説明

中空糸膜及びその製造方法

【課題】 適度な透水性と優れた引っ張り強度を有する、ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体からなる中空糸膜を提供する。
【解決手段】 ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体とスルホランなどの非プロトン性極性溶媒など高沸点の溶媒を100℃以上で溶解し、熱誘起相分離法によって作製された中空糸膜であって、引っ張り強度が5MPa以上であり、かつ透水性が100L/m・atm・h以上である中空糸膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた強度と適度な透水性を有する中空糸膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、限外濾過膜や精密濾過膜等の多孔質濾過膜は、飲料水製造や上下水処理などの水処理分野、血液浄化等の医療分野、食品工業分野など、多くの産業分野において利用が進んでおり、さまざまな孔径を有する多孔質濾過膜が開発されている。特に、多孔質濾過膜として多用されている孔径がnm〜μmオーダーの濾過膜は、有機高分子溶液の相分離を利用して作製されることが多い。この手法は多くの有機高分子化合物に対して適応することができ、工業化も容易であるため、現在、濾過膜の工業的生産の主流となっている。
【0003】
相分離法は大きく非溶媒誘起相分離法(NIPS法)と熱誘起相分離法(TIPS法)に分けることができる。NIPS法では均一な高分子溶液は、非溶媒の進入や、溶媒の外部雰囲気への蒸発による濃度変化によって相分離を起こす。一方、TIPS法は比較的新しい方法であり、高温で溶解させた均一な高分子溶液を1相領域と2相領域の境界であるバイノダル(binodal)線以下の温度へ冷却させることにより相分離を誘起し、高分子の結晶化やガラス転移により構造を固定する。
【0004】
従来、多孔質濾過膜の素材としては、一般的にポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース等が用いられることが多かった。しかし、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン等は、疎水性が強い為に水の流量が小さくなることやタンパク質などの疎水性物質を吸着する性質から容易にファウリングし透水性が低下する問題があった。また、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース等は比較的親水性の高い樹脂であるが、膜強度が弱い上、温度や耐薬品性に弱く使用温度や使用pH域が非常に狭い問題があった。
【0005】
そこで、比較的親水性が高く、耐薬品性も強いポリアミド系樹脂を用いて多孔質膜を製造する方法が検討されてきた。しかしながら、ポリアミドは室温では強酸であるギ酸、濃硫酸や高価な含フッ素溶媒にしか溶解しない為、NIPS法を用いる製法としてはこれらの溶媒を使わざるを得なかった。例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4に記載の方法では、ギ酸を溶媒として用いた製膜法が開示されているが、安全衛生上問題があった。また、特許文献5には、ナイロン6をポリカプロラクトンと混合してヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したものをキャストし、そこからカプロラクトンを抽出して多孔質化する方法が開示されているが、使用する溶媒も抽出除去する高分子も高価なもので実用的ではなかった。
【0006】
一方、TIPS法を用いる方法も検討されており、非特許文献1にはナイロン12とポリエチレングリコールの系で多孔質膜が作製できることが報告されている。また、特許文献6にはナイロン11とエチレンカーボネート又はプロピレンカーボネート又はスルホランの系で多孔質膜が作製できることが報告されている。また、非特許文献2には、ナイロン6及びナイロン12の多孔質膜がトリエチレングリコールを溶媒として作製できることが記載されている。しかしながら、これらはすべて多孔質膜の形成ができただけに過ぎず、透水性の高い中空糸膜への加工、細孔径の制御はできていなかった。
【0007】
ナイロンは上述のようにギ酸等を用いたNIPS法での中空糸膜化、及びTIPS法での多孔質膜の製法としては報告があったが、高温溶解したときの溶液粘度が低いことや比重が軽いことなどからTIPS法を用いての中空糸膜への加工が非常に困難であり、これまで報告はほとんどなかった。例えば、特許文献7にはTIPS法での種々の樹脂の多孔質膜化が開示されているが、ポリアミドに関しては平膜の実施例はあるが、中空糸膜の製造については記載されていない。また、特許文献8にはTIPS法による中空糸膜の製造方法が開示されているが、得られる中空糸膜は孔径が1.4μmと非常に大きく、本発明の目的とする通常の水処理、血液処理、食品工業や医薬品工業での濾過プロセスには使用できないものであった。また、開示されている様にグリセリン、エチレングリコールで製膜を行っても得られる膜は実用に耐えるだけの強度を持たせることができないものであった。特許文献9はTIPS法でのナイロン中空糸膜の一般的な製造方法について記載されているに過ぎず、ナイロンの種類、使用する溶媒などの詳細な記述が全くなく、実施例も無い。また、特許文献10には、ポリアミド膜の分解を抑制する為に酸化防止剤を添加する方法が開示されているが、使用されている溶媒は高価であり、中空糸膜に加工する実施例には増粘剤が添加されており、得られた中空糸膜の性能についても最大孔径が0.87μm及び0.57μmと大きい以外は詳しい記載は無い。
【0008】
一方で、本発明者らは既にメチレン基とアミド基の比率が−CH2−:−NHCO−=4:1〜10:1であるポリアミド樹脂を用いた中空糸膜について出願しているが(特願2008−253798号)、親水性は高いものの強度面では十分ではなった。さらに、ナイロン12を架橋させたものを用いた中空糸膜について出願しているが(特願2008−251952号)、架橋させてもまだ溶液の粘度は低く製膜しにくい上にこの方法では強度の高い中空糸膜にはならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−105212号公報
【特許文献2】特開昭58−65009号公報
【特許文献3】米国特許4340479号
【特許文献4】米国特許4477598号
【特許文献5】特開2000−1612号公報
【特許文献6】米国特許4247498号
【特許文献7】特開昭58−164622号公報
【特許文献8】特開昭60−52612号公報
【特許文献9】米国特許4915886号
【特許文献10】特表2003−534908号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of membrane science 108,219−229(1995)
【非特許文献2】「膜技術 第2版」 Marcel Mulder著、吉川正和、松浦剛、仲川勤 監修、発行(株)アイピーシー 95頁(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決し、優れた強度と適度な透水性を有するナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体からなる中空糸膜を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体を特定の高温下で特定の有機溶媒に溶解し、冷却して相分離を起こさせる方法によって強度が高く適度な透水性を有する中空糸膜が作製できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明の第一は、ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体からなる中空糸膜であって、引っ張り強度が5MPa以上であり、かつ透水性が100L/m・atm・h以上であることを特徴とする中空糸膜を要旨とするものである。
【0014】
本発明の第二は、ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体を、150℃以上の沸点を有し、100℃未満の温度では当該樹脂と相溶しない有機溶媒に100℃以上の温度で溶解して製膜原液とし、中空糸紡糸用ノズルを用いて100℃未満の凝固液中に押し出し中空糸を形成した後、溶媒に浸漬して前記有機溶媒を除去することにより中空糸膜とすることを特徴とする前記した中空糸膜の製造方法を要旨とするものであり、好ましくは、有機溶媒が、非プロトン性極性溶媒であり、さらに好ましくは、非プロトン性極性溶媒が、スルホラン、γ−ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドから選ばれるものである。
また、好ましくは、前記した製造方法により得られた中空糸膜を、当該樹脂のガラス転移点以下の温度で延伸することで透水性を高める、あるいは、当該樹脂のガラス転移点以上の温度で延伸することで引っ張り強度を高めることを特徴とする中空糸膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の中空糸膜によれば、適度な透水性と、高い強度を有するため、上下水処理、食品工業、製薬工業の分野で好適に用いることができる。特に中空糸膜を直接曝気により洗浄しながら使用する下水処理における膜分離活性汚泥法での使用においては、切れたり伸びたりする問題を解決することができる利点を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の中空糸膜を製造する方法の一実施態様を示す装置図である。
【図2】本発明の中空糸膜を製造するための紡糸口金の模式図である。
【図3】本発明の中空糸膜の透水性を測定する装置の概略図である。
【図4】実施例1で得られた中空糸膜の走査型電子顕微鏡写真である。A:断面 B:断面拡大図 C:内表面 D:外表面
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明に用いられる樹脂は、ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体であり、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。相対粘度は特に限定されないが、引っ張り強度、弾性率を向上させるためには高いほうが良く、好ましくは1.8以上であり、さらに好ましくは2.0以上である。
【0019】
また、本発明に用いられる樹脂は、他のポリマーと共重合されていても良いし、架橋されていても良い。ナイロン12を含む共重合体の例としては、例えばアルケマ社のPebax(ペバックス)シリーズ、宇部興産(株)のUBESTA(ウベスタ)XPAシリーズ等が挙げられる。また架橋剤としては、アクリル系架橋剤、エポキシ系架橋剤、酸無水物系架橋剤が好適であり、例えばアルケマ社のLOTRYL(ロトリル)シリーズ、LOTADER(ロタダー)シリーズ、BONDINE(ボンダイン)シリーズ等が挙げられる。架橋剤を添加する場合は、樹脂に対して0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜2質量%を添加し、樹脂の融点以上の温度で混練する方法が用いられる。
【0020】
本発明の中空糸膜は、引っ張り強度が5MPa以上であり、好ましくは6MPa以上、さらに好ましくは7MPa以上である。引っ張り強度が上記より低い場合は、使用中に切れたり、伸びによって孔径が大きくなりろ過すべき粒子を透過してしまう問題がある。
【0021】
本発明の中空糸膜は、弾性率が25MPa以上であることが好ましく、40MPa以上であることがさらに好ましい。弾性率が上記より低い場合は、少しの力で容易に伸び孔径が大きくなる問題がある。
【0022】
本発明の中空糸膜は、未延伸の状態の引っ張り伸びが150%以上であることが好ましく、200%以上であることがさらに好ましい。引っ張り伸びが上記より低い場合は、容易に切れる問題がある。
【0023】
上記の引っ張り強度、弾性率、引っ張り伸びは、島津製作所製オートグラフGS−Jを用いて、JIS L−1013号に記載の方法により測定した値である。
【0024】
本発明の中空糸膜は、精密ろ過膜もしくは限外ろ過膜に相当する孔径を有するものであり、0.1μmの粒子の阻止率が90%以上であることが望ましく、好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは99%以上である。0.1μmの粒子の阻止率がこの範囲より低ければ、ろ別したいものを透過してしまうため採用できない。
【0025】
ここで、本発明における0.1μmの粒子の阻止率とは、0.1%TritonX−100水溶液299mlに、Duke Scientific社製の100nmポリスチレン微粒子3100Aを1ml添加して、3時間攪拌分散し、これを後述の透水性測定装置に通液し、膜を透過した液を回収し、膜透過前後の液の380nmの吸光度を測定し、下式により求めたものである。
【0026】
0.1μm粒子阻止率=(初期吸光度−透過液吸光度)/初期吸光度×100
【0027】
本発明の中空糸膜は、透水性が100L/m・atm・h以上であり、好ましく、150L/m・atm・h以上である。透水性がこの範囲より低ければ、ろ過時間がかかる問題があり、実用的ではない。
【0028】
ここで、本発明における透水性とは、次のような方法で測定したものである。中空糸膜を10〜20cmに切断し、両端の中空部分に内径に合う径の注射針を挿入し、図3に示すような装置にセットした後、所定時間(分)送液ポンプ13で純水を通し、膜を透過して受け皿18に貯まった水の容量(L)を透過水量とし、以下の式により求めた。
【0029】
透水性=透過水量(L)/[内径(m)×3.14×長さ(m)×{(入口圧(気圧)+出口圧(気圧))/2}×時間]
【0030】
次に、本発明の中空糸膜の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の中空糸膜は、ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体が室温で溶ける溶媒がギ酸、濃硫酸、一部の含フッ素溶媒を除いて無いことから、高温で溶媒に溶解して作製するTIPS法を適用して作製することが好ましい。本発明の中空糸膜は、まず、ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体を、150℃以上の沸点を有し、100℃未満の温度では当該樹脂と相溶しない有機溶媒に100℃以上の温度で溶解して製膜原液を作る。
【0032】
150℃以上の沸点を有し、100℃未満の温度ではナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体と相溶しない有機溶媒としては、非プロトン性極性溶媒、グリセリンエステル類、グリコール類、有機酸及び有機酸エステル類、高級アルコール類、グリコール類などが挙げられる。非プロトン性極性溶媒の具体例としては、スルホラン、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジフェニルカーボネートなどが挙げられ、グリセリンエステル類の具体例としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられ、グリコール類の具体例としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量100〜600)、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられ、有機酸及び有機酸エステル類の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルベンジル、サリチル酸メチル、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などが挙げられる。これらの中で非プロトン性極性溶媒が好ましく、スルホラン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドがより好ましく、スルホラン、γ−ブチロラクトン、1−メチルピロリドンが最も好ましい。非プロトン性極性溶媒を用いることで本発明の中空糸膜の強度、伸びが向上する利点が得られる。
【0033】
ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体を前記した有機溶媒に溶解する際の濃度としては、樹脂の濃度が5質量%〜50質量%が好ましく、10質量%〜30質量%がより好ましく、10質量%〜20質量%が最も好ましい。この範囲より樹脂の濃度が低ければ膜の強度が弱くなり粒子阻止率が低下する問題があり、この範囲より高ければ透水性が低下する問題がある。
【0034】
また、ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体を前記した有機溶媒に溶解するにあたり、溶媒の温度を100℃以上にしておくことが必要である。具体的には、その系の相分離温度の10℃〜50℃高い温度、好ましくは20℃〜40℃高い温度で溶解させるのがよい。
【0035】
その系の相分離温度は、樹脂と溶媒を十分に高い温度で混合し均一溶解したものを徐々に冷却し、液−液相分離又は結晶析出による固−液相分離が起こる温度である。相分離温度の測定は、ホットステージを備えた顕微鏡等を使用することで好適に行うことができる。
【0036】
本発明においては、次に上述のようにして作製した製膜原液を中空糸紡糸用ノズルを用いて100℃未満の凝固液中に押し出し中空糸を形成する。設定された凝固液の温度にまで速やかに冷却することによって相分離を誘起し多孔質構造を形成させる。冷却温度を0℃以下に設定したい場合は塩類を添加したり、エチレングリコールやグリセリン等を混合することができる。
【0037】
ここで、中空糸紡糸用ノズルとしては、溶融紡糸において芯鞘型の複合繊維を作製する際に用いられるような二重円形状を有する口金を用いることができる。
【0038】
また、中空部分となる芯部に注入する流体としては、液体、気体が使用できるが、製膜原液の粘性が低く糸状形成が難しい条件でも紡糸が可能であるため一般的に液体を使用することが多い。該液体にはいかなるものも使用できるが、中空糸内面の孔を大きくしたい場合にはナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体と親和性の高い良溶媒を、一方、中空糸内面の孔を小さくしたい場合には貧溶媒を使用することができる。かかる溶媒の具体例としては良溶媒としては、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、スルホランなどが挙げられ、貧溶媒としては、高級脂肪酸類、流動パラフィンなど沸点の高くナイロンと相溶しない任意の流体を使用することができる。また、製膜原液の粘性が高く、曳糸性に優れている場合には、不活性ガス等の気体を流入する方法を用いてもよい。
【0039】
凝固液としては、本発明の効果を損なわない限りいかなるものでも使用できるが、水、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類などが好適に使用でき、これらは単独でも2種類以上を混合した混合溶媒でも使用できる。これらの中で水、グリセリン、エチレングリコールが好ましく、水がより好ましい。凝固液の温度は、特に限定されないが、−20℃〜100℃が好ましく、−10℃〜80℃がより好ましく、0℃〜50℃が最も好ましい。凝固液の温度を変化させることにより、結晶化速度を変えることができるため、孔径サイズ、透水性、強度を変化させることができる。一般には、凝固液の温度が低ければ孔径サイズは小さくなり透水性は低下し強度が向上し、凝固液の温度が高ければ孔径サイズが大きくなり透水性は向上し強度は低下するが、使用する溶媒の凝固液との溶解性や樹脂自体の結晶化速度によっても変わるため例外も多い。凝固液の温度がこの範囲より低い場合は、温度制御に多大なエネルギーがかかる問題があり、この範囲より高い場合には、膜の強度が弱くなる問題がある。
【0040】
本発明においては、次いで、得られた中空糸を溶媒に浸漬して中空糸内で相分離を起こしている有機溶媒を抽出除去することで本発明の中空糸膜を得ることができる。かかる抽出用の溶媒としては、安価で沸点が低く抽出後に沸点の差などで容易に分離できるものが好ましく、例えば、水、グリセリン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジエチルエーテル、ヘキサン、石油エーテル、トルエンなどが挙げられる。これらの中で水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンが好ましく、水、メタノール、イソプロパノールが特に好ましい。特に水に溶解する溶媒を抽出する場合には、前述の冷却工程において水浴を使えば同時に溶媒抽出も行うことができ効率的である。フタル酸エステル、脂肪酸等の水に不溶の溶媒を抽出する際は、アルコール類、アセトン、石油エーテル等を好適に用いることができる。また、溶媒槽に浸漬する時間は本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、1時間〜2ヶ月間、好ましくは5時間〜1ヶ月間、さらに好ましくは10時間〜14日間である。有機溶媒を効果的に抽出除去する為に、抽出溶媒を入れ替えたり、攪拌することができる。特に本発明の中空糸膜を食品工業や浄水用に使用する場合には、有機溶媒の残存が問題となる為、時間をかけて徹底的に行う必要がある。
【0041】
上述した本発明の中空糸膜の製造方法を好適に実施するには、図1に示すような、乾湿式紡糸に用いられる一般的な装置が用いられる。また、中空糸の製造には、図2に示したような二重円形状を有する口金を用いることができる。
【0042】
ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体は、上述した有機溶媒と高温で混合溶解されて製膜原液となりコンテナ3に溜められる。製膜原液および流入液体(または気体)は、それぞれ定量ポンプ4によって計量され、紡糸口金6に送液される。口金6から吐出された製膜原液は、わずかなエアーギャップを介して、水などの実質的にナイロン12樹脂を溶解しない液体の浴(凝固浴7)に導入され、冷却固化される。製膜原液が冷却固化される過程で、熱誘起の相分離が起こって、海島構造を有する中空糸8が得られる。このようにして得られた中空糸8を一端巻き取った後、溶媒抽出浴10にて、水等の抽出溶媒を用いて海島構造の島成分である有機溶媒、および中空部に流し込んだ液体を除去して中空糸膜が得られる。
【0043】
本発明においては、以上にようにして得られた中空糸膜をさらに延伸することにより、透水性の向上、引っ張り強度の向上が見込める。
【0044】
本発明で採用する延伸方法は特に限定されない。延伸温度は−10℃〜140℃が好ましく、0℃〜100℃がさらに好ましい。具体的には、主に透水性を向上させるには素材である樹脂のガラス転移点以下で延伸する冷延伸が好ましく、一方、主に結晶化により引っ張り強度、弾性率を向上させるには素材である樹脂のガラス転移点以上の熱延伸が好ましい。
【0045】
例えば、ナイロン12を例にとって説明すると、ナイロン12のガラス転移点は約37℃であるので、主に透水性を向上させるには37℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。また、主に結晶化により引っ張り強度、弾性率を向上させるには37℃以上の延伸が好ましく、50℃以上の延伸がより好ましい。
【0046】
延伸は、ロールの回転スピードを変化させて連続的に行っても良いし、ある程度の長さに切ったものの両端を掴んで個別に行っても良い。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、中空糸膜の引っ張り強度、透水性、粒子阻止率の測定は上述した方法により行った。
【0048】
実施例1
ナイロン12のチップ(アルケマ(株)製リルサンAECN0TL、相対粘度2.25)80g、スルホラン(東京化成(株)製)320gを230℃で1.5時間攪拌し溶解させ製膜原液を調製した。温度を220℃に低下させ、定量ポンプを介して紡糸口金に送液し、0.05MPaで押出した。この時の押出し量は18g/分であった。紡糸口金の孔径は外径1.58mm、内径0.83mmのものを用いた。内部液にはトリエチレングリコールを7.0g/分の送液速度で流した。押出された紡糸原液は5mmのエアーギャップを介して、0℃の水浴に投入して冷却固化させ、38m/分の巻取速度にて巻き取った。得られた中空糸を24時間、水に浸漬して溶媒を抽出し、中空糸膜を得た。得られた中空糸膜は表1に示す様に、十分に強く、弾性率も高く、粒子阻止率が高く透水性もあった。得られた中空糸膜の電子顕微鏡写真を図4に示すが、断面には緻密で大きさのそろった孔が存在しマクロボイドが無いことが観察され、外側に緻密なスキン層が存在していることが観察された。
【0049】
実施例2
実施例1において、水浴の温度を40℃に変えた以外は同様にして中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は表1に示すように実施例1に比べると引っ張り強度や伸びは低下したが十分に強く弾性率も高いものであった。また、透水性が向上した。
【0050】
実施例3
実施例1において、ナイロン12のチップを60g、スルホランを340gにした以外は同様にして中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は表1に示すように樹脂濃度を下げたことから強度が低下したが、まだ十分に強く弾性率も高いものであった。また、透水性は濃度を下げることで向上したが0.1μmの粒子はほぼ完全に阻止した。
【0051】
実施例4
実施例3において、押出し量を10.3g/分に低下した。これによって外径が細く膜圧の薄い中空糸膜が得られた。引っ張り強度は表1に示すように十分に高いものであり、透水性も向上した。
【0052】
実施例5
実施例4において得られた中空糸膜を20℃で2倍長に延伸した。強度は表1に示す様に向上し、透水性が1137L/m・atm・hと大きく向上した。
【0053】
実施例6
実施例4において得られた中空糸膜を100℃の沸騰水中で2倍長に延伸した。強度は表1に示す様に向上し、透水性が550L/m・atm・hとなった。
【0054】
実施例7
実施例1において、溶媒をγ−ブチロラクトンに変え、ナイロン12樹脂と溶媒を200℃で攪拌溶解し、押出し温度も200℃に変えた以外は同様にして中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は表1に示すように高い強度を示し、0.1μmの粒子は完全に阻止し透水性もあった。
【0055】
実施例8
実施例1において、樹脂をナイロン12の共重合体であるPebax7233SA01(アルケマ社製)に変え、攪拌溶解温度、押出し温度を180℃に変えた以外は同様にして中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は表1に示すように高い引っ張り強度を示し、0.1μmの粒子は完全に阻止し透水性もあった。
【0056】
実施例9
実施例8において、溶媒をγ−ブチロラクトンに変え、攪拌溶解温度、押出し温度を180℃に変えた以外は同様にして中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は表1に示すように高い引っ張り強度を示し、0.1μmの粒子は完全に阻止し透水性もあった。
【0057】
比較例1
実施例1において、溶媒をプロピレングリコールに変え、攪拌溶解温度、押出し温度を170℃に変えた以外は同様にして中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は表1に示すように強度、伸びともに低い値を示した。
【0058】
比較例2
実施例1において、樹脂をナイロン6のチップ(ユニチカ(株)相対粘度3.53)に変え、押出し温度を210℃にした以外は同様にして中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は表1に示すように透水性はあったが引っ張り強度、弾性率が劣るものであった。
【0059】
【表1】

【符号の説明】
【0060】
1:攪拌モーター
2:加圧ガス流入口
3:コンテナ
4:定量ポンプ
5:内部液(又はガス)導入口
6:紡糸口金
7:凝固浴
8:中空糸
9:巻き取り機
10:溶媒抽出浴
11:内部液(又はガス)流入孔
12:製膜原液流入孔
13:送液ポンプ
14:入口圧力計
15:中空糸膜
16:出口圧力計
17:出口弁
18:受け皿


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体からなる中空糸膜であって、引っ張り強度が5MPa以上であり、かつ透水性が100L/m・atm・h以上であることを特徴とする中空糸膜。
【請求項2】
ナイロン12及び/又はナイロン12を含む共重合体を、150℃以上の沸点を有し、100℃未満の温度では当該樹脂と相溶しない有機溶媒に100℃以上の温度で溶解して製膜原液とし、中空糸紡糸用ノズルを用いて100℃未満の凝固液中に押し出し中空糸を形成した後、溶媒に浸漬して前記有機溶媒を除去することにより中空糸膜とすることを特徴とする請求項1記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒が、非プロトン性極性溶媒である請求項2記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
非プロトン性極性溶媒が、スルホラン、γ−ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドから選ばれる請求項3記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかの製造方法により得られた中空糸膜を、当該樹脂のガラス転移点以下の温度で延伸することで透水性を高めることを特徴とする中空糸膜の製造方法。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれかの製造方法により得られた中空糸膜を、当該樹脂のガラス転移点以上の温度で延伸することで引っ張り強度を高めることを特徴とする中空糸膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−240535(P2010−240535A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90138(P2009−90138)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人化学工学会発行,化学工学会第74年会 研究発表講演要旨集,2009年2月18日 (2)化学工学会第74年会,社団法人化学工学会主催,平成21年3月18日開催
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】