説明

乗客コンベア

【課題】鋼板を用いて枠体としたものにあって、必要な強度を確保しつつ溶接効率の向上を図ることのできる乗客コンベアの提供。
【解決手段】建築構造物に設置される乗客コンベアの枠体2は、プレス成形された鋼板からなり、コの字状の断面形状を有する複数の分割枠体が組み合わされて形成されるとともに、分割枠体2a1、2a2には、互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される凸部12a、および他方に形成され凸部12aが嵌合される凹部12bからなる位置決め部12と、互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される第1の凹部13a、および他方に形成され第1の凹部13aと対向する第2の凹部13bからなる角回し溶接用穴部13とを備え、角回し溶接用穴部13を利用して角回し溶接を行うことで、大きな応力が加わる付近のみに限定して溶接することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターや動く歩道などの乗客コンベアに係わり、特にその枠体の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、乗客コンベアの枠体は、複数のL形鋼や平鋼等の鋼材を溶接、ボルトおよびナットを用いて組み合わせ、トラスを形成する構造となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、鋼材の溶接接合方法として、従来、鋼板の両端部に相互に噛合する複数の矩形波状両端接合部を形成するとともに、この接合部に複数のスポット溶接部を施し一体化するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−57485(図2)
【特許文献2】特開2002−181974号公報(段落番号0015〜0018、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来の枠体は、複数の鋼材を組み合わせてトラスを形成するものであることから、部材員数が多く、その作成に手間がかかるという問題があった。
【0006】
そこで、鋼板を加工して枠体とすることが考えられるが、一般的に流通している鋼板の寸法を考慮すると、複数の鋼板を溶接によりつなぎ合わせる必要がある。しかしながら、枠体の側面部材には、曲げモーメントが加わるため、側面部材の面内には、上面部側に圧縮応力、底面部側に引張応力が加わるとともに、これらの圧縮応力、引張応力は、側面部材の中心から離れるにつれ大きくなる。したがって、側面部材を溶接接合する際には、溶接止端部からの亀裂の発生を防止するため、側面部材の接触面を連続で溶接する必要があるとともに、側面部材の端部においては、角回し溶接を行い表面と裏面の溶接ビードをつなげる必要があった。このように鋼板を加工して枠体とするものにあっては、長い距離に亘る溶接を要することから、手間とコストがかかるという問題が生じる。
【0007】
なお、前述した後者のものは、鋼板の接合部分の強度を上げることを目的とし、鋼板の両端部に相互に噛合する複数の矩形波状両端接合部を形成するとともに、この接合部に複数のスポット溶接部を施すようにしたものであり、前述した問題点の解決を図るものではない。
【0008】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、鋼板を用いて枠体としたものにあって、必要な強度を確保しつつ溶接効率の向上を図ることのできる乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、建築構造物に設置される枠体と、この枠体の長手方向両端部に設けられる乗降床と、これら乗降床間を無端状に連結されて循環回動する踏段チェーンおよび踏段と、前記乗降床下近傍に配置され、前記踏段チェーンが巻き掛けられる主スプロケットおよび従スプロケットと、前記主スプロケットに固定された駆動軸に設けられる駆動スプロケットと、この駆動スプロケットに回転力を伝達する駆動装置とを備えた乗客コンベアにおいて、前記枠体は、プレス成形された鋼板からなり、コの字状の断面形状を有する複数の分割枠体が組み合わされて形成されるとともに、前記分割枠体には、互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される凸部、および他方に形成され前記凸部が嵌合される凹部からなる位置決め部と、互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される第1の凹部、および他方に形成され前記第1の凹部と対向する第2の凹部からなる角回し溶接用穴部とが備えられることを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明では、互いに隣接する分割枠体を接合する場合、これら互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される凸部と、他方に形成される凹部とを互いに嵌合することで位置決めを行う。これによって、特別な装置を要することなく容易に位置決めを行うことができる。また、互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される第1の凹部、および他方に形成される第2の凹部とを互いに対向させることで角回し溶接用穴部を形成し、この角回し溶接用穴部を利用して角回し溶接を行うことで、大きな応力が加わる付近のみに限定して溶接することを可能とした。これによって、溶接止端部からの亀裂の発生を防止し、かつ必要な強度を確保しつつ溶接効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特別な装置を要することなく容易に位置決めを行うことができ、作業性の向上を図ることができる。また、溶接止端部からの亀裂の発生を防止し、かつ必要な強度を確保しつつ溶接量の低減を図ることができ、これによって、製品製作時間を短縮するとともに、コストを低減することができる。さらに、溶接量を低減することで溶接部の変形や残留応力の緩和を図り、高精度の製品を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用される乗客コンベアの概略構成図である。
【図2】図1のI−I線に沿う乗客コンベアの断面図である。
【図3】本発明の乗客コンベアの一実施例を示す図1のV部分の拡大図である。
【図4】図3のW部分の要部斜視図である。
【図5】乗客コンベアの枠体に作用するせん断力Fおよび曲げモーメントMを示す説明図である。
【図6】図5のJ部分における側面部材の面内に加わる応力の応力分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る乗客コンベアの実施例を図に基づき説明する。
【0014】
本実施例における乗客コンベア、例えば、エスカレーターは、図1に示すように、建屋構造物1、すなわち、上階建屋1aと下階建屋1b間に設置された枠体2と、この枠体2の長手方向両端部に設けられた乗降床3a、3bと、これら乗降床3a、3bの近傍に配置された主スプロケット4および従スプロケット5と、乗降床3a、3b間を無端状に連結されて循環移動する踏段チェーン6および踏段7と、踏段チェーン6を駆動する駆動機8と、踏段7の回動方向に沿って左右に対向する欄干9とを備えている。
【0015】
枠体2は、図2に示すように、互いに対向するように対となって配置されるとともに、コの字状の断面形状を有する側面部材2aと、側面部材2aの内側に立設される縦材2bと、左右の側面部材2a間に架設される横桁2cとを有してなっており、それぞれは溶接、ボルトおよびナットにより接合されている。また、側面部材2aの上面に、欄干用ベース10が設けられ、この欄干用ベース10により欄干9の下部が固定される。さらに、縦材2bに、レール11a、11b、11cが取り付けられ、踏段7の車輪7aが走行するようになっている。
【0016】
そして、本実施例の枠体2は、図3に示すように、プレス成形された鋼板からなり、コの字状の断面形状を有する複数の分割枠体2a1、2a2、2a3が溶接により接合されて中間枠体2Bが形成される。また、この中間枠体2Bの両端部には、継手2B1、2B2が固定されており、この上部枠体2Aの継手2A1と中間枠体2Bの継手2B1とをボルトBで締結し、かつ下部枠体2Cの継手2C1と中間枠体2Bの継手2B2とをボルトBで締結し、枠体2を形成している。
【0017】
分割枠体2a1、2a2、2a3には、図4に示すように、互いに隣接する分割枠体、例えば、分割枠体2a1、2a2の接合面の一方に形成される凸部12a、および他方に形成され前記凸部12aが嵌合される凹部12bからなる位置決め部12と、互いに隣接する分割枠体、例えば、分割枠体2a1、2a2の接合面の一方に形成される第1の凹部13a、および他方に形成され前記第1の凹部13aと対向する第2の凹部13bからなる角回し溶接用穴部13とが備えられている。そして、分割枠体2a1、2a2は、溶接14a、14bにより互いに接合され、一体化している。
【0018】
ところで、上階建屋1aと下階建屋1b間に架設される枠体2には、図5の(a)、(b)に示すように、エスカレーター本体の自重と乗客重量により、せん断力Fと曲げモーメントMが加わる。これらのせん断力Fおよび曲げモーメントMは、図5の(c)に示すように、向かい合う側面部材の中心に対して釣合っており、ほぼ同じ力が両側の側面部材の面内に加わる。また、側面部材2aには、図6の(a)に示すように、曲げモーメントMが加わるため、側面部材2aの面内には、上面部側に圧縮応力、底面部側に引張応力が加わる。これらの圧縮、引張応力は、図6の(c)に示すように、側面部材2aの中心から離れるにつれ大きくなる。このため、側面部材2aを溶接接合する際には、溶接止端部からの亀裂の発生を防止するために側面部材2aの接触面を連続で溶接するとともに、角回し溶接を行い表面と裏面の溶接ビードをつなげることが求められる。
【0019】
そこで、本実施例にあっては、図4に示すように、分割枠体2a1、2a2の接合面に角回し溶接用穴部13を設け、従来、側面部材の端部において行う角回し溶接を、角回し溶接用穴部13を用いて行うようにした。また、互いに隣接する分割枠体2a1、2a2を接合する場合、これら互いに隣接する分割枠体2a1、2a2の接合面の一方に形成される凸部12aと、他方に形成される凹部12bとを互いに嵌合することで位置決めを行う。なお、位置決め部12の凸部12aおよび凹部12b、角回し溶接用穴部13の第1の凹部13aおよび第2の凹部13bは、位置決めの精度、また、溶接端部の目違い防止を考慮し高い寸法精度が求められる。このため、レーザ加工機、または、それと同等の精度での切断が可能な機器により、これらの凸部12a、凹部12b、第1の凹部13aおよび第2の凹部13bが形成されるものとする。
【0020】
本実施例によれば、互いに隣接する分割枠体を接合する場合、これら互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される凸部12aと、他方に形成される凹部12bとを互いに嵌合することで位置決めを行う。これによって、特別な装置を要することなく容易に位置決めを行うことができ、作業性の向上を図ることができる。また、互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される第1の凹部13a、および他方に形成される第2の凹部13bとを互いに対向させることで角回し溶接用穴部13を形成し、この角回し溶接用穴部13を利用して角回し溶接を行うことで、大きな応力が加わる付近のみに限定して溶接することが可能となり、溶接止端部からの亀裂の発生を防止し、かつ必要な強度を確保しつつ溶接量の低減を図ることができる。これによって、製品製作時間を短縮するとともに、コストを低減することができる。さらに、溶接量を低減することで溶接部の変形や残留応力の緩和を図り、高精度の製品を実現することができる。特に、本発明は、接合部が多い高揚程のエスカレーターの枠体や、枠体の長さが数十メートルになる動く歩道へ適用すると、その効果はより顕著となる。
【0021】
なお、前述した実施例では、互いに隣接する分割枠体2a1、2a2に、それぞれ2組の位置決め部12を設けた例を示したが、本発明はこれに限らず、任意にその数、および形状を設定することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 建屋構造物
2 枠体
2a 側面部材
2a1、2a2、2a3 分割枠体
2b 縦材
2c 横桁
2A 上部枠体
2A1 継手
2B 中間枠体
2B1、2B2 継手
2C 下部枠体
2C1 継手
3a、3b 乗降床
4 主スプロケット
5 従スプロケット
6 踏段チェーン
7 踏段
8 駆動機
9 欄干
10 欄干用ベース
11a、11b、11c レール
12 位置決め部
12a 凸部
12b 凹部
13 角回し溶接用穴部
13a 第1の凹部
13b 第2の凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物に設置される枠体と、この枠体の長手方向両端部に設けられる乗降床と、これら乗降床間を無端状に連結されて循環回動する踏段チェーンおよび踏段と、前記乗降床下近傍に配置され、前記踏段チェーンが巻き掛けられる主スプロケットおよび従スプロケットと、前記主スプロケットに固定された駆動軸に設けられる駆動スプロケットと、この駆動スプロケットに回転力を伝達する駆動装置とを備えた乗客コンベアにおいて、
前記枠体は、プレス成形された鋼板からなり、コの字状の断面形状を有する複数の分割枠体が組み合わされて形成されるとともに、前記分割枠体には、互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される凸部、および他方に形成され前記凸部が嵌合される凹部からなる位置決め部と、互いに隣接する分割枠体の接合面の一方に形成される第1の凹部、および他方に形成され前記第1の凹部と対向する第2の凹部からなる角回し溶接用穴部とが備えられることを特徴とした乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−195213(P2011−195213A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60672(P2010−60672)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】