説明

乳製品の製造方法及び乳製品を包装するためのシステム

【課題】モツァレラチーズの扱いを容易にし、それの保存可能性を促進するためのモツァレラチーズの包装方法およびシステムを提供する。
【解決手段】パスタ・フィラータチーズの実質的なドライパッケージング処理、すなわち保存液を使用しないパッケージング処理と、高温パッケージング処理と、を備えるパスタ・フィラータチーズの包装方法。パスタ・フィラータチーズの割当てを収容する2つ又はそれ以上の半外殻6を備える複数割当て容器2を備えるパッケージングシステムであって、前記パスタ・フィラータチーズは前記半外殻6の各々の内部に保存液が無い状態でパッケージングされ、前記半外殻6の各々は封止用の可剥性又は非可剥性フィルムを用いて前記半外殻6の開口部に封止されるパッケージングシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳製品を製造及び包装するための方法に関し、特に、モツァレラチーズの扱いを容易にし、それの保存可能性を向上させるために研究されたモツァレラチーズの包装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モツァレラチーズは地中海沿岸で伝統的な、新鮮なパスタ・フィラータチーズ(fresh pasta filata cheese)である。パスタ・フィラータチーズは、凝乳後に、乳漿中の又は乳漿から出されたペーストの凝乳脱塩率(curd demineralization rate)が引き伸ばしに対して適当な値に達するまで該ペーストを熟成させる、乳牛又は水牛の牛乳の独特な処理方法によって特徴付けられる。近代的な処理方法において、適当な脱塩は乳酸ミクロフローラ(lactic microflora)による酸性化に加え、クエン酸、乳酸、酢酸による牛乳の酸性化によって達成することができ、この場合、熟成処理は行われず、過剰な乳漿からの凝乳の滴下/乾燥処理のみが行われる。
【0003】
次に、凝乳は機械を使用して又は熟練した作業者による伝統的な手作業により引き伸ばされ、そして伝統的な形状、すなわち円形又は組みひも状又はブロック状にかたどられる。
【0004】
引き伸ばされたペーストはほぼ完全に乾燥するまで放置されてもよいし、又は通常、水又は塩水である、いわゆる保存液中で保存されてもよい。前者の場合、通常、ピザのトッピングとして使用される(もちろん、他の食品に使用されてもよい)、柔らかく、弾性があり、密で、かつ乾燥した生地を有するチーズが得られる。このような引き伸ばされたペーストに対しては、通常、乳牛の牛乳が使用される。
【0005】
一方、後者の場合、保存液中で保存される、引き伸ばされたペーストは新鮮で、柔らかく、非常に湿潤した、水分の多い、牛乳の香りを有するチーズ、すなわち、乳牛又は水牛の牛乳から製造される真のモツァレラチーズが製造される。
【0006】
そして、モツァレラチーズは封止された袋又はトレー、又はチーズをそれの独特な鮮度及び湿気の特性とともに維持するために必要不可欠な保存液中にチーズを浸した状態で保持する気密状に封止された容器によってパッケージングされた状態で販売される。特に、保存液はモツァレラチーズの水和された表面を保持する役割を果たし、それによって脱水による黄ばみを防止する。
【特許文献1】欧州特許出願公開1516529号明細書
【発明の開示】
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、この保存システムはいくつかの欠点を有する。第一に、消費時にモツァレラチーズからは保存液が滴り落ち、不快であることが多く、したがって、通常、この作業は流し台の付近で行うか、又は滴下する液体を受容する容器を必要とする。さらに、モツァレラを一度に全部消費しなかった場合、もはや封止されていない開封された状態のパッケージ内の保存液の存在により該モツァレラの保存がさらに困難になる。市場で普通に販売されているモツァレラチーズは使い切りサイズでパッケージングされていないため、多くの場合、パッケージが開封された後に消費されなかった部分を保存する必要がある。
【0008】
さらに、本発明者は、保存液がシュードモナス科(pseudomonadacae)や大腸菌(coliformi)等の、多様な環境に遍在するミクロフローラによるモツァレラチーズの微生物学的汚染に適した状況を与えるため、一度開封されるとモツァレラチーズは急速に変質し、酸味及び苦味を呈し、不快な味を呈することを突きとめた。これらの微生物は成長のためにモツァレラの乳糖を利用するので、主に乳糖によってもたらされる新鮮な感覚及び牛乳の味も急速に消えてしまう傾向がある。
【0009】
したがって、本発明の中心的な課題は、典型的にはモツァレラチーズであるパスタ・フィラータチーズ、及び一方において鮮度及び優れた保存可能性を与え、他方において扱いやすさ及び使用における快適さを与える包装システムを提供することである。
【0010】
この課題は、付随する請求の範囲に記載されているような、パスタ・フィラータチーズの製造及び包装方法、及びそれによって得られるチーズの包装システムによって達成される。なお、請求の範囲の内容は本明細書にとって不可欠な部分である。
【0011】
本発明のさらなる特徴及び長所は本発明の例としての実施形態の記載からより明らかになるだろう。それらの実施形態は付随する図面への参照とともに(本発明を制限するものではない)実例として以下に示される。
【詳細な説明】
【0012】
本発明によって対処される問題は保存液を排除するために与えられる、パスタ・フィラータチーズの製造及び包装方法によって解決される。パスタ・フィラータチーズは好ましくは、乳牛又は水牛の牛乳から製造されるモツァレラチーズである。
【0013】
驚くべきことに、保存液の排除はチーズの微生物学的汚染の危険性を減少させ、それによってチーズの保存可能性を向上させるという長所を有するだけではなく、新鮮な感覚、モツァレラチーズに典型的な牛乳の味、及びそれの風味を長引かせるという長所を与えることが判明した。実際、本発明者は、保存液がチーズ中に存在する塩分及び乳糖を薄める傾向を有し、それによって、パッケージが開けられていない状態であっても、数日間の保存後に、それの感覚刺激性(organoleptic)の特性を消失させる傾向を有することを見出した。
【0014】
以下の表は製造日からの時間の経過に対する従来のモツァレラチーズ、すなわち保存液中で保存されたモツァレラチーズの化学的パラメーターの変化を示している。ここで、モツァレラチーズの貯蔵寿命は21日間に設定されていると考なければならない。
【表1】

【0015】
表1のデータから判るように、日が経つにつれて、モツァレラチーズから塩分及び主に乳糖が奪われ、それらは保存液中に入り込んでいく。
【0016】
これに対し、本発明の製造及び包装方法はモツァレラチーズの化学的パラメーターを不変な状態で保ち、それによってチーズの新鮮な感覚、風味、及び牛乳の味を長引かせる。
【0017】
本発明の引き伸ばされたペーストの製造方法は、引き伸ばされたペーストが適当な形状にかたどられた後、該引き伸ばされたペーストが冷却処理及び保存液による処理を行うことなく、高温状態でパッケージングされるという点で従来の方法とは異なる。
【0018】
本発明の引き伸ばされたペーストの製造方法は以下のように要約することができる。
【0019】
蛋白質に対する脂肪の割合が1になるように標準化された乳を低温殺菌する。この低温殺菌は好ましくは、約74℃で約18秒間行われる。
【0020】
好ましくは30℃から40℃の間の温度範囲、典型的には約36℃で、適当な量のクエン酸、及びレンネット酵素(rennet enzyme)又は化学凝固剤等の凝固剤を加えることによって凝固が起こる。約3.5分で凝固が起こり、その後、好ましくは約2分の固化時間が続く。
【0021】
このようにして得られた凝乳は引き伸ばす前に滴下させらせる。滴下時間は好ましくは、30分から1時間の範囲である。
【0022】
引き伸ばし処理は凝乳を水、又は重量比で1〜2%、好ましくは約1.5%の塩分比を有しかつ重量比で7%から12%の間の範囲、好ましくは約10%の脂肪の比率を有するように塩及び乳脂を加えた水の中に入れることによって行われる。この引き伸ばし用の液体は80℃より高い温度、好ましくは約90〜91℃にされ、そして凝乳は従来の技術に従って引き伸ばされ、かつ好ましくは適当な形状の型枠でかたどられる。
【0023】
上述の製造方法は欧州特許出願公開第1516529号明細書に詳細が記載されており、それの関連する記載、特に第4〜16頁及び実施形態1への参照は本願に組み込まれる。
【0024】
この段階において、本発明の方法は引き伸ばされかつかたどられたペーストが高温状態でパッケージングされるという点で従来の方法と異なる。図1に概略的に示されているパッケージング操作は、引き伸ばされかつかたどられたペーストが好ましくは50℃より高い温度、より好ましくは約60℃の温度を有するときに実施される。この高温パッケージングは所望の効果、特に、保存液が無い状況の下での感覚刺激性の特性及び高い湿潤性の保存可能性を得るために必要不可欠である。この高温パッケージングはさらに、製品の熱的汚染除去を可能にする。
【0025】
引き伸ばし及びかたどりユニット1で引き伸ばされかつかたどられたペーストは該ペーストを封止ユニット(熱又は超音波封止)に運ぶコンベヤベルト3上に配置された適当な容器2内に挿入される。このように封止されたパッケージはベルト5上で、グリコール/窒素トンネル等の冷却トンネル(図示せず)に運ばれる。
【0026】
つまり、パッケージング処理の後に冷却処理が行われ(従来技術では、これとは対照的にパッケージング処理の前に冷却処理が行われる)、それは30分から1.5時間の間の期間、好ましくは約1時間継続されてもよい。
【0027】
ここで、「パッケージング」とは製品を容器の中に入れ、当業者に周知な従来の方法に従って、例えば、パッケージの2つの縁部を熱封止する、又は可剥性又は非可剥性のラミネートフィルムを容器の開口部に封止することによって該容器を密閉することを意味する。
【0028】
上述したように、このパッケージングは実質的にドライパッケージングである。「実質的にドライパッケージング」とは容器内に保存液を注入することなく、引き伸ばされたペーストをパッケージングすることを意味する。
【0029】
このようにして次のような化学−物理パラメーターを有するパスタ・フィラータチーズが得られる。
【0030】
水分 62%
乾燥物質 38%
それのうち、
脂肪 17.5%
糖質 2%
蛋白質 17.5%
NaCl 0.6%
他の乾燥物質 0.4%
本発明の好ましい実施形態において、引き伸ばされたペーストの製造及び包装方法は製品の保存及び該製品の使用における快適性を促進する包装システムを与える。
【0031】
本発明の包装システムは複数割当て容器2を備える。図2に図示された実施形態において、この複数割当て容器2は、各々がパスタ・フィラータチーズの割当てを収容するように意図された2つの半外殻6からなる。これらの半外殻6の各々が開いている状態で、チーズの2つの割当てが外部環境から分離かつ隔離された状態で維持されるように可剥性又は非可剥性フィルム7が封止される。必要に応じて一度に一割当てだけが開封されるので、これはチーズの化学−物理及び感覚刺激性の特性のより長い期間に適した保存を与える。
【0032】
これら2つの半外殻6は該2つの半外殻6の端部8を接続する蝶番部9を備える。半外殻6の両方の端部8の蝶番部9に対して実質的に反対側の位置に配置されたタブ10は、該2つの半外殻6が容器の外殻を形成するために再び閉じられた後の、容器2の開封を容易にする。
【0033】
容器2は多層PE−PETから作製されてもよい。半外殻6の各々は食品に対して一般的に使用されている種類の可剥性又は非可剥性のラミネートフィルムを用いて封止される。この可剥性又は非可剥性のラミネートフィルムは半外殻6の突出した端部8に熱封止又は超音波封止されてもよい。
【0034】
容器2が再び閉じられたときに、両方の半外殻6は容器の予め設定された場所で、接着剤、又は熱又は超音波封止によって互いに固定されてもよい。ここまでチーズの2つの割当てを収容するパッケージングが説明されてきたが、これは単一割当て又は複数割当てが引き伸ばされたペーストの3つ又はそれ以上の割当てとともに使用されることができるということを排除するものではない。
【0035】
さらに、容器又は半外殻に対して球体又は半球体が説明されてきたが、これは立方形状又は他の多角形状を与えることができるということを排除するものではない。
【0036】
この目的のために、引き伸ばされたペーストは、好ましくはできるだけ隙間を作らないように半外殻内に収容されるために、適当な形状及び寸法にかたどられてもよい。(図2に示されているように)半外殻が半球体である場合、引き伸ばされたペーストはそれに類似した形状又は卵形体にかたどられてもよい。
【0037】
本発明のパッケージングシステムはチーズの適当な分配を可能にし、それによって、チーズの割当ての消費が他の割当ての保存可能性に害を与えないように、引き伸ばされたペーストの互いに分離された複数の単一分量を与えることを可能にする。同様な原理に従うと、互いに分離されかつ個々に封止され、そして保存液を含まずにパスタ・フィラータチーズを収容する、パスタ・フィラータチーズの3つ以上を含むパッケージングシステムを得ることができる。
【0038】
本発明の上述された全ての長所は以下のように要約することができる。
【0039】
・微生物学的汚染の減少による向上した保存可能性、
・チーズの感覚刺激性の特性、特に新鮮な香り、風味、及び牛乳の味の向上した保存、
・本発明のパッケージングシステムによる、改善した使用の快適性及び製品の保存、
・パッケージが開封されたときの手や道具の濡れ及び製品の滴下を排除することによる、飲食準備中のチーズの改善された扱いやすさ。
【0040】
ここまで本発明の特定の実施形態のみが説明されてきたこと、及び本発明の保護の範囲から外れることなく、当業者が特定の用途のために必要なこれらの実施形態に多様な変更を加えることができることは理解されなければならない。
【0041】
例えば、図面に図示されている実施形態において、蝶番式に開けることができる個々の部材からなる2つ又はそれ以上の半外殻は最終的な外殻を形成するために上述の方法によって最終的に互いに結合される分離した殻(valve)として与えられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の方法に対する製造ラインの概略的な図を示している。
【図2】開封した状態の、本発明に従ったパッケージの斜視図を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パスタ・フィラータチーズの実質的なドライパッケージング処理、すなわち保存液を使用しないパッケージング処理と、高温パッケージング処理と、を備えるパスタ・フィラータチーズの準備及び包装方法。
【請求項2】
前記実質的なドライパッケージング及び高温パッケージング処理は50℃より高い温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記50℃より高い温度は約60℃の温度である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
以下のステップを備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
(a)蛋白質に対する脂肪の割合が1になるような牛乳の標準化、及びそれに続く該標準化された牛乳の低温殺菌。
(b)30℃から40℃の間の範囲の温度でクエン酸及び凝固剤を加えることによる前記低温殺菌された牛乳の凝固。
(c)ステップ(b)中に得られた凝乳の滴下。
(d)80℃より高い温度での、重量比で1〜2%の塩分比及び重量比で7%から12%の間の範囲の脂肪の比率を有する引き伸ばし用の液体を生成するために塩及び乳脂を加えた水中での前記凝乳の引き伸ばし、及びそれに続く予め設定された形状の断片へのかたどり。
(e)請求項1〜3のいずれかに規定されたパッケージング、及びそれに続く0.5から1.5時間の間の範囲の期間の該パッケージングされた、引き伸ばされたペーストの冷却。
【請求項5】
前記標準化された牛乳の低温殺菌は約74℃の温度で約18秒間行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記凝固は約36℃の温度で約3.5分の期間行われ、その後に好ましくは約2分の期間の固化処理が行われる、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記滴下は30分から1時間の間の範囲の期間行われる、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記引き伸ばし処理は約1.5%の塩分比及び7%から12%の間の範囲の脂肪の比率を有するように塩及び乳脂を加えた水中において、90℃から91℃の間の範囲の温度で実施される、請求項4〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記パスタ・フィラータチーズはモツァレラチーズである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
各々が請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法に従って得られるようなパスタ・フィラータチーズの割当てを収容する2つ又はそれ以上の半外殻(6)を備える複数割当て容器(2)を備えるパッケージングシステムであって、
前記パスタ・フィラータチーズは前記半外殻(6)の各々の内部に保存液が無い状態でパッケージングされ、前記半外殻(6)の各々は封止用の可剥性又は非可剥性フィルム(7)を用いて前記半外殻(6)の開口部に封止されるパッケージングシステム。
【請求項11】
前記複数割当て容器(2)はパスタ・フィラータチーズの2つの割当てに対して構成され、前記容器(2)は突出した端部(8)を有する2つの半外殻(6)を備え、該突出した端部(8)は前記2つの半外殻(6)を接続する蝶番部分(9)を備え、タブ(10)が前記半外殻(6)の両方の前記端部(8)の前記蝶番部(9)に対して実質的に反対側の位置に配置される、請求項10に記載のパッケージングシステム。
【請求項12】
前記半外殻は半球体、立方形状、又は概略的に多角形状を有する、請求項10又は11に記載のパッケージングシステム。
【請求項13】
パスタ・フィラータチーズの前記割当てはモツァレラチーズである、請求項12に記載のパッケージングシステム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−110(P2009−110A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−150945(P2008−150945)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(500087844)ソシエタ・ペル・アツィオニ・エジディオ・ガルバニ (1)
【Fターム(参考)】