説明

中空パイプの凹部形成方法及び装置

ロール支持ブロック10は4段の転造回転ロール6〜9を有し、パイプホルダ5のガイド穴13に案内されてロール支持ブロック10が移動する。パイプホルダ5によって固定された中空パイプ2には、パイプホルダ5に形成された成型窓35を通じて転進回転ロール6〜9が次々と圧接する。先ず第1段転造回転ロール6が回転しながら中空パイプ2と圧接して凹部の予備成形が行われ、次いで、順次大径になる第2〜第3段の転造回転ロール7、8によって凹部を拡大する予備成形が行われ、最終的に、第4転造回転ロール9によって第1又は第2ロック溝3、4の最終形状が成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は中空パイプの凹部形成方法及び装置に関する。
【背景技術】
近時の車両用シートは、衝突時の乗員の頭部の保護のためにヘッドレストを備えている。ヘッドレストは、一般的には、ステーを介してシートバックに取り付けられ、ヘッドレストを引き上げる又は押し下げることで、その高さ調整が可能になっている。ヘッドレストの高さ調整機構は、一般的には、シートバッグに内蔵されたフックと、ヘッドレスト用ステーに形成された複数のロック溝とで構成されている。
ヘッドレスト用ステーの素材は、歴史的には、円形断面の中実棒から中空パイプに移り、近時は、車両の軽量化の流れに伴い、薄肉の中空パイプの採用が検討されている。
中実棒や比較的肉厚の中空パイプの場合、フライス盤を使って切削加工によりロック溝を形成できるものの、使用する中空パイプが、ロック溝の深さよりも薄肉になると切削加工に依存することができないため、中空パイプの外周面にロック溝つまりフックを掛止可能な切り立った段部を備えた溝を形成することのできる他の方法の模索が急務の課題となっている。
日本国特開平8−90126号公報(先行文献1)は、中空パイプの中に芯金を挿入した状態で、中空パイプの外周面をポンチで押圧して、ヘッドレスト用ステーのロック溝やハンドブレーキ用の支持棒のロック溝を形成することを提案している。
日本国特開2000−197922号公報(先行文献2)は、中空パイプの中に芯金を挿入した状態でプレス形成により、マニュアルトランスミッションの中空シフトフォークシャフトにチェックボール用凹部を形成することを提案し、また、この凹部を形成した後に、特殊形状の芯金を回転させて中空パイプから芯金を抜き去ることを提案している。
日本国特開2002−137673号公報(先行文献3)は、2つの長尺部位とこれらの端同士を連結する短尺部位とを有するコ字状形状に形成した中空パイプからなるヘッドレスト用ステーを予め用意し、ステー長尺部位の径方向に互いに対抗した位置にロック溝を形成する方法に関し、互いに対峙して配置された一対のロールパンチと、各ロールパンチを支承するために各ロールに隣接して配設されたサポートロールとを用意し、一対のロールパンチ間に中空パイプを押し込むことによりロック溝を形成することを提案している。
日本国特開2002−210519号公報(先行文献4)は、予備成形と次の本成形の2段階の工程を経ることでヘッドレスト用ステーのロック溝を形成する方法に関し、予備成形工程では、ホルダの円弧溝で中空パイプを支持しつつ、中空パイプの露出した周面に回転パンチを押し下げることにより、中空パイプの周面に凹部を形成し、次の本工程では、この凹部に沿ったガイド溝を備えたホルダーカバーで中空パイプの全周を囲んだ状態で、ガイド溝に沿ってプレスポンチを移動させることによりロック溝を形成することを提案している。
日本国特開2003−9991号公報(先行文献5)は、特殊形状の先端面を備えたパンチを用意し、このパンチを中空パイプに押圧することでヘッドレスト用ステーのロック溝を形成することを提案している。
日本国特開2003−71522号公報(先行文献6)は、中空パイプの中に芯金を挿入した状態で、特殊形状のプレス加工工具を中空パイプの周面と交差する方向に移動させながら中空パイプの周面に圧接させることによりヘッドレスト用ステーのロック溝を形成することを提案している。
ヘッドレスト用ステーのロック溝のような切り立った段部が必要な凹部を中空パイプに形成する場合、先行文献1〜6にも記載しているように、凹部を規定する段部の角のダレの発生は回避すべき重要な課題になる。
また、このような凹部を中空パイプに形成するのに複雑な操作が必要であると、このことはコストアップ要因となることから、できるだけコストアップ要因となる操作は回避すべきであり、できれば一回の連続した工程で所望の形状の凹部を中空パイプに形成できるのが望ましい。
【発明の開示】
本発明の目的は、所望の形状の凹部を一回の工程で形成することのできる中空パイプの凹部形成方法及び装置を提供することにある。
本発明の更なる目的は、中空パイプに挿入する芯金無しに所望の形状の凹部を形成することのできる中空パイプの凹部形成方法及び装置を提供することにある。
本発明の更なる目的は、薄肉の中空パイプに対して好適に適用することのできる中空パイプの凹部形成方法及び装置を提供することにある。
本発明の更なる目的は、薄肉の高張力中空パイプに好適に適用することのできる中空パイプの凹部形成方法及び装置を提供することにある。
本発明の更なる目的は、薄肉の中空パイプにロック溝のような切り立った段部を備えた凹部を一回の工程で形成することのできる中空パイプの凹部形成方法及び装置を提供することにある。
本発明の更なる目的は、ヘッドレスト用ステーのように例えばコ字状に屈曲した形状の最終製品を作る前段階で、真っ直ぐな状態の中空パイプに凹部を形成することのできる中空パイプの凹部形成方法及び装置を提供することにある。
かかる技術的課題は、本発明の第1の観点によれば、
中空パイプと順次交差可能な複数段の転造回転ロールを用意し、
該複数段の転造回転ロールと中空パイプとを相対的に移動させて、これら複数段の転造回転ロールを、順次、中空パイプに圧接させることにより予備成形と本成形とを順次を行って前記中空パイプに凹部を成形することを特徴とする中空パイプの凹部形成方法を提供することにより達成される。
すなわち、本発明によれば、複数段の転造回転ロールを次々と中空パイプに圧接することにより、予備成形と本成形とが行われる。本発明の好ましい実施の形態では、パイプホルダが、中空パイプの凹部形成箇所に沿った輪郭を有する成型窓を備えている。この成型窓は、中空パイプに切り立った段部を備えた凹部を形成するのであれば、少なくとも切り立った段部に隣接する成型窓の輪郭と、最終段の転造回転ロールの輪郭との間の隙間がゼロであるのが好ましい。
また、本発明の他の観点によれば、
複数段の転造回転ロールが一列に並んだ状態で各転造回転ロールを回転自在に保持するロール保持ブロックと、
中空パイプと実質的に同じ断面形状のパイプ保持孔を備え、該パイプ保持孔に配置された前記中空パイプを固定することのできるパイプホルダであって、前記パイプ保持孔に配置された前記中空パイプの一部を露出させる成型窓を備えたパイプホルダとを有し、
前記ロール保持ブロックと前記パイプホルダとを相対的に移動させることにより、前記複数段の転造回転ロールが前記成型窓を通じて次々と前記中空パイプと圧接し、これにより予備成形と本成形を順次行うことにより前記中空パイプに凹部を成形することを特徴とする中空パイプの凹部形成装置を提供することにより達成される。
本発明の好ましい実施の形態では、パイプホルダは、ロール保持ブロックの移動方向の分割される。例えばロール保持ブロックが上下に移動するのであれば、パイプホルダは上下に分割され、片方のパイプホルダを上下に移動させることにより中空パイプの抜き差しを行うのが好ましい。
本発明の他の目的及び作用効果は以下の本発明の実施例の詳細な説明から理解できよう。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の基本的な概念を説明するための図である。
図2は、典型列としてヘッドレスト用ステーとしての中空パイプに成形したロック溝の断面図である。
図3は、典型例としてヘッドレスト用ステーとしての中空パイプに成形した他のロック溝の断面図である。
図4は、図3のIV−IV線に沿った断面図である。
図5は、図3に図示のロック溝を成形するための転造回転ロールの外周面の形状を説明するための図である。
図6は、複数段の転造回転ロールの配置に関する変形例を説明するための図である。
図7は、実験機の一部を構成するパイプホルダの斜視図である。
図8は、実験機の残部を構成するロール支持ブロックの斜視図である。
図9は、転造回転ロールが中空パイプに食い込む部位の説明図である。
図10は、転造回転ロールが中空パイプに食い込むための成型窓の輪郭を説明するための図である。
図11は、量産機で採用するのが好ましい共通ロール支持ブロックの概略平面図である。
図12は、量産機で採用するのが好ましい共通ロール支持ブロックの概略正面図である。
図13は、変形例として、定置した転造回転ロールに対して中空パイプを移動させることにより、中空パイプに凹部を形成する場合のシステムの概略構成図である。
図14は、プレス機械を変形して作った量産機の概要を説明するための図である。
図15は、図14に図示の量産機に設けられガイド穴を備えたガイド部材及び横隣りに配置されたパイプホルダを斜め上から見た図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、図面に基づいて本発明の実施の形態及び具体例を詳しく説明する。
図1は、本発明に従う凹部形成方法及び装置の概念図である。図1に図示の凹部形成装置1は、ヘッドレスト用ステーにロック溝を形成するのに適用される。
ヘッドレスト用ステーは、最終製品の形状として、当業者には周知のように、2本の長尺パイプ部とこれらの端同士を連結する短尺パイプ部とからなるコ字状やM字状など従来から既知の形状に折り曲げた屈曲形状を有し、長尺パイプ部に軸線方向に離間した複数のロック溝が設けられる。ここに例示のヘッドレスト用ステーには、図2に示すコ字状断面の第1ロック溝3(深さ:約1.5mm)と、図3及び図4に示す一つの略垂直面とこれに対向するテーパ面とで構成された第2ロック溝4(深さ:約1.5mm)とが設けられ、これら第1、第2のロック溝3、4に対して凹部形成装置1を適用することができる。
また、凹部形成装置1にあっては、従来と同様に、真っ直ぐの中空パイプを屈曲させてヘッドレスト用ステーの形状に形成した後にロック溝を形成することもできるが、ヘッドレスト用ステーの形状にする前に直線状の中空パイプに対してロック溝を形成することもできる。すなわち、所定長さの中空パイプ2に対して凹部形成装置1を使ってロック溝3、4を形成し、次いで、これをコ字状やM字状などに屈曲形成することによりヘッドレスト用ステーを製造することができる。
このように、コ字状やM字状などの最終製品の形状に屈曲成形する前段階で、中空パイプ2に所望の数のロック溝3、4を形成することは様々なタイプのヘッドレスト用ステーを製造する上で都合が良い。すなわち、ヘッドレスト用ステーは、互いに対向する長尺パイプ部の内側や、内側と外側、前側と後側などにロック溝を設けた様々なタイプがあり、最終製品形状に屈曲成形した後にロック溝を形成するには各タイプ毎に成形型を用意する必要があるが、ヘッドレスト用ステーの最終形状を成形する前段階で、真っ直ぐな中空パイプ2にロック溝3、4を形成することができれば、予め中空パイプ2にロック溝3、4を形成しておき、その後、各タイプに応じた位置にロック溝3、4が存在するように中空パイプ2を屈曲成形することで様々なタイプのヘッドレスト用ステーを製造することができる。
凹部形成装置1は、中空パイプ2を定置した状態で保持するためのパイプホルダ5と、複数の転造回転ロール6〜9を支持するロール支持ブロック10とを有し、パイプホルダ5は、固定ブロック11とホルダ本体12とで中空パイプ2を挟持することにより、この中空パイプ2を固定して、中空パイプ2の長手方向の変位及び軸線回りの回転を防止することができる。このパイプホルダ5には、中空パイプ2に隣接した位置に垂直方向に延びるガイド穴13が形成されている。
ロール支持ブロック10は複数段の転造回転ロール6〜9を有し、この転造回転ロール6〜9は、ガイド穴13の軸線方向に互いに離間して配置され、その各々の支軸15〜18を介してロール支持ブロック10に回転自在に保持されている。ロール支持ブロック10は、上方からガイド穴13の中に挿入され、好ましくは、下方に移動した後、上方に移動する一往復の動作を行うことにより、中空パイプ2に所望の凹部、つまりロック溝3又は4を成形するようになっている。
転造回転ロール6〜9に関し、説明の便宜上、パイプホルダ5に最も近いロール6から順に、第1段転造回転ロール6、第2段転造回転ロール7、第3段転造回転ロール8、第4段転造回転ロール9と呼ぶと、これら第1段〜第4段の転造回転ロール6〜9の各支軸15〜18は、ガイド穴13の軸線方向に延びる共通の垂直軸線L上に配置されており、第1段転造回転ロール6から順に段階的に直径Dが大きくなるように設定されている。
すなわち、ガイド穴13つまり定置した中空パイプ2に最も近い第1段転造回転ロール6の直径D1は、その上の第2段転造回転ロール7の直径D2よりも小さく、第2段転造回転ロール7の直径D2は第3段転造回転ロール8の直径D3よりも小さく、第3段転造回転ロール8の直径D3は最も上の第4段転造回転ロール9の直径D4よりも小さい(D1<D2<D3<D4)。
第1〜第4の転造回転ロール6〜9の外周面は、第1ロック溝3(図2)又は第2ロック溝4(図3、図4)に対応した形状を有する。図5は、第2ロック溝4を形成するための第4段転造回転ロール9の外周面の形状を示し、この第4段つまり最終段の転造回転ロール9によって中空パイプ2の外周面に、第1ロック溝3(図2)又は第2ロック溝4(図3、図4)の最終形状が形成される。
すなわち、パイプホルダ5のガイド穴13に案内されてロール支持ブロック10が移動すると、中空パイプ2には、先ず第1段転造回転ロール6が回転しながら圧接して凹部が予備成形され、次いで、順次大径になる第2、第3の転造回転ロール7、8によって凹部を拡大する予備成形が行われ、更に、最終段の第4段転造回転ロール9によって、第1又は第2ロック溝3、4の最終形状が成形される。予備成形するための第1段〜第3段の転造回転ロール6〜8の外周面の形状は、図5に例示するように、本成形するための最終段の転造回転ロール9と互いに相似形であるのが好ましい。ちなみに、例えば、比較的尖った外周面形状の第1段転造回転ロール6を作って試験したとところ、この第1段転造回転ロール6の痕跡が最終製品に残ってしまい、第1又は第2のロック溝3、4を備えた中空パイプ2の見栄えを損なうことが分かった。
上述の説明では、ガイド穴13に案内されたロール支持ブロック10の移動により、中空パイプ2を横断する方向に4段の転造回転ロール6〜9が次々と中空パイプ2に回転しながら圧接して、中空パイプ2に第1又は第2のロック溝3、4を形戍するようにしてあるが、転造回転ロールの段数は二以上であれば任意であり、特にその数は限定されない。
また、上記の例では、中空パイプ2に近い側から徐々に拡径した複数段の転造回転ロール6〜9を用意して、これらの複数段の転造回転ロール6〜9の回転中心を共通垂直軸線Lに設定してあるが、例えば、同じ直径の転造回転ロールを用意し、その回転中心を図6に示すようにオフセット(ΔL)して配置するようにし、最も下段の転造回転ロール6の食い込み量B1を最も小さく設定し、上方段に位置するほど、食い込み量B(図5)が大きくなるように設定するようにしてもよい。このように複数段の転造回転ロール6〜9の直径が同じで、回転中心をオフセットして配置する場合、各段の転造回転ロールは同じ形状を有していてもよいし、図5を参照して説明したように相似形であってもよい。
なお、図6に示す例は、3段の転造回転ロール6〜8を配設したロール支持ブロック10を示す。この図6の例では、第1段、第2段の転造回転ロール6、7が予備成形のためのものであり、最も上段の第3段転造回転ロール8によって最終的な本成形が行われる。
図7、図8は、本発明の作用効果を確認するために実際に作った実験機30を示す。この実験機30に含まれる要素のなかで上述の図1で説明した要素と同一の要素には同一の参照符号を付すことにより、その説明を省略する。
図7は実験機30に含まれるパイプホルダ5を示す。パイプホルダ5は、ホルダ本体12を貫通して水平方向に延びる断面円形のパイプ挿入用横穴31を有し、このパイプ挿入用横穴31はワークである中空パイプ2と実質的に同じ径を有し(横穴31と、この中に挿入された中空パイプ2との間のクリアランスは実質的に「ゼロ」)。パイプ挿入用横穴31に挿入した中空パイプ2は、中空パイプ2を受け入れる横溝33を備えた固定ブロック11をボルト34を締め込むことにより固定ブロック11とホルダ本体12とで挟持され、これにより、中空パイプ2は、その軸線方向の変位及び軸線回りの回転が不能な状態で、中空パイプ2の全周がパイプホルダ5によって包囲される。中空パイプ2の全周を包囲する部位は、少なくとも中空パイプ2に凹部を形成する箇所であればよく、中空パイプ2に凹部を形成する部位から離れた部位に関しては、パイプホルダ5によって中空パイプ2の全周が包囲されていなくてもよい。したがって、この明細書で使用する「中空パイプ2を包囲する」という言葉は、中空パイプ2に凹部を形成する部位に関するものであると理解されたい。中空パイプ2をパイプホルダ5は、パイプ挿入用横穴31に隣接した位置に矩形のガイド穴13を有し、このガイド穴13は、パイプホルダ5を垂直方向に貫通して延びている。
図8は、実験機30の他の要素であるロール支持ブロック10を示す。このロール支持ブロック10は、矩形断面の本体40を有し、この本体40に、縦方向に離間して2段の転造回転ロール6、7が回転自在に設けられている。
2段の転造回転ロール6、7は、支持ブロック本体40の軸線と整合した垂直軸線Lと直交する支軸15、16を介して支持ブロック本体40に回転自在に取り付けられており、下方に位置する第1段転造回転ロール6の直径D1は、上方に位置する最終段の第2段転造回転ロール7の直径D2よりも僅かに小さくなるように設定されている
ロール支持ブロック10は、上からパイプホルダ5のガイド穴13の中に、第1段転造回転ロール6が下になるようにして挿入される。ガイド穴13には、ロール支持ブロック10の本体40の側面から外方に突出する第1段、第2段の転造回転ロール6、7の外周面に対応する断面形状を備えた縦溝34を備えている。なお、ガイド穴13の縦溝34の形状から理解できるように、第1段、第2段の転造回転ロール6、7の外周面の形状は、図3に図示のロック溝4を形成することのできる形状を備えている。
ガイド穴13の2つの互いに対向する縦溝34のうち、パイプ挿入用横穴31に隣接する縦溝34aは、パイプ挿入用横穴31と一部が干渉して、成型窓35(図9)を通じてパイプ挿入用横穴31と連通し、この成型窓35を通じて第1、第2の転造回転ロール6、7の外周面が中空パイプ2に圧接することができる。
図10は、ロック溝4を成形した後の中空パイプ2の一部を示し、上記の成型窓35を斜線で示してある。成型窓35は、ロック溝4の周縁に沿った輪郭を有するが、ロック溝4の段部4aに対応する部分、つまりガイド穴13の縦溝34aの略鉛直壁面36(図7)は第1段、第2段転造回転ロール6、7の外周面の角ばった側壁面7aから適度な隙間C(この実験機30の例ではC=0.1〜0.2mm程度に設定してある)を設けて材料の流れエリアを設けてよいが、隙間Cを略ゼロにするのが段部4aの角を切り立たせる上で好ましい。すなわち、切り立った角を備えた段部4aを形成するには、成型窓35は最終段の転造回転ロール7に対して実質的に隙間無し(C=約ゼロ)であるのが好ましい。
実験機30は、中空パイプ2をパイプホルダ5にセットして、その軸線方向の移動及び軸線回りの回転が不能となるように固定した後、ガイド穴13内のロール支持ブロック10を下降させ、次に上昇させる一往復のストローク動作を行うことにより、中空パイプ2にロック溝4が形成される。このロック溝4を形成するに際して、中空パイプ2の全周をパイプホルダ5によって包囲されているため、転造による凹部の形成に伴う中空パイプ2の変形を抑えることができる。
この実験に使用した中空パイプ2は、直径12.7mm、肉厚1.4mmの高張力材料(引っ張り強さ650N/mm2以上)であった。その結果、形成されたロック溝4は、段部4aの角にダレも無く、実用上問題のないレベルのロック溝が出来ていることが確認できた。
ダレの問題に関して検討した結果、上述した隙間Cを上述したように0.1〜0.2mm程度であってもよいが、最終段の転造回転ロール7に対して隙間Cを極力小さくすることが段部4aの角を切り立たせる上で効果的であることが分かった。ちなみに、実験機30では、成型窓35の輪郭は、最終段の転造回転ロール7の輪郭と実質的に同じである。
また、ヘッドレスト用ステーのロック溝を作るのであれば、転造回転ロールの段数は、量産機では2乃至5で実用上充分であろう。同様に、転造回転ロールの直径Dを極力小さな寸法にすることが、中空パイプ2との接触面積を小さくすることができることから、ダレ防止に効果的であることが分かった。例えば、ヘッドレスト用ステーのための中空パイプ2は一般的に約10〜13mmの直径を備えているが、この中空パイプ2に対しては、最終段の転造回転ロールの直径を中空パイプ2と同じか、中空パイプ2の直径の1〜4倍程度、好ましくは中空パイプ2の直径の1〜3倍程度の範囲に限定するのが好ましい。ちなみに、実験に使用した中空パイプ2の直径は12mm又は12.7mmであり、これに対して最終段の転造回転ロールの直径は45mmであった。
以上、実験機30に関して説明したが、共通のコンセプトで量産機を設計するときには、中空パイプ2に設けるロック溝3、4の数に応じた数のロール支持ブロック10を用意し、これを一回の操作で一緒に動作を実行させて所望の数のロック溝3、4を同時に中空パイプ2に形成するのがよい。この場合、例えばロック溝3及び4を互いに隣接して6個形成するのであれば、これに対応した数の転造回転ロールを横並びに配置し、各転造回転ロールを回転自在に設置するのがよい。すなわち、図11、図12に例示のように、共通のロール支持ブロック10を用意し、この共通ロール支持ブロック10に、第1段の6個の転造回転ロール6(1)〜6(6)を支軸15に回転自在に設け、同様に、第2段、第3段、第4段の各々の支軸16〜18に6個の転造回転ロール7〜9を回転自在に設けるのがよい。なお、図12では、各段の転造回転ロールの図示を省略してある。
また、量産機では、中空パイプ2の固定方法としては、固定ブロック11を例えば油圧を使って中空パイプ2を固定するようにしてもよい。
図13は、凹部形成装置100の具体例を示す。なお、図1を参照して説明した部材と同一の部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。凹部形成装置100は、量産型プレス機を変形させることにより作られている。凹部形成装置100は、ロール支持ブロック10が油圧シリンダ(図示せず)のシャフト101の下端に固設され、上下に移動可能である。
ロール支持ブロック10の下方には、ガイド穴13を備えたガイド部材102が固設され、ガイド部材102の横隣りに、パイプホルダ105が配設されている。パイプホルダ105は、下側ホルダ106と上側ホルダ107とで構成され、上側ホルダ107は油圧シリンダ108によって上下に移動可能である。
図14は、ガイド部材102及びパイプホルダ105を斜め上方から見た図である。この図14を参照して、ロール支持ブロック10を受け入れるガイド穴13は、ガイド部材102とパイプホルダ105とで規定され、ガイド部材13を規定するパイプホルダ105の一側面105aには、転造回転ロールの通過を許容する5本の縦溝108a〜108eが形成されており、各縦溝108a〜108eは、最終段の転造回転ロール9の外周部の厚みと実質的に同じ寸法の幅を有する。換言すれば、ロール支持ブロック10には、上下に4段の転造回転ロール6〜9の組を、横並びに5つ有し、これによりロール支持ブロック10が上下に1往復することで5つのロック溝を同時に形成するようになっている。
固定の下側ホルダ106と、可動の上側ホルダ107とには、中空パイプ2を受け入れる断面略半円の長い横溝106a、107aが互いに対向して形成されている。これら横溝106a、107aは、中空パイプ2の外形と実質的に同じ輪郭を有する。変形例として、横溝106a、107aは、少なくとも中空パイプ2のロック溝形成部位に関して中空パイプ2の外形と実質的に同じ輪郭を備えていればよく、他の部位は、中空パイプ2の直径よりも大きくてもよい。上側ホルダ107は、油圧シリンダ108により下方に押し付けられることにより、下側ホルダ106と協同して中空パイプ2を回転不能且つ変位不能に固定することができる。ロール支持ブロック10は、中空パイプ2を固定した状態で、上下に1往復することにより前述したロック溝3、4を同時に形成することができる。逆に、油圧シリンダ108のピストン108aが短縮動することにより上側ホルダ107が持ち上げられ、これにより中空パイプ2をパイプホルダ105から抜き差しすることができる。
例えば、パイプホルダ105を左右に分割し、ガイド部材102に隣接する側の分割パイプホルダを固定し、ガイド部材102とは反対側の分割パイプホルダを可動に構成したときには、ロール支持ブロック10が上下にストロークして4段の転造回転ロール6〜9が中空パイプ2に圧接したときに、この力によって可動の分割パイプホルダが多少なりとも左右方向に変位する虞があり、これにより、凹部成形に伴って中空パイプ2が変形してしまう虞がある。
上側ホルダ107を押し下げて上下のホルダ106、107が互いに重なり合った状態では、断面略半円の長溝106a、107aが形成するパイプ保持孔は、中空パイプ2と実質的に同じ直径になり、これにより、転造回転ロール6〜9により凹部が形成されるときに中空パイプ2の変形してしまうのを防止することができる。
以上、ヘッドレスト用ステーのロック溝の形成に本発明を適用した例を説明したが、本発明は、中空シフトフォークシャフトのチェックボール用凹部の形成に適用できることは言うまでもなく、また、広く一般に中空パイプに凹部を形成するのに適用可能であることは勿論である。
以上、本発明の好ましい実施態様を説明したが、本発明はこれに限定されることなく、例えば以下の変形例を包含するものである。
(1)前述の実施例では、中空パイプ2を固定し、転造回転ロール6〜9を移動させることにより、中空パイプ2に凹部3又は4を成形するようにしたが、転造回転ロール6〜9を定置し、中空パイプ2を移動させるようにしてもよい。すなわち、中空パイプ2と転造回転ロール6〜9の動作は相対的なものである。したがって、図12に図示のように、複数本の中空パイプ2を移動可能に設け、これら中空パイプ2を、定置した転造回転ロール6〜9と交差させることにより中空パイプ2に凹部3又は4を成形するようにしてもよい。この場合、中空パイプ2の成形工程として、中空パイプ2を一方向に例えば左から右に移動させて転造回転ロールを交差させることで凹部3又は4を成形してもよく、これに加えて、逆方向(右から左)に移動させ、一往復させることで凹部3又は4を成形するようにしてもよい。
(2)中空パイプ2の支持方法として、前述した実施例では、断面円形のパイプ挿入用横穴31で中空パイプ2を支持するようにしたが、中空パイプ2に凹部3又は4を成形するときに、中空パイプ2が逃げないように、凹部3又は4の成形部位とは反対側の面を抑える壁(図10に三角印で示す)を設けるのがよい。
(3)前述の実施例では、転造回転ロール6〜9を回転自在に配設したが、転造回転ロール6〜9を駆動ロールで構成してもよい。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空パイプと順次交差可能な複数段の転造回転ロールを用意し、
該複数段の転造回転ロールと中空パイプとを相対的に移動させて、これら複数段の転造回転ロールを、順次、中空パイプに圧接させることにより予備成形と本成形とを順次を行って前記中空パイプに凹部を成形することを特徴とする中空パイプの凹部形成方法。
【請求項2】
前記中空パイプを包囲して該中空パイプを固定するパイプホルダであって、該中空パイプに凹部を形成する部位に成型窓を有するパイプホルダを用意し、
前記複数段の転造回転ロールが前記成型窓を通じて前記中空パイプに圧接する、請求項1に記載の中空パイプの凹部形成方法。
【請求項3】
前記複数段の転造回転ロールのうち、最後に前記中空パイプと圧接する最終段の転造回転ロールの側縁と、これに隣接する前記成型窓の縁との間の隙間が実質的にゼロであり、これにより前記パイプには、切り立った段部を備えた凹部が形成される、請求項2に記載の中空パイプの凹部形成方法。
【請求項4】
前記凹部の輪郭と前記成形窓の輪郭が実質的に同じである、請求項3に記載の中空パイプの凹部形成方法。
【請求項5】
前記複数段の転造回転ロールが回転自在である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の中空パイプの凹部形成方法。
【請求項6】
前記複数段の転造回転ロールの直径が前記中空パイプの直径の4倍よりも小さい、請求項5に記載の中空パイプの凹部形成方法。
【請求項7】
前記複数段の転造回転ロールの組を複数用意し、この複数組の転造回転ロールによって前記中空パイプに複数の凹部を同時に成形する、請求項1〜6に記載の中空パイプの凹部形成方法。
【請求項8】
中空パイプに凹部を形成する部位に配設された成型窓を備え、該中空パイプの回りを包囲して該中空パイプを固定することのできるパイプホルダと、該パイプホルダの前記成型窓を通じて前記中空パイプと圧接可能な複数段の転造回転ロールとを用意し、
前記複数段の転造回転ロールを、前記成型窓を通じて、順次、中空パイプに圧接させることにより予備成形と本成型とを順次行って前記中空パイプに凹部を成形することを特徴とする中空パイプの凹部形成方法。
【請求項9】
複数段の転造回転ロールが一列に並んだ状態で各転造回転ロールを回転自在に保持するロール保持ブロックと、
中空パイプと実質的に同じ断面形状のパイプ保持孔を備え、該パイプ保持孔に配置された前記中空パイプを固定することのできるパイプホルダであって、前記パイプ保持孔に配置された前記中空パイプの一部を露出させる成型窓を備えたパイプホルダとを有し、
前記ロール保持ブロックと前記パイプホルダとを相対的に移動させることにより、前記複数段の転造回転ロールが前記成型窓を通じて次々と前記中空パイプと圧接し、これにより予備成形と本成形を順次行うことにより前記中空パイプに凹部を成形することを特徴とする中空パイプの凹部形成装置。
【請求項10】
前記複数段の転造回転ロールが前記ロール保持ブロックに複数組設けられている、請求項9に記載の中空パイプの凹部形成装置。
【請求項11】
前記中空パイプに形成される凹部が切り立った段部を備え、該段部に隣接する前記成型窓の輪郭と、前記前記複数段の転造回転ロールのうち最終段の転造回転ロールの外周部の側縁との間の隙間が実質的にゼロである、請求項9又は10に記載の中空パイプの凹部形成装置。
【請求項12】
複数段の転造回転ロールが上下に一列に並んだ状態で回転自在に保持するロール保持ブロックと、
該ロール保持ブロックを上下に案内するガイド穴を備えたガイド部材と、
前記ロール保持ブロックを前記ガイド穴に案内された状態で上下に移動させる液圧シリンダと、
前記ガイド部材に横隣りに配置され、少なくとも凹部を形成する部位が前記パイプ部材の断面形状と実質的に同じ輪郭のパイプ保持孔を備えたパイプホルダであって、前記パイプ保持孔に配置された前記パイプ部材を回転不能且つ変位不能に固定するパイプホルダとを有し、
該パイプホルダには、前記パイプ保持孔内に固定された前記パイプ部材に凹部を形成する箇所に成型窓が設けられ、該成型窓を通じて前記複数段の転造回転ロールが前記パイプ部材に圧接し、これにより予備成形と本成型とを順次行うことにより前記中空パイプに凹部を形成することを特徴とする中空パイプの凹部形成装置。
【請求項13】
前記複数段の転造回転ロールが前記ロール保持ブロックに横並びに複数組設けられている、請求項12に記載の中空パイプの凹部形成装置。
【請求項14】
前記成形窓が、前記中空パイプに形成される凹部と実質的に同じ輪郭を有する、請求項12又は13に記載の中空パイプの凹部形成装置。
【請求項15】
前記凹部が、切り立った角を備えた段部を有し、
該段部の切り立った角に隣接した前記成形窓の側縁と、これに隣接する前記複数段の転造回転ロールのうちの最終段の転造回転ロールの外周部の側縁との間の隙間が実質的にゼロである、請求項12又は13に記載の中空パイプの凹部形成装置。
【請求項16】
前記パイプホルダが、上下に分割された下側ホルダと上側ホルダとで構成され、これら下側ホルダと上側ホルダには、前記パイプ保持孔を上下に半割した形状の長溝が形成され、前記上側ホルダが第2の液圧シリンダにより上下に移動される、請求項12又は13に記載の中空パイプの凹部形成装置。
【請求項17】
前記複数段の転造回転ロールが互いに相似形である、請求項12又は13に記載の中空パイプの凹部形成装置。

【国際公開番号】WO2005/035159
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514688(P2005−514688)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015542
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(503376264)エイシンテクノ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】