説明

乳酸系ポリマー組成物からなる成形品および熱成形品の製造方法

【課題】透明性、耐熱性および生産性に優れた乳酸系ポリマー組成物からなる成形品、シートおよび多層シート、該シートもしくは多層シートを二次成形して得られる熱成形品の生産性に優れた製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の成形品は、乳酸系ポリマー(A)100重量部、アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機結晶核剤(B)0.1〜3重量部および結晶化促進剤(C)0.1〜7重量部を含む乳酸系ポリマー組成物からなり、結晶化度20〜50%に結晶化させた際の透明性(ヘイズ)が、JIS K6714に準じて測定した厚さ450μm換算値で15%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸系ポリマー組成物、該組成物からなる成形品およびその製造方法に関する。より詳しくは、透明性を維持したまま結晶化を促して耐熱性を付与できる乳酸系ポリマー組成物、該組成物からなる成形品およびシート、該シートを二次成形して得られる熱成形品ならびに該熱成形品の生産性に優れた製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックから作られる成形物の材料としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート樹脂が使用されている。かかる樹脂から製造された成形物は透明性に優れているものもあるが、廃棄する際その処理方法を誤るとゴミの量を増加させる。さらに、自然環境下では殆ど分解しないため、埋設処理すると半永久的に地中に残留する。
【0003】
一方、熱可塑性樹脂で生分解性を有するポリマーとして、乳酸系ポリマー、例えば、ポリ乳酸や、乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマーなどが開発されている。乳酸系ポリマーは、動物の体内で数カ月から1年以内に100%生分解し、また、土壌や海水中に置かれた場合、湿った環境下では数週間で分解を始め、約1年から数年で消滅し、さらに、その分解生成物は、人体に無害な乳酸と二酸化炭素と水になるという特性を有している。
【0004】
このような乳酸系ポリマーの成形体(例えば、3次元的形状を有するボ卜ル等の成形品、2次元的形状を有する未延伸のフィルムやシート、1次元的形状を有する未延伸のフィラメントや糸)は、通常、成形直後は非晶性であり、光を散乱する原因となる光の波長と同程度以上の大きさの結晶が殆ど存在しないので透明である。
【0005】
しかしながら、この透明な成形品は、通常、ガラス転移温度(Tg)が低く非晶性であるがゆえに耐熱性に劣る。例えば、非晶性ポリ乳酸容器は透明性に優れているが耐熱性が低く、熱湯や電子レンジを使用することができず、用途が限定されていた。また、耐熱性を向上させるために、成形加工時に結晶化温度付近に保持した金型内に充填することにより、あるいは、成形後に非晶性の成形品を熱処理(アニール)等することにより、結晶化度をあげると、通常、光を散乱する原因となる光の波長と同程度以上の大きさの結晶(例えば、球晶)が急速に成長して、成形品は不透明となってしまう。
【0006】
そこで、上記乳酸系ポリマーに結晶核剤を添加して結晶化を促進することにより、シートや成形品の耐熱性を向上することが検討されてきたが、樹脂そのものの透明性を阻害することなく耐熱性を付与することは困難であった。
【0007】
例えば、特開2002−146170号公報(特許文献1)には、可塑剤と結晶核剤とを必須成分とし、可塑化されたポリ乳酸樹脂に特定の結晶性を付与することにより、実用性の高いフィルムが得られることが記載されている。しかしながら、この方法によると、添加した結晶核剤の粒子径が大きいこと、あるいはその添加量が多いことから、透明性が著しく低下し、良好な透明性を有するシートや成形品を得ることは困難である。
【0008】
また、特開平9−278991号公報(特許文献2)には、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコールおよび脂肪族カルボン酸エステルからなる群より選択された少なくとも1種の透明核剤と乳酸系ポリマーとからなる組成物を成形し、成形時または成形後に熱処理することにより、透明性および結晶性が付与された成形体およびその製造方法が記載されている。しかしながら、この場合、結晶化にかかる時間が長いため、生産性の観点から工業的に実施できるレベルには至っていない。
【0009】
また、特開2004−204143号公報(特許文献3)には、生分解性ポリエステルと層状珪酸塩とからなる組成物および該組成物を用いた成形体に関する技術が開示されている。しかしながら、この方法では、添加した層状珪酸塩の分散状態を、透明性を阻害しない程度に微細に制御することが難しく、高度な透明性を達成することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−146170号公報
【特許文献2】特開平9−278991号公報
【特許文献3】特開2004−204143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術における課題を解決しようとするものであり、透明性、耐熱性および生産性に優れた乳酸系ポリマー組成物、該組成物からなる成形品および該成形品の生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。より詳しくは、耐熱性を付与するに十分な結晶化度および結晶サイズを抑制することのできる乳酸系ポリマー組成物、該組成物からなる成形品、シートおよび多層シート、該シートもしくは多層シートを二次成形して得られる熱成形品、該熱成形品の生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、乳酸系ポリマー組成物をある条件下で加熱処理を行い結晶化させる際に、結晶核剤を特定量添加することにより、結晶の大きさを制御して透明性を維持し、また結晶化促進剤を特定量添加することにより、乳酸系ポリマー組成物の機械物性を実質上損なうことなく維持したまま結晶化速度を著しく促進させ得ることを見出した。さらに、このような乳酸系ポリマー組成物からなるシートを、特定の結晶化度にした後、二次成形することにより、耐熱性および透明性に優れた熱成形品を、優れた生産効率で得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成された。
【0013】
すなわち、本発明に係る第1の乳酸系ポリマー組成物は、乳酸系ポリマー(A)100重量部、アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機結晶核剤(B)0.1〜3重量部、および結晶化促進剤(C)0.1〜7重量部を含むことを特徴とする。
【0014】
前記有機結晶核剤(B)はエチレンビスカルボン酸アミドであることが好ましい。また、前記結晶化促進剤(C)の含有量は0.5〜7重量部であることが好ましい。
本発明に係る第2の乳酸系ポリマー組成物は、乳酸系ポリマー(A)100重量部、2種以上の2つ以上のアミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドの混合物を含んでなる有機結晶核剤(B)0.1〜3重量部、および結晶化促進剤(C)0.1〜7重量部を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の第1および第2の乳酸系ポリマー組成物において、前記乳酸系ポリマー(A)がポリ乳酸であること、前記有機結晶核剤(B)が、2種以上のエチレンビスカルボン酸アミドの混合物を含んでなること、前記結晶化促進剤(C)が、フタル酸誘導体、イソフタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、マレイン酸誘導体、クエン酸誘導体、イタコン酸誘導体、オレイン酸誘導体、リシノール酸誘導体、リン酸エステル類、ヒドロキシ多価カルボン酸エステル類および多価アルコールエステル類からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る成形品は、前述した本発明の乳酸系ポリマー組成物からなり、90℃に保持したときの容積保持率が90%以上であることが好ましい。
本発明に係るシートは、前述した本発明の乳酸系ポリマー組成物からなり、60〜130℃の温度で5〜120秒間加熱した後のシート中の有機結晶核剤(B)の平均分散粒径が0.01〜1.0μmであることが好ましい。本発明に係る多層シートは、前述した本発明のシートを少なくとも1層含んでなる。
【0017】
本発明に係る熱成形品は、前述した本発明のシートまたは多層シートを二次成形して得られ、90℃に保持したときの容積保持率が90%以上であることが好ましい。
本発明に係る熱成形品の製造方法は、前述した本発明のシートもしくは多層シートを60〜130℃に加熱し、前記乳酸系ポリマー組成物からなるシートの結晶化度を20〜50%とした後、二次成形することを特徴とする。前記シートもしくは多層シートを60〜130℃に加熱することにより、前記乳酸系ポリマー組成物からなるシートの結晶化度が20〜50%となる加熱時間は、熱成形方法によっても異なるが、1〜60秒であることが好ましい。この方法により得られた熱成形品は65℃以上の耐熱収縮性を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、透明性、耐熱性および生産性に優れた乳酸系ポリマー組成物、該組成物からなる成形品、シートおよび多層シート、ならびに、該シートもしくは多層シートを二次成形して得られる熱成形品を得ることができる。また、本発明によれば、前記成形品もしくは熱成形品を、生産効率に優れた方法により製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る乳酸系ポリマー組成物、該組成物からなる成形品、シートおよび多層シート、該シートもしくは多層シートを二次成形して得られる熱成形品、ならびに、該熱成形品の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明におけるシートとは、厚みが10μm〜10mm程度のシートおよびフィルムの両方を意味する。
【0020】
〔乳酸系ポリマー組成物〕
本発明の乳酸系ポリマー組成物は、(A)乳酸系ポリマー、(B)有機結晶核剤および(C)結晶化促進剤を含む。より具体的には、第1の態様として、(A)乳酸系ポリマー100重量部、(B)アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機結晶核剤0.1〜3重量部、および(C)結晶化促進剤0.1〜7重量部を含んでなる組成物が挙げられる。また、第2の態様として、(A)乳酸系ポリマー100重量部、(B)2種以上の2つ以上のアミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドの混合物を含んでなる有機結晶核剤0.1〜3重量部、および(C)結晶化促進剤0.1〜3重量部を含んでなる組成物が挙げられる。
【0021】
(A)乳酸系ポリマー
本発明で用いられる乳酸系ポリマー(A)は、乳酸単位を50モル%以上、好ましくは75モル%以上含むポリマーであり、具体的には、(1)ポリ乳酸、または乳酸−他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸コポリマー、(2)多官能多糖類および乳酸単位を含む乳酸系ポリマー、(3)脂肪族多価カルボン酸単位、脂肪族多価アルコール単位および乳酸単位を含む乳酸系ポリマー、ならびに(4)これらの混合物である。これらの中では、使用時の透明性および耐熱性等を考慮すると、好ましくはポリ乳酸および乳酸−他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸コポリマーであり、さらに好ましくはポリ乳酸である。なお、乳酸にはL−乳酸とD−乳酸とが存在するが、本発明において、単に乳酸という場合は、特にことわりがない限り、L−乳酸およびD−乳酸の両方を意味する。
【0022】
上記乳酸系ポリマー(A)の原料としては、乳酸類およびヒドロキシカルボン酸類が用いられる。乳酸類としては、L−乳酸、D−乳酸、これらの混合物または乳酸の環状2量体であるラクタイドを使用することができる。なお、高い結晶性を発現するためには、このような乳酸類を原料とする乳酸系ポリマーにおいて、L−乳酸含有率またはD−乳酸含有率が大きい方が好ましい。具体的には、乳酸単位中におけるL−乳酸またはD−乳酸の含有率が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
【0023】
また、上記乳酸類と併用できるヒドロキシカルボン酸類としては、炭素数2〜10のヒドロキシカルボン酸類が好ましい。具体的には、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などを好適に使用することができる。また、ヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、グリコール酸の2量体であるグリコライドや、6−ヒドロキシカプロン酸の環状エステルであるε−カプロラクトンも使用できる。原料としての乳酸類とヒドロキシカルボン酸類との混合物は、得られるコポリマー中の乳酸含有率が50%以上、好ましくは75%以上になるように、種々の組み合わせで使用することができる。
【0024】
上記乳酸系ポリマー(A)を得るためには、公知公用の方法を用いることができる。例えば、上記原料を直接脱水重縮合する方法や、上記乳酸類やヒドロキシカルボン酸類の環状2量体、例えばラクタイドやグリコライド、あるいはε−カプロラクトンのような環状エステル中間体を開環重合させる方法などが挙げられる。
【0025】
直接脱水重縮合して製造する場合、原料である乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類との混合物を、好ましくは有機溶媒の存在下で共沸脱水縮合して重合することにより、本発明に適した強度を持つ高分子量の乳酸系ポリマーが得られる。特に、有機溶媒としてフェニルエーテル系溶媒を用い、共沸により留出した溶媒から水を除去し、実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻すことが好ましい。
【0026】
乳酸系ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3万〜500万、より好ましくは5万〜100万、さらに好ましくは10万〜30万、特に好ましくは10万〜20万である。また、その分散度(Mw/Mn)は、2〜10、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6、さらに好ましくは2〜4、特に好ましくは2〜3である。乳酸系ポリマーの重量平均分子量(Mw)や分散度(Mw/Mn)が前記範囲にあることにより、結晶化時の速度が早く、成形可能な乳酸系ポリマー組成物が得られる。
【0027】
なお、本発明の乳酸系ポリマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、上記乳酸系ポリマー(A)以外の他の樹脂を混合してもよい。
(B)有機結晶核剤
本発明における有機結晶核剤(B)とは、上記乳酸系ポリマー組成物内に存在し、ある条件下で加熱処理を行った際に結晶核となり、結晶化を促進させる効果を有するものである。その際、結晶の大きさおよび数を制御して透明性を保持することが好ましい。
【0028】
本発明で用いられる有機結晶核剤(B)は、アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機化合物である。
具体的には、カプリン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド等の炭素数8〜30の脂肪族カルボン酸モノアミドや、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘニン酸アミド、へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等の脂肪族カルボン酸ビスアミドなど、分子内にアミド結合を有する脂肪酸アミド類を挙げることができる。
【0029】
上記有機結晶核剤(B)は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記乳酸系ポリマー(A)がポリ乳酸の場合、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドおよびへキサメチレンビスベヘニン酸アミドが好ましい。また、上記乳酸系ポリマー(A)が、乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体や、乳酸単位、他の脂肪族多価カルボン酸単位および脂肪族多価アルコール単位を含む共重合体の場合は、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの脂肪族カルボン酸モノアミドが好ましい。
【0030】
なお、上記本発明の乳酸系ポリマー組成物の第2の態様では、異なる2種以上の2つ以上のアミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機結晶核剤(B)を用いる。これにより、それぞれの有機結晶核剤を独立に分散させ、透明性を維持したまま、大きな結晶化促進効果が得られる。
【0031】
上記本発明の組成物の第2の態様に用いられる、2つ以上のアミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドとしては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘニン酸アミド、へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドなどが挙げられる。
【0032】
上記の中では、いずれの2種以上を組み合わせてもよいが、特に、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドの中から選ばれた少なくとも2種の混合使用が安価で、かつ効果的である。
【0033】
本発明の乳酸系ポリマー組成物の第1の態様において、上記有機結晶核剤(B)の総添加量は、乳酸系ポリマー(A)100重量部に対して、0.1〜3重量部、好ましくは0.1〜1.5重量部、さらに好ましくは0.2〜1.0重量部である。また、本発明の乳酸系ポリマー組成物の第2の態様において、上記有機結晶核剤(B)の総添加量は、乳酸系ポリマー(A)100重量部に対して、0.1〜3重量部、好ましくは0.3〜2重量部、さらに好ましくは0.5〜1.5重量部である。
【0034】
(C)結晶化促進剤
本発明における結晶化促進剤(C)とは、上記乳酸系ポリマー組成物を何等かの方法(例えば、熱処理)により結晶化させた時に、結晶化速度を促進する作用を有するものをいう。なお、結晶化促進剤(C)は、乳酸系ポリマー(A)の透明性を実質上損なわない効果を有することが好ましい。
【0035】
上記結晶化促進剤(C)としては、例えば、ジ-n-オクチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート等のフタル酸誘導体、ジオクチルイソフタレート等のイソフタル酸誘導体、ジ-n-ブチルアジペート、ジオクチルアジペート等のアジピン酸誘導体、ジ-n-ブチルマレエート等のマレイン酸誘導体、トリ-n-ブチルシトレート等のクエン酸誘導体、モノブチルイタコネート等のイタコン酸誘導体、ブチルオレート等のオレイン酸誘導体、グリセリンモノリシノレート等のリシノール酸誘導体、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート等のリン酸エステル、ポリエチレンアジペート、ポリアクリレートアセチルクエン酸トリブチル等のヒドロキシ多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート等の多価アルコールエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール誘導体、ベンジル=2-(2-メトキシエトキシ)エチル=アジパートなどが挙げられる。
【0036】
これらの中では、少量で結晶化速度を促進する効果を示し、安価でかつ容易に入手できるクエン酸誘導体、ポリアルキレングリコール誘導体、ヒドロキシ多価カルボン酸エステル類および多価アルコールエステル類が好ましく用いられる。
【0037】
具体的には、ポリエチレングリコール、ATBC(商品名;ジェイ・プラス(株)製)、ダイファッティー101(商品名;大八化学(株)製)、リケマールPL−710(商品名;理研ビタミン(株)製)およびラクトサイザーGP−4001(商品名;荒川化学(株)製)等は、安価でかつ容易に入手でき、結晶化促進効果も高いことから、好ましく用いることができる。
【0038】
本発明の乳酸系ポリマー組成物の第1の態様において、上記結晶化促進剤(C)の添加量は、乳酸系ポリマー(A)100重量部に対して、0.1重量部〜7重量部、好ましくは0.5〜7重量部、より好ましくは1〜5重量部、さらに好ましくは1〜3重量部である。
【0039】
また、本発明の乳酸系ポリマー組成物の第2の態様において、上記結晶化促進剤(C)の添加量は、乳酸系ポリマー(A)100重量部に対して、0.1重量部〜7重量部、好ましくは0.3重量部〜5重量部、さらに好ましくは0.5重量部〜3重量部である。
【0040】
なお、一般に、大量の有機結晶核剤(B)を添加した場合、有機結晶核剤(B)の凝集により分散粒径大きくなり有効に働く核剤数が減少し、結晶化を促進させる効果が低下する。本発明では、上記結晶化促進剤(C)を上記範囲の量で添加することにより、添加した有機結晶核剤(B)の凝集を防止し、透明性を保持したまま大きな結晶化促進効果が、短時間で得られる。
【0041】
(D)その他の添加剤
本発明の乳酸系ポリマー組成物および該組成物よりなる成形品、特にシートにおいては、必要によりアンチブロッキング剤、滑剤、離型剤、その他添加剤(可塑剤、静電防止剤、防曇剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等、耐衝撃性改良剤)を含んでいてもよい。これらは、単独で添加してもよく、混合して添加してもよい。
【0042】
上記アンチブロッキング剤としては、公知公用のものを用いることができ、無機フィラーなどが好適に用いられる。このような無機フィラーとしては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、チタニア、マイカ、タルク等が挙げられ、特にシリカが好ましい。
【0043】
また、上記アンチブロッキング剤の平均粒径は5μm以下、好ましくは4μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。平均粒径が5μmを超える粒径になるとフィルムの表面に微細な凹凸が生じ外観が不透明になる場合がある。
【0044】
得られる成形品、例えばシートに高度に透明性が必要な場合には、好ましくは平均粒径7nm〜2000nm、より好ましくは7nm〜200nm、さらに好ましくは7nm〜50nmのシリカを用いることが望ましい。また、そのシリカはSiO2を95%以上含むことが好ましく、さらに、該SiO2が無水シリカであることがより好ましい。
【0045】
上記アンチブロッキング剤は、乳酸系ポリマー(A)100重量部に対して0.01〜3重量部、好ましくは0.05〜2重量部、さらに好ましくは0.05〜1重量部の範囲の量で用いられる。添加量が過少であると、アンチブロッキング剤の効果が発現し難くなり、逆に添加量が過大であると、フィルムの外観、特に透明性を低下させる場合がある。
【0046】
本発明の乳酸系ポリマー組成物からなる成形品、例えばシートに用いる滑剤としては、公知公用のものを用いることができる。例えば、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリエチレン等の脂肪族炭化水素系滑剤;ステアリン酸、ラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、硬化ひまし油等の脂肪酸系滑剤;ステアリン酸鉛、ステアリン酸カルシウム、ヒドロキシステアリン酸カルシウム等の炭素数12〜30の脂肪酸金属塩である金属石鹸系滑剤;モンタンワックス等の長鎖エステルワックス類;および、これらを複合した複合滑剤などが挙げられる。
【0047】
上記滑剤の使用量は、乳酸系ポリマー(A)100重量部に対して0.1重量部〜2重量部、好ましくは0.2重量部〜1.5重量部、より好ましくは0.3重量部〜1重量部である。添加量が過少であると、得られる成形品、例えばシートの滑り性が発現しない場合があり、逆に添加量が過大であると、シートの成形性が低下し、得られるシートの平板性が低下したり、さらには透明性等が低下する場合がある。
【0048】
滑剤とアンチブロッキング剤とを併用する場合、その使用量は乳酸系ポリマー100重量部に対し、滑剤とアンチブロッキング剤の総量が0.2〜7重量部であり、かつそれぞれの単体の使用量が上記の範囲を超えないことである。滑剤とアンチブロッキング剤が少なすぎると、耐候性の持続性効果が発現されず、多過ぎると成形が不安定になったり、フィルムの外観が劣ることがある。
【0049】
本発明では成形加工時の成形性を向上するために、公知公用の離型剤を添加することもできる。用いられる離型剤としては、本発明の乳酸系ポリマー組成物の特徴を損なわない限り何等制限はない。例えば、シリコン誘導体類、テフロン(登録商標)誘導体類、脂肪族カルボン酸類、脂肪族カルボン酸金属塩類、脂肪族アルコール類などが挙げられる。特に、離型剤効果の高いシリコン誘導体類や脂肪族カルボン酸類が好ましい。
【0050】
上記シリコン誘導体類としては、ジメチルシリコーンオイルが特に好ましく、その溶液粘度は、0.5〜50万センチストークス、好ましくは1〜1万センチストークス、より好ましくは5〜5000センチストークス、さらに好ましくは5〜1000センチストークスである。例えば、KF96(商品名;信越化学(株)製)、KF69(商品名;信越化学(株)製)、KMP110(商品名;信越化学(株)製)が挙げられる。
【0051】
上記脂肪族カルボン酸類は、炭素数8〜30の脂肪族カルボン酸、好ましくは炭素数10〜26の脂肪族カルボン酸、より好ましくは炭素数12〜22の脂肪族カルボン酸である。
【0052】
上記離型剤は、乳酸系ポリマー組成物100重量部に対して、0.01重量部〜1重量部、好ましくは0.05重量部〜0.8重量部、より好ましくは0.1重量部〜0.5重量部の範囲の量で用いられる。
【0053】
本発明では成形加工品の耐衝撃性を向上するために、公知公用の耐衝撃改良剤を添加することもできる。用いられる耐衝撃改良剤としては、本発明の乳酸系ポリマー組成物の特徴を損なわない限り何ら制限はない。例えば、生分解性を有する耐衝撃性改良剤や非生分解性の熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。特に、生分解性を有する耐衝撃性改良剤が好ましい。
【0054】
生分解性の耐衝撃性改良剤としては、たとえば、プラメートPD−150(商品名;大日本インキ化学社製)やプラメートPD−350(商品名;大日本インキ化学社製)などが挙げられる。非生分解性の熱可塑性エラストマーとしては、たとえば、タフマー(商品名;三井化学社製)、シンジオタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン系のSBBSラバー、イミノ変性したSBBSラバー、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系のSEBSラバー、イミノ変性したSEBSラバー等のオレフィン系エラストマーもしくはラバーや、メタブレン(商品名:三菱レイヨン社製)等のシリコン系ラバーなどが挙げられる。
【0055】
上記耐衝撃性改良剤は、一種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記耐衝撃改良剤の添加量は、用途に応じて適宜選択することができるが、乳酸系ポリマー組成物100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部、好ましくは1重量部〜15重量部、より好ましくは3重量部〜10重量部の範囲の量で用いられる。
【0056】
<乳酸系ポリマー組成物の製造方法>
本発明の乳酸系ポリマー組成物は、乳酸系ポリマー(A)、有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)、必要に応じてアンチブロッキング剤、滑剤、離型剤、耐衝撃改良剤などの他の添加剤を混合することにより得られる。各成分の混合は、公知公用の方法や混練技術を適用できる。例えば、
(1)パウダー状もしくはペレット状の乳酸系ポリマー(A)、有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)、必要に応じて他の添加剤をリボンブレンダーなどで一括混合した後、2軸押出機で組成物を加熱溶融しながら押出しペレット化する方法;
(2)パウダー状もしくはペレット状の乳酸系ポリマー(A)を押出ペレット化する際に、有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)、必要に応じて他の添加剤を、サイドフィードや液体注入ポンプで押出し機のシリンダー内に添加混合する方法;
(3)予め有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)、必要に応じて他の添加剤を、高濃度に押出しペレット化したペレット(マスターバッチ)を製造した後、そのマスターバッチを、パウダー状もしくはペレット状の乳酸系ポリマー(A)でドライブレンド等により希釈して成形品を加工する方法;
(4)上記方法を組み合わせて混合する方法
などが挙げられる。
【0057】
なお、有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)、必要に応じて他の添加剤をマスターバッチとして添加する場合、各添加剤毎のマスターバッチ、あるいは2種以上の添加剤のマスターバッチとして添加してもよく、その方法に何等制限はない。また、マスターバッチとして添加する際、乳酸系ポリマー(A)との混合比率は、マスターバッチ/乳酸系ポリマー(A)の重量比が1/100〜1/2、好ましくは1/50〜1/3、より好ましくは1/30〜1/5、特に好ましくは1/30〜1/10である。
【0058】
〔成形品〕
本発明の成形品は、上述した乳酸系ポリマー(A)、有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)、必要に応じて他の添加剤を含んでなる乳酸系ポリマー組成物からなり、公知公用の成形加工法、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、異形押出し成形、インフレ成形、プレス成形などによって製造される。
【0059】
<シート>
本発明のシートは、上述した乳酸系ポリマー(A)、有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)、必要に応じて他の添加剤を含んでなる乳酸系ポリマー組成物からなり、公知公用の押出し機や押出し技術で製造することできる。また、必要に応じて延伸加工することにより延伸シートを製造することもできる。
【0060】
本発明の乳酸系ポリマー組成物からなるシートは、必要に応じてシート表面に帯電防止性、防曇性、粘着性、ガスバリヤー性、密着性および易接着性などの機能を有する層をコーティングにより形成することができる。例えば、シートの片面もしくは両面に、帯電防止剤を含む水性塗工液を塗布して乾燥することによって帯電防止層を形成することができる。また、本発明のシートは、必要に応じて、他樹脂および他シートをラミネートすることにより、帯電防止性、防曇性、粘着性、ガスバリヤー性、密着性および易接着性などの機能を有する層を形成することができる。その際、押出ラミネーション、ドライラミネーションなどの公知の方法を用いることができる。
【0061】
<多層シート>
本発明の多層シートは、乳酸系ポリマー(A)、有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)、必要に応じて他の添加剤を含んでなる乳酸系ポリマー組成物からなるシートを少なくとも1層含んでなる。他の層は、例えば、生分解性ポリエステルや他の汎用樹脂であってもよく、目的によって適宜選択することができる。
【0062】
上記生分解性ポリエステルとしては、先に述べた(1)ポリ乳酸、および乳酸−他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸コポリマー、(2)多官能多糖類および乳酸単位を含む乳酸系ポリマー、(3)脂肪族多価カルボン酸単位、脂肪族多価アルコール単位および乳酸単位を含む乳酸系ポリマー、ならびに(4)これらの混合物の乳酸系ポリマー;
ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートなどの脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールとからなる脂肪族ポリエステルおよびその誘導体;
ポリエチレンテレフタレートアジペート、ポリブチレンテレフタレートアジペート、脂肪族ポリエステルカーボネートなどの生分解性を有するポリエステル
などが挙げられる。特に、透明性、安全性、価格、さらには後述する二次成形品に剛性が要求される、例えば容器などの場合は、ポリ乳酸を好ましく用いることができる。
【0063】
本発明の多層シートの層構造としては、少なくとも1層が本発明の乳酸系ポリマー組成物からなる層(x)が含まれていれば、特に限定されず、例えば、層(x)/層(y)の2層構造、層(x)/層(y)/層(x)、層(y)/層(x)/層(y)の3層構造などの構造をとることができ、多層シートの用途によって適宜選択すればよい。
【0064】
例えば、多層シートを後述する熱成形品にする場合は、該多層シートの層構造は、金型と接触する層のガラス転移温度(Tg)より金型温度が高い場合、具体的には、金型と接触する層がポリ乳酸(Tg=約60℃ )で金型温度が60℃以上の場合、本発明の乳酸系ポリマー組成物からなる層(x)が少なくとも表層に構成されていることが好ましい。例えば、本発明の乳酸系ポリマー組成物からなる層を最外層に用いて2層シートとする場合、層(x)/層(y)、3層シートとする場合、層(x)/層(y)/層(x)のような層構造をとることができる。
【0065】
また、上述した添加剤を添加する場合、全ての層、内層、外層または中間層のみに添加することができ、その目的によって適宜選択できる。例えば、シートの滑り性を付与するためには、滑剤やアンチブロッキング剤を最内層にのみ添加することが好ましく、比較的少ない量で効率的に滑り性を発現できる。
【0066】
層の厚み構成としては、2層構造の場合、層(x)/層(y)の厚みの比x/yは、0.05〜0.95/0.95〜0.05、好ましくは0.2〜0.8/0.8〜0.2、より好ましくは0.3〜0.7/0.7〜0.3である。3層構造の場合、層(x)/層(y)/層(x)の厚みの比x/y/xは、0.05〜0.6/0.05〜0.9/0.05〜0.6、好ましくは0.05〜0.5/0.2〜0.7/0.05〜0.5より好ましくは0.1〜0.4/0.3〜0.5/0.1〜0.4である。
【0067】
本発明の多層シートは、公知公用の押出し機や押出し技術で製造することができる。また、必要に応じて延伸加工することにより延伸シートを製造することもできる。
本発明の多層シートは、Tダイが装着された押出機を用いる溶融押出法によりシート状に成形することが好ましい。この際、異なる樹脂組成物を、別々にシート化した後に接着してもよいし、また、マルチマニホールドダイまたはフィードブロックを備えた押出機を用いて、共押出してもよい。また、得られた多層シートをロール延伸によって流れ方向に延伸することにより多層延伸シートを製造することができる。さらに、テンター延伸によって横方向に延伸してもよいし、横延伸後、緊張下で熱処理してもよい。
【0068】
本発明の多層シートは、必要に応じて多層シート表面に帯電防止性、防曇性、粘着性、ガスバリヤー性、密着性および易接着性などの機能を有する層をコーティングにより形成することができる。例えば、多層シートの片面もしくは両面に、帯電防止剤を含む水性塗工液を塗布して乾燥することによって帯電防止層を形成することができる。また、本発明の多層シートは、必要に応じて、他樹脂および他シートをラミネートすることにより、帯電防止性、防曇性、粘着性、ガスバリヤー性、密着性および易接着性などの機能を有する層を形成することができる。その際、押出ラミネーション、ドライラミネーションなどの公知の方法を用いることができる。
【0069】
<熱成形品>
本発明の熱成形品は、本発明の乳酸系ポリマー組成物からなる非晶性の若しくは適度に結晶化したシートまたは該シートを含む多層シートを、成形前もしくは成形時に結晶化させながら熱成形することにより得られ、透明性および耐熱性に優れている。
【0070】
通常、上記有機結晶核剤(B)を含む乳酸系ポリマー組成物からなるシートを二次成形するために、ガラス転移温度以上から融点の間の温度、たとえば、乳酸系ポリマーがポリ乳酸の場合は、シートの温度を60℃〜130℃の温度に加熱すると、有機結晶核剤(B)の凝集が進行し、透明性が低下する場合がある。一方、本発明の乳酸系ポリマー組成物からなるシートは、結晶化促進を目的として有機結晶核剤(B)を含むが、結晶化促進剤(C)を併用することにより、該有機結晶核剤(B)の分散粒径を小さく抑え、透明性を保持している。
【0071】
上記本発明のシートもしくは多層シートを、乳酸系ポリマーのガラス転移温度以上から融点の間の温度、たとえば、乳酸系ポリマーがポリ乳酸の場合は60℃〜130℃の温度で1秒〜60秒間加熱した後の有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)の平均分散粒経は、0.01μm〜1.0μm、好ましくは0.05μm〜0.5μm、さらに好ましくは、0.1μm〜0.5μmである。
【0072】
本発明のシートもしくは多層シートから得られる熱成形品が十分な耐熱性を有するためには、本発明の乳酸系ポリマー組成物からなるシートを、ガラス転移温度以上から融点の間の温度、たとえば、乳酸系ポリマーがポリ乳酸の場合は60℃〜130℃、好ましくは70℃〜120℃、より好ましくは80℃〜110℃、さらに好ましくは80℃〜100℃の温度に加熱し、高度に結晶化させることが必要である。このときの結晶化度は、20%以上、好ましくは20%〜50%、より好ましくは25%〜45%、さらに好ましくは25%〜40%、特に好ましくは25%〜35%である。乳酸系ポリマー組成物からなるシートの結晶化度を前記範囲にした後に二次成形することにより、成形加工性に優れるとともに、十分な耐熱性を有する熱成形品が得られる。また、本発明の乳酸系ポリマー組成物を用いることにより、前記結晶化度は非常に短時間で達成できるため、優れた生産効率で熱成形品を得ることができる。
【0073】
本発明のシートもしくは多層シートを加熱する方法は、後述する様な各種熱成形方法によって異なり、例えば、ヒーターの輻射熱で加熱する方法や、加温した金属板等に接触させて加熱する方法などが挙げられる。また、加熱時間は、上記加熱方法によっても異なり、シートを上述した好ましい温度範囲に加熱する時間であればよく、適宜選択することができる。
【0074】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリスチレン(PS)等の熱成形に用いられる真空成形や真空圧空成形の場合は、加熱方法はセラミックヒーターなどの輻射熱によって加熱する方法が一般的に用いられており、ヒーター温度は、乳酸系ポリマー組成物のガラス転移温度から700℃ 、好ましくは150℃〜500℃、より好ましくは200℃〜500℃、さらに好ましくは250℃〜400℃、特に好ましくは300℃〜400℃であり、加熱時間は1秒〜60秒、好ましくは1秒〜30秒、より好ましくは1秒〜20秒、さらに好ましくは1秒〜10秒、特に好ましくは1秒〜7秒である。
【0075】
また、延伸したポリスチレン(OPS)等の熱成形に用いられる熱板圧空成形の場合、加熱方法は加温した金属板等に接触させる方法が一般的に用いられており、金属板等の温度は60℃〜200℃ 、好ましくは70℃〜175℃、より好ましくは80℃〜175℃、さらに好ましくは80℃〜150℃であり、加熱時間は1〜20秒、好ましくは1秒〜15秒、より好ましくは1秒〜10秒、さらに好ましくは1秒〜5秒、特に好ましくは1秒〜3秒である
本発明のシートから得られる熱成形品が十分な透明性を有するためには、本発明の乳酸系ポリマー組成物からなるシートを、ガラス転移温度以上から融点の間の温度、たとえば乳酸系ポリマーがポリ乳酸の場合は60℃〜130℃の温度で2〜15秒間加熱し、高度に結晶化させた後のヘイズが、シート厚み450μmの時に15%以下、より好ましくは10%〜1%、さらに好ましくは7%〜1%、特に好ましくは5%〜1%である。
【0076】
本発明の熱成形品を得るための熱成形は、真空成形、真空圧空成形、熱板圧空成形、プレス成形等の公知公用の成形方法によって、成形時に特定の温度に設定した金型に接触させながら行う。この際、成形とともに結晶化を同時に行ってもよい。なお、本発明の熱成形品は、ポリスチレン(PS)やポリエチレンテレフタレート(PET)等の汎用樹脂と同等な成形サイクルで成形することができる。
【0077】
ここで、真空成形機、真空圧空成形、熱板圧空成形等の成形機を用いた成形方法の場合、成形しながら高度に結晶化させるためには、予めシートを予備加熱した後、ある特定の温度範囲に設定した金型に接触させ、真空、圧空または真空圧空により、さらにはプラグでアシストすることにより賦形される。
【0078】
例えば、乳酸系ポリマーがポリ乳酸の場合には、シートを60℃〜130℃、好ましくは70℃〜120℃、より好ましくは80℃〜110℃、特に好ましくは85℃〜105℃に予め加熱した後、60℃〜130℃、好ましくは70℃〜125℃、より好ましくは80℃〜120℃、さらに好ましくは90℃〜110℃に設定した金型に接触させながら成形する。
【0079】
シート温度が前記範囲であることにより、形状が良く、かつ透明性の高い熱成形品が得られる。また、金型温度が前記範囲であることにより、乳酸系ポリマー組成物の結晶化速度が高くなる。そのため、金型に接触させる時間を短縮することができるため、成形サイクルが短くなり、生産性が高くなる。
【0080】
なお、プラグアシストを併用して成形する場合は、プラグの温度も同様にある特定の温度、好ましくは40℃〜120℃、より好ましくは50℃〜110℃、さらに好ましくは60℃〜110℃、特に好ましくは70℃〜100℃に設定する必要がある。
【0081】
上記シート、金型およびプラグの最適温度は、乳酸系ポリマー組成物の組成、例えば、乳酸系ポリマー(A)、有機結晶核剤(B)、結晶化促進剤(C)および必要に応じて用いられる他の添加剤の種類と量によって変化する。したがって、成形品の透明性、耐熱性、成形性および生産性などを考慮して、適宜最適条件を設定することができる。
【0082】
シートを金型に接触させる時間は、実質上十分な耐熱性を有する熱成形品を得るためには、1〜15秒、好ましくは1〜10秒、より好ましくは1〜7秒、さらに好ましくは1〜7秒、特に好ましくは1〜4秒必要である。接触時間が前記範囲であることにより、目的の耐熱性および透明性を有する熱成形品を生産性良く得ることができる。
【0083】
本発明の乳酸系ポリマー組成物からなる成形品および熱成形品(以下、これらを単に「成形品」という。)は、容積保持率に優れている。具体的には、容積保持率が90%以上、より好ましくは95%以上である。ここで、本発明における容積保持率は、カップ状の成形品を90℃の温水中に5分間浸漬した後、カップ状成形品を取り出し、そのカップ状成形品に充填された水の量(V1)と、浸漬前のカップ状成形品に充填された水の量(V0)とを測定し、以下の計算式:
容積保持率(%)=V1/V0×100
で算出される。
【0084】
本発明の乳酸系ポリマー組成物からなる成形品は、例えばカップ状の成形品を恒温器中で一定の温度で2時間保持した場合、目視での判断で変形する温度が高い、すなわち耐熱収縮性に優れているという特徴を有する。その熱変形開始温度は、好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上、特に好ましくは90℃以上である。
【0085】
本発明の成形品は透明性に優れる。本発明の成形品の透明性(JIS K6714に準じて、東京電色製Haze Meterを用いて測定した、厚さ450μm換算の値)は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%〜1%、さらに好ましくは7%〜1%、特に好ましくは5%〜1%である。
【0086】
本発明の成形品は、乳酸系ポリマーの特徴である高い透明性を維持したまま高い耐熱性を有するため、例えば、プリン、ジャムおよびカレー容器等のホットフィル容器、食品トレー、ブリスター容器、ならびに、クリアケース等の一般包装用容器など、透明性と耐熱性が要求される用途にも広く用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、本実施例で用いた乳酸系ポリマー(A)、有機結晶核剤(B)、結晶化促進剤(C)、離型剤および耐衝撃改良剤を下記に示す。
【0088】
<乳酸系ポリマー(A)>
a1:ポリ乳酸(LACEA H−400、三井化学製、重量平均分子量(Mw);21万、分散度(Mw/Mn) ;3.2、L体/D体=98.2/1.8、融点165℃)
a2:ポリ乳酸(LACEA H−100、三井化学製、重量平均分子量(Mw);14万、分散度(Mw/Mn) ;3.4、L体/D体=98.3/1.7、融点168℃)
a3:ポリ乳酸(LACEA H−440、三井化学製、重量平均分子量(Mw);21万、分散度(Mw/Mn) ;4.2、L体/D体=96/4、融点155℃)
a4:ポリ乳酸(LACEA H−280、三井化学製、重量平均分子量(Mw);20万、分散度(Mw/Mn) ;4.6、L体/D体=88/12)
<有機結晶核剤(B)>
EBL:エチレンビスラウリン酸アミド(日本化成(株)製「スリパックスL」)
EBO:エチレンビスオレイン酸アミド(日本化成(株)製「スリパックスO」)
EBS:エチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂(株)製「アルフローH50S」)
<結晶化促進剤(C)>
c1:アセチルクエン酸トリブチル(ATBC、(株)ジェイ・プラス製)
c2:グリセリン脂肪酸エステル(リケマールPL−710、理研ビタミン(株)製)
c3:ベンジル=2−(2−メトキシエトキシ)エチル=アジパート(ダイファッティー101、大八化学(株)製)
<離型剤>
d1:シリコーン(KF−96、信越化学工業(株)製)
d2:シリコーン(KMP110、信越化学工業(株)製)
<耐衝撃改良剤>
e1:プラメート PD−150(商品名、大日本インキ化学社製)
【0089】
〔実施例A1〕
ポリ乳酸樹脂a1(LACEA:H−400、三井化学(株)製)100重量部、有機結晶核剤EBS(日本油脂(株)製「アルフローH50S」)0.5重量部および結晶化促進剤c3(ダイファッティー101、大八化学(株)製)1重量部をヘンシェルミキサーにて混合後、押出機シリンダー設定温度190〜220℃の条件にてペレット化した。
【0090】
次いで、得られたペレットを、シリンダー温度が220℃に設定されたT−ダイ製膜機(スクリュー径50mm、ダイス幅500mm)へ供給した。温度を30℃に調整したキャストロール上に溶融樹脂を押出し、厚み450μmのシートと1200μmのシートを得た。
【0091】
厚み450μmのシートは、表1に示すような条件で加熱処理を行い、結晶化度Aおよび透明性A(Haze)を測定した。
また、厚み1200μmのシートは、シート温度が100℃になるように加熱した後、105℃に保持した金型と90℃に保持したプラグを用いて、真空圧空熱成形を行った。なお、厚み1200μmのシートの温度が100℃になるように加熱処理したときの結晶化度Aを測定した。また、金型形状は、上部口径100mm、底部口径60mm、高さ150mm、絞り比1.5のカップ状の金型であった。良好な熱成形品(カップ)が得られる最適金型内のホールド時間は5秒であった。得られた熱成形品の厚み、透明性A’(ヘイズ)および耐熱性A(耐熱収縮性、容積保持率)を評価した。
【0092】
なお、上記結晶化度A、透明性A(ヘイズ)、熱成形品の厚み、透明性A’(ヘイズ)および耐熱性A(耐熱収縮性、容積保持率)は、以下の方法で測定および評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0093】
<結晶化度A>
示差熱走査熱量分析装置(セイコー社製)を用いて、シートを10℃/minの速度で昇温した時の結晶化熱量(ΔHc)および融解熱量(ΔHm)を測定した。本発明における結晶化度Aは、以下の計算式:
結晶化度A(%)=(融解熱量−結晶化熱量)/93×100
で求めた値をいう。
【0094】
<透明性A(ヘイズ)>
JIS K6714に準じ、東京電色社製Haze Meterを用いて、厚さ450μmのシートの値を求めた。
【0095】
<熱成形品の厚みおよび透明性A’(ヘイズ)>
得られた熱成形品(カップ)の側面から、縦5cm×横2cmのカットサンプルを採取した。このカットサンプルについて、厚みを測定し、上記透明性Aと同様の方法でヘイズを測定した。
【0096】
<耐熱性A>
・耐熱収縮性
得られた熱成形品(カップ)を65℃の乾燥機中に2時間保持した後、変形の程度を目視にて評価した。評価基準は、変形なしの場合を「AA」、僅かに変形した場合を「BB」、大きく変形した場合を「CC」とした。
【0097】
・容積保持率
得られた熱成形品(カップ)を90℃の温水中に5分間浸漬した後、カップを取り出した。浸漬後のカップに充填された水の量(V1)と、浸漬前のカップに充填された水の量(V0)とから、以下の計算式:
容積保持率(%)=V1/V0×100
で容積保持率を求めた。
【0098】
〔実施例A2〜A4および比較例A1〜A5〕
表1に示したように、乳酸系ポリマー(A)、有機結晶核剤(B)、結晶化促進剤(C)、離型剤d1(シリコーン、商品名:KF−96、信越化学工業(株)製)の種類と量、さらに熱成形における金型温度およびシート温度を変更したこと以外は、実施例A1と同様な方法で、乳酸系ポリマー組成物の調製、シートの作製、熱成形品の作製およびこれらの評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

〔実施例B1〕
ポリ乳酸樹脂a1(LACEA:H−400、三井化学(株)製)100重量部、有機結晶核剤EBS(日本油脂(株)製「アルフローH50S」)0.5重量部、結晶化促進剤c3(ダイファッティー101、大八化学社製)1重量部および離型剤d1(シリコーン、信越化学工業(株)製「KF−96」)0.3重量部をヘンシェルミキサーにて混合後、押出機シリンダー設定温度190〜220℃の条件にてペレット化した。
【0100】
次いで、得られたペレットを、樹脂温度が220℃に設定された3層T−ダイ製膜機(スクリュー径65mmφ、ダイス幅500mm)の外層および内層用ホッパーへ供給し、一方 ポリ乳酸樹脂a1(LACEA:H−400)80重量部とPEC(ポリエチレンカーボネート、ガラス転移温度13℃、重量平均分子量15万)20重量部との混合物を、該3層T−ダイ製膜機の中間層用ホッパーへ供給した。各層の厚みを、外層/中間層/内層=20/60/20となるようにして、温度を30℃に調整したキャストロール上に溶融樹脂を押出し、厚み450μmの3層シートと1300μmの3層シートを得た。
【0101】
厚み450μmの多層シートは、表2に示すような条件で加熱処理を行い、多層シートの結晶化度Aおよび透明性A(ヘイズ)を測定し、ポリ乳酸系樹脂からなる表層(外層、内層)の結晶化度Aを算出した。
【0102】
また、厚み1300μmの多層シートは、シート温度が95℃になるように加熱した後、105℃に加熱した金型と90℃に設定したプラグとを用いて、真空圧空熱成形を行った。なお、厚み1300μmのシートの温度が95℃になるように加熱処理したときの多層シートの結晶化度Aを測定し、ポリ乳酸系樹脂からなる表層の結晶化度Aを算出した。また、金型形状は、上部口径100mm、底部口径60mm、高さ150mm、絞り比1.5のカップ状の金型であった。良好な熱成形品(カップ)が得られる最適金型内のホールド時間は5秒であった。得られた熱成形品の厚み、透明性A’(ヘイズ)および耐熱性A(耐熱収縮性、容積保持率)を評価した。
【0103】
なお、上記結晶化度A、透明性A(ヘイズ)、熱成形品の厚み、透明性A’(ヘイズ)および耐熱性A(耐熱収縮性、容積保持率)は、以下の方法で測定および評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0104】
<結晶化度A>
示差熱走査熱量分析装置(セイコー社製)を用いて、シートを10℃/minの速度で昇温した時の結晶化熱量(ΔHc)および融解熱量(ΔHm)を測定した。本発明における結晶化度Aは、以下の計算式:
結晶化度A(%)=(融解熱量−結晶化熱量)/93×100
で求めた値をいう。
【0105】
なお、表層の結晶化度Aは、得られた多層シートの結晶化度Aを測定し、内層、中間層および外層の厚みを用いて、以下の計算式:
表層の結晶化度A(%)=多層シートの結晶化度A(%)×全層厚み/(内層厚み+外層厚み)
で算出した。
【0106】
<透明性A(ヘイズ)>
JIS K6714に準じ、東京電色社製Haze Meterを用いて、厚さ450μmの多層シートの値を求めた。
【0107】
<熱成形品の厚みおよび透明性A’(ヘイズ)>
得られた熱成形品(カップ)の側面から、縦5cm×横2cmのカットサンプルを採取した。このカットサンプルについて、厚みを測定し、上記透明性Aと同様の方法でヘイズを測定した。
【0108】
<耐熱性A>
・耐熱収縮性
得られた熱成形品を65℃の乾燥機中に2時間保持した後、変形の程度を目視にて評価した。評価基準は、変形なしの場合を「AA」、僅かに変形した場合を「BB」、大きく変形した場合を「CC」とした。
【0109】
・容積保持率
得られた熱成形品(カップ)を90℃の温水中に5分間浸漬した後、カップを取り出した。浸漬後のカップに充填された水の量(V1)と、浸漬前のカップに充填された水の量(V0)とから、以下の計算式:
容積保持率(%)=V1/V0×100
で容積保持率を求めた。
【0110】
〔実施例B2〜B4および比較例B1〜B5〕
表2に示したように、乳酸系ポリマー(A)、有機結晶核剤(B)、結晶化促進剤(C)、他の生分解性樹脂および離型剤の種類と量、各層の厚み構成、熱成形における金型温度およびシート温度を変更したこと以外は、実施例B1と同様な方法で乳酸系ポリマー組成物の調製、多層シートの作製、熱成形品の作製およびこれらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0111】
【表2】

〔実施例C1〕
乳酸系ポリマー(ポリ乳酸樹脂、LACEA:H−400、三井化学(株)製)、有機結晶核剤および結晶化促進剤を表3に示す割合でヘンシェルミキサーにて混合後、押出機シリンダー設定温度170〜210℃の条件にてペレット化した。
【0112】
得られたペレットを、シリンダー温度が220℃に設定されたT−ダイフィルム製膜機(スクリュー径40mm、ダイス幅350mm)へ供給した。温度を30℃に調整したキャストロール上に溶融樹脂を押出し、厚み250μmのシートを得た。このシート中の有機結晶核剤の分散粒径を評価した。
【0113】
次いで、得られたシートを、表3に示すような条件で加熱処理し、シート中の有機結晶核剤の平均分散粒径、結晶化度Bおよび透明性B(ヘイズ)を評価した。また、シート温度が70℃になるように加熱した後、110℃に加熱した金型を用いて熱成形を行い、金型内で10秒間保持することにより熱成形品を得た。得られた熱成形品の耐熱性Bを評価した。
【0114】
また、得られたペレットを、シリンダー温度が220℃に設定されたT−ダイ製膜機(スクリュー径50mm、ダイス幅500mm)へ供給した。温度を30℃に調整したキャストロール上に溶融樹脂を押出し、厚み1200μmのシートを得た。
【0115】
このシートを用い、シート温度が95℃になるように加熱した後、100℃に保持した金型と90℃に保持したプラグを用いて、真空圧空熱成形を行った。なお、厚み1200μmのシートの温度が95℃になるように加熱処理したときの結晶化度Aを測定した。また、金型形状は、上部口径100mm、底部口径60mm、高さ150mm、絞り比1.5のカップ状の金型であった。良好な熱成形品(カップ)が得られる最適金型内のホールド時間は4秒であった。得られた熱成形品の厚み、透明性A’(ヘイズ)および耐熱性A(耐熱収縮性、容積保持率)を評価した。
【0116】
なお、上記有機結晶核剤の平均分散粒径、結晶化度A、透明性B(ヘイズ)、結晶化度B、熱成形品の厚み、透明性A’(ヘイズ)、耐熱性Aおよび耐熱性Bは、以下の方法で測定および評価を行った。これらの結果を表3に示す。
【0117】
<平均分散粒径>
シート中の有機結晶核剤および結晶化促進剤の分散状態をTEMにて観察した。得られた観察像を画像処理し、分散粒子の平均分散粒径を算出した。
【0118】
<結晶化度A>
示差熱走査熱量分析装置(セイコー社製)を用いて、シートを10℃/minの速度で昇温した時の結晶化熱量(ΔHc)および融解熱量(ΔHm)を測定した。本発明における結晶化度Aは、以下の計算式:
結晶化度A(%)=(融解熱量−結晶化熱量)/93×100
で求めた値をいう。
【0119】
<結晶化度B>
結晶化度X線回折装置(理学電機製、Rint1500型)にて試験片を測定し、得られたチャートの結晶ピーク面積の総面積に対する比率を求め、結晶化度Bとした。
【0120】
<熱成形品の厚みおよび透明性A’(ヘイズ)>
得られた熱成形品(カップ)の側面から、縦5cm×横2cmのカットサンプルを採取した。このカットサンプルについて、厚みを測定し、上記透明性Aと同様の方法でヘイズを測定した。
【0121】
<透明性B(ヘイズ)>
JIS K6714の方法に準じ、東京電色社製Haze Meterを用いて、厚さ250μmのシートの値を求めた。
【0122】
<耐熱性A>
・耐熱収縮性
熱成形品(カップ)を65℃の乾燥機中に2時間保持した後、変形の程度を目視にて評価した。評価基準は、変形なしの場合を「AA」、僅かに変形した場合を「BB」、大きく変形した場合を「CC」とした。
【0123】
・容積保持率
熱成形品(カップ)を90℃の温水中に5分間浸漬した後、カップを取り出した。浸漬後のカップに充填された水の量(V1)と、浸漬前のカップに充填された水の量(V0)とから、以下の計算式:
容積保持率(%)=V1/V0×100
で容積保持率を求めた。
【0124】
<耐熱性B>
成形品に95℃の熱湯を注ぎ、変形の程度を目視にて評価した。評価基準は、変形なしの場合を「AA」、僅かに変形した場合を「BB」、大きく変形した場合を「CC」とした。
【0125】
〔実施例C2〜C6および比較例C1〜C2〕
表3に示したように、有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)の種類と量を変更したこと以外は、実施例C1と同様な方法で乳酸系ポリマー組成物の調製、シートの作製、熱成形品の作製およびこれらの評価を行った。結果を表3に示す。
【0126】
【表3】

〔実施例D1〕
乳酸系ポリマー(ポリ乳酸樹脂、LACEA:H−400、三井化学(株)製)、有機結晶核剤および結晶化促進剤を表4に示す割合でヘンシェルミキサーにて混合後、押出機シリンダー設定温度170〜210℃の条件にてペレット化した。
【0127】
得られたペレットを、シリンダー温度が220℃に設定されたT−ダイフィルム製膜機(スクリュー径40mm、ダイス幅350mm)へ供給した。温度を30℃に調整したキャストロール上に溶融樹脂を押出し、厚み250μmのシートを得た。
【0128】
得られたシートは、表4に示すような条件で加熱処理を行い、結晶化度Bおよび透明性B(ヘイズ)を測定した。また、シート温度が95℃になるように加熱した後、100℃に加熱した金型を用いて熱成形を行い、金型内で5秒間保持することにより熱成形品を得た。なお、シート温度が95℃になるように加熱処理したときの結晶化度Aを測定した。また、金型としては、上部の径が縦・横100mm、底部の径が縦・横75mm、高さが30mm、絞り比が約0.27の金型を用いた。得られた熱成形品の厚み、透明性A’(ヘイズ)および耐熱性A(耐熱収縮性、容積保持率)を評価した。
【0129】
なお、上記結晶化度A、結晶化度B、透明性B(ヘイズ)、熱成形品の厚み、透明性A’(ヘイズ)および耐熱性Aは、以下の方法で測定および評価を行った。これらの結果を表4に示す。
【0130】
<結晶化度A>
示差熱走査熱量分析装置(セイコー社製)を用いて、シートを10℃/minの速度で昇温した時の結晶化熱量(ΔHc)および融解熱量(ΔHm)を測定した。本発明における結晶化度Aは、以下の計算式:
結晶化度A(%)=(融解熱量−結晶化熱量)/93×100
で求めた値をいう。
【0131】
<結晶化度B>
結晶化度X線回折装置(理学電機製、Rint1500型)にて試験片を測定し、得られたチャートの結晶ピーク面積の総面積に対する比率を求め、結晶化度Bとした。
【0132】
<熱成形品の厚みおよび透明性A’(ヘイズ)>
得られた熱成形品の側面から、縦5cm×横2cmのカットサンプルを採取した。このカットサンプルについて、厚みを測定し、上記透明性Aと同様の方法でヘイズを測定した。
【0133】
<透明性B(ヘイズ)>
JIS K6714の方法に準じ、東京電色社製Haze Meterを用いて、厚さ250μmのシートの値を求めた。
【0134】
<耐熱性A>
・耐熱収縮性
得られた熱成形品(カップ)を65℃の乾燥機中に2時間保持した後、変形の程度を目視にて評価した。評価基準は、変形なしの場合を「AA」、僅かに変形した場合を「BB」、大きく変形した場合を「CC」とした。
【0135】
・容積保持率
得られた熱成形品(カップ)を90℃の温水中に5分間浸漬した後、カップを取り出した。浸漬後のカップに充填された水の量(V1)と、浸漬前のカップに充填された水の量(V0)とから、以下の計算式:
容積保持率(%)=V1/V0×100
で容積保持率を求めた。
【0136】
〔実施例D2〜D4および比較例D3〕
表4に示したように、有機結晶核剤(B)および結晶化促進剤(C)の種類と量、さらに熱成形における金型温度およびシート温度を変更したこと以外は、実施例D1と同様な方法で、乳酸系ポリマー組成物の調製、シートの作製、熱成形品の作製およびこれらの評価を行った。結果を表4に示す。
【0137】
【表4】

〔実施例E1〕
乳酸系ポリマー(ポリ乳酸樹脂、LACEA:H−400、三井化学(株)製)、有機結晶核剤、結晶化促進剤および耐衝撃性改良剤(プラメートPD−150、大日本インキ化学社製)を表5に示す割合でヘンシェルミキサーにて混合後、押出機シリンダー設定温度170〜210℃の条件にてペレット化した。
【0138】
得られたペレットを、シリンダー温度が220℃に設定されたT−ダイフィルム製膜機(スクリュー径40mm、ダイス幅350mm)へ供給した。温度を30℃に調整したキャストロール上に溶融樹脂を押出し、厚み250μmのシートを得た。
【0139】
得られたシートは、表5に示すような条件で加熱処理を行い、結晶化度B、透明性B(ヘイズ)および耐衝撃性を測定した。また、シート温度が100℃になるように加熱した後、100℃に加熱した金型を用いて熱成形を行い、金型内で5秒間保持することにより熱成形品を得た。なお、シート温度が100℃になるように加熱したときの結晶化度Aを測定した。また、金型としては、上部の径が縦・横100mm、底部の径が縦・横75mm、高さが30mm、絞り比が約0.27の金型を用いた。得られた熱成形品の透明性A’(ヘイズ)および耐熱性A(耐熱収縮性、容積保持率)を評価した。
【0140】
なお、上記結晶化度A、結晶化度B、透明性B(ヘイズ)、耐衝撃性、熱成形品の厚み、透明性A’(ヘイズ)および耐熱性Aは、以下の方法で測定および評価を行った。これらの結果を表5に示す。
【0141】
<結晶化度A>
示差熱走査熱量分析装置(セイコー社製)を用いて、シートを10℃/minの速度で昇温した時の結晶化熱量(ΔHc)および融解熱量(ΔHm)を測定した。本発明における結晶化度Aは、以下の計算式:
結晶化度A(%)=(融解熱量−結晶化熱量)/93×100
で求めた値をいう。
【0142】
<結晶化度B>
結晶化度X線回折装置(理学電機製、Rint1500型)にて試験片を測定し、得られたチャートの結晶ピーク面積の総面積に対する比率を求め、結晶化度Bとした。
【0143】
<熱成形品の厚みおよび透明性A’(ヘイズ)>
得られた熱成形品の底面から、縦3cm×横3cmのカットサンプルを採取した。このカットサンプルについて、厚みを測定し、上記透明性Aと同様の方法でヘイズを測定した。
【0144】
<透明性B(ヘイズ)>
JIS K6714の方法に準じ、東京電色社製Haze Meterを用いて、厚さ250μmのシートの値を求めた。
【0145】
<耐衝撃性>
ASTM D 3763の方法に準じ、径1inchの受けに250μmシートをセットした後、径1/2inchのストライカーを速度3m/secの条件で衝突させ、その時の吸収エネルギー(ハイレートインパクト/mJ)を測定した。
【0146】
<耐熱性A>
・耐熱収縮性
得られた熱成形品(カップ)を65℃の乾燥機中に2時間保持した後、変形の程度を目視にて評価した。評価基準は、変形なしの場合を「AA」、僅かに変形した場合を「BB」、大きく変形した場合を「CC」とした。
【0147】
・容積保持率
得られた熱成形品(カップ)を90℃の温水中に5分間浸漬した後、カップを取り出した。浸漬後のカップに充填された水の量(V1)と、浸漬前のカップに充填された水の量(V0)とから、以下の計算式:
容積保持率(%)=V1/V0×100
で容積保持率を求めた。
【0148】
〔比較例E1〕
表5に示したように、有機結晶核剤(B)、結晶化促進剤(C)および耐衝撃性改良剤の種類と量、さらに熱成形における金型温度およびシート温度を変更したこと以外は、実施例E1と同様の方法で、乳酸系ポリマー組成物の調製、シートの作製、熱成形品の作製およびこれらの評価を行った。結果を表5に示す。
【0149】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系ポリマー(A)100重量部、アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機結晶核剤(B)0.1〜3重量部、および結晶化促進剤(C)0.1〜7重量部を含む乳酸系ポリマー組成物からなり、結晶化度20〜50%に結晶化させた際の透明性(ヘイズ)が、JIS K6714に準じて測定した厚さ450μm換算値で15%以下であることを特徴とする成形品。
【請求項2】
乳酸系ポリマー(A)100重量部、アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機結晶核剤(B)0.1〜3重量部、および結晶化促進剤(C)0.1〜7重量部を含む乳酸系ポリマー組成物からなり、結晶化度20〜50%に結晶化させた際の透明性(ヘイズ)が、JIS K6714に準じて測定した厚さ450μm換算値で15%以下であることを特徴とするシート。
【請求項3】
請求項2に記載のシートを少なくとも1層含んでなることを特徴とする多層シート。
【請求項4】
乳酸系ポリマー(A)100重量部、アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機結晶核剤(B)0.1〜3重量部、および結晶化促進剤(C)0.1〜7重量部を含む乳酸系ポリマー組成物からなるシートを60〜130℃の温度で1〜60秒間加熱処理した後、該加熱処理後のシートを60〜130℃の温度に設定した金型に1〜15秒間接触させることを特徴とする熱成形品の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理後のシートの結晶化度が20〜50%であることを特徴とする請求項4に記載の熱成形品の製造方法。
【請求項6】
乳酸系ポリマー(A)100重量部、アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機結晶核剤(B)0.1〜3重量部、および結晶化促進剤(C)0.1〜7重量部を含む乳酸系ポリマー組成物からなるシートを少なくとも1層含んでなる多層シートを60〜130℃の温度で1〜60秒間加熱処理した後、該加熱処理後の多層シートを60〜130℃の温度に設定した金型に1〜15秒間接触させることを特徴とする熱成形品の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理後の多層シートにおける乳酸系ポリマー組成物からなるシートの結晶化度が20〜50%であることを特徴とする請求項6に記載の熱成形品の製造方法。

【公開番号】特開2010−280910(P2010−280910A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198783(P2010−198783)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【分割の表示】特願2007−528293(P2007−528293)の分割
【原出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】