説明

乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置

【課題】機械室内から一旦制御装置を外部に搬出させてから、作業者が機械室内に入って行われる機械室内機器の保守点検作業時にあっても、作業者の安全を確実に確保することができる乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置の提供。
【解決手段】本発明は、機械室1に収容された機器の保守点検作業時に、電動機5を制御する制御装置3が機械室1から外部へ搬出され、機械室1内に保守点検作業を行う作業空間が形成される乗客コンベアにあって、機械室1内に収容されていた制御装置3が所定位置に存在するかどうかを検知する検知手段10と、この検知手段10によって制御装置3が所定位置に存在することが検知されたとき、制御装置3への電力の供給を可能にし、検知手段10によって制御装置3が所定位置に存在しないことが検知されたとき、制御装置3への電力の供給を不能にする制御処理を行う制御手段11とを備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの機械室内に配置される駆動機、電動機等の機器の保守点検作業を安全に行うことができる乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に乗客コンベアには、乗客を運ぶステップ及び移動手摺と、これらのステップ及び移動手摺を駆動する駆動機と、この駆動機を作動させる電動機と、この電動機を制御する制御装置とが備えられている。また、機械室の出入口を形成する上方開口部を覆うカバープレートも備えられている。この種の従来技術として、特許文献1に示されるものがある。
【0003】
この特許文献1に示される従来技術は、乗降板すなわちカバープレートが取り外されたことを検出する乗降板浮上検出装置を備え、機械室内の機器の保守点検作業に際し、カバープレートが取り外されたことが乗降板浮上検出装置によって検出されると、運行・停止指令装置のキースイッチが操作されているときのみ乗客コンベアを動作させ、キースイッチから手を放すと乗客コンベアを停止させるようになっている。これにより、機械室内で保守点検作業を行う作業者が、ターミナルギヤ等の駆動機構に巻き込まれることを防ぎ、作業者の安全保護が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−277654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで昨今、既設の乗客コンベアの機械室内に、新型の駆動機、電動機、制御装置等の機器を既設のものに代えて収容するリニューアルが行われることがある。このような新型の駆動機、電動機、制御装置等の機器は通常大型のものとなる。したがって、既設の機械室に新型の駆動機、電動機、制御装置等が収容されている状態における機械室内の機器の保守点検作業に際しては、機械室内に収容されている制御装置を一旦外部に搬出し、機械室内に保守点検作業を行う作業空間を形成するようにしている。
【0006】
このようにして保守点検作業を実施する際に作業者の安全のために、上述した特許文献1に示される従来の構成を考慮した場合には、機械室内に入った作業者が制御装置を外部に搬出させようとしている最中に、何らかの理由により上述した乗降板浮上検出装置が誤動作したときには、乗客コンベアが動作し、保守点検作業の安全性が損なわれる虞がある。
【0007】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、機械室内から一旦制御装置を外部に搬出させてから、作業者が機械室内に入って行われる機械室内機器の保守点検作業時にあっても、作業者の安全を確実に確保することができる乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置は、ステップ及び移動手摺と、これらのステップ及び移動手摺を駆動する駆動機と、この駆動機を作動させる電動機と、この電動機を制御する制御装置と、上記駆動機、上記電動機、及び上記制御装置が収容される機械室と、この機械室の出入口を形成する上方開口部を覆うカバープレートとを備え、上記機械室に収容された機器の保守点検時には、上記機械室から外部へ上記制御装置が搬出され、上記機械室内に保守点検作業を行う作業空間が形成される乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置において、上記機械室内に収容された上記制御装置が所定位置に存在するかどうかを検知する検知手段と、上記検知手段によって上記制御装置が上記所定位置に存在することが検知されたとき、上記制御装置への電力の供給を可能にし、上記検知手段によって上記制御装置が上記所定位置に存在しないことが検知されたとき、上記制御装置への電力の供給を不能にする制御処理を行う制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明は、乗客コンベアの機械室内の機器に対する保守点検作業が実施されないときには、制御装置は機械室内の所定位置に保持される。したがって、検知手段によって制御装置が所定位置に存在することが検知され、制御手段によって機械室内の制御装置への電力の供給が可能な状態に保たれる。これにより、電動機及び駆動機は駆動可能となり、乗客コンベアを動作させることができる。また、機械室内の機器の保守点検作業のために作業者が機械室内に入り、機械室内の所定位置に保たれている制御装置を一旦機械室の外部へ搬出させようとして所定位置から動かしたときには、検知手段によって制御装置が所定位置に存在しないことが検知され、制御手段によって制御装置への電力の供給が不能な状態に保たれる。これにより、電動機及び駆動機は駆動不能となり、乗客コンベアを動作不能状態に維持することができる。したがって、制御装置を機械室の外部へ搬出させる作業を安全に実施させることができる。
【0010】
また本発明は、上記発明において、上記制御装置に電力を供給する電源と、この電源と上記制御装置との間に設けられ、手動操作される電源遮断器とを備え、上記制御手段を、上記電源遮断器と上記制御装置との間に配置したことを特徴としている。
【0011】
また本発明は、上記発明において、上記制御装置を上記機械室内の上記所定位置に固定する固定部材を備え、上記検知手段は、上記制御装置に設けた制御装置側導電部と、上記固定部材に設けた固定部材側導電部とから成り、上記制御装置を上記所定位置に固定したときには、上記制御装置側導電部と上記固定部材側導電部とを接続状態に保つことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、乗客コンベアの機械室内に収容され、電動機を制御する制御装置が所定位置に存在するかどうかを検知する検知手段と、この検知手段によって制御装置が所定位置に存在することが検知されたとき、制御装置への電力の供給を可能にし、検知手段によって制御装置が所定位置に存在しないことが検知されたとき、制御装置への電力の供給を不能にする制御処理を行う制御手段とを備えた構成にしてある。この構成に伴って本発明は、機械室内から一旦制御装置を外部に搬出させてから、作業者が機械室内に入って行われる機械室機器の保守点検作業時にあっても、作業者の安全を確実に確保することができる。これにより、機械室内の機器の保守点検作業を行う作業者に対して、従来技術を考慮した場合におけるよりも優れた安全保護を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る機械室内機器保守点検作業の安全装置の一実施形態が備えられる乗客コンベアを示す側面図である。
【図2】本発明に係る機械室内機器保守点検作業の安全装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図3】本実施形態に備えられる検知手段の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0015】
図1は本発明に係る機械室内機器保守点検作業の安全装置の一実施形態が備えられる乗客コンベアを示す側面図である。
【0016】
この図1に示すように、乗客コンベアは、乗客を運ぶステップ8、及びステップ8と同期して移動する移動手摺7と、これらのステップ8及び移動手摺7を駆動するターミナルギヤ6とを備えている。また、この乗客コンベアは、ターミナルギヤ6を駆動する駆動機4と、この駆動機4を作動させる電動機5と、この電動機5を制御する制御装置3とを備えている。上述したターミナルギヤ6、駆動機4、電動機5、及び制御装置3等の機器は、機械室1に収容されている。機械室1の上方開口部は、着脱可能なカバープレート2によって覆われている。
【0017】
この図1に示す乗客コンベアは、既設の機械室1内に、それぞれ新型で形状寸法の大きな駆動機4、電動機5、制御装置3等の機器を既設のものに代えて収容するリニューアルが行われたものである。したがって、機械室1内の駆動機4、電動機5等の機器の保守点検作業に際しては、機械室1内に収容されている制御装置3を一旦機械室1の外部に搬出し、機械室1内に保守点検作業を行う作業空間を形成するようにしている。
【0018】
図2は本発明に係る機械室内機器保守点検作業の安全装置の一実施形態の構成を示す図、図3は本実施形態に備えられる検知手段の構成を示す図である。
【0019】
図2に示すように、本実施形態に係る安全装置は、機械室1内に収容された制御装置3が所定位置に存在するかどうかを検知する検知手段10を備えている。また本実施形態は、検知手段10によって制御装置3が機械室1内の所定位置に存在することが検知されたとき、制御装置3への電力の供給を可能にし、検知手段10によって制御装置3が機械室1内の所定位置に存在しないことが検知されたとき、制御装置3への電力の供給を不能にする制御処理を行う制御手段11とを備えている。
【0020】
この図2に示すように、本実施形態が備えられる乗客コンベアは、制御装置3に電力が供給されている状態で当該乗客コンベアを運転させる指令を制御装置3に出力する運転スイッチ部と、当該乗客コンベアを停止させる指令を制御装置3に出力する停止スイッチ部とを有する運転・停止操作用のキースイッチ14を備えている。また、この乗客コンベアは、制御装置3に電力を供給する電源13と、この電源13と制御装置3との間に設けられ、手動操作される電源遮断器9とを備えている。上述した本実施形態に備えられる制御手段11は、電源遮断器9と制御装置3との間に配置してある。
【0021】
また本実施形態は、図3に示すように、例えば制御装置3を機械室1内の上述した所定位置に固定する一対の固定部材12を備えている。上述した検知手段10は、制御装置3の側面に設けた制御装置側導電部10aと、制御装置3の側面に対向可能な固定部材12側の側面に設けた固定部材側導電部10bとから成っており、制御装置3を固定部材12によって機械室1内の上述した所定位置に固定したときには、制御装置側導電部10aと固定部材側導電部10bとが接続状態に保たれるようになっている。
【0022】
このように構成した本実施形態は、乗客コンベアの機械室1内の機器に対する保守点検作業が実施されたときには、制御装置3は固定部材12によって機械室1内の所定位置に保持される。したがって、検知手段10によって制御装置3が所定位置に存在することが検知され、制御手段11によって機械室1内の制御装置3への電力の供給が可能な状態に保たれる。ここで手動操作によって電源遮断器9を入れ、キースイッチ14の運転操作によって運転指令を制御装置3に出力すると、乗客コンベアを動作させることができる。すなわち、制御装置3の制御によりモータ5が作動し、このモータ5によって駆動機4が駆動され、この駆動機4によってターミナルギヤ7が回転駆動し、ステップ8及び移動手摺7が移動して、ステップ8上の乗客を下階床から上階床へ、あるいは上階床から下階床へ運ぶことができる。
【0023】
また、機械室1内の機器の保守点検作業のために、作業者が機械室1を覆っているカバープレート2を開いて機械室1内に入り、機械室1内の所定位置に保たれている制御装置3を固定部材12による固定から解放して、一旦機械室1の外部へ搬出させるために所定位置から動かしたときには、検知手段10によって制御装置3が所定位置に存在しないことが検知され、この検知手段10の検知結果に応じて制御装置11は、電源遮断器9の操作状態の如何に拘わらず制御装置3への電力の供給が不能な状態とする制御処理を行う。これにより、電動機5及び駆動機4は駆動不能となり、乗客コンベアを動作不能状態に維持することができる。すなわち、誤って乗客コンベアを動作させたまま機械室1に入ったり、電源遮断器9で電源を遮断することを忘れたまま機械室1に入った場合でも、制御装置3を動かしたときに乗客コンベアを動作不能とすることができる。したがって、制御装置3を機械室1の外部へ搬出させる作業を安全に実施させることができる。
【0024】
なお、機械室1内の機器の保守点検作業が終了して、機械室1の外部へ搬出させてあった制御装置3を機械室1内の所定位置に搬入させる際にも、機械室1内の所定位置に正しく制御装置3が固定されるまでの間は、すなわち制御装置側導電部10aと固定部材側導電部10bとが接続されるまでの間は、乗客コンベアは不能状態に保たれる。したがって、このときの制御装置3の搬入作業も安全に実施させることができる。
【0025】
このように本実施形態によれば、機械室1内から一旦制御装置3を外部に搬出させてから、作業者が機械室1内に入って行われる機械室内機器の保守点検作業時にあっても、作業者の安全を確実に確保することができる。これにより、機械室1内の機器の保守点検作業を行う作業者に対して優れた安全保護を図ることができる。
【0026】
なお、上記実施形態は、機械室1内に収容された制御装置3が所定位置に存在するかどうかを検知する検知手段10を、制御装置3に設けた制御装置側導電部10aと、固定部材12に設けた固定部材側導電部10bとによって構成してあるが、本発明は、検知手段10をこのように構成することには限定されない。この検知手段10を各種スイッチによって構成してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 機械室
2 カバープレート
3 制御装置
4 駆動機
5 電動機
6 ターミナルギヤ
7 移動手摺
8 ステップ
9 電源遮断器
10 検知手段
10a 制御装置側導電部
10b 固定部材側導電部
11 制御手段
12 固定部材
13 電源
14 キースイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップ及び移動手摺と、これらのステップ及び移動手摺を駆動する駆動機と、この駆動機を作動させる電動機と、この電動機を制御する制御装置と、上記駆動機、上記電動機、及び上記制御装置が収容される機械室と、この機械室の出入口を形成する上方開口部を覆うカバープレートとを備え、上記機械室に収容された機器の保守点検時には、上記機械室から外部へ上記制御装置が搬出され、上記機械室内に保守点検作業を行う作業空間が形成される乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置において、
上記機械室内に収容された上記制御装置が所定位置に存在するかどうかを検知する検知手段と、
上記検知手段によって上記制御装置が上記所定位置に存在することが検知されたとき、上記制御装置への電力の供給を可能にし、上記検知手段によって上記制御装置が上記所定位置に存在しないことが検知されたとき、上記制御装置への電力の供給を不能にする制御処理を行う制御手段とを備えたことを特徴とする乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置において、
上記制御装置に電力を供給する電源と、この電源と上記制御装置との間に設けられ、手動操作される電源遮断器とを備え、上記制御手段を、上記電源遮断器と上記制御装置との間に配置したことを特徴とする乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置。
【請求項3】
請求項2に記載の乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置において、
上記制御装置を上記機械室内の上記所定位置に固定する固定部材を備え、
上記検知手段は、上記制御装置に設けた制御装置側導電部と、上記固定部材に設けた固定部材側導電部とから成り、
上記制御装置を上記所定位置に固定したときには、上記制御装置側導電部と上記固定部材側導電部とを接続状態に保つことを特徴とする乗客コンベアの機械室内機器保守点検作業の安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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