説明

事故点標定装置、プログラム

【課題】平行2回線送電線における健全回線に流れる零相電流及び事故回線に流れる零相電流の両方が測定できない場合であっても、精度良く事故点を標定することが可能な事故点標定装置を提供する。
【解決手段】第1及び第2母線と、第1及び第2送電線を含み第1及び第2母線の間に設けられた平行2回線送電線と、第2母線に設けたれた中性点接地抵抗と、を備える電力系統において、第1母線から第1送電線に流れる第1零相電流を測定する電流測定部と、第1母線または第1送電線の零相電圧を測定する電圧測定部と、第1または第2送電線に地絡事故が発生した際に、零相電圧に応じた中性点接地抵抗に流れる第1電流と第1零相電流とに基づいて、第1または第2送電線のうち、第2母線から地絡事故が発生した送電線に流れる第2零相電流を算出する算出部と、第1零相電流と第2零相電流とに基づいて、地絡事故が発生した事故点を標定する標定部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故点標定装置、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
送電線で発生した地絡事故の事故点を標定する方法としては、例えば、分流比演算方式(I方式)やリアクタンス演算方式(R方式)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−14810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、中性点接地抵抗が設けられた平行2回線送電線における事故点(故障点)を標定する際には、リアクタンス演算方式より分流比演算方式の方が精度良く事故点を標定できる。しかしながら、分流比演算方式を用いる際には、平行2回線送電線の事故が発生した事故回線に流れる零相電流と、健全回線に流れる零相電流との両方の電流を測定する必要がある。このため、事故回線及び健全回線の両方の零相電流を測定できない場合には、精度良く事故点を標定できないという問題があった。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、平行2回線送電線における健全回線に流れる零相電流及び事故回線に流れる零相電流の両方が測定できない場合であっても、精度良く事故点を標定することが可能な事故点標定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一つの側面に係る、第1及び第2母線と、第1及び第2送電線を含み前記第1及び第2母線の間に設けられた平行2回線送電線と、前記第2母線に設けたれた中性点接地抵抗と、を備える電力系統における事故点標定装置であって、前記第1母線から前記第1送電線に流れる第1零相電流を測定する電流測定部と、前記第1母線または前記第1送電線の零相電圧を測定する電圧測定部と、前記第1または第2送電線に第1地絡事故が発生した際に前記電圧測定部で測定された前記零相電圧に応じた前記中性点接地抵抗に流れる第1電流と、前記第1地絡事故が発生した際に前記電流測定部で測定された前記第1零相電流とに基づいて、前記第1または第2送電線のうち、前記第2母線から前記第1地絡事故が発生した発生した送電線に流れる第2零相電流を算出する算出部と、前記第1地絡事故が発生した際に前記電流測定部で測定された前記第1零相電流と、前記第2零相電流とに基づいて、前記第1地絡事故が発生した事故点を標定する標定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
平行2回線送電線における健全回線に流れる零相電流及び事故回線に流れる零相電流の両方が測定できない場合であっても、精度良く事故点を標定することが可能な事故点標定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態である事故点標定装置45が設けられた電力系統10を示した図である。
【図2】事故点標定装置45に実現される機能ブロックを示す図である。
【図3】事故点標定装置45が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】送電線31に地絡事故が発生した際の零相電流を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
図1は、本発明の一実施形態である事故点標定装置45が設けられた電力系統10の構成例を示す図である。
【0010】
電力系統10は、いわゆる平行2回線の送電系統であり、電力系統10には、電気所A,B、及び送電線30,31が設けられている。
【0011】
電気所Aの母線20(第1母線)と、電気所Bの母線21(第2母線)との間は、送電線30,31で接続されており、母線21には、中性点接地抵抗35が接続されている。なお、母線20,21、送電線30,31の夫々は例えば3本の電線を含むが、便宜上、図1においては1本の線で記載している。
【0012】
電気所Aには、変流器40、零相電圧検出装置41、及び事故点標定装置45が設けられている。
【0013】
変流器40は、いわゆる零相変流器であり、送電線30,31に地絡事故が発生した際に、母線20から送電線31(第1送電線)に流れる零相電流Ioxを検出する。零相電圧検出装置41は、母線20の零相電圧Voを検出する。
【0014】
事故点標定装置45は、例えば、フォルトロケータやオシロシステムであり、零相電流Iox及び零相電圧Voに基づいて、送電線30,31に発生した地絡事故の事故点を標定する。事故点標定装置45は、地絡過電圧継電器50、地絡方向継電器51、記憶装置52、マイコン53、及び表示部54を含んで構成される。なお、記憶装置52、マイコン53、表示部54のそれぞれは、バスを介して通信可能に接続される。
【0015】
地絡過電圧継電器50は、零相電圧Voに基づいて、送電線30,31に地絡事故が発生したか否かを検出する。
【0016】
地絡方向継電器51は、零相電流Iox及び零相電圧Voに基づいて、送電線30,31のうち、地絡事故が発生した送電線を判定する。なお、地絡過電圧継電器50の検出結果や、地絡方向継電器51の判定結果は、マイコン53に入力される。
【0017】
記憶装置52は、例えばハードディスク装置であり、マイコン53が実行するプログラムや、送電線30,31に完全地絡事故(所定の第2地絡事故)が発生した際の零相電圧Voの電圧値Vmや、中性点接地抵抗35の電流値Im(第2電流)を記憶する。
【0018】
マイコン53は、記憶装置52に記憶されたプログラムを実行することにより、送電線30,31に発生した事故点を標定する。
【0019】
表示装置54は、液晶ディスプレイ等であり、例えば、算出された事故点等を表示する。
【0020】
==事故点標定装置45に実現される機能ブロックについて==
図2は、マイコン53がプログラムを実行することにより、事故点標定装置45に実現される機能ブロックを示す図である。事故点標定装置45には、地絡検出部80、電流測定部81、電圧測定部82、算出部83、及び標定部84が実現される。
【0021】
地絡検出部80は、地絡過電圧継電器50の出力に基づいて、送電線30,31に地絡事故が発生したか否かを検出する。
【0022】
電流測定部81は、地絡検出部80で地絡事故の発生が検出されると、変流器40で検出された零相電流Iox(第1零相電流)を測定し、記憶装置52に格納する。なお、地絡検出部80で検出される地絡事故は、実際に送電線30,31に発生する地絡事故であり、第1地絡事故に相当する。
【0023】
電圧測定部82は、地絡検出部80で地絡事故の発生が検出されると、零相電圧検出装置41で検出された零相電圧Voを測定し、測定結果を記憶装置52に格納する。
【0024】
算出部83は、地絡事故が検出された後に、記憶装置52に記憶された零相電圧Vo及び零相電流Ioxや、電圧値Vm、電流値Imに基づいて、中性点接地抵抗35に流れる電流Io(第1電流)と、母線21から事故が発生した送電線に流れる零相電流Ioy(第2零相電流)とを算出する。
【0025】
標定部84は、変流器40で測定された零相電流Ioxと、算出部83が算出した零相電流Ioyとに基づいて、事故点の標定を行う。具体的には、標定部84は、零相電流Iox,Ioyを用いた分流比演算方式を実行して事故点の標定を行う。
【0026】
==事故点標定装置45が実行する処理の一例==
図3は、送電線30,31に地絡事故が発生した際に、事故点標定装置45が実行する処理の一例である。なお、図3のフローチャートの主体は、図2で示した各機能ブロックである。また、図4は、送電線31に地絡事故が発生した際の発生する零相電流を模式的に示す図であり、適宜参照する。
【0027】
まず、地絡検出部80は、送電線30,31の地絡事故が発生したか否かを検出する(S100)。そして、地絡事故の発生が検出されると(S100:YES)、電流測定部81は零相電流Ioxを測定して記憶装置52に格納し、電圧測定部82は零相電圧Voを測定して記憶装置52に格納する(S101)。
【0028】
算出部83は、地絡事故が発生した際に記憶装置52に記憶された零相電圧Voの値と、電圧値Vmとの比αを算出する(S102)。具体的には、式(1)に示す演算を実行する。
α=Vo/Vm・・・(1)
なお、送電線30,31に地絡事故が発生していな場合には、零相電圧Voの値はゼロとなり、送電線30,31に完全地絡事故が発生している場合には、零相電圧Voの値は電圧値Vmとなる。したがって、比αは、いわゆる地絡度合いを示す値となり0〜1の範囲で変化する。また、比αの値が大きいほど地絡事故が完全地絡事故に近づくことになる。
【0029】
そして、算出部83は、算出した地絡度合いを示す比αと、完全地絡時における中性点接地抵抗35に流れる電流Imとの積を計算することにより、地絡事故が発生した際に中性点接地抵抗35に流れる電流Ioを算出する(S103)。具体的には、式(2)に示す演算を実行する。
Io=α×Im・・・(2)
中性点接地抵抗35に流れる電流Ioは、地絡度合い(すなわち、零相電圧Vo)に比例して大きくなる。したがって、本実施形態では、式(2)の演算を実行することにより、実際に電流Ioを測定することなく電流Ioを算出できる。
【0030】
また、地絡事故が発生した際に中性点接地抵抗35に流れる電流Ioは、図4に例示するように、母線20から送電線31に流れる零相電流Ioxと、母線21から送電線31に流れる零相電流Ioyとの和になる。このため、算出部83は、算出された電流Ioから、地絡事故発生の際の零相電流Ioxを減算し、零相電流Ioyを算出する(S104)。具体的には、式(3)に示す演算を実行する。
Ioy=Io−Iox・・・(3)
このように、本実施形態では、零相電流Ioyの値を算出できる。そして、標定部84は、地絡方向継電器51の判定結果から事故回線を特定し、記憶装置52に記憶された零相電流Ioxと、算出された零相電流Ioyとに基づいて、事故回線の事故点を標定する(S105)。
【0031】
具体的には、例えば図4において、送電線30,31の長さを便宜上“1”とし、母線20から事故点Aまでの距離を“X”とすると、零相電流Iox、Ioyの間には、式(4)のような関係式が成立する。
Ioy:Iox=1/(1−X):1/(1+X)・・・(4)
なお、上記式(4)の関係は、一般的な分流比演算方式に基づいて得られる関係である。また、母線20から事故点Aまでの距離を“X”は、式(5)で表される。
X=(Ioy−Iox)/(Iox+Ioy)・・・(5)
このため、標定部84は、処理S105において、式(5)の演算を実行することにより、事故点Aの標定が可能となる。
そして、事故点Aが標定されると、標定部84は、事故点Aの位置を表示部54に表示する(S106)。
【0032】
以上、本発明の一実施形態である事故点標定装置45について説明した。事故点標定装置45は、平行2回線送電線における健全回線に流れる零相電流(図4の例では、零相電流Iox)、事故回線に流れる零相電流(図4の例では、零相電流Ioy)のうち、零相電流Ioyを算出している。したがって、事故点標定装置45では、零相電流Iox,Ioyの両方を測定できない場合であっても、精度の良い分流比演算方式に基づいて事故点を標定することができる。この結果、利用者は、例えば中性点接地抵抗35が設けられておらず、零相電流Iox,Ioyの両方を測定できない電気所Aであっても、事故点標定装置45を設置することができる。
【0033】
また、事故点標定装置45は、地絡事故が発生した際の零相電圧Voと、電圧値Vmとから地絡度合い(比α)を求めた後、地絡事故が発生した際の中性点接地抵抗35に流れる電流Ioを求めている。中性点接地抵抗35に流れる電流Ioは、地絡度合いに比例して大きくなる。このため、本実施形態では、電流Ioを測定することなく、電流Ioを精度よく算出することができる。
【0034】
また、一般に、完全地絡が発生した際の電圧値Vmは、電気学会の電気規格調査会における標準規格で、例えば110Vと定まっている。また、完全地絡が発生した際の電流Imは、中性点接地抵抗35の抵抗値によって定まる。このため、利用者は、事前に特別な計算等を行うことなく、記憶装置52に記憶させる電圧値Vm、Imを定めることができる。
【0035】
なお、上記実施例は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0036】
本実施形態では、完全地絡事故(いわゆる、100%の地絡事故)が発生した際の、零相電圧Voと電流Ioの値のそれぞれを電圧値Vm、電流値Imとしたが、これに限られない。前述のように、中性点接地抵抗35に流れる電流Ioは、地絡度合いに比例して大きくなる。このため、例えば、50%の地絡事故が発生した際の、零相電圧Voと電流Ioの値のそれぞれを電圧値Vm、電流値Imとしても良い。この場合、比αが0から2まで変化することになるが、本実施形態と同様に事故点を精度良く標定できる。
【0037】
また、事故点標定装置45は、処理S102,S103で電流Ioを演算して算出したがこれに限られるものでは無い。例えば、電流Ioと零相電圧Voとの間には、Io=α×Im=(Vo/Vm)×Imとの関係がある。つまり、実際の地絡事故が発生した際の電流Ioは、零相電圧Voに応じて変化する。このため、事前に記憶装置52に電流Ioと零相電圧Voとの相関を示すデータを記憶させ、マイコン53に、前述したデータ及び測定された零相電圧Voを用いて、零相電圧Voに応じた電流Ioを適宜選択させることとしても良い。
【0038】
また、零相電圧検出装置41は、母線20の零相電圧Voを検出したが、例えば、母線20側の送電線31(母線20の近傍の送電線31)の零相電圧であっても良い。この場合であっても、事故点標定装置45は、本実施形態と同様に事故点を標定することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 電力系統
20,21 母線
30,31 送電線
40 変流器
41 零相電圧検出装置
45 事故点標定装置
50 地絡過電圧継電器
51 地絡方向継電器
52 記憶装置
53 マイコン
54 表示部
80 地絡検出部
81 電流測定部
82 電圧測定部
83 算出部
84 標定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2母線と、第1及び第2送電線を含み前記第1及び第2母線の間に設けられた平行2回線送電線と、前記第2母線に設けたれた中性点接地抵抗と、を備える電力系統における事故点標定装置であって、
前記第1母線から前記第1送電線に流れる第1零相電流を測定する電流測定部と、
前記第1母線または前記第1送電線の零相電圧を測定する電圧測定部と、
前記第1または第2送電線に第1地絡事故が発生した際に前記電圧測定部で測定された前記零相電圧に応じた前記中性点接地抵抗に流れる第1電流と、前記第1地絡事故が発生した際に前記電流測定部で測定された前記第1零相電流とに基づいて、前記第1または第2送電線のうち、前記第2母線から前記第1地絡事故が発生した発生した送電線に流れる第2零相電流を算出する算出部と、
前記第1地絡事故が発生した際に前記電流測定部で測定された前記第1零相電流と、前記第2零相電流とに基づいて、前記第1地絡事故が発生した事故点を標定する標定部と、
を備えることを特徴とする事故点標定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の事故点標定装置であって、
前記算出部は、
所定の第2地絡事故が発生した際の前記零相電圧及び前記第2地絡事故が発生した際の前記中性点接地抵抗に流れる第2電流と、前記第1地絡事故が発生した際に前記電圧測定部で測定された前記零相電圧と、に基づいて前記第1電流を算出した後、算出された前記第1電流から前記第1地絡事故が発生した際に前記電流測定部で測定された前記第1零相電流を減算して前記第2零相電流を算出すること、
を特徴とする事故点標定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の事故点標定装置であって、
前記第2地絡事故は、完全地絡事故であること、
を特徴とする事故点標定装置。
【請求項4】
第1及び第2母線と、第1及び第2送電線を含み前記第1及び第2母線の間に設けられた平行2回線送電線と、前記第2母線に設けたれた中性点接地抵抗と、を備える電力系統において、
コンピュータに、
前記第1母線から前記第1送電線に流れる第1零相電流を測定する機能と、
前記第1母線または前記第1送電線の零相電圧を測定する機能と、
前記第1または第2送電線に地絡事故が発生した際に前記電圧測定部で測定された前記零相電圧に応じた前記中性点接地抵抗に流れる電流と、前記地絡事故が発生した際に前記電流測定部で測定された前記第1零相電流とに基づいて、前記第1または第2送電線のうち、前記第2母線から前記地絡事故が発生した発生した送電線に流れる第2零相電流を算出する機能と、
前記地絡事故が発生した際に測定された前記第1零相電流と、前記第2零相電流とに基づいて、前記地絡事故が発生した事故点を標定する機能と、
を実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−198134(P2012−198134A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63025(P2011−63025)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】