説明

二光子吸収材料及びその利用

【課題】波長390〜420nm領域において強い二光子吸収特性を示す二光子吸収材料を提供し、同波長領域での三次元微細光造形や三次元メモリ等において、小型でエネルギー消費の少ないレーザー光源の利用を可能にする。
【解決手段】一般式(1)で示されるベンゼン誘導体には、波長390〜420nm領域において強い二光子吸収特性を備えており、この波長領域のレーザー光源を利用する二光子吸収材料として有用である。


(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二光子吸収を用いた三次元微細光造形における硬化材料、三次元光メモリ材料等として有用な二光子吸収材料に関する。更に、本発明は、当該二光子吸収材料の各種利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二光子吸収材料として、ローダミン、クマリン等の色素化合物、ジチエノチオフェン誘導体、オリゴフェニレンビニレン誘導体、ポルフィリン誘導体等の化合物が使用されている。二光子吸収特性を示す化合物の二光子吸収断面積が小さい場合には、レーザーピーク強度を著しく高める必要があり、大規模なレーザー装置が必要となるだけではなく、材料を破壊させるに近い高強度エネルギーを使用するので、材料が容易に劣化し、或いは破壊されてしまうことすらある。このため、二光子吸収材料の高感度化、即ち含有され二光子吸収特性を示す化合物が大きな二光子吸収断面積を示すことが不可欠である。この点に鑑み、研究開発が行われて来た結果、500×10-50cm4・s・molecule-1・photon-1を越える大きな二光子吸収断面積を持つ化合物が多数報告されている(例えば、非特許文献1及び2参照)しかしながら、これらの化合物で認められる大きな二光子吸収断面積は殆ど全てが、波長600nmより長波長、特に750nmより近赤外波長の入射レーザー光においてのみである。
【0003】
一方、二光子吸収材料の産業的応用の内、三次元微細光造形や三次元光メモリ等の微細な解像度が求められる用途では、大きな二光子吸収断面積を示す入射レーザー光がより短波長であることが望まれている。これは、これらの応用が集光レーザービームを用いることから、回折限界の制限により、短波長を用いる方がより微細な集光スポットを実現でき、ひいては三次元微細光造形においてはより高い解像度による造形、三次元光メモリにおいてはより高密度の記録を可能とするからである。特に、三次元光メモリにおいては、光メモリとして市販されている光ディスクであるブルーレイディスク規格において中心波長405nmの紫〜青領域の短波長可視光が使われており、同波長域で強い二光子吸収を示す材料があれば、その技術資産を直接利用することができるため、産業応用上の利点は極めて大きい。また、同様に三次元微細光造形においても従来の532nm又は800nmのレーザー光を用いる技術に対してより高解像度が得られるだけでは無く、405nmの半導体レーザーなどそれらの技術資産が利用可能となることで非常にコンパクト且つ低消費エネルギーの造形システムの実現が期待される。
【0004】
しかしながら、従来、短波長のレーザー光に対して二光子吸収特性を示す化合物は、入射レーザー光の波長域270〜400nmにおける二光子吸収断面積が100×10-50 cm4・sec・molecule-1・photon-1未満であるに過ぎず(非特許文献3参照)、産業上重要な405nm近辺の波長領域(より厳密には390nm〜420nm)で強い二光子吸収を示すものは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Guang S. He, et al., Chemistry Review2008, 108, 1245
【非特許文献2】M. Pawlicki et al., Angewandte Chemie International Edition 2009, 48, 3244
【非特許文献3】K. J. Schafer et al.,Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry 2004, 162, 497
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述するように、405nm近辺の波長領域(より厳密には390nm〜420nm)で強い二光子吸収を示す二光子吸収材料は未だ報告されていない。そのため、同波長域で三次元微細光造形及び三次元メモリを行うには、強いピークパワーを持つレーザー光が必要であり、現状ではチタンサファイアレーザー等のパルス固体レーザー、又はフェムト秒ファイバーレーザー等の大型でエネルギー消費の大きなレーザーの高調波の利用が不可欠になっている。
【0007】
そこで、本発明は、390〜420nm領域において強い二光子吸収特性を示す二光子吸収材料を提供し、同波長域での三次元微細光造形や三次元メモリ等において、より小型でエネルギー消費の少ないレーザー光源の利用を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに、後述する特定構造のベンゼン誘導体には、波長390〜420nmの範囲において強い二光子吸収特性を備えており、波長390〜420nm領域のレーザー光源を利用する二光子吸収材料として有用であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討することにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 一般式(1)で示されるベンゼン誘導体からなる、二光子吸収材料;
【化1】

(1)
[一般式(1)中、R〜R6の内、2個以上は下記一般式(2)で表される置換基であり且つ残りは水素原子であって、RとR4、R2とR5、R3とR6のそれぞれの組の少なくとも一組は下記一般式(2)で表される置換基である。]
【化2】

(2)
[一般式(1)中、R7〜R11は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は、炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。]
項2. 一般式(1)中、RとR4、R2とR5、R3とR6のそれぞれの組の少なくとも二組が一般式(2)で表される置換基である、項1に記載の二光子吸収材料。
項3. 一般式(2)中、R7〜R11の内、2つ以上の基が水素原子である、項1又は2に記載の二光子吸収材料。
項4. 一般式(1)で示されるベンゼン誘導体が、下記一般式(3)〜(5)で示されるベンゼン誘導体の中の少なくとも1種である、項1〜3のいずれかに記載の二光子吸収材料。
【化3】

(3)
【化4】

(4)
【化5】

(5)
項5. 項1〜4のいずれかに記載の二光子吸収材料を含む、光造型用光硬化樹脂の硬化材料。
項6. 項1〜4のいずれかに記載の二光子吸収材料を含む、光制限材料。
項7. 項1〜4のいずれかに記載の二光子吸収材料を含む、三次元光メモリ材料。
項8. 波長390〜420nmのパルスレーザー光を発生するレーザー発生装置、レーザー集光装置と、光硬化性モノマー収容装置と、光硬化性モノマー中の所定の集光位置をレーザービームで走査するための機構とを備えた二光子吸収光造型装置であって、項5に記載の硬化材料が光硬化性モノマー中に含まれていることを特徴とする光造型装置。
項9. 波長390〜420nmのパルスレーザー光を発生するレーザー発生装置と、レーザー集光装置と、項7に記載の三次元光メモリ材料と、該メモリ材料の所定の集光位置をレーザービームで走査するための機構と、光学的読出し装置と、該光メモリ材料中の屈折率変化、局所的破壊又は局所的な蛍光強度の減少を検出する装置とを備えた三次元メモリ装置。
項10. 項1〜4のいずれかに記載の二光子吸収材料に、波長390〜420nmの光を照射することにより二光子吸収による励起を生じさせる、二光子吸収励起方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の二光子吸収材料は、波長390〜420nmの範囲の光において、大きな二光子吸収断面積を有しているので、照射する光の強度を強くする必要がないので、より出力の小さな小型のレーザー発生装置を用いることが可能になる。また、本発明の光子吸収材料によれば、強度の強い光照射を必要としないため、強度の強い光照射に起因する材料の劣化乃至破壊を抑制することができ、材料中の他成分の特性に対する悪影響も低下させることができる。
【0011】
また、従来、ブルーレイディスク規格において中心波長405nmの紫〜青領域の短波長可視光が使われているが、本発明の二光子吸収材料は、同波長域で強い二光子吸収を生じさせることができ、ブルーレイディスク規格が適用されている技術分野で培われた技術資産を直接利用することが可能であり、その産業応用上の利点は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の二光子吸光材料を光制限材料として用いる光制限装置の一例の概要を示す模式図である。
【図2】本発明の二光子吸光材料を硬化材料として用いる光造型装置の一例の概要を示す模式図である。
【図3】本発明の二光子吸光材料の二光子吸収後に生じる屈折率変化、局所的破壊又は局所的な蛍光強度の減少を利用する三次元光メモリ装置の一例の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の二光子吸収材料は、下記一般式(1)で示されるベンゼン誘導体からなることを特徴とする。
【化6】

(1)
【0014】
一般式(1)において、R〜R6の内、2個以上は下記一般式(2)で表される置換基であり且つ残りは水素原子であって、RとR4、R2とR5、R3とR6のそれぞれの組の少なくとも一組は下記一般式(2)で表される置換基である。波長390〜420nmの範囲においてより強い二光子吸収特性を備えさせるという観点から、好ましくは、前記R〜R6の内、RとR4、R2とR5、R3とR6のそれぞれの組の少なくとも二組が下記一般式(2)で表される置換基であり、更に好ましくはRとR4、R2とR5、R3とR6のそれぞれの組の全三組(即ち、R〜R6の全て)が下記一般式(2)で表される置換基である。
【0015】
また、一般式(1)で示されるベンゼン誘導体において、一般式(2)で表される置換基である、RとR4、R2とR5、及び/又はR3とR6の組において、各組を構成する一対(中心となるベンゼン環の両対角方向に配される2つの置換基)の一般式(2)で表される置換基は、異なる構造であってもよいが、より強い二光子吸収特性を備えさせるという観点からは、同じ構造であることが望ましい。更に、RとR4、R2とR5、R3とR6のそれぞれの組の少なくとも二組が下記一般式(2)で表される置換基である場合には、RとR2とR3の内の2以上の置換基同士は、同一又は異なる構造のいずれでもよいが、同一構造であることがより望ましい。即ち、例えば、RとR4が一般式(2)で表される置換基である場合、RとR4は同じ構造の置換基であることが望ましい。また、例えば、RとR4、及びR2とR5が一般式(2)で表される置換基である場合、RとR4は同じ構造の置換基であり、R2とR5は同じ構造の置換基であることが望ましく、更にRとR4の置換基とR2とR5の置換基とは、同一又は異なる構造のいずれでもよいが、同一構造であることがより望ましい。また、例えば、RとR4、R2とR5、及びR3とR6が一般式(2)で表される置換基である場合、RとR4は同じ構造の置換基であり、R2とR5は同じ構造の置換基であり、R3とR6は同じ構造の置換基であることが望ましく、更にRとR4の置換基とR2とR5の置換基とR3とR6の置換基とは、同一又は異なる構造のいずれでもよいが、同一構造であることがより望ましい。
【0016】
本発明において、一般式(2)で示される置換基は、下記構造式で示されるものである。
【化7】

(2)
【0017】
一般式(2)中、R7〜R11は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。
【0018】
一般式(2)で示される置換基に含まれる炭素数1〜4のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が例示される。これらの中でも、炭素数1〜3、好ましくは炭素数1又は2、更に好ましくは炭素数1のアルキル基が好適である。
【0019】
一般式(2)で示される置換基に含まれる炭素数1〜4のアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基が例示される。これらの中でも、炭素数1〜3、好ましくは炭素数1又は2、更に好ましくは炭素数1のアルコキシ基が挙げられる。
【0020】
一般式(2)中のR7〜R11は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基の順で、二光子吸収断面面積を増大させる反面、一光子吸収ピークの長波長化を生じさせる傾向を示す。かかる特性と共に、一般式(1)で示されるベンゼン誘導体中に含まれる一般式(2)で表される置換基の数を考慮して、一般式(2)中のR7〜R11は、水素原子、前記アルキル基、及び前記アルコキシ基の中から好適なものを適宜設定することが望ましい。例えば、一般式(1)においてR〜R6の6つ全てが一般式(2)で表される置換基である場合には、当該一般式(2)中のR7〜R11は2つ以上、好ましく3つ以上、更に好ましくは4つ以上、特に好ましくは5つ全てが、水素原子であることが好ましい。また、例えば、一般式(1)においてR〜R6の内、1〜4つが一般式(2)で表される置換基である場合には、当該一般式(2)中のR7〜R11は全て水素原子であってもよいが、R7〜R11の1つ以上が前記アルキル基及び/又はアルコキシ基であってもよい。
【0021】
上記一般式(1)で示されるベンゼン誘導体の好適な具体例としては、下記一般式(3)〜(5)で示される化合物を挙げることができる。
【化8】

(3)
【化9】

(4)
【化10】

(5)
【0022】
上記一般式(1)で示されるベンゼン誘導体は、公知の合成法又はその改良法によって製造することができる。具体的には、上記一般式(1)で示されるベンゼン誘導体の合成法としては、K. Konodo et al.,j. Chem. Soc., Chem. Commun. 1995, 55−56;W. Tao, et al., j. Org. Chem. 1990, 55, 63−66等に記載されており、これらの文献に記載の方法に準じて、又はこれらの文献に記載の方法を適宜改良することにより、上記一般式(1)で示されるベンゼン誘導体を製造することができる。
【0023】
本発明の二光子吸光材料は、上記一般式(1)に示されるベンゼン誘導体を使用するものである。本発明の二光子吸光材料は、上記一般式(1)に示されるベンゼン誘導体化合物そのものを単独で使用してもよく、或いはヘキサン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、エーテル、テトラハイドロフラン、酢酸エチル、アセトン、2−ブタノン、メタノール、エタノール、トリフルオロメチルベンゼン、酢酸、トリエチルアミン等の溶媒有機溶媒に溶解又は分散させた状態で使用してもよく、或いはポリメタクリルメチル等のポリマー中にドープした状態や、アミノ基、エーテル基等のπ電子を持たない基をリンカーとして介して、ポリマー主骨格に分岐鎖又はポリマー主骨格の一部として導入した状態で使用してもよい。
【0024】
本発明の二光子吸光材料において、上記一般式(1)に包含されるベンゼン誘導体の内、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明の二光子吸光材料の特性の一つとして、波長390〜420nmの光を照射することにより二光子吸収による励起(二光子吸収励起)を生じさせ、大きな二光子吸収断面積を示す点が挙げられる。本発明の二光子吸光材料において、波長390〜420nmの範囲の光における二光子吸収断面積としては、440〜26000cm4・sec・molecule-1・photon-1、好ましくは4800〜2600cm4・sec・molecule-1・photon-1、更に好ましくは20000〜26000cm4・sec・molecule-1・photon-1が挙げられる。当該二光子吸収断面積は、後述する実施例で採用した測定条件によって求められる。
【0026】
また、本発明の二光子吸光材料の蛍光収率としては、10〜30%程度である。また、本発明の二光子吸光材料は、吸収したエネルギーの70〜90%程度が熱へと変換される高い熱変換効率を備えている。
【0027】
本発明の二光子吸光材料は、波長390〜420nmの範囲の光を吸収して二光子吸収による励起を生じさせるので、その励起現象を使用して、各種の装置や用途に有効に利用できる。例えば、本発明の二光子吸光材料は、上記した特性を利用して、光制限装置における光制限材料、光造型用光硬化樹脂の硬化材料、三次元光メモリ材料等として利用することができる。また、本発明の二光子吸光材料は、一般式(1)に示されるベンゼン誘導体の励起により生じる熱等を利用したフォトダイナミックセラピーにも有効に利用できる。
【0028】
以下、本発明の二光子吸光材料を用いる各種装置につき、説明する。但し、本発明の二光子吸光材料の使用は、これらの装置に限定されるものではなく、その他の種々の装置においても、優れた効果を発揮することはいうまでもない。また、説明を簡略化するために、図示の装置においては、主要な構成要素のみを示しているが、実用的な装置においては、その他の公知の構成要素(図示せず)が採用される。
【0029】
図1は、本発明の二光子吸光材料を光制限材料として用いる光制限装置の一例の概要を示す模式図である。当該装置は、集光装置とコリメート装置との間に光制限材料が配置される。
【0030】
外部から(図1において、左側から)入射してきたレーザービームは、集光装置1(レンズ、凹面鏡など)により集光され、光制限材料2中で極めて高い光強度となり、二光子吸収を誘起して、吸収される。これに対し、通常光などの弱い光は、光制限材料中で二光子吸収を誘起することなく、そのままこれを通過し、コリメート装置3(レンズ、凹面鏡等)により、当初の光路に戻されて、装置を出射する。従って、この光制限装置においては、強度の強い光のみが装置により遮断されるので、出射側にある光検出器或いは観察者の肉眼がレーザービームから保護される。
【0031】
図2は、本発明の二光子吸光材料を硬化材料として用いる光造型装置の一例の概要を示す模式図である。該光造型装置は、波長390〜420nmのパルスレーザー光を発生するレーザー発生装置と、レーザー光集光装置と、光硬化性モノマー収容装置と、光硬化性モノマー中の所定の集光位置をレーザービームで走査するための機構とを備えており、本発明の二光子吸光材料が光硬化性モノマー中に含まれる。
【0032】
レーザービームは、レーザー光発生装置4からミラー8を経て、レーザー光集光装置5(顕微鏡の対物レンズなど)により集光され、硬化材料を含む光硬化性モノマー6中で焦点を結び、高い光強度となり、二光子吸収を誘起する。この二光子吸収により、反応中間体が生成され、共存するモノマーが重合して、焦点近傍のみにポリマーが形成される。その結果、任意の形状の三次元構造物を造型することができる。レーザービームの微細制御を行う場合には、微小な三次元構造物を造型することもできる。
【0033】
この光造形装置は、所定の集光位置をレーザービームで走査するための機構を備えており、モノマー中でのレーザービーム焦点の移動は、光硬化性モノマー6を支持するステージ7を可動形式とする場合には、ミラー8を固定形式とし、ステージ7を固定形式とする場合には、ミラー8を可動形式(ガルバノミラーなど)とすることなどにより行うことができる。
【0034】
図3は、本発明の二光子吸光材料の二光子吸収後に生じる屈折率変化、局所的破壊又は局所的な蛍光強度の減少を利用する三次元光メモリ装置の一例の概要を示す模式図である。この光メモリ装置では、発明の二光子吸光材料が光メモリ材料として用られる。
【0035】
当該装置は、波長390〜420nmのパルスレーザー光を発生するレーザー発生装置と、レーザー光集光装置と、本発明の二光子吸光材料からなる三次元光メモリ材料と、該メモリ材料の所定の集光位置をレーザービームで走査するための機構と、光学的読出し装置と、光メモリ材料中の屈折率変化、局所的破壊又は局所的な蛍光強度の減少を検出する装置とを備えた三次元メモリ装置である。
【0036】
図3の装置では、レーザー光発生装置4からの光をダイクロイックミラー10を経て、レーザー光集光装置5により集光して、三次元光メモリ材料9中で所望の箇所に焦点を結ばせる。焦点近傍では、二光子吸収後に生じる反応又は熱による変性によって二光子吸光材料に屈折率変化又は局所的な破壊、例えば、穴が空いたり、表面が焼き飛んだり、内部に空洞が形成されたりする物質の変化(いわゆるアブレーション)による破壊が生じる。また、焦点近傍では、二光子吸収後に生じる反応又は熱による変性により蛍光強度の減少も生じ得る。この様に制御された集光操作を繰り返し行うことにより、任意の箇所に三次元的に屈折率の異なる部分又は光学的損傷を形成することができる。かくして、情報の三次元的記録が可能となる。
【0037】
情報の読出しは、例えば、共焦点光学顕微鏡13を利用して、光メモリ材料9中の屈折率変化、局所的破壊、又は蛍光強度の減少を検出することによって行うことができる。屈折率変化又は局所的破壊の場合、例えば、検出用光源14からの光を集光装置(レンズなど)15により集光して、光メモリ材料9中に屈折率変化として記録されている部分を照射する。照射された光は、集光装置(レンズなど)5及び集光装置(レンズなど)16を経てアパーチャー17を通過した後、集光装置(レンズなど)18で集光されて、光検出器11で検出される。記録位置での屈折率変化は、光検出器11において、光量の変化として検出することができる。蛍光強度の減少の場合、レーザー光発生装置4の出力強度を弱めて、破壊や物質の変化を起こさせずに三次元光メモリ材料9の内部で二光子励起蛍光を発生させ、その蛍光は集光装置(レンズなど)5及び集光装置(レンズなど)16を経てアパーチャー17を通過した後、集光装置(レンズなど)18で集光されて、光検出器11で検出される。屈折率変化又は局所的破壊の場合と同様に、記録位置での蛍光強度変化は、光検出器11において、光量の変化として検出することができる。二光子励起による蛍光を用いる代わりに、材料が一光子吸収を持つより短波長の励起レーザー光源(a:図にはない)を付加的に用いてもよい。その際は、レーザー光発生装置4とダイクロイックミラー10の間、ダイクロイックミラー10と集光装置16の間、ダイクロイックミラー10、又はダイクロイックミラー10と集光装置5の間、に別のダイクロイックミラーを設置し励起レーザー光源(a)からの励起光を集光装置5により集光して、三次元光メモリ材料9中で所望の箇所に焦点を結ばせればよい。
【0038】
この方法では、光メモリ材料9中の焦点に対応する焦点(共焦点)位置にアパーチャー17を設置することで、深さ方向の位置分解能が生じ、三次元的な記録の読み出しが可能となる。例えば、ステージ7を移動するか、アパーチャー17の位置を移動することにより、水平方向二次元的にスキャンして水平方向の記録の読み出しが可能となる。また、ステージ7を深さ方向に移動させることにより、深さ方向の読み出しが可能となる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1
下記構造の一般式(3)に示されるベンゼン誘導体(ヘキサキス(フェニルエチニル)ベンゼン)、一般式(4)に示されるベンゼン誘導体(テトラキス(フェニルエチニル)ベンゼン)、及び一般式(5)に示されるベンゼン誘導体(ビス(フェニルエチニル)ベンゼン)を用いて、二光子吸収断面積の評価を行った。一般式(3)に示されるベンゼン誘導体及び一般式(4)に示されるベンゼン誘導体については、K. Konodo et al.,j. Chem. Soc., Chem. Commun. 1995, 55−56;W. Tao, et al., j. Org. Chem. 1990, 55, 63−66に記載の方法に準じて合成したものを使用した。また、一般式(5)に示されるベンゼン誘導体については、和光純薬工業社製(324-48211)を使用した。
【0041】
具体的には、各ベンゼン誘導体を表1に示す所定濃度で含むクロロホルム溶液を調製し、当該クロロホルム溶液を用いて二光子吸収断面積の評価を行った。二光子吸収断面積の評価は、文献I(K. Kamada, K. Matsunaga, a. Yoshino, K. Ohta, j. Opt. Soc. Am. B, Vol.20, No.3, 529−537 (2003))に記載のZスキャン法に従って行った。具体的には、二光子吸収断面積測定用の光源には、Ti:サファイアパルスレーザーの第二高調波を用いた。パルスレーザー光は、中心波長402nm(半値全幅4 nm)、パルス幅は80fsで、繰り返し周波数は1kHzであり、平均パワーは0.03から0.16mWの範囲で変化させ繰り返し測定した。得られた試料位置に対する透過率の曲線、入射平均パワー、入射波長、入射パルス幅、試料濃度、試料厚み等から文献Iに記載の方法により二光子吸収断面積を算出した。
【0042】
得られた結果を表1に示す。表1から明らかなように、合成例1〜3で調整されたベンゼン誘導体は、いずれも大きな二光子断面積を示していた。特に、中心のベンゼン環の両対角方向に配された置換基の数が増加する程、即ち、ヘキサキス(フェニルエチニル)ベンゼン、テトラキス(フェニルエチニル)ベンゼン、及びビス(フェニルエチニル)ベンゼンの順で、より大きな二光子吸収断面積を示し、二光子吸収材料としてより好ましい特性を示すことが確認された。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるベンゼン誘導体からなる、二光子吸収材料;
【化1】

(1)
[一般式(1)中、R〜R6の内、2個以上は下記一般式(2)で表される置換基であり且つ残りは水素原子であって、RとR4、R2とR5、R3とR6のそれぞれの組の少なくとも一組は下記一般式(2)で表される置換基である。]
【化2】

(2)
[一般式(1)中、R7〜R11は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は、炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。]
【請求項2】
一般式(1)中、RとR4、R2とR5、R3とR6のそれぞれの組の少なくとも二組が一般式(2)で表される置換基である、請求項1に記載の二光子吸収材料。
【請求項3】
一般式(2)中、R7〜R11の内、2つ以上の基が水素原子である、請求項1又は2に記載の二光子吸収材料。
【請求項4】
一般式(1)で示されるベンゼン誘導体が、下記一般式(3)〜(5)で示されるベンゼン誘導体の中の少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の二光子吸収材料。
【化3】

(3)
【化4】

(4)
【化5】

(5)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の二光子吸収材料を含む、光造型用光硬化樹脂の硬化材料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の二光子吸収材料を含む、光制限材料。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の二光子吸収材料を含む、三次元光メモリ材料。
【請求項8】
波長390〜420nmのパルスレーザー光を発生するレーザー発生装置、レーザー集光装置と、光硬化性モノマー収容装置と、光硬化性モノマー中の所定の集光位置をレーザービームで走査するための機構とを備えた二光子吸収光造型装置であって、請求項5に記載の硬化材料が光硬化性モノマー中に含まれていることを特徴とする光造型装置。
【請求項9】
波長390〜420nmのパルスレーザー光を発生するレーザー発生装置と、レーザー集光装置と、請求項7に記載の三次元光メモリ材料と、該メモリ材料の所定の集光位置をレーザービームで走査するための機構と、光学的読出し装置と、該光メモリ材料中の屈折率変化、局所的破壊又は局所的な蛍光強度の減少を検出する装置とを備えた三次元メモリ装置。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の二光子吸収材料に、波長390〜420nmの光を照射することにより二光子吸収による励起を生じさせる、二光子吸収励起方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−105088(P2013−105088A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249869(P2011−249869)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】