説明

乗客コンベアの移動手摺検査装置

【課題】移動手摺の内部に埋設されたスチールコードの継ぎ目を含めてスチールコードに生じた異常の有無を定量的に検査する。
【解決手段】移動手摺2の内部に埋設されたスチールコードの伸長方向に対して傾斜して配列される3組の継ぎ目を検出するように画像を制限する検出体5と、画像処理器8が連続して異常を検出した場合に、各光量の変動量ΔPが所定の範囲内であり、しかも各時間間隔Δtが所定の範囲内であるときに継ぎ目を認定し、各光量の変動量ΔPが所定の範囲外であるとき、及び時間間隔Δtが所定の範囲外であるときの少なくとも一方の範囲外であるときに継ぎ目を認定しない認定手段と、この認定手段が継ぎ目を認定したときに継ぎ目に異常がないと判断し、この認定手段が継ぎ目を認定しなかったときに継ぎ目に異常があると判断する異常判断手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの移動手摺の内部に埋設される抗張体に生じた異常の有無を検出する乗客コンベアの移動手摺検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、乗客コンベアは、踏段上の乗客が転倒しないように把持され、欄干の案内レールに係合して走行する無端状の移動手摺を備えている。この移動手摺は、ゴム等の弾性体で構成されており、この弾性体は温度変化や長期間にわたる使用等によって張力が無くなり、欄干の案内レールに張設されなくなることがある。これを防止するために、移動手摺の内部には、移動手摺の伸長方向に合わせて複数のスチールコード等の抗張体が埋設されている。
【0003】
しかし、移動手摺の内部に複数の抗張体が埋設されている場合であっても、これらの抗張体も長期間の使用で各抗張体が移動したり、あるいは重なったりすること等により、金属疲労等の異常が生じて破断することがある。そのため、抗張体の破断によって強度が低下するので、これを防ぐために定期的に移動手摺の内部の抗張体を検査して抗張体に生じた異常の有無を検出し、抗張体を修理及び交換する必要がある。
【0004】
そこで、このような移動手摺の内部に埋設された抗張体を検査する乗客コンベアの移動手摺検査装置の従来技術の1つとして、内部に埋設される複数の抗張体を有する無端状に連結された移動手摺と、この移動手摺に対してX線を照射するX線発生装置、すなわちX線照射器と、このX線照射器によって移動手摺を透過してきたX線を受光する受光器と、この受光器に受光したX線の量を画像として検出する画像取得器と、この画像取得器で得られた画像を分析して移動手摺の抗張体の異常の有無を検出する画像処理器とを備え、この画像処理器は、移動手摺のX線等価画像に対して二次元高速フーリエ変換処理を行う二次元高速フーリエ変換処理部と、二次元高速フーリエ変換処理部の処理結果に基づいて移動手摺の抗張体の有無を判別する画像判定部とを設け、移動手摺に埋設された抗張体に生じた異常の有無を定量的に検査するエスカレータハンドレールの診断装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、乗客コンベアの移動手摺検査装置ではないが、上述のX線照射器のようにX線を用いて被検体に照射して被検体の投影データを取得するX線診断装置の従来技術の1つとして、回転側にX線チューブと、スライス方向の絞り機構を有するコリメータ部とを具備し、X線チューブからのX線をコリメータ部によって散乱X線の除去及びスライス方向の絞りを行ったのち、固定側の被検体に曝射して、被検体の全角度からの投影データを取得するX線診断装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−126175号公報
【特許文献2】実開平5−15911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、移動手摺の内部に埋設された抗張体は無端状の移動手摺に合わせて円環状に形成されるので、移動手摺の内部には抗張体の継ぎ目が必ず存在している。この抗張体の継ぎ目は、抗張体の金属部分と状態が異なっているので、抗張体の継ぎ目と抗張体の金属部分とを別々に切り分けて検査する必要がある。
【0008】
そこで、特許文献2に開示された従来技術のX線診断装置を実施して抗張体の特定の部位である継ぎ目を診断することが考えられるが、この場合、撮像した画像から継ぎ目の診断を行うのは作業者であり、診断の結果が作業者の経験や技術等に依存するので、抗張体の継ぎ目に生じた異常の有無を定量的に評価することが困難である。
【0009】
また、上述した特許文献1に開示された従来技術のエスカレータハンドレールの診断装置では、移動手摺の内部に埋設された抗張体の金属部分に生じた異常を定量的に検査することができるが、抗張体の継ぎ目については考慮されておらず、継ぎ目に生じた異常の有無までも十分に検査することができない問題がある。
【0010】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、移動手摺の内部に埋設された複数の抗張体の継ぎ目を含めて抗張体に生じた異常の有無を定量的かつ十分に検査することができる乗客コンベアの移動手摺検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の乗客コンベアの移動手摺検査装置は、継ぎ目が所定の位置関係を有して配置される複数の抗張体が内部に埋設され、無端状に連結された移動手摺を有し、この移動手摺の検査に用いられるものであり、前記移動手摺に対してX線を照射するX線照射器と、このX線照射器によって前記移動手摺を透過してきたX線を受光する受光器と、この受光器に受光したX線の量を画像として検出する画像取得器と、この画像取得器で得られた前記画像を分析して前記移動手摺の前記抗張体の異常の有無を検出する画像処理器とを備えた乗客コンベアの移動手摺検査装置において、前記抗張体の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの前記継ぎ目を検出するように前記画像処理器で分析される前記画像を制限する検出体と、前記画像処理器が連続して異常を検出した場合に、前記画像処理器で異常を検出した各光量の変動が所定の範囲内であり、しかも前記画像処理器で各異常を検出した時間間隔が所定の範囲内であるときに前記抗張体の前記継ぎ目を認定し、前記画像処理器で異常を検出した各光量の変動が所定の範囲外であるとき、及び前記画像処理器で各異常を検出した時間間隔が所定の範囲外であるときの少なくとも一方の範囲外であるときに前記抗張体の前記継ぎ目を認定しない認定手段と、この認定手段が前記継ぎ目を認定したときに前記継ぎ目に異常がないと判断し、この認定手段が前記継ぎ目を認定しなかったときに前記継ぎ目に異常があると判断する異常判断手段とを備えたことを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明は、X線照射器によって抗張体の継ぎ目を透過したX線を受光する受光量は抗張体の金属部分を透過したX線を受光する受光量よりも大きくなり、受光器が受光する受光量に変動が生じるので、画像取得器で取得した抗張体の継ぎ目のX線の受光量を画像処理器が分析すると、抗張体の継ぎ目を仮想的な異常として検出する。さらに、検出体によって抗張体の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの継ぎ目を検出するように画像処理器で分析される画像を制限することにより、画像処理器が抗張体の伸長方向に対して傾斜して配列される継ぎ目の数だけ連続して仮想的な異常を検出する。
【0013】
本発明は、画像処理器が連続して仮想的な異常を検出した場合に、認定手段が検出体によって連続して検出した各異常の受光量の変動及び時間間隔が所定の範囲内であるかどうかにより、抗張体の継ぎ目を認定するものであるが、上述したように移動手摺の内部には抗張体の継ぎ目が必ず存在しているので、抗張体の継ぎ目が正常な状態であれば、認定手段で必ず継ぎ目を認定できることになる。そのため、この認定手段が継ぎ目を認定するかどうかによって異常検出手段が抗張体の継ぎ目に本来の異常が生じているか否かを画一的に判断することにより、移動手摺の内部に埋設された複数の抗張体の継ぎ目を含めて抗張体に生じた異常の有無を定量的かつ十分に検査することができる。
【0014】
また、本発明に係る乗客コンベアの移動手摺検査装置は、前記発明において、前記各抗張体はスチールコードから成り、前記検出体は、前記受光器と前記画像取得器との間に配置され、前記スチールコードの伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの前記継ぎ目に合わせて傾斜して配置されるスリットを備えたことを特徴としている。このように構成すると、検出体のスリットによって抗張体の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの継ぎ目を検出するように画像処理器で分析される画像を容易かつ確実に制限することができるので、画像処理器の分析精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の乗客コンベアの移動手摺検査装置は、抗張体の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの継ぎ目を検出するように画像処理器で分析される画像を検出体によって制限することにより、認定手段が、画像処理器が連続して異常を検出した場合に、画像処理器で異常を検出した各光量の変動が所定の範囲内であり、しかも画像処理器で各異常を検出した時間間隔が所定の範囲内であるときに抗張体の継ぎ目を認定し、画像処理器で異常を検出した各光量の変動が所定の範囲外であるとき、及び画像処理器で各異常を検出した時間間隔が所定の範囲外であるときの少なくとも一方の範囲外であるときに抗張体の継ぎ目を認定しない。そして、異常検出手段は、認定手段が継ぎ目を認定したときに継ぎ目に異常がないと判断し、認定手段が継ぎ目を認定しなかったときに継ぎ目に異常があると判断することにより、移動手摺の内部に埋設された複数の抗張体の継ぎ目を含めて抗張体に生じた異常の有無を定量的かつ十分に検査することができ、抗張体の異常検出精度を従来よりも高めることができ、異常を生じている抗張体を有する移動手摺を交換する等の適切な対応を早期に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る乗客コンベアの移動手摺検査装置の第1実施形態の構成を示す図である。
【図2】図1に示す移動手摺の要部の構成を示す図である。
【図3】図1に示すスリットと移動手摺との位置関係を示す図である。
【図4】図1に示す画像処理器で処理される画像のうち第1実施形態におけるスチールコードが正常状態である画像を示す図である。
【図5】図1に示す画像処理器で処理される画像のうち第1実施形態におけるスチールコードが異常状態である画像を示す図である。
【図6】図1に示す画像処理器で処理される画像のうち第1実施形態におけるスチールコードの継ぎ目の状態である画像を示す図である。
【図7】図1に示す画像処理器で分析された異常状態における受光器の光量と測定時間との関係を表す図である。
【図8】図1に示す画像処理器で分析された継ぎ目の受光器の光量と測定時間との関係を説明する図である。
【図9】本発明に係る乗客コンベアの移動手摺検査装置の第2実施形態に備えられる移動手摺の要部の構成を示す図である。
【図10】図1に示す画像処理器で処理される画像のうち第2実施形態におけるスチールコードの継ぎ目の状態である画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る乗客コンベアの移動手摺検査装置を実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0018】
[第1実施形態]
図1に示すように、本発明に係る乗客コンベアの移動手摺検査装置の第1実施形態は、無端状に連結された移動手摺2に対してX線を照射するX線照射器1と、このX線照射器1によって移動手摺2を透過してきたX線を受光する受光器3と、この受光器3に受光したX線の量を画像として検出する画像取得器、例えばカメラ4と、このカメラ4と信号線7を介して接続され、カメラ4で得られた画像を分析して移動手摺2の内部に埋設された後述する抗張体の異常の有無を検出する画像処理器8とを備えている。
【0019】
図2に示すように、移動手摺2は、後述する継ぎ目201〜209が所定の位置関係を有して配置される複数の抗張体、例えば18本の抗張体を内部に有し、これらの各抗張体はスチールコード101〜118から成っている。また、本発明の第1実施形態は、図1、図3に示すようにスチールコード101〜118の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの継ぎ目を検出するように画像処理器8で分析される画像を制限する検出体5を備えている。この検出体5は、図1に示すように受光器3とカメラ4との間に配置され、スチールコード101〜118の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの継ぎ目に合わせて傾斜して配置されるスリット5aを有している。
【0020】
具体的には、本発明の第1実施形態では、図2に示すようにスチールコード101〜118のうち隣接する2本を1組としてスチールコード101〜118の継ぎ目201〜209を取り扱っている。また、これらの継ぎ目201〜209が互いに隣接すると、継ぎ目201〜209が位置する移動手摺2の部分の強度が低下するので、継ぎ目201〜209は、スチールコード101〜118の伸長方向に対して傾斜して一定の間隔を有して配列されている。本発明の第1実施形態に備えられる検出体5のスリット5aは、継ぎ目201〜209のうち3つの継ぎ目に合うように同一方向に沿って配列される長さ寸法が設定されている。
【0021】
すなわち、継ぎ目201,204,207、継ぎ目202,205,208、継ぎ目203,206,209をそれぞれ1組とし、図3に示すように移動手摺2の検査において継ぎ目201,204,207を透過したX線を受光器3で受光して発光した光が同じタイミングで検出体5のスリット5aを通過するようにしている。同様に、移動手摺2の検査において継ぎ目202,205,208を透過したX線の受光器3で受光して発光した光が同じタイミングで検出体5のスリット5aを通過し、さらに継ぎ目202,205,208を透過したX線の受光器3で受光して発光した光が同じタイミングで検出体5のスリット5aを通過するようにしている。なお、本発明の第1実施形態では、図1に示すようにこれらX線照射器1、移動手摺2のうち検査対象とされる部分、受光器3、検出体5、及びカメラ4が一対の筐体6a,6bに収められる。
【0022】
また、画像処理器8は、連続してスチールコード101〜118の異常を検出した場合に、異常を検出した各光量の変動が所定の範囲内であり、しかも各異常を検出した時間間隔が所定の範囲内であるときにスチールコード101〜118の継ぎ目201〜209を認定し、異常を検出した各光量の変動が所定の範囲外であるとき、及び各異常を検出した時間間隔が所定の範囲外であるときの少なくとも一方の範囲外であるときにスチールコード101〜118の継ぎ目201〜209を認定しない認定手段を内部に備えている。
【0023】
さらに、画像処理器8は、認定手段が継ぎ目201〜209を認定したときに継ぎ目201〜209に異常がないと判断し、認定手段が継ぎ目201〜209を認定しなかったときに継ぎ目201〜209に異常があると判断する異常判断手段も内部に備えている。
【0024】
次に、本発明に係る乗客コンベアの移動手摺検査装置の第1実施形態の動作を説明する。
【0025】
図4は図1に示す画像処理器で処理される画像のうち第1実施形態におけるスチールコードが正常状態である画像を示す図、図5は図1に示す画像処理器で処理される画像のうち第1実施形態におけるスチールコードが異常状態である画像を示す図、図6は図1に示す画像処理器で処理される画像のうち第1実施形態におけるスチールコードの継ぎ目の状態である画像を示す図である。
【0026】
図1に示すように、X線照射器1からX線が照射されると、X線は移動手摺2及び移動手摺2の内部に埋設されたスチールコード101〜118を透過する。その後、受光器3が移動手摺2及びスチールコード101〜118を透過したX線を受光して発光し、発光した光が検出体5のスリット5aを通過する。そして、カメラ4がスリット5aを通過してきた光を取得し、取得した画像を信号線7を介して画像処理器8へ送信する。画像処理器8はカメラ4から受信した画像を処理して分析する。
【0027】
このとき、移動手摺2の内部のスチールコード101〜118の状態に応じて、画像処理器8で処理される画像が異なる。例えば、スチールコード101〜118の状態が正常状態であれば、図4に示すように画像処理器8で処理される画像11は、スリット画像11a内にスチールコード101〜118に相当する影が均等に配置される。
【0028】
一方、スチールコード101〜118の状態が異常状態であれば、スチールコード101〜118の断裂や片側への偏り等の現象が生じるので、図5に示すように画像処理器8で処理される画像11は、スリット画像11a内にスリット101〜118に相当する影が一部途切れたり、あるいは重なること等によって一部入力されなくなる。これにより、スチールコード101〜118の状態が異常状態である場合、画像処理器8がカメラ4から取得した画像を分析して得られる光量はスチールコード101〜118の状態が正常状態であるときに比べて大きくなる。
【0029】
そのため、画像処理器8は、図7に示すようにカメラ4から取得した画像を分析して得られる光量Pに変動が生じた場合に、その光量Pの変動量ΔPが予め設定した所定の光量P1以上であれば、スチールコード101〜118に異常が生じていると判断し、光量Pの変動量ΔPが予め設定した所定の光量P1未満であれば、スチールコード101〜118に異常が生じていないと判断する。
【0030】
ここで、画像処理器8が継ぎ目201〜209に相当する部分を検出すれば、図6に示すように画像処理器8で処理される画像11では、スリット画像11a内の継ぎ目201,204,207、継ぎ目202,205,208、又は継ぎ目203,206,209に相当する各3つの部分でスチールコード101〜118に相当する影が途切れるので、当該3つの部分が連続して入力されなくなる。そのため、画像処理器8がカメラ4から取得した画像を分析して得られる光量Pは、スチールコード101〜118の状態が異常状態である場合と同様に、スチールコード101〜118の状態が正常状態であるときに比べて大きくなる。
【0031】
そのため、画像処理器8は、上述したスチールコード101〜118の状態が異常状態である場合と同様に、図8に示すようにカメラ4から取得した画像を分析して得られる光量Pに変動が生じた場合にその光量Pの変動量ΔPが予め設定した所定の光量P1以上であれば、スチールコード101〜118に異常が生じていると判断するが、画像処理器8が連続して異常を検出した場合に当該異常の各光量の変動量ΔPが所定の範囲内であり、しかも当該各異常を検出した時間間隔Δtが所定の範囲内であれば、認定手段がスチールコード101〜118の継ぎ目201〜209を認定する。
【0032】
一方、画像処理器8が連続して異常を検出した場合に当該異常の各光量の変動量ΔPが所定の範囲外であるとき、及び当該各異常を検出した時間間隔Δtが所定の範囲外であるときの少なくとも一方の範囲外であるときに認定手段がスチールコード101〜118の継ぎ目201〜209を認定しない。
【0033】
そして、異常判断手段が、認定手段が継ぎ目201〜209を認定したときに継ぎ目201〜209に異常がないと判断し、認定手段が継ぎ目201〜209を認定しなかったときに継ぎ目201〜209に異常があると判断する。
【0034】
ここで、異常判断手段は、認定手段が継ぎ目201〜209を認定しなかったときに継ぎ目201〜209に異常があると判断するが、仮に継ぎ目201〜209に異常がない場合であってもスチールコード101〜118の金属部分に継ぎ目に相当する仮想的な異常と同様の異常がある可能性もある。しかし、スチールコード101〜118の偏りや重なり等の異常では、間欠的な光量の変動は生じないこと及び移動手摺2に埋設されたスチールコード101〜118において、上述したように継ぎ目201〜209は2本のスチールコードずつに1つしかないので、異常判断手段は、認定手段が継ぎ目201〜209を複数認定したときにスチールコード101〜118の金属部分に異常があると判断する。
【0035】
このように構成した本発明の第1実施形態は、上述したようにX線照射器1によってスチールコード101〜118の継ぎ目201〜209を透過したX線を受光して発光する光量Pはスチールコード101〜118の金属部分を透過したX線を受光して発光する光量Pよりも大きくなり、スチールコード101〜118の継ぎ目201〜209に相当する部分で光量Pに変動が生じるので、カメラ4で取得したスチールコード101〜118の金属部分及び継ぎ目201〜209を透過したX線を受光して発光する光量Pを画像処理器8が分析することにより、光量Pの変動量ΔPが予め設定した所定の光量P1以上であれば、スチールコード101〜118の継ぎ目201〜209を仮想的な異常として検出する。
【0036】
そして、検出体5のスリット5aによってスチールコード101〜118の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの継ぎ目201〜209を検出するように画像処理器8で分析される画像を制限することにより、画像処理器8がスチールコード101〜118の伸長方向に対して傾斜して配列される継ぎ目201〜209の数、すなわち継ぎ目201,204,207、継ぎ目202,205,208、及び継ぎ目203,206,209の3組を連続して仮想的な異常として検出する。
【0037】
本発明の第1実施形態は、画像処理器8が連続して仮想的な異常を検出した場合に、認定手段が検出体5のスリット5aによって3組を連続して検出した各異常の光量Pの変動量ΔP及び時間間隔Δtが所定の範囲内であるかどうかにより、スチールコード101〜118の継ぎ目201〜209を認定するものであるが、移動手摺2の内部にはスチールコード101〜118の継ぎ目201〜209が必ず存在しているので、スチールコード101〜118の継ぎ目201〜209が正常な状態であれば、認定手段で必ず継ぎ目201〜209を認定できることになる。そのため、この認定手段が継ぎ目201〜209を認定するかどうかによって異常検出手段がスチールコード101〜118の継ぎ目201〜209に本来の異常が生じているか否かを画一的に判断することにより、移動手摺2の内部に埋設された18本のスチールコード101〜118の継ぎ目201〜209を含めてスチールコード101〜118に生じた異常の有無を定量的かつ十分に検査することができる。
【0038】
また、本発明の第1実施形態は、検出体5は、受光器3とカメラ4との間に配置され、スチールコード101〜118の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの継ぎ目201〜209に合わせて傾斜して配置されるスリット5aを備えており、検出体5のスリット5aによってスチールコード101〜118の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの継ぎ目を検出するように画像処理器8で分析される画像を容易かつ確実に制限することができるので、画像処理器8の分析精度を向上させることができる。これにより、装置の信頼性を高めることができる。
【0039】
[第2実施形態]
図9は本発明に係る乗客コンベアの移動手摺検査装置の第2実施形態に備えられる移動手摺の要部の構成を示す図、図10は図1に示す画像処理器で処理される画像のうち第2実施形態におけるスチールコードの継ぎ目の状態である画像を示す図である。
【0040】
図9に示すように、本発明の第2実施形態が前述した第1実施形態と異なるのは、第1実施形態がスチールコード101〜118が移動手摺2に伴って環状に形成されることにより、継ぎ目201〜209が間隙を有して構成されているが、第2実施形態は、継ぎ目301〜309が重なり合って構成されている。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0041】
この場合、画像処理器8は、図8に示すようにカメラ4から取得した画像を分析して得られる光量Pに変動が生じた場合に、画像処理器8が継ぎ目301〜309に相当する部分を検出すれば、図10に示すように画像処理器8で処理される画像11では、スリット画像11a内の継ぎ目301,304,307、継ぎ目302,305,308、又は継ぎ目303,306,309に相当する各3つの部分でスチールコード101〜118に相当する影が重なり合うので、画像処理器8がカメラ4から取得した画像を分析して得られる光量Pは、第1実施形態の場合と反対にスチールコード101〜118の状態が正常状態であるときに比べて小さくなる。
【0042】
そのため、画像処理器8は、カメラ4から取得した画像を分析して得られる光量Pに変動が生じた場合にその光量Pの変動量ΔPの絶対値をとることにより、第1実施形態の場合と同様に扱うことができる。
【0043】
このように構成した本発明の第2実施形態は、スチールコード101〜118の継ぎ目301〜309の状態が第1実施形態と異なり、継ぎ目301〜309が重なり合って構成されている場合でも、カメラ4から取得した画像を分析して得られる光量Pに変動が生じた場合にその光量Pの変動量ΔPの絶対値をとることにより、第1実施形態と同等の作用、効果を得ることができる。これにより、継ぎ目の状態に合わせて適切に対応することができる。
【0044】
なお、本発明の第1、第2実施形態では、検出体5のスリット5aによってスチールコード101〜118の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの継ぎ目201〜209,301〜309を検出するように画像処理器8で分析される画像を制限しているが、検出体5がスリット5aを有する代わりに検出体5がカメラ4で取得した画像に対してマスクをかけるマスク手段を有することにより、画像処理器8が特定の画素を抽出するようにしてもよい。ただし、抽出境界の画素については、本来ならばマスクされる領域での光量が多い場合にはその影響を受けるので、画像処理器8はこれらを補正して特定の画素を抽出すればよい。
【0045】
また、本発明の第1、第2実施形態では、抗張体であるスチールコード101〜118が18本である場合について説明したが、この場合に限らず複数本あればよい。
【符号の説明】
【0046】
1 X線照射器
2 移動手摺
3 受光器
4 カメラ(画像取得器)
5 検査体
5a スリット
6a,6b 筐体
7 信号線
8 画像処理器
11 画像処理機で処理される画像
11a スリット画像
101〜118 スチールコード(抗張体)
201〜209,301〜309 継ぎ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
継ぎ目が所定の位置関係を有して配置される複数の抗張体が内部に埋設され、無端状に連結された移動手摺を有し、この移動手摺の検査に用いられ、
前記移動手摺に対してX線を照射するX線照射器と、このX線照射器によって前記移動手摺を透過してきたX線を受光する受光器と、この受光器に受光したX線の量を画像として検出する画像取得器と、この画像取得器で得られた前記画像を分析して前記移動手摺の前記抗張体の異常の有無を検出する画像処理器とを備えた乗客コンベアの移動手摺検査装置において、
前記抗張体の伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの前記継ぎ目を検出するように前記画像処理器で分析される前記画像を制限する検出体と、
前記画像処理器が連続して異常を検出した場合に、前記画像処理器で異常を検出した各光量の変動が所定の範囲内であり、しかも前記画像処理器で各異常を検出した時間間隔が所定の範囲内であるときに前記抗張体の前記継ぎ目を認定し、前記画像処理器で異常を検出した各光量の変動が所定の範囲外であるとき、及び前記画像処理器で各異常を検出した時間間隔が所定の範囲外であるときの少なくとも一方の範囲外であるときに前記抗張体の前記継ぎ目を認定しない認定手段と、
この認定手段が前記継ぎ目を認定したときに前記継ぎ目に異常がないと判断し、この認定手段が前記継ぎ目を認定しなかったときに前記継ぎ目に異常があると判断する異常判断手段とを備えたことを特徴とする乗客コンベアの移動手摺検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベアの移動手摺検査装置において、
前記各抗張体はスチールコードから成り、前記検出体は、前記受光器と前記画像取得器との間に配置され、前記スチールコードの伸長方向に対して傾斜して配列される少なくとも2つの前記継ぎ目に合わせて傾斜して配置されるスリットを備えたことを特徴とする乗客コンベアの移動手摺検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−136789(P2011−136789A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297675(P2009−297675)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】