亀裂サイズ推定方法
【課題】 内側に圧力がかかる構造物内面の亀裂について、亀裂の深さだけでなく表面長さも同定可能な亀裂サイズ推定方法を提供する。
【解決手段】 構造物内面の亀裂を予め検出する第1ステップ、検出された亀裂の構造物外面の歪を前記亀裂の構造物外面に貼設された複数の歪ゲージによって測定する第2ステップ、前記複数の歪ゲージによって測定された複数の歪測定値を有限要素解析により仮想構造物内面の仮想亀裂の深さ及び表面長さと前記仮想構造物外面の歪とについて予め求められた関係に導入し、該複数の歪測定値の各々に対応する仮想亀裂の深さ及び表面長さを導出する第3ステップ、前記複数の歪測定値の各々に対応する前記仮想亀裂の深さと表面長さとの関係を複数の曲線としてグラフ化する第4ステップ、及び、前記グラフ化された複数の曲線が交わる交点の深さと表面長さを求めることにより、検出された亀裂の深さと表面長さを推定する第5ステップを含む。
【解決手段】 構造物内面の亀裂を予め検出する第1ステップ、検出された亀裂の構造物外面の歪を前記亀裂の構造物外面に貼設された複数の歪ゲージによって測定する第2ステップ、前記複数の歪ゲージによって測定された複数の歪測定値を有限要素解析により仮想構造物内面の仮想亀裂の深さ及び表面長さと前記仮想構造物外面の歪とについて予め求められた関係に導入し、該複数の歪測定値の各々に対応する仮想亀裂の深さ及び表面長さを導出する第3ステップ、前記複数の歪測定値の各々に対応する前記仮想亀裂の深さと表面長さとの関係を複数の曲線としてグラフ化する第4ステップ、及び、前記グラフ化された複数の曲線が交わる交点の深さと表面長さを求めることにより、検出された亀裂の深さと表面長さを推定する第5ステップを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラント等において内圧による疲労や応力腐食割れなどによって発生する構造物内面の亀裂の深さ及び表面長さ(以下、「亀裂サイズ」とも言う。)を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば配管内面に発生した亀裂は、超音波検査によって検出することが多い。検出された亀裂は、その大きさが小さい場合または次回検査までの進展量が小さいと予想された場合は、補修しないでそのまま使用を継続することがある。そして、次回の検査時に亀裂の大きさを再度計測し、亀裂の進展の有無や進展予測の妥当性を確認する。しかし、超音波による計測では、配管内面の亀裂位置は推定できるが、板面に垂直な亀裂の深さを測定するには精度が悪く、また、板厚が薄い場合には亀裂深さを測定することができない。さらに、超音波探傷法による亀裂深さ測定の精度は数mmと言われており、亀裂進展の有無の判断や進展量の測定も困難である。
【0003】
一方、管内面に亀裂が発生している位置が予め分かっている場合に、その亀裂が発生している位置の管外面に歪ゲージを貼付し、該位置の歪変化を測定することにより、亀裂深さを推定する方法が知られている(特許文献1等)。この方法は、円筒体のような構造物において内面亀裂が発生し、この亀裂が板厚方向へ進展すると、該位置外面の歪が内面亀裂深さの増加にほぼ比例して増加するという知見に基づくもので、この内面亀裂深さと外面の歪との関係を利用して、外面の歪の測定値から内面亀裂深さを推定するものである。特許文献1では、外面の歪の測定値から内面亀裂深さの推定が可能となる理由は、負荷応力が一定で内面亀裂深さが増加すると、残存部分の剛性が低下するために外面の歪が増加することによると考えられていた(特許文献1、第2頁、右上欄1〜4行目)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−119041号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した管外面に歪ゲージを貼付して管内面の亀裂深さを推定する方法は、亀裂の深さを同定することはできるが、亀裂の構造物表面方向への広がり(表面長さ)を同時に同定することはできなかった。
【0006】
本発明は、内側に圧力がかかる構造物内面の亀裂について、亀裂の深さだけでなく表面長さも同定可能な亀裂サイズ推定方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る亀裂サイズ推定方法は、構造物内面の亀裂を予め検出する第1ステップと、検出された亀裂の構造物外面の歪を、前記亀裂の構造物外面に貼設された複数の歪ゲージによって測定する第2ステップと、前記複数の歪ゲージによって測定された複数の歪測定値を、有限要素解析により仮想構造物内面の仮想亀裂の深さ及び表面長さと前記仮想構造物外面の歪とについて予め求められた関係に導入し、該複数の歪測定値の各々に対応する仮想亀裂の深さ及び表面長さを導出する第3ステップと、前記複数の歪測定値の各々に対応する前記仮想亀裂の深さと表面長さとの関係を、複数の曲線としてグラフ化する第4ステップと、前記グラフ化された複数の曲線が交わる交点の深さと表面長さを求めることにより、検出された亀裂の深さと表面長さを推定する第5ステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
前記第5ステップにおいて、前記複数の曲線の交点を複数選び、複数の交点について、各交点の深さと表面長さとを求め、第6ステップとして、前記各交点の深さと表面長さについて、重み係数を考慮した平均値を導出するステップを更に含むことが好ましい。
【0009】
また、亀裂が検出された前記構造物が厚さtの板状として場合に、歪ゲージのゲージ長さを0.1t以下とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1(A)】解析対象として、周方向の半楕円形状の亀裂が内面に存在する管(仮想構造物)の断面を示し、(a)は軸直角断面、(b)は軸平行断面である。
【図1(B)】解析対象として、軸方向の半楕円形状の亀裂が内面に存在する管(仮想構造物)の断面を示し、(a)は軸直角断面、(b)は軸平行断面である。
【図2(A)】図1(A)の解析対象をメッシュ分割した解析画像である。
【図2(B)】図1(B)の解析対象をメッシュ分割した解析画像である。
【図3(A)】図1(A)の解析対象の周歪に関する、亀裂の深さ、亀裂の表面長さ、及び、外表面での歪の関係を示すグラフである。
【図3(B)】図1(A)の解析対象の軸歪に関する、亀裂の深さ、亀裂の表面長さ、及び、外表面での歪の関係を示すグラフである
【図3(C)】図1(B)の解析対象の周歪に関する、亀裂の深さ、亀裂の表面長さ、及び、外表面での歪の関係を示すグラフである。
【図3(D)】図1(B)の解析対象の軸歪に関する、亀裂の深さ、亀裂の表面長さ、及び、外表面での歪の関係を示すグラフである。
【図4(A)】図1(A)の解析対象に関する亀裂周辺での歪分布であって、亀裂の延びる方向に沿う亀裂中心からの距離と歪(周歪及び軸歪)との関係を示すグラフである。
【図4(B)】図1(A)の解析対象に関する亀裂周辺での歪分布であって、亀裂の延びる方向と直交する方向に沿う亀裂中心からの距離と歪(周歪及び軸歪)との関係を示すグラフである。
【図4(C)】図1(B)の解析対象に関する亀裂周辺での歪分布であって、亀裂の延びる方向に沿う亀裂中心からの距離と歪(周歪及び軸歪)との関係を示すグラフである。
【図4(D)】図1(B)の解析対象に関する亀裂周辺での歪分布であって、亀裂の延びる方向と直交する方向に沿う亀裂中心からの距離と歪(周歪及び軸歪)との関係を示すグラフである。
【図5】図1(A)の解析対象に関する亀裂中心からの距離(x)と歪変化との関係を示すグラフである。
【図6】複数の歪ゲージを貼設した状態を一部拡大断面図とともに示す斜視図である。
【図7】複数の歪ゲージから推定される亀裂深さと表面長さの組合せを示すグラフである。
【図8】図6のLmの範囲内にある周方向と軸方向の歪ゲージを用いて、それらの歪ゲージの組合せから推定される亀裂深さの誤差(歪ゲージ出力に正規分布誤差を考慮)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る亀裂サイズ推定方法の一実施形態について、以下に図1〜図8を参照しつつ説明する。
【0012】
先ず、亀裂のある構造物をCAD等で仮想的にモデル化し、この仮想構造物を解析対象として、仮想亀裂について有限要素法によるコンピュータシミュレーション解析(有限要素解析)を実施する。
【0013】
本実施形態において、解析対象は、図1に示すように、周方向(図1(a))または軸方向(図1(b))の半楕円形状の亀裂1,2が内面に存在する、内圧(Pa)を受ける管(仮想構造物)3,4とした。
【0014】
仮想構造物としての管3,4は、内径(Ri)は43.64mm、肉厚(t)は13.5mm(4インチ管、スケジュール番号160相当)とした。管3,4の肉厚(t)に対して、亀裂(仮想亀裂)の表面長さ(2c)をt、2tおよび4tとし、深さ(a)を0から0.5tまで変化させた。
【0015】
有限要素解析には図2に示すように20節点要素でメッシュ分割を用い、汎用コードのABAQUSにて弾性解析を実施した。15MPaの内圧を亀裂面も含めて負荷し、キャップ効果を考慮するため、管端部に内圧相当の軸荷重を負荷した。ヤング率は180GPa、ポアソン比は0.3とした。
【0016】
上記有限要素解析の結果として、図3に、亀裂の表面長さ(2c)がt、2t、及び4tのそれぞれについて、亀裂1,2の深さ(a/t)と亀裂の中心位置で管外面の歪との関係を示す。
【0017】
図3において、歪は周方向歪(周歪)εθと軸方向歪(軸歪)εZをそれぞれ示している。なお、図3において、各表面長さ(2c)における深さ(a/t)と歪との関係は、近似曲線で表示されているが、深さ(a/t)のプロット間隔(図3では0.05)をより細かくプロットすることにより近似曲線を用いずに点の集合としてグラフ表示してもよい。
【0018】
上記のような亀裂の表面長さ(2c)、亀裂の深さ(a/t)、及び、亀裂の外面での歪の関係は、データベース化され、記憶装置に保存される。なお、本実施形態では、図示都合上、亀裂の表面長さ(2c)を3つ(2c=t、2t、4t)にしているが、データベース化に際しては、亀裂の表面長さ(2c)の数を増やして詳細なデータベースを構築する。また、図3は亀裂の中心位置での管外面の歪のみとの関係を示しているが、後述するように、亀裂の中心位置から離隔する複数位置の管外面の歪についても有限要素解析を用いてデータベース化される。
【0019】
図3において、亀裂がない場合、つまり健全部における周歪εθは200μεであるが、軸歪εZは約50μεとなっている。いずれも亀裂が大きくなる(亀裂が進展する)にしたがって歪が単調に低下している。例えば、亀裂長さ(2c)が2t(即ちc=1t)の場合、亀裂深さが0.5tとなると歪は50με以上低下しており、とくに、軸方向亀裂の周歪εθは100με以上低下している。亀裂深さが0から0.5tに進展したときに歪が100με低下する場合、歪の検出感度が5μεとすると、0.5t×(5/100)=0.025t(おおよそ0.34mm)の亀裂進展を検出できることになる。ただ、図3から分かるように、歪の変化は亀裂の形状(アスペクト比a/c)に依存し、亀裂の表面長さ(c)が大きい方が歪の変化が大きくなる。なお、亀裂が進展するに従って歪が低下するという解析結果は、従来の認識(上記特許文献1)と相違する。
【0020】
上記有限要素解析による亀裂周囲での歪の分布を図4に示す。いずれの歪も亀裂中心の外表面で最小となっており、最も感度が大きくなった。亀裂面に沿った方向では、亀裂の長さの範囲で、亀裂面に垂直な方向では亀裂深さ(0.5t)程度の範囲で歪が大きく変化した。いずれの亀裂方向、歪方向についても亀裂中心から0.1t(1.35mm)程度の範囲では歪変化が小さい。したがって、歪ゲージのゲージ長さは0.1t以下とすることが望ましい。
【0021】
図5は、上記有限要素解析による計算結果をもとに、a/t=0.5、c=t,a/c=0.5の周方向の亀裂による歪の変化(亀裂ない場合の歪からの変化量)を示す。t=13.5mmであることから、x=13.5mm(xは亀裂中心から亀裂長さ方向の距離)がちょうど亀裂の端部に相当する。亀裂による歪変化はこれより広い範囲で観察され、軸方向歪の変化の方が大きいことが分かる。
【0022】
上記したように、亀裂が成長することによって、管外面の歪は変化するが、その変化は亀裂形状(アスペクト比)に依存する。そのため、単一の歪変化からは亀裂が深さ方向へ進展したか表面方向へ進展したのかが判断できない。
【0023】
亀裂を例えば半楕円形状と仮定すれば、亀裂の形状は深さと長さの2自由度となり、少なくとも2枚の歪ゲージの出力から理論上は推定可能となる。なお、亀裂形状は、半楕円形状に限らず、方形、半年形、異形等、種々の形状に仮定することができる。
【0024】
管内面の軸方向の亀裂を例として、図6に示すように、半楕円形状の亀裂2の管外面に、複数の歪ゲージ5…5を所定間隔(図では2mm間隔)で設置した場合を想定し、以下に説明するようにして亀裂2の深さ(a)と表面長さ(2c)を同定する。各々の歪ゲージ5…5は、管4の周方向と軸方向の歪を測定して出力するもの(直交2方向を測定可能なもの)を用いることができる。
【0025】
図6の亀裂の中心にある歪ゲージ、即ち、図6の距離X=0mmの歪ゲージの出力から得られる深さと表面長さの関係は、先に構築したデータベースを利用して求めることができる。
【0026】
例えば、図3(A)を参照すれば、周歪(εθ)が150μεのとき、c=1tではa=0.5、c=2tではa≒0.46、c=0.5tではa>0.5(図外)となっている。上記したように、図3(A)において表面長さ(2c)の数を増やせば、図3(A)に表示される曲線の数が増え、その結果、歪値に対する深さと表面長さとの関係の数が増える。そのようにして図3に表示される曲線の数を増やしたグラフを用いて、ある歪値(周歪及び軸歪)に対する深さと表面長さの組をプロットしたグラフが、図7のX=0mmのプロット群である。なお、図7では、c/tが0.1間隔でプロットされている。
【0027】
図6の距離X=2mm、4mm、6mmの場合についても、上記と同様にして歪に対する深さと表面長さの関係が図7にプロットされている。図3で示したグラフは、亀裂の中心位置、即ち、図6の距離X=0mmの場合のグラフであり、図示していないが、図6の距離X=2mm、4mm、6mmの場合に図3に対応するグラフは、距離X=0のデータベースを作成した際の有限要素解析から得ることができる。
【0028】
上記のように、1枚の歪ゲージ出力から亀裂サイズを推定する場合、亀裂の深さと長さは一意に決定されず、歪量に対応する深さと表面長さの組み合わせを有することになる。図7から分かるように、亀裂の深さと表面長さの関係は、歪ゲージの位置によって異なる曲線を描く。そして、図7に示されているように、計算条件としたa/t=0.5、c=tにおいて全ての曲線が交わっている。したがって、2枚の歪ゲージの出力を用いることで、亀裂の深さと表面長さとの関係を示す2本の曲線が一点で交差し、その交点から亀裂の深さと表面長さの2種類のパラメータが推定できる。
【0029】
実際の測定では、亀裂の位置を超音波探傷法等によって予め検出しておいて、検出された亀裂の構造物外面に、所定間隔で複数の歪ゲージを貼設する。歪ゲージは、公知の歪ゲージを用いることができる。例えば、2mm間隔で5個の歪ゲージが一体となった集合ゲージ等も市販されており、これを用いることもできる。
【0030】
実際の測定では歪測定誤差が存在するため、図7のように全ての曲線が1点で交わることがない。しかし、複数の歪ゲージから2枚の歪ゲージを選択し、選択した2枚の歪ゲージから得られる仮想亀裂の深さと表面長さとの相関関係を示す2本の曲線の交点から、仮想亀裂の深さと長さを求めることができ、得られた仮想亀裂の深さと表面長さを実際の亀裂の深さと表面長さとして推定できる。歪ゲージの出力をオンラインでモニタリングし、実際の亀裂の深さ方向及び表面長さ方向への進展度合いを監視することができる。
【0031】
複数の歪ゲージから選択される2枚の歪ゲージの組み合わせを変えることで、仮想亀裂の深さと表面長さの組を複数組推定することができる。推定された複数組の亀裂の深さと表面長さについて平均をとることで推定精度の向上が図られる。図8は、図6に示したLmの範囲内にある周方向と軸方向の歪ゲージを用いて、それらの全て組み合わせから推定される亀裂深さの誤差を示している。例えば、Lm=4mmの場合、x=0,2,4mmにある周方向と軸方向の歪ゲージ、計6枚を用いて推定することになる。
【0032】
ここで、実際の測定を想定し、誤差は図中に示した標準偏差を有する正規分布で全ての歪ゲージ出力に与えた。そして、歪ゲージの測定誤差を変化させた1000回の計算から得られる推定値の誤差を図8に示している(図中の塗りつぶしプロット)。
【0033】
歪ゲージの誤差の標準偏差が5μεの場合、亀裂深さの推定誤差はLm=4mmまでは低下するが、それ以上では逆に誤差が増加した。また、誤差の標準偏差が2μεの場合は歪ゲージの数が増えるほど誤差が増加した。歪ゲージの貼り付け位置が亀裂中心より離れると、歪の変化量が小さくなり(感度が悪くなり)、測定精度が低下する。そして、このような感度の悪い(精度の悪い)歪ゲージを用いた推定値を用いることで、平均から得られる推定誤差が低下する結果となった。このように、複数の歪ゲージから推定される亀裂深さの単純な平均値を用いる場合は、歪ゲージの数を増やしても必ずしも誤差を低減させることができない。
【0034】
図8に示されているように、歪ゲージの数を単純に増加させると誤差が大きくなる場合が出現する。そこで、各歪ゲージの組み合わせの単純な平均を用いるのではなく、平均に重みを考慮することが好ましい。具体的には、n枚のゲージを用いて、その中の2枚のゲージiとkの組み合わせから推定される亀裂サイズ(深さ又は表面長さ)aest(i,k)に対する重みw(i,k)を定義し、亀裂サイズ(深さ又は方面長さ)aestを次式(1)により求める。
【0035】
【数1】
この式で、w(i,k)を全て同じ数値にした場合が、先に示した単純平均をした場合に相当する。例えば、図7において軸方向歪の曲線はほとんど一致している。このような場合、歪ゲージの誤差によって、2本の曲線の交点が大きくずれることになり、推定精度が悪くなる傾向にある。逆に、2本の曲線の交わる角度が大きい組み合わせは誤差が小さくなる。また、亀裂サイズに対する歪変化の大きさが測定誤差に対して小さくなると推定精度は低下する。
【0036】
上記のように、歪ゲージの組み合わせやゲージの貼り付け位置によって精度が異なることから、精度の良い推定値に対しては重みw(i,k)を相対的に大きくすることで、推定精度の向上を図ることができる。
【0037】
最終的に得られる亀裂深さの推定値aestの誤差が小さくなるように、それぞれのひずみゲージの組み合わせに対して重み変化させる収束計算を実施した。ここでは、歪ゲージの誤差を乱数で与えるモンテカルロ法により、歪ゲージの誤差の影響を最小とする重み係数の組み合わせを試行錯誤で決定した。
【0038】
そして、下記表1のような重みの組み合わせを得た。
【0039】
【表1】
この表はLm=6mm、ひずみゲージ誤差の標準偏差5μεの場合の結果を示しているが、x=6mmの位置にある周方向ひずみゲージは重みが全て零で、亀裂サイズの推定には使用しないことになる。また、軸方向ひずみゲージ同士の組み合わせ、周方向歪ゲージ同士の組み合わせには重みが零の場合が多い。このように得られた重みを用いて(1)式から亀裂深さを推定した誤差を図8に示す(白抜きのプロット)。重みを考慮することで、歪ゲージ数が増加しても同定誤差が増加することはない。そして、ゲージ数を増やすことで、誤差が大きく低減していることが分かる。ただし、同定精度はLm=12mm程度、つまり亀裂長さ近傍で飽和している。このように、重みを考慮することで、誤差を低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、原子力発電プラントや航空機など、構造物内面に亀裂が存在した状態で使用する可能性のある全ての分野に利用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 周方向の亀裂
2 軸方向の亀裂
3、4 管(構造物)
5 歪ゲージ
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラント等において内圧による疲労や応力腐食割れなどによって発生する構造物内面の亀裂の深さ及び表面長さ(以下、「亀裂サイズ」とも言う。)を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば配管内面に発生した亀裂は、超音波検査によって検出することが多い。検出された亀裂は、その大きさが小さい場合または次回検査までの進展量が小さいと予想された場合は、補修しないでそのまま使用を継続することがある。そして、次回の検査時に亀裂の大きさを再度計測し、亀裂の進展の有無や進展予測の妥当性を確認する。しかし、超音波による計測では、配管内面の亀裂位置は推定できるが、板面に垂直な亀裂の深さを測定するには精度が悪く、また、板厚が薄い場合には亀裂深さを測定することができない。さらに、超音波探傷法による亀裂深さ測定の精度は数mmと言われており、亀裂進展の有無の判断や進展量の測定も困難である。
【0003】
一方、管内面に亀裂が発生している位置が予め分かっている場合に、その亀裂が発生している位置の管外面に歪ゲージを貼付し、該位置の歪変化を測定することにより、亀裂深さを推定する方法が知られている(特許文献1等)。この方法は、円筒体のような構造物において内面亀裂が発生し、この亀裂が板厚方向へ進展すると、該位置外面の歪が内面亀裂深さの増加にほぼ比例して増加するという知見に基づくもので、この内面亀裂深さと外面の歪との関係を利用して、外面の歪の測定値から内面亀裂深さを推定するものである。特許文献1では、外面の歪の測定値から内面亀裂深さの推定が可能となる理由は、負荷応力が一定で内面亀裂深さが増加すると、残存部分の剛性が低下するために外面の歪が増加することによると考えられていた(特許文献1、第2頁、右上欄1〜4行目)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−119041号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した管外面に歪ゲージを貼付して管内面の亀裂深さを推定する方法は、亀裂の深さを同定することはできるが、亀裂の構造物表面方向への広がり(表面長さ)を同時に同定することはできなかった。
【0006】
本発明は、内側に圧力がかかる構造物内面の亀裂について、亀裂の深さだけでなく表面長さも同定可能な亀裂サイズ推定方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る亀裂サイズ推定方法は、構造物内面の亀裂を予め検出する第1ステップと、検出された亀裂の構造物外面の歪を、前記亀裂の構造物外面に貼設された複数の歪ゲージによって測定する第2ステップと、前記複数の歪ゲージによって測定された複数の歪測定値を、有限要素解析により仮想構造物内面の仮想亀裂の深さ及び表面長さと前記仮想構造物外面の歪とについて予め求められた関係に導入し、該複数の歪測定値の各々に対応する仮想亀裂の深さ及び表面長さを導出する第3ステップと、前記複数の歪測定値の各々に対応する前記仮想亀裂の深さと表面長さとの関係を、複数の曲線としてグラフ化する第4ステップと、前記グラフ化された複数の曲線が交わる交点の深さと表面長さを求めることにより、検出された亀裂の深さと表面長さを推定する第5ステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
前記第5ステップにおいて、前記複数の曲線の交点を複数選び、複数の交点について、各交点の深さと表面長さとを求め、第6ステップとして、前記各交点の深さと表面長さについて、重み係数を考慮した平均値を導出するステップを更に含むことが好ましい。
【0009】
また、亀裂が検出された前記構造物が厚さtの板状として場合に、歪ゲージのゲージ長さを0.1t以下とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1(A)】解析対象として、周方向の半楕円形状の亀裂が内面に存在する管(仮想構造物)の断面を示し、(a)は軸直角断面、(b)は軸平行断面である。
【図1(B)】解析対象として、軸方向の半楕円形状の亀裂が内面に存在する管(仮想構造物)の断面を示し、(a)は軸直角断面、(b)は軸平行断面である。
【図2(A)】図1(A)の解析対象をメッシュ分割した解析画像である。
【図2(B)】図1(B)の解析対象をメッシュ分割した解析画像である。
【図3(A)】図1(A)の解析対象の周歪に関する、亀裂の深さ、亀裂の表面長さ、及び、外表面での歪の関係を示すグラフである。
【図3(B)】図1(A)の解析対象の軸歪に関する、亀裂の深さ、亀裂の表面長さ、及び、外表面での歪の関係を示すグラフである
【図3(C)】図1(B)の解析対象の周歪に関する、亀裂の深さ、亀裂の表面長さ、及び、外表面での歪の関係を示すグラフである。
【図3(D)】図1(B)の解析対象の軸歪に関する、亀裂の深さ、亀裂の表面長さ、及び、外表面での歪の関係を示すグラフである。
【図4(A)】図1(A)の解析対象に関する亀裂周辺での歪分布であって、亀裂の延びる方向に沿う亀裂中心からの距離と歪(周歪及び軸歪)との関係を示すグラフである。
【図4(B)】図1(A)の解析対象に関する亀裂周辺での歪分布であって、亀裂の延びる方向と直交する方向に沿う亀裂中心からの距離と歪(周歪及び軸歪)との関係を示すグラフである。
【図4(C)】図1(B)の解析対象に関する亀裂周辺での歪分布であって、亀裂の延びる方向に沿う亀裂中心からの距離と歪(周歪及び軸歪)との関係を示すグラフである。
【図4(D)】図1(B)の解析対象に関する亀裂周辺での歪分布であって、亀裂の延びる方向と直交する方向に沿う亀裂中心からの距離と歪(周歪及び軸歪)との関係を示すグラフである。
【図5】図1(A)の解析対象に関する亀裂中心からの距離(x)と歪変化との関係を示すグラフである。
【図6】複数の歪ゲージを貼設した状態を一部拡大断面図とともに示す斜視図である。
【図7】複数の歪ゲージから推定される亀裂深さと表面長さの組合せを示すグラフである。
【図8】図6のLmの範囲内にある周方向と軸方向の歪ゲージを用いて、それらの歪ゲージの組合せから推定される亀裂深さの誤差(歪ゲージ出力に正規分布誤差を考慮)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る亀裂サイズ推定方法の一実施形態について、以下に図1〜図8を参照しつつ説明する。
【0012】
先ず、亀裂のある構造物をCAD等で仮想的にモデル化し、この仮想構造物を解析対象として、仮想亀裂について有限要素法によるコンピュータシミュレーション解析(有限要素解析)を実施する。
【0013】
本実施形態において、解析対象は、図1に示すように、周方向(図1(a))または軸方向(図1(b))の半楕円形状の亀裂1,2が内面に存在する、内圧(Pa)を受ける管(仮想構造物)3,4とした。
【0014】
仮想構造物としての管3,4は、内径(Ri)は43.64mm、肉厚(t)は13.5mm(4インチ管、スケジュール番号160相当)とした。管3,4の肉厚(t)に対して、亀裂(仮想亀裂)の表面長さ(2c)をt、2tおよび4tとし、深さ(a)を0から0.5tまで変化させた。
【0015】
有限要素解析には図2に示すように20節点要素でメッシュ分割を用い、汎用コードのABAQUSにて弾性解析を実施した。15MPaの内圧を亀裂面も含めて負荷し、キャップ効果を考慮するため、管端部に内圧相当の軸荷重を負荷した。ヤング率は180GPa、ポアソン比は0.3とした。
【0016】
上記有限要素解析の結果として、図3に、亀裂の表面長さ(2c)がt、2t、及び4tのそれぞれについて、亀裂1,2の深さ(a/t)と亀裂の中心位置で管外面の歪との関係を示す。
【0017】
図3において、歪は周方向歪(周歪)εθと軸方向歪(軸歪)εZをそれぞれ示している。なお、図3において、各表面長さ(2c)における深さ(a/t)と歪との関係は、近似曲線で表示されているが、深さ(a/t)のプロット間隔(図3では0.05)をより細かくプロットすることにより近似曲線を用いずに点の集合としてグラフ表示してもよい。
【0018】
上記のような亀裂の表面長さ(2c)、亀裂の深さ(a/t)、及び、亀裂の外面での歪の関係は、データベース化され、記憶装置に保存される。なお、本実施形態では、図示都合上、亀裂の表面長さ(2c)を3つ(2c=t、2t、4t)にしているが、データベース化に際しては、亀裂の表面長さ(2c)の数を増やして詳細なデータベースを構築する。また、図3は亀裂の中心位置での管外面の歪のみとの関係を示しているが、後述するように、亀裂の中心位置から離隔する複数位置の管外面の歪についても有限要素解析を用いてデータベース化される。
【0019】
図3において、亀裂がない場合、つまり健全部における周歪εθは200μεであるが、軸歪εZは約50μεとなっている。いずれも亀裂が大きくなる(亀裂が進展する)にしたがって歪が単調に低下している。例えば、亀裂長さ(2c)が2t(即ちc=1t)の場合、亀裂深さが0.5tとなると歪は50με以上低下しており、とくに、軸方向亀裂の周歪εθは100με以上低下している。亀裂深さが0から0.5tに進展したときに歪が100με低下する場合、歪の検出感度が5μεとすると、0.5t×(5/100)=0.025t(おおよそ0.34mm)の亀裂進展を検出できることになる。ただ、図3から分かるように、歪の変化は亀裂の形状(アスペクト比a/c)に依存し、亀裂の表面長さ(c)が大きい方が歪の変化が大きくなる。なお、亀裂が進展するに従って歪が低下するという解析結果は、従来の認識(上記特許文献1)と相違する。
【0020】
上記有限要素解析による亀裂周囲での歪の分布を図4に示す。いずれの歪も亀裂中心の外表面で最小となっており、最も感度が大きくなった。亀裂面に沿った方向では、亀裂の長さの範囲で、亀裂面に垂直な方向では亀裂深さ(0.5t)程度の範囲で歪が大きく変化した。いずれの亀裂方向、歪方向についても亀裂中心から0.1t(1.35mm)程度の範囲では歪変化が小さい。したがって、歪ゲージのゲージ長さは0.1t以下とすることが望ましい。
【0021】
図5は、上記有限要素解析による計算結果をもとに、a/t=0.5、c=t,a/c=0.5の周方向の亀裂による歪の変化(亀裂ない場合の歪からの変化量)を示す。t=13.5mmであることから、x=13.5mm(xは亀裂中心から亀裂長さ方向の距離)がちょうど亀裂の端部に相当する。亀裂による歪変化はこれより広い範囲で観察され、軸方向歪の変化の方が大きいことが分かる。
【0022】
上記したように、亀裂が成長することによって、管外面の歪は変化するが、その変化は亀裂形状(アスペクト比)に依存する。そのため、単一の歪変化からは亀裂が深さ方向へ進展したか表面方向へ進展したのかが判断できない。
【0023】
亀裂を例えば半楕円形状と仮定すれば、亀裂の形状は深さと長さの2自由度となり、少なくとも2枚の歪ゲージの出力から理論上は推定可能となる。なお、亀裂形状は、半楕円形状に限らず、方形、半年形、異形等、種々の形状に仮定することができる。
【0024】
管内面の軸方向の亀裂を例として、図6に示すように、半楕円形状の亀裂2の管外面に、複数の歪ゲージ5…5を所定間隔(図では2mm間隔)で設置した場合を想定し、以下に説明するようにして亀裂2の深さ(a)と表面長さ(2c)を同定する。各々の歪ゲージ5…5は、管4の周方向と軸方向の歪を測定して出力するもの(直交2方向を測定可能なもの)を用いることができる。
【0025】
図6の亀裂の中心にある歪ゲージ、即ち、図6の距離X=0mmの歪ゲージの出力から得られる深さと表面長さの関係は、先に構築したデータベースを利用して求めることができる。
【0026】
例えば、図3(A)を参照すれば、周歪(εθ)が150μεのとき、c=1tではa=0.5、c=2tではa≒0.46、c=0.5tではa>0.5(図外)となっている。上記したように、図3(A)において表面長さ(2c)の数を増やせば、図3(A)に表示される曲線の数が増え、その結果、歪値に対する深さと表面長さとの関係の数が増える。そのようにして図3に表示される曲線の数を増やしたグラフを用いて、ある歪値(周歪及び軸歪)に対する深さと表面長さの組をプロットしたグラフが、図7のX=0mmのプロット群である。なお、図7では、c/tが0.1間隔でプロットされている。
【0027】
図6の距離X=2mm、4mm、6mmの場合についても、上記と同様にして歪に対する深さと表面長さの関係が図7にプロットされている。図3で示したグラフは、亀裂の中心位置、即ち、図6の距離X=0mmの場合のグラフであり、図示していないが、図6の距離X=2mm、4mm、6mmの場合に図3に対応するグラフは、距離X=0のデータベースを作成した際の有限要素解析から得ることができる。
【0028】
上記のように、1枚の歪ゲージ出力から亀裂サイズを推定する場合、亀裂の深さと長さは一意に決定されず、歪量に対応する深さと表面長さの組み合わせを有することになる。図7から分かるように、亀裂の深さと表面長さの関係は、歪ゲージの位置によって異なる曲線を描く。そして、図7に示されているように、計算条件としたa/t=0.5、c=tにおいて全ての曲線が交わっている。したがって、2枚の歪ゲージの出力を用いることで、亀裂の深さと表面長さとの関係を示す2本の曲線が一点で交差し、その交点から亀裂の深さと表面長さの2種類のパラメータが推定できる。
【0029】
実際の測定では、亀裂の位置を超音波探傷法等によって予め検出しておいて、検出された亀裂の構造物外面に、所定間隔で複数の歪ゲージを貼設する。歪ゲージは、公知の歪ゲージを用いることができる。例えば、2mm間隔で5個の歪ゲージが一体となった集合ゲージ等も市販されており、これを用いることもできる。
【0030】
実際の測定では歪測定誤差が存在するため、図7のように全ての曲線が1点で交わることがない。しかし、複数の歪ゲージから2枚の歪ゲージを選択し、選択した2枚の歪ゲージから得られる仮想亀裂の深さと表面長さとの相関関係を示す2本の曲線の交点から、仮想亀裂の深さと長さを求めることができ、得られた仮想亀裂の深さと表面長さを実際の亀裂の深さと表面長さとして推定できる。歪ゲージの出力をオンラインでモニタリングし、実際の亀裂の深さ方向及び表面長さ方向への進展度合いを監視することができる。
【0031】
複数の歪ゲージから選択される2枚の歪ゲージの組み合わせを変えることで、仮想亀裂の深さと表面長さの組を複数組推定することができる。推定された複数組の亀裂の深さと表面長さについて平均をとることで推定精度の向上が図られる。図8は、図6に示したLmの範囲内にある周方向と軸方向の歪ゲージを用いて、それらの全て組み合わせから推定される亀裂深さの誤差を示している。例えば、Lm=4mmの場合、x=0,2,4mmにある周方向と軸方向の歪ゲージ、計6枚を用いて推定することになる。
【0032】
ここで、実際の測定を想定し、誤差は図中に示した標準偏差を有する正規分布で全ての歪ゲージ出力に与えた。そして、歪ゲージの測定誤差を変化させた1000回の計算から得られる推定値の誤差を図8に示している(図中の塗りつぶしプロット)。
【0033】
歪ゲージの誤差の標準偏差が5μεの場合、亀裂深さの推定誤差はLm=4mmまでは低下するが、それ以上では逆に誤差が増加した。また、誤差の標準偏差が2μεの場合は歪ゲージの数が増えるほど誤差が増加した。歪ゲージの貼り付け位置が亀裂中心より離れると、歪の変化量が小さくなり(感度が悪くなり)、測定精度が低下する。そして、このような感度の悪い(精度の悪い)歪ゲージを用いた推定値を用いることで、平均から得られる推定誤差が低下する結果となった。このように、複数の歪ゲージから推定される亀裂深さの単純な平均値を用いる場合は、歪ゲージの数を増やしても必ずしも誤差を低減させることができない。
【0034】
図8に示されているように、歪ゲージの数を単純に増加させると誤差が大きくなる場合が出現する。そこで、各歪ゲージの組み合わせの単純な平均を用いるのではなく、平均に重みを考慮することが好ましい。具体的には、n枚のゲージを用いて、その中の2枚のゲージiとkの組み合わせから推定される亀裂サイズ(深さ又は表面長さ)aest(i,k)に対する重みw(i,k)を定義し、亀裂サイズ(深さ又は方面長さ)aestを次式(1)により求める。
【0035】
【数1】
この式で、w(i,k)を全て同じ数値にした場合が、先に示した単純平均をした場合に相当する。例えば、図7において軸方向歪の曲線はほとんど一致している。このような場合、歪ゲージの誤差によって、2本の曲線の交点が大きくずれることになり、推定精度が悪くなる傾向にある。逆に、2本の曲線の交わる角度が大きい組み合わせは誤差が小さくなる。また、亀裂サイズに対する歪変化の大きさが測定誤差に対して小さくなると推定精度は低下する。
【0036】
上記のように、歪ゲージの組み合わせやゲージの貼り付け位置によって精度が異なることから、精度の良い推定値に対しては重みw(i,k)を相対的に大きくすることで、推定精度の向上を図ることができる。
【0037】
最終的に得られる亀裂深さの推定値aestの誤差が小さくなるように、それぞれのひずみゲージの組み合わせに対して重み変化させる収束計算を実施した。ここでは、歪ゲージの誤差を乱数で与えるモンテカルロ法により、歪ゲージの誤差の影響を最小とする重み係数の組み合わせを試行錯誤で決定した。
【0038】
そして、下記表1のような重みの組み合わせを得た。
【0039】
【表1】
この表はLm=6mm、ひずみゲージ誤差の標準偏差5μεの場合の結果を示しているが、x=6mmの位置にある周方向ひずみゲージは重みが全て零で、亀裂サイズの推定には使用しないことになる。また、軸方向ひずみゲージ同士の組み合わせ、周方向歪ゲージ同士の組み合わせには重みが零の場合が多い。このように得られた重みを用いて(1)式から亀裂深さを推定した誤差を図8に示す(白抜きのプロット)。重みを考慮することで、歪ゲージ数が増加しても同定誤差が増加することはない。そして、ゲージ数を増やすことで、誤差が大きく低減していることが分かる。ただし、同定精度はLm=12mm程度、つまり亀裂長さ近傍で飽和している。このように、重みを考慮することで、誤差を低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、原子力発電プラントや航空機など、構造物内面に亀裂が存在した状態で使用する可能性のある全ての分野に利用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 周方向の亀裂
2 軸方向の亀裂
3、4 管(構造物)
5 歪ゲージ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物内面の亀裂を予め検出する第1ステップと、
検出された亀裂の構造物外面の歪を、前記亀裂の構造物外面に貼設された複数の歪ゲージによって測定する第2ステップと、
前記複数の歪ゲージによって測定された複数の歪測定値を、有限要素解析により仮想構造物内面の仮想亀裂の深さ及び表面長さと前記仮想構造物外面の歪とについて予め求められた関係に導入し、該複数の歪測定値の各々に対応する仮想亀裂の深さ及び表面長さを導出する第3ステップと、
前記複数の歪測定値の各々に対応する前記仮想亀裂の深さと表面長さとの関係を、複数の曲線としてグラフ化する第4ステップと、
前記グラフ化された複数の曲線が交わる交点の深さと表面長さを求めることにより、検出された亀裂の深さと表面長さを推定する第5ステップと、
を含むことを特徴とする亀裂サイズ推定方法。
【請求項2】
前記第5ステップにおいて、前記複数の曲線の交点を複数選び、複数の交点について、各交点の深さと表面長さとを求め、
前記各交点の深さと表面長さについて、重み係数を考慮した平均値を導出する第6ステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の亀裂サイズ推定方法。
【請求項3】
亀裂が検出された前記構造物が厚さtの板状であって、歪ゲージのゲージ長さを0.1t以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の亀裂サイズ推定方法。
【請求項1】
構造物内面の亀裂を予め検出する第1ステップと、
検出された亀裂の構造物外面の歪を、前記亀裂の構造物外面に貼設された複数の歪ゲージによって測定する第2ステップと、
前記複数の歪ゲージによって測定された複数の歪測定値を、有限要素解析により仮想構造物内面の仮想亀裂の深さ及び表面長さと前記仮想構造物外面の歪とについて予め求められた関係に導入し、該複数の歪測定値の各々に対応する仮想亀裂の深さ及び表面長さを導出する第3ステップと、
前記複数の歪測定値の各々に対応する前記仮想亀裂の深さと表面長さとの関係を、複数の曲線としてグラフ化する第4ステップと、
前記グラフ化された複数の曲線が交わる交点の深さと表面長さを求めることにより、検出された亀裂の深さと表面長さを推定する第5ステップと、
を含むことを特徴とする亀裂サイズ推定方法。
【請求項2】
前記第5ステップにおいて、前記複数の曲線の交点を複数選び、複数の交点について、各交点の深さと表面長さとを求め、
前記各交点の深さと表面長さについて、重み係数を考慮した平均値を導出する第6ステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の亀裂サイズ推定方法。
【請求項3】
亀裂が検出された前記構造物が厚さtの板状であって、歪ゲージのゲージ長さを0.1t以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の亀裂サイズ推定方法。
【図1(A)】
【図1(B)】
【図2(A)】
【図2(B)】
【図3(A)】
【図3(B)】
【図3(C)】
【図3(D)】
【図4(A)】
【図4(B)】
【図4(C)】
【図4(D)】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図1(B)】
【図2(A)】
【図2(B)】
【図3(A)】
【図3(B)】
【図3(C)】
【図3(D)】
【図4(A)】
【図4(B)】
【図4(C)】
【図4(D)】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−159477(P2012−159477A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21169(P2011−21169)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)刊行物名 日本原子力学会 2010年 秋の大会 予稿集 (2)発行日 平成22年8月27日 (3)発行所 社団法人日本原子力学会
【出願人】(595035131)株式会社原子力安全システム研究所 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)刊行物名 日本原子力学会 2010年 秋の大会 予稿集 (2)発行日 平成22年8月27日 (3)発行所 社団法人日本原子力学会
【出願人】(595035131)株式会社原子力安全システム研究所 (10)
【Fターム(参考)】
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