説明

中高層建物用増圧給水システム

【課題】水道本管直結式の中高層建物の増圧給水システムにおいて、地域の如何によらず、中高層階への安定した給水を、低コストで行なう。
【解決手段】低階床群用増圧ポンプの吸込側を、逆流防止器を介して水道管に直結するとともに、該低階床群用増圧ポンプの吐出側を中間階床群用増圧ポンプの吸込側に直結し、更に該中間階床群用増圧ポンプの吐出側を高層階床群用増圧ポンプの吸込側に直結し、各階床用増圧ポンプは夫々独立して各増圧ポンプの吐出側圧力を検知して起動・停止、または目標圧力を維持するようにポンプの運転回転数を制御する制御装置を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道用配水管に直結し、且つ配水管に増圧ポンプを配置して、特に20階以上の中高層建物の各階に、適度に加圧された給配水を行なうようにした増圧給水システムの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中高層建物の給水において、低位置に置かれた受水槽からポンプにより増圧した水を高層階に供給する給水システムが普及しているが、給水系統を1系統とすると、下層階において給水圧力が過大となり、水栓・器具等の使用に支障を来たしたり、騒音やウオーターハンマー現象等が起こり、水栓や下層階における減圧弁等の部品に磨耗を生じさせ、部品の寿命が短くなる欠点があった。そこで中高層建物において、給水区分を複数系統に分け、各系統に夫々中間水槽、高層水槽、中間増圧ポンプ等を適宜配置した、ゾーニング方式が普及している。
【0003】
他方、受水槽を廃して水道管にポンプを直結し、増圧ポンプとして使用する、本管直結型給水システムが、省エネルギー及び特に高層階での受水槽を廃したことによる建物構造の改良として注目されている。この本管直結給水システムにも前記ゾーニング方式が導入され、例えば特許第3301860号(特許文献1)に開示されているように、中高層建物の各階床を、下側から順次数群の階床群に分割し、下階床群に属する階床に対する給水は水道用配水管に直結された下階床群用給水管により行ない、下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした給水システムが知られている。
【特許文献1】特許第3301860号
【0004】
さらに、例えば特許第3302004号(特許文献2)に開示されているように、上記本管直結給水システムにゾーニング方式を採用した場合、各階床群の専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に夫々接続して給水を行なうと共に、上記増圧ポンプの内、上階床群側の増圧ポンプが運転を開始したときは、直ぐ下側の階床群の増圧ポンプも同時に運転を開始するように、各増圧ポンプの運転制御も行うことも知られている。
【特許文献2】特許第3302004号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水道管の水圧は地域によって差異があり、又1日を通して水圧の変化がある。この現状を踏まえて、地域の如何によらず、中高層階への安定した給水を行なうことが必要である。これに対し、上記特許文献1および2に示された増圧給水システムでは、低階床群には増圧ポンプを用いず水道管の水圧のみで給水が行なわれるので、地域によっては、低階床群及びそれに付随して高階床群にも給水できない事態が生じる恐れがある。
【0006】
また、現行の日本水道協会規格では、増圧ポンプは最高使用圧力は0.75MPaと明記されている。また、ポンプが始動したときの吸込圧力低下は、始動前圧力の25%以内で、0.05MPa以下とすると規定されている。この増圧ポンプを用いた増圧給水システムでは、概ね15階までの中層階建物にしか用いることが出来ない。ところが最近は20階建てを越える高層建築物が増えつつあり、給水管材や増圧ポンプユニットがより高価な材料を用い、高性能なものが要求され、これが中高層建物の建築及び維持管理コストを引き上げる結果になっている、
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこでこの発明では、低階床群用増圧ポンプの吸込側を、逆流防止器を介して水道管に直結するとともに、該低階床群用増圧ポンプの吐出側を中間階床群用増圧ポンプの吸込側に直結し、更に該中間階床群用増圧ポンプの吐出側を高層階床群用増圧ポンプの吸込側に直結し、各階床用増圧ポンプは夫々独立して各増圧ポンプの吐出側圧力を検知して起動・停止、または目標圧力を維持するようにポンプの運転回転数を制御する制御装置を設けた、中高層建物用増圧給水システムを提供する。
【0008】
建物の全揚程は、給水高さと給水管や給水器具等の圧力損失(配管抵抗)と末端必要圧力との総和によって定められる。ここでいう末端必要圧力は、最上階の末端給水栓での必要圧力である。この必要圧力は、従来要求では0.147MPa(1.5kgf/cm2)であったが、近年自動食器洗い機やタンクレストイレ等給水栓末端での作動圧力を必要とする給水器具が増えていることから、0.196MPa(2.0kgf/cm2)の押込圧力とすることが要求されるようになっている。
【0009】
上記水道協会規格により中間階床群増圧ポンプの吸込圧力低下を、ポンプ始動で0.05MPa以下までとすることが定められているので、前記増圧給水システムにおいて、中間階床群増圧ポンプが運転を開始した場合、その増圧ポンプの吸込側圧力が少なくとも0.098MPa(1.0kgf/cm2)以上に保たれるようにする必要がある。また、最上階の末端必要圧力を0.196MPa(2.0kgf/cm2)の押込圧力とするために、運転を開始した中間階床群増圧ポンプの、下側の階床群の増圧ポンプの吐出圧力は上側の階床群の増圧ポンプ吸込側圧力で0.147MPa(1.5kgf/cm2)乃至0.196MPa(2.0kgf/cm2)の押込圧力を保つ必要がある。このように、低階床群用増圧ポンプの吸込側を、逆流防止器を介して水道管に直結するとともに、該低階床群用増圧ポンプの吐出側を中間階床群用増圧ポンプの吸込側に直結し、更に該中間階床群用増圧ポンプの吐出側を高層階床群用増圧ポンプの吸込側に直結した中高層建物用増圧給水システムにおいては、各階床用増圧ポンプは夫々独立して各増圧ポンプの吐出側圧力を検知して起動・停止、または目標圧力を維持するようにポンプの運転回転数を制御する制御装置は、最上階の末端必要圧力を0.196MPa(2.0kgf/cm2)の押込圧力とするよう、中間階の増圧ポンプを制御する。また、中間階床群増圧ポンプが運転を開始した場合、その下側の増圧ポンプで保持していた配管内圧力の低下を抑止するために、中間階に配置された増圧ポンプの吸込側に圧力タンクを備える。
【発明の効果】
【0010】
この発明は以上のように構成し、運転制御を行なうので、既述した従来技術による中高層建物用増圧給水システムに比べて、下記のような作用効果を有する。
(1) 水道管の給水圧力が異なる地域においても共通した給水システムを供給することが出来る。
(2) 20階を越える高層建物の高層階にも、十分な給水を、特別な施設や器具を用いず、経済的に配置することが可能である。
(3) 従来に比べ低コストで設置が可能であり、省エネルギー制御の給水システムが構築される。
(4) 全階の給水が増圧ポンプユニットとそれに付属する制御装置によって行われ、一元的な給水システムの制御が可能であるので、遠隔監視・自動制御等のシステム構築に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上述したこの発明の実施態様として、逆流防止器、増圧ポンプ及びバイパス配管、圧力タンク等を備える増圧ポンプユニットIを、該逆流防止器を介して水道本管に直結させ、前記増圧ポンプユニット1の吐出側給水管の末端には、増圧ポンプ及びバイパス配管、圧力タンク等を備える増圧ポンプユニットIIを直結し、該増圧ポンプユニットIIの吐出側給水管の末端に、該増圧ポンプユニットIIと同構造の増圧ポンプユニットIII、IV・・・を順次直列に連結するとともに、各ポンプユニットは吸込側圧力発信器によって得られた吸込み側圧力を所定の給水圧力まで高めるよう、各増圧ポンプを運転制御する制御ユニットを備え、低階床層から高階床層に至るまで、所定の圧力で給水するようにする。そのため、水道管に直結された増圧ポンプユニットは、建物全体を給水することができる給水量を賄えるものとし、建物の1階または地階に配置される。
【実施例】
【0012】
図1に、この発明の概念図を示す。水道管10に直結された増圧ポンプユニット1は、低階床層の給水を担当し、水道管10からの吸込圧力を主として用いるので、増圧の程度は低いが、このユニット1に直結した建物全体を給水することができる給水量を賄えるものとし、建物の1階または地階に配置される。中間階床群用の増圧ポンプユニット2は、増圧ポンプユニット1の吐出側給水管の末端に直結される。増圧ポンプユニット1で保持していた配管内圧力の低下を抑止するために、中間階に配置された増圧ポンプユニット2の吸込側に、所定容量の圧力タンク4を備える。順次直結される高階床用増圧ポンプユニット3・・・の吸込み側にも、圧力タンク5・・・を備えることができる。
【0013】
図2に、水道管に直結される増圧ポンプユニット1の詳細な機構を示す。ユニット1は水道管10からの吸込側に、減圧式または二重式逆流防止器6を備える。また、増圧ポンプユニット1は2台のポンプP1,P2を平行配置し、ポンプの吐出側に圧力タンク7を備え、ポンプと平行したバイパス配管8と合わせた後、仕切弁9を介して次の増圧ポンプユニット2の吸込側に直結される。他の実施例では増圧ポンプユニット1に、3台のポンプP1、P2、P3(図示せず)を配置することもある。また、増圧ポンプユニット1の吸込側に圧力発信器11、吐出側に圧力発信器12を設け、この各発信器で検知した圧力値を制御装置13で受信し、予め定めた給水開始・停止圧力設定値、回転数設定値、昇圧目標値等と比較して、インバータ14を介してモータM1,M2を運転・停止させることにより、昇圧ポンプP1、P2の制御を行なう。
【0014】
図3に、前記増圧ポンプユニット1の吐出側に直結され、順次中高階床群の給水施設に最適圧力の給水を行なう増圧ポンプユニット2,3・・・の機構を示す。この構成は、図2に示した機構図における、増圧ポンプユニット1の吸込側の水道管への逆流防止器6を除いた他は、基本的に増圧ポンプユニット1と同一である。また、増圧ポンプユニット2.3・・・吸込側給水管には、図1に示す通り、圧力タンク4を設け、下階床群の増圧ポンプの給水量変化に伴う圧力追従性を容易にしている。
【0015】
次に各増圧ポンプユニット1,2,3・・・のポンプ運転制御について説明する。増圧ポンプユニット1,2,3・・・に具えられた吸込側圧力発信器11は、常に増圧ポンプの吸込側の圧力を検知し、増圧ポンプユニット1〜2間で水が使用された場合、増圧ポンプユニット1で予め設定した圧力(増圧ポンプユニット1〜2間で給水できる圧力)より高い圧力が示された場合は、増圧ポンプユニット1内に具備しているバイパス配管8で給水を行い、ポンプP1、P2は運転しない。
【0016】
吸込側圧力発信器11で検知した増圧ポンプユニット1の吸込側の圧力が、増圧ポンプユニット1で予め設定した圧力(増圧ポンプユニット1〜2間で給水できる圧力)以下の場合には、予め設定した目標圧力(増圧ポンプユニット1〜2間で給水できる圧力と異なる)となるようにポンプP1、P2の運転回転数を制御して給水を行う。
【0017】
増圧ポンプユニット2の吐出側で水が使用された場合、増圧ポンプユニット1の吐出側配管で保持している圧力で給水を続けることが可能な場合は、増圧ポンプユニット2に具備されているポンプP1、P2は起動せず、バイパス配管のみで給水を行なう。増圧ポンプユニット1の吐出側配管で保持している圧力で給水を続けることができない場合は、増圧ポンプユニット2に具備している吸込側圧力発信器11`で常に増圧ポンプユニット1の吐出側配管内の水圧を検知し、予め設定した目標圧力となるようにポンプの運転回転数を制御して給水を行う。以下、増圧ポンプユニット3・・・を設置した場合も、前記増圧ポンプユニット2と同様の給水制御を行なう。
【0018】
ちなみに、230戸、26階建てのモデル住宅で、従来の受水槽付き給水方式と、本発明の水道本管―増圧ポンプ直列給水方式での給水ユニットを試算して比較したところ、設置費用は2850万円から1200万円へ、またランニングコストは受水槽清掃費を含めて110万円/年であったものが62万円/年へと半減することが判明した。このように、本発明の増圧給水システムでは、設置コストが約58%の低減となるほか、ランニングコストは約44%となり、また適度の圧力制御のため設備の薄肉化、契約電力の低減等が図られ、設備費用が低減する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の増圧ポンプユニットの概念図である。
【図2】水道管に直結される増圧ポンプユニット1の機構を示す。
【図3】増圧ポンプユニット1に直結される増圧ポンプユニット2,3・・の機構を示す。
【符号の説明】
【0020】
1,2,3 増圧ポンプユニット
4、5 圧力タンク
6 逆流防止器
7 圧力タンク
8 バイパス配管
9 仕切弁
10 水道管
11 吸込側圧力発信器
12 吐出側圧力発信器
13 制御装置
14 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低階床群用増圧ポンプの吸込側を、逆流防止器を介して水道管に直結するとともに、該低階床群用増圧ポンプの吐出側を中間階床群用増圧ポンプの吸込側に直結し、更に該中間階床群用増圧ポンプの吐出側を高層階床群用増圧ポンプの吸込側に直結し、各階床用増圧ポンプは夫々独立して各増圧ポンプの吐出側圧力を検知して起動・停止、または目標圧力を維持するようにポンプの運転回転数を制御する制御装置を設けた、中高層建物用増圧給水システム。
【請求項2】
中間階床群増圧ポンプが運転を開始した場合、その増圧ポンプの吸込側圧力が少なくとも0.098MPa(1.0kgf/cm2)以上に保たれるように、その下側の階床群の増圧ポンプの吐出圧力は上側の階床群の増圧ポンプ吸込側圧力で0.147MPa(1.5kgf/cm2)乃至 0.196MPa(2.0kgf/cm2)の押込圧力を保つように圧力制御する制御装置を備えた、請求項1に記載の中高層建物用増圧給水システム。
【請求項3】
中間階に配置された増圧ポンプの吸込側に圧力タンクを備えた、請求項1に記載の中高層建物用増圧給水システム。
【請求項4】
逆流防止器、増圧ポンプ及びバイパス配管、圧力タンク等を備える増圧ポンプユニットIを、該逆流防止器を介して水道本管に直結させ、前記増圧ポンプユニットIの吐出側給水管の末端には、増圧ポンプ及びバイパス配管、圧力タンク等を備える増圧ポンプユニットIIを直結し、該増圧ポンプユニットIIの吐出側給水管の末端に、該増圧ポンプユニットIIと同構造の増圧ポンプユニットIII、IV・・・を順次直列に連結するとともに、各ポンプユニットは吸込側圧力発信器によって得られた吸込み側圧力を所定の給水圧力まで高めるよう、各増圧ポンプを運転制御する制御ユニットを備え、低階床層から高階床層に至るまで、所定の圧力で給水するようにした、請求項1に記載の中高層建物用増圧給水システム。
【請求項5】
中間階床群増圧ポンプが運転を開始した場合、その増圧ポンプの吸込側圧力が少なくとも0.098MPa(1.0kgf/cm2)以上に保たれるように、その下側の階床群の増圧ポンプの吐出圧力は上側の階床群の増圧ポンプ吸込側圧力で0.147MPa(1.5kgf/cm2)乃至0.196MPa(2.0kgf/cm2)の押込圧力を保つように圧力制御する制御ユニットを備えた、請求項4に記載の中高層建物用増圧給水システム。
【請求項6】
中間階に配置された増圧ポンプの吸込側に圧力タンクを備えた、請求項4に記載の中高層建物用増圧給水システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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