説明

乳化香料組成物を高濃度アルコール中に安定的かつ透明に分散させる方法

【課題】高濃度のアルコールを使用しても、乳化香料組成物を長期間安定な乳化状態を保って透明に分散でき、更にその飲料が果汁を含む場合でも乳化状態を損なうことなく、安定的かつ透明に分散できる方法を提供する。
【解決手段】ガティガム及び/又はアラビアガムを含有し、乳化粒子の平均粒子径が0.4μm以下である乳化香料組成物とすることにより、アルコール濃度が30〜60v/v%のアルコール含有組成物中に、当該乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度アルコール含有組成物中に、乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散させる方法、詳細には、アルコール濃度が30〜60v/v%のアルコール含有組成物中に、乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料の製造に際し、その嗜好性を高めるために、例えば、レモンやオレンジなどの柑橘類の精油や、油溶性の香気成分などを添加することがある。
これらの油溶性成分は水には溶けないため、直接飲料に添加することができない。
そこで、予め保護コロイド物質や乳化剤により水分散を可能とした乳化香料として添加
されることがある。
乳化香料はアルコール飲料に独特の呈味感を付与できるばかりでなく、乳化粒子の光散乱効果による濁りを付与し、果汁感を印象付けることが可能であり、近年、スポーツドリンクや果汁飲料などの他、チューハイやカクテル飲料などの低アルコール飲料にも使用されている。
また、その独特の呈味感は、エッセンス香料で賦香することが難しいことから、外観が透明なチューハイやリキュール類にも使用される機会が増えている。
【0003】
これらアルコール飲料には、低いものでは4%程度から、高いものでは20%程度まで様々のアルコール濃度のものがあり、これらを製造する際には大部分の製造者は、アルコールの濃縮状態段階を経由し、これを水にて希釈(炭酸を含んでいてもよい)する工程を採ることが多い。
濃縮の度合いは様々であるが、濃縮倍率が高いほど工程が簡易になり、結果的にコストダウンに繋がるため、なるべく高い濃縮率のアルコール含有組成物を用いることが好ましい。
この際の濃縮されたアルコール含有組成物のアルコール濃度は、例えば最終商品のアルコール濃度が7%のチューハイ飲料の場合、5倍濃縮では35%のアルコール濃度となる。
この場合には、高いアルコール濃度に耐性のある乳化香料組成物が必要となってくる。
また、チューハイ飲料などの商品は、透明な外観が商品価値を高めるものであり、そのためフレーバーを付与する目的で使用される乳化香料組成物は、透明に溶解するものである必要がある。
さらに、このようなリキュール類には嗜好性を高めるために、柑橘類やフルーツの果汁を加えることが一般的であり、これらの成分に対する安定性も重要な課題となっている。
【0004】
このような課題を解決する手段として、界面活性剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルや、デカグリセリンオレエート及びデカグリセリンステアレートの混合物の精製度を高めたり改良したりして、(a)可食性油性材料(b)精製ポリグリセリン脂肪酸エステル(c)多価アルコール(d)水からなる組成物を乳化処理して得られる耐アルコール性透明乳化香料組成物(特許文献1)や、 (a)可食性油性材料(b)精製デカグリセリンオレエート及び精製デカグリセリンステアレートの混合物(c)多価アルコール(d)水からなる組成物を乳化処理して得られる耐アルコール性透明乳化香料組成物(特許文献2)が提案されている
しかしながら、これらの界面活性剤を用いて調製した乳化組成物、およびこれを配合したアルコール性飲料は、その製造工程中又は製造後に殺菌の目的で加熱されたり、高濃度のアルコール溶液と混合した場合には乳化状態が壊れ、充分に透明状態を維持できなくなるという問題点があり、特にアルコール性飲料に果汁が配合された場合には、乳化状態を正常に保つことのできるアルコール濃度上限が低くなる。
【0005】
【特許文献1】特開2007−116930号公報
【特許文献2】特開2008−79505公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高濃度のアルコールを使用しても、乳化香料組成物を長期間安定な乳化状態を保って透明に分散させ、更にその飲料が果汁を含む場合でも乳化状態を損なうことなく、安定的かつ透明に分散させる方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ガティガム及び/又はアラビアガムを含有し、乳化粒子の平均粒子径が0.4μm以下である乳化香料組成物とすることにより、アルコール濃度が30〜60v/v%である高濃度のアルコール含有組成物中に、当該乳化香料組成物を、長期間安定な乳化状態を保って透明に分散でき、更にその飲料が果汁を含む場合でも乳化状態を損なうことなく、透明に分散できることを見出してこの発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高濃度のアルコールを使用しても、乳化香料組成物を長期間安定な乳化状態を保って透明に分散でき、更にその飲料が果汁を含む場合も乳化状態を損なうことなく、透明に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は以下の態様を有する、高濃度のアルコール含有組成物中に、乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散させる方法に関するものである。
項1.ガティガム及び/又はアラビアガムを含有し、乳化粒子の平均粒子径が0.4μm以下である乳化香料組成物とすることにより、アルコール濃度が30〜60v/v%のアルコール含有組成物中に、当該乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散させる方法。
項2.アルコール含有組成物がさらに果汁を含有するものである、項1記載の乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散させる方法。
【0010】
本発明の方法に使用される乳化香料組成物は、脂溶性香料、ガティガム及び/又はアラビアガム、多価アルコール及び水を含有する。
【0011】
本発明の方法に用いる乳化香料組成物に使用される脂溶性香料としては、脂溶性であれば特に制限はないが、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライムなどの柑橘系の精油、ペパーミント、オールスパイス、ジンジャー、ブラックペッパーなどのスパイス系精油、コーヒーオイル、カカオバター、シソ油、ヤシ油、パーム油などの植物系油脂、バターなどの動物油脂、リナロール、ゲラニオール、L−メントールなどの所謂合成香料のいずれも使用することができる。
乳化香料組成物中の脂溶性香料の含有量は、その種類などによって異なるが、0.5〜15重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0012】
本発明の方法に用いる乳化香料組成物は、ガティガム及び/又はアラビアガムを含有する。
ガティガムは、シクンシ科ガティノキ(Anogeissus Latifolia WALL.)の幹の分泌液を乾燥して得られる、多糖類を主成分とする天然由来の植物性ガム質であり、増粘安定剤として公知のものである。
ガティガムは商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ(株)のガティガムSDやGATIFOLIA RDなどが利用される。
乳化香料組成物中のガティガムの含有量は、1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%、より好ましくは3〜6重量%である。
【0013】
アラビアガムは、マメ科の植物であるアカシアセネガルの樹皮から分泌される粘質物を乾燥して得られるものである。
乳化香料組成物中のアラビアガムの含有量は、5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%である。
アラビアガムは商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフエフアイ(株)のアラビアガムSD等が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明で用いるアラビアガムには、通常のアラビアガムと比較し、重量平均分子量やアラビノガラクタンタンパク質含量が高く、乳化性に優れたアラビアガムであり、重量平均分子量が150万以上であるか、又はアラビノガラクタン蛋白量含量が17重量%以上であるアラビアガム(以下、「改質アラビアガム」という)が含まれる。
アラビアガムの重量平均分子量及びアラビノガラクタンタンパク質含量は、MALLS(多角度光散乱光度計)、RI(屈折率)を検出器としてオンラインで接続したゲル濾過クロマトグラフィー法(GPC−MALLS)により求めることができる。
当該改質アラビアガムは、天然から得られるアラビアガムに、他の添加剤の添加や化学的な修飾することなく、加熱などの加工処理によりアラビアガムの分子同士が自己重合することにより、上記重量平均分子量やアラビノガラクタンタンパク質含量範囲の規定を満たした乳化性に優れたアラビアガムのことである。
改質アラビアガムの製造方法については、上記規定を満たすものが得られる製造方法であれば特に限定されないが、例えば、特表2006−522202号公報に記載された方法、即ちアラビアガムを110℃以上で10時間以上加熱することにより得ることができる。
この改質アラビアガムも商業的に入手可能であり、例えば、三栄源エフエフアイ株式会社のSUPER GUMなどが利用される。
【0015】
乳化香料組成物に用いられる乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、キラヤ抽出物、サポニン、ポリソルベート、アラビアガム、ガティガムなどが挙げられるが、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチンが好ましく、レシチンがさらに好ましい。
これらの乳化剤の添加量は、乳化香料組成物中に0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%である。
【0016】
本発明の乳化香料組成物に用いられる多価アルコールとしては、グリセリン、プロピレングリコール、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、ラクチトールなどが挙げられ、これらは2種以上併用してもよい。
これらの中では、グリセリンが好ましい。
乳化香料組成物中の多価アルコールの添加量は、20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%である。
【0017】
本発明の方法に用いる乳化香料組成物には、本発明の効果を妨げない範囲において、中鎖脂肪酸トリグリセライド、抗酸化剤、キレート剤、色素、ビタミン類、増粘多糖類などを含有しても良い。
【0018】
乳化香料組成物は、前述のガティガム及び/又はアラビアガムを、多価アルコールと水に溶解して水相溶液とし、一方で脂溶性香料、抗酸化剤(ビタミンEなど)、中鎖脂肪酸トリグリセライド、乳化剤(レシチンなど)などを溶解して油相溶液とし、両者を撹拌混合して、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化して製造することができる。
その際、乳化香料組成物を高濃度のアルコールに安定的かつ透明に分散させるために、乳化香料組成物中の乳化粒子の平均粒子径は、0.4μm以下にする必要があり、好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下にする。
【0019】
本発明の方法で使用されるアルコール含有組成物は、30〜60v/v%のアルコールを含有する。
アルコールとしては、エタノールが使用される。
アルコール含有組成物には、果汁、各種糖類、高甘味度甘味料、クエン酸、クエン酸ナトリウムなどを添加しても良い。
アルコール含有組成物に使用される果汁としては、レモン、グレープフルーツ、ライム、オレンジなどの柑橘系以外に、グレープ、アップル、マンゴ、パイナップル、ストロベリー、バナナなどが挙げられる。果汁濃度としては、ストレート換算で1〜100重量%である。
糖類としては、砂糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖などが挙げられる。
高甘味度甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、ネオテーム、ステビア抽出物などが挙げられる。
【0020】
アルコール含有組成物を製造するには、上記の乳化香料組成物を0.1〜1重量%と、果汁、各種糖類、高甘味度甘味料、クエン酸、クエン酸ナトリウムなどを、アルコール及び水と混合して撹拌する。
ガティガム及び/又はアラビアガムを含有し、乳化粒子の平均粒子径が0.4μm以下である乳化香料組成物とすることにより、アルコール濃度が30〜60v/v%という高濃度のアルコール含有組成物中に、当該乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散させることができ、更にその飲料が果汁を含む場合も乳化状態を損なうことなく、透明に分散させることができる。
透明性の基準としては、水にアルコール含有組成物を1%濃度で希釈した液の水を対照とした際の吸光度(測定波長720nm、セル幅1cm)が0.05以下、好ましくは0.03以下である。
【0021】
上記のアルコール含有組成物を、水などで希釈することによりアルコール飲料が得られるが、その希釈の程度は目的とする飲料のアルコール濃度に応じてなされる。
例えば、最終商品のアルコール濃度が7%の飲料の場合では、35%濃度のアルコール含有組成物を、水(炭酸を含んでいてもよい)などで5倍に希釈すればよい。
最終製品としてのアルコール飲料は、アルコール濃度が3〜12重量%、好ましくは4〜8重量%となるように希釈される。
これらのアルコール飲料としては、チュウハイ、サワー、カクテル、リキュール、甘味果実酒などが挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例及び実験例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
なお、以下の表1の処方中で、特に記載のない限り単位は質量部である。
また、「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ社製であることを意味する。
【0023】
(乳化香料組成物の製造)
実施例1
表1の処方に従い、レモン香料(レモン果皮より抽出された精油)、トコフェロール、レシチンを均一に混合し、ガティガム4%、クエン酸及びグリセリンを含む水相部に添加混合してプレミックスした溶液を、APV Gaulin社製高圧ホモジナイザー15MR-8TAを用いて、圧力350kg/cm2で4回処理し、平均粒子径0.15μmの乳化香料組成物を得た。
【0024】
実施例2
レモン香料の代わりにグレープフレーバーコンパウンドを配合し、レシチンを溶解する為にMCTを1%配合した以外は実施例1と同様にして、平均粒子径0.15μmの乳化香料組成物を得た。
【0025】
実施例3
ガティガムの代わりに改質したアラビアガムを19%配合した以外は実施例1と同様にして、平均粒子径0.15μmの乳化香料組成物を得た。
【0026】
実施例4
ガティガムの代わりに改質したアラビアガムを19%配合した以外は実施例2と同様にして、平均粒子径0.15μmの乳化香料組成物を得た。
【0027】
比較例1
乳化基材としてガティガムの替りにグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンモノオレエートとポリグリセリンモノステアレートの2:1併用)4%を配合使用した以外は実施例1と同様にして、平均粒子径0.15μmの乳化香料組成物を得た。
比較例2
乳化基材としてガティガムの替りにグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンモノオレエートとポリグリセリンモノステアレートの2:1併用)4%を配合使用した以外は実施例2と同様にして、平均粒子径0.15μmの乳化香料組成物を得た。
【0028】
【表1】

【0029】
*1:ガティガムRD
*2:ガムアラビックSD
*3:スーパーガムEM10
【0030】
実験例1
得られた乳化香料組成物を40℃にて1週間保存し、保存後の組成物の状態観察を肉眼にて実施した。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例1〜4及び比較例1は40℃1週間の保存後も状態に異常が見られなかったのに対し、比較例2は油層と水層が2層に分離してしまい、安定な乳化状態を保つことが出来なかった。
【0033】
実験例2
これらの乳化香料組成物を用いて、下記表3及び表4の処方にてアルコール含有組成物を調製し、20℃で1週間保存後の状態観察を行なった。結果を表5に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
(製法)
表3に記載のアルコール濃度21%(v/v)の3倍濃縮物処方をベースとして、表4に記載の4倍濃縮物(アルコール濃度28%)、5倍濃縮物(アルコール濃度35%)、6倍濃縮物(アルコール濃度42%)及び7倍濃縮物(アルコール濃度49%)を、それぞれ調製した。
【0037】
【表5】

【0038】
実験例3
調製直後及び20℃1週間保存後に、水にアルコール含有組成物を1%濃度で希釈した液の720nmにおける吸光度を測定し、濁り度合いの評価を行なった。結果を表6に示す。
【0039】
【表6】

【0040】
表5及び表6の結果から、実施例1及び実施例3は全てのアルコール濃度で濁度が低く透明であり、20℃1週間保存後も変化がなかったが、比較例1では28%のアルコール濃度までは変化ないが、35%以上では調製直後に濁りを生じ、20℃1週間保存後は沈殿を生じた。
※測定不能:吸光度が高くなりすぎて、信頼できる測定範囲(1.5以上)を超えたり、肉眼で確認できる大きさの浮遊物があったもの。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、高濃度のアルコール含有組成物に添加した際においても、乳化香料組成物を長期間安定な乳化状態を保って透明に分散でき、更にそのアルコール含有組成物が果汁を含む場合でも乳化状態を損なうことなく、透明に分散できる方法が提供でき、アルコール飲料の製造に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガティガム及び/又はアラビアガムを含有し、乳化粒子の平均粒子径が0.4μm以下である乳化香料組成物とすることにより、アルコール濃度が30〜60v/v%のアルコール含有組成物中に、当該乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散させる方法。
【請求項2】
アルコール含有組成物がさらに果汁を含有するものである、請求項1記載の乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散させる方法。

【公開番号】特開2010−126718(P2010−126718A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306716(P2008−306716)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】