説明

中枢神経系(CNS)の原発性および二次性腫瘍を治療する方法並びに組成物

【課題】哺乳類の中枢神経系(脳および脊髄、眼)の原発性および/または二次性腫瘍の治療および/または予防および/または抑制のための方法および組成物の提供。
【解決手段】この場合、タウロリジンおよび/またはタウラルタムおよび/またはその生物学的同等物のようなメチロール転移薬剤の有効量が、中枢神経系腫瘍が増殖しているか、またはそのおそれのある哺乳類対象者に投与される。さらにまた、微量透析法、灌注法、埋め込み法、および血管造影法を用いる、溶液中のタウロリジンおよび/またはタウラルタムおよび/またはその生物学的同等物の局所適用方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経系(CNS)の腫瘍を治療する分野に属する。
【背景技術】
【0002】
タウロリジン(Taurolidine)(ビス−(1,1−ジオキソペルヒドロ−1,2,4−チアジアジニル−4)メタン)はガイストリッヒ=ファーマ(Geistlich Pharma)によって開発された。それは、白色結晶物質で2%まで水に溶解し、またタウリンアミド2分子およびホルムアルデヒド3分子で構成され、メチレン基によって架橋された2環構造を有する。
タウロリジンは主として抗生物質作用および抗内毒素作用を有する。それは化学反応によって作用するので、微生物の耐性はまだ見つかっていない。タウロリジンのこの作用は、活性を有するメチロール基の供与体であるその活性代謝物質(メチロールタウラルタムおよびメチロールタウリンアミド)によって仲介される。活性メチロール基は細菌の細胞壁および内毒素の第一アミノ基と反応することによって不活化する。
【0003】
タウロリジンのさらに別の作用は以前に報告された。すなわち、単核細胞におけるTNFおよびIL−1ベータの阻害(Bedrosian, 1991)、腫瘍壊死因子の毒性の抑制、および腹腔鏡による手術での腹腔腫瘍細胞の増殖抑制(Jacobi, 1997)である。
タウロリジン溶液は、腹膜炎の際に腹腔の点滴または洗浄溶液として用いられた。術後点滴の場合には、意識のある患者は、副作用として腹膜神経の刺激、時には鎮痛剤または麻酔剤の静脈投与を必要とする強い焼灼感を訴えた。
【0004】
Monsonら(PCT国際公開WO92/00743号)は、ある種の身体腫瘍(JRT. Monson, PS. Ramsey, JH. Donohue, Preliminary evidence that taurolidine is anti-neoplastic as well as anti-endotoxin and anti-microbial., Abstract Br. J. Surg. 77(6):1990, A711)、in vivoマウスモデルでのB16メラノーマ細胞およびMethA肉腫細胞、並びにin vitroの線維芽腫瘍細胞LS174T(結腸)癌細胞およびJurkat(白血病)細胞(国際出願PCT/EP91/01269号、国際公開WO92/00743号、"Use of Taurolidine and/or Taurultam for the treatment of tumors")に対するタウロリジンおよび/またはタウラルタム(Taurultam)の選択的な直接抑制作用を開示している。しかしながら、脳および中枢神経系(CNS)の髄質の原発性腫瘍は身体のこれらのものとは非常に異なっている。神経細胞は他の器官の細胞とは顕著に異なっており、はるかに複雑な構造を有する。神経細胞は、刺激および感覚を伝達するために作用する極めて多数の分枝を特徴とする。これら分枝には刺激を受け取る樹状突起および刺激を射出する軸索が含まれる。神経膠は、ニューロンよりも数多く存在し、神経細胞に安定性を与える膠細胞(グリア細胞)である。膠細胞は鋭敏な神経細胞の保護および代謝に必要である。CNS腫瘍が生じる細胞は他の腫瘍と比較した場合異なる代謝を有する。CNS腫瘍の神経系外への転移は非常に稀である。そのような腫瘍は機能的に重要な領域に存在するか、または疎らに分散しているので、効果的な外科処置はしばしば不可能である。
【0005】
脳および脊髄の原発性腫瘍はCNSの種々の細胞型から生じる。これらの細胞型は、ニューロン(神経単位機能に寄与する)および膠細胞(支持機能および栄養補給機能を有する)である。膠細胞およびニューロン細胞の種々の亜型に対応して、種々のCNS腫瘍型が存在する。最も一般的な脳の腫瘍は膠細胞から生じる。種々の亜型(星状細胞腫、稀突起神経膠細胞腫、上衣細胞腫など)は「神経膠腫」という用語に包含される。
神経膠腫は最も一般的な原発性脳腫瘍である。神経膠腫の発生率は年間約5/100000人である。50%以上が神経膠芽細胞腫で、大半は悪性型で、全腫瘍関連死亡率の2.5%以上に一致する。積極的な治療(外科手術、放射線療法および化学療法を含む)にもかかわらず、患者の95%以上が診断後2年以内に死亡する。
【0006】
脳腫瘍は、「末梢の」腫瘍と比較した場合いくつかの特異な性状を有する。それらは骨質の頭蓋骨によって作られる空間占有病巣として作用する。この状態はヘルニア形成を惹起し、さらに腫瘍増殖が収容能力より大きいときは死を招く。さらにまた、原発性脳腫瘍はしばしば全中枢神経系内の脳脊髄液を介して転移する。脳腫瘍細胞は、「末梢の」腫瘍細胞と比較して細胞形成で低い凝集性をもつ(W. Janisch: Pathologie der Geschwulste des Zentralnervensystems In: Klinische Neuropathologie, J. Cervos-Navarro & R. Ferszt(Eds.) Thieme, Stuttgart, New York, 1989)。さらに脳腫瘍代謝は脳/血液関門の影響を受ける。
神経膠性およびニューロン性の両タイプの腫瘍は悪性になりやすい。悪性神経膠腫は良性神経膠腫より頻度が高い(85%対15%)。米国では、毎年約20000例の新規な神経膠腫および髄芽腫が発生する。神経膠芽腫が最も一般的である(星状細胞腫の中で約65%)。
【0007】
原発性CNS腫瘍の治療の選択肢には外科手術、放射線療法、および化学療法が含まれる。腫瘍境界の特定が困難であることと脳領域内に位置するために、完全な切除はしばしば不可能である。ほとんど全ての悪性神経膠腫が数カ月以内に再発し、90%は原発部位に再発する。再発神経膠腫の再手術によって典型的には約36週の延命が得られる(良好な生活の質が得られるのは10週)。神経膠腫手術後の放射線療法の有益な効果に関する優れた構想の研究は見当たらない。65才以上の患者では、生検プラス照射療法の後の中央生存値は約17週で、さらに腫瘍除去プラス照射療法の後では約30週である(神経膠腫の発生率のピークは約60才である)。しかしながら、完全な腫瘍除去プラス放射線療法が神経膠腫治療の参考標準であると考えられる。
【0008】
アルキル化剤を用いる化学療法は約30%の陽性応答率を有する。陽性応答は一般に生存を6−8週延長する。しかしながら、アルキル化剤を用いる化学療法で治療した患者の約50%しか通常の活動を維持できない。
診断および治療の進歩にもかかわらず、悪性の原発性CNS腫瘍をもつ患者の予後はなお不良である。完全な摘出および照射を含む最適療法後の神経膠芽腫患者の中央生存値は、約10箇月未満である(第III段階の星状細胞腫で約1.6年)。神経膠芽腫患者の1年生存率は約35%、2年生存率は約8%である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
いくつかの原発性悪性中枢神経系腫瘍は、その位置またはびまん性拡張のために(神経膠腫症、びまん性脳幹神経膠腫)外科的治療が不可能である。化学療法は一般的に推奨されていない。なぜならば、これらのアルキル化剤(BCNU、CCNU、プロカルバジン)に対する応答率は患者の約10%であるからである(M.S. Greenberg, Handbook of Neurosurgery. 3rd Ed.(1994), Greenberg Graphics Inc., Lakekand, FL, USA)。これまでこのような患者には姑息的な照射以外に治療は与えられなかった。したがって、中枢神経系の原発性悪性腫瘍の治療法は極めて不満足なものであった。
当技術分野では中枢神経系腫瘍を治療する新規な方法および組成物の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、哺乳類の中枢神経系腫瘍の治療のために、メチロール転移剤(タウロリジンおよび/またはタウラルタムを含む)を使用することに関する。タウロリジンの腹膜炎術後点滴の副作用である腹膜神経の刺激および強い焼灼感にもかかわらず、驚くべきことにCNS神経細胞(胎児髄膜細胞の特に感受性の強い幹細胞を含む)はタウロリジン/タウロラルタム溶液の投与後に影響を受けないことが見出された。
【0011】
ニューロン腫瘍細胞株および神経膠腫瘍細胞株に対してタウロリジンおよび/またはタウラルタムが直接的抗新形成作用を示すことは驚くべきことであった。この作用は、他の腫瘍細胞と比較して、特に化学療法剤に対するそれらの反応に関する脳腫瘍細胞の極めて異なる反応のために極めて予期に反していた。さらにまた、タウロリジンおよび/またはタウロラルタムの抗新形成作用は、細胞粘着分子に対する影響とのみ関連していると考えられた。このことは内視鏡腹腔腫瘍摘出術に続く転移腫瘍増殖の防止を説明する。脳腫瘍細胞に対する直接的抗新形成作用は極めて予想に反するものであった。
【0012】
タウロリジンおよびタウラルタム、その中間体および活性代謝物はメチロール転移剤である。それらはメチロール基を作用部位に移転させることによって機能する。両物質とも毒性が低く、正常細胞に対して細胞毒性をもたない。
本発明は、哺乳類の中枢神経系の原発性および二次性腫瘍の治療および予防、および/または抑制を提供し、この方法では、有効用量のメチロール転移剤(例えばタウロリジンおよび/またはタウラルタム)が、中枢神経系腫瘍の増殖をもつか、またはそのおそれがある哺乳類の対象者に投与される。さらにまた本発明は、微量透析法、灌注法、埋め込み法および血管造影法を用いて溶液中のタウロリジンおよび/またはタウラルタムを局所に適用する方法を包含する。本明細書で用いられるように、タウロリジンおよび/またはタウラルタムという用語は、化合物タウロリジン、タウラルタム、タウラルタム−グルコース(下記で述べる)および、それらの実質的な生物学的同等物または薬剤であって実質的に類似の態様で作用するものを指す。例えば、タウラルタムに由来するアミノグリカン、並びにタウロリジンおよび/またはタウラルタムの他の適切な任意の誘導体、または実質的に同様な態様で作用する薬剤が、本発明にしたがってタウロリジンおよび/またはタウラルタムとして利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書で用いられるように「治療」という用語はCNS腫瘍の治療、予防および/または抑制を指す。本発明は以下を含むCNS腫瘍の治療に適用できる:
−多形型神経膠芽腫(GBM)
−重度神経膠腫
−無構造性稀突起神経膠細胞腫
−軽度神経膠腫
−再発性悪性神経膠腫
−無構造性星状細胞腫
−進行した転移性メラノーマ
−再発した重度原発脳腫瘍
−原発性中枢神経系リンパ腫
−悪性神経膠腫の髄膜播種(髄膜性神経膠症)
【0014】
治療は主に、タウロリジンおよび/またはタウラルタム溶液(例えば微量透析法または灌注法を用いる)の術後局所適用だけでなく、外科的介入(例えばCNS腫瘍の外科的除去)に関連して実施される。タウロリジンおよび/またはタウラルタムは血液/脳関門を通過するので、中心カテーテルにより静脈内に2%タウロリジン溶液または3%タウラルタム溶液を投与するのもまた適切であろう。さらに抗新形成作用の他に、感染の予防もまた患者にとっては極めて大きな利点である。この関係で、適切な投薬量は、成人について、中心カテーテルにより7−8日間に毎日2%溶液としてタウロリジン15−20g、また別には7−8日間に毎日3%タウラルタム溶液として20−30gのタウラルタムであろう。これは、神経学的機能および健康の観点から生活の質を維持または改善しようとするものである。脳の手術と関連する局所適用のためには、グルコース主剤溶液(電解質とともにまたは電解質を含まない)でさらに0.2−1%のタウロリジン、タウラルタム、またはタウラルタム−グルコースを含むものが好ましい。
【0015】
基礎治療溶液は好ましくは脳脊髄溶液にならって作製され、グルコースおよび電解質を含み、可能な程度に実質的に等張で、わずかにアルカリ性pH(約7.3−7.5)を有する。基礎溶液は以下の成分を含むことができる:
−重炭酸塩
−ナトリウム
−カリウム
−カルシウム
−マグネシウム
−乳酸塩
−塩化物
−グルコース
タウロリジン、タウラルタム、タウラルタム−グルコースなどが基礎溶液に添加される。
【0016】
代表的基礎溶液:
基礎溶液は例えば下記の表に示す脳脊髄液(CSF)成分で構成される。
【0017】
【表1】

【0018】
代表的アミノ−糖/タウラルタム−グルコース治療剤:
13.6gのタウラルタムおよび18gの無水グルコースを250mlの血清びんに量りわけ、200mlの蒸留水を加えた。得られた溶液を100℃で30分加熱した。清澄な溶液を真空中で蒸発させて乾燥させた。残留物を96%アルコールに吸収させ、エーレンマイヤーフラスコ中で一晩静置して結晶を生成させた。
アミノ−糖/タウラルタム−グルコースが結晶化し、この結晶を吸引ろ過して未精製収量で5.3gを得た。
数滴の水と混合したアルコールから白色の結晶が再結晶化された:
融点:168−170℃
計算値:C=36.23;H=6.03;N=9.39;S=10.74%
測定値:C=36.26;H=6.10;N=9.09;S=10.90%
IRスペクトルはDMSO6200MHZ中のNMRと一致した。スルホンアミドのNHはその隣接するCH2と共役し、1つのOHはCH2と共役し、3つのOHはCHと共役しているのは、水が内部で失われたこと、および鎖が環状化して糖を形成したことを示していた。
【0019】
灌注および/または微量透析法で使用する溶液:
溶液1:溶液1の1000ml中に下記を含む:
注射用グルコース一水塩 27.500g
ナトリウム 3.382g
カリウム 0.157g
Ca++ 0.009g
Cl- 5.520g
タウラルタム 0.5%
この溶液はわずかに高張である。グルコースは25gのレブロース(フルクトース)で代替できる。この溶液はしたがってインスリン非依存性である。
【0020】
溶液2:溶液2の1000ml中に下記を含む:
ナトリウム 3.151g
カリウム 0.156g
Ca++ 0.066g
Mg++ 0.033g
Cl- 3.900g
アセテート 2.173g
タウラルタム−グルコース 0.5%
pH値をpH7.3に設定する。
溶液1および2を適切な無菌的態様で0.1ミクロンの滅菌フィルターでろ過し、無菌輸液びんに無菌的に分配する。
【0021】
溶液3:溶液3の1000ml中に下記を含む:
注射用グルコース一水塩 18.330g
乳酸ナトリウム 2.460g
塩化ナトリウム 2.800g
塩化カリウム 0.187g
塩化カルシウム2H2O 0.147g
塩化マグネシウム6H2O 0.152g
タウロリジン 1%
pH値をpH7.3に設定する。
この溶液を無菌的態様でろ過し、100mlの輸液びんに無菌的に分配する。
【0022】
溶液4:溶液4の1000ml中に下記を含む:
塩化ナトリウム 4.000g
塩化カリウム 0.050g
塩化カルシウム2H2O 0.066g
炭酸水素ナトリウム 0.050g
タウラルタム 1%
滅菌前にこの溶液をpH7.5に設定し、続いて無菌的態様でろ過し、250mlの輸液びんに分配し蒸気で121℃で15分滅菌する。
【0023】
代表的治療態様:
タウロリジンおよび/またはタウラルタムは注射または輸液によって、または局所適用によって投与することができる。等張グルコース溶液および/または上記のような人工脳脊髄液溶液でタウロリジンおよび/またはタウラルタム、あるいはその実質的な生物学的同等物を含有するものを用いることができる。局所投与は、(a)消息子(プローブ)チューブを用いる微量透析によって、および(b)直接灌注および/またはカテーテルの埋め込みによって、1回または反復灌注により実施できる。微量透析法は、非摘出腫瘍または再発腫瘍の場合に、手術不能腫瘍(例えばびまん性脳幹神経膠腫)の場合と同様に利用できる。
【0024】
a)微量透析法
上記の等張溶液をタンクに体温で保存する。小さなポンプ(皮下用または体外用)でタウロリジンおよび/またはタウラルタム溶液を管状ミクロ消息子を介して腫瘍および/またはその周辺に注入する。ミクロ消息子は小管腔を有するプラスチック材で作ることができる。消息子の先端は、浸透性液体が交換されるように半透膜を有するであろう。このようにして、タウロリジンおよび/またはタウラルタムを腫瘍の内部および腫瘍の周辺に分散させることができる。腫瘍内部で直接終わらせるために、小さな先端をもつ消息子には種々のタイプの消息子が含まれる。大きな腫瘍については、大きな膜を消息子の末端に提供し、腫瘍腔内または腫瘍表面に置くことができる。大きな腫瘍を有するいくつかの事例では、1つ以上の消息子を植え込むことが必要かもしれない。
【0025】
b)灌注/カテーテル法
腫瘍の除去に続いて、または嚢胞性腫瘍の場合には、腫瘍腔または腫瘍領域に直接1回または反復灌注が実施できる。さらにまた、タウロリジンおよび/またはタウラルタムの反復局所投与のために、カテーテルを腫瘍腔に埋め込んでもよい。
c)血管造影法
タウロリジンおよび/またはタウラルタムの特定領域適用のためのまた別の方法が、1つまたは少数の支配栄養補給動脈によって血液が供給されている腫瘍に提供される。タウロリジンおよび/またはタウラルタムは血管造影カテーテルによって投与でき、このカテーテルを超選択的に栄養補給血管に導入する。続いてタウロリジンおよび/またはタウラルタムを1回または繰り返し投与できる。
d)埋め込み方法
完全または不完全な腫瘍の除去に続いて、タウロリジンおよび/またはタウラルタム含有マトリックスを直接1回または繰り返し腫瘍腔に埋め込むことができる。
【0026】
結果:
タウロリジンおよび/またはタウラルタムは、CNS腫瘍細胞株(神経膠腫瘍細胞株(C6)だけでなくニューロン性細胞株(HT22)を含む)の増殖を直接抑制することが見出された。さらにまた、この作用は、胎児ラットの中枢神経系の初代細胞株の増殖の抑制には、腫瘍細胞と比較した場合極めて高濃度および極めて長時間の接触を必要とする(胎児ラット中枢神経系の初代細胞株の非常に高い一般的感受性を考慮しても)という点で、選択的であるということが示された。この作用は濃度依存性であった。PVPおよびグルコース溶液中の0.1から4mg/mlの濃度でタウロリジンおよび/またはタウラルタムの抗新形成作用が明らかであった。腫瘍細胞は10分後から抑制された。1から2時間後に90%の腫瘍細胞が抑制された。
【0027】
要約:
本発明の腫瘍抑制薬剤(タウロリジンおよび/またはタウラルタムを含む)は、注射または輸液によって投与できる。本発明の薬剤は、消息子を用いる微量透析によって局所的に投与できるだけでなく、超選択的血管造影カテーテルを用いて領域限定的に本発明の薬剤を持続的または連続的に投与できる。
本発明の微量透析法を実施する消息子は、ニューロナビゲーション、MRIガイダンスおよび/または超音波ガイダンスを用いて配置できる。組織学的診断を実施するために、本発明の微量透析法を用いる処置を施している同じ外科手術時に診断用生検材料を腫瘍から採取することができる。また別に、本発明の微量透析法中に、液体は腫瘍またはその周辺から得られ、その結果腫瘍領域で所望の液レベルを維持できる。
【0028】
本発明の薬剤は、腫瘍またはその周辺の連続的または反復局所灌注のために永久的または一時的に埋め込んだカテーテルによって投与できる。処置薬は、完全または部分的摘出腫瘍の周辺の灌注によって局所的に投与できる。
好ましい実施態様では、タウロリジンおよび/またはタウラルタムは、静脈内に一日当たり約50−500mg/kgの投与範囲で、逐次的または持続的投与によって投与される。
本発明のメチロール転移剤の投与とは別にまたはそれと同時に、他の薬剤を投与できる。これらには細胞毒性薬剤、抗新形成薬剤(アルキル化剤、および/または腫瘍代謝に必要な薬剤を含む)が含まれる。また別には、またはそれに加えて(所望する場合には)、他の腫瘍薬、例えばインターロイキン−1、インターロイキン−2、インターフェロンまたは他の免疫調節剤を投与してもよい。
【0029】
併用療法の利点には以下が含まれる:
1)腫瘍の制御の達成および生存の改善に関して併用療法の使用によって協調作用を認めることができる。
2)抗新形成医薬の投与用量の削減は重要な副作用(例えば脱毛、吐き気、嘔吐、下痢など)の軽減をもたらす。
3)併用療法は医薬の種々の適用態様を可能にする。例えばタウロリジンおよび/またはタウラルタムの局所投与、一般的な全身化学療法など。
タウロリジンおよび/またはタウラルタムは、局所硬膜下腔内または静脈内一般的化学寮法と併用して腹腔内適用によって投与してもよい。
この併用投与は、開腹手術または腹腔鏡による手術時の体液中および脳内への転移およびそれらの部位での播種発生の防止を促進する。
【実施例】
【0030】
実施例1:
タウロリジンおよびタウラルタムは、ニューロン腫瘍細胞株(HT22、マウス)、神経膠腫瘍細胞株(C6、ラット)および混合型ニューロン神経膠腫瘍細胞株(U373、ヒト)の増殖を直接的に抑制することが見出された。しかしながら、後者の細胞株の場合、実験はまだ完全ではない。さらにこの作用は、正常な中枢神経系細胞の増殖は顕著には抑制されないという点で選択的であることが示された。この作用は濃度依存性であった。0.1から4mg/mlの濃度でタウロリジンおよび/またはタウラルタムの抗新形成作用が明らかであった。腫瘍細胞は30分後から選択的に抑制された。1から3時間後に約90%の腫瘍細胞が抑制された。細胞培養では、細胞はRPMI 1640培養液中で使用し、ファルコンフラスコで平板培養した。0.1−4mg/mlのタウロリジンおよび/またはタウラルタムと一緒のインキュベーション後に、細胞学的変化を10、30、60、120、180、300分後、および24、48時間後に記録した。
【0031】
30分後から、以下を含む細胞学的変化が観察された:(a)空胞の発生、および(b)核の凝縮、細胞質の収縮および細胞死。
微細構造変化には以下が含まれる:ミトコンドリアの膨張、核の膨張、細胞質
の膨張および細胞膜の破壊。最初の変化は10分後に出現し、時間および濃度が増すにつれ増加した。
DNA−FACSの結果はこの細胞学的変化および微細構造変化を支持するものであった。
ラット胎児脳細胞の培養を用いて、初代CNS細胞に対するタウロリジンおよび/またはタウラルタムの作用を調べた。48時間後で顕著な細胞学的作用は認められなかった。
【0032】
神経膠腫患者の治療のためには、タウロリジンおよび/またはタウラルタムは、注射または輸液によって、または局所適用によって投与できる。局所投与は、(a)管状消息子を用いる微量透析によるか、さらに(b)直接灌注または一時的もしくは永久カテーテルの埋め込みにより1回灌注または反復灌注によって実施できる。
微量透析法は、非摘出腫瘍または再発の場合に、手術不能腫瘍(例えばびまん性脳幹神経膠腫)の場合と同様に用いることができる。灌注/カテーテル法は完全または不完全腫瘍摘出に続いて用いることができる。
【0033】
実施例2:神経膠芽腫、神経膠肉腫、無構造性神経膠腫および星状細胞腫患者におけるタウロリジンおよび付加的抗新形成薬剤の併用療法
脳腫瘍(例えば神経膠芽腫、星状細胞腫および神経膠肉腫)の治療で、タウロリジン/タウラルタムと抗新形成薬剤との併用は多くの利点を提供する。例えば、アルキル化剤とタウロリジンおよび/またはタウラルタムとの併用は、抗新形成薬によって誘発される副作用(例えば吐き気、嘔吐、下痢など)を回避または軽減する。こられの抗新形成薬の用量は半分またはそれ以上減らすことができ、それでもなお協調効果によって全体的反応率(疾患安定化率)を高めることができる。
強力な副作用を有する放射線療法もまた多くの事例で回避または減少させることができる。
多形型神経膠芽腫および星状細胞腫の原発性脳腫瘍における播種腫瘍の再発率もまた併用療法によって減少させることができる。
【0034】
多様な抗新形成薬剤の中で、その分子的構造のゆえにタウロリジンおよび/またはタウラルタムと相互反応しそうにない医薬が選択されるべきである。さらにまた、併用化学療法を種々の態様で腫瘍部位に誘導することが望ましい。これらの態様では、例えばタウロリジンおよび/またはタウラルタムは直接灌注によって、または永久カテーテルの埋め込みによって、またはチューブを使用して微量透析によって脳腫瘍に局所的に投与され、さらに静注または経口的に既によく用いられている通常の化学療法が、例えばテモゾラミド100mg/m2、1日1回5日間の投与によって実施される。
【0035】
また別には、神経膠芽腫の外科的切除の後で、5−フルオロウラシル(f−FU)の局在的および持続的な薬剤配送を、タウロリジンおよび/またはタウラルタムの中心カテーテルによる数日間の点滴輸液と併用して提供することができる。
腫瘍患者の腹腔鏡による緊急腫瘍手術、腹腔鏡による胆嚢摘出、胆嚢炎、腹腔鏡による胆嚢腸管手術の場合は、一般的開腹手術の場合と同様に、通常の静注化学療法と併用して、洗浄または注入処置として2%タウロリジンの腹腔内投与を腫瘍の処置、脳内転移および播種の防止のために実施することが可能である。
生存率の低い硬膜下腔内(IT)化学療法剤の使用に付随する悪性神経膠腫の髄膜播種(髄膜神経膠腫症)では、タウロリジンおよび/またはタウラルタム溶液の局所的または全身的投与の併用は、腫瘍制御および生存率の改善のために有用であろう。
【0036】
以下の抗新形成薬剤はタウロリジンおよび/またはタウラルタムとの併用に適合しているであろう:
PCV化学療法:以下を併用する
−プロカルバジンHCl
−ロムスチン(CCNU)(CeeNu)
−硫酸ビンクリスチン
シスプラチン
メトトレキセート
シトシンアラビノシド(ara−C) シタラビン塩酸塩
テモゾラミド
MX2−塩酸塩
トポセタン
パクリタキセル(タキソール)
インターロイキン−2(IL−2):インターロイキン−1(IL−1)およびリンホカイン活性化キラー細胞またはTNFとの同時投与において、タウロリジンとの併用はサイトカインの毒性を低下させ、患者にとってより快適である。
【0037】
ニトロソウレア系薬物(例えばACNU/BCNU/CCNU)は、一般により低い濃度(例えば30−50mg/m2)で6週間の間1週当たり1回静注によって投与される。テモゾラミドは、50−100mg/m2の用量で5日間経口投与で与えられる。MX−2塩酸塩は、静脈洞ボーラスとして進展が見られるまで数箇月間28日毎に20mg/m2で投与される。
別の選択として、またべつの抗新形成薬が併用に適している:
シクロホスファミド 約150mg/m2
フルオロウラシル(5−FU) 局所ボーラスとして40mg/m2
また、硬膜下腔内(IT)化学療法としてマイクロフィアの形態で以下が用いられる:
ドキソルビシン 10−15mg/m2静注
ヒドロキシカルバミド
【0038】
生存率の改善並びに主要制御および播種の防止を達成するためにタウロリジンおよび/またはタウラルタムを種々に併用して、シトシンアラビノシド(ara−C)、チオトリエチレン−ホスホルアミド(チオ−TEPA)およびネオカルジノスタティスをそれぞれ低用量でIT−化学療法で投与できる。
【0039】
単位投与量:
患者に薬剤を投与するための溶液は、多形型神経膠芽腫細胞の組織培養で有効な用量のタウロリジンおよび/またはタウラルタムおよび/またはタウラルタム−グルコースを含んでいなければならない。0.1−4mg/mlのタウロリジンが組織培養で腫瘍細胞を抑制し、または殺す。
これまでのところ、タウラルタムはタウロリジンよりもほぼ2倍有効であることが示された。その説明は、水溶液中のタウロリジンのメチロール−タウラルタムとタウラルタムとの間の平衡に見出すことができるであろう。
他方、タウラルタム−グルコースは、その分子量が136から298にタウラルタムより増加するのでタウラルタムの約2倍を投与しなければならない。
上記の灌注/カテーテル法を用いて患者に投与する場合は、少なくとも約4mg/mlの濃度でタウロリジン、タウラルタムまたはタウラルタム−グルコースがそれぞれ使用されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経系(CNS)腫瘍の増殖のおそれがある哺乳類の対象者に有効な用量のCNS腫瘍抑制メチロール転移薬剤を投与することを含む、哺乳類でCNSの腫瘍を治療する方法。
【請求項2】
前記薬剤がタウロリジン、タウラルタムまたはその混合物である請求項1の方法。
【請求項3】
前記薬剤が、注射または輸液によって投与される請求項1の方法。
【請求項4】
前記薬剤が、微量透析を用いる消息子によって局所的に投与される請求項1の方法。
【請求項5】
前記消息子が、ニューロナビゲーション、MRIガイダンス、または超音波ガイダンスを用いて配置される請求項4の方法。
【請求項6】
前記薬剤の投与と同じ操作時に腫瘍から診断用生検材料が採取される請求項4の方法。
【請求項7】
前記消息子によって前記腫瘍領域から体液を入手する請求項4の方法。
【請求項8】
前記薬剤が、埋め込まれたカテーテルによって投与される請求項1の方法。
【請求項9】
前記薬剤が、摘出腫瘍領域の灌注によって局所的に投与される請求項1の方法。
【請求項10】
前記薬剤が、1日当たり約50−500mg/kgの用量範囲で静脈内に投与される請求項1の方法。
【請求項11】
前記薬剤が、前記薬剤の等張溶液の投与によって局所的に投与される請求項1の方法。
【請求項12】
前記腫瘍が神経膠腫、神経膠芽腫、星状細胞腫、上衣細胞腫、神経叢癌腫、神経叢乳頭腫、髄芽腫、神経芽種、神経節膠腫、神経節細胞腫、松果体芽腫、悪性髄膜腫、大脳神経膠腫症、松果体の奇形腫、網膜芽腫および混合細胞性腫瘍から選ばれる請求項1の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物に細胞毒性抗新形成薬剤、アルキル化剤または腫瘍代謝薬剤をさらに投与することを含む請求項1の方法。
【請求項14】
インターロイキン−1、インターロイキン−2またはインターフェロンをさらに投与することを含む請求項1の方法。
【請求項15】
さらに、前記哺乳類の腫瘍腔内に適用したマトリックスに前記薬剤を投与することを含む請求項1の方法。
【請求項16】
前記薬剤がタウラルタム−グルコースである請求項1の方法。
【請求項17】
中枢神経系腫瘍増殖のおそれがある哺乳類に投与するための、メチロール転移薬剤と、少なくとも1つの抗新形成薬剤、免疫調節剤または中枢神経系腫瘍代謝薬剤とを含む医薬組成物。
【請求項18】
前記薬剤がタウロリジン、タウラルタムまたはその混合物である請求項17の組成物。
【請求項19】
前記薬剤がタウラルタム−グルコースである請求項17の組成物。

【公開番号】特開2008−195726(P2008−195726A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64507(P2008−64507)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【分割の表示】特願2000−168053(P2000−168053)の分割
【原出願日】平成12年6月5日(2000.6.5)
【出願人】(500140219)エド・ガイストリッヒ・ゼーネ・アクチェンゲゼルシャフト・フュール・ヒェミッシェ・インドゥストリー (10)
【氏名又は名称原語表記】Ed. Geistlich Soehne AG fuer chemische Industrie
【住所又は居所原語表記】Bahnhofstrasse 40, P.O. Box 157, 6110 Wolhusen, Switzerland
【Fターム(参考)】