説明

乳飲料用安定剤及びその応用

【課題】常温流通可能な乳飲料を製造する際、レトルト殺菌により製造する場合のF値を有意に向上させる。更には、F値が有意に向上することにより製造時殺菌工程を短縮して、乳飲料の製造時及び保存時の香味劣化及びミルク浮き、白色浮遊物、沈殿等の状態劣化を有意に抑制する。
【解決手段】乳飲料用安定剤として、セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含む。乳化剤が、ショグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ユッカ抽出物、サポニン、レシチン、ポリソルベート、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウムから選ばれる2種以上である。乳飲料に当該乳飲料用安定剤を配合し、更に、不溶性粉末を含有する。乳飲料製造時、セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことを特徴とする、当該乳飲料の製造時及び保存時の香味劣化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト殺菌などF値に基づき殺菌工程を行う、常温流通可能な乳飲料に関する。更には、常温流通可能な乳飲料を製造する際、レトルト殺菌の際のF値が有意に向上することにより、殺菌条件を過酷にする必要がなくなり、その結果、乳飲料の香味劣化を有意に抑制することができ、保存状態の良好な常温流通可能な乳飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ココアや抹茶などの不溶性粉末を乳飲料中に分散するために、セルロース複合体、微結晶セルロースなどのセルロースを使用することは知られており、また、これら乳飲料に乳化剤を使用することやレトルト殺菌によりココア飲料などを製造できることは知られている(特許文献1,特許文献2、特許文献3)。
【0003】
更には、密封容器入りコーヒー飲料にもセルロース複合体などを添加することが検討されている。例えば、コーヒー豆由来の可溶性固形分を多量に含む密封容器入りコーヒー飲料であって、結晶セルロースやカルボキシメチルセルロース(CMC)などの繊維素系粘質を添加して、コーヒー成分に由来する沈澱の発生を防止すること(特許文献4)、食品用乳化剤及びセルロース複合体を含有することを特徴とする乳成分入りコーヒー飲料(特許文献5)、コーヒー抽出液に、生クリーム又はバターと、乳化剤と、微結晶セルロースとを添加し、pHを5.0〜6.5に調整して加熱殺菌することを特徴とするコーヒーの製造法(特許文献6)などがある。しかし、これら飲料は、120〜125℃で20〜25分程度のレトルト殺菌により製造することが記載されている。
【0004】
しかし、これらには、レトルト殺菌時のF値向上に関する記載は一切無い。F値とは、一定温度において、一定数の微生物を死滅させるのに要する加熱時間(分)を示し、食品の加熱殺菌効果を表示する指標として用いられ、通常250°F(121℃)における加熱致死時間を意味し、下式により算出される。
【0005】
【数1】

【0006】
τ:温度Tにおける加熱致死時間
Z:加熱致死時間や致死率の1/10又は10倍の変化に対応する加熱温度(°F)の変化量を示す。
【0007】
T:殺菌温度(°F)
t:被殺菌物の温度(°F)
(TDT:thermal death time)任意の華氏温度(°F)において微生物を死滅させるのに要する時間で,TDPと同様,処理を加えたときの微生物数によって値は一定しないが,現実的な概念のひとつである.とくに,250°F(121℃)におけるTDTをF値とよび,オートクレーブ処理条件を検討するうえでよく利用される.また,Z値という概念があるが,これは,TDTを10倍あるいは1/10にするのに要する温度差を華氏で表わしたものである.なお,華氏温度(F)と摂氏温度(C)の間には, C=5/9(F-32) の関係がある。
【0008】
要するに、F値は、一定温度で一定数の細菌を死滅させるのに要する加熱時間を意味するが、例えばボツリヌス菌は120℃4分間で死滅するのでF値は4となる。F値4と同等の殺菌条件とは、110℃では36分必要で、130℃では30秒と言ったように、殺菌温度によって加熱時間が変わってくるものである。このF値が高い程、殺菌効率が高いことを意味する。即ち、F値が高い場合、同じ温度でも殺菌時間を短縮することができたり、また、同じ時間でも殺菌温度を低く設定できたりするため、F値が高くなることにより殺菌効率が上がるという利点がある。よって、F値を向上させることは、殺菌工程を含む製造効率を高める上での重要な要素となる。
【0009】
更には、前述の通り、乳飲料中に、ココアや抹茶、カルシウムなどの不溶性粉末を分散させるために、微結晶セルロース、セルロース複合体などのセルロースを添加することは一般に行われているが、セルロースを含有する乳飲料は、殺菌時目標F値を得るためには長時間の加熱が必要で、加熱による香味劣化とミルク浮き、白色浮遊物、沈殿等の状態劣化が問題となっていた。
【0010】
更に、特許文献3には、ミルクコーヒー、ミルクティなどの乳成分を含有する弱酸性乳飲料の殺菌条件として、一般的にF値、F0=50〜60のレトルト殺菌やUHT殺菌が適用されるとあり、(特許文献3〔0025〕)、実施例ではF0=30のレトルト殺菌によりミルクコーヒーを調製している(同〔0028〕)。このように、乳成分を含有する乳飲料では殺菌条件としても高温長時間の加熱が必要となるが、セルロースを含むことで更に長時間の加熱が必要となり、製造工程の長時間化及び出来上がった乳飲料の香味劣化、ミルク浮き、白色浮遊物、沈殿等の状態劣化などが問題となっていた。
【0011】
【特許文献1】特開平8−38127号公報
【特許文献2】特許第3126830号公報
【特許文献3】特開2001−292750号公報
【特許文献4】特開平6−205641号公報
【特許文献5】特開平6−335348号公報
【特許文献6】特開平6−245703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、セルロースを含有する乳飲料について、F値を向上させて、殺菌工程を短縮化し、乳飲料の製造時及び保存時の香味劣化を有意に抑制することが出来る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、セルロースを含む乳飲料に2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことで、レトルト殺菌時のF値を向上させることが出来、殺菌工程を短縮することができることを見出した。
【0014】
更に、2種類以上の乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ユッカ抽出物、サポニン、レシチン、ポリソルベート、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウムから選ばれる2種以上が好ましいことが判った。更には、飲料中、不溶性粉末を含有する場合も、不溶性粉末を良好に分散でき、製造時及び保存時の風味も良好な乳飲料を提供できることを見いだした。
【0015】
尚、本発明は下記の態様が含まれる。
項1.セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことを特徴とする、レトルト殺菌時のF値を向上するための乳飲料用安定剤。
項2.乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ユッカ抽出物、サポニン、レシチン、ポリソルベート、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウムから選ばれる2種以上である、項1に記載の乳飲料用安定剤。
項3.項1又は2に記載の、レトルト殺菌時のF値を向上した乳飲料。
項4.更に、不溶性粉末を含有する項3に記載の乳飲料。
項5.乳飲料製造時、セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことを特徴とする、当該乳飲料の製造時及び保存時の香味劣化を抑制する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、常温流通可能な乳飲料の製造方法において、レトルト殺菌により製造する場合のF値を有意に向上することが出来る。更には、F値が有意に向上することにより、殺菌工程を短縮できるため、乳飲料の製造時及び保存時の香味劣化及びミルク浮き、白色浮遊物、沈殿等の状態劣化を有意に抑制することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のレトルト殺菌時のF値を向上するための乳飲料用安定剤は、セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことを特徴とする。
【0018】
本発明におけるセルロースとは、木材パルプ、精製リンター、再生セルロース、穀物もしくは果実由来の食物繊維等のセルロース系素材、微生物由来のセルロースなどで、セルロース、結晶セルロース、微結晶セルロース、セルロース複合体、発酵セルロースとよばれるものも含み、食品、医薬品、化粧品をはじめ幅広い分野で使用されているものであれば良い。形状は液体、ペースト、粉末等何れの形状のものでもよい。具体的には、セルロースと親水性高分子とからなるセルロース複合体もしくは発酵セルロースが効果の上から好ましい。また、親水性高分子の異なるセルロース複合体同士の併用や水分散後の平均粒子径が異なるセルロース複合体同士の併用でもよい。
【0019】
セルロースの添加量としては、乳飲料に対して、0.1〜0.6重量%、より好ましくは、0.3〜0.5重量%が望ましい。0.1重量%よりも少ないと充分な効果を得ることができず、0.6重量%より多くしても更なる効果が望めないためである。
【0020】
また、本発明では2種類以上の乳化剤を使用することを特徴とする。本発明で使用する乳化剤は、乳飲料に一般的に用いられている乳化剤であれば良い。具体的には、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ユッカ抽出物、サポニン、レシチン、ポリソルベート、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム等を挙げることができ、これらの2種以上の乳化剤を本発明の乳化剤として使用することが出来る。
【0021】
これらの乳化剤の中でも、その効果の点より、特に、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる2種以上を使用するのが望ましく、更に好ましくは、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルの3種を併用するのが好ましい。
本発明で使用する2種類以上の乳化剤の添加量としては、用いる乳化剤の種類により一概には規定することが出来ないが、乳飲料に対して、乳化剤の合計量として、0.001〜0.2重量%、好ましくは、0.01〜0.1重量%、更に好ましくは、0.02〜0.07重量%である。0.001重量%よりも少ないと充分な効果を得ることができず、0.2重量%より多くしても更なる効果が望めないためである。更に、本発明で使用する乳化剤は一剤化してもよいし、別々に添加しても良い。
【0022】
また、本発明の乳飲料用安定剤には、前記に加えて、増粘多糖類、カゼインナトリウムから選ばれる1種以上の化合物を加えることが好ましい。
【0023】
本発明で使用する増粘多糖類は、乳飲料に一般的に用いられている増粘多糖類であればよい。具体的には、カラギナン(イオタ、ラムダ、カッパ)、キサンタンガム、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、水溶性大豆多糖類等を挙げることができ、これらから選ばれる1種又は2種以上の増粘多糖類を本発明の増粘多糖類として使用することが出来る。これらの増粘多糖類の中でも効果の点より、特に、イオタカラギナン又はジェランガムが望ましい。増粘多糖類の添加量としては、用いる増粘多糖類の種類により一概には規定することが出来ないが、一般的には、乳飲料に対して、0.001〜0.06重量%が望ましい。0.001重量%よりも少ないと充分な効果を得ることが出来ず、0.06重量%より多くしても乳飲料の調製における作業効率が悪くなるためである。
【0024】
本発明で使用するカゼインナトリウムは、タンパク質系の水溶性高分子で、脱脂乳に酸を加えて沈殿して得られたカゼインを水酸化ナトリウム、もしくは炭酸水素ナトリウムと反応させて製造したものである。カゼインナトリウムの添加量としては、乳飲料に対して0.005〜0.4重量%が望ましい。0.005重量%よりも少ないと充分な効果を得ることができず、0.4重量%より多くしても更なる効果が望めないためである。
【0025】
なお、本発明の乳飲料用安定剤は、セルロース、前記2種類以上の乳化剤、及び必要に応じて増粘多糖類、カゼインナトリウムを一剤化して乳飲料に添加することも可能である。その形状として、粉末状、フレーク状、粒状、ペースト状、液状等いずれの形態でも用いることが出来る。一剤化製剤の製造方法としては、従来公知の方法をとることができる。例えば、セルロース及び乳化剤とその他の増粘多糖類やカゼインナトリウムを粉体混合したり、セルロース及び乳化剤とその他の増粘多糖類、カゼインナトリウムを水に撹拌分散させたり、ホモゲナイズ分散させたりすることにより調製することができる。
【0026】
本発明の乳飲料用安定剤は、その効果を妨げない範囲において、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、塩酸、塩化ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、フィチン酸等の有機酸、無機酸及び/又はその塩類、ショ糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、デンプン糖化物、還元デンプン水飴、デキストリン、サイクロデキストリン、トレハロース等の糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール類、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムK、ソーマチン等の高甘味度甘味料類等を添加することができる。
【0027】
本発明の乳飲料とは、不溶性粉末を分散した乳飲料のことを言い、缶、瓶、ペットボトル、紙パック、ラミネートパック等の密封容器に充填されている乳飲料であれば良く、密封状態で流通、販売されるものである。また、常温で販売されるものであっても、ホットベンダーで販売されるものであっても、チルド流通されるものであっても良いが、常温流通可能とするための殺菌が施されたものである。
【0028】
一般に、乳飲料とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令((昭和二十六年十二月二十七日)(厚生省令第五十二号);乳等省令)等により生乳、牛乳もしくは特別牛乳又はこれらを原料とした食品を加工し、または主要原料とした飲料と定められているが、本発明の乳飲料とは、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、濃縮乳、生クリーム、練乳等の乳成分が含有されている飲料であればよい。中でも、牛乳由来の乳成分を含有する乳入り飲料においては、レトルト殺菌におけるF値の向上効果高く、また風味も良好なため特に望ましい。
【0029】
本発明の乳飲料の具体例としては、ミルク入りココア、抹茶ミルク、カルシウム強化乳飲料や、ミルク入りコーヒー、ミルク入り茶類、ミルクセーキ、ミルクシェイク、酸乳飲料、イチゴミルク等が挙げられる。
【0030】
更に、本発明では、不溶性粉末を含む乳飲料にも適用可能である。特に、ミルク入りココア、抹茶ミルク、カルシウム強化乳飲料等の不溶性粉末を含む乳飲料は、特にレトルト殺菌の際、F値を向上させることができるので、殺菌工程を短縮化でき、乳飲料の製造時及び保存時の香味劣化を有意に抑制することが出来るものである。
【0031】
本発明で言う不溶性粉末とは、飲料に添加可能な、不溶性の粉末成分で有れば特に限定はないが、ココア、抹茶、カルシウム等の金属塩、きなこや酵母などを挙げることができる。
【0032】
なお、本発明では常温流通可能とするためにレトルト殺菌を行う。レトルト殺菌(加熱加圧殺菌)は、加熱時に蒸気や加圧熱水を使用して行う殺菌であり、装置はバッチ式と連続式に大別でき、バッチ式が多用されている。バッチ式も加熱媒体の種類により、加熱蒸気を利用する蒸気式と、加圧過熱水を利用する熱水式がある。現在の主流は熱水式である。製造した飲料を充填した密封容器がレトルト釜の中で固定されている静置式と、時間短縮と熱ムラを少なくするために回転させる回転式など、生産性や内容品に応じた種々のタイプがある。本発明では、120〜130℃の温度条件で、20〜40分間加熱殺菌する条件を挙げることができる。
【0033】
更に、本発明ではレトルト殺菌時の殺菌の指標となるF値を向上できることが特徴である。本発明は、密閉容器入り乳飲料のF値を向上させる方法を提供するものである。当該方法は、前述するように乳飲料の製造工程に、セルロースと乳化剤又は、セルロースと乳化剤及び増粘多糖類、カゼインナトリウムから選ばれる化合物の1種以上を添加することにより実施することが出来る。当該方法の操作方法、条件、使用材料等については、前述の記載をそのまま援用することができる。例えば、湯にセルロースと乳化剤又は、セルロースと乳化剤、増粘多糖類又はカゼインナトリウムを撹拌分散し、これに糖液、牛乳又は他の乳成分(全脂粉乳、脱脂粉乳、濃縮乳、生クリーム含む)、ココア粉末又は抹茶等を添加し、ホモゲナイズした後、密閉容器に充填し、殺菌することにより、密閉容器入り乳飲料における、殺菌時のF値を向上させることができる。具体的には、通常F値が5〜25であったのが、本発明により30〜80までF値が向上する。
【0034】
本発明の乳飲料は、レトルト殺菌時のF値を向上するために、セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことを特徴とする。本発明の乳飲料の、セルロース及び2種類以上の乳化剤の乳飲料への含有方法は、従来公知の方法をとることができる。例えば、湯または水にセルロースと乳化剤又はセルロースと乳化剤及び増粘多糖類、カゼインナトリウムを粉体及び液状等の形態で投入し、撹拌分散した後に、糖液、牛乳または牛乳及び他の乳成分(全脂粉乳、脱脂粉乳、濃縮乳、生クリームを含む)を加え、これに別途抽出したコーヒーエキス、紅茶エキス、果汁成分や、不溶性粉末を添加する場合は、ココア粉末、抹茶、炭酸カルシウム、乳清カルシウム、卵殻カルシウム、貝カルシウム等の不溶性粉末を添加し、必要であればpH調整した後ホモゲナイズし、瓶、缶、紙パック、ラミネートパック等の密閉容器に充填した後、レトルト殺菌を行う方法を挙げることができる。
【0035】
本発明により、従来の乳飲料に掲げる問題点であった、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿を抑制すると共に、本発明の目的である、レトルト殺菌時のF値が向上し、製造時及び保存時の香味劣化が抑制された、本発明の乳飲料を調製することができる。また、セルロース、乳化剤、増粘多糖類、カゼインナトリウム等の添加方法は限定されず、セルロース、乳化剤、増粘多糖類、カゼインナトリウム等をバラバラに添加することもできるが、セルロースと乳化剤又は、セルロースと乳化剤及び、増粘多糖類、カゼインナトリウムから選ばれる1種以上の化合物を混合して一剤化してから添加することが、品質の安定なものを得ることが出来ることから特に望ましい。
【0036】
本発明の乳飲料には、その効果を妨げない範囲において、乳飲料に一般的に使用される成分、天然香料、合成香料等の香料類、プロテアーゼ、セルラーゼ等の酵素、カラメル色素等の着色料、調味料、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトシウム、炭酸カリウム等のpH調整剤等を添加することが出来る。
【0037】
以下、本発明をより詳細に説明するために実験例、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0038】
実験例1:セルロースと乳化剤を用いたミルク入りココアの調製
(1)乳飲料用安定剤の調製
表1に示す配合量に従いセルロース(セルロース複合体A:親水性高分子はカルボキシメチルセルロースナトリウムとキサンタンガム、セルロース複合体B:親水性高分子はキサンタンガム)及び各種乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル:HLB16、モノグリセリン脂肪酸エステル:HLB3.8、プロピレングリコール脂肪酸エステル:HLB3.9)又はイオタカラギナンもしくはカゼインナトリウムを粉体混合し、実施例1〜6の乳飲料用安定剤を作成した。また比較として、セルロース、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル)、イオタカラギナン、カゼインナトリウムのみ、又はセルロースと乳化剤を併用しない組み合わせの比較例1〜11を作成した。
【0039】
【表1】

【0040】
(2)ミルク入りココアの調製
(1)で得られた実施例1〜6の乳飲料用安定剤及び比較例1〜11をそれぞれ、下記処方の添加量に従い、砂糖と粉体混合し、この混合物をイオン交換水に加え、80℃10分間加熱溶解後、室温まで冷却し、牛乳、食塩、ココア粉末を添加し、水にて全量補正後、70℃まで加温し、1段目9.8×106Pa、2段目4.9×106Paの圧力でホモゲナイズ処理した。ホモゲナイズ後、缶に充填、密閉し、その後レトルト殺菌(125℃30分)を行い実施例1〜6及び比較例1〜11のミルク入りココアを調製した。
【0041】
<処方>
牛乳 23.0(重量%)
砂糖 6.2
ココア粉末 0.7
食塩 0.05
実施例1〜6、比較例1〜11 表1記載
イオン交換水にて全量 100とする

得られた密封容器入りミルク入りココアを室温と60℃で4週間保存後、2℃で1晩保存後に、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿について観察し、また、レトルト殺菌時のF値を測定した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2中の符号の説明
++++:極めて多い、+++:多い、++:やや多い、+:少ない、±:極めて少ない、−:ない
*F値の測定は株式会社日阪製作所社製のFVACを用いて測定した。
【0044】
表2に示すように、セルロースを配合し、乳化剤を配合しない比較例1のミルクココアは、F値11.3と極めて低く、また乳化剤を一種類のみ使用した比較例2〜6も比較例1よりはF値が上がるものの、まだ充分ではなかった。更に、セルロースを配合しない比較例6〜11は、F値は高いものの、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈澱が多かった。
【0045】
それに比べて、乳化剤を2種併用した実施例1〜2は、F値も30を超え良好であり、更に乳化剤を3種併用した、実施例3〜6は、F値60以上とセルロースを配合していても格段にF値が高くなった。このことより、殺菌時間を短くすることが出来、製造時及び保存時の香味の劣化を有意に抑制することが出来る。
【0046】
更には、実施例1〜6のミルク入りココアにおいては、比較例1〜11に比して、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿等の飲料の状態も良好であった。
【0047】
実験例2:セルロースと乳化剤の含量の検討
(1)乳飲料用安定剤の調製
表3に示す配合量に従いセルロース(セルロース複合体A:親水性高分子はカルボキシメチルセルロースナトリウムとキサンタンガム)と乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル:HLB16)を粉体混合し、実施例7〜10の乳飲料用安定剤を調製した。また、比較として比較例12〜18の乳飲料用安定剤を調製した。
【0048】
【表3】

【0049】
(2)ミルク入りココアの調製
得られた、実施例7〜10及び比較例12〜18の乳飲料用安定剤をそれぞれ、下記処方の添加量に従い、砂糖と粉体混合し、この混合物をイオン交換水に加え、80℃10分間加熱溶解後、室温まで冷却し、牛乳、食塩、ココア粉末を添加し、水にて全量補正後、70℃まで加温し、1段目9.8×106Pa、2段目4.9×106Paの圧力でホモゲナイズ処理した。ホモゲナイズ後、缶に充填、密閉し、その後レトルト殺菌(125℃30分)を行い実施例7〜10及び比較例12〜18のミルク入りココアを調製した。
【0050】
<処方>
牛乳 23.0(重量%)
砂糖 6.2
ココア粉末 0.7
食塩 0.05
実施例7〜10、比較例1〜13 表4記載
イオン交換水にて全量 100とする
【0051】
得られた密封容器入りミルク入りココアを室温と60℃で4週間保存後、2℃で1晩保存後に、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿について観察した。また、製造時レトルト殺菌時のF値を観察した。その結果を4に記す。
【0052】
【表4】

【0053】
表4中の符号の説明
++++:極めて多い、+++:多い、++:やや多い、+:少ない、±:極めて少ない、−:ない
*F値の測定は株式会社日阪製作所社製のFVACを用いて測定した。
【0054】
表4に示すように、乳化剤を含まないか、乳化剤を1種類含む比較例12〜16は、F値が低く、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿も生じていた。更に、セルロースを含まない比較例17、18はF値は高いものの、極めて多い沈澱を生じ、またミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフも生じていた。それに対して、実施例7〜10の乳飲料用安定剤を加えて調製したミルク入りココアにおいては、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿も少なく乳飲料として良好であり、更にはセルロースを含んでいても、F値向上について有意な効果がみられた。
【0055】
実験例3:抹茶ミルク
(1)乳飲料用安定剤の調製
表5に示す配合量に従いセルロース(セルロース複合体A:親水性高分子はカルボキシメチルセルロースナトリウムとキサンタンガム)と乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル:HLB16、モノグリセリン脂肪酸エステル:HLB3.8、プロピレングリコール脂肪酸エステル:HLB3.9)、イオタカラギナンを粉体混合し、実施例11の乳飲料用安定剤を調製した。また、比較として、比較例19を調製した。
【0056】
【表5】

【0057】
<処方>
牛乳 25.0(重量%)
砂糖 6.0
抹茶 0.5
本発明の安定剤 表7に記載
イオン交換水にて全量 100とする
【0058】
(2)抹茶ミルクの調製
得られた実施例11の乳飲料用安定剤及び比較例19とをそれぞれ、上記処方の添加量に従い、砂糖と粉体混合し、この粉体混合物をイオン交換水に加え、80℃10分間加熱撹拌後、室温まで冷却し、牛乳、抹茶を添加し、水にて全量補正後、70℃まで加温し、1段目9.8×106Pa、2段目4.9×106Paの圧力でホモゲナイズ処理した。ホモゲナイズ後、缶に充填、密閉し、その後レトルト殺菌(123℃23分)を行い、実施例11及び比較例19を含む抹茶ミルクを調製した。得られた抹茶ミルクの殺菌時のF値の測定と、60℃にて4週間保存後のミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿について観察した結果、F値、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿において実施例11は比較例19と比較して良好で、有意差が認められた。
【0059】
実験例4:ミルク入りコーヒー
(1)乳飲料用安定剤の調製
表6に示す配合量に従いセルロース(セルロース複合体A:親水性高分子はカルボキシメチルセルロースナトリウムとキサンタンガム)と乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル:HLB16、モノグリセリン脂肪酸エステル:HLB3.8、プロピレングリコール脂肪酸エステル:HLB3.9)、イオタカラギナンを粉体混合し、実施例12の乳飲料用安定剤を調製した。また、比較として、比較例20を調製した。
【0060】
【表6】

【0061】
<処方>
牛乳 15.0(重量%)
コーヒー生豆 6.5
砂糖 5.0
10%(w/v)重曹水溶液にてpH6.3に調整
本発明の安定剤 表6に記載
イオン交換水にて全量 100とする
【0062】
(2)ミルク入りコーヒーの調製
得られた実施例12の乳飲料用安定剤及び比較例20とをそれぞれ、上記処方の添加量に従い、砂糖と粉体混合し、この粉体混合物をイオン交換水に加え、80℃10分間加熱撹拌後、室温まで冷却し、牛乳、重曹溶液を添加した。コーヒー生豆を粉砕し、豆量の7倍量熱湯を加え、40分間浸漬後ろ過し、20℃まで冷却した抽出液を更に添加し、水にて全量補正後、70℃まで加温し、1段目14.7×106Pa、2段目4.9×106Paの圧力でホモゲナイズ処理した。ホモゲナイズ後、レトルト殺菌(123℃20分)し、缶に充填、密閉し、実施例12及び比較例20を含むミルク入りコーヒーを調製した。得られたミルク入りコーヒーのF値の測定と、60℃にて4週間保存後のミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿について観察した結果、F値、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿において実施例12は比較例20と比較して良好で、有意差が認められた。
【0063】
実験例5:ミルク入り紅茶飲料
(1)乳飲料用安定剤の調製
表7に示す配合量に従いセルロース(セルロース複合体A:親水性高分子はカルボキシメチルセルロースナトリウムとキサンタンガム)と乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル:HLB16、モノグリセリン脂肪酸エステル:HLB3.8、プロピレングリコール脂肪酸エステル:HLB3.9)、イオタカラギナンを粉体混合し、実施例13の乳飲料用安定剤を調製した。また、比較として、比較例21を調製した。
【0064】
【表7】

【0065】
<処方>
牛乳 20.0(重量%)
紅茶葉(セイロン) 0.8
砂糖 5.5
10%(w/v)重曹水溶液にてpH6.8に調整
本発明の安定剤 表6に記載
イオン交換水にて全量 100とする
【0066】
(2)ミルク入り紅茶飲料の調製
得られた実施例13の乳飲料用安定剤及び比較例21とをそれぞれ、上記処方の添加量に従い、砂糖と粉体混合し、この粉体混合物をイオン交換水に加え、80℃10分間加熱撹拌後、室温まで冷却し、牛乳、重曹溶液を添加した。茶葉に茶葉量の35倍量の90℃〜95℃のお湯を加え、90℃〜95℃で10分間攪拌浸漬した後ろ紙ろ過し、室温まで冷却した抽出液を更に添加し、イオン交換水にて全量補正後、70℃まで加温し、1段目9.8×106 Pa 、2段目4.9×106Paの圧力でホモゲナイズ処理した。ホモゲナイズ後容器に充填しレトルト殺菌(123℃20分)を行いミルク入り紅茶飲料を調製した。得られたミルク入り紅茶飲料のF値の測定と、60℃にて4週間保存後のミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿について観察した結果、F値、ミルク浮き、白色浮遊物、オイルオフ、沈殿において実施例13は比較例21と比較して良好で、有意差が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことを特徴とする、レトルト殺菌時のF値を向上するための乳飲料用安定剤。
【請求項2】
乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ユッカ抽出物、サポニン、レシチン、ポリソルベート、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウムから選ばれる2種以上である、請求項1に記載の乳飲料用安定剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の、レトルト殺菌時のF値を向上した乳飲料。
【請求項4】
更に、不溶性粉末を含有する請求項3に記載の乳飲料。
【請求項5】
乳飲料製造時、セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことを特徴とする、当該乳飲料の製造時及び保存時の香味劣化を抑制する方法。


【公開番号】特開2006−20579(P2006−20579A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202036(P2004−202036)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】