説明

乗客コンベアの移動手摺及びその製造方法

【課題】 熱可塑性エラストマーを使用した移動手摺において、屋外に設置されても耐候性に問題がない乗客コンベアの移動手摺及びその製造方法を得る。
【解決手段】 熱可塑性エラストマーからなる芯体層31と該芯体層の外側に設けられた熱可塑性エラストマーからなる化粧層32の少なくとも2層を有し、芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体34を設け、芯体層の内側に帆布製等のスライダー33を設けた断面略C字状の移動手摺3において、芯体層31の材質として強度のある熱可塑性エラストマーを使用するともに、化粧層32の材質としては芯体層の熱可塑性エラストマーと異なり耐候性の優れた熱可塑性エラストマーを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアの欄干に設けられて踏段と同期して回転駆動される乗客コンベアの移動手摺及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗客コンベアの移動手摺においては、熱可塑性エラストマーを使用した手摺があり、熱可塑性エラストマーとしてはウレタンが一般的に使用されている。これはウレタンの持つ弾性特性がゴム手摺の代替として最適であるからである。
この種移動手摺の従来技術としては、熱可塑性材料からなる第1の層と、熱可塑性材料からなる第2層とから成り、第1の層は第2の層よりも硬質の熱可塑性樹脂で作られるもの(例えば、特許文献1参照)や、ウレタン、オレフィン等の軟質合成樹脂で作った移動手摺の内側に、ポリエチレン等の接触皮膜を被着させたもの(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特表2002−519271号公報
【特許文献2】特開平10−236756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の乗客コンベアの移動手摺では、熱可塑性エラストマーの材料としては熱可塑性ウレタンが使用されている。熱可塑性ウレタンはその特性が従来の手摺に用いられていた熱硬化型ゴムの特性に極めて近いからである。しかし、熱可塑性ウレタンはその特性上、耐侯性において熱硬化型ゴムに比較して劣っており、特に紫外線に弱いとか、加水分解し易いという欠点を持っている。このため、屋外に設置される乗客コンベアの移動手摺としては、耐候性に問題があり、寿命等において劣っている。
また、上記従来技術のいずれにも、熱可塑性エラストマーを使用した移動手摺において、耐候性の優れた移動手摺を提供することまでは述べられていない。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、熱可塑性エラストマーを使用した移動手摺において、屋外に設置されても耐候性に問題がない乗客コンベアの移動手摺及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る乗客コンベアの移動手摺は、熱可塑性エラストマーからなる芯体層と該芯体層の外側に設けられた熱可塑性エラストマーからなる化粧層の少なくとも2層を有し、芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、芯体層の内側に帆布製等のスライダーを設けた断面略C字状の移動手摺において、芯体層の材質として強度のある熱可塑性エラストマーを使用するともに、化粧層の材質としては芯体層の熱可塑性エラストマーと異なり耐候性の優れた熱可塑性エラストマーを使用したものである。
【0007】
また、芯体層と化粧層との間に熱融着促進材を挿入して両者を熱融着させたものである。
【0008】
この発明に係る乗客コンベアの移動手摺製造方法は、少なくとも、芯体層用の溶融した強度のある熱可塑性エラストマーと金属又は合成繊維製の抗張体を成形機から同時に押出して該抗張体を抱合した断面略C字状の芯体層を成形する工程と、芯体層の熱可塑性エラストマーより耐候性が優れ、かつ透明を含み客先指定色等の所望の色に着色された化粧層用の溶融した熱可塑性エラストマーを成形機から押出して断面略C字状の化粧層を成形する工程と、成形した化粧層を芯体層の外側に熱融着させる工程と、芯体層の内側に帆布製のスライダーを熱融着させる工程とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、熱可塑性エラストマーからなる芯体層と該芯体層の外側に設けられた熱可塑性エラストマーからなる化粧層の少なくとも2層を有し、芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、芯体層の内側に帆布製等のスライダーを設けた断面略C字状の移動手摺において、芯体層の材質として強度のある熱可塑性エラストマーを使用するともに、化粧層の材質としては芯体層の熱可塑性エラストマーと異なり耐候性の優れた熱可塑性エラストマーを使用したので、屋外に設置され使用されても耐候性に問題がなく、長寿命の乗客コンベアの移動手摺を提供することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における乗客コンベアの移動手摺の左半分を示す断面図である。
図1において、3は断面略C字状の移動手摺、31は熱硬化型ゴムの弾性特性に極めて近いポリウレタン等からなる熱可塑性エラストマーにより断面略C字状に押出し成形された移動手摺3の芯体層、34はこの芯体層31の長手方向に沿って連続的に包含されている金属製テープからなる抗張体である。この抗張体34により、移動手摺3の長手方向への伸びが防止され、かつ引張り破断強度が高められている。なお、抗張体34は金属テープの代わりに金属又は合成繊維コードなどからなる複数本の低伸長材を使用することができる。
32は上記芯体層31の外側に設けられている移動手摺3の化粧層で、客先からの指定色やその他の所望の色に着色され、熱可塑性エラストマーにより断面略C字状に押出し成形されたものである。この化粧層32の熱可塑性エラストマーは、芯体層31の熱可塑性エラストマーとは異なり、例えばポリオレフィン系エラストマーなど耐侯性に優れた熱可塑性エラストマーを使用するものである。すなわち、芯体層31の材質として強度のある熱可塑性エラストマーを選定するとともに、化粧層32の材質として耐候性に優れた熱可塑性エラストマーを選定することを特徴とするものである。
33は上記芯体層31の内側に設けられている帆布製のスライダーで、図示しないが、乗客コンベアの手摺ガイドレールや駆動ローラに当接する。
なお、芯体層31を構成する熱可塑性エラストマーであるポリウレタンと、化粧層32を構成する熱可塑性エラストマーであるポリオレフィン系エラストマーとは、その性質上熱融着強度が不足することがあるので、強度維持のために熱融着促進材(テープ等)35を芯体層31と化粧層32の間に挿入して化粧層31を熱融着するのが好ましい。
【0011】
次に、この発明による乗客コンベアの移動手摺の製造方法について説明する。
この発明の乗客コンベアの移動手摺製造方法は、少なくとも、芯体層用の溶融した熱可塑性エラストマー(ポリウレタン等)と金属又は合成繊維製による抗張体34を成形機から同時に押出して該抗張体34を抱合した断面略C字状の芯体層31を成形する工程と、前記芯体層31の熱可塑性エラストマーより耐候性が優れ、かつ透明を含み客先指定色等の所望の色に着色された化粧層用の溶融した熱可塑性エラストマー(ポリオレフィン系)を成形機から押出して断面略C字状の化粧層32を成形する工程と、成形した前記化粧層32を前記芯体層31の外側に熱融着させる工程と、前記芯体層31の内側に帆布製のスライダー33を熱融着させる工程とを具備しているものである。
前記芯体層31と化粧層32の2層構造の場合は、芯体層31を成形した後に化粧層32を成形して熱融着させる方法と、芯体層31と化粧層32を同時に押出し成形し乍ら、熱融着させる方法とがある。
また化粧層32が透明を含め客先指定色等の所望の色に着色される場合は、化粧層32は後から芯体層31又は中間層の外側に熱融着させる方法の方が好ましい。
化粧層32の熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリオレフィン系エラストマーが用いられる。ポリオレフィン系エラストマーは、その特性として耐侯性には優れているが、引っ張り強度等の機械的強度がポリウレタンに比べて劣る。しかし、芯体層31にはポリウレタン、化粧層にはポリオレフィンのように、少なくとも2層構造にしたので、機械的強度も十分で、かつ耐侯性に優れた移動手摺の実現が可能である。
なお、ポリウレタンとポリオレフィンは、その性質上、熱融着強度が不足することがあるので、図1に示すように、熱融着促進材(例えばテープ等)35を芯体層31と化粧層32の間に挿入して化粧層32を熱融着することが出来る。
【0012】
図2は移動手摺の芯体層31を製造する工程の一例を示す製造工程図である。図2において、1はスライダー33となる帆布を供給するための帆布供給タイコ、2は抗張体34となる金属テープを供給するための金属テープ供給タイコ、4は芯体層用の溶融した熱可塑性エラストマー(ポリウレタン等)と帆布製のスライダー33と金属テープからなる抗張体34とを一体成形する成形装置、5はこの成形装置4で成形された一体成形品(芯体層31)を押し出す芯体層エラストマー押し出し装置、6は冷却水槽、7は引き取り機、8は芯体層31を巻き取るための巻き取りタイコである。
【0013】
図3は芯体層31を成形した後に化粧層32を熱融着させて移動手摺3を製造する工程の一例を示す製造工程図である。図3において、11は熱融着促進テープ35を供給するための熱融着促進テープ供給タイコ、12は図2に示す製造工程により製造された芯体層31を供給するための芯体層供給タイコ、14は耐候性に優れ、かつ透明を含み客先指定色等の所望の色に着色された化粧層用の溶融した熱可塑性エラストマー(ポリオレフィン系)と前記芯体層31と熱融着促進シート35とを一体成形する成形装置、15はこの成形装置14で成形された一体成形品(移動手摺)を押し出す移動手摺エラストマー押し出し装置、16は冷却水槽、17は引き取り機、18は移動手摺3を巻き取るための巻き取りタイコである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの移動手摺の左半分を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの移動手摺の芯体層を製造する工程の一例を示す製造工程図である。
【図3】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの移動手摺の芯体層を成形した後、化粧層を熱融着させて移動手摺を製造する工程の一例を示す製造工程図である。
【符号の説明】
【0015】
1 帆布供給タイコ
2 金属テープ供給タイコ
3 移動手摺
4、14 成形装置
5 芯体層エラストマー押し出し装置
6、16 冷却水槽
7、17 引き取り機
8、18 巻き取りタイコ
11 熱融着促進テープ供給タイコ
12 芯体層供給タイコ
15 移動手摺エラストマー押し出し装置
31 芯体層
32 化粧層
33 スライダー
34 抗張体
35 熱融着促進シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーからなる芯体層と該芯体層の外側に設けられた熱可塑性エラストマーからなる化粧層の少なくとも2層を有し、前記芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、前記芯体層の内側に帆布製等のスライダーを設けた断面略C字状の乗客コンベアの移動手摺において、 前記芯体層の材質として強度のある熱可塑性エラストマーを使用するともに、前記化粧層の材質としては前記芯体層の熱可塑性エラストマーと異なり耐候性の優れた熱可塑性エラストマーを使用することを特徴とする乗客コンベアの移動手摺。
【請求項2】
芯体層の熱可塑性エラストマーとしてポリウレタンを使用し、化粧層の熱可塑性エラストマーとしてポリオレフィンを使用したことを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの移動手摺。
【請求項3】
芯体層と化粧層との間に熱融着促進材を挿入して両者を熱融着させたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の乗客コンベアの移動手摺。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーからなる芯体層と該芯体層の外側に設けられた熱可塑性エラストマーからなる化粧層の少なくとも2層を有し、前記芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、前記芯体層の内側に帆布製等のスライダーを設けた断面略C字状の乗客コンベアの移動手摺において、
少なくとも、芯体層用の溶融した強度のある熱可塑性エラストマーと金属又は合成繊維製の抗張体を成形機から同時に押出して該抗張体を抱合した断面略C字状の芯体層を成形する工程と、前記芯体層の熱可塑性エラストマーより耐候性が優れ、かつ透明を含み客先指定色等の所望の色に着色された化粧層用の溶融した熱可塑性エラストマーを成形機から押出して断面略C字状の化粧層を成形する工程と、成形した前記化粧層を前記芯体層の外側に熱融着させる工程と、前記芯体層の内側に帆布製のスライダーを熱融着させる工程とを備えたことを特徴とする乗客コンベアの移動手摺製造方法。
【請求項5】
成形した化粧層を芯体層の外側に熱融着させる工程は、芯体層と化粧層との間に熱融着促進材を挿入してから行うことを特徴とする請求項4記載の乗客コンベアの移動手摺製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−69771(P2006−69771A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257906(P2004−257906)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【出願人】(591040122)株式会社トーカン (15)
【Fターム(参考)】