説明

中空セルロース系繊維およびその製造方法

【課題】
軽量性、吸湿性、風合いに優れ、衣料用途などにおいて好適に用いることができる中空かつ極細のセルロース系繊維を提供する。
【解決手段】
単糸の直径が10μm以下であり、エステル置換度が0.5未満であることを特徴とする中空セルロース系繊維、および、セルロース脂肪酸エステルを芯成分とし、エステル置換度が0.5未満のセルロースを鞘成分とする芯鞘複合繊維からセルロース脂肪酸エステルを溶出させることを特徴する中空セルロース系繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維およびセルロース系繊維の製造方法に関する。より詳しくは、中空かつ極細であって、軽量性、吸湿性、良好な風合いを有するセルロース系繊維およびそのようなセルロース系繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーヨン、キュプラなどのセルロース繊維は、吸湿性、発色性、光沢に優れることが知られており、衣料素材として好適に用いられている。このようなセルロース繊維は湿式紡糸によって製造されている。これは紡糸原液を凝固浴中に吐出することでセルロース繊維を得る紡糸方法であるため、従来、繊維中に連続した中空部を有し、かつ単糸の直径が10μm以下であるようなセルロース繊維を得ることは困難であった。
【0003】
一方で、セルロースエステル繊維の中空化や細繊度化については様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1においては、セルローストリアセテートを主成分とする紡糸原液とセルロースジアセテートを主成分とする紡糸原液を合わせて用い、特殊な紡糸口金を用いて乾式紡糸を行なうことで、C型断面のセルロースアセテート複合繊維を得る方法が提案されている。さらに、特許文献2においては、セルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物を特殊な紡糸口金を用いて溶融紡糸することにより様々な中空断面のセルロース脂肪酸混合エステル繊維を得る方法が提案されている。
【0004】
しかし、これらの方法で得られる繊維は、紡糸口金によって中空化するという制限から、細繊度化は困難であった。また、セルロースエステル繊維であるため、セルロース繊維と同等の吸湿性や、特有の風合いなど、セルロースの水酸基に起因する特性は得られなかった。
【0005】
次に、特許文献3においては、セルローストリアセテート成分とセルロースジアセテート成分の層状構造からなる繊維からセルロースジアセテートを溶解除去することにより、全単繊維中の60%以上が単糸繊度0.11dtex以上0.89dtex未満であるセルローストリアセテート繊維を得る方法が提案されている。さらに、特許文献4においては、アルカリ性の熱水に溶解可能な熱可塑性重合体を海成分とし、セルロースエステルと可塑剤を含む組成物を島成分とする海島型の複合繊維から海成分を除去し、単糸繊度0.01〜1dtexの繊維を得る方法が提案されている。
【0006】
しかし、これらの方法で得られる繊維は、単糸の直径を10μm以下とすることは達成できているものの、中空化については達成できていなかった。
【0007】
このように、セルロースエステル繊維においても中空かつ極細の繊維は得られていなかった。そのため、そのような繊維をアルカリ処理することによって中空かつ極細のセルロース繊維を得ることもできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−013028号公報
【特許文献2】特開2007−119991号公報
【特許文献3】特開2001−049520号公報
【特許文献4】特開2004−084139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
軽量性、吸湿性、風合いに優れ、衣料用途などにおいて好適に用いることができる中空かつ極細のセルロース系繊維を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、単糸の直径が10μm以下であり、エステル置換度が0.5未満であるセルロースからなることを特徴とする中空セルロース系繊維によって解決できる。
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明ではセルロース脂肪酸エステルを芯成分とし、エステル置換度が0.5未満のセルロースを鞘成分とする芯鞘複合繊維からセルロース脂肪酸エステルを溶出させることを特徴する中空セルロース系繊維の製造方法を採用している。
【0012】
この場合、前記芯鞘複合繊維は、セルロース脂肪酸エステルからなる熱可塑性組成物を島成分とする海島複合繊維から海成分を除去し、島成分の表層部を脱エステルして得られたものであることがより好ましく、また、海成分がアルカリ性水溶液に溶解性を持つ熱可塑性重合体であり、セルロース脂肪酸エステルがセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートのいずれかから選ばれるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
軽量性、吸湿性、風合いに優れ、衣料用途などにおいて好適に用いることができる中空かつ極細のセルロース系繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は溶融紡糸装置の一実施様態を表す概念図である。
【図2】図2は単糸の直径の算出方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、単糸の直径が10μm以下であることを特徴としている。単糸の直径を10μm以下とすることで、織物や編物といった繊維構造物とした場合の風合いが良好となる。10μmより大きい場合、その風合いは従来製品に近づく方向にある。また、単糸繊度が極端に細い場合、最終製品の強度が低下したり、高次加工における工程通過性が低下したりする。そのため、最終製品の強度や工程通過性を考慮した場合、単糸の直径は0.5〜10μmであることがより好ましく、1〜10μmであることがさらに好ましい。
【0016】
本発明はエステル置換度が0.5未満であるセルロースからなることを特徴としている。この場合のエステル置換度とは、セルロース系ポリマーのグルコースユニットに存在する3つの水酸基のうち、エステル化している部分の数の平均値のことである。
【0017】
エステル置換度が0.5未満であることにより、繊維構造物とした場合の吸湿性が優れたものとなる。この場合、本発明の繊維のみからなる繊維構造物の温度20℃、相対湿度65%の標準状態における吸湿率は6〜15%の範囲であることが好ましい。この範囲において吸湿性が高いほど衣料用途として好適に用いることができるため、7%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましい。
【0018】
このようなセルロースは、下記の構造式で示されるグルコースユニットの組み合わせから構成されている。
【0019】
【化1】

【0020】
[式中、R〜Rは各々独立に水素、アシル基のいずれかである。]
【0021】
エステル置換度が0.5未満であるならば、グルコースユニットの組み合わせや、グルコースユニット中のアシル基は特に限定されないが、特に好ましいアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などが挙げられる。このようなアシル基であれば、中空セルロース系繊維の吸湿性を損なわないため好ましい。また、エステル置換度が低いほど吸湿性が向上するため、エステル置換度は0であることが特に好ましい。
【0022】
なお、本発明において、セルロースとはエステル置換度が0.05未満のセルロースエステル、またはエステル置換度が0のセルロースのことを意味し、後述のセルロース脂肪酸エステルとは、エステル置換度が0.05以上のセルロースエステルを意味する。また、セルロース系繊維とは、上記のセルロースからなる繊維を意味する。
【0023】
セルロースエステルとは、セルロース系ポリマーのグルコースユニットに存在する3つの水酸基のうち一部または全部が何らかの官能基で置換されているセルロース系ポリマーのことを意味する。
【0024】
本発明のセルロース系繊維は中空であることを特徴としており、その中空率は10〜50%の範囲であることが好ましい。
【0025】
本発明における中空率とは、該セルロース系繊維の横断面(中空糸の繊維軸に対して垂直方向の断面)を走査型電子顕微鏡で観察(倍率2000倍)し、繊維断面の反射電子像を撮影した後に、断面の全面積(中空部の面積含む)(Sa)と中空部の面積(Sb)を撮影図から算出し、下記の式を用いて算出した値をいう。ただし、複数の中空部を有する中空繊維の場合は、Sbはそれぞれの中空部の面積の総和を意味する。
中空率(%)=(Sb/Sa)×100
【0026】
中空率が10%以上であれば、本発明の効果である軽量性が明確に発現する。また、繊維構造物とした場合の風合いも良くなる。中空率が50%以下であれば、繊維の機械特性を維持することができ、衣料品となった場合に着用中の繊維断面の潰れが発生することがないため好ましい。中空率は10〜45%であることがより好ましく、10〜40%であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の中空セルロース系繊維の引張強度は0.6cN/dtex以上であることが好ましい。引張強度が0.6cN/dtex以上であれば、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好であり、また最終製品の強度も不足することがないため好ましい。良好な引張強度特性の観点から、引張強度は高ければ高いほど実用範囲が広がり各種用途に展開できるため好ましいが、現状では2.0cN/dtexが上限である。引張強度は0.8cN/dtex以上であることがより好ましく、1.0cN/dtex以上であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の中空セルロース系繊維の伸度は5〜50%であることが好ましい。伸度が5%以上である場合には、紡糸工程で毛羽が発生せず、また製織や製編時など高次加工工程において毛羽や糸切れが多発することがなく、高次加工の工程通過性が良好となる。また伸度は50%以下であることが好ましく、50%以下の場合、繊維は低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどによる最終製品の染色欠点を生じることがない。伸度は6〜45%であることがより好ましく、7〜40%であることがさらに好ましい。
【0029】
最終製品とは、織物、編物などの繊維構造物のほか、本発明の中空セルロース系繊維を一部または全部の素材として使用している衣服、インテリア製品などである。
【0030】
本発明の中空セルロース系繊維は、衣料用途、メディカル用途、寝具用途、インテリア用途などに使用可能である。軽量性、吸湿性、良好な風合いを有するため、衣料用途として用いられることが特に好ましい。
【0031】
衣料用途として用いる場合には、タフタ、デシン、ジョーゼット、ツイルなどの織物、または天竺、スムース、トリコットなどの編物の形態として用いることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の中空セルロース系繊維は海島複合繊維を前駆体として用いて製造することが好ましい。海島複合繊維を前駆体として用いることにより、単糸の直径が10μm以下であるような中空セルロース系繊維を安定して得ることができる。
【0033】
海島複合繊維の海成分はアルカリ性の水溶液に対して溶解性を持つ熱可塑性重合体であることが好ましい。
【0034】
アルカリ性の水溶液に対して溶解性を持つとは、80℃に加熱された濃度2重量% /Lの水酸化ナトリウム水溶液中に60分間浸漬させた場合に、50重量%以上の重量減少が認められることをいう。アルカリ性の水溶液に溶解可能な熱可塑性重合体を海成分とした複合繊維とすることによって、織編物の加工工程で一般的な精練工程あるいはアルカリ減量処理工程において、海成分を溶解除去し、複合繊維中の島成分を各々に完全に分割することができる。アルカリ性の水溶液に溶解性を持つものであれば、中性、酸性の水溶液に溶解可能である熱可塑性重合体も問題なく使用することができる。
【0035】
このような熱可塑性重合体としては、ポリエチレンオキサイド(ポリエチレングリコール)、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)共重合体などのポリエチレングリコール系ポリマー類、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリプロピレンテレフタレート、さらにイソフタル酸や脂肪族ジカルボン酸などの第3成分を共重合させた芳香族ポリエステルなどの共重合芳香族ポリエステル系ポリマー類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル系ポリマー類などが例示できる。
【0036】
アルカリ性の水溶液への溶解性、製糸性などの観点からは、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリプロピレンテレフタレートなどの5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリエステル、ポリ乳酸が好ましい。
【0037】
海島複合繊維の島成分はセルロース脂肪酸エステルからなる熱可塑性組成物であることが好ましい。
【0038】
セルロース脂肪酸エステルからなる熱可塑性組成物とは、セルロース脂肪酸エステルのみ、あるいはセルロース脂肪酸エステルと可塑剤との混合物によって構成されている組成物である。
【0039】
セルロース脂肪酸エステルとは、セルロース系ポリマーのグルコースユニットに存在する3つの水酸基の一部または全部がアシル基により封鎖されたものである。アシル基の具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などが挙げられる。このようなセルロース脂肪酸エステルの具体例としては、アセチル基とプロピオニル基が結合したセルロースアセテートプロピオネート、アセチル基とブチリル基が結合したセルロースアセテートブチレートなどのセルロース脂肪酸混合エステルが挙げられる。なお、アセチル基とその他のアシル基のそれぞれのエステル置換度は、下記の式を満たすことが好ましい。
2.0≦(アセチル基のエステル置換度+その他のアシル基のエステル置換度)≦2.9
【0040】
このような脂肪酸混合エステルを用いることにより、海島複合繊維の製糸性が良好となる。
【0041】
セルロース脂肪酸エステルの重量平均分子量(Mw)は5.0万〜25.0万であることが好ましい。Mwが5.0万未満の場合、溶融紡糸時の熱分解が顕著となり、海島複合繊維の機械特性(引張強度など)が低くなるため好ましくない。Mwが25.0万を越えると、溶融粘度が非常に高くなるため、溶融紡糸時の製糸性が悪化する。機械特性、溶融紡糸時の製糸性の観点から、Mwは6.0万〜22.0万であることがより好ましく、8.0万〜20.0万であることがさらに好ましい。
【0042】
該熱可塑性組成物は、可塑剤を0〜30重量%の範囲で含有していることが好ましい。可塑剤を含有することにより該熱可塑性組成物の熱流動特性が向上し、生産効率の高い溶融紡糸法での生産が容易となるため好ましい。また、30重量%以下であれば、溶融紡糸時にメルトフラクチャー(紡糸口金孔通過時においてポリマーの剪断応力が高いと流線乱れが発生し、紡糸口金より吐出された糸条の形状が不規則になる現象)が発生しないため好ましい。可塑剤を5〜27重量%の範囲で含有していることがより好ましく、10〜24重量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0043】
このような目的で好ましく使用できる可塑剤としては、多価アルコール系化合物が挙げられる。具体的にはポリアルキレングリコール、グリセリン系化合物、カプロラクトン系化合物などであり、これらの化合物はセルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良好であり、熱可塑化効果が良好に現れる。なかでもポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールの具体例としては、重量平均分子量が200〜4000であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられる。可塑剤は単独もしくは併用して使用することができる。
【0044】
該熱可塑性組成物は、リン系酸化防止剤を含有していることが好ましく、特にペンタエリスリトール系化合物が好ましい。リン系酸化防止剤を含有している場合、紡糸温度が高い範囲および低吐出領域においても熱分解防止効果が良好であり、海島複合繊維の機械特性や色調の悪化が抑制される。リン系酸化防止剤の配合量は、該熱可塑性組成物に対して0.005〜0.5重量%であることが好ましい。
【0045】
該熱可塑性組成物は、溶融紡糸が可能な範囲でステアリン酸アミド、エチレンビスステアリル酸アミド、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンなどの滑剤、リン化合物、シリコーン化合物などの難燃剤、酸化チタン、硫酸バリウムなどの無機粒子、着色顔料、染料、その他繊維用途において一般的に用いられる添加剤などを含有していても良い。無機粒子を添加する場合、後述する溶出の工程において、無機粒子によりセルロース系繊維表層部に生じた空隙を利用することで溶出に必要な時間を短縮させることも可能であるが、同時にセルロース系繊維が着色されたり、機械特性がやや低下したりする場合もある。
【0046】
海島複合繊維の海成分/島成分の複合比率(以下、海島比と呼ぶ)は、複合形態の安定性、製糸性および生産性の点から5/95〜70/30であることが好ましい。海成分が少ない場合は島成分同士が融着するなどの複合異常が発生する可能性があり、海成分が多い場合には製造コストが増加することから、複合比率は10/90〜60/40であることがより好ましく、15/75〜50/50であることがさらに好ましい。なお、本発明における海島比とは、繊維横断面において海成分が占める面積と島成分が占める面積との面積比を意味している。
【0047】
海島複合繊維を溶融紡糸法によって繊維化する際、紡糸温度は220℃〜280℃であることが好ましい。紡糸温度を220℃以上とすることにより、紡糸口金より吐出された糸条の伸長粘度が十分に低下するため、メルトフラクチャー起因の短ピッチの周期斑が現れず、太さ斑のない均一性の優れた繊維を得ることができる。さらには、紡糸口金より吐出した糸条の細化変形過程が緩やかになるため、繊維微細構造が発達し繊維特性が良好となる。また製糸性も安定する。また紡糸温度を280℃以下とすることにより、海成分および島成分の熱分解を抑制でき、分子量低下による複合繊維の機械特性の低下や色調の悪化を抑制できる。前駆体である複合繊維の機械特性の低下や着色は、中空セルロース系繊維の機械特性や色調を悪化させるため、これらを抑制することは好ましい。紡糸温度は230℃〜270℃であることがより好ましく、240℃〜260℃であることがさらに好ましい。
【0048】
図1は、海島複合繊維の製造方法に用いる装置の一実施態様を示す図である。図1において、1はスピンブロック、2は溶融紡糸パック、3は紡糸口金、4は冷却開始点、5は冷却装置、6は紡出糸条、7は給油装置、8は第1ゴデットローラー、9は第2ゴデットローラー、10はパッケージである。
【0049】
溶融状態の海成分および島成分は、スピンブロック1に装着された溶融紡糸パック2の下部に取り付けられた紡糸口金3の吐出孔より押し出される。押し出された紡出糸条6は、冷却開始点4より冷却装置5により室温まで冷却され、給油装置7により仕上げ剤が付与され、所定の速度で回転する第1ゴデットローラー8、第2ゴデットローラー9を介して、巻取機によって、パッケージ10として巻き取られる。
【0050】
冷却開始点4の位置は、紡糸口金3の下面からの距離が0mm〜200mmであることが好ましい。冷却開始点の位置がこの範囲にある場合、機械特性および糸の太さ斑のない均一性に優れた複合繊維を製糸性良く得ることができる。冷却開始点の位置は0mm〜190mmであることがより好ましく、0〜180mmであることが更に好ましい。なお冷却開始点とは、冷却装置の送風口の最上端である。
【0051】
紡糸口金より吐出した糸条の冷却風速度は0.01m/秒〜1m/秒であることが好ましい。冷却風速度がこの範囲にある場合、紡糸口金より吐出された糸条を構成する単糸の冷却が均一となり、太さ斑のない均一性の優れた複合繊維となる。冷却風速度は0.1m/秒〜0.5m/秒であることがより好ましく、0.2m/秒〜0.45m/秒であることがさらに好ましい。
【0052】
紡糸口金より吐出した糸条の冷却風温度は、10℃以上であれば製糸性が悪化することがないため好ましい。また、冷却という目的からは紡糸温度よりも低いことが好ましい。中でも15〜40℃であることがより好ましい。
【0053】
紡糸速度は750m/分〜3500m/分であることが好ましい。紡糸速度を750m/分〜3500m/分とすることで、得られる繊維の分子配向が十分に促進される紡糸応力がかかり、繊維特性に優れた複合繊維を得ることができる。紡糸速度は1000m/分〜3000m/分であることがより好ましく、1250m/分〜2500m/分であることがさらに好ましい。
【0054】
前駆体として海島複合繊維を用いる工程を採用した場合、該複合繊維から海成分を除去する工程(以下、この工程を脱海と呼ぶ)も採用される。
【0055】
該複合繊維の島成分に可塑剤が含有されていた場合は、脱海を行なう前に該複合繊維から可塑剤を抜き出す工程(以下、この工程を脱可塑剤と呼ぶ)を採用することが好ましい。可塑剤を抜き出すことにより、脱海の装置が汚染されたり、脱海の制御が困難となったりするなどの問題を回避することができる。脱可塑剤は、水あるいは熱水、メタノール、エタノールなどのアルコールや、有機溶剤などに該複合繊維を浸漬したり、浴びせ続けたりするなどの方法で行なえばよい。
【0056】
脱海ではアルカリ性の水溶液を用いる。本発明において、アルカリ性の水溶液とはpH=8以上の水溶液である。脱海の処理効率の観点からは、pH=9以上であることが好ましく、pH=10以上であることがより好ましい。pHが高いほど脱海の効率は上がるが、pHが高すぎる場合には脱海の制御が困難となることから、pH=12以下であることが好ましい。
【0057】
上記の範囲のpHの水溶液を得ることができる化合物であれば、特に限定されることなく水溶液の調製に用いることができるが、具体例としてはナトリウム、カリウムなどの水酸化物、炭酸塩、過炭酸塩、重炭酸塩などが挙げられる。化合物自体の価格や脱海の効率の観点からは、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0058】
脱海の際、該水溶液は20〜90℃の範囲で加熱されていることが好ましい。温度が20℃以上であれば脱海が効率よく進行し、温度が90℃以下であれば得られる繊維の機械特性が低下しない。脱海の効率と繊維の機械特性の観点からは、30〜80℃であることがより好ましく、40〜70℃であることがさらに好ましい。
【0059】
脱海の際、海島複合繊維を該水溶液に浸漬させる方法を採用する場合は、浸漬の処理時間は5〜120分の範囲であることが好ましい。最適な処理時間は水溶液に溶解させた化合物、水溶液の温度によって変化するものの、処理時間が5分より短ければ脱海が十分に行なわれず、120分より長ければ脱海後に得られる繊維の機械特性が低くなる傾向にある。脱海を十分に行なうことと、繊維の機械特性を考慮すると、処理時間は10〜90分であることがより好ましく。15〜60分であることがさらに好ましい。なお、上記の処理時間は浸漬を中断せずに行なう場合を想定した処理時間であって、1つのあるいは複数の処理槽を用いて海島複合繊維を浸漬した後、圧搾し、さらに浸漬と圧搾を繰り返すことで脱海を行なう場合や、海島複合繊維に対して該水溶液を連続で浴びせ続けることで脱海を行なう場合などにおいてはこの限りではない。
【0060】
脱海に用いる装置については特に限定されないが、脱海の際に水溶液を攪拌可能な装置や、あるいは複合繊維が水溶液中で移動可能な装置であれば、脱海の効率が良くなることから好ましい。
【0061】
なお、脱海の効率が良いとは、脱海の際に海成分が短時間で除去される、水溶液の調整に必要な化合物の量が少なく済む、などの工業的に好ましい効果が生じることである。
【0062】
本発明の中空セルロース系繊維は、セルロース脂肪酸エステルを芯成分とし、エステル置換度が0.5未満のセルロースを鞘成分とする芯鞘複合繊維からセルロース脂肪酸エステルを溶出させることを特徴とする製造方法により得ることができる。
【0063】
芯成分のセルロース脂肪酸エステルは、前記海島複合繊維の島成分を構成するセルロース脂肪酸エステルと同様である。また、鞘成分のエステル置換度が0.5未満であるセルロースは、本発明の中空セルロース系繊維を構成するエステル置換度が0.5未満であるセルロースと同様である。
【0064】
該芯鞘複合繊維の芯成分/鞘成分の複合比率(以下、芯鞘比と呼ぶ)は、10/90〜50/50の範囲であることが好ましい。
【0065】
なお、本発明における芯鞘比とは、繊維横断面において芯成分が占める面積と鞘成分が占める面積との面積比を意味している。
【0066】
該複合繊維からセルロース脂肪酸エステルを溶出する際、芯鞘比が10/90以上であれば得られる中空セルロース系繊維の中空率が10%以上となり、芯鞘比が50/50以下であれば中空率は50%以下となり、中空率を制御することが可能である。
【0067】
このような芯鞘複合繊維は、前記の海島複合繊維から海成分を除去して得られるセルロース脂肪酸エステルの繊維の表層部を脱エステルしてエステル置換度0.5未満のセルロースとするなどの方法で得ることが可能である。
【0068】
脱エステルとは、セルロース脂肪酸エステルのグルコースユニットに存在する脂肪酸エステル部分の脂肪酸基を脱離させ、水酸基に置換することをいう。
【0069】
脱エステルは、セルロース脂肪酸エステルをアルカリ性の水溶液に浸漬するなどの方法で行なうことができる。そのため本発明では、海島複合繊維を前駆体として用いる製造方法を採用した場合、さらに脱海と同時に脱エステルを行なう製造方法を採用することもできる。脱海と脱エステルを同時に行なうことにより、中空セルロース系繊維の製造に必要とする時間が短縮されるため好ましい。脱海と脱エステルを同時に行なう場合であっても、その処理条件に本明細書中ですでに説明されている脱海の処理条件を採用することができる。また、脱エステルのみを行なう場合においても、脱海の条件を採用することができる。
【0070】
脱エステルによって該芯鞘複合繊維を得る場合、芯鞘比を調整するには処理時間を調整すればよい。ある処理時間における芯鞘比に対し、芯成分の比率を減少させ、鞘成分の比率を増加させるには処理時間を長くすればよく、芯成分の比率を増加させ、鞘成分を減少させるには処理時間を短くすればよい。
【0071】
溶出とは、該芯鞘複合繊維からセルロース脂肪酸エステルのみを溶解かつ除去し、エステル置換度が0.5未満であるセルロースからなる中空セルロース系繊維を得ることである。溶出には、蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどのケトン系溶剤、ニトロメタン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどの含窒素系溶剤、メチルグリコール、メチルグリコールアセテートなどのグリコール系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどの溶剤や、これらの溶剤と水の混合液などを用いることができる。
【0072】
溶出に用いる処理液は、上記の溶剤をそのまま用いても良いが、水やその他の液体と混合して用いても良い。その場合、溶剤が30重量%以上含有されていることが好ましい。溶出に必要とする時間を短縮するという観点からは、50重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
【0073】
溶出は処理液に該芯鞘複合繊維を浸漬したり、該芯鞘複合繊維に処理液を浴びせ続けたりするなどの方法で行なうことができる。溶出の条件を制御しやすいという観点では、処理液に該芯鞘複合繊維を浸漬する方法が好ましい。溶出を行なう際、処理液の温度は特に限定されないが、処理液が液体の状態である温度が好ましい。処理時間については、芯成分のセルロース脂肪酸エステルを十分に溶出するという観点からは30分以上が好ましく、1時間以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、本発明の中空セルロース系繊維の製造効率の観点からは、24時間以内であることが好ましい。溶出を行なう装置は特に限定されないが、処理液を攪拌可能な装置や、処理液中で該芯鞘複合繊維が移動可能な装置を用いることが好ましい。このような装置を用いることにより、溶出に必要とする時間が短縮される。
【0074】
本発明では、中空セルロース系繊維に柔軟剤、静電剤など仕上げ剤が付与されていることが好ましい。したがって、溶出後に得られたセルロース系繊維に仕上げ剤を付与する工程が採用されていることが好ましい。単糸が極細のセルロース系繊維は、繊維表層部の電荷の偏りや、グルコースユニットに存在する水酸基同士の水素結合などによって、単糸同士が凝集を起こすことがある。凝集が生じると、繊維構造物の風合いを損なったり、繊維構造物の品位が低下したりする傾向があり好ましくない。
【0075】
仕上げ剤の具体例としては、アニオン系界面活性剤、ポリアミド誘導体などのカチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アミノシリコーン、パラフィンなどのコーティング剤および滑剤などが挙げられる。凝集を抑制する効果の高さからは、ポリアミド誘導体などのカチオン系界面活性剤、アミノシリコーンなどが特に好ましい。
【0076】
セルロース系繊維に仕上げ剤を付与するには仕上げ剤を0.05〜10.00重量%含む水溶液あるいは水懸濁液である処理液にセルロース系繊維を浸漬すればよい。浸漬の際の該処理液の温度は特に制限されないが、温度が高すぎるとセルロース系繊維の機械特性を損なうため、その上限は90℃である。
【実施例】
【0077】
各物性の評価方法は以下に示す通りである。
【0078】
(1)エステル置換度
80℃で8時間乾燥したセルロース系試料0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間反応させた。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果からエステル置換度を計算した。
【0079】
下記式は、セルロース系試料のアセチル基のエステル置換度の平均値とアセチル基以外のアシル基のエステル置換度の平均値を算出する場合の例を示している。
TA=(B−A)×f/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−16.00−1.01×2)×TA}+{1−(Mwacy−16.00−1.01×2)×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA :セルロース系試料1g当たりの全有機酸量(mol/g)
A :セルロース系試料滴定量(ml)
B :空試験滴定量(ml)
f :硫酸の力価
W :セルロース系試料重量(g)
DSace :アセチル基のエステル置換度の平均値
DSacy :アシル基のエステル置換度の平均値
Mwace :酢酸の分子量
Mwacy :他の有機酸の分子量
Acy/Ace :酢酸(Ace)と酢酸以外の有機酸(Acy)とのモル比
162.14 :グルコースユニットの分子量
16.00 :酸素の原子量
1.01 :水素の原子量
【0080】
上記の作業は、第1にセルロース系試料を溶解させた溶液を過剰の水酸化ナトリウム水溶液と反応させ、硫酸を用いた逆滴定でアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などのアシル基由来の全有機酸量(試料1g当たりのモル数)を算出し、第2に高速液体クロマトグラフィーによるイオンクロマトグラフで全有機酸中の各有機酸の割合を算出し、第3にセルロース系試料を構成するグルコースユニットの分子量を算出する数式と第1、第2で算出された値を用いることでエステル置換度を算出する、ということである。
【0081】
(2)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(Mw)測定
セルロース脂肪酸エステルの濃度が0.15重量%となるようにテトラヒドロフランに完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件のもと、Waters2690(Waters製)でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
検出器 :Waters2410(Waters製) 示差屈折計RI
移動層溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
注入量 :200μl。
【0082】
(3)引張強度および伸度
温度20℃、湿度65%の環境下において、オートグラフAG−50NISMS形(島津製作所製)を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除した値を引張強度(cN/dtex)とした。またそのときの伸度を伸度(%)とした。なお測定回数はそれぞれ5回とし、その平均値を引張強度、伸度とした。
【0083】
(4)繊維断面の観察(走査型電子顕微鏡)
繊維の横断面を走査型電子顕微鏡により観察し、繊維断面の反射電子像を撮影した。撮影図より長さや面積などを算出する場合は画像解析ソフトを用いた。
断面作成 :繊維をエポキシ樹脂で包埋し、樹脂ごと繊維を切断
切断方向 :横断(繊維軸に対して垂直方向に切断)
観察装置 :走査型電子顕微鏡(S−4000 日立ハイテクノロジーズ製)
観察倍率 :2000倍
画像解析ソフト :WinRooF5.0(三谷商事株式会社製)。
【0084】
(4−1)単糸の直径
繊維断面の観察で得られた撮影図より、単糸の断面の最長径部の両端を結ぶ線と平行な辺を含み、断面形状に外接する四角形(四辺の角の角度は全て90°である)の長辺の長さXと同短辺の長さYを算出し、XとYの平均値を単糸の直径とした(図2参照)。これを20本の単糸について行い、算出された平均値である。(すなわち、該長辺の長さXと単糸の断面の最長径部の長さは等しい。)
【0085】
(4−2)中空率
繊維断面の観察(走査型電子顕微鏡)で得られた撮影図より単糸の断面の全面積Saと中空部の面積Sbを算出し、下記の式を用いて中空率を算出した。なお撮影図において中実部と中空部は、像の明暗の差によって区別できる。20本の単糸について中空率を算出し、平均値を中空率とした。また、中空率が10%以上であれば軽量性があると判断した。
中空率(%)=(Sb/Sa)×100。
【0086】
(5)繊維断面の観察(透過型電子顕微鏡)
繊維をエポキシ樹脂で包埋し、切片作成装置を用いてエポキシ樹脂ごと繊維を切断し、厚さ1μmの超薄切片を得た。得られた超薄切片を透過型電子顕微鏡で観察し、繊維断面の像を撮影した。撮影図より長さや面積などを算出する場合は画像解析ソフトを用いた。
手法 :超薄切片法
切断方向 :横断(繊維軸に対して垂直方向に切断)
切片作製装置 :ウルトラミクロトーム(MT6000型 Sorvall社製)
観察装置 :透過型電子顕微鏡(H800 日立ハイテクノロジーズ製)
観察倍率 :2000倍
画像解析ソフト :(WinRooF5.0 三谷商事株式会社製)。
【0087】
(5−1)海島比
繊維断面の観察(透過型電子顕微鏡)で得られた撮影図より単糸の断面における海成分の占める面積Taと島成分の占める面積Tbを算出し、TaとTbの比を海島比とした。なお、撮影図において海成分と島成分は像の明暗の差によって区別できる。なお、前記面積Ta、Tbは、それぞれ20本の単糸より算出した面積の平均値を用いるものとする(すなわち、海島比の値は、Taの平均値/Tbの平均値)。
例)Ta=600(μm)、Tb=2400(μm)の場合
海島比は600/2400=20/80。
【0088】
(5−2)芯鞘比
繊維断面の観察(透過型電子顕微鏡)で得られた撮影図より単糸の断面における芯成分の占める面積Uaと鞘成分の占める面積Ubを算出し、UaとUbの比を芯鞘比とした。撮影図において芯成分と鞘成分は像の明暗の差によって区別できる。なお、前記面積Ua、Ubは、それぞれ20本の単糸より算出した面積の平均値を用いるものとする(すなわち、芯鞘比の値は、Uaの平均値/Ubの平均値)。
例)Ua=24(μm)、Ub=36(μm)の場合
芯鞘比は24/36=40/60。
【0089】
(5−1)風合いの評価
評価対象となる5m長の筒編み地を用意し、参考用筒編み地との風合いを比較した。下記の基準で被験者10名が採点評価し、その平均点を風合いの評価とした。なお、平均点が4以上のものを合格とした。
5:風合いが優れていることは明確であり、温かみのある風合いであると感じた。
4:風合いは優れている。
3:風合いはやや良い。
2:同等の風合いである。
1:風合いは劣っている。
【0090】
(5−2)参考用筒編み地の作製
後述する原料である島成分Aをメルター温度270℃で溶融させ、紡糸温度270℃の溶融紡糸パックへ導入し、孔径D=0.18mm、L/D=3、ホール数=72である口金から吐出量20.0g/分で吐出させた。吐出されたマルチフィラメントを口金面より下方40mmの距離(冷却開始点)から冷却風(25℃、風速0.30m/秒)によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、2000m/分の速度で引き取り、100dtex−72フィラメントのマルチフィラメントを得た。
【0091】
このマルチフィラメントを用いて、釜径3.5インチ(89mm)の丸編機(英光産業社製 NCR−BL型)にて27ゲージの筒編み地を5m作製した。この筒編み地を常温の水に20分間浸漬して脱可塑剤を行い、続いて60℃に加熱されたアルカリ性の水溶液(化合物:水酸化ナトリウム、濃度:1.5重量%)で満たされた処理槽に30分間浸し、脱エステルを行なって、セルロース脂肪酸エステルを芯成分とし、エステル置換度が0.5未満のセルロースを鞘成分とする芯鞘複合繊維からなる筒編み地を得た。さらにこの筒編み地を、カチオン系界面活性剤を主成分とする柔軟剤である“ビクロン88T”(一方社油脂工業製)が3重量%含有された柔軟仕上げ処理液に浸し、この処理液を50℃に加熱しながら15分間柔軟仕上げ処理を行なった。柔軟仕上げ処理の後、この筒編み地を60℃に設定された熱風乾燥機で1時間乾燥させた。
【0092】
(6)吸湿率
評価対象となる筒編み地3gを用意し、105℃で10時間真空乾燥させて絶乾状態としたときの重量(W)を測定した。この筒編み地を温度20℃、湿度65%の標準状態に調整された恒温恒湿槽(ナガノ科学機械製LH−20−11M)の中に24時間保存し、吸湿が平衡状態となったときの試料の重量(W)を測定した。その後、下記の式を用いて、温度20℃、湿度65%の標準状態における吸湿率を算出した。
吸湿率(重量%)=((W−W)/W)×100。
【0093】
実施例にて用いた原料は以下に示す通りである。
【0094】
[海成分A]
グリコール成分としてエチレングリコール、酸成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸/イソフタル酸/テレフタル酸をそれぞれ12/25/63モル%の割合で共重合されたポリエステルを乾燥温度150℃で12時間真空乾燥したもの。
【0095】
[海成分B]
重量平均分子量16.8万、融点170℃のポリL−乳酸を乾燥温度120℃で8時間真空乾燥したもの。
【0096】
[島成分A]
以下に示す方法で製造された熱可塑性組成物を島成分Aとした。
【0097】
コットンリンター100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、熱風乾燥機を用いて60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネート(以下、CAPと呼ぶ)のアセチル基およびプロピオニル基のエステル置換度は各々1.9、0.7であり、重量平均分子量(Mw)は17.7万であった。
【0098】
該CAP82.0重量部、平均分子量600のポリエチレングリコール17.9重量部、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量部を公知の2軸エクストルーダーを用いて樹脂温度240℃で混練し、エクストルーダーから吐出された熱可塑性組成物をストランド状に引き伸ばした後、ペレタイザーに投入して5mm角のペレットを得た。その後、このペレットを95℃で12時間真空乾燥した。得られたペレットの重量平均分子量(Mw)は16.0万であった。
【0099】
[島成分B]
以下に示す方法で製造された熱可塑性組成物を島成分Bとした。
【0100】
島成分Aの製造方法において、イーストマンケミカル製セルロースアセテートプロピオネート(製品名CAP482−20、アセチル基のエステル置換度0.1、プロピオニル基のエステル置換度2.5)93重量部、平均分子量600のポリエチレングリコール6.9重量部、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量部を公知の2軸エクストルーダーを用いて樹脂温度220℃で混練した。得られたペレットの重量平均分子量(Mw)は18.3万であった。
【0101】
[島成分C]
以下に示す方法で製造された熱可塑性組成物を島成分Cとした。
【0102】
島成分Aの製造方法において、イーストマンケミカル製セルロースアセテートブチレート(製品名CAB171、アセチル基のエステル置換度1.0、ブチリル基のエステル置換度1.7)87重量部、平均分子量600のポリエチレングリコール12.9重量部、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量部を公知の2軸エクストルーダーを用いて樹脂温度220℃で混練した。得られたペレットの重量平均分子量(Mw)は17.3万であった。
【0103】
[実施例1]
海成分Aと島成分Aをメルター温度270℃で別々に溶融させ、紡糸温度270℃の溶融紡糸パックへ導入し、公知の口金を用いて海成分Aと島成分Aを分配し、孔径D=0.4mm、L/D=1、ホール数=12である最終口金から吐出量18g/分で吐出させた。海成分/島成分の比率は30/70とし、海島複合繊維の単糸1本あたりの島数は16とした。吐出された海島複合繊維を最終口金面より下方65mmの距離(冷却開始点)から冷却風(25℃、風速0.3m/秒)によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、2000m/分の速度で引き取り、90dtex−12フィラメントの海島複合繊維を得た。
【0104】
この海島複合繊維を用いて、釜径3.5インチ(89mm)の丸編機(英光産業社製 NCR−BL型)にて27ゲージの筒編み地を作製した。この筒編み地を常温の水に20分間浸漬して脱可塑剤を行い、続いてこの筒編み地を60℃に加熱されたアルカリ性の水溶液(化合物:水酸化ナトリウム、濃度:1.5重量%)で満たされた処理槽に30分間浸すことで脱海と脱エステルを同時に行い、セルロース脂肪酸エステルを芯成分とし、エステル置換度が0.5未満のセルロースを鞘成分とする芯鞘複合繊維(芯鞘比=40:60)からなる筒編み地を得た。なお、海島複合繊維と該水溶液の重量比率(浴比)は1:20であった。
【0105】
この筒編み地を常温のアセトンで満たされた処理槽に2時間浸し、攪拌しながら溶出させた。その後に水洗を行い、セルロース系繊維からなる筒編み地を得た。さらにこの筒編み地を、カチオン系界面活性剤を主成分とする柔軟剤である“ビクロン88T”(一方社油脂工業製)が3重量%含有された柔軟仕上げ処理液に浸し、この処理液を50℃に加熱しながら15分間柔軟仕上げ処理を行なった。柔軟仕上げ処理の後、この筒編み地を60℃に設定された熱風乾燥機で1時間乾燥させた。
【0106】
実施例1で得られた筒編み地について評価を行った結果を表1に示す。評価の結果から、中空セルロース系繊維からなる軽量性、吸湿性、良好な風合いを有する筒編み地を得られたと判断した。なお、筒編み地を構成する中空セルロース系繊維の引張強度は1.1cN/dtex、伸度は15.3%であった。
【0107】
[実施例2]
実施例1において海成分Bを用い、アルカリ性の水溶液を90℃に加熱して脱海を行なった。評価の結果は表1の通りである。アルカリ性の水溶液をより高い温度に加熱したため、筒編み地を構成する中空セルロース系繊維の引張強度は1.0cN/dtex、伸度は11.2%であり、実施例1と比較して機械特性がやや低下していた。
【0108】
[実施例3〜4]
実施例1において島成分B、島成分Cをそれぞれ用いた。評価の結果は表1の通りである。
【0109】
[実施例5]
実施例1において吐出量9g/分、海島比=65/35とし、得られた45dtex−12フィラメントの海島複合繊維を用いた。評価の結果は表1の通りである。なお、筒編み地を構成する中空セルロース系繊維の引張強度は0.8cN/dtex、伸度は13.2%であった。
【0110】
[実施例6〜7]
実施例1において脱エステルの処理時間を実施例6では60分、実施例7では15分に変更して芯鞘比を変更し、中空率が異なる中空セルロース系繊維を得た。評価の結果は表1の通りである。
【0111】
[比較例1]
実施例1において、セルロース脂肪酸エステルを芯成分とし、エステル置換度が0.5未満のセルロースを鞘成分とする芯鞘複合繊維から芯成分の溶出を行わなかった(すなわち、中空ではない)。評価の結果は表1の通りである。
【0112】
[比較例2]
島成分Aをメルター温度260℃で溶融させ、紡糸温度270℃の溶融紡糸パックへ導入し、吐出孔がC型状スリットである口金(C型状スリットの外接円の直径が1mm、スリット幅が0.1mm、ホール数が36)から吐出量15g/分で吐出させた。吐出されたマルチフィラメントを口金面より下方150mmの距離(冷却開始点)から冷却風(25℃、風速0.3m/秒)によって冷却し、1500m/分の速度で引き取り、100dtex−36フィラメントの中空のマルチフィラメントを得た。
【0113】
このマルチフィラメントを用いて、釜径3.5インチ(89mm)の丸編機(英光産業社製 NCR−BL型)にて27ゲージの筒編み地を作製した。この筒編み地を常温の水に20分間浸漬して脱可塑剤を行い、続いてこの筒編み地を60℃に加熱されたアルカリ性の水溶液(化合物:水酸化ナトリウム、濃度:1.5重量%)で満たされた処理槽に30分間浸すことで脱エステルを行い、エステル置換度が0.5未満のセルロースからなる中空セルロース系繊維の筒編み地を得た。この筒編み地を、カチオン系界面活性剤を主成分とする柔軟剤である“ビクロン88T”(一方社油脂工業製)が3重量%含有された柔軟仕上げ処理液に浸し、この処理液を50℃に加熱しながら15分間柔軟仕上げ処理を行なった。柔軟仕上げ処理の後、この筒編み地を60℃に設定された熱風乾燥機で1時間乾燥させた。評価の結果は表1の通りである。
【0114】
[比較例3]
比較例2よりも単糸の直径が小さい中空セルロース系繊維を得るべく、島成分Aをメルター温度260℃で溶融させ、紡糸温度270℃の溶融紡糸パックへ導入し、吐出孔がC型状スリットである口金(C型状スリットの外接円の直径が0.5mm、スリット幅が0.05mm、ホール数が36)から吐出量4g/分で吐出させた。吐出されたマルチフィラメントを口金面より下方150mmの距離(冷却開始点)から冷却風(25℃、風速0.3m/秒)によって冷却し、1500m/分の速度で引き取ろうとしたが、マルチフィラメントの強度が低く、巻き取ることができなかった。
【0115】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の中空かつ極細のセルロース系繊維は、軽量性、吸湿性、特に柔らかな風合いに優れることから、衣料用途、インテリア用途、衛生用途など、人の肌と繊維が直接触れるような用途において好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0117】
1:スピンブロック
2:溶融紡糸パック
3:紡糸口金
4:冷却開始点
5:冷却装置
6:紡出糸条
7:給油装置
8:第1ゴデットローラー
9:第2ゴデットローラー
10:パッケージ
X:断面形状に外接する四角形の長辺の長さ
Y:断面形状に外接する四角形の短辺の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸の直径が10μm以下であり、エステル置換度が0.5未満であることを特徴とする中空セルロース系繊維。
【請求項2】
セルロース脂肪酸エステルを芯成分とし、エステル置換度が0.5未満のセルロースを鞘成分とする芯鞘複合繊維からセルロース脂肪酸エステルを溶出させることを特徴とする中空セルロース系繊維の製造方法。
【請求項3】
前記芯鞘複合繊維が、セルロース脂肪酸エステルからなる熱可塑性組成物を島成分とする海島複合繊維から海成分を除去し、島成分の表層部を脱エステルして得られたものであることを特徴とする請求項2に記載の中空セルロース系繊維の製造方法。
【請求項4】
海成分がアルカリ性の水溶液に溶解性を持つ熱可塑性重合体であり、セルロース脂肪酸エステルがセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートのいずれかから選ばれることを特徴とする請求項3に記載の中空セルロース系繊維の製造方法。
【請求項5】
セルロース脂肪酸エステルからなる熱可塑性組成物の繊維の表層部を脱エステルしてエステル置換度が0.5未満のセルロースとし、セルロース脂肪酸エステルを芯成分とし、エステル置換度が0.5未満のセルロースを鞘成分とする芯鞘複合繊維を得て、該芯鞘複合繊維からセルロース脂肪酸エステルを溶出させることを特徴する中空セルロース系繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136798(P2012−136798A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289710(P2010−289710)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】