説明

中枢神経系の損傷の治療方法

中枢神経系、特に脊髄損傷への損傷は、プリンヌクレオシドまたは類似体を患者に投与すること、および、場合により、損傷部位を電気的に刺激することによって処理される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、2002年12月30日付で出願された米国仮出願第60/437,104号(参照によりその全体を開示に含む)の利益を主張する。
【0002】
背景
中枢神経系への損傷(脊髄への損傷など)が、最も打撃的で障害をもたらす損傷のなかの一つである。損傷の重症度によって、様々な程度の麻痺が生じ得る。場合によっては、対麻痺および四肢麻痺は、脊髄への重度の損傷によって生じる場合もある。その結果生じる罹患した者(例えばヒトまたは動物)への作用は重篤である。罹患した者は、ほとんど不動症か、またはそれより悪い状態に陥る可能性がある。ヒトにとって、このような重度の身体的な能力障害によって引き起こされる精神的な損傷は、身体的な能力障害それ自体よりもさらにより打撃的となる可能性がある。
【0003】
哺乳動物の中枢神経系(CNS)において、神経線維は、損傷または病気後に再生を開始するが、突然成長を止め、機能的な連結を形成しなくなる。この、神経の連結の形成の障害により、ダメージを有する領域を通過する神経インパルスの伝達が妨害されるが、これは、CNSの病気または損傷後の悲劇的な行動面における損失に関する生物学的な根拠である。この妨害を克服する方法としては、なんらかの刺激を与えて、損傷のある領域に意味のある神経の再生を誘導することが考えられる。これは、動物では、末梢神経への架橋の埋め込み、神経成長因子(NGF)または脳由来神経成長因子(BDNF)のような化学成長因子のデリバリーによって、または、電気刺激の適用によって、限られた状況においてのみ達成されてはいるが、これらの方法はいずれも、ヒトでの使用が限定されるか、または不可能であるという深刻な欠点を有する。例えば、動物において、末梢での架橋が行動面での損失を実際に改善するという証拠はない。また、外科医が末梢への架橋の使用を採用する可能性は極めて低く、なぜならこの技術は、脊髄または脳への広範囲にわたる外科手術を必要とし、さらなるダメージを起こす恐れがあるためである。さらに、NGFやBDNFのような成長因子のデリバリーにより、かなりの副作用を起こし、それにより患者の状態を極端に悪くする、および/または、潜在性腫瘍の成長を刺激することが観察されている。
【0004】
加えて、振動電場刺激(Oscillating Field Stimulation: OFS)のような技術を用いた電気刺激の適用は、脊髄損傷に関する有望な治療へ発展してきたが、適用された電圧も欠点を有する。OFS法は、イヌおよび動物において、損傷を受けてから最初の3週以内にOFSの刺激装置を埋め込んだ場合にのみ作用する。この技術において、慢性的に損傷のある被検体の神経の再生が起こらないことは極めて明確である。これまで、100匹超の慢性的に損傷のある(損傷後2ヶ月を超過した)実験用モルモットにおいて、OFSでは、神経の再生を起こすことができなかった(Borgens等(1993年)Restor Neural and Neurosci 5,173〜179)。長期にわたる脊髄損傷を有するヒトは、約250,000〜350,000人と推測されていることから、慢性的なCNS損傷をうまく治療することができないことは、根本的な問題を投げかけている。
【0005】
従って、CNS損傷、特に慢性的なCNS損傷における神経の再生を促進する方法が必要である。
【0006】
発明の概要
本発明は、患者における中枢神経系(CNS)への損傷(脊髄への損傷を含む)の治療方法を提供する。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体(例えばイノシン)の投与と組合わせて、振動電場刺激(OFS)のような電気刺激の適用を含む二部式の治療により、神経の再生が起こり、CNS損傷に苦しむ患者において神経の機能化および挙動が少なくとも部分的に回復することがわかった。本発明の方法は、急性損傷と慢性損傷の両方の治療に有効である。有利には、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体(例えばイノシン)を共に投与することが、慢性CNS損傷への治療の選択肢としてのOFSの有用性を拡大する。
【0007】
一態様において、本発明は、脊髄損傷を有する患者を治療する方法を提供し、本方法は、損傷部位を電気的に刺激すること、および、患者に、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与することを含み、損傷のある脊髄を通る神経の機能が少なくとも部分的に回復される、および/または、脊髄損傷部位における神経の再生が刺激される。損傷部位への電気刺激は、患者に装置を埋め込むことによって達成してもよい。この装置は、好ましくは、振動電場刺激(OFS)装置である。
【0008】
その他の態様において、本発明は、損傷部位における神経の再生を刺激するのに有効な条件下で、および/または、損傷のある脊髄を通る神経の機能を少なくとも部分的に回復させるのに有効な条件下で、患者に、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与することによって、脊髄損傷を有する患者を治療する方法を提供する。
【0009】
脊髄損傷としては、脊髄の完全な切断、脊髄の部分的な切断、または、脊髄の押しつぶしまたは圧縮による損傷が挙げられる。脊髄損傷は、治療の3ヶ月より前、治療の3週より前、または、治療の2週より前に生じたものであり得る。
【0010】
神経機能の回復は、神経インパルスの伝達の回復、伝達作用能力の検出可能な増加、解剖学的な連結状態の観察、2以上の脊髄神経根レベルの回復、反射作用の挙動の増加、またはそれらの組合わせによって証明することができる。
【0011】
プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、患者に、経口または皮下を含む全身投与をできる。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、脊髄損傷部位に局所投与することができる。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与する装置を、患者に埋め込むことによって投与することができる。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、製薬上許容できるキャリアーに含めて局所投与することができる。好ましいプリンヌクレオシドとしては、イノシンが挙げられる。
【0012】
また、本発明は、中枢神経系(CNS)損傷を治療するためのキットも含み、本キットは、第一の構成として、損傷部位に電気刺激を適用するための手段、および、第二の構成として、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を含む。いくつかの実施態様において、損傷部位に電気刺激を適用するための手段は、振動電場刺激(OFS)装置である。いくつかの実施態様において、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体としては、イノシンが挙げられる。いくつかの実施態様において、本キットは、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を、皮下、静脈内または髄腔内にデリバリーするための装置をさらに含む。いくつかの実施態様において、本キットは、CNS損傷の治療に関する書面の指示書をさらに含む。
【0013】
定義
本発明において用いられる用語「患者」としては、CNS損傷を受ける可能性がある動物が挙げられ、好ましくは哺乳動物である。好ましい実施態様において、患者は、ヒトである。その他の患者の例としては、家庭用のペット、例えばイヌやネコ、または、その他の哺乳動物、例えばヤギやウシが挙げられる。
【0014】
本発明において用いられる用語「中枢神経系」または「CNS」は、脳と脊髄の両方の神経組織を含む。この用語は、末梢神経系(PNS)は含まない。本発明において用いられる用語「脊髄」は、脊柱の全てのニューロン構造を含む。
【0015】
特に他の規定がない限り「a」、「an」」、「the」および「少なくとも1つの(at least one)」は、交換可能に用いられ、1、または、複数を意味する。
【0016】
図面の簡単な説明
図1は、脊髄損傷に関する挙動インデックスとしての、躯幹の皮筋(CTM)の反射作用を示す。図1Aで示されるように、CTM反射作用の求心および遠心経路は、モルモットの左側に図示される。モルモットの脊髄の右側で、脊髄損傷(説明する目的のために、大きいギャップで示す)は、その側においてのみ上行CTM路をさえぎっている。これにより、背中の皮膚上に、触覚の刺激に反応しなくなる領域が生じる(すなわち反射消失)。図1Bは、無傷のCTM受容域の輪郭を示す。この領域内に触覚を与えると、背中の皮膚とこの領域の外側に痙攣が生じたが、刺激はCTMの皮膚の収縮を生じなかった。この一連の鎮静剤投与の動物の皮膚の光の触覚の刺激を上から録画し、図面をコンピューターによって再構成する。図1Cは、全幅の脊髄の圧縮による損傷の結果を示す。CTM受容域の下半分において輪郭をとられた領域は、反射消失領域である。触覚の刺激に反応しなくなったのは、このCTM受容域の下半分である。図1Dは、CTMの回復領域の輪郭を示す。この領域内において、CTM反応性は元に戻っている。図1Eは、録画テープからの枠であり、毛を剃られた動物の背中上に入れ墨されたドットのグリッドを示す。
【0017】
図2は、留置マーカー装置を用いた離断面の組織学的な決定を示す。全ての脊髄の顕微鏡写真において、脊髄の向きは、その長軸が、各写真の上から下へ配置される。「上」は、頭の先端(吻側)であり、尾部(尾の先端)は、下に向かっている。脊髄の端部は両方とも、モンタージュ写真図2Aにおいて観察することができるが、右の端部のみ、図2Bにおいて観察することができる。陰影をつけた線は、マーカーによって明示された正確な離断面を示す。図2Aにおいて、マーカーは、その正中線における挿入部から脊髄の右の端部の近辺にシフトしているが、マーカーを除去した後に残った孔がはっきり目視できる。なお、離断面は、これらの脊髄においても容易に決定することができるが、これは、孔の左への瘢痕と軸索の欠如が、明らかに離断面の左の端部を明示しているためである。これを、図2Bの他の組織学的断片(マーカーが右にシフトしている)に示す。囲まれた領域は、マクロファージで充填された嚢であり、図2Dで、より高い拡大度で示される。図2Cにおいて、脊髄の中心におけるマーカーの孔(端部は画面の枠外である)を示す。マーカーの孔の左(図2Eにおいて)に関して留意すべきは、長い軸索は、組織が乱れた瘢痕組織に隣接して存在し、ダメージを受けていない実質組織内で、右側方の半側切断の左に組織化される。断片の面は、画面の枠外で、脊髄の右の端部に伸びている。
【0018】
図3は、実験的な適用の後にの、上行(ゾーン1〜4,左から右へ移動する)、および、下行(ゾーン1〜4,右から左へ移動する)軸索の投影を示す。この図面は、脊髄を図示しており、右に向かって頭(吻側)の末端であり、左に向かって尾(尾部)の末端である。図面のほぼ中央に、右側方の半側切断の位置(脊髄の右側のみを切断)を、正中線から図面の右の端部へ濃い黒色の線で示す。明るい灰色と黒色で図示された線維(それぞれ尾部側と吻側側から充填される)は、この離断面(マーカーの孔の位置によって設定された)を過ぎてよく投影している。脊髄の右側に図示された線維は、離断面よりかなり短く終結している場合もあり(250μm未満;ゾーン1)、または、離断の250μmまたはそれ未満(ゾーン2)内に投影している場合もある。線維はまた、離断面で終結しており、場合によってはその端部に沿って短い距離で伸びていることが観察され(ゾーン3)、または、それらは、通常、離断の周りを通過すること、または、離断を越えて通過することによって、隣接する脊髄セグメントに投影することが観察された(ゾーン4)。
【0019】
例示的明実施態様の詳細な記述
本発明は、概して、神経の機能を少なくとも部分的に回復させるための、哺乳動物の中枢神経系(CNS)への損傷を治療する方法に関し、ここで、上記CNSとしては、これらに限定されないが、脊髄損傷が挙げられる。本発明を用いることによって、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与と組合わせた、電気刺激の適用を含む二部式の損傷のあるCNSへの治療は、急性CNS損傷と慢性CNS損傷の両方で神経の再生を起こし、神経の機能を回復させることがわかった。好ましい実施態様において、振動電場刺激(OFS)と、プリンヌクレオシドのイノシンとを組合わせた治療による脊髄損傷の治療は、急性および慢性の脊髄損傷の両方において、脊髄損傷における脊髄の神経の再生、および、神経の機能化および挙動の回復を起こすのに用いられる。
【0020】
本発明の方法によって、多種多様なCNS損傷を処理することもできる。本発明において用いられる用語「損傷」は、一般的に、神経細胞内部(細胞質)において、塩を含むゲルを、神経細胞が浸されている塩を含む流体(細胞外液)から分離する神経膜の能力が崩壊しているような、神経細胞の膜の破損を意味する。これらの2つの流体区画における塩のタイプは、極めて多様であり、イオンと、損傷によって生じる水分が交換されることにより、神経は、神経インパルスを生じさせ、伝達させることができなくなり、さらに細胞は死に至る。損傷は、CNSの正常な機能化に直接的または間接的に影響を与えるダメージを含む。損傷は、構造的、物理的または機械的な欠陥であってもよく、神経線維が押しつぶし、圧縮または伸長を受ける場合のような物理的な衝撃によって生じるものでもよい。あるいは、細胞膜は、病気、化学物質の平衡異常、または、生理学的な機能不全、例えば無酸素症(例えば卒中)、動脈瘤または再潅流、破壊または分解されてもよい。CNS損傷としては、例えば、これらに限定されないが、網膜の神経節細胞へのダメージ、外傷性の脳の損傷、卒中に関連する損傷、脳の動脈瘤に関連する損傷、脊髄損傷、例えば単麻痺、両側麻痺、対麻痺、片麻痺および四肢麻痺など、神経増殖性の疾患、または、神経障害性の疼痛症候群が挙げられる。
【0021】
哺乳動物の脊髄に損傷があると、脊髄中の神経間の連結が破壊される。このような損傷により、損傷によって影響を受けた神経路に関連する神経インパルスの流れがブロックされ、その結果、感覚および運動性機能の両方に欠陥が生じる。脊髄への損傷は、脊髄の圧縮またはその他の挫傷、または、脊髄の押しつぶしまたは切断によって生じる可能性もある。脊髄の切断はまた、本発明においては、「離断(transection)」ともいい、脊髄の完全な切断でもよいし、または、不完全な切断でもよい。
【0022】
本発明の方法は、CNSの急性損傷と慢性損傷の両方を治療するのに用いことができ、このような損傷としては、これらに限定されないが、急性および慢性の脊髄損傷が挙げられる。好ましい実施態様において、本発明の方法は、脊髄の慢性損傷を治療するのに用いられる。本発明において用いられる用語「急性損傷」は、最近生じた可能性のある損傷を含む。例えば、急性損傷は、極めて最近、1時間またはそれ未満、1日またはそれ未満、1週またはそれ未満、または、2週またはそれ未満に生じたものが挙げられる。本発明において用いられる用語「慢性損傷」は、ある期間持続した損傷である。例えば、慢性損傷は、2週より前、3週より前、2ヶ月より前、または、3ヶ月超より前に生じたものが挙げられる。
【0023】
本発明のCNS損傷の治療における二部式の治療の一方は、CNS損傷部位への電気刺激の適用である。ここ20年で、電気刺激は、損傷後、哺乳動物の脊髄軸索の再生を高め、軸索退行性変性を減少させ得ることがわかっている。CNS損傷部位に電気刺激をデリバリーする様々な既知の方法のいずれかを用いることができる。本方法は、損傷部位を通過する電流、および/または、損傷部位にまたがる電圧差または電位差の適用を包含する。電流は、交流でもよいし、直流でもよい。電流および/または電圧差は、一定でもよいし、変化させてもよい。CNS損傷の電気刺激は、生体電気刺激装置の埋め込みによって達成してもよい。
【0024】
損傷部位を電気的に刺激するための好ましい方法は、振動電場刺激(OFS)の使用であり、この場合、電場の極性は、定期的に転換される。振動電場刺激は、イヌにおける、急性で重度の自然に生じた対麻痺の治療において、実用的で有益な結果を得ており(米国特許第4,919,140号)、現在、ヒトにおける急性の脊髄損傷の治療に関する臨床試験が行われている。しかしながら、これまで、このような電気刺激使用の成功例は全て、急性損傷の治療に限定されてきた。哺乳動物のCNSにおける損傷のある神経のいかなる再生は、たとえ再生されたとしても、損傷が起こった直後の極めて短い時間のうちにしか起こらないことがわかっている。この短時間が過ぎた後、神経の再生は観察されていない。従って、慢性損傷の有効な治療に関する本発明の結果は、劇的であり、予想外である。
【0025】
装置の埋め込み(例えば「生体電気インプラント」)、および、OFSによる損傷部位への電気刺激の適用のための手順は、当業界周知である。電流を発生させ、損傷部位にまたがって電圧差または電位差を生じさせる。好ましい生体電気インプラントは、損傷の周りに、数百μV/mmの規模(例えば100μV/mm〜500μV/mm)で定常的な直流(DC)電場を生じさせる。小型のイヌにおいて、この電場は、例えば、いずれかの損傷部位の2つの電極間で約200μAの電流を流すことによって生じ得る。ヒトにおいて、以下で説明するように、好ましくは、複数の電極対が用いられる。刺激装置は小さく、背中の皮膚の下に容易に外科的に埋め込まれる。弱い電場を生じさせるのに必要な電流量は、損傷部位の断面積と電極間の距離に応じて様々である。必要な電流をデリバリーするために、2またはそれ以上の電極対を使用することが、介在する組織を通過する電流量を減少できるために好ましいことがわかった。断面積が増加するに従って、電場を生じさせるのに用いられる電極対の数も増加することが好ましい。例えば、断面積が3倍増加すると、あらゆる組織断片を通過する電流量を安全なレベルに維持するために、電極の数を3倍にすることが必要であり得る。例えば、一実施態様において、6個の電極(3対)は脊柱を経由し、損傷部位の上と下に付着させる。ワイヤー(電極)は、脊柱の外側に残し、脊髄それ自体に接触させないが、それによって生じた電場は脊髄にまたがって印加される。ユニット全体は、典型的には、埋め込み後約14週で外科的に除去される。この埋め込み/外植は、ヒトの脊髄損傷のある患者でのフェーズ1臨床試験でまったく安全であることがすでに決定されている。例えば、以下をを参照:米国特許第4,919,140号,Borgens等(1986年)J Comp Neurol 250,168〜180;Borgens等(1987年)Science 238,366〜369;Borgens等(1990年)J Comp Neurol 296,634〜653;Borgens等(1993年)Restor Neurol Neurosci 5,305〜322;Borgens等(1993年)Restor Neurol Neurosci 5,173〜179;BorgensおよびBohnert(1997年)Exp Neurol 145,376〜89;Borgens等(1999年)J Neurotrauma 16,639〜57;Borgens(1999年)Neuroscience 91,251〜64;および、Borgens(2003年)Restoring Function to the Injured Human Spinal Cord,(Springer−Verlag,Heidelberg)。代表的な生体電気刺激装置の完全な中核の回路構成要素と図解は、例えば、in Borgens等(1999年)JNeurotrauma 16,639〜57で示される通りである。本発明の二部式の治療において、電気刺激(「バイオインプラント」を介して付与された)、および、健康食品の添加剤であるイノシンもしくはその他のプリンヌクレオシド、または、それらの類似体(経口投与された、または、皮下注射で投与された)は、損傷後のいずれかの時点で、好ましくは同時にデリバリーすることができる。
【0026】
OFSのような電気刺激を損傷のある部位へ適用する期間の長さは、様々であってよい。電気刺激は、数日投与してもよく、例えば約1日、約2日、約3日、約4日、約5日間、または、その間のいずれかの時点で投与してもよい。電気刺激は、数週投与してもよく、例えば約1週、約2週、約3週、約4週、または、その間のいずれかの時点で投与してもよい。電気刺激は、で数ヶ月投与してもよく、例えば約1ヶ月、約3ヶ月、約4ヶ月、約5ヶ月、約6ヶ月、または、その間のいずれかの時点で投与してもよい。急性損傷の治療のためには、損傷のある部位への電気刺激の適用は、損傷が生じたほぼ直後に開始してもよいし、または、損傷のある部位への電気刺激の適用は、損傷が生じてから数時間または数日後に開始してもよい。例えば、治療は、損傷後約8〜約12時間、数日、または、約14〜約21日間に開始してもよい。慢性損傷の治療のためには、電気刺激の適用は、いずれかの時点で開始すればよい。例えば、適用は、損傷後、約2週、約3週または約1ヶ月に開始してもよいし、または、損傷後、数ヶ月または数年に開始してもよい。
【0027】
本発明に係るCNS損傷の治療における二部式の治療の第二の部分は、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与である。本発明において用いられる「プリンヌクレオシド」としては、糖に連結したあらゆるプリン塩基、またはそれらの類似体が挙げられる。例えば、プリンヌクレオシドとしては、グアニン、イノシンまたはアデニン、および、それらの類似体、例えば6−チオグアニン(6−TG)などが挙げられる。好ましい実施態様において、プリンヌクレオシドは、イノシンである。
【0028】
プリンヌクレオシドのイノシンとグアノシンは、神経分化誘導物質として作用し、この物質は、インビトロで網膜の神経節細胞に投与された場合、軸索の伸長を刺激することが、近年実証されている(米国特許第6,440,455号、および、Benowitz等(1999年)Proc Natl Acad Sci USA 96,13486〜90を参照)。イノシンは、既知の副作用がない天然に存在する代謝産物である。さらに、本発明で実証されるように、イノシンは、インビボで投与されると、「マイルド」な神経成長因子として作用し、より一般的に知られている神経成長因子(例えばNGF)の投与に関する深刻な副作用が起こらない。本発明で使用するためのプリンヌクレオシドおよびそれらの類似体は、容易に入手可能である。例えば、イノシンは、化学物質製造会社(例えば、シグマ・ケミカル社(Sigma chemical Company),セントルイス,ミズーリ州が挙げられる)、または、健康サプリメントを販売している健康ストアーより市販されている。
【0029】
プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、本発明により、二部式の治療の一部として、またあるいは、損傷部位への電気刺激を行わない治療として投与することができるものとする。後者の用途において、CNS損傷は、好ましくは、脊髄損傷であり、これは、急性損傷または慢性損傷のいずれでもよい。
【0030】
プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体(例えばイノシン)の投与期間の長さは、様々であってよい。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、数時間、例えば約1時間、約2時間、約4時間、約6時間、約8時間、または、約12時間にわたって投与してもよいし、または、その間のいずれかの時点で投与してもよい。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、数日にわたって投与してもよく、例えば約1日、約2日、約3日、約4日、約5日間、または、その間のいずれかの時点で投与してもよい。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、数週間にわたって投与してもよく、例えば約1週、約2週、約3週、約4週、または、その間のいずれかの時点で投与してもよい。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、数ヶ月にわたって投与してもよく、例えば約1ヶ月、約3ヶ月、約4ヶ月、約5ヶ月、約6ヶ月間、または、その間のいずれかの時点で投与してもよい。急性損傷の治療のためには、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与は、損傷が生じたほぼ直後に開始してもよい。あるいは、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与は、損傷後、数時間または数日に開始してもよい。例えば、治療は、損傷後、約1〜約2時間,約4〜約6時間、約2日〜約6日、または、約14日〜約21日に開始してもよい。慢性損傷の治療のためには、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与は、いずれかの時点で開始すればよい。例えば、投与は、損傷後、約2週に開始してもよいし、損傷後、約3週または約1ヶ月に開始してもよい、または、損傷後、数ヶ月または数年に開始してもよい。
【0031】
本発明の方法において、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体、製薬上許容できるキャリアー中で与えることができる。本発明において用いられる用語「製薬上許容できるキャリアー」としては、生理学的に適合する全てのあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが挙げられる。このようなキャリアーとしては、例えば、水、好ましくは滅菌水、例えば蒸留水、および、治療上の副作用がないと予想される当業界既知のあらゆるその他の製薬上許容できるキャリアーが挙げられる。いくつかの実施態様において、イノシンのための好ましいキャリアーは、滅菌乳酸リンゲル液である。
【0032】
本発明のその他の態様において、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、製薬上許容できる製剤中で投与してもよい。製薬上許容できる製剤は、分散系、例えば脂質ベースの製剤、リポソーム製剤、多胞性リポソーム製剤、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズが挙げられ、または、脂質ベースの製剤としては、水中油型乳濁液、ミセル、混合ミセル、合成膜小胞、および、放出された赤血球が挙げられる。製薬上許容できる製剤はまた、高分子マトリックスを含んでもよく、これは、例えば、合成ポリマー、例えばポリエステル(PLA,PLGA)、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリ無水物、および、プルロニックから選択され、または、自然に誘導されるポリマー、例えばアルブミン、アルギン酸塩、セルロース誘導体、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、および、多糖類から選択される。
【0033】
本発明のさらにその他の態様において、製薬上許容できる製剤は、被検体に製薬上許容できる製剤が投与された後、少なくとも1、2、3または4週にわたり、被検体にプリンヌクレオシドを持続的にデリバリーすること、すなわち「徐放」することを提供する。本発明の製剤の持続性のデリバリーは、例えば、徐放性カプセルまたは輸液ポンプの使用によって提供され得る。
【0034】
本発明の一実施態様のいずれかで用いられるプリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の正確な量は、当業界公知の因子に従って多様であると予想され、このような因子としては、これらに限定されないが、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の物理的および化学的性質、製薬上許容できるキャリアーの性質、目的とする投与計画、被検体の損傷の状態、および、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与方法が挙げられる。従って、全ての考えられる用途に有効なプリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の量を構成する量を一般的に説明することは実用的ではない。しかしながら、当業者であれば、このような要素の適切な考察に基づき適切な量を容易に決定することができる。治療上有効なイノシン濃度の非限定的な範囲は、約1μM〜約100mM、より好ましくは約50μM〜約50mMである。治療上有効なグアノシン濃度の非限定的な範囲は、約1μM〜約100mM、より好ましくは約50μM〜約50mMである。
【0035】
本発明に従って、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、多種多様な手段によって被検体に投与してもよい。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、CNS損傷の治療が必要な被検体に全身投与してもよい。例えば、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、血液供給(blood supply) による静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、経皮投与、または、経口投与してもよい。皮下へのデリバリーには、輸液ポンプまたはミニポンプを用いてもよい。同様に、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、CNS損傷部位に局所投与してもよい。例えば、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、脊柱の鞘へ髄腔内デリバリーしてもよい。輸液ポンプまたはミニポンプは、このような局所デリバリーに用いてもよい。
【0036】
CNS損傷の治療には、損傷のある部位への電気刺激と、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与の両方は、いずれかの時点で同時に開始されてもよい。あるいは、本発明の二部式治療の一方を他方の前に開始してもよい。すなわち、損傷のある部位への電気刺激をプリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与の前に開始してもよく、または、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与を、損傷のある部位への電気刺激の前に開始してもよい。言い換えれば、損傷のある部位への電気刺激と、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与は、いずれかの時点で同時に、または、異なる時間で、開始してもよいし、および/または、停止してもよい。
【0037】
あるいは、本発明の二部式治療の一方は、他方の前に完了していてもよい。すなわち、損傷のある部位への電気刺激は、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与を停止する前に停止してもよいし、または、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与は、損傷のある部位への電気刺激を停止させる前に停止させてもよい。
【0038】
治療期間中、損傷部位への電気刺激と、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与の両方が、同時に施される期間があることが好ましい。しかしながら、本発明はまた、損傷のある部位への電気刺激と、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与を連続して施すことも包含することに留意すべきである。連続的に施すことにおいて、治療の二つ部の間の期間は、短いことが好ましく、例えば、1時間または1日未満である。同様に、本発明は、電気刺激と、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を、交互に、または断続的に施すことを包含する。言い換えれば、本発明は、2つの治療が投与される順番、または、それらが厳密に同時になるように投与されるかどうかということによって限定されることは意図しない。電気刺激およびプリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の同時の投与が好ましいが、最低限、両方の治療が調整された治療計画の一環に含まれるように想定される。
【0039】
本発明の方法は、CNS損傷後の少なくとも部分的な神経機能の回復、および/または、神経の再生に有効である。本発明の治療の効果は、様々な方法で決定することができる。例えば、本発明の治療の効果は、神経機能の回復を検出する方法によって決定することができる。損傷のある部位を通過する活動電位(例えばCAP)の伝達の回復または増加は、神経の機能が少なくとも部分的に回復したことを示す指標として用いることができる。治療後に活動電位の伝達が増加すると、神経の機能は少なくとも部分的に回復したとみなされる。CAPの伝達の少なくとも約10%の増加が達成されるのに十分な程度に治療が伝達されることが好ましい。その上、解剖学的な連結状態の回復はまた、実施例で説明されるような、高解像度の光学顕微鏡を用いた試験によって、および/または、修復された神経組織(例えば修復された軸索)を介する細胞内の蛍光色素の拡散によって、または、修復された軸索の膜の直接的な観察によって観察することもできる。加えて、ヒトへの適用において、好ましい治療の効果は、American Spinal Injury Association(ASIA)の運動性スコア、および/または、National Animal Spinal Cord Injury Study(NASCIS)のスコアによって決定されたような脊髄神経根レベルの、1を越える回復として観察されてもよく、これらは、当業界公知であり、Wagih等(1996年)Spine 21,614〜619で説明されている。その上、獣医学的な用途において、躯幹の皮筋(CTM)反射作用の挙動の解析(実施例でより詳細に説明する)を、治療の効果、および、神経の機能が少なくとも部分的に回復したかどうかを決定するのに用いることもできる。この解析を用いると、治療後に反射作用の挙動が増加した場合、神経の機能が少なくとも部分的に回復したとみなされるが、望ましくは、CTM挙動が回復したエリアが少なくとも約10%増加することが達成されるような治療が好ましい。本発明の治療方法の効果はまた、上述の方法の組合わせによって決定してもよい。
【0040】
本発明の治療の効果は、神経の再生を検出する方法によって決定してもよい。例えば、神経の再生は、実施例で説明されるような、高解像度の光学顕微鏡を用いた試験によって、および/または、修復された神経組織(例えば修復された軸索)を介する細胞内の蛍光色素の拡散によって、または、修復された軸索の膜の直接的なによって観察することもできる。
【0041】
いくつかの実施態様において、患者に、CNS損傷部位を電気的に刺激すること、および、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与することにより、神経機能の回復の増加は、CNS損傷部位を電気的に刺激すること単独、または、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与すること単独によって生じた増加より大きくなる可能性がある。いくつかの実施態様において、患者に、CNS損傷部位を電気的に刺激すること、および、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与することにより、神経機能の回復が相乗的に増加する可能性がある。すなわち、二部式治療によって得られた神経の機能の回復は、CNS損傷部位を電気的に刺激すること単独と、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与すること単独によって得られた神経の機能の回復の合計より大きい。
【0042】
いくつかの実施態様において、本発明は、電気刺激の適用と、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与を用いた損傷の治療に加えて、その他の従来の市販の(management)化合物および/または組成物を用いた損傷の治療を含んでもよい。例えば、損傷はまた、ポリアルキレングリコールまたはステロイド(例えばメチルブレドニゾロン)で処理してもよい。例えば、ポリアルキレングリコールは、WO02/092,107、および、米国特許出願第09/438,206号(1999年11月12日付で出願された)で説明されているようにして投与してもよい。
【0043】
また、損傷部位に電気刺激を適用しないプリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の投与によるCNS損傷の治療も、本発明の範囲内であると考えられる。例えば、脊髄損傷(これらに限定されないが、慢性の脊髄損傷が挙げられる)は、電気刺激を適用しないで、イノシン投与によって治療してもよい。
【0044】
本発明は、CNS損傷(これらに限定されないが、脊髄損傷が挙げられる)を治療するためのキットを提供する。本キットは、典型的には、適切なパッケージング材中に、第一の構成と第二の構成を含み得る。第一の構成は、損傷部位に電気刺激を与える手段であり、例えば、OFS装置である。第二の構成は、治療に十分な量のプリンヌクレオシドまたはそれらの類似体である。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、皮下、静脈内、髄腔内、局所デリバリーなどに適した医薬製剤の態様であり得る。プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、イノシンであり得る。加えて、本キットは、例えば、本発明を実施するのに必要な緩衝液および溶液のようなその他の試薬を含んでいてもよい。典型的には、CNS損傷の治療のために、電気刺激を与えるため、および/または、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与するための指示書が含まれる。本キットは、例えば、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体の皮下、髄腔内または静脈内デリバリーに必要な追加の装置または試薬をさらに含んでもよい。このような装置または試薬としては、例えば、ミニポンプ、シリンジ、針、局所麻酔剤などが挙げられる。本発明において用いられる用語「パッケージング材」は、キットの内容物を収容するのに用いられる1またはそれ以上の物理的な構造を意味する。パッケージング材は、好ましくは、滅菌された汚染のない環境を提供するように、周知の方法によって構築される。パッケージング材は、第一の構成と第二の構成が、CNS損傷の治療に使用可能であることを示す標識を有する。本発明において用いられる用語「パッケージ」は、固体マトリックスまたは材料を意味し、例えばガラス、プラスチック、紙、箔などである。典型的には、「使用指示書」は、CNS損傷の治療のための本キットの第一および/または第二の構成の準備および投与を説明する明確な表現を含む。
【0045】
以下の実施例で、本発明を説明する。当然ながら、特定の実施例、材料、量および手順は、本明細書に記載の本発明の範囲と本質に従って広く解釈することができる。
【0046】
実施例
実施例1:2種の神経分化誘導性の要素(適用された細胞外電圧の勾配、および、イノシン)を同時適用することによる挙動的および解剖学的な相乗作用
【0047】
この実施例によれば、脊髄損傷(SCI)後に機能的な応答を高めるために、振動電場刺激(OFS)とイノシン輸液との治療の組合わせを用いた。研究用のSCI挙動モデルとして、成体モルモットにおける慢性の躯幹の皮筋(CTM)の機能的な欠損が、以下の数々の理由のために選択された;第一に、関連する上行CTM白質路の離断が、動物の寿命にわたりCTM機能を永久的に失わせることである。加えて、モルモットとイヌにおける対麻痺の臨床ケースの両方において、損傷の急性段階での電場の適用によって、挙動の欠損が部分的に元に戻ったが(Borgens等(1990年)J.Comp.Neurol.296,634〜653;Borgens等(1993年)Restor Neurol Neurosci 5,173〜179;Borgens(1999年)Neuroscience 91,251〜64))、さらに時間経過した慢性損傷へなされた治療に応じた機能の回復は、改良されなかった。特に、100回を越える試みにおいて、成体モルモットにおいて、SCI後のCTM機能化の自発的な回復、または、電場の適用に応じた回復は、2ヶ月より前のCTM損傷については全く観察されなかった(Borgens等,(1993年)Restor Neurol Neurosci 5,305〜322)。
【0048】
この実施例において、このような慢性CTMの欠損は、イノシン単独、または、イノシンとOFSとを組み合わせることのいずれかでの処理によって、部分的に元に戻ることができると最初に報告する。さらに、イノシンとOFSとを組合わせた処理により、OFSまたはイノシンのいずれか単独による処理よりも強い回復が生じた。
【0049】
この研究は、二部(研究1および研究2)で構成されている。主要な調査の研究1は、成体モルモットにおける、イノシンとOFSの適用に応じた、慢性SCIからの回復の解剖学的および挙動的な評価である。研究2は、離断された白質のみに関する、成体モルモットのSCIへの急性のイノシンとOFSの適用に対する解剖学的な応答を評価した。特に注意がない限り、以下の方法を両方の研究に適用する。
【0050】
動物、麻酔および外科手術
この研究には、完全な成体(約400グラム(g))の雌モルモット(ハートレー系)を用いた。外科手術の前に、それらを従来の方法でケタミン/キシリジンで麻酔し(Borgens等(2002年)J.Exp.Biol.205,1〜12)、外科手術後に加熱ランプで温め続け、調査期間中、個々におりの中で維持し、えさを適宜与えた。研究の最後に、麻酔の過剰投与によって動物を安楽死させ、その後解剖学的研究用に脊髄を回収した(Borgens等(2002年)J.Exp.Biol.205,1〜12を参照)。
【0051】
全ての動物T9〜T11に、脊髄の脊椎面を露出させる椎弓切除術を行った。右側方の半側切断を特別な切断装置を用いて行い(図1)、切断された組織に鋭利なピンを貫通させることによって、「完全」(すなわち、実質が残存していないこと)であることをさらに確認した。この操作により、脊髄の右側全体を正中線から脊髄の最も右の境界線へ切断し、吻側セグメントと尾部セグメントを形成した。脊髄の左側全体は、無傷のまま残された。離断の直後に、以前に、Borgens等(1986年)J.Comp.Neurol 250,168〜180、ならびに、BorgensおよびBohnert(1997年)Exp.Neurol.145,376〜389で説明されているように、外科用ステンレス鋼製のマーカー装置を、損傷に挿入した。研究期間中、この装置をその場に残し、組織学的に加工する前に除去した。この手順によれば、組織中の孔はそのまま残るため、数ヶ月前の慢性損傷においても正確な離断面が正確にマークされた(図1および2)。
【0052】
図1Aで示されるように、CTM反射作用の求心および遠心経路は、モルモットの左側に図示される。皮膚における侵害受容体は、脊椎の皮神経(DCN)を介して、脊髄への感覚求心を投影する。DCNは、セグメント単位で、だいたい互いに平行になるように配置され、脊髄に垂直であり、後根の構成要素として、脊髄に投影する。上行CTM求心は、脊髄を、CTM路として投影アップする。CTM路は、右側および左側の両方の腹側の索における脊髄視床路へのちょうど側方に配置される。極めてわずかな中継により、上行路が形成され、これは、頚部/胸部の連結部に位置する運動ニューロンのプールに投影する。これらは順に、側方の胸部と腕神経叢との分岐を介して、皮膚の躯幹の皮筋の後ろの遠心性の運動線維を投影する。左と右のニューロンプール間の神経の連結は存在しないが、脊髄の上行CTMの投影の範囲内に、わずかな反対側の神経支配がある。モルモットの脊髄の右側で、脊髄損傷(説明する目的のために、大きいギャップで示す)は、その側においてのみ上行CTM路をさえぎっている。これにより、背中の皮膚上に、触覚の刺激に反応しなくなる領域が生じる(すなわち反射消失)。この反射消失領域は、この脊髄の右側方の半側切断のレベルの側方、および、それより下である。注目すべきことは、損傷と同側およびそれより上部、ならびに損傷と反対側のCTM反射作用は、影響を受けないことである。両方のCTM路を傷つけた全幅の損傷は、動物の両側の損傷より下の皮膚の反応性を損失させると予想される。損傷の上方にある背中の皮膚は、このような脊髄損傷の影響を受けないと予想される。これを、ビデオの再構成で示す(図1に示す)。図1Bは、無傷のCTM受容域の輪郭を示す。この領域内に触覚を与えると、背中の皮膚とこの領域の外側に単収縮が生じたが、刺激によるCTMの皮膚の収縮は生じなかった。この一連の鎮静処置した動物の皮膚の光の触覚の刺激を上から録画し、図面をコンピューターによって再構成する。図1Cは、脊髄全幅を圧縮することによる損傷の結果を示す。CTM受容域の下半分において輪郭をとられた領域は、反射消失領域である。触覚の刺激に反応しなくなったのは、このCTM受容域の下半分である。図1Dは、CTMの回復領域の輪郭を示す。この領域内において、CTM反応性は元に戻っている。図1Eは、録画テープからの枠であり、毛を剃られた動物の背中上に入れ墨されたドットのグリッドを示す。このグリッドは、CTM試験中に動物の背中にマーカーで描かれた輪郭と組み合わせた、CTM反射作用のさらなる定量に有用である。
【0053】
全ての研究グループを、安楽死させる前に、さらに3ヶ月評価した。
【0054】
研究1において、脊髄の離断を行い、その動物は、約3ヶ月未処理のままにした。次に、以下で概略するように、慢性の動物に実験的処理を実行した。
【0055】
研究2において、動物を離断し、24時間以内に実験的に処理した。離断後約30日に、細胞内軸索マーカーを脊髄に注射し、安楽死の約18時間後に回復した。研究2の動物では、解剖学的な評価のみを行った。挙動の試験は行わなかった。
【0056】
実験グループ
研究1における3種の実験グループは以下の通りである:
1)「イノシンのみ」グループ。15匹の動物の皮下に、アルゼット(Alzet)マイクロ浸透圧ポンプ(モデル番号1002)を頚部領域の背中の皮膚の下に埋め込んだ。このポンプは、イノシン溶液(10ミルモル濃度(mM),滅菌乳酸リンゲル液中)を0.25ミリリットル(mL)/時間でデリバリーした。イノシンの連続的な点滴を14日間継続し、次に、安楽死までに中止し、約2.5月後に安楽死させた。
【0057】
2)「イノシンおよびOFS」グループ。これらの16匹の動物は、上述と同一のイノシンの点滴を受けたが、それに加えて、小型化OFSユニット(MoriartyおよびBorgens(1999年)Restor Neurol Neurosci 14,53〜64)を同時に埋め込んだ。小型化OFSユニットは、極性の逆転をデューティサイクル15分に設定して、4週にわたりトータルで約45ミリアンペア(mA)の電流をデリバリーした(以下の刺激装置の設計、および、埋め込みを参照)。
【0058】
3)15匹の動物の「コントロール」グループ。これらの動物に、アルゼットポンプ(滅菌乳酸リンゲル液のみをデリバリーする)と、機能しない偽のOFS刺激装置を埋め込んだ。
【0059】
研究のこの部分の最後に、研究1における全ての動物のCTMの挙動を評価し、白質の解剖学的を評価した。
【0060】
研究1には、この調査における偽のOFSまたは活性OFS単独を埋め込んだ研究グループは含まれていない。その代わりに、活性および偽のOPS刺激装置両方の埋め込みを用いた以前の実験で、同様に処理された慢性モルモットの相当数が処理されており、これらのデータはいずれかで報告されおり(Borgens等(1993年)Restor Neurol Neurosci 5,305〜322)ため、本発明においてはこの従来データを用いる。簡単に言えば、Borgens等(1993年)Res Neurol & Neurosci 5,173〜179においてより詳細に報告されているように、半側切断後3ヶ月で偽の刺激装置を埋め込んだ26匹の動物のうち、21匹を、半側切断後12ヶ月を越えて観察し、1匹を6ヶ月、3匹を6ヶ月未満観察した。全ての動物において、観察期間を通して、反射消失領域の性質、サイズまたは側面という観点での変化は観察されなかった。反射消失領域内での触覚の刺激に応じたCTM反射作用活性の完全な欠失は、全ての偽の処理を施した動物において特徴的であった。半側切断後3ヶ月に活性電気刺激装置を埋め込んだ動物において、頭部に負の電場が適用された13匹の動物ではCTM反射作用の回復は観察されず、そのうち8匹を少なくとも9ヶ月間継続し、そのうち5匹を3ヶ月観察した;または、尾部に負の電場が適用された11匹の動物において、そのうち8匹を9ヶ月観察し、そのうち3匹を3ヶ月観察した。偽の処理を施されたグループにおいて、電気的に処理された動物の反射消失エリアは、研究期間中、形状および特徴の変化はなかった。
【0061】
研究2において、「イノシンのみ」グループ(14匹の動物)、「イノシンおよびOFS」グループ(15匹の動物)、および、「コントロール」グループ(13匹の動物)を、解剖学的な方法だけを用いて約60日の最後に評価した。
【0062】
SCI後のCTM反射作用の挙動の評価
SCIの後の、ロングトラクトの感覚運動の機能化に対して評価するために選択された挙動モデルは、CTM反射作用である(Blight等(1990年)J of Comp Neurol 296,614〜33;Borgens(2003年)Restoring Function to the Injured Human Spinal Cord(Springer−Verlag,Heidelberg)で総論されている)。CTM反射作用は、皮膚の筋肉の収縮として観察され、側の皮膚の局所的な触覚の刺激に応じて「しわ」として観察される。脊髄損傷の観点で、同様に、その神経学的な回路の観点で、CTM反射作用は、ラット(TheriaultおよびDiamond(1988年)J Neurophysiol 60,446〜462)、および、モルモット(Blight等(1990年)J of Comp Neurol 296,614〜33)の両方において完全に同定されており、このことは、当業界周知である。本発明の研究では、実験用ラットおよびモルモットにおける、SCIの自発的な「歩行および足踏み」モデルは用いられなかったが、これは、完全に離断した後でも脊髄による(反射作用的な)歩行および足踏みが高い確率で生じる可能性があり、さらに、自発的な歩行運動を裏付ける神経回路は十分に同定されていないということによる(Blight等(1990年)J of Comp Neurol 296,614〜33;Borgens等(2002年)J.Exp.Biol.205,1〜12;Borgens(2003年)Restoring Function to the Injured Human Spinal Cord(Springer−Verlag,Heidelberg))。CTM反射作用モデルの重要な特徴は、脊髄内の上行求心路を離断した後に、CTM機能化が総合的で完全に損失していることである。これは、動物の寿命にわたり自発的に(いかなる程度にも)回復しない(Blight等(1990年)J of Comp Neurol 296,614〜33;Borgens(2003年)Restoring Function to the Injured Human Spinal Cord.(Springer−Verlag,Heidelberg))。この特定の研究において、未処理の動物において、離断と同側(右側)、およびそれより下部の背中の皮膚の筋肉の収縮は全て、再び機能することは予想されない。
【0063】
CTMの挙動を説明し、分析し、定量する手段の徹底的な説明は、例えば、Borgens等(2002年)J.Exp.Biol.205,1〜12に記載されている。簡単に言えば、ドットのマトリックスは、モルモットの毛を剃られた背中の皮膚にマークされる。皮膚が収縮すると(通常、局所刺激の方向に)ドットも同様に移動する。背中の皮膚の刺激の配列全体は、CTM運動を惹起するモノフィラメントプローブと共に上から録画される(図1)。これを、SCIの前に無傷(損傷のない動物)で実行して、それぞれの動物に関するCTM運動の個々のパターンを確立する。
【0064】
ドライイレースマーカーを用いて、技術者により、無傷の動物における応答する皮膚と応答しない皮膚の境界をマークし、動物の背中の皮膚上の総合的に感受性のあるCTM域の完全な画像を提供する。CTM反射作用の損失を、触覚の刺激に反応しなくなった皮膚の領域として観察し、CTM反射作用の回復は、この領域への光の触覚の刺激に応じた皮膚の収縮が元に戻ることと定義される。ベクター、収縮速度、および、刺激の後のCTM応答の潜伏期間は、録画された挙動の定量的なコンピューター処理された評価から得ることができるが(Borgens等(2002年)J.Exp.Biol.205,1〜12)、最も有益な測定は、もともと無傷の受容域に対するCTM損失のエリア(%)である。例えば、脊髄が中央の胸部領域で左から右に完全に離断された場合、総受容域の約50%が破壊されると予想される。これは、離断面上部の受容域が、完全に無傷であり、機能化されているためである。従って、CTM反応性の50%が損傷の「下部」(尾部)で失われ、50%が損傷の「上部」(吻側)で無傷のまま残る。
【0065】
本発明の実施例で用いられた離断手順において(右片側の半側切断)、脊髄は、正中線の片側のみが完全に離断され、従って、CTMの機能化は、損傷面の「上部」と、「反対」側の両方において正常である。通常、これにより、総受容域のCTM反応性の約25%が損失する。
【0066】
脊髄白質の軸索の細胞内の標識化
多数の以前の出版物において、モルモットの脊髄白質への、様々な細胞内の標識の注入が説明されている。例えば、Borgens等(1986年)J Comp Neural 250,168〜180、および、Borgens等(1999年)Journal of Neurotrauma 16,639〜57を参照。簡単に言えば、動物を殺す約18時間前に、脊髄に外科手術を施し、蛍光標識されたデキストラン(約20mL)をハミルトン(Hamiliton)のシリンジを用いて注入した。標識(50%,蒸留水中;10,000ダルトン)を白質の実質、離断面から吻側および尾部への約2個の脊椎セグメントに深く注入した(通常は、留置マーカー装置があるためにまだ目視可能である)。FITC接合デキストラン(「フロロ−エメラルド(Flouro−emerald)」)を離断面の吻側に注入し、ローダミン接合デキストラン(「フロロ−ルビー(Flouro−ruby)」)を離断面の下部に注入した。従って、この前方への二重標識技術により、上行線維(大部分は感覚求心線維)(損傷に向かって、その下部から投影した)と、下行軸索(主として運動線維)(損傷に向かって、その上部から投影した)の両方がマークされた。縦方向に水平な断片から組織学的サンプルを得たが、これにおいて、単一の軸索の投影の全範囲は、場合によってはトレースされて、離断面に届かない、または、離断面に再生する、離断面の周りに再生する、または、離断面を越えて再生することがあり得る。
【0067】
この手順は、場合によっては、単一の単位軸索の変性および再生の劇的な例を提供する可能性がある。しかしながら、縦方向に水平な断片における個々の軸索をカウントする試みは生産的ではない。場合によっては、軸索は、ねじれた、および、湾曲した軌道をとり、個々の組織学的サンプルにおいて1回を越えてカウントすることが予想される。加えて、線維の伸長および分岐は、個々の切断された線維の断端からの伸長に対して、誤ったカウントが生じる可能性がある。その代わりに、動物(軸索が離断面から250μm超(留置マーカーの使用によって正確に同定された)で、実際の離断面の250μm以内に終結し、正確な離断面を隣接する脊髄セグメントを越えるようにトレースすることができる)の比率を比較する。これらのデータを得る際、評価装置において、動物の実験的処理は無視された。オリンパス(Olympus)のVan Ox顕微鏡からの画像を、オプトロニクス(Optronics)DEI−750カラービデオカメラを用いて得て、アドビ(Adobe)のトゥエイン(Twain)32ソフトウェアを用いてPCにキャプチャーした。
【0068】
刺激装置の設計、および、埋め込み
モルモットに埋め込まれた小型化OFSユニットは、以前に出版された論文(MoriartyおよびBorgens(1999年)Restor Neural and Neurosci 14,53〜64)で用いられたものと同一であった。OFSの製造およびOFS埋め込みの図式的な回路は、当業界公知である(Borgens等(1993年)Restor Neurol Neurosci 5,305〜322;Borgens(1999年)Neuroscience 91,251〜64)。簡単に言えば、個々のユニットを、医薬品グレードのテフロン(Teflon)でコーティングし、それらのアウトプットは、30μAの総DC電流とし、極性の逆転は、15分間ごとに発生させた。テフロンコーティングした刺激装置の長い対を、外科的に、刺激装置の埋め込み部位(背中の皮膚の下)から脊柱に経由させ、そこで、脊椎傍の筋系に固定した。これらの医薬品グレードの白金/イリジウム電極の隔離されていない末端を、脊髄損傷の吻側および尾部に約2個の脊椎セグメントで配置した。これらのユニットは、電界強度約10mV/mmに対して、有効電流密度45μA/cmを生じさせると推定される。これらの推定は、刺激の間に電流密度と電界強度を4回測定することに基づく(Borgens等(1990年)J.Comp.Neurol.296,634〜653)。
【0069】
統計学的評価
通常、手段のノンパラメトリック評価と比較には、マン‐ホイットニーまたはウィルコクソン(Wilcoxian)の検定のいずれかの使用が含まれるが、一方で、比率の比較は、フィッシャーの直接確率検定を用いて、Χ2乗検定試験のより従来的な改変法を用いて行われた。全ての比較は、インスタット(Instat)ソフトウェアで行われた。
【0070】
一般的な研究の実行
初めに、2つの装置(OFSユニットと浸透圧ポンプ)のための実質的な外科手術と埋め込み手順を考慮すると、研究1における慢性的に損傷のある動物における動物の長期の生存と健康が懸案事項であり、最初の脊髄外科手術の後の長い生存時間が必要とされた(6ヶ月)。しかしながら、研究1に用いられた46匹の動物のうち、様々な難点のために取り替える必要があったのはわずか7匹であった。外科手術の後に、ただし実験的「治療」を約3ヶ月で始める前に、2匹の動物を取り除いた。それらは、損傷が「失敗していたこと」が明白であったため、すなわちCTMの挙動は、脊髄損傷によって失われていなかったために取り除いた。1匹の動物は、最初の外科手術の直後に死亡した。実験的処理の前に自食作用の問題のために3匹の動物を取り除いた。実験的処理の開始後に、装置の埋め込み部位における持続性の感染のために1匹の動物を置き換えた。これは、OFS埋め込み部位に局在化しており、この動物を人道的に安楽死させ、挙動的または解剖学的に評価されなかった。
【0071】
調査の最後に、CTM損失の程度をプラニメトリによって解析した。各動物における無傷のCTM受容域の単位エリア(100%として算出する)を、半側切断の次の日の損失%と比較した。これは、CTMの欠損の単位エリアに対して、全てのグループが同様に標準化した損傷を受けている場合に成立する。全てのグループが、統計学的に類似したCTM損失率で外科手術から生き残った。
【0072】
CTM反射作用の挙動の回復
ポンプ(滅菌塩類溶液のみをデリバリーされた)と、不活性なOFSユニットを埋め込まれた15匹のコントロール動物のうち、いずれかの非機能的CTM受容域を回復させた動物は1匹ではなかった。研究の最後におけるそれらのCTM反応性の性質は、脊髄の半側切断によって生じた性質と同一であり、すなわち、受容域の約25%が不活性のままであった。実験グループ;「イノシン単独」と「イノシンとOFS」の両方において、様々な程度のCTMの回復が観察された。組合わせ治療で回復した動物に比べて(6匹の動物)、イノシン処理されたグループにおいて、より多くの動物がCTMの挙動をいくらか回復させた(11匹の動物);しかしながら、この差は統計学的に有意ではなかった(P=0.16;フィッシャーの直接確率検定)。しかしながら、両方の治療は、コントロールグループに比べて、統計学的に有意にCTM反射作用を回復させた(「コントロール」対「イノシン単独」;P<0.0001;「コントロール」対「イノシンとOFS」;0.01,フィッシャーの直接確率検定)。組合わせ治療において、全ての回復した動物は、ただし、片側に、実験的な適用の1ヶ月後までにCTMが明らかに出現した。CTMの回復は、併用療法に応じて、さらに遅れた(これと同じ適用後の期間中に、11匹の「イノシンとOFS」動物のうち3匹しか回復しなかったため)。両方のグループにおける回復した動物の総数は低いことを考慮したとしても、この差は統計学的に有意であった(P=0.04;フィッシャーの直接確率検定)。
【0073】
研究の最後に、組合わせ治療に応じたCTM受容域の回復(%)はさらに変動したが、イノシン治療単独によって達成された回復(%)より大きかったが(23.5±3.6と比較して、平均28.1±17.8)、この差は統計学的に有意ではなかった(P=0.5;マン‐ホイットニー)。
【0074】
軸索の再生の解剖学
下記の表1は、3グループそれぞれにおける、細胞内標識が注射された脊髄(N)、および、組織学的に損失している脊髄(LTH)の数を示す。これら脊髄(マークした線維が4ゾーンにトレースされている)の比率は、試験された脊髄の数に対して示された。グループ間の統計学的な比較は、グラフの下部に示す(フィッシャーの両側直接確率検定)。このデータは、ローダミン標識された上行線維と、FITC標識された下行する投影の両方に関して提供される。留意すべきことは、組織学的に損失した脊髄の数は、いずれのグループ間でも顕著に異なっていなかったことである。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
表1に、慢性的に損傷のある動物の研究1における全ての動物の脊髄内における、上行路と下行路の両方の前方への充填の結果をまとめる。留意すべきことは、全ての脊髄が比較する価値があるわけではないと考えらることである。ここで比較されないもの、または、考察されないものにおける最も顕著な問題は、標識の取り込みが不足していることである。このような「誤った充填」は、脊髄の左側(離断されていない側)にある損傷から2つの脊椎セグメントで色素を取り込んだ線維路を示す許容できる脊髄と簡単に区別することができた。これらは通常、場合によっては、半側切断を過ぎて1センチメートル超を投影した。従って、脊髄が不十分な色素取り込みの明白な兆候を示す場合、または、その他の点で、組織学的な加工におけるその他の問題による不良な候補である場合に、それらは評価されなかった。言い換えれば、正中線の左の、すなわち半側切断に隣接した脊髄内で、無傷で標識された軸索が出現している脊髄のみを、解剖学的に評価した(図2を参照)。損傷に対する軸索の投影の程度または距離を決定する際に、その他のプロトコールを1つだけ続いて用いた。軸索の終結は、平滑と定義され、また場合によっては、焦点をはっきりさせる場合、先端が示された。通常、線維は、蛍光強度の低下により先端がはっきりしていない場合、終結したとはみなされなかった。場合によっては、線維がマイクロトームで離断されている場合、軸索末端の誤った印象が生じる可能性もある(残存した部分は、次の組織学的断片に用いられる(Borgens等(1986年)J Comp Neural 250,168〜180を参照)。しかしながら、これは、特定のグループにおいてはそれほど頻繁には起こらないと予想され、それらの実験的処理の知見を用いずに、断片を評価し、スコアをつけた。
【0078】
いずれかのグループにおける脊髄の30%〜40%に、標識の不十分な取り込み(および/または、組織学的な加工によるその他の問題)が起こったが、有効である。グループ間で組織学的に損失した脊髄の数を比較(吻側および尾部の充填の質(それぞれ下行路および上行路)の比較など)したところ、それらの間で有意差はなかった (表1)。最終的に、デキストラン注入点と損傷との間の後根で色素が取り込まれた証拠はなく、それゆえに、これに基づいて排除はなされなかった(BorgensおよびBohnert(1997年)Exp Neural 145,376〜89を参照)。
【0079】
全ての(ただし3匹コントロール)動物において、前方に向かって標識された線維は、離断面に対して吻側または尾部に向かって250μm超の距離で終結していた。これらの3匹のうち1匹のみにおいて(上行軸索)、線維は、充填ポイントから損傷面に(尾部から損傷に)トレースされたが、損傷をクロスしていなかった。同じ動物において、吻側の脊髄から投影している線維はこの面に達していなかったが、その約100μm以内に充填されていた。他の2匹の動物において、上行および下行線維は、面を250μm越えて前方に向かって充填されたが、以前の標本でみられるように損傷近辺に投影しなかった。
【0080】
解剖学的データの考察を簡易化するために、標識された上行路および下行路の考察を別々に示す。表1は、動物の比率を比較した詳細と、それらの間の統計学的比較を提供する。上行路の比較に関して、研究に利用可能な脊髄の数はさらに減少したが、コントロールグループと両方の治療グループとの差が最も顕著であった。特に、イノシン/OFSの組合わせ治療により、上行線維が、損傷の250μm以内で、それに加えて損傷面で終結されていることが発見された脊髄の数が、顕著に増強することが明らかになった。9のコントロール脊髄のうち2つだけが、線維が損傷の250μm以内であることを示し、これらのうち一つだけにおいて、線維が半側切断面にトレースすることができる。イノシン/OFSで処理した脊髄の約90%が、これらの位置に線維を含み、これらの脊髄軸索の45%において、吻側セグメントへトレースすることができる。3匹全ての比較(すなわち、離断面の近辺に、離断面で、または、離断面を越えて)において、コントロールグループと併用療法との比較で統計学的な有意差が達成された。また、離断面の250μm以内に軸索を含むイノシンの輸液で処理された脊髄も、統計学的に有意に多かった。しかしながら、軸索が、切断面に、または、切断面の周りに、および/または、切断面を越えてトレースされたとみられる脊髄を比較したところ、有意性は達成されなかった(図3)。
【0081】
下行路内の軸索を標識するためのFITC標識されたデキストランの前方への適用は、ローダミン−で標識されたデキストランよりもかなり優れた取り込み、および、優れた結合性を特徴とするが、コントロール、イノシン単独、および、イノシンとOFSの組合わせ治療の組織学的に損失した数の差は、統計学的に有意ではなかった。線維が尾部セグメントへトレースされていないとみられる(損傷の周りに、または、損傷を通過して)脊髄は、コントロールと併用療法とを比較した場合にのみ有意であった。線維が離断面にある、または、250μm以内にある脊髄を比較したところ、イノシンで処理したグループのみが、コントロール標本と有意差があった。
【0082】
まとめると、評価において脊髄の数が減少した場合でも、下行線維路よりも、上行路において、離断の後の軸索の退行性の変性(またはダイバック)が減少し、実験的処理に応じた軸索が再生するという最大の証拠を示した。その上、併用療法は、コントロールに対してこのような結果を生じさせるという点において、イノシン治療単独より有効であった。
【0083】
実施例2
イヌにおける対麻痺の臨床ケースにおける、組合わせたOFSとイノシン治療の作用
イノシンと組合わせたOFSの臨床試験は、椎間板ヘルニアのために天然に生じた脊髄損傷があるイヌで行われる。試験承認の基準は、Borgens等(1993年)Restor Neurol Neurosci 5,305〜322で以前に示されているとおりである。簡単に言えば、選択基準としては、以下のうち1またはそれ以上が挙げられる:完全な対麻痺、これは、神経学的試験および電気生理学的試験によって定義される;無傷のセグメントの反射作用;明らかな吻側または尾部への壊死の蔓延がない椎間板ヘルニアおよび局所的な損傷による脊髄の圧縮の、放射線学および脊髄造影法的な証拠;16キログラム未満の体重減少。急性損傷と慢性損傷の両方を研究することができる。急性損傷は、治療まで1ヶ月未満の麻痺の発症を特徴とする。慢性損傷は、治療の1ヶ月超前の麻痺の発症を特徴とする。OFS装置の外科的埋め込みは、以前に、Borgens等(1993年)Restor Neurol Neurosci 5,305〜322で説明されているようになされてもよい。イノシンでの処理は、実施例1に示す一般的な手順に従ってもよい。研究グループは、OFSとイノシンで処理された動物と、イノシン単独で処理された動物を含むと予想される。さらに、研究に含まれるコントロールグループとしては、以下の、偽のOFSと偽のイノシン治療で処理された動物、偽のOFS治療で処理された動物、偽のイノシンで処理された動物、および、治療を受けていない動物のいずれかが挙げられる。動物は、以前に、Borgens等(1993年) Restor Neurol Neurosci 5,305〜322で説明されているように、神経学的および電気生理学的な試験を受け得る。
【0084】
実施例3
ヒトにおけるOFSおよびイノシン治療の臨床試験
脊髄損傷を有する患者は、本発明で説明されたOFSとイノシンでの組合わせ処理のフェーズI、フェーズIIおよびフェーズIII臨床試験に参加するために、加えられ得る。承認は、適切な治験審査委員会(Institutional Review Board)から得られ得る。イノシンは、PDAの医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(Good Manufacturing Practice;GMP)に従う供給元から得られ得る。患者は、治療後1年間は観察され得る。
【0085】
ここで引用された全ての特許、特許出願、公報、および、電子的に利用可能な材料(例えば、GenBankおよびRefSeqなどにおけるヌクレオチド配列の提出、および、例えば、SwissProt、PIR、PRF、PDBおよびGenBankにおけるアミノ酸配列の提出、およびRefSeqにおいて注釈されたコード領域の翻訳、が挙げられる)の完全な開示は、参照により開示に含まれる。前述の詳細な説明および実施例は、単に理解するためだけに提供されたものである。それらから、不必要な限定が考慮されることはない。本発明は、示された、および、説明された正確な詳細に限定されず、当業者に明らかな改変が、請求項によって定義された本発明の範囲内で含まれ得る。
【0086】
全ての項目は、読者に便宜をはかったものであり、特に他の規定がない限り、項目の後に続く本分の意味を限定するのに用いられることはない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】脊髄損傷に関する挙動インデックスとしての、躯幹の皮筋(CTM)の反射作用を示す。
【図2】留置マーカー装置を用いた離断面の組織学的な決定を示す。
【図3】実験的な適用の後にの、上行(ゾーン1〜4,左から右へ移動する)、および、下行(ゾーン1〜4,右から左へ移動する)軸索の投影を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊髄損傷を有する患者を治療する方法であって:
脊髄損傷部位を電気的に刺激すること;および、
プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を患者に投与すること;
を含み、損傷のある脊髄にわたる神経の機能が少なくとも部分的に回復される、前記方法。
【請求項2】
患者に、脊髄損傷部位を電気的に刺激する装置を埋め込むことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記装置は、振動電場刺激装置である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プリンヌクレオシドは、イノシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、患者に全身投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、経口投与または皮下投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、脊髄損傷部位に局所投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
患者に装置を埋め込むことをさらに含み、前記装置により、前記プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体が局所投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記脊髄損傷は、治療の3ヶ月より前に生じたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記患者は、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記患者は、家庭用のペットである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
神経機能の前記回復は、神経インパルスの伝達の回復、伝達作用能力の検出可能な増加、解剖学的な連結状態の観察、1を越える脊髄神経根レベルの回復、反射作用の挙動の増加、またはそれらの組合わせによって証明される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
脊髄損傷を有する患者を治療する方法であって:
脊髄損傷部位を電気的に刺激すること;および、
患者に、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与すること;
を含み、脊髄損傷部位における神経の再生が刺激される、前記方法。
【請求項14】
脊髄損傷を有する患者を治療する方法であって、患者に、損傷のある脊髄にわたる神経の機能を回復させるのに有効な条件下でプリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与することを含む、前記方法。
【請求項15】
脊髄損傷を有する患者を治療する方法であって、患者に、脊髄損傷部位における神経の再生を刺激するのに有効な条件下でプリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を投与することを含む、前記方法。
【請求項16】
中枢神経系の損傷を治療するためのキットであって、前記損傷部位に電気刺激を適用するための手段、および、プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を含む、前記キット。
【請求項17】
前記損傷部位に電気刺激を適用するための手段は、振動電場刺激装置を含み、前記プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体は、イノシンを含む、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記プリンヌクレオシドまたはそれらの類似体を、皮下、静脈内または髄腔内にデリバリーするための装置をさらに含む、請求項16に記載のキット。
【請求項19】
中枢神経系の損傷の治療に関する書面の指示書をさらに含む、請求項16に記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2006−517807(P2006−517807A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565782(P2004−565782)
【出願日】平成15年12月30日(2003.12.30)
【国際出願番号】PCT/US2003/041480
【国際公開番号】WO2004/060146
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
TEFLON
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】