説明

亀裂先端の局所歪測定方法、及びそれを用いたタイヤの亀裂成長性の評価方法

【課題】ゴム表面に生じる亀裂の先端での局所歪を測定する。
【解決手段】亀裂の開口縁が閉じた状態において、亀裂先端近傍領域を含む領域に、マークエレメントが、X軸方向及びY軸方向に等ピッチ間隔でマトリクス状に配列するマークを形成するマーキングステップと、亀裂先端で生じる局所歪をマークエレメント間の間隔の変位に基づいて測定する歪測定ステップとを含む。前記マーキングステップは、銀インクを所定荒さの平織り金網の一面側に塗布した後、この塗布部をゴム表面に転写する工程を含む。マークエレメントは、X軸方向に長い略楕円状の第1エレメントと、Y軸方向に長い略楕円状の第2エレメントとから構成され、第1、第2エレメントはX軸方向及びY軸方向に互い違いに配される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム表面に形成される亀裂の亀裂開口状態における亀裂先端の局所歪を簡易に測定しうる亀裂先端の局所歪測定方法、及びそれを用いたタイヤの亀裂成長性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの耐久性の評価項目の一つとして、タイヤの表面、特にサイドウォール表面に生じる亀裂の成長性があり、従来よりこの耐亀裂成長性を向上すべく種々の配合のゴム組成物の研究が行われている。
【0003】
他方、研究開発されたゴム組成物に対する耐亀裂成長性を評価する場合、従来においては、前記ゴム組成物をサイドウォール部に用いたタイヤを実際に試作し、この試作タイヤのサイドウォール表面に初期亀裂を形成した後、該試作タイヤに対し、タイヤ内圧および縦荷重を規定した所定のテスト条件に基づいてドラム上で走行テストを行っている。そして、その時の走行距離に対する初期亀裂の成長量を測定し、その比(亀裂の成長量/走行距離)に基づいて耐亀裂成長性を評価している。なお下記の特許文献1には、トレッドゴムに対する耐亀裂成長性の同様の評価方法が記載されている。
【0004】
しかし、このようにタイヤを実際に試作してドラム上で走行させるタイヤ走行テストでは、テストが大掛かりであり、しかも開発されたゴム組成物毎にタイヤを実際に試作する必要があるため、その作成に大きなコストや時間が必要となる。又、テスト時間を短縮するために走行速度を増すことが望まれるが、走行速度を速くし過ぎるとテストが危険となり、又タイヤの他の部位に故障が生じる傾向を招くため、充分なテスト時間の短縮を困難としている。
【0005】
そこで本発明者らは、タイヤを実際に形成する代わりに、研究開発されたゴム組成物を用いて縦長矩形板状のゴム試験片を試作し、その一側縁に初期亀裂を形成した後、このゴム試験片に対してその長さ方向に伸張を繰り返させ、該伸張の繰り返し回数と初期亀裂の成長量とから、前記ゴム組成物のタイヤとしての亀裂成長性を評価することを提案した。このゴム試験片の伸張テストでは、大掛かりな試験装置や試験設備などが不要であり、しかもテストサンプルがゴム試験片ですむため、作成コストや作成時間を大幅に削減することができる。又伸張の繰り返し速度を速めることにより、危険性を増すことなくテスト時間の大幅な短縮を達成しうるという利点も奏しうる。
【0006】
しかしながら前記ゴム試験片の伸張テストの場合、引っ張りストロークの大きさによって亀裂成長性が大きく変化してしまい、タイヤとしての亀裂成長性を充分に評価できないことが判明した。そこで、前記伸張テストについてさらに研究した結果、タイヤとしての亀裂成長性を評価する場合、前記伸張テストにおいて亀裂先端で生じる局所歪が、前記タイヤ走行テストにおいて亀裂先端で生じる局所歪と等しくなるような引っ張りストロークにて伸張テストを行うことが必要であることを見出し得た。そしてそのためには、亀裂先端で生じる局所歪を簡易に測定しうることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−264881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、亀裂先端近傍領域に、マークエレメントをマトリクス状に配列した所定のマークを形成することを基本として、亀裂先端で生じる局所歪を簡易に測定しうるとともに、ゴム試験片の伸張テストにおける亀裂先端の局所歪と、タイヤ走行テストにおける亀裂先端の局所歪と一致させうる引っ張りストロークを容易に見つけ出すことが可能となり、タイヤにおける亀裂成長性を、ゴム試験片の伸張テストによって評価可能とした亀裂先端の局所歪測定方法、及びそれを用いたタイヤの亀裂成長性の評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、ゴム表面に形成される亀裂の開口縁が目開きした亀裂開口状態において、亀裂先端で生じる局所歪を測定する亀裂先端の局所歪測定方法であって、
亀裂の開口縁が閉じた亀裂変形前の状態において、亀裂先端近傍領域を含むゴム表面上の領域に、マークエレメントが、X軸方向及びこのX軸方向とは直交するY軸方向にそれぞれ等ピッチ間隔を隔ててマトリクス状に配列するマークを形成するマーキングステップと、
前記亀裂開口状態において亀裂先端で生じる局所歪を、前記マークエレメント間の間隔の変位に基づいて測定する歪測定ステップとを含み、
しかも前記マーキングステップは、銀インクを平織り金網の一面側に塗布した後、この塗布部をゴム表面に転写する転写工程を含み、これにより前記マークエレメントは、X軸方向に長い略楕円状の第1エレメントと、Y軸方向に長い略楕円状の第2エレメントとから構成され、かつ第1、第2エレメントは、X軸方向及びY軸方向にそれぞれ互い違いに配されるとともに、
前記平織り金網は、そのメッシュ粗さを100〜500メッシュの範囲としたことを特徴としている。
【0010】
又請求項2の発明では、前記マークは、前記X軸方向、Y軸方向、X軸方向とは45度傾くA軸方向、或いはA軸方向とは直角なB軸方向を、前記亀裂の長さ方向に合わせて形成されたことを特徴としている。
【0011】
又請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の測定方法によって測定される亀裂先端の局所歪を用いて、タイヤ表面の亀裂の成長性を評価するタイヤの亀裂成長性評価方法であって、
タイヤ表面にタイヤ初期亀裂を形成したタイヤを、タイヤ内圧および縦荷重を規定したテスト条件にてドラム上で一周させ、前記タイヤ初期亀裂の開口が最大となる最大開口状態における亀裂先端の局所歪を、前記測定方法を用いて測定する一方、
縦長矩形板状をなすゴム試験片の一側縁に、ゴム試験片の長さ方向と直角な向きの試験片初期亀裂を形成し、かつこのゴム試験片をその長さ方向に所定の引っ張りストロークで伸張を繰り返し、該伸張の繰り返し回数と試験片初期亀裂の長さの成長量とからゴム試験片の亀裂成長性を求めるゴム試験片伸張テストを行うとともに、
前記伸張状態におけるゴム試験片の亀裂先端の局所歪を、前記タイヤ初期亀裂の亀裂先端の局所歪と一致させることにより、前記ゴム試験片伸張テストによる亀裂成長性によって、前記ゴム試験片と同じゴム組成物をタイヤに用いた場合の前記テスト条件におけるタイヤの亀裂成長性を評価することを特徴としている。
【0012】
又請求項4の発明では、前記伸張状態におけるゴム試験片の亀裂先端の局所歪は、前記引っ張りストロークを調整することにより、前記タイヤ初期亀裂の亀裂先端の局所歪と一致させたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は叙上の如く、メッシュ粗さ100〜500メッシュの平織り金網の一面に銀インクを塗布した後、その塗布部をゴム表面に転写することにより、X軸方向に長い略楕円状の第1エレメントと、Y軸方向に長い略楕円状の第2エレメントとが、X軸方向及びY軸方向にそれぞれ互い違いにかつ等ピッチ間隔を隔ててマトリクス状に配列する細かなマークを、少なくとも亀裂先端近傍領域に形成している。
【0014】
ここで、ゴム表面に形成される亀裂における亀裂先端の局所歪を測定するためには、亀裂先端近傍領域におけるゴムの変形挙動を追いかけることが必要である。そしてそのためには、できるだけ細かい格子状の模様、或いはマトリクス状の模様のマークを亀裂先端近傍領域に形成し、亀裂先端の局所歪を、変形前後の模様の変化量として読み取ることが必要である。
【0015】
このような細かなマークの形成方法として、インクジェットプリンタによる吹き付けが考えられるが、インクジェットプリンタによって顔料インクを塗布する場合には、マークの粗さ(ピッチ間隔)が200μm以上と粗くなってしまい、局所歪を読み取ることが難しい。なお染料インクの場合には200μm以下の粗さでマークを形成することは可能であるが、ゴム表面が黒色であるため、前記マークを識別することが難しい。しかも、インクジェットプリンタの場合、タイヤのサイドウォール表面の如くゴム表面が湾曲している場合には、ゴム表面に沿って均一なピッチ間隔でマークを形成することは困難である。又レーザによる焼き付けによりマークを形成した場合には、前記焼き付けによってゴム自体が変質してしまうため、局所歪が実際のものと相違したものとなる。
【0016】
これに対して、本発明に係わるマークは、銀インクを用いて形成されるため、黒色のゴム表面と明確に区別でき、識別性に優れたマークを形成しうる。又銀インクは、含有する銀粒子が1μm以下と微細であるためゴム表面の動きに対する拘束力が低い。しかもマークが格子状に連続しないで小長さのマークエレメントに分断されるためゴム表面への拘束がさらに抑えられ、前記銀粒子が微細であることと相俟って、ゴムの変形挙動に追従してその変位を正確に示すことができる。
【0017】
又前記マークは、一種のマークエレメントが点状に配列するのではなく、X軸方向に長い略楕円状の第1エレメントと、Y軸方向に長い略楕円状の第2エレメントとがX軸方向及びY軸方向にそれぞれ互い違いに配列している。そのため、各マークエレメント同士が近接していても、隣り合うマークエレメント間の区別が明瞭であり、変位を読み取る際のミスを防止し正確性を高めることができる。又第1、第2エレメントが、それぞれ長さを有するため、変位がベクトル状に示されるなど歪の分布がわかりやすくなる。
【0018】
又前記メッシュ粗さの平織り金網は、構成する金属線が細いため適度の柔軟性を有する。従って、サイドウォール表面の如き湾曲面に対しても、この湾曲に沿って柔軟に変形できマークを正確に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の亀裂先端の局所歪測定方法において示される亀裂先端の局所歪を示す正面図である。
【図2】(A)は、マーキングステップを示す斜視図、(B)はそれに用いる平織り金網の一部を示す正面図である。
【図3】(A)、(B)は、マークを拡大して示す正面図である。
【図4】歪測定ステップを示すマークの正面図である。
【図5】ゴム試験片伸張テストに用いるゴム試験片の一例を示す正面図である。
【図6】ゴム試験片伸張テストにおけるゴム試験片の伸び歪と、亀裂先端の局所歪との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の測定方法は、図1に示すように、ゴム表面1に形成される亀裂2の開口縁2Eが目開きした亀裂開口状態Y1において、亀裂先端2Pで生じる局所歪εを測定する方法である。この測定方法では、亀裂先端近傍領域Rを含むゴム表面1上の領域に、マークエレメント9がマトリクス状に配列するマーク4を形成するマーキングステップと、前記マークエレメント9間の間隔の変位に基づいて前記亀裂開口状態Y1における亀裂先端2Pの局所歪εを測定する歪測定ステップとを含んで形成される。
【0021】
前記マーキングステップは、図2(A)、(B)に示すように、銀インク5をメッシュ粗さ100〜500メッシュの平織り金網6の一面側に塗布した後、その塗布部7をゴム表面1に転写する転写工程を含む。そしてこの転写工程により、図3(A)に示すように、マークエレメント9が、X軸方向及びこのX軸方向とは直交するY軸方向にそれぞれ等ピッチ間隔を隔ててマトリクス状に配列するマーク4が形成される。
【0022】
ここで、前記平織り金網6は、前記図2(B)に示すように、金属素線からなるX軸方向の横線8aとY軸方向の縦線8bとを一定間隔にて1本づつ交互に交差させて織り込んだ周知構造をなす。従って、平織り金網6の一面側では、横線8aが縦線8b上を乗り越えて凸となる横長凸部8a1と、縦線8bが横線8a上を乗り越えて凸となる縦長凸部8b1とがX軸方向及びY軸方向にそれぞれ互い違いに現れる。
【0023】
従って、平織り金網6の一面側に銀インク5を塗布した塗布部7をゴム表面1に転写することにより、前記図3(A)に示すように、前記横長凸部8a1に塗布された銀インク5の塗布部分が転写されたX軸方向に長い第1エレメント9xと、前記縦長凸部8b1に塗布された銀インク5の塗布部分が転写されたY軸方向に長い第2エレメント9yとがX軸方向に等ピッチ間隔で互い違いに配されるX方向エレメント列10x、及びY軸方向に等ピッチ間隔で互い違いに配されるY方向エレメント列10yからなるマトリクス状のマーク4が、ゴム表面1上に形成される。なお前記第1、第2エレメント9x、9yは、前記金属素線が断面円形状をなすため、略楕円状に形成される。
【0024】
又前記マーク4では、図3(B)に示すように、前記X軸方向とは45度傾くA軸方向、及びA軸方向とは直交するB軸方向の座標系で見た場合、前記第1エレメント9xがA軸方向に一列に並ぶ第1のA方向エレメント列11xと、第2エレメント9yがA軸方向に一列に並ぶ第2のA方向エレメント列11yとが、B軸方向に交互に配列するとともに、前記第1エレメント9xがB軸方向に一列に並ぶ第1のB方向エレメント列12xと、第2エレメント9yがB軸方向に一列に並ぶ第2のB方向エレメント列12yとが、A軸方向に交互に配列するパターン形状をなす。
【0025】
メッシュ粗さが前記範囲の平織り金網6では、構成する金属素線の線径が0.025〜0.1mm程度と細いため、適度の柔軟性を有することができる。そのため、例えばサイドウォール部の表面TSの如く所定プロファイルで湾曲した場合にも、その湾曲に沿って柔軟に変形でき、従って、サイドウォール部の表面TSなどの湾曲したゴム表面1にも、銀インク5を転写して前記マーク4を形成することができる。金属素線として、ステンレス線、亜鉛メッキ鋼線、銅線、真鍮線、ニッケル線などが挙げられるが、金網全体の柔軟性からステンレス線が好適に採用しうる。
【0026】
そして、このような第1、第2エレメント9x、9yからなるマーク4が、亀裂2の開口縁2Eが閉じた亀裂変形前の状態Y2において、少なくとも亀裂先端近傍領域Rを含む領域に形成される。なお亀裂先端近傍領域Rとは、亀裂先端2Pを含みかつ該亀裂先端2Pからの距離が2.0mmの領域を意味する。この亀裂先端近傍領域R内において、亀裂先端2Pの局所歪εが発生する。
【0027】
又前記マーク4では、前記X軸方向、Y軸方向、A軸方向、或いはB軸方向を、前記亀裂2の長さ方向に合わせて形成される。即ち、X方向エレメント列10xが、亀裂2の長さ方向に合わせて形成される、或いはY方向エレメント列10yが、亀裂2の長さ方向に合わせて形成される、或いはA方向エレメント列11x、11yが、亀裂2の長さ方向に合わせて形成される、或いはB方向エレメント列12x、12yが、亀裂2の長さ方向に合わせて形成される。図1には、B方向エレメント列12x、12yが、亀裂2の長さ方向に合わせて形成される場合が例示される。
【0028】
前記銀インク5としては、例えば水性溶剤中に、銀のナノ粒子を分散させた市販のものが好適に採用しうる。前記水性溶剤は、水又は水と親水性有機溶剤との混合溶剤であって、親水性有機溶剤として、例えばアルコール類、ケトン類、グリコール類、グリコールエーテル類等が挙げられ、これらの1種又は複数種が採用されうる。又銀インク5には、添加剤として、例えば粘度調整剤、銀粒子との親和性を向上させる親和剤など周知の成分を配合させることができる。
【0029】
この銀インク5は、銀粒子を顔料とした顔料インクの一つであり、黒色のゴム表面1と明確に区別でき、識別性に優れたマーク4を形成しうる。しかも銀粒子が1μm以下と微細であるためゴム表面の動きに対する拘束力が低い。又マーク4が格子状に連続しないで小長さのマークエレメント9に分断されているため、ゴム表面1への拘束がさらに抑えられ、前記銀粒子が微細であることと相俟って、ゴム表面1の変形挙動に追従してその変位を正確に示すことができる。又平織り金網6による転写を用いているため、細かなマーク4を鮮明に形成することができる。なおマーク4では、前記平織り金網6の網目量に相当するピッチ間隔でマークエレメント9が形成される。なお100メッシュの場合の網目量は約154μm、500メッシュの場合の網目量が約26μmであり、従って、マークエレメント9は、26〜154μmのピッチ間隔で形成される。
【0030】
又前記マーク4では、一種のマークエレメントが点状に配列するのではなく、略楕円状の第1、第2エレメント9x、9yがX軸方向及びY軸方向にそれぞれ互い違いに配列している。そのため、各マークエレメント9同士が近接していても、隣り合うマークエレメント9、9間の区別が明瞭であり、変位を読み取る際のミスを防止でき正確性を高めうる。又第1、第2エレメント9x、9by、X軸方向或いはY軸方向に長寸であるため、変位がベクトル状に示されるなど歪の分布がわかりやすくなり、測定に有利となりうる。なお前記銀インク5の塗布具として、所謂銀ペン、特にインクカートリッジ内に窒素ガスを封入した商標スペースペン(FISHER製)などが好適に採用しうる。
【0031】
又前記歪測定ステップでは、マークエレメント9、9間の間隔の変位に基づいて亀裂先端2Pの局所歪εを測定する。具体的には、図4に拡大して示すように、前記亀裂先端2Pの両側を通るエレメント列間の間隔D(本例では、亀裂先端2Pの一方側を通る第1のB方向エレメント列12xと、亀裂先端2Pの他方側を通る第2のB方向エレメント列12yとの間隔D)のうち、前記亀裂先端2Pの位置における間隔Dpを、亀裂変形前の状態Y2と、亀裂開口状態Y1とで測定する。そして、亀裂変形前の状態Y2における間隔をDp2、亀裂開口状態Y1における間隔をDp1としたとき、次式(1)により、亀裂先端2Pの局所歪εを求めることができる。
ε=(Dp1−Dp2)/Dp2 −−−−(1)
【0032】
なお平織り金網6のメッシュ粗さが100メッシュ未満の場合、第1、第2エレメント9x、9yの間隔が粗くなりすぎて、局所歪の測定精度の著しい低下を招き、又500メッシュを越えると細かすぎとなり、銀インク5を塗布する際に網目が銀インク5で目詰まりを起こしやすくなるなどマーク4を明確に形成することができなくなる。
【0033】
このような亀裂先端の局所歪測定方法は、タイヤの表面に生じる亀裂の局所歪以外にも、コンベヤベルト表面に生じる亀裂の局所歪など、種々のゴム表面に生じる亀裂の局所歪の測定に適用しうる。又、タイヤにおいても、例えば、リム組み前後における亀裂先端の局所歪の変化、タイヤ内圧の高低による亀裂先端の局所歪の変化、接地前後における亀裂先端の局所歪の変化を調査するために適用することができる。
【0034】
次に、前記測定方法によって測定される亀裂先端2Pの局所歪εを用いて、タイヤ表面の亀裂2の成長性を評価するタイヤの亀裂成長性評価方法について説明する。この亀裂成長性評価方法では、タイヤ走行テストに代えてゴム試験片伸張テストを行い、このゴム試験片伸張テストによる亀裂成長性によって、ゴム試験片20のゴム組成物をタイヤTに用いた場合の亀裂成長性を評価する。
【0035】
具体的には、ドラム上でタイヤ走行テストを行う場合のテスト条件、即ちタイヤ内圧および縦荷重を、テスト対象となるタイヤTの仕様に基づいて予め規定しておく。このテスト条件としては、従来のタイヤ走行テストのテスト条件が使用できる。
【0036】
そして、前記図2に示すように、テスト対象となるタイヤTのタイヤ表面の所定位置(例えば、サイドウォールゴムの亀裂成長性を評価する場合には、サイドウォール部の位置)にタイヤ初期亀裂21を形成するとともに、このタイヤTを前記テスト条件の下でドラム上を一周させる。そしてこのとき、前記タイヤ初期亀裂21の開口が最大となる最大開口状態における亀裂先端21Pの局所歪εaを、本発明の前記測定方法を用いて測定する。例えば、サイドウォール表面にタイヤ初期亀裂21を形成したタイヤサイズ195/65R15の乗用車用ラジアルタイヤに対して、タイヤ内圧(190kPa)および縦荷重(7kN)のテスト条件で荷重を負荷したとき、最大開口状態における亀裂先端21Pの局所歪εaは30%と測定された。
【0037】
次に、図5に示すように、亀裂成長性の評価対象となるゴム組成を用いて矩形板状の既加硫のゴム試験片20を試作し、その一側縁20Eに、ゴム試験片20の長さ方向と直角な向きにのびる試験片初期亀裂22を形成する。なお図中の符号Kは、引っ張り試験機(加振機)の把持具Mによって把持される把持位置であり、前記ゴム試験片20は前記把持位置K、K間において縦長矩形板状であれば、把持位置Kよりも外側では、その形状は特に規制されない。又ゴム試験片20のサイズも特にされないが、把持位置K、K間において、その長さL1が20〜50mm、横幅L2が20〜60mm、厚さが1〜2mmのものが好適に使用できる。又試験片初期亀裂22は、前記把持位置K、K間の中央に形成されるとともに、その長さL3は、例えば2〜20mmの範囲が好適である。
【0038】
そして、このゴム試験片20の上下端部を、周知の引っ張り試験機(加振機)に把持させ、その長さ方向に所定の引っ張りストロークΔhで伸張を繰り返し、該伸張の繰り返し回数と試験片初期亀裂22の長さの成長量とからゴム試験片20の亀裂成長性を求めるゴム試験片伸張テストを行う。
【0039】
このとき、前記伸張状態におけるゴム試験片20の亀裂先端22Pの局所歪εbを、前記タイヤ初期亀裂21の亀裂先端21Pの局所歪εaと一致させることが必要である。前記「一致」には、前記局所歪εbが局所歪εaの90〜110%の範囲で近似する場合を含む。
【0040】
前記引っ張りストロークΔhを調整することにより、前記局所歪εbを前記局所歪εaと一致させる。詳しくは、事前テストにより、前記引っ張りストロークΔhを変化させ、その時の前記ゴム試験片20の亀裂先端22Pでの局所歪εbを、本発明の前記測定方法によって求める。図6には、本例における前記引っ張りストロークΔhと局所歪εbとの関係が示される。なお同図には、前記引っ張りストロークΔhを、ゴム試験片20の伸張時の伸び歪εhに換算して表している。前記伸び歪εhは、ゴム試験片20の把持位置K、K間の間隔L1と前記引っ張りストロークΔhとの比(Δh/L1)で示される。
【0041】
この図6から、伸び歪εhが4%となる引っ張りストロークΔhを前記ゴム試験片20に付与したとき、このゴム試験片20における亀裂先端22Pでの局所歪εbが30%となって、前記テスト条件のタイヤTにおける亀裂先端21Pの局所歪εaと等しくなることがわかる。
【0042】
そして、この局所歪εbが局所歪εaと一致する引っ張りストロークΔhにて前記ゴム試験片伸張テストを行うことにより、このゴム試験片伸張テストによる亀裂成長性によって、前記ゴム試験片と同じゴム組成物をタイヤに用いた場合の前記テスト条件におけるタイヤの亀裂成長性を評価することができる。
【0043】
このゴム試験片の伸張テストでは、大掛かりな試験装置や試験設備などが不要であり、しかもテストサンプルがゴム試験片20ですむため、作成コストや作成時間を大幅に削減することができる。又伸張の繰り返し速度を速めることにより、亀裂の成長を促進でき、危険性を増すことなくテスト時間の大幅な短縮を達成しうる。
【0044】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【符号の説明】
【0045】
1 ゴム表面
2 亀裂
2E 開口縁
2P、21P、22P 亀裂先端
4 マーク
5 銀インク
6 平織り金網
7 塗布部
9 マークエレメント
9x 第1エレメント
9y 第2エレメント
20 ゴム試験片
20 E一側縁
21 タイヤ初期亀裂
22 試験片初期亀裂
ε 局所歪
Δh 引っ張りストローク
R 亀裂先端近傍領域
T タイヤ
Y1 亀裂開口状態
Y2 亀裂変形前の状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム表面に形成される亀裂の開口縁が目開きした亀裂開口状態において、亀裂先端で生じる局所歪を測定する亀裂先端の局所歪測定方法であって、
亀裂の開口縁が閉じた亀裂変形前の状態において、亀裂先端近傍領域を含むゴム表面上の領域に、マークエレメントが、X軸方向及びこのX軸方向とは直交するY軸方向にそれぞれ等ピッチ間隔を隔ててマトリクス状に配列するマークを形成するマーキングステップと、
前記亀裂開口状態において亀裂先端で生じる局所歪を、前記マークエレメント間の間隔の変位に基づいて測定する歪測定ステップとを含み、
しかも前記マーキングステップは、銀インクを平織り金網の一面側に塗布した後、この塗布部をゴム表面に転写する転写工程を含み、これにより前記マークエレメントは、X軸方向に長い略楕円状の第1エレメントと、Y軸方向に長い略楕円状の第2エレメントとから構成され、かつ第1、第2エレメントは、X軸方向及びY軸方向にそれぞれ互い違いに配されるとともに、
前記平織り金網は、そのメッシュ粗さを100〜500メッシュの範囲としたことを特徴とする亀裂先端の局所歪測定方法。
【請求項2】
前記マークは、前記X軸方向、Y軸方向、X軸方向とは45度傾くA軸方向、或いはA軸方向とは直角なB軸方向を、前記亀裂の長さ方向に合わせて形成されたことを特徴とする請求項1記載の亀裂先端の局所歪測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の測定方法によって測定される亀裂先端の局所歪を用いて、タイヤ表面の亀裂の成長性を評価するタイヤの亀裂成長性評価方法であって、
タイヤ表面にタイヤ初期亀裂を形成したタイヤを、タイヤ内圧および縦荷重を規定したテスト条件にてドラム上で一周させ、前記タイヤ初期亀裂の開口が最大となる最大開口状態における亀裂先端の局所歪を、前記測定方法を用いて測定する一方、
縦長矩形板状をなすゴム試験片の一側縁に、ゴム試験片の長さ方向と直角な向きの試験片初期亀裂を形成し、かつこのゴム試験片をその長さ方向に所定の引っ張りストロークで伸張を繰り返し、該伸張の繰り返し回数と試験片初期亀裂の長さの成長量とからゴム試験片の亀裂成長性を求めるゴム試験片伸張テストを行うとともに、
前記伸張状態におけるゴム試験片の亀裂先端の局所歪を、前記タイヤ初期亀裂の亀裂先端の局所歪と一致させることにより、前記ゴム試験片伸張テストによる亀裂成長性によって、前記ゴム試験片と同じゴム組成物をタイヤに用いた場合の前記テスト条件におけるタイヤの亀裂成長性を評価することを特徴とするタイヤの亀裂成長性の評価方法。
【請求項4】
前記伸張状態におけるゴム試験片の亀裂先端の局所歪は、前記引っ張りストロークを調整することにより、前記タイヤ初期亀裂の亀裂先端の局所歪と一致させたことを特徴とする請求項3記載のタイヤの亀裂成長性の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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