説明

亀裂誘発目地部構造

【課題】目地部に埋設された鉄筋の腐蝕を抑制して構造部の耐久性を向上させる。
【解決手段】建造物の構造部Wにおける亀裂誘発目地部構造において、亀裂誘発目地1におけるコンクリート中の鉄筋2に対するコンクリート被り部1aに、前記構造部Wの表面から前記鉄筋2への気体の流通を遮断するバリア材Bを、亀裂誘発目地1の長手方向に沿って一体的に設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物(例えば、鉄筋コンクリート造や鉄骨造や鉄骨鉄筋コンクリート造等)の構造部(例えば、耐力壁等)において、例えば、コンクリートの乾燥収縮等の理由によって生じる亀裂を特定の箇所に集中させるように例えば溝等を設けて断面欠損部分を形成した亀裂誘発目地の設置部分の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の亀裂誘発目地部構造の第1番目のもの(以後、第1従来例という)は、図7に示すように、構造部Wのコンクリート表面に、溝Mを形成し、この部分が、他の部分より溝深さ分、断面積が少なくなっていることでこの溝に亀裂が集まり易いようにしたものがあった(例えば、特許文献1参照)。そして、この場合には、溝Mの底部分で、構造部W内の鉄筋2に対して必要な被り寸法Lを確保できるようにコンクリートの厚み寸法が設定されていた。
従来の亀裂誘発目地部構造の第2番目のもの(以後、第2従来例という)は、前記溝Mに発生した亀裂を通してコンクリート内に水が浸入して鉄筋2を腐蝕させてしまうと言う前記第1従来例の弱点を緩和することを目的として、図8に示すように、亀裂誘発目地部分のコンクリート中に、目地から浸入した水を排水できるように樋状の空間を備えた合成樹脂製の長尺止水体10を埋設してあるものがあった(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特許2876478号公報(図5)
【特許文献2】特許2876478号公報(図1、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄筋コンクリート造の構造部における骨組みの劣化は、コンクリートの亀裂が主原因であると言うより、埋設されている鉄筋の腐蝕による膨張によって骨組みが崩落するところに主原因がある。
そして、上述した従来の各亀裂誘発目地部構造によれば、水がコンクリート中に浸入することによって鉄筋が腐蝕すると言う考え方から、例えば、第1従来例においては、充分なコンクリートの被り厚さを確保する必要があったり、第2従来例においては、樋状空間を形成する必要があった。従って、何れの従来例においても、水を鉄筋に近づけない構成を採用している。
しかしながら、コンクリート中には、もともと水分は存在していることを考慮すると、水分のみが鉄筋を腐蝕させる要因では無いことが解る。
即ち、鉄筋は、コンクリートのアルカリ性に守られている環境下においては腐蝕し難く、むしろ、コンクリートのアルカリ性が中性化する点に鉄筋腐蝕の大きな要因が隠されている。そして、コンクリートの中性化は、空気中の炭酸ガス等の気体と反応することで生じる。従って、コンクリート中に発生した亀裂を通して前記気体がコンクリートに接触することで鉄筋周りのコンクリートまでが中性化し、鉄筋の酸化を抑制することができなくなって鉄筋腐蝕が進行する。
このような現状を考慮すると、前記第1従来例においても、第2従来例においても、コンクリート表面から浸入しようとする前記炭酸ガス等の気体をシャットアウトすることが困難であり、鉄筋を長期に亘って腐蝕から守ることが困難であると言った問題点がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、目地部に埋設された鉄筋の腐蝕を抑制して構造部の耐久性を向上させることが可能な亀裂誘発目地部構造を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、建造物の構造部における亀裂誘発目地部構造であって、亀裂誘発目地におけるコンクリート中の鉄筋に対するコンクリート被り部に、前記構造部の表面から前記鉄筋への気体の流通を遮断するバリア材を、亀裂誘発目地の長手方向に沿って一体的に設けてあるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、亀裂誘発目地におけるコンクリート中の鉄筋に対するコンクリート被り部に、前記構造部の表面から前記鉄筋への気体の流通を遮断するバリア材を、亀裂誘発目地の長手方向に沿って一体的に設けてあるから、コンクリート被り部の前記バリア材によって、構造部の表面から進入する前記気体が目地の鉄筋埋設位置まで達するのをブロックすることができ、その結果、目地部における鉄筋周囲のコンクリートが中性化するのを抑制して、鉄筋が錆び難い環境を長期に亘って持続させることが可能となる。また、前記バリア材によれば、構造部の表面から進入する前記気体と共に、水分に関してもブロックできるのは勿論のことである。
従って、目地部に埋設された鉄筋の腐蝕を抑制でき、構造部の耐久性を向上させることが可能となる。
また、当該目地部分における鉄筋に対するコンクリートの被り寸法を、従来のように大きく設定しなくても鉄筋の腐蝕を防止できるようになる。
即ち、従来であれば、目地部の溝底においてコンクリートの所定の被り寸法が確保できるようにコンクリート打設範囲を設定する必要があったから、目地部以外のコンクリート被り寸法が過大となっていたが、本発明によれば、目地部での被り寸法をより少なくできるようになり、鉄筋コンクリート構造部全体としたコンクリートの材料低減や、打設手間の軽減を図ることが可能となる。従って、経済性の向上をも図ることができる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記バリア材が金属製であるところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、金属である緻密な材質の特徴をフルに発揮して、バリア効果をより確実に発揮することが可能となる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記バリア材は、少なくとも両側縁部を前記コンクリート被り部に一体的に固着してあるところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、本発明の第1又は2の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、前記バリア材は、少なくとも両側縁部を前記コンクリート被り部に一体的に固着してあるから、安定した状態で目地部に設置され、鉄筋埋設位置付近のコンクリートに対する気体遮断効果を持続させることが可能となる。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記バリア材は、その幅方向中間部を、前記コンクリート被り部と絶縁してあるところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、本発明の第1〜3の何れかの特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、前記バリア材は、その幅方向中間部を、前記コンクリート被り部と絶縁してあるから、例えば、目地部での亀裂によって目開きが発生しても、目開きによる長さ変化を、バリア材の前記絶縁してある範囲全体で吸収することができ、バリア材の局部に集中的に大きな引っ張り力が作用するのを防止できる。即ち、バリア材が全面的にコンクリートと接着状態に設けられている場合、コンクリートに亀裂が発生することで、その亀裂に重なっているバリア材は、亀裂部分に集中して過大な引っ張り力が作用することになり、引きちぎれる危険性がある。
従って、コンクリートに亀裂が発生しても、前記バリア材がその影響を受け難く、耐久性を維持しやすい。
【0014】
本発明の第5の特徴構成は、前記バリア材は、両側縁部が相対的に離間できる状態に、その幅方向中間部を弛(たる)ませてあるところにある。
【0015】
本発明の第5の特徴構成によれば、本発明の第1〜4の何れかの特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、前記バリア材は、両側縁部が相対的に離間できる状態に、その幅方向中間部を弛(たる)ませてあるから、例えば、目地部での亀裂によって目開きが発生しても、目開きによる長さ変化を、バリア材の前記弛ませてある範囲で吸収することができ、バリア材の局部に集中的に大きな引っ張り力が作用するのをより防止し易くなる。
従って、コンクリートに亀裂が発生しても、前記バリア材がその影響を受け難く、より耐久性の維持を図りやすくなる。
【0016】
本発明の第6の特徴構成は、前記バリア材は、前記構造部の表裏両方に各別に設けてあるところにある。
【0017】
本発明の第6の特徴構成によれば、本発明の第1〜5の何れかの特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、前記バリア材は、前記構造部の表裏両方に各別に設けてあるから、構造部の表裏、何れからの気体の進入をも前記バリア材で遮断することが可能となり、構造部の目地部における耐久性をより向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0019】
図1、図2は、本発明の亀裂誘発目地部構造を取り入れた構造部の一実施形態である耐力壁Wを示すもので、耐力壁Wは、鉄筋コンクリート造の建物の一部に形成されている。
そして、本実施形態における耐力壁Wは、その表裏面に、溝状の複数の亀裂誘発目地(以後、単に目地という)1を、縦配置で横間隔をあけた状態にそれぞれ設けられているものを例として挙げている。
【0020】
耐力壁Wは、図に示すように、複数の鉄筋2が所定の間隔をあけて埋設してある。
そして、前記目地1は、図に示すように、断面逆台形形状の溝Mによって構成してあり、例えば、型枠に断面台形形状の桟木を予め固定した状態で型枠内の空間にコンクリート3を打設し、所定の期間の経過後に脱型すれば前記桟木部分跡に前記目地1を形成することができる。
また、本実施形態においては、溝Mの全長にわたって、溝Mの底部分から溝Mの両側壁部の一部にかけてアルミニウム製のシート(バリア材の一例)Bを設けてある。
尚、このシートBの設置は、例えば、上述のように型枠に固定した桟木の該当部分に予めシートBを仮接着しておいて、型枠内にコンクリートを打設することで実施でき、脱型後の溝M底部にはこのシートBが、コンクリート3と一体となった状態に設置できる。
前記シートBは、目地1のコンクリート被り部1aに設けてあることで、空気中の炭酸ガス等、コンクリートと接触してアルカリを中性化する虞のある気体が、目地1の亀裂を通して鉄筋2周囲のコンクリート3に流通するのを遮断する機能を備えており、前記気体がコンクリート3に接触して中性化されることにより、金属の腐食を抑えることが出来なくなることを防止している。
従って、目地1に亀裂が発生しても、鉄筋周囲のコンクリートのアルカリ性を持続させることができ、その結果、コンクリートのアルカリ性によって鉄筋2の腐蝕防止を図ることができる。
【0021】
また、鉄筋2は、被り寸法Lを、目地1以外の部分で例えば3cm程度確保してある(図3(イ)参照)。
従来の目地部構造においては、亀裂誘発目地の溝底部で必要な被り寸法を確保していたから、例えば、溝深さを2cmとすると、目地以外の箇所での被り寸法は(3+2)=5cmとなっていた(図3(ロ)参照)が、本実施形態では、前記シートBによって前記気体を遮断できるから、目地1の溝底部で必要な被り寸法を確保しなくてもよくなり、コンクリート3の被り寸法を最小限に抑えることができる。
【0022】
そして、溝Mの開口部は、コーキング材4を詰めて、耐力壁Wの表面は面一となるように構成されている。
【0023】
本実施形態の亀裂誘発目地部構造によれば、コンクリート被り部1aの前記シートBによって、耐力壁Wの表面から進入する前記気体が目地1の鉄筋埋設位置まで達するのをブロックすることができ、その結果、目地1における鉄筋周囲のコンクリート3が中性化するのを抑制して、鉄筋が錆び難い環境を長期に亘って持続させることが可能となり、耐力壁Wの耐久性を向上させることが可能となる。
また、被り寸法Lをより少なくできるようになり、鉄筋コンクリート構造部全体としたコンクリート3の材料低減や、打設手間の軽減を図ることが可能となり、経済性の向上をも図ることができる。
【0024】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0025】
〈1〉 前記亀裂誘発目地1は、先の実施形態で説明した縦目地に限るものではなく、例えば、横目地や、傾斜した目地であってもよい。それらを含めて亀裂誘発目地と総称する。
また、表面は例えば、コーキング材等を使用して面一に形成してあるものに限らず、溝状に窪んだ形状をそのまま残しているものであっても良い。
〈2〉 前記バリア材Bは、アルミニウム製に限るものではなく、例えば、ステンレス鋼等、他の金属や、合成樹脂によって構成してあってもよい。そして、形状は、シート状に限るものではなく、例えば、ブロック状であっても良い。但し、コスト面や取扱性の面からは、シート状や箔が好ましい。
また、バリア材Bそのものの腐蝕を防止する保護膜を表面加工してあれば、より耐久性を向上させることが可能となる。
〈3〉 前記バリア材Bのコンクリートとの一体化に関しては、先の実施形態で説明したように、溝Mの内周面にのみバリア材Bを接着する構造に限らず、例えば、図4に示すように、バリア材Bの両側縁部を前記コンクリート被り部1a中に埋没する状態に固着してあってもよく、この場合は、バリア材Bの固定性能が向上する共に、外部からコンクリート内に前記気体がより入り難い構造となる。
また、バリア材Bの固定は、先の実施形態のように、全面をコンクリートと一体化したものに限らず、例えば、図5に示すように、その幅方向中間部を、前記コンクリート被り部1aと絶縁してあってもよい。具体例としては、バリア材Bの幅方向中間部に剥離紙等を沿わせた状態でコンクリートと一体化する等の方法が挙げられる。この例によれば、コンクリート被り部1aに亀裂が発生して目開きが生じたとしても、その影響を絶縁された範囲全幅で吸収することができ、バリア材Bの局部に大きな引っ張り力が作用するのを防止できる。
更には、図6に示すように、前記バリア材Bの幅方向中間部を弛(たる)ませておけば、両側縁部が相対的に離間できる状態となり、バリア材に対する応力緩和を図り易くなる。
【0026】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】亀裂誘発目地を示す切欠き斜視図
【図2】亀裂誘発目地を示す断面図
【図3】亀裂誘発目地を示す断面図
【図4】別実施形態の亀裂誘発目地を示す断面図
【図5】別実施形態の亀裂誘発目地を示す断面図
【図6】別実施形態の亀裂誘発目地を示す断面図
【図7】従来の亀裂誘発目地を示す断面図
【図8】従来の亀裂誘発目地を示す断面図
【符号の説明】
【0028】
1 亀裂誘発目地
1a コンクリート被り部
2 鉄筋
B シート(バリア材の一例)
W 耐力壁(構造部の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の構造部における亀裂誘発目地部構造であって、
亀裂誘発目地におけるコンクリート中の鉄筋に対するコンクリート被り部に、前記構造部の表面から前記鉄筋への気体の流通を遮断するバリア材を、亀裂誘発目地の長手方向に沿って一体的に設けてある亀裂誘発目地部構造。
【請求項2】
前記バリア材は、金属製である請求項1に記載の亀裂誘発目地部構造。
【請求項3】
前記バリア材は、少なくとも両側縁部を前記コンクリート被り部に一体的に固着してある請求項1又は2に記載の亀裂誘発目地部構造。
【請求項4】
前記バリア材は、その幅方向中間部を、前記コンクリート被り部と絶縁してある請求項1〜3の何れか一項に記載の亀裂誘発目地部構造。
【請求項5】
前記バリア材は、両側縁部が相対的に離間できる状態に、その幅方向中間部を弛(たる)ませてある請求項1〜4の何れか一項に記載の亀裂誘発目地部構造。
【請求項6】
前記バリア材は、前記構造部の表裏両方に各別に設けてある請求項1〜5の何れか一項に記載の亀裂誘発目地部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−115556(P2008−115556A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297786(P2006−297786)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】