説明

中空マイクロカプセルの製造方法

【課題】 大きさのほぼ均一な微細粒径の中空のマイクロカプセルを、短時間に大量に安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】 液体中に分散させた微細気泡の気液界面で重合反応をさせ、気泡のサイズとほぼ同じサイズである100nm〜100μmの大きさを持つ中空のマイクロカプセルを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な粒子径を有する中空のマイクロカプセルを製造する方法に関し、このマイクロカプセルは医療用あるいは化学工業用として利用されるものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルの製造方法には大きく分けて界面重合法、コアセルベーション法、界面沈殿法などがあり(例えば、非特許文献1参照)、原理的には微粒化した芯物質を適当な媒質中に分散し、次いで微粒子の膜で被覆する方法である。
界面重合法は界面における重合反応をマイクロカプセル化に利用するもので、多くの場合に縮重合反応が利用される。例えば、油溶性モノマーとしては酸クロライド、セバコイルクロライド、テレフタル酸クロライド、水溶性モノマーとしてポリアミン、ポリフェノールを用い、壁物質としてポリアミドやポリエーテルを用いて重合反応を起こし被膜することができる。コアセルベーション法は相分離とそれに基づく界面化学的な変化を利用している。例としては、ゼラチン−アラビアゴムの組み合わせによるマイクロカプセルが有名である。界面沈殿法は温度やpH等の条件の違いによる溶解度の差を利用して、液中に分散させた芯物質の表面に壁物質を付着させてカプセル化する方法である。
【0003】
いずれの方法もこれまで液体あるいは固体を芯物質として利用しており、気体を芯物質としてマイクロカプセル化、すなわち中空のカプセルを界面重合法、コアセルベーション法、界面沈殿法などで生成した例はないようである。
これまでの中空マイクロカプセルの製造方法は、液体を内包するマイクロカプセルを生成し、その内部の液体を抽出して中空にする方法(例えば、特許文献1、2参照)、あるいは同様のマイクロカプセルを熱膨張させてマイクロカプセルを生成する技術(例えば、特許文献3)である。また、ポーラス材料作成のための中空化技術等がある。
しかし、直接微細気泡の気液界面で重合反応をさせて微細な中空のマイクロカプセルを製造する技術は見当たらない。
【0004】
【非特許文献1】監修 近藤保「最新マイクロカプセル化技術」(昭和62年12月21日、総合技術センター発行)p.3〜p.36
【特許文献1】特表平9−508067号公報
【特許文献2】特開2002−105104号公報
【特許文献3】特公平3−79060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、液体を内包するマイクロカプセルを生成し、その内部の液体を外部に排出して中空にする方法では、液体の抽出のプロセスが複雑で、かつ排出方法によっては中空カプセルが球状を保てない場合もある。
また、抽出等に時間がかかることから大量にマイクロカプセルを生産することは難しく、コストも高くなる。さらに液体を芯物質とする場合には、微粒化が難しく大きさの均一性を整えることが困難であり、そのために長い時間を要することから生産効率が極めて低い。一方、熱膨張を利用する方法では気体を急激に膨張させるという原理上、10μm以下のカプセルを作ることは難しく大きさもそろえることは困難である。
したがって本発明の目的は、上記のような問題点に鑑み、大きさのほぼ均一な微細粒径のマイクロカプセルを、短時間に大量に安価に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、液体中に芯物質となる微細気泡を生成させ、直接その微細気泡の気液界面で重合反応をさせることにより、本発明の目的を達成し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)液体中に分散させた微細気泡の気液界面で重合反応をさせ、気泡のサイズとほぼ同じサイズである100nm〜100μmの大きさを持つ中空のマイクロカプセルを製造する方法、
(2)前記液体中に分散させた微細気泡は、ガスを0.20MPa(2気圧)以上で液体中に溶解させ、その後減圧し発泡させることで液体中に生成させることを特徴とする(1)に記載の中空のマイクロカプセルの製造方法、
(3)前記液体中に分散させた微細気泡は、気泡サイズによる浮力の違いから生じる上昇速度の違いに基づいて、気泡のサイズの選別を行うものであることを特徴とする(1)または(2)に記載の中空のマイクロカプセルの製造方法、および、
(4)前記気液界面での重合反応は、別途作成したプレポリマーをさらに重合反応させるものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の中空のマイクロカプセルの製造方法、
を提供するものである。
なお、上記の「気泡のサイズとほぼ同じサイズ」には、「気泡のサイズと同一のサイズも含む」ものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果は以下のとおりである。(1)液体中に分散させた微細気泡の気液界面で重合反応させることで、内部に分散させた気泡とほぼ同じ大きさの中空のマイクロカプセルを製造することができ、その大きさの予測が容易である。(2)液体中にガスを加圧溶解させ、発泡させることで液体中に瞬時に大量の芯物質となる気泡を生成でき、中空のマイクロカプセルが安価にかつ短時間で製造することができる。(3)浮力の違いから生じる気泡の上昇速度の違いに基づき、気泡サイズの選別が容易にでき、分散性の少ない(粒径の均一な)中空のマイクロカプセル群を選択的に製造することができる。(4)さらに本方法では溶解させた気泡を発泡させて芯物質を生成することから、乳化のプロセスが必要で無く、中空のマイクロカプセル生成時間の大幅な短縮が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の中空のマイクロカプセルの製造方法は、微細気泡を分散させた液体中で行う方法である。この液体は、微細な気泡を保持することができるものであれば、どのようなものでもよいが、適度の粘性を有するものがよく、動粘度が5mm/s以上であるものが好ましい。
本発明で使用する液体としては、5℃程度から100℃程度の範囲で液状を示すものであり、本発明で行う重合反応条件の範囲で実質的に不活性なものであれば特に制限されるものではない。例えば、ポリビニルアルコール水溶液、メチルセルロース水溶液、ゼラチン水溶液等など液体を芯物質としてマイクロカプセルを生成する場合によく用いられる分散溶液を利用できる。ただし、前述したようにそれぞれの溶質の濃度を調整し、動粘度が5mm/s以上となる溶液が好ましい。
特に好ましいものとして、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液を挙げることができ、その濃度は3.0〜8.0(質量)%が好ましい範囲である。
この液体には、溶液と反応しない非イオン系またはアルカリ系の界面活性剤等を添加することができる。これらによって、微細気泡の分散性や保持をさらに良好にすることができる。
【0009】
本発明の気液界面での重合反応は、ラジカル重合、イオン重合、H重合、縮合的重合やポリ付加、ポリ縮合、付加縮合等通常の重合反応を利用することができるが、特にポリ縮合、付加縮合が生起するものが好ましい。利用できる成分は、特に限定するものでないが、例えば、有機アミン−酸アマイド−水溶性エポキシ化合物、尿素−ホルムアルデヒドプレポリマー、尿素−ホルムアルデヒド−ポリアクリル酸、アミノプラスト樹脂プレポリマー−界面活性剤、メラミン−ホルムアルデヒドプレポリマー、複素環状アミン−アルデヒド、ジイソシアン酸エステル−2価アルコール等を挙げることができる。
【0010】
本発明では、調製した液体中に微細気泡を分散保持した液体を使用する方法である。気泡となるガスはどのようなものでもよいが、後記する液体中での重合反応時に不活性なものであればどのようなものでもよいが、窒素ガス、ヘリウムガス、水素ガス等を利用できるが、取り扱いやコストの面から空気が最適である。
気泡の生成は、公知の手段例えば、散気装置あるいは超音波を利用した方法(例えば、特開2005−74369号公報)等で気泡を発生させ液中に保持することもできるが、生成気泡径が不均一であったり微細気泡の生成には特殊な装置を必要とする。ただ、若干の非効率を許容しても10μm以下の気泡を生成する場合には超音波を利用した方法は好都合である。
さらに、本発明では調製した液体を圧力容器内に封入後、気体を導入し0.20MPa(2気圧)以上、好ましくは0.30MPa(3気圧)以上に保持するが、高くても2.03MPa(20気圧)程度である。気体を液中に溶解した後、急速に常圧まで減圧し、発泡現象を利用して大量の微細気泡を生成する。その間に液温は、重合反応を行う温度に保持するのが好ましい。
【0011】
本発明では、粘性のある液体中に大量の微細気泡を生成することができるが、微細気泡のサイズは、液体の粘度、散気装置等のノズルサイズ、加圧の度合い、減圧の速度、界面活性剤の有無などの条件により、100nm〜100μm、好ましくは500nm〜50μm、さらに好ましくは500nm〜30μmの範囲内で所定のサイズ範囲に設定することができる。得られた微細気泡含有の液体は、重合反応を行う反応容器に移す。
また、生成した微細気泡は、その気泡サイズによって液体中で受ける浮力が相違するから、液体中を上昇する速度が違い、その上昇速度は(2Rg)/9ν)[ただし、Rは気泡径(mm)、gは重力加速度(mm/s)、νは動粘度(mm/s)]で表せる。例えば、動粘度10mm/sの液体中で,10μm、30μm、50μmの気泡径を持つ気泡群を液体容器の底面から同時に放出すると、それぞれの気泡の速度は0.02mm/s、0.2mm/s、0.5mm/sとなるから,1000秒後には,それぞれの気泡群は底面から20mm、200mm、500mmの位置に分散してまとまって存在している。したがって,気泡サイズのほぼ一定したものを液体中の一定領域に保持することができるので、所望領域の液体を重合反応器に移し、そこで重合反応を行えばマイクロカプセルの分散性の少ないほぼ均一なサイズのものを製造することができる。
【0012】
本発明においては、気液界面での重合反応は、モノマーを直接微細気泡含有の液体中に添加し、最終のポリマーまで重合させることもできる。しかし、モノマーからの重合反応は、別反応器内でプレポリマーを作成しておき、分散した微細気泡を有する液体中にそのプレポリマーを移し、必要であれば重合開始剤等を加え、さらに重合反応を継続する方法が好ましい。プレポリマーを作成した後の気液界面での重合反応は、使用するプレポリマーによってその条件を適宜設定できるが、概ね50℃〜80℃、10分〜30分ゆっくり撹拌するのが好ましい。
その後、反応停止剤を添加して、例えばメラミンホルムアルデヒドポリマーの場合には炭酸ナトリウム水溶液でpHを上げて、反応を停止させ、室温で放置すると、ポリマー微粒子を含有するエマルションを得ることができる。
プレポリマーを別途作成し、液体中の微細気泡の気液界面でさらに重合反応を行う方法は、重合時間と微細気泡の消滅の関係の点から特に好ましいものである。
【0013】
得られたポリマー微粒子を含有するエマルションからの中空マイクロカプセルの分離は、その比重差を利用すればよい。エマルションを約1時間静置すると、中実のポリマー微粒子は反応容器の底に沈み、中空のマイクロカプセルはエマルジョン中に浮遊し続ける。浮遊する部分を取り出し、フィルター等で液体分を除去し乾燥すれば、中空のマイクロカプセルを取り出すことができる。
【0014】
得られたマイクロカプセルの一部を走査型電子顕微鏡(SEM)用の試料台に載置し、SEM画像を得た。このマイクロカプセルとプレポリマー微粒子(後記する比較例1)画像の表面光沢を比べるとその違いは明らかであり、本発明方法によるマイクロカプセルはその表面上できれいに重合反応をしていることがわかった。さらに、本発明方法で得られるマイクロカプセルには電子顕微鏡の撮影上不可避である電子ビームの照射による熱変形が認められることから、内部は中空であることは明らかである。また、電子顕微鏡撮影時の真空下においてカプセル内外の圧力差で破裂したカプセルの画像も認められ、この場合の膜厚は200nm程度であることからも50μm程度の中空カプセルであることがわかる。
電子顕微鏡による観察から本発明で得られるカプセルの直径は、使用した液体中の微細気泡とほぼ同様であり、100nm〜100μm程度であった。
【0015】
本発明の方法で得られた中空カプセルは、さまざまな用途に応用できる可能性を有するものである。化学工業用としては表面に触媒粒子等を吸着させることにより、沈降しない触媒として利用することができる。また、カプセル表面は弾性体であることから、その音響性を利用して、細い流路内の流れを超音波等で可視化することが可能である。さらに、光の屈折率や透過率が中実の粒子と異なるため、光学材料あるいは化粧品等の分野にも応用することが可能である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を比較例とともに実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
実施例1
(1)4.8%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液100gに界面活性剤であるアニリン0.4gを溶解させ、分散溶液を調製した。
(2)この水溶液を0.3リットルの圧力容器内に封入し、空気を導入して0.30MPa(3気圧)まで加圧して空気を水溶液中に溶解させた。この際、水溶液の温度はヒータで加温して65℃に保持した。
(3)一方、37%ホルムアルデヒド水溶液10g、メラミン3.3g、蒸留水13.3gを混合し、これに10%炭酸ナトリウム水溶液をピペットで5滴加えてpH9に調節し、65℃に維持して15分間ゆっくり撹拌して、メラミンホルムアルデヒドのプレポリマーをあらかじめ作成しておいた。
(4)前記のPVA水溶液を封入した圧力容器を大気圧まで急速に減圧し、溶液内に微細気泡を生成させた。その後、その溶液を0.3リットルのビーカに静かに移した。
(5)前記プレポリマーにグリシンを0.3g加え、1分間程度撹拌した後に、気泡を含んだPVA水溶液中に撹拌しながらビュレットで滴下し、65℃で10分間軽く撹拌した。
(6)撹拌を停止し、約40分経過後白濁が始まったら10%NaCO水溶液を70滴添加して、pHを10程度に上げて重合反応を停止させた。その後は撹拌を行なわず、室温で1時間放置しメラミンホルムアルデヒド微粒子を含有するエマルションを得た。
沈降部分を除去したエマルションから、濾別分離により得られたマイクロカプセルを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0018】
図1、図2は本発明の方法で作成した中空のマイクロカプセルの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図1(a)、(b)および図2(a)、(b)は上記実施例1により得られたマイクロカプセルのそれぞれ採取した試料が異なるもの画像であり、カプセルが球状体で示されている。これらの画像から解かるように、実施例1で得られたマイクロカプセルは、粒径が約1μm〜50μmであり、その表面がつるつるした球状体であるものがほとんどであった。図1(a)、(b)、図2(a)に認められるように、球体に変形が見られるが、変形の領域が小さく電子ビームの照射によって熱変形をしたと考えられることから、球体膜の中は中空であることが明らかであり、中空のカプセルが生成されている証拠である。さらに図2(b)では明らかにカプセルの膜が破れた状態が観察され、電子顕微鏡の撮影下では真空にする必要があり、カプセル内外の圧力差により破裂したと考えることができ、これも中空のカプセルが生成されている証拠となる。
後記する比較例で得られたマイクロ球体では、変形あるいは破裂といった現象は認められなかったので、比較例のものとは、明らかに違うものが生成しているのである。
【0019】
比較例1
PVA水溶液を圧力容器に入れないで、また空気の溶解を行わず、PVA溶液内に気泡の生成を行わない以外は実施例1と同様な工程で、プレポリマーをPVA水溶液に撹拌しながら滴下し、白濁が始まりpHを上げるまで撹拌を続けカプセルの生成を行った。
その後実施例1と同様に処理して、得られたもののSEM画像を3図に示す。
得られたものは1〜2μmの球体状であるが、中空のものではなく表面形状はごつごつしていてゴルフボールのようである。
【0020】
比較例2
PVA水溶液を圧力容器に入れないで、また空気の溶解を行わず、PVA溶液内に気泡の生成を行わない以外は実施例1と同様な工程で、プレポリマーをPVA水溶液に撹拌しながら滴下し、その後撹拌をほとんどしないでカプセルの生成を行った。
その後実施例1と同様に処理して、得られたもののSEM画像を検討した。
得られたものは1〜2μmの球体状であるが、その表面形状は比較例1のもの以上に凹凸が大きかった。これは重合反応時にあまり撹拌を行わなかったためと考えられるが、詳しい理由は不明である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による実施例1で得られた中空マイクロカプセルの電子顕微鏡画像である。
【図2】本発明による実施例1で得られた他の中空マイクロカプセルの電子顕微鏡画像である。
【図3】本発明以外の比較例1で得られたマイクロ球体の電子顕微鏡画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に分散させた微細気泡の気液界面で重合反応をさせ、気泡のサイズとほぼ同じサイズである100nm〜100μmの大きさを持つ中空のマイクロカプセルを製造する方法。
【請求項2】
前記液体中に分散させた微細気泡は、ガスを0.20MPa(2気圧)以上で液体中に溶解させ、その後減圧し発泡させることで液体中に生成させることを特徴とする請求項1に記載の中空のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
前記液体中に分散させた微細気泡は、気泡サイズによる浮力の違いから生じる上昇速度の違いに基づいて、気泡のサイズの選別を行うものであることを特徴とする請求項1または2に記載の中空のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
前記気液界面での重合反応は、別途作成したプレポリマーをさらに重合反応させるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の中空のマイクロカプセルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−21315(P2007−21315A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204895(P2005−204895)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】