説明

中空ファイバ及び中空ファイバの製造方法

【課題】透明薄膜の表面の表面粗さが小さく、中空ファイバの長手方向にわたって略均一な膜厚の透明薄膜を備える中空ファイバ、及び中空ファイバの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る中空ファイバ1は、光が伝搬する中空領域14を有する中空管と、中空管の内壁に形成され、化学的安定性を有する第1の金属薄膜と、第1の金属薄膜が内壁と接する面の反対側の表面に金属ナノ粒子から形成される第2の金属薄膜が化学変化して、光の波長に対して透明に形成される透明薄膜とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空ファイバ及び中空ファイバの製造方法に関する。特に、本発明は、中空ファイバの長手方向に沿って略均一な膜厚の反射層を備える中空ファイバ及び中空ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の中空ファイバとして、中空構造を有するガラスキャピラリと、ガラスキャピラリの内壁にコーティングされた銀薄膜と銀薄膜の表面に形成されたヨウ化銀薄膜とを備える中空ファイバがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
非特許文献1に記載された中空ファイバは、硝酸銀を溶解した銀液とブドウ糖を還元剤とする還元液とを真空ポンプで同時に吸引すると共に混合して、中空光ファイバの母材としてのガラスキャピラリに流入させることにより、ガラスキャピラリの内壁に銀粒子を析出させて銀薄膜を形成する(銀鏡めっき法)。続いて、ガラスキャピラリにヨウ素を溶解させた溶液を注入することにより、銀薄膜の一部をヨウ化銀に化学変化させて中空ファイバを得るものである。
【0004】
非特許文献1に記載の中空ファイバは、中空構造を有するので、高ピークパワーを有するパルスレーザ光、又は赤外吸収損のため伝送媒体として石英材料を用いることができない波長2μm以上の赤外波長帯の光伝送路として用いることができると共に、キャピラリの内壁に銀薄膜と透明層とを備えるので、赤外領域の光の伝送損失を低減できる。
【0005】
【非特許文献1】J. Harrington, “A Review of IR Transmitting, Hollow Waveguides”, Fiber and Integrated Optics, Vol. 19, pp. 211-227 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1に係る中空ファイバは、銀鏡めっき法により銀薄膜を形成するので、銀薄膜は、中空ファイバの長手方向において膜厚分布を有している。また、銀薄膜の一部をヨウ素処理してヨウ化銀薄膜を形成するので、ガラスキャピラリの内壁に形成する銀薄膜は、数μm程度の厚膜として形成することを要する。したがって、非特許文献1に係る中空ファイバのヨウ化銀薄膜の表面は、ガラスキャピラリの内壁の鏡面を引き継ぐことができない。更に、ヨウ化銀薄膜の膜厚は、銀薄膜とヨウ素を溶解させた溶液との時間によって制御され、ヨウ素を溶解させた溶液中のヨウ素濃度及び当該溶液の液温等によって反応速度が変化するため、中空ファイバの長手方向にわたって均一な膜厚のヨウ化銀薄膜を得ることが困難である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、透明薄膜の表面の表面粗さが小さく、中空ファイバの長手方向にわたって略均一な膜厚の透明薄膜を備える中空ファイバ、及び中空ファイバの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、光が伝搬する中空領域を有する中空管と、中空管の内壁に形成され、化学的安定性を有する第1の金属薄膜と、第1の金属薄膜が内壁と接する面の反対側の表面に金属ナノ粒子から形成される第2の金属薄膜が化学変化して、光の波長に対して透明に形成される透明薄膜とを備える中空ファイバが提供される。
【0009】
また、上記中空ファイバは、金属ナノ粒子は、Agナノ粒子であり、透明薄膜は、Agナノ粒子から形成される銀薄膜にヨウ素処理を施して形成されるヨウ化銀を含んでもよい。又は、金属ナノ粒子は、Cuナノ粒子であり、透明薄膜は、Cuナノ粒子から形成される銅薄膜を酸化して形成される酸化銅を含んでもよい。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、光が伝搬する中空領域を有する中空管の内部に、第1の金属ナノ粒子を溶媒に分散させた第1のナノ粒子溶液を注入して、中空管の内壁に第1のナノ粒子溶液を付着させる第1のナノ粒子溶液付着工程と、内壁に付着した第1のナノ粒子溶液から、化学的安定性を有する第1の金属薄膜を内壁に形成する第1の金属薄膜形成工程と、中空管の内部に、第2の金属ナノ粒子を溶媒に分散させた第2のナノ粒子溶液を注入して、第1の金属薄膜の表面に、第2のナノ粒子溶液を付着させる第2のナノ粒子溶液付着工程と、第1の金属薄膜の表面に付着した第2のナノ粒子溶液から、第2の金属薄膜を第1の金属薄膜の表面に形成する第2の金属薄膜形成工程と、中空管に、第2の金属薄膜と化学反応して光に対して透明な透明薄膜を形成する透明薄膜形成物質を流入させ、透明薄膜を第2のナノ粒子溶液から第1の金属薄膜上に形成する透明薄膜形成工程とを備える中空ファイバの製造方法が提供される。
【0011】
また、上記中空ファイバの製造方法は、第2のナノ粒子溶液付着工程は、第2の金属ナノ粒子としてAgナノ粒子を用い、第2の金属薄膜形成工程は、Agナノ粒子から第2の金属薄膜としてAg薄膜を形成し、透明薄膜形成工程は、透明薄膜形成物質としてヨウ素を含むヨウ素溶液を用い、ヨウ素溶液とAg薄膜とを一定時間接触させることにより、Ag薄膜から透明薄膜としてヨウ化銀薄膜を形成してもよい。
【0012】
また、上記中空ファイバの製造方法は、第2のナノ粒子溶液付着工程は、第2の金属ナノ粒子としてCuナノ粒子を用い、第2の金属薄膜形成工程は、Cuナノ粒子から第2の金属薄膜としてCu薄膜を形成し、透明薄膜形成工程は、透明薄膜形成物質として酸素を用い、酸素とCu薄膜とを一定時間接触させることにより、Cu薄膜から透明薄膜として酸化銅薄膜を形成してもよい。
【0013】
また、本発明は、上記目的を達成するため、光が伝搬する中空領域を有する中空管の内部に、第1の金属ナノ粒子を溶媒に分散させた第1のナノ粒子溶液を注入して、中空管の内壁に第1のナノ粒子溶液を付着させる第1のナノ粒子溶液付着工程と、内壁に付着した第1のナノ粒子溶液から、化学的安定性を有する第1の金属薄膜を内壁に形成する第1の金属薄膜形成工程と、中空管の内部に、第2の金属ナノ粒子を溶媒に分散させた第2のナノ粒子溶液を注入して、第1の金属薄膜の表面に、第2のナノ粒子溶液を付着させる第2のナノ粒子溶液付着工程と、中空管に酸素を含む気体を流通させ、第2のナノ粒子溶液から光に対して透明な透明薄膜を第1の金属薄膜上に形成する透明薄膜形成工程とを備える中空ファイバの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る中空ファイバ及び中空ファイバの製造方法によれば、透明薄膜の表面の表面粗さが小さく、中空ファイバの長手方向にわたって略均一な膜厚の透明薄膜を備える中空ファイバ、及び中空ファイバの製造方法を提供することができる。
を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[第1の実施の形態]
図1(a)は、本発明の第1の実施の形態に係る中空ファイバの部分断面の一例を示し、(b)は、A−A線における中空ファイバの断面の一例を示す。
【0016】
(中空ファイバ1の構成)
図1(a)及び(b)に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る中空ファイバ1は、中空管として所定の長さを有するキャピラリ10と、鏡面状態を有するキャピラリ10の内壁を覆って設けられ、中空領域14を伝搬する光を反射する反射層としての機能を有する金属薄膜としての金(Au)薄膜12と、金薄膜12のキャピラリ10の内壁と接する面の反対側の表面に化学反応によって形成される透明薄膜としてのヨウ化銀薄膜13と、キャピラリ10の外部表面を被覆する保護層15とを備える。
【0017】
中空ファイバ1の母材としてのキャピラリ10は、円筒筒状を有して、所定の波長の光が伝搬する中空領域14を含んで形成される。中空領域14は、空気等の気体が充填されている領域である。キャピラリ10は、内壁が中空領域14を伝搬する光の波長に対して十分に平滑であって、光学特性に優れると共に耐熱性を有する材料から形成される。キャピラリ10は、例えば、無機材料としての石英ガラスからなる石英ガラスキャピラリ、高分子材料としての所定のポリマーからなるポリマー樹脂チューブ、又は金属材料としてのステンレススチールからなるステンレススチールパイプ等を用いることができる。
【0018】
具体的に、本実施の形態においては、内径d1が500μm、外径d2が650μmのフレキシブル性に優れる石英ガラスの細径キャピラリを、キャピラリ10として用いることができる。また、フレキシブル性に優れると共に破損しにくいキャピラリ10を用いることが要求される場合、キャピラリ10として、ポリマー樹脂チューブを用いることができる。また、衝撃に対する強度が高く、破損しにくい特性を有すると共に、大出力のレーザ光の伝送に要求される優れた熱伝導率を有するキャピラリ10を用いることが要求される場合、キャピラリ10として、ステンレススチールのパイプを用いることができる。
【0019】
キャピラリ10の内壁に設けられる金属薄膜は、腐食及び/又は変色が実質的に発生しない良好な化学的安定性、及び特性の安定性を備える材料から形成される。具体的に、本実施の形態に係る金属薄膜は、キャピラリ10の内壁に、第1の金属ナノ粒子としての金(Au)ナノ粒子を原料として、この金ナノ粒子を焼結することにより形成される第1の金属薄膜としての金薄膜12である。金薄膜12は、一例として、所定の平均粒子径を有する金ナノ粒子を焼結することにより、光学スキンデプスよりも十分厚い膜厚であって、かつ、数十nm以下の膜厚d3で形成される。なお、光学スキンデプスとは、光エネルギーがexp(−1)に減衰する膜厚dで定義され、d=λ/(4πk)で表される式により定義される。なお、λは中空領域14を伝搬する光の波長であり、kは材料の消衰係数である。
【0020】
なお、中空領域14を伝搬する光の波長に対して優れた光学的特性(例えば、高い反射率を示す特性)を示すと共に、化学的安定性に優れていれば、金属薄膜を形成する金属ナノ粒子はAuナノ粒子に限られない。また、焼結前の金ナノ粒子は、その平均粒子径が10nm以下のものを用いる。例えば、平均粒子径が3nmから5nmであるAuナノ粒子を用いて、金薄膜12を形成できる。
【0021】
所定の光の波長に対して透明に形成される透明薄膜としてのヨウ化銀薄膜13は、Auナノ粒子とは異なる第2の金属ナノ粒子としての銀(Ag)ナノ粒子を原料として形成される第2の金属薄膜としての銀(Ag)薄膜が化学変化して形成される。具体的に、ヨウ化銀薄膜13は、金薄膜12の表面12aに所定の膜厚で形成された銀薄膜に対してヨウ素処理を施すことにより、銀薄膜がヨウ化銀薄膜13へ化学変化して形成される。ヨウ化銀薄膜13は、可視光領域から赤外光領域の波長帯域の光に対して透明な透明層(誘電体層)として機能する。
【0022】
ここで、中空ファイバ1内を伝搬する光は、中空領域14と透明薄膜としてのヨウ化銀薄膜13との境界、及びヨウ化銀薄膜13と金薄膜12との境界で反射を繰り返しながら中空領域14内を中空ファイバ1の長手方向に沿って伝搬する。中空領域14とヨウ化銀薄膜13との境界で反射される光と、ヨウ化銀薄膜13を透過してヨウ化銀薄膜13と金薄膜12との境界で反射された光が同位相であるとき、中空ファイバ内壁の反射率が最大となる。したがって、金薄膜12の内壁に、伝送する光の波長に応じて精度良く制御された均一な膜厚を有するヨウ化銀薄膜13を設けることにより、光の伝送損失を低減することができる。本実施の形態においては、ヨウ化銀薄膜13は、数十nm以下の膜厚の範囲内で、中空領域14を伝送する光の波長に応じて設定される膜厚で形成される。すなわち、銀薄膜及びヨウ化銀薄膜13は、一例として、数十nm以下の膜厚で形成される。
【0023】
保護層15は、キャピラリ10の外周を覆って形成される。保護層15は、一例として、熱的特性と化学的特性と機械的特性とに優れた高分子樹脂材料としてのポリイミドから形成される。
【0024】
(中空ファイバ1の製造方法)
図2Aから図2Fは、本発明の第1の実施の形態に係る中空ファイバの製造工程の一例を示す。
【0025】
まず、図2Aの(a)に示すように、石英ガラスからなるキャピラリ10の上部端としての他端18に、有機溶媒に対して溶解耐性を有するシリンジ20を装着する。なお、シリンジ20は、円柱状のピストン20aと円筒状のシリンダー20bとから構成され、ピストン20aを高精度で駆動するシリンジポンプを構成する。そして、シリンダー20bに、所定の容量の金ナノ粒子溶液40を収容する。
【0026】
ここで、金ナノ粒子溶液40は、所定量の金ナノ粒子を所定の溶媒としての有機溶媒に分散させて調製される溶液である。本実施の形態においては、金ナノ粒子を分散する揮発性に優れた有機溶媒として、トルエンを用いることができる。また、金ナノ粒子溶液40は、金ナノ粒子を、ヘキサン、又はテトラデカン等の有機溶媒、若しくはテルピネオール等の有機溶剤に分散して調製することもできる。
【0027】
次に、図2Aの(b)及び(c)に示すように、シリンジ20のピストン20aを一定速度で押し込み方向(キャピラリ10の他端18からキャピラリ10の先端部16に向かう方向)に駆動させる。金ナノ粒子溶液40は、ピストン20aの押し込み駆動に応じて、シリンダー20bから一定速度で排出される。そして、排出された金ナノ粒子溶液40は、キャピラリ10の内部に注入される。
【0028】
キャピラリ10の内部に注入された金ナノ粒子溶液40は、キャピラリ10の他端18から先端部16の方向に移動するにつれ、キャピラリ10の内壁に付着する。そして、キャピラリ10の内壁に付着していない金ナノ粒子溶液40、すなわち、余分な金ナノ粒子溶液40は、キャピラリ10の先端部16からキャピラリ10の外部に排出され、図2Aの(c)に示すように、廃液容器45に収容される。
【0029】
続いて、図2Bの(d)に示すように、金ナノ粒子溶液40が内壁に付着したキャピラリ10を電気炉50内に設置する。そして、不活性ガスとしての窒素ガス60をキャピラリ10の他端18から先端部16の側に導入しながら高温熱処理をこのキャピラリ10に施す。これにより金ナノ粒子溶液40が焼結して、図2Bの(e)に図2Bの(d)におけるB−B線の断面図として示すように、数十nm以下の膜厚の金薄膜12がキャピラリ10の内壁に形成される。この場合において形成される金薄膜12の膜厚は、キャピラリ10の内壁表面の形状を引き継いで形成される程度の薄い厚さであるので、金薄膜12の表面12aの表面粗さはキャピラリ10の内壁表面の表面粗さと同程度の粗さとなる。
【0030】
なお、本実施の形態においては、キャピラリ10内に導入するガスとして窒素ガス60を用いたが、窒素ガス60以外の不活性ガスとしてのアルゴンガス又はヘリウムガスを用いることもできる。また、キャピラリ10内に空気を導入して、金ナノ粒子溶液40が内壁に付着したキャピラリ10に熱処理を施すこともできる。
【0031】
また、熱処理は、十分な光学特性及び機械的強度が得られると共に、金薄膜12とキャピラリ10とが十分な付着力をもって密着する程度に十分に高い密度の金薄膜12を形成することのできる温度以上で実施される。更に、熱処理は、金ナノ粒子溶液40に含まれる金ナノ粒子が凝集して、所定値以上の粒子径の粒子を有する金薄膜が形成されることのない温度以下で実施される。本実施の形態においては、一例として、窒素ガス60をキャピラリ10内に流しつつ、200℃以上300℃以下の範囲の温度の熱処理をこのキャピラリ10に施す。なお、キャピラリ10の外周に保護層15が設けられている場合であっても、保護層15をポリイミドから形成している場合、熱処理の200℃以上300℃以下の温度範囲では、ポリイミドは実質的に熱分解等によって変質しない。
【0032】
次に、図2Cの(f)から(h)及び図2Dの(i)に示すように、図2Aの(a)から(c)に示した金薄膜12の形成工程と同様にして、銀薄膜17を形成する。すなわち、まず、図2Cの(f)に示すように、金薄膜12が内壁に形成されたキャピラリ10の他端18にシリンジ20を装着する。そして、シリンダー20bに、所定の容量の第2の金属ナノ粒子溶液としての銀ナノ粒子溶液42を収容する。本実施の形態においては、第2の金属ナノ粒子溶液は、第2の金属ナノ粒子としての銀(Ag)ナノ粒子を所定の有機溶媒に分散させて調製される。ここで、本実施の形態においては、銀ナノ粒子を分散する揮発性に優れる有機溶媒として、トルエンを用いることができる。また、銀ナノ粒子溶液42は、銀ナノ粒子を、ヘキサン、又はテトラデカン等の有機溶媒に分散して調製することもできる。
【0033】
次に、図2Cの(g)及び(h)に示すように、シリンジ20のピストン20aを一定速度で押し込み方向に駆動させる。銀ナノ粒子溶液42は、ピストン20aの押し込み駆動に応じて、シリンダー20bから一定速度で排出される。そして、排出された銀ナノ粒子溶液42は、キャピラリ10の内部に注入される。キャピラリ10の内部に注入された銀ナノ粒子溶液42は、キャピラリ10の他端18から先端部16の方向に移動するにつれ、キャピラリ10の内壁に形成された金薄膜12の表面に付着する。そして、金薄膜12の表面に付着していない銀ナノ粒子溶液42、すなわち、余分な銀ナノ粒子溶液42は、キャピラリ10の先端部16からキャピラリ10の外部に排出され、図2Cの(h)に示すように、廃液容器45に収容される。
【0034】
続いて、図2Dの(i)に示すように、銀ナノ粒子溶液42が金薄膜12の表面に付着したキャピラリ10を電気炉50内に設置する。なお、金薄膜12の表面に付着する銀ナノ粒子溶液42の厚さは、金薄膜12の表面の形状を引き継いで形成される程度の薄い厚さであるので、銀ナノ粒子溶液42の表面(銀ナノ粒子溶液42と金薄膜12とが接している面の反対側の面)の表面粗さは、金薄膜12の表面粗さと同程度の小さな粗さとなる。
【0035】
そして、窒素ガス60をキャピラリ10の他端18から先端部16の側に導入しながら高温熱処理をこのキャピラリ10に施す。これにより銀ナノ粒子溶液42が焼結して、図2Dの(j)に示すように、数十nm以下の膜厚の銀薄膜17が金薄膜12の表面上に形成される。この場合において、銀薄膜17の膜厚は、金薄膜12の表面の形状を引き継いで形成される程度の薄い厚さであるので、銀薄膜17の表面粗さは金薄膜12の表面の表面粗さと同程度の粗さとなる。
【0036】
なお、本実施の形態においては、キャピラリ10内に導入するガスとして窒素ガス60を用いたが、窒素ガス60以外の不活性ガスのアルゴンガス又はヘリウムガスを用いることもできる。また、キャピラリ10内に空気を導入して、銀ナノ粒子溶液42が内壁に付着したキャピラリ10に熱処理を施すこともできる。
【0037】
続いて、図2Eの(k)に示すように、銀薄膜17が形成されたキャピラリ10の他端18にシリンジ20を再び装着する。そして、シリンダー20bに、所定の容量の透明薄膜形成物質としてのヨウ素溶液44を収容する。本実施の形態に係るヨウ素溶液44は、有機溶媒としてのシクロヘキサンに約1%の濃度でヨウ素を溶解して調製した溶液である。
【0038】
次に、図2Eの(l)及び(m)に示すように、シリンジ20のピストン20aを一定速度で押し込み方向に駆動させる。ヨウ素溶液44は、ピストン20aの押し込み駆動に応じて、シリンダー20bから排出される。そして、排出されたヨウ素溶液44は、キャピラリ10の内部に注入される。キャピラリ10の内部に注入されたヨウ素溶液44は、数秒間から数分間、銀薄膜17と接触してキャピラリ10の先端部16からキャピラリ10の外部に排出される。そして、排出されたヨウ素溶液44は、図2Eの(m)に示すように、廃液容器45に収容される。
【0039】
本実施の形態において、キャピラリ10内に注入されたヨウ素溶液44と銀薄膜17とが化学反応する。つまり、銀薄膜17を構成する銀とヨウ素溶液44中のヨウ素とが化合する。そして、この化合により、銀薄膜17の全てがヨウ化銀薄膜13となる。ここで、金薄膜12の表面上に銀薄膜17は形成されているので、銀とヨウ素との化学反応は銀薄膜17と金薄膜12との境界において停止する。すなわち、本実施の形態において金薄膜12は、銀薄膜17中の銀とヨウ素溶液44中のヨウ素との化学反応を停止させる反応停止層としての機能を有する。したがって、本実施の形態においては、キャピラリ10内に注入されたヨウ素溶液44と銀薄膜17との接触時間が所定の時間以上であれば、ヨウ素溶液44と銀薄膜17との接触時間を厳密に制御することを要さない。
【0040】
また、銀薄膜17の表面粗さは金薄膜12の表面の表面粗さと同程度の粗さを示しており、銀薄膜17の表面粗さは、中空領域14を伝搬する光の波長に比べて十分小さい。そして、銀薄膜17が化学変化して形成されるヨウ化銀薄膜13の表面13a(金薄膜12と接している面の反対側の表面であって、中空領域14と接する面)の表面粗さも、銀薄膜17と同様に中空領域14を伝搬する光の波長に比べて十分小さいものとなる。
【0041】
続いて、図2Fの(n)に示すように、キャピラリ10の他端18側から先端部16の側に向けて、洗浄用の有機溶媒であって揮発性の高いエタノール等の有機溶剤をキャピラリ10に注入する。そして、キャピラリ10の内部を洗浄したのち、キャピラリ10の内部を乾燥させ、その後、キャピラリ10の外周に保護層15を設けることにより、図2Fの(o)に示すような、本実施の形態に係る中空ファイバ1が得られる。
【0042】
なお、本実施の形態においてはシリンジポンプを溶液の輸送に用いたが、シリンジポンプの代わりに蠕動ポンプを用いることもできる。蠕動ポンプは、弾力性を有するチューブを波状に収縮させて溶液を輸送する。蠕動ポンプによれば、シリンジポンプと同様に、溶液の輸送速度を高精度で制御できる。したがって、蠕動ポンプによってもシリンジポンプと同様に、キャピラリ10の内壁、及び金薄膜12の表面に所定の薄膜を略均一の膜厚で形成することができる。
【0043】
(第1の実施の形態の効果)
本発明の第1の実施の形態に係る中空ファイバ1は、化学的に安定な金薄膜12の上に中空ファイバ1の長手方向に沿って略均一な膜厚の銀薄膜17を形成して、形成した銀薄膜17の全てをヨウ化銀薄膜13に化学変化させることができる。そして、本実施の形態に係る中空ファイバ1は、中空ファイバ1の長手方向に沿って膜厚が略均一であると共に、キャピラリ10の内壁の表面粗さと同程度の小さな表面粗さを有する透明薄膜としてのヨウ化銀薄膜13を形成することができる。
【0044】
したがって、本実施の形態に係る中空ファイバ1は、中空ファイバ1の長手方向に沿って、金薄膜12及びヨウ化銀薄膜13の膜厚が略均一となり、キャピラリ10の内壁の表面粗さと同程度の表面粗さを有するヨウ化銀薄膜13を形成することができるので、遠赤外光を含む赤外光を伝送することができると共に、赤外光の波長より短い波長の光(例えば、可視光領域の光)を、例えばガイド光として重畳して伝送することができる。
【0045】
また、本実施の形態に係る中空ファイバ1は、鏡面に近似する表面を有するヨウ化銀薄膜13を備えるので、赤外波長帯のレーザ光を高出力で伝送した場合であっても、破壊閾値を向上させることができる。すなわち、本実施の形態に係る中空ファイバ1は、可視光から赤外光の波長帯域の光を伝送することができ、高出力、短パルスのレーザ光のような空間的又は時間的に非常にピークパワーが高いレーザ光に対しても、破壊閾値を向上させることができる。これにより、長期安定性を有すると共に、機械的強度の高い中空ファイバ1を提供することができる。
【0046】
すなわち、本発明の実施の形態に係る中空ファイバ1は、中空領域14と金薄膜12及び透明薄膜とで光を伝送するので、石英光ファイバでは伝送損失が大きいために使用ができない伝送波長帯の光の伝送に用いることができ、また、ピークパワーが高い光の伝送に用いることができる。したがって、本実施の形態に係る中空ファイバ1は、例えば、医療、工業加工、計測、分析(例えば、ガス組成、濃度の分析)、化学等の分野において遠赤外領域(例えば、波長2μm以上)等の光の光エネルギーの伝送を実施する際に用いることができる。具体的には、波長2.94μm帯のEr−YAGレーザ、波長5μm帯のCOレーザ、又は波長10.6μm帯のCOレーザ等のレーザ光の伝送に、本実施の形態に係る中空ファイバ1を用いることができる。
【0047】
また、本発明の実施の形態に係る中空ファイバ1の製造方法によれば、キャピラリ10の内壁に付着する金ナノ粒子溶液40は微量であり、また、余分な金ナノ粒子溶液40は、先端部16から排出されて他の中空ファイバの製造に再利用できる。したがって、原料としての金ナノ粒子溶液40の利用効率は高く、製造コストを大幅に低減でき、製造効率を大幅に向上させることができる。
【0048】
[第2の実施の形態]
【0049】
図3(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る中空ファイバの部分断面の一例を示し、(b)は、A−A線における中空ファイバの断面の一例を示す。
【0050】
第2の実施の形態に係る中空ファイバ1aは、第1の実施の形態に係る中空ファイバ1が備えるヨウ化銀薄膜13が、酸化銅薄膜19となった点を除き、中空ファイバ1と略同様の構成を備える。したがって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0051】
(中空ファイバ1aの構成)
図3(a)及び(b)に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る中空ファイバ1aは、キャピラリ10と、鏡面状態を有するキャピラリ10の内壁を覆って設けられる金薄膜12と、金薄膜12のキャピラリ10の内壁と接する面の反対側の表面に化学反応によって形成される酸化銅薄膜19と、キャピラリ10の外部表面を被覆する保護層15とを備える。本実施の形態に係る酸化銅薄膜19は、第1の実施の形態に係るヨウ化銀薄膜12と同様に、赤外領域の波長範囲の光に対して透明薄膜としての機能を有する。
【0052】
(中空ファイバ1aの製造方法)
第2の実施の形態に係る中空ファイバ1aの製造方法は、第1の実施の形態に係る中空ファイバ1の製造方法と金薄膜12の形成までは同一であり、その後の工程も略同様である。以下、相違点について説明する。
【0053】
まず、図2Cの(f)から(h)及び図2Dの(i)と同様にして、銅薄膜を金薄膜12上に形成する。すなわち、まず、金薄膜12が内壁に形成されたキャピラリ10の他端18にシリンジ20を装着する。そして、シリンダー20bに、所定の容量の第2の金属ナノ粒子溶液としての銅(Cu)ナノ粒子溶液を収容する。なお、銅ナノ粒子を分散させる分散媒としての溶媒は、ヘキサン、トルエン、又はテトラデカン等の有機溶媒を用いることができる。
【0054】
そして、図2Cの(g)及び(h)と同様にして、シリンジ20のピストン20aを一定速度で押し込み方向に駆動させる。銅ナノ粒子溶液は、ピストン20aの押し込み駆動に応じて、シリンダー20bから一定速度で排出される。そして、排出された銅ナノ粒子溶液は、キャピラリ10の内部に注入される。キャピラリ10の内部に注入された銅ナノ粒子溶液は、キャピラリ10の他端18から先端部16の方向に移動するにつれ、キャピラリ10の内壁に形成された金薄膜12の表面に付着する。そして、金薄膜12の表面に付着していない銅ナノ粒子溶液、すなわち、余分な銅ナノ粒子溶液は、キャピラリ10の先端部16からキャピラリ10の外部に排出され、廃液容器45に収容される。
【0055】
続いて、図2Dの(i)と同様にして、銅ナノ粒子溶液が金薄膜12の表面に付着したキャピラリ10を電気炉50内に設置する。そして、所定濃度の酸素ガス又は酸素を所定の濃度で含むガスをキャピラリ10の他端18から先端部16の側に導入しながら高温熱処理(例えば、熱処理温度が250℃から350℃)をこのキャピラリ10に施す。これにより銅ナノ粒子溶液が、酸化銅へと焼結・酸化され、数十nm以下の膜厚の酸化銅薄膜19が金薄膜12の表面上に形成される。これにより、第2の実施の形態に係る中空ファイバ1aが得られる。
【0056】
(中空ファイバ1aの製造方法の変形例)
第2の実施の形態に係る中空ファイバ1aの製造方法の変形例は、第2の実施の形態に係る中空ファイバ1aの製造方法と金薄膜12の表面に銅ナノ粒子溶液を付着させる工程までは略同一の工程であり、その後の工程も略同様である。以下、相違点について説明する。
【0057】
まず、図2Cの(f)から(h)と同様にして、銅ナノ粒子溶液を金薄膜12上に付着させる。続いて、図2Dの(i)に示すように、銅ナノ粒子溶液が金薄膜12の表面に付着したキャピラリ10を電気炉50内に設置する。そして、不活性ガス(一例として、窒素ガス60)をキャピラリ10の他端18から先端部16の側に導入しながら高温熱処理をこのキャピラリ10に施す。これにより銅ナノ粒子溶液が焼結して、図2Dの(j)と同様に、数十nm以下の膜厚の銅薄膜が金薄膜12の表面上に形成される。
【0058】
次に、銅薄膜が形成されたキャピラリ10の他端18から先端部16に向けて所定の濃度の酸素ガス又は酸素を所定の濃度で含むガスを流通させ、金薄膜12の表面上に形成された銅薄膜を酸化させることにより、数十nm以下の膜厚の酸化銅薄膜19を金薄膜12の表面上に形成する。これにより、第2の実施の形態に係る中空ファイバ1aが得られる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(a)は、第1の実施の形態に係る中空ファイバの部分断面図であり、(b)は、A−A線における中空ファイバの断面図である。
【図2A】第1の実施の形態に係る中空ファイバの製造工程を示す図である。
【図2B】第1の実施の形態に係る中空ファイバの製造工程を示す図である。
【図2C】第1の実施の形態に係る中空ファイバの製造工程を示す図である。
【図2D】第1の実施の形態に係る中空ファイバの製造工程を示す図である。
【図2E】第1の実施の形態に係る中空ファイバの製造工程を示す図である。
【図2F】第1の実施の形態に係る中空ファイバの製造工程を示す図である。
【図3】(a)は、第2の実施の形態に係る中空ファイバの部分断面図であり、(b)は、A−A線における中空ファイバの断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1、1a 中空ファイバ
10 キャピラリ
12 金薄膜
12a、13a 表面
13 ヨウ化銀薄膜
14 中空領域
15 保護層
16 先端部
17 銀薄膜
18 他端
19 酸化銅薄膜
20 シリンジ
20a ピストン
20b シリンダー
40 金ナノ粒子溶液
42 銀ナノ粒子溶液
44 ヨウ素溶液
45 廃液容器
50 電気炉
60 窒素ガス
70 有機溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が伝搬する中空領域を有する中空管と、
前記中空管の内壁に形成され、化学的安定性を有する第1の金属薄膜と、
前記第1の金属薄膜が前記内壁と接する面の反対側の表面に金属ナノ粒子から形成される第2の金属薄膜が化学変化して、前記光の波長に対して透明に形成される透明薄膜と
を備える中空ファイバ。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子は、Agナノ粒子であり、
前記透明薄膜は、前記Agナノ粒子から形成される銀薄膜にヨウ素処理を施して形成されるヨウ化銀を含む請求項1に記載の中空ファイバ。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子は、Cuナノ粒子であり、
前記透明薄膜は、前記Cuナノ粒子から形成される銅薄膜を酸化して形成される酸化銅を含む請求項1に記載の中空ファイバ。
【請求項4】
光が伝搬する中空領域を有する中空管の内部に、第1の金属ナノ粒子を溶媒に分散させた第1のナノ粒子溶液を注入して、前記中空管の内壁に前記第1のナノ粒子溶液を付着させる第1のナノ粒子溶液付着工程と、
前記内壁に付着した前記第1のナノ粒子溶液から、化学的安定性を有する第1の金属薄膜を前記内壁に形成する第1の金属薄膜形成工程と、
前記中空管の内部に、第2の金属ナノ粒子を溶媒に分散させた第2のナノ粒子溶液を注入して、前記第1の金属薄膜の表面に、前記第2のナノ粒子溶液を付着させる第2のナノ粒子溶液付着工程と、
前記第1の金属薄膜の表面に付着した前記第2のナノ粒子溶液から、第2の金属薄膜を前記第1の金属薄膜の表面に形成する第2の金属薄膜形成工程と、
前記中空管に、前記第2の金属薄膜と化学反応して前記光に対して透明な透明薄膜を形成する透明薄膜形成物質を流入させ、前記透明薄膜を前記第2のナノ粒子溶液から前記第1の金属薄膜上に形成する透明薄膜形成工程と
を備える中空ファイバの製造方法。
【請求項5】
前記第2のナノ粒子溶液付着工程は、前記第2の金属ナノ粒子としてAgナノ粒子を用い、
前記第2の金属薄膜形成工程は、前記Agナノ粒子から前記第2の金属薄膜としてAg薄膜を形成し、
前記透明薄膜形成工程は、前記透明薄膜形成物質としてヨウ素を含むヨウ素溶液を用い、前記ヨウ素溶液と前記Ag薄膜とを一定時間接触させることにより、前記Ag薄膜から前記透明薄膜としてヨウ化銀薄膜を形成する
請求項4に記載の中空ファイバの製造方法。
【請求項6】
前記第2のナノ粒子溶液付着工程は、前記第2の金属ナノ粒子としてCuナノ粒子を用い、
前記第2の金属薄膜形成工程は、前記Cuナノ粒子から前記第2の金属薄膜としてCu薄膜を形成し、
前記透明薄膜形成工程は、前記透明薄膜形成物質として酸素を用い、前記酸素と前記Cu薄膜とを一定時間接触させることにより、前記Cu薄膜から前記透明薄膜として酸化銅薄膜を形成する
請求項4に記載の中空ファイバの製造方法。
【請求項7】
光が伝搬する中空領域を有する中空管の内部に、第1の金属ナノ粒子を溶媒に分散させた第1のナノ粒子溶液を注入して、前記中空管の内壁に前記第1のナノ粒子溶液を付着させる第1のナノ粒子溶液付着工程と、
前記内壁に付着した前記第1のナノ粒子溶液から、化学的安定性を有する第1の金属薄膜を前記内壁に形成する第1の金属薄膜形成工程と、
前記中空管の内部に、第2の金属ナノ粒子を溶媒に分散させた第2のナノ粒子溶液を注入して、前記第1の金属薄膜の表面に、前記第2のナノ粒子溶液を付着させる第2のナノ粒子溶液付着工程と、
前記中空管に酸素を含む気体を流通させ、前記第2のナノ粒子溶液から前記光に対して透明な透明薄膜を前記第1の金属薄膜上に形成する透明薄膜形成工程と
を備える中空ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3】
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