説明

主に1種のエナンチオマーを含む1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの製造方法

本発明は、エナンチオ選択的な1,1,1−トリフリオロアセトンの酵素的還元により、ある特定のエナンチオマーが優勢である、1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナンチオ選択的な1,1,1−トリフルオロアセトンの酵素的還元により、ある特定のエナンチオマーが優勢である、1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの製造方法に関する。
【0002】
製剤学的に重要な構成単位として、主にある特定のエナンチオマーを含む1,1,1−トリフルオロイソプロパノール(代替名:1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシプロパン)を合成するのにごく少数の方法が公知である。それゆえ、例えば、エナンチオマーは、ヨネザワ等によって記載されたように(T.Yonezawa、Y.Sakamoto、K.Nogawa、T.Yamazaki、T.Kitazume、Chem.Lett. 1996、855-856)、製造後に、形成されたラセミ体を分離することによって選別されうる。しかし、この型式のラセミ体の分割は、事前に製造された全生成物の50%の最大収率に制限される。
【0003】
基本的に、間違いなく最も効果的な合成方法は、相応するケトン"1,1,1−トリフルオロアセトン"の、相応するアルコールへの直接的な不斉変換であり、その際所望のエナンチオマーはこの場合に直接的に得られる。このことは、基本的にキラルの還元剤又は、代わりに、キラル触媒及び還元剤を用いると可能である。後者の方法は、効率の良さを理由として及び原子の節約の明確な向上のために、さらに好ましい。しかし、今までに、エナンチオ選択的な1,1,1−トリフルオロアセトンの還元を用いて、主に1種のエナンチオマーを含む(以下"エナンチオマーに富む"とも記載)1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの製造に関するたった2つの研究についてしか、開示されておらず、そして以下に記載される。ケトンの不斉還元用に開発された、多数の方法を考慮すると、このことは、極めて驚くべきことである。
【0004】
それゆえ、ブラウン等は、立体選択的な1,1,1−トリフルオロアセトンの還元用のキラル還元剤の使用によって、89%eeエナンチオマー過剰率を有する相応するアルコールを得ている(P.V.Ramachandran、A.V.Teodorovic、H.C.Brown、Tetrahedron 1993、49、1725-1738)。この場合、産業的な観点からの欠点は、エナンチオマー過剰率が90%eeより低いことに加え、化学量論的量で必要とされるキラル還元剤"(−)−B−クロロジイソピノカンフェイルボラン"の使用である。さらに、ショウノウ誘導体の化学量論的量が、この有機ホウ素化合物を製造するのに、キラル助剤として必要とされる。
【0005】
エナンチオマーに富む1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの代替的な合成は、アルコールデヒドロゲナーゼを用いた1,1,1−トリフルオロアセトンの、直接的な酵素的還元に基づく。アルコールデヒドロゲナーゼは、酵素分類EC1に属し、アルコールの官能性を形成するために、カルボニル化合物の(可逆的な)反応を触媒する。プレローグ則は、この場合、カルボニル基に近接した基の各大きさに依存して、対応する(R)又は(S)エナンチオマーへのどちらの転化が選択的に行われるかによる、選択性に適用される(K.Faber、Biotransformations in Organic Chemistry、第4版、Springer、Berlin、2000、2.1.1章、pp166-167)。従って、カルボニル基と近接した、同様の大きさの基を有するケトンの還元は、例えば、1,1,1−トリフルオロアセトンの場合もまたそうであるが、問題がある。結果的に、酵素を用いた高い選択性の還元は、今までに1,1,1−トリフルオロイソプロパノールについては開示されていない。それゆえ、Bucciarelli等により報告された、(S)−1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの形成のための1,1,1−トリフルオロアセトンの還元用のパン酵母の使用は、たった80.3%のエナンチオマー過剰率しかもたらさず[M.Bucciarelli、A.Forni、I.Moretti、G.Torre、synthesis 1983、897-899]、それは、従って、>90%ee、特に>95%ee及びとても好ましくは>99%eeの産業上の実用性にとって所望のエナンチオマー過剰率よりもかなり低い。例えば、製薬用途にとっての要件は、その光学活性生成物がそれぞれの場合に>99%ee("ee"の定義及びさらなる説明に関しては、例えば:K.Faber、Biotransformations in Organic Chemistry、第4版、Springer、Berlin、2000、2.1.1章、pp28-52:参照)のエナンチオマー過剰率を有することである。それとは異なり数多くの例が、カルボニル基に隣接した立体的に明確に異なる置換基を有するケトンのアルコールデヒドロゲナーゼ触媒作用による、還元の例として公知であり、かつ、それは>90%ee、特に、>95%ee及びとても好ましくは>99%eeのエナンチオ選択性で進行する[とりわけ:K.Nakamura、T.Matsuda:Enzyme Catalysis in Organic Synthesis(編集者:K.Drauz、H.Waldmann)、第3巻、Wiley-VCH、第2版、2002、pp.991-1047参照]。
【0006】
本発明の目的は、>90%eeの、特に>95%ee及びとても好ましくは>99%eeの高いエナンチオマー過剰率を有するこれらの化合物を製造することができる1種のエナンチオマーを主に含む1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの製造方法を示すことであった。
【0007】
この目的は、請求項1記載の方法によって達成される。好ましい実施態様は従属請求項で表される。この方法は、エナンチオ選択的な1,1,1−トリフルオロアセトンの還元を利用する。
【0008】
驚くべきことに、従来の技術水準に鑑みて、思いがけず、本発明の方法の使用により、>99%eeのエナンチオマー過剰率が得られる。それゆえ、従来の発行された実験結果を鑑みると、明確に<90%eeの ee値並びにプレローグ則に基づき−カルボニル基に隣接した2つの基CH及びCFの類似性の結果として−基本的に、低い選択性が予期されていた。しかし、対照的に、>90%ee、特に>95%ee及びとても特に好ましくは>99%eeの優れたエナンチオ選択性が、本発明の方法において得られる。
【0009】
本発明の方法において使用できるアルコールデヒドロゲナーゼは、基本的に、それらが本発明の方法において用いられる転化/反応を触媒できる限り、当業者に公知のこの型式の全ての酵素である。このことは、慣例の実験によって見いだすことができる。
【0010】
有利に使用されるアルコールデヒドロゲナーゼは、たとえカルボニル基に隣接した基が同様の立体的な大きさを有していても、立体選択的な転化を触媒するものである。
【0011】
生物、ロドコッカス・エリスポリス(S−ADH)、アースロバクター・パラフィネウス(S−ADH)又はラクトバシルス・ケフィア(R−ADH)からの少なくとも1種のアルコールデヒドロゲナーゼを使用することが、特に好ましい(R.エリスポリスからのADH:a) EP1499716; b) K.Abokitse、W.Hummel、Cloning、sequence analysis、and heterologous expession of the gene encoding a (S)-specific alcohol dehydreogenase from Rhodococcus erythropolis DSM43297、Appl.Microbiol.Biotechnol. 2003、62、380-386; c) PCT/EP2005/06215)(A.パラフィネウスからのADH:WO2005103239)(ラクトバシルス・ケフィアからのADH:a) EP456107; b) C.W.Bradshaw、W.Hummel、C.-H.Wong、Lactobacillus kefir Alcohol Dehydrogenase:A Useful Catalyst for Synthesis、J.Org.Chem. 1992、57、1532-1536; c) PCT/EP2005/06215)。
【0012】
さらに、好ましい実施態様において、本発明はまた、少なくとも1種のアルコールデヒドロゲナーゼが、ラクトバシルス・ケフィア、ロードトルラ・グルティニス、セルノバクテリウム・ディウェルゲンス、ストレプトコッカス・フェルス、ブラストバクター・ナタトリウス(natatorius)、スポリジオボラス・サルモニカラー、ピチア・ハプロフィラ、ピチア・パストリス、クリヴェロミセス・マーキシアヌス、ピチア・カルソニ、サッカロミセス・セレビシエ及びロドコッカス・エリスポリスからなるグループから選択される生物由来のものである本発明の方法に関する。
【0013】
細菌性のアルコールデヒドロゲナーゼが有利に使用される。
【0014】
アルコールデヒドロゲナーゼは、基本的に、本発明の方法において、当業者(以下参照)によく知られた形式で使用できる。しかし、オキシドレダクターゼとしてのアルコールデヒドロゲナーゼは、補因子に依存した酵素なので、使用される酵素のために必須の補因子は、ケトンの完全な転化を確実にできるように、その還元を効果的に行うために、反応混合液中に十分な量で存在しなければならない。これらの補因子は比較的高価な分子なので、補因子の最小量の使用が経済的理由にとって非常に有益である。化学量論的に必要な量未満の補因子を使用することができるひとつの可能性は、混合物中に存在する第2の生体触媒によって補因子を再生することである。この型式の系は、酵素による(例えば有機)化合物の転化は補因子の"消費"をしつつ進行し、そして、この補因子は第2の酵素系によってインサイチューで再生される、というような方式で機能する。それゆえその結果は、そのようにして、高価な補因子の使用されるべき量の、削減である。
【0015】
共役酵素系による反応は、それゆえ、有利な方法になる。
【0016】
このような共役系は例えばDE−A10233046又はDE−A10233107に記載されている。
【0017】
使用された補因子を再生する酵素は、まず、使用された補因子に依存するが、続いて、酸化又は還元されるべき補基質にも依存する。NAD(P)Hを再生するためのいくつかの酵素が、Enzyme Catalysis in Organic Synthesis、Ed.:K.Drauz、H.Waldmann、1995、第1巻、VHC、721ページに記載されている。商業上の利益に関して及び大量に得られる点についても、及び目下アミノ酸の合成のために用いられること、これらの理由で、いわゆるホルマートデヒドロゲナーゼ(FDH)(DE-A10233046も参照)及び代わりになるものとしていわゆるグルコースデヒドロゲナーゼが有利に使用される。それゆえ、それらは、本発明の方法においても、補因子を再生するために、有利に使用されうる。FDHは、とても特に好ましくは、生物カンジダ・ボイデイニ由来のものである。さらに、例えばDE−A19753350に記載されている、得られたそれの変異体を使用することも可能である。さらに、バチルス・ズブチルスからのグルコースデヒドロゲナーゼを使用することが可能であり、好ましい。しかし、例えばイソプロパノールの使用を通して、共役基質の再生もまた可能である(イソプロパノールを用いた補因子の再生のための方法の例:a) W.Stampfer、B.Kosjek、C.Moitzi、W.Kroutil、K.Faber、Angew.Chem. 2002、114、1056-1059; b) M.Wolberg、W.Hummel、C.Wandrey、M.Mueller、Angew.Chem. 2000、112、4476-4478)。
【0018】
本発明の方法において、立体特異性の転化/反応を、この反応に適したいかなる媒体中で、行うことも可能である。触媒反応は、例えば、純粋な水溶液中又は有機溶媒が添加された含水の媒体中で行われうる。この関係における可能性は、単相又は多相系である。それゆえ、選択された酵素が、本発明において記載された収率で所望の立体選択的な反応をその中で触媒できる限り、選択された反応媒体は、本発明の方法を制限するものではない。
【0019】
本方法は、大量生産の観点において、高い初期基質濃度で行うことが好ましい。これらは、一般に、>50g/l、好ましくは>100g/l及びとても好ましくは>150g/lである。基質濃度は、さらに、場合により、触媒転化の間、新たな基質溶液を連続的に供給することにより、特に下記の全細胞触媒が使用される場合、維持できる。
【0020】
この方法は基本的に、いかなる適した温度であっても、実施される。この関係において、当業者にとっての目的は、最大純度及び最小時間で、所望の生成物の好ましい最大収率を得ることである。加えて、使用される酵素は、使用される温度で、十分に安定であるべきであり、そしてこの反応は最大のエナンチオ選択性で進行するべきである。好熱性の生物からの酵素の使用において、例えば、100℃の温度に達することは完全に可能である。第一の目的は、温度については、使用される酵素の触媒最適条件になることである。水性の系の、間違えなく賢明な下限は、−15℃である。10〜60℃の温度範囲、特に好ましくは20〜40℃の温度範囲が、本発明の方法に好ましく、主に上記条件にしたがって決定される。
【0021】
反応の間のpHは、同様に主に使用される酵素及び補因子の安定性に従って決定され、転化率の決定によって確かめられることができ、本発明の方法と相応して設定される。酵素に好ましい範囲は、一般的にpH5〜11になるだろうが、使用される酵素のひとつが、より低い又はより高い値で触媒最大値を持つならば、これはまた、例外的な場合に、より高くもなり又はより低くもなりうる。本発明の方法において、反応が行われるpH範囲は、好ましくは、5.5〜10.0、特に6.0〜9.0であってよい。
【0022】
本発明において記載された方法は、適した反応媒体中で、単離酵素を用いても行われうるが、本発明の方法は、特に好ましい実施態様において、全細胞触媒を使用することによって行われ、それは反応のための(少なくとも1種の)全細胞を含む系であるが、この細胞は、好ましくは所望のアルコールデヒドロゲナーゼ及び補因子再生酵素を同時に発現することができる(エナンチオ選択的な還元のための全細胞触媒を用いる方法の設計については、例えばとりわけ:PCT/EP2005/06215)を参照。
細胞はそれゆえ、好ましくは、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有する少なくとも1種の酵素(ポリペプチド)及び使用される補因子を再生する活性を有する少なくとも1つの酵素(ポリペプチド)を発現する。これらの酵素及び/又は使用された細胞は、好ましくは上記生物由来である。
【0023】
選択的に、イソプロパノールを用いた補因子の再生の使用においては、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有する少なくとも1種の酵素(ポリペプチド)と、場合によっては、使用される補因子を再生するための活性を有する1種の酵素(ポリペプチド)とを有利に発現する細胞を使用することも可能である。
【0024】
基本的に、引用されうる、適した微生物は、例えば、ハンゼヌラ・ポリモルファ、ピチア属、サッカロミセス・セレビシエのような酵母、E.coli、バチルス・ズブチルスのような原核生物又はヒト細胞、昆虫細胞のような真核生物等のような、本発明の目的のために、当業者に公知の全ての生物である。本発明の目的のために、E.coli菌株を使用することは、可能であり、好ましい。とても特に好ましいものは、E.coli XL1 Blue、NM522、JM101、JM109、JM105、RR1、DH5α、TOP10-又はHB101である。これらの菌株は一般的に公知であり、購入されうる。
【0025】
DE−A10155928で記載されているような生物が、宿主生物として有利に使用される。そのような生物の利点は、本発明の方法に適した両方のポリペプチド系の同時の発現であり、その結果、たった1種の組換体(遺伝子改変された)生物のみが本発明の方法に使用される必要がある。
【0026】
ポリペプチド(酵素)の発現を調節するために、所望の酵素活性に関しては、相応のコード化している核酸配列が、異なるコピー数を有する異なるプラスミド上に存在することができ、かつ/又は異なる強さのプロモーターを、核酸配列の発現の異なる強さのために使用できる。このような調整された酵素系を用いると、有利には、中間化合物の蓄積がなく、そして研究中の反応は最適な全率で続くことができる。しかしながら、このことは、当業者に十分公知である(Gellissen、G.;Piontek、M.;Dahlems、U.;Jenzelewski、V.;Gavagan、J.W.;DiCosimo、R.;Anton、D.L.;Janowicz、Z.A. (1996)、Recombinant Hasenula polymorpha as a biocatalyst. Coexpression of the spinach glycolate oxidase (GO) and the S. cerevisiae catalase T (CTT1) gene、Appl. Microbiol. Biochnol. 46、46-54;Farwick、M.;London、M.;Dohmen、J.;Dahlems、U.;Gellissen、G.;Strasser、A.W.;DE-A 19920712)。"全細胞触媒"として使用され、適当に遺伝子改変された、微生物の作成は、基本的に当業者に公知の方法によって行うことができる。(Sambrook、J.;Fritsch、E.F. and Maniatis、T. (1989)、Molecular cloning: a laboratory manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York;Balbas、P. and Bolivar、F. (1990)、Design and construction of expression plasmid vectors in E.coli、Methods Enzymol. 185、14-37;Rodriguez R.L. and Denhardt、D.T. (eds) (1988)、Vectors: a survey of molecular cloning vectors and their uses、205-225、Butterworth、Stoneham)。一般的な方法のため使用される技術に関して(PCR法、クローニング、発現等)、下記の文献及びそこに引用された文献を参照できる:Universal GenomeWalkerTM Kit User Manual、Clontech、3/2000 及びそこに引用される文献、Triglia T.;Peterson、M.G. 及びKemp、D.J. (1998)、A procedure for in vitro amplification of DNA segments that lie outside the boundaries of known sequences、Nucleic Acid Res. 16、8186;Sambrook、J.;Fritsch、E.F. and Maniatis、T. (1989)、Molecular cloning: a laboratory manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York;Rodriguez、R.L. and Dehardt、D.T. (eds) (1988)、Vectors: a survey of molecular cloning vectors and their uses、Butterworth、Stoneham。
【0027】
反応系は、例えば、攪拌容器中で、攪拌容器のカスケード又は膜反応器中で、好んで使用され、それらは回分式に又は連続的に作業されて良い。しかし、本発明の方法が行われうるいかなる系の型式も適している。
【0028】
本発明の関係で、膜反応器は、触媒が反応器中に密閉されるいかなる反応容器をも意味するが、一方で低分子量基質を、反応器に供給することができ又は反応器から排出できる。さらに膜は、反応室中に直接組み込まれることが可能であり、又は、外部で、反応溶液が連続的に若しくは継続的に濾過モジュールを通して流れ、及び濃縮液が反応器へ戻る、別個の濾過モジュール中に、組み込まれることが可能である。適した実施態様が、すなわち、WO98/22415及び Wandrey等、年鑑1998、Verfahrenstechnik und Chemieingenieurwesen、VDI、pp.151et seq.;Wandrey et al. in Applied Homogeneous Catalysis with Organometallic Compounds、第2版、VCH1996、pp.832 et seq.;Kragl et al.、Angew.Chem. 1996、6,684 et seq に記載されている。
【0029】
回分式及び半連続的な方法に加えて、この装置において可能である、連続的な方法は、さらに、例えば、十字流濾過方法又は全量濾過として行われうる。両方法変形は、基本的に、先行技術(Engineering Processes for Bioseparations、Ed.:L.R.Weatherley、Heinemann、1994、135-165;Wandrey et al.、Tetrahedron Asymmetry 1999、10、923-928)に記載されている。
【0030】
使用のために、本発明の方法に考慮されるポリペプチドは、均一に精製された化合物としても又は組み換え体の生成物酵素としても、遊離形で使用されうる。さらに、これらのポリペプチドが、完全な"ゲスト生物"(遺伝子変性の微生物)の構成要素として、又は必要であれば精製された及び、適切に崩壊された、多量のホスト生物細胞と一緒に使用されることも可能である。
【0031】
同様に、酵素を固定化の形で使用することも可能である(Sharma B.P.;Bailey L.F. and Messing R.A. (1982)、Immobilisierte Biomaterialiern-Techniken und Anwendungen、Angew. Chem. 94、839-852)。固定化は、凍結乾燥法によって、有利に実施される(Paradkar、V.M.;Dordick、J.S. (1994)、Aqueous-Like Acrivity of α-Chymotrypsin Dissolved in Nearly Anhydrous Organic Solvents、J.Am.Chem.Soc.116、5009-5010;Mori、T.;Okahata、Y. (1997)、A variety of lipi-coated glycoside hydrolases as effective glycosyl transfer catalysts in homogeneous organic solvents、Tetrahedron Lett.38、1971-1974;Otamiri、M.;Adlercreutz、P.;Matthiasson、B. (1992)、Complex formation between chymotrypsin and ethyl cellulose as a means to solubilize the enzyme in active form in toluene、Biocatalysis 6、291-305)。凍結乾燥法にとって、とても特に好ましくは、それに制限されないが、例えば、エアロゾルOT、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(PEG)又はブリッジ52(ジエチレングリコールモノセチルエーテル)のような界面活性物質の存在である(Kamiya、N.;Okazaki、S.-Y.;Goto、M. (1997)、Surfactant-horseradish peroxidase complex catalytically active in anhydrous benzene、Biotechnol.Tech.11、375-378)。固定化にとって、特に好ましくは、Eupergit(登録商標)、特にEupergitC(登録商標)及びEupergit250L(登録商標)(Roehm)である(Eupergit.RTM. C、a carrier for immobilization of enzymes of industrial potential. Katchalski-Katzir、E.;Kraemer、D.M.Journal of Molecular Catalysis B:Enzymatic (2000)、10(1-3)、157-176)。
【0032】
同様に、Hisタグ(ヘキサ−ヒスチジン)をつけられたポリペプチドと併用したNi−NTA上の固定化が好ましい(ポリヒスチジンアフィニティタグを用いたタンパク質の精製。Bornhorst、Joshua A.;Falke、Joseph J.Methods in Enzymology (2000)、326、245-254)。
【0033】
CLEC類としての使用も同様に考えられる(St.Clair、N.;Wang、Y.-F.;Margolin、A.L. (2000)、cofactor-bound cross-linked enzyme crystals(CLEC) of alcohol dehydrogenase、Angew. Chem. Int. Ed. 39、380-383)。
【0034】
これらの方法は、有機溶媒によって不安定化するポリペプチドのために、水及び有機溶媒の混合物中で、又は完全に有機性の媒体中で触媒活性を示すポリペプチドの生成にも適している。
【0035】
エナンチオマーに富んだ1,1,1−トリフルオロイソプロパノールは、本発明の方法により、まず好ましくは含水の溶媒中で、所望の最終生成物(1,1,1−トリフルオロアセトン)に相応するケトンを溶解させ、場合によりこの溶液に生体触媒に必要でそれを安定化させる添加剤を添加し、そして適宜、pHを調整し、この溶液に生体触媒を添加し、そして、ケトンの還元を行って、所望の(R)−又は(S)−のエナンチオマーに富む1,1,1−トリフルオロイソプロパノールを形成させることにより製造される。
【0036】
特に好ましい実施態様において、1,1,1−トリフルオロアセトンは、生体触媒(所望の酵素を発現している)に適した細胞媒地中で直接溶解され、生体触媒及び場合によりその酵素に必要な補因子が添加され、及び所望のエナンチオマーへの触媒転化が、生体触媒が安定で並びに酵素がそれにより触媒されるそれぞれの反応で高い活性を示す温度で行われる。
【0037】
しかし、代わりに、それぞれの化合物の添加の順序は、所望のように変えることもできる。それゆえ、さらに好ましい実施態様は、1,1,1−トリフルオロアセトンの添加の前に、生体触媒を加えることからなる。
【0038】
"エナンチオマーに富む"又は"豊富なエナンチオマー"又は"主に1種のエナンチオマーを含む"とは、混合物中の鏡像異性体に対して1種のエナンチオマーの>50%が存在することを指す。
【0039】
1,1,1−トリフルオロアセトン、(S)−1,1,1−トリフルオロイソプロパノール及び(R)−1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの構造を、以下に図示する:
【化1】

【0040】
本願明細書において、引用した文献は、開示されたものとみなす。
【実施例】
【0041】
実施例1:
1,1,1−トリフルオロアセトン(10mM基質濃度)、補因子(10mM補因子濃度;使用される酵素に好ましい補因子により、NADPH又はNADH)及び特にアルコールデヒドロゲナーゼの酵素溶液(0.8mlバッファー溶液中の過剰発現形のアルコールデヒドロゲナーゼを含む湿式のバイオマス(E.coli、DSM14459)の200mgのビーズミルによる、標準的な細胞崩壊から調製される)からなる反応溶液(2ml)を、30℃の反応温度で24時間攪拌する。24時間後に、所望の生成物(S)−又は(R)−1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの形成について、反応混合物を調べる。その結果を下記の表に示す。
【0042】
【表1】

a) RE-ADH=ロドコッカス・エリスポリスからのアルコールデヒドロゲナーゼ、これに関しては、とりわけ:PCT/EP2005/06215参照; AP-ADH=アースロバクター・パラフィネウスからのアルコールデヒドロゲナーゼ、これに関しては、とりわけ:WO2005103239参照;LK-ADH=ラクトバシルス・ケフィアからのアルコールデヒドロゲナーゼ、これに関しては、とりわけ:PCT/EP2005/06215参照; b) 各場合において、括弧書きで、主として形成されたエナンチオマーを示す。
【0043】
実施例2:
100mMの基質濃度で、全細胞工程(全細胞触媒及びその工程の原理、PCT/EP/2005/06215も参照)によって、(S)−1,1,1−トリフルオロイソプロパノールを作るための生体触媒による1,1,1−トリフルオロアセトンの分取的還元: リン酸バッファー(pH6.5に調整)、(S)−エナンチオ選択的なE.coliDSM14459型の全細胞触媒(R.エリスポリスからの(S)−アルコールデヒドロゲナーゼ、及びバシラス・サチリスからのグルコースデヒドロゲナーゼを含み、特許出願PCT/EP2005/06215で記載されているように調製される;量:1.5g、1リットルあたり湿式のバイオマス〜30gの細胞濃度に相当する)、D−グルコース(量:1.486g、使用されたケトンのモル量に基づいて1.5当量に相当する)及びトリフルオロアセトン(量:560.3mg、5mmol、100mMの基質濃度と同等量)からなる反応混合物(合計量:50ml)を、Titrino反応容器中で調製する。この反応混合液を、それから室温で、24時間の反応時間で、水酸化ナトリウム溶液(1M NaOH)を加えることにより、pHを〜6.5で一定に保ちつつ、攪拌する。それから、バイオマスを遠心分離法によって除去し、そして、その転化率を得られた濾液にて19F−NMR分光分析法により決定する。この場合、>95%の転化率を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種のエナンチオマーを主に含む、1,1,1−トリフルオロイソプロパノールを、アルコールデヒドロゲナーゼを用いたエナンチオ選択的な1,1,1−トリフルオロアセトンの還元により製造する方法において、1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの所望のエナンチオマーが、>90%eeのエナンチオマー過剰率で形成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
1,1,1−トリフルオロイソプロパノールの所望のエナンチオマーが、>95%ee、特に>99%eeのエナンチオマー過剰率で形成されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
使用されるアルコールデヒドロゲナーゼが、ラクトバシルス・ケフィア、ロードトルラ・グルティニス、カルノバクテリウム・ディウェルゲンス、ストレプトコッカス・フェルス、ブラストバクター・ナタトリウス、スポリジオボラス・サルモニカラー、ピチア・ハプロフィラ、ピチア・パストリス、クロヴェロミセス・マーキシアヌス、ピチア・カルソニ、サッカロミセス・セレビシエ及びロドコッカス・エリスポリスからなるグループから選択される生物由来であることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
細菌性のアルコールデヒドロゲナーゼを使用することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
ロドコッカス・エリスポリスからの細菌性のアルコールデヒドロゲナーゼを使用することを特徴とする、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
ケトンの転化が、共役酵素系を使用して行われることを特徴とする、請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
共役酵素系が、アルコールデヒドロゲナーゼとアルコールデヒドロゲナーゼの補因子を再生する酵素からなることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ケトンの転化のために存在する初期基質濃度が、>50g/l、好ましくは>100g/l及びとても好ましくは>150g/lであることを特徴とする、請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
転化が、−15〜100℃、好ましくは10〜60℃、特に好ましくは20〜40℃の温度範囲で行われることを特徴とする、請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
転化が、pH5〜11、好ましくはpH5.5〜10、特に好ましくはpH6〜9で行われることを特徴とする、請求項1〜9のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
アルコールデヒドロゲナーゼと補因子を再生する酵素を同時に発現することができる、少なくとも1種の微生物を使用することを特徴とする、請求項1〜10のうちいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−514542(P2009−514542A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539380(P2008−539380)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067228
【国際公開番号】WO2007/054411
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】