説明

中空ポペット弁の製造方法

【課題】
中空ポペット弁の肉抜き孔を蓋部材で閉じる工程では、熔接作業の迅速化が最大の課題である。速度では抵抗熔接法が勝るが熔接部の範囲をコンパクトで、平滑に維持するのが難しい。
【解決手段】
肉抜き孔によって中空に成形されたポペット弁半成品と、前記肉抜き孔を閉じる蓋部材とを準備し、ポペット弁半成品のフレア部を上にして支持する受け形電極と、前記肉抜き孔を閉じる円形の蓋部材を下面支持する押し形電極とを有し、ポペット弁半成品へ蓋部材を押し付けて押し形電極と受け形電極の間に通電して熔接する抵抗熔接機を用い、前記円形の蓋部材の周縁部に押し形電極方向へ突出させた余肉部を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステムとフレア部を軸方向の肉抜き孔を有する中空の一体に鋼板から成形された中空ポペット弁の製造方法に関するもので、特に、その肉抜き孔を閉じるための、蓋部材の固着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にポペット弁は、エンジンの吸排気弁として慣用されており、高性能エンジンでは軽量化とノッキング防止のため、図8で示すように、ステム82に肉抜き孔84を穿設し、その開口部を蓋部材86で閉じ、内部にナトリウムを封入するとともに、その蓋部材86が外れないよう溶着して作った、いわゆる中空ポペット弁80がよく知られている
【特許文献1】。しかし、蓋部材を閉じる熔接痕が滑らかでないとホットスポットとなって、ノッキングを生じ易くなるので、従来は、熔接終了後に機械仕上げして平滑にしている。
【0003】
近年、高性能エンジンが市場で多く求められるようになり、また、燃料消費削減のため軽量な中空ポペット弁が多く求められるようになったので、前記肉抜き孔を閉じる熔接作業やその修正加工を効率よく行うことが製造上で強く求められている。
【0004】
前記蓋部材を閉じる熔接作業を効率よく行うには、従来のTIGあるいはMIGなど不活性ガス雰囲気で行うアーク熔接に代えて、電気抵抗熔接、とくに、プロジェクション熔接を行うのが好ましい。プロジェクション熔接は熔接痕を小さくする上でも好ましいが、材料の溶融する量が安定しないと、蓋部材の高さが変動し、圧縮比がばらつき易くなるばかりか、溶融した材料が周囲に付着し易く、それを除去するための、後加工を必要とする問題があった。
【0005】
この改善策として、肉抜き孔を閉じる蓋部材として、周縁に円錐形の弁面を設けた弁板を用い、その背面にステムを熔接する方法もある
【特許文献2】。しかし、弁板は燃焼圧力を直接に受けるので、板厚を厚いものとせざるを得ず、折角、ポペット弁を中空にしても、その重量軽減の効果が大きく減殺された。
【特許文献1】特開2003−65013号公報中の図3
【特許文献2】特開2001−221348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする問題点は、肉抜き孔を設けた中空ポペット弁の半成品へ、電気抵抗熔接法によって蓋部材を溶着させるに際して、蓋部材自体が溶融する量を可及的に少なくなるような構成が求められていることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ステムからフレア部にかけて設けた肉抜き孔によって中空に成形されたポペット弁半成品と、前記肉抜き孔を閉じる蓋部材とを準備し、前記ポペット弁半成品のフレア部を上にして支持する受け形電極と、前記肉抜き孔を閉じる円形の蓋部材を下面支持する押し形電極とを有し、ポペット弁半成品へ蓋部材を押し付けて押し形電極と受け形電極の間に通電して熔接する抵抗熔接機によって結合するである。また、前記円形の蓋部材の周縁部に押し形電極方向へ突出させた余肉部を形成することを、最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明による中空ポペット弁の製造方法によれば、肉抜き孔の開口部を電気抵抗熔接法によって閉じることができ、かつ、中空ポペット弁の大量生産において、高い生産性を挙げることができる。また、抵抗熔接されたフレア部内面と蓋部材の周縁部との熔接部との、境界部が円滑な表面をなすので、仕上げ加工の工程を省き、あるいは最少にすることができる。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の方法を具現する熔接装置の一実施例を示す断面図である。熔接装置10は、熔接テーブル12の上面に固定された受け形電極20と、その受け形電極20の上方に配置され、受け形電極20に向けて下方へ降下し、あるいは降下位置から上昇可能に構成された押し形電極30とを有する。
【0010】
14は両電極20、30へ給電するための電源装置である。なお、押し形電極30を昇降させる手段は、技術的によく知られているので、図示を省略してある。
【0011】
40は被加工物である中空ポペット弁であり、以下、後述する蓋部材45を溶着する前工程までを完了した半成品の中空ポペット弁を含む。中空ポペット弁の半成品40は鋼材をしごき加工して得られたものであり、ステム41と弁部42とをフレア部43で滑らかに結んだ外面を有するとともに、前記ステム41に穿孔された肉抜き孔44からフレア部43を経て滑らかに肉厚を増し、弁部42に至る曲線によって構成されている。肉厚をこのように変化させることにより、強い燃焼圧力に耐え、かつ、軽量な中空ポペット弁が得られる。
【0012】
蓋部材45は、図7(a)から明らかなように、比較的薄肉の鋼板を半球状に湾曲させ外周を円形にトリムした中心部45aと、その中心部45aの周縁部を反曲部45bから反対方向(図中で上方)へ反曲させ、その反曲部45bから外周側の鍔状の部分を余肉部45cとしたものである。なお、蓋部材45の形状はこれに限らず燃焼室によっては、前記中心部45aを必要に応じて平坦にしたり、同図(b)で示すように、反対側へ窪ませたりすることも可能である。
【0013】
このような形状の蓋部材45は、本熔接装置10に取り付けられたとき、余肉部45cの周縁において押し形電極30と当接し、反曲部45bの部分でフレア部に当接する。環状の受け形電極20と押し形電極30を最短距離に配置して、両電極20、30間に熔接電流を集中して流し、電力の無駄な消費をおさえている。
【0014】
前記熔接装置10の受け形電極20は、銅合金からなる筒体をなし、その軸芯は前記熔接テーブル12に設けた円形の逃し孔12aと、同軸に取り付けられている。20aは前記筒体の下部に設けられた、前記ステム41を案内するためのガイドであり、筒体の内面から軸芯方向へ伸びる数個の板状部材からなっている。受け形電極20の上面は中央部が低くなった摺り鉢状に形成され、前記中空ポペット弁40のフレア部43と当接する角度が鈍角となって磨耗を減ずるとともに、中空ポペット弁40の支持が安定になる。
【0015】
前記押し形電極30は銅合金からなる筒体をなし、その下端部外周にはばね32によって下方へ付勢された、絶縁性の案内リング34が摺動自在に嵌着されている。また、中央下端部には、前記蓋部材45の保持手段たる永久磁石36が保持されている。38は押し形電極30の下端に開口させた逃げ孔である。押し形電極30は以上のように構成されているので、前記下端部に蓋部材45を永久磁石36の吸引力によって吸着可能となっている。なお、保持手段は磁力によるもののみならず、ステンレス、チタンなどで磁石に反応しにくい材料の場合、真空などの空力的手段も利用可能である。
【0016】
次に、熔接装置10の作動を説明する。まず、予め準備されたポペット弁半成品40と蓋部材45とを、熔接装置10へ図2で示す状態にセットする。すなわち、受け形電極20の上にフレア部43を上にして、ポペット弁半成品40を支持させる。次に、蓋部材45の余肉部45cを、押し形電極30の下面に当てて、前記案内リング34で位置決めして、永久磁石36に吸着させ保持する。
【0017】
準備ができたら、両電極20、30間に通電させつつ、押し形電極30を降下させると、まず、案内リング34がポペット弁半成品40に当接し、それ以上の進行が阻止されるが、押し形電極30をそのまま降下させると、案内リング34はばね32を圧縮しつつ上方へ退去し、やがて、押し形電極30は図3で示す位置まで降下する。なお、これらの動作は、実務上では周知のように瞬時に行われる。
【0018】
この状態になると、両電極20、30は前記余肉部45cを介して短絡状態となり、大電流が流れて瞬時に余肉部45cが軟化し、押し形電極30の押下げ力によって、図4で示すように変形して、押し形電極30の下面とフレア部43の内側に相当する肉抜き孔44の内面との楔形の隙間cへ入り込もうとする挙動を見せる。
【0019】
同時に、前記肉抜き孔44の内面も溶融し、図5中、符号dで示すように、浅い範囲で材料の拡散が行われ溶着が完了する。この状態では余肉部45cが一旦溶融して前記隙間cを充填しているので、図6で示すように、フレア部43の内側と蓋部材45との間は凹凸の少ない滑らかな平滑部pが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る熔接装置の要部の断面図である。
【図2】熔接工程の準備工程を示す要部の断面図である。
【図3】熔接工程の初期工程を示す要部の断面図である。
【図4】熔接工程の中期工程を示す要部の断面図である。
【図5】熔接工程の終期工程を示す要部の断面図である。
【図6】熔接工程の取り出し工程を示す要部の断面図である。
【図7】(a)は蓋部材を拡大して示す断面図、(b)は他の実施例を示す断面図である。
【図8】従来の中空ポペット弁の半断面正面図である。
【符号の説明】
【0021】
10 熔接装置
12 熔接テーブル
12a 逃し孔
14 電源装置
20 受け形電極
20a ガイド
30 押し形電極
32 ばね
34 案内リング
36 永久磁石
38 逃げ孔
40 被加工物(中空ポペット弁の半成品)
41 ステム
42 弁部
43 フレア部
44 肉抜き孔
45 蓋部材
45a 中心部
45b 反曲部
45c 余肉部
80 中空ポペット弁
82 ステム
84 肉抜き孔
86 蓋部材
c 隙間
d 拡散部
p 平滑部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステムからフレア部にかけて設けた肉抜き孔によって中空に成形されたポペット弁半成品と、前記肉抜き孔を閉じる蓋部材とを準備し、前記ポペット弁半成品のフレア部を上にして支持する受け形電極と、前記肉抜き孔を閉じる円形の蓋部材を下面支持する押し形電極とを有し、ポペット弁半成品へ蓋部材を押し付けて押し形電極と受け形電極の間に通電して熔接する抵抗熔接機によって結合する中空ポペット弁の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記円形の蓋部材は周縁部に押し形電極方向へ突出させた余肉部を形成してなる中空ポペット弁の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、前記蓋部材は円形に形成した板材からなり、周縁部に押し形電極方向へ突出させた余肉部は、その板材の周縁部を一旦フレア部の内面へ向けて屈曲し、ついで逆方向へ折り返して形成してなる中空ポペット弁の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、前記押し形電極には蓋部材を一旦保持するための保持手段を設けてなる中空ポペット弁の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−274917(P2006−274917A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94709(P2005−94709)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(303048444)有限会社SGG研究所 (22)
【Fターム(参考)】