説明

乗客コンベア

【課題】
組立や交換が容易であるだけでなく、幅方向の寸法が変更しやすい踏段及びその踏段を備えた乗客コンベアを提供する。
【解決手段】
建築構造物に設置されたフレーム5と、このフレーム5の長手方向両端部に設けられた乗降床と、これら乗降床間を無端状に連結されて循環移動する踏段2と、この踏段2の幅方向両側であって前記フレーム5の長手方向に沿って立設された欄干41を備えた乗客コンベアにおいて、前記踏段2は、踏面を形成するクリート2Aと、このクリート2Aの端部に配置され乗客に注意を喚起する注意体D1,D2と、これらが組み付けられる主枠体20を有し、この主枠体20を、前記踏段2の幅方向について略同一断面形状の連続体で形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターや動く歩道などの乗客コンベアに係り、特に、その踏段の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアの一種であるエスカレーターの踏段は、主に、踏面を形成するクリートと、このクリートの端部に配置され乗客に注意を喚起する注意体と、隣接する踏段との段差を塞ぐライザーと、これらが組み付けられる主枠体とを備えている。また、従来の主枠体は、その幅方向の両側部に位置して車輪等を支持する一対の部材と、これら一対の部材を連結する部材と、その他の補強部材などで構成されており、これらの部材はアルミダイカストで形成するのが一般的である。下記特許文献1は、このような乗客コンベア用踏段の一例である。
【0003】
【特許文献1】特開平8−245152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来の踏段の主枠体は、多くの部品から構成されているため、組み立てる際に、大型の治具や雇いが必要であるだけでなく、多数のネジ数も必要となり、作業に時間がかかる。また、現地で据え付けた後に、踏段の踏面などが欠けていたり変形していたりした場合、現地で踏段のネジを緩めると精度が狂う可能性があるため、通常は専門の工場へ運んで修理することになり、時間と費用がかかってしまう問題がある。更に、従来の主枠体では、踏段の幅寸法を変更するのが容易ではなく、様々な乗客コンベアに対応するのが難しい。
【0005】
したがって、本発明の目的は、組立や交換が容易であるだけでなく、幅方向の寸法が変更しやすい踏段及びその踏段を備えた乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
建築構造物に設置されたフレームと、このフレームの長手方向両端部に設けられた乗降床と、これら乗降床間を無端状に連結されて循環移動する踏段と、この踏段の幅方向両側であって前記フレームの長手方向に沿って立設された欄干を備えた乗客コンベアにおいて、前記踏段は、踏面を形成するクリートと、このクリートの端部に配置され乗客に注意を喚起する注意体と、これらが組み付けられる主枠体を有し、この主枠体を、前記踏段の幅方向について略同一断面形状の連続体で形成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、組立や交換が容易であるだけでなく、幅方向の寸法が変更しやすい踏段及びその踏段を備えた乗客コンベアを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、本発明における第1の実施例を、図1から図6を用いて説明する。本実施例は、乗客コンベアの一種であるエスカレーターに関するものであり、その全体構成は、図1に示す通りである。
【0009】
このエスカレーター装置1では、多数の踏段2を無端状に連結して循環移動させ、上階床31と下階床32との間で乗客を輸送している。また、このエスカレーター装置1は、建築構造物に設置されるフレーム5と、乗客の安全のために設けられ踏段2と同期して移動するハンドレール4と、踏段2の幅方向両側に位置してハンドレール4を支持すると共にフレーム5の長手方向に沿って立設される欄干41を備えている。尚、踏段2の幅方向とは、踏段2の長手方向、換言すれば、図1の平面に対して垂直な方向を指す。そして、踏段2,ハンドレール4及び欄干41等はフレーム5に支持され、このフレーム5の長手方向両端部に建屋側の乗降床(具体的には、上階床31及び下階床32)が固定されている。
【0010】
エスカレーター装置1のフレーム5は、乗客が乗降する上階平坦部11及び下階平坦部12と、これらの間を連結する傾斜部13を有している。また、上階平坦部11内の上階機械室6には駆動機61が設置され、駆動スプロケット62を駆動している。他方、下階平坦部12内の下階機械室7には従動スプロケット71が設置され、これら上下の駆動スプロケット62と従動スプロケット71の間には無端状のチェーン8が巻き掛けられて連続的に駆動するようになっている。
【0011】
このチェーン8には、等間隔をおいて車軸8Aが連結されており、この車軸8Aを支持する軸受8Bが各踏段2に取り付けられている。また、踏段2の重さ及びその踏面が受ける荷重は、チェーン軸車輪(前輪)9及び踏段車輪(後輪)10を介して最終的に案内レール(図示せず)で支持され、この案内レールに沿って踏段2が走行する。
【0012】
次に、図2は、本実施例における踏段2の構成を示す拡大図である。ここで、本明細書における「踏段」の用語の意味は、エスカレーターにおけるものと、動く歩道におけるものを含んでいるが、本実施例ではエスカレーターに用いられる踏段2について説明する。
【0013】
本実施例における踏段2は、踏面を形成するクリート2Aと、このクリート2Aの端部に配置され乗客に注意を喚起する注意体D1,D2と、隣接する踏段2との段差を塞ぐライザー2Rと、これらが組み付けられる主枠体20とで、主に構成されている。
【0014】
ここで、クリート2Aは、ステンレス等の薄鋼板を波状に折り曲げて形成され、その裏側には、複数の補強体2B1,2B2,2B3が溶接又は接着剤等によって取り付けられ、クリート2Aと各補強体とが一体化してクリート部2Cを構成している。尚、補強体2B1,2B2,2B3は、踏段2の幅方向についてハット型(縁有り帽子型)断面の連続体で形成されている。
【0015】
一方、本実施例における主枠体20は、アルミなどを材料として押し出し成形等の方法により製造され、踏段2の幅方向について略同一断面形状の連続体で形成されている。尚、この略同一断面形状の連続体を、仮に、アルミダイカストにより製造しようとすると、設備が膨大になってしまうので、あまり適切ではない。また、主枠体20の上端には、係止部20a,20b,20c,20d,20e,20f,20k,20Lが設けられている。このため、補強体2B1,2B2,2B3の縁の部分を係止部20a,20b,20c,20d,20e,20fの隙間に挿入し、踏段2の幅方向へ摺動させることにより、クリート部2Cを主枠体20へ容易に組み付けることができる。
【0016】
更に、主枠体20の上端であって一対の係止部の間には凸部(例えば、一対の係止部20a,20bの間には凸部21)が設けられており、この外面が補強体2B1,2B2,2B3の内面に当接し、クリート2Aの上面に加わる乗客等の荷重を支えている。また、主枠体20の幅方向についての断面は、車輪の軸の延長線近傍位置から上方へ放射状に延びる部材21A,21B,22A,22B,23A,24を有している。このため、第1に、凸部21へ加わる荷重は、主に、その近傍から下方へ延びる部材21A,21Bを介して後輪10へ伝わり、最終的に案内レールで支持される。第2に、凸部22へ加わる荷重は、主に、その近傍から下方へ延びる部材22A及び22Bを介して後輪10及び前輪9へ伝わり、最終的に案内レールで支持される。第3に、凸部23へ加わる荷重は、主に、その近傍から下方へ延びる部材23Aを介して前輪9へ伝わり、最終的に案内レールで支持される。尚、凸部21,22,23の外面と補強体2B1,2B2,2B3の内面との間に接着剤又は接着テープを取り付けて両者を密着させると、クリート部2Cと主枠体20の固定が一層強固になる。
【0017】
次に、本実施例におけるライザー2Rは、ステンレス等の薄鋼板を波状に折り曲げて形成され、その裏側には、複数の補強体2R1,2R2,2R3が溶接又は接着剤等によって取り付けられ、ライザー2Rと各補強体とが一体化してライザー部2Vを構成している。尚、補強体2R1,2R2,2R3は、踏段2の幅方向についてZ型断面の連続体で形成されている。
【0018】
一方、主枠体20の後端を形成する部材21Bには、係止部20g,20h,20jが設けられている。このため、補強体2R1,2R2,2R3の一部を係止部20g,20h,20jの隙間に挿入し、踏段2の幅方向へ摺動させることにより、ライザー部2Vを主枠体20へ容易に組み付けることができる。
【0019】
また、本実施例における注意体D1,D2は、クリート部2Cの少なくとも進行方向(奥行方向)両端部に設置されている。ここで、注意体D1は、主枠体20の上端の前方に設けられた係止部20kの隙間とクリート部2Cの前端2c1の隙間に挿嵌して取り付けられている。同様に、注意体D2は、主枠体20の上端の後方に設けられた係止部20Lの隙間とクリート部2Cの後端2c2の隙間に挿嵌して取り付けられている。
【0020】
図3は、本実施例における踏段2の幅方向端部(側端部)を示す斜視図である。図3の通り、主枠体20下端の穴部20Hには軸SHが挿入され、この軸SHの端部に後輪10が取り付けられている。また、クリート部2Cの側端部にはストッパー体2H1が、ライザー部2Vの側端部にはストッパー体2H2が、それぞれ設けられている。これらストッパー体2H1,2H2により、クリート部2C及びライザー部2Vの幅方向への動きが抑止され、位置ずれを防ぐことが可能である。尚、ストッパー体2H1は、注意体を兼ねるものであっても構わない。
【0021】
次に、図4は、ストッパー体2H1,2H2の固定方法の一例を示したものである。図4の通り、ストッパー体2H1は、ネジN1とナットN2により主枠体20上端の凸部21,22,23に対して固定されている。同様に、ストッパー体2H2も、ネジN1とナットN2により主枠体20の後端を形成する部材21Bに対して固定されている。
【0022】
図5は、図2のIから見た図であり、このように踏段2を正面から見ると明らかなように、本実施例の主枠体20は幅方向に連続しているので、幅方向両端のみで形成されている従来の主枠体とは、大きく異なる。本実施例のように主枠体20を連続体で形成することにより、踏面に加わる荷重を分散させ、応力の集中を避ける効果が期待できる。
【0023】
図6は、クリート部2C,ライザー部2V及び注意体D1,D2を、主枠体20に対してネジ止めした例を示している。尚、主枠体20の上端には凸部201,202,203が形成されており、この部分にクリート部2Cの裏側の凹部を嵌め込むことで、踏段2の進行方向に対して精度良く位置決めできる。同様に、主枠体20の後端には凸部204,205が形成されており、この部分にライザー部2Vの裏側の凹部を嵌め込むことで、精度良く位置決めできる。そして、位置決めが終了すると、クリート部2C及びライザー部2Vを、主枠体20に対してネジで固定する。
【0024】
このように、本実施例における踏段2は、主枠体20が略同一断面形状の連続体で形成されているため、部品点数及びネジ締め箇所が少なく、踏段2の組立作業を短時間で行うことができる。また、エスカレーターを据え付けた後、踏段2の部品に破損等が生じた場合も、特別な治具や雇いがなくても現地で容易に部品を交換できるので、専門の工場へ持っていく必要がなく、時間と費用が節約できる。
【0025】
ところで、エスカレーターの踏面の幅として現在の主流は、1000mmであるが、建屋の都合や利用客が少ない場合、600mmや800mmのものもある。しかし、本実施例では、主枠体20が略同一断面形状の連続体で形成されているので、必要な長さに応じて切断して使うことにより、主枠体20の幅寸法を容易に変更できる。したがって、幅のバリエーションが豊富な乗客コンベア用踏段を提供することが容易となる。
【0026】
更に、本実施例の主枠体20は、放射状に延びる部材21A等により構成されているため、踏段2の幅方向についての断面が複数の空洞20H1,20H2,20H3,20H4を有することになり、主枠体20を略同一断面形状の連続体で形成しても全体の重量が重くなるのを抑制できる。
【0027】
次に、本発明における第2の実施例である動く歩道について、図7,図8を用いて説明する。図7は、本実施例の全体構成を示すものであり、図8は、本実施例の踏段2の詳細を示すものである。
【0028】
本実施例の踏段2は、第1の実施例と異なり、ライザー部2Vが存在しないが、第1の実施例と同様に、踏段2の幅方向について略同一断面形状の連続体で主枠体20が形成されている。また、主枠体20は、補強体2B1,2B2,2B3を係止させる係止部20a,20b,20c,20d,20e,20fを有しているので、クリート部2Cを容易に組み付けることができる。したがって、生産性が高いだけでなく、現地での部品交換が容易で保全性の良い乗客コンベア用踏段が提供できる。また、動く歩道の踏面の幅についても、設置環境に応じて様々のものがあり、例えば1600mm程度まで拡幅させるものもあるが、本実施例の踏段2は幅寸法の変更が容易なため、そのようなニーズに対応しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施例としてのエスカレーターの全体構成を示す図である。
【図2】第1の実施例としてのエスカレーターの踏段構成を示す拡大図である。
【図3】第1の実施例としてのエスカレーターの踏段側端部を示す斜視図である。
【図4】第1の実施例としてのエスカレーターにおけるストッパー体の固定方法の一例を示す図である。
【図5】図2のIから見た図である。
【図6】第1の実施例としてのエスカレーターにおける踏段の別の組立方法を示す図である。
【図7】第2の実施例としての動く歩道の全体構成を示す図である。
【図8】第2の実施例としての動く歩道の踏段構成を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0030】
1 エスカレーター装置
2 踏段
2A クリート
2C クリート部
2H1,2H2 ストッパー体
2R ライザー
2V ライザー部
4 ハンドレール
5 フレーム
6 上階機械室
7 下階機械室
8 チェーン
8A 車軸
8B 軸受
9 前輪
10 後輪
11 上階平坦部
12 下階平坦部
13 傾斜部
20 主枠体
21〜23,201〜205 凸部
31 上階床
32 下階床
41 欄干
61 駆動機
62 駆動スプロケット
71 従動スプロケット
D1,D2 注意体
N1 ネジ
N2 ナット
SH 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物に設置されたフレームと、このフレームの長手方向両端部に設けられた乗降床と、これら乗降床間を無端状に連結されて循環移動する踏段と、この踏段の幅方向両側であって前記フレームの長手方向に沿って立設された欄干を備えた乗客コンベアにおいて、前記踏段は、踏面を形成するクリートと、このクリートの端部に配置され乗客に注意を喚起する注意体と、これらが組み付けられる主枠体を有し、この主枠体が、前記踏段の幅方向について略同一断面形状の連続体で形成されていることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
請求項1において、前記クリートの裏側に、前記踏段の幅方向について連続体で形成された複数の補強体が設けられ、この補強体を係止させる係止部が前記主枠体に形成されていることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項3】
請求項1において、前記クリートの裏側に補強体が設けられ、この補強体を係止させる係止部が前記主枠体に形成され、前記補強体を前記係止部に前記踏段の幅方向から摺動させて前記クリートを前記主枠体に組み付けたことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項4】
請求項1において、前記クリートの裏側に補強体が設けられ、この補強体を係止させる係止部が前記主枠体に形成され、前記補強体を前記係止部に前記踏段の幅方向から摺動させて前記クリートを前記主枠体に組み付け、前記注意体で前記クリートの幅方向への動きを抑止したことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項5】
請求項1において、前記主枠体の幅方向についての断面は、車輪の軸の延長線近傍位置から放射状に延びる部材を有していることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項6】
建築構造物に設置されたフレームと、このフレームの長手方向両端部に設けられた乗降床と、これら乗降床間を無端状に連結されて循環移動する踏段と、この踏段の幅方向両側であって前記フレームの長手方向に沿って立設された欄干を備えた乗客コンベアにおいて、前記踏段は、鋼板を波状に折り曲げて踏面を形成するクリートと、このクリートの少なくとも幅方向両端部に設置され乗客に注意を喚起する注意体と、鋼板を波状に折り曲げて形成され隣接する踏段との段差を塞ぐライザーと、これらを組み付ける主枠体を有し、この主枠体が、前記踏段の幅方向について略同一断面形状の連続体で形成されていることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項7】
乗客コンベアに用いられる踏段において、踏面を形成するクリートと、このクリートの端部に配置され乗客に注意を喚起する注意体と、これらが組み付けられる主枠体を有し、この主枠体が、前記踏段の幅方向について略同一断面形状の連続体で形成されていることを特徴とする乗客コンベア用踏段。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−51602(P2009−51602A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219191(P2007−219191)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】