説明

乳化性製剤

【課題】生分解性を持つ高分子化合物のナノ粒子が、乳化作用を持つことを見出し、これを利用して生体に影響しない乳化技術による乳化性製剤を提供する。
【解決手段】乳化性製剤は、ナノ粒子が生分解性高分子、具体的には、生分解性を持つポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアスパラギン酸、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、デンプン、ゼラチンなどからなることを特徴とする。さらに、安全な経口投与用添加剤として実績がある多糖類や、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸コポリマー、ポリエチレングリコールなどを素材としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は親油性剤中にナノ粒子が混合されてなる乳化性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
この種、乳化性製剤としては、界面活性剤を用いて、本来相溶しない水と油をナノ〜マイクロスケールで混合する「乳化技術」は、様々な分野で利用されているが、医薬品・食品分野においては、基剤の混合や難水溶性の生理活性物質の可溶化などに利用される。しかし医薬品・食品は体内に入るため、生体に刺激性のある界面活性剤の利用は、あまり好ましくない。
これに対して、シリカやラテックス粒子等の微粒子の乳化作用を用いたものが既に報告があり(非特許文献1)、化粧品や皮膚用製剤への適用を狙った特許も出願されているが(特許文献1、2)、体内への投与は想定されていない。
経口投与された製剤の成分は、微粒子サイズであっても血中に吸収される可能性があることから、既往の乳化研究で用いられているシリカやラテックス粒子などを用いることは、生理学上好ましいものではない。
【特許文献1】特表2002−522362
【特許文献2】特表2002−522363
【非特許文献1】N D Denkov et al., J Colloid Interface Sci 150,589−593 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、生分解性を持つ高分子化合物のナノ粒子が、乳化作用を持つことを見出し、これを利用して生体に影響しない乳化技術を確立することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の乳化性製剤は、ナノ粒子が生分解性高分子からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
経口投与も可能な乳化性製剤を提供することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
ナノ粒子が界面活性能を持つことは周知の事実であり、シリカなどの無機粒子や、ラテックス粒子などについて報告がある。
これは、ナノ粒子はバルクよりも油水界面に存在する方が熱力学的に安定なためである。
ナノ粒子による乳化現象は、粒子の化学的性状よりも、むしろ物理的性状への依存が大きいため、使用する素材に大きな制約は受けない。
ただし目的から考えると、経口投与に対して実績のある高分子化合物もしくはそれに準ずる安全性を有する化合物の利用が望まれる。
【0007】
具体的には、生分解性を持つポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアスパラギン酸、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、デンプン、ゼラチンなどが挙げられる。
さらに、安全な経口投与用添加剤として実績がある多糖類(セルロース類、プルラン、ジェランガム、キサンタンガム、デキストラン、デキストリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなど)や、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸コポリマー、ポリエチレングリコールなどを素材としてもよい。
【0008】
これらは単独で使用しても構わないが、2種類以上が混合していても良い。
さらには、それらは均一に混合されていても良いが、一方が他方をコーティングしていても良い。
【0009】
粒子径は、その界面活性能の観点から1ナノメートルから10マイクロメートルが好ましいが、とくに10ナノメートルから1マイクロメートルが好ましい。
またナノ粒子が乳化作用を持つためには、粒子自身が水性媒体に良好に分散する必要があるため、生体に影響しない程度の界面活性剤を添加しても良い。
高分子化合物に対して、重量比0.01〜100%程度の添加が好ましいが、さらには0.1%〜10%程度が望ましい。
界面活性剤には、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)類、ソルビタン脂肪酸エステル(Span)類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO、Cremophor) 類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニック、ポロクサマー)類、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ドデシル硫酸ナトリウム、ビタミンE誘導体、リン脂質などが使用可能である。
【0010】
本製剤を経口投与に用いる場合、水は服用時の水や腸管内の消化管液として供給されるため、製剤中に添加する必要はない。
さらに、生分解性の高分子は製剤中の水によって分解を受ける可能性があるが、水溶性成分の可溶化などの必要性に応じて、重量比10%以下なら添加しても構わない。
水の代わりに、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、低分子量ポリエチレングリコール、イソプロピルアルコールなど、もしくはこれらの混合物か水溶液を用いても構わない。
この場合は、重量比50%程度まで許容できる。
油性成分も、経口製剤として利用可能なものであればとくに限定されないが、モノ、ジ、トリグリセライド類およびそのエステル類が想定される。
これらを単独もしくは混合して使用する。
ナノ粒子に対して重量比0.1〜1×10倍程度が好ましく、さらには1〜2×10倍程度が好ましい。
さらに、安定化剤、抗酸化剤、キレート剤、防腐剤、増粘剤、pH調節剤、緩衝剤、矯味剤、甘味剤のような、通常想定される製剤添加剤を適量加えても良い。
適用される薬物は、油相に溶解すればとくに制約はないが、抗癌薬、抗HIV薬、免疫抑制薬、抗生物質、抗肥満薬、鎮痛薬、抗不整脈薬、強心薬、抗血栓薬、抗高脂血症薬、抗鬱薬、糖尿病治療薬、抗てんかん薬、抗精神薬、抗不安薬、脳循環・代謝改善薬、自律神経作用薬、高血圧治療薬、抗腫瘍薬、甲状腺疾患治療薬、抗ウィルス薬、抗菌薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、抗炎症薬、副腎皮質ステロイド、抗リウマチ薬、痛風治療薬、消炎酵素、ホルモン剤、骨・カルシウム代謝薬、ビタミン薬、狭心症治療薬、血管拡張薬、降圧・昇圧薬、利尿薬、腸疾患治療薬、胆道・肝・膵疾患治療薬、パーキンソン病治療薬などが想定される。
【実施例】
【0011】
表1は、3種類のナノ粒子(比較としてシリカ粒子)と4種類の油を用いて、乳化状態を比較した結果を示す一覧で、ナノ粒子による乳化状態の観察結果を示し、任意量の蒸留水に、室温下で表示量のナノ粒子および油を添加して、ボルテックス攪拌し、乳化状態を目視により観察した結果である。
乳化状態の安定性は数時間程度の観察であり、必ずしも数日単位の安定性を保証するものではない。なおナノ粒子はホソカワミクロン、シリカは富士シリシア化学製である。
いずれの油を用いても、通常のPLGAもしくはPLAナノ粒子を用いた場合は、少量の油を吸収して、凝集が生じる。しかしPVAコーティングしたPLGAナノ粒子の場合は、乳化状態が達成されることが分かった。シリカ粒子を用いた場合は、特定の油にしか効果がなく、また乳化時間も長時間持続しなかった。
【0012】
図1は、表1の検体19の粒度分布の測定データとそれに基づくグラフを示す。大きな乳化粒子と小さな乳化粒子の2種類が存在し、平均粒子径(メジアン径)5.2umであった。
なお、当該測定の基本データは以下の通りである。
要約データ
dv=0.1255
10%=1.807μm
50%=6.794μm
90%=27.86μm
mv=12.25μm
mn=1.695μm
ma=4.360μm
cs=1.376(m/cm
sd=10.15
測定条件
測定時間:30s
照射光透過率:0.87
分布形式:体積
粒子透過率:透過
真球/非球形:非球形
粒子屈折率:1.51
溶媒屈折率:1.33

図2は、表1の検体20の粒度分布の測定データとそれに基づくグラフを示す。油を増量することによって大きい方のピークが成長した。平均粒子径(メジアン径)6.8umであった。
なお、当該測定の基本データは以下の通りである。
要約データ
dv=0.0621
10%=1.798μm
50%=5.164μm
90%=68.57μm
mv=23.05μm
mn=1.723μm
ma=4.241μm
cs=1.415(m/cm
sd=25.14
測定条件
測定時間:30s
照射光透過率:0.93
分布形式:体積
粒子透過率:透過
真球/非球形:非球形
粒子屈折率:1.51
溶媒屈折率:1.33
【0013】
【表1】

【0014】
表2は、表面のコーティング処理を行っていないPLGAナノ粒子と、油としてモノカプリル酸プロピレングリコールエステルを用いて、乳化検討を行った結果であり、ナノ粒子による乳化状態の観察結果(界面活性剤の添加効果)を示す。
実験手順は、実施例1に準じた。
PLGAナノ粒子と油のみでは相分離が生じたが、これに界面活性剤のドデシル硫酸ナトリウムを添加することによって、乳化が達成された。なお、PLGAナノ粒子を抜いた系でも相分離が生じた。
【0015】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、経口投与される医薬組成物への利用を想定しているが、食品への利用も可能であり、とくに健康食品への利用が有用と考えられる。また注射剤、外用剤などの他の経路からの薬物投与や、化粧品への適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】検体19の粒度分布の測定データとそれに基づくグラフ
【図2】検体20の粒度分布の測定データとそれに基づくグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親油性剤中にナノ粒子が混合されてなる乳化性製剤であって、前記ナノ粒子が生分解性高分子からなることを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−161460(P2009−161460A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340588(P2007−340588)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】