説明

乾燥装置および乾燥方法

【課題】隔壁で区切られた基板上に塗料を吐出して得た塗膜には、乾燥後形状においてセル中央部の膜厚がセル周縁部の膜厚よりも厚くなる傾向がある。その膜厚差が機能層の機能に不都合を及ぼし、例えばカラーフィルタにおける色ムラの発生とそれに伴う高コントラスト比が得られないといった問題、また有機ELにおける発光効率の低下といった問題が発生する。このような問題が生じないようにするためには、隔壁内における乾燥塗膜が充分な平坦性を有する必要性があるため、これを課題とする。
【解決手段】溶媒を含む機能層形成用塗工液を、基板上に形成された隔壁内部に塗布することにより基板上に塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥させて固化させる乾燥工程を有する機能性素子の製造方法において、乾燥時に各画素の直上に乾燥を抑えるための蓋を配置することを特徴とする乾燥装置および乾燥方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成された隔壁内に溶媒を含む機能層形成用塗工液を塗布し、前記塗膜を乾燥させて固化させる工程を経て得られる機能性素子において、その機能に不都合を生じさせないために高精度に平坦な機能層を有する機能性素子を製造するための乾燥装置および乾燥方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、より高精細かつ美麗なディスプレイの製造競争が激化している。その中で、より高精細で薄層であるといった要求を満たすものとして、有機エレクトロルミネッセント素子(以下、有機EL素子とする)やカラーフィルタなどが注目を浴びている。これら有機EL素子やカラーフィルタには微細なパターニング技術が要求される。
【0003】
前記で求められている微細パターニングを行う方法として、近年インキジェット方式が注目を集めている。インキジェット方式以外の代表的な方法としてフォトリソグラフィ方式があり、フォトリソグラフィ方式では基板全体に塗布膜を形成した後に不要な部分を取り除くことで微細パターニングを行うが、そのため多くの塗布膜が不要となり、材料の無駄や工程数の増加を招く。これに対しインキジェット方式はそのような無駄が発生しないため、環境負荷の低減と大幅なコストダウン、形成工程の短縮など利点が多い方法である。
【0004】
インキジェット方式を用いて微細パターニングを行う基板の製造方法として、特許文献1〜3に記載されている方法が提案されている。特許文献1〜3には、インキジェット方式を用いたカラーフィルタ基板の製造方法として、異なる色の着色インキが混合してしまう不良を防ぐために、含フッ素化合物などの溌インキ剤を含有させた黒色樹脂層をフォトリソグラフィ方式等で形成し、隔壁とすることが記載されている。
【0005】
前述のようにして、隔壁内に塗工液を吐出、乾燥させる方法により形成された機能層の形状は、平坦とならずに(図1)に示すような凸形状や、(図2)に示すような凹形状になる場合が多い。凸形状となるか凹形状となるかは、機能性素子の素材性質や基板の性質によって変化する。中心部と端部の膜厚差が大きい場合、その差を起因とする問題が発生する。例えばカラーフィルタの着色層においては、膜厚差に起因する色ムラや、コントラスト性能が低下するといった影響を及ぼす。
【0006】
より高精細で、機能に不都合を生じない程度の平坦性を有する機能性素子を製造するために、特許文献4において平坦性を向上するための手法が発明されている。
【0007】
しかし、前記従来の方法では、乾燥し硬化した機能層のみに限れば平坦であるものの、隔壁と機能層との間に段差があるという問題があった。
【0008】
カラーフィルタにおいては、硬化した着色樹脂組成物と隔壁を形成するブラックマトリクスとの間に段差が生じ、その段差が色ムラの発生する原因となった。
【0009】
特許文献5では、乾燥後の形状が凸形状の場合は溶媒の揮発速度を速く、凹形状の場合は揮発速度を遅くすることによって平坦性の向上を行うことが提案されている。
【0010】
しかし、送風による制御では、送風自体の制御が難しいことに起因するムラが発生するため、高い膜厚精度を要求される製品では使用することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−347637号公報
【特許文献2】特開平7−35915号公報
【特許文献3】特開平7−35917号公報
【特許文献4】特開2006−243588号公報
【特許文献5】特開2003−266003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
隔壁で区切られた基板上に塗料を吐出して得た塗膜には、乾燥後形状においてセル中央部の膜厚がセル周縁部の膜厚よりも厚くなる傾向がある。その膜厚差が機能層の機能に不都合を及ぼし、例えばカラーフィルタにおける色ムラの発生とそれに伴う高コントラスト比が得られないといった問題、また有機ELにおける発光効率の低下といった問題が発生する。このような問題が生じないようにするためには、隔壁内における乾燥塗膜が充分な平坦性を有する必要性があるため、これを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
液滴の流動による平坦化を十分に行うため、(図3)に示すように塗布した液の直上へ蓋を設置することにより、溶媒雰囲気を制御し蒸発速度を抑え、流動しやすい粘度を保つことで、十分な機能が発揮できる程度に高い平坦性を持った機能層が得られることを特徴とする機能性素子の製造に関する乾燥装置および乾燥方法である。
【0014】
本発明においては、表面張力に起因する流動を充分に行わせるために、乾燥時の蒸発速度を制御することで粘度を低く抑え、流動による平坦化を促すことを特徴とする。これにより、機能層の中心部における平坦性が向上し、機能を発揮できる領域の増加や、膜厚差に起因する問題が起こる可能性を低減させる効果がある。
【0015】
また、液滴の乾燥現象は、気層の状態や隔壁内の液滴の濃度分布などによって複雑な挙動を示す。しかし表面張力による流動が充分に起きている間は、乾燥が進むにつれ平坦性が向上していく。平坦化の駆動力は表面張力であるが、液体の表面張力の強さを決定する表面張力係数を大きく変化させることは難しい。そのため平坦化するかどうかは、液の粘度や平坦化流動する時間に大きく影響される。本発明は以上の知見に基づいてなされたものである。
【0016】
上記課題を解決するために請求項1にかかる発明としては、溶媒を含む機能層形成用塗工液を、基板上に形成された隔壁内部に塗布することにより基板上に塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥させて固化させる乾燥工程を有する機能性素子の製造方法において、乾燥時に各画素の直上に乾燥を抑えるための蓋を配置することを特徴とする乾燥装置および乾燥方法である。
【0017】
また、請求項2にかかる発明としては、蓋が乾燥を効率よく抑えるために、蓋の位置が画素から距離2[mm]以内にあることを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置および乾燥方法である。
【0018】
また、請求項3にかかる発明としては、前記機能層形成用塗工液がインクジェット法により塗布されることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれか記載の乾燥装置および乾燥方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、塗工液の乾燥の際、画素の直上に乾燥速度を抑える蓋を設置することにより、平坦な形状の機能性素子を得ることができた。これにより、機能層が画素内で機能する領域が増大し、より効率の良い機能層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の溶媒と溶質を含む液を隔壁内に塗布し乾燥させた後、凸状態となる機能性素子の説明図である。
【図2】本発明の溶媒と溶質を含む液を隔壁内に塗布し乾燥させた後、凹状態となる機能性素子の説明図である。
【図3】本発明の溶媒と溶質を含む液を隔壁内に塗布した後、蓋を液の直上に設置した状態で乾燥させることを模式した説明図である。
【図4】本発明の(実施例1)における、溶媒と溶質を含む液を隔壁内に塗布した後、隔壁から1[mm]の位置に蓋を設置した状態で乾燥させた時の機能性素子の乾燥後の形状である。
【図5】本発明の(実施例2)における、溶媒と溶質を含む液を隔壁内に塗布した後、液の直上に何も設置しない状態で乾燥させた時の機能性素子の乾燥後の形状である。
【図6】本発明の(実施例3)における、溶媒と溶質を含む液を隔壁内に塗布した後、隔壁から10[mm]の位置に蓋を設置した状態で乾燥させた時の機能性素子の乾燥後の形状である。
【図7】従来の方法における、機能性素子の形状である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
液滴の乾燥は一般的に液滴の濃度状態や気層の状態に応じた複雑な乾燥挙動を示す。
【0022】
乾燥初期においては、表面張力の効果による液の流動により徐々に平坦性が向上していく。しかし、乾燥が進むにつれ充分な液の流動が行われなくなり、複雑な乾燥挙動による非平坦化効果が液の流動による平坦化効果を上回ることによって、乾燥後の機能層における平坦性が失われる。そこで本発明においては、乾燥速度を抑えることで、充分な液の流動性を確保した状態で乾燥させることで形成された機能層の平坦化を実現する。
【0023】
乾燥速度を抑える方法としては、蓋の設置が望ましい。これは蒸発速度を確実に抑えられるだけでなく、高濃度の溶媒雰囲気下では流動が促進する効果もあるからである。
【0024】
また、設置する蓋の位置は、隔壁から2[mm]以内にあることが望ましい。これは、ある程度接近した位置に蓋が存在しないと、効率よく気層の溶媒濃度を高め、蒸発速度を抑えることが難しいためである。
【0025】
また、塗工液の塗布手段としては、隔壁内に液滴を配置可能な装置であれば限定はされず、吐出や印刷などいずれの方法でもかまわないが、インクジェット装置であることがより望ましい。インクジェット法による塗布では、塗工液の効率的な使用や形成工程の短縮によるコスト削減が見込まれるからである。
【実施例】
【0026】
本発明についてさらに具体的に述べるために、以下に述べるカラーフィルタによる実施例を用いて説明する。
【0027】
(ブラックマトリクスの作成)
無アルカリガラス(コーニング社製「#1737」)上にカーボンブラックを含有したレジスト剤(新日鉄化学社製ブラックマトリクス用ネガ型レジストインキ「V−259 BK739P」)に感光性シリコン化合物(例えばジメチルポリシラン)を10%添加したものを膜厚がおよそ2.0μmとなるようにスピンコートし、プリベークを行った。
【0028】
その後、溶媒を含む機能層形成用塗工液を、基板上に形成された隔壁内部に塗布することにより基板上に塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥させて固化させる乾燥工程を有する機能性素子の製造方法において、乾燥時に各画素の直上に乾燥を抑えるための蓋を配置することを特徴とする乾燥装置および乾燥方法におけるパラメータαの値を制御するため、隔壁のアスペクト比が1:58.5となるように調整しながら露光、現像、ポストベーク処理を行って、隔壁となるブラックマトリクスを形成した。
【0029】
(カラーインキの調整)
機能性素子として着色インキを用いるため、着色インキの調製を以下のようにして行った。
・メタクリル酸 20重量部
・メチルメタクリレート 10重量部
・ブチルメタクリレート 55重量部
・ヒドロキシエチルメタクリレート 15重量部
を乳酸ブチル300gに溶解し、窒素雰囲気下でアゾビスイソブチルニトリル0.75重量部を加え70℃にて5時間の反応によりアクリル共重合樹脂を得た。
【0030】
得られたアクリル共重合樹脂を樹脂濃度が20%になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈し、アクリルワニスとした。
【0031】
さらに、アクリルワニス(固形分20%) 100重量部に対して、C.I.Pigment Red254の顔料を 16.67重量部と、C.I.Pigment Red177の顔料を 1.85重量部の混合物を均一に攪拌混合した後、直径1mmのガラスビーズを用いて、サンドミルで5時間分散した後、5μmのフィルタで濾過して赤色顔料の分散体を作成した。
【0032】
その後、赤色顔料の分散体 100重量部に対して、ジエチレングリコールモノメチルエーテルを 39重量部と、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを 23.4重量部の混合物を均一になるように攪拌混合した後、5μmのフィルタで濾過して赤色着色材料を得た。
【0033】
(カラーインク基板への塗出)
前記ガラス基板上のブラックマトリクスの開口部に、前記着色インキを108pl、150dpiヘッド(セイコーインスツルメンツ社製)を搭載したインクジェット印刷装置により、適量付与した。
【0034】
(実施例1)
ブラックマトリクス内に液を吐出し、隔壁内の液を乾燥させる工程を、隔壁から距離1[mm]離れた位置に蓋を配置しておこない、光干渉式表面形状測定装置を用いて画素の中央部断面形状を測定したところ、(図4)に示すように従来の画素断面形状よりも画素の中央部と周辺部での膜厚差が小さく平坦であった。
【0035】
なお、前記における従来の画素断面形状とは、(図7)に示したように、隔壁内で凸形状になっており、かつ中央の膜厚中央の膜厚D2に対し±10%の膜厚にある領域の割合である、D3/D5が、 D3/D5<0.6となっている形状である。
【0036】
また、中央の膜厚中央の膜厚D2に対し±10%の膜厚にある領域の割合である、D3/D5は、 D3/D5>0.9 であり、広い範囲で平坦な形状であった。
【0037】
(実施例2)
前記工程と同様にしてブラックマトリクス内に液を吐出し、蓋をしないで乾燥工程をおこない、光干渉式表面形状測定装置を用いて画素の中央部断面形状を測定した結果、(図5)に示すように中央の膜厚中央の膜厚D2に対し±10%の膜厚にある領域の割合である、D3/D5は、 D3/D5<0.6 であり、(実施例1)に比べ平坦性が悪かった。
【0038】
(実施例3)
前記工程と同様にしてブラックマトリクス内に液を吐出し、隔壁から距離10[mm]離れた位置に蓋を配置して乾燥工程をおこない、光干渉式表面形状測定装置を用いて画素の中央部断面形状を測定した結果、(図6)に示すように中央の膜厚中央の膜厚D2に対し±10%の膜厚にある領域の割合であるD3/D5は、 D3/D5<0.6 であり、(実施例1)に比べ平坦性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
機能層が平坦な形状を持つことを必要とする機能性素子一般の製造について、本発明の乾燥装置および乾燥方法を利用することができ、より高品質な機能性素子を製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
1 ・・・隔壁
2 ・・・基材
3 ・・・機能性層
4 ・・・蓋
D1・・・隔壁の高さ
D2・・・機能性素子の中央における膜厚
D3・・・機能性素子中央の膜厚D2に対し±10%の膜厚にある領域
D4・・・隔壁と蓋の距離
D5・・・機能性素子全体の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を含む機能層形成用塗工液を、基板上に形成された隔壁内部に塗布することにより基板上に塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥させて固化させる乾燥工程を有する機能性素子の製造方法において、乾燥時に各画素の直上に乾燥を抑えるための蓋を配置することを特徴とする乾燥装置および乾燥方法。
【請求項2】
蓋の位置が画素から距離2[mm]以内にあることを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置および乾燥方法。
【請求項3】
前記機能層形成用塗工液がインクジェット法により塗布されることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれか記載の乾燥装置および乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−95362(P2011−95362A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247397(P2009−247397)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】