説明

乗場ドア移動治具

【課題】ハンガーローラの取り替え作業時において、乗場ドアの移動に対する作業負荷を減らす乗場ドア移動治具を提供する。
【解決手段】乗場ドアを保持する保持体11aと、乗場ドアを保持体11aに固定する固定具13aと、保持体11aに固定された乗場ドアを移動させる車輪15aと、を有している乗場ドア移動治具1aと、これと左右対称の構造を有する乗場ドア移動治具1bと、をハンガーローラと連結を解除する前の乗場ドアに装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの乗場ドアをドアレールに懸垂させて移動させるハンガーローラの取替え作業時に用いる治具に関し、特に、乗場ドアの底面部に装着され、ハンガーローラと連結が解除された乗場ドアの移動を容易にさせる乗場ドア移動治具に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのドアには、複数のドアを重ねて配置し、各々のドアを所定の移動量比で移動させることにより、その開閉を制御するものがある。このようなエレベータのドアのうち、比較的高速に移動するものを「高速ドア」と呼び、比較的低速に移動するものを「低速ドア」と呼ぶ(特許文献1〜3)。
【0003】
また、エレベータのドアには、乗客を搬送する乗りかご側に設けられた「かごドア」の他に、建物各階の乗降口側に設けられた「乗場ドア」がある。このような「乗場ドア」は、乗降口上方に取り付けられたドアレールに(ハンガーローラ等を介して)懸垂されている。そして、「乗場ドア」は、乗降口に横付けされた乗りかごの「かごドア」の開閉に連動して開閉する。以下、乗降口における乗場ドアやドアレール等の構成とその動作について、図5及び図6を用いて説明する。
【0004】
図5は、乗降口を、乗りかご側から見た図である。また、図6は、ハンガーローラが取り付けられた乗場ドア等を横側から見た図である。図5に示すように、乗降口には、壁21と床23がある。ドアレール25aは、後述する乗場ドア31a(「高速ドア」)を懸垂させて移動させるレールである。また、ドアレール25bは、後述する乗場ドア31b(「低速ドア」)を懸垂させて移動させるレールである。図5に示すように、ドアレール25a及び25bは、壁21の上方に取り付けられている。また、図6に示すように、ドアレール25aがドアレール25bよりも手前側(乗りかご側)に取り付けられている。
【0005】
乗場ドア31aは、開閉時に高速に移動する「高速ドア」である。ハンガープレート33aは、乗場ドア31aをハンガーローラ35aを介して、ドアレール25aに懸垂させる。なお、乗場ドア31aとハンガープレート33aとは、取り付けボルト37aにより連結されている。ハンガーローラ35aは、ハンガープレート33aに回転可能に設けられている。ハンガーローラ35aは、ドアレール25aの上に乗り、乗場ドア31aをドアレール25aに懸垂させる。そして、ハンガーローラ35aは、ドアレール25a上を回転走行することにより乗場ドア31aをドアレール25aに沿って移動させる。また、乗場ドア31aの下面には、乗場ドア31aの移動をガイドするドアシュー39aが設けている。
【0006】
乗場ドア31bは、開閉時に低速(例えば、乗場ドア31aの1/2の速度)で移動する「低速ドア」である。なお、ハンガープレート33b、ハンガーローラ35b、取り付けボルト37b、ドアシュー39bは、各々、ハンガープレート33a、ハンガーローラ35a、取り付けボルト37a、ドアシュー39aと同様の構成である。また、乗場ドア31bは、ハンガーローラ35b等を介して、ドアレール25bに懸垂されている。そして、乗り場ドア31a及び31bは、建物各階の乗降口に横付けされた乗りかごの「かごドア」の開閉に連動して開閉する。
【0007】
このようなエレベータ・ドア・システムにおけるハンガーローラ35a及び35bは、乗場ドア31a及び31bの開閉が繰り返されることにより磨耗する。このため、ハンガーローラ35a及び35bは、定期的に取り替え等の保守作業を行わなければならない。これを、図5及び図6を用いて説明する。
【0008】
通常、ハンガーローラ35a及び35bの取替え作業は、2人若しくはそれ以上の保守作業員が行う。保守作業員は、以下のように、手前にあるハンガーローラ35aから取り外す。(1)まず、保守作業員が、後述の連結解除後に乗場ドア31aが床23に落ちるのを防止するために、乗場ドア31aをその両側を持って支える。(2)次に、他の保守作業員がレンチ等によりボルト37aを取り外す。これにより、ハンガープレート33aと乗場ドア31aの連結が解除される。(3)連結解除後、乗場ドア31aを持って支えていた保守作業員は、乗場ドア31aを支えつつ、乗場ドア31aを床23の上に乗せる。(4)そして、ハンガープレート33aを(ハンガーローラ35aと共に)、ドアレール25aから取り外す。
【0009】
次に、保守作業員等は、奥のハンガーローラ35bの取り外し作業を行う。このとき、前述した乗場ドア31aが乗場ドア31bの手前にあるため、保守作業員が乗場ドア31bの両側を持って支えることができない。このため、保守作業員等は、乗場ドア31aを(例えば左側に)移動させ、乗場ドア31bの両側を持つためのスペースを確保する。そして、(左側に)移動させられた乗場ドア31aは、壁21側に寄り掛けられる。
【0010】
そして、保守作業員等は、前述した(1)〜(4)の作業を、乗場ドア31bについても同様に行い、ハンガーローラ35bを取り外す。そして、保守作業員等は、新しいハンガーローラ35a及び35bを取り外し時とは逆の手順で取り付け、ハンガーローラ35a及び35bの取り替え作業を行う。
【0011】
【特許文献1】特開平05−246671号公報
【特許文献2】特開平07−137966号公報
【特許文献3】特開平08−099787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ハンガーローラ35aを取り替える際に、保守作業員は、床23やドアシュー溝等に傷をつけたり、ドアシュー39aを破損させたりしないように、ハンガーローラ35aとの連結解除後に、乗場ドア31aを持ち上げて移動させなければならない。しかしながら、乗場ドア31a及び31bは、その重量が数十kg程度有る(50kg程度のものが多い)ため、持ち上げて移動させるには作業負荷が極めて大きい。このため、ハンガーローラ35aと連結が解除された乗場ドア31aを容易に移動させる何らかの手段が望まれる。本発明の目的は、ハンガーローラの取り替え作業時において、乗場ドアの移動に対する作業負荷を減らす乗場ドア移動治具を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ハンガープレートを介してエレベータの乗場ドアと連結され、ドアレールに乗ることにより乗場ドアをドアレールに懸垂させ、ドアレール上を回転走行することにより乗場ドアをドアレールに沿って移動させるハンガーローラの取替え作業に用いる乗場ドア移動治具であって、乗場ドアの底面部の両端にそれぞれ装着され、乗場ドア挟持部により乗場ドアを挟持する保持体と、固定ネジにより一方の乗場ドア挟持部に支持された押え板を、乗場ドアと密着させ、乗場ドアを他方の乗場ドア挟持部に押さえつけて固定する固定具と、保持体の下面側に回転可能に設けられ、乗場ドアを移動させる車輪と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハンガーローラの取り替え作業時において、乗場ドアの移動に対する作業負荷を減らす乗場ドア移動治具を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1に、本実施形態に係る乗場ドア移動治具1a及び1bの斜視図を示す。図2に、乗場ドア移動治具1aを、上側と右側から見た外観図を示す。図3に、乗場ドア移動治具1aを乗場ドア31aに取り付けたときに乗場ドア等を横側から見た図を示す。図4に、乗場ドア移動治具1a及び1bを乗場ドア31aの底面の両端にそれぞれ装着した図を示す。以下、図1〜4を用いて本実施形態に係る乗場ドア移動治具1a及び1bについて説明する。
【0016】
まず、図1を用いて、本実施形態に係る乗場ドア移動治具1a及び1bの概要について説明する。図1の(a)に示す乗場ドア移動治具1aは、乗場ドア31aの底面部の「左端」に装着される。また、図1の(b)に示す乗場ドア移動治具1bは、乗場ドア31aの底面部の「右端」に装着される。これら2つの乗場ドア移動治具1a及び1bが、乗場ドア31aの底面部の両端にそれぞれ装着されることにより、ハンガーローラ35aと連結が解除された乗場ドア31aの移動が容易になる(なお、これについては、後述にて詳細に説明する)。
【0017】
次に、乗場ドア移動治具1a(「左端」用)の構造を、図2を用いて説明する。図2は、乗場ドア移動治具1aを、上側と右側から見た外観図である。図2に示すように、乗場ドア移動治具1aは、乗場ドア31aを保持する保持体11aと、乗場ドア31aを保持体11aに固定する固定具13aと、保持体11aに固定された乗場ドア31aを移動させる車輪15aと、を有している。
【0018】
保持体11aは、乗場ドア31aの底面部の端を、「乗降口側の面」と「乗りかご側の面」から挟持する2つの乗場ドア挟持部11−1a及び11−2aを有している。この2つの乗場ドア挟持部11−1a及び11−2aは、後述する支持部11−3aと、連結部11−4aと、を介して連結されている。また、保持体11aは、乗場ドア31aを、その底面から支持する支持部11−3aを有している。この支持部11−3aには、嵌合孔11−5aが設けられており、乗場ドア31aのドアシュー39aを挿入して、乗場ドア31aを保持体11aに嵌め合わせる。さらに、乗場ドア狭持部11−2aには、後述する(固定具13aの)固定ネジ13−1aを取り付けるためのネジ孔11−6aが設けられている。そして、保持体11aには、その下面側に(車輪取付部11−7aを介して)後述する車輪15aが回転可能に設けられている。
【0019】
固定具13aは、固定ネジ13−1aと、押え板13−3aと、を有している。また、固定ネジ13−1aは、押え板13−3aに回転可能に連結されている。さらに、押え板13−3aは、固定ネジ13−1aを介して、乗場ドア挟持部11−2a(のネジ孔11−6a)に支持されている。また、固定ネジ13−1aは、その回転により、押え板13−3aと乗場ドア挟持部11−1aとの間隔を調節可能に取り付けられている。なお、固定ネジ13−1aは、蝶ネジが望ましいが、取り扱いが容易なものであれば、蝶ネジ以外のネジであっても構わない。また、押え板13−3aは、後述の乗場ドア31aを押さえつけるときに、乗場ドア31aに傷等をつけないよう、乗場ドア31aと接触する面にゴム等の弾性体を付けていることが望ましい(一体化していても良い)。
【0020】
車輪15aは、保持体11aの下面側の車輪取付部11−7aに回転可能に設けられている。後述するように、この車輪15aがドアシュー溝を回転走行することにより、ハンガーローラ35aと連結が解除された乗場ドア31aが移動する。また、乗場ドア移動治具1aの車輪15aが、ドアシュー39aをガイドするドアシュー溝を回転走行するため、この車輪取付部11−7a及び車輪15aの横幅は、ドアシュー溝よりも狭いものでなければならない。
【0021】
また、乗場ドア移動治具1b(「右端」用)は、図1の(a)及び(b)に示すように、乗場ドア移動治具1aと左右逆の構造をしている(すなわち、乗場ドア移動治具1bは、連結部11−4b及び嵌合孔11−5bが、乗場ドア移動治具1aの連結部11−4a及び嵌合孔11−5aと、左右逆に設けられている)。
【0022】
以上の構成の乗場ドア移動治具1a及び1bを、乗場ドア31aの底面部の両端にそれぞれ装着することにより、ハンガーローラ35aと連結が解除された乗場ドア31aを「持ち上げずに」容易に移動させることができる。以下に、乗場ドア移動治具1a及び1bを用いた、ハンガーローラ35a及び35bの取り替え作業について、図3及び図4を用いて説明する。
【0023】
(1)保守作業員は、まず、乗場ドア31aが(ハンガーローラ35aを介して)ドアレール25aに懸垂された状態で、前述した乗場ドア移動治具1a及び1bを、以下の(1−1)〜(1−4)に示す手順により、乗場ドア31aの底面部の両端にそれぞれ装着する。
【0024】
(1−1)保守作業員は、まず、固定ネジ13−1aを手前にして、乗場ドア移動治具1aの車輪15aを、乗場ドア31aの底面部の左端のドアシュー溝に入れる。(1−2)次に、保守作業員は、乗場ドア移動治具1aをドアシュー溝に沿って乗場ドア31a(の底面部の左端)の方に移動させ、乗場ドア31aの底面部の左端から、乗場ドア31aのドアシュー39aを嵌合孔11−5aに挿入する。(1−3)そして、保守作業員は、乗場ドア移動治具1aを乗場ドア31a(の底面)の方に持ち上げ、乗場ドア31aの底面部の左端と、乗場ドア移動治具1a(の保持体11a)と、を嵌め合わせる。
【0025】
(1−4)次に、保守作業員は、固定ネジ13−1aを回すことにより、押え板13−3aと乗場ドア挟持部11−1aとの間隔を調節し、押え板13−3aを乗場ドア31aに密着させる。そして、保守作業員は、固定ネジ13−1aをさらに回すことにより、押え板13−3aに密着された乗場ドア31aを乗場ドア挟持部11−1aに押さえつけて固定する。
【0026】
以上の(1−1)〜(1−4)の作業を、乗場ドア移動治具1bを用いて、乗場ドア31aの底面部の右端についても同様に行う。これにより、図4に示すように、乗場ドア移動治具1a及び1bが、乗場ドア31aの底面部の両端にそれぞれ装着される。
【0027】
そして、保守作業員は、連結解除後に乗場ドア31aが床23に落ちるのを防止するために、乗場ドア31aをその両側を持って支える。さらに、保守作業員等は、従来のハンガーローラ取替え作業と同様に、(2)ハンガープレート33aと乗場ドア31aの連結を解除し、(3)保守作業員が乗場ドア31aを支えつつ、乗場ドア移動治具1a及び1bが装着された乗場ドア31aを床23の(ドアシュー溝の)上に乗せ、(4)ハンガープレート33aを(ハンガーローラ35aと共に)、ドアレール25aから取り外す。
【0028】
保守作業員等は、奥のハンガーローラ35bの取り外し作業を行う前に、乗場ドア31aを(左側に)移動させる。このとき、保守作業員が乗場ドア31aを(左側に)押すことにより、乗場ドア31aの底面部の両端にそれぞれ装着された乗場ドア移動治具1a及び1bの車輪15a及び15bが、ドアシュー溝内を回転走行する。これにより、保守作業員等は、ハンガーローラ35aから連結解除した乗場ドア31aを移動させる際に、(その重量が数十kg程度有る)乗場ドア31aを「持ち上げずに」容易に移動させることができる。したがって、本実施形態に係る乗場ドア移動治具1a及び1bは、ハンガーローラ35aから連結解除された乗場ドア31aの移動に伴う作業負荷を大幅に減らすことができる。
【0029】
そして、保守作業員等は、従来のハンガーローラ取替え作業と同様に、乗場ドア31bの両側を持つためのスペースを確保すると共に、(左側に)移動させられた乗場ドア31aを壁21側に寄り掛け、乗場ドア31bについてもハンガーローラ35bの取り替え作業を行う。さらに、保守作業員等は、新しいハンガーローラ35a及び35bを取り外し時とは逆の手順で取り付けることにより、ハンガーローラ35a及び35bの取り替え作業を行うことができる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係る乗場ドア移動治具1a及び1bを、ハンガーローラ35aから連結解除する前に乗場ドア31aの底面部の両端にそれぞれ装着することにより、ハンガーローラ35aから連結解除された(その重量が数十kg程度有る)乗場ドア31aを「持ち上げずに」容易に移動させることができる。このため、ハンガーローラ取替え作業における保守作業員の作業負荷は大幅に減る。なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の概念を逸脱しない範囲内で、当該技術分野で通常の知識を持つ者により各種の変更及び修正(例えば、保持体の形状を変える、固定具の形状を変える、車輪を複数設ける、車輪の取り付け位置を変える等)が可能であることは言うまでも無い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係る乗場ドア移動治具1a及び1bの斜視図である。
【図2】乗場ドア移動治具1aを、上側と右側から見た外観図である。
【図3】乗場ドア移動治具1aを乗場ドア31aに取り付けた図である。
【図4】乗場ドア移動治具1a及び1bを乗場ドア31aの底面の両端にそれぞれ装着した図である。
【図5】乗降口を、乗りかご側から見た図である。
【図6】ハンガーローラが取り付けられた乗場ドア等を横側から見た図である。
【符号の説明】
【0032】
1a,1b 乗場ドア移動治具、11a,11b 保持体、11−1a,11−1b,11−2a,11−2b 乗場ドア挟持部、11−3a,11−3b 支持部、11−4a,11−4b 連結部、11−5a,11−5b 嵌合孔、11−6a,11−6b ネジ孔、11−7a,11−7b 車輪取付部、13a,13b 固定具、13−1a,13−1b 固定ネジ、13−3a,13−3b 押え板、15a 車輪、21 壁、23 床、25a,25b ドアレール、31a,31b 乗場ドア、33a,33b ハンガープレート、35a,35b ハンガーローラ、37a,37b ボルト、39a,39b ドアシュー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンガープレートを介してエレベータの乗場ドアと連結され、ドアレールに乗ることにより乗場ドアをドアレールに懸垂させ、ドアレール上を回転走行することにより乗場ドアをドアレールに沿って移動させるハンガーローラの取替え作業に用いる乗場ドア移動治具であって、
乗場ドアの底面部の両端にそれぞれ装着され、乗場ドア挟持部により乗場ドアを挟持する保持体と、
固定ネジにより一方の乗場ドア挟持部に支持された押え板を、乗場ドアと密着させ、乗場ドアを他方の乗場ドア挟持部に押さえつけて固定する固定具と、
保持体の下面側に回転可能に設けられ、乗場ドアを移動させる車輪と、
を備えていることを特徴とする乗場ドア移動治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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