説明

乳酸とペプチドのブロック共重合体とその製造方法

【課題】 医用材料、ドラッグデリバリーシステムや、遺伝子デリバリー材料等に有用な、良好な生体吸収性と高い生体機能性を備えた乳酸とペプチドのブロック共重合体とその製造方法を提供する。
【構成】 ヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸にアミノ基が保護されたアミノ酸の混合酸無水物誘導体を、触媒の存在下、温和な反応条件で、完全にポリ乳酸の末端に活性アミノ酸を導入し、脱保護によりえられた活性アミノ末端基を有するポリ乳酸とN−アミノ酸カルボキシ無水物と反応させ、次式(I)で表されるアミド結合を有するポリ乳酸ブロック共重合体とする
【化1】


(式中、R1は炭素数1以上20以下の脂肪族基または芳香脂肪族基を示し、R2およびR3はアミノ酸側鎖の炭素で結合されている1価の残基を示し、m、nは整数を示し、lは10以下の正の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳酸とペプチドのブロック共重合体とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、ドラッグデリバリーシステムまたは遺伝子デリバリー材料等の医療用材料等として好適な、生体吸収性が優れた複数の官能基を有する、多岐反応型ポリ乳酸とペプチドのブロック共重合体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学合成の生体吸収性プラスチックとしては脂肪族系のポリエステルが主体となっている。そのなかにはポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートなどの他、乳酸を原料にしたポリ乳酸がある。このポリ乳酸は生体に害を与える事なく体内で分解吸収され、最終的には人間の代謝経路の中に存在している天然物であり、生体が吸収できる乳酸になるという生体吸収性の機能を有しているばかりでなく機械的、物理的および化学的性能が優れており非公害材料および医療用材料として近年注目されている(特許文献1〜3)。
【0003】
ただ、ポリ乳酸分子は主鎖に反応性官能基を有していないため、材料の改質や生体活性成分の導入などの点で制約されている。そこで、このような制約を克服するために、ポリ乳酸にペプチド等の活性成分を導入して反応活性を有するポリマーを構成し、この反応活性部分に薬物またはDNAを共有結合またはイオン結合して定着させることが考えられている。
【0004】
ところが、ペプチド構造をポリ乳酸分子中に導入するためには、ポリ乳酸には反応活性を有する活性アミノ基を導入することが不可欠となる。従来、このような、ポリ乳酸に活性アミノ基を導入する方法としては、触媒の存在下において、保護されたアミノ基とヒドロキシを有する化合物を出発物質とするラクチドの開環重合により得られるポリ乳酸を脱保護し、アミノ基末端を有するポリ乳酸を製造する方法が知られている。しかし、この方法は1官能性ポリ乳酸しか製造できず、2官能性ポリ乳酸や複数の官能基を有する多岐反応型ポリ乳酸は製造できないという欠点がある。また改良方法として、アルコール類化合物を原料としてラクチドの開環重合によりヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸を合成し、それをアミノ基が保護されたアミノ酸とN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いて縮合反応することによりアミノ酸末端を有するポリ乳酸を製造し、これを脱保護により末端活性アミノ基を有するポリ乳酸を合成する方法等も試みられている。だが、ポリ乳酸の第二ヒドロキシ末端基の反応性が低いうえに巨大な重合体鎖の立体障害のために、DCCによる縮合反応の進行は困難でありヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸のヒドロキシ末端基を完全にアミノ末端基に変更することはできないものとされていた。
【特許文献1】特開2001− 31762号公報
【特許文献2】特開2002−300898号公報
【特許文献3】特開2005−154514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のとおりの背景から、ポリ乳酸誘導体を分解させることなくヒドロキシ末端基を完全にアミノ末端基に変更してペプチド構造を有するポリ乳酸ブロック共重合体を製造することが可能で、多岐反応型ポリ乳酸の製造を可能とするだけでなく、乳酸およびアミノ酸のセグメントの分子量と性質の制御も可能とされる新しい技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するものとして、第1には、次の一般式(I)で表されるアミド結合を有するポリ乳酸ブロック共重合体を提供する。
【0007】
【化1】

(式中、R1は炭素数1以上20以下の脂肪族基または芳香脂肪族基を示し、R2およびR3はアミノ酸側鎖の炭素で結合されている1価の残基を示し、m、nは整数を示し、lは10以下の正の整数を示す。)
第2には、R2がフェニルアラニン、アラニン、グリシン、ロイシン、バリンおよびイソロイシンのうちの少くともいずれかの残基であることを特徴とする上記のポリ乳酸ブロック共重合体を提供する。
【0008】
第3には、R3がL−リジン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−セリン、およびL−チロシンのうちの少くともいずれかの残基であることを特徴とする上記のポリ乳酸ブロック共重合体を提供する
第4には、ヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体から形成された末端活性型アミノ基を有するポリ乳酸誘導体とアミノ酸−N−カルボキシ無水物と反応させることを特徴とする乳酸とペプチドからなるブロック共重合体の製造方法を提供する。
【0009】
第5には、アルコール類の共存下でのラクチドの開環重合によりヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体を合成する第一工程と、該ヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体のヒドロキシ末端基に触媒存在下でアミノ基が保護されたアミノ酸の混合酸無水物誘導体を反応させ、次いで保護されたアミノ基の脱保護反応により活性型アミノ末端基を有するポリ乳酸誘導体を合成する第二工程と、さらにアミノ酸−N−カルボキシ無水物を反応させる第三工程からなることを特徴とする上記の乳酸とペプチドのブロック共重合体の製造方法を提供する。
【0010】
第6には、ヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体が、一つのヒドロキシ末端基を有するか、または複数のヒドロキシ末端基を有することを特徴とする上記の乳酸とペプチドのブロック共重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリ乳酸のヒドロキシ末端基を完全にアミノ末端基に変更されたドラッグデリバリーシステムや遺伝子デリバリー材料等の医療用材料に好適な生体吸収性が優れた複数の官能基を有する多岐反応型ポリ乳酸とペプチドのブロック共重合体を提供することができる。
【0012】
また、本発明の製造方法によれば、ヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸を製造し、このポリ乳酸を分解させることなくヒドロキシ末端基を完全にアミノ末端基に変更してペプチド構造を有するポリ乳酸ブロック共重合体を製造できるとともに、出発物質としての乳酸およびアミノ酸の種類とその使用量を調整することによりブロック共重合体の各セグメントの分子量と性質が制御できる乳酸とペプチドからなるブロック共重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明が提供するペプチド構造を有するポリ乳酸ブロック共重合体は、前記のとおり、次の一般式(I)で表わされるものである。この式(I)において、l(エル)が1である場合は、AB型ブロック共重合体であり、lが2である場合は、ABA型ブロック共重合体であり、lが3及びそれ以上の場合は多岐反応型のブロック共重合体となる。
【0014】
【化1】

そして、式中R1は炭素数1以上20以下の脂肪族基または芳香脂肪族基を、R2およびR3はアミノ酸側鎖の炭素で結合されている1価の残基を示す。m、nは正の整数で、mが7〜140、望ましくは14〜70であり、nが10〜100、望ましくは15〜50である。この範囲を超えると、正確にブロック共重合体を製造できるには限らない。l(エル)は10以下の正の整数であれば、特に限定したものではない。
【0015】
本発明のブロック共重合は、前記のとおり、ヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体から形成された末端活性型アミノ基を有するポリ乳酸誘導体とN−アミノカルボキシ無水物とを反応させることにより製造することができる。この製造の方法は新規なものである。
【0016】
より具体的にこの製造方法について説明すると、以下の手順からなるものが好適に考慮される。
<第一工程>
触媒の存在下、ラクチドを、R1残基を与えるアルコール類を共存させて、開環重合させ、次の一般式(II)で表わされるヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体を合成する。
【0017】
【化2】

<第二工程>
生成された式(II)のポリ乳酸誘導体のヒドロキシ末端基を、アミノ基が保護されたアミノ酸の混合酸無水物誘導体と触媒の存在下で反応させ、次の一般式(III)で表されるアミノ基が保護されたアミノ酸末端基を有するポリ乳酸誘導体を合成し、次いで脱保護反応させて一般式(IV)で表される活性アミノ末端基を有するポリ乳酸誘導体を合成する。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

なお、式(III)中における符号Xはアミノ酸のアミノ基の保護基を示しており、たとえば、ベンジルオキシカルボニル(Z)基,t−ブトキシカルボニル(Boc)基、もしくは9−フロオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基を示している。
<第三工程>
生成された式(IV)の活性アミノ末端基を有するポリ乳酸誘導体に一般式(V)で表わされるアミノ酸−N−カルボキシ無水物を加えて次の反応式に従って開環重合反応させる。
【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

以上の反応工程についてさらに詳しく説明すると、まず、第一工程において用いられる、R1残基を与えるアルコールについては、R1が、炭素数1以上20以下の脂肪族基または芳香脂肪族基を表わすものであれば各種のアルコール類の1種以上のものであってよい。そしてR1残基は許容される各種の置換基を有していてもよいし、アルコール類は1価もしくは多価のアルコールであってもよい。たとえばこのようなアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ノナノール、デカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコ−ル、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、乳酸メチル、乳酸ブチル等のモノアルコール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ノナンジオール、テトラメチレングリコール、ジエチルグリコール、等のジアルコール、トリメチルオルプロパネ、ペンタエリトリトール(pentaerythritol):C(CH2OH)4、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、リビトール(ribitol)、エリスリトール(erythritol)等の多価値アルコール等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0022】
そして、第一工程の反応に用いられるラクチドとしては、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソ−ラクチドのいずれを用いても良く、単独でも複数の組み合わせを用いても差し支えない。
【0023】
第一工程での反応で、式(II)のポリ乳酸誘導体の生成におけるR1残基を与えるアルコール類の共存下でのポリ乳酸セグメント形成のためのラクチドの開環重合は公知の溶液重合あるいは溶融重合で行われるが、その際の触媒は、公知の触媒の任意のものが用いられるが、具体的には、錫、アンチモン、亜鉛、チタン、鉄、アルミニウム化合物を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
第一工程で生成されるヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体の分子量は、1000〜20000、望ましくは2000〜10000程度がよい。分子量が20000を超えるヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸は、これを第二工程での反応に用いた場合、そのヒドロキシ末端基を完全にアミノ末端基に変更できないことがあり、本発明の効果が得られない恐れがある。
【0025】
この出願の発明の第二工程では、前記式(II)のヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体のヒドロキシ末端基に触媒の存在下で、アミノ基が保護されたアミノ酸の混合酸無水物誘導体を反応させて前記式(III)で表わされる保護されたアミノ酸末端基を有するポリ乳酸を合成するが、その際に、アミノ基が保護されたアミノ酸の混合酸無水物とヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸のヒドロキシ末端基の比は1.1〜20、望ましくは3〜15、より望ましくは8〜12の範囲とするのがよい。
【0026】
アミノ基が保護されたアミノ酸の混合酸無水物誘導体は、たとえば下記一般式(VI)で表わすことができる。この化合物はアミノ基が保護されたR2を与えるアミノ酸とカルボン酸や酸塩化物、エステル、あるいはカーボネートとから容易に製造される。
【0027】
【化7】

ここでR2は、前記のとおり、アミノ酸側鎖の1価の残基を表すが、これを与えるアミノ酸は分子中に少なくとも1個のアミノ基と1個のカルボキシル基を有するものであれば特に限定されるものではない。製造過程の便利性からは2官能タイプが好ましい。
【0028】
市販品が容易で、かつ低コストで入手可能といった点からは、2官能タイプではフェニルアラニン、アラニン、グリシン、ロイシン、バリン、イソロイシン等が挙げられる。
【0029】
アミノ基の保護基Xとしては各種のものであってよく、たとえば前記のとおり、公知のベンジルオキシカルボニル(Z)基、t−ブトキシカルボニル(Boc)基、9−フロオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基のいずれも利用することができる。
【0030】
そして、式(VI)における符号Wは混合酸無水物残基を示している。たとえば(CH33C−,(CH3CH22CH−,i−BuO基等が例示される。
【0031】
また反応の第二工程では、アミノ基が保護されたアミノ酸末端基を有するポリ乳酸誘導体は、脱保護により前記の式(IV)の活性アミノ末端基を有するポリ乳酸誘導体に変換される。脱保護反応は保護基により異なり、いずれも公知の方法で行われるが、望ましくは無水条件で行われる。より望ましくは中性付近室温以下の温和な反応条件で行われる。たとえば、ベンジルオキシカルボニル(Z)基を用いた場合、Pdを触媒として用いて水素による接触還元反応法を挙げられる。t−ブトキシカルボニル(Boc)基を用いた場合には無水トリフロル酢酸による脱保護法が挙げられる。9−フロオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基を用いた場合にはピペリジンによる脱保護法が挙げられる。
【0032】
本発明の製造方法における第三工程では、以上の第二工程で生成された前記の式(IV)で表わされる活性アミノ末端基を有するポリ乳酸誘導体を前記式(V)で表わされるアミノ酸−N−カルボキシ無水物と反応させることになる。この反応によって前記の式(I)で表わされるブロック共重合体が生成される。
【0033】
式(V)におけるRはアミノ酸側鎖の1価の残基を表すが、これを与えるアミノ酸は、分子中に少なくとも1個のアミノ基と1個のカルボキシル基を有するものであれば特に限定されるものではない。R3は、共重合体に機能性を与えるという見地からヒドロキシル基、アミノ基、或いはカルボキシ基を有するものが好ましいが、共重合反応を妨害させないため、これらのヒドロキシル基、アミノ基、或いはカルボキシ基をあらかじめ保護させたものを望ましい。それを与えるアミノ酸は、市販品が容易に、かつ低コストで入手可能といった点からは、Nε−Z−L−リジン、L−アスパラギン酸−β−ベンジルエステル(L−aspartic acid−β−benzyl ester)、L−グルタミン酸−γ−ベンジルエステル(L−glutamic acid−γ−benzyl eater)、O−ベンジル−L−セリン(O−benzyl−L−serine)、O−ベンジル−L−チロシン(O−benzyl−L−tyrosine)などが挙げられる。
【0034】
本発明をさらに具体的に説明するために以下に実施例を述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
<第一工程>
乾燥した重合管に10gの精製されたL−ラクチドを入れ、数回重合管を脱気しては乾燥アルゴンを満たし、その後50mgの2−エチルへキサン酸錫を1Mのトルエン溶液として加えた。トルエンを真空中で蒸発させて重合管は再び数回脱気しては乾燥アルゴンを満たした後、0.37mlあるいは0.26mlのブチルアルコールを注射器で注入した。
【0036】
最終的に真空下封管して重合管を120℃のオイルバス内につけて48時間重合を行なった。得られた白い重合体充填物をクロロホルムに溶解し、冷却したメタノールに投入して再沈殿精製して得られた固形物を遠心分離した後、室温で風乾し、更に真空中で乾燥して白色粉末状のヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体を得た。
<第二工程>
一方、数回脱気して乾燥アルゴンを満たしたフラスコに1.33gのBOC−L−フェニルアラニンと0.70mlのTEAを入れて10mlの乾燥酢酸エチルで溶かした。この溶液に−10℃に冷却した0.61mlの塩化トリメチルアセチルを注射器で加えると直ちに白い沈殿が生成した。
【0037】
混合物を2時間0℃に保ち、その後1時間の間の室温で撹拌した。沈殿をろ過して取り除いた後、溶媒を蒸発して残留物を真空中で乾燥することにより、BOC−L−フェニルアラニン混合酸無水物が得られた。その白い固体を5mlの乾燥クロロホルム中に溶解してBOC−L−フェニルアラニン混合酸無水物溶液を得た。
【0038】
第一工程で生成された上記のヒドロキシ基末端を有するポリ乳酸誘導体2gを10mlの乾燥クロロホルムに溶かして、TEA(0.70ml)と4−(1−pyrrolidinyl)pyridine(74.1mg)を加え、0℃に冷やしてから、上記のBOC−L−フェニルアラニン混合酸無水物溶液を入れて、0℃で2時間保持した後、室温で36時間攪拌した。反応溶液を200mlの冷却したメタノールに注入して精製した沈殿物を遠心分離により回収し、BOC−L−フェニルアラニン末端を有するポリ乳酸誘導体が得られた。
【0039】
上記のBOC−L−フェニルアラニン末端を有するポリ乳酸誘導体2gをアルゴン雰囲気下で20mlの乾燥ジクロロメタンに溶かして0℃に冷却し、無水トリフルオロ酢酸6mlを加えて2時間反応して溶媒を真空中で蒸発した後、重合体をジクロロメタンで再融解し、2%の炭酸水素ナトリウム溶液と水で洗浄し、有機相を硫酸ナトリウムによって水分を除いた。最後に、冷却したメタノールに注いて沈殿させ、これを遠心分離によって集めて、真空中で乾燥することにより活性アミノ末端基を有するポリ乳酸誘導体を得た。
<第三工程>
上記の活性アミノ末端基を有するポリ乳酸誘導体0.5gと次式で表わされるNε−Z−リジン−Nカルボキシ無水物 1.0gあるいは2.0gを二つのフラスコに分別に入れ、数回脱気しては乾燥アルゴンを満たした後、乾燥ジクロロメタン20mlずつを加えて固体を溶解した。
【0040】
【化8】

各々の溶液を混合して室温で48時間撹拌して、回転蒸発器で溶媒を半分蒸発させ、得られた溶液を冷却したジエチルエーテルに注入して、ポリ乳酸とポリ(Nε−Z−L−リシン)(PLLA−b−PZLys)のブロック共重合体を沈殿させ、ろ過により回収し真空で乾燥した。
【0041】
上記のPLLA−b−PZLys 0.2gをフラスコに入れ、数回脱気しては乾燥アルゴンを満たした後、乾燥ジクロロメタンを加えて固体を溶かし、0℃に冷却してから、25%臭化水素酸/酢酸溶液を2.5mlを入れ、0℃で30分間撹拌した後、冷却したジエチルエーテルに注入して沈殿させた残留物をろ過して収集し、ジエチルエーテルで繰り返して洗浄した後、真空中で乾燥してポリ乳酸とポリ(L−リシン)(PLLA−b−PZLys)のブロック共重合体を得た。
【0042】
表1には、原料使用量を変更した場合の共重合体1−4について示しており、表中のaは、重合を行う際の原料の使用量から計算した重合度であり、bは、NMRによって実際に測定した結果である。
【0043】
この表1から、合成した共重合体の重合度と分子量は、原料であるラクチドとブチルアルコール及びアミノ酸−N−カルボキシ無水物の仕込み比で制御可能であることがわかる。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるアミド結合を有するポリ乳酸ブロック共重合体。
【化1】

(式中、R1は炭素数1以上20以下の脂肪族基または芳香脂肪族基を示し、R2およびR3はアミノ酸側鎖の炭素で結合されている1価の残基を示し、m、nは整数を示し、lは10以下の正の整数を示す。)
【請求項2】
2がフェニルアラニン、アラニン、グリシン、ロイシン、バリンおよびイソロイシンのうちの少くともいずれかの残基であることを特徴とする請求項1のポリ乳酸ブロック共重合体。
【請求項3】
3がL−リジン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−セリン、およびL−チロシンのうちの少くともいずれかの残基であることを特徴とする請求項1または2のポリ乳酸ブロック共重合体。
【請求項4】
ヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体から形成された末端活性型アミノ基を有するポリ乳酸誘導体とアミノ酸−N−カルボキシ無水物と反応させることを特徴とする乳酸とペプチドからなるブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
アルコール類の共存下でのラクチドの開環重合によりヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体を合成する第一工程と、該ヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体のヒドロキシ末端基に触媒存在下でアミノ基が保護されたアミノ酸の混合酸無水物誘導体を反応させ、次いで保護されたアミノ基の脱保護反応により活性型アミノ末端基を有するポリ乳酸誘導体を合成する第二工程と、さらにアミノ酸−N−カルボキシ無水物を反応させる第三工程からなることを特徴とする請求項4の乳酸とペプチドのブロック共重合体の製造方法。
【請求項6】
ヒドロキシ末端基を有するポリ乳酸誘導体が、一つのヒドロキシ末端基を有するか、または複数のヒドロキシ末端基を有することを特徴とする請求項4または5の乳酸とペプチドのブロック共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2007−56079(P2007−56079A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240417(P2005−240417)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】