検出できず、それ以外の様々な方向へ放出される反跳陽子を検出できない。また、反跳陽子検出器で検出可能な角度範囲を十分絞る方がエネルギー分解能を高められるが、そのような構成では感度が低下してしまう。その一方、検出感度を維持すると、エネルギー分解能が犠牲となる。なお、上記の非特許文献1に記載された方法では、前後配置された2つの検出器が同時計数されており、また、それらの検出器の検出値の和が演算されているが、それらの検出器についてのゲイン調整等が難しいという点も指摘できる。
【0005】
本発明の目的は、感度及びエネルギー分解能が良好な中性子測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、中空の真空容器と、前記真空容器内の中性子入射位置に設けられ、反跳陽子を含む物質で構成されたラジエータと、前記真空容器内の反跳陽子検出位置に設けられ、前記ラジエータに対して中性子が入射した場合に当該ラジエータから放出される反跳陽子を検出する検出器であって、前記反跳陽子検出位置の中心点を通過する測定中心軸に対して交叉しつつ面状に広がった複数の検出セルを有する二次元検出器と、前記二次元検出器における各検出セルで検出された検出値を当該検出セルの位置に応じて補正しつつ、入射した中性子についてのエネルギースペクトルを演算するスペクトル演算部と、を含むことを特徴とする中性子測定装置に関する。
【0007】
上記構成によれば、中性子がラジエータに入射すると、そこから反跳陽子が放出され、それが二次元検出器で検出される。反跳陽子のエネルギーは中性子のエネルギーに依存しており、前者を検出すれば後者を演算して、スペクトルを求められる。二次元検出器の検出位置に応じてエネルギーの補正を行えば、エネルギー分解能を良好にできる。また、二次元的に広がった検出面で反跳陽子を検出できるので感度も良好にできる。望ましくは、前記スペクトル演算部は、前記各検出セルで検出された検出値に対して、前記各検出セルの位置に対応した反跳陽子散乱角に基づく角度補正を実行する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、感度及びエネルギー分解能が良好な中性子測定装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1には、本発明に係る中性子測定装置が示されており、図1は中性子測定装置としての中性子スペクトロメータを示す概念図である。この中性子スペクトロメータは入射した中性子のエネルギースペクトルを求める測定器である。
【0011】
容器10は例えばZ方向に伸長した円筒形状の容器であり、その容器10は例えばアルミニウムなどの材料によって形成される。容器10の内部10Aは真空に保持されている。容器10における中性子入射側にはラジエータ12が設けられている。
【0012】
ラジエータ12は例えば1mmの直径を有し、数μmの厚みをもったポリエチレンテレフタレート等の材料によって構成され、すなわち小型で薄い水素化合物によってラジエータ12が構成されている。そのラジエータ12では、中性子nが入射すると、そこで反跳現象が生じ、その結果として反跳陽子を生じる。その反跳陽子が図1においてpで示されている。
【0013】
容器10における中性子検出側には二次元検出器14が配置されている。この二次元検出器14は複数のセルからなる半導体検出器として構成され、図1においては平板型の二次元検出器14が示されているが、それが湾曲したものであってもよい。二次元検出器14はZ方向に直交する2方向に整列した複数のセル(半導体検出セル)を有しており、各セルは独立して反跳陽子を検出する。
【0014】
ラジエータ12には一般に水素以外にも例えば炭素等の物質が含まれる。しかしながら、そのような炭素が反跳現象によって放出されても、それは水素よりも例えば12倍も重い原子であるため、水素による反跳陽子とは信号上区別が可能である。ちなみに、容器10の中性子入射側にはコリメータ16が設けられている。そのコリメータ16の中央に形成された空洞を介して中性子nが進入している。そして、反跳現象において所定の反跳角θをもって反跳陽子pが放出され、それが上述した二次元検出器によって検出される。
【0015】
ちなみに、この際の散乱角θとし、反跳陽子のエネルギーをEpとし、入射した中性子のエネルギーをEnとした場合、一般に、Ep=En×cos2θとなり、この式を変形して、En=Ep/cos2θが得られる。すなわち当該計算式によって検出された反跳陽子のエネルギー及び散乱角θから入射中性子のエネルギーを求めることが可能となる。
【0016】
スペクトル演算部30は二次元検出器14の各セルから検出された信号を処理する回路であり、その信号に対して上述した計算式に基づく角度補正を実行し、その結果として角度補正がされた後のエネルギースペクトルを求める。そのエネルギースペクトルはスペクトル表示部32において表示されることになる。
【0017】
ちなみに、二次元検出器14は例えば5×5mmのサイズをもった矩形の検出器であるが、それが円形の検出器であってもよい。スペクトル演算部30の前段側に信号処理を行う回路を設けるのが望ましく、例えばノイズ除去用の波高弁別器などを設けてもよい。スペクトル演算部30は例えばマルチチャンネルアナライザによって構成することも可能である。
【0018】
図2には、スペクトル表示部32に表示される中性子スペクトルが示されている。横軸は中性子のエネルギーを示しており、縦軸は各エネルギーごとの計数値を表している。角度補正を行わない場合には、符号100で示されるようなスペクトルが得られるが、上記のような角度補正を行うことによって符号102で示すようなスペクトルを得るがことが可能となる。すなわち感度を向上でき、またエネルギー分解能を向上できるという利点がある。つまり、角度補正を行うので検出器全体としてのエネルギー特定性を良好にでき、しかも二次元的に広がった検出器によって反跳陽子を検出するので感度を向上することが可能となる。上述したように、ラジエータ12を曲率中心として二次元検出器14を湾曲させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る中性子測定装置の概念図である。
【図2】中性子エネルギースペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0020】
10 容器、12 ラジエータ、14 二次元検出器、16 コリメータ、30 スペクトル演算部、32 スペクトル表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の真空容器と、
前記真空容器内の中性子入射位置に設けられ、反跳陽子を含む物質で構成されたラジエータと、
前記真空容器内の反跳陽子検出位置に設けられ、前記ラジエータに対して中性子が入射した場合に当該ラジエータから放出される反跳陽子を検出する検出器であって、前記反跳陽子検出位置の中心点を通過する測定中心軸に対して交叉しつつ面状に広がった複数の検出セルを有する二次元検出器と、
前記二次元検出器における各検出セルで検出された検出値を当該検出セルの位置に応じて補正しつつ、入射した中性子についてのエネルギースペクトルを演算するスペクトル演算部と、
を含むことを特徴とする中性子測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記スペクトル演算部は、前記各検出セルで検出された検出値に対して、前記各検出セルの位置に対応した反跳陽子散乱角に基づく角度補正を実行することを特徴とする中性子測定装置。

【図1】
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【図2】
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