説明

二光子吸収薄膜とその製造方法

【課題】二光子吸収特性を大きく増感でき、安定性良く、再現性良く、容易にその機能を発現できる二光子吸収薄膜とその製造方法を提供すること。
【解決手段】基板上に、有機高分子イオン(a)と金属ナノ粒子とを有する薄膜(I)、及び、有機高分子イオン(b)を有する薄膜(II)が交互に積層されてなる第1の交互積層薄膜、並びに、有機高分子イオン(b)と二光子吸収材料とを有する薄膜(III)、及び、有機高分子イオン(a)を有する薄膜(IV)が交互に積層されてなる第2の交互積層薄膜を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二光子吸収材料に関し、特に三次元メモリ材料、光制限材料、光造形用光硬化樹脂の硬化材料、光化学療法用材料などの用途において有用な高い二光子吸収断面積を有する二光子吸収薄膜とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二光子吸収現象を利用すると、極めて高い空間分解能を特徴とする種々の応用が可能となる。二光子吸収現象とは、三次の非線形光学効果の一種で、分子が二つのフォトンを同時に吸収して、基底状態から励起状態へ遷移する現象であり、古くから知られていたがJean−LucBredas等が1998年に分子構造とメカニズムの関係を解明(例えば、非特許文献1参照。)して以来、近年になって二光子吸収能を有する材料に関する研究が進むようになった。しかしながらこのような二光子同時吸収の遷移効率は、一光子吸収に較べて極めて低く、極めて大きなパワー密度の光子を必要とする。このため、通常に使用されるレーザ光強度では殆ど無視され、ピーク光強度(最大発光波長における光強度)が高いモード同期レーザのようなフェムト秒程度の極超短パルスレーザーを用いると、二光子吸収現象が観察されることが確認されている。
【0003】
二光子吸収の遷移効率は、印加する光電場の二乗に比例する(二光子吸収の二乗特性)。このため、レーザを照射した場合、レーザースポット中心部の電界強度の高い位置でのみ二光子の吸収が起こり、周辺部の電界強度の弱い部分では二光子の吸収は全く起こらない。三次元空間においては、レーザ光をレンズで集光した焦点の電界強度の大きな領域でのみ二光子吸収が起こり、焦点から外れた領域では電界強度が弱いために二光子吸収が全く起こらない。印加された光電場の強度に比例してすべての位置で励起が起こる一光子の線形吸収に比べて、二光子吸収は、前記二乗特性に由来して空間内部のピンポイントのみでしか励起が起こらないため、空間分解能が著しく向上する。
【0004】
上記特性を利用して、記録媒体の所定の位置に二光子吸収によりスペクトル変化、屈折率変化または偏光変化を生じさせ、ビットデータを記録する三次元メモリの研究が進められている。二光子吸収は、光の強度の二乗に比例して生じるため、二光子吸収を利用したメモリは、一光子吸収を利用したメモリに比べて、スポットサイズを小さくすることができ、超解像記録が可能となる。その他、前記二乗特性に由来する高い空間分解能の特性から、光制限材料、光造形用光硬化樹脂の硬化材料、二光子蛍光顕微鏡用蛍光色素材料などの用途への開発も進められている。
【0005】
さらに、二光子吸収を誘起する場合には、化合物の線形吸収帯が存在する波長領域よりも長波長でかつ吸収の存在しない、近赤外領域の短パルスレーザーを用いることが可能である。化合物の線形吸収帯が存在しない、いわゆる透明領域の近赤外光を用いるため、励起光が吸収や散乱を受けずに試料内部まで到達でき、かつ二光子吸収の二乗特性のために試料内部のピンポイントを高い空間分解能で励起できることから、二光子吸収及び二光子発光は生体組織の二光子造影や二光子フォトダイナミックセラピー(PDT)などの光化学療法応用面でも期待されている。また、二光子吸収、二光子発光を用いると、入射した光子のエネルギーよりも高いエネルギーの光子を取り出せるため、波長変換デバイスという観点からアップコンバージョンレージングに関する研究も報告されている。
【0006】
二光子吸収材料としてはこれまでに多数の無機材料が見出されてきた。ところが無機物においては、所望の二光子吸収特性や、素子製造のために必要な諸物性を最適化するための分子設計が困難であることから実用するのは非常に困難であった。一方、有機化合物は分子設計により所望の二光子吸収の最適化が可能であるのみならず、その他の諸物性のコントロールも可能であるため、実用の可能性が高く、有望な二光子吸収材料として注目を集めている。
【0007】
従来の有機系二光子吸収材料としては、ローダミン、クマリンなどの色素化合物、ジチエノチオフェン誘導体、オリゴフェニレンビニレン誘導体などの化合物が知られている。
しかしながら、これらは分子あたりの二光子吸収能を示す二光子吸収断面積が小さく、特にフェムト秒パルスレーザーを用いた場合の二光子吸収断面積は、200(GM:×10-50cm4・s・molecule-1・photon-1)未満のものが殆どで工業的な実用化には至っていない。すなわち、現時点で利用可能な二光子吸収化合物では二光子吸収能が低いため、二光子吸収を誘起する励起光源としては高価で非常に高出力のレーザが必要である。従って、小型で安価なレーザを使って二光子吸収を利用した実用用途を実現するためには、高効率の二光子吸収材料の開発が必須である。
【0008】
近年、有機系二光子吸収材料が精力的に研究、開発され、大きな二光子吸収断面積を有する材料が見出されてきている(例えば、特許文献1〜10参照。)が、二光子吸収現象は、その原理から二光子吸収材料単独ではその吸収能には限界があり、この現象を利用した応用開発を実用化するためには何らかの増感技術の開発も必要となっている。しかしながら、工業的に有効に利用できるような、安定性よく、再現性よく、容易にその機能を発現できるような増感材料システムは未だ開発されていない。
【0009】
例えば本発明者らは、二光子吸収材料をその二光子吸収波長域にプラズモン吸収を有する金属ナノ粒子の増強場内に存在させると、その二光子吸収能が増感できることを提案した(特許文献11参照)。
しかしながら、二光子吸収材料と金属微粒子とを直接混合すると、二光子吸収で励起された二光子吸収材料の励起エネルギーは、金属ナノ粒子により逆に消光される。すなわち、プラズモン増強場としては二光子吸収材料と金属ナノ粒子がより近接する方が望ましいが、近接しすぎると二光子吸収材料の励起電子が金属ナノ粒子に通電(電子移動)して失活するためである。最適なプラズモン増強場に安定的に再現よく配置する実装技術が困難なために実用化までには至っていない。
【0010】
この増感現象を工業的に有効に利用するためには、安定性よく、再現性よく、容易に製造できることが求められる。そのためには、二光子吸収材料と金属ナノ粒子を絶縁状態で両者間の距離を制御して配置する技術が必要となる。
【0011】
上記課題を解決するため、金属ナノ粒子を絶縁被覆する技術が提案されている(特許文献12参照)。すなわち、特許文献12に記載の技術は、金属ナノ粒子表面にシランカップリング剤やアルコレート等を用いて絶縁被膜を形成するものである。しかし、金属ナノ粒子表面に均一かつ緻密に再現性良く絶縁被膜を形成することは非常に困難を伴う状況であり、実用化レベルに達していない。
【0012】
また、プラズモン増強場を有する金属ナノ粒子を含有する金属ナノ粒子層と、二光子吸収材料を含有する二光子吸収材料層とを積層構造とする手法が提案されている(特許文献13参照)。二光子吸収材料と金属ナノ粒子の距離は、プラズモン場の伝搬距離から考えて数十ナノメートル以下に制御することが好ましい。しかしながら、二光子吸収材料層と金属ナノ粒子層を数十ナノメートル以下に制御して、均一、かつ再現よく成膜できる技術は現状ではなく、実際には厚膜構造の積層となり、プラズモン増強場による増感現象も、両層の界面近傍でのみ得られるため、効率の良い増感材料システムは得られていない。
【0013】
さらには、プラズモン増強場を有する金属ナノ粒子に、連結基を介して二光子吸収化合物を結合する技術が提案されている(特許文献14参照)。
しかしながら、特許文献14に記載の方法でも、二光子吸収化合物の化学構造によっては連結基の導入が困難であったり、連結基を導入できても二光子吸収能が損なわれたりして、材料合成上、材料設計上の問題が多く、さらに金属ナノ粒子に連結基を介して二光子吸収化合物を結合(金属ナノ粒子上へ修飾)するため、金属ナノ粒子の分散安定性を確保するための材料設計、合成コスト等の課題も多く、実用化レベルに達していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の第1の目的は、二光子吸収特性を大きく増感できる二光子吸収薄膜とその製造方法を提供するものであり、具体的には、安定性良く、再現性良く、容易にその機能を発現できるような増感材料システムにより、スペクトル、屈折率または偏光状態の変化等を高感度に実現することができる、効率よく二光子を吸収する薄膜(すなわち、二光子吸収断面積の大きな薄膜)を提供することを目的とする。
また、本発明の第2の目的は、二光子吸収色素と金属ナノ粒子を含有する交互積層膜からなる二光子吸収薄膜の課題である、励起エネルギーの消光の課題、及び金属ナノ粒子による散乱の光がにじみ、ぼけの課題を解決し、安定性良く、再現性良く、容易にその機能を発現できるような増感材料システムを提供することを目的とする。
さらに、本発明の第3の目的は、上記目的を解決し得る二光子吸収薄膜を、簡便かつ容易に製造することができる二光子吸収薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討した結果、有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子を含有する薄膜(I)と有機高分子イオン(b)を含有する薄膜(II)との(第1の)交互積層薄膜、及び、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する薄膜(III)と有機高分子イオン(a)を含有する薄膜(IV)との(第2の)交互積層薄膜から成る特定の構成とすることにより、励起エネルギーの消光及び金属ナノ粒子による散乱の影響がなく、二光子吸収特性が大きく物理増感できることを見出し、以下の(1)〜(9)に記載する発明によって上記課題を解決するに至った。以下、本発明について具体的に説明する。
【0016】
(1):基板上に、有機高分子イオン(a)と金属ナノ粒子とを有する薄膜(I)、及び、有機高分子イオン(b)を有する薄膜(II)が交互に積層されてなる第1の交互積層薄膜、並びに、有機高分子イオン(b)と二光子吸収材料とを有する薄膜(III)、及び、有機高分子イオン(a)を有する薄膜(IV)が交互に積層されてなる第2の交互積層薄膜を備えた二光子吸収薄膜の製造方法であって、
(製法1):前記基板の表面の荷電された極性に対して、前記有機高分子イオン(b)の荷電は同極性、前記有機高分子イオン(a)の荷電は逆極性であり、
前記基板を、前記有機高分子イオン(a)及び前記金属ナノ粒子を含有する水性塗布液(Lam)に浸漬、乾燥して薄膜(I)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(b)を含有する水性塗布液(Lb)に浸漬、乾燥して薄膜(II)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第1の交互積層薄膜を形成し、
有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する水性塗布液(Lbt)に浸漬、乾燥して薄膜(III)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(a)を含有する水性塗布液(La)に浸漬、乾燥して薄膜(IV)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第2の交互積層薄膜を形成し、
若しくは、
(製法2):前記基板の表面の荷電された極性に対して、前記有機高分子イオン(a)の荷電は同極性、前記有機高分子イオン(b)の荷電は逆極性であり、
前記基板を、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する水性塗布液(Lbt)に浸漬、乾燥して薄膜(III)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(a)を含有する水性塗布液(La)に浸漬、乾燥して薄膜(IV)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第2の交互積層薄膜を形成し、
前記有機高分子イオン(a)及び前記金属ナノ粒子を含有する水性塗布液(Lam)に浸漬、乾燥して薄膜(I)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(b)を含有する水性塗布液(Lb)に浸漬、乾燥して薄膜(II)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第1の交互積層薄膜を形成し、
前記(製法1)若しくは(製法2)により各薄膜(I)乃至(IV)を形成する際に、当該形成される薄膜の電荷が、直前の工程によって形成された薄膜の電荷と逆極性であることを特徴とする二光子吸収薄膜の製造方法である。
【0017】
(2):前記有機高分子イオン(a)を単独で含有する水性塗布液(Lc)に浸漬、乾燥して薄膜(VI)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(b)を単独で含有する水性塗布液(Ld)に浸漬、乾燥して薄膜(V)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して積層膜を形成し、
前記薄膜(V)及び(IV)のいずれを形成する際にも、前記第1の交互積層薄膜を形成する工程と第2の交互積層薄膜を形成する工程との間であり、且つ、当該形成される薄膜の電荷が、直前の工程によって形成された薄膜の電荷と逆極性であることを特徴とする上記(1)に記載の二光子吸収薄膜の製造方法である。
【0018】
(3):基板上に、有機高分子イオン(a)と金属ナノ粒子とを有する薄膜(I)、及び、有機高分子イオン(b)を有する薄膜(II)が交互に積層されてなる第1の交互積層薄膜、並びに、有機高分子イオン(b)と二光子吸収材料とを有する薄膜(III)、及び、有機高分子イオン(a)を有する薄膜(IV)が交互に積層されてなる第2の交互積層薄膜を備えることを特徴とする二光子吸収薄膜である。
【0019】
(4):前記第1の交互積層薄膜と、前記第2の交互積層薄膜と、の間に、前記有機高分子イオン(a)から成る薄膜(VI)と前記有機高分子イオン(b)から成る薄膜(V)とを交互に積層した積層膜が介在してなることを特徴とする上記(3)に記載の二光子吸収薄膜である。
【0020】
(5):前記二光子吸収材料がイオン構造を有し、該二光子吸収材料の二光子吸収能を有する部位イオンと前記有機高分子イオン(b)とが同極性の荷電を有することを特徴とする上記(3)または(4)に記載の二光子吸収薄膜である。
【0021】
(6):前記有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子は、同極性の荷電を有することを特徴とする上記(3)乃至(5)のいずれか1項に記載の二光子吸収薄膜である。
【0022】
(7):前記金属ナノ粒子は、前記二光子吸収材料の二光子励起波長域にプラズモン吸収能を有することを特徴とする上記(3)乃至(6)のいずれか1項に記載の二光子吸収薄膜である。
【0023】
(8):前記金属ナノ粒子は、金ナノロッドであることを特徴とする上記(3)乃至(7)のいずれか1項に記載の二光子吸収薄膜である。
【0024】
(9):光が入射する面が、前記第2の交互積層薄膜であることを特徴とする上記(3)乃至(8)のいずれか1項に記載の二光子吸収薄膜である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、二光子吸収特性を大きく増感でき、安定性良く、再現性良く、容易にその機能を発現できる二光子吸収薄膜とその製造方法を提供することができる。
また本発明によれば、二光子吸収特性を大きく増感でき、安定性良く、再現性良く、容易にその機能を発現できる二光子吸収薄膜を、簡便かつ容易に製造することができる二光子吸収薄膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る二光子吸収薄膜の構成例を示す断面図である。
【図2】図1の構成に有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜(VI)と有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜(V)との積層膜を介在させた二光子吸収薄膜の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の二光子吸収薄膜を作製する操作手順を模式的に示す説明図である。
【図4】(a)実施例1の水分散液[水性塗布液(La1)]の吸収スペクトルと、(b)混合溶液[水性塗布液(Lb1)]の吸収スペクトルとを示す図である。
【図5】実施例1で得られた二光子吸収薄膜の吸収スペクトルを示す図である。
【図6】実施例1で得た二光子吸収薄膜の励起光強度(測定光パワー)と2光子蛍光強度との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
先ず、本発明を説明するにあたり、上述した従来技術について本発明者らがさらに検討を重ねた内容について以下に詳述する。
本発明者らは、上述した従来技術における問題を克服すべく新規な増感材料システムとして、二光子吸収色素と金属ナノ粒子を含有する交互積層膜からなる二光子吸収薄膜及びその製造法を提案した。
1)二光子吸収材料と有機高分子イオン(a)から成る薄膜と2)金属ナノ粒子と有機高分子イオン(b)から成る薄膜を交互に吸着積層された構成(薄膜構成)とすることで、二光子吸収材料と金属ナノ粒子との間の距離を任意に制御し、二光子吸収材料をその二光子吸収波長域にプラズモン吸収を有する金属ナノ粒子の増強場を感受できる位置に内安定的に再現よく配置し、良好な増感効果を引き出すことが可能となった。
しかしながら本構成では、1)の二光子吸収材料と有機高分子イオン(a)の組成、もしくは2)の金属ナノ粒子と有機高分子イオン(b)の組成によっては、積層膜の界面近傍にある二光子吸収材料と金属ナノ粒子が、直接接触し、二光子吸収材料の二光子励起エネルギーが金属ナノ粒子により消光(失活)し、増感効率が損なわれる場合があった。
そこで、1)二光子吸収材料と有機高分子イオン(a)から成る薄膜と2)金属ナノ粒子と有機高分子イオン(b)から成る薄膜の間に、1)の有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜と、2)の有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜との交互積層膜を介在させた二光子吸収薄膜をも提案した。
しかしながら、前者の提案では励起エネルギーの消光の課題があり、後者の提案では層構成が煩雑で製造上の課題があり、さらに両者共に、二光子吸収色素と金属ナノ粒子が薄膜層全体に分散しているため、入射光が層内を通過していくにつれて金属ナノ粒子により散乱され、光がにじみ、ぼけるという問題が生じる。これは、この薄膜を光学デバイスとして使用する上での大きな課題となる。
かかる課題を見出した本発明者らは、これを解決すべくさらに鋭意検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0028】
しかして本発明に係る二光子吸収薄膜は、基板上に、有機高分子イオン(a)と金属ナノ粒子とを有する薄膜(I)、及び、有機高分子イオン(b)を有する薄膜(II)が交互に積層されてなる第1の交互積層薄膜、並びに、有機高分子イオン(b)と二光子吸収材料とを有する薄膜(III)、及び、有機高分子イオン(a)を有する薄膜(IV)が交互に積層されてなる第2の交互積層薄膜を備えることを特徴とする。
また、本発明に係る二光子吸収薄膜の製造方法は、基板上に、有機高分子イオン(a)と金属ナノ粒子とを有する薄膜(I)、及び、有機高分子イオン(b)を有する薄膜(II)が交互に積層されてなる第1の交互積層薄膜、並びに、有機高分子イオン(b)と二光子吸収材料とを有する薄膜(III)、及び、有機高分子イオン(a)を有する薄膜(IV)が交互に積層されてなる第2の交互積層薄膜を備えた二光子吸収薄膜の製造方法であって、(製法1):前記基板の表面の荷電された極性に対して、前記有機高分子イオン(b)の荷電は同極性、前記有機高分子イオン(a)の荷電は逆極性であり、前記基板を、前記有機高分子イオン(a)及び前記金属ナノ粒子を含有する水性塗布液(Lam)に浸漬、乾燥して薄膜(I)を形成する工程と、前記有機高分子イオン(b)を含有する水性塗布液(Lb)に浸漬、乾燥して薄膜(II)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第1の交互積層薄膜を形成し、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する水性塗布液(Lbt)に浸漬、乾燥して薄膜(III)を形成する工程と、前記有機高分子イオン(a)を含有する水性塗布液(La)に浸漬、乾燥して薄膜(IV)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第2の交互積層薄膜を形成し、若しくは、(製法2):前記基板の表面の荷電された極性に対して、前記有機高分子イオン(a)の荷電は同極性、前記有機高分子イオン(b)の荷電は逆極性であり、前記基板を、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する水性塗布液(Lbt)に浸漬、乾燥して薄膜(III)を形成する工程と、前記有機高分子イオン(a)を含有する水性塗布液(La)に浸漬、乾燥して薄膜(IV)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第2の交互積層薄膜を形成し、前記有機高分子イオン(a)及び前記金属ナノ粒子を含有する水性塗布液(Lam)に浸漬、乾燥して薄膜(I)を形成する工程と、前記有機高分子イオン(b)を含有する水性塗布液(Lb)に浸漬、乾燥して薄膜(II)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第1の交互積層薄膜を形成し、前記(製法1)若しくは(製法2)により各薄膜(I)乃至(IV)を形成する際に、当該形成される薄膜の電荷が、直前の工程によって形成された薄膜の電荷と逆極性であることを特徴とする。
【0029】
本発明の二光子吸収薄膜とは、非共鳴領域の波長において分子を励起することが可能な薄膜材料で、この励起に用いた光子の2倍のエネルギー準位に実励起状態が存在する薄膜材料のことである。
本発明において、金属ナノ粒子と共に用いられる荷電を有する有機高分子イオンを「有機高分子イオン(a)」とし、二光子吸収材料と共に用いられる荷電を有する有機高分子イオンを「有機高分子イオン(b)」とする。有機高分子イオン(a)の有する荷電と有機高分子イオン(b)の有する荷電は逆極性であり、夫々アニオン性もしくはカチオン性を有する有機高分子の中から適宜選択される。
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の二光子吸収薄膜を説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0031】
本発明に係る二光子吸収薄膜の構成例を図1及び図2に示す。
図1は本発明に係る二光子吸収薄膜の構成例(基本的な構成)を示す断面図である。図1の構成は、基板上に、有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子とから成る薄膜(I)と有機高分子イオン(b)から成る薄膜(II)との第1の交互積層薄膜(以下において単に交互積層薄膜とも称する。)と、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)と有機高分子イオン(a)から成る薄膜(IV)との第2の交互積層薄膜(以下において単に交互積層薄膜とも称する。)をこの順に構成する場合を示している。もちろん、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料とから成る薄膜(III)と有機高分子イオン(a)から成る薄膜(IV)の交互積層薄膜(第2の交互積層薄膜)と、有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子から成る薄膜(I)と有機高分子イオン(b)から成る薄膜(II)との交互積層薄膜(第1の交互積層薄膜)の順に構成しても構わない。
【0032】
図1においては、二光子吸収薄膜は、基板[10]上に、有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子とから成る薄膜(I)[11]と有機高分子イオン(b)から成る薄膜(II)[12]とが交互に積層された交互積層薄膜と、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)[13]と有機高分子イオン(a)から成る薄膜(IV)[14]とが交互に積層された交互積層薄膜から構成されている。つまり、交互積層薄膜は、荷電された基板[10]上に、静電力を利用して薄膜(I)[11]と薄膜(II)[12]及び薄膜(III)[13]と薄膜(IV)[14]が順次積層形成されることから、交互吸着膜ということもできる。
【0033】
図1に示す二光子吸収薄膜の構成は、例えば、カチオンに荷電された基板[10]上に、アニオンに荷電された有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子から成る薄膜(I)[11]とカチオンに荷電された有機高分子イオン(b)から成る薄膜(II)[12]とを交互に積層し、次に、カチオンに荷電された有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)[13]と、アニオンに荷電された有機高分子イオン(a)から成る薄膜(IV)[14]とを交互に積層することで形成することができる。
【0034】
なお、上記金属ナノ粒子は、有機高分子イオン(a)と同一極性の荷電を有することが好ましい。また、二光子吸収材料の二光子吸収能を有する部位イオンとして、有機高分子イオン(b)と同一極性の荷電を有することが好ましい。
【0035】
交互吸着膜は、その作成原理上、ナノメートルオーダーの膜厚制御が可能であり、本発明はこの特性を利用している。例えば、各構成薄膜(薄膜(I)〜(IV))の膜厚としては、0.2〜5.0nm程度の膜厚に制御可能である。二光子吸収薄膜の膜厚に関しては、各構成薄膜の積層数により制御される。つまり、前記のように構成された交互積層膜では、二光子吸収材料と金属ナノ粒子との間の距離を任意に制御することが可能であり、二光子吸収材料を、その二光子吸収波長域にプラズモン吸収を有する金属ナノ粒子の増強場を感受できる位置(領域)内に、安定的に再現よく配置することができて最適な増感効果を引き出すことが可能となる。
【0036】
但し、図1に示す構成例の二光子吸収薄膜の場合、薄膜(I)を構成する組成、薄膜(III)を構成する組成の如何によっては、有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子とから成る薄膜(I)と有機高分子イオン(b)とから成る薄膜(II)との交互積層薄膜と、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収剤から成る薄膜(III)と有機高分子イオン(a)とから成る薄膜(IV)との交互積層薄膜との接合界面近傍にある二光子吸収材料と金属ナノ粒子が直接接触し、二光子吸収材料の二光子励起エネルギーが金属ナノ粒子によって消光(失活)する可能性があり、これにより増感効率が損なわれる場合が想定される。
【0037】
上記二光子吸収材料と金属ナノ粒子が直接接触する可能性がある場合には、前記薄膜(I)と薄膜(II)からなる交互積層薄膜と、前記薄膜(III)と薄膜(IV)からなる交互積層薄膜との間に、前記有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜(V)と前記有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜(VI)とを交互に積層した積層膜を介在させることが好ましい。
【0038】
図2は、図1の構成に有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜(V)と有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜(VI)との積層膜を介在させた構成を示す断面図である。
図2において、基板上[10]に、有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子とから成る薄膜(I)[11]と有機高分子イオン(b)から成る薄膜(II)[12]とが交互に積層された交互積層薄膜、有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜(V)[15]、有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜(VI)[16]、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)[13]と有機高分子イオン(a)から成る薄膜(IV)[14]とが交互に積層された交互積層薄膜の順に各薄膜が形成される。
【0039】
図2に示す二光子吸収薄膜の構成は、例えば、図1で説明したアニオンに荷電された有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子から成る薄膜(I)[11]とカチオンに荷電された有機高分子イオン(b)から成る薄膜(II)[12]とを交互に積層し、アニオンに荷電された有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子から成る薄膜(I)[11]の上に、カチオンに荷電された有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜(V)[15]、アニオンに荷電された有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜(VI)[16]を順次積層形成した後、カチオンに荷電された有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)[13]と、アニオンに荷電された有機高分子イオン(a)から成る薄膜(IV)[14]とを交互に積層することで形成することができる。
【0040】
有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子とから成る薄膜(I)[11]と有機高分子イオン(b)から成る薄膜(II)[12]とが交互に積層された交互積層薄膜と、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)[13]と有機高分子イオン(a)から成る薄膜(IV)[14]とが交互に積層された交互積層薄膜との間に、有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜(V)と有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜(VI)とを交互に積層した積層膜を介在させた図2の構成とすることで、図1に示すような有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子とから成る薄膜(I)[11]と有機高分子イオン(b)から成る薄膜(II)[12]とが交互に積層された交互積層薄膜と、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)[13]と有機高分子イオン(a)から成る薄膜(IV)[14]とが交互に積層された交互積層薄膜との接合界面近傍にある二光子吸収材料と金属ナノ粒子とが直接接触することを防止でき、これによって増感効率が向上する。
【0041】
なお、図2に示す構成は、薄膜(V)と薄膜(VI)との積層膜(交互吸着膜)が単数(単層)で、有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子とから成る薄膜(I)[11]と有機高分子イオン(b)から成る薄膜(II)[12]とが交互に積層された交互積層薄膜と、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)[13]と有機高分子イオン(a)から成る薄膜(IV)[14]とが交互に積層された交互積層薄膜との間に介在する例を示しているが、積層膜(交互吸着膜)を複数(多層)に形成した構成で介在してもよい。
【0042】
本発明においては、交互積層薄膜から成る特定構成による物理増感技術により、金属ナノ粒子のプラズモン増強場で二光子吸収化合物の二光子吸収能を増感することを原理とすることから、前記薄膜(II)を構成する二光子吸収材料としては、これまでに開発された既存の材料及び今後開発される新規な材料の全てが使用可能である。
【0043】
前記有機高分子イオン(a)及び有機高分子イオン(b)は基本的には水溶性のため、溶剤は水単独、もしくは、水及び水と均一に混合する有機溶媒の混合系が用いられる。
そのため、前記有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する水性塗布液(Lb)とするためには、二光子吸収材料も同様の溶剤(水単独、もしくは、水及び水と均一に混合する有機溶媒の混合系)に溶解する必要がある。このような水系溶剤に溶解性を必要とすることから、二光子吸収材料は、イオン性を有する構造(イオン構造)を持つことが好ましい。すなわち、光子吸収能を有する部位イオンとカウンターイオンからなる構造を有するものが好ましい。前述のように、二光子吸収能を有する部位イオンの極性は、混合溶液とする有機高分子イオン(b)と同一の荷電を有することが好ましい。二光子吸収能を有する部位イオンの極性が有機高分子イオン(b)と異なる荷電を有する場合は、二光子吸収材料の化学構造によっては溶液内で対イオン化してゲル化する場合があり、交互吸着膜として積層化出来なくなるため好ましくない。
【0044】
前述のように交互積層薄膜(交互吸着膜)は、荷電を有するか、あるいは荷電を固定化した基板(荷電された基板)を、該基板とは反対荷電を有する(逆極性の荷電を有する)有機高分子イオンの溶液に浸漬して、固体基板上の荷電の中和及び過剰荷電の飽和による表面荷電の逆転を行い、さらに、それとは逆の荷電を有する有機高分子イオンの溶液に浸漬し、表面荷電の中和及び過剰荷電の飽和による表面荷電の逆転(転換)を行う過程を交互に所要回数繰り返し、固体基板上に分子レベルで構造制御された交互積層薄膜を得る。
【0045】
具体的には、前述のように、(製法1):表面が荷電された前記基板を、該基板と逆極性の荷電を有する有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子を含有する水性塗布液(Lam)に浸漬、乾燥して薄膜(I)とする工程と、前記基板と同極性の荷電を有する有機高分子イオン(b)を含有する水性塗布液(Lb)に浸漬、乾燥して薄膜(II)とする工程、及び前記基板と同極性の荷電を有する有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する水性塗布液(Lbt)に浸漬、乾燥して薄膜(III)とする工程と、前記基板と逆極性の荷電を有する有機高分子イオン(a)を含有する水性塗布液(La)に浸漬、乾燥して薄膜(IV)とする工程と、を備える、もしくは、(製法2):該基板と逆極性の荷電を有する有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する水性塗布液(Lbt)に浸漬、乾燥して薄膜(III)とする工程と、前記基板と同極性の荷電を有する有機高分子イオン(a)を含有する水性塗布液(La)に浸漬、乾燥して薄膜(IV)とする工程、及び前記基板と同極性の荷電を有する有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子を含有する水性塗布液(Lam)に浸漬、乾燥して薄膜(I)とする工程と、前記基板と逆極性の荷電を有する有機高分子イオン(b)を含有する水性塗布液(Lb)に浸漬、乾燥して薄膜(II)とする工程と、を備える、2パターンの製法により形成することができる。
換言すると、各薄膜の電荷が前工程で形成される薄膜と逆極性となるようにすることにより形成することができる。
【0046】
そのため、有機高分子イオン(b)と二光子吸収能を有する部位イオンの極性が異なると、薄膜化した際に、膜内で電気的に中和されて過剰荷電の飽和による逆転表面荷電量が減少し、逆極性への転換が十分に行われず、交互吸着膜の安定した積層化が阻害される。
また、二光子吸収材料が非イオン構造の場合は、上記溶液への浸漬を交互に繰り返す間に、二光子吸収材料が隣接する層間にも拡散し、金属ナノ粒子層に拡散した二光子吸収材料は、金属ナノ粒子の消光効果により増感効率が低下する。
【0047】
本発明における前記薄膜(I)を構成する金属ナノ粒子としては、二光子吸収材料の二光子励起波長域にプラズモン吸収を有するものであれば全てが使用可能である。
【0048】
金属ナノ粒子は、通常保護剤で安定化され帯電して分散しているが、混合液[前記水性塗布液(Lam)]中の有機高分子イオン(a)と同一の荷電を有することが好ましい。金属ナノ粒子が、有機高分子イオン(a)と異なる荷電を有する場合は、前述した二光子吸収材料の場合と同様の現象を示す。
【0049】
また、金属ナノ粒子のプラズモン吸収帯が、二光子吸収材料の二光子励起波長域と異なる場合は、プラズモン増強場による増感効果はほとんど得られなくなる。通常の二光子吸収材料は、近赤外域に二光子励起波長を持っている。そのため、近赤外域に大きなプラズモン吸収帯を示す金属ナノ粒子が好ましく、特に、安定して合成ができて、任意の二光子吸収材料の二光子励起波長域にプラズモン吸収帯の波長制御が可能な金ナノロッドが最も好適な金属ナノ粒子である。
【0050】
二光子吸収薄膜の層構成としては、光を入射する面の薄膜が、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料とから成る薄膜(III)[13]と有機高分子イオン(a)とから成る薄膜(IV)[14]とが交互に積層された交互積層薄膜と成るように層構成されていることが好ましい。この様な構成とすることで金属ナノ粒子による光の散乱の影響を防ぐことができる。
【0051】
本発明で使用する前記有機高分子イオン(a)及び有機高分子イオン(b)は、いずれも荷電を有する官能基を主鎖または側鎖に持つ高分子のことを指し、荷電としてアニオン性やカチオン性を示すものである。
【0052】
アニオン性を示すポリアニオンとしては、一般的に、スルホン酸、硫酸、カルボン酸など負荷電を帯びることのできる官能基を有する有機高分子が挙げられ、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸などが用いられる。
【0053】
また、カチオン性を示すポリカチオンとしては、一般に、4級アンモニウム基、アミノ基などの正荷電を帯びることのできる官能基を有する有機高分子が挙げられ、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジンなどを用いることができる。
【0054】
これらの有機高分子イオンは、いずれも水溶性あるいは水と有機溶媒との混合液に可溶なものである。
【0055】
また、導電性高分子、ポリ(アニリン−N−プロパンスルホン酸)(PAN)などの機能性高分子イオン、種々のデオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)、ペクチンなどの荷電を有する多糖類などの荷電を持つ生体高分子を用いることもできる。チトクローム、リゾチーム、ヒストンf3、ミオグロビン、ヘモグロビン、グルコースオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、アルコール脱水素酵素等のタンパク質も水溶性であれば一般的に表面に荷電を有するので、種類を問わず用いることができる。
【0056】
前記基板としては、例えば、表面アニオン性を示すガラスや石英、表面荷電を持つポリマーフィルムなどのように表面に荷電のあるものや、表面にメルカプト基を有する化合物などの吸着により荷電を導入することができる金属(金、銀等)、あるいは、表面に親水化処理剤を塗布したものや、空気等のガス中でプラズマ処理したもの等、荷電を導入することができるものであればどのような基材でも用いることができる。
【0057】
本発明の二光子吸収薄膜の製造方法を以下に、図を参照してその操作手順を説明する。図3は本発明の二光子吸収薄膜を作製する操作手順を模式的に示す説明図である。
【0058】
図3に示すように表面に荷電を有するか、あるいは荷電を固定化した基板(31)を、2種類の上記有機高分子イオン(a,b)溶液に交互に、浸漬、水による洗浄、乾燥の過程を繰り返すことにより、静電的相互作用(静電力)によって、金属ナノ粒子または二光子吸収材料を薄膜に含む交互積層薄膜(多層超薄膜)[32]を基板[31]上に形成する。
【0059】
すなわち図3では、基板[31]がアニオンに荷電されており、基板[31]を順次カチオン性高分子(ポリカチオン)を含有する有機高分子イオン溶液と、アニオン性高分子(ポリアニオン)を含有する有機高分子イオン溶液に交互に浸漬、乾燥して交互積層薄膜[32]を形成する例を示す。なお、図3には表示しないが、金属ナノ粒子及び、二光子吸収材料は、その荷電性に応じて夫々いずれかの有機高分子イオン溶液に振り分けて混合される。例えば、二光子吸収材料の光子吸収能を有する部位イオンがアニオン性であれば、前記アニオン性高分子(ポリアニオン)を含有する有機高分子イオン溶液に混合し、カチオン性に荷電された金属ナノ粒子を前記カチオン性高分子(ポリカチオン)を含有する有機高分子イオン溶液に混合するのが好適である。
【0060】
なお、前述のように、金属ナノ粒子と共に用いられる荷電を有する有機高分子イオンを「有機高分子イオン(a)」とし、二光子吸収材料と共に用いられる荷電を有する有機高分子イオンを「有機高分子イオン(b)」と表現する。
【0061】
また、図3に示す基板(31)がカチオンに荷電されている場合には、基板[31]を、アニオン性高分子(ポリアニオン)を含有する有機高分子イオン溶液へ浸漬し、水により洗浄、乾燥する工程を先に行い、次いで、カチオン性高分子(ポリカチオン)を含有する有機高分子イオン溶液へ浸漬し、水により洗浄、乾燥する工程を後に行えばよい。
もちろん、有機高分子イオンは適当な荷電条件を満たすものであれば、一種類に限定されることはなく、異なる有機高分子イオン層を併せ持つ超薄膜を得ることもできる。また、有機高分子イオンの溶液としては同荷電のポリマー及び機能性材料を混合して用いることもできる。
【0062】
本発明の二光子吸収薄膜は図2に示すように、薄膜(I)と薄膜(II)のと交互積層薄膜と、薄膜(III)と薄膜(IV)のと交互積層薄膜との間に、薄膜(V)と薄膜(VI)との積層膜(交互吸着膜)を介在させる構成とすることができるが、このような構成は、前記有機高分子イオン(b)を単独で含有する水性塗布液(Lc)に浸漬、乾燥して薄膜(V)とする工程と、前記有機高分子イオン(a)を単独で含有する水性塗布液(Ld)に浸漬、乾燥して薄膜(VI)とする工程とを、各薄膜の電荷が前工程で形成される薄膜と逆極性となる工程順で導入することにより形成することができる。
【0063】
前記本発明の二光子吸収薄膜の製造方法において得る交互吸着膜は、均一で単層あたりの膜厚は極めて薄く、前述のようにナノメートルオーダーの制御が可能である。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
【0065】
また、金属ナノ粒子として最も好適な金ナノロッドを用いて具体的に説明するが、二光子吸収化合物の二光子励起波長にそのプラズモン吸収脳を有する金属ナノ粒子であればいずれも使用でき、これら実施例によって制限されるものではない。
実施例に用いる金ナノロッドを以下のようにして合成した。
【0066】
[金ナノロッドの合成]
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)水溶液(0.18M):70mlに、シクロヘキサン:0.36ml、アセトン:1.0ml、硝酸銀水溶液(0.1M):1.3mlを加え、マグネットスターラーにより攪拌した。
さらに、塩化金酸溶液(0.24M):2.0mlを加えた後、アスコルビン酸水溶液(0.1M)を塩化金酸溶液の色が消えるまで加えた。その後、超高圧水銀ランプにより光照射しながら、アスコルビン酸水溶液(0.1M)を塩化金酸溶液中に滴下した。20分間照射することにより、吸収の中心波長が805nmの金ナノロッド分散液が得られた。
このようにして得た金ナノロッド分散液を3回遠心分離(7000rpm、30min)し、過剰なCTABを除去し、実施例に用いる金ナノロッド(Au−NR)分散液とした。
【0067】
[実施例1]
厚さ1mmの石英基板を、イオンコーターにより空気でプラズマ処理し、表面が負の荷電を持つ親水処理を行った。この基板にポリカチオンの一種であるPEI(Polyethyleneimine;Mn:60000)の1wt%水溶液に静電的相互作用が平衡に達するまで浸漬し、その後、水により洗浄し、乾燥した。
【0068】
(1−1):上記PEI処理した石英基板を、ポリアニオンの一種であるPSS[Poly(sodium4-styrenesulfonate);Mn:70000]0.5wt%、Au−NR[吸光度2.5(波長:805nm、セル長:1mm)]からなる組成の水分散液[水性塗布液(Lam1)]に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(I1)を形成した。水分散液[水性塗布液(Lam1)]の吸収スペクトルを図4−(a)に示す。
【0069】
(1−2):上記PSS処理した石英基板を、ポリカチオンの一種であるPDDA[Poly(diallyldimethylammoniumchloride);Mn:100000〜200000]0.5wt%、水溶液[水性塗布液(Lb1)]に、同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(II1)を形成した。
【0070】
上記(1−1)と(1−2)の操作を40回繰り返し、さらに上記(1−1)の操作を加え、最表面が金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る(最表面に露出した薄膜(I1)と石英基板とが、積層構造を挟持してなる)、金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(I1)と、PDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(II1)と、が複数交互に積層されてなる交互積層薄膜を得た。
【0071】
(1−3):上記PSS処理した石英基板を、ポリカチオンの一種であるPDDA[Poly(diallyldimethylammoniumchloride);Mn:100000〜200000]0.5wt%、下記構造式(I)で示される二光子吸収化合物0.002Mからなる組成のHO/CHCOCH/Pyridine(=80/15/5vol%)混合溶液[水性塗布液(Lbt1)]に、同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(III1)を形成した。混合溶液[水性塗布液(Lbt1)]の吸収スペクトルを図4−(b)に示す。
【0072】
【化1】

【0073】
(1−4):上記PDDA処理した石英基板を、ポリアニオンの一種であるPSS[Poly(sodium4-styrenesulfonate);Mn:70000]0.5wt%、水溶液[水性塗布液(La1)]に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(IV1)を形成した。
上記(1−3)と(1−4)の操作を40回繰り返し、金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(I1)とPDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(II1)とからなる交互積層薄膜と、二光子吸収材料とPDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(III1)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(IV1)との交互積層薄膜からなる二光子吸収薄膜を得た。得られた二光子吸収薄膜の吸収スペクトルを図5に示す。
【0074】
[実施例2]
実施例1の(1−2)において用いた、二光子吸収化合物(I)の代わりに、下記構造式(II)で示される二光子吸収化合物を用いた他は実施例1と同様の条件にて、交互積層膜からなる二光子吸収薄膜を得た。
【化2】

【0075】
[実施例3]
実施例1と同様にして厚さ1mmの石英基板にPEI処理した。
【0076】
(3−1):上記PEI処理した石英基板を、ポリアニオンの一種であるPSS[Poly(sodium4-styrenesulfonate);Mn:70000]0.5wt%、Au−NR[吸光度2.5(波長:805nm、セル長:1mm)]からなる組成の水分散液[水性塗布液(Lam3)]に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(I3)を形成した。
【0077】
(3−2):上記PSS処理した石英基板を、ポリカチオンの一種であるPDDA[Poly(diallyldimethylammoniumchloride);Mn:100000〜200000]0.5wt%、水溶液[水性塗布液(Lb3)]に、同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(II3)を形成した。
【0078】
上記(3−1)と(3−2)の操作を40回繰り返し、さらに上記(3−1)の操作を加え、最表面が金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る、金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(I3)と、PDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(II3)と、が複数交互に積層されてなる交互積層薄膜を得た。
【0079】
(3−3):上記PSS処理した石英基板を、ポリカチオンの一種であるPDDA[Poly(diallyldimethylammoniumchloride);Mn:100000〜200000]0.5wt%、下記構造式(III)で示される二光子吸収化合物0.002Mからなる水溶液[水性塗布液(Lbt3)]に、同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(III3)を形成した。
【0080】
【化3】

【0081】
(3−4):上記PDDA処理した石英基板を、ポリアニオンの一種であるPSS[Poly(sodium4-styrenesulfonate);Mn:70000]0.5wt%、水溶液[水性塗布液(La3)]に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(IV3)を形成した。
【0082】
上記(3−3)と(3−4)の操作を40回繰り返し、金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(I3)とPDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(II3)とからなる交互積層薄膜と、二光子吸収材料とPDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(III3)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(IV3)との交互積層薄膜からなる二光子吸収薄膜を得た。
【0083】
[実施例4]
実施例1と同様にして厚さ1mmの石英基板にPEI処理した。
【0084】
(4−1):上記PEI処理した石英基板を、ポリアニオンの一種であるPSS[Poly(sodium4-styrenesulfonate);Mn:70000]0.5wt%、Au−NR[吸光度2.5(波長:805nm、セル長:1mm)]からなる組成の水分散液[水性塗布液(Lam4)]に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(I4)を形成した。
【0085】
(4−2):上記PSS処理した石英基板を、ポリカチオンの一種であるPDDA[Poly(diallyldimethylammoniumchloride);Mn:100000〜200000]0.5wt%、水溶液[水性塗布液(Lb4)]に、同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(II4)を形成した。
【0086】
上記(4−1)と(4−2)の操作を40回繰り返し、さらに上記(4−1)の操作を加え、最表面が金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る、金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(I4)と、PDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(II4)と、が複数交互に積層されてなる交互積層薄膜を得た。
【0087】
(4−3):上記PSS処理した石英基板を、PDDA[Poly(diallyldimethylammoniumchloride);Mn:100000〜200000]0.5wt%水溶液[水性塗布液(Ld5)]に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(VI4)を形成した。
【0088】
(4−4):上記PSS処理した石英基板を、PSS[Poly(sodium4-styrenesulfonate);Mn:70000]0.5wt%、水溶液[水性塗布液(Lc5)]に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(V4)を形成した。
【0089】
(4−5):上記PSS処理した石英基板を、ポリカチオンの一種であるPDDA[Poly(diallyldimethylammoniumchloride);Mn:100000〜200000]0.5wt%、下記構造式(I)で示される二光子吸収化合物0.002Mからなる組成のHO/CHCOCH/Pyridine(=80/15/5vol%)混合溶液[水性塗布液(Lbt4)]に、同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(III4)を形成した。
【0090】
【化4】

【0091】
(4−6):上記PDDA処理した石英基板を、ポリアニオンの一種であるPSS[Poly(sodium4-styrenesulfonate);Mn:70000]0.5wt%、水溶液[水性塗布液(La4)]に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(IV4)を形成した。
【0092】
上記(4−5)と(4−6)の操作を40回繰り返し、金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(I4)とPDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(II4)とからなる交互積層薄膜と、二光子吸収材料とPDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(III4)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(IV4)との間に、有機高分子イオン(b)を単独で含有する薄膜(V4)と有機高分子イオン(a)を単独で含有する薄膜(VI4)との積層膜を介在させた二光子吸収薄膜を得た。
【0093】
[実施例5]
実施例4の(4−3)と(4−4)において、この操作を交互に5回繰り返し、金属ナノ粒子(金ナノロッド)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(I5)とPDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(II5)とからなる交互積層薄膜と、二光子吸収材料とPDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(III5)とPSS[有機高分子イオン(a)]から成る薄膜(IV5)との間に、有機高分子イオン(b)を単独で含有する薄膜(V4)と有機高分子イオン(a)を単独で含有する薄膜(VI5)とが交互に複数積層された交互積層膜を介在させた二光子吸収薄膜を得た。
【0094】
[比較例1]
実施例1と同様にして厚さ1mmの石英基板にPEI処理した。
【0095】
(R1−1):上記PEI処理した石英基板を、ポリアニオンの一種であるPSS[Poly(sodium4-styrenesulfonate);Mn:70000]0.5wt%水溶液[水性塗布液(LcR1)]に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(VR1)を形成した。
【0096】
(R1−2):上記PSS処理した石英基板を、ポリカチオンの一種であるPDDA[Poly(diallyldimethylammoniumchloride);Mn:100000〜200000]0.5wt%、下記構造式(I)で示される二光子吸収化合物0.002Mからなる組成のHO/CHCOCH/Pyridine(=80/15/5vol%)混合溶液[水性塗布液(LbtR1)]に、同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(IIR1)を形成した。
【0097】
【化5】

【0098】
実施例1同様に、上記(R1−1)と(R1−2)の操作を40回繰り返し、PSS[有機高分子イオン(a)]単独から成る薄膜(VR1)と、二光子吸収材料とPDDA[有機高分子イオン(b)]から成る薄膜(IIR1)との交互積層膜からなる二光子吸収薄膜を得た。
【0099】
[比較例2]
比較例1において、二光子吸収化合物(I)の代わりに、下記構造式(II)で示される二光子吸収化合物を用いた他は比較例1と同様の条件にて、交互積層膜からなる二光子吸収薄膜を得た。
【0100】
【化6】

【0101】
[比較例3]
実施例1と同様にして厚さ1mmの石英基板にPEI処理した。
【0102】
(R3−1):上記PEI処理した石英基板を、ポリアニオンの一種であるPSS[Poly(sodium4-styrenesulfonate);Mn:70000]0.5wt%水溶液[水性塗布液(LcR3)に同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(VR3)を形成した。
【0103】
(R3−2):上記PSS処理した石英基板を、ポリカチオンの一種であるPDDA[Poly(diallyldimethylammoniumchloride);Mn:100000〜200000]0.5wt%、下記構造式(III)で示される二光子吸収化合物0.002Mからなる組成の水溶液[水性塗布液(LbtR3)に、同様に、浸漬し、洗浄、乾燥して薄膜(IIR3)を形成した。
【0104】
【化7】

【0105】
[比較例4]
厚さ1mmの石英基板に、実施例1の二光子吸収薄膜の二光子吸収材料及び金ナノロッドの光学濃度比と同じ組成の混合溶液を調整し、前記の光学濃度と等しく成るような条件で塗布し、実質的に実施例1と同量の二光子吸収材料及び金ナノロッドからなる二光子吸収単層薄膜を得た。
【0106】
上記実施例1〜5及び比較例1〜5で得た二光子吸収薄膜を用いて、二光子吸収能の評価(増感効果による評価)を行った。
【0107】
〔増感効果の評価方法〕
薄膜の二光子吸収能の評価は、近赤外光域のフェムト秒レーザによる二光子励起状態からの二光子蛍光強度の強弱により評価する。
【0108】
測定光源:フェムト秒チタンサファイアレーザ
波長 :720〜920nm
パルス幅:100fs
繰り返し:80MHz
光パワー:800mW
【0109】
〈測定方法〉
光源波長 :780〜900nm
キュベット内径:1mm
測定光パワー :0〜500mW
繰り返し周波数:80MHz
集光されている光路部分に薄膜を置き、その蛍光強度を検出する。
膜ダメージの低減のため、(1)間欠パルス励起を採用、(2)集光されている光路部分でX方向への薄膜試料送りを採用
【0110】
〔評価結果〕
実施例1で得た二光子吸収薄膜の励起光強度(測定光パワー)と2光子蛍光強度との相関関係を図6に示す。
また、実施例1〜5における金属ナノ粒子のプラズモン増強場による増感効果(比較例との蛍光強度比)を下記表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
図5に示すように、得られた二光子吸収薄膜の吸収スペクトルから、薄膜が二光子吸収色素と金ナノロッドの成分を含有していることが確認できた。また、図5に示すように、得られた二光子吸収薄膜の蛍光強度が励起光強度に対し2乗効果が観測され、二光子吸収蛍光であることが確認できた。
【0113】
以上より、本発明の二光子吸収薄膜の層構成とすることにより、金属ナノ粒子のプラズモン増強場による増感効果を効率よく発現でき、従来公知の二光子吸収化合物を用いても、安定性良く、再現性良く、容易にかつ励起エネルギーの消光も金属ナノ粒子による散乱の影響もなく二光子吸収特性を大きく増感することができることがわかった。
すなわち、従来の二光子吸収化合物の二光子吸収能が金属ナノ粒子のプラズモン増強場により増感され、二光子吸収の遷移効率が高い二光子吸収薄膜材料が実現でき、小型で安価なレーザを使った実用用途(三次元メモリ材料、光制限材料、光造形用光硬化樹脂の硬化材料、光化学療法用材料などの分野)への適用が達成可能となる。
また、本発明の二光子吸収薄膜の製造方法によれば、水性塗布液への浸漬、乾燥と、静電的な相互作用(静電力)を利用したプロセスにより、固体基板上に、交互積層薄膜を形成するため、簡便かつ容易に二光子吸収薄膜を製造することができることがわかった。
【符号の説明】
【0114】
(図1)
10 基板
11 有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子から成る薄膜(I)
12 有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜(II)
13 有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)
14 有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜(IV)
(図2)
10 基板
11 有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子から成る薄膜(I)
12 有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜(II)
13 有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料から成る薄膜(III)
14 有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜(IV)
15 有機高分子イオン(b)単独から成る薄膜(V)
16 有機高分子イオン(a)単独から成る薄膜(VI)
(図3)
31 基板
32 交互積層薄膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0115】
【特許文献1】特開2004−168690号公報(特許第4235726号公報)
【特許文献2】特開2005−82507号公報
【特許文献3】特開2005−213434号公報
【特許文献4】特開2007−241168号公報
【特許文献5】特開2007−241170号公報
【特許文献6】特開2007−246422号公報
【特許文献7】特開2007−246463号公報
【特許文献8】特開2007−246790号公報
【特許文献9】特開2008−69294号公報
【特許文献10】特開2008−74708号公報
【特許文献11】特開2006−330683号公報
【特許文献12】特開2008−122439号公報
【特許文献13】特開2008−126603号公報
【特許文献14】特開2009−8915号公報
【非特許文献】
【0116】
【非特許文献1】Science,281,1653(1998)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、有機高分子イオン(a)と金属ナノ粒子とを有する薄膜(I)、及び、有機高分子イオン(b)を有する薄膜(II)が交互に積層されてなる第1の交互積層薄膜、並びに、有機高分子イオン(b)と二光子吸収材料とを有する薄膜(III)、及び、有機高分子イオン(a)を有する薄膜(IV)が交互に積層されてなる第2の交互積層薄膜を備えた二光子吸収薄膜の製造方法であって、
(製法1):前記基板の表面の荷電された極性に対して、前記有機高分子イオン(b)の荷電は同極性、前記有機高分子イオン(a)の荷電は逆極性であり、
前記基板を、前記有機高分子イオン(a)及び前記金属ナノ粒子を含有する水性塗布液(Lam)に浸漬、乾燥して薄膜(I)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(b)を含有する水性塗布液(Lb)に浸漬、乾燥して薄膜(II)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第1の交互積層薄膜を形成し、
有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する水性塗布液(Lbt)に浸漬、乾燥して薄膜(III)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(a)を含有する水性塗布液(La)に浸漬、乾燥して薄膜(IV)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第2の交互積層薄膜を形成し、
若しくは、
(製法2):前記基板の表面の荷電された極性に対して、前記有機高分子イオン(a)の荷電は同極性、前記有機高分子イオン(b)の荷電は逆極性であり、
前記基板を、有機高分子イオン(b)及び二光子吸収材料を含有する水性塗布液(Lbt)に浸漬、乾燥して薄膜(III)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(a)を含有する水性塗布液(La)に浸漬、乾燥して薄膜(IV)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第2の交互積層薄膜を形成し、
前記有機高分子イオン(a)及び前記金属ナノ粒子を含有する水性塗布液(Lam)に浸漬、乾燥して薄膜(I)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(b)を含有する水性塗布液(Lb)に浸漬、乾燥して薄膜(II)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して第1の交互積層薄膜を形成し、
前記(製法1)若しくは(製法2)により各薄膜(I)乃至(IV)を形成する際に、当該形成される薄膜の電荷が、直前の工程によって形成された薄膜の電荷と逆極性であることを特徴とする二光子吸収薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記有機高分子イオン(a)を単独で含有する水性塗布液(Lc)に浸漬、乾燥して薄膜(VI)を形成する工程と、
前記有機高分子イオン(b)を単独で含有する水性塗布液(Ld)に浸漬、乾燥して薄膜(V)を形成する工程と、を有し、この順に繰り返して積層膜を形成し、
前記薄膜(V)及び(IV)のいずれを形成する際にも、前記第1の交互積層薄膜を形成する工程と第2の交互積層薄膜を形成する工程との間であり、且つ、当該形成される薄膜の電荷が、直前の工程によって形成された薄膜の電荷と逆極性であることを特徴とする請求項1に記載の二光子吸収薄膜の製造方法。
【請求項3】
基板上に、有機高分子イオン(a)と金属ナノ粒子とを有する薄膜(I)、及び、有機高分子イオン(b)を有する薄膜(II)が交互に積層されてなる第1の交互積層薄膜、並びに、有機高分子イオン(b)と二光子吸収材料とを有する薄膜(III)、及び、有機高分子イオン(a)を有する薄膜(IV)が交互に積層されてなる第2の交互積層薄膜を備えることを特徴とする二光子吸収薄膜。
【請求項4】
前記第1の交互積層薄膜と、前記第2の交互積層薄膜と、の間に、前記有機高分子イオン(a)から成る薄膜(VI)と前記有機高分子イオン(b)から成る薄膜(V)とを交互に積層した積層膜が介在してなることを特徴とする請求項3に記載の二光子吸収薄膜。
【請求項5】
前記二光子吸収材料がイオン構造を有し、該二光子吸収材料の二光子吸収能を有する部位イオンと前記有機高分子イオン(b)とが同極性の荷電を有することを特徴とする請求項3または4に記載の二光子吸収薄膜。
【請求項6】
前記有機高分子イオン(a)及び金属ナノ粒子は、同極性の荷電を有することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の二光子吸収薄膜。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子は、前記二光子吸収材料の二光子励起波長域にプラズモン吸収能を有することを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載の二光子吸収薄膜。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子は、金ナノロッドであることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか1項に記載の二光子吸収薄膜。
【請求項9】
光が入射する面が、前記第2の交互積層薄膜であることを特徴とする請求項3乃至8のいずれか1項に記載の二光子吸収薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−59316(P2012−59316A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201191(P2010−201191)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】