説明

中空糸微多孔膜及びそれを組み込んでなる膜型人工肺

【課題】 長期の連続使用に於いても充分な耐血漿リーク性と安定し優れたガス交換性能を発揮できる中空糸微多孔膜、それを組み込んだ人工肺を提供すること。
【解決手段】 酸素ガスフラックスが10×10-5〜500×10-5[cm3(STP)/cm2/sec/cmHg]であり、エタノールフラックスが2〜80[ml/min/m2]であり、平均孔半径0.008〜0.07μmの連通孔を有する疎水性の素材からなる中空糸微多孔膜及びそれを組み込んだ膜型人工肺は従来の微多孔膜及びそれを組み込んだ膜型人工肺に比べて、優れた酸素及び炭酸ガス交換性能を有し、かつ1週間以上の長期の連続使用が可能な耐血漿リーク性を備えることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液体外循環において、血液に酸素を添加し、一酸化炭素又は二酸化炭素等の炭酸ガスを除去するための膜型人工肺に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人工肺は短時間の使用となる直視下開心術等で広く使用されている。近年、術中術後の連続した心肺補助や、未熟児の呼吸補助、さらには急性心不全患者の心補助用等として長時間の連続使用が可能な人工肺の開発が切に望まれている。また、術中の患者の負荷を軽減するため、血液充填量が少なく、血液と接触する膜面積が少ないガス交換効率に優れた小型でコンパクトな人工肺の実現が求められている。しかしながら前記の先行技術はコンパクト、小型化を実現するために必要な十分なガス交換性能と血漿の漏れが無く長期に亘り使用可能ないわゆる長期耐久性の両方の要求を必ずしも満足するものはなかった。
【0003】
例えば、シリコーン膜に代表される均質膜を組み込んだ人工肺が挙げられるが、該均質膜は血漿漏出の懸念は無いもののガス交換性能に劣り、従って大きな膜面積、即ち大型の人工肺を必要とし、多量のプライミング血液が必要とされることから、生体負荷が大きく、適用範囲が限られていた。
【0004】
また、ポリプロピレン製微多孔膜を組み込んだ人工肺が開発されているが、該微多孔膜は短時間の使用に於いては優れたガス交換性能を示すものの、血液灌流時間経過とともに微多孔部より血漿成分が漏れだし使用不能となる欠点を有している。
【0005】
ポリプロピレン製微多孔膜を組み込んだ人工肺としては、例えば、特公平3−21188号公報には溶融法で製造された孔径と空孔率を規定したポリプロピレン多孔性膜の人工肺への適用が開示されている。
【0006】
また、特公平4−39371号公報には温度誘発型相分離法(TIPS法)により製造されたポリオレフィンからなる中空糸膜であって、中空糸の内面側に比較的緻密な層を有し、外面側に平均粒径0.1μm〜10μmの独立粒子の集合体状層を有し、且つ膜壁を貫く微細な連通孔径を有し、膜の空孔率と酸素ガスのフラックスを特定した中空糸膜の人工肺への適用が開示されている。
【0007】
さらにまた、特開平5−64663号広報にはTIPS法により製造される多孔質ポリプロピレン中空糸膜であって、中空糸内面の開孔率を10%未満、空孔率が1〜35%、酸素ガスフラックスが10〜1000[ml/min/m2/mmHg]、透水率が0.01〜1.0[ml/min/m2/mmHg]であり、優れたガス交換性能と長期に亘り血漿が漏出せず耐久性に優れた多孔質中空糸膜が開示されている。
【0008】
しかし、これらは本発明に比べ平均孔径が大きく、短時間の使用に於いては酸素ガス交換性能では優れる点があるものの、血液灌流時間経過とともに微多孔部より血漿成分が漏れだすため長期耐久性に劣っていた。
【0009】
また、特開昭60−150757号公開広報には溶融法で製造される微多孔中空糸膜の空孔率が30〜90vol%、透水圧が4kg/cm2以上であり、バブルポイントが7kg/cm2〜15kg/cm2の範囲の短冊状に開孔した微小孔径を有するポリエチレン製中空糸膜の人工肺への適用が開示されている。しかし、短冊状に開孔しており本発明とは異なるものである。
【0010】
一方、これら問題の一部改良を目的として特許公報第2700170号には、膜壁を連通するいわゆる連通孔を実質的に有せず、従ってエタノールを液体として実質的に透過しない非多孔薄膜層を有する中空糸微多孔膜を組み込んだ人工肺が提案されている。該微多孔膜は酸素透過速度が1×10-6 [cm3(STP)/cm2/sec/cmHg]以上でありかつエタノールを実質的に不透過とする遮断層を有し、空孔率が7〜50%であるポリオレフィン系重合体からなる中空糸膜を使用した膜型人工肺が開示されているが、この人工肺は耐血漿リーク性及び血液への酸素の供給能力においては大幅な改善が認められるものの血液からの炭酸ガスの除去性能において必ずしも満足のゆくものではなかった。
【0011】
このように現行広く使用されているポリプロピレン樹脂からなる微多孔膜は短期の使用に限り優れた酸素ガス交換性能を示すものの、血漿リークの発生により長時間の連続使用は不可能であった。可使用時間の信頼限界は高々6時間程度であった。術中の血漿リークは患者に重大な結果を引き起こし、術中の人工肺の交換は多大な手間と大きな危険性を伴うものであった。
【0012】
さらには、通常の開心術への適用のみならず長時間に亘る開心術への適用、さらにはECMOやPCPS等の1週間以上の長期の連続使用が必要となる補助循環分野への適用に於いても十分な耐血漿リーク性と安定した優れたガス交換性能を発揮出来る中空糸微多孔膜、それを組み込んだ人工肺は現在までに知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
膜を介して行われる血液相と気体相間のガス移動の機構に関し、通常の開心術への適用のみならず長時間に亘る開心術への適用、さらにはECMOやPCPS等の1週間以上の長期の連続使用が必要となる補助循環分野への適用に於いても十分な耐血漿リーク性と安定した優れたガス交換性能を発揮出来る中空糸微多孔膜、それを組み込んだ人工肺を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、血液−気体間のガス交換性能に優れ、かつ長時間の使用においても血漿の漏出を完全に防止できる、微多孔膜について鋭意研究した結果、特定の特性値で特徴付けられたポリオレフィン系重合体からなる膜が従来の微多孔膜に比べて、優れた酸素及び炭酸ガス交換性能を有し、かつ1週間以上の長期の連続使用が可能な耐血漿リーク性を備えた中空糸微多孔膜を見出し、本発明を発見した。
【0015】
即ち本発明は、
【0016】
(1)疎水性の素材からなる微多孔中空糸膜の酸素ガスフラックスが10×10?5[cm3(STP)/cm2/s/cmHg]?500×10?5[cm3(STP)/cm2/s/cmHg]であって連通孔の平均孔半径が0.008μm?0.07μmであって、開孔率が0.02〜2%であって、膜のエタノールフラックスが2ml/min/m2?80ml/min/m2であることを特徴とする中空糸微多孔膜、
【0017】
(2)疎水性の素材がポリ(4−メチルペンテン−1)系ポリマーからなることを特徴とする上記(1)に記載の中空糸微多孔膜、
【0018】
(3)中空糸微多孔膜が溶融紡糸法により製造された膜であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の中空糸微多孔膜、
【0019】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の中空糸微多孔膜を組み込んだ膜型人工肺、を提供することにある。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、優れた酸素及び炭酸ガス交換性能を有し、長期の使用においても血漿成分の漏れの無い、中空糸微多孔膜、及びそれを組み込んだ人工肺を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の人工肺の構成例を示すモデル図である。
【図2】本発明の構成例を示す簾状中空糸シートの積層状態を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明をさらに詳しく説明する。
本発明に用いる膜は、膜内部に微細な細孔(空隙)を有し、かつ膜の表裏が実質上細孔によって連通している連通孔を有する微多孔膜である。
【0023】
本発明で用いられる「疎水性の素材」とは、水との接触角が90°以上の素材を意味する。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等のポリオレフィン系樹脂、4フッ化エチレン、4フッ化エチレンぺルフルオロアルコキシビニルエーテ共重合体、ポリビニリデンフロライド等のフッ素樹脂、又はポリアセタール樹脂等が挙げられる。
【0024】
膜素材の疎水性は高いほど好ましく、この点から、疎水性が高くかつ加工が容易である、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、その中でもポリ4−メチル−1−ペンテン系樹脂が特に好ましい。
【0025】
本発明の微多孔膜を人工肺に適用した場合、連通孔径が大きいほど、またその開孔率が高いほど血漿リークの発生の危険性が増す。一方、膜に充分な酸素及び一酸化炭素及び二酸化炭素(以上以下、「炭酸ガス」という)のガス交換性能を賦与するためには膜に連通孔が存在し、かつ膜が適切なガス透過性を有する必要がある。
【0026】
したがって本発明に用いる膜は、連通孔の平均孔半径が0.008〜0.07μm、好ましくは0.01〜0.045μm、更に好ましくは0.02〜0.040μmのものであり、開孔率は0.02〜2%、好ましくは0.05〜1.5%、更に好ましくは0.3〜1.2%である。
【0027】
但し、本発明で言う平均連通孔半径は、1974年、ジャーナルオブアプライドポリマーサイエンス(Journal of Applied Polymer Science VOL.18,PP.805-819)第18号805ページ記載の方法により求めることができる。本発明の平均連通孔半径は窒素ガスを使用して測定した値である。
【0028】
即ち、ガスフラックスの圧力依存性より平均連通孔径を求めた。
算出は下の式に基づいて行った。
【0029】
J=K×ΔP/L ・・・(1)
J:ガス流量、ΔP:圧力差、L:膜厚
【0030】
K=K0+(B0/η)×ΔP1・・・(2)
K0:クヌーセン透過係数、B0:幾何学的ファクター
η:ガス粘度、ΔP1:平均圧力=(P1+P2)/2
【0031】
r=(B0/K0)(3/16)(2RT/π)1/2M?1/2 ・・・(3)
r:平均連通孔径、M:ガス分子量
【0032】
圧力を変えてガスフラックスを測定し、(2)よりグラフの傾き(=B0/η)、切片(=K0)を求める。平均連通孔径rはこれらの値を(3)へ代入して求める。
【0033】
また、本発明でいう開孔率は以下の方法により求める。上記の方法で求めた平均連通孔径及びエタノールフラックスの値から算出する。
【0034】
ε=8LVη/(r2ΔP)
L:膜厚、V:エタノールフラックス、η:エタノール粘度、r:平均連通孔 径、ΔP:膜壁内外圧力差
【0035】
血漿リークは基本的に親水化された微多孔部より発生する。
また、微多孔膜の連通孔径はある程度の分布をもって存在する。
【0036】
本発明における好ましい中空糸微多孔膜は、膜の連通孔径の最大値を示す指標となるバブルポント(液体としてエタノールを使用)が10kgf/cm2以上を示す微多孔膜である。
【0037】
本発明の微多孔膜における、気体−気体系で測定した際の膜壁を透過するの酸素のガス流量、即ち、酸素フラックスは10×10-5〜500×10-5[cm3(STP)/cm2/sec/cmHg]、好ましくは10×10-5〜250×10-5[cm3(STP)/cm2/sec/cmHg]である(ASTM D1434に準ずる測定法で計算)。
【0038】
本発明の中空糸微多孔膜の酸素、窒素、炭酸ガス等の非凝集性ガスは、膜を介した気体−気体系による測定の場合、各々のガスフラックスはほぼ同じ値となるが、膜を介した血液とのガス交換性能を調べると、炭酸ガスの場合は、酸素の場合とは大きく異なることが明らかとなった。従って、上述の酸素フラックスは10×10-5[cm3(STP)/cm2/sec/cmHg]未満である場合であっても酸素の交換性能にはさほど大きな低下は認めらないが、一方、充分な炭酸ガスの除去能力を発揮するためには膜の酸素フラックスが少なくとも10×10-5[cm3(STP)/cm2/sec/cmHg]以上必要である。
【0039】
また、本発明の微多孔膜の酸素フラックスの上限は500×10-5[cm3(STP)/cm2/sec/cmHg]である。これより大きいと治療及び手術中における血液ガス濃度コントロールが困難となる。
【0040】
本発明の微多孔膜の示すエタノールフラックスは膜の酸素ガスフラックスと同様に連通孔の存在の度合を示す指標となる。本発明における膜のエタノールフラックスは膜をエタノールで十分濡らした後、中空糸内側もしくは外側より0.5kgf/cm2の差圧を負荷し膜の反対側より液体として漏れ出てきたエタノールの量を測定することにより求めることができる。本発明のエタノールフラックスは中空糸の外径を基準として、2〜80[ml/min/m2]、好ましくは7〜60[ml/min/m2]、さらに好ましくは32〜40[ml/min/m2]である。
【0041】
2[ml/min/m2]未満では膜が十分なガス交換性能、特に血液中からの炭酸ガス除去性能能力を発揮することができない。80[ml/min/m2]より大きいと、長期に亘る血液循環において血漿リークを防止しかつ安定したガス交換性能を得る事ができない。
【0042】
本発明によれば治療の種類、適用される患者の状態等により人工肺に要求される特性が異なる場合に於いても最適な特性を有する中空糸微多孔膜を選択できる。例えば新生児の呼吸不全に対する呼吸補助を目的としたECMO等長期に亘る耐血漿リーク性と安定したガス交換性能が要求される場合には連通孔半径の上限値が0.04μmで、エタノールフラックスの上限値が45ml/min/m2である本発明の中空糸微多孔膜が好適に適用できる。
【0043】
また、例えば大人の重度胸部大動脈疾患等の手術中に多量の血液灌流を要求される場合には酸素フラックスの下限値が40×10-5[cm3(STP)/cm2/sec/cmHg]で、連通孔平均半径の下限値が0.02μmであり、エタノールフラックスの下限値が15ml/min/m2の中空糸微多孔膜が好適に適用できる。
【0044】
本発明の中空糸微多孔膜は、人工肺の生体適合性の向上を目的として一般に行われている各種処理、例えばヘパリン化合物等で膜の血液接触面を抗血栓処理しても良く、また、プラズマ処理、コロナ放電処理等での膜表面の親水化も実施してもよい。本発明の中空糸微多孔膜はかかる表面処理においても優れたガス交換性能と耐血漿リーク性を何ら損なうことは無い。
【0045】
本発明の中空糸膜を人工肺モジュールに組み込む場合、中空糸をバンドル化した状態で組み込んでも良くまた必要に応じて中空糸の間隔が均一となるよう該中空糸膜をシート状に配列して使用しても良い。
【0046】
本発明の中空糸は、横断面形状が実質的に円形又は楕円形の中空糸であればよく、寸法は特に制限されないが、好ましくは外径が150μm〜400μm、内径が120μm〜360μm、膜厚が15μm〜60μmである。
【0047】
なお、本発明の中空糸を用い、内部灌流で人工肺として使用する場合には通常の中空糸繊維の内側の総面積が0.1〜7m2で、中空繊維の本数が1,000〜100,000本となるように中空繊維を包含し、また、そのガス交換部の大きさが外径25cm以下、長さ30cm以下となる円筒状タイプのものが代表的である。
【0048】
さらに外部灌流で用いる場合には、通常中空繊維の外側の総面積が0.1〜3.5cm2で、中空繊維の本数が1,000〜60,000本となるように中空繊維を包含し、また、そのガス交換部の大きさが、外径20cm以下、長さ30cm以下の円筒状タイプのものが代表的である。
【0049】
本発明の中空糸微多孔膜の製造方法に制限は無く、従来公知の製造法により製造できる。
【0050】
例えば、結晶性の熱可塑性高分子樹脂を熱溶融しその紡糸過程で素材に温度勾配とせん断力とを効果的に紡糸方向へ作用させ積層ラメラ構造を成長させ、さらに必要に応じて熱処理を実施した後、延伸し、該積層したラメラ結晶の界面を開列させることにより微多孔膜化するわゆる溶融紡糸法、
【0051】
ポリマーを適当な溶剤に溶解したドープ液を非溶剤中に導き相分離を引き起こすことにより微多孔膜化するいわゆる湿式製膜法、
【0052】
又は高分子素材にその熱溶融下で該ポリマーに容易に分散する有機充填剤や必要に応じて結晶核形成剤を混練し、該溶融混練物を必要に応じて該高分子素材を溶解しない液体中で冷却固化し、ついで該混練物を適当な液体で抽出除去することにより微多孔膜を得る、いわゆる熱誘発型相分離法、等が挙げられる。
【0053】
溶融紡糸法は膜の寸法、連通孔の孔径、開孔率等の制御が容易であり均一な特性を有する膜を安定して生産する事ができ、さらに添加剤や溶剤等を使用せず得られる膜の安全性に優れることから、最も好ましい製造方法である。
【0054】
溶融紡糸法により得られる中空糸微多孔膜のガスフラックス、連通孔径及びその開孔率等の膜特性は使用する結晶性高分子素材の結晶化特性に大きく影響を受ける。例えば高密度ポリエチレンやポリプロピレン等の高結晶性高分子素材を使用し本発明の中空糸微多孔膜を製造する場合には公知の溶融紡糸法において結晶の成長をやや抑える条件を適用すれば良い。
【0055】
また、ポリエチレンやポリプロピレンと比較し結晶性の劣る熱可塑性高分子樹脂、例えばポリ4−メチル−1ペンテン等の樹脂を使用する場合には、紡糸時により結晶を成長させる条件範囲に調整し、必要に応じて、紡出糸に熱処理を施した後に延伸する事により本発明の中空糸微多孔膜を調製することが出来る。
【0056】
更に、詳しく本発明における溶融紡糸法とは、本発明の疎水性の素材を中空糸内部にガス強制供給可能な2重円管ノズルを用い樹脂の融点〜融点+100℃で、中空状に溶融ストランドを押し出し、紡糸筒周囲より微風(1m/sec以下)を吹きつけ(室温程度±30)℃で冷却固化させつつ、100〜2,000程度の紡糸ドラフトでスプールに巻き付け、
【0057】
ついで、スプールに巻き付けたまま(Tg+50)℃(但し、Tgはガラス転移点)以上から融点未満の雰囲気中で1分〜24時間熱処理を行う。次にこれを延伸倍率1.1〜3.0倍でローラー間延伸を行い、連続して(融点−50)℃〜(融点−20)℃の雰囲気中で中空糸の収縮力に拮抗する張力を加えつつ、わずか(0.8〜0.9倍)に弛緩しながら数秒間熱固定を行うことを意味し、該方法により本発明の中空糸微多孔膜を製造することができる。
【0058】
本発明の中空糸微多孔膜を適用した人工肺の形状、形態には制限は無く、人工肺の形態として中空糸の内側に血液を流すいわゆる内部灌流型人工肺でも良く、また中空糸の外側に血液を流しガス交換を行ういわゆる外部灌流型人工肺でも良い。外部灌流型人工肺は血流圧力損失を低く抑えることができかつ、単位膜面積当たりのガス交換効率に優れており最も好ましい形態である。
【0059】
人工肺の基本性能であるガス交換効率、低血液損傷性(低血流圧損)等は人工肺の構造にも大きく依存する。本発明の中空糸膜を組み込んだ人工肺の好ましい形態/形状例として例えば特許平10−256425公報に詳しく記載れている。
【0060】
本発明の中空糸微多孔膜は、血液のガス交換、即ち血液への酸素供給と血液からの二酸化炭素の除去に優れており、該膜を用いた人工肺は、一般の開心術のみならず、長期間の使用が必要となる急性肺不全及び心不全患者に対する呼吸補助及び経皮的心肺補助用人工肺として好適に使用できる。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
4−メチル−1−ペンテン系ポリマ−(商品名:TPX、三井化学製)を中空糸内部にガス強制供給可能な構造を持つ2重円管ノズルを用い、溶融樹脂温度280℃で、中空状に溶融ストランドを押し出し、紡糸筒周囲より微風を吹きつけ冷却固化させつつ紡糸ドラフト約750でスプールに巻き取った。
【0062】
次いで該未延伸紡出糸をスプールに巻いたまま約190℃の雰囲気中で約2時間の熱処理を行った後に延伸倍率2倍でローラー間延伸を行い、連続して195℃の雰囲気中で中空糸の収縮力に拮抗する張力を加えつつわずかに弛緩しながら約1秒間熱固定を行うことにより外径240μm、肉厚32μmの微多孔膜からなる中空糸を調製した。
(実施例2)
熱固定の雰囲気温度を215℃とし、熱固定時の弛緩倍率をわずかに上げた以外実施例1と同等の方法で外径236μm、肉厚33μmの微多孔膜からなる中空糸を調製した。
(比較例1)
2重円管紡糸ノズルを使用し、235℃で溶融したメルトフローレート6g/分のポリプロピレン樹脂を、該ノズルより内側に窒素を流しつつ中空ストランド状に押し出し、紡糸塔周囲より微風を吹かせ冷却固化しつつ紡糸ドラフト770でスプールの巻き取った。次いでスプールに巻き取った該中空ストランドを約130℃の雰囲気中で約2時間の熱処理を行った。次いで該ストランドを延伸倍率2倍でローラ間延伸を行い、連続して約130℃の雰囲気中でわずかに弛緩しながら約1秒間熱固定を行い外径236μm、肉厚30μmの微多孔膜からなる中空糸を調製した。
(比較例2)
ポリ4−メチル−1−ペンテンポリマ−を、2重円管紡糸ノズルを用い、紡糸温度285℃で中空ストランド状に押し出し、ノズル直下に紡糸塔周辺より均一に微風を流し、該溶融ストランドを固化させつつ紡糸ドラフト780で引き取り、連続して約230℃の空気雰囲気中で約3秒を熱処理を行った後連続して約1.8のローラー間延伸を行い、連続して連続して195℃の雰囲気中で収縮力に拮抗する張力を負荷しながら約1秒間熱固定を行い、外径230μm、肉厚32μmの、外表面にやや緻密な薄膜層を有する微多孔膜からなる中空糸を調製した。
(比較例3)
ポリ4−メチル−1−ペンテンポリマ−を約60℃に加温したシクロヘキサンに約16[wt%]で溶解した。次いで該溶解液に対し約3[wt%]のエタノールを添加し、孔径5μmのステンレスフィルターで濾過、脱法を行い中空糸微多孔膜調製用ドープを得た。約50℃に加温した該ドープ中空糸内管液としてエタノールを用い、中空ノズルより約30cmの空気中を通過させエタノールで満たした凝固浴に導き固化させスプールに巻き取った。約24時間メタノール中に浸漬した後、80℃に調整した熱風乾燥炉中で約24時間乾燥及び熱処理を行った。得られた中空糸膜は外表面にやや緻密な層を有しており、外径320μm、肉厚55μmの微多孔膜からなる中空糸を調製した。
【0063】
(試験例1)
膜の酸素フラックス、平均連通孔半径、エタノールフラックス、開孔率を調べた。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
(試験例2)
実施例1、2、比較例1〜3で調製した微多孔膜からなる中空糸を使用し、ポリエステルを縦糸とした鎖編みにより中空糸打ち込み本数が24本/cmの中空糸シートを形成した。これを図1にモデル図として示したように本中空糸シートの積層体を形成させ、次いでこの積層体を図2にモデル図として示したような角形モジュールに組み込み、中空糸の外径基準の有効膜面積が約0.4m2の外部灌流型用人工肺を試作した。
【0066】
性能評価はAAMI(ASSOCIATION FOR THE ADVANCEMENT OF MEDICAL INSTRUMENTATION)の方法に準じ牛血により行った。ACDにより抗凝固処理を行った新鮮牛血を酸素飽和度65%、ヘモグロビン(Hb)12g/dl、過剰塩基(BE)0mEq/l、溶存二酸化炭素分圧45mmHg、温度37℃に調整し、図2中1より牛血を流し入れると同時に図2の3より酸素ガスをV/Q=1(酸素流量/血液流量)としガス交換性能を測定した。結果を表2に示した。
【0067】
但し、表2に示す最大血液流量とは、12g/dlのHbを含有し、血液温度37℃で酸素飽和度65%で、BEが0である牛血の酸素含有量を45ml/l(血液流量)だけ増加させることであり、標準二酸化炭素血流量とは酸素の場合と同条件の牛血を使用し、その二酸化炭素含有量を38ml/l(血液流量)だけ減少させることの出来る最大血液流量を示す。尚本実施例で示す最大血流量は血液を約6時間灌流した後の値である。
【0068】
【表2】

【0069】
耐血漿リーク特性の評価は、アジ化ナトリウム及び必要に応じてペントシリン等の抗生物質で防腐処理したACD牛血を使用し実施した。実験に使用した人工肺のモデル図2の3より純酸素を2l/minで流しつつ約37℃に調製した牛血を流量2l/minでループ状に灌流し、図2中の4の部分にトラップされた凝集水中の蛋白量を定期的に測定した。蛋白成分の検出はテトラブロムフェノールによる色変化を利用した市販の蛋白質検査用紙を用いた。尚、牛血は約24時間ごとに新鮮なものに交換した。この結果を表3に示した。
【0070】
【表3】

【0071】
※1;ガス出口で発砲
【符号の説明】
【0072】
1:血液流入/流出口
2:血液流入/流出口
3:ガス流入/流出口
4:ガス流入/流出口
5:中空糸膜シート積層体
6:中空糸膜シート
7:中空糸膜シート縦糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ガスフラックスが10×10-5〜500×10-5[cm3(STP)/cm2/sec/cmHg]であり、エタノールフラックスが2〜80[ml/min/m2]であり、平均孔半径0.008〜0.07μmの連通孔を有する疎水性の素材からなる中空糸微多孔膜。
【請求項2】
疎水性の素材がポリ(4−メチルペンテン−1)系ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の中空糸微多孔膜。
【請求項3】
中空糸微多孔膜が溶融紡糸法により製造された膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸微多孔膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の中空糸微多孔膜を組み込んでなる膜型人工肺。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−269307(P2010−269307A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148165(P2010−148165)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【分割の表示】特願2000−228784(P2000−228784)の分割
【原出願日】平成12年7月28日(2000.7.28)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】