説明

乗客コンベアの移動手摺

【課題】 スライダー層を無くすことにより、保守が簡単で、かつ長寿命で、更に屋外用に使用して雨水がかかっても安定した手摺駆動力が保持できる乗客コンベアの移動手摺を得る。
【解決手段】 熱可塑性エラストマーからなる芯体層41を有し、熱可塑性エラストマーでスライダー部を構成する。また芯体層の熱可塑性エラストマー内に芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体44を設け、芯体層の中に布製等の補強材45を埋め込んだ。更に芯体層の最内側にモリブデン等の低摩擦材を熱可塑性エラストマーに練りこんだ滑材層46を融着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエスカレータや動く歩道などの乗客コンベアの欄干に設けられて踏段と同期して回転駆動される乗客コンベアの移動手摺(ハンドレールとも称される)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にエスカレータは、図4に示す如く、上下階側乗降口相互間において、無端状に配した踏段1と、その左右両サイドの欄干2の外周に配した無端状の移動手摺3とを、相互に同期させて同方向に回転移動させることで乗客を運搬するものである。そうしたエスカレータの移動手摺3は、一般に欄干2の下部内の移動手摺帰路途中に設けた複数の駆動ローラ4とその各駆動ローラ4の下側に転接すべく配設した圧接ローラ5との間に通されて、その両ローラ4、5間に図5(図4のA−A線に沿った断面図)に示す如く挟圧されて、その駆動ローラ4の回転による摩擦力で駆動されるようになっていると共に、その駆動される移動手摺3は欄干2の下部内帰路側では複数の案内ローラ(図示せず)により案内され、さらに欄干2の上部では欄干フレームに取り付けた手摺ガイドレール10により案内されて、エンドレス状に回転移動するようになっている。
【0003】
図6は移動手摺3と手摺ガイドレール10を含む摺動機構の一部断面図であって、図4の移動手摺往路側の断面図である。
移動手摺3自体は、図6に示す如く、全体としてC字型の横断面を有し、全体としてT字型の内側スロットを構成し、T字型スロットの周りに延びる芯体層31と、この芯体層31の外部の周りに延び、移動手摺3の外側輪郭を定める化粧層32と、芯体層31の内側面に結合されたスライダー層33と、芯体層31内に延びる伸び防止手段である抗張体34とを備えている。芯体層31および化粧層32には従来は熱硬化ゴムが使用されている。
上記欄干2上部の手摺ガイドレール10は、図6に示す如く、その両側凸状部に合成樹脂製ガイドクリップ10aが装着され、移動手摺3の内周面に摺接するようになっている。
【0004】
移動手摺3の最内側のスライダー層33には帆布が用いられているが、このスライダー層33の役目は手摺ガイドクリップ10aと摺動する時の摩擦係数を適切な値にするためと、移動手摺3の形状を所定の強度を持ってC字型に維持するためである。
また、挟圧型の手摺駆動方式では、駆動ローラ4とスライダー層33の摩擦力を適切に確保する必要がある。しかし、スライダー層33は、経年的変化により磨り減り、また帆布に磨耗粉が詰まって摩擦係数が変化するので、定期的な保守点検と、数年後の移動手摺取替が不可欠であった。
【0005】
さらにこのような移動手摺3を屋外に設置した場合は、スライダー層33の綿帆布が吸水し易いため、雨水を吸収し、重量が増加するばかりでなく、駆動ローラ4との摩擦力が低下して、手摺速度が遅れたり、移動手摺3の間歇動作といった走行トラブルが生じ易かった。
また近年、このようなトラブルに対処するため、前記帆布のうちで少なくとも内表面に露出する表面帆布を、合成樹脂繊維を引き揃えた合成樹脂糸をたて糸とし、ガラス繊維からなるガラスヤーンを横糸として織成したものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−12256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1記載のものでは、スライダー層を持つため、吸水に対して完壁なものではなく、雨水冠水時の走行トラブルを解消することが困難であった。
【0008】
この発明はかかる従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、スライダー層を無くすことにより、保守が簡単で、長寿命の乗客コンベアの移動手摺を提供するものである。
また屋外用に使用して雨水がかかっても安定した手摺駆動力が保持できる乗客コンベアの移動手摺を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る乗客コンベアの移動手摺は、熱可塑性エラストマーからなる芯体層を有し、熱可塑性エラストマーでスライダー部を構成したものである。
【0010】
また、熱可塑性エラストマーからなる芯体層を有し、芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、芯体層の中に布製等の補強材を埋め込んだものである。
【0011】
また、補強材は断面略C字状の芯体層の両側耳部のみに埋め込んだものである。
【0012】
また、補強材の剛性が、長手方向には小さいものである。
【0013】
また、熱可塑性エラストマーからなる芯体層を有し、芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、芯体層の内側を低摩擦材で構成したものである。
【0014】
また、熱可塑性エラストマーからなる芯体層を有し、芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、芯体層の中に布製等の補強材を埋め込み、更に芯体層の最内側にモリブデン等の低摩擦材を熱可塑性エラストマーに練りこんだ滑材層を融着したものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、芯体層にエラストマーを使用した移動手摺において、スライダー層を無くすことによって、保守が簡単で、長寿命な移動手摺が実現できる。また、屋外用に使用して雨水が掛かっても安定した手摺駆動力が保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1における乗客コンベアの移動手摺を図1、図2により説明する。
図1は移動手摺と手摺ガイドレールを含む摺動機構の左半分を示す断面図、図2は補強材の帆布の織り方を示す拡大平面図である。
この発明の実施の形態1による移動手摺40の構成は、熱可塑性エラストマーからなる芯体層41と、該芯体層41の外側に設けた透明を含み客先指定色等の所望の色に着色された熱可塑性エラストマーからなる化粧層42の少なくとも2層を有し、前記芯体層41の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属テープ又は合成繊維製の抗張体44を設け、かつ、前記芯体層41の両側耳部に布製等の補強材45を埋め込んだものである。すなわち、熱可塑性エラストマーからなる芯体層41の摩擦係数が、帆布に近いことを利用して、帆布のスライダー層を無くしたことを特徴とするものである。
この構成において、芯体層41と化粧層42を1つの層で構成する事も出来る。また布製等の補強材45を両側耳部のみでは無く、芯体層41に沿ってC字状に配する事も出来る。
【0017】
芯体層41と化粧層42の2層構造の場合、補強材45は、化粧層42でなく、芯体層41に埋め込むのが好ましい。これは古くなった移動手摺40の化粧層42を削り取り、芯体層41を再利用することもあるからである。
補強材45の特性としては、移動手摺40の長手方向の剛性は小さく、横手方向の剛性は大きい方が望ましい。このため、補強材45の帆布の織り方としては、図2に示すようなものが用いられる。図2においては、横糸90は太く、縦糸80は細いものが使用されている。なお、ここでは糸の太さで剛性を変える場合を説明したが、横糸と縦糸の材質を変えることにより剛性を変えてもよい。
【0018】
抗張体44は金属テープの代わりに、金属又は合成繊維コードなどからなる複数本の低伸長材を使用することができる。合成繊維としては、アラミド繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、ナイロン繊維などを使用することができる。
【0019】
芯体層41の熱可塑性エラストマーには、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系などのいずれかのものを使用することができる。
また化粧層42の熱可塑性エラストマーは、芯体層41の熱可塑性エラストマーと同様、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系などのいずれかのものを使用することができる。
【0020】
次に、乗客コンベアの移動手摺の製造方法について説明する。
少なくとも、芯体層用の溶融した熱可塑性エラストマーと金属テープ又は合成繊維製による抗張体44を成形機から同時に押出して該抗張体44を抱合した断面略C字状の芯体層41を成形する工程と、透明を含み客先指定色等の所望の色に着色された化粧層用の溶融した熱可塑性エラストマーを成形機から押出して断面略C字状の化粧層42を成形する工程と、成形した前記化粧層42を前記芯体層41の外側に熱融着させる工程とを具備している。なお、押出し成形機の構成やその金型などは、図示しないが、公知のものを使用することができる。
【0021】
上記の製造方法において、芯体層41と化粧層42の問に、これらの熱可塑性エラストマーと硬度が異なり、押出して断面略C字状に成形される中間層(図示せず)の熱可塑性エラストマーを熱融着させる工程を設けることができる。
【0022】
上記の芯体層41と化粧層42の2層構成の場合は、芯体層41を成形した後に化粧層42を成形して熱融着させる方法と、芯体層41と化粧層42を同時に押出し成形し乍ら、熱融着させる方法がある。また、芯体層42と化粧層42との間に中間層(図示せず)がある場合の積層方法については、芯体層41と中間層(図示せず)を同時に押出し成形した後に、化粧層42を押出し成形してそれを中間層(図示せず)の外側に熱融着させる方法と、芯体層41と中間層と化粧層42を、この順序で順次押出し成形し、熱融着させる方法と、芯体層41と中間層と化粧層42を同時に押し出し成形して熱融着させ、一体化させる方法とがある。なお、化粧層42が透明を含め客先指定色等の所望の色に着色される場合は、化粧層42は後から芯体層41又は中間層の外側に熱融着させるのが好ましい。
なお、中間層に芯体層41、化粧層42より硬度の低い熱可塑性エラストマーを使用したときは、このエラストマーの硬度を調整することにより、移動手摺の握力と曲げ剛性力を任意に調整することができるが、この場合は、先に芯体層41と中間層を同時に押出し成形した後に、中間層よりも硬度の高い化粧層42を熱融着させても、中間層と化粧層42は十分な強度で接着させることができる。
【0023】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2における乗客コンベアの移動手摺を図3により説明する。
図3は、図1と同じく移動手摺と手摺ガイドレールを含む摺動機構の左半分を示す断面図である。
実施の形態1では、熱可塑性エラストマーの摩擦係数が、帆布に近いことを応用して、スライダー層の無い移動手摺を提供することにしたが、しかし、摩擦係数が帆布に近いとはいえ、帆布よりは大きい熱可塑性エラストマーもある。
そこで、図3に示す実施の形態2では、移動手摺40の両側耳部の最内側に、モリブデン等の低摩擦係数材を熱可塑性エラストマーに練りこんだ滑材層46を融着させ、手摺ガイドレール20との摩擦係数を下げてある。この場合、図3に示す如く、手摺ガイドレール20は、滑材層46の存在によりガイドクリップを省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの移動手摺と手摺ガイドレールを含む摺動機構の左半分を示す断面図である。
【図2】補強材の帆布の織り方を示す拡大平面図である。
【図3】この発明の実施の形態2における乗客コンベアの移動手摺と手摺ガイドレールを含む摺動機構の左半分を示す断面図である。
【図4】一般的な乗客コンベアの概略的構成を示す側面図である。
【図5】図4のA−A線に沿った断面図である。
【図6】従来の乗客コンベアの移動手摺と手摺ガイドレールを含む摺動機構の左半分を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 踏み段
2 欄干
3 従来の移動手摺
4 駆動ローラ
5 圧接ローラ
10 手摺ガイドレール
10a 手摺ガイドクリップ
31、41 芯体層
32、42 化粧層
33 スライダー層
34、44 抗張体
40 この発明の移動手摺
45 補強材
46 滑材層
80 縦糸
90 横糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーからなる芯体層を有し、熱可塑性エラストマーでスライダー部を構成したことを特徴とする乗客コンベアの移動手摺。
【請求項2】
熱可塑性エラストマーからなる芯体層を有し、前記芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、前記芯体層の中に布製等の補強材を埋め込んだことを特徴とする乗客コンベアの移動手摺。
【請求項3】
補強材は断面略C字状の芯体層の両側耳部のみに埋め込んだことを特徴とする請求項2記載の乗客コンベア用移動手摺。
【請求項4】
補強材の剛性が、長手方向には小さいことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の乗客コンベアの移動手摺。
【請求項5】
熱可塑性エラストマーからなる芯体層を有し、前記芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、前記芯体層の内側を低摩擦材で構成したことを特徴とする乗客コンベアの移動手摺。
【請求項6】
熱可塑性エラストマーからなる芯体層を有し、前記芯体層の熱可塑性エラストマー内に当該芯体層の長手方向に沿って連続的に金属又は合成繊維製の抗張体を設け、前記芯体層の中に布製等の補強材を埋め込み、更に前記芯体層の最内側にモリブデン等の低摩擦材を熱可塑性エラストマーに練りこんだ滑材層を融着したことを特徴とする乗客コンベアの移動手摺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−69770(P2006−69770A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257905(P2004−257905)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【出願人】(591040122)株式会社トーカン (15)
【Fターム(参考)】