説明

主としてGLCNACMAN3GLCNAC2糖形態を含む免疫グロブリン

主としてGlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造から成るN結合型グリコシル化パターンを有する免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを含む組成物および組成物を産生する方法が開示されている。このGlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造は、FcγRiπレセプターに対する結合を増加させ、FcγRHレセプターに対する結合を減少させる効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2から成るN結合型グリコシル化パターンを有する免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを含む組成物および組成物を生産する方法に関する。GlcNAcMan3GlcNAc2 Nグリカン構造は、免疫グロブリンの特異的エフェクター機能に及ぼす調節的な効果を有する。
【背景技術】
【0002】
糖タンパク質は、触媒作用、シグナル伝達、細胞間連絡、ならびに分子認識および分子集合を含むヒトおよび他の哺乳動物における多くの必須な機能を仲介する。糖タンパク質は、真核生物で大部分の非サイトゾルタンパク質の大部分を構成する(LisとSharon、1993、Eur.J.Biochem.218:1〜27)。多くの糖タンパク質は治療目的に利用され、この20年間に天然の糖タンパク質の組換え型は、バイオテクノロジー産業の大きな部分となっている。治療薬として用いられる組換え型グリコシル化タンパク質の例には、エリスロポイエチン(EPO)、治療用モノクローナル抗体(mAb)、ティシュープラスミノーゲンアクティベーター(tPA)、インターフェロンγ(IFN−γ)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、およびヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(hCH)が含まれる(Cummingら、1991、Glycobiology 1.115〜130)。組換えにより産生された糖タンパク質のグリコシル化パターンの変動は、臨床でアプローチする可能性のある予防薬および治療薬として生産される組換え型タンパク質として、科学界で最近非常に注目されたトピックスであった。
【0003】
抗体または免疫グロブリンは、体液性免疫応答における中心的な役割を果たす糖タンパク質である。抗体は、体液性と細胞性の防御メカニズムを結び付けているアダプター分子と見なし得る。抗体による抗原特異的認識は、複数のエフェクターメカニズムを活性化する可能性のある免疫複合体の形成を生じ、この複合体の除去と破壊を生じる。免疫グロブリン(Ig)の一般的なクラスの中で、抗体の5つのクラス(アイソタイプ)であるIgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEを、生化学的ならびに機能的に識別することができるが、可変部分領域に限定されたごくわずかな差異が、抗原結合の特異性の原因となる。免疫グロブリンのこれらの5つのクラスの中に、ラムダ(λ)とカッパー(κ)と呼ばれるL鎖の2つのタイプのみが存在する。λまたはκ鎖を有する抗体間に機能的な差異は見いだされてなく、L鎖の2つのタイプの割合は、生物種の間で異なる。5つのH鎖クラスまたはアイソタイプがあり、これらが抗体分子の機能的活性を決定する。それぞれの免疫グロブリンアイソタイプは、免疫応答において特定の機能を有し、これらの特有の機能的な特性は、H鎖のカルボキシ末端部分により付与され、この特性はL鎖とは関連していない。IgGは、血漿中で最も豊富な免疫グロブリンアイソタイプである(例えばImmunobiology、Janewayら、第6版、2004、Garland Publishing、New Yorkを参照のこと)。
【0004】
IgG分子は、不変および可変領域を有するFab(抗原結合フラグメント)ドメインならびにFc(結晶化するフラグメント)ドメインを含む。それぞれのH鎖のCH2ドメインは、N−グリカンを免疫グロブリン分子に結合するアスパラギン残基、通常アスパラギン残基297(Asn−297)において、N結合型グリコシル化のための単一の部位を含んでいる(Kabatら、Sequences of proteins of immunological interest、第5版、U.S.Department of Health and Human Services、NIH Publication No.91〜3242)。
【0005】
N結合型オリゴ糖の構造的および機能的側面の分析は、3つの主な理由で生物学的興味がもたれている。すなわち、(1)CH2ドメインのグリコシル化は、進化の過程で保存され、オリゴ糖の重要な役割が示唆されている;(2)免疫グロブリン分子は、オリゴ糖の不均一性の分析のためのモデル系として役立つ(RademacherとDwek、1984;Rademacherら、1982);および(3)抗体は、2つのH鎖の二量体会合を含み、2オリゴ糖単位を互いに直接に接触させて配置して、その結果、免疫グロブリン分子は、特異的タンパク質と糖質の相互作用および糖質間の相互作用の両方を含む。
【0006】
免疫グロブリンの異なるグリコシル化パターンは、異なる生物学的性質と関連していることが示されている(JefferisとLund、1997 Antibody Eng.Chem.Immunol.、65:111〜128;WrightとMorrison、1997 Trends Biotechnol、15:26〜32)。しかし、ほんの少数の特異的糖形態だけが、所望の生物学的機能を与えることが知られている。例えば、N結合型グリカンでフコシル化の減少した免疫グロブリン組成物は、ヒトFcγRIIIへの結合が増強し、したがって、抗体依存性細胞傷害(ADCC)が増強することが報告されていることが示された(Shieldsら、2002、J.Biol Chem、277:26733〜26740;Shinkawaら、2003、J.Biol.Chem.278:3466〜3473)。そして、CHO細胞で作られたフコシル化されたG2(Gal2GlcNAc2−Man3GlcNAc2)IgGの組成物は、報告によれば、異種起源抗体の組成物よりもはるかに大きく補体依存性細胞傷害作用(CDC)活性を増加させる(Raju、2004、米国特許出願公開第2004/0136986号)。また、腫瘍に対する最適な抗体は、優先的に結合してFcレセプター(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIII)を活性化し、阻害性FcγRIIbレセプターには最小限に結合する抗体であることが示唆されている(Clynesら、2000、Nature、6:443〜446)。したがって、免疫グロブリン糖タンパク質の特異的糖形態を富化させる能力が強く望まれている。
【0007】
一般に、糖タンパク質のグリコシル化構造(オリゴ糖)は、発現宿主および培養条件により異なる。非ヒト宿主細胞で産生される治療用のタンパク質は、ヒトで免疫原性応答を誘発し得る非ヒトグリコシル化、例えば、酵母菌におけるハイパーマンノシル化(Ballou、1990、Methods Enzymol.185:440〜470);植物における、α(1,3)−フコースおよびβ(1,2)−キシロース(Cabanes−Macheteauら、1999、Glycobiology、9:365〜372);チャイニーズハムスター卵巣細胞におけるN−グリコリルノイラミン酸(Noguchiら、1995.J.Biochem.117−5〜62)およびマウスにおけるGalα−1,3Galグリコシル化(Borrebaeckら、1993,Immun.Today,14:477〜479)を含む可能性がある。さらにまた、ガラクトシル化は細胞の培養条件での異なる可能性があり、このことは、いくらかの免疫グロブリン組成物をその組成物の特異的なガラクトースパターンによって免疫原性にさせる可能性のある(Patelら、1992.Biochem J.285:839〜845)。非ヒト哺乳動物細胞により産生される糖タンパク質のオリゴ糖構造は、ヒト糖タンパク質のオリゴ糖構造により密接に関連する傾向がある。したがって、ほとんどの市販の免疫グロブリンは、哺乳動物細胞で産生されている。しかし、哺乳動物細胞は、タンパク質生産用の宿主細胞としていくつかの重大な欠点を有する。哺乳動物細胞でタンパク質を発現するプロセスは、コストのかさむことに加えて、糖形態の不均一な集団を生じ、低い容積測定による力価(volumetric titer)を有し、安定な細胞株を構築するために、継続的なウイルスの混入とかなりの時間との両方を必要とする。
【0008】
異なる糖形態は、薬物動態、薬力学、レセプターの相互作用および組織特異的ターゲッティングが挙げられる治療用の糖タンパク質の特性に、著しい影響を与え得ることが理解されよう(Graddisら、2002、Curr Pharm Biotechnol.3:285〜297)。特に、免疫グロブリンに対して、このオリゴ糖構造は、プロテアーゼ抵抗性、FcRnレセプターにより媒介される抗体の血清中半減期、補体依存性細胞傷害作用(CDC)を誘導する補体複合体C1への結合、および抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)経路の調節に関与するFcγRレセプターへの結合、食作用ならびに抗体フィードバックに関連する特性に影響を及ぼすことができる(NoseとWigzell、1983;LeatherbarrowとDwek、1983、Leatherbarrowら、1985;Walkerら、1989、Carterら、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:4285〜4289)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
異なる糖形態は異なる生物学的特性と関連しているので、1つまたは複数の特異的糖形態を富化させる能力を、特異的糖形態と特異的生体機能との間の関連性を解明するために用いることができる。所望の生体機能を特異的糖形態パターンと結び付けた後、有利な糖形態構造を富化させた糖タンパク質組成物を生産できる。したがって、特定の糖形態を富化させた糖タンパク質組成物を生産する能力が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを含む組成物であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより前記組成物は、前記主要なN−グリカンの種が、本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含む組成物を提供する。したがって、本発明は、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンまたはフラグメントを含む組成物を提供する。
【0011】
特定の実施形態においては、複数のN−グリカンの20モルパーセントより多くが、本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成る。さらに別の実施形態においては、複数のN−グリカンの50モルパーセントより多くが、本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成る。さらに別の実施形態においては、複数のN−グリカンの75モルパーセントより多くが、GlcNAcMan3GlcNAc2から本質的に成る。さらに別の実施形態においては、複数のN−グリカンの90パーセント以上が、GlcNAcMan3GlcNAc2から本質的に成る。他の実施形態では、GlcNAcMan3GlcNAc2のN−グリカン構造は、前記複数のN−グリカンの次に最も主要なN−グリカン構造よりも約5モルパーセントから約50モルパーセント多いレベルで存在する。さらに、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する抗CD20抗体を含む組成物が提供される。
【0012】
本明細書の組成物を含む免疫グロブリンまたはフラグメントは、FcγRIIaおよび/またはFcγRIIbレセプターに対する結合親和性の減少を示し、FcγRIIIaおよび/またはFcγRIIIbレセプターに対する結合親和性の増加を示す。したがって、1つの態様においては、本発明は、複数の免疫グロブリンまたはフラグメントを含む組成物であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより前記組成物は、前記主要なN−グリカンが本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成り、前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、FcγRIIaおよび/またはFcγRIIbレセプターに対する結合親和性の減少を示す複数のN−グリカンを含む組成物を提供する。他の態様では、本発明は複数の免疫グロブリンまたはフラグメントを含む組成物であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより前記組成物は複数のN−グリカンを含み、主要なN−グリカンは本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成り、前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、FcγRIIIaおよび/またはFcγRIIIbレセプターに対する結合親和性の増加を示す組成物を提供する。
【0013】
さらなる態様においては、本発明は、複数の免疫グロブリンまたはフラグメントを含む組成物であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより前記組成物は、前記主要なN−グリカンが本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成り、前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)の増加を示すことが期待される複数のN−グリカンを含む組成物を提供する。
【0014】
本発明のさらに別の態様においては、本発明の上記の組成物は、フコースを本質的に含まないかまたはフコースを欠く免疫グロブリンまたはフラグメントを含む。
【0015】
また本発明の組成物は、医薬組成物および薬剤学的に許容し得る担体を含む。本発明の組成物はまた、精製され診断キットに組み込まれた免疫グロブリンまたはフラグメントの医薬組成物を含む。
【0016】
本発明はさらに、複数の免疫グロブリンまたはフラグメントを含む上述の組成物のいずれか1つを生産する方法であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより前記組成物は、前記主要なN−グリカンがGlcNAcMan3GlcNAc2から本質的に成る複数のN−グリカンを含む方法を提供する。1つの態様において、本方法は、この免疫グロブリンまたはフラグメントを発現するように遺伝子操作されているかまたは選択された宿主細胞、好ましくは真核生物宿主細胞を培養するステップを含む。特定の態様では、宿主細胞は、免疫グロブリンまたはフラグメントをコードする外来性遺伝子を含む。宿主細胞は、GlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカンが富化される糖タンパク質を産生するように遺伝子操作されているかまたは設計されていることが好ましい。したがって、特定の態様では、宿主細胞は、α−1,2−マンノシダーゼ、マンノシダーゼII、UDP−GlcNAcトランスポータ、およびGlcNAcトランスフェラーゼ(GnT1)から成る群から選択される1つまたは複数の外来性遺伝子を含む。また上記宿主細胞は、OCH1およびホモログによってコードされるα−1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性を欠損していることが好ましい。さらなる実施形態では、また上記の宿主細胞は、マンノシルリン酸化活性を欠損しており、さらに別の実施形態においては、また上記宿主細胞はβ−マンノシル化活性を欠損している。したがって、本発明は、複数の免疫グロブリンまたはフラグメントを含む組成物を産生する方法であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより前記組成物は、前記主要なN−グリカンが本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含み、(a)上記真核生物宿主細胞を提供することと;(b)真核生物宿主細胞が免疫グロブリンまたはフラグメントを生産するのに十分な時間、培地中で真核生物宿主細胞を増殖させることと;(c)免疫グロブリンまたはフラグメントを分離して組成物を生産することとを含む方法を提供する。
【0017】
好ましい態様では、宿主細胞は、下等真核生物である。下等な真核細胞には、酵母菌、真菌、襟鞭毛虫類、微胞子虫類、アルベオラータ(alveolates)(例えば、渦べん毛虫)、ストラメノパイル(stramenopiles)(例えば、褐藻類、原生動物)、紅色植物(例えば、紅藻類)、植物(例えば、緑藻類、植物細胞、コケ)および他の原生生物が挙げられる。酵母菌および真菌には、限定されるものではないが、ピチア属種、例えばPichia pastoris、Pichia finlandica、Pichia trehalophila、Pichia koclamae、Pichia membranaefaciens、Pichia minuta(Ogataea minuta、Pichia lindneri)、Pichia opuntiae、Pichia thermotolerans、Pichia salictaria、Pichia guercuum、Pichia pijperi、Pichia stiptis、およびPichia methanolica、サッカロミセス属種、例えばSaccharomyces cerevisiae;ハンゼヌラポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイヴェロマイセス属種、例えばKluyveromyces lactis;カンジダアルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルスニドゥランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルスオリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマリーゼイ(Trichoderma reesei)、Chrysosporium lucknowense、フザリウム属種、例えばFusarium gramineum、Fusarium venenatum、Physcomitrella patens、およびアカパンカビ(Neurospora crassa)が挙げられる。本発明の好ましい下等真核生物には、限定されるものではないが、Pichia pastoris、Pichia finlandica、Pichia trehalophila、Pichia koclamae、Pichia membranaefaciens、Pichia opuntiae、Pichia thermotolerans、Pichia salictaria、Pichia guercuum、Pichia pijperi、Pichia stiptis、Pichia methanolica、ピチア属種、Saccharomyces cerevisiae、サッカロミセス属種、ハンゼヌラポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイヴェロマイシス属種、Kluyveromyces lactis、Candida albicans、アスペルギルスニドゥランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルスオリゼ(Aspergillus oryzue)、トリコデルマリーゼイ(Trichoderma reseei)、Chrysosporium lucknowense、フザリウム属種、Fusarium gramineum、Fusarium venenatum、およびアカパンカビ(Neurospora crassa)が挙げられる。
【0018】
したがって、本発明はさらに、さらに複数の免疫グロブリンまたはフラグメントを含む上述の組成物のいずれか1つを産生する方法であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより前記組成物は、下等真核生物宿主細胞において、主要なN−グリカンが本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含む方法を提供する。特定の態様では、下等真核生物宿主細胞は、免疫グロブリンまたはフラグメントをコードする外来性遺伝子を含み、宿主細胞は、GlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカンに関して富化されている糖タンパク質を産生するように遺伝子操作されたかまたは設計されている。したがって、特定の態様では、下等真核生物宿主細胞は、α−1,2−マンノシダーゼ、マンノシダーゼII、GlcNAcトランスフェラーゼ(GnT1)、およびUDP−GlcNAcトランスポータから成る群から選択される1つまたは複数の外来性遺伝子を含む。上記の下等真核生物宿主細胞は、上述した外来性遺伝子のそれぞれを含むことが好ましい。上記の下等真核生物宿主細胞はまた、遺伝子OCH1pまたはそれらのホモログによってコードされるα−1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性を欠損していることが好ましい。さらなる実施形態では、上記の下等真核生物宿主細胞はまた、マンノシルリン酸化活性を欠損しており(PNO1およびMNN4b遺伝子の欠失または破損)、さらに別の実施形態においては、上記の真核生物宿主細胞は、β−マンノシル化活性も欠損している(β−マンノシル化に関与する1つまたは複数の遺伝子の欠失または破損)。したがって、本発明は、複数の免疫グロブリンまたはフラグメントを含む組成物を生産する方法であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより組成物は、主要なN−グリカンがGlcNAcMan3GlcNAc2から本質的に成る複数のN−グリカンを含み、(a)上記の下等真核生物宿主細胞を提供することと;(b)下等真核生物宿主細胞が免疫グロブリンまたはフラグメントを生産するのに十分な時間、培地中で下等真核生物宿主細胞を増殖させることと;(c)免疫グロブリンまたはフラグメントを分離して組成物を生産することとを含む方法を提供する。
【0019】
本発明はさらに、GlcNAcMan3GlcNAc2が主要なN−グリカンである免疫グロブリンを発現するように設計するかまたは選択した上述の宿主細胞の1つで、FcγRIIIaおよび/またはFcγRIIIbレセプターに対する免疫グロブリンまたはフラグメントの結合を増加させ、FcγRIIaおよび/またはFcγRIIbレセプターに対する免疫グロブリンの結合を減少させる方法、または免疫グロブリンを生産することによりADCCを増加させる方法を提供する。
【0020】
特に定めのない限り、本発明に関連して使用される科学的および技術的な用語および語句は、当業者が通常理解する意味を有する。さらに文脈で必要とされるのでない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含む。一般に、生化学、酵素学、分子生物学および細胞生物学、微生物学、遺伝学、タンパク質および核酸化学とハイブリッド形成に関連して使用される命名法ならびに技術は、よく知られかつ当業界において一般的に使用されているものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
定義
特記しない限り、以下の用語は以下の意味を有することを理解されたい。
【0022】
本明細書中で用いられる用語「抗体」、「免疫グロブリン」、「免疫グロブリン(複数)」および「免疫グロブリン分子」は、交換可能に使用される。それぞれの免疫グロブリン分子は、その免疫グロブリン分子がその特異抗原に結合することができるが、本明細書に記載されるように全ての免疫グロブリンは、同じ全体的構造を有するある特有の構造を有している。基本的な免疫グロブリンの構造単位は、サブユニットの四量体を含むことが知られている。それぞれの四量体は、2つの同じ1組のポリペプチド鎖を有し、それぞれの1組は1つの「L」鎖(約25kDa)および1つの「H」鎖(約50〜70kDa)を有する。それぞれの鎖のアミノ末端部分は、主として抗原認識を担う約100〜110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を含む。それぞれの鎖のカルボキシ末端部分は、主としてエフェクター機能を担う定常領域を定める。L鎖は、カッパーまたはラムダのいずれかに分類される。H鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンとして分類され、抗体のアイソタイプを、それぞれIgG、IgM、IgA、IgDとIgEと定める。
【0023】
LおよびH鎖は、可変領域および定常領域に再分割される(一般に、Fundamental Immunology(Paul,W.編、第2版、Raven Press,N.Y.、1989),第7章を参照のこと)。それぞれのL/H鎖の1組の可変領域は、抗体が結合する部位を形成する。したがって、完全な抗体は、2つの結合部位を有する。二機能性または二重特異性抗体を除き、2つの結合部位は同一である。この鎖は、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)に、相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる3つの超可変領域が結合している全て同じ一般的な構造を示す。この2つの鎖のCDRのそれぞれ1組は、フレームワーク領域によって位置調整され、特異的エピトープに結合できる。この用語は、天然の形態ならびにフラグメントおよび誘導体を含む。この用語の範囲に含まれるものとして、免疫グロブリン(Ig)のクラス、すなわちIgG、IgA、IgE、IgMおよびIgDが存在する。またこの用語の範囲に含まれるものとして、IgGのサブタイプ、すなわちIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4が存在する。この用語は、最も広い意味で用いられ、単一のモノクローナル抗体(アゴニストおよびアンタゴニスト抗体を含む)ならびに複数のエピトープまたは抗原に結合する抗体組成物を含む。この用語は、具体的にはモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異的抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体フラグメントが、CH2ドメインのN結合型グリコシル化部位またはそれらの変異体を含むH鎖免疫グロブリン定常領域のCH2ドメインの少なくとも一部を含んでいるかまたは修飾されて含んでいる限りは、抗体フラグメントを包含する。この用語に含まれるものには、Fc領域のみ、例えばイムノアドヘシン(米国特許出願公開第20040136986号)、Fc融合、および抗体様分子を含む分子がある。あるいは、これらの用語が、少なくともN結合型グリコシル化部位を含む少なくともFab領域の抗体フラグメントを意味する場合がある。
【0024】
用語「Fc」フラグメントは、CH2およびCH3ドメインを含む抗体の『結晶化したフラグメント』C末端領域を意味する(図1)。用語「Fab」フラグメントは、VH、CH1、VLおよびCLドメインを含む抗体の『抗原結合フラグメント』領域を意味する(図1を参照)。
【0025】
本明細書中で用いられる用語「モノクローナル抗体」(mAb)は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を意味する。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る可能な天然に生じる変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は特異性が非常に高く、単一の抗原部位に対して向けられている。さらにまた、異なる決定基(エピトープ)に向けられた異なる抗体を一般的に含む通常の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、それぞれのmAbは抗原の単一の決定基に向けられている。これらの特異性に加えて、モノクローナル抗体はハイブリードーマ培養により合成でき、他の免疫グロブリンにより汚染されていないという点で有利である。用語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集団から得られるものとしての抗体の特徴を示し、いずれかの特定の方法による抗体の生産を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って用いられるモノクローナル抗体は、Kohlerら、(1975)Nature、256:495、により最初に記載されたハイブリードーマ法により作ることができるか、または組換え型DNA方法により作製することができる(例えば、米国特許第4,816,567号(Cabillyらによる)を参照のこと)。
【0026】
用語「抗体」または「免疫グロブリン」の範囲内の用語「フラグメント」としては、フラグメントが標的分子に特異的に結合する能力を保持する限り、種々のプロテアーゼの消化により生成されたフラグメント、化学的な切断および/または化学的な分離により生成されたフラグメント、ならびに組換えにより生成されたフラグメントが挙げられる。このようなフラグメントには、Fc、Fab、Fab’Fv、F(ab’)2、および単一鎖Fv(scFv)フラグメントがある。以下において、用語「免疫グロブリン」は、また同様に用語「フラグメント」を含む。
【0027】
免疫グロブリンとしてはさらに、配列が改変されたが標的分子に特異的に結合する能力を保持する免疫グロブリンまたはフラグメントが挙げられ、異種間のキメラ抗体およびヒト化抗体、抗体融合物、ヘテロメリック抗体複合体および抗体融合物、例えばダイアボディ(diabody)(二重特異性抗体)、単鎖ダイアボディ、ならびにイントラボディ(intrabody)が挙げられる(例えば、Intracellular Antibodies:Research and Disease Applications,(Marasco、編、Springer−Verlag New York、Inc.、1998を参照のこと)。
【0028】
本明細書中で用いられる用語「本質的に…から成る」とは、明示されたもの(integer)に実質的に影響を及ぼすかもしくは変更する改変または他のものを除外する一方で、明示されたものまたはそのものの集団を包含することを意味するように理解される。N−グリカンの種類に関して、「本質的に」明示されたN−グリカン「から成る」という用語は、糖タンパク質のアスパラギン残基に直接結合しているN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)においてそのN−グリカンがフコシル化されているかどうかに関係なく、N−グリカンを含むように理解される。
【0029】
本明細書中で用いられる用語「主として」または「主要な」もしくは「主要である」などのバリエーションは、糖タンパク質をPNGアーゼで処理し、放出されたグリカンを質量分析法、例えばMALDI−TOF MSまたはHPLCにより分析した後の中性N−グリカン合計のうちの最高のモルパーセント(%)を有するグリカン種を意味することが理解されるであろう。換言すれば、語句「主に」とは、他のどんな個々の物質よりも大きなモルパーセントで存在する特定の糖形態のような個別の物質として定める。例えば、ある組成物が、40モルパーセントで種類Aから成り、35モルパーセントの種類Bから成り、かつ25モルパーセントの種類Cから成る場合は、この組成物は主に種類Aを含み、種類Bは次に最も主要な種類である。一部の宿主細胞は、中性のN−グリカンおよびマンノシルホスフェートなどの荷電したN−グリカンを含む組成物を生成し得る。したがって、糖タンパク質の組成物は、複数の荷電および非荷電または中性のN−グリカンを含むことができる。本発明で、このことは、GlcNAcMan3GlcNAc2が主要なN−グリカンである組成物中の複数の中性N−グリカン全ての文脈の範囲内である。したがって、本明細書中で用いられる「主要なN−グリカン」とは、組成物中の複数の中性N−グリカン全てのうちの主要なN−グリカンがGlcNAcMan3GlcNAc2であることを意味する。
【0030】
本明細書中で用いられる、フコースまたはガラクトース等の特定の糖残基を「本質的に含まない」という用語は、この糖タンパク質組成物がこのような残基を含むN−グリカンを実質的に欠いていることを示すために用いられる。純度に関して表現される、本質的に含まないとは、上記の糖残基を含むN−グリカン構造の量が10%を超えなく、好ましくは5%未満であり、より好ましくは1%未満であり、最も好ましくは0.5%未満であり、このパーセンテージは重量またはモルパーセントであることを意味する。したがって、本発明に従う糖タンパク質組成物中の実質的に全てのN−グリカン構造は、フコース、ガラクトース、またはこの両方を含まない。
【0031】
本明細書において用いた場合、フコースまたはガラクトースなどの糖残基の検出可能な量が常にN−グリカン構造に存在しない場合は、糖タンパク質組成物は、このような特定の糖残基を「欠く」または「欠いている」。例えば、本発明の好ましい実施形態では、この糖タンパク質組成物は、上記で定義された酵母菌(例えば、ピチア属種、サッカロミセス属種、クルイヴェロマイシス属種、アスペルギルス属種)を含む下等真核生物により産生され、これらの生物の細胞はフコシル化されたN−グリカン構造の産生に必要な酵素を有していないので、「フコースを欠いている」。したがって、用語「フコースを本質的に含まない」は、用語「フコースを欠いている」を包含する。しかし組成物が一時期、フコシル化されたN−グリカン構造を含んでいたか、または上記のようなフコシル化されたN−グリカン構造の限られた量ではあはるが検出可能な量を含んでいるとしても、この組成物は「フコースを本質的に含まない」ことがあり得る。
【0032】
抗体および抗体−抗原複合体と免疫系細胞との相互作用、ならびに抗体依存性細胞媒介性傷害作用(ADCC)および種々の応答(補体依存性細胞傷害作用(CDC)、免疫複合体のクリアランス(食作用)、B細胞による抗体産生とIgGの血清中半減期が挙げられる)が以下でそれぞれ定められる:Daeronら、1997 Annu.Rev Immunol.15:203〜234;WardとGhetie、1995、Therapeutic Immunol.2:77〜94;CoxとGreenberg、2001、Semin.Immunol.13:339〜345;Heyman、2003、Immunol.Lett.88:157〜161,およびRavetch、1997 Curr.Opin.Immunol.9 121〜125。
【0033】
本発明は、複数のN−グリカンを有する免疫グロブリンまたはフラグメントの集団を含み、主要なN−グリカンが本質的に構造GlcNAcMan3GlcNAc2から成る組成物を提供する。GlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造は、詳細には[(GlcNAcβ1,2−Manα1,3)(Manα1,6)Manβ1,4−GlcNAcβ1,4−GlcNAc]と表示することができる。
【0034】
本明細書で本発明者らは、免疫グロブリン上のGlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカンが特定の抗体エフェクター機能に影響を及ぼすことを示している。例えば、本明細書で示すように、免疫グロブリンを含み、主要なN−グリカンがGlcNAcMan3GlcNAc2であり、この免疫グロブリンは、FcγRIIIa−LFレセプターおよびFcγRIIIa−LVレセプターに対する直接的な結合活性の増加を有し、FcγRIIbレセプターに対する直接的な結合活性の減少(または欠如)を有する組成物。上記の結合活性を考慮するならば、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンは、食細胞活動の減少を達成しながら、ADCC活性を増加させること、またはB細胞による抗体産生を増加させることのような他の抗体エフェクター機能を媒介することが期待される。したがって、組成物は、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する複数の免疫グロブリンを含み、その中の免疫グロブリンは、FcγRIIIレセプターに対する結合活性の増加とFcγRIIレセプターに対する結合活性の減少とを有する。したがって、この組成物はADCC活性の増加、B細胞による抗体産生の増加、および食作用の減少をもたらすことが期待される。
【0035】
本発明はさらに、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを含む組成物を生産する方法を提供する。主要な糖形態を有する免疫グロブリン組成物を生産する利点は、この生産により、望ましくない効果を誘導し得、かつ/またはさらに有効な免疫グロブリン糖形態の濃度を希薄にし得る、望ましくない糖形態を有する免疫グロブリンの生産および/または免疫グロブリンの不均一な混合物の生産を避けることである。したがって、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを含む医薬組成物は、より少ない用量で有効で、したがってより高い有効性または効能を有するかもしれないことが予想される。
【0036】
1つの態様において、この組成物を含む免疫グロブリン分子は、Fc領域のH鎖CH2ドメインのアスパラギン残基番号297(Asn−297)でGlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造を有し、ここで末端GlcNAc(N−アセチル−β−D−グルコサミン)のヒドロキシル基が297位のアスパラギンのアミド基に共有結合している。Fc領域は、免疫グロブリン分子において抗体エフェクター機能を媒介する。このGlcNAcMan3GlcNAc2グリカン構造は、二量体化免疫グロブリンのそれぞれのCH2領域のそれぞれのAsn−297残基上にあることが好ましい(図1を参照)。したがって、Asn−297の主要な糖形態が、GlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造である免疫グロブリンの組成物が提供される。あるいは免疫グロブリン分子に見出される1つまたは複数の他の炭水化物部分を、この分子から除去および/または分子に付加でき、したがって免疫グロブリンのグリコシル化部位の数を追加するかまたは削除できる。さらに、免疫グロブリン分子のCH2領域内のN結合型グリコシル化部位の位置は、免疫グロブリン分子内の1つまたは複数の他の部位で、アスパラギンまたは他のN−グリコシル化部位を導入することにより変更できる。
【0037】
Asn−297は、マウスのおよびヒトIgG分子に通常見出されるN−グリコシル化部位であるが(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、1991)、Asn−297部位は、グリコシル化できる免疫グロブリン分子の唯一の部位ではなく、機能のために維持されなければならない部位でもない。突然変異誘発のための既知の方法を用いて、免疫グロブリンをコードする核酸分子を、Asn−297を含むN−グリコシル化部位をコードする核酸配列をN−グリコシル化に対して機能しないように欠失するかまたは変更するように改変でき、N−グリコシル化部位をコードする核酸配列を、免疫グロブリン分子をコードするこの核酸内の別の位置に導入して、天然ではない位置で主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを生産するように改変できる。N−グリコシル化部位をコードする新たな核酸配列を、上記の核酸(またはAsn−297N−グリコシル化部位をコードする核酸に)に導入して、GlcNAcMan3GlcNAc2が、分子内の2つ以上の部位における主要なN−グリカンであるN−グリカンを有する免疫グロブリン分子を作製することができる。しかし、N−グリコシル化部位は、免疫グロブリン分子のCH2領域中に形成することが好ましい。しかし、免疫グロブリンのFab領域のグリコシル化が、血清抗体のうち30%に記載されており、これは一般にAsn−75に見出される(Rademacherら、1986、Biochem.Soc.Symp.、51.131〜148)。したがって、免疫グロブリン分子のFab領域のグリコシル化は、Fc領域におけるN−グリコシル化に関連して組み合わせることができる追加の部位であるか、または単独のものである。
【0038】
一般には、この組成物は、主要なN−グリカンが、組換え型免疫グロブリン組成物の次に主要なN−グリカン構造よりも少なくとも約5モルパーセント多いレベルで存在するGlcNAcMan3GlcNAc2である免疫グロブリンを含む。好ましい実施形態では、このGlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造が、組換え型免疫グロブリン組成物の次に主要なN−グリカン構造よりも少なくとも約10モルパーセントから約25モルパーセント多いレベルで存在する。さらに好ましい実施形態では、GlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造が、組換え型免疫グロブリン組成物の次に主要なN−グリカン構造よりも少なくとも約25モルパーセントから約50モルパーセント多いレベルで存在する。さらに好ましい実施形態では、GlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造が、組換え型免疫グロブリン組成物の次に主要なN−グリカン構造より多い約50モルパーセントを超えるレベルで存在する。さらに好ましい実施形態では、GlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造が、組換え型免疫グロブリン組成物の次に主要なN−グリカン構造より多い約75モルパーセントを超えるレベルで存在する。最も好ましい実施形態では、GlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造が、組換え型免疫グロブリン組成物の次に主要なグリカン構造より多い約90モルパーセントを超えるレベルで存在する。
【0039】
免疫グロブリンサブクラスは、Fcレセプターに対する異なる結合親和性を有することが示されている(Huizingaら、1989、J.of Immunol.、142:2359〜2364)。サブクラスのそれぞれは、本発明の異なる態様で特別な利点を提供する可能性がある。したがって、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはそれらの混合物を含み、主要なN−グリカンがGlcNAcMan3GlcNAc2である組成物が提供される。さらなる実施形態では、GlcNAcMan3GlcNAc2が主要なN−グリカンである免疫グロブリンが、IgA、IgD、IgE、IgMおよびIgGから成る群から選択される組成物が提供される。しかし、好ましい免疫グロブリンは、サブタイプIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4から成る群から選択されるヒトIgGまたはヒト化IgGである。より好ましくは、免疫グロブリンはIgG1サブタイプであることが好ましい。
【0040】
好ましくは、この組成物は、宿主細胞に導入されたとき、GlcNAcMan3GlcNAc2が主要なN−グリカンである糖タンパク質を生産する核酸によりコードされるモノクローナル免疫グロブリン(抗体)を含んでいる。本明細書でモノクローナル抗体には、例えば「ヒト化抗体」が含まれる。ヒト化抗体は、相補性決定領域(CDR)移植により得ることができる(R.KontermannとS.Duebel(2001)Recombinant antibodies−Laboratory Manuals.Springer Verlag ISBN 3−540−41354−5およびこの中の参考文献)。CDR移植は、ヒト抗体の超可変ループをモノクローナル抗体(例えばマウス)の超可変ループで置換することから成る。他の方法は、「リサーフェーシング(re−surfacing)」が挙げられる(DuebelとKontermann(2001)、Roguskaら、(1996)。CDR移植および可変ドメインのリサーフェーシングによりヒト化した2つのマウスのモノクローナル抗体の比較(A comparison of two murine monoclonal anitbodies humanized by CDR-grafting and variable domain resurfacing)。Prot Eng.9:895〜904)。抗体をヒト化するさらに別の方法は、V遺伝子をシャッフリングすることおよび抗原に対して選択することから成る。V遺伝子のシャッフリングは、これらに制限されるものではないが、ファージディスプレイを用いて実施できる(DuebelとKontermann(2001)、Jespersら、(1994)。ファージディスプレイレパートリーから単一のエピトープへヒト抗体の選択を誘導すること(Guiding the selection of human antibodies from pharge-display repertoires to a single epitope)。Bio/Technol 12:899〜903)。したがって、1つの起源のL鎖可変ドメインを異なる起源からのH鎖定常領域とともにスプライスすること、もしくはその逆もでき、あるいは起源の種または免疫グロブリンのクラスもしくはサブクラスの選定に関係なく、異種のタンパク質と可変または定常ドメインとの融合ができる(例えば、米国特許第4,816,567号(Cabillyらによる)、MageとLamoyi、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、pp.79〜97(Marcel Dekker,Inc、New York、1987)を参照のこと)。
【0041】
ヒト化抗体で最も一般的な形態は、ヒト免疫グロブリンのCDR由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種のCDR由来の残基により置換されたヒト免疫グロブリンである。一般にヒト化抗体は、少なくとも1つおよび典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、ここで非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応する全てまたは実質的に全てのCDR領域および全てまたは実質的に全てのフレームワーク(FR)領域は、ヒト免疫グロブリン共通配列の領域である。FR領域は、CDRに隣接または側方に位置する抗体の可変領域の一部である。一般にこれらのFR領域は、可変領域の立体構造に影響を及ぼす構造的機能をより主力に有し、抗体に対する抗原の特異的結合に直接にはあまり役割を果たさないが、それにもかかわらず、FR領域は相互作用に影響を及ぼし得る。ヒト化抗体は、最適には免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の一部を含む。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。さらにまた、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもインポートしたCDRまたはFR配列にも存在しない残基を含むことができる。これらの改変は、抗体機能をさらに改良し、最大限に強化するために加えられる。詳細については、Jonesら、1986、Nature 321:522〜524;Reichmannら、1988、Nature 332:323〜327およびPresta、1992、Curr.Op.Struct.Biol.2:593〜596を参照のこと。
【0042】
本明細書でモノクローナル抗体は、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)をさらに含み、ここでH鎖および/またはL鎖の一部は、第1の種に由来する抗体の対応する配列と同一であるかまたは相同であるかあるいは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属しているが、他方この鎖(複数可)の残りの部分は、異なる種から由来した抗体の対応する配列と同一であるかまたは相同であるかあるいはその異なる抗体のクラスまたはサブクラス、および少なくとも1つのCH2を含むかもしくは含むように改変されているに限ったこのような抗体のフラグメントに属している。非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、ヒト免疫グロブリンから由来する配列を含む特定の組換え免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはこれらのフラグメント(例えばFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、または抗体の他の抗原結合性の部分配列)である。抗体のFvフラグメントは、結合特性および分子全体の特異性を保持する抗体の最小単位である。Fvフラグメントは、抗体のH鎖およびL鎖の可変ドメインの非共有結合的に結合したヘテロダイマーである。F(ab)’2フラグメントは、ジスルフィド架橋により結合したFabフラグメントの両方の腕を含むフラグメントである。実施例1は、ヒトIgG1の定常領域に融合した抗原CD20に対するマウスIgG1可変ドメインを含むキメラ抗体をコードする発現ベクターの構築を例示する。
【0043】
FcγRIIIレセプターに対する、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンの結合の増加
FcγRIIIaレセプターおよび/またはFcγRIIIbレセプターに対する免疫グロブリン結合のエフェクター機能、例えばADCCの活性化は、免疫グロブリン分子のFc領域により媒介される。異なる機能が、この領域の異なるドメインにより媒介される。図6Aおよび6Bは、主要なN−グリカンとして、GlcNAMan3GlcNAc2を有する(実施例3に記載のように組換え型Pichia pastorisで発現された)抗CD20抗体を含む組成物が、抗CD20抗体(例えばRITUXIMAB)が、主要なN−グリカンとして、GlcNAMan3GlcNAc2を有していない組成物と比べて、FcγRIIIaレセプターに対する結合が増加したことを示す。したがって、本発明は、免疫グロブリン分子のFc領域が主要なN−グリカンとして、GlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリン分子および組成物を提供し、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を欠く免疫グロブリンと比較して、この免疫グロブリン分子は、FcγRIIIaレセプターおよび/またはFcγRIIIbレセプターに対する結合が増加した。
【0044】
興味深いことには、FcγRIIIa遺伝子二型性(gene dimorphism)は、FcγRIIIa−158VおよびFcγRIIIa−158Fの2つのアロタイプを生じる(Dall’Ozzoら、2004、Cancer Res.64:4664〜4669)。FcγRIIIa−158Vに対するホモ接合性遺伝子型は、RITUXIMABに対するより高い臨床的な応答と関連している(Cartronら、2002、Blood、99 754〜758)。しかし集団のほとんどは、1つのFcγRIIIa−158F対立遺伝子を持つ。これらのヘテロ接合個体で、RITUXIMABは、FcγRIIIa結合を介するADCCの誘導にあまり有効ではない。しかし、RITUXIMAB様の抗CD20抗体が、フコシル基転移酵素活性を欠く宿主細胞で発現する場合、この抗体は、FcγRIIIa−158FおよびFcγRIIIa−158Vの両方を介するADCCを増強するのに同程度に有効である(Niwaら、2004、Clin.Canc Res.10:6248〜6255)。本発明の特定の好ましい実施形態における抗体は、フコースをN−グリカンに付加しない宿主細胞(例えばPichia pastoris、フコースを付加する能力を欠く酵母菌宿主)で発現する。図5Aは、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有し、実施例3に記載の組換え型Pichia pastorisで発現する抗CD20抗体を含む組成物が、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有していないRITUXIMABと比較して、FcγRIIIa−LFレセプターに対する結合が約3倍〜4倍増加することを示し、図5Bは、この組成物がRITUXIMABに比較して、FcγRIIIa−LVレセプターに約10倍結合が増加することを示している。したがって、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する抗CD20抗体およびさらにフコースを欠く抗CD20抗体はFcγRIIIa−158Fに対する結合を増強し、RITUXIMABに臨床的な応答が低下した個体を治療するために特に有用であり得ることが考えられる。
【0045】
FcγRIIbレセプターに対する主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンの結合の減少
また免疫グロブリン分子のエフェクター機能は、FcγRIIbレセプターに対する結合を含む。食作用の減少をもたらすように思われるFcγRIIbに対する結合は、B細胞による抗体産生を減少し、ADCC活性を減少した。図4は、主要なN−グリカンとして、GlcNAcMan3GlcNAc2を有する抗CD20抗体を含む免疫グロブリンの上記組成物は、RITUXIMABに比較してFcγRIIbレセプターに対する結合が減少したことを示す。したがって本発明は、この免疫グロブリン分子のFc領域に主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有し、FcγRIIbレセプターに対する結合が減少した免疫グロブリン分子および組成物を提供する。
【0046】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用の増加
主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンのFcγRIIIaおよび/またはFcγRIIIbへの結合の増加は、FcγRIII媒介抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を増加させる可能性もある。FcγRIII(CD16)レセプターが、ADCC活性に関与していることはよく知られている(Daeronら、1997 Annu.Rev Immunol.15:203〜234)。主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリン分子または組成物のFcγRIIaおよび/またはFcγRIIbへの結合の減少は、ADCC活性を増加させる可能性もある(Clynesら、2000、前掲を参照のこと)。したがって、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリン分子またはこの免疫グロブリンを含む組成物は、ADCC活性が増加することが予期される。
【0047】
食作用の減少(マクロファージによる免疫複合体のクリアランス)
さらに別の実施形態では、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンのFcγRIIaへの結合の減少は、免疫の複合体のFcγRIIa媒介クリアランス(食作用)を減少させる。FcγRIIa(CD32)レセプターは、マクロファージによる免疫複合体のクリアランスに関与することが示されている(CoxとGreenberg、2001、Semin.Immunol.13:339〜345)。したがって、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンおよびこの免疫グロブリンを含む組成物は、食作用の減少を示し得ることが考えられる。
【0048】
B細胞による抗体産生の増加
FcγR調節経路を介する腫瘍に対する抗体の関与が示された(Clynesら、2000、Nature、6:443〜446)。具体的にはFcγRIIbが、免疫レセプターのチロシンベースの活性化モティーフ(ITAM)を含むレセプター、例えばB細胞レセプター(BCR)、FcγRI、FcγRIII、およびFcγRIに共架橋している場合、これはITAMにより媒介されるシグナルを阻害することが知られている。(VivierとDaeron、1997 Immunol.Today、18:286〜291)。例えば、FcγRII−特異的抗体の添加により、FcのFcγRIIbに対する結合が遮断され、B細胞増殖の増加をもたらす(Wagleら、1999、J of Immunol.162:2732〜2740)。したがって、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンおよびこの免疫グロブリンを含む組成物は、FcγRIIbレセプター結合の減少を媒介し、B細胞の活性化をもたらし、次にプラズマ細胞による抗体産生を引き起こすと考えられる(Parker,D.C.1993、Annu.Rev Immunol.11.331〜360)。
【0049】
他の免疫学的活性
好中球上のエフェクター細胞分子の変更された表面発現は、細菌感染に対する感受性を増加させることが示された(Ohsakaら、1997 Br.J.Haematol.98:108〜113)。IgGのFcγRIIIaエフェクター細胞レセプターに対する結合は、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)の発現を調節することがさらに示された(Blomら、2004、Arthritis Rheum.、48:1002〜1014))。さらにまた、FcγRに誘発されたTNF−αは、IgGで被覆した赤血球に結合して食菌する好中球の能力も増加させる(Capsoniら、1991、J.Clin.Lab Immunol.34:115〜124)。したがって、FcγRIIIaレセプターに対する結合の増加を示す、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンおよびこの免疫グロブリンを含む組成物は、TNF−αの発現を増加させる可能性もあることが考えられる。
【0050】
FcγRIIレセプターおよびFcγRIIIレセプター活性の増加により、リソソームβ−グルクロニダーゼならびに他のリソソーム酵素の分泌が増加することが示された(Kavaiら、1982、Adv.Exp Med.Biol.141.575〜582;WardとGhetie、1995、Therapeutic Immunol.、2:77〜94)。さらにまた、これらのリガンドによる免疫受容体の嵌合後の重要なステップは、これらの内在化およびリソソームへの送達である(Bonnerotら、1998、EMBO J.、17 4906〜4916)。したがって、FcγRIIIaレセプターおよび/またはFcγRIIIbレセプターに対する結合の増加を示す、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンおよびこの免疫グロブリンを含む組成物は、リソソーム酵素の分泌を増加させる可能性もあることが考えられる。
【0051】
FcγRIIaへの結合を介するさらに成熟した骨髄性細胞(例えば単核食細胞、顆粒球および好中球)の活性化は、スーパーオキサイド生成の増強をもたらす。さらにまた、好中球によるスーパーオキサイドラジカルの生成は、生体の防御システムの重要なファクターである(Huizingaら、1989、J Immunol.、142:2365〜2369)。したがって、FcγRIIaレセプターに対する結合の減少を示す、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンおよびこの免疫グロブリンを含む組成物はまた、スーパーオキサイド生成の減少を与え得ることが考えられる。
【0052】
もっぱら好中球上に存在するFcγRIIIbは、免疫複合体の組立てにおいて主要な役割を果たし、この凝集は食作用、脱顆粒、およびオプソニン化された病原体の破壊を導く呼吸性のバーストを活性化する。好中球の活性化は、2つの細胞外ドメインに対応する、タンパク質分解で切断した可溶性形態のレセプターの分泌をもたらす。可溶性のFcγRIIIbは、FcγR依存エフェクター機能の競合阻害により、そして補体レセプターCR3に対する結合を介して調節機能を発揮し、炎症性伝達物質の生成を導く(Sautes−Fridmanら、2003、ASHI Quarterly、148〜151)。したがって、FcγRIIIbレセプターに対する結合の増加を示す、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンおよびこの免疫グロブリンを含む組成物は、免疫複合体の組立てを促進する可能性もあることが考えられる。
【0053】
主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリン分子を含む組成物の生産
この免疫グロブリンは、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する糖タンパク質の組成物を生産するように遺伝子操作された宿主細胞で産生される。一般に、組換え型宿主細胞は、特定の標的抗原に対し特異的な免疫グロブリンのH鎖およびL鎖をコードする1つまたは複数の核酸を用いて形質転換され、好ましくは安定に形質転換される。1つの実施形態では、免疫グロブリンのH鎖およびL鎖をコードする核酸は、重なり合うオリゴヌクレオチドを用いてそれぞれ別々に合成し、宿主細胞での発現のために発現ベクター(実施例1を参照)にそれぞれ別々にクローニングする。特定の実施形態において、この核酸によりコードされる組換え型免疫グロブリンは、ヒト化免疫グロブリンである。組換え型宿主細胞は、組換え型細胞の培養に用いる培地中に免疫グロブリンを分泌することが好ましい。次いで組換え型宿主細胞を、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを生産するために適切な条件下で培養する。次いで免疫グロブリンを培地の他の成分から分離して、適切なビヒクルに再懸濁して組成物を作製する。多くの組換え型免疫グロブリンに関して、特定の実施形態のGlcNAcMan3GlcNAc2は、Asn−297のアミド基の窒素に結合されるが、N−グリカン結合のための部位は、免疫グロブリン分子中またはFab領域のN−グリコシル化部位と組み合わせた異なる部位におけるアスパラギン(Asn−297以外のもの)であり得る。
【0054】
組換え型宿主細胞は、真核生物または原核生物宿主細胞、例えば主にGlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造を有する免疫グロブリン組成物を産生するように設計されたかもしくは選択された動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細菌細胞その他であり得る。
【0055】
好ましい実施形態では、GlcNAcMan3GlcNAc2が主要なN−グリカンである免疫グロブリン組成物は、下等真核生物で生産される。下等真核生物宿主細胞は、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する糖タンパク質を通常は産生しない。しかし下等真核生物を、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する糖タンパク質を産生するように遺伝子操作できる。主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する糖タンパク質を産生するように遺伝子改変された組換え型の下等な真核細胞は、GlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカンを有する糖タンパク質を本来産生するが低収率である哺乳動物細胞よりも好ましい。本明細書に記載されるような組換え型の下等な真核宿主細胞を用いる別の利点は、免疫グロブリンの組成物を、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を再現性良く提供できることである。なおさらなる利点は、下等真核生物細胞が、仔ウシ血清などの動物産物の使用を避ける規定の培地で増殖することができることである。
【0056】
好ましくは、本発明の組換え型宿主細胞は、WO 02/00879、WO 04/074498、WO 04/074499、Choiら、2003、PNAS、100:5022〜5027、Hamiltonら、2003、Nature、301.1244〜1246およびBobrowiczら、2004、Glycobiology、14:757〜766、およびDavidsonら、2004 Glycobiology 14(5):399〜407に記述されているような遺伝子操作されたかまたは修飾された下等真核生物宿主細胞である。下等な真核細胞には、酵母菌、真菌、襟鞭毛虫類、微胞子虫類、アルベオラータ(alveolates)(例えば、渦べん毛虫)、ストラメノパイル(stramenopiles)(例えば、褐藻類、原生動物)、紅色植物(例えば、紅藻類)、植物(例えば、緑藻類、植物細胞、コケ)および他の原生生物が含まれる。酵母菌および真菌には、限定されるものではないが、ピチア属種、例えばPichia pastoris、Pichia finlandica、Pichia trehalophila、Pichia koclamae、Pichia membranaefaciens、Pichia minuta(Ogataea minuta、Pichia lindneri)、Pichia opuntiae、Pichia thermotolerans、Pichia salictaria、Pichia guercuum、Pichia pijperi、Pichia stiptis、およびPichia methanolica;サッカロミセス属種、例えばSaccharomyces cerevisiae、ハンゼヌラポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイヴェロマイセス属種、例えばKluyveromyces lactis;カンジダアルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルスニドゥランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルスオリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマリーゼイ(Trichoderma reesei)、Chrysosporium lucknowense、フザリウム属種、例えばFusarium gramineum、Fusarium venenatum、Physcomitrella patens、およびアカパンカビ(Neurospora crassa)が挙げられる。本発明の好ましい下等真核生物には、限定されるものではないが、Pichia pastoris、Pichia finlandica、Pichia trehalophila、Pichia koclamae、Pichia membranaefaciens、Pichia opuntiae、Pichia thermotolerans、Pichia salictaria、Pichia guercuum、Pichia pijperi、Pichia stiptis、Pichia methanolica、ピチア属種、Saccharomyces cerevisiae、サッカロミセス属種、ハンゼヌラポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイヴェロマイシス属種、Kluyveromyces lactis、Candida albicans、アスペルギルスニドゥランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルスオリゼ(Aspergillus oryzue)、トリコデルマリーゼイ(Trichoderma reseei)、Chrysosporium lucknowense、フザリウム属種、Fusarium gramineum、Fusarium venenatum、およびアカパンカビ(Neurospora crassa)が挙げられる。特に好ましい種は、Pichia pastorisである。
【0057】
主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを産生するある実施形態が、実施例2で示される。実施例2で、ヒトIgG1のH鎖定常領域およびL鎖定常領域に結合されたCD20に特異的なマウスIgG1のH鎖可変領域およびL鎖可変領域を含むキメラ免疫グロブリンをコードするベクターを、組換え型酵母菌Pichia pastoris YSH37株に導入した(Hamiltonら、2003、Science、301.1244〜1246)。YSH37組換え型酵母菌株は、内在性α−1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性(Och1p)を欠き、3つの異種遺伝子を含んでいる。すなわち、小胞体に局在するα−1,2−マンノシダーゼ(MnsIA)をコードする遺伝子、および全てゴルジに局在するUDP−N−アセチルグルコサミン(UDP−GlcNAc)トランスポータ、β−1,2−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(GlcNAcトランスフェラーゼ1またはGnT1)、およびマンノシダーゼII(MnsII)をコードする遺伝子。一般にこれらの異種遺伝子は、菌類のII型膜タンパク質とPichia pastoris以外の生物由来の触媒ドメイン間の合成的な融合を含む。組換え型酵母菌株で産生される糖タンパク質は、主にGlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造を有するので、組換え型酵母菌株で産生される実施例2の免疫グロブリンなどの免疫グロブリンは、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する。図3は、YSH37組換え型酵母菌株で産生される抗CD20免疫グロブリンが、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有したことを示す。糖形態の約20%はGlcNAcMan3GlcNAc2から成り、複数の他の糖形態はより少量であった。
【0058】
さらなる実施形態では、上記の組換え型酵母菌株は、マンノシルリン酸化の排除を生じる、PNO1遺伝子およびMNN4b遺伝子の欠失または破壊を含んでいる(例えば、米国特許出願公開第20060160179号を参照のこと)。マンノシルリン酸化は、荷電したN−グリカンの産生をもたらす。このさらなる遺伝的改変は、GlcNAcMan3GlcNAc2が主要なN−グリカンであり、免疫グロブリンがヒトで異常な免疫原活性を与える可能性があるマンノシルホスフェート(したがって正味の負電荷)を含まない免疫グロブリン組成物を生産できる組換え型酵母菌株を提供する。他の実施形態では、上記の組換え型酵母菌株は、β−マンノシル化に関与する1つまたは複数の遺伝子の欠失または破壊を含む(WO2005106010および関連する米国特許出願第11/118,008号を参照)。これらのさらなる遺伝的修飾は、GlcNAcMan3GlcNAc2が主要なN−グリカンであり、免疫グロブリンは、ヒトで異常な免疫原活性を与える可能性のあるβ−マンノシル化を含まない免疫グロブリン組成物を生産できる組換え型酵母菌株を提供する。さらに別の実施形態においては、上記の組換え型酵母菌株は、PNO1遺伝子およびMNN4b遺伝子ならびにβ−マンノシル化に関与する1つまたは複数の遺伝子の欠失および破壊を含む。これらのさらなる遺伝的改変は、GlcNAcMan3GlcNAc2が主要なN−グリカンであり、免疫グロブリンがマンノシルリン酸化およびβ−マンノシル化を含まない免疫グロブリン組成物を生産できる組換え型酵母菌株を提供する。
【0059】
組換え型酵母菌細胞が、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを生産することが記載されているが、動物細部、植物細胞、昆虫細胞、細菌細胞等を含む他のタンパク質発現宿主系を、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを生産するために用いることができる。上記のタンパク質発現宿主系は、遺伝的に設計されるかまたは改変されるかまたは選択されて、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを発現し得るか、あるいは主要なN−グリカン構造としてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する糖タンパク質を天然に生産し得る。設計されたタンパク質発現宿主系が主要な糖形態を有する糖タンパク質を産生する例には、遺伝子ノックアウト/変異(Shieldsら、2002、JBC、277 26733〜26740)、チャイニーズハムスター卵巣細胞の遺伝子操作(Umanaら、1999、Nature Biotech.、17 176〜180)またはこの両方の組合せが挙げられる。あるいは、特定の細胞、例えばニワトリ、ヒトおよびウシは、主要な糖形態を天然に発現する(Rajuら、2000、Glycobiology、10:477〜486)。これらの細胞は、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを生産するように改変することができる。したがって、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンまたは組成物の発現を、多くの発現宿主系の少なくとも1つを選択することにより、当業者は実現することができる。発現宿主系としてはさらに、CHO細胞:WO9922764A1およびWO03035835A1、ハイブリドーマ細胞:Trebakら、1999、J.Immunol.Methods、230:59〜70;昆虫細胞:Hsuら、1997 JBC、272:9062〜970、および植物細胞:WO04074499A2が挙げられる。
【0060】
免疫グロブリンの精製
免疫グロブリンの精製および分離のための方法が知られている(例えば、KohlerとMilstein、(1975)Nature 256:495;Brodeurら、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、pp.51〜63、Marcel Dekker、Inc.、New York、(1987);Goding、Monoclonal Antibodies:Principles and Practice、pp.59〜104(Academic Press、1986);およびJakobovitsら、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2551〜255、およびJakobovitsら、1993、Nature 362:255〜258を参照のこと)。さらなる実施形態において、抗体または抗体フラグメントは、McCaffertyら、(1990)Nature、348:552〜554(1990)に記載された技術を用いて生成された抗体ファージライブラリから、適切な抗体または抗体フラグメントを選択するために対象の抗原を用いて分離できる。
【0061】
実施例3は、主要なN−グリカンとして、GlcNAcMan3GlcNAc2を有する糖タンパク質を産生するように遺伝子操作された酵母菌細胞で産生された主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリン分子を分離する方法を提供する。単離した免疫グロブリン分子上のグリカンの分析および分布は当業者に知られているいくつかの質量分析法により決定でき、HPLC、NMR、LCMS、およびMALDI−TOF MSが挙げられるがこれに限定されない。好ましい実施形態では、実施例5に開示されているように、グリカンの分布は、MALDI−TOF MS分析によって測定される。
【0062】
医薬組成物
主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリンを、免疫グロブリンが活性な治療薬である医薬組成物に組み込むことができる(Remington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania、1980を参照のこと)。好ましい組成物は、投与および治療意図される投与様式に依存する。組成物は同様に、望ましい製剤形態に応じて、動物またはヒトに投与するための医薬組成物を製剤化するのに一般に用いられるビヒクルとして定義づけられている薬学的に受容し得る非毒性の担体または希釈剤を含んでいてもよい。希釈剤は、この組合わせの生物活性に影響を及ぼさないように選択される。上記の希釈剤の例として、蒸留水、生理的リン酸緩衝食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、およびハンクス液を挙げることができる。さらに、この医薬組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または非毒性の非治療性の非免疫原性の安定剤等を含むこともできる。
【0063】
非経口的投与のための医薬組成物は、無菌で、実質的に等張で、発熱性物質を含まず、無菌であり、米食品医薬品局または同様の機関のGMPに従って調製される。この組成物は、無菌の液体、例えば水、オイル、生理食塩水、グリセロール、またはエタノールであり得る製薬担体と共に生理学的に許容可能な希釈剤中の、この物質の溶液または懸濁液の注射可能な用量で投与することができる。さらに、補助物質、例えば湿潤剤または乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質等が組成物中存在することができる。医薬組成物の他の成分には、石油起源、動物起源、植物起源、または合成起源のもの、例えば、ピーナッツ油、大豆油、および鉱物油の成分がある。一般に、グリコール、例えばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールは、特に注射可能な溶液のための好ましい液体担体である。組成物は、活性成分の持続的放出ができるように製剤化できる蓄積(デポー)注射またはインプラント調製物の形態で投与することができる。典型的には、組成物は、液体の溶液または懸濁液として注射可能なものとして調製される。注射の前に、液体ビヒクル中の溶液または懸濁液にするのに適切な固体形態に調製することもできる。上記のように、調製物を乳化するかまたはリポソームまたはミクロ粒子、例えばポリ乳酸、ポリグリコリド、もしくはアジュバント効果増強のためのコポリマーに封入することもできる(Langer、Science 249、1527(1990)およびHanes、Advanced Drug Delivery Reviews 28、97〜119(1997)を参照のこと。
【0064】
診断薬
主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する免疫グロブリン分子を、種々の診断キットおよびアレイなどの他の診断薬に組み込むこともできる。免疫グロブリンは、マイクロタイターディッシュのウェルなどの固相に、前もって結合して提供されることが多い。キットはまた、免疫グロブリン結合および標識化を検出するための試薬を含み、キットの使用法を提供することが多い。イムノメトリクまたはサンドイッチアッセイが、診断キットのための好ましい形式である(米国特許第4,376,110号、第4,486,530号、第5,914,241号、および第5,965,375号を参照のこと)。抗体アレイは、例えば、米国特許第5,922,615号、第5,458,852号、第6,019,944号、および第6,143,576号に記載されている。
【0065】
主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する本発明の免疫グロブリン分子は、適応症、例えば癌、炎症性疾患、感染症、免疫疾患、自己免疫性疾患(特発性血小板減少性紫斑病、関節炎、全身性エリテマトーデスおよび自己免疫性溶血性貧血が挙げられる)に対する多くの治療薬適用を有する。対象の標的としては、成長因子レセプター(例えば、FGFR、PDGFR、EGFR、NGFRおよびVEGF)およびこれらのリガンドが含まれる。他の標的としては、Gタンパク質レセプターであり、サブスタンスKレセプター、アンギオテンシンレセプター、α−およびβ−アドレナリンレセプター、セロトニンレセプター、PAFレセプターが挙げられる(例えば、Gilman、Ann.Rev.Biochem.56:625〜649(1987)を参照のこと。他の標的としては、イオンチャネル(例えば、カルシウム、ナトリウム、カリウムチャネル)、ムスカリンレセプター、アセチルコリンレセプター、GABAレセプター、グルタミン酸レセプター、およびドーパミンレセプターが挙げられる(Harpold、U.S.5,401,629およびU.S.5,436,128を参照のこと)。他の標的は、接着タンパク質(例えばインテグリン)、セレクチン、および免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーである(Springer、Nature 346:425〜433(1990);Osborn、Cell 62:3(1990);Hynes、Cell 69:11(1992)を参照のこと)。他の標的は、サイトカイン、例えばインターロイキンIL−1〜IL−13、腫瘍壊死因子αおよびβ、インターフェロンα、βおよびγ、腫瘍増殖因子ベータ(TGF−β)、コロニー刺激因子(CSF)ならびに顆粒球単核細胞コロニー刺激因子(GMCSF)である。Human Cytokines:Handbook for Basic & Clinical Research(Aggrawalら編、Blackwell Scientific,Boston、MA 1991)を参照のこと。他の標的は、ホルモン、酵素、ならびに細胞内および細胞間メッセンジャー、例えば、アデニルシクラーゼ、グアニルシクラーゼ、およびホスホリパーゼCである。対象の他の標的は、白血球抗原、例えばCD20およびCD33である。薬剤が、対象の標的でもあり得る。標的分子はヒト、哺乳類または細菌であり得る。他の標的は、抗原、例えばウイルスおよび細菌の両方の微生物病原体、および腫瘍由来のタンパク質、糖タンパク質および炭水化物である。さらに別の標的が、U.S.4,366,241に記載されている。
【0066】
本発明の方法および技術は、当分野では周知であり、特記しない限り本明細書全体を通じて引用されて述べられる種々の一般およびさらに特定の参考文献に記載される通常の方法に従って一般に実施する。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第二版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y(1989);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates(1992、および2002年までの補遺);HarlowとLane、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y(1990);TaylorとDrickamer、Introduction to Glycobiology、Oxford Univ Press(2003);Worthington Enzyme Manual、Worthington Biochemical Corp.、Freehold、NJ;Handbook of Biochemistry Section A Proteins、Vol I、CRC Press(1976);Handbook of Biochemistry Section A Proteins、Vol II、CRC Press(1976);Essentials of Glycobiology, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999);Immunobiology、Janewayら、第6版、2004、Garland Publishing、New York)を参照のこと。
【0067】
本明細書で述べられた全ての刊行物、特許および他の参考文献は、ここに全体を参考として本明細書に組み入れることとする。
【0068】
以下の実施例はさらに本発明の理解を深めるためのものである。
【実施例1】
【0069】
ヒトL鎖定常領域に融合したマウスL鎖可変領域を有するL(軽)鎖融合タンパク質およびヒトH鎖定常領域に融合したマウス可変H鎖領域から成るH(重)鎖融合タンパク質から成るキメラ抗CD20モノクローナル抗体をコードするベクターが、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する糖タンパク質を産生するように遺伝子操作された組換え型Pichia pastorisで、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有するヒト化抗CD20モノクローナル抗体を産生するために構築された。
【0070】
Pichia pastorisにおける発現のためのキメラ抗CD20モノクローナル抗体であるDX−IgG1をコードする核酸のクローニングは、本質的には以下の通りであった。DX−IgG1キメラ抗体のL鎖およびH鎖は、マウス可変領域およびヒト定常領域から成る。マウス/ヒトキメラL鎖をコードするヌクレオチド配列を配列番号1に示し、マウス/ヒトキメラH鎖をコードするヌクレオチド配列を配列番号2に示す。核酸をコードするH鎖およびL鎖を、Integrated DNA Technologies(IDT)より購入した重なり合うオリゴヌクレオチドを用いて合成する。
【0071】
L鎖可変領域をコードする核酸を合成するために、15個の重なり合うオリゴヌクレオチド(配列番号5〜19)を購入し、PCR反応でEX TAQ(Takada)を用いてアニールして、5’MlyI部位を有するL鎖可変領域をコードする核酸を生成した。次いでこのL鎖可変をコードする核酸を、5’MlyIプライマーCD20L/up(配列番号20)、3’可変/5’不変プライマーLfusionRTVAAPS/up(配列番号21)、3’定常領域プライマーLfusion RTVAAPS/lp(配列番号22)および3’CD20L/lp(配列番号23)を用いるオーバーラップPCRより、L鎖定常領域(配列番号3)(Gene Art、Toronto、Canada)をコードする核酸とインフレームで結合した。次いで、キメラマウス−ヒトL鎖フラグメント(5’AG塩基対を含む)をコードする最終のMlyI核酸を、pCR2.1 TOPOベクター(Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA)に挿入し、pDX343を得た(図2A)。
【0072】
H鎖については、マウスH鎖可変領域をコードする核酸配列に対応する17個の重なり合うオリゴヌクレオチド(配列番号24〜40)をIDTから購入して、EX TAQを用いてアニールした。次いで、マウスH鎖可変フラグメントをコードするこの核酸を、5’MlyIプライマーCD20H/up(配列番号41)、5’可変/不変プライマーHchainASTKGPS/up(配列番号42)、3’可変/不変プライマーHchainASTKGPS/lp(配列番号43)、および3’定常領域プライマーHFckpn1/lp(配列番号44)を用いるオーバーラップPCRにより、ヒトH鎖定常領域(配列番号4)(Gene Art)をコードする核酸とインフレームで結合した。キメラマウス−ヒトH鎖フラグメント(5’AG塩基対を含む)をコードする最終のMlyI核酸を、pCR2.1 TOPOベクターに挿入して、pDX360を得た(図2C)。
【0073】
完全長キメラL鎖および完全長キメラH鎖をコードする核酸を、Mly1−Not1核酸フラグメントとしてそれぞれのTOPOベクターから分離した。次いで、これらのL鎖およびH鎖をコードする核酸フラグメントを、4個の重なり合うオリゴヌクレオチド−P.BiPss/UPl−EcoRI、P.BiPss/LP1、P.BiPss/UP2およびP.BiP/LP2(それぞれ配列番号46〜49)を用いて、それぞれKar2(Bip)シグナル配列(配列番号45)に連結し、次に、pPICZAのEcoRI−Not1部位に連結して、Kar2−L鎖およびAOX1転写終結配列(AOX1ターミネーターまたはTT)を持つpDX344(図2B)ならびにKar2−H鎖を持つpDX468(図2E)を得た。
【0074】
次いで、pDX344由来のBglII−BamHIフラグメントを、染色体への組込みのためのAOX2プロモーター遺伝子を含むpBK85にサブクローニングしてpDX458を得た(図2D)。
【0075】
次いで、H鎖を持つpDX468由来のBglII−BamHIフラグメントを、pDX458にサブクローニングしてpDX478を得た(図2F)、そしてこれはAOX1プロモーターの制御下で、抗CD20モノクローナル抗体の完全長のキメラH鎖およびL鎖の両方をコードする。pDX478によりコードされるキメラ抗体を、DX−IgG1と名付けた。次いで、AOX2遺伝子座への組込みのために、ゼオシン耐性を用いて選択したトランスフォーマントで形質転換の前に、プラスミドpDX478をSpeIで線状にした(実施例2を参照)。
【0076】
RITUXIMAB/RITUXANは、Biogen−IDEC/Genentech、San Francisco、CAから購入した抗CD20マウス/ヒトキメラIgG1である。
【0077】
PCR増幅。Eppendorf Mastercycler(Westbury、NY)を、全てのPCR反応に用いた。PCR反応は、鋳型DNA、125μMのdNTP、それぞれ0.2μMの順方向プライマーおよび逆方向プライマー、EX TAQポリメラーゼ緩衝液(Takara Bio Inc.、Shiga、Japan)、EX TAQポリメラーゼまたはpFU Turboポリメラーゼ緩衝液(Stratagene)およびpFU Turboポリメラーゼを含んでいた。DNAフラグメントを、最初の熱変性ステップ97℃、2分間を伴い、97℃で15秒間、55℃で15秒間、および72℃で90秒間のサイクルを30回、そして72℃で7分間の最終伸長ステップで増幅した。
【0078】
PCRサンプルを、アガロースゲル電気泳動により分離し、DNAバンドを摘出して、Qiagen製のGel Extraction Kitを用いて精製した。脱イオン化H2Oで溶出した最終のPCR(全て3つのフラグメントの重複部分)を除いて、全てのDNA精製は、10mMのTris、pH8.0で溶出した。
【実施例2】
【0079】
この実施例は、組換え型酵母菌細胞で、pDX478またはpJC140によりコードされた主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有するキメラヒト化抗CD20モノクローナル抗体を生産する方法を示す。
【0080】
Pichia pastoris株YSH37へのIgGベクターの形質転換(Hamiltonら、2003)は、本質的には以下の通りだった。pDX478のベクターDNAを、酢酸ナトリウムを最終濃度0.3Mになるように添加して調製した。次いでDNAサンプルに、氷冷100パーセントエタノールを最終濃度70%になるように添加した。DNAを遠心(12000g×10分)してペレット化し、70%の氷冷エタノールで2回洗浄した。DNAを乾燥し、50μLのl0mM Tris、pH8.0に再懸濁した。
【0081】
形質転換する酵母菌細胞は、BMGY(緩衝化最小グリセロール;100mM リン酸水素二カリウム、pH6.0;1.34% 酵母窒素原基礎培地;4×10-5% ビオチン;1% グリセロール)中での少量培養を、O.D.約2〜6に増殖させて調製した。次いで酵母菌細胞を、1Mソルビトールで3回洗浄し、約1〜2mLの1Mソルビトールに再懸濁してエレクトロコンピテントにした。ベクターDNA(1〜2μg)を100μLのコンピテントな酵母菌と混合し、10分間氷上でインキュベートした。次いで酵母菌細胞を、BTX Electrocell Manipulator 600でパラメータ;1.5kV 129オーム、および25μFを用いて、エレクトロポレートした。1ミリリットルのYPDS(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%デキストロース、1Mソルビトール)を、エレクトロポレートした細胞に添加した。その後、形質転換した酵母菌を、ゼオシンを含む選択性寒天平板に播種する。
【0082】
Pichia pastorisでのIgG1産生の培養条件は、本質的に以下の通りであった。pDX478で形質転換した上記YSH37株の単一のコロニーを、50mlのFalcon遠心チューブ中の10mLのBMGY培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、1.34%の酵母窒素原基礎培地、4×10の5%ビオチン、および1%グリセロールから成る)に播種した。培養を、170〜190rpmで振盪しながら24℃、48時間、培養が定常期に至るまでインキュベートした。次いで、100mLのBMGYを500mlのバッフルフラスコに添加する。次いで種培養物を100mLのBMGY培地を含むバッフルフラスコに移した。この培養を、170〜190rpmで振盪して24℃で24時間インキュベートした。フラスコの内容物を2本の50mLのFalcon遠心チューブにデカントし、3000rpmで10分間遠心分離した。この細胞ペレットを、グリセロールを含まない20mLのBMGYで1回洗浄し、次いで20mlのBMMY(1%グリセロールの代わりに1%MeOHを有するBMGY)を用いて穏やかに再懸濁した。懸濁した細胞を250mLのバッフルフラスコに移した。培養物を、170〜190rpmの振盪により24℃で24時間インキュベートした。次いでフラスコの内容物を、2本の50mLのFalcon遠心チューブにデカントし、3000rpmで10分間遠心分離した。実施例6に記載のように、培養上清をELISAで分析して、タンパク質を分離する前におおよその抗体力価を測定する。
【0083】
培養上清の抗体の定量を、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により実施した。高結合マイクロタイタープレート(Costar)を、10mLのPBS、pH7.4中、24μgのヤギ抗ヒトFab(Biocarta、Inc.、San Diego、CA)で被覆し、4℃で一夜インキュベートした。緩衝液を除去し、ブロッキング緩衝液(PBS中3%BSA)を添加し、次いで室温で1時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液を除去し、プレートをPBSで3回洗浄した。最後の洗浄後、漸増量の培養上清抗体(0.4、0.8、1.5、3.2、6.25、12.5、25および50μL)を添加し、プレートを室温で1時間インキュベートした。次いでプレートを、0.05%のTween 20を含むPBSで洗浄した。最後の洗浄後、抗ヒトFc−HRPを1:2000PBS溶液で添加し、次いで室温で1時間インキュベートした。次いでプレートを、PBS−Tween 20で4回洗浄した。製造業者(Pierce Biotechnology)の説明書に従い、プレートをTMB基質キットを用いて分析した。
【0084】
pDX478を組換え型酵母菌株YSH37に形質転換する上記に示した方法に従って、酵母菌株DX554を生成した。
【実施例3】
【0085】
実施例2で生成されたキメラ抗CD20モノクローナル抗体の精製は、本質的に以下の通りであった。pDX478で形質転換した酵母菌細胞により生成された抗体を、DX−IgG1と名付けた。
【0086】
抗体を、STREAMLINE Protein Aカラム(Amersham Biosciences、Piscataway、NJ)を用いて培養上清から捕捉した。抗体を、Tris−グリシンpH3.5で溶出し、1M Tris pH8.0を用いて中和した。さらに精製を、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いて実施した。HICカラムの特定のタイプは抗体に依存する。DX−IgG1に対しては、フェニルSEPHAROSEカラム(オクチルSEPHAROSEを用いることもできる)を、20mM Tris(7.0)、1M(NH42SO4緩衝液で用い、1M(NH42SO4で始まり、0M(NH42SO4まで減少する直線濃度勾配の緩衝液で溶出した。フェニルSEPHAROSEカラムからの抗体分画をプールし、カチオン交換(SP SEPHAROSE Fast Flow)(GE Healthcare)カラムを介する最終的精製のために、50mM NaOAc/Tris pH5.2緩衝液と交換した。抗体を、50mM Tris、1M NaCl(pH7.0)を用いる直線濃度勾配で溶出した。DX−IgG1抗体を、実施例2に従って増殖したDX554培養物の培地から分離した。
【0087】
クロマトグラフィー分画のタンパク質濃度を、ブラッドフォードアッセイを用いて測定し(Bradford、M.1976、Anal.Biochem.(1976)72、248〜254)、標準としてアルブミン(Pierce Chemical Company、Rockford、IL)を用いた。
【実施例4】
【0088】
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による精製された抗体の検出は以下の通りであった。
【0089】
精製したDX−IgG1抗体を、適量のサンプルローディング緩衝液と混合し、製造業者の説明書(NuPAGE bis−Tris Electrophoresis System;Invitrogen Corporation)に従い、プレキャストゲルを用いるドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にかけた。ゲルタンパク質を、クーマシーブリリアントブルー染色(Bio−Rad、Hercules、CA)で染色した。
【実施例5】
【0090】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MS)を、実施例2で生成された主要な中性N−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有するDX−IgG1抗体のAsn結合オリゴ糖の分析に用いた。
【0091】
N結合型グリカンを、Papacらの改良した手順を用いて抗体から遊離した(Glycobiology 8、445〜454(1998)。簡単に述べると、抗体サンプルを変性し、96穴PVDFメンブレンプレートにアプライした。次いでサンプルを、ジチオトレイトールで還元し、ヨード酢酸でカルボキシメチル化した。次いでウェルをポリビニルピリジンでブロックした。次いで抗体サンプルを、37℃で16時間、30μLの10mM NH4HCO3(pH8.3)中で1mUのN−グリカナーゼ(EMD Biosciences、La Jolla、CA)とインキュベーションして脱グリコシルした。次いで遊離したグリカンを含む溶液を、遠心によりPVDFメンブレンから除去し、蒸発させて乾燥した。それぞれのウェルからの乾燥したグリカンを、15μLの水に溶解し、0.5μLをステンレス鋼MALDIサンプルプレート上へスポットし、0.5μLのS−DHBマトリックス(9mg/mLのジヒドロキシ安息香酸/1.1水/アセトニトリル中の1mg/mLの5メトキシサリチル酸/0.1%トリフルオロ酢酸)と混合して乾燥させた。イオンを、4ナノ秒のパルス窒素レーザー(337nm)の照射により生成した。装置を125ナノ秒ディレイ(delay)および20kVの加速電圧でディレイドエクストラクションモード(delayed extraction mode)で作動した。グリッド電圧は、93.00%であり、ガイドワイヤー電圧は、0.1%であり、内部の圧力は、5×107torr(1torr=133Pa)未満であり、低質量ゲート(low mass gate)は850Daであった。スペクトルは100〜200のレーザーパルスの合計から生成され、500MHzのデジタイザで得た。Man5GlcNAc2(Mr1257[M+Na]+)オリゴ糖を、外部分子量標準として用いた。全てのスペクトルは、ポジティブイオンモードでこの装置で生成された。
【0092】
図3は、実施例2のプロトコルに従いYDX554細胞により生成されたDX−IgG1抗体を含む発酵番号F060708由来の組成物のMALDI−TOF MSスペクトルを示す。図3は、この組成物の主要なN−グリカン構造が、GlcNAcMan3GlcNAc2であることを示す。しかし図3に示すように、組成物は他のN−グリカン構造も含む。これらのN−グリカンには、GlcNAcMan4GlcNAc2、Man6GlcNAc2、GlcNAcMan5GlcNAc2、Man7GlcNAc2、GlcNAcMan6GlcNAc2、Man8GlcNAc2、Man9GlcNAc2、およびMan10GlcNAc2が挙げられる。
【0093】
種々の中性N−グリカン構造の相対的な量を測定するために、HPLCを実施して、上記のN−グリカン構造のそれぞれに対応するピークの下の領域を、強度対保持時間を測定するHPLCスキャンから測定した。このHPLCは、PREVAIL Carbohydrate ES 5μm 250mm×4.6mm(Cat#35101、Alltech Associates、Avondale、PA)を用いる高速アミノ−シリカグリカン分離であった。サンプル量は、45のμLであり、溶媒はアセトニトリルおよびLSS(50mMのNH4蟻酸塩 pH4.4)であった。流速は1.0mL/分で、カラム温度は30℃であった。勾配は以下の通りであった:時間0、80%アセトニトリル:20%LSS;時間50、40%アセトニトリル:60%LSS;時間55、30%アセトニトリル:70%LSS;時間60、80%アセトニトリル:20%LSS;および時間70、80%アセトニトリル:20%LSS。HPLCの結果を表1に示す。HPLC分析は、主要なN−グリカン構造GlcNAcMan3GlcNAc2が、全中性N−グリカン構造の約20%を構成することが見いだされたことを示した。
【0094】
【表1】

【実施例6】
【0095】
FcγRIIb、FcγRIIIaおよびFcγRIIIbに対するFcレセプターの結合アッセイを、Shieldsら、2001、J.Biol.Chem、276:6591〜6604に記載されたプロトコルに従って実施した。
【0096】
FcγRIIb結合アッセイのために、PBS、pH7.4中、1μg/mLでFcγRIIb融合タンパク質を4℃で48時間、ELISAプレート(Nalge−Nunc,、Naperville、IL)上へ被覆した。プレートを、25℃で1時間、PBS中の3%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロックした。DX−IgG1またはRITUXIMABおよびHRP結合F(Ab’)2抗F(Ab’)2の2:1モル量を25℃で1時間混合して、DX−IgG1またはRITUXIMAB二量体複合体を、1%BSA(PBS中)中に調製した。次いで二量体複合体を、1%のBSA/PBS中で1:2に系列希釈し、25℃で1時間プレート上へ被覆した。使用した基質は、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)(TMB)であった。450nmの吸光度を、製造業者(Vector Laboratories、Inc.)の説明書に従い読み取った。
【0097】
FcγRIIIa−LFおよびFcγRIIIa−LV結合アッセイ用に、FcγRIIIa−LF融合タンパク質またはFcγRIIIa−LV融合タンパク質を、PBS中、pH7.4中、それぞれ0.8μg/mLおよび0.4μg/mLで、4℃で48時間、ELISAプレート(Nalge−Nunc、Naperville、IL)上へ被覆した。プレートを、25℃で1時間、PBS中の3%BSAでブロックした。DX−IgG1またはRITUXIMABおよびHRP結合F(Ab’)2抗F(Ab’)2の2:1モル量を25℃で1時間混合して、DX−IgG1またはRITUXIMAB二量体複合体を1%BSA(PBS中の)中に調製した。次いで二量体複合体を1%BSA/PBS中に1:2に系列希釈し、25℃で1時間プレート上へ被覆した。使用した基質は、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(Vector Laboratones、Inc.)であった。製造業者(Vector Laboratories、Inc.)の指示に従って450nmの吸光度を読み取った。
【0098】
FcγRIIb、ならびにFcγRIIIa−LFおよびFcγRIIIa−LVと、YDX554(DX−IgG1を発現するYSH37株)で産生された糖タンパク質に対する上記の方法に従って得られた結合の結果を、それぞれ図5および6Aおよび6Bに示す。
【0099】
図4は、主要なN−グリカンとして、GlcNAcMan3GlcNAc2を有する抗CD20抗体を含む上記組成物は、RITUXIMABに比べてFcγRIIbレセプターに対する結合が減少したことを示す。
【0100】
図5Aは、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有し、実施例3に記載したように組換え型Pichia pastorisで発現した抗CD20抗体を含む組成物は、主要なN−グリカンとして、GlcNAcMan3GlcNAc2を有していないRITUXIMABと比べて、FcγRIIIa−LFレセプターに対して約3〜4倍結合が増加したことを示す。
【0101】
図5Bは、この組成物がは、RITUXIMABに比べFcγRIIIa−LVレセプターに対して約10倍結合が増加したことを示す。したがって、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有する糖タンパク質を生成するように遺伝子操作した細胞系から生成される抗体組成物は、FcγRIIbに対する結合が減少し、FcγRIIIaに対する結合が増加した。
【0102】
配列の説明
配列番号1は、DX−IgG1L鎖の核酸配列をコードする。
配列番号2は、DX−IgG1H鎖の核酸配列をコードする。
配列番号3は、IgG1L鎖のヒト定常領域の核酸配列をコードする。
配列番号4は、IgG1H鎖のヒト定常領域の核酸配列をコードする。
配列番号5〜19は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDX−IgG1のマウスL鎖可変領域の合成に用いた15個の重なり合うオリゴヌクレオチドをコードする。
配列番号20〜23は、DX−IgG1マウスのL鎖可領域をヒトL鎖定常領域に連結するために用いられた4個のオリゴヌクレオチドプライマーをコードする。
配列番号24〜40は、PCRによるDX−IgG1のマウスH鎖可変領域を合成するために用いられた17個の重なり合うオリゴヌクレオチドをコードする。
配列番号41〜44は、DX−IgG1のマウスH鎖可変領域をヒトH鎖定常領域に連結するために用いられた4個のオリゴヌクレオチドプライマーをコードする。
配列番号45は、N末端EcoRI部位を有するKar2(Bip)シグナル配列をコードする核酸配列をコードする。
配列番号46〜49は、Kar2シグナル配列をDX−IgG1のLおよびH鎖に連結するために用いられた4個のオリゴヌクレオチドプライマーをコードする。
【0103】
本明細書に記載された本発明を例示された実施形態を参照して説明したが、本発明は、本明細書に限定されないことを理解されたい。当業者および本明細書の教示へのアクセスにより、これらの範囲内の追加的な修飾および実施形態は理解できるであろう。したがって、本発明は、本明細書に添付された請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、それぞれのCH2鎖のAsn297にGlcNAcMan3GlcNAc2 N−グリカン構造を有する免疫グロブリン分子の模式図を示す。
【図2A】図2Aは、pCR2.1 TOPOベクターでDX−IgG1 L鎖をコードするpDX343のプラスミド地図を示す。
【図2B】図2Bは、Kar2(Bip)シグナル配列およびpDX343由来のDX−IgG1 L鎖をコードするpDX344のプラスミド地図を示す。
【図2C】図2Cは、pCR2.1 TOPOベクターでDX−IgG1 H鎖コードするpDX360のプラスミド地図を示す。
【図2D】図2Dは、AOX2プロモーターをコードするpPICZAベクター中にpDX344由来のKar2 SSおよびL鎖をコードするpDX458のプラスミド地図を示す。
【図2E】図2Eは、Kar2(Bip)シグナル配列およびpDX360からのDX−IgG1由来のDX−IgG1 H鎖をコードするpDX468のプラスミド地図を示す。
【図2F】図2Fは、pDX458にサブクローニングしたKar2 SSおよびpDX360由来のDX−IgG1 H鎖をコードするpDX478のプラスミド地図を示す(実施例1)。
【図3】図3は、YDX554株から分離されたサンプルF060708のMALDI−TOFスペクトルを示す(YSH37株で発現した主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有するDX−IgG1)。
【図4】図4は、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有するDX−IgG1(F060708)FcγRIIbに対する結合とRITUXIMABのFcγRIIbに対する結合とを比較したELISA結合アッセイの結果を示す。
【図5A】図5Aは、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有するDX−IgG1(F060708)のFcγRIIIa−LFフェノタイプに対する結合とRITUXIMABのFcγRIIIa−LFフェノタイプに対する結合とを比較したELISA結合アッセイの結果を示す。
【図5B】図5Bは、主要なN−グリカンとしてGlcNAcMan3GlcNAc2を有するDX−IgG1(F060708)FcγRIIIa−LVフェノタイプに対する結合とRITUXIMABのFcγRIIIa−LVフェノタイプに対する結合とを比較したELISA結合アッセイの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の免疫グロブリンまたはフラグメントを含む組成物であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより前記組成物は、前記主要なN−グリカンが本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含む組成物。
【請求項2】
前記複数のN−グリカンの50モルパーセントより多くが、本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成る請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記複数のN−グリカンの75モルパーセントより多くが、本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成る請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記複数のN−グリカンの90モルパーセントより多くが、本質的にGlcNAcMan3GlcNAc2から成る請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記GlcNAcMan3GlcNAc2のN−グリカンが、前記複数のN−グリカンの次に最も主要なN−グリカン構造よりも約5モルパーセントから約50モルパーセント多いレベルで存在する請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、FcγRIIレセプターに対する結合親和性の減少を示す請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記FcγRIIレセプターがFcγRIIaレセプターである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、食作用(マクロファージによる免疫複合体のクリアランス)の減少を示す請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記FcγRIIレセプターが、FcγRIIbレセプターである請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、B細胞を活性化する請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、FcγRIIIレセプターに対する結合親和性の増加を示す請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記FcγRIIIレセプターが、FcγRIIIaである請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記FcγRIIIレセプターが、FcγRIIIbレセプターである請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性の増加を示す請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、フコースを本質的に含まない請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、フコースを欠いている請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、成長因子、FGFR、EGFR、VEGF、白血球抗原、CD20、CD33、サイトカイン、TNF−α、およびTNF−βから成る群から選択される抗原に結合する請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、IgG1Fc領域、IgG2Fc領域、IgG3Fc領域、およびIgG4Fc領域から成る群から選択されるFc領域を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1に記載の組成物および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項20】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、フコースを本質的に含まない請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、フコースを欠いている請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、成長因子、FGFR、EGFR、VEGF、白血球抗原、CD20、CD33、サイトカイン、TNF−α、およびTNF−βから成る群から選択される抗原に結合する抗体を含む請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記免疫グロブリンまたはフラグメントが、IgG1Fc領域、IgG2Fc領域、IgG3Fc領域およびIgG4Fc領域から成る群から選択されるFc領域を含む請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項24】
請求項1に記載の組成物を含むキット。
【請求項25】
免疫グロブリンまたはフラグメントをコードする外来性遺伝子を含み、請求項1に記載の免疫グロブリン組成物を発現するように遺伝子操作されているかまたは選択される真核生物宿主細胞。
【請求項26】
下等真核生物宿主細胞である請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
複数の免疫グロブリンまたはそのフラグメントを含む組成物を生産する方法であって、それぞれの免疫グロブリンまたはフラグメントは、それに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それにより前記組成物は、前記主要なN−グリカンがGlcNAcMan3GlcNAc2から本質的に成る複数のN−グリカンを含み、
(a)請求項25に記載の真核生物宿主細胞を提供することと;
(b)前記真核生物宿主細胞が前記免疫グロブリンまたはフラグメントを産生するために十分な時間、培地中で前記真核生物宿主細胞を増殖することと;
(c)前記免疫グロブリンまたはフラグメントを単離して前記組成物を生産することとを含む方法。
【請求項28】
前記宿主細胞が、下等真核生物宿主細胞である請求項27に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2009−507040(P2009−507040A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529366(P2008−529366)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/034465
【国際公開番号】WO2007/028144
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(503007287)グライコフィ, インコーポレイテッド (37)
【Fターム(参考)】