説明

中空シリコーン粒子系被膜形成用塗布液、被膜付基材

【課題】 本発明は、低い屈折率を示し、生産性が良く透明な中空シリコーン粒子系被膜形成用塗布液および、反射率が低く耐擦傷性に優れた被膜付基材を提供する。
【解決手段】 (メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する中空シリコーン系粒子(A)と(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有するマトリクス(B)とを含むことを特徴とする、中空シリコーン系被膜形成用塗布液。および、該塗布液により被膜が基材表面に形成されてなる基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する中空シリコーン系粒子と(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有するマトリクスを含有した被膜形成用塗布液および、該塗布液により基材表面に被膜が形成された基材に関する。
【背景技術】
【0002】
透明基材の最外層に基材より低屈折率の物質からなる低屈折率層(減反射層)を可視光波長の1/4の膜厚み(約100nm)で形成すると表面反射率が低減することが知られている。この原理を応用したフィルムやガラスの反射防止透明基材は電気製品、光学製品、建材等の分野で広く使用されている。
【0003】
減反射層の形成方法としては、フッ化マグネシウム等を蒸着またはスパッタリングするドライコーティング法と低屈折率材料の溶液を基材に塗布するウエットコーティング法が知られている。近年、適用できる基材の制約が少なく、連続生産性やコスト面でも優位なウエットコーティング法が注目されている。
【0004】
ウエットコーティング法の低屈折率材料としては、フッ素系樹脂や多孔質あるいは中空シリカと被膜形成用マトリクスとからなる材料が知られている。
【0005】
フッ素系樹脂の屈折率は低いが、屈折率を低くするためには、フッ素置換されたアルキル鎖を長くしなければならず、一方でアルキル鎖を長くすると形成される低屈折率層の膜強度が低下するという問題があった(特許文献1)。
【0006】
多孔質あるいは中空シリカ粒子は、被膜形成用マトリクスに添加するとフッ素樹脂よりも強度に優れる低屈折率材料が得られるため、近年様々な製法が行われている(特許文献2乃至4)。特許文献2では、アルカリ金属等の珪酸塩等とアルカリ可溶な無機化合物をpH10以上のアルカリ水溶液でコロイド粒子にし、この粒子の珪素と酸素以外の元素の一部を除去した後、この粒子を加水分解性有機珪素化合物等で被覆する方法が開示されている。特許文献3では、水を可溶化したテトラアルコキシシランを界面活性剤で有機溶剤中にエマルジョン化すると、加水分解・縮合反応が起こり、含水率が高い場合にはミクロンサイズの中空シリカ粒子が合成できることが開示されている。また、特許文献4では、珪酸アルカリ金属から活性シリカをシリカ以外の材料のコア上に沈殿させ、コアを除去することにより中空シリカを得る製法が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの技術では、シリカ層中の多数の細孔や薄いシリカ層の厚みのために加工時に壊れ易いとか空洞内に核粒子のかなりの部分が残り空隙率が上がらないという課題、あるいは反応時間が長く工程が多いため生産性が悪いという課題など、多くの問題を残していた。更に、これらの多孔質あるいは中空シリカ粒子を単に被膜形成用マトリクスに混ぜても、フッ素系樹脂よりは優れるものの、十分な耐擦傷性は得られていなかった。
【0008】
そこで、中空シリカの表面を(メタ)アクリロイル基などで被覆した中空シリカと、多官能アクリル系樹脂を用いて製膜する方法も提案されている(特許文献5乃至6)。しかし、これらの方法では、一度中空シリカを合成して、粒子または粒子分散液を作成した後、シランカップリング剤などで表面処理する必要があった。そのため、作業工程が増えて生産性が悪くなるという課題などがあった。
【0009】
また、シリカはシリコーンやフッ素系樹脂よりも屈折率が1.47と高いため、十分に屈折率を下げるためには、空隙率を大きくする必要がある。しかし、空隙率を大きくすると被膜付基材の形成時に空隙が潰れるといった問題があった。更に、シリカは無機粒子であるため、有機溶剤に分散した際に分散しにくい、白濁しているといった問題、有機系樹脂に分散しにくい等の問題があった。
【特許文献1】特開平9−203801号公報
【特許文献2】特開平7−133105号公報
【特許文献3】特開平11−29318号公報
【特許文献4】特表2000−500113号公報
【特許文献5】特開2005−181545号公報
【特許文献6】特開2007−11323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、低い屈折率を示し、生産性が良く透明な中空シリコーン粒子系被膜形成用塗布液および、反射率が低く耐擦傷性に優れた被膜付基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する中空シリコーン系粒子(A)と(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有するマトリクス(B)を含有することを特徴とする塗布液が、中空シリコーン系被膜形成用に適していることおよび、この塗布液により作成された被膜付基材が、低反射率で耐擦傷性に優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する中空シリコーン系粒子(A)と(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有するマトリクス(B)とを含むことを特徴とする、中空シリコーン系被膜形成用塗布液に関する。
【0013】
好ましい実施態様は、前記(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有するマトリクス(B)が、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物(C)であることを特徴とする、前記の塗布液に関する。
【0014】
好ましい実施態様は、前記中空シリコーン系粒子(A)が、有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)からなる粒子を、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、(メタ)アクリロイル基又はビニル基の少なくとも1種を示す)およびRSiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、(メタ)アクリロイル基又はビニル基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物(F)により被覆したコアシェル粒子(G)中の有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)を除去することにより得られることを特徴とする、前記の塗布液に関する。
【0015】
好ましい実施態様は、前記中空シリコーン系粒子(A)が、水系で乳化剤を用いて合成された体積平均粒子径が0.001〜1μmの粒子を有機溶剤によりラテックス中から抽出し脱水したものであることを特徴とする、前記の塗布液に関する。
【0016】
好ましい実施態様は、前記塗布液が、さらに光重合開始剤(H)を含み、紫外線照射により得られる被膜が単独、または他の被膜とともに形成されてなる被膜付基材に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の中空シリコーン系被膜形成用塗布液は、低い屈折率を示し、生産性に優れ、透明なその塗布液を基材の表面に形成することにより、安定的に反射率が低く、耐擦傷性に優れる被膜付き基材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、中空シリコーン系粒子と、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を含むマトリクスを含有する、中空シリコーン系被膜形成用塗布液を提供するものである。さらに本発明は、該塗布液により被膜が基材表面上に形成された被膜付き基材を提供するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
<中空シリコーン系粒子(A)>
本発明の中空シリコーン系粒子(A)は、外周部がシリコーン系化合物からなる中空構造の粒子である。このような中空シリコーン系粒子(A)は、例えば、有機又は無機のコア粒子をシリコーン系化合物で被覆した後、コア粒子を除去することによって得られる。簡便な方法で空隙率を高くできるという点からは、有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)からなる粒子を、SiO4/2単位、RSiO3/2単位およびRSiO2/2単位からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物(F)で被覆した後、有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)を除去することにより得られる中空シリコーン系粒子であることが好ましい。
【0020】
本発明の有機高分子粒子(D)の組成については限定されるものではなく、例えば、ポリアクリル酸ブチル、ポリブタジエン、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体等に代表される軟質重合体でもよく、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等の硬質重合体でも問題なく使用できる。後の凝固工程での除去性という点から、これらのうち軟質重合体が好ましく、ポリアクリル酸ブチルがより好ましい。
【0021】
本発明の有機高分子粒子(D)の製造法は、特に限定されず、乳化重合法、マイクロサスペンジョン重合法、ミニエマルション重合法、水系分散重合法など公知の方法が使用できる。なかでも、粒子径の制御が容易であり、工業生産にも適する点から、乳化重合法により製造することが特に好ましい。
【0022】
前記有機高分子粒子(D)の重合にはラジカル重合開始剤が用いられうる。ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられる。上記重合を、例えば、硫酸第一鉄−ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ−エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩、硫酸第一鉄−グルコース−ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄−ピロリン酸ナトリウム−リン酸ナトリウムなどのレドックス系で行うと、低い重合温度でも効率的に重合を完了することができる。
【0023】
本発明の有機高分子粒子(D)は、後の段階で行なわれる有機高分子の除去を有機溶媒により行う場合を考慮すると非架橋高分子であることが好ましく、有機高分子粒子(D)の分子量は低い方が好ましい。具体的には、重量平均分子量が30000未満であることが好ましく、さらには10000未満であることがより好ましい。有機高分子粒子(D)の重量平均分子量を低くするためには、例えば、連鎖移動剤の使用、高い重合温度に設定、多量の開始剤を使用するなど種々の手段を適宜組み合わせて選択することができる。連鎖移動剤の具体例としてはt−ドデシルメルカプタンやn−ドデシルメルカプタンなどが挙げられる。有機高分子粒子(D)の重量平均分子量の下限値は特に制限されるものではないが、合成の難易度の点から、概ね2000程度である。なお、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析(ポリスチレン換算)によって測定できる。
【0024】
本発明においては、有機高分子粒子(D)の粒子径分布を狭くするためにシード重合法を利用することもできる。中空シリコーン系粒子(A)が均一な屈折率を有するという点からは、有機高分子粒子(D)の粒子径分布は狭い方が好ましい。なお、ラテックス状態の有機高分子粒子(D)やコアシェル粒子(G)の体積平均粒子径は、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められうる。体積平均粒子径および粒子径分布は、例えば、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いることにより測定することができる。
【0025】
本発明における有機溶剤(E)は、水に溶けず、乳化剤により微粒子を形成できるものであればよく、具体例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0026】
本発明においては、有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)からなる粒子がコアシェル粒子(G)の製造におけるコアとして用いられうる。本発明では最終的に有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)を除去する。有機高分子粒子(D)および有機溶剤(E)を併用しても良く、有機高分子粒子(D)または有機溶剤(E)の単独使用でも良い。前記粒子において、有機高分子粒子(D)および有機溶剤(E)を併用する場合の使用割合については、重量比で有機高分子粒子(D)/有機溶剤(E)が100/0〜1/99の範囲が好ましい。
【0027】
本発明の中空シリコーン系粒子(A)において外周部となるシリコーン系化合物(F)は、SiO4/2単位、RSiO3/2単位およびRSiO2/2単位からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であることが好ましい。複数のRは各々同じであっても良く、異なっていても良い。
【0028】
前記SiO4/2単位の原料としては、例えば、四塩化ケイ素、テトラアルコキシシラン、水ガラスおよび金属ケイ酸塩からなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。テトラアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、およびそれらの縮合物などが挙げられる。
【0029】
前記RSiO3/2単位中のRは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、(メタ)アクリロイル基又はビニル基から少なくとも1種が選択される。炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基を持つRSiO3/2単位の原料としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン等などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0030】
本発明のRSiO2/2単位(Rは、RSiO3/2単位中のRと同様の群から選択されうる)の原料としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシランなど、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサンなどの環状化合物のほかに、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0031】
本発明の中空シリコーン系粒子(A)では、少なくとも1種の(メタ)アクリロイル基及び/又はビニル基を有している。中空シリコーン系粒子(A)の(メタ)アクリロイル基及び/又はビニル基が、バインダー成分となる(メタ)アクリロイル基及び/又はビニル基を有するマトリクス(B)との結合力を高め、形成される被膜の膜強度を高めて、耐擦傷性を向上させることができる。中空シリコーン系粒子(A)に(メタ)アクリロイル基及び/又はビニル基を導入する方法としては、シリコーン系化合物(F)による被覆を行った後に(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するアルコキシシランを反応させて表面処理する方法でもよいし、シリコーン系化合物(F)による被覆を行う際にRSiO3/2単位、RSiO2/2単位の原料として(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するアルコキシシランを使用する方法でもよい。工程数を少なくできるという点からは、シリコーン系化合物(F)による被覆を行う際にRSiO3/2単位、RSiO2/2単位の原料として(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するアルコキシシランを使用する方法が好ましい。(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するアルコキシシランとしては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0032】
中空シリコーン系粒子(A)中の(メタ)アクリロイル基とビニル基を有するアルコキシシランの使用量の合計は、シリコーン系化合物(F)中0.5〜50重量%が好ましく、1〜30重量%がより好ましい。(メタ)アクリロイル基とビニル基の使用量が少なすぎると、(メタ)アクリロイル基及び/又はビニル基を有するマトリクス(B)との結合力が弱く、十分な耐擦傷性が得られない傾向があり、多すぎると塗布液が白濁したり、被膜付基材の反射率低下を阻害する傾向がある。
【0033】
本発明では、中空シリコーン系微粒子に柔軟性を持たせたい場合や、得られるアクリル系樹脂被膜に可撓性を付与したい場合等にRSiO2/2単位を少量混入することができる。コアシェル粒子(G)におけるシリコーン系化合物(F)100モル%中のRSiO2/2単位の割合は20モル%以下であることが好ましく、さらには10モル%以下であることがより好ましい。RSiO2/2単位の割合が20モル%を越えると最終の中空シリコーン系粒子が柔軟になり過ぎて形状保持性に問題が起こる場合がある。なお、シリコーン系化合物(F)中のRSiO2/2単位の割合の下限値は0モル%である。
【0034】
本発明のシリコーン系化合物(F)100モル%中のRSiO3/2単位の割合は、コアシェル粒子(G)の粒子径分布の安定性の観点から、50〜100モル%であることが好ましく、更には75〜100モル%であることがより好ましい。
【0035】
本発明において、シリコーン系化合物(F)100モル%中のSiO4/2単位の割合は、中空シリコーン粒子の形状保持性の観点から、0〜50モル%であることが好ましく、更には0〜10モル%であることがより好ましい。SiO4/2単位の割合が50モル%を越えると塗布液として用いる有機溶剤との相溶性が低下して、塗布液が白濁したり、マトリクス中で微粒子が凝集し、被膜つき基材の透明性が大きく低下する場合がある。
【0036】
本発明では、有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)との合計量と、シリコーン系化合物(F)との重量比率は必ずしも制限されるものではないが、2/98〜95/5であることが好ましく、さらには10/90〜50/50がより好ましい。当該比率が2/98より小さいと最終の中空シリコーン系粒子(A)の空隙率が低くなり過ぎる場合がある。また、逆に比率が95/5より大きいと中空シリコーン系粒子(A)の強度が不足して加工中に壊れる場合がある。
【0037】
本発明のコアシェル粒子(G)の体積平均粒子径は0.001〜1μmの範囲であることが好ましく、更には0.002〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。0.001μmより小さい粒子や1μmより大きな粒子を合成することは可能であるが、安定的に合成することは難しい傾向がある。
【0038】
本発明のコアシェル粒子(G)の粒子径分布は特に制限されるものではないが、中空シリコーン系粒子(A)が均一な屈折率を有するという点からは、コアシェル粒子(G)の粒子径分布は狭い方が好ましい。
【0039】
本発明では、例えば、有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)と、酸触媒を含む5〜120℃の水に対し、乳化剤、SiO4/2単位の原料、RSiO3/2単位の原料、およびRSiO2/2単位の原料と水の混合物をラインミキサーやホモジナイザーで乳化した乳化液を一括あるいは連続的に追加することにより、シリコーン系化合物(F)で被覆されたコアシェル粒子(G)を得ることができる。乳化液の追加は一括でも連続でも構わない。時間的には長くなるがラテックス状粒子の安定性や粒子径分布を重視するなら連続追加を採用することが好ましい。乳化液の追加前に酸触媒を添加して、直ちに加水分解と縮合反応が進む条件で連続追加を行うと、コアシェル粒子は時間とともに大きく成長し、通常のシード重合のように、狭い粒子径分布を示すものを得ることができる。30分乃至1時間の比較的短い時間の連続追加を行うと、比較的良い生産性と狭い粒子径分布を両立することもできる。
【0040】
本発明に使用できる乳化剤としては、アニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤が好適に使用されうる。アニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどが挙げられるが、特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好適に用いられる。ノニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンラウリルエーテルなどが挙げられる。
【0041】
本発明に用いることのできる酸触媒は、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類、および硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類が挙げられる。これらの中では、オルガノシロキサンの乳化安定性に優れる観点から、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。
【0042】
コアシェル粒子(G)を製造する際の反応のための加熱は、適度な重合速度が得られるという点で5〜120℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。
【0043】
本発明の中空シリコーン系粒子(A)を水系で合成したコアシェル粒子(G)から得る場合、ラテックス中からコアシェル粒子(G)を抽出して脱水するために、金属塩や有機溶剤を加えてろ過する処理を加えても良い。得られる中空シリコーン系粒子(A)の残存金属イオン成分量が少なく、マトリクスへの分散性が良いという観点からは、本発明の中空シリコーン系粒子(A)は、水系で乳化剤を用いて合成された体積平均粒子径が0.001〜1μmの粒子を有機溶剤によりラテックス中から抽出し脱水したものであることが好ましい。抽出に使用する有機溶剤としてはアセトンやメチルエチルケトン等の弱親水性溶剤が好ましく挙げられる。有機溶剤の種類や使用量を適切に選択すれば、抽出と同時にコアの除去を行うこともできる。
【0044】
本発明において、コアシェル粒子(G)中から有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)からなる粒子を除去する方法としては、例えば、有機溶剤を用いる方法、燃焼による方法などがあげられる。コアシェル粒子(G)中の有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)からなる粒子を除去するのに使用される有機溶剤としては、コアになる有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)からなる粒子を溶解し、シェルになるシリコーン系化合物(F)を溶解しないものが好ましい。具体例としては、アセトン、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン等が挙げられる。
【0045】
また、本発明では、コアを除去したのちさらにシリコーン系微粒子を有機溶剤で洗浄することもできる。洗浄に用いることのできる有機溶剤の具体例としては、メタノール、n−ヘキサン等が挙げられる。
【0046】
有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)からなる粒子を除去して得られる、本発明の中空シリコーン系粒子(A)の体積平均粒子径は0.001〜1μmの範囲であることが好ましく、更には0.002〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。0.001μmより小さい粒子や1μmより大きな粒子は被膜つき基材の透明性を低下させる傾向がある。
【0047】
<(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するマトリクス(B)>
本発明の(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するマトリクス(B)は、(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有していれば特に制限はなく、一般的なマトリクスを用いることができる。例えば、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。このようなマトリクスの中で、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物(C)が好ましい。
【0048】
(メタ)アクリロイル基又はビニル基を持たない中空シリコーン系粒子をマトリクスに配合した際、一定量までは影響がないものの配合量が一定量を越えると膜強度や耐擦傷性が低下する傾向にあった。これは、中空シリコーン系粒子がマトリクス中に十分に固定されていないためと考えられる。しかし、(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有する中空シリコーン系粒子(A)を、(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するマトリクス(B)中に配合することにより、(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有する中空シリコーン系粒子(A)がマトリクス中に取り込まれて固定されることにより、膜強度や耐擦傷性を保持することが出来る。
【0049】
<(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物(C)>
本発明の(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物(C)は、被膜付基材形成時にバインダーとなりうる。(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物(C)は、特に制限がなく、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する2官能以上の(メタ)アクリル系化合物であればよい。このような、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物(C)の使用によって、より高い硬度を有する三次元構造を形成したアクリル系樹脂被膜を得ることができる。このような(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物(C)としては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ−(メタ)アクリロイルオキシプロピネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート2,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2.2.1]ヘプタン、ポリ1,2ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10−デカンジオール(メタ)アクリレート3,8−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.10]デカン等などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0050】
また、本発明においては、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物(C)として、フッ素含有多官能(メタ)アクリル系化合物を併用することができる。フッ素含有多官能(メタ)アクリル系化合物を用いることにより、得られるアクリル系樹脂被膜に耐擦傷性や防汚性を付与することができる。また、これらのフッ素含有(メタ)アクリル系化合物は、前記多官能(メタ)アクリル系化合物よりも屈折率が低いため、より屈折率の低いアクリル系樹脂被膜を得ることができる。しかし、多量にフッ素含有(メタ)アクリル系化合物を使用すると、得られるアクリル系樹脂被膜の耐擦傷性が低下する。そのため、フッ素含有(メタ)アクリル系化合物の使用量は、全多官能アクリル系化合物中において好ましくは50重量%、より好ましくは30重量%以下である。フッ素含有(メタ)アクリル系化合物としては、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロペンタングリコール・ジアクリレート等などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0051】
<光重合開始剤(H)>
本発明の塗布液には、中空シリコーン系粒子(A)とマトリクス(B)の他、必要に応じて重合開始剤を含有してもよい。重合開始剤としては、一般的な重合開始剤を用いることができるが、短時間での重合が可能であり、取り扱いが容易という点からは光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ジベンジル、5−ニトロアセナフテン、ヘキサクロロシクロペンタジエン、p−ニトロジフェニル、p−ニトロアニリン、2,4,6−トリニトロアニリン、1,2−ベンズアントラキノン、3−メチル−1,3−ジアザ−1,9−ベンズアンスロン、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、アントラキノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン系化合物、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、キサントン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン系化合物、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、トリフェニルアミン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンジルジメチルケタール、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。光重合開始剤(H)の使用量は、マトリクス(B)100重量部に対して好ましくは10重量部以下、より好ましくは7重量部以下である。
【0052】
<中空シリコーン系被膜形成用塗布液及び基材>
本発明の中空シリコーン系粒子は、従来の中空シリカ粒子と比較して空隙率が大きいため、少量の使用で反射率を低下させることができる。このため、被膜強度の低下がなく低い反射率を示す被膜付き基材を得ることができる。
【0053】
本発明の塗布液には、中空シリコーン系粒子(A)とマトリクス(B)と重合開始剤の他、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば溶剤、界面活性剤などを含有しても良い。溶剤は、中空シリコーン系粒子(A)が微分散し易く、かつバインダーと相溶する溶剤であれば特に制限はない。このような溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤が挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。溶剤の使用量は、マトリクス(B)100重量部に対して好ましくは100〜10000重量部、より好ましくは1000〜10000重量部である。
【0054】
前記塗布液を塗布する方法としては、ディッピング法、スピンコート法、バーコート法、スプレー法、ダイコート法、ロールコート法、フローコート法等が挙げられる。塗布液を基材上に塗布した後、加熱、光照射、乾燥などを行って被膜を形成することができる。短時間での重合が可能、操作方法が容易という点からは、光重合開始剤(H)を含む塗布液を用いて紫外線照射により被膜を形成することが好ましい。
【0055】
塗布液中の中空シリコーン系粒子(A)とマトリクス(B)の比率は、1/99〜90/10の範囲であることが好ましく、更には20/80〜80/20の範囲であることがより好ましい。この比率が1/99より小さくなり、中空シリコーン系粒子(A)が少なくなると被膜の屈折率が下がらず、反射防止効果が小さくなる傾向を示す。この比率が90/10より大きくなり、中空シリコーン系粒子(A)が多くなると耐擦傷性が低下する傾向を示す。
【0056】
本発明の被膜は、基材上に単独で形成しても良く、他の被膜とともに形成しても良い。他の被膜としては、例えば保護膜、ハードコート膜、平坦化膜、高屈折率膜、絶縁膜、導電性樹脂膜、導電性金属微粒子膜、導電性金属酸化物微粒子膜、プライマー膜などが挙げられる。
【0057】
本発明においては、基材としてガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリフッ化ビニル等のフッ素系樹脂等のプラスチックフィルムなどを使用できる。
【0058】
本発明の塗布液により被膜が形成された基材は、反射防止膜の低屈折率層や透明導電層などの用途に使用できる。
【実施例】
【0059】
本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。なお、以下の実施例および比較例における測定および試験はつぎのように行った。
【0060】
[体積平均粒子径]
有機高分子粒子、コアシェル粒子をラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社社製のMICROTRAC UPA150を用いて、光散乱法により体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0061】
[有機高分子の重量平均分子量]
有機高分子の重量平均分子量は、GPC測定データよりポリスチレン標準試料で作成した検量線を用いて換算して求めた。
【0062】
[塗布液の透明性]
中空シリコーン系粒子(A)とマトリクス(B)に溶剤を加え、10分間撹拌した後、30分間静置した後の状態を以下基準により評価した。
良(○)・・・・透明。
普通(△)・・・やや白濁。
不良(×)・・・白濁。
【0063】
[反射率の測定]
塗布面と反対側の基材をサンドペーパーで荒らした後、黒色艶消しスプレーにて処理して、分光光度計(日本分光株式会社製 紫外可視分光光度計V−560型、積分球装置ISV−469型)により反射率を測定し、可視光域での極小値を読み取った。
【0064】
[耐擦傷性]
往復磨耗試験機(HEIDON−TYPE30、新東科学株式会社製)を用いて、60往復/minの条件下で、スチールウール#0000により50g/cm2の荷重をかけながら10往復の摩擦をした後、傷の発生の程度を以下基準により評価した。
良(○)・・・・大きな傷が10本以下しか見られない。
普通(△)・・・細かい傷は見られないが、大きな傷が無数に見られる。
不良(×)・・・細かい傷も大きな傷も無数に見られた。
【0065】
(実施例1、比較例1)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水400重量部(種々の希釈水も含む水の総量)およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)8重量部(固形分)を混合した後、50℃に昇温し、液温が50℃に達した後、窒素置換を行った。その後、ブチルアクリレート10重量部、t−ドデシルメルカプタン3重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合液を加えた。30分後、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)0.002重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えてさらに1時間重合させた。その後ブチルアクリレート90重量部、t−ドデシルメルカプタン27重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.1重量部の混合液を3時間かけて連続追加した。2時間の後重合を行い、ラテックス状の有機高分子粒子(P−1)を得た。このラテックスの体積平均粒子径は0.06μm、重量平均分子量は4000であった。
【0066】
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水500重量部(種々の希釈水も含む水の総量)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)3重量部、上記有機高分子粒子(P−1)のラテックス25重量部(固形分)を混合した。この時のpHは1.8であった。80℃に昇温し、窒素置換を行った。その後、別途純水100重量部、SDBS(固形分)0.5重量部、メチルトリメトキシシラン(MTMS)およびγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−503、信越化学製)を表1に示す量のシリコーン系化合物の混合液を30分かけて一定速度で全量を追加した。追加終了後、5時間撹拌を続けた後、25℃に冷却して20時間放置し、ラテックス状のコアシェル粒子を得た。このコアシェル粒子の体積平均粒子径は0.07μmであった。
【0067】
つづいて、室温で、ラテックス状のコアシェル粒子100重量部に対し、アセトンをまず50重量部を加えて5分間撹拌し、その後アセトン150重量部を加えて25分間撹拌して凝固粒子を得た。その後、この凝固液を50℃に加温して1時間撹拌を行って、3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。上澄液を除いた後、濾紙を用いて凝固粒子層を単離した。それをメタノール70重量%、n−ヘキサン30重量%の混合溶剤300重量部に分散させ、50℃に加温した後1時間撹拌を行った。この分散液を3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。濾紙を用いて凝固粒子層を単離して、中空シリコーン系粒子を得た。この中空シリコーン系粒子をイソプロピルアルコール(IPA)に分散させ、粒子含有量が5重量%の中空シリコーン系粒子のイソプロピルアルコール(IPA)分散液を得た。
【0068】
この中空シリコーン系粒子分散液とジペンタエリストールヘキサアクリレート(DPHA)を、中空シリコーン系粒子:ジペンタエリストールヘキサアクリレート(DPHA)=33:67(重量%)となるようにイソプロピルアルコール(IPA)に分散させて、2.5重量%イソプロピルアルコール(IPA)塗布液を作成した。前記塗布液にジペンタエリストールヘキサアクリレート(DPHA)100重量部に対して、イルガキュア184(チバスペシャリティケミカル製)を5重量部加えて、PETフィルムにバーコーター法で塗布し、110℃で5分間乾燥させた後、紫外線照射を行い、被膜の厚さが0.1〜0.2μmの被膜付基材を得た。この被膜付き基材の反射率を測定して、可視光領域での最低反射率を求めた。また、耐擦傷性試験を行った。これらの評価結果を、表1にまとめる。
【0069】
(実施例2、比較例2)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水400重量部(種々の希釈水も含む水の総量)およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)12重量部(固形分)を混合した後、50℃に昇温し、液温が50℃に達した後、窒素置換を行った。その後、ブチルアクリレート10重量部、t−ドデシルメルカプタン3重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合液を加えた。30分後、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)0.002重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えてさらに1時間重合させた。その後ブチルアクリレート90重量部、t−ドデシルメルカプタン27重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.1重量部の混合液を3時間かけて連続追加した。2時間の後重合を行い、ラテックス状の有機高分子粒子(P−2)を得た。このラテックスの体積平均粒子径は0.02μm、重量平均分子量は4000であった。
【0070】
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水500重量部(種々の希釈水も含む水の総量)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)3重量部、上記有機高分子粒子(P−2)のラテックス25重量部(固形分)を混合した。この時のpHは1.8であった。80℃に昇温し、窒素置換を行った。その後、別途純水100重量部、SDBS(固形分)0.5重量部、メチルトリメトキシシラン(MTMS)およびγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−503、信越化学製)を表1に示す量のシリコーン系化合物の混合液を30分かけて一定速度で全量を追加した。追加終了後、5時間撹拌を続けた後、25℃に冷却して20時間放置し、ラテックス状のコアシェル粒子を得た。このコアシェル粒子の体積平均粒子径は0.02μmであった。
【0071】
つづいて、室温で、ラテックス状のコアシェル粒子100重量部に対し、アセトンをまず50重量部を加えて5分間撹拌し、その後アセトン150重量部を加えて25分間撹拌して凝固粒子を得た。その後、この凝固液を50℃に加温して1時間撹拌を行って、3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。上澄液を除いた後、濾紙を用いて凝固粒子層を単離した。それをメタノール70重量%、n−ヘキサン30重量%の混合溶剤300重量部に分散させ、50℃に加温した後1時間撹拌を行った。この分散液を3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。濾紙を用いて凝固粒子層を単離して、中空シリコーン系粒子を得た。この中空シリコーン系粒子をイソプロピルアルコール(IPA)に分散させ、粒子含有量が5重量%の中空シリコーン系粒子のイソプロピルアルコール(IPA)分散液を得た。
【0072】
この中空シリコーン系粒子分散液とジペンタエリストールヘキサアクリレート(DPHA)を、中空シリコーン系粒子:ジペンタエリストールヘキサアクリレート(DPHA)=33:67(重量%)となるようにイソプロピルアルコール(IPA)に分散させて、2.5重量%イソプロピルアルコール(IPA)塗布液を作成した。前記塗布液にジペンタエリストールヘキサアクリレート(DPHA)100重量部に対して、イルガキュア184(チバスペシャリティケミカル製)を5重量部加えて、PETフィルムにバーコーター法で塗布し、110℃で5分間乾燥させた後、紫外線照射を行い、被膜の厚さが0.1〜0.2μmの被膜付基材を得た。この被膜付き基材の反射率を測定して、可視光領域での最低反射率を求めた。また、耐擦傷性試験を行った。これらの評価結果を、表1にまとめる。
【0073】
(比較例3)
ジペンタエリストールヘキサアクリレート(DPHA)をイソプロピルアルコール(IPA)に分散させて、2.5重量%イソプロピルアルコール(IPA)塗布液を作成した。前記塗布液にジペンタエリストールヘキサアクリレート(DPHA)100重量部に対して、イルガキュア184(チバスペシャリティケミカル製)を5重量部加えて、PETフィルムにバーコーター法で塗布し、110℃で5分間乾燥させた後、紫外線照射を行い、被膜の厚さが0.1〜0.2μmの被膜付基材を得た。この被膜付き基材の反射率を測定して、可視光領域での最低反射率を求めた。また、耐擦傷性試験を行った。これらの評価結果を、表1にまとめる。
【0074】
【表1】

表1から明らかなように、(メタ)アクリロイル基含有の中空シリコーン系粒子を配合することにより、反射率を低減させて、耐擦傷性を高めることが可能であった。また、(メタ)アクリロイル基を含有しない中空シリコーン系粒子よりも、耐擦傷性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する中空シリコーン系粒子(A)と(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有するマトリクス(B)とを含むことを特徴とする、中空シリコーン系被膜形成用塗布液。
【請求項2】
前記(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有するマトリクス(B)が、(メタ)アクリロイル基及び/またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物(C)であることを特徴とする、請求項1記載の塗布液。
【請求項3】
前記中空シリコーン系粒子(A)が、有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)からなる粒子を、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、(メタ)アクリロイル基又はビニル基の少なくとも1種を示す)およびRSiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、(メタ)アクリロイル基又はビニル基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物(F)により被覆したコアシェル粒子(G)中の有機高分子粒子(D)および/または有機溶剤(E)を除去することにより得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗布液。
【請求項4】
前記中空シリコーン系粒子(A)が、水系で乳化剤を用いて合成された体積平均粒子径が0.001〜1μmの粒子を有機溶剤によりラテックス中から抽出し脱水したものであることを特徴とする、請求項1乃至3に記載の塗布液。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の塗布液が、さらに光重合開始剤(H)を含み、紫外線照射により得られる被膜が単独、または他の被膜とともに形成されてなる被膜付基材。

【公開番号】特開2008−303358(P2008−303358A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154175(P2007−154175)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】