説明

乳酸の製造方法

【課題】高い収率でしかも安価に乳酸を製造できる方法を提供すること
【解決手段】乳酸菌の培養における培地が窒素源として乾燥酵母を含むことを特徴とする、乳酸菌による乳酸の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸の製造方法に関するものである。特に、本発明は、乳酸菌を用いて高い発酵効率で乳酸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、乳酸のポリマーであるポリ乳酸は、生分解性ポリマーとして、用途が拡大することが期待されている。中でも、光学活性乳酸のポリマーである、ポリL−乳酸とポリD−乳酸との混合物は、ステレオコンプレックスポリ乳酸と呼ばれ、ポリD−乳酸やポリL−乳酸と較べて耐熱性等において優位な効果を有するため、最近特に注目されている。ステレオコンプレックスポリ乳酸の原料であるポリD−乳酸はD−乳酸から、またポリL−乳酸は、L−乳酸から製造されるため、D−、およびL−乳酸の需要も高まっている。
【0003】
今日得られる乳酸としては、石油化学製品から化学合成によって製造される乳酸と発酵により製造される乳酸とがある。このうち、石油化学製品から化学合成によって製造される乳酸は、一般に乳酸エステルの形で精製されるため高純度であるが、ラセミ体であり、光学活性を有しない。一方、発酵により製造される乳酸は、L体またはD体の光学活性体およびラセミ体が存在し、発酵に使用する微生物の種類により自由に必要とする光学活性体を調製できる。このように、光学活性を持つ乳酸は、特に医薬や農薬分野において強く求められているものの、現在のところ発酵法でしか生産することができないのが現状である。
【0004】
一般的に乳酸菌による発酵法により乳酸を得る場合、その生産効率を上げるために、酵母エキスやポリペプトン、肉エキスなどの窒素源が培地中に添加される。しかしながら、酵母エキスやポリペプトンなどは非常に高価である故、最終的な乳酸の生産コストは高価なものとなる。そのため、その問題を解決するために現在までに様々な試みがなされてきた。例えば、特許文献1では、ピルビン酸を発酵培地に添加して乳酸を生成させる技術が開示されている。また、特許文献2では、発酵に用いられる炭素源としての澱粉を培地中に含み、さらにアミロース加水分解糖化酵素を付加的に存在させる技術が開示されている。さらに異なる技術としては、バシラス属に属する微生物を用いて、酵母エキス濃度が低い培地中においてD−乳酸を生産する方法がある(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−159091号公報
【特許文献2】特開平2−76592号公報
【特許文献3】特開2003−88392公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記いずれの技術を用いても、いまだ満足のいく生産効率で乳酸を製造することができず、依然高価なポリペプトンや酵母エキスなどが相当量培地中に添加されているのが現状である。よって、安価でかつより高い発酵効率で乳酸菌を培養できる方法の確立が依然として要求されている。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高い収率でしかも安価に乳酸を製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、乳酸を発酵により生産する際に、コストのうち最も大きな部分を占めているポリペプトンや酵母エキスの代替となる窒素源について鋭意研究を行った結果、乳酸菌の培養における培地に窒素源として乾燥酵母を含ませた場合、従来より高い発酵効率でしかも安価に乳酸を生産できることを知得し、本発明を完成するに至った。
【0008】
さらに、別の手段として、乳酸菌の培養における培地に窒素源として麦芽根、ポリペプトンおよび酵母エキスを含ませた場合、従来より高い発酵効率でしかも安価に乳酸を生産できることを知得し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、培地中に特定の窒素源を添加するという簡便な方法にもかかわらず、乳酸を高効率で生産できる。この方法は、特に特別な操作や装置を必要とするものではないので、乳酸を工業的に生産する場合に特に有利である。また、窒素源として用いる材料が安価であるため、工業的に生産した場合、最終生成物である乳酸の生産コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
本発明では、乳酸を製造する際の発酵培地が、窒素源として乾燥酵母を含むことが主な特徴である。窒素源として、乾燥酵母を含むことにより、安価でしかも高い生産効率で乳酸を製造することが可能となる。
【0012】
乾燥酵母は、栄養要求性の高い乳酸菌が資化できる有用な窒素源である。また、乳酸を生産するためのコストがポリペプトンや酵母エキスは非常に高価であるのに対し、それと比較して乾燥酵母は安価であるという利点がある。このため、窒素源として乾燥酵母を使用することによって、乳酸菌による窒素源の利用効率は維持したまま、従来、窒素源としてしばしば使用されていた高価な酵母エキスやポリペプトンの使用量を減らすことができ、ゆえに、製造される乳酸のコストを有意に軽減することができる。
【0013】
本発明に必須の成分である「乾燥酵母」とは、酵母を乾燥し、粉末状にしたものである。使用される酵母としては、ビール酵母、パン酵母、清酒酵母などが好適であるが、とりわけビールの醸造の際に副産物として得られるビール酵母は安価かつ安定的に入手できるのでより好ましい。乾燥酵母はこれらの酵母を常法により乾燥したものを用いることができる。
【0014】
本発明に使用される乾燥酵母の培地中への添加量は、乳酸菌が良好に生育でき、かつ効率よく乳酸を生産できる量であれば、特に制限されないが、好ましくは全培地中3〜30g/Lであり、より好ましくは全培地中4〜25g/L、特に好ましくは5〜15g/Lである。
【0015】
本発明において、乳酸菌の培養における培地に窒素源としてさらに麦芽根を含むことが好ましい。麦芽根の添加により、乳酸の産生量がさらに増加し、乳酸の生産効率を上昇させることができる。さらに、麦芽根は、大麦を製麦して麦芽を製造する際の副生物であるため、乾燥酵母と比べても非常に安価であり、また本来廃棄されるべき麦芽根を利用するため、環境負荷軽減の意味でも有意である。
【0016】
本発明において、「麦芽根」は、麦芽が発芽した直後の幼根である。麦芽根の製造方法は、公知であり、本発明においても同様の方法が適用でき、原料である、大麦、小麦、ライ麦等の製麦副生物である穀皮、穂軸等を含む麦芽根は、大麦、小麦、ライ麦等を製麦して麦芽を製造する際に副生物として生ずるものであれば何れも使用することができる。この副生物は製麦時に生じた麦芽根の他、大麦、小麦、ライ麦等の外皮である穀皮、穂軸、護頴、芒等の不要物を含んでいてもよい。この際、麦芽根は、上記したようなそのままの形態で使用されても、麦芽根を粉砕して使用しても、麦芽根を乾燥した後、粉砕して使用しても、熱水などによって麦芽根から所望の窒素成分を抽出した液体の形態で使用しても、いずれの形態でもよいが、麦芽根を粉砕する、または麦芽根を乾燥した後、粉砕することによって、粉末の形態で使用することが好ましい。このような形態であれば、乳酸菌による窒素源の利用効率を上げることができるからである。
【0017】
本発明において、麦芽根が用いられる場合は、乾燥酵母との合計で、全培地中3〜30g/Lであることが好ましく、より好ましくは4〜25g/L、特に好ましくは5〜15g/Lである。この範囲であれば、さらに乳酸の生産効率が上昇するので、好ましい。また、乾燥酵母と麦芽根との比率が、乾燥酵母:麦芽根=100:1〜1:100であることが好ましく、より好ましくは、10:1〜1:10、さらに好ましくは、10:1〜1:2である。この範囲であると、さらに乳酸の生産効率が上昇するので、好ましい。
【0018】
本発明において、使用される乳酸菌は、乳酸を生産できる微生物であれば特に制限されず、得られる乳酸の所望の形態(DあるいはL−体)によって適宜選択される。所望の形態がD−体である場合には、使用できる乳酸菌は、D−乳酸を生産できる微生物であれば特に制限されないが、例えば、ラクトバチラス属(Lactobacillus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、及びスポロラクトバチラス属(Sporolactobacillus)に属する微生物などが好ましく使用できる。これらのうち、D−乳酸の生産能を考慮すると、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus bifidus、Lactobacillus bifidus Pennsylvanicus、Lactobacillus brevis、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus casei、Lactobacillus caucasicus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus hilgardii、Lactobacillus lactia、Lactobacillus leichmannii、Lactobacillus thermophilus、及びLactobacillus trichodes等の、ラクトバチラス属(Lactobacillus)に属する微生物がより好ましく、特にラクトバチラス・デブルキイー(Lactobacillus delbrueckii)、最も好ましくはラクトバチラス・デブルキイー IFO3202株(Lactobacillus delbrueckii IFO3202)が使用できる。また、所望の形態がL−体である場合には、使用できる乳酸菌は、L−乳酸を生産できる微生物であれば特に制限されないが、例えば、ラクトバチラス属(Lactobacillus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、及びスポロラクトバチラス属(Sporolactobacillus)に属する微生物などが好ましく使用できる。これらのうち、L−乳酸の生産能を考慮すると、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei等の、ラクトバチラス属(Lactobacillus)に属する微生物がより好ましく、特にラクトバチラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、最も好ましくはラクトバチラス・ラムノサス IFO3863(Lactobacillus rhamnosus IFO3863)が使用できる。
【0019】
また、本発明で使用される乳酸菌は、上記したような野生株に加えて、UV照射、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)処理などの、当該分野において既知の変異処理によって得られる変異株、細胞融合や遺伝子組換技術などの遺伝学的手法により誘導される組換株などを使用してもよい。なお、上記変異処理や遺伝学的手法は、当該分野において既知の方法と同様の方法が使用できる。また、上記遺伝子組換株の宿主としては、所望の遺伝子を形質転換してタンパク質を発現できるものであれば特に制限されず、親株と同じ属種であってもあるいは属種の異なるものを宿主として使用してもよいが、上述したような乳酸菌と同じ属種のものを宿主として使用することが好ましい。
【0020】
本発明は、また、乳酸の製造する際の発酵培地が、窒素源として麦芽根、ポリペプトンおよび酵母エキスを含むことも主な特徴である。麦芽根は、上述したように安価な窒素源として有用であり、窒素源の一部を麦芽根に置換することにより、高価なポリペプトンおよび酵母エキスの使用量を減らすことができ、結果として安価でかつ大量に乳酸を生産することが可能となる。
【0021】
本発明で用いられるポリペプトンおよび酵母エキスは従来公知のものを使用できる。麦芽根、ポリペプトンおよび酵母エキスは、合計で好ましくは全培地中3〜30g/Lであり、より好ましくは全培地中4〜25g/L、特に好ましくは5〜15g/Lである。また、麦芽根、ポリペプトンおよび酵母エキスは、質量比で、麦芽根:(ポリペプトン+酵母エキス)=1:20〜20:1であることが好ましく、より好ましくは1:10〜10:1、特に好ましくは1:5〜5:1である。さらに、ポリペプトン:酵母エキス=1:20〜20:1であることが好ましく、より好ましくは1:10〜10:1、特に好ましくは1:5〜5:1である。この範囲であれば、乳酸の生産効率が高く、乳酸の製造において非常に有用である。
【0022】
本発明の乳酸菌の培養をするにあたって、寒天培地等の固体培地に斜面培養したものを直接培養用の培地に植菌して、本発明の方法による培養を行なってもよい(場合によっては、種培養と区別するために「本培養」とも記載する)が、乳酸菌を予め液体培地で培養(種培養)したものを、本発明の方法にかかる培養(本培養)に使用することが好ましい。このような方法によると、乳酸菌の成長をより向上できるからである。
【0023】
本発明の方法において、種培養に使用される培地の組成は、本培養に使用される培地の組成と、同一であってもあるいは異なるものであってもよく、使用される乳酸菌の種類に応じて適宜選択され、一般的に乳酸菌を接種/培養するために市販されている培地が使用できる。例えば、本発明において特に好ましく使用されるラクトバチラス・デブルキー IFO3202株(Lactobacillus delbrueckii IFO3202)を用いる場合には、一般乳酸菌接種用培地「ニッスイ」などが種培養用の培地として好ましく使用され、その培地組成は下記実施例の表1に示される。なお、上記種培養に使用される培地は、乳酸菌の本培養に使用するのに十分な量の菌体量が得られれば上記に制限されるものではなく、他の乳酸菌を培養するに適することが知られている組成の培地、上記組成を変えたもの、上記組成における成分を変えたものなど、様々な組成が使用できる。
【0024】
本発明の方法において、本培養に使用される培地の組成は、本発明の要素を具備する限り、特に制限されるものではないが、好ましくは一般的な炭素源、無機塩を含む。
【0025】
本発明による乳酸菌の培養において使用できる炭素源としては、上記菌株が良好に生育し、乳酸を順調に産生できうるものであれば特に制限されず、公知の炭素源が使用できる。例えば、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、シュークロース、サッカロース、セルロース、デンプンまたはその組成画分、焙焼デキストリン、加工デンプン、デンプン誘導体、物理処理デンプン及びα−デンプン等の炭水化物;グリセリン、マンイトル、キシリトール、リビトール等のポリアルコールなどの発酵性糖質などが使用できる。または、具体例としては、上記発酵性糖質を含むデンプン糖化液、トウモロコシやコメの加水分解物、糖蜜、農業廃棄物の加水分解液、可溶性デンプン、アミロース、アミロペクチン、マルトオリゴ糖、シクロデキストリン、プルラン、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン及びデキストリン等の炭水化物を使用してもよい。これらの炭素源のうち、乳酸菌の産生及び乳酸の生産性の観点から、グルコース、フルクトース及びグリセロールが好ましく使用され、特にグルコースが好ましい。これらの炭素源は、単独あるいは2種以上の混合物の形態で使用できる。
【0026】
上記炭素源の培地における使用濃度は、特に制限されず従来と同様の濃度で使用できるが、有機酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高い濃度であることが好ましい。通常、炭素源の濃度は、培地中、好ましくは5〜30(w/v)%、より好ましくは5〜20(w/v)%である。
【0027】
本発明による培養に使用できる無機塩としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄及び亜鉛などのリン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び酢酸塩等から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。この際、無機塩の培地における使用濃度は、特に制限されず従来と同様の濃度で使用できるが、有機酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高い濃度であることが好ましい。通常、無機塩の濃度は、培地中、好ましくは0〜0.5(w/v)%、より好ましくは0〜0.4(w/v)%である。
【0028】
乳酸菌の生育を促進する目的で、上記培地に、ビオチン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育促進因子をさらに添加してもよい。なお、上記生育促進因子は、上記に限定されるものではなく、当該分野において使用される他の生育促進因子もまた同様に使用でき、また、添加する場合の生育促進因子の培地への添加量もまた、特に制限されるものではなく、当該分野において通常使用される量と同様の量が使用できるが、好ましくは、生育促進因子の培地中の濃度が、0.1(w/v)%以下、より好ましくは0.0001〜0.01(w/v)%となるような量である。なお、上記生育促進因子は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0029】
また、培養時の発泡を抑えるために、消泡剤を培地に添加してもよい。この際、消泡剤は、公知の消泡剤が同様にして使用でき、市販の消泡剤を使用してもよい。また、消泡剤を使用する場合の培地への添加量もまた、特に制限されず、当該分野において使用される通常の量が同様にして使用でき、適宜選択される。なお、上記消泡剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0030】
また、本発明では、上記必須の窒素源に加えて、他の窒素源を使用してもよい。本発明による乳酸菌の培養において使用できるその他の窒素源としては、例えば、アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム及び塩化アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム等の硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、大豆粉末、カゼイン、ミルクカゼイン、カゼイン分解物、カザミノ酸等の無機窒素化合物、肉エキス、ペプトン、各種アミノ酸及びコーンスティープリカー等の有機窒素化合物などが使用できる。これらの他の窒素源は、特に制限されるものではないが、本発明の効果を有意に得るためには、0〜0.1(w/v)%であることが好ましい。
【0031】
また、本発明の方法の培養において使用される培地のpHは、乳酸菌が乳酸を生成できる環境であれば特に制限されないが、通常約2〜9程度である。
【0032】
本発明において、乳酸菌の培養は、通常嫌気的条件下で行われ、その際の培養条件は、培地の組成や培養法によって適宜選択され、本菌株が増殖し、所望の乳酸が効率よく産生できる条件であれば特に制限されない。具体的には、培養温度は、乳酸菌が速やかに生育できる条件であれば特に制限されないが、通常は、20〜40℃、より好ましくは30〜40℃の温度で培養される。
【0033】
上記したように、乳酸菌によって生成した乳酸は、培養液中に蓄積されるので、培養液から乳酸を分離・精製することによって、所望の乳酸が回収できる。この際、乳酸の培地からの回収方法は、特に制限されず、公知の方法が単独であるいは適宜組合わせて同様にして適用できる。具体的には、培地を、遠心分離や濾過等によって不溶な物質(菌体、添加される場合には麦芽根などを含む)を除去した後、イオン交換樹脂などで脱塩し、その溶液から、結晶化やカラムクロマトグラフィー等の常法に従って所望の乳酸を分離・精製することができる。
【実施例】
【0034】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0035】
(実施例1〜3)
オートクレーブにより滅菌した一般乳酸菌接種用培地「ニッスイ」(培地組成は、下記表1参照)に、Lactobacillus delibrueckii IFO3202を一白金耳植菌する。これを37℃、24時間静置培養を行ない、種培養液を調製した。
【0036】
【表1】

【0037】
次に、下記表2に示す発酵培地A2.0Lを5L容の通気攪拌型バイオリアクターに入れてオートクレーブ滅菌した後、これに上記種培養液を100mL接種し、37℃にて窒素ガスを通気しながら144時間静置培養を行なった。
【0038】
【表2】

【0039】
ここで、発酵培地中の窒素源として、下記表3に示した量で乾燥酵母(実施例1〜3)、ポリペプトン:酵母エキス=1:1(質量比)(比較例1〜3)、麦芽根(比較例4〜6)を使用した。表3および図1に各実施例、比較例のD−乳酸の生産量を示した。
【0040】
【表3】

【0041】
なお、本実施例において、D−乳酸の生成量は、下記条件によるHPLCによる分析によって測定した。
【0042】
<HPLC分析条件>
カラム:東ソー製 TSKgel OAPak−A
(内径:7.8mm、カラム長:30.0cm)
溶媒: 0.75mM 硫酸水溶液
流速: 1ml/min
検出器:RI(屈折率測定)
カラム温度:40℃
また、本実施例において、生産した乳酸の形態(D体またはL体)は、下記条件に従って光学純度を測定することによって、確認した。
【0043】
<光学純度測定条件>
カラム:住化分析センター製 Sumichiral OA−5000
(内径:4.6mm、カラム長:15.0cm)
溶媒: 1mM 硫酸銅水溶液
流速: 1ml/min
検出器:UV(紫外線吸収、波長:254nm)
カラム温度:40℃
上記実施例1〜3及び比較例1〜6の結果を比較すると、本発明の方法、すなわち乾燥酵母を含む培地で乳酸を製造する方法によると、D−乳酸が高い収率で得られることが分かった。なお、実施例1〜3で得られた乳酸の光学純度は、各実施例とも99%以上であった。
【0044】
(実施例4〜7)
上記実施例1〜3と同じ種培養液、発酵培地、発酵条件を用い、実施例1〜3と同様にD−乳酸の生産量を測定した。本実施例では、窒素源として、乾燥酵母(実施例4)、乾燥酵母と麦芽根(実施例5〜7)、麦芽根(比較例7)を下記表4の量で用いた。図2および表4に各実施例、比較例のD−乳酸の生産量を示した。
【0045】
【表4】

【0046】
上記実施例1〜3及び比較例1〜6の結果を比較すると、本発明の方法、すなわち乾燥酵母を含む培地で乳酸を製造する方法によると、D−乳酸が高い収率で得られることが分かった。さらに乾燥酵母に加えて、麦芽根を培地中に添加すると、D−乳酸がより高い収率で得られることが分かった。なお、実施例4〜7で得られた乳酸の光学純度は、各実施例とも99%以上であった。
【0047】
(実施例8〜10)
上記実施例1と同じ種培養液、発酵培地、発酵条件を用い、実施例1〜7と同様にD−乳酸の生産量を測定した。本実施例では、麦芽根、ポリペプトンおよび乾燥酵母を下記表5の量で用いた。図3および表5に各実施例、比較例のD−乳酸の生産量を示した。
【0048】
【表5】

【0049】
上記実施例8〜10と比較例8、9の結果を比較すると、本発明の方法、すなわち麦芽根、酵母エキスおよびポリペプトンを含む培地で乳酸を製造する方法によると、D−乳酸が高い収率で得られることが分かった。なお、実施例8〜10で得られた乳酸の光学純度は、各実施例とも99%以上であった。
【0050】
(実施例11、12)
上記実施例1〜10と同じ種培養液、発酵培地を用い、発酵培地2.0Lをオートクレーブ滅菌した後、5L容のジャーファーメンターに上記種培養液を100mL接種し、37℃にて窒素ガスは通気しないで、144時間静置培養を行い、24時間毎にD−およびL−乳酸の生産量を測定した。実施例11では実施例1〜10で用いたLactobacillus delbruckii IFO3202を、実施例12では、Lactobacillus rhamnosus IFO3863を用いた。また、本実施例では、窒素源として、乾燥酵母5.5g/L、麦芽根4.5g/Lを培地中に添加したものを用いた。なお、L−乳酸の生産量および光学純度の測定は、前記D−乳酸の生産量および光学純度測定で用いた方法を使用した。図4に24時間毎のD−乳酸の生産量を、図5に24時間毎のL−乳酸の生産量を示した。
【0051】
図4,5に示されるようにD−乳酸、L−乳酸ともに本発明の方法により、高い収率で生産できることが分かった。なお、実施例11,12で得られた乳酸の光学純度は、99%以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】培地中の各窒素源量に対する、D−乳酸の生産量を示すグラフである。
【図2】培地中の乾燥酵母および麦芽根量に対する、D−乳酸の生産量を示すグラフである。
【図3】培地中の麦芽根、ポリペプトンおよび酵母エキス量に対する、D−乳酸の生産量を示すグラフである。
【図4】培養時間に対する、D−乳酸の生産量を示すグラフである。
【図5】培養時間に対する、L−乳酸の生産量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素源として乾燥酵母を含む培地中で乳酸菌を培養する段階を有することを特徴とする、乳酸菌による乳酸の製造方法。
【請求項2】
乳酸菌の培養における培地が窒素源としてさらに麦芽根を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地に含まれる乾燥酵母と麦芽根とが、合計で全培地中3〜30g/Lであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記乳酸菌は、D−乳酸を生産するラクトバチラス属(Lactobacillus)に属することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記乳酸菌は、L−乳酸を生産するラクトバチラス属(Lactobacillus)に属することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
窒素源として乾燥酵母を含むことを特徴とする、乳酸菌が乳酸を製造するための培地。
【請求項7】
窒素源として麦芽根、ポリペプトンおよび酵母エキスを含む培地中で乳酸菌を培養する段階を有することを特徴とする、乳酸菌による乳酸の製造方法。
【請求項8】
前記培地に含まれる麦芽根、ポリペプトンおよび酵母エキスが、合計で全培地中3〜30g/Lであることを特徴とする特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記乳酸菌は、D−乳酸を生産するラクトバチラス属(Lactobacillus)に属することを特徴とする請求項7または8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記乳酸菌は、L−乳酸を生産するラクトバチラス属(Lactobacillus)に属することを特徴とする請求項7または8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
窒素源として麦芽根、ポリペプトン、および酵母エキスを含むことを特徴とする、乳酸菌が乳酸を製造するための培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−215428(P2007−215428A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37213(P2006−37213)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月25日 社団法人日本生物工学会発行の「日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【Fターム(参考)】