説明

二成分ゲノムフラビウイルスおよびその使用

本発明は二成分ゲノムフラビウイルスおよびそのようなウイルスを増殖させるための方法を開示する。このフラビウイルスの遺伝物質は二つのゲノムに分配されているので、フラビウイルスは複製能が欠損しており、疾患を引き起こすことはできないが、免疫反応を誘導することはできる。それにもかかわらず、本明細書において論じられる複製欠損性フラビウイルスのデザインは、これらのフラビウイルスの増殖を産業レベルで可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は分子生物学、ウイルス学および免疫学の分野に関する。より具体的には、本発明は、複製欠損性フラビウイルスを提供し、フラビウイルス関連疾患に対するワクチンとしてのその使用を開示する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
フラビウイルス科のフラビウイルス属には、黄熱病ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、デング熱ウイルス、西ナイルウイルス、古典的豚コレラウイルス、牛ウイルス性下痢ウイルスおよびC型肝炎ウイルスを含む種々の重要なヒト病原体および動物病原体が含まれる。天然では、フラビウイルスは脊椎動物宿主と多数の蚊およびダニ種によって主に代表される媒介節足動物との間を循環する。4つの異なる抗原複合体に分類されるこの属のほぼ40種の成員が、ヒト疾患を引き起こす可能性がある。
【0003】
フラビウイルスゲノムは、ほぼ12 kbの陽性極性の一本鎖RNAである。それは細胞プロテアーゼおよびウイルスプロテアーゼにより、感染性ウイルス粒子を形成するウイルス構造タンパク質C、prM/MおよびE、ならびにウイルスゲノムの複製に必要な酵素複合体を形成する非構造タンパク質NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4BおよびNS5に翻訳時および翻訳後プロセッシングされる単一のポリペプチドをコードする(Lindenbach and Rice, 2001)。フラビウイルスゲノムは、5'メチルグアニレートキャップを持つことで細胞伝令RMAの構造を模倣するが、3'末端ポリ(A)配列がないことで細胞RNA鋳型とは異なる。
【0004】
フラビウイルスビリオンでは、ウイルスゲノムRNAの単一のコピーがC (キャプシド)タンパク質によって、EおよびMタンパク質の二量体の包埋された脂質エンベロープで囲まれたヌクレオキャプシドにパッケージングされる。ヌクレオキャプシドとエンベロープとの間の相互作用の機構は未だ完全には理解されていないが、例えば、アルファウイルスのヌクレオキャプシド・エンベロープ間の相互作用よりも特異性が低いようであり、フラビウイルスビリオンは、遠位の抗原複合体に属するウイルス由来のキャプシドおよびエンベロープタンパク質によって効率的に形成されうる(Chambers et al., 1999; Lorenz et al., 2002; Monath et al., 2002)。さらに、ヌクレオキャプシドの存在は粒子集合の絶対条件ではなく、ウイルス様粒子の形成および細胞からの放出は、多種多様のベクターからの単にprMおよびEの発現によっても達成されうる。これらのいわゆるサブウイルス粒子(SVP)はRNAまたはキャプシドタンパク質を含んでいない(Mason et al., 1991)が、20面体の脂質含有構造に組織化されたエンベロープタンパク質を有する。prM/E包埋サブウイルス粒子は、複製能力のあるウイルス(Konishi and Fujii, 2002; Konishi, Fujii, and Mason, 2001; Konishi et al., 1992; Qiao et al., 2004)、DNA (Aberle et al., 1999; Colombage et al., 1998; Davis et al., 2001; Kochel et al., 1997; Kochel et al., 2000; Konishi et al., 2000a; Konishi et al., 2000b; Phillpotts, Venugopal, and Brooks, 1996; Schmaljohn et al., 1997)による感染の続発から動物を防御する効率的な免疫反応を誘導することができる。ヌクレオキャプシドにパッケージングされた複製能力のあるRNAがないことは、潜在的ワクチンとしてのサブウイルス粒子の適用を非常に好都合とするが、その大規模生産または発現構築体の送達のための新しい手段の開発が必要になる。prM/E発現カセットは、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターに基づいてデザインすることができる。ウイルスベクターの場合には、使用されるウイルスベクターに対する免疫反応が発生するかまたは既にあるという懸念が常に存在する。これらの遺伝子をRNAポリメラーゼIIに基づく効率的なプロモーターの制御下にコードする、DNAに基づくカセットは、選択的であるように思われる。しかしながら、実際の臨床にそれらを適用することはいまだに疑問視されている。それゆえ、フラビウイルスに対するワクチン接種は、依然として、不活化ワクチンまたは弱毒化生ワクチン(それぞれINVおよびLAV)を用いることによって主に達成されている。
【0005】
フラビウイルス構造タンパク質は、RNAゲノム複製にとって必要でないことが、最近の研究によって示唆されている。それらは完全にまたは部分的に欠失されてもよく、そのようなRNA (レプリコン)はそれでも自己複製し、非構造遺伝子だけでなく、残りの構造遺伝子および/またはさらなる異種遺伝子も発現することができる。例えば、機能的なキャプシド遺伝子を欠くが、他の構造遺伝子がインタクトであるフラビウイルスゲノムがインビトロで合成され、免疫化に直接使用されている。それらの複製がサブウイルス粒子の産生をもたらし、防御免疫反応を最終的に誘導した。増殖、伝播性の感染を発現できない改変フラビウイルスの適用は、防御免疫ワクチンの生産で安全かつ有効なものをデザインする新たな手段である(Aberle et al., 2005; Kofler et al., 2004)。しかしながら、それらの適用には、おそらく、RNA複製を起こしやすい細胞へのインビトロで合成されたRNAの送達の改善が必要になる。これはウイルス構造タンパク質で構成された感染粒子にこれらの欠損ゲノムをパッケージングすることによる、最も自然なアプローチを用いることによって達成することができる。
【0006】
フラビウイルスに関連する疾患および新たな地域へのフラビウイルスの伝播が続いていることに関する大変な懸念にもかかわらず、これらの感染症の抗ウイルス治療は未だ開発されておらず、現在までに認可されたワクチンは非常に限られた数しか製造されていない。ダニ媒介脳炎(TBEV)および日本脳炎(JEV)を予防するために不活化ウイルスワクチン(INV)が認可されている。しかしながら、これらのワクチンは他の不活化ウイルスワクチンのように、効力に限界があり、複数回のワクチン接種を必要とし、製造するのに費用がかかる。これらの欠点にもかかわらず、日本脳炎およびダニ媒介脳炎不活化ウイルスワクチンは良好な安全記録を有しており、どの疾患の発現とも関連付けられていない。フラビウイルスに関し唯一認可された弱毒化生ワクチン(LAV)は、広く用いられている黄熱病ウイルス(YFV) 17D株であり、これは鶏胚組織中の黄熱病ウイルスの野生型Asibi株の連続継代によって開発された。この弱毒化生ワクチンは非常に安全かつ有効と考えられているが、米国の軍隊入隊者における最近の事例を含め、ワクチン接種を受けた人に黄熱病および副作用が検出されたという事例がある。
【0007】
フラビウイルスに関する逆遺伝学系の開発は、これらのウイルスの合理的な弱毒化に基づく、新しいクラスの弱毒化生ワクチンをデザインする機会の扉を開いた。この新しいクラスのワクチンは、黄熱病ウイルスprM-Eコードゲノム断片を異種フラビウイルス由来のprM-Eカセットと置換した、YFV 17Dに基づくキメラを含む。類似のキメラウイルスに基づくアプローチが、デングおよびダニ媒介脳炎に基づく骨格にも適用されている。ほとんどの場合、キメラフラビウイルスは、非常に弱毒化した表現型を示すが、効率的な防御免疫反応を誘発することができ、キメラによって構造タンパク質が発現されるウイルスによる感染の続発を防御する。これらのキメラワクチン候補によるワクチン接種は、他のウイルスベクターに基づく組み換えウイルスワクチンの効力を妨げた、既存「ベクター」の免疫性によって妨げられない。
【0008】
キメラフラビウイルスは新しいワクチンの製造に対するかなり普遍的なアプローチをもたらすように思えるとはいえ、キメラそれ自体が少なくとも免疫不全の個体では病原になるという懸念があり、またはワクチンを調製するのに必要とされるこれらのウイルスの増殖過程の間に突然変異が検出されたことから、病原性のキメラが生じるかもしれないという懸念がある。
【0009】
このように、先行技術では、フラビウイルス属に対して使用できる安全、強力かつ有効なタイブのワクチンに欠けている。本発明は当技術分野における、この長期にわたる要求および要望に応える。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一つの態様においては、二成分ゲノムフラビウイルスが提供される。そのようなフラビウイルスは、フラビウイルスのRNA複製に必要なシス作用性プロモーターエレメント、エンベロープタンパク質、および完全なセットの非構造タンパク質をコードし、フラビウイルスのキャプシドタンパク質をコードしていない、偽感染性ウイルスゲノムを含む。さらに、それはまた、フラビウイルスのRNA複製に必要なシス作用性プロモーターエレメント、キャプシドタンパク質、および完全なセットの非構造タンパク質をコードし、フラビウイルスのエンベロープタンパク質をコードしていない、補完的ゲノムを含む。
【0011】
本発明のさらに関連する態様においては、上記の二成分ゲノムフラビウイルスを感染させた細胞培養系が提供される。
【0012】
本発明のさらに別の関連する態様においては、二成分ゲノムフラビウイルスの大規模増殖の方法が提供される。そのような方法は、同一細胞中での両ゲノムの複製および二成分フラビウイルスの放出を可能とするのに有効な上記の二成分ゲノムフラビウイルスを、細胞培養系に感染させることによって、二成分ゲノムフラビウイルスの大規模増殖を可能とする段階を含む。
【0013】
本発明の別の関連する態様においては、上記の二成分ゲノムフラビウイルス、アジュバント、薬学的に許容される担体、またはその組み合わせを含む免疫原性組成物が提供される。
【0014】
本発明のさらに別の関連する態様において、フラビウイルスへの曝露により生じる感染から被験体を保護する方法が提供される。そのような方法は、上記の免疫原性組成物の免疫学的に有効な量を被験体に投与する段階を含み、この組成物は被験体においてフラビウイルスに対する免疫反応を誘発し、それによってフラビウイルスへの曝露により生じる感染から被験体を保護する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1A〜Cは、キャプシドおよびprM/Eをコードする欠損性YFVゲノムの感染性ウイルス粒子へのパッケージングを示す。図1A: 複製欠損性YFVゲノムにおける5'末端配列の略図である。シグナルペプチドおよび膜貫通ドメインの位置を黒塗りの四角で示している。図1B: インビトロで合成されたRNAによって同時にトランスフェクトされた細胞からの欠損性ゲノム含有ウイルス粒子の放出を示す。培地を表示の時点で交換し、力価を本明細書において記載のように測定した。
【図2】図2AおよびBは、重複したキャプシド特異的配列を有するYFVの複製を示す。図2A: 組み換えYFVゲノムの略図である。コドンを最適化したキャプシドコード配列を灰色で示している。二つのフレームシフト突然変異の導入により生じるYF/Cfrs/GFP/Cゲノムのキャプシドにおける代替ORFを黒塗りの四角で示している。力価およびCPEの発現を、インビトロで合成されたRNAのトランスフェクションから72時間後に評価した。図2B: 放出された組み換えウイルスの分析を示す。インビトロで合成されたRNAを細胞にトランスフェクトし、培地を表示の時点で交換し、プラークアッセイ法を用いてウイルス力価を測定した。
【図3】図3AおよびBは、効率的な複製ができるYF/C/GFP/Cゲノム含有変種の選択および適応突然変異の同定を示す。図3A: YF/C/GFP/Cゲノムおよび効率的に複製する変種において同定された欠失の略図である。数字はキャプシドおよびGFPタンパク質のアミノ酸配列における欠失の位置を示す。図3B: BHK-21細胞における再構築された欠失変異体の複製を示す。インビトロで合成されたRNAを細胞にトランスフェクトし、培地を表示の時点で交換した。放出されたウイルスの力価を本明細書において記載のようにプラークアッセイ法で測定した。破線は検出限界を表す。
【図4】図4A〜Cは、ポリタンパク質上流の異種遺伝子をコードする組み換えYFVゲノムの複製を示す。図4A: 組み換えゲノムおよびGFP遺伝子の上流に位置するORFの配列の略図を示す。コドンを最適化したキャプシドコード配列を灰色で示している。矢印はGFPコード配列の開始位置を示す。小文字はキャプシドおよびGFP配列において作製された突然変異を示す。図4B: デザインしたYFV変種のBHK-21細胞における複製を示す。インビトロで合成されたウイルスRNAを細胞にトランスフェクトし、培地を表示の時点で交換した。放出されたウイルスの力価を本明細書において記載のようにプラークアッセイ法で測定した。破線は検出限界を表す。図4C: BHK-21細胞における連続継代後の組み換えYFmut/GFPウイルスの力価を示す。
【図5】図5A〜Fは、二成分ゲノムウイルス複製の分析を示す。図5A: 同一細胞中での複製の間にトランス補完(trans complementation)ができるYFVキャプシドコードゲノムおよびprM/Eコードゲノムの略図である。コドンを最適化したキャプシドコード遺伝子を灰色で示している。図5B: インビトロで合成されたRNAにより同時にトランスフェクトされた細胞からの、欠損ゲノム含有ウイルス粒子の放出を示す。培地を表示の時点で交換し、各ゲノムを含有する感染性ウイルス粒子の力価を、本明細書において記載されるように測定した。図5C: およそ10感染単位/細胞のMOIでの継代の間の、二成分ゲノムYFVの複製を示す。培地を表示の時点で交換し、各ゲノムを含有する放出された感染性粒子の力価を、本明細書において記載されるように測定した。図5D: 異なるMOIで細胞に感染させた後の二成分ゲノムYFVの複製を示す。培地を表示の時点で交換し、放出された感染性粒子の力価を、本明細書において記載されるように測定した。図5E: 感染細胞中での両欠損ゲノムの複製を示す。BHK-21細胞におよそ1感染単位/細胞のMOIで二成分ゲノムYFVを感染させて、ゲノムの複製を感染から48時間後に評価した。パネル(a)は複製YF/Cherry/Ccoを含有する細胞を表し、パネル(b)は複製YF/GFP/prMEゲノムを有する細胞を示し、パネル(c)は重ね合わせたものである。図5F: 異なるYFV特異的RNAをトランスフェクトした細胞からの、感染性ウイルスおよびVLPの放出の分析を示す。BHK-21細胞に表示のRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後に、培地を無血清培地と交換し、この培地を24時間後に集めた。粒子を超遠心分離法によってペレット状にし、本明細書において記載のように不連続ショ糖勾配にてさらに分析した。画分中のYFV特異的タンパク質の存在を、ウイルスEタンパク質を認識するD1-4G2 MABを用いたウエスタンブロッティングによって検出した。
【図6】図6A〜Cは、パッケージング細胞株における構造遺伝子の全てを欠くYFVレプリコンのパッケージングを示す。図6A: 構造タンパク質の代わりに蛍光マーカーCherryをコードするYFVレプリコンの略図である。図6B: C-prM-Eをコードする既報のVEEレプリコンおよびその新バージョンの略図である。両方のVEEVレプリコンを用いて開発されたパッケージング細胞株におけるパッケージ化Yfrep/Cherryの力価を示す。図6C: 表示のYFレプリコンをトランスフェクトしたまたは次継代時のその同一粒子を感染した、VEErep/GFP-C-prM-E/Pac含有細胞からの感染性Yfrep/Cherryゲノム含有ウイルス粒子の放出を示す。培地を表示の時点で交換し、放出されたパッケージ化レプリコンの力価を、本明細書において記載されるように測定した。
【図7】高いおよび低いMOIでの二成分ゲノムウイルスの複製戦略案を示す。高いMOIでは、両ゲノム、つまりPIVゲノム(prM/Eをコードする)および補完的ゲノム(キャプシドをコードする)は同一細胞に送達されて、ウイルス複製に必要とされる完全なセットのタンパク質を産生する。細胞は二成分ゲノムウイルスを産生し、これを漸増規模(escalating scale)でさらに継代することができる。低いMOIでは、細胞は二つのゲノムのうちの一つしか受けられず、PIV感染細胞は、遺伝物質およびヌクレオキャプシドを含んでいないSVPを産生する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の目的は、フラビウイルス関連疾患に対する予防ワクチンとして使用できる新しいタイプの複製欠損性フラビウイルスを開発することであった。この関連で、本発明は、二成分ゲノムフラビウイルス、例えば、フラビウイルスのゲノムが二つのゲノムに分離されている黄熱病ウイルス(YFV)を開示する。これらのゲノムの両方とも、産生的複製に必要なタンパク質(キャプシドまたはprM/E)の少なくとも一つの発現が欠損していたが、同一細胞への送達によって互いの機能を補完した。これらの複製欠損性フラビウイルスは、感染性であり、動物に感染することによって1ラウンドの感染を実施できるので、フラビウイルス感染に対するワクチンとしてのそのさらなる用途のために産業レベルで産生することができた。これらの動物において、ゲノムのうちの一つしか含んでいない粒子に感染した細胞は、ウイルス非構造タンパク質および不完全なセットの構造タンパク質を産生する。合成されたprM/Eタンパク質は、遺伝物質を欠くサブウイルス粒子しか形成しないが、効率的な免疫原として機能する。このように、これらの欠損性フラビウイルスは、不活化ワクチンの安全性と弱毒化生ワクチンの有効性および拡張性とを兼ね備えているであろう。さらに、これらの欠損性フラビウイルスは、SVPを産生できるだけでなく、異種タンパク質を発現することもできた。
【0017】
現在までフラビウイルスは、主要な公衆衛生上の懸念の一つであり続けている。それらは両半球に広く分布しており、種々のヒト関連疾患を引き起こす。しかしながら、安全かつ効率的なワクチンは、ほんの一握りのフラビウイルス感染に対して製造されているにすぎない。これらのワクチンは弱毒化生ワクチンまたは不活化ワクチンのどちらかと特徴付けることができる。フラビウイルスに関し唯一認可された弱毒化生ワクチンは、広く用いられている黄熱病ウイルス17D株であり、これは鶏胚組織中の黄熱病ウイルスの野生型Asibi株の連続継代によって開発された。弱毒化生ワクチンはJEV、TBEV、およびYFVに対して開発されているが、デングおよびWNEのような他のフラビウイルスに対して認可された製品は、製造されていない。生ワクチンは、不活化ワクチンまたはサブユニットワクチンよりも効率的であるように思われる。しかしながら、病原表現型への逆戻りの可能性のため、明らかな安全上の懸念が残る。不活化ワクチンの適用には、通常、複数回のワクチン接種および大量の材料の製造が必要となり、不活化産物の生成に使われる毒性ウイルスを増殖させる高度封じ込め施設が必要となる。このように、どちらのタイプのフラビウイルスワクチンにも有望な候補が存在するとはいえ、その開発のための普遍的なアプローチがない。
【0018】
フラビウイルスの際立った特徴は、いわゆるサブウイルス粒子(SVP)を形成するエンベロープタンパク質の能力にある。そのような粒子は、標準的なprM/E糖タンパク質を発現するベクターを含んだ真核細胞によって、またはキャプシド遺伝子が欠失されている欠損性フラビウイルスゲノムによって、効率的に産生することができる。これらのウイルス様粒子は、遺伝物質およびヌクレオキャプシド全体を欠くが、効率的な免疫原として機能し、複製能力のあるフラビウイルスによる感染の続発に対する防御免疫反応を誘導する。キャプシドコード配列を欠く欠損性フラビウイルスゲノムは、RNAの形で細胞に送達されても、またはパッケージング細胞株を用いて感染性ウイルス粒子にパッケージ化されてもよく、そこでは例えば、フラビウイルスキャプシド遺伝子をサブゲノムプロモーターの制御下にコードする持続的複製アルファウイルスレプリコンにより、キャプシドがトランスで供給される。インビトロおよびインビボの両方でのナイーブ細胞の感染により、これらの偽感染性フラビウイルスは、複製およびSVPの産生ができるが、伝播、増殖性の感染を発現しない。それゆえ、それらの適用が疾患の発症につながることはなく、それらは生ワクチンと不活化ワクチンとの間の興味深い中間物に当たる。それらは、効率的な免疫反応の誘導につながる1ラウンドの感染を遂行し、偽感染性ウイルス(PIV)と呼ばれる。
【0019】
フラビウイルスに関する逆遺伝学系の開発は、これらのウイルスの合理的な弱毒化に基づく、新しいクラスの弱毒化生ワクチンをデザインする機会の扉を開いた。この新しいクラスのワクチンは、黄熱病ウイルスprM-Eコードゲノム断片を異種フラビウイルス由来のprM/Eカセットと置換した、黄熱病ウイルス17Dに基づくキメラを含む。これらのキメラフラビウイルスは新しいワクチンの製造に対するかなり普遍的なアプローチをもたらすように思える。しかしながら、キメラそれ自体が少なくとも免疫不全の個体では病原になるという懸念があり、病原性のキメラが免疫脊椎動物での複製の間に生じることもあり、または複製能力のある組み換えフラビウイルスが蚊またはダニによって媒介されうる。
【0020】
ワクチン開発における別の有望な方向は、ワクチン接種された宿主における増殖性ウイルス複製を、効率の低いまたは不可能な事象にする、フラビウイルスゲノムにおける修復不能な欠失をもたらすことに基づく。後者の場合、例えばCコード領域を欠失しているが、複製機構の全体をコードしているウイルスゲノムは、自己複製可能なインビトロで合成されたRNAとしてインビボでの免疫化のために送達することができる。完全なウイルス複製サイクルなしにサブウイルス粒子(SVP)の産生を指定する、インビトロで合成された欠損性RNAゲノムによる直接免疫は、防御免疫の生成において安全かつ有効であることが示されている。しかしながら、合成、安定性および送達における問題点のため、RNAに基づくワクチン候補の製造には大きな障害があるかもしれない。このように、フラビウイルスワクチンの開発のための従来の方法は、非常に安全であるが、効力に限界があり、複数回のワクチン接種を必要とする不活化ウイルスワクチン、または野生型の病原表現型への逆戻りおよび媒介節足動物による伝染の可能性が強い弱毒化生ワクチンの調製に基づいていた。
【0021】
さらに、ワクチンの目的でPIVを適用するにはその大規模生産を要するが、欠損性ゲノムを感染性ビリオンにパッケージ化する細胞株の開発が、この可能性を実証した。PIVは漸増規模で、パッケージング細胞株において継代されうるが、ナイーブ細胞においては継代されえない。しかしながら、これはその大規模増殖の唯一の手段ではないように思われる。本発明のフラビウイルスの産生には、そのような細胞株の開発は必要とされなかったが、本明細書において論じられる方法は、効率的なPIVの産生をもたらした。さらに、本発明の複製欠損性フラビウイルスは、使用するのに安全であるだけでなく、漸増する産業規模で組織培養において複製することも、さらなる遺伝子を発現することもできる。このように、これらのフラビウイルスは複製能が欠損し、ヒトおよび動物において増殖、伝播性の感染を引き起こすことができない。
【0022】
概して、ウイルスの複製に必要な遺伝物質を、互いの欠損をトランス補完できる二つのゲノムに分けた。それらのどちらともRNA複製に必要なシス作用性プロモーターエレメントおよび複製酵素複合体を形成する完全なセットの非構造タンパク質をコードしていた。このように、どちらのRNAゲノムも自己複製は可能であるが、それらのうちの一つはキャプシドをコードし、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子が欠失されており、もう一つはエンベロープ遺伝子をコードするが、キャプシドをコードしていない。
【0023】
同一細胞への送達により、両ゲノムは全セットの構造タンパク質を産生し、細胞は、各ゲノムを有する高力価の感染性ウイルス粒子を放出する。次の継代時に、両ゲノムが同一細胞に送達されることを可能にするMOIで、ウイルスをナイーブ細胞に感染させることができる。これは増殖複製の発現および各ゲノムを含んだ感染性ウイルス粒子の放出をもたらす。すなわち、この系は漸増規模で組み換えウイルスの増殖を可能にする。動物(非常に多数の感受性細胞を有する)への接種の場合、各ゲノムは異なる細胞に送達され、伝播性の感染は不可能な事象となり、エンベロープタンパク質をコードするゲノムを持ったビリオンに感染した細胞は、遺伝物質を欠くが、効率的な免疫原となって、野生型ウイルスによる感染の続発に対する防御免疫反応を誘導する非感染性のウイルス様粒子を産生する(図7)。
【0024】
効率的な複製および補完を促進するには、どちらの欠損性ゲノムも5'UTRと、それに続く60 nt (エレメント1)超の、フラビウイルスの大部分ではキャプシドのアミノ末端断片またはペスチウイルス属の成員ではNpro遺伝子によって代表される天然タンパク質コード配列との存在を必要とする。この配列の後に、キャプシドコード配列またはエンベロープタンパク質コード配列のどちらかと融合された、ユビキチンまたは口蹄疫ウイルス(FAMDV)特異的2Aプロテアーゼのどちらかが続く。融合遺伝子のこの組み合わせは、両ゲノムの複製とウイルス粒子への同等の効率でのそのパッケージングとに不可欠である。
【0025】
ウイルス構造タンパク質をコードする人工のコドン最適化配列を使用することで、複製能力のあるフラビウイルスの形成を潜在的にもたらす可能性のある二つの欠損性ウイルスゲノム間の組み換えの可能性が排除される。どちらの欠損性ゲノムもさらなる遺伝子の発現に使用可能であり、したがって、異種タンパク質に対する免疫反応を生じさせるベクターとなる。さらなる遺伝子は、エレメント1とユビキチンまたはFAMDV 2Aプロテアーゼの配列間にクローニングすることができる。
【0026】
上記のように、ワクチンにこれらの二成分ゲノムフラビウイルスを適用することが、免疫化されたヒトおよび動物において増殖、伝播性の感染の発現をもたらすことはない。ヒトおよび動物は多数の細胞を持っているので、これらの細胞は非常に低い多重度で感染し、このことがゲノムの一方のみによる感染をもたらす。そのような細胞は、ヌクレオキャプシドおよび任意の遺伝物質を欠いた、いわゆるウイルス様粒子しか産生することができない。後者の粒子は効率的な免疫原となるが、次のラウンドの感染を行うことができない。トランス補完機能を有する欠損性ウイルスゲノムは、さらなる遺伝情報を発現し、多価ワクチンになりうることも本明細書において企図される。
【0027】
具体的に、本発明では、黄熱病ウイルスの遺伝物質を用いて、上記の方法の有効性を実証する。この関連で、黄熱病ウイルスの遺伝物質を、互いの欠損をトランス補完できる二つのウイルスゲノムに分けた。オリジナルデザインの欠損性YFVゲノムのそれぞれでRNA複製機構の全体をコードし、それらのうちの一つはキャプシド遺伝子ほぼ全体の欠失を有し、もう一つのゲノムはprM/Eをコードしなかった。組織培養での各ゲノムの複製を追跡するためおよび感染性粒子の力価を測定するため、ゲノムは異なる蛍光マーカーGFPおよびCherryをコードした。細胞におけるこの発現から、特定のゲノムの感染および複製が示唆された。同一細胞への送達により、YF/GFP/prMEおよびYF/C/Cherryは、全セットのウイルス構造タンパク質を産生し、最終的に、感染性ビリオンにパッケージ化されることが期待された。しかしながら、驚くべきことに、YF/C/Cherry複製の高い細胞毒性により、増殖複製を確立しようとする最初の試みは失敗であった。それは非常に高いレベルの蛍光タンパク質を産生したが、強力なCPEも引き起こし、感染性ウイルス粒子の低レベル放出という結果を招いた。
【0028】
この現象をさらに理解するために、二コピーのキャプシド遺伝子をコードするYFVゲノムをデザインし、それらのうちの一つを広範な遺伝子操作に利用可能にした。このウイルスはまた、異常なほど細胞毒性を示し、低い力価で複製された。キャプシドコード配列のその後の修飾により、細胞毒性の増大がRNA二次構造の変化の可能性によるものではなく、キャプシドタンパク質それ自体(これがC-prM-Eカセットと関連せずに発現された場合)により引き起こされることが強力に示唆された(図2)。さらに、ゲノム中に二コピーのキャプシド遺伝子を有するYF/C/GFP/Cウイルスは、増殖に適応した変種を、CPE発現のレベルは低いままで高い力価へとさらに進化させ進展させることもできた。現在までに、CPEの誘導に及ぼすYF/C/CherryまたはYF/C/GFP/CウイルスによるYFVキャプシド発現の影響の正確な機構は、不明なままである。
【0029】
より高いレベルのウイルス放出に適応したYF/C/GFP/C変種の配列決定は、インビボおよびインビトロにおいてさらなる異種タンパク質の安定な発現ができる改変された感染性ウイルスを作製する手段をもたらした。しかしながら、最も重要なことに、同定された自発的欠失は、オリジナルデザインの複製欠損性YF/C/Cherryウイルスゲノムを、異なるタンパク質コード戦略を有しかつYF/GFP/prME複製の効率的なトランス補完の能力を有したYF/Cherry/Ccoに改変する機会を与えた。インビトロで合成された両ゲノムRNAを同時にトランスフェクトした細胞は、キャプシドまたはprMEコードゲノムの両方が同じ濃度で存在するウイルス粒子を産生し、この独自のウイルスをナイーブ細胞において漸増規模でさらに継代することもできた。
【0030】
低いMOIでの細胞の感染は、両ゲノムが別個のウイルス粒子にパッケージ化されることを明示したので、補完機能を有する二つのゲノムを持ったこのYFVを、セグメント化ゲノムウイルス(それにはゲノム断片の全てが同一のビリオンにパッケージ化されることが前提になる)と呼ぶのではなく、二成分ゲノムウイルスと呼ぶことができる。両方のゲノムセグメントが別々にパッケージ化されているそのようなタイプのウイルスは、植物においてこれまでに報告されている。免疫化のためにそのようなウイルスをさらに適用することは、感染性の完成された複製能力のあるウイルスの形成をもたらしうる二つのゲノム間での組み換えの可能性に関する懸念を呼び起こすかもしれない。それゆえ、この可能性は極めて低いが、YF/Cherry/C RNA中のキャプシド遺伝子を、環化配列を欠いた合成によるコドン最適化型で代用した。二成分ゲノムYFVを用いた複数回の実験において、非断片化ゲノムを持つ感染性YFVの形成は検出されなかった。しかしながら、キャプシドをおよびprMEをコードする自己複製断片において環化配列の異なる対を用いることにより、組み換えの可能性をさらに減らすことが可能である。
【0031】
興味深いことに、YFVゲノムに基づかない構築体におけるC-prM-Eコード戦略の改変によって、構造タンパク質を全くコードしていないYFVベクターのパッケージングの劇的な増大につながった。持続的に複製するVEErep/GFP-C-prM-E/PacからC-GFP-Copt-prM-Eの25アミノ酸を産生する細胞株は、C-prM-Eカセットだけを発現する類似の細胞株よりも劇的に高い力価へと、YFVレプリコンをパッケージ化した。パッケージ化したYFVレプリコンは、108感染単位/mlを超える力価で放出されただけでなく、このパッケージング細胞株において力価の低下なしに継代することもできた。このように、構造ポリタンパク質の上流に25個のキャプシド特異的コドンをクローニングすることによるC-prM-EコードサブゲノムRNAの単純な改変は、感染性ウイルスの放出にとても強力なプラスの影響を及ぼし、異種遺伝情報の送達および発現のためのYFVに基づくベクターの数を広げるであろう。C-prM-E発現のまれなデザイン戦略が、翻訳された構造タンパク質の異なる区画化をもたらし、これが感染性ビリオンの形成を促進するものと考えられる。
【0032】
結論として、上記の結果から、prM/Eを発現できるYF PIV、および、おそらく他のフラビウイルスに由来するPIVは、別の複製欠損性キャプシド産生フラビウイルスゲノムにより、組織培養において継代できることが示唆された(図7)。同一細胞中での複製の間に、これらの二つの欠損性ゲノムは完全なセットのウイルス構造タンパク質を産生し、二成分ゲノムウイルスと特徴付けることができる別個の感染性ウイルス粒子に、効率的にパッケージ化される。先に実証された通り、PIVは効率的な免疫原となり、したがって、二成分ゲノムウイルスを組み換えフラビウイルス特異的ワクチンの開発に適用することが可能である(図7)。これらのワクチンは不活化ワクチンよりも安価で、弱毒化生ワクチンよりも安全であろう。prM/E遺伝子が欠失したYFVゲノムからのキャプシドの発現には、5'末端配列のさらなる改変、および追加のキャプシド特異的配列のクローニングが必要とされた。この同じ改変を複製能力のあるYFVに適用することで、さらなる遺伝情報を発現できるウイルスの開発につながった。パッケージング細胞株の作製に使われるVEEVレプリコンにおけるYFV C-prM-E発現カセットの改変により、YFVに基づくパッケージングベクターが劇的に改善された。YFVゲノムまたはキャプシドをコードする複製欠損性YFVゲノムのどちらかにおいて、キャプシドコード配列およびプロモーターエレメントを分離することは、環化シグナルとは無関係に、異種フラビウイルスに由来する構造遺伝子の発現の機会を与え、パッケージング過程の機構を研究するための可能性のある手段になる。
【0033】
本発明は、以下を含むがそれらに限定されない、新しいタイプのRepliVAX構築体の作製および評価を企図する。
【0034】
(1) 二成分ゲノム粒子の作製(既存の構築体からのレポーター遺伝子の除去を含む)およびアッセイ系
RepliVAXは、安定細胞株を用いてまたは独自の二成分ゲノム系において複製され得る。YFVの場合、一つが必須のC遺伝子および赤色蛍光タンパク質(Cherry)をコードし、もう一つがprMおよびEタンパク質ならびに緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードしている、二つの欠損性ゲノムを有する系を開発した。インビトロで合成された両ゲノムRNAを同時にトランスフェクトした細胞は、CまたはprMEのいずれかをコードしたゲノムが同じ濃度で存在しているウイルス粒子を産生し、MOIが1感染単位/細胞を超えていれば、この二成分ゲノムウイルスをナイーブ細胞において漸増規模でさらに継代することもできた。
【0035】
この系を増強するため、両YFVゲノム(RepliVAX YFおよびヘルパー)中のレポーター遺伝子を欠失させて、動物試験に適用可能な二成分ゲノムウイルスを作製し、各ゲノムを含んだ粒子の定量分析に適用できる細胞株を開発する。本発明は、WNVの作製における類似の作業も企図する。改変されたCコードゲノムおよびprM/Eコードゲノムをインビトロで合成し、ベロ細胞にトランスフェクトする。二成分共培養物の希釈の後、Cタンパク質またはprM/Eタンパク質のどちらかを発現する細胞株でのフォーカス形成によって、(CまたはprM/Eをコードする)各ゲノム粒子の量を定量化する方法を開発する。prM/EゲノムをコードするRepliVAX粒子は、C産生細胞においてフォーカスを形成することができ、C産生「ヘルパー」ゲノムは、C産生細胞株においてフォーカスを形成するであろう。
【0036】
(2) TBEキメラの作製: TBEV prM/EをコードするYFVに基づいたRepliVAXを用いる
prM/Eコードカセットをオリゴヌクレオチドから合成し、最も効率的に翻訳されるヒトmRNAに由来するコドン出現頻度を適用することで、その配列を最も効率的な発現のために最適化する。予備データに基づき、prMにおけるTBEVシグナルペプチドを、YFV特異的なアミノ酸配列に置き換える。これは予備実験から、そのような置換がウイルス粒子の産生を強力に高めることが示唆されるからである。これらのRepliVAXゲノムを、i) SVP産生能について評価し、ii) TBEVキャプシドを発現するパッケージングベロ細胞株と、第二の欠損性ゲノムがコドン最適化TBEV Cを発現する二成分ゲノムに基づくパッケージング系の両方を用いることによって、TBEVエンベロープにパッケージ化する。
【0037】
これに加えて、本発明はトランスキャプシド形成(transencapsidation)系の開発を企図し、本発明はYFV RepliVAXプラットフォームのためのトランスパッケージング(trans-packaging)系の開発を企図する。樹状細胞の感染、その結果、抗原提示の際に最も効率的なものになるエンベロープに、RepliVAX YFをパッケージングするための、普遍的な系を開発する。このパッケージングは、RepliVAXゲノムによりコードされるフラビウイルス糖タンパク質と無関係である。このトランスパッケージング系は、DEN糖タンパク質の使用から生じる非効率的な感染の可能性および異なるDENウイルス由来のエンベロープ糖タンパク質をコードするRepliVAXゲノムによって誘導される免疫反応の相違を克服すると期待される。
【0038】
本発明は、i) 最も効率的な感染性粒子の産生のための異なるパッケージング戦略(パッケージング細胞株 vs 二成分ゲノム); ii) 異なるDENウイルスに由来するタンパク質(DEN1およびDEN2); iii) ベロ細胞におけるパッケージ化RepliVAXゲノムの大規模生産の効率; iv) その後の継代の間のDENカセットの安定性; ならびにv) RepliVaxの免疫化後、DEN1および2に対しマウスにおいて誘導される免疫反応の効率を調べることを企図する。
【0039】
本発明は、TBEV prM/EコードRepliVAX YFを相同のYFV構造タンパク質にパッケージングすることも企図する。予備データから、そのようなパッケージングが効率的であり、そのさらなる開発が、最終的に、任意の異種prM/EカセットをコードするRepliVAXゲノムのための普遍的なパッケージング系の開発につながる可能性のあることが、強く示唆される。
【0040】
本発明は、フラビウイルスのRNA複製に必要なシス作用性プロモーターエレメント、エンベロープタンパク質、および完全なセットの非構造タンパク質をコードし、かつフラビウイルスのキャプシドタンパク質をコードしていない偽感染性ウイルスゲノムと、フラビウイルスのRNA複製に必要なシス作用性プロモーターエレメント、キャプシドタンパク質、および完全なセットの非構造タンパク質をコードし、かつフラビウイルスのエンベロープタンパク質をコードしていない補完的ゲノムとを含んだ、二成分ゲノムフラビウイルスに向けられる。さらに、偽感染性ウイルスゲノムおよび補完的ゲノムはまた、5' UTRと、RNA複製に不可欠な環化配列を含んだキャプシドタンパク質のオープンリーディングフレームのアミノ末端断片とをコードしなければならない。さらに、偽感染性ウイルスゲノムまたは補完的ゲノムは、エンベロープタンパク質またはキャプシドタンパク質をコードする配列に融合されたユビキチンまたは口蹄疫(FAMDV)特異的2Aプロテアーゼを含むこともできる。さらに、偽感染性ウイルスゲノムおよび補完的ゲノムは、他のウイルス、細菌、または寄生虫の構造遺伝子を含んだ追加の遺伝物質をさらに含むこともでき、これらの遺伝子の発現が、ウイルス、細菌、または寄生虫によって引き起こされる感染症に対する免疫反応を誘導する。フラビウイルスの代表例は、黄熱病ウイルス、西ナイルウイルス、デングウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、古典的豚コレラウイルスまたはC型肝炎ウイルスを含むことができるが、これらに限定されることはない。
【0041】
本発明は、本明細書において記載される二成分ゲノムフラビウイルスに感染した細胞培養系にも向けられる。細胞培養系の代表例は、ベロ細胞、BHK-21細胞、C7/10細胞、または脊椎動物および蚊由来の他の細胞を含むことができるが、これらに限定されることはない。
【0042】
本発明は、細胞培養系に、同一細胞中での両ゲノムの複製を可能とするのに有効な上記の二成分ゲノムフラビウイルスを感染させる段階と、二成分ゲノムフラビウイルスの放出によって、二成分ゲノムフラビウイルスの大規模増殖を可能とする段階とを含む、二成分ゲノムフラビウイルスの大規模増殖の方法にさらに向けられる。一般的に、細胞培養系に1感染単位/細胞超の感染多重度で、二成分ゲノムフラビウイルスを感染させる。さらに、複製欠損性フラビウイルスは、複製能が欠損し、疾患を引き起こすことはできず、感染性でありかつインビボで1ラウンドの感染を行うことができる。
【0043】
本発明は、上記の二成分ゲノムフラビウイルス、アジュバント、薬学的に許容される担体、またはその組み合わせを含む免疫原性組成物にさらに向けられる。
【0044】
本発明はまた、フラビウイルスへの曝露により生じる感染から被験体を保護する方法に向けられ、本方法は、上記の免疫原性組成物の免疫学的に有効な量を被験体に投与する段階を含み、この組成物は、被験体においてフラビウイルスに対する免疫反応を誘発し、それによってフラビウイルスへの曝露により生じる感染から被験体を保護する。さらに投与は、腹腔内経路、皮内経路、皮下経路、筋肉内経路、経口経路、または鼻腔内経路によるものであってよい。フラビウイルスの例としては、黄熱病ウイルス、西ナイルウイルス、デングウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、古典的豚コレラウイルス、またはC型肝炎ウイルスを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0045】
特許請求の範囲および/または明細書において「含む」という用語と関連して用いられる場合の「ある(a)」または「ある(an)」という単語の使用は、「一つ(one)」を意味することができるが、それは「一つまたは複数」、「少なくとも一つ」および「一つまたはそれ以上」という意味とも一致する。本発明のいくつかの態様は、本発明の一つもしくは複数の要素、方法の段階、および/または方法からなる、または本質的になりうる。本明細書において記載される任意の方法または組成物は、本明細書において記載されるその他の任意の方法または組成物に対して実施できるものと考えられる。特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、代替物のみをいうように明白に示される場合を除き、または代替物が相互に排他的である場合を除き、「および/または」を意味するように用いられるが、本開示は、代替物のみと「および/または」をいう定義を支持する。
【0046】
本明細書において用いられる場合、「免疫学的に有効な量」という用語は、免疫反応の誘導により、疾患または病気の症状の改善または治療をもたらす量をいう。有効な量は、患者のまたは被験体の病気を改善できるが、疾患および/または病気の完全な治癒でなくてもよいことを、当業者は理解している。本明細書において用いられる場合、「アジュバント」は、ワクチン処方物に含まれると、抗原に対する免疫反応を非特異的に増強する物質と定義される。
【0047】
本明細書において開示される免疫原性組成物は、単独で、または別の薬物、化合物、もしくは抗生物質との組み合わせで投与することができる。そのような薬物、化合物、または抗生物質は、本明細書において開示される免疫原性組成物と同時にまたは連続的に投与することができる。免疫原性組成物との同時投与の効果は、処置されている疾患に対して少なくとも最小限の薬理効果または治療効果を有することが公知の、通常必要とされる薬物、化合物、または抗生物質の投与量を低くすることである。同時に、薬物、化合物、または抗生物質の任意の細胞傷害効果、細胞静止効果、アポトーシス効果、または他の殺傷性もしくは阻害性治療効果を低減する、改善する、除去する、または別の方法で妨害することなく、正常な細胞、組織、および臓器に対する薬物、化合物、または抗生物質の毒性は低減される。
【0048】
本明細書において記載される組成物、および薬物、化合物、または抗生物質は、独立して、当技術分野において標準的な任意の方法により、全身的にまたは局所的に、例えば、皮下に、静脈内に、非経口的に、腹腔内に、皮内に、筋肉内に、局所的に、経腸的に、直腸的に、経鼻的に、口内に、腟内に、または吸入スプレイにより、薬物ポンプにより投与されても、あるいは経皮パッチまたはインプラント内に含まれてもよい。本明細書において記載される組成物の投与製剤は、従来の無毒な、生理学的もしくは薬学的に許容される担体、または投与の方法に適した賦形物を含んでもよい。
【0049】
本明細書において記載される免疫原性組成物、および薬物、化合物、または抗生物質は、治療効果を達成する、維持する、または改善するために、独立して1回または複数回投与されてもよい。投与量、または免疫原性組成物および薬物、化合物または抗生物質の適当な投与量が1回の投与用量または複数回の投与用量を含むかどうかを判定することは、十分に当業者の技術の範囲内である。
【0050】
当技術分野において周知であるように、任意の特定患者に対するそのような免疫原性組成物の具体的な用量レベルは、利用される特定化合物の活性、年齢、体重、全般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物の組み合わせ、および治療を受けている特定疾患の重症度を含む種々の要因に依存する。投与の責任者は、個々の被験体に適切な用量を判定するであろう。さらに、ヒトへの投与の場合、調製物はFDA生物学的基準局によって要求されるような、無菌性、発熱原性、一般的安全性、および純度基準を満たすべきである。
【0051】
被験体への本発明の免疫原性組成物の投与は、細菌感染の処置に使われる治療の施行のための一般的なプロトコルに従い、もしあれば、免疫原性組成物における成分の毒性、および/または併用療法の態様における抗生物質の毒性が考慮される。必要に応じて処置周期を繰り返すことが予想される。種々の標準的な治療および外科的介入を、記載の治療と併せて適用できるとも考えられる。
【0052】
当業者に公知であるように、本明細書において記載される免疫原性組成物は、公知の薬理学的に許容される担体のいずれかとともに投与することができる。さらに、免疫原性組成物は、皮下経路、鼻腔内経路、または粘膜経路のような、公知の投与経路のいずれかによって投与することができる。さらに、投与される組成物の投与量は、当業者に公知であるように実験を行うことによって判定することができる。
【0053】
以下の実施例は、本発明の種々の態様を説明する目的で与えられており、いかなる形においても本発明を限定することは意図されない。本発明は、本明細書に内在する目的、目標、および利益と同様、言及された目的を達成するためならびに目標および利益を得るために十分に適合されることを、当業者は容易に理解するであろう。特許請求の範囲によって定義の本発明の趣旨のなかに包含される変更およびその他の用途は、当業者に想起されよう。
【0054】
実施例1
細胞培養
BHK-21細胞はPaul Olivo (Washington University, St. Louis, Mo)から入手した。それらの細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)およびビタミンを補充したアルファ最小必須培地(aMEM)において37℃で維持した。
【0055】
実施例2
プラスミド構築体
標準的な組み換えDNA技術を全てのプラスミド構築に用いた。YFV 17D株ゲノムの感染性cDNAを含む低コピー数親プラスミドpACNR/FLYF-17Dxは報告されており(Bredenbeek et al., 2003)、Charles Rice博士(Rockefeller University, New York)から提供していただいた。
【0056】
pYF/GFP/prMEには、YFキャプシド遺伝子のアミノ酸番号26-100をコードする断片がpEGFP-N1 (Clontech)由来のコドン最適化GFP遺伝子により置換された、欠損性YFVゲノム(YF PIV)が含まれた。このプラスミドは過去の研究のなかでデザインされ、そこではそれをpYF/PIVと呼んだ。pYF/C/Cherryは、キャプシドタンパク質全体と、それに続くprMシグナル配列およびprMの6アミノ酸をコードし、Cherry (赤色蛍光タンパク質の一つ)をコードする配列と融合した。後方の遺伝子を、Eタンパク質の膜貫通ドメインから始めたYF ORFの残部とインフレームで融合した(詳細は図1Aを参照のこと)。
【0057】
プラスミドpYF/C/GFP/CはYFVゲノムを含み、そこでは101アミノ酸の長いキャプシドコード配列が、GFP、続いて口蹄疫ウイルスの2Aプロテアーゼ(FAMDV 2A)、コドン最適化キャプシド遺伝子およびYFポリタンパク質prM-NS5コード配列の残部と融合された。pYF/Cfrs/GFP/CおよびpYF/Chyb/GFP/Cは本質的に同じデザイン(図2A)を持っていたが、pYF/Cfrs/GFP/Cでは、一つのヌクレオチドがnt 202の後ろに挿入され、nt 422が欠失されており、pYF/Chyb/GFP/Cでは、nt 201と422との間の配列が、同一のアミノ酸配列をコードしているが、しかし異なるコドン使用頻度を用いている合成遺伝子により置換されていた。
【0058】
pYF/DC/GFP/CおよびpYF/C/DGFP/Cは、pYF/C/GFP/Cの派生体であり、これらには、選択の欠失変異体において同定された、それぞれ、キャプシドコード配列およびGFPコード配列における欠失が含まれた(詳細は図3Aを参照のこと)。pYF/GFPにはYFVゲノムが含まれ、ここでは5'UTRの後に、GFPおよびFAMDV 2Aと融合されたYFVキャプシドの25アミノ酸をコードするORF、ならびに全YFVポリタンパク質C-NS5が続き、キャプシド遺伝子はコドン最適化型として与えられた(図4A)。pYF/GFPmutは本質的に同じデザインを持っていたが、キャプシドの25アミノ酸をコードする断片にはGFPコード配列の最初の部分に1 nt長の挿入3つと点突然変異が含まれた。
【0059】
pYF/Cherry/Ccoには、欠損性YFVゲノムが含まれ、ここではキャプシドの75 ntがCherry遺伝子と融合され、その後FAMDV 2Aプロテアーゼ、prMシグナルペプチドを有するコドン最適化キャプシド、prMの6アミノ酸、Eタンパク質の49個のカルボキシ末端アミノ酸およびYFVポリペプチドの残部をコードする配列が続いた(図5A)。pYFrep/Cherryには、構造遺伝子がCherryタンパク質コード配列により置換された、YFVレプリコンが含まれた。Cherryは、そのアミノ末端でYFVキャプシドの25アミノ酸と融合され、そのカルボキシ末端で、FAMDV 2Aが続き、その次にNS1シグナルペプチドおよびYFVポリタンパク質の残部と続いた(図6A)。
【0060】
pVEErep/C-prM-E/Pacプラスミドは他に記載されてきた。pVEErep/GFP-C-prM-E/Pacプラスミドには、VEEVレプリコンが含まれ、ここではサブゲノムRNAが、GFPと融合されたYFVキャプシドの25アミノ酸をコードし、その後にFMDV 2Aプロテアーゼ、コドン最適化YFVキャプシドおよびprM/E遺伝子と続いた。第二のサブゲノムプロモーターはピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼPacの発現を推進した。組み換えウイルスゲノムおよびレプリコンは全て、SP6 RNAポリメラーゼプロモーターの制御下にクローニングした。
【0061】
実施例3
RNA転写
プラスミドをCsCl勾配中で遠心分離により精製した。転写反応の前に、YFVゲノムまたはレプリコン含有プラスミドをXhoIによって直鎖化した。VEEVレプリコンを有するプラスミドを、MluIによって直鎖化した。他で記載されているようにキャップ類似体の存在下においてSP6 RNAポリメラーゼにより、RNAを合成した。転写産物の収量および完全性を、非変性条件下でのゲル電気泳動により分析した。転写反応物のアリコットを、さらなる精製なしでエレクトロポレーションに用いた。
【0062】
実施例4
RNAトランスフェクション
BHK-21細胞のエレクトロポレーションを既報の条件(Liljestrom et al., 1991)の下で行った。パッケージング細胞培養物を確立するため、VEEVレプリコンのエレクトロポレーションから24時間後に、Purを10 mg/mlの濃度まで培地に加えた。インビトロで合成されたYF PIVゲノムのトランスフェクションを5日後に行い、この時レプリコン含有細胞は効率的な増殖を再開した。
【0063】
実施例5
欠損性YFVゲノムを含有する感染性ウイルス粒子の力価の測定
異なる欠損性ゲノムを含有する放出ビリオンの力価を測定するため、BHK-21細胞を6ウェルのCostar培養皿に細胞5×105個/ウェルの濃度で播種した。4時間後、細胞に異なる希釈のサンプルを感染させた。5% CO2インキュベータ中37℃での1時間のインキュベーションの後、それらを、10% FBSを補充したaMEM 2 mlで覆った。36時間のインキュベーションの後、倒立UV顕微鏡下でGFP陽性細胞およびCherry陽性細胞の数を数えることによって、感染細胞の数を推定した。播種量から感染細胞の割合を、顕微鏡視野の規定の領域における蛍光産生細胞の計数により求めた。5つの異なる視野に対する計数を平均し、各希釈系列に対応する力価について再計算した。
【0064】
複製能力のあるウイルスの力価をBHK-21細胞上でのサンプルの標準的なプラーク形成によって測定した(Lemm et al., 1990)。37℃での3日間のインキュベーションの後、単層を2.5%ホルムアルデヒドによって固定し、クリスタルバイオレットで染色した。
【0065】
実施例6
ウイルスの継代
パッケージング細胞株を、インビトロで合成されたVEEVレプリコンRNAのトランスフェクションと、その後のPur選択によって樹立した。これらの細胞株を、インビトロで合成されたYFVレプリコンRNAによってトランスフェクトするか、または予めパッケージ化されたレプリコンによって感染させるかした。培地を交換することにより、図面の説明中で示した時点でサンプルを回収した。二成分ゲノムYFウイルスの継代は、上記のMOIで細胞に感染させることにより行った。培地を交換することにより図中に示した時点でサンプルを回収し、欠損性ゲノムを含有する粒子の力価を、上記において示したように測定した。前の継代時に回収されたウイルス100 μlをナイーブBHK-21細胞に感染させることによって、複製能力のあるウイルスを継代した。サンプルを感染後72時間の時点で回収し、力価をプラークアッセイ法によって測定した。
【0066】
実施例7
YF SVP産生の分析
BHK-21細胞を、インビトロ合成されたYFV 17DまたはYF/GFP/prMEウイルスゲノム8 mgによりトランスフェクトし、またはYF/Cherry/CcoおよびYF/GFP/prMEゲノムにより同時にトランスフェクトした。10% FBSを補充したaMEM 10 ml中24時間のインキュベーションの後、後の培地を無血清培地VP-SF (Invitrogen) 10 mlによって交換し、これを24時間のうちに回収してSVPの放出を分析した。回収されたVP-SFサンプルを低速遠心分離(5,000 r.p.m, 10分, 4℃)によって清澄化し、その後、SW-41ロータ中6時間39,000 r.p.m, 4℃で、PBS上にて調製した10%ショ糖 2 mlを通じた超遠心分離により濃縮した。
【0067】
ペレット材料を既報(Schalich et al., 1996)のようにショ糖密度勾配においてさらに分析した。手短に言えば、サンプル0.5 mlを、不連続ショ糖勾配(PBS緩衝液上にて調製された50%ショ糖1.5 ml、35%ショ糖1.5 mlおよび10%ショ糖1.5 ml)にロードした。遠心分離をSW-55ロータ中4時間4℃にて45,000 r.p.m.で行った。分画の後、サンプルをPBSで3倍希釈し、SVPをOptima MAX Ultracentrifuge (Beckman)においてTLA-55ロータ中1時間4℃にて45,000 r.p.m.での遠心分離によりペレット状にした。ペレットを、(D1-4G2 MABへの結合を維持するために) b-メルカプトエタノールを欠いたSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動用のローディング緩衝液に溶解し、ウエスタンブロッティングによってさらに分析した。タンパク質の転写後、ニトロセルロース膜をD1-4G2 MAB、およびSanta Cruz Biotechologyから購入した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ロバ抗マウス二次抗体によって処理した。HRPを、製造元(Santa Cruz Biotechnology)の推奨にしたがってウエスタンブロッティング・ルミノール試薬を用いて検出した。同時(side-by-side)勾配分析を、YFV-PIV由来のSVPについて上述したのと同じ手順に供したYFV (2×108 PFU)で行った。
【0068】
実施例8
インビボ実験
6日齢マウス(非近交系Swiss Webster, Harlan)を、頭蓋内(i.c.)経路(20 ml容量)により、図面の説明中で示した用量で、組み換えYFVによって感染させた。マウスを、瀕死の動物より、疾患の兆候および死亡について8日間モニターし、脳内での力価をプラークアッセイ法によって評価した。
【0069】
実施例9
キャプシドおよびprM/Eを発現する欠損性YFVゲノムは複製効率が大きく異なる
過去の研究において、YFVの複製および感染性YFウイルス粒子への欠損性ゲノムのパッケージングにおける欠損のトランス補完のための系が開発された。これを達成するため、YFVキャプシド、またはキャプシド欠損性YFVゲノムの複製を補完した構造ポリタンパク質全体のどちらかを産生するVEEVレプリコンを含むように、細胞株をデザインした。しかしながら、アルファウイルスレプリコンの使用は、トランス補完の絶対的必須条件ではない。機能的なキャプシドは、フラビウイルスゲノムのパッケージングに十分なレベルまでそれを産生できる他のカセットによって、明らかに供給することができる。それゆえ、いずれの異種発現ベクターもパッケージング系から除外し、キャプシドコード遺伝子以外の構造遺伝子を欠いた第二のYFVゲノムからキャプシドを産生しようという試みがなされた。
【0070】
PIVゲノム(YF/GFP/prME)にはキャプシドコード配列ほぼ全体の欠失が含まれ、第二の補完的ゲノム(YF/C/Cherry)ではprM/Eコード配列が欠失され、キャプシド遺伝子はインタクトのままであった。組織培養における両ゲノムの複製パターンを分析するため、二つの異なる蛍光タンパク質GFPおよびCherryをそれらのORFにクローニングした(図1A)。どちらのゲノムとも、完全なセットの構造タンパク質を産生することができないため、増殖、伝播性の感染を発現することはできないと期待された。しかしながら、それらは、同一細胞中での複製の間に、ウイルス粒子の形成に必要なタンパク質の全てを産生することができた。
【0071】
インビトロで合成されたRNAをBHK-21細胞に同時にトランスフェクトし、マーカーGFPおよびCherryの両方の発現からそれらの複製を確認した。驚くべきことに、キャプシドコードゲノムまたはprM/Eコードゲノムのどちらかを含有する放出された感染性ウイルス粒子の力価は、予想以上に低く、106感染単位/mlに近いことから、トランス補完が非効率的であることが示唆された(図1B)。GFPおよびCherry発現パターンの比較から、キャプシドコードゲノムが、そのprM/E産生対応ゲノムよりも劇的に効率的に複製することが示された。エレクトロポレーションの後、Cherryの発現は、GFPを発現する欠損性ゲノムの発現よりも18〜24時間早く検出可能なレベルに達したが、最も重要なことに、その複製がトランスフェクションから2〜3日後以内に細胞死も引き起こした。急速なCPEの発現は、CherryがGFPによって置換された同一のカセットでも同様に高い細胞病原性が示されたことから、Cherryタンパク質の発現による副作用ではなかった(データ不掲載)。
【0072】
さらなる実験において、GFPおよびCherry発現ゲノムの複製を、YFV構造ポリタンパク質前駆体C-prM-Eの全体がVEEVレプリコンから発現される、以前にデザインした細胞株において比較した。上記のデータに一致して、キャプシドを発現するYF/C/Cherryゲノムの複製は、細胞に悪影響を及ぼし、本質的に全てのトランスフェクト細胞はトランスフェクション後96時間以内に死滅し(図1C)、感染性ウイルス粒子は、prM/E発現構築体YF/prME/GFPをトランスフェクトされた同一細胞の培地で見られたよりも、低い力価に放出された。
【0073】
既報のように(Mason, Shustov, and Frolov, 2006)、YF/prME/GFPを保持する細胞はCPEを発現せず(図1C)、細胞継代を続けた後でさえもパッケージ化ウイルスゲノムを放出し続けた。このように、上記の実験から、YF/C/Cherryゲノムにおけるキャプシドコード配列の存在もしくはキャプシドタンパク質それ自体の発現のどちらかが(または両方の要因がともに)、この複製RNAの細胞病原性を強力に決定付け、それゆえ、非効率的なトランス補完の理由になりうるキャプシド産生およびprM/E産生ゲノムの複製の大きな違いをもたらすことが示唆された。さらに、トランスフェクト細胞は、高い力価の感染性ウイルス粒子の放出前に死滅してしまう可能性が高かった。
【0074】
実施例10
YFVゲノムRNAの複製に及ぼすキャプシドタンパク質の影響
欠損性YFV特異的RNAの複製に及ぼすキャプシドまたはキャプシドコード配列の影響を識別するため、構造および非構造遺伝子の全てを含んだポリタンパク質全体をコードする配列、ならびに複製に必要とされるRNAプロモーターエレメントを含んだ5'末端配列が分離された、一連の組み換えYFVゲノムをデザインした。これを達成するため、ポリタンパク質における天然キャプシド遺伝子を、RNA複製において機能することができない変異環化配列を持ったそのコドン最適化型(Cco)と置換した。次いで、YFV 5'UTRを、GFPおよびFAMDV 2Aプロテアーゼ遺伝子と融合された、prM特異的なシグナルペプチドのない天然キャプシドをコードする配列に先行するCcoの上流にクローニングした。すなわち、上流キャプシド遺伝子には、RNAの複製に不可欠な環化シグナルおよび開始メチオニンコドンが含まれた。
【0075】
最後の構築体YF/C/GFP/Cでは、ORFはこの開始AUGから始まり、ポリタンパク質全体に延びていた。Ccoのアミノ酸配列は最初のアミノ酸としてプロリンを持つことによってのみ天然のYFVキャプシドのものとは異なっていた。これは、そのアミノ酸がFAMDV 2A特異的なプロセッシングに必要であったからである。この実験系は機能的なキャプシドタンパク質(Cco)の発現に影響を及ぼすことなく、ORFのアミノ末端の、天然キャプシドコード部分における大幅な改変を含め、5'末端における多種多様な操作の実施を可能にした。それゆえ、別のカセットYF/Cfrs/GFP/Cでは、第一のキャプシドにnt 202の後の1 ntの挿入およびnt 421の後の1 ntの欠失が含まれた。これらの改変はウイルスゲノムの5'末端およびマイナス鎖RNAの3'末端のコンピュータ予測二次構造を保つような形でなされたが、しかし、それらは、大きなキャプシド断片を網羅する73アミノ酸長のペプチドの配列を変えた。
【0076】
第三の構築体YF/Chyb/GFP/Cでは、第一のキャプシド遺伝子は天然配列とコドン最適化配列とのハイブリッドであった。それは野生型タンパク質をコードしたが、nt 202から始まる、環化シグナルより下流のRNA配列は、野生型YFVゲノムにおけるそれとは異なっていた。このように、組み換えウイルスゲノムの5'末端は、(i) GFPと融合された天然のキャプシド遺伝子(YF/C/GFP/C)、または(ii) ほとんど天然のRNA配列(二つのフレームシフト突然変異を持つのみ)、しかし強力に改変されたタンパク質(YF/Cfrs/GFP/C)、または(iii) 改変されたRNA配列、しかし天然タンパク質(YF/Chyb/GFP/C)のいずれかをコードした。全三つのRNAおよびYF 17DゲノムのRNAをインビトロで合成し、等量をBHK-21細胞にトランスフェクトした。
【0077】
感染性ウイルスの放出の分析から、第一の変異キャプシドを発現する構築体YF/Cfrs/GFP/Cのみ、YFV 17Dによって達成されたものに匹敵する力価までの効率的な複製ができることが示された(図2B)。しかしながら、複製率の相違はそれでも顕著であった。YF/Chyb/GFP/Cおよび特にYF/C/GFP/Cは、どちらのゲノムもGFPと融合された野生型キャプシドを発現するが、それらがGFPを、YF/Cfrs/GFPよりも高いレベルに発現したという事実にもかかわらず、高い細胞変性表現型および感染性ウイルス放出の力価の劇的な減少を示した。総合すれば、これらの実験および前項において示されたものの結果から、その天然の構成以外に発現されたYFVキャプシドは、組み換えウイルスの細胞病原性に強力な影響を及ぼし、その結果、組織培養におけるその増殖に強力な影響を及ぼすことが示された。さらなる実験では、構築体の細胞毒性は、GFP融合型または遊離型でのキャプシドの発現に依らないことが示された(データ不掲載)。融合型または遊離型で発現されたGFP間の唯一顕著な影響は、その細胞内分布にあった。
【0078】
実施例11
細胞病原性が低減したYFV変種の選択
上記の実験において、二コピーのキャプシド遺伝子を含有するYF/C/GFP/Cウイルスは、インビトロ合成RNAのトランスフェクションから最初の3日後以内の感染性ウイルスの非常に非効率的な放出および大部分の細胞集団の死滅によって特徴付けられる、高度にまれな複製を示した(図2B)。しかしながら、ほんのわずかのGFP陽性細胞が生存し、増殖し続け、トランスフェクションから72時間後に、トランスフェクション後の初期の間よりも効率的にウイルスを産生した(図2B)。5日目までに、ウイルスの力価は108感染単位/mlに近づいた。これらのデータから、その高い細胞変性表現型に影響を及ぼし、持続的で、より効率的な感染性ウイルス放出をもたらしうるウイルスゲノムにおける突然変異の蓄積の可能性が示唆された。
【0079】
これらの適応変化を同定するため、無作為に選択された変異体の5'UTR、アミノ末端のキャプシドコード断片およびGFPコード断片を配列決定した。それらは大きなインフレーム欠失をキャプシド(アミノ酸番号29〜66)遺伝子もしくはGFP (アミノ酸番号3〜121)遺伝子の両方において、または両方の欠失をともに含んでいた(図3A)。興味深いことに、これらの欠失は、キャプシド配列(コンピュータ予測二次構造のループ中)に位置する非常に短い(UAAA; SEQ ID NO:1)リピートと、GFP遺伝子中のUGGUGA (SEQ ID NO:2)リピートの間で起きていた。これらの配列決定データは、どの欠失がウイルスの複製にプラスの影響を及ぼしたかを決定的に理解するためには不十分であった。それゆえ、GFP特異的な欠失もキャプシド特異的な欠失もともにYF/C/GFP/Cゲノムに別々にクローニングした(図3B)。インビトロで合成されたRNAを、BHK-21細胞にトランスフェクトしたところ、キャプシドにおける欠失のみが感染性ウイルス放出の収量に及ぼすプラスの影響を示した。組み換えYF/DC/GFP/CはYFV 17Dのものに類似の増殖率を示したが、YF/C/DGFP/Cでは示されなかった(図3B)。すなわち、これらの実験の結果から、第一のキャプシドコード配列の改変は、ウイルスの複製効率の変化および組織培養において効率的な増殖ができる変種の構築の非常に効率的な手段でありうることが示唆された。
【0080】
実施例12
異種遺伝子を発現できるYFVの開発
異種遺伝子の効率的な複製および安定な発現ができるYFVをデザインする可能性を実験的に試験するため、二つの組み換えYFVゲノムYF/GFPおよびYFmut/GFPをデザインした。キャプシドコード配列の75 nt長の断片を、GFPおよびFAMDV 2A遺伝子の上流にクローニングし、この後にコドン最適化キャプシド遺伝子を含有するYFVポリタンパク質コード配列全体(図4A)が続いた。YF/GFPには他に5'末端配列の変化はなく、YFmut/GFPでは、さらなる改変は次の通りであった: i) GFP中のUGGUGA (SEQ ID NO:2)配列を、コードされるタンパク質の配列を変えないが、YF/C/DGFPおよびYF/DC/DGFPゲノムにおける欠失形成の間に使用されることが分かったリピートの一つを改変したUCGUCA (SEQ ID NO:3)によって置換した; ii) 環化配列とGFPとの間の短い断片を、三つの1ヌクレオチドを挿入することによって改変した。
【0081】
GFP特異的な突然変異を作製して、コード配列の欠失につながるGFP遺伝子における組み換えの可能性をさらに減らした。キャプシドコード配列を変化させて、GFPの下流に位置するコドン最適化キャプシド遺伝子と、ORFの開始部分の残りの75 nt長の配列の間の組み換えの可能性を回避した。インビトロで合成されたRNAをBHK-21細胞にトランスフェクトした。本質的に全ての細胞は、トランスフェクション後18時間以内に検出可能な、非常に類似したレベルのGFP発現を示し、したがって、どちらのウイルスも生存可能であり、複製のためにさらなる適応を必要としないことが示唆された。YF/GFPおよびYFmut/GFPウイルスは野生型YFV 17Dよりも細胞変性が少なく、GFP陽性細胞は完全な集密度に達するまで増殖し続けた。しかしながら、細胞病原性の低減にもかかわらず、どちらのウイルスも効率的な複製能があり、5×108感染単位/mlよりも高い力価にまで培地中に蓄積した(図4B)。
【0082】
GFP挿入の安定性を評価するため、YFmut/GFPウイルスのストックの一つをBHK-21細胞において5回盲目的に継代した。回収されたサンプルの力価において有意な変化は検出されなかった(図4C)。5回の継代後、増殖巣の11%はGFP陰性であったが、YFV特異的抗体によって染色された。これらのGFP変種はそれでもプラークを発生する能力がなく、したがって、突然変異は、より良好な複製ウイルスの選択の結果としてではなく、機能タンパク質の陽性選択の欠如によってGFP遺伝子に蓄積した可能性が高いことを示唆していた。PCRに基づく分析でも、予想以上に著しく短い断片は検出されなかった。このように、GFP以外の異種遺伝子を発現するカセットが使用されても、タンパク質産生の相違は検出されないであろう。
【0083】
別の実験において、6日齢のマウスに5×106および5×105感染単位のYF/GFPを頭蓋内接種した。マウスの全てが脳炎の臨床的兆候を発現し、感染から8日後に安楽死させた。マウスの全てが、濃度2.46±0.68×108感染単位/mlで脳内におけるGFP発現ウイルスの存在を示した。いっそう高いレベルのGFPを発現するまたはいっそうの細胞変性表現型を示す、いっそう良好な複製変種は検出されなかった。感染から8日後に、脳から単離されたウイルスサンプルも3%未満のGFP陰性の変種を含んでいた。これらのデータから、機能的ポリタンパク質コード配列およびプロモーターエレメントを分離することを目指したYFVゲノム改変のデザイン戦略は、異種タンパク質の安定な発現のための機会を開くことが示唆された。YF/GFPおよびYFmut/GFPはよく似た複製の特徴を示すが、それでもなお、YFmutに基づくベクターは、おそらく、長時間の実験および/または継代の繰り返しを要する研究に優先される。
【0084】
実施例13
二つの欠損性YFVゲノム間のトランス補完
上記の実験のデータに基づき、複製欠損性YFVゲノムYF/Cherry/Ccoをデザインした(図5A)。これはキャプシド遺伝子の発現能があり、prM/Eコード配列が欠失されていた。それにはYFV 5'UTR、続いてキャプシドの25アミノ酸、Cherry、FAMDV 2A、prM特異的なシグナルペプチドを有するCcoならびにその後のNS1-5ポリタンパク質の適切なプロセッシングおよび区画化に必要とされるEタンパク質のカルボキシ末端断片が含まれた。インビトロで合成されたYF/Cherry/Ccoおよびトランス補完性の対応物YF/GFP/prMEゲノムをBHK-21細胞にトランスフェクトした。それらは構造タンパク質の合成において互いの欠損を補完し、細胞は、CherryまたはGFPをそれぞれ発現できるキャプシドコードまたはprM/Eコード欠損性ゲノムのどちらかを持った感染性ウイルス粒子を、効率的に産生した(図5B)。重要なことに、どちらのゲノムも、108感染単位/mlに近い非常に似た力価にパッケージ化された。それらはCPEを非効率的に引き起こし、持続感染を容易に確立した。細胞は増殖し続け、トランスフェクション後4〜5日だけでなく、その継代後にもウイルスを産生した。
【0085】
大規模生産の可能性を試験するため、ウイルスストックをナイーブBHK-21細胞においてさらに継代し、各ゲノムを含有する粒子の力価は108感染単位/mlに近づいた。さらに、高いMOIで継代を行う必要はなかった。およそ1感染単位/細胞のMOIで感染された細胞は、およそ10感染単位/細胞のMOIで感染されたものと同じくらい効率的にパッケージ化ゲノムを放出した。しかしながら、およそ0.1感染単位/細胞までMOIがさらに減少すると、ウイルスの力価は顕著に低くなった(図5D)。1のMOIで感染された細胞単層では、GFPまたはCherryマーカーの一つしか発現しない細胞を容易に検出することができた。しかしながら、それらのうちのかなり大部分はそのどちらも発現した(図5E)。ショ糖勾配でのウイルス密度の分析から、YF/GFP/prME RNAをトランスフェクトされた細胞は、ヌクレオキャプシドおよびRNAを欠く、いわゆるサブウイルス粒子(SVP)を含んだprM/Eに対応する、低密度のウイルス粒子だけを放出することが示された。しかしながら、どちらの欠損性トランス補完ゲノムも含有するウイルスによる感染では、低密度および高密度両方の粒子の放出を引き起こし、ショ糖密度勾配において野生型YF 17Dウイルスのサンプルがしたのと同じ分布を示した。これらのデータから、二成分ゲノムを有するウイルスは、天然のYFVのものに似た特徴を示すことがさらに示唆された。
【0086】
実施例14
構造遺伝子を欠くYFVレプリコンのパッケージング
過去の研究において、YFV C-prM-Eカセットを発現する細胞株が、持続的に複製するVEEVレプリコンから開発された。この細胞株は、YF/prME/GFP欠損性ウイルスゲノムをパッケージングする際に効率的に機能し、この活性は、キャプシドタンパク質が産生され、ゲノムキャプシド形成のために適切にプロセッシングされることを示唆した。しかしながら、その細胞株は、構造タンパク質をコードしていないYFレプリコンをパッケージングする際には非効率的であった。結果として、パッケージ化レプリコンの力価は、常に、107感染単位/ml未満であった。この低レベルのパッケージングの理由は、はっきりしなかったが、これらのデータは、YF C-prM-Eカセットを産生するシンドビスウイルスレプリコンが類似のYFレプリコンを同じく非効率的にパッケージ化した、別の研究による既刊の結果と相関性があった。
【0087】
YFレプリコンをより高い力価にパッケージングする可能性を試験するため、本発明者らは、YF/GFP/Ccoウイルスゲノムにおけるのと同じ融合タンパク質において、YFV C-prM-EをコードするVEEVレプリコンをデザインした。サブゲノムRNAの一つは、キャプシドタンパク質の25アミノ酸から始まり、GFP遺伝子、FAMDV 2Aプロテアーゼ、コドン最適化キャプシドおよびprM/Eコード配列へと続く、ORFをコードした。第二のサブゲノムRNAは、培地中ピューロマイシンの存在により引き起こされる翻訳停止に対して細胞を耐性にするピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼをコードするPAC遺伝子の発現を推進していた。インビトロで合成されたVEErep/GFP-C-prM-E/Pac RNAをBHK-21細胞にトランスフェクトし、Pur選択から数日以内にPurr細胞株を樹立した。次いで、構造遺伝子の全てがCherryコード配列によって置換されたYFVレプリコン(YFrep/Cherry)を、細胞にトランスフェクトした(図6A)。図6Bに示されるように、細胞株は、後者のレプリコンを大いに高い力価にパッケージ化し、著明なCPEの発現なく数日の間、感染性粒子を産生し続けた(図6C)。YFレプリコン含有細胞は増殖し続け、GFPもCherryもともに発現する細胞は、その死滅を引き起こす集密度に達したので、通常、実験は中断された。多数の実験で、YFV構造タンパク質へのVEEVレプリコンのパッケージングは決して検出されなかった。VEErep/GFP-C-prM-E/Pac含有細胞株のさらなる利点は、YFVレプリコンのさらなる継代にそれを使用することの可能性にあった。これらの細胞に予めパッケージ化された構築体を感染させることが可能であり、これは伝播性の感染の発現および108感染単位/mlに近い力価までのレプリコン含有粒子の放出をもたらした。
【0088】
以下の参考文献を本明細書において引用した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラビウイルスの、RNA複製に必要なシス作用性プロモーターエレメント、エンベロープタンパク質、および完全なセットの非構造タンパク質をコードし、かつフラビウイルスのキャプシドタンパク質をコードしていない、偽感染性ウイルスゲノムと、
RNA複製に必要なシス作用性プロモーターエレメント、キャプシドタンパク質、および完全なセットの非構造タンパク質をコードし、かつフラビウイルスのエンベロープタンパク質をコードしていない、補完的ゲノムと
を含む、二成分ゲノムフラビウイルス。
【請求項2】
偽感染性ウイルスゲノムおよび補完的ゲノムが、5' UTRと、RNA複製に不可欠な環化配列を含んだキャプシドタンパク質のオープンリーディングフレームのアミノ末端断片とをコードする、請求項1記載の二成分ゲノムフラビウイルス。
【請求項3】
偽感染性ウイルスゲノムまたは補完的ゲノムが、エンベロープタンパク質またはキャプシドタンパク質をコードする配列に融合されたユビキチンまたは口蹄疫(FAMDV)特異的2Aプロテアーゼを含む、請求項1記載の二成分ゲノムフラビウイルス。
【請求項4】
偽感染性ウイルスゲノムおよび補完的ゲノムが、他のウイルス、細菌、または寄生虫の構造遺伝子を含んだ追加の遺伝物質をさらに含み、該遺伝子の発現が、ウイルス、細菌、または寄生虫によって引き起こされる感染症に対する免疫反応を誘導する、請求項1記載の二成分ゲノムフラビウイルス。
【請求項5】
フラビウイルスが、黄熱病ウイルス、西ナイルウイルス、デングウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、古典的豚コレラウイルス、またはC型肝炎ウイルスである、請求項1記載の二成分ゲノムフラビウイルス。
【請求項6】
請求項1記載の二成分ゲノムフラビウイルスに感染している細胞培養システム。
【請求項7】
ベロ細胞、BHK-21細胞、C7/10細胞、または脊椎動物もしくは蚊由来の他の細胞である、請求項6記載の細胞培養システム。
【請求項8】
細胞培養システムに、同一細胞中での両ゲノムの複製を可能とするのに有効な請求項1記載の二成分ゲノムフラビウイルスを感染させること; および
二成分ゲノムフラビウイルスの放出によって、二成分ゲノムフラビウイルスの大規模増殖を可能とすること
を含む、二成分ゲノムフラビウイルスの大規模増殖の方法。
【請求項9】
細胞培養システムに1感染単位/細胞超の感染多重度で二成分ゲノムフラビウイルスを感染させる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
複製欠損性フラビウイルスが複製能を欠損しており、疾患を引き起こすことができず、感染性でありかつインビボで1ラウンドの感染を行うことができる、請求項8記載の方法。
【請求項11】
請求項1記載の二成分ゲノムフラビウイルス、アジュバント、薬学的に許容される担体、またはその組み合わせ
を含む、免疫原性組成物。
【請求項12】
請求項11記載の免疫原性組成物の免疫学的に有効な量を被験体に投与する段階を含む、フラビウイルスへの曝露により生じる感染から被験体を保護する方法であって、
該組成物が被験体においてフラビウイルスに対する免疫反応を誘発し、それによってフラビウイルスへの曝露により生じる感染から被験体が保護される、方法。
【請求項13】
投与が、腹腔内経路、皮内経路、皮下経路、筋肉内経路、経口経路、または鼻腔内経路によるものである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
フラビウイルスが、黄熱病ウイルス、西ナイルウイルス、デングウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、古典的豚コレラウイルス、またはC型肝炎ウイルスである、請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−526531(P2010−526531A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507438(P2010−507438)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/005824
【国際公開番号】WO2008/137163
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【Fターム(参考)】