説明

乳癌の予後を評価するための方法および組成物

乳癌患者、特に早期の乳癌患者の予後を評価するための方法及び組成物を提供する。本発明の方法は身体試料中のバイオマーカーの少なくとも1つ、特に少なくとも2つの発現を検出することを含み、ここでバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの過剰発現は乳癌の予後を示すものである。一部の実施形態においては、身体試料は乳房組織試料、特に原発乳房腫瘍試料である。本発明のバイオマーカーは過剰発現が良好又は不良な癌の予後のいずれかを示すタンパク質及び/又は遺伝子である。目的とされるバイオマーカーは細胞周期の調節、DNA複製、転写、シグナル伝達、細胞増殖、侵襲、タンパク分解又は転移に関与するタンパク質及び遺伝子を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は乳癌、特に早期乳癌に罹患した患者の予後を評価するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
乳癌は米国女性で第2番目に一般的な癌であり、皮膚癌にのみ頻度で劣っている。米国女性が生涯で乳癌を発症する確率は8分の1であり、American Cancer Societyによれば、本年は合衆国において250,000超の乳癌新規症例が報告されると推定されている。乳癌は女性における死因の第2番目であり、2004年には米国人40,000人超が疾患により死亡すると推定される。
【0003】
向上した検出方法、集団検査及び過去10年に渡る治療方法の進展は乳癌と診断された女性の前途を有意に改善している。今日では約80%の乳癌患者が、生存率がその最高値となる疾患の早期の段階において診断されている。その結果、乳癌患者の約85%が診断後少なくとも5年間生存している。
【0004】
これらの進歩にも関わらず、早期乳癌と診断された女性の約20%が不良な10年転帰を示しており、そして、この期間内に疾患の再発、転移又は死亡に至ることになる。しかしながら、早期で診断された乳癌患者の残余80%は良好な10年予後を示し、そして追加的な積極的副次的療法(例えば化学療法)を必要又はそれから利益を被ることがないと考えられる。現在の臨床的合意事項は少なくとも一部の早期の節陰性の乳癌患者は副次的化学療法を受けなければならないが、現時点ではより積極的な治療に関して患者をリスク層別するための広範に使用されている試験は存在しない。これらの早期の癌患者の大部分は更に治療を行うことなく手術及び/又は放射線療法後の長期の生存が可能であるため、これらの患者の全てに対して積極的な副次的療法を推奨することは、特に癌の化学療法に伴う多大な副作用を鑑みれば、不適切であると考えられる。初回診断の時点において早期の乳癌患者の集団の良好及び予後不良群への識別分類を可能にする組成物及び方法は臨床担当者が適切な治療過程を選択することを支援するものである。即ち、乳癌患者、特に早期の乳癌患者の予後を評価するための方法が必要とされている。
【0005】
乳癌予後の検査及び治療応答の予測のための方法及び要因を発見することに多くの研究が着目している。(一般的には全て参照により全体が本明細書に組み込まれる、非特許文献1)及びその引用文献を参照できる)。予後インジケーターはより多くの従来の要因、例えば腫瘍の大きさ、節の状態及び組織学的な等級、並びに予後及びおそらくは特定の治療に対する応答に関する一部の情報を提供する分子マーカーを包含する。例えば、エストロゲン(ER)及びプロゲステロン(PR)ステロイドホルモン受容体の状態の測定は乳癌患者の検査において日常的な操作法となっている。例えば非特許文献2を参照できる。ホルモン受容体陽性である腫瘍はホルモン療法により応答性があると考えられ、そして又典型的には増殖の攻撃性は低く、従って、ER+/PR+腫瘍患者に対しては予後良好がもたらされる。
【0006】
ヒト表皮成長因子受容体2(HER−2/neu)、即ち膜貫通チロシンキナーゼ受容体タンパク質の過剰発現は不良な乳癌予後に相関付けられている。非特許文献3。乳房腫瘍におけるHeR−2/neuの発現水準は現在抗HeR−2/neu抗体治療薬トラスツズマブ(Herceptin(登録商標);Genentech)への応答を予測するために使用されている。例えば同上及び非特許文献3を参照できる。更に又、乳癌のほぼ3分の1が腫瘍サプレッサー遺伝子p53における突然変異を有しており、そしてこれらの突然変異は増大した疾患の攻撃性及び予後不良的結果に関連付けられている。非特許文献2。Ki−67は細胞周期のG期からM期の間に発現される非ヒストン核タンパク質である。研究によれば細胞増殖マーカーKi−67の過剰発現もまた不良な乳癌予後に相関付けられている。同上。
【非特許文献1】RossおよびHortobagyi,編,Molecular Oncology of Breast Cancer,Jones and Bartlett Publishers,Boston,MA
【非特許文献2】Fitzgibbonsら,Arch.Pathol.Lab.Med.,2000年,第124巻,p.966−978
【非特許文献3】Rossら,The Oncologist,2003年,p.307−325
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在の予後の基準及び分子マーカーは患者の転帰を予測し、そして治療の適切な過程を選択するに当たっては何らかの指針を与えるものであるが、特に早期のリンパ節陰性患者において乳癌の予後を評価するための特異的で感度の良い方法の必要性は多大である。このような方法は予後不良を有する乳癌患者を予後良好を有するものから特定的に識別し、そして積極的な副次的療法を必要としていると考えられる高リスクの早期乳癌患者の発見を可能にするものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
癌患者、特に乳癌患者の予後を評価するための方法及び組成物を提供する。方法は身体試料中のバイオマーカーの少なくとも1つ、特に少なくとも2つの発現を検出することを含み、ここでバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの過剰発現は乳癌の予後を示すものである。本発明のバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの過剰発現は予後良好(即ち疾患のない生存)又は予後不良(即ち癌の再発、転移又は伏在癌による死亡)のいずれかを示すものである。即ち、本発明の方法は予後良好を有する乳癌患者の予後不良のものとの差別化を可能にする。本明細書に開示する方法は従来の臨床要因(例えば腫瘍の大きさ、腫瘍の等級、リンパ節の状態及び家族の病歴)の検査及び/又はHeR−2/neu、Ki67、p53及びエストロゲン及びプロゲステロンホルモン受容体のような分子マーカーの発現水準の分析と組み合わせて使用してよい。この態様に置いて、本発明の方法は乳癌の予後のより正確な評価を可能にする。
【0009】
本発明のバイオマーカーは、細胞周期の調節、DNA複製、転写、シグナル伝達、細胞増殖、侵襲又は転移に関与しているバイオマーカーを包含する、その過剰発現が癌の予後を示すタンパク質及び/又は遺伝子である。本発明のバイオマーカー遺伝子又はタンパク質の過剰発現の検出は癌予後の評価を可能にし、そして、例えば治療法選択の目的のための、乳癌患者の良好及び予後不良リスク群への分割を容易にする。
【0010】
バイオマーカーの発現はタンパク質又は核酸のレベルにおいて検査することができる。一部の実施形態においては、乳房腫瘍試料中のバイオマーカータンパク質の発現を検出するための抗体を利用した免疫組織化学的手法が提供される。本発明のこの態様において、目的とされる特定のバイオマーカーに指向させた抗体少なくとも1つを使用する。発現はまた核酸系の手法、例えばハイブリダイゼーション及びRT−PCRにより検出することもできる。
【0011】
組成物は本発明のバイオマーカータンパク質に結合することができるモノクローナル抗体を包含する。これらのモノクローナル抗体の抗原結合フラグメント又は改変体、これらの抗体を生産するハイブリドーマ細胞系統、及びこれらのモノクローナル抗体のアミノ酸配列をコードする単離された核酸分子も本発明において包含される。本発明の方法を実施するための試薬を含むキットも更に提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
本発明は癌患者、特に乳癌患者、とりわけ早期の乳癌患者の予後を評価するための方法及び組成物を提供する。方法は患者組織又は体液試料中のバイオマーカーの発現を検出すること、及び、該バイオマーカーが過剰発現されているかどうか測定することを含む。本発明の実施において使用されるバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの過剰発現は乳癌の予後を示す(即ち不良又は予後良好)。即ち、目的とされる特定のバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの過剰発現は疾患の再発を経験すると考えられる(即ち予後不良の)乳癌患者の癌非存在で存続する尤度が高い(即ち予後良好の)患者から差別化できるようにする。本発明の一部の態様においては、方法は不良な乳癌予後を示す乳房腫瘍試料中のバイオマーカー少なくとも1つの過剰発現を検出すること、そしてそれにより、伏在癌の再発に罹患する尤度がより高い患者を発見することを包含する。本発明の方法はまた治療の適切な過程を選択する場合の支援となるために、そして、より積極的な治療から利益を被る患者を発見するためにも使用できる。特定の実施形態においては、抗体及び免疫組織化学的手法を用いて目的のバイオマーカーの発現を検出し、そして乳癌患者の予後を評価する。目的とされるバイオマーカーに対して特異的なモノクローナル抗体及び本発明の方法を実施するためのキットも更に提供される。
【0013】
「乳癌」とは、例えば生検により悪性の病態に分類された状態を意図する。乳癌の診断の臨床的解説は医学分野でよく知られている。当業者の知る通り、乳癌は例えば癌腫又は肉腫を包含する乳房組織のいずれかの悪性疾患を指す。特定の実施形態においては、乳癌は非浸潤性乳管癌(DCIS)、上皮内小葉癌(LCIS)又は粘液性癌腫である。乳癌は又浸潤性の腺管(IDC)又は浸潤性の小葉癌(ILC)である。本発明の大部分の実施形態においては、目的とされる対象は乳癌と疑われているか、又は実際に診断されたヒト患者である。
【0014】
American Joint Committee on Cancer(AJCC)は「TNM」分類スキームを用いた乳癌の病期分類のための標準化された系統を開発している。患者は原発腫瘍の大きさ(T)、局所的なリンパ節の状態(N)及び遠位の転移の存在/非存在(M)に関して検査され、そして次に要因のこの組み合わせに基づいて0期〜IV期に分類される。この系統においては、原発腫瘍の大きさは0〜4の尺度に分類される(T0=原発腫瘍の証拠なし;T1≦2cm;T2≧2cm〜≦5cm;T3≧5cm;T4=胸壁又は皮膚にまで直接拡張しているいずれかの大きさの腫瘍)。リンパ節の状態はN0〜N3に分類される(N0=局所的なリンパ節は無転移である;N1=可動の同じ側の腋窩リンパ節への転移;N2=相互に、又は他の構造物に固定された同じ側のリンパ節への転移;N3=胸骨下部の同じ側のリンパ節への転移)。転移は遠隔転移の非存在(M0)又は存在(M1)により分類する。いずれの臨床段階にある乳癌患者も本発明に包含されるが、早期乳癌の乳癌患者が特に目的となる。「早期乳癌」とは、0期(上皮内乳癌)、I(T1、N0、M0)、IIA(T0−1、N1、M0又はT2、N0、M0)及びIIB(T2、N1、M0又はT3、N0、M0)を意図している。早期の乳癌患者はリンパ節の関与は僅かであるか、全くない。本明細書においては、「リンパ節の関与」又は「リンパ節の状態」とは癌がリンパ節に転移しているかどうかを指す。乳癌患者はこれに基づいて「リンパ節陽性」又は「リンパ節陰性」と分類される。乳癌患者を発見して疾患の病期分類を行うための方法は良く知られており、そして手操作による試験、生検、患者及び/又は家族の病歴の検討、及び画像化手法、例えばマンモグラフィー、磁気共鳴画像化(MRI)及び陽電子射出断層画像化(PET)を包含してよい。
【0015】
「予後」という用語は当該分野で知られており、そして、特に疾患の緩解、疾患の回帰、腫瘍の再発、転移及び死亡に関して、疾患の考えられる経過又は疾患の進行について予測することを包含する。「予後良好」とは癌、特に乳癌に罹患した患者が無疾患(即ち癌非存在)の状態で存続する尤度を指す。「予後不良」とは伏在する癌又は腫瘍の回帰又は再発、転移又は死亡の尤度を意味する。「良好な転帰」を有するものとして分類された癌患者は伏在する癌又は腫瘍の非存在下に存続する。一方「不良な転帰」の癌患者は疾患の回帰、腫瘍の再発、転移又は死亡を経験する。特定の実施形態においては、予後及び転帰を検査する時間枠は例えば1年未満、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20又はそれより長期である。本明細書においては、予後又は無疾患の生存時間を検査するための該当する時間は腫瘍の外科的除去、又は、腫瘍生育の抑止、軽減又は抑制と共に開始する。即ち、例えば特定の実施形態においては、「予後良好」とは、少なくとも5年、特に少なくとも10年の期間、伏在癌又は腫瘍を伴うことなく乳癌患者が存続する尤度を指す。本発明の別の態様においては、「予後不良」とは、少なくとも5年、特に少なくとも10年未満内に疾患の回帰、腫瘍の再発、転移又は死亡を乳癌患者が経験する尤度を指す。上記した予後及び転帰を検査するための時間枠は例示であり、これに限定されない。
【0016】
本明細書に記載した一部の実施形態においては、バイオマーカー及び/又は他の臨床パラメーターの予後判定性能はCox Proportional Hazards Model Analysisを利用して検査しており、これはハザード比の推定及びその信頼区間を与える生存データに関する回帰法である。Coxモデルは患者の生存と特定の変数との間の関係を探索するための充分認知された統計学的手法である。この統計学的方法は診断変数(例えば本明細書に記載する特定のバイオマーカーの過剰発現)があれば個体の危険度(即ちリスク)の推定を可能にする、Coxモデルデータは一般的にはKaplan−Meier曲線として提示される。「ハザード比」は特定の予後変数を示す患者に対するいずれかの時点における死亡の危険性である。一般的には、Spruance et al.(2004)Antimicrob.Agents&Chemo.48:2787−2792を参照できる。特定の実施形態においては、目的のバイオマーカーは伏在乳癌による乳癌の再発又は死亡の尤度の評価について統計学的に有意である。統計学的有意を検査するための方法は当該分野でよく知られており、例えばlog−rank試験Cox分析及びKaplan−Meier曲線の使用を包含する。本発明の一部の態様においては、0.05未満のp値が統計学的に有意である。
【0017】
上記した通り、多くの臨床及び予後の乳癌の要因が当該分野で知られており、そして治療の転帰及び疾患再発の尤度を予測するために使用されている。このような要因はリンパ節の関与、腫瘍の大きさ、組織学的等級、家族の病歴、エストロゲン及びプロゲステロンホルモン受容体の状態、Her2/neu濃度、及び腫瘍の倍数性を包含する。本明細書においては、エストロゲン及びプロゲステロンホルモン受容体の状態とは、これらの受容体が特定の乳癌患者の乳房腫瘍において発現されるかどうかを指す。即ち、「エストロゲン受容体陽性患者」は乳房腫瘍におけるエストロゲン受容体の発現を示すが、「エストロゲン受容体陰性患者」は示さない。本発明の方法を用いれば、乳癌患者の予後は、これら又は他の臨床及び予後の要因の検査とは独立して、又はこれと組み合わせて、測定できる。一部の実施形態においては、本明細書に開示した方法と他の診断要因の評価を組み合わせることにより、乳癌予後のより正確な測定が可能になる。本発明の方法は例えばHeR−2/neu、Ki67及び/又はp53の分析と組み合わせてよい。他の要因、例えば患者の臨床病歴、家族の病歴及び閉経状態もまた、本発明の方法を介して乳癌の予後を評価する場合に考慮してよい。一部の実施形態においては、本明細書に開示した方法を介して得られた患者のデータを臨床情報の分析及び乳癌予後に関する既存の試験と組み合わせることにより比較対照の研究用の予後アルゴリズムを開発してよい。そのようなアルゴリズムは乳癌患者、特に早期の乳癌患者を予後良好及び予後不良集団に層別する場合に有用である。予後不良を有すると判断された患者はより積極的な乳癌治療に対するより高等級としてよい。
【0018】
本発明の方法は他の既知の予後インジケーター(例えばリンパ節の関与、腫瘍の大きさ、組織学的等級、エストロゲン及びプロゲステロン受容体の濃度、Her2/neuの状態、腫瘍の倍数性及び家族の病歴)の分析と比較して乳癌の予後の優れた検査を可能にする。本発明の特定の態様においては、感度及び特異性は、既知の癌の予後評価方法のものと同等以上である。特異性及び感度を検査する場合の評価項目は本発明の方法を用いて予測された予後又は転帰(即ち診断時又はその近傍における)を実際の臨床転帰(即ち患者が癌非存在で存続し続けているか、で特定の時間内に再発したか)と比較することである。本明細書においては、「特異性」とは本発明の方法が真の陰性を正確に発見できる水準を指す。臨床試験においては、特異性は真の陰性の数を真の陰性と擬陽性の総和で割ることにより計算される。「感度」とは、本発明の方法が真の陽性である試料を正確に発見できる水準を意図している。感度は真の陽性の数を真の陽性と擬陰性の総和で割ることにより臨床試験において計算される。一部の実施形態においては、乳癌の評価に関する開示した方法の感度は、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上である。更に又本発明の方法の特異性は好ましくは少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上である。別の実施形態においては、本発明の予後方法のための組み合わせた感度及び特異性の値を検査する。「組み合わせた感度及び特異性の値」とは、上記定義した個体の特異性及び感度の値の総和を意図している。本発明の方法の組み合わせた感度及び特異性の値は好ましくは少なくとも約105%、110%、115%、120%、130%、140%、150%、160%以上である。
【0019】
本明細書においては、「真」及び「擬」陽性及び陰性の定義は検討中のバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせが良好な転帰又は不良な転帰のバイオマーカーのいずれであるかにより異なる。即ち、良好な転帰のバイオマーカー(即ち予後良好を示すもの)の場合は、「真の陽性」とは、確認された良好な実際の臨床転帰を有する、本発明の方法(例えば免疫組織化学による陽性染色)により測定した場合に、目的のバイオマーカーの過剰発現を示す試料を指す。一方、「擬陽性」は良好な転帰のバイオマーカーの過剰発現を示すが、確認された不良な実際の臨床転帰を有する。良好な転帰のバイオマーカーに関する「真の陰性」及び「擬陰性」はバイオマーカーの過剰発現を示さず(例えば免疫組織化学的方法により陽性染色されない)、そして、それぞれ確認された不良及び良好な実際の臨床転帰を有する。
【0020】
同様に、不良な転帰のバイオマーカーの場合は、「真の陽性」とは確認された不良な実際の臨床転帰を有する、目的のバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの過剰発現を示している試料を指す。即ち、良好及び不良の転帰のバイオマーカーの両方に関して「真の陽性」とは、実際の臨床転帰(即ち良好又は不良)が正しく予測されている試料を指す。「擬陽性」は不良の転帰のバイオマーカーの過剰発現を示すが、確認された良好な実際の臨床転帰を有する。不良な転帰のバイオマーカーに関する「真の陰性」及び「擬陰性」はバイオマーカーの過剰発現を示さず、そして、それぞれ確認された良好及び不良な実際の臨床転帰を有する。
【0021】
乳癌は例えば手術、放射線療法、ホルモン療法、化学療法又はこれらの何らかの組み合わせを包含してよい数種の代替戦略により管理される。当該分野で知られている通り、個々の乳癌患者に対する治療の決定は関与するリンパ節の数、エストロゲン及びプロゲステロン受容体の状態、原発腫瘍の大きさ及び診断時の疾患の病期に基づくことができる。種々の臨床要因及び臨床試験の分析はInternational Consensus Panel of the St.Gallen Conference(2001)により早期乳癌のための推奨事項及び治療指針の開発をもたらしている。参照により全体が本明細書に組み込まれるGoldhirsch et al.(2001)J.Clin.Oncol.19:3817−3827を参照できる。ガイドラインは節陰性乳癌を有する患者の治療は、ベースライン予後に実質的に従って変動することを示している。より積極的な治療は、再発が比較的低リスクの患者と比較して再発が比較的高リスクの患者に対して推奨される。高リスク集団に対する化学療法は回帰の危険性を低減さえることが示されている。低リスクの分類の女性は通常は放射線及びホルモン療法により治療される。本明細書に開示した方法を用いて診断時に予後不良又は予後良好の危険性のグループに患者を層別することは、追加的又は代替となる治療意思決定要因を与える。本発明の方法は予後良好を有する乳癌患者を再発の可能性がより高いもの(即ち診断時において別の積極的治療が必要か、それにより利益を被ると考えられる患者)から差別化できるようにする。本発明の方法は早期の乳癌患者に対する適切な治療法を選択する場合に特に有用である。上記した通り、疾患の早期において診断された乳癌患者の大部分は手術及び/又は放射線療法の後、更に副次的治療を行うことなく長期生存を享受している。しかしながらこれらの患者のかなり(約20%)が疾患の再発又は死亡にいたることになり、早期乳癌患者の一部又は全てが副次的治療(例えば化学療法)を受けるべきであるという臨床的推奨事項がもたらされる。本発明の方法は早期の乳癌患者のこの高リスク予後不良集団を発見する場合に有用であり、そしてこれによりどの患者が継続的及び/又はより積極的な治療及び治療後の緊密なモニタリングから利益を被るかを決定することができる。例えば、本明細書に開示した方法により予後不良を有すると判断された早期の乳癌患者は、手術及び/又は放射線療法の後に、化学療法のようなより積極的な副次的療法向けに選択してよい。特定の実施形態においては、本発明の方法はSt.Gallens Conferenceにより確立された治療指針と組み合わせて使用してよく、これにより、医師はより多い情報に基づく乳癌治療の決定を行うことができる。乳癌予後を評価するための本発明の方法はまた、適切な乳癌治療法を選択する目的のために当該分野で知られた他の予後方法及び分子マーカー分析(HeR−2/neu、Ki67及びp53の発現水準)と組み合わせることができる。更に又、本発明の方法は当該分野で現在知られていない後期発症の予後方法及び分子マーカーの分析と組み合わせることもできる。
【0022】
本明細書に開示した方法は選択された治療に対する乳癌患者の応答を予測する場合に有用である。「選択された治療に対する乳癌患者の応答を予測する」とは特定の治療を用いた場合に患者が陽性又は陰性の転帰を経験することになる尤度を判断することを意図している。本明細書においては、「陽性治療転帰を示す」とは、患者が選択された治療から有益な結果を経験する(例えば完全又は部分的緩解、低減した腫瘍の大きさ等)尤度が増大していることを指す。「陰性治療転帰を示す」とは、伏在乳癌の進行に関して患者が選択された治療から利益を被らない尤度が増大していることを指す。本発明の一部の態様においては選択された治療とは化学療法である。
【0023】
一部の実施形態においては乳癌患者の生存の尤度を予測するための方法が提供される。特に方法は長期の無疾患の生存の尤度を予測するために使用してよい。「乳癌患者の生存の尤度を予測する」とは、伏在する乳癌の結果として患者が死亡することになる危険性を判断することを意図している。「長期の無疾患の生存」とは初回の診断又は治療の後、少なくとも5年、特に10年以上の期間内に伏在乳癌の再発により患者が死亡しないか、それに罹患しないことを意味することを意図している。乳癌患者の生存の尤度を予測するためのこのような方法は、患者試料中の複数のバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで生存、特に長期の無疾患の生存の尤度は、患者試料中に過剰発現していることが測定されたバイオマーカーの数が増大するに従って低下する。例えば、本発明の1つの態様において、少なくとも5つのバイオマーカーの発現を測定し、ここで、バイオマーカーのいずれも過剰発現していないことは生存の増大した尤度を示し、そして2つ以上のバイオマーカーの過剰発現は生存の低下した尤度を示す。生存の尤度は、例えば当該分野で入手可能な乳癌生存統計と比較することにより判断してよい。別の実施形態においては、乳癌患者の生存の尤度を予測するための方法は、少なくとも6つのバイオマーカーの発現を測定すること、及び、過剰発現されているこれらのバイオマーカーの数を検査することを含む。これらの方法のために有用なバイオマーカーは、例えばE2F1、SLPI、MUC−1、src、p21ras及びPSMB9から選択してよい。一般的に実施例8及び9を参照できる。
【0024】
本発明のバイオマーカーは遺伝子及びタンパク質を包含する。このようなバイオマーカーはバイオマーカーをコードする核酸配列の全体又は部分的な配列又はそのような配列の相補体を含むDNAを包含する。バイオマーカー核酸は又目的の核酸配列のいずれかの全体又は部分的な配列を含むRNAを包含する。バイオマーカータンパク質は本発明のDNAバイオマーカーによりコードされるか、それに相当するタンパク質である。バイオマーカータンパク質はバイオマーカータンパク質又はポリペプチドのいずれかの全体又は部分的なアミノ酸配列を含む。バイオマーカー遺伝子及びタンパク質のフラグメント又は改変体もまた本発明により包含される。「フラグメント」とは、ポリヌクレオチドの一部又はアミノ酸配列の一部、そして従って、それによりコードされるタンパク質を意図している。バイオマーカーヌクレオチド配列のフラグメントであるポリヌクレオチドは一般的に少なくとも10、15、20、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、800、900、1000、1100、1200、1300又は1400の連続ヌクレオチド、又は、本明細書に開示した完全長バイオマーカーポリヌクレオチド中に存在するヌクレオチド数までを含む。バイオマーカーポリヌクレオチドのフラグメントは一般的に少なくとも15、25、30、50、100、150、200又は250の連続アミノ酸、又は本発明の完全長バイオマーカータンパク質中に存在するアミノ酸の総数までをコードする。「改変体」とは実質的に同様の配列を意味することを意図している。一般的に本発明の特定のバイオマーカーの改変体は配列アライメントプログラムにより測定した場合そのバイオマーカーに少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上の配列同一性を有することになる。
【0025】
「バイオマーカー」とは組織又は細胞中のその発現水準が正常又は健常な細胞又は組織のものと比較して改変されているいずれかの遺伝子又はタンパク質である。本発明のバイオマーカーはその過剰発現が癌、特に乳癌の予後に相関する遺伝子及びタンパク質である。特定の実施形態において、患者試料中の目的のバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの選択的過剰発現は不良な癌の予後を示している。「予後不良を示す」とは、特定のバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの過剰発現が、上記定義した通り、伏在する癌又は腫瘍の回帰又は再発、転移又は死亡の増大した尤度と関連していることを意図している。例えば、「予後不良を示す」とは5年、特に10年以内の、伏在する癌又は腫瘍の回帰又は再発、転移又は死亡の増大した尤度を指す。予後不良を示すバイオマーカーは本明細書においては「転帰不良バイオマーカー」と称してよい。本発明の別の態様において、目的のバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの過剰発現が不在であることは、予後良好を示している。本明細書においては、「予後良好を示す」とは、上記した通り患者が癌非存在状態で存続する増大した尤度を指す。一部の実施形態においては、「予後良好を示す」とは少なくとも5年、特に10年間、患者が癌非存在状態で存続数する増大した尤度を指す。このようなバイオマーカーは「転帰良好バイオマーカー」と称してよい。
【0026】
本発明のバイオマーカーは上記した通り乳癌予後に過剰発現が相関しているいずれかの遺伝子又はタンパク質を包含する。バイオマーカーは不良な乳癌予後を示す遺伝子及びタンパク質(即ち転帰不良バイオマーカー)並びに予後良好を示すもの(即ち転帰良好バイオマーカー)を包含する。特に有利なバイオマーカーは細胞の成育及び増殖の調節、細胞周期制御、DNA複製及び転写、アポトーシス、シグナル伝達、血管形成/リンパ形成又は転移に関与する遺伝子及びタンパク質を包含する。一部の実施形態においては、バイオマーカーは組織リモデリング、細胞外マトリックス分解および隣接組織侵襲に関与するプロテアーゼ系を調節する。その過剰発現が乳癌予後を示すいずれのバイオマーカーも本発明を実施するために使用できるが、バイオマーカーはSLPI、p21ras、MUC−1、DARPP−32、phospho−p27、src、MGC14832、myc、TGFβ−3、SERHL、E2F1、PDGFRα、NDRG−1、MCM2、PSMB9、MCM6及びp53よりなる群から選択される。表43を参照できる。1つの実施形態において、目的のバイオマーカーはSLPI、PSMB9、phospho−p27、src、E2F1、p21ras又はp53を含む。本発明の1つの態様において、乳癌予後を評価するための方法はE2F1及びSLPIの発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも1つの過剰発現は予後不良を示している。別の実施形態においては、方法はE2F1、src及びSLPIの発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも2つの過剰発現は不良な乳癌の予後を示している。更に別の実施形態においては、本発明の方法はE2F1、src、PSMB9及びSLPIの発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも2つの過剰発現は不良な乳癌の予後を示している。本発明の他の態様において、E2F1、SLPI、PSMB9、p21ras及びsrcの発現が検出され、そして、これらのバイオマーカーの少なくとも2つの過剰発現が予後不良を示している。更に別の実施形態においては、方法は患者試料中のSLPI、p21ras、E2F1、PSMB9、phospho−p27及びsrcの発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも4つの過剰発現が予後不良を示している。
【0027】
別の実施形態においては、目的のバイオマーカーはE2F1、SLPI、MUC−1、src,p21ras及びPSMB9を含む。本発明の1つの態様においては、乳癌予後を評価するための方法はE2F1及びSLPIの発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも1つの過剰発現は予後不良を示している。別の実施形態においては、方法はE2F1、SLPI及びPSMB9の発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも2つの過剰発現は不良な乳癌の予後を示している。更に別の実施形態においては、本発明の方法はE2F1、SLPI、MUC−1及びsrcの発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも2つの過剰発現は不良な乳癌の予後を示している。本発明の1つの態様においては、E2F1、SLPI、MUC−1、src及びp21rasの発現が検出され、そして、これらのバイオマーカーの少なくとも2つの過剰発現が予後不良を示している。更に別の実施形態においては、方法は患者試料中のE2F1、SLPI、MUC−1、src、p21ras及びPSMB9の発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも4つの過剰発現が予後不良を示している。
【0028】
分泌白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)は白血球エラスターゼ、トリプシン、キモトリプシン及びカテプシン(例えばカテプシンG)を包含する多くのプロテアーゼを不活性化できる非特異的阻害剤である。SLPIは炎症及び組織修復に関連する炎症応答に関与していることが知られている。プロテアーゼ阻害剤は一般的に腫瘍の進行及び転移に対抗すると考えられている。しかしながら、腫瘍におけるセリンプロテアーゼ阻害剤(SPI)の発現は癌患者の予後不良に関連する場合が多い。カテプシンGは乳癌において過剰発現され、そして予後不良のインジケーターである。その阻害作用は内因性タンパク分解酵素による攻撃から上皮表面を保護することにより免疫応答に寄与している。SLPIの遺伝子位置は20q12であり、これは乳癌の染色体改変及び異数性に関係があると考えられている染色体領域である。
【0029】
PSMB9は20SコアベータサブユニットであるT1Bファミリーとしても知られているプロテアソームB型のファミリーのメンバーである。この遺伝子はMHC(主要組織適合性複合体)のクラスIIの領域に位置する。この遺伝子の発現はガンマインターフェロンにより誘導され、そしてこの遺伝子産物は免疫プロテアソーム中の触媒性サブユニット1(プロテアソームベータ6サブユニット)を置き換える。成熟サブユニットを形成するためにはタンパク分解性のプロセシングが必要である。
【0030】
NDRG−1(N−Myc下流調節)は細胞の分化の間にアップレギュレートされ、胚細胞においてN−myc及びc−mycによるレプレッサ作用に付され、そして数種の腫瘍細胞においてサプレッサ作用に付される。過剰発現は低酸素、及び血管形成を誘導するその後のシグナリングに関連する場合がある。低酸素は転写因子低酸素誘導因子1(HIF−1)の蓄積を誘発し、血管内皮細胞成長因子(VEGF)及びNDRG−1の場合のように低酸素誘導遺伝子の発現にいたる。NDRG−1は過剰発現されたmRNAとして一部の乳癌において観察される。NDRG−1はc−myc遺伝子に隣接する染色体8q24上に位置する。
【0031】
MUC1は乳腺及び一部の造血細胞を包含する大部分の分泌上皮上に発現される高度にO−グリコシル化された膜貫通タンパク質である。それは乳汁分泌中の乳腺において抱負に発現され、乳房癌腫及び転移の90%超において過剰発現されている。正常な乳腺においては、腺上皮の先端表面において発現される。
【0032】
p27は細胞周期の重要な調節物質であり、G1からS期への進行に関与している。これはG1期においてサイクリンE/cdk2複合体と、そして、D型サイクリン−cdk類とも特異的に相互作用する。p27はCdkによりスレオニン187上でホスホリル化されることができる。スレオニン187におけるp27のホスホリル化はまた細胞周期依存性であり、増殖中の細胞には存在するが、G1細胞には検出されない。p27分解の活性化は増殖中の細胞及び積極的ヒト癌腫の多くの型において観察される。p27の過剰発現はアポトーシスの抑制及び一部の化学療法剤への耐性をもたらす場合がある。
【0033】
チロシンキナーゼのSrcファミリー(Src、Lyn、Fyn、Yes、Lck、Blk、IIck等を包含する)は真核細胞の成育及び分化の調節において重要である。Srcの活性は逆の作用を有する2つの部位におけるチロシンホスホリル化により調節される。キナーゼドメインの活性化ループにおけるTyr416のホスホリル化は酵素をアップレギュレートする。CskによるC末端テールにおけるTyr527のホスホリル化は酵素をより低活性とする。
【0034】
E2F1はG1及びS期のサイクリンの両方、特にサイクリンD1の調節に関与している転写因子のファミリーである。これらのタンパク質は細胞周期調節のRb経路及びDNA合成の制御に関わっている。細胞周期のG1期の間、E2F転写因子はRb腫瘍サプレッサタンパク質と不活性複合体において結合している。細胞周期のG1/S境界の間、Rbタンパク質は過剰ホスホリル化され、その抑制複合体からE2F転写因子を放出する。その後E2F転写因子が細胞周期のS期を担っている遺伝子に関する転写を活性化させ、主にDNA合成の開始及び有糸分裂の準備及びその後細胞分裂をもたらす。E2F1の過剰発現は恐らくはp16関連転写物の誘導と組み合わせられたサイクリンD1依存性キナーゼ活性の阻害を介してアポトーシスの誘導をもたらすことがわかっている。更に又転写レベルにおけるE2F1の調節、E2F1タンパク質濃度もまたユビキチンプロテオソーム依存性分解経路により制御される。ユビキチン化はRb及びE2F1複合体によりブロックされ、これが細胞周期の進行の様相を直接制御する。
【0035】
p21rasはシグナル伝達に関与している原形質タンパク質の大きなグループのメンバーである。グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)はシグナル伝達に関与している真核細胞中に存在する原形質タンパク質の大きなグループを含む。大型ヘテロ3量体Gタンパク質及びより小型の単量体の2つの型がある。3つのras癌遺伝子、H−ras、K−ras及びN−rasはより小型の単量体Gタンパク質のメンバーであり、そしてそれぞれ染色体11、12及び1の上に位置している。それらはp21と称される21−kDのタンパク質をコードしており、そして、188アミノ酸を含有する。p21rasタンパク質は正常な細胞の成育、プロテアーゼ活性及び細胞接着に関与している。
【0036】
総括するとp21rasの3つの型はリガンド媒介細胞外受容体活性化を細胞内チロシンキナーゼ活性化に、そしてその後の乳癌進行に関連する多くの細胞過程、例えばDNA複製、増殖及びアンカリング非依存性の生育の開始と連結することにより機能している。K−及びH−ras遺伝子は乳癌に最も頻繁に関与するとされている。これらのras遺伝子の両方において、コドン12及び13における突然変異が共通している。これらの機能獲得性(gain−of−function)の突然変異はrasシグナリング経路内の正常なリガンド誘導シグナル伝達を切断する構成的活性化をもたらす。乳癌で共通性が低いものはN−rasの関与である。2つの機序が乳癌におけるN−ras関連の変化について報告されており:K−ras及びH−rasについて上記記載した突然変異と同様の癌遺伝子の構成的活性化をもたらすコドン61における突然変異および染色体増幅である。更に又、細胞内シグナリング経路の活性化に加えて、ras癌遺伝子は組織のリモデリング及び侵襲に重要なプロテアーゼの過剰発現を誘導すると報告されている。H−rasはマトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)過剰発現に関連するとされており、そしてN−rasはMMP−9の過剰発現に関連している。一般的に全て参照により全体が本明細書に組み込まれるCorrell and Zoll(1988)Human Genetics 79:225−259;Tong et al.(1989)Nature 337:90−93;Watson et al.(1991)Breast Cancer Res.Treat.17:161−169;Dati et al.(1991)Int.J.Cancer 47:833−838;Archer et al.(1995)Br.J.Cancer 72:1259−1266;Bland et al.(1995)Ann.Surg.221:706−718;Shackney et al.(1998)Clin. Cancer Res.4:913−928;及びGohring et al.(1999)Tumor Biol.20:173−183を参照できる。p21rasタンパク質のいずれかの型(即ちH−、K−、N−ras)の検出は本発明に包含される。
【0037】
ミニ染色体維持(MCM)タンパク質は真核細胞DNA複製において必須の役割を果たしている。MCMタンパク質の各々はその高度に保存された中央ドメインにDNA依存性ATPaseモチーフを有している。MCMタンパク質の濃度は一般的に正常細胞が細胞周期のG0からG1/S期に進行するに従って可変の態様において増大する。G0期においては、MCM2及びMCM5タンパク質はMCM7及びMCM3タンパク質よりも遥かに少量である。MCM6はMCM2、MCM4及びMCM7と複合体を形成し、これらはヒストンH3に結合する。更に、MCM4、MCM6及びMCM7のサブ複合体はヘリカーゼ活性を有し、これはMCM6のATP結合活性及びMCM4のDNA結合活性により媒介される。例えばすべて参照により全体が本明細書に組み込まれるFreeman et al.(1999)Clin.Cancer Res.5:2121−2132;Lei et al.(2001)J.Cell.Sci.114:1447−1454;Ishimi et al.(2003)Eur.J.Biochem.270:1089−1101を参照できる。
【0038】
DARPP33はDARPP32タンパク質内の特定のアミノ酸残基ホスホリル化を介して生物学的機能及び阻害活性がモジュレートされるタンパク質ホスファターゼ1の阻害剤である。スレオニン34(T34)ホスホリル化はDARPP32タンパク質を特定のタンパク質ホスファターゼ1阻害剤とする。しかしながらスレオニン75(T75)のホスホリル化はDARPP32をタンパク質キナーゼA(PKA)の阻害剤とする。DARPP32の遺伝子位置は17q21.2であり、これは、17q12のher2/neu(c−erb−B2受容体チロシンキナーゼ)遺伝子に隣接することがわかっている。この領域は乳癌の染色体増幅及びその結果として生じる乳癌の25〜35%内の転帰不良に関与しているとされている。一部の文献は乳癌におけるこの17q12−21の特定の転写活性化を明らかにしており、このアンプリコン内に位置する多くの遺伝子が過剰発現されている。
【0039】
p53は細胞において多重の役割を果たしている。野生型ではあるが突然変異体ではないp53の高濃度の発現は、2つの転帰、即ち、細胞周期の停止又はアポトーシスを有する。DNA損傷剤は細胞内のp53の濃度を誘導するという観察は、恐らくはコウボにおけるfad9遺伝子の産物と同類のチェックポイント因子としてのp53の定義をもたらした。生存性のためには必要ではないものの、遺伝子毒性のストレスに応答してp53は「緊急ブレーキ」として機能し、停止又はアポトーシスのいずれかを誘導し、過剰な突然変異の蓄積からゲノムを保護する。この考えと合致して、p53を有さない細胞は遺伝子的に不安定であり、そしてこのため、より腫瘍になりやすい。p53タンパク質は細胞の核に位置し、そして極めて不安定である。p53は全てのヒトの腫瘍の概ね50%において、主にDNA結合ドメインコドンにおいて、突然変異する。
【0040】
上記バイオマーカーを詳細に考察したが、過剰発現が乳癌予後を示すいずれのバイオマーカーも本発明の実施のために使用することができ、それには当該分野でいまだ発見されていないバイオマーカーも包含する。このようなバイオマーカーは例えば細胞増殖、細胞周期の制御又は癌の運動性及び侵襲の全体的機序に関与する遺伝子及びタンパク質を包含する。伏在する目的のバイオマーカーはシクロオキシゲナーゼ2(cox2)、rhoC、c−myc、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR)、ウィルムス腫瘍抑制因子、aktキナーゼおよびオステオポンチンを包含する。例えば参照により全体が本明細書に組み込まれるPerou et al.(2000)Nature 406:747−752;Sorlie et al.(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.98:10869−10874;Van’t Veer et al.(2002)Nature 415:530−536;Huang et al.(2003)Lancet 361:1590−1596を参照できる。
【0041】
特定の実施形態においては、バイオマーカーはシグナル伝達経路に関与しているキナーゼ、例えばP13K調節a、LTk、Ser/thrキナーゼ15、MAPK8IPI、MAPKAPK2及びPK428、PRKRである。成長因子、細胞外シグナル伝達タンパク質及び細胞外マトリックスタンパク質もまた目的のバイオマーカーである。このようなタンパク質はEGFR、TNF受容体関連因子4、GFR結合タンパク質7、ErbB2(her2)、VEGF、GDF1、IGFBP5、EGF8rasホモログ、MMP9、MMP7、SLPI、ケラチン5、ケラチン17、ラミニンガンマ2(ラミニンV)、トロポニン及びチュブリンを包含する。
【0042】
本発明の一部の態様においては、バイオマーカーは染色体縮合及び維持に関与する遺伝子及びタンパク質、例えばCr関連、HMC非ヒストン染色体11、MMD5、MCM5、MCM6及びSwi/snf関連アクチンを含む。動原体及び中心体の機能に関連するバイオマーカー、例えばCENPA、CENPF、CENPE、Bub1、polo様キナーゼ及びHsEg5、MCAK及びHSETもまた、本明細書に記載した方法において使用できる。本発明のバイオマーカーはまた転写因子、特に細胞周期の調節に関連するものも含んでよい。目的の転写因子は例えばE2F1、E2F4、NDRG−1、ORC6L、PCNA、核因子1、EZH2及びTFAP2Aを包含する。サイクリン、例えばCDC20、CDC25B、サイクリンA2,サイクリンE及びサイクリンFもまた開示した方法の実施のために使用してよい。
【0043】
本発明の方法は乳癌の予後を評価するために患者試料中の少なくとも1つ、特に少なくとも2つのバイオマーカーの検出を必要とするが、本発明を実施するために3、4、5、6、7、8、9、10以上のバイオマーカーを使用してもよい。認識されている通り、身体試料中の1つより多いバイオマーカーの検出を用いて癌、特に乳癌の予後を評価してよい。従って、一部の実施形態においては、2つ以上のバイオマーカー、より好ましくは2つ以上の相補的なバイオマーカーを使用する。「相補的」とは、身体試料中のバイオマーカーの組み合わせの検出が1つのみのバイオマーカーを使用した場合に発見されるものよりもより高いパーセンテージの症例において癌予後の正確な決定がもたらされることを意図している。即ち、一部の場合において、癌予後のより性格な決定は少なくとも2つのバイオマーカーを用いて行うことができる。従って、少なくとも2つのバイオマーカータンパク質が使用される場合は、個別のバイオマーカータンパク質に指向された抗体少なくとも2つを用いて本明細書に開示した免疫組織化学的方法を実施することになる。抗体は身体試料に同時に又は順次接触させてよい。
【0044】
バイオマーカー2つ以上の組み合わせを使用する場合は、バイオマーカーは典型的には実質的に統計学的に相互に独立している。「統計学的に独立した」バイオマーカーとは、1つのバイオマーカーが相補的バイオマーカーに関して実質的に反復する情報を提供しないように、自身より発生する予後が独立していることを意図している。これにより、例えばあるバイオマーカーを第1のバイオマーカーと組み合わせたて使用することは、2つが実質的に統計学的に独立していない場合には、確実に回避されるのである。2つのバイオマーカーの依存性は、それらが重複していること、そして、第2のバイオマーカーを追加することがある一対のバイオマーカーの診断力になんら追加的価値を付加しないことを示している。バイオマーカーのあるパネルの診断力を最適化するためには、パネル内の他のバイオマーカーと比較した場合に二重の予後情報を与えるバイオマーカーの使用を最小限にすることにより、シグナルの「ノイズ」の量を低減することも望ましい。統計学的な独立性を調べるための方法は当該分野で知られている。目的のバイオマーカーの統計学的独立性は、本明細書と同時に出願され、そして参照により全体が本明細書に組み込まれるMethods and Computer Programs for Analysis and Optimization of Marker Candidates for Cancer Prognosisと題された米国特許出願_に開示された方法を包含するいずれかの方法を用いて検査することができる。独立している予後バイオマーカーを用いて本発明の方法を実施する場合、バイオマーカー2、3、4、5、6、7以上の発現を検出することにより予後値が増大する。そのような場合、独立したバイオマーカーのいずれかの組み合わせを使用できる。
【0045】
当業者の知る通り、バイオマーカーのパネルを用いて本発明の方法に従いながら乳癌患者の予後を評価することができる。一部の実施形態においては、SLPI、p21ras、MUC−1、DARPP−32、phospho−p27、src、MGC14832、myc、TGFβ−3、SERHL、E2F1、PDGFRα、NDRG−1、MCM2、PSMB9、MCM6及びp53よりなる群から選択されるバイオマーカー少なくとも2つを含むパネルが提供される。1つの特定のバイオマーカーパネルは例えばE2F1、SLPI、MUC−1、src、p21ras及びPSMB9の全て又は部分集合を含んでよい。バイオマーカーパネルは目的のバイオマーカーのいずれかの数量又は組み合わせを含んでよい。本発明の特定の態様においては、パネルは少なくとも2つの統計学的に独立した予後バイオマーカーを含む。
【0046】
特定の実施形態において、乳癌予後を評価するための方法は、患者の身体試料、好ましくは乳房組織試料、より好ましくは原発乳房腫瘍組織試料を採取すること、試料を目的のバイオマーカーに特異的な抗体少なくとも1つと接触させること、抗体の結合を検出すること、及びバイオマーカーが発現されているかどうかを調べること、を含む。即ち、試料をバイオマーカー抗体と共に、抗体−抗原複合体が形成されるのに充分な時間インキュベートし、そして、抗体の結合を、例えば標識された二次抗体により検出する。抗体結合で調べた場合に少なくとも1つの転帰不良バイオマーカーの過剰発現を示す試料は予後不良を有するものとして分類される。同様に、少なくとも1つの転帰良好バイオマーカーの過剰発現を示す患者試料は予後良好を有するものとして分類される。更に又、目的のバイオマーカーの特定の組み合わせの過剰発現を特別に使用することにより、予後不良の乳癌患者を予後良好のものと識別する。本発明の一部の態様においては、方法は患者試料中の2つ以上のバイオマーカーの発現を検出すること、及び、該バイオマーカーが過剰発現されているかどうかを調べることを含み、ここでこれらのバイオマーカーの全て又は一部の過剰発現は乳癌の予後を示す。例えば、1つの実施形態において、方法はSLPI、p21ras、E2F1、PSMB9、phospho−p21及びsrcの発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも4つの過剰発現は予後不良を示している。本発明の別の態様において、方法はSLPI、E2F1及びsrcの発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも2つの過剰発現は予後不良を示している。別の実施形態において、方法はE2F1、SLPI、MUC−1、src、p21ras及びPSMB9の発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも4つの過剰発現は予後不良を示している。本発明の別の態様において、方法はSLPI、E2F1及びMUC−1の発現を検出することを含み、ここでこれらのバイオマーカーの少なくとも2つの過剰発現は予後不良を示している。
【0047】
「身体試料」とは、バイオマーカーの発現を検出することができうる細胞、組織又は体液のいずれかの採取物を意図している。このような身体試料の例は血液、リンパ、尿、婦人科体液、生検試料及び塗沫物を包含する。本発明において有用な体液は血液、尿、唾液、乳首吸引物、又は、いずれかの他の身体性の分泌物又はその誘導体を包含する。血液は全血、血漿、血清又は血液のいずれかの誘導体を包含する。好ましい実施形態においては身体試料は乳房細胞、特に生検で得られた乳房組織、更に特定すれば乳房腫瘍組織試料を含む。身体試料は種々の手法、例えば領域を掻き取るかスワビングすることによるか、体液を吸引するために針を使用することによるか、又は組織試料を採取すること(即ち生検)により患者から得てよい。種々の身体試料を収集するための方法は当該分野でよく知られている。一部の実施形態においては、乳房組織試料は、例えばファインニードル吸引生検試料、コアニードル生検又は切除生検により得られる。標本を保存するため、及び、検査を容易にするために、固定及び染色用の溶液を細胞又は組織に適用してよい。身体試料、特に乳房組織試料は拡大して観察するためにスライドガラスに移してよい。好ましい実施形態においては、身体試料はホルマリン固定し、パラフィン包埋した乳房組織試料、特に原発乳房腫瘍試料である。
【0048】
バイオマーカーの発現を検出するための当該分野で使用できるいずれの方法も本明細書に包含される。本発明のバイオマーカーの発現は核酸レベルで、又はタンパク質レベルで検出できる。「発現を検出する」とは、バイオマーカー遺伝子又はタンパク質の量又は存在を測定することを意図する。即ち、「発現を検出する」とは、バイオマーカーが発現されていない、検出可能に発現されていない、低濃度で発現されている、正常濃度で発現されている、又は過剰発現されていると測定される場合も包含する。過剰発現を測定するためには、検査すべき身体試料を健常者起源の相当する身体試料と比較してよい。即ち発現の「正常な」濃度とは、例えば、乳癌に罹患していないヒト対象又は患者に由来する乳房組織試料中のバイオマーカーの発現の濃度である。このような試料は標準化された形態で存在できる。一部の実施形態においては、バイオマーカーの過剰発現の測定は、身体試料と健常者起源の相当する身体試料の間の比較を必要としない。例えば、乳房腫瘍試料中の予後不良を示すバイオマーカーの過剰発現の検出は、健常者起源の相当する乳房組織試料との比較の必要性を排除する場合がある。更に又、本発明の一部の態様においては、目的のバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせの無発現、過少発現又は正常発現(即ち過剰発現の非存在)が乳癌患者の予後に関する有用な情報を与える。
【0049】
本発明のバイオマーカーの発現を検出するための方法は核酸又はタンパク質のいずれかのレベルでバイオマーカーの量又は存在を測定するいずれかの方法を含む。このような方法は当該分野でよく知られており、そして例えばウエスタンブロット、ノーザンブロット、サザンブロット、ELISA、免疫沈降、免疫蛍光、フローサイトメトリー、免疫組織化学、核酸ハイブリダイゼーション手法、核酸逆転写法、及び核酸増幅方法を包含するがこれらに限定されない。特定の実施形態においては、バイオマーカーの発現は例えば特定のバイオマーカータンパク質に対して指向された抗体を用いてタンパク質レベルで検出される。これらの抗体は種々の方法、例えばウエスタンブロット、ELISA、免疫沈降又は免疫組織化学的手法において使用できる。同様に、乳房組織、特に乳房腫瘍組織の免疫染色を臨床データの検査、従来の予後方法、及び、当該分野で知られた分子マーカー(例えばHer2/neu、Ki67、p53及びホルモン受容体状態)と組み合わせることができる。この態様に置いては、開示された方法は乳癌予後のより正確な決定を可能にする。
【0050】
1つの実施形態においてバイオマーカータンパク質に特異的な抗体を利用して身体試料中のバイオマーカータンパク質の発現を検出する。方法は患者から身体試料を得ること、SLPI、p21ras、MUC−1、DARPP−32、phospho−p27、src、MGC14832、myc、TGFβ−3、SERHL、E2F1、PDGFRα、NDRG−1、MCM2、PSMB9又はMCM6に対して指向された抗体少なくとも1つに身体試料を接触させること、及び、結合抗体を検出することにより患者試料中でバイオマーカーが過剰発現されているかどうか調べることを含む。バイオマーカータンパク質の過剰発現は予後、特に不良乳癌予後を示す。他の実施形態においては、本発明の方法はバイオマーカー少なくとも2つの発現を検出することを含み、ここでバイオマーカー少なくとも1つの過剰発現は予後を示す。このような方法は患者試料中の複数のバイオマーカーの検出を含んでよく、ここで乳癌予後を示すものはこれらのバイオマーカーの全て又は部分集合である。
【0051】
本発明の1つの態様は、乳癌患者の予後を評価するための免疫組織化学的手法を提供する。特に本方法は予後を示す乳房組織試料、特に乳房腫瘍試料内のバイオマーカーの抗体染色を含む。当業者の知るとおり、本明細書において後述する免疫組織化学的方法は手作業又は例えばAutostainer Universal Staining System(Dako)を用いながら自動化された態様に置いて実施してよい。乳房組織試料の抗体染色(即ち免疫組織化学)のための1つのプロトコルは実施例1に示す。
【0052】
1つの免疫組織化学的方法においては、患者の乳房組織試料を例えば当該分野で知られた生検手法により採取する。試料を後の試料調製のために凍結するか、又は、即座に固定化溶液中に入れる。組織試料はホルマリン、グルタルアルデヒド、メタノール等のような試薬で処理することにより固定化してよく、そしてパラフィン包埋する。ホルマリン固定パラフィン包埋組織試料からの免疫組織化学的分析のためのスライドの調製方法は当該分野でよく知られている。
【0053】
一部の実施形態、特に本発明の免疫組織化学的方法においては、抗体結合に使用することができるバイオマーカー抗原を作成するために試料を修飾することが必要となる場合がある。例えば、組織試料のホルマリン固定により抗原部位のマスキング又は破壊、及びその後の不良な抗体染色をもたらす可能性のあるタンパク質の広範な交差結合が起こる。本明細書においては、「抗原賦活」又は「抗原脱マスキング」とは、例えばホルマリン固定パラフィン包埋組織試料において抗原の使用し易さを増大させるか又は抗原性を回復するための方法を指す。当該分野で知られた抗原賦活法を包含する、抗体結合のために抗原をより使用し易くするためのいずれかの方法を本発明の実施において使用してよい。例えば、共に参照により全体が本明細書に組み込まれるHanausek and Walaszek, eds.(1998)Tumor Marker Protocols (Humana Press, Inc.,Totowa, New Jersey);及びShi et al.eds.(2000)Antigen Retrieval Techniques:Immunohistochemistry and Molecular Morphology(Eaton Publishing, Natick, MA)を参照できる。
【0054】
抗原賦活法は例えばタンパク分解酵素(例えばトリプシン、キモトリプシン、ペプシン、プロナーゼ等)又は抗原賦活溶液による処理を包含するがこれらに限定されない。目的の抗原賦活溶液は例えばクエン酸塩緩衝液、pH6.0(Dako)、トリス緩衝液、pH9.5(Biocare)、EDTA、pH8.0(Biocare)、LAB(Liberate Antibody Binding Solution;Polysciences)、抗原賦活Glyca溶液(Biogenex)、クエン酸塩緩衝液、pH4.0(Zymed)、Dawn(登録商標)洗剤(Proctor&Gamble)、脱イオン水、及び、2%氷酢酸を包含する。一部の実施形態においては、抗原賦活は抗原賦活溶液をホルマリン固定組織試料に適用すること、及び、次に、試料をオーブン(例えば60℃)、スチーマー(例えば95℃)又は圧力クッカー(例えば120℃)中で所定の温度において所定時間加熱することを含む。本発明の他の態様においては、抗原賦活は室温で実施してよい。インキュベーション時間は選択される特定の抗原賦活溶液により、そして、インキュベーション温度により変動する。例えば、抗原賦活溶液は僅か5分、10分、20分又は30分、又は一夜にわたり、試料に適用してよい。適切な抗原賦活溶液及び最適なインキュベーションの時間及び温度を決定するための試験設計は標準的であり、当業者の日常的な許容範囲内である。
【0055】
抗原賦活の後、試料は適切なブロッキング剤、例えば過酸化水素を用いてブロッキングする。次に目的のバイオマーカーに指向された抗体を、抗原−抗体結合を可能にするために充分な時間、試料と共にインキュベートする。上記した通り、場合により、患者試料中の1つより多いバイオマーカーの過剰発現を検出することによって更に正確な乳癌予後が達成されることは当業者の知る通りである。従って、特定の実施形態においては、2つの異なるバイオマーカーに指向された少なくとも2つの抗体を用いて乳癌患者の予後を評価する。1つより多い抗体を使用する場合は、これらの抗体は個々の抗体試薬として逐次的に、又は、抗体カクテルとして同時に、単一の試料に添加してよい。或いは、各個々の抗体を単一の患者試料に由来する別個の組織区分に添加し、そして得られるデータをプールしても良い。
【0056】
抗体結合を検出するための手法は当該分野でよく知られている。目的のバイオマーカーへの抗体の結合は抗体結合の水準に相当する、従ってバイオマーカータンパク質発現の水準に相当する検出可能なシグナルを発生する化学薬品の使用を介して検出してよい。例えば、抗体の結合は標識された重合体にコンジュゲートする二次抗体の使用を介して検出することができる。標識された重合体の例は重合体−酵素コンジュゲートを包含する。これらの複合体における酵素は典型的には抗原−抗体結合部位における色素原の付着を触媒するために使用され、これにより目的のバイオマーカーの発現濃度に相当する細胞染色がもたらされる。特に有利な酵素はセイヨウワサビパーオキシダーゼ(HRP)及びアルカリホスファターゼ(AP)を包含する。市販の抗体検出システム、例えばDako Envision+システム及びBiocare Medical’s Mach 3システムを使用して本発明を実施してよい。
【0057】
本発明の1つの免疫組織化学的方法において、バイオマーカーに結合している抗体は二次抗体にコンジュゲートしたHRP標識重合体の使用を介して検出される。スライドは色素原3,3−ジアミノベンジジン(DAB)を用いて抗体結合に関して染色し、次にヘマトキシリン、及び場合により水酸化アンモニウムのようなブルーイング剤を用いて逆染色する。本発明の一部の態様においては、スライドは、細胞染色(即ちバイオマーカー過剰発現)を検査するため、そして乳癌の予後を評価するために病理学者により顕微鏡的に観察される。或いは、試料は自動顕微鏡を介するか、又は、陽性染色細胞の発見を容易にするコンピューターソフトウエアの支援と共に担当者により観察されて良い。
【0058】
「抗体」という用語は広範に天然に存在する型の抗体及び組み換え抗体、例えば1本鎖抗体、キメラ及びヒト化抗体、及び多重特異性抗体、並びに、上記全てのフラグメント及び誘導体を包含し、そのフラグメント及び誘導体は抗原結合部位を少なくとも有するものである。抗体誘導体は抗体にコンジュゲートしたタンパク質又は化学部分を含んでよい。
【0059】
「抗体」および「免疫グロブリン」(Igs)は同じ構造的特徴を有する糖タンパク質である。抗体は抗原に対する結合特異性を示すが、免疫グロブリンは抗体及び抗原特異性を有さない他の抗体様分子の両方を包含する。後者のポリペプチドは、例えば、リンパ系により低濃度で、そして、骨髄腫細胞により高濃度で生産される。
【0060】
「抗体」という用語は最も広い意味において使用され、そして完全に組み立てられた抗体、抗原に結合できる抗体フラグメント(例えばFab’、F’(ab)、Fv、1本鎖抗体、ダイアボディー)及び上記を含む組み換えペプチドを網羅している。
【0061】
「モノクローナル抗体」という用語は本明細書においては、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体を指し、即ち、集団を含む個々の抗体は、少量において存在するかもしれない可能性のある天然に存在する突然変異を除いて、同一である。
【0062】
「抗体フラグメント」は未損傷の抗体の部分、好ましくは未損傷の抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体フラグメントの例は、Fab、Fab’、F’(ab)2及びFvフラグメント;ダイアボディー;線状抗体(Zapata et al.(1995)Protein Eng.8(10):1057−1062);一本鎖抗体分子;及び抗体フラグメントから形成された多重特異性の抗体を包含する。抗体のパパイン消化により、各々が1つの抗原結合部位を有する「Fab」フラグメントと称される2つの同じ抗原結合フラグメント、及び名称が35を容易に結晶化させる能力を反映している残余の「Fc」フラグメントが生成する。ペプシン処理により、2つの抗原複合化部位を有し、そしてなお抗原と交差結合することができるF(ab’)2フラグメントが生成する。
【0063】
「Fv」が完全な抗原認識結合部位を含有する最小の抗体フラグメントである。2本鎖Fv種においては、この領域は、堅固な非共有結合製の会合における1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変ドメインの2量体よりなる。一本鎖のFv種においては、1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変ドメインは可撓性のペプチドリンカーにより共有結合されることができ、これにより、軽鎖及び重鎖は2本鎖Fv種の場合と類似した「2量体」構造において会合することができる。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用してV−V2量体の表面上の抗原結合部位を定義する場合がこの配置となる。総括すれば、6つのCDRが抗体に対する抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に対して特異的なCDR3つのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位よりも低い親和性ではあるが、抗原を認識して結合する能力を有している。
【0064】
Fabフラグメントはまた軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(C1)を含有する。Fabフラグメントは、抗体ヒンジ領域に由来するシステイン1つ以上を包含する重鎖C1ドメインのカルボキシ末端における数個の残基の付加により、Fab’フラグメントとは異なっている。Fab’−SHは本明細書においては定常ドメインのシステイン残基が遊離のチオール基を担持しているFab’の標記とする。F(ab’)2抗体フラグメントは、当初は間にヒンジシステインを有するFab’フラグメントの対として形成された。
【0065】
モノクローナル抗体はKohler et al.(1975)Nature 256:495−496の方法、又はその変法を用いながら製造できる。典型的にはマウスを抗原を含有する溶液で免疫化する。免疫化は食塩水中、好ましくはFreund完全アジュバントのようなアジュバント中で抗原含有溶液を混合又は乳化すること、及び、混合物又は乳液を非経腸注射することにより行うことができる。当該分野で知られた免疫化のいずれかの方法を用いて本発明のモノクローナル抗体を得てよい。動物の免疫化の後、脾臓(及び場合により幾つかの大型のリンパ節)を摘出し、単細胞にまで解離させる。目的の抗原をコーティングしたプレート又はウェルに細胞懸濁液を適用することにより脾細胞をスクリーニングして酔い。抗原に特異的な膜結合免疫グロブリン種を発現するB細胞はプレートに結合し、洗浄除去されない。得られたB細胞又は全解離脾細胞を次に骨髄腫細胞と融合するように誘導し、これによりハイブリドーマを形成し、選択培地中で培養する。得られた細胞を連続希釈法によりプレーティングし、目的の抗原に特異的に結合する(そして未関連の抗原には結合しない)抗体の生産に関して試験する。次に選択されたモノクローナル抗体(mAb)分泌ハイブリドーマをインビトロ(例えば組織培養ビン又は中空糸反応器中)又はインビボ(マウス腹水)で培養する。
【0066】
ハイブリドーマの使用の代替として、抗体は参照により本明細書に組み込まれる米国特許5,545,403;5,545,405;及び5,998,144に開示されているように、CHO細胞系統のような細胞系統において生産することができる。慨すれば、細胞系統を、それぞれ軽鎖及び重鎖を発現することができるベクターでトランスフェクトする。別個のベクター上の2つのタンパク質をトランスフェクトすることにより、キメラ抗体が形成される。別の利点は抗体の正しいグリコシル化である。モノクローナル抗体はまた、バイオマーカータンパク質を用いた組み換え体のコンビナトリアルな免疫グロブリンライブラリをスクリーニングしてバイオマーカータンパク質に結合する免疫グロブリンライブラリメンバーを単離することにより、発見して単離することもできる。ファージディスプレイライブラリを作成してスクリーニングするためのキットは市販されている(例えばPharmacia Recombinant phage Antibody System, Catalog No.27−9400−01;及びStratagene SurfZAP 9 Phage Display Kit, カタログ番号240612)。更に又、抗体ディスプレイライブラリの作成及びスクリーニングにおける使用に特に適している方法及び試薬の例は、例えば米国特許5,223,409;PCT公開WO92/18619;WO91/17271;WO92/20791;WO92/15679;93/01288;WO92/01047;92/09690;及び90/02809;Fuchs et al.(1991)Bio/Technology 9:1370−1372;Hay et al.(1992)Hum.Antibod.Hybridomas 3:81−85;Huse et al.(1989)Science 246:1275−1281;Griffiths et al.(1993)EMBO J.12:725−734に記載されている。
【0067】
ポリクローナル抗体は適当な対象(例えばウサギ、ヤギ、マウス又は他の哺乳類)をバイオマーカータンパク質免疫原で免疫化することにより作成できる。免疫化された対象における抗体力価は標準的な手法により、例えば固定化されたバイオマーカータンパク質を用いた酵素結合免疫吸着試験(ELISA)を用いて経時的にモニタリングできる。免疫化の後の適切な時間において、例えば抗体力価が最高値となった時点で、抗体生産細胞を対象から採取し、これを用いて標準的な手法、例えばKohler and MIlstein(1975)Nature 256:495−497により最初に記載されたハイブリドーマ手法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor et al.,(1983)Immunol.Today4:72)、EBVハイブリドーマ法(Cole et al.(1985), Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, ed.Reisfeld and Sell(Alan R.Liss, Inc.,New York, NY),pp.77−96)又はトリオーマ手法により、モノクローナル抗体を作成する。ハイブリドーマを作成するための技術は良く知られている(一般的にColigan et al.,eds.(1994)Current Protocols in Immunology (John Wiley & Sons, Inc.,New York, NY);Galfre et al.(1977)Nature 266:55052;Kenneth(1980) in Monoclonal Antibodies:A New Dimension In Biological Analyses (Plenum Publishing Corp., NY;及びLerner(1981)Yale J.Biol.Med.,54:387−402)を参照できる)。
【0068】
本発明の組成物は更に、目的のバイオマーカータンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体及びその改変体及びフラグメントを含む。例えばSLPI(指定クローン5G6.24)、DARPP−32(8G11.20)、MGC14832(1F3.9及び2D1.14)、NDRG−1(10A9.34)、PSMB9(3A2.4)及びMUC−1(16E3.3)に特異的なモノクローナル抗体が提供される。モノクローナル抗体は後述するような検出可能な物質で標識することにより試料中のバイオマーカータンパク質検出を用意にしてよい。このような抗体は本発明の方法を実施する場合に有用である。本明細書に開示した抗体の結合特性を有するモノクローナル抗体もまた本発明に包含される。組成物は更に、モノクローナル抗体の抗原結合改変体及びフラグメント、これらの抗体を生産するハイブリドーマ細胞系統及びこれらのモノクローナル抗体のアミノ酸配列をコードする単離された核酸分子を含む。
【0069】
本発明のモノクローナル抗体の結合特性を有する抗体も提供される。抗体に言及して使用される場合の「結合特性」又は「結合特異性」とは、抗体が比較抗体と同じか同様の抗原性エピトープを認識することを意味する。このような抗体の例は、例えば、競合的結合試験において本発明のモノクローナル抗体と競合する抗体を包含する。当業者であれば標準的な方法を用いて、抗体が別の抗体を競合的に妨害するかどうかを調べることができる。
【0070】
「エピトープ」とは、それに対して抗体が作成され、そして抗体がそれに結合するような、抗原性分子の部分を意図する。エピトープは線状アミノ酸残基(即ちエピトープ内の残基が線状に相互に逐次的に配置されている)、非線状アミノ酸残基(本明細書においては「非線状エピトープ」と称し;これらのエピトープは逐次的には配置されていない)、又は線状及び非線状の両方のアミノ酸残基を含むことができる。典型的にはエピトープは短いアミノ酸配列、例えば約5アミノ酸長のものである。エピトープを発見するための系統的手法は当該分野で知られており、例えば米国特許4,708,871に記載されている。慨すれば、抗原から誘導された重複するオリゴペプチドのセットを合成し、ピンの固相アレイに結合させ、その際、各ピン上に独特のオリゴペプチドがくるようにする。ピンのアレイは、例えば、バイオマーカー特異的モノクローナル抗体への結合に関して全96種のオリゴペプチドを同時に検査できるようにする96穴のマイクロプレートを含んでよい。或いは、ファージディスプレイペプチドライブラリキット(New England BioLabs)がエピトープのマッピングのために現在市販されている。これらの方法を用いながら、連続アミノ酸の全ての可能なサブセットに関する結合親和性を測定することにより、所定の抗体が結合するエピトープを発見してよい。エピトープはまた、抗体の入手原料である動物を免疫化するためにエピトープ長のペプチド配列を使用する場合に、推論により発見しても良い。
【0071】
本明細書に開示したモノクローナル抗体の抗原結合フラグメント又は改変体が更に提供される。このような改変体は親抗体の所望の結合特性を温存することになる。抗体フラグメント及び改変体を作成するための方法は当該分野で一般的に入手できる。例えば本明細書に記載するモノクローナル抗体のアミノ酸配列改変体は、目的の抗体をコードするクローニングされたDNA配列における突然変異により製造できる。突然変異誘発及びヌクレオチド配列改変のための方法は当該分野でよく知られている。例えばWalker and Gaastra, eds.(1983)Techniques in Molecular Biology (MacMillan Publishing Company, New York);Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA82:488−492;Kunkel et al.(1987)Methods Enzymol.154:367−382;Sambrook et al.(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor, New York);米国特許4,873,192及びこれらで引用されている参考文献を参照にでき;これらは参照により本明細書に組み込まれる。目的のポリペプチドの生物学的活性に影響しない適切なアミノ酸置換に関する指針は参照により本明細書に組み込まれるDayhoff et al.(1978),Atlas of Protein Sequence and Structure (Natl.Biomed.Res.Found.,Washington, D.C.)のモデルにおいて記載されている。1つのアミノ酸を同様の特性を有する別のものと交換することのような保存的な置換も好ましい場合がある。保存的置換の例は、Gly⇔Ala、Val⇔Ile⇔Leu、Asp⇔Glu、Lys⇔Arg、Asn⇔Gln及びPhe⇔Trp⇔Tyrを包含するがこれらに限定されない。
【0072】
目的の抗体ポリペプチドの改変体の構築においては、改変体が所望の活性、即ちバイオマーカーに対する同様の結合親和性を保有し続けることができるように修飾を行う。明らかに、改変体ポリペプチドをコードするDNA内で起こったいずれの突然変異も読み枠外に配列を置いてはならず、そして、好ましくは、二次mRNA構造を形成する可能性のある相補領域を創出しないものである。欧州特許出願公開75,444を参照できる。
【0073】
好ましくは比較対照バイオマーカー抗体の改変体は、比較対照抗体分子のアミノ酸配列又は比較対照抗体分子のより短い部分に対して、少なくとも70%又は75%の配列同一性、好ましくは少なくとも80%又は85%の配列同一性、より好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。より好ましくは、分子は少なくとも96%、97%、98%又は99%の配列同一性を共有する。本発明の目的のためには、パーセント配列同一性はギャップオープンペナルティー12及びギャップエクステンションペナルティー2、BLOSUMマトリックス62においてアファインギャップ検索を用いながら、Smith−Waterman相同性検索アルゴリズムを用いて測定される。Smith−Waterman相同性検索アルゴリズムはSmith−Waterman(1981)Adv.Appl.Math.2:482−489に教示されている。改変体は例えば比較対照抗体との相違が僅か1〜15アミノ酸残基、僅か1〜10アミノ酸残基、例えば6〜10、僅か5、僅か4、3、2又は更には1アミノ酸残基である。
【0074】
2つのアミノ酸配列の最適なアライメントに関しては、改変体アミノ酸配列の隣接セグメントは、比較対照アミノ酸配列に関して、追加的アミノ酸残基又は欠失したアミノ酸残基を有してよい。比較対照アミノ酸配列との比較に用いる隣接セグメントは少なくとも20隣接アミノ酸残基を含むことになり、そして、30、40、50又はこれより多いアミノ酸残基であってよい。保存的な残基の置換又はギャップに関連する配列同一性の補正を行うことができる(Smith−Waterman相同性検索アルゴリズム参照)。
【0075】
本発明を実施するために使用される抗体は目的のバイオマーカータンパク質に対する特異性を有するように選択する。抗体を作成するため、及び、適切な抗体を選択するための方法は当該分野で知られている。例えば参照により全体が本明細書に組み込まれるCelis編.(印刷中)Cell Biolgy & Labodatory Handbook第3版(Academic Press, New York)を参照できる。一部の実施形態においては、バイオマーカータンパク質に特異的に指向された市販の抗体を使用して本発明を実施してよい。本発明の抗体は組織学的試料の所望の染色に基づいて選択してよい。即ち、好ましい実施形態においては、抗体は最終的な試料の型(例えばホルマリン固定パラフィン包埋乳房腫瘍組織試料)を念頭に置きながら、そして、結合特異性があるように選択される。
【0076】
本発明の一部の態様においては、目的の特定のバイオマーカーに指向された抗体は、多工程のスクリーニング過程を経て選択され精製される。特定の実施形態においては、特異性及び感度の所望の形質を保有するバイオマーカー特異的抗体を発見するためにポリドーマをスクリーニングする。本明細書においては、「ポリドーマ」とは多重ハイブリドーマを指す。本発明のポリドーマは典型的には多重ウェル組織培養プレート中に提供される。初回の抗体スクリーニング工程において、正常(即ち非癌性)乳房組織及びI、II、III及びIV期の乳房腫瘍試料の個々のスライドのセット又は腫瘍組織のマイクロアレイを使用する。単一のスライド上に多重組織アレイを形成するための方法及び装置、例えばChemicon(登録商標)Advanced Tissue Arrayerは当該分野で知られている。例えば米国特許4,820,504を参照できる。ポリドーマを含有する各ウェルの未希釈の上澄みを標準的な免疫組織化学的手法を用いて陽性染色があるかどうか検査する。この初回スクリーニング工程においては、バックグラウンドの非特異的結合は本質的に無視される。陽性染色をもたらしたポリドーマを選択し、抗体スクリーニングの第2段階において使用する。
【0077】
第2のスクリーニング工程においては、陽性のポリドーマを限界希釈法に付す。得られた非スクリーニング抗体は、既知5年転帰の乳房腫瘍組織試料の陽性染色について標準的な免疫組織化学的手法を介して検査する。これを行うためには、正常乳房組織、既知良好5年転帰の早期乳房腫瘍試料、既知不良5年転帰の早期乳房腫瘍試料、正常非乳房組織及び癌性非乳房組織を含む組織マイクロアレイを作成する。この段階において、バックグラウンド染色が関連し、そして異常細胞(即ち癌細胞)のみに対して陽性染色する候補ポリドーマを選択してその後の分析に付すことにより、良好及び不良な転帰の患者試料を差別化する抗体を発見する。
【0078】
陽性染色培養物は個々の候補モノクローナル抗体を選択するために個々のクローンとして作成する。個々のクローンを単離するため、及び、アフィニティー吸着クロマトグラフィーを介した抗体の精製は当該分野で良く知られている。最適化された抗原賦活条件及び作業希釈度を調べるために個々のクローンを更に分析する。
【0079】
当業者の知る通り、染色の試薬及び条件、例えば抗体力価及び検出化学パラメーターの至適化は、特定の抗体に関するSN比を最大限にするために必要である。本発明のバイオマーカーへの特異的結合を最大にし、そして非特異的結合(又は「バックグラウンド」)を最小限にする抗体濃度を求めることになる。特定の実施形態においては、適切な抗体力価は、まず、ホルマリン固定パラフィン包埋の正常及び癌性の乳房組織試料に対して種々の抗体希釈度を試験することにより求める。抗体力価を最適化する検査及び検出条件の設計は、標準的なものであり、そして当業者の日常的な許容範囲内である。一部の抗体はバックグラウンド染色を低減するため、及び/又は、染色の特異性及び感度を増大させるために追加的な最適化を必要とする。
【0080】
更に又、当業者の知る通り、本発明の方法を実施するために使用される特定の抗体の濃度は結合時間、バイオマーカータンパク質に対する抗体の特異性の水準、及び身体試料調製の方法のような要因に応じて変動する。更に又、複数の抗体を単一の試料において使用する場合は、必要とされる濃度は抗体を試料に適用する順序により、即ち、カクテルとして同時に、又は、個々の抗体試薬として逐次的に適用されるかにより影響を受ける。更に、目的のバイオマーカーへの抗体の結合を可視化するために使用する検出の化学的特徴もまた所望のSN比を得るために最適化しなければならない。免疫組織化学の染色試薬及び条件の最適化の1つの例は実施例6に記載する。
【0081】
抗体結合の検出は検出可能な物質に抗体を結合させることにより促進できる。検出可能な物質の例は、種々の酵素、補欠分子団、蛍光物質、ルミネセント物質、バイオルミネセント物質及び放射性物質を包含する。適当な酵素の例は、セイヨウワサビパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ又はアセチルコリンエステラーゼを包含し;適当な補欠分子団複合体の例はストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンを包含し;適当な蛍光物質の例はウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド又はフィコエリスリンを包含し;ルミネセント物質の例はルミノールを包含し;バイオルミネセント物質の例はルシフェラーゼ、ルシフェリン及びエクオリンを包含し;そして適当な放射性物質の例は125I、131I、35S又はHを包含する。
【0082】
本発明の免疫組織化学的方法における抗体染色の検出に関しては、生物学的試料中の複数の分子種(例えばバイオマーカータンパク質)の量を定量的に測定するためのビデオ顕微鏡及びソフトウエア法が当該分野には存在し、その場合、存在する各分子種は特定の色を有する代表的染料マーカーにより示される。このような方法は当該分野においては比色分析法としても知られている。これらの方法においては、ビデオ顕微鏡を使用して染色後の生物学的試料の画像を得ることにより、目的の特定のバイオマーカーの存在を目視可能に示すことができる。これらの方法の一部、例えば参照により本明細書に組み込まれるMarcelpoli等の米国特許出願09/957,446及びMarcelpoli等の米国特許出願10/057,729に開示されているものは、画像化システム及び関連のソフトウエアにより測定される代表的な色素染料マーカーの光学密度及び光透過度の値により示されるそれぞれの色素染料マーカーの存在に基づいて存在する各分子種の相対的な量を測定するための画像化システム及び関連のソフトウエアの使用を開示している。これらの手法は、染色された生物学的試料における各分子種の相対的量の定量的測定を、自身の成分色部分に「脱構築」された単一のビデオ画像を用いながら可能にするものである。
【0083】
本発明の方法はバイオマーカー発現の検出のための画像化システム及び関連の画像化ソフトウエアと組み合わせて使用できる。本発明の方法において使用するためのバイオマーカーは本明細書と共に出願され、参照により全体が本明細書に組み込まれる「Methods and Computer Programs for Analysis and Optimization of Marker Candidates for Cancer Prognosis」と題された米国特許出願____に開示されているもののような方法及びコンピュータープログラムに基づいて選択できる。そこに開示されている方法は乳癌予後の評価のためのアルゴリズムの開発のために使用できる。
【0084】
他の実施形態において目的のバイオマーカーの発現は核酸レベルで検出される。発現を検査するための核酸系手法は当該分野で良く知られており、そして例えば身体試料中のバイオマーカーmRNAの濃度を測定することを包含する。多くの発現検出方法は単離されたRNAを使用する。mRNAの単離に対抗して選択することのないいずれかのRNA単離手法をRNA精製のために利用できる(例えばAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York,1987−1999を参照できる)。更に又、多数の組織試料を当該分野で良く知られている手法、例えばChomczynski(1989、米国特許4,843,155)の単一工程RNA単離方法を用いて容易に処理することができる。
【0085】
「プローブ」という用語は特に意図される標的生体分子、例えばバイオマーカーによりコードされるかそれに相当するヌクレオチド転写物又はタンパク質に特異的に結合することができるいずれかの分子を指す。プローブは当業者が合成するか、又は適切な生物学的調製物から誘導できる。プローブは標識されるように特異的に設計してよい。プローブとして使用できる分子の例は、RNA、DNA、タンパク質、抗体及び有機分子を包含するがこれらに限定されない。
【0086】
単離されたmRNAは、ハイブリダイゼーション又は増幅試験、例えばサザン又はノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析又はプローブアレイにおいて使用できる。mRNA濃度の検出のための1つの方法は検出すべき遺伝子によりコードされるmRNAにハイブリダイズできる核酸分子(プローブ)に単離されたmRNAを接触させることを包含する。核酸プローブは例えば完全長cDNA又はその部分、例えば少なくとも7、15、30、50、100、250又は500ヌクレオチド長であり、そして本発明のバイオマーカーをコードするmRNA又はゲノムDNAにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするために充分なオリゴヌクレオチドであることができる。プローブへのmRNAのハイブリダイゼーションは問題となるバイオマーカーが発現されていることを示す。
【0087】
1つの実施形態においては、例えば単離されたmRNAをアガロースゲル上に流し、mRNAをゲルからニトロセルロースのようなメンブレンに移行させることにより、mRNAを固体表面に固定化し、そしてプローブと接触させる。別の実施形態においては、例えばAffymetrix遺伝子チップアレイにおいて、プローブを固体表面に固定化し、そしてmRNAをプローブと接触させる。当業者であれば、本発明のバイオマーカーによりコードされるmRNAの濃度を検出する場合に使用するための知られたmRNA検出方法を容易に適合させることができる。
【0088】
試料中のバイオマーカーmRNAの濃度を測定するための別の方法においては、例えばRT−PCR(Mullis,1987米国特許4,683,202に記載の実験例)、リガーゼ連鎖反応(Barany,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:189−193)、自己持続性配列複製(Guatelli et al.,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874−1878)、転写増幅系(Kwoh et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173−1177)、Q−Beta Relicase(Lizardi et al.,1988,Bio/Technology6:1197)、ローリングサークル複製(Lizardi et al.,米国特許5,854,033)又はいずれかの他の核酸増幅方法による核酸増幅の過程を行い、その後、当該分野で良く知られている手法を用いて増幅された分子を検出する。これらの検出スキームは核酸分子の検出のためには、このような分子が極めて少数で存在する場合に、特に有用である。本発明の特別の態様において、バイオマーカーの発現は定量的蛍光発生RT−PCR(即ちTaqMan(登録商標)System)により検査する。
【0089】
RNAのバイオマーカー発現濃度は、メンブレンブロット(例えばノーザン、サザン、ドット等のようなハイブリダイゼーション分析で使用されるもの)又はマイクロウエル、試料チューブ、ゲル、ビーズ又は繊維(又は結合した核酸を含むいずれかの固体支持体)を用いてモニタリングしてよい。参照により本明細書に組み込まれる米国特許5,770,722、5,874,219、5,744,305、5,677,195及び5,445,934を参照できる。バイオマーカー発現の検出はまた溶液中で核酸プローブを使用することを含んでよい。
【0090】
本発明の1つの実施形態において、マイクロアレイを用いてバイオマーカー発現を検出する。マイクロアレイは異なる実験の間での再現性のためにこの目的のために特に適している。DNAマイクロアレイは多数の遺伝子の発現濃度の同時測定のための1つの方法である。各アレイは固体支持体に結合したキャプチャープローブの再現性のあるパターンよりなる。標識されたRNA又はDNAをアレイ上の相補プローブにハイブリダイズさせ、次にレーザースキャニングにより検出する。アレイ上の各プローブに関するハイブリダイゼーションの強度を測定し、相対的な遺伝子発現濃度を示す定量的な値に変換する。参照により本明細書に組み込まれる米国特許6,040,138、5,800,992及び6,020,135、6,033,860及び6,344,316を参照できる。高密度のオリゴヌクレオチドアレイは試料中の多数のRNAのための遺伝子発現プロファイルを測定する場合に特に有用である。
【0091】
機械的合成方法を用いたこれらのアレイの合成のための手法は例えば全ての目的のために参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許5,384,261に記載されている。平面のアレイ表面が好ましいが、アレイは実質的には如何なる形状の面、又は、更には多重の面の上に工作してもよい。アレイはビーズ、ゲル、重合体表面、繊維、例えば光ファイバー、ガラス又はいずれかの他の適切な表面上のペプチド又は核酸であってよく、全ての目的のために参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許5,770,358、5,789,162、5,708,153、6,040,193及び5,800,992を参照できる。アレイは診断薬又はオールインクルーシブ装置における診断薬又は他の操作を可能にするような態様に置いてパッケージされてよい。例えば参照により本明細書に組み込まれる米国特許5,856,174及び5,922,591を参照できる。
【0092】
1つの方策においては、試料から単離された全mRNAを標識cRNAに変換し、次にオリゴヌクレオチドアレイにハイブリダイズする。各試料を別個のアレイにハイブリダイズする。相対的な転写物の濃度はアレイ上及び試料に存在する適切な対照と比較対照することにより計算してよい。
【0093】
本発明の方法を実施するためのキットも又提供される。「キット」とは、本発明のバイオマーカーの発現を特異的に検出するための、少なくとも1つの試薬、例えば抗体、核酸プローブなどを含むいずれかの製作品(例えばパッケージ又は容器)を意図している。キットは本発明の方法を実施するためのユニットとして宣伝、流通又は販売されてよい。更にまた、キット及びその使用方法を説明するパッケージインサートを含有してよい。
【0094】
特定の実施形態において、本発明の免疫組織化学的方法を実施するためのキットが提供される。このようなキットは本明細書中の実施例1において後述するような手作業又は自動化された免疫組織化学的手法(例えば細胞染色)の両方に適合する。キットは目的のバイオマーカータンパク質に指向された抗体少なくとも1つを含む。バイオマーカーに結合する抗体の検出のための化学薬品、逆染色剤、及び陽性染色された細胞の発見を容易にするためのブルーイング剤もまた場合により提供される。或いは、本発明の免疫組織化学キットは市販の抗体結合検出システム、例えばDako Envision+システム及びBiocare MedicalのMach3システムと組み合わせて使用される。抗原−抗体結合を検出するためのいずれかの化学薬品を本発明の実施において使用してよい。一部の実施形態においては、検出用薬品は二次抗体にコンジュゲートした標識された重合体を含む。例えば、抗原−抗体結合部位において発色原の付着を触媒する酵素にコンジュゲートされた二次抗体が提供される。抗体結合の検出におけるこのような酵素及びその使用のための手法は当該分野で良く知られている。1つの実施形態において、キットはHRP標識重合体にコンジュゲートした二次抗体を含む。コンジュゲートした酵素に適合する発色原(例えばHRP標識二次抗体の場合はDAB)及び非特異的染色をブロックするための過酸化水素のような溶液も更に提供される。本発明のキットは又例えばヘマトキシリンのような逆染色剤も含んでよい。ブルーイング剤(例えば水酸化アンモニウム)もまた陽性染色細胞の検出を容易にするためにキット内において提供してよい。
【0095】
別の実施形態において、本発明の免疫組織化学キットは少なくとも2つの異なるバイオマーカーの発現を特異的に検出するための少なくとも2つの試薬、例えば抗体を含む。核抗体はキット内に個々の試薬として、又は目的の種々のバイオマーカーに指向された抗体の全てを含む抗体カクテルとして提供される。更に又、キット試薬のいずれか又は全てはそれらを外部の環境から保護する容器、例えば密封容器内に提供してもよい。本発明に従って使用される試薬の活性及び正しい使用を確認するために陽性及び/又は陰性対照をキット内に包含させてよい。対照は試料、例えば組織切片、目的のバイオマーカーの存在に関して陽性又は陰性のいずれかであることがわかっているスライドガラス等に固定化された細胞等を包含してよい。対照の設計及び使用は標準的であり、当業者の日常的な許容範囲内である。
【0096】
他の実施形態においては、核酸レベルでバイオマーカーの過剰発現を検出することを含む乳癌患者の予後を評価するためのキットが更に提供される。このようなキットは例えばバイオマーカー核酸又はそのフラグメントに特異的に結合する核酸プローブ少なくとも1つを含む。特定の実施形態においては、キットは異なるバイオマーカー核酸とハイブリダイズする核酸プローブ少なくとも2つを含む。
【0097】
当業者の知るとおり、本発明の方法におけるいずれか又は全ての工程は、担当者により実施されるか、又は、自動化された態様で実施される。即ち、身体試料の調製、試料の染色及びバイオマーカー発現の検出の工程は自動化してよい。更に又、一部の実施形態においては、本発明の免疫組織化学的方法は病理学者による陽性染色細胞の発見を容易にするためのコンピューター画像化装置及びソフトウエアと組み合わせて使用される。本明細書に開示した方法はまた他の予後方法又は分析と組み合わせることができる(例えば腫瘍の大きさ、リンパ節の状態、HeR−2/neu、Ki67及びp53)。このような態様において、本発明のバイオマーカーの過剰発現の検出は乳癌患者の予後のより正確な測定を可能にする。
【0098】
本明細書においては、英文標記単数であっても1つ又は1つより多い(即ち少なくとも1つ)の文法的客体の物品とする。例えば「要素」は1つ又はそれより多い要素を意味する。
【0099】
明細書全体を通じて、「含む」という動詞又はその活用型は、記載した要素、整数又は工程、又は要素、整数又は工程の群が包含されることを意味するものとし、如何なる他の要素、整数又は工程、又は要素、整数又は工程の群を排除するものではない。
【0100】
以下の実施例は説明を目的として提示するものであり、限定するものでない。
【実施例】
【0101】
(実験)
(実施例1:免疫組織化学を用いた生物学的活性過剰発現の検出)
(スライドの作成)
ホルマリン固定パラフィン包埋乳房腫瘍組織試料の4μM切片をミクロトームを用いて切り出し、SuperFrost+スライド上に置いた(VWR)。スライドを20分間強制空気オーブン内でベーキングし、次にパラフィンが溶融するまでHisto−Orienterと接触させる。5分間キシレンで3回スライドを洗浄することによりパラフィンを除去し、そして次に2分間/洗浄で無水アルコール中3回洗浄する。
【0102】
(前処理及び抗原賦活)
非特異的なバックグラウンド染色を防止するために、スライドを過酸化水素/メタノールブロック中5分間室温でインキュベートする。次にdHOを数回交換しながらスライドを充分に洗浄する。
【0103】
抗体結合に使用できる抗原を作成するために、スライドを5分間圧力クッカー中で抗原賦活溶液中インキュベートする。スライドをベンチ上で20分間室温まで放冷し、クエン酸塩緩衝液を徐々にdHO、トリス緩衝食塩水(TBS)又はリン酸塩緩衝食塩水(PBS)で順次希釈しながら置き換える。次にスライドを洗浄当たり2分間でTBS中3回洗浄する。表面張力を妨害するために1%BSA/TBS750μlを各スライドに添加する。
【0104】
(手動免疫組織化学分析)
非特異的なバックグラウンド染色を防止するために、スライドを染色操作中は乾燥しないようにする。抗原賦活に付してあるスライドを水で湿潤させたペーパータオルを充填した湿潤チャンバー内に導入する。SLPI抗体(クローン5G6.24;1:100希釈)を室温で1時間組織切片が完全に被覆されるのに充分な容量でスライドに適用する。一次抗体と共にインキュベートした後、スライドを洗浄当たり2分間TBS中で3回洗浄する。1%BSA/TBS750μl/50mlを最終洗浄液に添加する。
【0105】
DakoEnvision+HRP−標識重合体二次抗体を室温で30分間スライドに適用し、その後TBS洗浄する。HRP基質の発色原DABを10分間適用し、次にスライドを水で5分間洗浄する。各スライドを5秒間ヘマトキシリンで逆染色し、次に透明になるまで水で洗浄する。逆染色の後、スライドを10秒間アンモニア水に浸積することにより「ブルーイング」し、次に1分間水で洗浄する。
【0106】
スライドを1分間95%エタノールに、次に更に1分間無水エタノールに浸積することにより試料を脱水する。洗浄当たり1分間、キシレン中で3回洗浄することによりスライドを清浄化する。次にスライドを永久マウント培地を用いながらカバーガラスで被覆し、35℃でインキュベートして乾燥させる。バイオマーカー染色は明視野顕微鏡を用いて可視化する。ソーティングは盲検法において広範に資格を有する病理学者により行う。
【0107】
(自動化免疫組織化学分析)
Dako Autostainer Universal Stainingシステムを製造元の指示に従ってプログラミングし、そして手動免疫組織化学分析に関して上記した通りの必要な染色及び逆染色試薬を機械にロードする。調製したスライドをAutostainerにロードし、プログラムを実行する。実行終了後、スライドを取り外し5分間水で洗浄する。上記した通り、スライドを脱水し、清浄化し、カバーガラスを被覆し、分析する。
【0108】
(実施例2:臨床試料における個々のバイオマーカーの過剰発現の検出)
種々の疾患段階にある患者から約130点の乳房腫瘍組織試料を採取した。患者の平均年齢は77歳であった。各患者に関する実際の臨床転帰のデータが判っており、そして各患者は良好又は不良の転帰を有するものとして分類した。この試験においては、良好な転帰は少なくとも5年間癌非存在存続として定義し、転帰不良は5年以内に疾患の回帰、再発又は死亡に至ったものとして定義した。以下の表は分析した各診断群内の試料数、並びに、実際の臨床転帰のデータを示す。
【0109】
(表1:分析した臨床試料)
【0110】
【表1】

過剰発現が不良癌予後を示すバイオマーカーを発見するために、実施例1に記載した自動免疫組織化学分析により試料を分析した。即ち、この臨床試験の目標は良好及び不良な転帰の患者の試料を区別することができるバイオマーカーを発見することであった。抗体を用いて目的の8種のバイオマーカー、即ちSLPI、PSMB9、NDRG−1、E2F1、p21ras、MUC−1、phospho−p27及びsrcの過剰発現を検出した。品質管理目的のために、試料は更にER、PR、p53、Ki67及びHer2/neuの発現に関しても分析した。
【0111】
市販の抗体又は本明細書に記載する通りポリドーマスクリーニングにより発見された目的のバイオマーカーに対して指向されたモノクローナル抗体を表2に記載する通り希釈し、バイオマーカー過剰発現の検出のために使用した。各バイオマーカーに関する抗原賦活条件は以下の表に示す通りである。
【0112】
(表2:抗体希釈及び抗原賦活条件)
【0113】
【表2】

(スライドの読み取り)
各スライドは実際の臨床的な患者の転帰を知らない広範に資格を有する病理学者により検討され採点された。試料を0〜3の尺度でバイオマーカー染色強度について採点した。例えば参照により共に全体が本明細書に組み込まれるHanausek and Walazek, eds.(1998)Tumor Marker Protocols (Humana Press, Inc.,Totowa, New Jersey);及びShi et al.eds.(2000)Antigen Retrieval Techniques:Immunohistochemistry and Molecular Morphology(Eaton Publishing, Natick, MA)を参照できる。各バイオマーカーにつき、閾値染色強度を確立した。特定のバイオマーカーについてこの閾値未満の染色強度を示す試料はそのバイオマーカーについては陰性とみなした。目的のバイオマーカーに関する染色強度の閾値は以下の通りである。
【0114】
【化1】

染色強度の結果を各患者について入手可能な既知の実際の臨床転帰データと比較し、そして次に各スライドに以下のパラメーターに従って真の陽性(TP)、真の陰性(TN)、擬陽性(FP)、擬陰性(FN)の最終結果を与えた。各バイオマーカーに関する感度及び特異性の値を計算した。
【0115】
(表3:転帰不良バイオマーカーに関するスライドの分類)
【0116】
【表3】

*良好な臨床転帰=少なくとも5年間癌非存在で生存
不良な臨床転帰=5年以内に伏在癌による再発又は死亡
(使用した計算)
感度=TP/(TP+FN)
特異性=TN/(FP+TN)
陽性予測力(PPP)=TP/(TP+FP)
陰性予測力(NPP)=TN/(FN+TN)
(結果)
各バイオマーカーに関する結果を以下に総括する。
【0117】
(表4:個々のバイオマーカーの結果の総括)
【0118】
【表4】

(実施例3:臨床試料中のバイオマーカー過剰発現の検出−バイオマーカーの組み合わせ)
本発明の方法の感度及び特異性が複数のバイオマーカーを組み合わせれば向上するかどうかを調べるために、実施例2のデータを更に分析に付した。即ち、バイオマーカーの種々の組み合わせを考え、そして、目的の組み合わせにおけるバイオマーカーのいずれかに対して陽性染色された試料を陽性とみなした。これらの結果を各患者について入手可能な既知の実際の臨床転帰データと比較し、そして次に各スライドに前述の通り真の陽性(TP)、真の陰性(TN)、擬陽性(FP)、擬陰性(FN)の最終結果を与えた。バイオマーカーの各組み合わせについて感度、特異性、陽性予測値(PPV)及び陰性予測値(NPV)を計算した。
【0119】
(結果)
バイオマーカーの各組み合わせに関する結果を以下に総括する。
【0120】
(表5:SLPI、PSMB9、MUC−1及びphospho−p27)
【0121】
【表5】

(表6:SLPI、PSMB9、MUC−1、phospho−p27及びsrc)
【0122】
【表6】

(表7:SLPI、PSMB9、MUC−1、phospho−p27、src、p21ras、E2F1及びNDRG−1)
【0123】
【表7】

(実施例4:マーカー分析研究システム(MARS)を用いた臨床試料中の個々のバイオマーカーの過剰発現の検出)
本試験では200人超の患者を分析した。表8に総括する通り、この患者集団は極めて非均質であり、T1N0からT3N0の範囲で変動する種々の段階の腫瘍を示していた。
【0124】
(表8:分析した患者集団)
【0125】
【表8】

患者の標的特徴はその良好な転帰又は不良な転帰の状態とした。本試験では、良好な転帰の患者は5年間なお無疾患であり;不良な転帰の患者は5年以内に再発、回帰又は死亡に至ったものとして定義した。
【0126】
(バイオマーカーの選択)
バイオマーカーの選択に用いた範例は、バイオマーカー過剰発現は転帰不良患者の一部を把握し、そして極めて高い特異性を示すこととした。従って、種々のマーカーを組み合わせることは、高い特異性を確保するものであり、そして例えば80%感度及び80%特異性に達するような感度を獲得する。多工程の選択過程の後、9つのバイオマーカーを現試験のために選択した。これらのマーカーをその対応する細胞未満レベルの局在性と共に表9に示す。
【0127】
(表9:分析したバイオマーカー)
【0128】
【表9】

(自動化免疫組織化学分析)
過剰発現が不良癌予後を示すバイオマーカーを発見するために、実施例1に記載したものと本質的に同様の自動化免疫組織化学分析により患者試料を分析した。即ち、この臨床試験の目標は良好及び不良な転帰の患者の試料を区別することができるバイオマーカーを発見することであった。抗体を用いて目的の9種のバイオマーカー、即ちSLPI、PSMB9、NDRG−1、E2F1、p21ras、p53、MUC−1、phospho−p27及びsrcの過剰発現を検出した。試料は更にER、PR、Ki67及びHer2/neu(CerbB2)の発現に関しても分析した。
【0129】
スライドは実施例1に記載の通り調製し、抗原賦活に付した。特に、調製したスライドは抗原賦活溶液に浸積し、5分間圧力クッカー(120〜125℃、17〜23psi)内に置いた。各バイオマーカーに関する抗原賦活溶液は下記の表10に示す通りである。
【0130】
(表10:抗原賦活溶液)
【0131】
【表10】

スライドを徐々に室温脱イオン水に戻した。スライドを洗浄当たり2分間TBS/ツイーン20中3回洗浄した。バイオマーカー特異的抗体200μlを各スライドに添加し、1時間室温でインキュベートした。市販の抗体又は本明細書に記載する通りポリドーマスクリーニングにより発見された目的のバイオマーカーに指向されているモノクローナル抗体を用いて生物学的活性の過剰発現を検出した。
【0132】
一次抗体と共にインキュベートした後、スライドをTBS/ツイーン20中2回洗浄した。次に標識重合体(Dako Envision+HRP標識重合体二次抗体)200μlを室温で30分間添加した。スライドを再度TBS/ツイーン20で3回洗浄した後、室温で5分間DAB溶液200μlを添加した。次にスライドをTBS/ツイーン20で3回、脱イオン水で1回洗浄した。ヘマトキシリン200μlを5分間添加した。次にスライドを脱イオン水で3回、TBS/ツイーン20で1回、そして更に2回脱イオン水で洗浄した。実施例1に記載の通りスライドを脱水し、正常化し、カバーガラスを被覆した。
【0133】
(病理学者の評価)
広範に資格を有する病理学者が手作業によりスライドを採点した。p53の発現は0、0.5、1、2又は3の尺度を用いた染色強度、標識細胞のパーセンテージ及び臨床診断評点に関して採点した。SLPI及びPSMB9は0、0.5、1、2又は3の尺度を用いた染色強度及び標識細胞のパーセンテージについて採点した。病理学者はまた測定を行う際に使用した腫瘍領域(ROI)をスライド上に注記した。単一の焦点において統括された各腫瘍の選択された領域内から得た個々の20倍視野10点までをMARSを用いて得た。各試料から得られた画像の実際の数は個々の腫瘍の大きさにより異なるものであった。患者の転帰、リンパ節状態及び腫瘍の大きさと共に上記採点情報の全てを含むExelスプレッドシートを作成した。データは以下に記載する通り更に分析した。
【0134】
(データ抽出)
MARSを用いながら各ファイルにつき以下の工程を系統的に実施した。
・発色原の分離は最高品質の染色を示した使用可能なスライドを用いて各バイオマーカーにつき最適化した。
・セグメント化セットアップは細胞未満レベルの局在化(核、原形質又は膜)に従って各バイオマーカーにつきカスタマイズした。
・所定のROI内における細胞、視野(FOV)及び焦点のレベルにおいて特徴を抽出して出力ファイル(XMLフォーマット)に送った。
【0135】
(データ分析)
新しい分析アルゴリズムを統合し、この分析のための多大なコンピューター処理の必要性に合致するために、Multi Marker Analyzerと称される特定のプログラムを開発した。このソフトウエアはTMA又はMARSで作成された組織切片XMLファイルのいずれかの全体又は一部分をロードしてこれらのファイルに含有されるデータをTMAキーを記載するXMLファイル(TMA分析の場合)又は患者の臨床状態及び患者の評価を示すExcelファイル(組織切片分析の場合)を用いてマージするための手段及び他の全ての分析を可能にするものである。このマージ過程は、患者に関するTMAキー(又はExcelファイル)に保存されている情報:認識番号及び医学的状態(良好又は不良の転帰)を用いて各コア(即ち患者)についてMARSにより測定されたパラメーターの集合、及び、XMLフォーマットのMARSファイルに含まれない場合は病理学者の評価を包含するものであった。
【0136】
試料の一部は完全な実験過程を経ていなかったため、分析した患者数は上記表8で報告された患者数より少数であり、そしてバイオマーカー毎に変動している。各バイオマーカーについて分析した組織切片の数を下記表11に示す。従来の乳癌マーカー(即ちER、PR、Ki67及びHer2/neu(CerbB2))に関して分析された組織試料の数は表12に示す。
【0137】
(表11:バイオマーカー過剰発現に関して分析した組織切片の数)
【0138】
【表11】

(表12:従来の乳癌マーカーに関して分析した組織切片の数)
【0139】
【表12】

(セグメンテーション及びディスパッチャーセットアップ)
スライドを特性化する病理学者の手順にMARS分析を近似させるため、少なくとも+1とみなされた細胞のみを選択した。表13はこの分析のためにMARSにおいて使用したセグメンテーションセットアップを総括したものである。このセグメンテーションセットアップは最も染色した細胞を検出する。セグメンテーション及びディスパッチャートランスミッタンス閾値は細胞学者の入力に基づくものとした。セグメンテーションセットアップはコンピューターTRO−RDLAB5上においてDageカメラを用いてキャプチャーされた20x画像を用いてピクセルベースで行った。
【0140】
(表13:メインセグメンテーションセットアップパラメーター)
【0141】
【表13】

標的細胞コンパートメント内のバイオマーカー染色強度に基づいたカテゴリに選択された細胞を割り付けるために、セグメンテーションにより得られた有効細胞を3カテゴリ:1(MARS中;NegRef)、2(MARS中:Test)及び3(MARS中:PosRef)内にディスパッチした。表14はこのディスパッチを実施するために使用したMARSの特徴、及びその数値をマーカーの細胞内局在化の関数として示す。
【0142】
(表14:カテゴリー1、2及び3への選択された細胞の割付をもたらすディスパッチャーのセッティング)
【0143】
【表14】

カテゴリー0の評価(「非染色細胞の予測される数」に相当する)を実施した。これらの細胞の概数は1、2及び3細胞の染色強度を有する細胞の面積から得られる平均腫瘍細胞面積(CELL_AREAと称されるMARS特徴から推定して1100ピクセル)を用いて計算した。
【0144】
【化2】

、N、N及びNを用いながら、細胞染色0、1、2及び3細胞のパーセンテージを計算した。表15はこれらの新しい特徴の名称を示す。
【0145】
(表15:パーセンテージ総括特徴)
【0146】
【表15】

これらの特徴は単純なパーセントとして計算し、例えばCELL_PERCENT_0については以下の通りとした。
【0147】
【化3】

この試験はMARS特徴、これらの新しい総括特徴及び病理学者の評点を用いて実行した。USER_TYPEは病理学者採点のみに関するMARS特徴の名称である。
【0148】
(多重バイオマーカー分析)
向上した感度/特異性の組み合わせを得るために、多重バイオマーカーから得られたデータを組み合わせて分析した。各バイオマーカーに対する特異性の標的は組み合わせるバイオマーカーの数により変動するものであった。一例として、3バイオマーカーの組み合わせは、それぞれ個々のマーカーの特異性が少なくとも0.81/3=93%の場合は80%特異性に達することになる。表16は1〜9の組み合わせにおけるバイオマーカーの数に基づいた必要な特異性の値を列挙したものである。
【0149】
(表16:9個までのバイオマーカーの所定の組み合わせに対して全体的特異性0.8をターゲティングした場合のバイオマーカー当たりに必要とされる最小特異性)
【0150】
【表16】

(データの解釈)
本明細書においては、「マーカー性能」という用語はマーカーの真の生物学的判別力、並びに、生物学的試料の起源及び保存物、染色プロトコル、スキャニング過程、画像化及びデータマイニングの操作法に関する完全な実験的性能を包含する。
【0151】
(結果)
(1.バイオマーカー当たり)
(A.病理学者の採点)
病理学者の採点のみを考えた場合の最良の感度/特異性の組み合わせを与える閾値を計算した(MARSにおけるUSER_TYPE)。0.75の特異性を標的とした場合の大部分の有意な結果を表17に示す。
【0152】
(表17:バイオマーカーの最良の感度と特異性の組み合わせ(病理学者採点))
【0153】
【表17】

最良の感度と特異性の組み合わせを与える閾値はまた、乳房パネルの従来のマーカー(即ちER、PR、Ki67及びHer2/neu(CerbB2))に関する病理学者の評価のみを考えた場合についても計算した。0.75の特異性を標的とした場合の大部分の有意な結果を表18に示す。
【0154】
(表18:従来のマーカーの最良の感度と特異性の組み合わせ(病理学者採点))
【0155】
【表18】

各バイオマーカー及び従来の乳癌マーカー(即ちER、PR、Ki67及びHer2/neu(CerbB2))に関して、病理学者の評価のみを考えた場合の最良の感度/特異性の組み合わせを与える特徴及び閾値を計算した(USER_TYPE)。相当する受信者動作特性(ROC)曲線を作成した(データ示さず)。
【0156】
(B.単一特徴分析)
各バイオマーカーにつき、分析したバイオマーカーに関して意味があると決定された各MARS特徴を考えた場合の最良の感度/特異性の組み合わせを与える特徴及び閾値を計算した。相当するROCを作成した(データ示さず)。0.75の特異性を標的とした場合の各バイオマーカーに関して最良の結果を与える特徴及び閾値を表19にまとめた。
【0157】
(表19:MARS特徴から得られる各バイオマーカーに関する最良の感度及び特異性の組み合わせ(単一特徴アルゴリズム))
【0158】
【表19】

*決定規則1は閾値を超える患者が陽性とみなされる(即ち不良な実際の臨床転帰の場合には真の陽性)のに対し、決定規則8は閾値を超える患者が陰性とみなされる(即ち不良な実際の臨床転帰の場合には擬陰性)。
【0159】
(C.多重特徴分析)
各パーセント総括特徴を2つずつ組み合わせ、最良の感度/特異性の組み合わせを与える閾値を計算した。0.75の特異性を標的とした場合の各バイオマーカーに関する大部分の有意な結果を表20に示す。
【0160】
(表20:MARS特徴から得られる各バイオマーカーに関する最良の感度及び特異性の組み合わせ(多重特徴アルゴリズム))
【0161】
【表20】

*決定規則は2特徴のスペースにおける象限作用(quadrant affection)に相当する。
【0162】
(2.バイオマーカーの組み合わせ)
1〜9マーカーの可能な組み合わせの完全なセットを順次、マーカー当たり、病理学者採点、1つのMARS特徴、及び2つのMARS特徴を用いながら調査した。感度及び特異性はFDA様で順序に基づいた解釈方法に従って計算した。「FDA様」とはいずれかのマーカーのON(1)が転帰不良決定をもたらすことを意味する。即ち、マーカーの組み合わせは少なくとも1つのマーカーが陽性である場合に陽性とみなす。順序に基づいた解釈は各特定のON/OFF組み合わせの感度/特異性に依存している。病理学者の採点で得られた結果(表21)及びパーセント特徴の評価(表22)を以下に示す。
【0163】
【表21】

【0164】
【表22】

4及び6バイオマーカーの組み合わせに関する特定の例を実施例5に示す。
【0165】
(浸潤小葉癌(ILC)患者のデータを用いない分析)
表8に記載した患者集団を更に診断に基づいて細分した。特に、浸潤小葉癌(ILC)を有する患者のデータを除外し、そして得られたデータセットに対して上記した分析を実施した。本試験において分析した患者集団の詳細は表23に示す通りである。
【0166】
(表23:分析した患者集団(ILC患者を除く))
【0167】
【表23】

(結果)
(1.バイオマーカー当たり)
(A.病理学者の採点)
(表24:ILC患者データを除いた場合のバイオマーカーに関する最良の感度及び特異性の組み合わせ(病理学者採点))
【0168】
【表24】

(表25:ILC患者データを除いた場合の従来のマーカーに関する最良の感度及び特異性の組み合わせ(病理学者採点))
【0169】
【表25】

(B.単一特徴分析)
(表26:ILC患者データを用いない場合のMARS特徴から得られる各バイオマーカーに関する最良の感度及び特異性の組み合わせ(単一特徴アルゴリズム))
【0170】
【表26】

*決定規則1は閾値を超える患者が陽性とみなされる(即ち不良な実際の臨床転帰の場合には真の陽性)のに対し、決定規則8は閾値を超える患者が陰性とみなされる(即ち不良な実際の臨床転帰の場合には擬陰性)。
【0171】
(C.多重特徴分析)
(表27:ILC患者データを用いない場合のMARS特徴から得られる各バイオマーカーに関する最良の感度及び特異性の組み合わせ(多重特徴アルゴリズム))
【0172】
【表27】

*決定規則は2特徴のスペースにおける象限作用に相当する。
【0173】
(D.分析間の変動:全患者およびILC患者除外)
完全な患者集団(表8)及びILC患者を除外した集団(表23)の分析によるバイオマーカー毎に得られた感度及び特異性の値の変動を調べた。結果を以下の表28に示す。合計のコラム(d)はROC曲線に関する象限距離の差、即ち感度及び特異性における全体的増分を与える。
【0174】
(表28:完全な患者集団及びILC患者を除外した集団で得られた感度及び特異性の変動(バイオマーカー当たり))
【0175】
【表28】

(2.バイオマーカーの組み合わせ)
(A.病理学者採点)
(表29:異なる標的特異性(75%及び95%)及び異なる解釈アルゴリズムを用いたILC患者データを除外した場合のバイオマーカー組み合わせに関する最良の感度/特異性の組み合わせ(病理学者の採点))
【0176】
【表29】

*特異性、感度、(6)各患者は病理学者の評点により特性化する。
【0177】
(B.パーセンテージ特徴分析)
(表30:異なる標的特異性(75%及び95%)及び異なる解釈アルゴリズムを用いたILC患者データを除外した場合のバイオマーカー組み合わせに関する最良の感度/特異性の組み合わせ(パーセンテージ特徴))
【0178】
【表30】

*各患者は1、2及び3染色細胞のパーセンテージにより特性化する。
【0179】
表30は単一のパーセント特徴を用いた場合のILC患者を除外した5バイオマーカーの組み合わせを考えた場合の特異性の増大を示す(0.88と0.81、表28参照)。感度の上昇は試験の患者からILCを除外した場合の5バイオマーカーの順序に関する2特徴(0.71vs0.65、表28参照)を用いた場合に観察された。
【0180】
(C.分析間の変動:全患者およびILC患者除外)
完全な患者集団及びILC患者を除外した集団の分析によるバイオマーカーの組み合わせに対して得られた感度及び特異性の値の変動を調べた。結果を以下の表31に示す。合計のコラム(d)はROC曲線に関する象限距離の差、即ち感度及び特異性における全体的増分を与える。試験からILC患者を除外した場合、1つ又は2つのパーセンテージ特徴を使用した5バイオマーカー順序分析に関する性能の僅かな増分が観察された。
【0181】
(表31:完全な患者集団及びILC患者を除外した集団で得られた感度及び特異性の変動(バイオマーカー組み合わせ))
【0182】
【表31】

(実施例5:特異的バイオマーカー組み合わせ)
実施例4において上記した試験において得られたデータを更に分析して、特定のバイオマーカー組み合わせを検討した。4つ(SLPI/p21ras/E2F1/src)及び6つ(SLPI/p21ras/PSMB9/E2F1/src/phospho−p27)のバイオマーカーの組み合わせで得られた結果を以下に示す。
【0183】
(4つのバイオマーカーの組み合わせ:SLPI/p21ras/E2F1/src)
表32に示した閾値及び決定規則を用いてSLPI、p21ras、E2F1及びsrcについて1つのパーセンテージ特徴のみを用いながら分析を行った。E2F1がON(即ち1)であり、そしてONである唯一のバイオマーカーではない場合には、患者は転帰不良とみなされ;それ以外は転帰良好とみなす、という規則を用いた場合、60%感度及び80%特異性が得られた。図1はE2F1について不良及び転帰良好の患者の関数としてのパーセンテージ特徴の分布を示す。2.46%の閾値を用いた場合、それぞれ0.54及び0.75の感度及び特異性の値が得られた。
【0184】
(表32:4バイオマーカー分析に関するパーセンテージ総括特徴)
【0185】
【表32】

順序に基づいた解釈の方法を用いて4つのバイオマーカーの組み合わせを分析した。使用した順序に基づいた決定規則は、E2F1がON(即ち1)であり、そしてONである唯一のバイオマーカーではない場合には、患者は転帰不良とみなされ;それ以外は転帰良好とみなすというものであった。4バイオマーカーの可能な組み合わせの全てについて感度及び特異性の値を表33に示した。SLPI/p21ras/E2F1/src組み合わせについて順序解釈法を用いて得られたROC曲線を作成した(データ示さず)。
【0186】
(表33:SLPI、p21ras、E2F1及びSRCの組み合わせに関する順序に基づいた解釈方法を用いた感度及び特異性の組み合わせ)
【0187】
【表33】

*順序S0110はSLPI=OFF/p21ras=ON/E2F1=ON/src=OFFと読む。
【0188】
E2F1単独に基づいた解釈はそれぞれ54%及び75%の感度及び特異性を与えた。上記の順位に基づくアルゴリズム(即ちE2F1がON(即ち1)であり、そしてONである唯一のバイオマーカーではない場合には、患者は転帰不良とみなされ;それ以外は転帰良好とみなす)を用いた場合には、それぞれ60%及び80%の特異性及び感度が得られた。
【0189】
(6バイオマーカー組み合わせ:SLPI/p21ras/PSMB9/E2F1/src/phospho−p27)
表34に定義した閾値及び決定規則を用いて、SLPI、p21ras、E2F1、src、PSMB9及びphospho−p27の6バイオマーカーの組み合わせについて1つのパーセンテージ特徴のみを用いて分析を行った。
【0190】
(表34:6バイオマーカー分析のパーセンテージ総括特徴)
【0191】
【表34】

順序に基づいた解釈の方法を用いて6つのバイオマーカーの組み合わせを分析した。使用した順序に基づいた決定規則は、E2F1がON(即ち1)であり、そしてSLPI又は21rasのいずれか、又はE2F1及びいずれかの2バイオマーカー、又はSLPI及びいずれかの2バイオマーカー、又はいずれかの4バイオマーカー以上がONである場合は、患者は転帰不良とみなされ;それ以外は転帰良好とみなすというものであった。目的の6バイオマーカーの可能な組み合わせの全てについて感度及び特異性の値を表35に示した。SLPI/p21ras/E2F1/PSMB9/src/phospho−p27組み合わせについて順序解釈法を用いて得られたROC曲線を図2に示す。
【0192】
(表35:SLPI、p21ras、E2F1、PSMB9、SRC及びphospho−p27の組み合わせに関する順序に基づいた解釈方法を用いた感度及び特異性の組み合わせ)
【0193】
【表35】

上記した順序に基づくアルゴリズムを用いた場合にはそれぞれ70%及び77%の特異性及び感度が得られた。
【0194】
(実施例6:免疫組織化学分析のための試薬及び染色条件の最適化)
本明細書に開示した免疫組織化学的方法を用いた特定のバイオマーカーの発現の検出に関してSN比を最適化するために、最適な抗原賦活溶液及び条件、抗体濃度及び希釈剤の処方、及び検出の化学的パラメーターを選択するための実験を行った。実験の各セットにつき、通常のパラフィンブロックから円筒状の組織標本を取り出し、単一のブロックにそれらを組み立て、そして多重組織標本を含有する切片を調製することにより、バイオマーカー特異的組織マイクロアレイ(TMA)を構築した。各乳房バイオマーカーにつき2〜3点の予め選択された既知陽性及び陰性の腫瘍によるTMAを使用した。スライドを調製し、本質的に実施例1に記載の通り免疫組織化学分析を実施した。最適化実験の全ての間以下の対照試薬を使用した。
・陰性対照については、一次抗体の適用は既成のユニバーサル陰性試薬、非特異的マウス又はウサギIgGのいずれかに置き換えた。
・EF1−αを陽性対照として使用した。
・試験すべき各抗体について実現可能性の間に確立された最適化標識パラメーターに従って陽性マーカー対照スライドを操作した。
・陽性及び陰性腫瘍の両方を含有するバイオマーカー特異的TMAを各乳房マーカー抗体の試験において使用した。
【0195】
(1.抗原賦活の最適化)
(A.抗原賦活溶液)
以下に示す各抗原賦活溶液を目的のバイオマーカー抗体の各々を用いて試験した。個々で使用した時間及び温度は後に記載する通り標準的に受け入れられている値とした。
【0196】
(表36:試験した抗原賦活溶液)
【0197】
【表36】

スライドは病理学者が採点し、陽性及び陰性の腫瘍の間で標識の特異性及び強度を比較することにより、最良の性能を示した抗原賦活溶液を決定した。結果が本質的に陰性であった場合は、代替抗原賦活溶液をスクリーニングした。結果が陽性であった場合、即ち非抗原賦活よりもより高強度に標識された場合は、上位(1〜3)の溶液を発見し、抗原賦活の時間及び温度の試験のために用いた。選択された抗原賦活溶液の活性は、陽性及び陰性の全組織切片の代表的試料を標識することにより確認した。
【0198】
(B.抗原賦活条件−時間及び温度)
最良の性能を示した抗原賦活溶液を、以下の時間及び温度の基準を用いて試験した。
【0199】
(表37:試験した抗原賦活の時間及び温度の条件)
【0200】
【表37】

スライドは病理学者が採点し、陽性及び陰性の腫瘍の間で標識の特異性及び強度を比較することにより、最良の性能を示した抗原賦活の時間及び温度の組み合わせを決定した。選択された抗原賦活溶液の活性および時間と温度の組み合わせは、上記した対照を使用しながら陽性及び陰性の全組織切片の代表的試料を標識することにより確認した。
【0201】
(2.抗体希釈及び希釈剤処方の最適化)
(A.抗体希釈)
各乳癌バイオマーカー抗体を抗体希釈のある範囲にわたって試験した。表38はSLPI5G6.24抗体に対して試験した抗体希釈度の例を示す。全ての他の乳房バイオマーカー抗体は同様の態様に置いて試験した。
【0202】
(表38:試験した抗体希釈度)
【0203】
【表38】

スライドは病理学者が採点し、対照、既知陽性及び既知陰性の腫瘍の間で標識強度を検査した。標識データを分析することにより、所望の標識強度及び各抗体の使用範囲の広さを維持していた抗体希釈度の上限及び下限の両方を決定した。試験した初期希釈度範囲が上限及び下限の発見をもたらさなかった場合は、別の抗体希釈度を試験した。
【0204】
(B.抗体希釈剤の処方)
目的の乳房バイオマーカー抗体の各々を用いながら種々の抗体希釈剤を試験した。以下の表は試験した希釈剤のパラメーターの説明である。
【0205】
(表39:試験した抗体希釈剤)
【0206】
【表39】

スライドは標識強度について病理学者が採点した。実験スライドにバイオマーカー対照スライドの標識等級を比較することにより希釈剤処方の有効性を調べた。陽性及び陰性の腫瘍の標識を比較することにより最も特異的で高いSN比をもたらしたものをその後使用した。最適な標識強度を示した希釈剤処方(約1〜3)をその後の最適化及び安定性の試験に付した。選択された希釈剤の活性は、陽性及び陰性の全乳癌組織切片の代表的試料を標識することにより確認した。
【0207】
(3.検出化学法の最適化)
以下に示す時間及び濃度の範囲に渡ってDAKO Envision+検出キットを利用しながら乳房バイオマーカー抗体の各々を試験した。
【0208】
(表40:試験した検出化学法の時間及び濃度状態)
【0209】
【表40】

スライドは病理学者が採点し、対照、既知陽性及び既知陰性の腫瘍の間で標識強度を検査した。選択された検出化学法の時間及び濃度の組み合わせの活性は、陽性及び陰性の全乳癌組織切片の代表的試料を標識することにより確認した。
【0210】
(結果)
有意に向上したSN比は最適化された染色試薬の条件(データ示さず)と共に観察された。
【0211】
(実施例7:臨床試料中のバイオマーカーのリアルタイムPCR検出)
TaqMan(登録商標)リアルタイムPCRをABI Prism7700Sequence Detection System(Applied Biosystems,Foster City,CA)を用いて実施した。プライマー及びプローブは、本試験においてターゲティングされた乳房病気分類マーカー(例えばDARPP32及びNDRG−1)の特異的増幅のためにPrimer ExpressTMプログラム、バージョン1.5(Applied Biosystems,Foster City, CA)を使用しながら設計した。プライマー及びプローブに関する配列情報を以下に示す。
【0212】
(DARPP32:)
フォワードプライマー名:DARPP32_t1−F
配列:TACACACCACCTTCGCTGAAAG(配列番号33)
リバースプライマー名:DARPP32_t1−R
配列:GGCCTGGTTCTCATTCAAATTG(配列番号34)
TaqManプローブ名:DARPP32_t1−プローブ
配列:CGCATTGCTGAGTCTCACCTGCAGTC(配列番号35)
フォワードプライマー名:DARPP32_t2−F
配列:CAGCCTTACAGAGACTGGAAAAGAA(配列番号36)
リバースプライマー名:DARPP32_t2−R
配列:GAGGCTCAGGGACCCAAAG(配列番号37)
TaqManプローブ名:DARPP32_t2−プローブ
配列:CCAAACCAAGGCCCCCAGAGAGGT(配列番号38)
(NDRG−1:)
フォワードプライマー名:NDRG−1−F
配列:CCTACCGCCAGCACATTGT(配列番号39)
リバースプライマー名:NDRG−1−R
配列:GCTGTTGTAGGCATTGATGAACA(配列番号40)
TaqManプローブ名:NDRG−1−プローブ
配列:AATGACATGAACCCCGGCAACCTG(配列番号41)
プローブは5’塩基上では蛍光染料FAM(6−カルボキシフルオレセイン)で、そして3’塩基上ではクエンチング染料TAMRA(6−カルボキシテトラメチルローダミン)で標識した。アンプリコンの大きさは約100bpであった。18SリボソームRNAを内因性対照に適用した。18SrRNAプローブを蛍光染料VICで標識した。前発色させた18SrRNAプライマー/プローブ混合物をApplied Biosystems(P/N:4310893E)から購入した。20凍結乳房組織(即ち6転帰不良腫瘍、12転帰良好腫瘍、及び2正常組織)を本試験において分析した。本試験においては、転帰良好とは少なくとも5年間癌非存在存続として定義し、転帰不良は5年以内に疾患の回帰、再発又は死亡に至ったものとして定義した。凍結乳房組織から抽出した全RNA5μgを、High−Capacity cDNAArchive Kit(Applied Biosystems,P/N:4322171)を用いることにより、ランダムヘキサマー(オリゴdTではない)を有する一本鎖cDNA型に定量的に変換した。以下の反応試薬を製造した。
【0213】
(プライマー/プローブの20Xマスターミックス(200μl中))
180μMフォワードプライマー:20μl
180μMリバースプライマー:20μl
100μMTaqManプローブ:10μl
O:150μl
(最終反応ミックス(25μl/ウェル))
プライマー/プローブの20Xマスターミックス:1.25μl
2XTaqManUniversalPCRマスターミックス(P/N:4304437):12.5μl
cDNA鋳型:5.0μl
O:6.25μl
20XTaqManUniversalPCRマスターミックスをApplied Biosystems(P/N:4304437)より購入した。総容量25μl中の最終プライマー及びプローブ濃度はそれぞれ0.9μM及び0.25μMとした。全RNA10ngを反応の各ウェルに適用した。増幅条件は50℃2分間、95℃10分間、及び、2工程サイクルとしての15秒95℃及び60秒60℃を合計40サイクルとした。各施行において少なくとも3つの非鋳型対照反応混合物を使用した。全ての実験を3連で実施した。
【0214】
各反応の終了時に記録した蛍光強度を用いて以下の計算を行った。即ち、Rnは全ての成分を含有する反応のRn値であり、Rnは未反応試料のRn値であり(ベースライン値又はNTCで検出された値)である。ΔRnはRnとRnの差である。これはPCRにより発生するシグナルの大きさの指標である。標的遺伝子の発現濃度は比較C法により計算した。この方法は既知量の標準物質を使用しないが、選択された比較対照値に標的配列の相対量を比較する(18SrRNAをこの試験では比較対照として選択した)。MSExcel系のデータ分析に関して詳細な説明書を含んでいるApplied BiosystemsのTaqMan Human Endogenous Control Plate Protocolを参照できる。
【0215】
(結果)
各バイオマーカーを用いて、そして特定のプライマーを用いて得られた結果を以下の表に示す。正常乳房組織試料から得られた結果はNと標記し;乳癌試料から得られたものはTと標示した。
【0216】
(表41:DARPP32TaqMan(登録商標)結果)
【0217】
【表41】

DARPP32は2つの転写物、t1及びt2を有する。TaqMan(登録商標)のデータによれば、t1及びt2は両方とも、転帰良好を有するものと比較して転帰不良(太字)を有する乳房腫瘍において過剰発現されていた。
【0218】
(表42:NDRG−1TaqMan(登録商標)結果)
【0219】
【表42】

NDRG−1は1つの転写物を有する。TaqMan(登録商標)のデータによれば、NDRG−1は転帰良好を有するものと比較して転帰不良(太字)を有する乳房腫瘍において過剰発現されていた。
【0220】
(実施例8:10年臨床フォローアップによる化学療法ナイーブな患者集団におけるバイオマーカー過剰発現の検出(5バイオマーカーパネル))
本試験においては255例の早期乳癌患者から初回診断時又はその近傍において収集された乳房腫瘍組織試料をバイオマーカー過剰発現について分析した。10年臨床フォローアップデータは試験における全患者について入手可能であった。乳癌の治療の期間中のいずれの時点においても細胞毒性化学療法を受けた患者はいなかった。患者集団に関する臨床的人口統計学的特徴、分布及び標準的組織病理学的パラメーター(例えばER/PRホルモン受容体状態、組織学的等級等)は以下の表43に総括する。
【0221】
(表43:化学療法ナイーブな患者集団の臨床特徴)
【0222】
【表43】

SLPI、src、PSMB9、p21ras及びE2F1を包含する5つのバイオマーカーパネルの発現の検出は本質的に上記した通り実施した。即ち、実施例1に記載の通りDako Autostainerを用いながら乳房腫瘍試料を作成しバイオマーカー発現について染色した。バイオマーカー過剰発現は実施例4に記載の画像化分析を用いて測定した。
【0223】
5バイオマーカーパネルの予後判定性能はCox Proportional Hazards Model analysisを利用して検査した。例えば上出のSpruance et alを参照できる。各バイオマーカーの予後値及び/又は10年後無疾患の患者を超えた10年以内に疾患再発又は死亡に至った患者を発見するための組織学的特性を計算した。バイオマーカーパネルを用いない分析においては、年齢及び腫瘍の大きさはp値<0.05で独立した診断要因であることがわかった。バイオマーカーをこの分析に付加させた場合、それらはp値<0.0001で最高の統計学的に有意な独立した診断上の利用性を示した。Cox Proportional Hazards分析の結果は表44に総括する通りである。
【0224】
(表44:化学療法ナイーブの患者集団を用いたCox Proportional Hazards分析の結果(SLPI、src、PSMB9、p21ras及びE2F1バイオマーカーパネル))
【0225】
【表44】

SLPI、src、PSMB9、p21ras及びE2F1バイオマーカーパネルの診断性能を図3にKaplan−Meierプロットとしてグラフ標示する。x軸は初回診断からの年数を表し、y軸は無疾患生存のパーセントである。バイオマーカー分析とは無関係の一般的な乳癌集団に関する相当するグラフを図4に示す。これらのプロットは疾患の再発及び/又は原発疾患による死亡についてこの早期の乳癌患者集団をリスク層別するこのバイオマーカーパネルの能力を示している。再発及び/又は原発疾患による死亡の危険性は患者試料中で過剰発現するバイオマーカーの数が増大するに従って上昇する。過剰発現したバイオマーカーの数により発見された患者サブ集団の無疾患生存率は、0陽性、1陽性、2陽性、3以上陽性バイオマーカー群の比較のためのlog−rank試験により測定した場合、p値<0.001で相互に統計学的有意であった。本明細書に記載した画像化分析により過剰発現と分類されたバイオマーカーは「陽性」とみなす。
【0226】
乳癌患者の診断の最も重要な臨床的特徴の1つはエストロゲン受容体(ER)状態に関連しているため、ER陽性及び陰性の患者サブ集団においてCox Proportional Hazards分析を用いてSLPI、src、PSMB9、p21ras及びE2F1バイオマーカーパネルの予後判定性能を更に検査した。これらの2つのサブ集団の臨床経過管理及び予後は、ER陽性患者がタモキシフェン療法の候補であるのに対し、ER陰性患者は異なるために、相違している。分析結果は以下の表45に総括する。データはER陽性及び陰性の乳癌患者サブ集団の両方において目的の5バイオマーカーが予後の利用性を有していることを示している。従って、バイオマーカーSLPI、src、PSMB9、p21ras及びE2F1は患者のERの状態とは無関係に予後を示すものであるが、これらのバイオマーカーはERの状態と相関してもいる。
【0227】
(表45:化学療法ナイーブの患者集団を用いたCox Proportional Hazards分析の結果(ER陽性及び陰性の患者サブ集団におけるSLPI、src、PSMB9、p21ras及びE2F1バイオマーカーパネル))
【0228】
【表45】

(実施例9:10年臨床フォローアップによる化学療法ナイーブの患者集団におけるバイオマーカーの過剰発現の検出(6バイオマーカーパネル))
実施例8に記載した化学療法ナイーブの患者集団からの100患者(50転帰良好;50転帰不良患者)に由来する乳房腫瘍組織試料を目的の6バイオマーカー(SLPI、src、PSMB9、p21ras、E2F1及びMUC−1)のバイオマーカー過剰発現に関して分析した。6バイオマーカーパネルの発現の検出は代替の染色プラットホームVentana BenchMark XTをDako Autostainerの代わりに使用した以外は、本質的に上記した通りの自動化免疫組織化学的方法により実施した。Ventana BenchMark XTの操作に関する標準的なマニュアルは製造元より容易に入手できる。Ventana BenchMark XT染色プラットホームと共に使用した免疫組織化学的パラメーターへの追加的変更を以下の表46に総括する。バイオマーカー過剰発現は実施例4に記載した画像化分析を用いて前述の通り測定した。
【0229】
(表46:Ventana BenchMark XT染色プラットホームを用いたバイオマーカー染色に関する免疫組織化学的パラメーター)
【0230】
【表46】

*CC1及びCC2はVentanaから販売されている市販の細胞コンデショニング試薬を指す。抗原賦活時間に関しては、短縮=30分;標準=60分;及び延長=90分である。
【0231】
6バイオマーカーパネルの予後判定性能は上記した通りCox Proportional Hazards Model分析を用いて検査した。各バイオマーカーの予後値及び/又は10年後無疾患の患者を超えた10年以内に疾患再発又は死亡に至った患者を発見するための組織学的特性を計算した。目的のバイオマーカー(SLPI、src、PSMB9、p21ras、E2F1及びMUC−1)はp値0.0220で統計学的に有意な予後利用性を示した。Cox Proportional Hazards分析の結果は以下の表47に総括する。
【0232】
(表47:化学療法ナイーブの患者集団を用いたCox Proportional Hazards分析の結果(SLPI、src、PSMB9、p21ras、E2F1及びMUC−1バイオマーカーパネル))
【0233】
【表47】

SLPI、src、PSMB9、p21ras、E2F1及びMUC−1バイオマーカーパネルの予後判定性能を図5にKaplan−Meierプロットとしてグラフ標示する。x軸は初回診断からの年数を表し、y軸は無疾患生存のパーセントである。これらのプロットは疾患の再発及び/又は原発疾患による死亡についてこの早期の乳癌患者集団をリスク層別するこのバイオマーカーパネルの能力を示している。再発及び/又は原発疾患による死亡の危険性は患者試料中で過剰発現するバイオマーカーの数が増大するに従って上昇する。過剰発現したバイオマーカーの数により発見された患者サブ集団の無疾患生存率は、0陽性、1陽性、2陽性、3以上陽性バイオマーカー群の比較のためのlog−rank試験により測定した場合、p値<0.0065で相互に統計学的有意であった。上記した通り本明細書に記載した画像化分析により過剰発現と分類されたバイオマーカーは「陽性」とみなす。
【0234】
(表48:バイオマーカーヌクレオチド及びアミノ酸配列の情報)
【0235】
【表48】

明細書において言及した全ての出版物及び特許出願は本発明が関係する技術分野の当業者の水準を示している。全ての出版物及び特許出願はそれらの個々の出版物及び特許出願が特に、そして個別に、参照により本明細書に組み込まれた場合と同じ程度まで参照により本明細書に組み込まれる。
【0236】
上記した本発明は理解を明確化する目的のために説明及び例示によりある程度詳述したが、特定の変更及び変形は添付する請求項の範囲内で実施してよいことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0237】
【図1】図1は実際の乳癌の転帰の関数としての強度2で染色された細胞のパーセンテージの分布を示す。実験の詳細は実施例4に示す。
【図2】図2はSLPI/p21ras/E2F1/PSMB9/src/phospho−p27の組み合わせに関する順序にもとづいた解釈方法を用いて得られたROC曲線を示す。実験の詳細は実施例5に示す。
【図3】図3はSLPI、src、PSMB9、p21ras及びE2F1バイオマーカーパネルの予後判定性能に関するKaplan−Meierプロットを示す。実験の詳細は実施例8に示す。
【図4】図4はバイオマーカー過剰発現の分析とは無関係の一般的乳癌患者集団に関する長期生存のグラフ標示を示す。実験の詳細は実施例8に示す。
【図5】図5はSLPI、src、PSMB9、p21ras、E2F1及びMUC−1バイオマーカーパネルの予後判定性能に関するKaplan−Meierプロットを示す。実験の詳細は実施例9に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌患者の予後を評価するための方法であって、該方法は該患者由来の試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの過剰発現を検出することを含み、ここで該バイオマーカーはSLPI、p21ras、MUC−1、DARPP−32、phospho−p27、src、MGC14832、myc、TGFβ−3、SERHL、E2F1、PDGFRα、NDRG−1、MCM2、PSMB9及びMCM6よりなる群から選択され、そして該バイオマーカーの過剰発現は予後を示すものであり、そしてこれにより該乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項2】
前記バイオマーカーの過剰発現が予後不良を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リンパ節陰性乳癌患者の予後を評価するための方法であって、該方法は該患者由来の試料中の少なくとも2つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで該バイオマーカーの発現を検出することは、免疫組織化学的分析、核酸ハイブリダイゼーション又は定量的RT−PCRを実施することを含み、そして少なくとも2つの該バイオマーカーの過剰発現は予後不良を示すものであり、そしてこれにより該乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項4】
乳癌患者の予後を評価するための方法であって、該方法は該患者由来の試料中の少なくとも2つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで該バイオマーカーの発現を検出することは、免疫組織化学的分析、核酸ハイブリダイゼーション又は定量的RT−PCRを実施することを含み、そして少なくとも2つの該バイオマーカーの過剰発現の非存在は予後良好を示すものであり、そしてこれにより該乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項5】
少なくとも2つのバイオマーカーの過剰発現が予後不良を有する乳癌患者を予後良好を有する患者から特定的に識別する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記バイオマーカーが細胞周期の調節、DNA複製、転写、シグナル伝達、細胞増殖、侵襲、アポトーシス、タンパク分解又は転移に関与する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
乳癌患者の予後を評価するための方法であって、該方法は該患者由来の試料中の少なくとも2つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで該バイオマーカーの少なくとも1つの過剰発現は予後不良を示すものであり、ここで該バイオマーカーはSLPI、p21ras、MUC−1、DARPP−32、phospho−p27、src、MGC14832、myc、TGFβ−3、SERHL、E2F1、PDGFRα、NDRG−1、MCM2、PSMB9及びMCM6よりなる群から選択され、そしてこれにより該乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項8】
前記バイオマーカーがSLPI、PSMB9、MUC−1、src、E2F1及びp21rasよりなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、該方法が試料中の2つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで該バイオマーカーはSLPI及びE2F1であり、そしてここで該バイオマーカーの少なくとも1つの過剰発現が予後不良を示すものであり、そしてこれにより前記乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、該方法が試料中の3つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで該バイオマーカーはSLPI、E2F1及びMUC−1であり、そしてここで該バイオマーカーの少なくとも1つの過剰発現が予後不良を示すものであり、そしてこれにより前記乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項11】
請求項7に記載の方法であって、該方法が試料中の4つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで該バイオマーカーはSLPI、E2F1、MUC−1及びsrcであり、そしてここで該バイオマーカーの少なくとも1つの過剰発現が予後不良を示すものであり、そしてこれにより前記乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項12】
請求項7に記載の方法であって、該方法が試料中の5つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで該バイオマーカーはE2F1、SLPI、MUC−1、src及びp21rasであり、そしてここで該バイオマーカーの少なくとも1つの過剰発現が予後不良を示すものであり、そしてこれにより前記乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項13】
請求項7に記載の方法であって、該方法が試料中の6つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで該バイオマーカーはE2F1、SLPI、MUC−1、src、p21ras及びPSMB9であり、そしてここで該バイオマーカーの少なくとも1つの過剰発現が予後不良を示すものであり、そしてこれにより前記乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項14】
リンパ節陰性乳癌患者の予後を評価するための方法であって、該方法は該患者由来の試料中の少なくとも2つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで少なくとも2つの該バイオマーカーの過剰発現は予後不良を示すものであり、ここで該バイオマーカーは伏在する乳癌による乳癌再発又は死亡の尤度の評価について統計学的に有意であることがlog−rank検定を用いて決定され、そしてこれにより該乳癌患者の予後を評価する方法。
【請求項15】
乳癌患者の予後を評価するための前記方法が更に臨床情報の検査を含む請求項3に記載の方法。
【請求項16】
前記臨床情報が腫瘍の大きさ、腫瘍の等級、リンパ節の状態及び家族の病歴を含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法を用いて前記乳癌患者に対する治療方策を開発する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
乳癌患者の予後を評価するための前記方法がHer2/neuの発現水準の分析と組み合わせられる請求項3に記載の方法。
【請求項19】
乳癌患者の予後を評価するための前記方法が前記患者のエストロゲン受容体又はプロゲステロン受容体の状態の分析と組み合わせられる請求項3に記載の方法。
【請求項20】
乳癌患者の予後を評価するための前記方法が前記患者のエストロゲン受容体の状態とは無関係である請求項3に記載の方法。
【請求項21】
前記方法を用いてエストロゲン受容体陽性又はエストロゲン受容体陰性の乳癌患者の予後を評価する請求項3に記載の方法。
【請求項22】
前記乳癌患者が早期の乳癌を有する請求項3に記載の方法。
【請求項23】
乳癌患者の予後を評価するための方法であって、該方法が下記工程:
a)該患者から試料を得ること;
b)少なくとも1つの抗体に該試料を接触させること、ここで該抗体はバイオマーカータンパク質に特異的に結合し、ここで該バイオマーカータンパク質はSLPI、p21ras、MUC−1、DARPP−32、phospho−p27、src、MGC14832、myc、TGFβ−3、SERHL、E2F1、PDGFRα、NDRG−1、MCM2、PSMB9及びMCM6よりなる群から選択されること;
c)該バイオマーカータンパク質への該抗体の結合を検出すること;
d)該バイオマーカータンパク質が該試料中で過剰発現されているかどうか測定すること、ここで該バイオマーカータンパク質の過剰発現は予後不良を示すものであること;及び、
e)これにより該乳癌患者の予後を評価すること;
を含む方法。
【請求項24】
前記バイオマーカータンパク質がE2F1、SLPI、MUC−1、src、p21ras及びPSMB9よりなる群から選択される請求項23に記載の方法。
【請求項25】
乳癌患者の予後を評価するための方法であって、該方法が下記工程:
a)該患者から試料を得ること;
b)少なくとも2つの抗体に該試料を接触させること、ここで該抗体の各々は異なるバイオマーカータンパク質に特異的に結合すること;
c)該バイオマーカータンパク質への該抗体の結合を検出すること;
d)該バイオマーカータンパク質が該試料中で過剰発現されているかどうか測定すること、ここで少なくとも2つの該バイオマーカータンパク質の過剰発現は予後不良を示すものであること;及び、
e)これにより該乳癌患者の予後を評価すること;
を含む方法。
【請求項26】
前記バイオマーカータンパク質がSLPI、p21ras、MUC−1、DARPP−32、phospho−p27、src、MGC14832、myc、TGFβ−3、SERHL、E2F1、PDGFRα、NDRG−1、MCM2、PSMB9及びMCM6よりなる群から選択される請求項25に記載の方法。
【請求項27】
乳癌患者の予後不良を示す異なるバイオマーカータンパク質に前記抗体の各々が特異的に結合する少なくとも2つの抗体を含むキット。
【請求項28】
前記バイオマーカータンパク質が細胞周期の調節、DNA複製、転写、シグナル伝達、細胞増殖、侵襲、アポトーシス、タンパク分解又は転移に関与する、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記バイオマーカータンパク質がSLPI、p21ras、MUC−1、DARPP−32、phospho−p27、src、MGC14832、myc、TGFβ−3、SERHL、E2F1、PDGFRα、NDRG−1、MCM2、PSMB9及びMCM6よりなる群から選択される、請求項27に記載のキット。
【請求項30】
前記バイオマーカータンパク質がE2F1、SLPI、MUC−1、src、p21ras及びPSMB9よりなる群から選択される、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記キットが前記バイオマーカータンパク質に結合する抗体の検出のための薬品を更に含む請求項27に記載のキット。
【請求項32】
前記キットが市販の抗体結合検出システムと共に使用される請求項27に記載のキット。
【請求項33】
前記キットが陽性対照試料を更に含む請求項27に記載のキット。
【請求項34】
前記キットが使用のための説明書を更に含む請求項27に記載のキット。
【請求項35】
選択された治療への乳癌患者の応答を予測するための方法であって、該方法が該患者由来の試料中の少なくとも2つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで少なくとも2つの該バイオマーカーの過剰発現は陽性治療応答を示すものであり、そしてこれにより該治療への該乳癌患者の応答を予測する方法。
【請求項36】
選択された治療への乳癌患者の応答を予測するための方法であって、該方法が該患者由来の試料中の少なくとも2つのバイオマーカーの発現を検出することを含み、ここで少なくとも2つの該バイオマーカーの過剰発現は陰性治療応答を示すものであり、そしてこれにより該治療への該乳癌患者の応答を予測する方法。
【請求項37】
乳癌患者由来の試料中の少なくとも5つのバイオマーカーの発現を検出することを含む乳癌患者の生存の尤度を予測する方法であって、該バイオマーカーのいずれも過剰発現されないことは生存の増大した尤度を示し、そして該バイオマーカーの少なくとも2つが過剰発現されることが生存の低減した尤度を示す方法。
【請求項38】
前記バイオマーカーの増大した数の過剰発現が生存の低減した尤度を示す、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記バイオマーカーがSLPI、p21ras、MUC−1、DARPP−32、phospho−p27、src、MGC14832、myc、TGFβ−3、SERHL、E2F1、PDGFRα、NDRG−1、MCM2、PSMB9及びMCM6よりなる群から選択される、請求項37に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−513032(P2008−513032A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532688(P2007−532688)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/034152
【国際公開番号】WO2006/036788
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(507006097)トリパス イメージング, インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】