説明

乳房撮像装置

【課題】 光ファイバの本数に対して、光を照射する位置の数、および光を検出する位置の数を増加させることができる乳房撮像装置を提供する。
【解決手段】 乳房撮像装置1は、被検者の乳房に光を照射し、拡散光を検出することにより乳房の内部情報を取得するための装置である。乳房撮像装置1は、垂下した乳房を囲む容器3と、容器3の内側へ向けて該容器3に固定され、光の照射及び検出を行うための複数の光ファイバ11と、乳房の垂下方向に沿った所定の軸線C回りに容器3を回転させる回転機構21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳房撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在普及している一般的なマンモグラフィ(乳房撮像)装置では、乳癌等の検査を行うため、被検者の乳房を圧迫しつつX線を照射し、透過したX線を撮像することにより乳房の内部情報を取得している。しかし、X線の照射が乳房および乳癌に及ぼす影響が懸念されるため、近年では、被検者の乳房に複数の位置から光を照射し、拡散光の強度を複数の位置で検出することにより乳房の内部情報を取得する方式が研究されている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Tara D. Yates, et al., “Time-resolvedoptical mammography using a liquid coupled interface”, Journal of Biomedical Optics,Vol.10(5), 054011, September/October 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した方式においては、光を照射する位置の数、および光を検出する位置の数が多いほど、より精度よく乳房の内部情報を取得できる。しかし、光の照射/検出の為の光ファイバを多く設置すると、構成が複雑になってしまう。また、実際には、光ファイバの設置本数には構造的及びコスト的な制約がある場合が多い。
【0004】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、光ファイバの本数に対して、光を照射する位置の数、および光を検出する位置の数を増加させることができる乳房撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明による乳房撮像装置は、被検者の乳房に光を照射し、拡散光を検出することにより乳房の内部情報を取得するための乳房撮像装置であって、光の照射及び検出を行うための複数の光ファイバと、複数の光ファイバを支持する支持部材と、乳房の垂下方向に沿った所定の軸線回りに支持部材を回転させる回転機構とを備えることを特徴とする。
【0006】
上記した乳房撮像装置においては、所定の軸線回りに支持部材を回転させる回転機構を備えることにより、支持部材に支持された複数の光ファイバの位置が所定の軸線回りに移動する。そして、複数の光ファイバが移動する毎に光の照射および拡散光の検出を行うことにより、光ファイバの数よりも多くの位置で照射/検出を行うことができる。このように、上記した乳房撮像装置によれば、光ファイバの本数に対して、光を照射する位置の数、および光を検出する位置の数を増加させることができる。
【0007】
また、乳房撮像装置は、被検者と支持部材との間に配置され、乳房が挿通される開口を有するガイド部を更に備えることを特徴としてもよい。回転する支持部材等に被検者の乳房が触れると、被検者に不快感を与えてしまうおそれがある。このような場合に、上記したようなガイド部によって乳房の位置決めを行うことにより、被検者の乳房が支持部材等に触れることを好適に防止できる。また、回転する支持部材等に被検者の乳房が接触することを防止することにより、被検者の安全性も向上することができる。
【0008】
また、乳房撮像装置は、ガイド部の表面における開口を囲む領域が、開口の縁に向けて傾斜していることを特徴としてもよい。被検者の乳房の周囲は肋骨等により平坦ではないので、このような構成により、ガイド部を乳房の周囲の体型に沿って配置でき、乳房の位置をより安定させることができる。
【0009】
また、乳房撮像装置は、複数の光ファイバの光軸が所定の軸線と交差するように複数の光ファイバが配置されていることを特徴としてもよい。これにより、支持部材が回転しても各光ファイバの光軸が同一の軸線を必ず通ることとなり、拡散光の強度に基づく演算をより簡素化できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明による乳房撮像装置によれば、光ファイバの本数に対して、光を照射する位置の数、および光を検出する位置の数を増加できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明による乳房撮像装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明による乳房撮像装置の一実施形態の構成を概念的に示す図である。本実施形態による乳房撮像装置1は、被検者の乳房に光を照射し、拡散光(戻り光)を検出することにより乳房の内部情報を取得し、該内部情報に基づいて腫瘍や癌などの有無を検査するための装置である。
【0013】
図1を参照すると、乳房撮像装置1は、被検者Aが伏臥するためのベッド(基台)10を備えており、該ベッド10には被検者Aの垂下した乳房Bを囲む半球状の容器3が取り付けられている。容器3は、複数の光ファイバ11を支持するための支持部材である。すなわち、容器3には、光を照射および検出するための複数の光ファイバ11の一端が容器3の内側へ向けて固定されており、計測部(ガントリ)2を構成している。また、乳房撮像装置1は、容器3内へ照射するパルス状の光を発生する光源装置4と、該光源装置4から出射される光と照射後の拡散光とに基づいて乳房Bの内部情報を算出する計測装置5とを備えている。複数の光ファイバ11の他端は計測装置5に光学的に接続されており、光源装置4と計測装置5とは光ファイバ12を介して互いに光学的に接続されている。なお、光源装置4と計測装置5とは、電気ケーブルを介して互いに時間整合された形で接続されていても構わない。
【0014】
図2は、乳房撮像装置1の機能的な構成を示すブロック図である。なお、図2では、説明を容易にするために、複数の光ファイバ11のうち照射用及び検出用の各々1本のみ代表して図示し、他の光ファイバ11の図示を省略している。図2に示すように、乳房撮像装置1は、光源41、波長選択器42、光検出器51、信号処理部52、及び演算処理部53を備えている。これらのうち、光源41及び波長選択器42は、例えば光源装置4に内蔵される。また、光検出器51、信号処理部52、及び演算処理部53は、例えば計測装置5に内蔵される。
【0015】
光源41は、パルス光P1を発生させる装置である。パルス光P1としては、生体の内部情報が計測できる程度に短い時間幅のパルス光が用いられ、通常は例えば1ns以下の範囲の時間幅が選択される。光源41から発生したパルス光P1は、波長選択器42に入力される。光源41としては、発光ダイオード、レーザダイオード、及び各種のパルスダイオード等、様々なものを使用することができる。
【0016】
波長選択器42は、光源41から入力されたパルス光P1を、所定波長に波長選択する装置である。波長選択器42により選択される波長としては、生体の透過率と定量すべき吸収成分の分光吸収係数との関係等から、700〜900nm程度の近赤外線領域の波長が好ましい。波長選択器42により波長選択されたパルス光P2は、光照射用の光ファイバ11に入射される。なお、複数の成分についての内部情報を計測する場合等、必要に応じて、光源41及び波長選択器42は複数の波長成分のパルス光を計測光として入射可能に構成される。また、波長選択を行う必要がない場合等には、波長選択器42については、設置を省略してもよい。
【0017】
光照射用の光ファイバ11は、その入力端で波長選択器42からパルス光P2の入力を受け付けて、その出力端から容器3内の乳房Bに対して当該パルス光P2を照射する。この光ファイバ11の端面は、容器3の内壁における所定の光照射位置に配置されている。また、光検出用の光ファイバ11は、乳房Bから出射されたパルス光P2の拡散光をその一端面から入力し、光検出器51へ該拡散光を出力する。この光ファイバ11の端面は、容器3の内壁における所定の光検出位置に配置されている。なお、容器3の内壁と乳房Bとの隙間は、インターフェース剤Iで満たされている。インターフェース剤Iは、光散乱係数等の光学係数が生体組織とほぼ同等の液体である。
【0018】
光検出器51は、光検出用の光ファイバ11から入力された光を検出するための装置である。光検出器51は、検出した光の光強度等を示す光検出信号S1を生成する。生成された光検出信号S1は信号処理部52に入力される。光検出器51としては、光電子増倍管(PMT:Photomultiplier)の他、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオード等、様々なものを使用することができる。光検出器51は、パルス光P2の波長の光を十分に検出できる分光感度特性を有していることが好ましい。また、乳房Bからの拡散光が微弱であるときは、高感度あるいは高利得の光検出器を使用することが好ましい。
【0019】
信号処理部52は、光検出器51及び光源41と電気的に接続されており、光検出器51により検出された光検出信号S1、及び光源41からのパルス光出射トリガ信号S2に基づいて、拡散光の光強度の時間変化を示す計測波形を取得するための手段である。信号処理部52は、取得した計測波形の情報を電子データとして保持し、この電子データD1を演算処理部53へ提供する。
【0020】
演算処理部53は、信号処理部52と電気的に接続されており、信号処理部52から電子データD1を入力して、当該電子データD1に含まれる計測波形の情報を用いて乳房Bの内部情報を算出するための手段である。内部情報は、例えば、乳房B内部の散乱係数及び吸収係数、並びに乳房Bに含まれている各成分の濃度である。内部情報の算出は、例えば、検出光の時間分解波形を利用する時間分解計測法(TRS法:Time Resolved Spectroscopy)、あるいは、変調光を利用する位相変調計測法(PMS法:PhaseModulationSpectroscopy)等による解析演算を適用することにより行われる。また、演算処理部53は、光源41や光検出器51等、上記の各構成要素を制御する機能を更に有するとよい。なお、このような演算処理部53は、例えば、CPU(CentralProcessing Unit)といった演算手段およびメモリ等の記憶手段を有するコンピュータによって実現される。
【0021】
図3は、本実施形態における計測部2を斜め上方から見た斜視図である。本実施形態の計測部2は、被検者の垂下した乳房を囲む半球状の容器3と、該容器3に取り付けられた複数の光ファイバ11と、容器3上に配置されたガイド部6とを有する。
【0022】
ガイド部6は、乳房の位置決めを行うための板状の部材であり、被検者と容器3との間に配置される。本実施形態のガイド部6は、被検者が伏臥するためのベッド10に、その表面6aがベッド10の表面10aと同一面となるように埋め込まれている。また、ガイド部6は、被検者の乳房が挿通される開口6bを有している。開口6bは、上方から見て容器3の内側と重なるガイド部6の部分に、例えば円形といった角のない平面形状で形成されている。開口6bは、上方から見てその縁が容器3の開口部3aと重なるか又は内側に位置するように形成されていることが好ましい。
【0023】
また、ガイド部6の表面6aにおける開口6bを囲む領域6cは、開口6bの縁に向けて下方へ傾斜している。この領域6cは、ベッド10の長手方向を長軸方向とする楕円形状をしている。そして、例えば開口6bが円形である場合、領域6cの長軸方向における傾斜角は、短軸方向における傾斜角よりも小さくなっている。
【0024】
図4は、容器3を拡大して示す斜視図である。前述した図2では、光照射用の光ファイバ11および光検出用の光ファイバ11をそれぞれ1本ずつ代表して説明したが、本実施形態の乳房撮像装置1においては、例えば20本以上の多数の光ファイバ11が用いられており、それらの一端面11aが、図4に示すように容器3の内壁における所定位置にそれぞれ配置されている。そして、一部の光ファイバ11が光照射用として用いられ、他の光ファイバ11が光検出用として用いられる。或いは、各光ファイバ11が、光照射用および光検出用の双方を兼ねてもよい。例えば、各光ファイバ11は入射光用の光ファイバの周囲に受光用のファイバをバンドルした二重構造を有しており,任意の点に入射,受光点を設定することにより、このような光ファイバ11を好適に実現できる。
【0025】
図5は、計測部2を上方から見た平面図である。また、図6は、図5に示した計測部2のVI−VI線に沿った側面断面図である。図5及び図6を参照しつつ、計測部2の構成について更に詳しく説明する。
【0026】
本実施形態の容器3は、図6に示すように、内側容器31および外側容器32を有している。内側容器31は、半球形を呈しており、被検者の垂下した乳房を囲むように開口部31aを上方に向けて配置されている。また、外側容器32は、内側容器31よりも大きい半球形を呈しており、内側容器31の外側を覆うように配置されている。外側容器32は内側容器31との間に隙間34を構成している。
【0027】
複数の光ファイバ11のそれぞれは、内側容器31の内側へ向けて配置され、外側容器32に固定されている。具体的には、各光ファイバ11は、外側容器32の所定の位置に形成された孔に挿通され、インターフェース剤Iの漏洩を防止するためのシール構造を有する図示しない保持機構(フォルダ)によって外側容器32に固定されている。内側容器31には、複数の光ファイバ11を通すための複数の孔31bが形成されており、複数の孔31bは、その内径が対応する光ファイバ11の径よりも大きくなるように形成されている。
【0028】
また、複数の光ファイバ11は、図6に示すように、各光ファイバ11の光軸(光出射軸および光入射軸)が所定の軸線Cと交差するように配置されることが好ましい。また、更に好ましくは、全ての光ファイバ11の光軸が所定の軸線C上の一点D(ガントリ内壁を一部とする球体の中心)で互いに交わるとよい。ここで、所定の軸線Cとは、被検者の乳房の垂下方向に沿った架空の軸線であり、例えば内側容器31および外側容器32の曲率中心を通りベッド10の表面10aに垂直な軸線である。
【0029】
内側容器31と外側容器32との隙間34には、隔壁33が設けられている。隔壁33は、隙間34を分割するための部材であり、例えば内側容器31の外面および外側容器32の内面の双方に対して垂直な面を有する環状の部材によって構成される。隔壁33の内周面と外周面との幅は、内側容器31の外面と外側容器32の内面との間隔と略等しく、隙間34を完全に仕切るしくみになっている。
【0030】
隙間34は、隔壁33によって上側の流入室35及び下側の流出室36に分割されている。流入室35には配管13fが接続されており、流出室36には配管13aが接続されている。配管13fは、流入室35へインターフェース剤I(図2参照)を注入するための配管である。また、配管13aは、流出室36からインターフェース剤Iを排出するための配管である。インターフェース剤Iは、配管13fを通って流入室35へ流れ込んだのち、内側容器31の孔31bと光ファイバ11との隙間(インターフェース剤流入口14)を通って内側容器31の内側へ滲み出す。そして、インターフェース剤Iは、内側容器31の内側を移動し、孔31bと光ファイバ11との隙間(インターフェース剤流出口15)を通って流出室36へ流れ込み、配管13aを通って排出される。
【0031】
なお、本実施形態では、複数の配管13fが隔壁33に取り付けられている。具体的には、隔壁33には流入室35へインターフェース剤Iを注入するための複数の孔があいており、この複数の孔それぞれに複数の配管13fの端部が挿入され、固定されている。複数の配管13fは、流出室36の内部に延設されており、流出室36の中央部付近(すなわち容器3の中心付近)で一つの配管13eから分岐されている。配管13aは、外側容器32に取り付けられている。
【0032】
内側容器31、外側容器32、及び隔壁33は、例えば、表面が黒色アルマイト処理されたアルミ材により好適に形成される。或いは、内側容器31、外側容器32、及び隔壁33は、表面が黒色の樹脂材料により形成されてもよい。
【0033】
また、隔壁33は外側容器32上に載置され、内側容器31はその縁部31cが外側容器32の縁部32aと重なるように、且つ外面が隔壁33と接するように外側容器32上に載置されている。この構成によって、内側容器31及び隔壁33は、異なる大きさの別の内側容器31及び隔壁33と交換可能となっている。乳房の大きさや形は被検者によって様々なので、このように内側容器31を交換可能とすることにより、内側容器31の内側寸法を、被検者の乳房の大きさに合わせて容易に変更できる。また、このように内側容器31を交換すると内側容器31と外側容器32との間隔も変化するので、外側容器32の内側における光ファイバ11の突出長さについても、内側容器31の交換に応じて変更できることが好ましい。この場合、本実施形態のように内側容器31の孔31bの内径が光ファイバ11の径よりも大きく形成されていれば、光ファイバ11の突出長さを容易に変更できる。
【0034】
計測部2は、所定の軸線C回りに容器3を回転させるための回転機構21を更に有している。本実施形態の回転機構21は、図5に示すように、回転板22、歯車23、及びステッピングモータ24を含んで構成される。回転板22は、軸線C回りに回転可能なようにベッド10に取り付けられた円板状の部材である。回転板22には、軸線Cを中心とする円形の開口22aが形成されており、この開口22aに容器3の外側容器32が嵌入され、外側容器32の縁部32aと回転板22とが接する状態で容器3が回転板22に保持されている。また、回転板22の外周には歯車を構成するための歯22bが形成されている。
【0035】
歯車23は、回転板22の回転軸線(軸線C)と平行な軸線を中心に回転可能に設けられ、回転板22の歯22bと噛み合うように回転板22に対して並置されている。歯車23にはステッピングモータ24の回転軸が接続されており、ステッピングモータ24が所定角回転する毎に、該所定角に比例する角度だけ回転板22が容器3と共に回転する。
【0036】
なお、本実施形態では、図6に示すように、内側容器31の縁部31cとガイド部6との間には隙間が設けられており、内側容器31から溢れたインターフェース剤Iがこの隙間へ流れ込むしくみになっている。この隙間へ流れ込んだインターフェース剤Iは、回転板22とガイド部6との隙間61を流れ、ベッド10に取り付けられた配管13gから排出される。
【0037】
続いて、インターフェース剤Iの循環システムについて説明する。図2に示したように、容器3の内壁と乳房Bとの隙間は、インターフェース剤Iで満たされる。このインターフェース剤Iにより、乳房Bの内外における光学係数を一致させて、演算処理部53による演算時の境界条件を乳房Bの大きさによらず固定することができるので、乳房Bの内部情報をより容易に算出できる。このようなインターフェース剤Iとしては、例えば、光吸収係数を生体と一致させるために光吸収物質(例えば、静脈注射用脂肪乳剤であるイントラリピッド(登録商標)など)を純水に適量混合し、また、光散乱係数を生体と一致させるために光散乱物質(例えばカーボンインクなど)を更に適量混合してなる液体が好適に用いられる。
【0038】
イントラリピッドやカーボンインクは疎水性である。このように、インターフェース剤Iに含まれる上記した光散乱物質や光吸収物質が疎水性である場合、容器3内のインターフェース剤Iにおいては、時間の経過にしたがって光散乱物質や光吸収物質が沈降し易い。これらの物質が沈降すると、インターフェース剤Iの光学係数が不均一となり、拡散光の検出精度が低下してしまう。従って、本実施形態の乳房撮像装置1は、このような光散乱物質や光吸収物質の沈降を防ぐため、容器3の内外でインターフェース剤Iを循環させつつ容器3の外部でインターフェース剤Iを撹拌するための構成を更に備えている。
【0039】
図7は、インターフェース剤Iを循環および撹拌するための構成の一例を示す図である。なお、図7においては、ベッド10に設けられたガイド部6および回転機構21(共に図6参照)の図示を省略している。本実施形態の乳房撮像装置1は、図7に示すように、インターフェース剤Iを循環させるための循環用ポンプ16と、インターフェース剤Iを貯留すると共に撹拌するタンク17と、インターフェース剤Iに溶け込んだ空気や泡を取り除く脱泡(脱気)装置18と、インターフェース剤Iを加温する加温装置19とを更に備えている。インターフェース剤Iは、これらの装置によって加温、循環され、ガントリー内で沈殿、不均一化されてしまうことを防止できる。
【0040】
循環用ポンプ16は配管13aを介して容器3と接続されており、インターフェース剤Iは容器3から配管13aを通して循環用ポンプ16に吸い込まれる。また、循環用ポンプ16は配管13bを介してタンク17と接続されており、インターフェース剤Iは配管13bを通してタンク17へ送り出される。タンク17の内部には図示しない撹拌器が取り付けられており、貯留されたインターフェース剤Iが撹拌される。タンク17は配管13cを介して脱泡装置18と接続されており、撹拌されたインターフェース剤Iは配管13cを通って脱泡装置18へ送られる。インターフェース剤Iに気泡が発生すると光学係数に影響するので、インターフェース剤Iは脱泡装置18において減圧され、気泡および溶け込んだ気体成分が取り除かれる。脱泡装置18は配管13dを介して加温装置19と接続されており、脱泡(および脱気)されたインターフェース剤Iは配管13dを通って加温装置19へ送られる。インターフェース剤Iが過度に冷たいと被検者Aに不快感を与えるので、インターフェース剤Iは加温装置19において体温程度まで加温される。加温装置19は配管13eを介して容器3と接続されており、インターフェース剤Iは配管13eを通って再び容器3へ送られる。このようにして、インターフェース剤Iは、撹拌されつつ容器3の内外を循環する。なお、循環ポンプ6、タンク7、脱泡(脱気)装置8、及び加温装置に関しては、必要に応じて接続の順番を変更し、最適化することができる。

【0041】
本実施形態による乳房撮像装置1の作用および効果は次のとおりである。乳房撮像装置1においては、回転機構21によって容器3が軸線C回りに回転することにより、容器3に取り付けられた複数の光ファイバ11の端面11aも軸線C回りに移動する。計測の際には、或る回転角度において光照射用の光ファイバ11から光を照射するとともに、光検出用の光ファイバ11を介して拡散光を検出する。そして、容器3を所定角度だけ回転させたのち、光の照射/検出を同様に行う。
【0042】
ここで、図8は、内側容器31の上方から見た光ファイバ11の端面11aの配置例を示す図である。図8において、実線で描かれた点は容器3が回転する前における端面11aの位置を示しており、一点鎖線で描かれた点は、容器3が反時計回りに角度αだけ回転した後における端面11aの配置を示している。図から理解されるように、容器3を回転させることによって、光ファイバ11の端面11aがとりうる位置(すなわち光照射位置および光検出位置)が本来の光ファイバ11の本数に対して倍に増える。この数は、容器3を回転させる回数によって更に増える。このように、本実施形態の乳房撮像装置1によれば、光ファイバ11の本数に対して、光を照射する位置の数、および光を検出する位置の数を増加させることができるので、より精度よく乳房の内部情報を取得できる。
【0043】
また、本実施形態による乳房撮像装置1によれば、図8のように光照射位置や光検出位置を増加させるだけでなく、更に次のような効果もある。すなわち、光ファイバ11の配置においては、或る角度ごとに同一の分布を繰り返すように端面11aを配置する場合がある。このような場合、当該角度ずつ容器3を回転させることにより、一定の光照射位置/光検出位置で光ファイバ11を交替させながら光を照射/検出できるので、図2に示した光源41や光検出器51の特性ばらつきを平均化し、より精度よく乳房の内部情報を取得できる。
【0044】
また、本実施形態のように、乳房撮像装置1は、ガイド部6を備えることが好ましい。ここで、図9は、ガイド部6による効果を説明するための図である。図9(a)は比較のためガイド部6が無い場合を示しており、図9(b)は本実施形態のようにガイド部6を備える場合を示している。乳房Bの大きさや形は被検者によって様々なので、図9(a)に示すように、ガイド部6が無いと、被検者の乳房Bが容器3に触れてしまうことがある。本実施形態の乳房撮像装置1では容器3が回転するので、回転中に被検者の乳房Bが容器3に触れると、被検者に不快感を与えてしまい好ましくない。また、被検者の安全性も考慮する必要がある。更に、接触する事により乳房Bが動き、計測中の形状が回転に合わせて変形してしまい、測定毎の形状が変わる為、正確なデータ取得が出来ず、演算処理したデータに誤りを生じさせてしまう可能性もある。
【0045】
これに対し、図9(b)に示すようにガイド部6の開口6bに乳房Bを挿入させると、容器3の内側における乳房Bの範囲が制限され、乳房Bが位置決めされることとなる。従って、被検者の乳房Bが容器3に触れることを好適に防止できるので、被検者に不快感を与えることなく、且つ安全性を向上できる。更に、正確なデータ取得が可能となる。
【0046】
また、図3及び図6に示したように、ガイド部6においては、ガイド部6の表面6aにおける開口6bを囲む領域6cが、開口6bの縁に向けて傾斜していることが好ましい。被検者の乳房の周囲は肋骨等により平坦ではないので、このような構成により、ガイド部6を乳房の周囲の体型に沿って配置でき、乳房の位置をより安定させることができる。
【0047】
また、図6に示したように、複数の光ファイバ11は、それらの光軸が所定の軸線Cと交差するように配置されていることが好ましい。これにより、容器3が回転しても各光ファイバ11の光軸が同一の軸線Cを必ず通ることとなり、拡散光の強度に基づく演算をより簡素化できる。
【0048】
また、本実施形態の乳房撮像装置1においては、容器3の流入室35へインターフェース剤Iを送り込むための複数の配管13fが隔壁33に取り付けられ、流出室36の内部に延設されており、流出室36の中央部付近(すなわち容器3の中心付近)で一つの配管13eから分岐されている。このように、隙間34の上方から延びる配管を容器3の中心付近に集約することによって、配管を絡ませることなく容器3を容易に回転させることができる。
【0049】
本発明による乳房撮像装置は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、容器を保持する回転板をステッピングモータで回転させることにより回転機構を実現しているが、本発明の回転機構は、これ以外にも容器を回転させ得る様々な構成を適用できる。
【0050】
また、上記実施形態では、内側容器と外側容器との隙間を上下に分割し、上側の隙間を流入室とし、下側の隙間を流出室としているが、これとは逆に、上側の隙間を流出室とし、下側の隙間を流入室としてもよい。このような構成は、例えば容器内で浮き上がる気泡を除去したい場合などに好適である。また、本発明の乳房撮像装置では、内側容器と外側容器との隙間を上下方向に限らず他の方向に分割してもよく、流入室及び流出室の双方または一方を複数の室に分割してもよい。
【0051】
また、上記実施形態および各変形例では、内側容器および外側容器の形態として半球状のものを例示したが、内側容器および外側容器の形状には、これ以外にも例えば円柱や円錐といった他の様々な形状を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による乳房撮像装置の一実施形態の構成を概念的に示す図である。
【図2】乳房撮像装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図3】計測部を斜め上方から見た斜視図である。
【図4】容器を拡大して示す斜視図である
【図5】計測部を上方から見た平面図である。
【図6】図5に示した計測部のVI−VI線に沿った側面断面図である。
【図7】インターフェース剤を循環および撹拌するための構成を示す図である。
【図8】内側容器の上方から見た光ファイバの端面の配置例を示す図である。
【図9】ガイド部による効果を説明するための図である。(a)比較のためガイド部が無い場合を示す図である。(b)ガイド部を備える場合を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…乳房撮像装置、2…計測部、3…容器、4…光源装置、5…計測装置、6…ガイド部、10…ベッド、11,12…光ファイバ、13a〜13g…配管、14…インターフェース剤流入口、15…インターフェース剤流出口、16…循環用ポンプ、17…タンク、18…脱泡装置、19…加温装置、21…回転機構、22…回転板、23…歯車、24…ステッピングモータ、31…内側容器、32…外側容器、33…隔壁、34…隙間、35…流入室、36…流出室、I…インターフェース剤、P1,P2…パルス光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の乳房に光を照射し、拡散光を検出することにより前記乳房の内部情報を取得するための乳房撮像装置であって、
光の照射及び検出を行うための複数の光ファイバと、
前記複数の光ファイバを支持する支持部材と、
前記乳房の垂下方向に沿った所定の軸線回りに前記支持部材を回転させる回転機構と
を備えることを特徴とする、乳房撮像装置。
【請求項2】
前記被検者と前記支持部材との間に配置され、前記乳房が挿通される開口を有するガイド部を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の乳房撮像装置。
【請求項3】
前記ガイド部の表面における前記開口を囲む領域が、前記開口の縁に向けて傾斜していることを特徴とする、請求項2に記載の乳房撮像装置。
【請求項4】
前記複数の光ファイバの光軸が前記所定の軸線と交差するように前記複数の光ファイバが配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳房撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−101992(P2008−101992A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283955(P2006−283955)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】