説明

中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法、表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜および表面改質剤コート中空糸型血液浄化器

【課題】親水化剤、抗血栓剤、抗酸化剤など種々の表面改質剤を、血液透析膜、血液濾過膜、血液透析濾過膜、血漿分離膜など血液内部灌流型の種々の中空糸型血液浄化膜に広く適用可能で、その選択透過性を保持しながら効率よく、かつ、表面改質剤によって付与された特性が十分発揮できる、中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法、該方法によって得られる表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜、および該表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜を充填してなる表面改質剤コート中空糸型血液浄化器を提供する。
【解決手段】血液内部灌流型の中空糸型血液浄化膜の表面に表面改質剤をコーティングする際に、該中空糸型血液浄化膜の被コート面の反対面から加圧しながら、該中空糸型血液浄化膜の被コート面側に該表面改質剤の有機溶媒溶液または有機溶媒分散液または有機溶媒懸濁液を導入してコーティングを行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液内部灌流型の中空糸型血液浄化膜の選択透過性を保持しながら効率よく、かつ、表面改質剤によって付与された特性が十分発揮できる、中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法、該方法によって得られる表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜、および該表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜を充填してなる表面改質剤コート中空糸型血液浄化器に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸型血液浄化膜を用いた血液浄化療法としては、慢性腎不全患者の延命法や急性中毒症、急性劇症肝炎の救命法として利用される血液透析、血液濾過、血液透析濾過や、リウマチ、高脂血症、急性中毒症、敗血症の治療に利用される血漿分離、血漿交換などがある。
【0003】
このような血液浄化療法においては、天然素材であるセルロース、また、その誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子としてはポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどを用いた中空糸膜を充填した血液浄化器が広く使用されている。
【0004】
上記膜素材の中で近年、透水性能が高いポリスルホン(以下PSfと略記する)系樹脂が注目されている。しかし、PSf単体で半透膜を作った場合は、PSf系樹脂が疎水性であるために血液との親和性に乏しく、エアーロック現象を起こしてしまうため、そのまま血液処理用などに用いることはできない。
【0005】
上記した課題の解決方法として、PSf系樹脂に親水性高分子を配合して製膜し、膜に親水性を付与する方法が提案されている。例えば、ポリエチレングリコール等の多価アルコールを配合する方法が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開昭61−232860号公報
【特許文献2】特開昭58−114702号公報
【0006】
また、ポリビニルピロリドン(以下PVPと略記する)を配合する方法が開示されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【特許文献3】特公平5−54373号公報
【特許文献4】特公平6−75667号公報
【0007】
一方、紡糸原液に親水性高分子を導入するのではなく、中空糸型血液浄化膜製造時の内腔形成剤(芯液)に親水性高分子を含有させて、内腔表面に親水性高分子を導入する方法も開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献5】特開2002−212333号公報
【0008】
これらの方法は、中空糸型血液浄化膜の製造工程において処理を行うものであり、好ましい特性を有する既存の中空糸型血液浄化膜に、その好ましい特性を保持したまま新たな特性を付与する目的で改質剤を導入することは不可能である。
【0009】
また、既に成型された中空糸型血液浄化膜に表面改質剤として主に基材の表面に親水性高分子を導入する方法も開示されている(例えば、特許文献6、7、8参照)。
【特許文献6】特開平10−118472号公報
【特許文献7】特開平10−151196号公報
【特許文献8】特開平11−169690号公報
【0010】
これらにおいては、親水性高分子溶液を疎水性高分子膜に接触させて物理的に付着保持させた血液浄化膜が開示されており、実質的には、親水性高分子(好ましくはPVP)水溶液を疎水性高分子膜に接触させて処理する方法であり、他の溶媒(有機溶媒)についての技術開示は見られない。水を媒体として処理する場合には問題とならないこともあるが、水難溶性の改質剤をコートするにあたって、有機溶媒を使用する場合、微細構造により性能を発揮している膜型の医療用具への導入は通常の方法で単にコーティングするだけでは膜構造が破壊され、性能の低下を招いてしまう可能性がある。従って、上記の技術は種々の改質剤、血液浄化膜に対して広汎に適用可能な方法とは言い難い。
【0011】
特許文献9においては、膜への処理剤の付着性を高め、処理を効率化することを目的として、圧力差により処理液を一方の表面(被コート面)からもう一方の表面(非コート面)へ向けて移動させて処理する方法が開示されている。この技術もまた、実質的には親水化剤(好ましくはPVP)を水溶液として処理する方法であり、他の溶媒(有機溶媒)についての技術開示は見られない。これも上記同様、有機溶媒を使用する場合には膜の性能の低下を招いてしまう可能性がある。特に、圧力差によって膜内部まで溶液を導入しているため、膜構造の破壊はより顕著になってしまう可能性も考えられる。
【特許文献9】特開2004−230375号公報
【0012】
特許文献10では、分画特性の異なる複数種類の膜を後処理によって作製することを目的として、多孔質膜表面に高分子溶液を接触させ、高分子を付着保持させることで得られる、改質前後の溶質の篩係数が規定された膜が開示されている。ここでは、親水性高分子以外の高分子、アルコールなど水以外の溶媒に対して可溶性を有する高分子であってもよい、との記載は見られるものの、実態はやはり親水性高分子(好ましくはPVP)水溶液を疎水性高分子膜に接触させる方法である。この文献に記載された処理方法は、コート液の単純な流通でのコーティングのみであり、有機溶媒使用時にこの方法を採ると、膜構造の破壊による性能の低下は避け難いと考えられる。
【特許文献10】特開2001−038167号公報
【0013】
さて、体外循環によって実施される血液浄化療法では、通常、患者より血液を体外に取り出し、血液浄化膜を構成要素として含んでなる血液浄化デバイスによって、透析、濾過、透析濾過、血漿分離、酸素富化等の処理を行い、血液を患者に戻す体外循環が行われる。この際、体外に取り出された血液は異物である血液浄化膜と接触するため、生体の持つ防御機構によって凝固や血球成分の減少/増加、補体系の活性化などが引き起こされる。このような副作用を回避/軽減する目的で、体外循環時にはヘパリンやメシル酸ナファモスタットなどのような抗凝固剤を循環血液に添加するのが一般的である。
【0014】
近年広く行われている血液浄化療法として、術後腎不全や急性腎不全、急性薬物中毒、劇症肝炎等の治療に適用される持続血液透析、持続血液濾過、持続血液透析濾過がある。通常の慢性腎不全患者の治療に利用されている血液透析が1回につき4時間程度の時間で行われるのに対し、これらの持続血液浄化療法は、1回につき12時間から数日間の長期にわたって連続的に施行される。この療法によって病因物質や過剰水分の連続除去が可能となり、重篤な疾病の治療に大きな効果を上げているものの、長期間の連続使用による血液の凝固、血栓生成が問題となるケースも多い。さらに、このような病態にある患者は使用する抗凝固剤の量が制限されたり、血液が凝固しやすい状態にあったりすることも多く、使用される血液浄化膜には高い抗血栓性が要求される。
【0015】
しかしながら、持続血液浄化膜も含めて血液浄化に用いられる膜の素材は、血液適合性が十分であるとは言い難い。具体的には、血液透析膜、血液濾過膜、血液透析濾過膜には再生セルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、表面をポリエチレングリコールやビタミンEなどで修飾したセルロースなどのセルロース系材料、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリメチルメタクリレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの合成高分子が、血漿分離膜にはセルローストリアセテートやエチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリスルホン、ポリプロピレンなどが使用されている。これらの血液浄化膜素材は汎用プラスチックや繊維素材を血液浄化膜用途に転用したに過ぎず、大量生産されているために低コストで入手でき、成型も比較的容易であるというメリットはあるものの、血液浄化膜用途を主眼において開発されたものではないので、十分な抗血栓性を持っているとは言い難い。
【0016】
一方、生体適合性付与に有効な構造として近年活発に検討されているもののひとつにホスホリルコリンがある。ホスホリルコリンは生体膜を形成するリン脂質のひとつであるホスファチジルコリンの極性部分の構造であるため、ホスホリルコリンの材料への導入は生体との親和性向上、血液適合性向上に有効である。2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを含む重合体はホスファチジルコリンと類似の構造を有していることから、生体中のリン脂質を吸着して擬内膜化することによりすぐれた血液適合性が得られることが報告されている(例えば、特許文献11、12参照)。
【特許文献11】特開昭54-063025号公報
【特許文献12】特開昭63-096200号公報
【0017】
また、ホスホリルコリン構造によって血液浄化膜に血液適合性を付与する技術も開示されている(例えば、特許文献13、14、15、16、非特許文献1、2参照)。本発明者らもホスホリルコリン類似構造の有効性に着目し、この構造を含有する材料を利用した血液浄化膜について、既に出願している(例えば、特許文献17、18、19参照)。
【特許文献13】特開平07−231935号公報
【特許文献14】特開平05−177119号公報
【特許文献15】特開平05−220218号公報
【特許文献16】WO02/009857号公報
【非特許文献1】Biomaterials,20,1545(1999)
【非特許文献2】Biomaterials,20,1553(1999)
【特許文献17】特開2000−037617号公報
【特許文献18】特開2000−126566号公報
【特許文献19】特開2000−308814号公報
【0018】
これらホスホリルコリン構造を導入した材料は、調製のプロセスが複雑であるためコストが高くなり、また、新規素材であるために十分な安全性が確保できるかどうかは未知の部分があるという短所はあるものの、優れた血液適合性を発揮するという大きな特長を持っており、注目される技術である。特許文献14、15では、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを含む共重合体を膜表面に導入する技術が開示されているが、共重合体の有機溶媒溶液を含浸、塗布などの方法で表面に付与し、過剰の溶液を除去後、溶媒を除去するという一般的な導入方法が記載されているのみである。微細構造により性能を発揮している膜への導入はこのような通常の方法で単にコーティングするだけでは膜構造が破壊され、性能の低下を招いてしまう可能性が指摘される。また、特許文献16では、芯液および/または凝固液に共重合体溶液を含有させて中空糸膜を製造する方法が記載されているが、この方法は、中空糸型血液浄化膜の製造工程において処理を行うものであり、好ましい特性を有する既存の中空糸型血液浄化膜に、その好ましい特性を保持したまま新たな特性を付与する目的で改質剤を導入することは不可能であり、一般性に欠ける。前記特許文献13では、膜表面にエステル結合でグラフト化することでホスホリルコリン構造を導入しているが、この方法は膜表面で化学反応を行わせなければならず、簡便に実施できない。
【0019】
血液接触面に抗血栓性を付与する他の方法としては、天然の抗凝固剤であるヘパリンや、血栓溶解剤であるウロキナーゼをコーティングする技術が知られている。特に、オニウム塩との複合体生成によって有機溶媒に可溶化したヘパリンをコーティングする方法は比較的簡便に実施でき、優れた抗血栓性を付与することができる。本発明者らは有機溶媒可溶化ムコ多糖、特に有機溶媒可溶化ヘパリンを有効成分とした抗血栓性組成物について既に多くの出願している(例えば、特許文献20、21、22、23、24、25、26、27参照)。
【特許文献20】特開平09−176379号公報
【特許文献21】特開平09−187501号公報
【特許文献22】特開平09−187502号公報
【特許文献23】特開平11−164882号公報
【特許文献24】特開2001−204809号公報
【特許文献25】特開2002−360686号公報
【特許文献26】特開2003−038640号公報
【特許文献27】特開2003−048840号公報
【0020】
ところが、血液浄化膜は精密な微細構造によって選択透過性を実現しているため、上記のような抗血栓性組成物をコーティングによって表面に導入する際、この微細構造を破壊してしまう可能性があり、そのため膜としての透過性能が保持されなくなってしまうことがある。すなわち、抗血栓性組成物のコーティング方法を最適化することによって初めて血液浄化膜へのコーティングによる抗血栓性付与は可能になると言うことができる。
【0021】
本発明者らは、また、血液接触面に血液適合性が付与された血液回路および血液浄化デバイスを構成要素として含んでいることを特徴とする血液適合性血液浄化システムについて出願している(特許文献28)。特許文献28においては、血液浄化デバイスへの血液適合性付与方法として、ヘパリンとオニウム塩との複合体を浸漬法、スプレー法、塗布法など通常のコーティング方法で導入する手法が開示されているが、微細構造により性能を発揮している膜型の医療用具への導入は通常の方法で単にコーティングするだけでは膜性能の低下を招いてしまい、実用的でないと言わざるを得ない。
【特許文献28】特開2004−008693号公報
【0022】
特許文献29、30では第4級アンモニウムを有効成分とする成分を、浸漬法、スプレー法、塗布法など一般的な方法でコーティングすることで得られるエンドトキシン除去膜について開示されているが、この用途の場合は膜の精密な微細構造を保持してコーティングを行う必要性が低いため、コーティング手法を最適化する重要性があまり問題とならない。種々の血液浄化膜に対し、性能を保持したまま血液適合性を付与するにはコーティング手法の最適化が不可欠である。
【特許文献29】特開2002−355553号公報
【特許文献30】特開2003−010655号公報
【0023】
また、特許文献31では血液接触面にヘパリンと有機カチオン化合物とからなるイオン性複合体が被覆された人工肺が開示されており、コーティング方法として浸漬法、スプレー法、塗布法など一般的な方法が例示されている。特許文献31では膜型人工肺に限定されているが、人工肺においては透過成分がガスであり、膜の細孔は非常に小さいもので十分な性能を発揮する。このため、特許文献31に記載された組成の血液適合性組成物を使用してコーティングすることで比較的簡便に血液適合性を付与することが可能であり、またコーティング工程によって性能が変化する可能性も低い。このため、コーティング組成物の構成の最適化で十分な性能維持が可能であったが、細孔径が比較的大きい人工腎臓などの血液浄化膜を含めた種々の血液浄化膜に対し、性能を保持したままコーティングを実施して血液適合性を付与する方法として本法を広く適用することは困難である。
【特許文献31】特開2001−276215号公報
【0024】
近年、長期にわたって血液透析を行っている患者に、血中抗酸化作用の低下や過酸化脂質などが確認されており、このような酸化ストレスが種々の合併症と関わっていることが指摘されている。この問題を解決するひとつの方法として、血液浄化膜への抗酸化物質固定化が試みられている(特許文献32、33、34、35、36、37、38など参照)。
【特許文献32】特開平09−066225号公報
【特許文献33】特開平10−235171号公報
【特許文献34】特開2002−066273号公報
【特許文献35】特公昭62−041738号公報
【特許文献36】特開2000−312716号公報
【特許文献37】特開平07−178166号公報
【特許文献38】特開平11−178919号公報
【0025】
特許文献32、33、34においては、芯液に抗酸化剤を含有させて中空糸膜を製造する方法が記載されているが、この方法は、中空糸型血液浄化膜の製造工程において処理を行うものであり、好ましい特性を有する既存の中空糸型血液浄化膜に、その好ましい特性を保持したまま新たな特性を付与する目的で改質剤を導入することは不可能であり、一般性に欠ける。
【0026】
特許文献35、36、37では抗酸化剤の有機溶媒溶液を含浸、塗布などの方法で表面に付与し、過剰の溶液を除去後、溶媒を除去するという一般的な導入方法が記載されているのみである。微細構造により性能を発揮している膜への導入はこのような通常の方法で単にコーティングするだけでは膜構造が破壊され、性能の低下を招いてしまう可能性が指摘される。特許文献37では溶解度パラメータδが13以下である疎水性の膜にビタミンEをコーティングしているが、これはビタミンEとの相互作用が強固な膜素材を選択することでビタミンEの溶出を低下させるのが目的であり、膜構造の破壊を回避する手法とはなり得ない。このような方法で表面改質を行う場合、コーティングによる膜性能の変化を勘案して原料膜を製造する必要があり、効率的でない。
【0027】
特許文献38では、膜の微細孔に、改質剤と相溶性の低い充填液(具体的に好ましくは水)を充填しておき、その後改質剤の有機溶媒溶液を接触させてコーティングする手法が開示されている。この方法では、膜の細孔があらかじめ保護されているので、有機溶媒との接触による微細構造の破壊は回避できる可能性が高いが、微細孔への充填工程、改質剤による被覆工とふたつの工程を連続して行う必要があるため効率的でない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、親水化剤、抗血栓剤、抗酸化剤など種々の表面改質剤を、血液透析膜、血液濾過膜、血液透析濾過膜、血漿分離膜など血液内部灌流型の種々の中空糸型血液浄化膜に広く適用可能で、その選択透過性を保持しながら効率よく、かつ、表面改質剤によって付与された特性が十分発揮できる、中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法、該方法によって得られる表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜、および該表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜を充填してなる表面改質剤コート中空糸型血液浄化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、上記技術課題を解決するために鋭意検討した結果、血液内部灌流型の中空糸型血液浄化膜の表面に表面改質剤をコーティングする際に、該中空糸型血液浄化膜の被コート面の反対面から加圧しながら、該中空糸型血液浄化膜の被コート面側に該表面改質剤の有機溶媒溶液または有機溶媒分散液または有機溶媒懸濁液を導入してコーティングを行うことにより、上記課題を解決することができたものである。
【0030】
詳細な実施態様としては、中空糸型血液浄化膜の被コート面の反対面からの加圧を、不活性気体によって行うものであり、中空糸型血液浄化膜は血液透析膜または血液濾過膜または血液透析濾過膜または血漿分離膜であり、表面改質剤はムコ多糖と第4級オニウムのイオン性複合体を含んでなり、ムコ多糖はヘパリン類である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法は、血液透析膜、血液濾過膜、血液透析濾過膜、血漿分離膜など種々の中空糸型血液浄化膜に広く適用可能で、その選択透過性を保持しながら効率よく、かつ表面改質剤によって付与された特性が十分発揮できるという利点があり、また、本発明の表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜および/または表面改質剤コート中空糸型血液浄化器は、優れた選択透過性を保持し表面改質剤によって付与された特性が十分に発揮されるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、中空糸型血液浄化膜とは中空の繊維状に成型された膜(中空糸膜)に血液を灌流し、血液中の老廃物、病因物質などを除去する浄化膜を意味する。また、血液内部灌流型とは、「中空糸の内腔に血液を灌流するタイプ」ということを意味する。中空糸型血液浄化膜の素材は、例えば、再生セルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、表面をポリエチレングリコールやビタミンEなどで修飾したセルロースなどのセルロース系材料、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリメチルメタクリレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン、シリコーンなどの合成高分子が例示されるが、特に限定されない。本発明の中空糸型浄化膜の径や選択透過特性などは特に限定されないが、内径は100〜1000μmが好ましく、より好ましくは120〜500μmである。また、膜厚は5μm〜500μmが好ましく、より好ましくは10〜300μmである。
【0033】
本発明に用いられる表面改質剤は親水化剤、エンドトキシン吸着剤、抗酸化剤、抗菌剤、抗血栓剤など、特に制限されない。具体的には、親水化剤としては、例えば、PVP、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどが例示され、中でも、安全性や経済性よりPVPが好ましい。エンドトキシン吸着剤としては、例えば、ポリミキシンB、ヒスチジンなどの天然物、ポリエチレンイミン、キトサン、アミノアルキルアクリレート、アミノアルキルメタクリレート、アミノアルキルアクリルアミド、アミノアルキルメタクリルアミド、ポリアリルアミンなどのポリマー、テトラアルキルアンモニウム塩などの低分子化合物などが例示される。抗酸化剤としては、例えば、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、カロテノイド、フラボノイド、セサモール、カテキン、ポリフェノール、クルクミン、グルタチオン、チオタウリン、ヒポタウリン、およびこれらの誘導体などが例示される。抗菌剤としては、例えば、銀ゼオライト、銀−リン酸ジルコニウム複合体、銀セラミクス、プロテイン銀、スルファジアジン銀、抗菌性ガラス、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩などが例示される。
【0034】
抗血栓剤としては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを含む共重合体などの合成材料、ヘパリンやウロキナーゼなど天然物を有効成分として含んでなる抗血栓性組成物が例示されるが、本発明においては、ムコ多糖と第4級オニウムのイオン性複合体を含んでなる抗血栓性組成物が好ましく用いられる。これらの表面改質剤は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
抗血栓性組成物に使用されるムコ多糖としては例えば、デキストラン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン類、あるいはこれらの金属塩などが例示される。これらのうち、本発明に使用されるムコ多糖としては、ヘパリン類が好ましい。本発明においてヘパリン類とは、ヘパリン、ヘパリンナトリウム、ヘパリンカリウム、ヘパリンリチウム、ヘパリンカルシウム、ヘパリン亜鉛塩、ヘパリンアンモニウム塩などのヘパリン塩、低分子ヘパリン、ヘパラミンなどのヘパリン誘導体を意味する。
【0036】
本発明に用いられる第4級オニウムは4つの炭化水素基が結合したアンモニウムおよび/またはホスホニウムが好ましい。第4級アンモニウムの窒素原子あるいは第4級ホスホニウムのリン原子に結合する4つの炭化水素基における炭素原子の総数は、ムコ多糖の血中溶出量制御、適度な親水性・疎水性バランス、ムコ多糖の活性発揮などの観点から、20〜38が好ましい。炭化水素基の炭素原子総数が小さいと血中への溶出が速く長期間の効果を維持することが困難なことがある。したがって、4つの炭化水素基における炭素原子の総数は22以上がより好ましく、24以上がさらに好ましい。また、炭化水素基の炭素原子総数が大きいと疎水性が高すぎて血液接触部における活性の発揮が不十分となる可能性がある。したがって、炭素原子の総数は36以下がより好ましく、34以下がさらに好ましい。このような第4級オニウムとしては、例えば、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム、ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、トリブチルドデシルアンモニウム、トリブチルテトラデシルアンモニウム、トリブチルヘキサデシルアンモニウム、トリブチルオクタデシルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジテトラデシルアンモニウム、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、トリブチルドデシルホスホニウム、トリブチルテトラデシルホスホニウム、トリブチルヘキサデシルホスホニウム、トリブチルオクタデシルホスホニウム、ジメチルジドデシルホスホニウム、ジメチルジテトラデシルホスホニウム、ジメチルジヘキサデシルホスホニウム、ジメチルジオクタデシルホスホニウムなどが例示される。さらに、上記4つの炭化水素基のうち、少なくとも1つの炭化水素基が炭素数10以上のアルキル基であることが好ましく、少なくとも2つの炭化水素基が炭素数10以上のアルキル基であることがさらに好ましく、少なくとも2つの炭化水素基が炭素数10以上のアルキル基でありかつ2つがメチル基であることがよりさらに好ましい。このような第4級オニウムとしては、例えば、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジテトラデシルアンモニウム、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、ジメチルジドデシルホスホニウム、ジメチルジテトラデシルホスホニウム、ジメチルジヘキサデシルホスホニウム、ジメチルジオクタデシルホスホニウムなどが例示される。ムコ多糖および第4級オニウムはそれぞれ1種を使用しても、それぞれ2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
ムコ多糖と第4級オニウムのイオン性複合体を調製する方法は特に制限されないが、例えば次のような方法が例示される。まずムコ多糖を適当な量の水に溶解して水溶液とする。次に第4級オニウムをメタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールに溶解する。ムコ多糖水溶液には上記第4級オニウムの溶解に使用した低級アルコールを、第4級オニウム塩溶液には水を添加して最終的な溶媒の組成が同一になるように調整する。この際に、ムコ多糖もしくは第4級オニウムが析出する場合には、溶解可能な温度以上に溶液を加温して、完全に均一な溶液状態にする。
【0038】
続いて、ムコ多糖の溶液中に第4級オニウム溶液を攪拌しながら滴下していく。ムコ多糖と第4級オニウムとはほぼ瞬間的に反応して沈殿物を生成する。この沈殿物を回収して十分に洗浄し、未反応のムコ多糖および第4級オニウムを除去する。得られた沈殿物は遠心分離および凍結乾燥によって溶媒を完全に除去して、ムコ多糖と第4級オニウムのイオン性複合体を得る。
【0039】
上記の操作で得られたイオン性複合体は単独でコーティングするほか、他の添加成分との混合物としてコーティングしてもよい。この場合混合する添加成分としては、例えば、親水化剤、エンドトキシン吸着剤、抗酸化剤、抗菌剤などが例示される。ムコ多糖と第4級オニウムのイオン性複合体と、その他の添加成分を包含して本発明においては抗血栓性組成物と呼称する。
【0040】
表面改質剤のコーティングに使用する溶媒または分散媒は中空糸型血液浄化膜の構造にできるかぎり損傷を与えないものが好ましい。最適な溶媒または分散媒は中空糸型血液浄化膜を構成する素材によっても異なるが、そのような溶媒または分散媒としては、例えば、メタノール(以下MeOHと略記する)、エタノール(以下EtOHと略記する)、イソプロピルアルコール(以下IPAと略記する)、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルヘキサン(以下Hexと略記する)、シクロヘキサン(以下cHexと略記する)、テトラヒドロフラン(以下THFと略記する)、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、水など、あるいはこれらの混合物の中から、イオン性複合体の溶解性あるいは分散性、中空糸型血液浄化膜への損傷の低さを考慮して選択すればよい。これらの中で、MeOH、EtOH、IPAなど低級アルコールとHex、cHexなどの炭化水素との混合物、MeOH、EtOH、IPAなど低級アルコールとTHF、1,4−ジオキサンなどの環状エーテルとの混合物が好ましく用いられる。
【0041】
表面改質剤をコーティングする際に使用する表面改質剤含有液体(以下コート液と呼称する)は、必ずしも均一、清澄な溶液である必要はなく、分散液、懸濁液であってもよいが、中空糸型血液浄化膜表面へのコーティングの均一性を考慮すると、均一溶液状態であることが好ましい。
【0042】
コート液における表面改質剤の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.005〜5重量/容量%である。これよりも表面改質剤の濃度が低いと、表面改質剤によって付与される特性の発揮が不十分となる場合がある。したがって、表面改質剤の濃度は、0.01重量/容量%以上がより好ましい。これよりも表面改質剤の濃度が高いと、中空糸型血液浄化膜の膜性能が保持されにくく、また多量の表面改質剤を必要とするため好ましくない。したがって、表面改質剤濃度は1重量/容量%以下がより好ましく、0.5重量/容量%以下がさらに好ましい。
【0043】
本発明においては、血液内部灌流型の中空糸型血液浄化膜の被コート面の反対面から加圧しながら、該中空糸型血液浄化膜の被コート面側に表面改質剤の有機溶媒溶液または有機溶媒分散液または有機溶媒懸濁液を導入してコーティングを行う、という手法を採ることが必要である。微細構造により性能を発揮している中空糸型血液浄化膜表面へのコーティングは、従来から一般的に行われている単純な浸漬法、スプレー法、塗布法では、膜性能の低下を招いてしまい実用的でないことは前述のとおりである。被コート面の反対面(以下非コート面と略記する)からの加圧によってコート液は中空糸型血液浄化膜の膜内部への侵入が制御され、膜の微細構造を保持した状態でコーティングを行うことが可能となる。この際、加圧は気体、液体、微粒子粉末状固体などの流体によって行うことができるが、加圧効果、中空糸型血液浄化膜への負荷、取扱いの容易さから、気体によって行うことが好ましい。気体としては、一酸化炭素やホスゲン、塩素ガスなどは有毒であるため取扱いが困難で好ましくない。好ましい気体としては、例えば、酸素、空気、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴンなどが例示されるが、酸素や、酸素を含む空気などは表面改質剤や膜素材の酸化を促進してしまう可能性があるので、このような影響を与えることのない窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性気体が好ましく、コストの面から窒素がより好ましい。加圧を行う際の圧力は、0.01〜5気圧が好ましい。圧力がこれよりも低いと被コート面からコート液が膜内部にまで侵入しやすく、膜の微細構造が破壊されて選択透過性能が低下する可能性がある。したがって、加圧圧力は0.05気圧以上がより好ましく、0.1気圧以上がさらに好ましい。また、圧力がこれよりも高いと非コート面から被コート面への気体透過量が多くなり、コート液をバブリングすることになってしまって被コート面のコーティング層が不均一となってしまう可能性がある。したがって、加圧圧力は3気圧以下がより好ましく、1気圧以下がさらに好ましい。
【0044】
中空糸型血液浄化膜の被コート面へのコート液の導入方法は特に制限されないが、ローラーポンプ、ペリスタポンプ、シリンジポンプなどの流量制御が可能なポンプによってコート液を導入し、被コート面全面がコート液と接触した状態でコート液を一定時間滞留させ、その後不活性気体などによってコート液を導出させる方法などが用いられる。この際、非コート面からの加圧は、コート液が被コート面と接触している期間を通じて継続して行うのが好ましい。コート液を導入させる流量は流速として3〜150cm/min、好ましくは15〜100cm/min、より好ましくは20〜60cm/minである。これよりも流量が大きいと空気塞栓などが生じやすく、被コート面におけるコーティング層が不均一となってしまう可能性がある。また、これよりも流量が小さいとコート液が被コート面全面と接触するまでにいたる時間が長くなり、効率的でない。コート液フィード後の滞留時間は好ましくは10〜300秒、より好ましくは30〜210秒である。滞留時間がこれよりも短いと被コート面へのコーティングが不十分となる可能性があり、これよりも長いと膜の微細構造の破壊などの問題が生じる可能性がある。コート液を導出させる際の不活性気体圧力は、0.01〜5気圧が好ましく、0.05〜3気圧がより好ましく、0.1〜1気圧がさらに好ましい。圧力がこれよりも低いとコート液が過剰に残存してしまい、圧力がこれよりも高いとコート液が過剰に除去されてしまう可能性がある。
【0045】
コーティングの操作は常温、常湿の環境で実施してもよいが、極端に高温、高湿の条件下ではコート液の吸湿、変質などを招く可能性があるので、好ましくは除湿して湿度を40%未満にし、温度を20〜30℃に調節した恒温・恒湿ブース内で実施するのが好ましい。
【0046】
被コート面をコート液と接触し、コート液を除去した後はコート液を乾燥させる必要がある。乾燥にあたって高温の条件下で溶媒を除去する方法は、コート液に含まれる表面改質剤の変質や、膜の微細構造の破壊などの問題が生じる可能性がある。また、酸素や水分を多く含む気体によるブロー乾燥では、表面改質剤や膜素材の酸化促進、通風時の結露などが発生する可能性がある。具体的には、例えば、コート液導出に使用した不活性気体の送入をそのまま継続して乾燥を行うのが効率的で好ましい。この不活性気体ブローによる乾燥時、周囲の環境が高湿であると、溶媒の蒸発に伴う温度低下によって結露が生じる可能性があるので、好ましくは除湿して湿度を40%未満にし、温度を20〜30℃に調節した恒温・恒湿ブース内で実施するのが好ましい。この際、ブース内を窒素で置換し、不活性かつ低湿度環境下で乾燥を行うことも好ましい。乾燥時の不活性気体圧力は、0.01〜5気圧が好ましく、0.05〜3気圧がより好ましく、0.1〜1気圧がさらに好ましい。圧力がこれよりも低いとコート液の乾燥が効率的に行われず、圧力がこれよりも高いとコート液が過剰に除去されてしまう可能性がある。
【0047】
なお、例えば、血液内部灌流型の血漿分離膜の場合、血液と接触するのは内面だが、得られた血漿は外面となり、抗凝固剤の添加量が少ない場合には、外面で凝固が進行してしまう可能性もある。従って、本発明では中空糸型血液浄化膜の血液非接触面側を含め、両面にコーティングすることも制限されない。両面コーティングを実施する場合、例えば、第一に中空糸型血液浄化膜の内面を被コート面、外面を非コート面として上記のコーティング操作を行った後、引き続いて中空糸型血液浄化膜の外面を被コート面、内面を非コート面として上記のコーティング操作を実施する方法が例示される。
【0048】
上記のようなコーティング操作を行う場合、操作の都合上、中空糸型血液浄化膜はモジュールに成型されていることが好ましい。適当本数の中空糸型血液浄化膜を束ね、内径30〜35mmの円筒状のモジュールケース(両末端が開口し、両末端部近傍の側面にそれぞれポートのついたもの)に装填し、両末端をポリウレタン樹脂などのポッティング材で封止し、ポッティング材もろとも端部を切断して中空糸型血液浄化膜の両末端を開口させたモジュールを利用することができる。以下、このように成型されたモジュールを単にモジュールと呼称する。また、血液透析器では通常、中空糸の内部に血液を灌流するので、以下便宜的に円筒状モジュールの両末端を血液流入口、流出口、側面のポートを透析液流入口、流出口と呼称し、さらに、血液流入口から血液流出口に通じる部分を血液側、透析液流入口から透析液流出口に通じる部分を透析液側と呼称する。
【0049】
本発明において、中空糸型血液浄化膜は、血液あるいは血液成分と接触するものであれば特に制限されないが、具体的には、血液透析膜または血液濾過膜または血液透析濾過膜または血漿分離膜である。これ以外の用途に使用される膜であっても、必要に応じて本法を適用することができる。
【0050】
上記のコーティング方法によって、表面改質剤のコートされた中空糸型血液浄化膜、および/または表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜が充填されてなる表面改質剤コート中空糸型血液浄化器を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0052】
1.透水率の測定(UFRと略記する)
モジュールの血液流出口に接続した回路(圧力測定点よりも出口側)を鉗子で封じて流れを止め、モジュールの血液流入口から入った純水を全濾過するようにした。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃恒温槽で保温したモジュールへ純水を送り、透析液流出口から流出した濾液量をメスシリンダーで測定した。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とした。ここで、Piはモジュールの血液流入口側圧力、Poはモジュールの血液流出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水率(mL/h/mmHg)を算出した。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならないとした。また回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定した。中空糸膜の透水率は膜面積と透析器の透水率から算出した。
UFR=UFR(D)/A
ここでUFRは中空糸膜の透水率(mL/m2/h/mmHg)、UFR(D)はモジュールの透水率(mL/h/mmHg)、Aはモジュールの膜面積(m2)である。
【0053】
2.膜面積の計算
モジュールの膜面積は中空糸膜の血液接触側の径を基準として求めた。血液透析膜の場合中空糸の内側が血液接触面となるので、以下の式によってモジュールの膜面積が計算できる。
A=n×π×d×L
ここで、nはモジュール内の中空糸膜の本数、πは円周率、dは中空糸膜の内径(m)、Lはモジュール内の中空糸膜の有効長(m)である。
【0054】
3.マイクロモジュールの作製
約12cmに切りそろえた中空糸型血液浄化膜を10本束ね、中空糸型血液浄化膜の露出部分が10cmになるよう両末端をシリコーンチューブに差しこみ、両末端が開口した状態でシリコーン接着剤で固定し、マイクロモジュールを作製した。
【0055】
4.中空糸型血液浄化膜内面の抗凝血性(AC試験と略記する)
マイクロモジュールの中空糸型血液浄化膜露出部分をポリウレタン樹脂のポッティング材で包埋し、膜壁からの物質の出入りを遮断した。ヒト新鮮血を注射器を用いマイクロモジュール内腔に充填し両端を鉗子で封じた。20min経過後、鉗子をはずし、マイクロモジュール片端から注射器により生理食塩水を送入して封入血液を生理食塩水を満たしたシャーレ内に押し出した。封入血の状態を下記のようにランク付けした。
ランク1:血栓がまったく見られない
ランク2:微小な血栓が数個見られる
ランク3:10個未満の血栓が見られる
ランク4:10個以上の血栓が見られる
ランク5:多量の血栓が見られる または 封入血が凝固している
【0056】
5.持続血液濾過模擬試験(CHF試験と略記する)
測定は膜面積1.5m2のモジュールを使用して行った。クエン酸加牛血(ACD牛血)に牛血漿を加えて希釈し、ヘマトクリットを30%に調整した。このACD牛血1Lをプールし、モジュールの血液側に100mL/minの流量で灌流しながら、透析液側から10mL/minで濾過を行った。このとき、濾液は廃棄し、同流量で補液として扶桑薬品工業社製キンダリー液2号を純水で35倍希釈して得た人工腎臓用透析液(以下単に透析液と呼称する)をプール血に添加した。溶血を防止する目的でモジュール内、血液回路内はあらかじめ生理食塩水で置換しておいた。血液の灌流・濾過・補液添加を行いながら、血液のモジュール流入側の圧力を連続して観察した。血液濾過によって血液中に添加されたクエン酸は除去され、同時に除去される凝固因子のカルシウムは透析液から補充されるので、灌流血液は凝固傾向に向かう。モジュール内で凝血が進行することによってモジュール流入側の圧力は上昇してくるので、圧力測定によってモジュール内での凝血をモニターすることができる。灌流開始からモジュール側流入圧が500mmHgを超えるまでの灌流・濾過・補液添加時間(min)で評価した。
【0057】
6.3L除水時のアルブミンリーク量(3L−Albと略記する)
測定は膜面積1.5m2のモジュールを使用して行った。ACD牛血に牛血漿を加えて希釈し、ヘマトクリットを30%に調整した。このACD牛血5Lをプールし、37℃に保温してモジュールの血液側に200mL/minの流量で灌流しながら、透析液側から15mL/minで濾過を行った。このとき、濾液はプール血に戻し循環系とした。溶血を防止する目的でモジュール内、血液回路内はあらかじめ生理食塩水で置換しておいた。灌流開始後5分後に所定の濾過流量が得られていることを確認し、灌流開始30分後から15分おきに濾液を約1mLサンプリングした。この濾液を試験液として、和光純薬工業社製A/G B−テストワコーを使用しブロムクレゾールグリーン法により、濾液中のアルブミン濃度を算出した。このアルブミン濃度を使用し、以下の方法によって3L除水時のアルブミンリーク量を算出した。灌流開始30分、45分、60分、75分、90分、105分、120分のアルブミン濃度 (mg/dl)(TALと略記する)を縦軸に、ln(灌流時間(min))(lnTと略記する)を横軸にとり、表計算ソフトで一次近似によりフィッティングカーブを描き、その関係式TAL=a×lnT+bにおける定数aおよびbを求めた。この式TAL=a×lnT+bについてT=0からT=240で積分し、これを240(min)で除することにより平均のアルブミンリーク濃度(mg/dL)を算出した。この平均アルブミンリーク濃度に30(dL)を乗じて、3L除水時のアルブミンリーク量(3L−Alb)を得た。
【0058】
7.アルブミンの篩係数(SCalbと略記する)
測定は膜面積1.5m2のモジュールを使用して行った。牛血清アルブミンをPBSに10g/Lの濃度となるよう溶解してアルブミン溶液を調製した。このアルブミン溶液3Lをプールし、37℃に保温してモジュールの血液側に200mL/minの流量で灌流しながら、透析液側から15mL/minで濾過を行った。このとき、濾液はプールアルブミン溶液に戻し循環系とした。灌流開始後5分後に所定の濾過流量が得られていることを確認し、灌流開始15分後に濾液、モジュールの血液側流入液、モジュール血液側流出液からそれぞれ約1mLサンプリングした。これらの液を試験液として、和光純薬工業社製A/G B−テストワコーを使用しブロムクレゾールグリーン法により、それぞれの液中のアルブミン濃度を算出した。その濃度から、次式によりアルブミンの篩係数を求めた。
SCalb=2×Cfa/(Cia+Coa)
ここでCfaは濾液中のアルブミン濃度、Ciaはモジュール流入液のアルブミン濃度、Coaはモジュール流出液のアルブミン濃度をそれぞれ示す。
【0059】
8.ミオグロビンのクリアランス(CLmyoと略記する)
測定は膜面積1.5m2のモジュールを使用して行った。シグマアルドリッチ社製のミオグロビンを透析液に0.1g/Lの濃度となるよう溶解してミオグロビン溶液を調製した。このミオグロビン溶液をモジュールの血液側に流量200±1mL/minで灌流し、透析液側には透析液を500±10mL/minの流量で灌流した。灌流開始3min後に、モジュールの血液流入口側、血液流出口側からそれぞれミオグロビン溶液をサンプリングした。これらのサンプリング液の408nmにおける吸光度から流入側のミオグロビン濃度(Cim)、流出側のミオグロビン濃度(Com)を測定した。これらの値を使用し、次式からミオグロビンのクリアランス(CLmyo)を算出した。
CLmyo=200×Cim/Com
【0060】
9.IgGの透過率(PR(IgG)と略記する)
上記抗凝血性の評価に使用したマイクロモジュールを用いて評価を行った。シグマアルドリッチ社製のIgGをPBSで1000ppmの濃度になるよう溶解してIgG溶液を調製した。マイクロモジュールの一方の端部を鉗子で封じ、もう一方の端部からIgG溶液5mLを注射器を用いマイクロモジュール内腔に導入し、全濾過を行った。得られた濾液をサンプル液とし、マクロモジュールに導入したIgG溶液のIgG濃度をC1、濾液のIgG濃度をC2とし、次式からIgGの透過率(PR(IgG))を算出した。なお、IgGの濃度は和光純薬工業社製マイクロTP−テストワコーを使用しピロガロールレッド・モリブデン錯体発色法により測定した。
PR(IgG)=100×C2/C1
【0061】
10.プライミング性評価(P評価と略記する)
評価は膜面積1.5m2のモジュールを使用して行った。ドライな状態のモジュールの血液側に水を200mL/minで2分間通液し、さらにその後、血液側から流出する水を透析液側に導いて200mL/minで血液側、透析液側に通液した。この状態でモジュールを直立させて、血液流出口側から出てくる気泡、および透析液側から観察した中空糸膜上の気泡の状態を観察して、下記のようにランク付けした。気泡が多く見られるということは水と中空糸膜のなじみが悪く、プライミング性が悪いことを意味する。
ランク1:気泡がまったく見られない
ランク2:微小な気泡が数個見られる
ランク3:中程度の量の気泡が見られる
ランク4:多量の気泡が見られる
ランク5:非常に多量の気泡が見られる
【0062】
(製造例1)
ジメチルジドデシルアンモニウムクロリド6gおよびジメチルジテトラデシルアンモニウムクロリド19gをMeOH30g中に攪拌しながら添加して溶解した。完全に溶解したことを確認した後、水70gを加えた。次にヘパリンナトリウム塩10gを水35gに溶解し、続いてMeOH15gを加えた。これら溶液を調製する際に溶質が一部析出する場合には、適宜加温することで均一の溶液を得ることができる。ヘパリンナトリウム塩溶液を攪拌しながら、アンモニウム塩溶液を滴下した。両者混合後、沈殿として析出した生成物を回収し、洗浄を十分に行って未反応のヘパリンおよびアンモニウム塩を除去した。さらに生成物を遠心分離して水分を除き、最後に凍結乾燥して白色のヘパリン−アンモニウム複合体(有機溶媒可溶化ムコ多糖A)を得た。
【0063】
(製造例2)
ジメチルジヘキサデシルアンモニウムクロリド29gをMeOH36g中に攪拌しながら添加して溶解した。完全に溶解したことを確認した後、水64gを加えた。次にヘパリンナトリウム塩10gを水32gに溶解し、続いてMeOH18gを加えた。これら溶液を調製する際に溶質が一部析出する場合には、適宜加温することで均一の溶液を得ることができる。ヘパリンナトリウム塩溶液を攪拌しながら、アンモニウム塩溶液を滴下した。両者混合後、沈殿として析出した生成物を回収し、洗浄を十分に行って未反応のヘパリンおよびアンモニウム塩を除去した。さらに生成物を遠心分離して水分を除き、最後に凍結乾燥して白色のヘパリン−アンモニウム複合体(有機溶媒可溶化ムコ多糖B)を得た。
【0064】
(製造例3)
ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド32gをMeOH38g中に攪拌しながら添加して溶解した。完全に溶解したことを確認した後、水62gを加えた。次にヘパリンナトリウム塩10gを水31gに溶解し、続いてMeOH19gを加えた。これら溶液を調製する際に溶質が一部析出する場合には、適宜加温することで均一の溶液を得ることができる。ヘパリンナトリウム塩溶液を攪拌しながら、アンモニウム塩溶液を滴下した。両者混合後、沈殿として析出した生成物を回収し、洗浄を十分に行って未反応のヘパリンおよびアンモニウム塩を除去した。さらに生成物を遠心分離して水分を除き、最後に凍結乾燥して白色のヘパリン−アンモニウム複合体(有機溶媒可溶化ムコ多糖C)を得た。
【0065】
(製造例4)
トリ−n−ブチルヘキサデシルホスホニウムクロリド25gをMeOH36g中に攪拌しながら添加して溶解した。完全に溶解したことを確認した後、水64gを加えた。次にヘパリンナトリウム塩10gを水32gに溶解し、続いてMeOH18gを加えた。これら溶液を調製する際に溶質が一部析出する場合には、適宜加温することで均一の溶液を得ることができる。ヘパリンナトリウム塩溶液を攪拌しながら、ホスホニウム塩溶液を滴下した。両者混合後、沈殿として析出した生成物を回収し、洗浄を十分に行って未反応のヘパリンおよびホスホニウム塩を除去した。さらに生成物を遠心分離して水分を除き、最後に凍結乾燥して白色のヘパリン−ホスホニウム複合体(有機溶媒可溶化ムコ多糖D)を得た。
【0066】
(製造例5)
ジメチルジヘキサデシルアンモニウムクロリド29gをMeOH36g中に攪拌しながら添加して溶解した。完全に溶解したことを確認した後、水64gを加えた。次にデキストラン硫酸ナトリウム塩10gを水32gに溶解し、続いてMeOH18gを加えた。これら溶液を調製する際に溶質が一部析出する場合には、適宜加温することで均一の溶液を得ることができる。デキストラン硫酸ナトリウム塩溶液を攪拌しながら、アンモニウム塩溶液を滴下した。両者混合後、沈殿として析出した生成物を回収し、洗浄を十分に行って未反応のデキストラン硫酸およびアンモニウム塩を除去した。さらに生成物を遠心分離して水分を除き、最後に凍結乾燥して白色のデキストラン硫酸−アンモニウム複合体(有機溶媒可溶化ムコ多糖E)を得た。
【0067】
(製膜例1)
ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(登録商標)4800P)3.76kg、PVP(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)1.04kg、DMAc14.20kg、水1.00kgを50℃で均一に溶解し、ついで製膜溶液の脱泡を行った。製膜溶液を15μm、15μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、70℃に加温したチューブインオリフィスノズルから、中空形成剤として予め脱気処理した55重量%DMAc水溶液とともに同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された330mmの乾式部を通過後、60℃の水中で凝固させた。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は85℃の水洗槽を45秒間通過させた後巻き上げた。該中空糸膜約11000本の束の周りにポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、長さ27cmに切断し(以下バンドルと呼称する)、80℃の水中で30分間×4回洗浄した。これを長手方向に流路のとられた通風乾燥機にて60℃で3時間加温したのち、30℃で20時間乾燥させた。これにより乾燥した中空糸型血液浄化膜Aのバンドルを得た。得られた中空糸型血液浄化膜Aの内径は198.5μm、膜厚は29.0μmであった。得られた中空糸型血液浄化膜A11000本のバンドルをモジュールケースに装填し、端部をウレタン樹脂で接着し、樹脂を切り出して中空糸膜端部を開口させてモジュールA(以下MOD−Aと略記する)を組み立てた。MOD−Aの有効長は22cm、有効膜面積は1.5m2であった。中空糸型血液浄化膜Aの膜特性は表1に示した。また、MOD−AでCHF試験を実施した。さらに、中空糸型血液浄化膜Aでマイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
(製膜例2)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)4.00kg、N−メチル−2−ピロリドン(三菱化学社製)11.20kg、トリエチレングリコール(三井化学社製)4.80kgを150℃で均一に溶解し、ついで製膜溶液の脱泡を行った。製膜溶液を15μm、15μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、チューブインオリフィスノズルから、中空形成剤として紡糸原液に対し非凝固性の流動パラフィン(松本油脂製薬社製)とともに同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された50mmの乾式部を通過後、30℃の水中で凝固させた。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は水洗後、78℃、65重量%のグリセリン水溶液中を通過させ、ドライヤーで乾燥しボビンに巻き上げて中空糸型血液浄化膜Bを得た。得られた中空糸型血液浄化膜Bの内径は199.0μm、膜厚は15.1μmであった。得られた中空糸型血液浄化膜Bを巻き返して中空糸11000本のバンドルにし、モジュールケースに装填後端部をウレタン樹脂で接着、樹脂を切り出して中空糸膜端部を開口させモジュールB(以下MOD−Bと略記する)を組み立てた。MOD−Bの有効長は22cm、有効膜面積は1.5m2であった。中空糸型血液浄化膜Bの膜特性は表1に示した。また、MOD−BでCHF試験を実施した。さらに、中空糸型血液浄化膜Bでマイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0072】
(製膜例3)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)5.00kg、N−メチル−2−ピロリドン(三菱化学社製)10.50kg、ポリエチレングリコール400(第一工業製薬社製)4.50kgを120℃で均一に溶解し、ついで製膜溶液の脱泡を行った。製膜溶液を15μm、15μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、チューブインオリフィスノズルから、中空形成剤とともに同時に吐出し、乾式部を通過させて75℃の凝固浴に導いた。中空形成剤には、4.90kgのN−メチル−2−ピロリドン、2.10kgのポリエチレングリコール400、3.00kgの水を混合した溶液を使用した。また、凝固液には、4.50kgのN−メチル−2−ピロリドン、2.00kgのポリエチレングリコール400、3.50kgの水を混合した溶液を使用した。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は水洗後巻き上げ、ポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後切断しバンドルとした。このバンドルを50℃の90重量%のグリセリン水溶液に浸漬して処理した後、引き上げて遠心分離で過剰なグリセリン水溶液を除去し、乾燥して中空糸型血液浄化膜Cのバンドルを得た。得られた中空糸型血液浄化膜Cの内径は287.2μm、膜厚は50.8μmであった。得られた中空糸型血液浄化膜C1700本のバンドルをモジュールケースに装填し、端部をウレタン樹脂で接着し、樹脂を切り出して中空糸膜端部を開口させてモジュールC(以下MOD−Cと略記する)を組み立てた。MOD−Cの有効長は16cm、有効膜面積は0.25m2であった。中空糸型血液浄化膜Cの膜特性は表1に示した。また、中空糸型血液浄化膜Cでマイクロモジュールを作製してPR(IgG)を評価した。結果は表1に示した。さらに、このマイクロモジュールを使用してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0073】
(製膜例4)
ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(登録商標)4800P)4.50kg、トリエチレングリコール(三井化学社製)8.00kg、及びN−メチル−2−ピロリドン(三菱化学社製)8.00kgを均一に溶解し、ついで製膜溶液の脱泡を行った。製膜溶液を15μm、15μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、70℃に加温したチューブインオリフィスノズルから、中空形成剤として予め脱気処理した芯液(水9.00kg、トリエチレングリコール0.50kg、N−メチル−2−ピロリドン0.50kgの混合液)とともに同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された300mmの乾式部を通過後、75℃の水中で凝固させた。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は85℃の水洗槽を45秒間通過させた後巻き上げた。該中空糸膜約11000本の束の周りにポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、長さ27cmに切断してバンドルとした。その後、80℃の水中で30分間×4回洗浄を行った。これを長手方向に流路のとられた通風乾燥機にて60℃で3時間加温したのち、30℃で20時間乾燥させた。これにより乾燥した中空糸型血液浄化膜Dのバンドルを得た。得られた中空糸型血液浄化膜Dの内径は197.8μm、膜厚は48.8μmであった。得られた中空糸型血液浄化膜D11000本のバンドルをモジュールケースに装填し、端部をウレタン樹脂で接着し、樹脂を切り出して中空糸膜端部を開口させてモジュールD(以下MOD−Dと略記する)を組み立てた。MOD−Dの有効長は22cm、有効膜面積は1.5m2であった。中空糸型血液浄化膜Dの膜特性は表1に示した。なお、中空糸型血液浄化膜Dは疎水性膜であるため水とのなじみが悪かったので、MOD−Dを使用した膜性能の測定に先立って、EtOH処理を実施した。すなわち、MOD−Dの血液側、透析液側にEtOHを充填し、その後十分量の水でこのEtOHを除去、置換し、ウェット状態にして測定を行った。
【0074】
(実施例1)
製造例1で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Aを0.1重量/容量%となるようEtOHとHexの混合溶媒(EtOH/Hex=2/8(容量比))に溶解し、コート液Aを得た。製膜例1で得たMOD−Aを、血液流入口を下方、透析液流入口を上方として直立させて固定、透析液流入口をシリコーンキャップで封止し、透析液流出口に窒素を導いて、0.20気圧の圧力で加圧した。この状態でモジュールの血液流入側にコート液Aを150mL/minの流量(流速として約44cm/min)で導入した。コート液導入開始から約2〜3min送液を継続してモジュールの血液側にコート液を満たした後、モジュールの血液流入口と血液流出口を封じて2minの間コート液を被コート面に継続して接触させた。続いて、血液流入口と血液流出口の封止を解除し、モジュールの血液流出口から0.15気圧の加圧窒素を送り込んでモジュールの血液側に導入されたコート液を廃液した。ここまでの操作中、透析液側の窒素による加圧は継続して実施した。コート液の排除後、モジュールの透析液流入口に装着したシリコーンキャップを外し、モジュールの血液側、透析液側双方に0.15気圧の加圧窒素を5minにわたって送り込み、被コート層の乾燥を行った。以上の操作によってコートモジュールAA(以下CMOD−AAと略記する)を得た。CMOD−AAのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoを測定し、未コートのMOD−Aに対するそれぞれの値についての膜性能保持率を次式により算出した。結果は表2に示した。
(膜性能保持率)
=100×(未コートモジュール測定値)/(コートモジュール測定値)(%)
【0075】
また、上記の操作で得たCMOD−AAを使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−AAを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0076】
(実施例2)
製造例2で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Bを使用した以外は実施例1と同様にMOD−Aへのコーティングを行い、コートモジュールAB(以下CMOD−ABと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−ABのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−ABを使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−ABを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0077】
(実施例3)
製造例3で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Cを使用した以外は実施例1と同様にMOD−Aへのコーティングを行い、コートモジュールAC(以下CMOD−ACと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−ACのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−ACを使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−ACを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0078】
(実施例4)
製造例4で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Dを使用した以外は実施例1と同様にMOD−Aへのコーティングを行い、コートモジュールAD(以下CMOD−ADと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−ADのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−ADを使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−ADを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0079】
(実施例5)
製造例5で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Eを使用した以外は実施例1と同様にMOD−Aへのコーティングを行い、コートモジュールAE(以下CMOD−AEと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−AEのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−AEを使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−AEを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0080】
(実施例6)
製膜例2で得たMOD−Bを使用した以外は実施例1と同様にMOD−Bへのコーティングを行い、コートモジュールBA(以下CMOD−BAと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−BAのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−BAを使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−BAを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0081】
(実施例7)
製造例2で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Bを使用した以外は実施例6と同様にMOD−Bへのコーティングを行い、コートモジュールBB(以下CMOD−BBと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−BBのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−BBを使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−BBを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0082】
(実施例8)
製造例5で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Eを使用した以外は実施例6と同様にMOD−Bへのコーティングを行い、コートモジュールBE(以下CMOD−BEと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−BEのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−BEを使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−BEを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示したz施した。さらに、CMOD−BA'を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0083】
(実施例9)
製膜例3で得たMOD−Cを使用し、コート液の流量を50mL/min(流速として約45cm/min)とした以外は実施例1と同様にMOD−Cへのコーティングを行い、コートモジュールCA(以下CMOD−CAと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−CAのUFRの保持率を求めた。また、CMOD−CAを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してPR(IgG)についての膜性能保持率を求めた。さらに、このマイクロモジュールを使用してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0084】
(実施例10)
製造例2で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Bを使用した以外は実施例9と同様にMOD−Cへのコーティングを行い、コートモジュールCB(以下CMOD−CBと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−CBのUFRの保持率を求めた。また、CMOD−CBを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してPR(IgG)についての膜性能保持率を求めた。さらに、このマイクロモジュールを使用してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0085】
(実施例11)
製造例5で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Eを使用した以外は実施例9と同様にMOD−Cへのコーティングを行い、コートモジュールCE(以下CMOD−CEと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−CEのUFRの保持率を求めた。また、CMOD−CEを解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してPR(IgG)についての膜性能保持率を求めた。さらに、このマイクロモジュールを使用してAC試験を実施した。結果は表2に示した。
【0086】
(実施例12)
PVP(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)をEtOHに1g/Lの濃度となるよう溶解してコート液Fを調製した。製膜例4で得たMOD−Dを使用し、コート液Fを用いて、実施例1と同様の手法でコーティングを行いった。さらに、モジュールの透析液側についてもコート液Fでコーティングを行った。この操作は、次のように行った。すなわち、MOD−Dを、血液流入口を上方、透析液流入口を下方として直立させて固定、血液流入口をシリコーンキャップで封止し、血液流出口に窒素を導いて、0.20気圧で加圧した。この状態でモジュールの透析液流入口にコート液Fを150mL/minの流量で導入した。モジュールの透析液側にコート液を満たした後、モジュールの透析液流入口と透析液流出口を封じて2minの間コート液を封入した。続いて、透析液流入口と透析液流出口の封止を解除し、モジュールの透析液流出口から0.15気圧の加圧窒素を送り込んでモジュールの透析液側に導入されたコート液を廃液した。ここまでの操作中、血液側の窒素による加圧は継続して実施した。コート液の排除後、モジュールの血液流入口に装着したシリコーンキャップを外し、モジュールの透析液側、血液側双方に0.15気圧の加圧窒素を5minにわたって送り込み、被コート層の乾燥を行った。以上、血液側、透析液側双方のコーティングを行って、コートモジュールDF(以下CMOD−DFと略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−DFのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−DFと、製膜例4で得たMOD−D(EtOH処理を行っていないモジュール)について、P評価を行った。結果は表4に示した。
【0087】
【表4】

【0088】
(比較例1)
製造例1で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Aを0.1重量/容量%となるようEtOHとHexの混合溶媒(EtOH/Hex=2/8(容量比))に溶解し、コート液Aを得た。製膜例1で得たMOD−Aを、血液流入口を下方、透析液流入口を上方として直立させて固定、透析液流入口、透析液流出口の双方をシリコーンキャップで封止した。この状態でモジュールの血液流入側にコート液Aを150mL/min(流速として約44cm/min)の流量で導入した。コート液導入開始から約2〜3min送液を継続してモジュールの血液側にコート液を満たした後、モジュールの血液流入口と血液流出口を封じて2minの間コート液を被コート面に継続して接触させた。続いて、血液流入口と血液流出口の封止を解除し、モジュールの血液流出口から0.15気圧の加圧窒素を送り込んでモジュールの血液側に導入されたコート液を廃液した。ここまでの操作中、透析液流入口、透析液流出口のシリコーンキャップは継続して装着しておいた。コート液の排除後、モジュールの透析液流出入口に装着したシリコーンキャップを外し、モジュールの血液側、透析液側双方に0.15気圧の加圧窒素を5minにわたって送り込み、被コート層の乾燥を行った。以上の操作によってコートモジュールAA'(以下CMOD−AA'と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−AA'のUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−AA'を使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−AA'を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0089】
(比較例2)
製造例2で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Bを使用した以外は比較例1と同様にMOD−Aへのコーティングを行い、コートモジュールAB'(以下CMOD−AB'と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−AB'のUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−AB'を使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−AB'を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0090】
(比較例3)
製造例5で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Eを使用した以外は比較例1と同様にMOD−Aへのコーティングを行い、コートモジュールAE'(以下CMOD−AE'と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−AE'のUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−AE'を使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−AE'を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0091】
比較例2、比較例3をそれぞれ対応する実施例1、実施例2、実施例5と比べると、AC試験の結果、CHF試験の結果はほぼ同等であったが、図1に示した通り、比較例1、膜性能保持率が100%を超えて大きな数値となっている。これは、コーティング操作によって膜構造が破壊されて、透過しやすい状態となってしまっているものと考えられる。
【0092】
(比較例4)
製膜例2で得たMOD−Bを使用した以外は比較例1と同様にMOD−Bへのコーティングを行い、コートモジュールBA'(以下CMOD−BA'と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−BA'のUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−BA'を使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−BA'を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0093】
(比較例5)
製造例5で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Eを使用した以外は比較例4と同様にMOD−Bへのコーティングを行い、コートモジュールBE'(以下CMOD−BE'と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−BE'のUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−BE'を使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−BE'を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0094】
比較例4、比較例5をそれぞれ対応する実施例6、実施例8と比べると、AC試験の結果、CHF試験の結果はほぼ同等であったが、膜性能保持率が低下している。これは、コーティング操作によって膜構造が破壊されて、細孔が閉塞気味の状態となってしまっているものと考えられる。
【0095】
(比較例6)
製膜例3で得たMOD−Cを使用し、コート液の流量を50mL/min(流速として約45cm/min)とした以外は比較例1と同様にMOD−Cへのコーティングを行い、コートモジュールCA'(以下CMOD−CA'と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−CA'のUFRの保持率を求めた。また、CMOD−CA'を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してPR(IgG)についての膜性能保持率を求めた。さらに、このマイクロモジュールを使用してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0096】
(比較例7)
製造例5で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Eを使用した以外は比較例6と同様にMOD−Cへのコーティングを行い、コートモジュールCE'(以下CMOD−CE'と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−CE'のUFRの保持率を求めた。また、CMOD−CE'を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してPR(IgG)についての膜性能保持率を求めた。さらに、このマイクロモジュールを使用してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0097】
比較例6、比較例7をそれぞれ対応する実施例9、実施例11と比べると、AC試験の結果はほぼ同等であったが、図2に示した通り、膜性能保持率が低下している。これは、コーティング操作によって膜構造が破壊されて、細孔が閉塞気味の状態となってしまっているものと考えられる。
【0098】
(比較例8)
PVP(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)をEtOHに1g/Lの濃度となるよう溶解してコート液Fを調製した。製膜例4で得たMOD−Dを使用し、コート液Fを用いて、比較例1と同様の手法でコーティングを行った。さらに、モジュールの透析液側についてもコート液Fでコーティングを行った。この操作は、次のように行った。すなわち、MOD−Dを、血液流入口を上方、透析液流入口を下方として直立させて固定、血液流入口、血液流出口の双方をシリコーンキャップで封止した。この状態でモジュールの透析液流入口にコート液Fを150mL/minの流量で導入した。モジュールの透析液側にコート液を満たした後、モジュールの透析液流入口と透析液流出口を封じて2minの間コート液を封入した。続いて、透析液流入口と透析液流出口の封止を解除し、モジュールの透析液流出口から0.15気圧の加圧窒素を送り込んでモジュールの透析液側に導入されたコート液を廃液した。ここまでの操作中、血液流入口、血液流出口のシリコーンキャップは継続して装着しておいた。コート液の排除後、モジュールの血液流出入口に装着したシリコーンキャップを外し、モジュールの透析液側、血液側双方に0.15気圧の加圧窒素を5minにわたって送り込み、被コート層の乾燥を行った。以上、血液側、透析液側双方のコーティングを行って、コートモジュールDF'(以下CMOD−DF'と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−DFのUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−DF'を使用してP評価を行った。結果は表4に示した。
【0099】
比較例8を対応する実施例12と比べると、P評価の結果はほぼ同等であったが、膜性能保持率が100%を超えて大きな数値となっている。これは、コーティング操作によって膜構造が破壊されて、透過しやすい状態となってしまっているものと考えられる。
【0100】
(比較例9)
製造例1で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Aを0.1重量/容量%となるようEtOHとHexの混合溶媒(EtOH/Hex=2/8(容量比))に溶解し、コート液Aを得た。製膜例1で得たMOD−Aを、血液流入口を下方、透析液流入口を上方として直立させて固定、透析液流入口、透析液流出口の双方をシリコーンキャップで封止した。この状態でモジュールの血液流出口に三方コックを介して減圧ポンプを接続し、血液流入側からコート液Aを穏やかに吸い上げて導入した。モジュールの血液側にコート液を満たした後、モジュールの血液流入口と血液流出口を封じて2minの間コート液を被コート面に継続して接触させた。続いて、血液流入口と血液流出口の封止を解除し、モジュールの血液流出口から0.15気圧の加圧窒素を送り込んでモジュールの血液側に導入されたコート液を廃液した。ここまでの操作中、透析液流入口、透析液流出口のシリコーンキャップは継続して装着しておいた。コート液の排除後、モジュールの透析液流出入口に装着したシリコーンキャップを外し、モジュールの血液側、透析液側双方に0.15気圧の加圧窒素を5minにわたって送り込み、被コート層の乾燥を行った。以上の操作によってコートモジュールAA"(以下CMOD−AA"と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−AA"のUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−AA"を使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−AA"を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0101】
(比較例10)
製造例2で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Bを使用した以外は比較例9と同様にMOD−Aへのコーティングを行い、コートモジュールAB"(以下CMOD−AB"と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−AB"のUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−AB"を使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−AB"を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0102】
(比較例11)
製造例5で得た有機溶媒可溶化ムコ多糖Eを使用した以外は比較例9と同様にMOD−Aへのコーティングを行い、コートモジュールAE"(以下CMOD−AE"と略記する)を得た。実施例1と同様に、CMOD−AE"のUFR、3L−Alb、SCalb、CLmyoについての膜性能保持率を求めた。また、CMOD−AE"を使用してCHF試験を実施した。さらに、CMOD−AE"を解体して充填された中空糸型血液浄化膜を取り出し、マイクロモジュールを作製してAC試験を実施した。結果は表3に示した。
【0103】
図1に示した通り、比較例9、比較例10、比較例11をそれぞれ対応する実施例1、実施例2、実施例5と比べると、比較例1、比較例2、比較例3の場合と同様、AC試験の結果、CHF試験の結果はほぼ同等であったが、膜性能保持率が100%を超えて大きな数値となっている。これは、コーティング操作によって膜構造が破壊されて、透過しやすい状態となってしまっているものと考えられる。
【0104】
(ヘパリン活性測定実験例)
ヘパリン活性の測定は、第一化学薬品社製テストチームヘパリンS(以下測定キットと略記する)を使用し、下記に示す手法で行った。操作はすべて37℃に温度調節されたブース内で行い、各試薬類の温度も37℃に調整した。
【0105】
(1)ヘパリン標準液の調製
ヘパリンナトリウム注射液(10000U/10mL)を注射用生理食塩液で100倍に希釈し、濃度10U/mLのヘパリン一次希釈液を得た。このヘパリン一次希釈液を測定キットに添付の緩衝液で希釈し、80、60、40、20mU/mLのヘパリン溶液を得た。また、緩衝液をそのまま使用し、0mU/mL溶液とした。
【0106】
(2)基質液の調製
測定キットに添付の基質剤1バイアルに注射用蒸留水20mLを加えて溶解し、基質液を得た。
【0107】
(3)アンチトロンビンIII−血漿混合液の調製
測定キットに添付のアンチトロンビンIII剤1バイアルに注射用蒸留水10mLを加えて溶解した。また、測定キットに添付の正常血漿剤1バイアルに注射用蒸留水1.0mLを加えて溶解した。上記アンチトロンビンIII溶液1.0mLと正常血漿液1.0mLを混合し、アンチトロンビンIII−血漿混合液(以下ATIII―血漿液と略記する)を得た。
【0108】
(4)ファクターXa液の調製
測定キットに添付のファクターXa剤1バイアルに注射用蒸留水10mLを加えて溶解し、ファクターXa液(以下FXa液と略記する)を得た。
【0109】
(5)反応停止液の調製
氷酢酸20mLに注射用蒸留水を加え、全量で40mLとし、反応停止液を得た。
【0110】
(6)検量線の作成
長さ45cm、内径3mm、外径5mmのシリコーンチューブをペリスタポンプにつなぎ、シリコーンチューブの末端は試験管に挿入した(以下この端部を入端と略記する)。シリコーンチューブのもう一方の端部(以下この端部を出端と略記する)は試験管にセットし、試験管内の液体がペリスタポンプによってシリコーンチューブに導かれ、試験管に戻るような回路を組んだ。上記(1)で得たヘパリン標準液を4.0mL分取し、37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後4分50秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。続いて、試験管内にATIII−血漿液1.0mLを加え、速やかに攪拌後、入端を液に浸けて37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後2分50秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。続いて、試験管内にFXa液1.2mLを加え、速やかに攪拌後、入端を液に浸けて37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後20秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。続いて、試験管内に基質液2.5mLを加え、速やかに攪拌後、入端を液に浸けて37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後2分50秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。続いて、試験管内に反応停止液3.8mLを加え、速やかに攪拌後、入端を液に浸けて37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後50秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。溶液は室温で保管した。この操作を80、60、40、20、0mU/mLの各ヘパリン標準液について行い、405nmの吸光度を測定し、吸光度を横軸に、ヘパリン濃度を縦軸にとり、表計算ソフトで一時近似によるフィッティングカーブを描いて検量線を得た。
【0111】
(7)コート中空糸膜のヘパリン活性測定
実施例1でAC試験用に作製したのと同様のマイクロモジュールを使用して、リン酸緩衝液溶出後のヘパリン活性を測定した。この実験において使用したマイクロモジュールは、内面にコーティングの施された中空糸型血液浄化膜から構成されているが、被コート表面積(内腔部分の表面積)がヘパリン活性の値に影響してくるので、長さを正確に12cmにあわせて作製した。
【0112】
ウレタン樹脂ポッティング材で包埋し、膜壁からの物質の出入りを遮断したマイクロモジュールに内径3mm、外径5mmのシリコーンチューブを接続した。このシリコーンチューブをペリスタポンプにつなぎ、塩化ナトリウム8.00g、塩化カリウム0.20g、リン酸一水素ナトリウム無水物1.15g、リン酸二水素カリウム無水物0.20gを蒸留水に溶解して全量で1000mLとしたリン酸緩衝液(以下PBSと略記する)を10mL/minの流量で導入して8時間にわたり溶出を行った。この際、操作はすべて37℃に温度調節されたブース内で行い、マイクロモジュールから出てきたPBSはそのまま廃棄した。PBS溶出操作の完了したマイクロモジュールは、内部に窒素を送り込んでPBSを除去した。
【0113】
PBS溶出の完了したマイクロモジュールの一方の端部を長さ45cm、内径3mm、外径5mmのシリコーンチューブに接続した。このシリコーンチューブをペリスタポンプにつなぎ、シリコーンチューブの末端は試験管に挿入した(以下この端部を入端と略記する)。マイクロモジュールのもう一方の端部(以下この端部を出端と略記する)は試験管にセットし、試験管内の液体がペリスタポンプによってシリコーンチューブ、マイクロモジュールに導かれ、試験管に戻るような回路を組んだ。
【0114】
試験管に測定キット添付の緩衝液4.0mLを分取し、37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後4分50秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。続いて、試験管内にATIII−血漿液1.0mLを加え、速やかに攪拌後、入端を液に浸けて37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後2分50秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。続いて、試験管内にFXa液1.2mLを加え、速やかに攪拌後、入端を液に浸けて37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後20秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。続いて、試験管内に基質液2.5mLを加え、速やかに攪拌後、入端を液に浸けて37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後2分50秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。続いて、試験管内に反応停止液3.8mLを加え、速やかに攪拌後、入端を液に浸けて37℃の条件下、ペリスタポンプによって20mL/minの流量で液の還流を開始した。還流開始後50秒の時点で入端を試験管内の溶液から引き抜き、回路内の液を試験管内に貯留した。溶液は室温で保管した。
【0115】
同様の操作を、実施例6で得たコート中空糸膜、比較例1で得たコート中空糸膜、比較例4で得たコート中空糸膜、比較例9で得たコート中空糸膜のそれぞれから作製したマイクロモジュールについて実施して、それぞれで得られた溶液の405nmの吸光度を測定し、上記(6)で得た検量線から溶液中のヘパリン活性(SHA)を算出した。また、コート中空糸膜のヘパリン活性(HFHA)を次式により算出した。結果は図3に示した。
HFHA=SHA×V÷(n×π×d×L)
ここで、HFHAはコート中空糸膜のヘパリン活性(mU/cm2)、SHAは溶液のヘパリン活性(mU/mL)、Vは緩衝液の量(4mL)、nはマイクロモジュール内の中空糸膜の本数(10)、πは円周率、dは中空糸膜の内径(cm)、Lはマイクロモジュール内の中空糸膜の長さ(12cm)である。
【0116】
比較例と実施例と比べると、AC試験の結果はほぼ同等であったが、図3に示した通り、PBS溶出後のヘパリン活性は大きく劣っている。本発明の特徴である、中空糸膜の被コート面の反対面から加圧しながら、該中空糸膜の被コート面側にコート液を導入してコーティングを行うという手法が、優れた抗血栓性の実現にも寄与することが示唆される。詳細な機構は不明であるが、本発明の手法により、コート液との接触時における被コート面の微細構造が最適化され、透過性能の保持性が良好になると同時に、コート液に含まれる表面改質剤の導入状態が、活性発揮、活性維持に最適化されるものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法は、血液透析膜、血液濾過膜、血液透析濾過膜、血漿分離膜など種々の中空糸型血液浄化膜に広く適用可能で、その選択透過性を保持しながら効率よく、かつ表面改質剤によって付与された特性が十分発揮できるという利点があり、また、本発明の表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜および/または表面改質剤コート中空糸型血液浄化器は、優れた選択透過性を保持し表面改質剤によって付与された特性が十分に発揮されるという利点があり、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】コーティング条件と膜性能保持率の関係を示す図である。
【図2】コーティング条件とIgG透過率保持率の関係を示す図である。
【図3】コート中空糸膜のPBS溶出後のヘパリン活性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液内部灌流型の中空糸型血液浄化膜の表面に表面改質剤をコーティングする方法であって、該中空糸型血液浄化膜の被コート面の反対面から加圧しながら、該中空糸型血液浄化膜の被コート面側に該表面改質剤の有機溶媒溶液または有機溶媒分散液または有機溶媒懸濁液を導入してコーティングを行うことを特徴とする中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法。
【請求項2】
中空糸型血液浄化膜の被コート面の反対面からの加圧を、不活性気体によって行うことを特徴とする請求項1記載の中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法。
【請求項3】
中空糸型血液浄化膜が血液透析膜または血液濾過膜または血液透析濾過膜または血漿分離膜であることを特徴とする請求項1または2記載の中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法。
【請求項4】
表面改質剤がムコ多糖と第4級オニウムのイオン性複合体を含んでなる抗血栓性組成物であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法。
【請求項5】
ムコ多糖がヘパリン類であることを特徴とする請求項4記載の中空糸型血液浄化膜への表面改質剤コーティング方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載のコーティング方法によって、表面改質剤がコーティングされたことを特徴とする中空糸型血液浄化膜。
【請求項7】
請求項6に記載の表面改質剤コート中空糸型血液浄化膜が充填されてなることを特徴とする表面改質剤コート中空糸型血液浄化器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−288866(P2006−288866A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115594(P2005−115594)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】