説明

乳化組成物

【課題】長期保存しても乳化安定性が高く、水相系に添加した際に高い透明性を示して官能的にも優れ、またカプシノイド化合物など生理機能を有する油溶性成分の分解を抑制した乳化組成物を提供する。
【解決手段】(A)油溶性成分と油脂類を含有する油相成分、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)水相成分を含有する乳化組成物において、(A)の油相成分中の油脂類の脂肪酸組成が、カプリル酸100に対し、重量比で、カプリン酸が20〜97、ラウリン酸が28〜6000、及びミリスチン酸が11〜2100となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプシノイド化合物などの油溶性成分を水相系に添加するのに適する乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
辛味の少ないトウガラシとして矢澤らにより選抜固定されたトウガラシの無辛味固定品種である「CH−19甘」は、辛味を呈さない新規なカプシノイド化合物を多量に含有することが報告されている。このカプシノイド化合物に属する化合物(バニリルアルコールの脂肪酸エステルであり、カプシエイト、ジヒドロカプシエイト等、以下単に「カプシノイド」又は「カプシノイド化合物」ということがある)は、トウガラシの辛味成分であるカプサイシノイド(カプサイシン、ジヒドロカプサイシン等)とは異なり、辛味を示さないものの、免疫の賦活化作用、エネルギー代謝の活性化作用等が報告されており(特許文献1参照)、今後の応用が期待されている。
【0003】
カプシノイド化合物は、バニリル基と脂肪酸側鎖間に存在するエステル結合が容易に加水分解されるため、非常に不安定である。そこで、飲料などの水性の飲食品に添加するには、前記水系媒体に安定性を維持しながら混和又は分散する技術が必要とされている。このような技術として、カプシノイド含有油を各種乳化剤で乳化する技術が報告されている(特許文献2参照)。
【0004】
またカプシノイド含有乳化組成物を調製する際に、カプシノイド化合物を含む油相に増粘剤を添加し、油相中の油脂の粘度を高めることによって、乳化組成物中におけるカプシノイド化合物の安定性を向上させる技術が報告されている(特許文献3参照)。
【0005】
また乳化組成物においては濁度も重要であり、乳化組成物の濁度が高いと、水相系に添加して透明性の高い水性液とすることが困難となる。乳化組成物の濁度については、乳化組成物の透過率や平均粒子径で評価されるが、一般に、乳化組成物の平均粒子径が小さいほど濁度が低くなり、平均粒子径が100nm以下であれば、透明な乳化組成物となる傾向にある。特定のポリグリセリン脂肪酸エステル及び多価アルコールを用いて、香料、色素、油溶性ビタミン、食用油脂、ワックスなどを含む油相を透明に乳化する技術も報告されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−246478号公報
【特許文献2】特開2003−192576号公報
【特許文献3】特開2007−269714号公報
【特許文献4】特開昭62−250941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2では、カプシノイド含有乳化組成物の酸性領域中での安定性が示されているものの、実際に当該乳化組成物を添加した水性飲料を調製すると、常温保存では、乳化組成物中のカプシノイドが徐々に分解されるという問題がある。
【0008】
また、上記特許文献3に記載された乳化組成物では、増粘剤を添加して油相の粘度を高くする必要が生じる。さらに、前記により調製される乳化組成物においては、カプシノイドの保存安定性は有するが、その透明性についての検討はなされていない。
【0009】
さらにまた、上記特許文献4では、乳化物の透明性についての定量的な検討はなされておらず、さらなる乳化安定性も望まれている。
【0010】
そこで本発明においては、カプシノイドをはじめ、水相系で不安定な油溶性物質の保存安定性に優れ、さらに、水相系に添加した際の透明性に優れる乳化組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を続けた結果、油相の脂肪酸組成を特定の比率にした場合に、油溶性成分の安定性が高くなることを見出した。またその透明性、乳化安定性、カプシノイドなどの油溶性成分の保存安定性などの品質を評価すると、油相成分中の油脂類の脂肪酸組成において、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸が特定範囲の比率で存在することが重要であることが判明した。
【0012】
すなわち、本発明は少なくとも以下の内容を含む。
[1](A)油溶性成分と油脂類を含有する油相成分、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)水相成分を含有する乳化組成物において、
(A)の油相成分中の油脂類の脂肪酸組成が、カプリル酸100に対し、重量比で、カプリン酸が20〜97、ラウリン酸が28〜6000、及びミリスチン酸が11〜2100である、乳化組成物。
[2](B)のポリグリセリン脂肪酸エステル100重量部に対し、(A)の油相成分を1〜2000重量部含有する、上記[1]に記載の乳化組成物。
[3](A)の油相成分を0.25重量%含むように水に分散した水分散液の波長600nmの光の透過率が90%以上である、上記[1]に記載の乳化組成物。
[4](B)のポリグリセリン脂肪酸エステルが、重合度10以上であるポリグリセリンを30重量%以上含むポリグリセリンと、ミリスチン酸を90重量%以上含有する脂肪酸とのエステルであるポリグリセリンモノミリスチン酸エステルを主成分とするものである、上記[1]に記載の乳化組成物。
[5](A)の油溶性成分が、カプシノイド化合物より選択される1種又は2種以上である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の乳化組成物。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の乳化組成物を0.001重量%〜10重量%含有する、飲食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長期間保存した際の乳化安定性が高く、水相系に添加した際に透明性が高くて官能的に優れ、さらに、組成物中に含有されるカプシノイド化合物などの油溶性成分の分解が抑制された乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0015】
本発明に係る乳化組成物は、(A)油溶性成分と油脂類を含有する油相成分、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)水相成分を含有する乳化組成物であり、(A)の油相成分中の油脂類が特定範囲の脂肪酸組成を有することを特徴とする。
【0016】
[(A)の油相成分]
本発明において、(A)の油相成分は、油溶性成分と油脂類を含むことを特徴とする。
本発明で用いる油溶性成分としては、生体に有用な油溶性成分、又は飲食用もしくは化粧品用に利用する際に有用な油溶性成分が好ましく用いられる。かかる油溶性成分としては、油溶性薬剤の他、肝油、ビタミンA、ビタミンA油、ビタミンD、ビタミンB酪酸エステル、アスコルビン酸脂肪酸エステル、天然ビタミンE混合物、ビタミンK等の油溶性ビタミン類;パプリカ色素、アナトー色素、トマト色素、マリーゴールド色素、β−カロテン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、リコピン、クロロフィル等の油溶性色素類;オレンジ油、ペパーミント油、スペアミント油、シンナモン油等の香料類;リモネン、リナロール、ネロール、シトロネロール、ゲラニオール、シトラール、l−メントール、オイゲノール、シンナミックアルデヒド、アネトール、ペリラアルデヒド、バニリン、γ−ウンデカラクトン等の植物精油類;コエンザイムQ10、α−リポ酸、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等のω−3系脂肪酸、リノール酸、γ−リノレン酸等のω−6系脂肪酸、植物ステロール等の生理活性成分などが挙げられ、医薬品や化粧料、飲食品用等として有効な量を含有させる。本発明では、加水分解や酸化分解など、一般の製剤、製品中で反応しやすく不安定な成分、たとえば、カプシノイド化合物、ビタミンA、アスコルビン酸脂肪酸エステルなどの油溶性ビタミン、ω−3系脂肪酸でも用いることができるため好ましい。
【0017】
本発明においては、上記油溶性成分としてカプシノイド化合物を好適に用いることができる。カプシノイド化合物とは、好適にはバニリルアルコールの脂肪酸エステルをいい、その代表的な成分としては、トウガラシ類に含有される成分として確認された、カプシエイト、ジヒドロカプシエイト、ノルジヒドロカプシエイトが含まれ、さらにバニリルデカノエイト、バニリルノナノエイト、バニリルオクタノエイト等のカプシエイトやノルジヒドロカプシエイトと同程度の脂肪酸鎖長を有する、各種直鎖又は分岐鎖脂肪酸とバニリルアルコールとの脂肪酸エステルをも包含するが、これらに限定されない。カプシエイト(以下、「CST」と略する場合がある)、ジヒドロカプシエイト(以下「DCT」と略する場合がある)及びノルジヒドロカプシエイト(以下「NDCT」と略する場合がある)はそれぞれ以下の化学式で表すことができる。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
カプシノイド化合物は、トウガラシ属に属する植物体(以下「トウガラシ」という)に多く含まれるものであるため、トウガラシの植物体及び/又は果実から精製、分離することによって調製することができる。精製に使用するトウガラシとしては、カプシノイドを含有するトウガラシであれば特に制限はなく、「日光」や「五色」等に代表される在来の辛味を有する品種由来のトウガラシでもよいが、無辛味品種のトウガラシが好ましい。中でも、「CH−19甘」、「万願寺」、「伏見甘長」等の無辛味品種や、シシトウ、ピーマン等にはカプシノイド化合物が多く含まれており、好適に用いることができる。特に、無辛味品種である「CH−19甘」は当該成分の含有量が高いため、さらに好ましい。本明細書において、「CH−19甘」の語は、「CH−19甘」品種、及び「CH−19甘」に由来する後代類縁品種等を含む一群の品種を意味する。カプシノイド化合物の精製、分離は、当業者にとって良く知られた溶媒抽出や、シリカゲルクロマトグラフィー等の各種のクロマトグラフィー、調製用高速液体クロマトグラフィー等の手段を単独、又は適宜組み合わせることにより行うことができ、たとえば、上掲の特許文献1に記載の方法を用いることができる。
【0022】
また、上記のカプシノイド化合物は、たとえば、上掲の特許文献1に記載されたように、対応する脂肪酸エステルとバニリルアルコールを出発原料としたエステル交換反応により合成することもできる。または、その構造式に基づいて、当業者にとって周知のその他の反応手法により合成することもできる。さらには、酵素を用いる合成法により容易に調製することも可能である。たとえば、特開2000−312598号公報や、Kobataら(Biosci. Biotechnol. Biochem., 66 (2), 319-327, 2002)記載の方法により、所望の化合物に対応する脂肪酸エステル、及び/又は当該脂肪酸を有するトリグリセリド等の化合物と、バニリルアルコールとを基質としたリパーゼの逆反応を利用することにより、容易に所望のカプシノイド化合物を得ることができる。
【0023】
本発明の乳化組成物の調製に用いる場合、カプシノイド化合物は、上記の抽出品や合成品のいずれを用いてもよく、また、単独のカプシノイド化合物を用いても、2種以上の混合物を用いてもよい。さらに、使用するカプシノイド化合物には、その分解物である遊離脂肪酸やバニリルアルコール等が含まれていてもよい。
【0024】
本発明において用いる油脂類としては、たとえば、大豆油、ヤシ油、コメ油、コーン油、パーム油、パーム核油、紅花油、菜種油、オリーブ油等の植物性油脂類;炭素数6〜10の飽和脂肪酸(たとえば、カプリン酸、カプリル酸等)を主要な構成成分とした脂肪酸とグリセリンから構成される中鎖飽和脂肪酸トリグリセリド(以下「MCT」ともいう);牛脂、豚脂、鶏脂、及び魚油等の動物性油脂類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの脂肪酸類並びにこれらの混合物等が挙げられる。これら油脂類には、上記の油溶性成分の他、さらにローズマリー抽出物、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、t−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、没食子酸プロピルなどの抗酸化剤、比重調整剤等も、それぞれ1種又は複数を組み合わせて含有させることができる。
【0025】
本発明においては、油相成分中の油脂類の脂肪酸組成が、カプリル酸100に対し、重量比でカプリン酸が20〜97、ラウリン酸が28〜6000、ミリスチン酸が11〜2100となるように、油脂類を選択して用いることが重要である。この範囲内では、カプリル酸に対して、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸の比率が低くなるほど、カプシノイド化合物などの油溶性成分の安定性は高くなるため、好ましい。しかしカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸の比率がこの範囲を超えて低くなると、逆に乳化組成物の乳化安定性が悪くなるため、好ましくない。すなわち本発明においては、カプリル酸100に対し、重量比でカプリン酸が20〜95、ラウリン酸が28〜600、ミリスチン酸が11〜1000となる範囲で用いることが好ましく、さらには、カプリン酸が31〜95、ラウリン酸が30〜250、ミリスチン酸が11〜80となる範囲で用いることがより好ましい。
【0026】
なお、油脂の脂肪酸組成は、公知の方法を用いて測定することができ、たとえばガスクロマトグラフ法などの通常用いられる方法を用いる。この方法により得られたクロマトグラムピークの総和に対する各ピーク面積の百分率をもって脂肪酸組成とする。油脂Aと油脂Bの混合物の場合、脂肪酸組成は、以下の式により求められる。
{油脂Aの脂肪酸組成 × 総量を1とした場合の油脂Aの混合比率(重量基準)} +
{油脂Bの脂肪酸組成 × 総量を1とした場合の油脂Bの混合比率(重量基準)}
【0027】
[乳化剤]
本発明の乳化組成物を調製するには、(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する乳化剤を用いること以外は特に制限されるものではなく、従来から飲食品等に用いられている各種の乳化剤を、ポリグリセリン脂肪酸エステルと併用して使用することができる。併用し得る乳化剤としては、たとえば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル誘導体、モノエチレングリコール脂肪酸エステル、ジエチレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、キラヤ抽出物等を挙げることができる。
【0028】
本発明において用いる(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、得られる乳化組成物の透明性を考慮すると、平均重合度が6以上のポリグリセリンの脂肪酸エステルが好ましく、味や風味を考慮すると、ミリスチン酸エステルが好ましく用いられる。乳化組成物を含有する最終製品の品質としては、外観、すなわち透明性又は濁度が重要であり、特に飲食品の場合は、味、風味、臭いも重要である。風味及び臭いに関しては、乳化組成物において乳化剤として用いる脂肪酸エステルの加水分解や、さらに脂肪酸の酸化等の反応によって生じるアルデヒド、ケトンなどが要因となって、異風味や酸化臭を生じることがある。かかる異風味や酸化臭の発生は、原料となる脂肪酸により程度の差があり、ミリスチン酸は前記異風味等の発生が少なく、比較的官能性の良好な脂肪酸である。さらに、高い透明性と良好な乳化安定性を得るためには、重合度が10以上であるポリグリセリンを30重量%以上含有するポリグリセリンと、ミリスチン酸を90重量%以上含有する脂肪酸とのエステルであるポリグリセリンモノミリスチン酸エステルを主成分とするものを用いることが好ましい。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの重合度分布や、脂肪酸組成は、高速液体クロマトフラフ質量分析(LC/MS)を用いて分析することができる。
【0029】
[(C)の水相成分]
本発明の乳化組成物に使用する水相成分は、上記油相を乳化して水中油型の乳化組成物を調製するためのものである。必要に応じて、砂糖、水飴等の糖類;グリセリン、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、イソマルト、プロピレングリコール等の多価アルコール類;エタノールなどの低級アルコール類;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の金属塩類;ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB等の水溶性ビタミン及びその塩類;アラビアガム、ガッティガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、化工でん粉、オクテニルコハク酸澱粉等の水溶性高分子化合物;カテキン、ビタミンC、亜硫酸水素ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、茶抽出物等の酸化防止剤;クロシン(クチナシ色素)、アントシアニン、フィコシアニン等の水溶性色素類等を適宜配合することもできる。
【0030】
水相成分のpHは、酸性領域のpHに調整することが好ましく、より好ましくはpH2〜6である。かかるpH調整に用いる酸性物質としては特に制限はないが、たとえば、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、DL−リンゴ酸、安息香酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン等の有機酸及びその塩類;炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ピロリン酸二水素ナトリウム等の塩類、リン酸等の無機酸及びその塩類等を挙げることができる。これらの酸性物質を用いて乳化組成物のpHを酸性領域に調整することにより、カプシノイド化合物を安定に長期間保持することができる。
【0031】
一般に乳化剤に対する油相成分の含有割合の低い方が、透明性の高い乳化組成物を得ることが容易となるが、その場合、乳化組成物に占める油相成分の含有量が減少し、種々の機能を有する油溶性物質の油相成分中における含有量も少なくなってしまう。本発明に係る乳化組成物では、ポリグリセリン脂肪酸エステル100重量部に対し、油相成分が1〜2000重量部となるように含有させることが好ましい。また、油相成分と乳化剤の含有割合が高いと乳化組成物が高粘度となり取り扱いが難しくなるため、水相成分を20重量%以上となるように含有させることが好ましく、さらには40重量%以上とすることがより好ましい。油相成分と乳化剤の含有割合が低すぎると乳化が不安定となるため、水相成分を95重量%以下となるように含有させることが好ましい。また、乳化組成物全量に対する油溶性物質の含有量は、0.0001重量%〜50重量%とするのが適切である。この範囲内では、油溶性物質の含有量が多いほど、乳化組成物を水性の飲食品に添加した際、水性の飲食品に含まれる油溶性物質量が多くなるため、好ましい。一方、乳化安定性の点からは、油溶性物質の含有量が少ない方が好ましい。乳化組成物全量に対する油溶性物質の含有量は、さらには0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.1重量%〜2重量%とするのがより好ましい。
【0032】
[乳化組成物の調製]
本発明の乳化組成物の調製にあたっては、カプシノイド化合物等の油溶性物質を、好ましくは上記脂肪酸組成を有する油脂類に溶解し、機械乳化、転相乳化、液晶乳化、D相乳化等、通常用いられる油脂の乳化方法により、適宜乳化組成物を調製することができる。たとえば、好ましい1つの実施形態において、まずカプシノイド化合物等の油溶性物質を含有する油相と、水に上記乳化剤を加熱溶解させた水相とを混合し、必要に応じて乳化組成物のpHが2〜6の範囲となるように上記酸性物質で調整し、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー等を用いて混合・均質化処理を行うことにより、カプシノイド化合物等の油溶性物質の安定性に優れた乳化組成物を調製することができる。また、水相成分として多価アルコールを含有させる場合には、乳化剤を多価アルコールに溶解してD相を生成し、これに油相成分を徐々に添加して予備乳化した後、水相成分を添加、混合して乳化するD相乳化法も好ましく用いることができる。透明な乳化組成物を得る目的においては、平均粒子径が100nm以下の微細な乳化粒子を調製する必要があるが、高剪断力を有する超高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー)、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化することが、短時間で微細な乳化組成物を得ることができ、好ましい。なお、本発明においては、前記平均粒子径は動的光散乱法により測定される。
【0033】
本発明の乳化組成物は、水性飲料等の飲食品、液剤等の液状医薬品などへの応用を考慮すると、水相系に添加したとき、濁りがなく透明性を呈する方が好ましい。濁度は通常用いられる方法で評価することができ、たとえば、波長600nmの光の透過率を測定する方法が挙げられる。前記透過率が90%を超えると、乳化組成物を含有する水性製品を透明な容器に入れた際にも透明性を呈し、官能的にも好ましい。本発明の乳化組成物については、油溶性成分を含む油相を0.25重量%含むように、該組成物を水に添加、分散したとき、前記分散液の波長600nmの光の透過率が90%以上であることが好ましい。
【0034】
[本発明の乳化組成物を含有する飲食品及び水性飲料]
本発明の乳化組成物は、水性飲料;ヨーグルトなどの乳製品;アイスクリームなどの冷菓;チョコレート、キャンディ、チューイングガムなどの菓子類;ベーカリー類;水産加工食品;畜肉加工食品;レトルト食品;冷凍食品等の飲食品類に適当量を配合することにより、カプシノイド化合物などの油溶性成分の生理作用が長期間安定に付与された飲食品類として提供することができる。中でも、カプシノイド等を含有する水性飲料として提供することが好ましい。水性飲料としては、必要に応じ、果汁、ビタミン類、アミノ酸類、香料、糖類、酸、塩基、塩類等を添加し、清涼飲料又は炭酸飲料として提供することができる。また本発明においては、前記飲食品は、特定保健用食品、栄養機能食品等の保健機能食品や、栄養補助食品として提供されるものであってもよい。前記の飲食品に対する本発明の乳化組成物の配合量は、飲食品の使用目的、種類、形態等によって異なるが、一般的には、0.001重量%〜10重量%の範囲で配合される。さらに、乳化組成物に由来する全油相成分が、前記飲食品に対して0.00005重量%〜5重量%の範囲となるように配合するのが好ましく、0.1重量%〜0.3重量%の範囲となるように配合するのがより好ましい。0.00005重量%未満ではカプシノイド等油溶性成分の安定性の点で好ましくない場合があり、5重量%以上では透明性、味、風味の点で好ましくない場合がある。
【0035】
また、本発明においては、油溶性薬剤を油相に含有させた乳化組成物を水性担体に分散し、内服液や液剤等の水性医薬品として提供することができる。さらに、油溶性のエモリエント剤や皮膚細胞賦活成分等を油相に含有させた乳化組成物を水性担体に分散し、化粧水や美容液等の液状化粧料としても提供することができる。乳化組成物の水性担体への配合量や、医薬品又は化粧料全量における油溶性成分の含有量については、上記飲食品の場合と同様である。
【実施例】
【0036】
次に実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の各実施例及び比較例中、「%」は重量%を示す。
【0037】
本発明の実施例及び比較例においては、油脂類として、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、パーム油及びヤシ油を用いた。それらの脂肪酸組成を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例1〜5] 乳化組成物
デカグリセリンモノミリスチン酸エステルを主成分とする乳化剤(「サンソフトAB」、太陽化学株式会社製)20重量部をグリセリン(「食添グリセリン−S」、日油株式会社製)45重量部と70℃〜80℃で混合し、均一に溶解した。これに、あらかじめジヒドロカプシエイト(「DCT」、味の素株式会社製)0.075重量部を表2に示す各油脂24.93重量部と50℃〜60℃で混合し、溶解して調製した油相を少しずつ添加し、TKロボミクス(PRIMIX株式会社製)で8,000rpm、60℃〜65℃にて、3分間予備乳化した。用いた油脂の脂肪酸組成を表2に併せて示す。そこにクエン酸(「クエン酸(結晶)」、田辺三菱製薬株式会社製)0.05重量部を水9.95重量部に溶解した水相成分を加え、超高圧ホモジナイザー(「Micro Fluidizer」、みづほ工業株式会社製)により圧力100MPaで1パス処理して均質化し、実施例1〜5の乳化組成物を得た。
【0040】
[実施例6〜10] 水性飲料
表3に示す組成の水溶液に、実施例1〜5の乳化組成物を1%の含有量となるように添加し、100mLのガラスビンに40mL充填して、密栓した。80℃で20分間加熱殺菌した後、流水で室温程度まで冷却し、実施例6〜10の水性飲料を得た。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
上記実施例の調製において用いたデカグリセリンモノミリスチン酸エステルを主成分とする乳化剤(「サンソフトAB」、太陽化学株式会社製)について、構成ポリグリセリンの重合度分布を表4に示した。前記乳化剤において、構成ポリグリセリンにおける重合度10以上のポリグリセリンの占める割合は、36.1%であった。なお、構成ポリグリセリンの重合度分布は、以下の分析条件により、高速液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)により求めた。
【0044】
<LC/MSの分析条件>
イオン化モード:APCI、negative
測定範囲:90−2000
カラム:TSKgel α−2500(7.8×300mm)
温度:40℃
溶離液:水/アセトニトリル 7/3
流量:0.8mL、100ppm
分析時間:20分
【0045】
【表4】

【0046】
[比較例1〜9] 乳化組成物
デカグリセリンモノミリスチン酸エステルを主成分とする上記乳化剤(「サンソフトAB」、太陽化学株式会社製)20重量部をグリセリン(「食添グリセリン−S」、日油株式会社製)55重量部と70℃〜80℃で混合し、均一に溶解した後、あらかじめジヒドロカプシエイト(「DCT」、味の素株式会社製)0.045重量部を表5に示す各油脂14.96重量部と50℃〜60℃で混合し、溶解して調製した油相を少しずつ添加し、TKロボミクス(PRIMIX株式会社製)で8,000rpm、60℃〜65℃にて、3分間予備乳化した。用いた油脂の脂肪酸組成を表5に併せて示す。そこにクエン酸(「クエン酸(結晶)」、田辺三菱製薬株式会社製)0.05重量部を水9.95重量部に溶解した水相成分を加え、超高圧ホモジナイザー(「Micro Fluidizer」、みづほ工業株式会社製)により圧力100MPaで1パス処理して均質化し、比較例1〜9の乳化組成物とした。
【0047】
[比較例10〜18] 水性飲料
上記表3に示す組成の水溶液に、比較例1〜9の乳化組成物を1%の含有量となるように添加し、100mLのガラスビンに40mL充填して、密栓した。80℃で20分間加熱殺菌した後、流水で室温程度まで冷却し、比較例10〜18の水性飲料とした。
【0048】
【表5】

【0049】
[比較例19] 乳化組成物
デカグリセリンモノミリスチン酸エステルを主成分とする乳化剤(「サンソフトAB」、太陽化学株式会社製)20重量部をグリセリン(「食添グリセリン−S」、日油株式会社製)45重量部と70℃〜80℃で混合し、均一に溶解した後、あらかじめジヒドロカプシエイト(「DCT」、味の素株式会社製)0.075重量部を表6に示す油脂24.93重量部と50℃〜60℃で混合し、溶解して調製した油相を少しずつ添加し、TKロボミクス(PRIMIX株式会社製)で8,000rpm、60℃〜65℃にて、3分間予備乳化した。用いた油脂の脂肪酸組成を表6に併せて示す。そこにクエン酸(「クエン酸(結晶)」、田辺三菱製薬株式会社製)0.05重量部を水9.95重量部に溶解した水相成分を加え、超高圧ホモジナイザー(「Micro Fluidizer」、みづほ工業株式会社製)により圧力100MPaで1パス処理して均質化し、比較例19の乳化組成物とした。
【0050】
[比較例20] 水性飲料
上記表3に示す組成の水溶液に、比較例19の乳化組成物を1%の含有量となるように添加し、100mLのガラスビンに40mL充填して、密栓した。80℃で20分間加熱殺菌した後、流水で室温程度まで冷却し、比較例20の水性飲料とした。
【0051】
【表6】

【0052】
上記実施例及び比較例の乳化組成物について、波長600nmの光の透過率を測定した。透過率の測定方法は以下の通りである。実施例1〜5並びに比較例1〜9及び19の各乳化組成物をイオン交換水で1%となるように希釈し、分光光度計(自記分光光度計;型式U−3210、株式会社日立製作所製)で、イオン交換水を対照として、波長600nmの光の透過率を測定した。
【0053】
なお、上記透過率と水性飲料中もしくはイオン交換水中の油相成分含有量の関係は、ランベルト・ベールの法則に従う。つまり、水性飲料中もしくはイオン交換水中の油相成分含量を、x、x、そのときの透過率をy、yとすると、yは、
=(y/100)(x2/x1) ×100
で表される。油相成分含有量は、当該乳化組成物中の油相成分含有量に、乳化組成物の水性飲料もしくはイオン交換水への添加濃度を乗じた値である。ゆえに、ある乳化組成物をある比率で添加した水性飲料もしくはイオン交換水の透過率が分かれば、別の比率で添加した場合の透過率も計算できる。比較例1〜9の乳化組成物については、それぞれ1%のイオン交換水による希釈液(油相成分含有量が0.15%)の透過率から、油相成分含有量が0.25%の希釈液の透過率を算出した。結果を表7に示す。なお、乳化組成物を水性飲料もしくはイオン交換水に油相成分として0.25%含有するように希釈したときの透過率の実測値、又は上記式による計算値のいずれかが90%以上であれば、水相系に添加したときの透明性において、本発明の目的に適すると判断した。
【0054】
【表7】

【0055】
表7より、本発明の実施例1〜5の乳化組成物については、油相成分含有量が0.25%となるようにイオン交換水に希釈した場合の透過率はいずれも90%以上で、水相系に添加したときの透明性において、本発明の目的に適するものであった。これに対し、油相を構成する油脂の脂肪酸組成が、本願発明における組成比の範囲内にない比較例の乳化組成物のうち、比較例1〜3の乳化組成物について、油相成分含有量が0.25%の水性飲料の透過率は90%未満であると算出され、前記透明性において、本発明の目的には適さないものと判断された。
【0056】
次に、実施例及び比較例で調製した各乳化組成物の乳化安定性について、以下の方法により評価した。乳化組成物はよく混合した上で2gずつガラス瓶へ分注し、保存中の水分蒸発を避けるため、ふた部分をパラフィルムでしっかりと巻き、密封した。それを遮光して、37℃(加速条件)、5℃(冷蔵条件)、24℃(流通条件)で1週間保存し、保存前後の波長600nmの光の透過率(%)及び平均粒子径(nm)を測定した。なお、前記透過率は上記と同様に測定又は算出し、平均粒子径は以下に示す方法により測定した。すなわち、各乳化組成物を1%となるようにイオン交換水で希釈し、粒度分布計(動的光散乱式粒度分布測定器「NICOMP380」;Particle Sizing Systems社製)を用いて平均粒子径を測定した。保存中の透過率及び平均粒子径の変化が少なく、安定な乳化が維持される状態から順に1〜10点と10段階で評価して点数化した。なお、1、2、7及び10点の基準を下記に示した。乳化安定性の点において、本発明の目的を達成するためには、1点を合格とした。結果を表8に示す。
【0057】
<評価基準>
1点;平均粒子径及び透過率の変化がほとんどなく、安定な乳化が維持される
2点;平均粒子径又は透過率にわずかに変化が見られる
7点;24℃で1週間保存した後、目視で濁りが確認できる
10点;乳化組成物を調製した直後から分離、油浮き、強い濁りが確認される
【0058】
【表8】

【0059】
表8より、本発明の実施例1〜5の乳化組成物については、いずれの温度で保存した後においても、透過率及び粒子径にほとんど変化は見られず、良好な乳化安定性が認められた。一方、比較例7及び19以外の乳化組成物については、経時的に透過率の低下もしくは粒子径の増加が見られ、十分な乳化安定性は認められなかった。
【0060】
続いて、実施例6〜10及び比較例10〜18及び20の各水性飲料におけるジヒドロカプシエイト(DCT)の安定性を、以下の方法で評価した。まず、各水性飲料を遮光し、44℃、相対湿度78%の条件下で2週間保存した。保存前後のDCT含有量を下記分析から求め、分析値より残存率を算出した。残存率は、次式により算出した。
残存率(%)=保存後のDCT含有量/保存前のDCT含有量×100
【0061】
ジヒドロカプシエイト含有量の分析方法は以下の通りである。各水性飲料4gを20mLメスフラスコへ採取し、酢酸エチル:メタノール=6:4の混合溶媒を加えてメスアップした。メスアップした溶液をフィルター(0.45μmメッシュ)でろ過した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。
【0062】
なお、本発明の目的を達成するためには、以下の基準を満たしたものを合格と判断した。DCT残存率が以下の基準を満たさない場合は、DCTの安定性に欠けるため、不合格とした。
<安定性基準>
・乳化組成物由来の油相成分を水性飲料中に0.15%含有する場合:DCT残存率が82.0%以上
・乳化組成物由来の油相成分を水性飲料中に0.25%含有する場合:DCT残存率が85.0%以上
結果を表9に示す。
【0063】
【表9】

【0064】
表9において、実施例6〜10の水性飲料については、44℃、相対湿度78%で2週間保存した場合、ジヒドロカプシエイト残存率についての上記基準を満たしていた。一方、上記表8において乳化安定性の認められた比較例7及び19の乳化組成物を含有する比較例16及び20の水性飲料については、水性飲料に配合されるジヒドロカプシエイトの安定性について、上記基準を満たしていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上述した通り、本発明は、長期保存した際の乳化安定性に優れ、且つ種々の生理機能を有する油溶性成分を安定に含有することができ、水相系に配合した場合に良好な透明性を呈し、水性飲料等の飲食品や、内服液、液剤等の医薬品、化粧水、美容液等の化粧料への利用に適する乳化組成物を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)油溶性成分と油脂類を含有する油相成分、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)水相成分を含有する乳化組成物において、
(A)の油相成分中の油脂類の脂肪酸組成が、カプリル酸100に対し、重量比で、カプリン酸が20〜97、ラウリン酸が28〜6000、及びミリスチン酸が11〜2100である、乳化組成物。
【請求項2】
(B)のポリグリセリン脂肪酸エステル100重量部に対し、(A)の油相成分を1〜2000重量部含有する、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
(A)の油相成分を0.25重量%含むように水に分散した水分散液の波長600nmの光の透過率が90%以上である、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項4】
(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルが、重合度10以上であるポリグリセリンを30重量%以上含むポリグリセリンと、ミリスチン酸を90重量%以上含有する脂肪酸とのエステルであるポリグリセリンモノミリスチン酸エステルを主成分とするものである、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項5】
(A)の油溶性成分が、カプシノイド化合物より選択される1種又は2種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の乳化組成物を0.001重量%〜10重量%含有する、飲食品。

【公開番号】特開2011−132176(P2011−132176A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293395(P2009−293395)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】