説明

乳酸菌機能茶、乳酸菌機能茶抽出物、乳酸菌機能茶葉乾燥物

【課題】、味、香り、経済的コストにおいて優れているとともに、乳酸菌や乳酸菌が産生するγ-アミノ酪酸等の機能性物質を多量に含んでおり、飲用者の健康向上に資する乳酸菌機能茶、乳酸菌機能茶抽出物、茶葉乾燥物を提供する。
【解決手段】この発明にかかる乳酸菌機能茶は、茶葉に加水したのち、この加水物に乳酸菌などを意図的に接種して発酵させることにより製造する。また、乳酸機能茶抽出物はこの乳酸菌機能茶から茶葉を分離除去することによって製造でき、茶葉乾燥物は分離された茶葉を乾燥することによって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、茶葉を乳酸菌などによって発酵させることにより、発酵により増殖した菌体とγ-アミノ酪酸に代表される機能性物質とを多量に含有する乳酸菌機能茶及びこの乳酸菌機能茶の抽出物及び前記乳酸菌機能茶の茶葉乾燥物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
お茶は、その製造工程の発酵度に注目すれば、摘み取った茶葉を直ちに加熱処理して発酵を止める不発酵茶と、茶葉を発酵させてなる発酵茶に分類することができる。また、発酵茶は、その発酵の仕方によって複数の種類に分類できるが、その中には微生物で発酵させた後発酵茶(黒茶)と呼ばれるものが含まれる。
【0003】
さて、後発酵茶は、摘み取った茶葉を熱処理(殺青)して茶葉に含まれる酸化酵素の働きを止め、この茶葉を堆積したのち、堆積場所の近辺に存在するカビ、酵母、乳酸菌等の微生物の力を利用して、特に微生物管理を行うことなく、短いものは数週間、長いものは数年間放置して自然に発酵させたものであり、日本や中国などにおいて製造されている。このような後発酵茶として、具体的に日本国内で製造されている「阿波番茶」、「石鎚碁石茶」、「富山黒茶」や、中国で製造されている「プアール茶」などが挙げられる(非特許文献1を参照。)。
【0004】
また、後発酵茶は、その独特の味や香りに加えて、乳酸菌を含んでおり、ダイエット効果などの健康にあたえる影響についても注目されるようになってきている。なお、乳酸菌は、ヨーグルト、漬物、醸造飲料などに広く用いられていることからも明らかなように、食品として摂取しても安全であり、その菌体を生菌、死菌に関わらず摂取することにより、整腸作用や免疫賦活作用を持つことが知られている。また、乳酸菌によってはγ-アミノ酪酸(GABA)を多量に産生するものもあり、γ-アミノ酪酸は血圧降下作用や精神安定作用を持つ機能性物質であることが知られている。
【0005】
後発酵茶はこのように優れた性質を備えているものの、上記のように漬物に似た雑駁な製法であり、製造に当っては微生物の管理をまったく行っていない。すなわち、いかなる種類の微生物を、いかなる時期に、いかなる順序で接種し、いかなる条件で発酵させ、その結果、茶成分がいかなる変化を受けるのか等の、微生物的、科学的な把握と管理がなされていない。
【0006】
そのため、腐敗菌や有害菌が繁殖し、劣悪で漬物臭やカビ臭のするものが生じてしまうことがあった。また、発酵が自然まかせであるため、発酵期間も短いもので数週間、長いもので数年に及ぶものもあった。さらに、その都度でき具合が異なり、品質にばらつきが生じることもあった。したがって、味や香りに劣るものができる、経済的な負担も大きくコストが高くなるなどの問題があった。
【0007】
このような問題を解決して、乳酸菌とγ-アミノ酪酸を含む茶飲料を製造する方法として、茶の主要成分であるポリフェノ−ルを除去した茶抽出液に乳酸菌を接種し、この乳酸菌にγ-アミノ酪酸を産生させる方法が開発されている(特許文献1を参照。)。
【0008】
しかし、この方法はポリフェノールの除去に合成樹脂や有機溶媒を使用するため、製造コストや安全性等に疑問があった。また、ポリフェノールは茶の主要成分であるので、それが除去された抽出液は味覚的に茶とは異なるという欠点があった。さらに、茶抽出液の抽出に使用した茶葉そのものにはポリフェノールが含まれており、乳酸菌が生えにくく、γ-アミノ酪酸も生じにくいため、茶葉については利用できないとされていた。したがって、この方法には経済的な負担、茶としての味覚上や安全性の点で問題があった。
【特許文献1】特開2003−333990号公報
【非特許文献1】宮川金次郎編、日本の後発酵茶、さんえい出版、1994年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、味、香り、経済的コストにおいて優れているとともに、乳酸菌や乳酸菌が産生するγ-アミノ酪酸、ペプチドグルカン、ナイシン、多糖類、有機酸、各種ビタミン類などの機能性物質を多量に含んでおり、飲用者の健康向上に資する乳酸菌機能茶、及びこの乳酸菌機能茶から茶葉を分離除去してなる乳酸菌機能茶抽出物、この乳酸菌機能茶から茶葉を分離し、この茶葉を乾燥してなる茶葉乾燥物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に関する乳酸菌機能茶は、茶葉に加水し、この加水物に乳酸菌などを接種して発酵させることにより製造することを最大の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明の乳酸菌機能茶は、加熱殺菌後の茶葉に乳酸菌などを意図的に接種し、乳酸菌を適度に発酵させて製造するため、雑菌の繁殖による腐敗や異臭発生がおこりにくく、味と香りが良好な乳酸菌機能茶が得られる。また、この乳酸菌機能茶は、発酵により生じる菌体、発酵産物であるγ-アミノ酪酸等の機能性物質、原料である茶葉に由来する機能性物質を含んでいるため、飲用者の健康向上に資することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明にかかる乳酸菌機能茶は、茶葉に加水したのち、乳酸菌などを接種して発酵することによって製造する。
【0013】
原料となる茶葉(茎の部分を含んでいても良い)は、ツバキ科の植物、例えばツバキ属の葉のうち、一般に飲用されているものであれば特に限定することなく利用できる。具体的には、緑茶、ウーロン茶、紅茶の茶葉を使用することができる。なかでも緑茶は不発酵茶であり、酵素による発酵茶であるウーロン茶、紅茶のように強い香りを持たないので、発酵により新たに香りを付加する場合には、緑茶が好ましい。また、使用する茶葉は、そのままの大きなものでもよいし、粉砕した粉末茶を使用してもよい。
【0014】
また、加水する水は、飲用可能な程度に清潔な水であれば、種類やその温度を特に限定することなく使用できるが、水温が後述する乳酸菌の発酵温度よりも高い場合には、乳酸菌を接種する前に冷却する必要がある。また、その加水量は、乳酸菌の生育に必要以上の量であって、茶葉濃度を高く保つことのでき、乾燥の際にもエネルギーも少なくすむ量として、乳酸菌を接種する前の乳酸菌機能茶全体重量の60〜95重量%であり、好ましくは70重量%〜95重量%である。また、茶葉の量は、乳酸菌を接種する前の乳酸菌機能茶全体重量の5重量%〜40重量%であり、好ましくは5重量%〜30重量%である。
【0015】
接種する乳酸菌は、安全性を考慮してヨーグルト、チーズ、漬物、キムチ、味噌、醤油等の食品の製造に使用される乳酸菌、具体的にはLactobacillus属、Leuconostoc属、Lactococcus属、Storeptococcus属に属する乳酸菌がよい。なお、乳酸菌単独で茶葉に接種してもよいが、茶葉に雑菌が多い場合には、加熱殺菌条件を厳しくして滅菌するか、パン酵母等のSaccharomyces属の酵母との混合培養を行なってもよい。酵母はアルコールを生成して茶葉中の雑菌の生育を抑制し、乳酸菌とは比較的共存しやすいため、容易に混合培養することができる。
【0016】
接種する乳酸菌の量(培養開始時の乳酸菌の量)は、乳酸菌を速やかに、優勢的に生育させることが必要であるから、菌濃度が103cells/mlから107cells/mlであり、104cells/mlから106cells/mlが好ましい。さらに、培養は、静置培養により行うことができる。さらに、接種する酵母菌の量(培養開始時の酵母の量)は、乳酸菌よりも繁殖が同時若しくは少し遅れるほうがよいから、酵母菌の菌濃度が乳酸菌よりも低く、好ましくは1/5〜1/100程度低くなることが好ましい。
【0017】
発酵条件は、乳酸菌や酵母が生育可能な条件であれば特に限定することなく利用できる。具体的には、乳酸菌を接種して20℃〜40℃の環境下、好ましくは25℃から35℃で、2日間〜7日間、好ましくは3日間〜6日間発酵する。
【0018】
なお、発酵する際に単糖類、二糖類、オリゴ糖の少なくとも一つを添加することによって、接種した乳酸菌が優先的に繁殖し、雑菌による汚染の機会を少なくすることができる。ここで、これら糖分を添加する量は、乳酸菌の増殖を早めるために効果的な最小の量で、かつ、浸透圧による阻害作用を受けない量として、乳酸菌を接種する前の乳酸菌機能茶全体重量の0.5重量%〜10重量%であり、好ましくは1重量%〜5重量%である。
【0019】
また、発酵する際にグルタミン酸1ナトリウムを添加することによって、発酵によって産出されるγ-アミノ酪酸の量を増大することができる。ここで、グルタミン酸1ナトリウムを添加する量は、γ-アミノ酪酸に変換させることができる最大の量で、かつ浸透圧による阻害作用を受けない量として、乳酸菌を接種する前の乳酸菌機能茶全体重量の最大5重量%である。なお、グルタミン酸1ナトリウム以外の物質でも、成分としてグルタミン酸を含み発酵によりγ-アミノ酪酸に変換できる化合物、混合物、又は食品、例えば、グルタミン酸、蛋白質加水分解物、アミノ酸含有調味料等も同様に使用することができる。また、これらの添加量も、グルタミン酸1ナトリウムの場合と同じ理由から、乳酸菌を接種する前の乳酸菌機能茶全体重量の最大5重量%である。
【0020】
このようにして、乳酸菌を茶葉に接種して発酵させることにより、好ましい味や香りを備え、乳酸菌や酵母の菌体、各種機能性物質などを含む乳酸菌機能茶が得られる。なお、発酵により産出される機能性物質としては、γ-アミノ酪酸、ペプチドグルカン、ナイシン、多糖類、有機酸、各種ビタミン類など栄養源、乳酸菌機能茶に芳香を付与するリナロール類、ゲラニオール及びベンジルアルコールなどが挙げられる。特に、酵母を共存させて発酵させる場合には、果物の香のもとである酢酸イソアミル、カプロン酸エチルが含まれることもある。また、原料である茶葉に由来する機能性物質、具体的にはカテキン類、テアニン、アミノ酸類等は、接種した乳酸菌の作用を受けてもかなりの量が残存する。
【0021】
なお、この乳酸菌機能茶は、フィルタープレスや遠心分離などの既存の方法によって、固形分の茶葉を分離除去すれば、液状の乳酸菌機能茶抽出物とすることができる。そして、この乳酸菌機能茶抽出物は直接飲用したり、飲料水で希釈して飲用したりできるとともに、パンやヨーグルトなどの発酵食品の発酵種として使用することもできる。
【0022】
反対に、乳酸菌機能茶から分離除去された茶葉を、棚段式乾燥機や流動床式乾燥機などの既存の方法によって、乾燥すれば茶葉乾燥物となる。そして、この茶葉乾燥物は、通常の茶葉と同様の方法によって、すなわち熱湯を注ぐことにより、飲用に利用することができる。
【0023】
つぎに、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明するが、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても以下の実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0024】
まず、粉末茶10g、砂糖5g、水75mlを混合したもの(試料1)、粉末茶10g、砂糖5g、グルタミン酸1ナトリウム1g、水74mlを混合したもの(試料2)を、それぞれ121℃、20分間で滅菌し、放冷後、Lactobacillus hilgardiiを各試料の菌濃度が105cells/mlになるように接種(菌懸濁液として10ml添加)した。つぎに、各試料を25℃で6日間培養しながら、各試料に含まれる乳酸菌の菌数、γ-アミノ酪酸、テアニン、カテキン量を経時的に測定した。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1からも明らかなように、グルタミン酸1ナトリウムを加えたもの(試料1)は加えないもの(試料2)に較べて、より多くのγ-アミノ酪酸を生成した。また、発酵によりテアニンはかなり分解されるものの、カテキン類についてはそのまま残存することが分かった。
【実施例2】
【0027】
まず、粉末茶10g、砂糖5g、グルタミン酸1ナトリウム1g、水74ml混合して、121℃、20分間滅菌し、Lactobacillus hilgardiiを菌濃度が105cells/mlになるように接種(菌懸濁液として10ml添加)したもの(試料3)、及び粉末茶10g、砂糖5g、グルタミン酸1ナトリウム1g、水74ml混合して、121℃で20分間滅菌しLactobacillus hilgardiiを菌濃度が105cells/mlとなるように接種し、Saccharomyces cerevisiae を菌濃度が104cells/mlになるように接種したもの(試料4)を作成した(菌懸濁液として10ml添加)。つぎに、各試料を25℃で5日間培養しながら、各試料に含まれる乳酸菌の菌数、γ-アミノ酪酸、テアニン、カテキン量を経時的に測定した。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2からも明らかなように、Saccharomyces cerevisiaeをLactobacillus hilgardiiの約1/10量接種したところ、Lactobacillus hilgardiiは培養開始2日目に、Saccharomyces cerevisiaeは培養開始4日目に菌濃度が107cells/ml台に増殖した。また、γ-アミノ酪酸の生産は、単独培養(試料3)及び混合培養(試料4)の双方で4日目から増加した。さらに、テアニンは単独培養(試料3)、混合培養(試料4)共に半分以上残存した。カテキン類については、単独培養の場合はそのまま残存したが、混合培養の場合は増加したのち半減した。
【実施例3】
【0030】
まず、粉末茶5〜30g、砂糖5g、グルタミン酸1ナトリウム1g、及び総容量が90mlとなるように水を加えて混合し、121℃、20分間滅菌し、放冷後、Lactobacillus hilgardiiを菌濃度が105cells/mlになるように接種(菌懸濁液として10ml添加)して、試料5〜試料9を作成した。つぎに、各試料を25℃で7日間培養しながら、各試料に含まれる乳酸菌の菌数、γ-アミノ酪酸、テアニン、カテキン量を経時的に測定した。その結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
表3からも明らかなように、Lactobacillus hilgardiiは、粉末茶の添加量が20gの試料7まではほぼ順当に増殖したが、粉末茶の添加量が30gの試料5では増殖が阻害された。また、γ-アミノ酪酸は、粉末茶の添加量が5gから30g(試料5から試料9)のいずれにおいても生成が確認できた。さらに、テアニンは粉末茶の添加量にかかわらずほとんどそのまま残存することが確認できた。加えて、カテキン類も、粉末茶の添加量を変えてもほとんどそのまま残存することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉に加水したのち、この加水物に乳酸菌を接種して所定期間発酵させてなる乳酸菌機能茶。
【請求項2】
加水後の水分量が60〜95重量%である請求項1に記載の乳酸菌機能茶。
【請求項3】
加水物に乳酸菌に加えて、Saccharomyces属の酵母を接種する請求項1又は請求項2に記載の乳酸菌機能茶。
【請求項4】
加水物に単糖類、二糖類、オリゴ糖のうちの少なくとも1種を混合してなる請求項1から請求項3の何れかに記載の乳酸菌機能茶。
【請求項5】
加水物にグルタミン酸1ナトリウム、グルタミン酸、蛋白質加水分解物、アミノ酸含有調味料のうちの少なくとも1種を混合してなる請求項1から請求項4の何れかに記載の乳酸菌機能茶。
【請求項6】
請求項1から請求項5に記載の乳酸菌機能茶から茶葉を分離除去してなる乳酸菌機能茶抽出物。
【請求項7】
請求項1から請求項5に記載の乳酸菌機能茶から茶葉を分離し、この茶葉を乾燥してなる茶葉乾燥物。