説明

乱れの少ない試料採取装置

【課題】トンネルの切羽で簡易に乱れの少ない試料を採取することのできる乱れの少ない試料採取装置を提供する。
【解決手段】乱れの少ない試料採取装置において、地山を掘削する前部外管1と、この前部外管1に固定される後部外管2と、乱れの少ない試料を収納する試料収納管5と、この試料収納管5を固定する内管と、前記後部外管2の内端部の戻しブロック11と前記内管の後端面の受けブロック7との間にスラストベアリング12とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削における地山の性状を調べる乱れの少ない試料採取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
未固結な土砂からなる地山においてトンネル掘削を行う場合、乱れの少ない状態の試料を用いて各種試験を行うことは、地山の性状を把握し、工事を安全かつ円滑に進める上で重要である。この乱れの少ない試料を採取するために用いられる代表的な方法としては三重管ボーリングやブロックサンプリングなどがあげられる。
【0003】
また、下記の非特許文献1〜3に切羽安定性評価のための砂質地山に関する研究が提案されている。
【非特許文献1】木谷日出男・大島洋志・榎本秀明(1991)「切羽安定性評価のための砂質地山の分類法」, 鉄道総研報告, Vol.5, No. 6. pp.39−46.
【非特許文献2】木谷日出男(1999)「施工データ分析に基づく砂質土地山のトンネル切羽安定性評価に関する考察」, 応用地質, Vol.40, No.4, pp.231−239.
【非特許文献3】木谷日出男・太田岳洋(1999)「砂質土トンネル切羽の自立性評価試験法に関する研究」,応用地質,Vol.40,No.5,pp.270−280.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、乱れの少ない砂質土試料を採取する方法としては、三重管方式のボーリングやブロックサンプリングが代表的であった。三重管方式のボーリングでは高い精度で乱れの少ない試料を採取することが可能であるが、通常のボーリングよりも採取装置が複雑で、トンネル施工現場などで容易に実施することが不可能であり、時間と費用も多大に要する。また、ブロックサンプリングは砂質土をブロック状に切り出すため、応力解放による試料の乱れが多く、また採取に時間を要するためトンネル施工現場には適していない。このほか、打ち込み式の試料採取方法があるが、上記非特許文献1〜3で提案されている浸透崩壊試験や、一般的に実施される砂質土試料の三軸圧縮試験に供することができるような直径5cm以上で高さ10cm以上の試料を乱れの少ない状態で採取することは困難である。
【0005】
本発明は、上記状況に鑑みて、トンネルの切羽で簡易にかつ安価に乱れの少ない試料を採取することのできる乱れの少ない試料採取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕乱れの少ない試料採取装置において、地山を掘削する前部外管と、この前部外管に固定される後部外管と、乱れの少ない試料を収納する試料収納管と、この試料収納管を固定する内管と、前記後部外管の内端部の戻しブロックと前記内管の後端面の受けブロックとの間にスラストベアリングとを具備することを特徴とする。
【0007】
〔2〕上記〔1〕記載の乱れの少ない試料採取装置において、前記試料収納管は浸透崩壊試験器に装着でき、かつ試料内部が観察できる透明アクリル管からなることを特徴とする。
【0008】
〔3〕上記〔1〕記載の乱れの少ない試料採取装置において、前記試料収納管は縦半分に開く軸方向の枢着部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トンネル切羽や露頭などで簡易にかつ安価に乱れの少ない試料を採取することができる。
【0010】
また、採取試料は本装置内部で試料収納管内に密封されるため、試料採取に伴う応力解放の影響や、試料が含有している水分の蒸発を最小限にとどめることが可能である。このため、浸透崩壊試験や三軸圧縮試験などの力学試験に適した乱れの少ない試料が採取可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の乱れの少ない試料採取装置は、地山を掘削する前部外管と、この前部外管に固定される後部外管と、乱れの少ない試料を収納する試料収納管と、この試料収納管を固定する内管と、前記後部外管の内端部の戻しブロックと前記内管の後端面の受けブロックとの間にスラストベアリングとを具備する。そこで、後部外管にコンクリート用コアドリルなどを接続することにより、地山の掘削および乱れの少ない試料の採取が可能である。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施例を示す乱れの少ない試料採取装置の外観斜視図、図2はその乱れの少ない試料採取装置の分解斜視図、図3はその乱れの少ない試料採取装置の縦断面図である。
【0014】
これらの図において、1は開口部を有する先端部の外周面に形成されるビット1A及び第1連結部1Bが形成された掘削金具としての前部外管、2はその前部外管1に連結される第2連結部2Aと小径部2Bとが形成される後部外管、3は前部外管1内に装着される前部内管、4は前部内管3に連結される中央内管、5は中央内管4に固定される試料収納管、6は試料収納管5に固定される後部内管であり、後部内管6の後端部には、受けブロック7を有し、Oリング8を介して止めリング9が配置されている。一方、小径部2Bの内部底面には背面にコイルバネ10を有する戻しブロック11が配置され、この戻しブロック11と対向する受けブロック7との間にスラストベアリング12を配置するようにしている。
【0015】
そこで、この乱れの少ない試料採取装置の後部外管2にコンクリート用コアドリル(市販)などを接続することにより、前部外管1及び後部外管2をトンネルの切羽に押しあてると、ビット1Aを有する前部外管1は回転して地山を掘削するが、スラストベアリング12により試料収納管5は中央内管4に固定されて回転することなく、乱れの少ない試料を採取することができる。つまり、トンネルの切羽の乱れの少ない試料は掘削金具としての前部外管1の先端の開口部から回転しない試料収納管5に送られ、乱れの少ない試料が採取される。このように、採取試料は装置内部で試料収納管5に密封されるため、採取に伴う応力解放の影響や、試料が含有している水分の蒸発を最小限にとどめることが可能になる。
【0016】
このように、回転する後部外管2は前部外管(掘削金具)1の後方へ延長し、その内部には回転せず地山を反力として試料収納管5を押さえるための内管3,4,6を設けるようにした。
【0017】
図4は本発明の他の実施例を示す乱れの少ない試料採取装置の力学試験用試料の試料収納管の構成図である。
【0018】
この実施例では、採取した乱れの少ない試料を三軸圧縮試験に供することを目的として、縦半分に分割可能な軸方向の枢着部22を有する鋼製の試料収納管21を製作した。前記と同様に、採取試料は試料収納管21内で密封された状態で採取されるため、縦半分に分割可能な試料収納管21を分割して、三軸圧縮試験に供する乱れの少ない試料を取り出すことができる。
【0019】
また、図5に本発明の乱れの少ない試料採取装置で採取した乱れの少ない試料を示す。図5に示すように、採取した試料の状態は良好であり、試料採取時の試料の変形などは認められなかった。また、ナイフにより試料を切断した面を観察しても、試料内部での変形などは認められなかった。
【0020】
なお、この図における試料の割れ目は試料をナイフで切断した際に生じたものであり、試料採取時の状態は、図4から分かるように良好である。
【0021】
次に、試料試験事例について説明する。
【0022】
上記した本発明の乱れの少ない試料採取装置を用い、東北新幹線の六戸、牛鍵の両トンネルにおいて試験的に試料採取を行った。表1に示すように、採取した試料の相対密度はいずれも100%前後を示し、締まった状態(原位置に近い状態)の試料が採取できたことがわかる。
【0023】
【表1】

また、試料採取位置が下半切羽であったため、応力解放の影響により元々の地山条件に比べやや低い相対密度になっている可能性があるものの、図5から明らかなように、試料の変形、撹乱が認められないことから、ほぼ乱れの少ない状態であるとみなすことができた。
【0024】
そこで、採取した乱れの少ない試料について浸透崩壊試験を行った。その結果を表1および図6に示す。これを見ると、採取した乱れの少ない試料は同じ相対密度で乱れた試料の試験から求められる浸透崩壊特性曲線よりも明らかに高い限界動水勾配を示しており、地山の浸透崩壊特性を十分評価できることが確認された。よって、乱れの少ない試料を用いた浸透崩壊試験を行うことにより、トンネル原位置(トンネルの切羽など)の相対密度や浸透崩壊試験などの状況を比較的容易に得ることが可能である。
【0025】
以上のことから、本発明の乱れの少ない試料採取装置で乱れの少ない試料を定期的に採取し浸透崩壊試験を実施することで、施工中のトンネルにおいて詳細に地山分類を行うことが可能であり、さらにトンネルの切羽管理に適用することができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の乱れの少ない試料採取装置は、トンネルの切羽における乱れの少ない試料採取装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例を示す乱れの少ない試料採取装置の外観斜視図である。
【図2】本発明の実施例を示す乱れの少ない試料採取装置の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施例を示す乱れの少ない試料採取装置の縦断面図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す乱れの少ない試料採取装置の力学試験用試料の試料収納管の構成図である。
【図5】本発明の乱れの少ない試料採取装置で採取した乱れの少ない試料を示す図である。
【図6】本発明にかかる乱れの少ない試料の限界動水勾配と乱した試料の浸透崩壊特性曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 前部外管
1A ビット
1B 第1連結部
2 後部外管
2A 第2連結部
2B 小径部
3 前部内管
4 中央内管
5 試料収納管
6 後部内管
7 受けブロック
8 Oリング
9 止めリング
10 コイルバネ
11 戻しブロック
12 スラストベアリング
21 縦半分に分割可能な鋼製の試料収納管
22 軸方向の枢着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)地山を掘削する前部外管と、
(b)該前部外管に固定される後部外管と、
(c)乱れの少ない試料を収納する試料収納管と、
(d)該試料収納管を固定する内管と、
(e)前記後部外管の内端部の戻しブロックと前記内管の後端面の受けブロックとの間にスラストベアリングとを具備することを特徴とする乱れの少ない試料採取装置。
【請求項2】
請求項1記載の乱れの少ない試料採取装置において、前記試料収納管は浸透崩壊試験器に装着でき、かつ試料内部が観察できる透明アクリル管からなることを特徴とする乱れの少ない試料採取装置。
【請求項3】
請求項1記載の乱れの少ない試料採取装置において、前記試料収納管は縦半分に開く軸方向の枢着部を有することを特徴とする乱れの少ない試料採取装置。

【図3】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−322141(P2006−322141A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143461(P2005−143461)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(303059071)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (64)
【Fターム(参考)】